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特開2024-4985全固体リチウムイオン二次電池用添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004985
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池用添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104931
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】梶山 智司
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】岩嶋 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】梶田 徹也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昌則
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA22
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】全固体リチウムイオン二次電池のイオン伝導性を向上させる。
【解決手段】本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤は、機能性液晶分子を用いることとしたため、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の活物質粒子や固体電解質粒子などの電池構成材粒子間の空隙を低減することができ、イオン伝導性を向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体リチウムイオン二次電池用に用いられる正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1種の電池構成材に添加される全固体リチウムイオン二次電池用添加剤であって、
機能性液晶分子を含有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【請求項2】
上記正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1種が、これらに含有される粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成し、
正極活物質を含む粒子同士または正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、固体電解質を含む粒子同士または固体電解質を含む粒子と負極活物質を含む粒子、及び負極活物質を含む粒子同士の少なくとも1つの組み合わせに対応する空隙部位に充填されることを特徴とする請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【請求項3】
上記機能性液晶分子の透明点が、使用される全固体リチウムイオン二次電池の最高作動温度+10℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【請求項4】
上記機能性液晶分子の透明点が、70℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【請求項5】
上記機能性液晶分子が下記構造式(1)又は下記構造式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【化1】
但し、構造式(1)(2)中、L、L、Lは、それぞれ独立して-(CHCH、-O(CHCH、-O(CO)(CHCH、-(CH-CH=CH、又はLiイオン伝導性基を表し、これらのH又は-(CH)-はLiイオン伝導性基で置換されていてもよい。nは1~11の整数を表す。Mは、下記M1~M9から選択されるメソゲン骨格を表す。
【化2】
但し、上記メソゲン骨格中X、Yは、それぞれ独立して、
【化3】
から選択される基を表す。
【請求項6】
上記機能性液晶分子が、下記C1~C8から選択されるLiイオン伝導性基を有することを特徴とする請求項5に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【化4】
但し、上記官能基中、R~Rは、それぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアリール基を表し、RとRとは結合して環を形成していてもよい。nは1~10の整数を表す。
【請求項7】
上記機能性液晶分子が、上記C1、C2又はC6から選択されるLiイオン伝導性基を有することを特徴とする請求項6に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【請求項8】
正極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用正極であって、
上記請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
固体電解質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用電解質であって、
上記請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用電解質。
【請求項10】
負極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用負極であって、
上記請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
電解質を正極と負極とで挟持した積層構造を有する全固体リチウムイオン二次電池であって、
上記正極層、上記電解質層、及び上記負極層の少なくとも1つが粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成し、
上記孔質構造中に上記請求項1又は2に記載の全固体電池用添加剤を含有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項12】
