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特開2024-50418化合物及びその製造方法と、該化合物を含有する有機半導体デバイス用インク、有機半導体デバイス及び光電変換素子
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  • 特開-化合物及びその製造方法と、該化合物を含有する有機半導体デバイス用インク、有機半導体デバイス及び光電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050418
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】化合物及びその製造方法と、該化合物を含有する有機半導体デバイス用インク、有機半導体デバイス及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20240403BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20240403BHJP
   C07D 409/06 20060101ALI20240403BHJP
   C07D 409/14 20060101ALI20240403BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20240403BHJP
   C07D 333/20 20060101ALI20240403BHJP
   H10K 30/50 20230101ALN20240403BHJP
【FI】
C08G61/12
C07D487/04 137
C07D409/06 CSP
C07D409/14
C07D495/04 101
C07D333/20
H10K30/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124549
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2022156618
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】道場 貴大
(72)【発明者】
【氏名】シャン ルイ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
【テーマコード(参考)】
4C050
4C063
4C071
4J032
5F251
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB04
4C050CC04
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH03
4C063AA01
4C063AA03
4C063AA05
4C063BB03
4C063CC92
4C063CC94
4C063DD06
4C063DD08
4C063EE05
4C071AA08
4C071BB01
4C071BB05
4C071CC22
4C071EE13
4C071FF23
4C071GG05
4C071HH05
4C071JJ05
4C071KK11
4C071LL03
4J032BA04
4J032BA12
4J032BB05
4J032BC03
4J032CA43
4J032CB04
4J032CB05
4J032CB12
4J032CD01
4J032CG01
5F251AA11
5F251XA33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エナミン誘導体と電子供与性のチオフェン骨格が直接結合した化合物の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。この化合物を、三価又は二価の鉄塩化合物、特定の三価のリン化合物、及び、トリアルキルアルミニウムの共存下にエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法。

(式(I)中、R、R、R、R、R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表し、RとR、RとRはそれぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成してもよい。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物。
【化1】
(式(I)中、R、R、R、R、R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表し、RとR、RとRはそれぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【化2】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【請求項3】
下記式(III)で表される化合物。
【化3】
(式(III)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基A、連結基Cは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R15とR16、R19とR20はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R12、R13は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。R17、R20は、それぞれ連結基Cと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。m,nは整数を表す。)
【請求項4】
請求項3に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【化4】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項5】
下記式(X)で表される化合物。
【化5】
(式(X)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基Aは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R25とR26、R27とR28はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R22、R23は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。mは整数を表す。)
