(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042717
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】Agナノクラスター集積体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 1/10 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
C07F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101501
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄一
(72)【発明者】
【氏名】ダス サイカット
(72)【発明者】
【氏名】関根 大修
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 春菜
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】ダス スボブラタ
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AB99
4H048BB12
4H048BB21
4H048VA32
4H048VA57
4H048VB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Agナノクラスターの集積体であって、Agナノクラスターが規則的・周期的に配列され、熱的安定性に優れたものを提供する。
【解決手段】2以上のAg原子を含むAgナノクラスターが、リンカーである有機化合物によって結合・集積したAgナノクラスター集積体である。リンカーは、C-C三重結合を含み全ての末端がピリジン配位子となる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のAg原子を含んでなるAgナノクラスターを、有機化合物からなるリンカーを介して集積してなるAgナノクラスター集積体において、
前記リンカーは、下記化1又は化2で示され、全ての末端がピリジン配位子となる有機化合物であることを特徴とするAgナノクラスター集積体。
【化1】
上記式において、2つのピリジン配位子は、炭素-炭素三重結合で結合する。2つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【化2】
上記式において、nはピリジン配位子の数であり2以上8以下の整数である。基Xは、炭素、窒素、リンのいずれか、或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上42以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上68以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
また、ピリジン配位子と基Xとの結合は、炭素-炭素三重結合で結合する。n個のピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【請求項2】
リンカーは、下記化3~化5で示される有機化合物のいずれかである請求項1記載のAgナノクラスター集積体。
【化3】
式中、2つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。ピリジン配位子とX
1とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X
1は、炭素或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上22以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上44以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
【化4】
式中、3つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。ピリジン配位子と基X
2とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X
2は、炭素、窒素、リンのいずれか、或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上30以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上27以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
【化5】
式中、4つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。ピリジン配位子と基X
3とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X
3は、炭素或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有しても良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上25以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上44以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
【請求項3】
Agナノクラスターは、4個以上78個以下のAg原子を含むものである請求項1又は請求項2記載のAgナノクラスター集積体。
【請求項4】
Agナノクラスターに、ピリジン配位子を除く1種以上の有機配位子が結合している請求項1又は請求項2記載のAgナノクラスター集積体。
【請求項5】
2以上のAg原子を含んでなるAgナノクラスターを、有機化合物からなるリンカーを介して規則的に集積させてAgナノクラスター集積体を製造する製造方法であって、