上記孔質構造が、全固体電池用添加剤を1~30質量%含有することを特徴とする請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が、上記積層構造の積層方向で傾斜していることを特徴とする請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項14】
上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が、正極層と電解質層との界面近傍、及び/または、電解質層と負極層との界面近傍で高いことを特徴とする請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項15】
上記請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1つに上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加する処理を有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項16】
上記請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、
電池組み立て工程と、加温工程とを備え、
上記電池組み立て工程が、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1つに上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加する処理を有し、
上記加温工程が、電解質を正極と負極とで挟持した積層体を加温する処理を有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項17】
上記加温工程が、上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の透明点以上に加温する処理を有することを特徴とする請求項16に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項18】
上記加温工程は、上記積層体を圧縮した状態で行うことを特徴とする請求項16に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤、全固体リチウムイオン二次電池用正極材、全固体リチウムイオン二次電池用電解質、全固体リチウムイオン二次電池用負極材、全固体リチウムイオン二次電池、及び該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン二次電池は固体の電解質を用いた電池であり、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が有する、燃え易いといった欠点や、充電時間の短縮が困難であるといった欠点を克服できる電池として期待されている。
【0003】
しかし、電池反応は電解質と正極活物質、電解質と負極活物質との間でイオンのやりとりによって生じるので、全固体リチウムイオン二次電池においては、固体電解質粒子と、正極活物質粒子や負極活物質粒子との固体-固体間の接触を向上させる必要がある。
【0004】
そこで、正極活物質粒子、固体電解質粒子、及び負極活物質粒子を含む積層体を圧縮して結着させた全固体リチウムイオン二次電池が知られている。
【0005】
特許文献1には、表面を固体電解質で被覆した正極活物質粒子と、固体電解質粒子とを混合した電極体は、界面抵抗を低減できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の電極体にあっては、正極活物質粒子や固体電解質粒子を含む電池構成材内粒子群を圧縮し、これら粒子同士の密着度合を向上させると、粒子間の空隙を埋めるように応力がかかるので、1つの電池構成材粒子にかかる応力が不均一化し、隣接する電池構成材粒子間の抵抗が不均一化して電池内部の反応も不均一化する。反応が不均一化すると余分な内部抵抗が生じたり、デンドライト生成が進行したりするという課題がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、活物質粒子や固体電解質粒子などの電池構成材内粒子間の密着度合を均一化し、イオン伝導性を向上できる全固体リチウムイオン二次電池用添加剤、全固体リチウムイオン二次電池用正極、全固体リチウムイオン二次電池用電解質、全固体リチウムイオン二次電池用負極、全固体リチウムイオン二次電池、及び該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、透明点が比較的高い機能性液晶分子は、液晶相状態又は等方性液体状態で電池構成材内粒子同士が接触する接触部の微細な隙間に入り込むことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の上記課題は、下記(1)~(7)の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤によって解決される。
(1)全固体リチウムイオン二次電池用に用いられる正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1種の電池構成材に添加される全固体リチウムイオン二次電池用添加剤であって、機能性液晶分子を含有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
(2)上記正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1種が、これらに含有される粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成し、正極活物質を含む粒子同士又は正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、固体電解質を含む粒子同士又は固体電解質を含む粒子と負極活物質を含む粒子、及び負極活物質を含む粒子同士の少なくとも1つの組み合わせに対応する空隙部位に充填されることを特徴とする上記第(1)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