【請求項6】
請求項5に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【化6】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【請求項7】
前記カップリング反応において、-O-を有する溶媒及び/又は-C(=O)-を有する溶媒を用いる、請求項2、4又は6に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
金属含有率が100ppm以下である請求項1、3又は5に記載の化合物。
【請求項9】
p型共役高分子である請求項3又は5に記載の化合物。
【請求項10】
請求項9に記載の化合物と、該化合物を溶解する溶剤とを含有する有機半導体デバイス用膜形成用インク。
【請求項11】
前記化合物の重量平均分子量(Mw)が、1.0×10~1.0×10であり、且つ、Mw/Mn(数平均分子量)が、3.5以下である請求項10に記載の有機半導体デバイス用膜形成用インク。
【請求項12】
請求項9に記載の化合物を含む有機半導体デバイス膜を備える有機半導体デバイス。
【請求項13】
請求項9に記載の化合物と、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属カルコゲナイド、および金属カルバイドのいずれかからなるナノ粒子の1種類以上とを含有することを特徴とする正孔輸送層インク。
【請求項14】
請求項9に記載の化合物を含む層を有する光電変換素子。
【請求項15】
請求項14に記載の光電変換素子を含むペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【請求項16】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型量子半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、請求項9に記載の化合物を含有する層とを有するペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【請求項17】
請求項9に記載の化合物を含有する層が正孔輸送層である請求項16に記載のペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナミン-チオフェン誘導体である化合物及び共役高分子化合物と、これらの化合物を、CH/CHダイレクトカップリング反応、より正確に言えばエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応、により製造する方法と、該共役高分子を含有する有機半導体デバイス用インク、有機半導体デバイス及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エナミン誘導体と電子供与性のチオフェン骨格が直接結合したユニットは、チオフェンもエナミンもともに電子供与性が高く、バンドギャップのコントロールが期待でき、有機電子材料として有用なユニットである。
しかし、エナミン-チオフェン誘導体は、電子供与性が高いが故に、その製造方法は知られていなかった。即ち、エナミン誘導体と電子供与性のチオフェン骨格が直接結合したエナミン-チオフェン誘導体の製造方法としては、エナミン誘導体の不安定性から、従来のカップリング反応では困難である。
【0003】
共役高分子の合成方法としては、パラジウム触媒を用いて複数のモノマーをクロスカップリング反応させるStilleカップリング法が広く使われている。例えば、イミドチオフェン骨格とジチエノシクロペンタジエン骨格を有するコポリマーを、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)又はテトラキス(トリオルトトリルホスフィン)パラジウム(0)触媒を用いたクロスカップリング法によって得る方法が開示されている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。また、1,4-ビス(2-チアゾリル)ベンゼン(BTB)をモノマーとし、パラジウム触媒によるCH/CHダイレクトカップリング反応により、共役高分子化を行う方法が開示されている(非特許文献4参照)。しかし、これらのパラジウム触媒は酸化還元電位が大きいことから、電子供与性の高い基質に対しては過剰反応が起こりやすい。さらに不安定なエナミン誘導体を出発原料とするエナミン-チオフェン誘導体を含有する共役高分子についても、同様の理由から、製造方法が確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/063534号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society(2011)、133(12)、4250-4253
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society(2011)、133(26)、10062-10065
【非特許文献3】Journal of Materials Chemistry(2011)、21(11)、3895-3902
【非特許文献4】ChemSusChem(2016)、9、2765-2768
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パラジウム触媒を用いたエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応では、パラジウム触媒の触媒サイクルの酸化還元電位が高いことから、エナミン誘導体と電子供与性のチオフェン骨格を直接結合した化合物やこのようなエナミン-チオフェン結合を有する共役高分子の合成は困難であった。
加えて、パラジウム触媒を用いる反応では、反応系内にパラジウムが残留し易く、得られる化合物に取り込まれ、デバイスの性能や安全性に悪影響を及ぼすという問題もあった。
【0007】
本発明の課題は、エナミン誘導体と電子供与性のチオフェン骨格が直接結合した化合物及びこのようなエナミン-チオフェン結合を有する共役高分子を、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法を提供することにある。