2以上のAg原子を含むAg錯体又は2以上のAg原子を含むAgナノクラスターのいずれかが分散媒に分散した状態を用意する工程と、
前記分散媒に前記リンカーを添加する工程を含み、
前記リンカーとして、下記化6又は化7で示され、全ての末端がピリジン配位子となる有機化合物を添加することを特徴とするAgナノクラスター集積体。
【化6】
上記式において、2つのピリジン配位子は、炭素-炭素三重結合で結合する。2つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【化7】
上記式において、nはピリジン配位子の数であり2以上8以下の整数である。基Xは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上42以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上68以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
また、ピリジン配位子と基Xとの結合は、炭素-炭素三重結合で結合する。n個のピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Agナノ粒子が規則的に集積されてなるAgナノクラスター集積体に関する。詳しくは、Agナノクラスターを規則的で好適な分散させてなるナノクラスター集積体の特性を維持しながら、従来技術に対して熱安定性に優れたAgナノクラスター集積体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属はナノオーダーにまで微粒子化することで、量子サイズ効果により光応答特性(フォトルミネッセンス特性)、蛍光発光特性、光散乱・反射特性、プラズモン共鳴等のバルク体にはない様々な特性を発現する。特に、数個~数百個の金属原子で構成される超微粒子は、金属ナノクラスターと称されており、量子サイズ効果がより顕著に発現することが報告されている。そのため、金属ナノクラスターは、ディスプレイ装置や生体関連物質検出用マーカー等における発光素子・蛍光物質や、各種電子・半導体デバイスの電極・配線材料等の様々な分野への応用が検討されている。更に、金属の超微粒子化は、金属表面積を増大させて触媒活性の向上に繋がることから、金属ナノクラスターは各種化学反応用触媒への応用も検討されている。
【0003】
これまで報告されている金属ナノクラスターの利用形態としては、適宜の分散媒(一般的には液相溶媒)に分散された状態での適用例が多い。具体的には、金属ナノクラスターが分散する分散液を、触媒・マーカー等の担体やデバイスの基板等へ塗布することで金属ナノクラスターを固定する態様である。
【0004】
これに対し、近年、金属ナノクラスターの新たな利用形態として、金属ナノクラスター集積体の検討例がいくつか報告されている。金属ナノクラスター集積体とは、リンカーと称される架橋材で複数の金属ナノクラスターを結合させることで形成される構造体である。上記した金属ナノクラスターの分散液においては、分散媒中で金属ナノクラスターが不規則・ランダムに分散しており、分散液を担体等に塗布した後も同様の状態となる。そのような状態であっても個々の金属ナノクラスターは所定の特性をある程度は発揮できる。しかし、金属ナノクラスターの特性を再現性・均一性をもって有効に発揮させるためには、金属ナノクラスターを規則的・周期的に配置することが好ましい。そこで、金属ナノクラスターを予め規則的に集積させた集積体として利用することで、その金属ナノクラスターの特性向上を図ることができる。
【0005】
ナノクラスター集積体に関して先行する検討例としては、例えば、特許文献1記載のAg(銀)ナノ粒子集積体がある。この先行技術においては、予めPVP等の分散剤で保護されたAgナノ粒子(Agナノクラスター)を湿式還元法で製造し、これをシステイン等の硫黄化合物をリンカーとして結合させてAgナノ粒子集積体を形成している。
【0006】
上記特許文献1のAgナノクラスター集積体は、金属ナノクラスターを集積するという意味では、その定義に沿った構造体といえる。もっとも、この先行技術では、リンカーにより結合するAgナノクラスターの周期性・規則性についての言及はない。金属ナノクラスター集積体を形成するリンカーとは、金属ナノクラスターと結合可能な配位子を有し、粒子同士を連結させて配置させることのできる有機化合物である。この意味においては、特許文献1のAgナノクラスター集積体におけるリンカーもその要件を具備する。しかし、リンカーは、架橋材としての機能に加えて、金属ナノクラスターを規則的に配列するという機能を有することが必要である。特許文献1においては、リンカーによる金属ナノクラスターの規則配列の形成はなされていない。
【0007】
一方、金属ナノクラスター集積体のリンカーの作用について、規則性・周期性の形成までを考慮した正確に検討を行った例として、非特許文献1のAgナノクラスター集積体がある。この文献では、リンカーとして4,4´-ビピリジン(下記化1)を適用し、Agナノクラスター集積体を形成する試みが報告されている。非特許文献1によれば、リンカーである4,4´-ビピリジンはAgナノクラスターを自己組織化してAgナノクラスター集積体を形成することが明らかにされている。尚、ここでいう自己組織化とは、Agナノクラスターがリンカーと結合する過程で自律的に規則的な秩序構造を有する集積体を形成することである。そして、非特許文献1のAgナノクラスター集積体は、大気中でも安定して周期性・規則性ある構造を維持できることが示されている。