(3)上記機能性液晶分子の透明点が、使用される全固体リチウムイオン二次電池の最高作動温度+10℃以上であることを特徴とする上記第(1)項又は第(2)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
(4)上記機能性液晶分子の透明点が、70℃以上であることを特徴とする上記第(1)項~第(3)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
(5)上記機能性液晶分子が下記構造式(1)又は下記構造式(2)で表される化合物であることを特徴とする上記第(1)項~第(4)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【0011】
【化1】
但し、構造式(1)(2)中、L、L、Lは、それぞれ独立して-(CHCH、-O(CHCH、-O(CO)(CHCH、-(CH-CH=CH、又はLiイオン伝導性基を表し、これらのH又は-(CH)-はLiイオン伝導性基で置換されていてもよい。nは1~11の整数を表す。Mは、下記M1~M9から選択されるメソゲン骨格を表す。
【0012】
【化2】
但し、上記メソゲン骨格中X、Yは、それぞれ独立して、
【0013】
【化3】
から選択される基を表す。
(6)上記機能性液晶分子が、下記C1~C8から選択されるLiイオン伝導性基を有することを特徴とする上記第(5)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【0014】
【化4】
但し、上記官能基中、R~Rは、それぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアリール基を表し、RとRとは結合して環を形成していてもよい。nは1~10の整数を表す。
(7)上記機能性液晶分子が、上記C1、C2又はC6から選択されるLiイオン伝導性基を有することを特徴とする上記第(6)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤。
【0015】
また、本発明の上記課題は、下記(8)の全固体リチウムイオン二次電池用正極によって解決される。
(8)正極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用正極であって、上記第(1)項~第(7)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用正極。
【0016】
また、本発明の上記課題は、下記(9)の全固体リチウムイオン二次電池用電解質によって解決される。
(9)固体電解質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用電解質であって、上記第(1)項~第(7)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用電解質。
【0017】
また、本発明の上記課題は、下記(10)の全固体リチウムイオン二次電池用負極によって解決される。
(10)負極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用負極であって、上記第(1)項~第(7)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備えることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用負極。
【0018】
また、本発明の上記課題は、下記(11)~(14)のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池によって解決される。
(11)電解質を正極と負極とで挟持した積層構造を有する全固体リチウムイオン二次電池であって、上記正極層、上記電解質層、及び上記負極層の少なくとも1つが粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成し、上記孔質構造中に上記第(1)項~第(7)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を含有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。
(12)上記孔質構造が、全固体電池用添加剤を1~30質量%含有することを特徴とする上記第(11)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
(13)上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が、上記積層構造の積層方向で傾斜していることを特徴とする上記第(11)項または上記第(12)に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
(14)上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が、正極層と電解質層との界面近傍、及び/または、電解質層と負極層との界面近傍で高いことを特徴とする上記第(11)~上記第(13)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【0019】
さらに、本発明の上記課題は、下記(15)~(18)のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によって解決される。
(15)上記第(11)項~上記第(14)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1つに上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加する処理を有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
(16)上記第(11)項~上記第(14)項のいずれか1つの項に記載の全固体リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、
電池組み立て工程と、加温工程とを備え、