本発明はまた、この化合物を用いた有機半導体デバイス用インク、有機半導体デバイス及び光電変換素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、酸化還元電位の低い鉄触媒として三価又は二価の鉄塩化合物を用い、これと特定の三価のリン化合物及びトリアルキルアルミニウムの共存下に、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応を行うことで、不安定なエナミン誘導体とチオフェン骨格が直接結合した化合物及び共役高分子化合物を合成することができることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
【0009】
[1] 下記式(I)で表される化合物。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(I)中、R、R、R、R、R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表し、RとR、RとRはそれぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成してもよい。)
【0012】
[2] [1]に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【0013】
【化2】
【0014】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【0015】
[3] 下記式(III)で表される化合物。
【0016】
【化3】
【0017】
(式(III)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基A、連結基Cは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R15とR16、R19とR20はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R12、R13は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。R17、R20は、それぞれ連結基Cと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。m,nは整数を表す。)
【0018】
[4] [3]に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【0019】
【化4】
【0020】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【0021】
[5] 下記式(X)で表される化合物。
【0022】
【化5】
【0023】
(式(X)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基Aは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R25とR26、R27とR28はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R22、R23は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。mは整数を表す。)
【0024】
[6] [5]に記載の化合物をエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造する方法であって、
該カップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物、下記式(II)で表される三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの共存下に行う化合物の製造方法。
【0025】
【化6】
【0026】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【0027】
[7] 前記カップリング反応において、-O-を有する溶媒及び/又は-C(=O)-を有する溶媒を用いる、[2]、[4]又は[6]に記載の化合物の製造方法。
【0028】
[8] 金属含有率が100ppm以下である[1]、[3]又は[5]に記載の化合物。
【0029】
[9] p型共役高分子である[3]、[5]又は[8]に記載の化合物。
【0030】
[10] [8]又は[9]に記載の化合物と、該化合物を溶解する溶剤とを含有する有機半導体デバイス用膜形成用インク。
【0031】
[11] 前記化合物の重量平均分子量(Mw)が、1.0×10~1.0×10であり、且つ、Mw/Mn(数平均分子量)が、3.5以下である[10]に記載の有機半導体デバイス用膜形成用インク。
【0032】
[12] [9]に記載の化合物を含む有機半導体デバイス膜を備える有機半導体デバイス。
【0033】
[13] [9]に記載の化合物と、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属カルコゲナイド、および金属カルバイドのいずれかからなるナノ粒子の1種類以上とを含有することを特徴とする正孔輸送層インク。
【0034】
[14] [9]に記載の化合物を含む層を有する光電変換素子。
【0035】
[15] [14]に記載の光電変換素子を含むペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【0036】
[16] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型量子半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、[9]に記載の化合物を含有する層とを有するペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【0037】
[17] [9]に記載の化合物を含有する層が正孔輸送層である[16]に記載のペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、従来法では合成が困難であった不安定なエナミン誘導体とチオフェン骨格とが結合したエナミン-チオフェン誘導体及びこのエナミン-チオフェン結合を有する共役高分子化合物を、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により効率的に製造することができる。