【0008】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ren-Wu Huang et.al,”Hypersensitivedual-function luminescence switchingof asilver-chalcogenolate cluster-based metal-organic framework.”,Nature chemistry,9.7(2017),p689-697.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属ナノクラスター集積体に関しては、上記のようないくつかの検討例はあるものの、現状では少ないといわざるを得ない。特に、集積体を構成する金属ナノクラスターの規則性・周期性を考慮する厳密な検討例は少ない。そして、金属ナノクラスターを規則的・周期的に配置するだけでなく、製造後の安定性といった実用化まで考慮した検討例は更に少ない。例えば、上記した非特許文献1のAgナノクラスター集積体に関しては、大気中で常温域においては安定した周期構造を維持できるが、加熱によって分解が進行するおそれがある。熱的安定性の確保は、金属ナノクラスター集積体を上述した各種分野の用途に供する上で不可避の課題といえる。
【0012】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、金属ナノクラスター集積体の中でもAgナノクラスターを適用するAgナノクラスター集積体に関する。そして、Agナノクラスターが規則的・周期的に配列された集積体であって、これまで報告されたものよりも熱的安定性に優れたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題解決のため、Agナノクラスター集積体を構成するためのリンカーとして、非特許文献1記載のリンカー(4,4´-ビピリジン)と同じピリジン配位子を含有する有機化合物の適用を検討した。Agナノクラスター集積体を構成する際において、周期的・規則的にAgナノクラスターを集積させることは本発明の前提的な課題である。ピリジン配位子は、Agナノクラスターとの結合性が良好であり、上述のとおりAgナノ粒子との結合過程で好適な自己組織化の作用を有するからである。一方、Agナノクラスター集積体の熱的分解は、リンカーとなる有機化合物の安定性及びリンカーとAg粒子との結合力に関連して生じる現象である。本発明者等は、これらの観点から鋭意検討を行った結果、リンカーの化学構造として、末端にピリジン配位子を配しつつ、それらを三重結合で連結させた有機化合物をリンカーとすることで、Agナノクラスター集積体の熱的安定性が向上することを見出し本発明に想到した。
【0014】
上記課題を解決する本発明は、2以上のAg原子を含んでなるAgナノクラスターを、有機化合物からなるリンカーを介して集積してなるAgナノクラスター集積体において、前記リンカーは、下記化2又は化3で示され、全ての末端がピリジン配位子となる有機化合物であることを特徴とするAgナノクラスター集積体である。以下、本発明に係るAgナノクラスター集積体の構成と製造方法について詳細に説明する。
【0015】
【化2】
上記式において、2つのピリジン配位子は、炭素-炭素三重結合で結合する。2つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【0016】
【化3】
上記式において、nはピリジン配位子の数であり2以上8以下の整数である。基Xは、炭素、窒素、リンのいずれか、或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上42以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上68以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。
また、ピリジン配位子と基Xとの結合は、炭素-炭素三重結合で結合する。n個のピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有していても良い。
【0017】
以下、本発明に係るAgナノクラスター集積体の構成及び製造方法について説明する。
【0018】
I.本発明に係るAgナノクラスター集積体の構成
上記のとおり、本発明に係るAgナノクラスター集積体は、Ag原子で構成されるAgナノクラスターとリンカーとで構成される。以下、それぞれについて詳細に説明する。
【0019】
(i)Agナノクラスター
Agは、電極・配線に要求される導電性に優れると共に、光触媒等の触媒特性を有する金属である。そして、Agは、ナノ粒子とすることで光応答性(フォトルミネッセンス特性)、プラズモン共鳴等の特異な性質も発揮する。本発明では、これらのAgの特性に着目してAgナノクラスターの集積化を図っている。
【0020】
本発明に係るAgナノクラスター集積体を構成するAgナノクラスターは、2以上のAg原子で構成される。好ましくは、Agナノクラスターは、4個以上78個以下、より好ましくは4個以上30個以下のAg原子で構成される。
【0021】
また、Agナノクラスターは、Ag原子のみで構成されていても良いが、他元素の原子を含んでいても良い。例えば、S(硫黄)、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)、Cu(銅)、Au(金)等のAgとの結合性が高い元素の原子は、Agナノクラスターの安定性やナノクラスターを構成するAg原子の個数の好適化や高活性化、高耐久化等に寄与する。上記した4個以上78個以下のAg元素で構成されるAgナノクラスターでは、1個以上43個以下の他元素の原子を含むことがある。
【0022】
更に、Agナノクラスターは、リンカーの主要構成であるピリジン配位子以外の有機配位子が結合していても良い。この有機配位子は、リンカーと結合前のAgナノクラスターを製造する際に前駆体として合成されるAg錯体を合成するときに使用される錯形成剤や、製造されたAgナノクラスターの形状調整や凝集抑制のために使用される調整剤・保護剤に由来する有機配位子である。これらの有機配位子は、Agナノクラスターを集積体にした後もAgナノクラスターに結合していることがある。
【0023】
本発明のAgナノクラスターに結合し得る有機配位子としては、チオール基含有配位子、エチニル基含有配位子、カルボキシレート基含有配位子等が挙げられる。これら有機配位子の具体例については、後述する製造方法の説明で述べる。
【0024】
(ii)リンカー