上記電池組み立て工程が、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1つに上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加する処理を有し、
上記加温工程が、電解質を正極と負極とで挟持した積層体を加温する処理を有することを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
(17)上記加温工程が、上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の透明点以上に加温する処理を有することを特徴とする上記第(16)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
(18)上記加温工程は、上記積層体を圧縮した状態で行うことを特徴とする上記第(16)項又は上記第(17)項に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透明点が比較的高い機能性液晶分子を用いることとしたため、電池構成材内の粒子間の接触部の接触面積を増加させ、イオン伝導性を向上できる全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】全固体リチウムイオン二次電池用添加剤と電池構成材内粒子との加温前の状態を示す図である。
図2】加温又は圧縮により、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤が電池構成材内粒子間に入り込んだ状態を示す図である。
図3】圧粉積層型の全固体リチウムイオン二次電池の断面模式図である。
図4】実施例3の負極活物質層の断面SEM像とそのEDS元素マッピング像である。
図5】電池構成材内粒子の状態を示す断面SEM像である。
図6】全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の電池構成材内粒子間への浸透状態を示す断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<全固体リチウムイオン二次電池用添加剤>
本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤について詳細に説明する。
上記添加剤は、正極、電解質、負極の全固体リチウムイオン二次電池の電池構成材(以下、単に「電池構成材」ということがある。)に添加される添加剤であり、機能性液晶分子を含有する。
【0023】
一般的に液晶分子は、メソゲン骨格とアルキル鎖とを有し、棒状又は円盤状の形状をした分子であり、温度の上昇により、固体(結晶相)から液晶相(ネマチック相、スメクチック相等)を経て等方性液体(アイソトロピック相)に相転移する。
この液晶相からアイソトロピック相に相転移し、等方性液体になる温度を「透明点」という。
【0024】
上記メソゲン骨格は、剛直な構造を有し、分子間に働く斥力と引力の両方において異方性を持った部位であり、固体の状態では大きな分子間力を有し、液晶分子の透明点を高くする部位である。
【0025】
また、上記アルキル鎖は、柔軟な構造を有し、液晶分子に液体のような振る舞いを発現させる部位である。
【0026】
このような異方性を有する液晶分子は、透明点を超えると位置および方向性の秩序が失われ、分子同士の会合が解かれ、流動性が急激に高くなる。
【0027】
すなわち、アイソトロピック相は、分子の方位、重心位置が無秩序で、分子間の距離が遠く、分子同士が会合し難いので極めて高い流動性を有する液体である。
【0028】
液晶分子の多くは、10~20℃程度の室温の温度範囲において、固体と液体の中間の性質を合わせ持ったペースト状の液晶相であり、流動性を有する。また、40~50℃程度で液晶相からアイソトロピック相へ相転移する液晶分子が多い。
【0029】
これに対し、本発明の「機能性液晶分子」は、70℃未満では固体又は液晶相であり、アイソトロピック相に相転移して等方性液体になる温度(透明点)が70℃以上250℃以下である液晶分子である。
【0030】
全固体電池を作製する際、図1に示すように、上記機能性液晶分子を電池構成材内粒子間の空隙部位に常温下で充填する。そして、加温又は圧縮により、図2に示すように、電池構成材内粒子同士が接触した接触部の数μm以下の微細な隙間に入り込み上記微細な隙間を埋めることができる。
【0031】
例えば、上記機能性液晶分子の透明点以上に加温すると、上記機能性液晶分子が等方性液体になって流動性が高くなる。この等方性液体になった機能性液晶分子は、流動性が高く浸透性が高いので、毛細管現象により上記微細な隙間に入り込み上記微細な隙間を埋める。そして、透明点以下にすることで固化して流動性を失い、または液晶相となって流動性が低下して、電池構成材内粒子同士の接触部の微細な隙間を埋めたまま留まる。
液晶分子が冷却されて等方性液体から結晶相又は液晶相に相転移する際、生成した相のドメインの結晶性や平坦性が優れる傾向がある。この性質は上記微細な隙間を埋めるのに好ましい性質であり、全固体電池用添加剤に上記機能性液晶分子を用いる利点の一つである。
また、上記機能性液晶分子は液晶相の状態でも上記微細な隙間を埋めることができる。全固体電池の組み立て工程において全固体電池セルが加圧されると、液晶相状態である上記機能性液晶分子は流動性を有するので、応力を均一にするように隙間の内部を流動し、上記微細な隙間を埋める。応力が均一化すると液晶相状態の上記機能性液晶分子はそれ以上流動しないので、電池構成材内粒子同士の接触部の微細な隙間を埋めたまま留まる。
【0032】
そして、上記機能性液晶分子の透明点よりも低い温度で、全固体リチウムイオン二次電池を作動させれば、電池構成材内粒子同士の接触部の微細な隙間が埋っているので、全固体リチウムイオン二次電池中の圧縮された電池構成材粒子の凸部のみに大きな応力がかかることなく、電池構成材粒子同士の接触部全体に応力が分散する。
【0033】
したがって、電池内部の反応が均一に進行するようになるのに加えて、界面抵抗の原因となる空隙が減少することで界面抵抗が低減し、イオン伝導性を向上させることが可能になる。