本発明に係るエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応では、鉄触媒を用いることから、デバイスの性能及び安全性に悪影響を及ぼし得る金属成分の除去が容易であり、金属含有量の少ない共役高分子を得ることができ、この共役高分子を用いて高性能かつ高安全性の有機半導体デバイス及び光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施例で製造した化合物(30)の膜スペクトルを示すチャートである。
図2】本発明の光電変換素子の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0041】
[式(I)で表される化合物とその製造方法]
本発明の一実施形態に係る化合物は、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」と称す場合がある。)である。
この化合物(I)は、三価又は二価の鉄塩化合物と後述の特定の三価のリン化合物とトリアルキルアルミニウムの共存下に、下記式(IV)で表されるチオフェン誘導体(以下、「チオフェン誘導体(IV)と称す場合がある。)と下記式(V)で表されるエナミン誘導体(以下、「エナミン誘導体(V)」と称す場合がある。)とのエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応により製造することができる。
なお、本発明における「エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応」は「CH/CHダイレクトカップリング反応」と称される場合もあり、「エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応」と「CH/CHダイレクトカップリング反応」は同義である。以下において、「エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応」を単に「カップリング反応」と称す場合がある。
【0042】
【化7】
【0043】
(式(I)、(IV)、(V)中、R、R、R、R、R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表し、RとR、RとRはそれぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成してもよい。)
なお、本明細書において、「芳香族基」とは、「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」とを包含する文言として使用する。「芳香族環」についても同様に、「芳香族炭化水素環」と「芳香族複素環」を包含する。
【0044】
<メカニズム>
本発明に従って、三価又は二価の鉄塩化合物と、特定の三価のリン化合物とからなる鉄錯体触媒を用いると共に、求核性の弱いアルキルアルミニウムを添加剤として用いることで、チオフェン誘導体(IV)とエナミン誘導体(V)とのカップリング反応を円滑に進行させることができる。
チオフェン誘導体(IV)とエナミン誘導体(V)とのカップリング反応を、三価又は二価の鉄塩化合物と、特定の三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの存在下で行う本発明の化合物の製造方法によれば、従来法では合成が困難であった化合物(I)を効率的に製造することができる。
なお、チオフェン誘導体(IV)とエナミン誘導体(V)のカップリング反応において、チオフェン誘導体(IV)とエナミン誘導体(V)は反応当量で用いればよいが、通常チオフェン誘導体(IV)の反応点に対して、エナミン誘導体(V)を1.05~1.20当量用いることが好ましい。
【0045】
<R、R、R、R、R
、R、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい芳香族基を表し、RとR、RとRはそれぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。
【0046】
(脂肪族基及び芳香族基)
、R、R、R、Rの脂肪族基としては、飽和脂肪族基であっても不飽和脂肪族基であってもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられるが、導入のしやすさから飽和脂肪族基であるアルキル基であることが好ましい。
該脂肪族基は、溶解性の観点から直鎖又は一級分岐鎖で、その炭素数は4以上であることが好ましく、熱分解温度を下げすぎない観点から12以下であることが好ましい。該脂肪族基の炭素数は、正孔輸送のしやすさ/正孔の取り出しのし易さの面から、特に6~10であることが好ましい。
【0047】
、R、R、R、Rの芳香族基としては、電子供与性基又は電子吸引性基を置換基に有する芳香族基であってもよい。具体的な芳香族基としては、特にフェニル基、ナフチル基、又は下記で述べる以下に示したような芳香族縮合環基などが好ましい。また、溶解性の観点から、該芳香族基の置換基を含む炭素数として50以下が好ましく、より好ましくは30以下である。
【0048】
(R及びR、R及びRが置換基を介して結合して環を形成している場合)
及びR、R及びRは、それぞれ任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよく、この場合において、R及びR、R及びRが結合して形成される環は置換基を有していてもよい。
【0049】
とRが置換基を介して結合して環を形成している場合の具体的構造としては、ベンゾチオフェン、ベンゾ[C]チオフェン、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン、チエノ[3,2-b]チオフェン、チエノ[3,4-b]チオフェン、チエノ[2,3-b]チオフェンなどの他、例えば以下のものが挙げられる。以下において、各化学構造式における最も右側の端のチオフェン環は上記式(I)におけるチオフェン環を示す。中でも、縮合環の環数は、2から12が好ましく、より好ましくは3から10が溶解性の観点から好ましい。
【0050】
【化8】
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
【0053】