これまで述べた通り、リンカーはAgナノクラスター(金属ナノクラスター)の架橋材として作用することを前提としつつ、Agナノクラスターを周期的・規則的に集積させるための本発明の主要構成である。本発明に係るAgナノクラスター集積体は、全ての末端にピリジン配位子を有すると共に、構造中でピリジン配位子との結合を炭素-炭素三重結合とする、上記化2又は化3で示される有機化合物をリンカーとする。
【0025】
リンカーとなる有機化合物の全末端に配置されたピリジン配位子は、Agナノクラスターと結合する配位子である。リンカーは、その全ての末端にピリジン配位子を有することでAgナノ粒子同士を結合する架橋材として作用する。ピリジン配位子を適用することで、Agナノクラスター集積体の周期性・規則性を確保している。
【0026】
そして、本発明に係るAgナノクラスター集積体のリンカーは、一対のピリジン配位子同士が結合するとき(化2)、又は、n個のピリジン配位子とそれらの間(中心)にある基Xとが結合するとき(化3)の結合が炭素-炭素三重結合となっている。本発明のリンカーのピリジン配位子が三重結合を含むのは、Agナノクラスター集積体の熱的安定性を向上させるためである。三重結合は、結合エネルギーが非常に大きい上、単結合と比較して回転・屈曲し難い剛直な構造を有する。更に、三重結合は、電子吸引性が高く結合距離が短いことから、Agナノクラスターとピリジン配位子との結合強度を向上させるという作用も有する。これらの作用により、本発明の上記リンカーによるAgナノクラスター集積体は、熱的安定性が向上されている。
【0027】
本発明で適用されるリンカーは、化2で示される2つのピリジン配位子が三重結合で結合した有機化合物(4-(2-ピリジン-4-イルエチニル)ピリジン)、又は、化3で示される全末端に位置するn個のピリジン配位子と基Xとが三重結合で結合する有機化合物である。
【0028】
化3におけるピリジン配位子の数nは、2以上8以下である。三重結合を有しつつ全ての末端にピリジン配位子を有するためには、2以上のピリジン配位子が必要である。また、8を超えるピリジン配位子を有する有機化合物をリンカーとする場合、立体障害により結晶化が困難であることから、ピリジン配位子の数を8以下とする。ピリジン配位子の数nは、2以上4以下であるものがより好ましい。
【0029】
また、化2及び化3におけるn個のピリジン配位子は、それぞれが独立して置換基を有しても良い。置換基としては、炭素数1~20の鎖状又は分岐状アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、i-ブチル基等)や、炭素数2~20のアルケン基、アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、アミド基、ニトロ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホニル基、スルフィニル基、エステル基、シリル基、シロキサニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基等が挙げられる。
【0030】
そして、本発明のリンカーとなる有機化合物において、基Xは、炭素、窒素、リンのいずれか、或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上42以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上68以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)である。以下、基Xの詳細について説明する。
【0031】
基Xが、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基であるとき、基Xは、炭素、酸素、窒素、硫黄で構成される脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐又は環状であっても良い。飽和脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基等が挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0032】
基Xが炭素数6以上42以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基であるとき、基Xは、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、ナフタレニル基、フェニルナフチル基、ナフチルフェニル基、アントラセニル基、ピレニル基、フェナントレニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基、テトラセニル基、ベンズアントラセニル基、クリセニル基、ベンゾフェナントレニル基等が挙げられる。
【0033】
また、基Xが炭素数3以上68以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基であるとき、基Xは、例えば、ピリジル基、ビピリジル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアジアゾール基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、ピリジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、カルバゾリル基、ピリジル-フェニル基、フェニル-ピリジル基、ピリジル-ビフェニリル基、ピリミジル-フェニル基、ビシクロ[1.1.1]ペンテニル基、ポルフィリニル基、フタロシアニル基、又はフェニル-ピリミジル基等が挙げられる。
【0034】
そして、基Xは、それぞれ独立して置換基を有することができる。置換基としては、炭素数1~20の鎖状又は分岐状アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、i-ブチル基等)や、炭素数2~20のアルケン基、アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、アミド基、ニトロ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホニル基、スルフィニル基、エステル基、シリル基、シロキサニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基等が挙げられる。