全固体電池は全て固体物質で構成されるため、固体粒子と固体粒子の間に空隙が生じる。すなわち、全固体電池の各層は固体粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有し、孔質構造を形成する。全固体電池の正極は正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子を含有する。そのため、正極活物質を含む粒子同士、正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、又は、固体電解質を含む粒子同士に対応する空隙部位が正極には存在する。同様に、全固体電池の負極は負極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子を含有する。そのため、負極活物質を含む粒子同士、負極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、又は、固体電解質を含む粒子同士に対応する空隙部位が負極には存在する。同様に、全固体電池の電解質は固体電解質を含む粒子を含有する。そのため、固体電解質を含む粒子同士に対応する空隙部位が電解質には存在する。
本発明の機能性液晶分子は、正極活物質を含む粒子同士又は正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、固体電解質を含む粒子同士又は固体電解質を含む粒子と負極活物質を含む粒子、及び負極活物質を含む粒子同士の少なくとも1つの組み合わせに対応する空隙部位に充填することができる。すなわち、本発明の好ましい一態様として、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1種が、これらに含有される粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成し、正極活物質を含む粒子同士、正極活物質を含む粒子と固体電解質を含む粒子、固体電解質を含む粒子同士、固体電解質を含む粒子と負極活物質を含む粒子、及び負極活物質を含む粒子同士、の少なくとも1つの組み合わせに対応する空隙部位に充填される全固体リチウムイオン二次電池用添加剤である態様が挙げられる。
【0034】
上記機能性液晶分子の透明点の測定には、一般的な熱分析の手法を用いることができる。まず、機能性液晶分子を2枚のプレパラートにはさんでセルを形成し、このセルを偏光顕微鏡で観察しながら昇温させて偏光が失われた温度をA℃とする。次に、示差走査熱量計を用いて透明点を測定する。機能性液晶分子を10K/分のレートで昇温し、機能性液晶分子が全て等方性液体になる温度まで昇温する。機能性液晶分子が全て等方性液体になる温度としては、A℃よりも20℃以上高い温度を設定すればよい。昇温した温度で10分間保持し、その後、10K/分のレートで降温する。機能性液晶分子が等方性液体から液晶相に相転移すると、発熱ピークが観察される。この発熱ピークが観察された温度が透明点である。
【0035】
上記のように、一般的に液晶分子は等方性液体になったときの流動性が高いという性質を有するが、透明点が高い機能性液晶分子は、メソゲン骨格とアルキル鎖との組み合わせによって得ることができる。
【0036】
具体的には、メソゲン骨格部分を大きくしたり、アルキル鎖を短くしたりすることで分子同士が会合し易くなり、液晶分子の透明点が上昇する。また、液晶分子にLiイオン伝導性基を結合させることによっても透明点が上昇する。Liイオン伝導性基とは、Liイオン又はリチウム塩と相互作用可能であり、Liイオン伝導に寄与できる官能基のことをいう。
【0037】
上記機能性液晶分子の分子量は、上記透明点の範囲を満たせば、特に制限はないが、200~1000であることが好ましい。
【0038】
分子量が大きくなると透明点が高くなる傾向があり、分子量が1000以下であることで、低い加温温度で機能性液晶分子を電池構成材内の粒子間に浸透させることができ、電池構成材の劣化を防止できる。
また、分子量が200未満では透明点が低くなることがあり、全固体リチウムイオン二次電池の作動温度を下げる必要が生じ、発電効率が低下することがある。
【0039】
したがって、上記機能性液晶分子は、透明点が全固体リチウムイオン二次電池の最高作動温度よりも+10℃以上高く、かつ透明点が電池構成材の分解温度未満であることが好ましい。
【0040】
具体的には、上記透明点は、70℃以上250℃以下であることが好ましく、95℃以上160℃以下であることがより好ましい。
【0041】
ここで、全固体リチウムイオン二次電池の最高作動温度とは、急速充電を含む通常の充放電によって、電池構成材の温度が最も高くなる温度をいい、電池構成材の分解温度とは、正極活物質、固体電解質、及び負極活物質のうち、もっとも分解温度が低い活物質または電解質の分解温度をいう。
正極活物質、固体電解質、及び負極活物質の分解温度は、熱重量分析(TGA)によって測定できる。例えば、測定したい物質を熱重量分析機に導入し、アルゴン雰囲気下、室温から600℃まで5℃/分のレートで昇温する。温度に対する重量減少を記録し、最初の重量から5%重量減少した温度を分解温度とすることができる。
【0042】
上記機能性液晶分子としては、下記構造式(1)又は下記構造式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0043】
【化5】
但し、構造式(1)(2)中、Lは、その少なくとも1つの水素(H)又は-(CH)-がLiイオン伝導性基で置換されていてもよいアルキル鎖を含む基又はLiイオン伝導性基である。
上記アルキル鎖を含む基としては、例えば、-(CHCH、-O(CHCH、-O(CO)(CHCH、-(CH-CH=CH(それぞれ、nは1~11の整数)から選択される基を挙げることができる。上記アルキル鎖を含む基L、L、Lは、それぞれ異なっていても同じであってもよい。
【0044】
また、構造式(1)(2)中、Mはメソゲン骨格であり、例えば、下記M1~M9から選択されるメソゲン骨格をあげることができる。
【0045】
【化6】
上記メソゲン骨格中X、Yは、それぞれ独立して、
【0046】
【化7】
から選択される基を表す。
【0047】
上記機能性液晶分子は、Liイオン伝導性基を有することが好ましい。
Liイオン伝導性基を有することで、電池構成材内粒子同士の接点だけでなく、機能性液晶分子が入り込んだ電池構成材内粒子同士の接触部全体にイオン伝導パスが形成されるので、イオン伝導性を向上させることができる。
【0048】
上記Liイオン伝導性基としては、下記C1~C8から選択される官能基を挙げることができる。
【0049】