また、RとRが置換基を介して結合して芳香族環を形成している場合、NRの具体的構造としては、ピロール環、インドール環、カルバゾール環が挙げられ、中でも導電性の高い、カルバゾール環が好ましい。
【0054】
(好ましいR、R、R、R、R
及びRとしては、上記例示物の中でも、芳香族環は、単環より縮合環を形成しているものが移動度の観点から好ましい。
、Rとしては、上記例示物の中でも、芳香族環は、単環より縮合環を形成しているものが移動度の観点から好ましい。
は、ダイレクトカップリングをスムーズに進ませる観点から、水素原子が好ましい。
【0055】
(置換基)
、R、R、R、Rが有していてもよい置換基としては、以下に挙げたもの或いはそれらの組み合わせが挙げられる。
ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基、シリル基。
【0056】
より具体的な置換基例は以下のとおりである。
メチル基、エチル基などの炭素数1~15程度のアルキル基;
エチニル基、プロピレニル基などの炭素数2~10程度のアルケニル基;
アセチレニル基など炭素数2~10程度のアルキニル基;
フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度のアリール基;
チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20程度のヘテロアリール基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1~10程度のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数6~10程度のアリールオキシ基;
ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などのなどの炭素数3~10程度のヘテロアリールオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1~10程度のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基などの炭素数6~10程度のアリールチオ基;
ピリジルチオ基、チエニルチオ基などのなどの炭素数3~10程度のヘテロアリールチオ基;
ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数1~15程度の置換基を有していてもよいアミノ基;
アセチル基、ピバロイル基などの炭素数2~10程度のアシル基;
アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基などの炭素数2~10程度のアシルアミノ基;
3-メチルウレイド基などの炭素数2~10程度のウレイド基;
メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基などの炭素数1~10程度のスルホンアミド基;
ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基などの炭素数1~10程度のカルバモイル基;
エチルスルファモイル基などの炭素数1~10程度のスルファモイル基;
ジメチルスルファモイルアミノ基などの炭素数1~10程度のスルファモイルアミノ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素数2~10程度のアルコキシカルボニル基;
フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数7~12程度のアリールオキシカルボニル基;
ピリジルオキシカルボニル基などの炭素数6~12程度のヘテロアリールオキシカルボニル基;
メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの炭素数1~10程度のアルキルスルホニル基;
ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基などの炭素数6~12程度のアリールスルホニル基;
チエニルスルホニル基などの炭素数3~12程度のヘテロアリールスルホニル基;
フタルイミド基などの炭素数4~12程度のイミド基;又は、
アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で3置換されているシリル基:
【0057】
これらのうち、R、Rが有する置換基としては溶解性の観点からアルキル基が好ましく、移動度の観点からは、RとRが縮合環を形成している方がよい。
また、R、Rが有する置換基としては、反応性向上の面から電子供与性基が好ましく、移動度向上の観点から、RとRが5員環を形成していることが好ましい。
【0058】
(具体例)
化合物(I)としては、具体的に、後掲の実施例で合成した化合物、以下の化合物が挙げられる。以下において、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「TIPS」はトリ-iso-プロピルシリル基を、「Ph」はフェニル基をそれぞれ表す。
【0059】
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
<三価又は二価の鉄塩化合物>
三価又は二価の鉄塩化合物としては、共存させる後述の三価のリン化合物と、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応中に活性錯体を形成できるものであれば特に限定されず、好ましくは混合しただけで、後述の三価のリン化合物と活性錯体を形成できるものである。
【0063】
三価又は二価の鉄塩化合物としては、例えば、臭化鉄(III)、塩化鉄(III)、塩化鉄(III)六水和物、アセチルアセトン鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物、シュウ酸鉄(III)六水和物、過塩素酸鉄(III)水和物、リン酸鉄(III)水和物、イソプロポキシ鉄(III)、硫酸鉄(II)七水和物、シュウ酸鉄(III)水和物、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリフルオロメタンスルホン酸鉄(II)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)鉄(III)などが挙げられる。
これらのうち好ましい鉄塩化合物は、基質依存性が少ないことから、ハロゲン化鉄である。