【0035】
本発明に係るAgナノクラスター集積体のリンカーとして好適とするピリジン配位子の数nが2~4となる有機化合物は、以下のとおりとなる。
【0036】
(ii-1)2つのピリジン配位子で構成されるリンカー
2つのピリジン配位子を有するリンカー(n=2)は、化2の有機化合物(4-(2-ピリジン-4-イルエチニル)ピリジン:下記化4)と、下記化5で示される有機化合物である。
【0037】
【0038】
【0039】
上記式で示される有機化合物において、ピリジン配位子とX1とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X1は、炭素或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、炭素数6以上22以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上44以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)が好ましい。
【0040】
この有機化合物において、基X1が、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基であるとき、基X1は、炭素、酸素、窒素、硫黄で構成される脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐又は環状であっても良い。飽和脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基等が挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0041】
また、基X1が炭素数6~22の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基であるとき、基X1は、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、ナフタレニル基、フェニルナフチル基、ナフチルフェニル基、アントラセニル基、ピレニル基、フェナントレニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基、テトラセニル基、ベンズアントラセニル基、クリセニル基、ベンゾフェナントレニル基等が挙げられる。
【0042】
また、基X1が炭素数3~44の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基であるとき、基X1は、例えば、ピリジル基、ビピリジル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアジアゾール基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、ピリジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、カルバゾリル基、ピリジル-フェニル基、フェニル-ピリジル基、ピリジル-ビフェニリル基、ピリミジル-フェニル基、ビシクロ[1.1.1]ペンテニル基、ポルフィリニル基、フタロシアニル基、又はフェニル-ピリミジル基等が挙げられる。
【0043】
そして、基X1は、それぞれ独立して置換基を有することができる。置換基としては、炭素数1~20の鎖状又は分岐状アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、i-ブチル基等)や、炭素数2~20のアルケン基、アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、アミド基、ニトロ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホニル基、スルフィニル基、エステル基、シリル基、シロキサニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基等が挙げられる。
【0044】
更に、2つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。その範囲は、上記基X1と同じものが好ましい。
【0045】
ピリジン配位子の数を2とする本発明のリンカーの具体例としては、以下の有機化合物が挙げられる。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
(ii-2)3つのピリジン配位子で構成されるリンカー
3つのピリジン配位子を有するリンカー(n=3)は、下記で示される有機化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
上記式で示される有機化合物において、ピリジン配位子と基X2とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X2は、炭素、窒素、リンのいずれか或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有して良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上30以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上27以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)が好ましい。
【0052】
この有機化合物において、基X2が、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基であるとき、基X2の範囲と具体例は上記した基X1と同様である。
【0053】