【化8】
但し、上記官能基中、R~Rは、それぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアリール基を表し、RとRとは結合して環を形成していてもよい。nは1~10の整数を表す。
上記Liイオン伝導性基としては上記C1、C2又はC6から選択されることが好ましい。Liイオン伝導性基がC1、C2又はC6であることで、Liイオン伝導性がより向上しやすくなる。
【0050】
上記構造式(1)、構造式(2)で表される化合物の構造と、透明点を以下に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1、表2中の、No.1,8,13,15は、透明点が95℃以上120℃以下であり、全固体リチウムイオン二次電池の作動温度の高温化と、全固体リチウムイオン二次電池作製時の加温による電池構成材の劣化抑止とを両立できるのに加えて、Liイオン伝導性が高いので好ましく使用できる。
【0054】
上記機能性液晶分子は、メソゲン骨格とアルキル鎖を含む基とを結合させることで作製でき、例えば、Williamsonエーテル合成法や、鈴木・宮浦カップリング反応を用いて作製することができる。
また、東京化成工業社製のP2404(上記Nо.7)、東京化成工業社製のE0257(上記No.1)、東京化成工業社製のD1093(上記No.5)、東京化成工業社製のC3270(上記No.6)などを使用できる。
【0055】
上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤は、機能性液晶分子の隙間への浸透性を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
上記添加剤は、全固体リチウムイオン二次電池以外の全固体電池にも適用することができる。例えば、全固体ナトリウムイオン二次電池用添加剤としても用いることができる。
<全固体リチウムイオン二次電池用正極、電解質、負極>
本発明の態様の一つとして、正極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用正極であって、本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を上記空隙部位に備える全固体リチウムイオン二次電池用正極である態様が挙げられる。上記正極活物質を含む粒子は、必要に応じて、固体電解質、導電剤を含有する合材粒子であってもよく、その表面にリチウムイオン伝導性を有する酸化物等をコートしたものであってもよい。
また本発明の態様の一つとして、負極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用負極であって、本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を上記空隙部位に備える全固体リチウムイオン二次電池用負極である態様が挙げられる。上記負極活物質を含む粒子は、必要に応じて、固体電解質、導電剤を含有する合材粒子であってもよく、その表面にリチウムイオン伝導性を有する酸化物等をコートしたものであってもよい。
また本発明の態様の一つとして、固体電解質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成した全固体リチウムイオン二次電池用電解質であって、本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を、上記空隙部位に備える全固体リチウムイオン二次電池用電解質である態様が挙げられる。上記固体電解質を含む粒子は、必要に応じて、バインダ材料を含有する合材粒子であってもよい。
上記全固体リチウムイオン二次電池用正極、上記全固体リチウムイオン二次電池用負極、および上記全固体リチウムイオン二次電池用電解質は、本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を含有することで、界面抵抗が低減されたものとなる。
【0056】
<全固体リチウムイオン二次電池>
次に本発明の全固体リチウムイオン二次電池について説明する。
図3に圧粉積層型の全固体リチウムイオン二次電池の断面模式図を示す。
全固体リチウムイオン二次電池は、電解質層2を負極層1と正極層3とで挟持した積層構造をした積層体を有する。
【0057】
この積層体は、筒状容器4の内部に収められ、該筒状容器4の一端には、負極層1と接する負極金具5が設けられ、他端には正極層3と接触する正極金具6が設けられており、上記負極金具5と上記正極金具6とで上記積層体を圧縮し、筒状容器4を封止して成る。
【0058】
全固体リチウムイオン二次電池の形状は、円筒型、角形、ラミネート積層型、コイン型のいずれであってもよい。
【0059】
(負極層)
負極層は、負極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成しており、上記負極活物質を含む粒子は、必要に応じて、固体電解質、導電剤を含有する合材粒子であってもよく、その表面にリチウムイオン伝導性を有する酸化物等をコートしたものであってもよい。
【0060】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な活物質を使用することができる。例えば、黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Si,Sn,Ge等の金属系材料、シリコン酸化物、スズ酸化物、リチウムチタン酸化物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
負極層中の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、50質量%以上であることが好ましい。
【0062】
(正極層)
正極層は、正極活物質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成しており、上記正極活物質を含む粒子は、必要に応じて、固体電解質、導電剤を含有する合材粒子であってもよく、その表面にリチウムイオン伝導性を有する酸化物等をコートしたものであってもよい。
【0063】