【0064】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応における鉄塩化合物の使用量は、原料モノマーであるチオフェン誘導体(IV)1mоlに対し通常3mmоl以上であり、好ましくは5mmоl以上であり、また撹拌効率の観点から、通常15mmоl以下であり、好ましくは10mmоl以下である。
【0065】
<三価のリン化合物>
三価のリン化合物は、上記鉄塩化合物との間で活性錯体を形成できるものであり、下記式(II)で示すように、分子内に3つのリン原子を有する配位子化合物である。
【0066】
【化14】
【0067】
(式(II)中、R、Rは、それぞれ独立して、芳香族基を表し、Rは置換基を有していてもよい芳香族基、又は、アルキニル基を介してリン原子に結合する置換基を有していてもよい芳香族基を表す。)
【0068】
、R、Rの芳香族基としては、単環基であってもよく縮合環基であってもよく、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)7頁~14頁及び20頁~22頁に記載の芳香族基が挙げられ、Rの複素環基としては、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)27頁~39頁に記載の複素環基が挙げられる。橋かけ芳香族炭化水素として、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)17頁に記載のものが挙げられる。Rはエチニル基を介してリン原子と結合していてもよい。
【0069】
上記芳香族基が有してもよい置換基としては、R、R、R、R、Rが有していてもよい置換基でのべたものと同様のものが選ばれる。例えば、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基及びシリル基などが挙げられる。
【0070】
、R、Rは、具体的にはフェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度の芳香族基;Rは、チエニル基、フリル基、ピリジル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基などの炭素数3~20程度の芳香族基;が挙げられる。
【0071】
、R、Rは、これらのうち好ましくは、それぞれ独立して、単環からなる芳香族基が好ましく、具体的には、フェニル基、o-トリル基が好ましい。また、Rは、エチニレン基等のアルキニル基を介してリン原子に結合するフェニル基も好ましい。
【0072】
この三価のリン化合物の分子量は特に限定されないが、通常500以上、好ましくは600以上であり、また通常1200以下、好ましくは1100以下である。
【0073】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応における三価のリン化合物の使用量は、前記鉄塩化合物1mоlに対し通常1.2mol以上であり、好ましくは1.5mol以上である。三価のリン化合物は鉄塩化合物に対し過剰量加えてもよいが、精製の効率性、反応溶液の撹拌効率の面から、通常2.0mol以下であり、好ましくは1.7mol以下である。
【0074】
<トリアルキルアルミニウム>
トリアルキルアルミニウムとしては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどが挙げられ、特に好ましくは、反応後の精製が容易なトリメチルアルミニウムである。
【0075】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応において用いるトリアルキルアルミニウムの量は適宜設定されるが、原料モノマーであるチオフェン誘導体(IV)に対して、通常3.0当量以上であり、5.0当量以上であることが好ましく、また、後処理を簡易にするためには、通常10.0当量以下であり、7.0当量以下であることが好ましい。
【0076】
<反応溶媒>
本発明の化合物(I)の製造は、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応を促進するために、少なくとも2種類以上の混合溶媒(主溶媒と補助溶媒からなる反応溶媒)中で行うことが好ましい。
【0077】
主溶媒としては、少なくとも一種類の-O-を有する溶媒及び/又は-C(=O)-を有する溶媒から選ばれることが好ましい。これらの溶媒は、反応を促進することから好ましい。具体的にはテトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、2-メチルテトラヒドロフラン(MTHF)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、ジオキサンの群より選ばれるエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンの群より選ばれるケトン系溶媒;が挙げられる。これらのうち、特に、リン化合物との相互作用の観点からTHFが好ましく、高沸点の観点からはMTBEが好ましい。
【0078】
補助溶媒としては、具体的には、トルエン、クロロベンゼン、キシレン、ODCB(o-ジクロロベンゼン)などの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)などのアミド系溶媒などから選択できる。これらのうち、特に、溶解性の観点から、芳香族系溶媒が好ましく、トルエン、クロロベンゼンが特に好ましい。これらの溶媒は単独でも2種以上を混合してもよく、例えば、基質等の溶解度が低い溶媒を用いる場合には、ハロゲン系溶媒やアミド系溶媒を組み合わせると反応中の溶解度を向上させ、反応収率が向上する。
主溶媒と補助溶媒の使用割合は、溶解性の観点から、主溶媒と補助溶媒の容量比で主溶媒:補助溶媒=9:1から1:1の範囲であることが好ましい。
【0079】
また、反応溶媒は反応基質の1mmolに対して1~5mL、反応効率を落とさないために、特に2~3mLの割合で用いることが好ましい。
【0080】
<酸化剤>
本発明の化合物(I)を合成するためのエナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応は、炭素-水素結合活性化を経る酸化的カップリング反応であることから、反応を加速するため、酸化剤を共存させることが好ましい。
【0081】