また、この有機化合物において、基X2が炭素数6~30の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基であるとき、基X2の具体例は、上記した基X1における具体例と同様である。基X2が炭素数3~27の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基であるときの基X2の具体例も、上記した基X1における具体例と同様である。
【0054】
そして、基X2は、基X1と同様に、それぞれ独立して置換基を有することができる。とりうる置換基の範囲は、基X1と同様である。更に、3つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。その範囲は、上記基X1が有する置換基と同じものが好ましい。
【0055】
ピリジン配位子の数が3となるリンカーの具体例としては、以下の有機化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
(ii-3)4つのピリジン配位子で構成されるリンカー
4つのピリジン配位子を有するリンカー(n=4)は、下記で示される有機化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
上記式で示される有機化合物において、ピリジン配位子と基X3とは炭素-炭素三重結合で結合する。基X3は、基X3は、炭素或いは、炭素数1以上6以下の置換基を有しても良い脂肪族炭化水素基、若しくは、炭素数6以上25以下の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)、又は炭素数3以上44以下の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基(これらの基はそれぞれ独立して置換基を有して良い)が好ましい。
【0060】
この有機化合物において、基X3が、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基であるとき、基X1の範囲と具体例は上記した基X1と同様である。
【0061】
また、この有機化合物において、基X3が炭素数6~25の単環、連結、又は縮環の芳香族炭化水素基であるとき、基X3の具体例は、上記した基X1における具体例と同様である。また、基X3が炭素数3~44の単環、連結、又は縮環のヘテロ芳香族基であるときの基X3の具体例も、上記した基X1における具体例と同様である。
【0062】
そして、基X3も、基X1と同様に、それぞれ独立して置換基を有することができる。置換基の範囲は、基X1と同様である。更に、4つのピリジン配位子は、それぞれ独立して置換基を有することができる。その範囲は、上記基X1の置換基と同じものが好ましい。
【0063】
ピリジン配位子の数が4となるリンカーの具体例としては、以下の有機化合物が挙げられる。
【0064】
【0065】
(ii-4)ピリジン配位子の数が5以上のリンカー
以上、ピリジン配位子の数nが2~4となるリンカーについての代表的な具体例を挙げたが、これらの他、ピリジン配位子の数が5以上となるリンカーの例として、n=6、8となる下記の有機化合物が挙げられる。
【0066】
【0067】
本発明に係るAgナノクラスター集積体は、以上説明した、有機化合物であるリンカーと、金属であるAgナノクラスターとで構成された有機-無機ハイブリット材料である。そして、架橋材であるリンカーによりAgナノクラスターが規則的に配列して疑似的な結晶として振舞うことができる。
【0068】
II.本発明に係るAgナノクラスター集積体の製造方法
上記のとおり、Agナノクラスター集積体は、複数のAg原子を含むAgナノクラスターがリンカーを介して集積した構造体である。よって、その製造は、複数のAg原子の集合体を形成し、この集合体が分散した状態にリンカーを添加することで製造することができる。この複数のAg原子の集合体としては、これまで述べたAgナノクラスターに加えてAg錯体が挙げられる。即ち、本発明に係るAgナノクラスター集積体の製造方法は、2以上のAg原子を含むAgナノクラスター又は2以上のAg原子を含むAg錯体のいずれかが分散媒に分散した状態を用意する工程と、前記分散媒に前記リンカーを添加する工程を含み、前記リンカーとして上記化2又は化3で示される有機化合物を添加するものである。
【0069】
Ag錯体は、Agナノクラスターの前駆物質である。Ag錯体は、Ag塩(Agイオン)の溶液に有機配位子を添加・反応させること形成され、複数のAg原子を含むと共にAgに有機配位子が配位した複合体である。尚、前記のAg塩としては、硝酸銀、塩化銀、硫化銀、シュウ酸銀、酸化銀、炭酸銀等が使用できる。そして、本発明でAg錯体を形成するための好適な有機配位子としては、チオール基含有配位子やエチニル基含有配位子が挙げられる。有機配位子となる具体的な化合物としては、第三級チオール基含有配位子である1-アダマンタンチオールやtert-ブチルチオール(tertブチルメルカプタン)、3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール、ビシクロ[1.1.1]ペンタンチオール、8-メルカプトメントン、O-カルボラン-1,2-ジチオール等、エチニル基含有配位子であるtert-ブチルアセチレンや1-エチニルアダマンタン、3,3-ジメチル-1-ペンテン、1-エチニルビシクロ[1.1.1]ペンタン、1-エチニル-3,5-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0070】
また、Agナノクラスターは、上記したAg塩又はAg錯体の還元処理、若しくは、上記Ag錯体に他の有機配位子を添加した配位子交換法によって形成できる。
【0071】