上記正極活物質としては、LiMnO、LixMn(0<x<2)、LiMnO、LixMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、LiCoO、LiNiOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたLiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物、これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPOなどのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。また、これらの金属酸化物に、Al、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
正極層中の正極活物質の含有量は、特に限定されないが、50質量%以上であることが好ましい。
【0065】
(電解質層)
電解質層は、固体電解質を含む粒子に起因する粒状部位と空隙部位を有する孔質構造を形成しており、上記固体電解質を含む粒子は、必要に応じて、バインダ材料を含有する合材粒子であってもよい。
【0066】
固体電解質材料としては、例えば、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質を挙げることができる。
【0067】
硫化物系固体電解質材料としては、例えば、アモルファス材料では、LiS-SiS、LiS-SiS-LiX(X=I,Br)、LiS-P-LiX(X=Br,I)、LiS-P-GeS,LiS-P等があげられる。
また、結晶系材料では、Li10GeP12、Li11、LiPS等があげられる。これらは、いくつかの硫化物固体電解質材料を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
酸化物固体電解質材料としては、例えば、アモルファス構造を持つLiBO-LiSO,LiO-SiO,LiO-B-P、NASICON型構造をもつLi+xAlxM-x(PO(M=Ge,Ti;0≦x≦2)、Garnet型構造を持つLiLaZr12、ペロブスカイト型構造を持つLi0.3La0.5TiO等があげられる。いくつかの酸化物固体電解質材料を組み合わせて使用することもできる。
【0069】
上記負極層、正極層、及び電解質層は、少なくとも1つが、上記孔質構造の空隙部位に上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を含むことが好ましい。全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を含有することで、界面抵抗が低減する。
【0070】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池においては、電池中の孔質構造部分の質量に対し、全固体電池用添加剤が1質量%以上30質量%以下含有されていることが好ましい。
【0071】
上記全固体リチウムイオン二次電池用添加剤は、その濃度が上記各層の厚さ方向で傾斜していることが好ましい。特に、正極層と電解質層との界面近傍や、電解質層と負極層との界面近傍で全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が高いことで、各層間の接点が増加し、界面抵抗が低減する。
【0072】
全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の濃度が傾斜した層は、負極層、電解質層、正極層を積層する際、層間に全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を付与することで形成できる。
<全固体リチウムイオン二次電池の製造方法>
本実施形態に関わる全固体リチウムイオン二次電の製造方法は、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも1つに本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加する処理を含む電池の組み立て工程を含む。
電池の組み立て工程の態様は特に限定されないが、セラミックス治具を用いて組み立てを行うことが挙げられる。例えば、正極、電解質、負極から成る群から選ばれた少なくとも一つの構成成分に本発明の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加し、電解質の構成成分をセラミック治具に投入して加圧成形してセラミックス治具内に電解質層を形成する。その後、正極の構成成分を電解質層の片側に投入し、電解質層ごと加圧成形して正極層を形成し、負極の構成成分を、正極層を形成した側とは反対側の電解質層に投入し、正極層および電解質層ごと加圧して負極層を形成する工程などが挙げられる。
本実施形態に関わる全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、電解質を正極と負極で挟持した積層体を加温する処理を含んでいても良い。加温することで機能性液晶分子が液晶相や等方性液体に相転移して流動性が向上したり、同じ液晶相状態でも加温によって流動性が向上したりし、機能性液晶分子が電池構成材内の粒子間に浸透しやすくなる場合がある。機能性液晶分子を等方性液体に相転移させるために、上記加温工程では機能性液晶分子の透明点以上に加温しても良い。
上記加温工程は、上記積層体を圧縮した状態で行うことが、添加剤による界面接合の改善の観点から好ましい。圧縮した状態では固体粒子間の空隙が比較的少ない状態にあるので、添加剤が空隙を埋めやすく、界面接合がより改善しやすくなる。
加温工程の態様は特に限定されないが、ホットプレートによる加温などが挙げられる。
本発明の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によって、機能性液晶分子を用いることにより電池構成材内の粒子間の接触部の接触面積が増加した、イオン伝導性を向上できる全固体リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【実施例0073】
[実施例1]
<全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の作製>
窒素雰囲気下、4-(4-ヒドロキシブチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン6.0g、炭酸カリウム2.1g、ヨウ化カリウム2.0g、4-(trans-4-アミルシクロヘキシル)フェノール(東京化成工業社、銘柄:A1827)2.5g、及び、シクロペンチルメチルエーテル25mLを混合し、73時間加熱還流した。反応液を室温まで放冷した後、セライトろ過し、ろ液を純水で2回洗浄した。油相をロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。濃縮液をシリカカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)にて精製した。得られた粗体をヘキサンにて再結晶し、下記構造の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を得た。
この全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の透明点は96℃であり、常温では固体状であった。
【0074】
【化9】
[実施例2]
<全固体リチウムイオン二次電池用添加剤の作製>
下記構造の化合物を全固体リチウムイオン二次電池用添加剤とした。
【化10】
【0075】
[実施例3]
<電池組み立て工程>
(電解質層の形成)
アモルファス型の0.75LiS-0.25P粉末77mgを、直径14mmの円筒状のセラミックス治具内に投入し、加圧成型してセラミックス治具内に電解質層を形成した。
【0076】
(正極層の形成)
LiCoO粒子の表面にLiNbOをコートした粉末を正極活物質とし、導電材炭素、固体電解質としてアモルファス型の0.75LiS-0.25P粉末を、それぞれ重量比で10:4:1の割合で混合し、正極活物質を含む正極合材粒子を作製した。
【0077】
この正極合材粒子20mgを、電解質層の片側に投入し、電解質層ごと加圧成型することで正極層を形成した。
【0078】
(負極層の形成)
黒鉛粉末を負極活物質とし、実施例1の全固体リチウムイオン二次電池用添加剤(透明点96℃)、固体電解質としてアモルファス型の0.75LiS-0.25P粉末を、それぞれ重量比で50:10:50の割合で混合し負極活物質を含む負極合材粒子を作製した。
【0079】
この負極合材粒子14mgを、正極層を形成した側とは反対側の電解質層に投入し、正極層および電解質層ごと加圧して負極層を形成し、加圧状態を維持したまま封止して、全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0080】
<加温工程>
組み立てた全固体リチウムイオン二次電池を、ホットプレートに載せ、110℃まで加熱し、15分間維持して負極層内に上記添加剤を分散させ、全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0081】
[実施例4]
実施例2のLiイオン伝導性基を有さない全固体リチウムイオン二次電池用添加剤(透明点110℃)を用いて、加温工程の温度を120℃にした他は実施例3と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
[実施例5]
加温工程の温度を80℃にした他は実施例3と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
[実施例6]
加温工程をなくした他は実施例3と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
[実施例7]
加温工程の温度を80℃にした他は実施例4と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
[実施例8]
加温工程をなくした他は実施例4と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0082】
[比較例1]
全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を添加しない他は、実施例3と同様にして全固体リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0083】
<全固体リチウムイオン二次電池の評価>
(断面観察)
実施例3の負極活物質層の断面SEM像とそのEDS元素マッピング像を図4に示す。
また、固体電解質粒子のみを用いた電解質層の断面SEM像を図5、実施例3と同様にして上記固体電解質粒子間に、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を浸透させたときの断面SEM像を図6に示す。
【0084】
図5においては、固体電解質粒子間に空隙が不均一に存在し粒子にかかる応力が不均一化している。他方、図6では、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤が固体電解質粒子間の空隙に浸透しており、粒子にかかる応力の不均一性が改善されている。
図4から、負極活物質層においても全固体リチウムイオン二次電池用添加剤が負極活物質を含む粒子間の空隙に浸透していることが確認された。
【0085】
(充放電効率の測定)
作製した評価用全固体リチウムイオン二次電池を温度25℃にて、充放電レート0.1Cにて電圧4.2Vになるまで充電し、さらにその電圧で充電電流が0.01Cになるまで定電圧充電した。その後、電圧が2.5Vになるまで0.1Cの放電電流で放電した。その際の充放電効率を表2に示す。
【0086】
【表3】
実施例3と比較例1との結果から、全固体リチウムイオン二次電池用添加剤を用いることで圧縮応力が均一化し、セル抵抗が低減し初回クーロン効率が向上することが確認された。
また、実施例3と実施例4との比較から、機能性液晶分子がLiイオン伝導性基を有すると、さらにイオン伝導性が向上することが確認された。
【0087】
以上、実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 負極層
2 電解質層
3 正極層
4 筒状セラミックス容器
5 負極金属金具
6 正極金属金具
10 活物質粒子
20 全固体リチウムイオン二次電池用添加剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6