本発明に係るAgナノクラスター集積体の製造については、上記した有機配位子により形成したAg錯体に他の有機配位子を加える配位子交換法でAgナノクラスターを形成し、その後にリンカーを反応させて集積体とするのが好ましい。Ag錯体は、複数原子で構成されているものの、その構成数が一定に規定されないことも多い。上記したチオール基含有配位子等で形成したAg錯体については、更に別の有機配位子を加えることでAg原子の数を整えると共に、配位子交換によりAg錯体からAgナノクラスターを合成することができる。この他の有機配位子としては、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸塩等のカルボキシレート基含有配位子等を添加することが好ましい。カルボキシレート基含有配位子は、Ag錯体からAgナノクラスターを生成しつつ、その分散性の維持に寄与することができる。
【0072】
以上のようにして製造されるAg錯体又はAgナノクラスターが分散媒に分散した状態で、リンカーとなる有機化合物を添加し反応させることでAgナノクラスター集積体が形成される。Agナノクラスターの分散媒としては、クロロホルム、トルエン、エタノール、メタノール等の有機溶媒が好ましい。尚、Agナノクラスターが分散媒に分散した状態を得る際には、上記で形成したAg錯体を回収し、Ag錯体を分散媒に分散させた後にAgクラスターにしても良い。Agナノクラスターを製造し、これを分散媒に分散させても良い。
【0073】
また、リンカーを添加する際には、上記と同じ有機溶媒に溶解させて溶液(リンカー溶液)として添加するのが好ましい。リンカーの添加量は、Agナノ粒子のAgのモル数に対して10倍を目安に過剰量添加するのが好ましい。
【0074】
Agナノクラスター集積体は、リンカー溶液を添加した後、リンカーとAgナノクラスターとを反応させることで形成される。このときの反応条件としては、大気中又は不活性ガス中で反応温度-40℃以上80℃以下とし、反応時間を3時間以上とすることが好ましい。リンカーとAgナノ粒子との結合は、Agナノクラスターに結合していた有機配位子とリンカー末端のピリジン配位子との配位子交換によって進行する。そして、リンカーとAgナノクラスターとの反応による自己組織化によってAgナノクラスター集積体を得ることができる。
【0075】
反応終了後は、遠心分離後、真空乾燥の方法でAgナノクラスター集積体を分離回収可能となる。Agナノクラスター集積体は、アルコール(メタノール等)で適宜に洗浄することが可能である。また、こうして得られたAgナノクラスター集積体は、再度適宜の分散媒に分散させることで各種用途に供することができる。
【発明の効果】
【0076】
以上説明したように、本発明は、好適なリンカーの適用によりAgナノクラスターが周期的・規則的に集積されたAgナノクラスター集積体を提供する。本発明に係るAgナノクラスター集積体は、周期性・規則性を有しながら、従来技術に対して熱安定性に優れる。これにより、本発明は、触媒やデバイス素子等の各種用途への適用可能性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】実施例1及び実施例2のAgナノクラスター集積体のSEM像。
【
図2】実施例1のAgナノクラスター集積体の結晶構造についてのSC-XRDによる解析結果を示す図。
【
図3】実施例2のAgナノクラスター集積体の結晶構造についてのSC-XRDによる解析結果を示す図。
【
図4】実施例1及び実施例2のAgナノクラスター集積体のP-XRD回折パターン。
【
図5】実施例1、実施例2及び比較例のAgナノクラスター集積体のTG-DTA曲線。
【
図6】実施例1のAgナノクラスター集積体を各種溶液・溶媒に浸漬後のP-XRD回折パターン。
【
図7】実施例2のAgナノクラスター集積体を各種溶液・溶媒に浸漬後のP-XRD回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、リンカーとして、上記した化2の4-(2-ピリジン-4-イルエチニル)ピリジン(以下、ETNbpyと称することがある。)と、化7で挙げられた1,4-ビス(ピリジン-4-イルエチニル)ベンゼン(以下、2EBbpyと称することがある。)を適用したAgナノクラスター集積体を製造した。
【0079】
実施例1(リンカー:ETNbpy)
硝酸銀(AgNO3)0.55g(Ag3.24mmol)をアセトニトリル7.5mLに溶解し溶液にtert-ブチルチオール(HS-tBu)を1.25mL添加して、前駆物質であるAg錯体(AgStBuと称する。)を生成した。生成したAg錯体は、アルコール等で洗浄後、遠心分離および真空乾燥の方法で回収した。
【0080】
次に、溶媒として、クロロホルム(CHCl3)をアセトニトリル(CH3CN)に体積比1:1で溶解した溶液5mLを用意した。そして、この溶媒に上記で製造したAg錯体30mgとトリフルオロ酢酸銀(CF3COOAg)22.5mgを添加後、良く攪拌してAgナノクラスターの分散液を得た。
【0081】
上記のようにAgナノクラスターを準備する一方で、リンカーとなる4-(2-ピリジン-4-イルエチニル)ピリジン30mgを秤量した後、上記と同じ溶媒(アセトニトリル/クロロホルム溶液)5mLに添加し良く攪拌してリンカー溶液を作製した。
【0082】
そして、上記で作製したAgナノクラスター分散液とリンカー溶液をアイスバス中で混合し、冷暗所で24時間留置した。その後、遠心分離の方法で回収後、メタノールにて洗浄してAgナノクラスター集積体(Ag/ETNbpy)を得た。
【0083】
実施例2(リンカー:2EBbpy)
溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)をトルエンに体積比1:1で溶解した溶液5mLを用意した。そして、実施例1と同様の手順でAgナノクラスター分散液を得た。
【0084】
一方で、リンカーとなる1,4-ビス(ピリジン-4-イルエチニル)ベンゼン45mgを秤量した後、上記と同じ溶媒であるジメチルアセトアミド/トルエン溶液5mLに添加し良く攪拌してリンカー溶液を作製した。
【0085】
そして、実施例1と同様に、Agナノ粒子分散液とリンカー溶液を混合して5℃で24時間留置し、遠心分離の方法で回収後メタノールにて洗浄してAgナノクラスター集積体(Ag/2EBbpy)を得た。
【0086】
上記で製造した実施例1及び実施例2のAgナノクラスター集積体について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて外観観察を行った。
図1は、これら実施例のSEM像である。
【0087】
次に、実施例1、2のAgナノクラスター集積体について、単結晶X線回折分析(SC-XRD)を行い、回折データに基づいた構造解析を行った。SC-XRD分析は、パラフィン分散液でサンプルを表面被覆し、単結晶X線回折回装置(株式会社リガク製:XtaLAB Synergy-R/DW)を用いて行った。分析は、-173 ℃で多層膜ミラー単色Cu線源からの単色X線を照射して回折データを収集した。そして、得られた回折データについて、結晶構造解析ソフトウェア(Olex2)で解析を行ってAgナノクラスター集積体の構造をシミュレーションした。
【0088】
SC-XRDによる構造解析では、各実施例のAgナノクラスター集積体について、Agナノクラスターの単位ユニットの構造とAgナノクラスター集積体の周期構造をモデル化した。この結果について、
図2に実施例1の解析結果を、
図3に実施例2の解析結果を示す。
【0089】
図2の実施例1のAgナノクラスター集積体(Ag/ETNbpy)についてみると、
図2(a)から、集積体の単位ユニットとなるAgナノクラスターは、14個のAg原子と10個のS原子で構成されていることが分かる。Ag原子は、ピラミッド形状と歪みのある矩形状との組み合わせ(Johnson solid,J8)を連結させた形状の骨格で結合している。また、Agナノクラスターには、有機配位子であるチオール及びトリフルオロ酢酸が配位している。そして、
図2(b)から、このAgナノクラスター集積体では、Agナノクラスターが4つのリンカーと結合し周期的且つ等間隔で配列している。周期性・規則性は2次元構造(平面構造)及び3次元構造(層構造)で観られる。
【0090】
図3の実施例2のAgナノクラスター集積体(Ag/2EBbpy)では、Agナノクラスターは12個のAg原子と6個のS原子で構成されており、Ag原子が立方八面体形状の骨格をもって結合していることが分かる(
図3(a))。そして、このAgナノクラスター集積体では、Agナノクラスターが6つのリンカーと結合して正六角形を形成しつつ周期的且つ等間隔で2次元配列している。このAgナノクラスター集積体も、周期的な層構造が観られる。
【0091】
そこで、上記の解析結果を確認するため、実施例1、2のAgナノクラスター集積体について粉末X線回折分析(P-XRD)を行った。P-XRD分析では、Agナノクラスター集積体を適宜にガラス棒による粉砕により試料調整した後、多目的X線回折装置(株式会社リガク製:Ultima IV)にて、Cu線源にて分析範囲を2θ=5°~50°として分析した。そして、P-XRDで得られたX線回折パターンについて、上記SC-XRDの解析結果に基づき得られる理論回折パターン(結晶学共通データ・フォーマット(CIF))を参照した。
【0092】
実施例1(Ag/ETNbpy)及び実施例2(Ag/2EBbpy)のAgナノクラスター集積体のP-XRDによる回折パターン及び理論回折パターンを
図4に示す。これらの回折パターンにおいては、低角度側(10°以下)の領域が2次元方向における長期周期(Agナノクラスター間の間隔)に対応し、高角度側(25°以上)の領域が単位ユニットであるAgナノクラスターにおける原子間隔に対応している。
図4、5を参照すると、実施例1(Ag/ETNbpy)及び実施例2(Ag/2EBbpy)のAgナノクラスター集積体の回折パターンは、いずれも理論回折パターンとピーク位置が符合している。このことから、実施例1、2のAgナノクラスター集積体は、上記SC-XRDによる解析結果の構造(
図2、3)を有しているといえる。つまり、リンカーとしてETNbpy及び2EBbpyを適用することで、Agナノクラスターが周期的・規則的に配置されたAgナノクラスター集積体が得られたことが確認される。
【0093】
[熱的安定性の評価]
次に、実施例1(Ag/ETNbpy)と実施例2(Ag/2EBbpy)のAgナノクラスター集積体の熱的安定性を検討した。熱的安定性は、TG-DTA測定(熱質量-示差熱測定)にて評価した。測定条件は、空気気流中で昇温温度を5℃/minとした。また、この検討では、比較のため従来技術(非特許文献1)である4,4´-ビピリジン(bpy)をリンカーとするAgナノクラスター集積体を非特許文献記載の方法に従って製造し、同様に評価した。
【0094】
この評価結果として各Agナノクラスター集積体のTG-DTA曲線を
図5に示す。熱的安定性の評価では、TG曲線において10%の重量減が見られた温度で対比した。その結果、10%重量減衰温度は、実施例1(Ag/ETNbpy)で162℃、実施例2(Ag/2EBbpy)で174℃であり、比較例(Ag/Bpy)では152℃であった。このことから、実施例1、2のAgナノクラスター集積体は、従来のAgナノクラスター集積体に対して熱的安定性が高いことが確認された。
【0095】
[化学的安定性の評価]
更に、実施例1(Ag/ETNbpy)と実施例2(Ag/2EBbpy)のAgナノクラスター集積体について、化学的安定性を検討した。この評価試験では、各Agナノクラスター集積体のサンプル(30mg)を各種溶媒及び酸(pH1)・アルカリ(pH14)に5min浸漬した。その後、各サンプルについてP-XRD分析を行い、回折パターンの変化の有無にからAgナノクラスター集積体の分解の有無を判定し化学的安定性を評価した。
【0096】
この評価試験の結果を
図6(実施例1)及び
図7(実施例2)に示す。試験溶液には、水やアルコール等の溶媒の他、アルカリ及び酸を適用したが、実施例1、2のAgナノクラスター集積体は、いずれの試験溶液に浸漬しても回折パターンに大きな変化は観られず、分解しないことが確認された。従って、本発明に係るAgナノクラスター集積体は、化学的安定も良好であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明は、Agナノクラスターが規則的に集積されたAgナノクラスター集積体について、熱安定性を向上させることができる好適なリンカーを明らかにする。本発明に係るAgナノクラスター集積体は、エレクトロニクス分野、化学分野、医薬分野等の他方面において有用である。