酸化剤としては、二価の-C(=O)-C(=O)-を有するジケトン化合物が好ましく、具体的には、2,3-ブタンジオン、ピルビン酸、オキサミド、オキサミン酸、2,3-ペンタンジオン、2-オキソ酪酸、ピルビン酸メチル、1,2-シクロヘキサンジオン、3-メチル-1,2-シクロペンタンジオン、パラバン酸、3,4-ヘキサンジオン、2-オキソ酪酸メチル、ピルビン酸エチル、2-オキソ吉草酸、オキサミン酸エチル、N,N-ジメチルオキサミン酸、シュウ酸ジメチル、3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオン、2,3-ヘプタンジオン、5-メチル-2,3-ヘキサンジオン、4-メチル-2-オキソ吉草酸、3-メチル-2-オキソ吉草酸、3,3-ジメチル-2-オキソ酪酸、2-オキソ吉草酸メチル、オキサル酢酸、1-エチル-2,3-ジオキソピペラジン、オキサミン酸ブチル、2-オキソグルタル酸、シュウ酸ジエチル、1,2-インダンジオン、イサチン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、ベンゾイルギ酸、トリフルオロピルビン酸メチル、2,4-ジオキソ吉草酸エチル、1,2-ナフトキノン、1-メチルイサチン、ベンゾイルギ酸メチル、フェニルピルビン酸、2,3-ボルナンジオン、トリキノイル水和物、トリフルオロピルビン酸エチル、メソシュウ酸ジエチル、2-オキソグルタル酸ジメチル、ジメチルオキサロイルグリシン、N,N’-ジメトキシ-N,N’-ジメチルオキサミド、ベンゾイルギ酸エチル、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、オキサル酢酸ジエチル、フリル、1,1’-オキサリルジイミダゾール、メチルオキサル酢酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、9,10-フェナントレンキノン、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン、ベンジル、3,5-ジ-tert-ブチル-1,2-ベンゾキノン、クロロオキサル酢酸ジエチル、1,3-ジフェニルプロパントリオン、シュウ酸ジフェニル、o-クロラニル、1,4-ビスベンジル、シュウ酸ビス(2,4-ジニトロフェニル)、シュウ酸ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)などから選ばれる。
【0082】
これらの酸化剤のうち、適した酸化電位を有する観点からシュウ酸ジアルキルであることが特に好ましい。
【0083】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応において用いる酸化剤の量は適宜設定されるが、通常原料モノマーであるチオフェン誘導体(IV)に対して1.0当量以上であり、2.0当量以上であることが好ましく、また通常10.0当量以下であり、5.0当量以下であることが好ましい。
【0084】
<反応条件>
本発明の化合物(I)を製造する際の反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、反応温度の上限は、反応の進行速度に応じて用いる溶媒の還流温度までの範囲で任意に設定可能である。反応が遅いときは、超音波、オートクレーブ、マイクロ波を併用することも好ましい。
反応時間は、通常30分以上36時間以下であるが、用いる溶媒の種類や、その他の反応条件にも依存するので、任意に設定すればよい。
反応の進行度合いは、分析GPCやHPLCを用いて確認することができる。
【0085】
<化合物(I)の回収>
反応終了後は、公知の単離・精製方法を用いて、目的とする化合物(I)を得ることができる。反応後、鉄塩化合物を除去するために、希塩酸水溶液で抽出することが好ましい。
【0086】
[式(III)又は式(X)で表される化合物とその製造方法]
本発明の別の実施形態に係る化合物は、下記式(III)又は式(X)で表される化合物(以下、それぞれ「化合物(III)」又は「高分子(III)」、「化合物(X)」又は「高分子(X)」と称す場合がある。)である。
この化合物(III)又は化合物(X)は、三価又は二価の鉄塩化合物と後述の特定の三価のリン化合物とトリアルキルアルミニウムの共存下に、下記式(VI)又は下記式(Y)で表されるチオフェン誘導体(以下、それぞれ「チオフェン誘導体(VI)」又は「チオフェン誘導体(Y)」と称す場合がある。)と下記式(V)で表されるピロール誘導体(以下、「ピロール誘導体(VII)」と称す場合がある。)あるいは下記式(Z1)、(Z2)で表されるエナミン誘導体(以下、それぞれ「エナミン誘導体(Z1)」、「エナミン誘導体(Z2)」と称す場合がある。)とのカップリング反応により製造することができる。
【0087】
【化15】
【0088】
(式(III)、(VI)、(VII)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基A、連結基Cは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R15とR16、R19とR20はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R12、R13は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。R17、R20は、それぞれ連結基Cと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。m,nは整数を表す。)
【0089】
【化16】
【0090】
(式(X),(Y),(Z1),(Z2)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を表す。連結基Aは存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基である。R25とR26、R27とR28はそれぞれ結合して置換基を有していてもよい芳香族環を形成してもよい。R22、R23は、それぞれ連結基Aと任意の置換基を介して結合して環を形成していてもよい。mは整数を表す。)
【0091】
<メカニズム>
本発明に従って、三価又は二価の鉄塩化合物と、特定の三価のリン化合物とからなる鉄錯体触媒を用いると共に、求核性の弱いアルキルアルミニウムを添加剤として用いることで、チオフェン誘導体(VI)とピロール誘導体(VII)又はチオフェン誘導体(Y)とエナミン誘導体(Z1),(Z2)とのカップリング反応を円滑に進行させることができる。
本発明の化合物(III)又は化合物(X)の製造方法によれば、三価又は二価の鉄塩化合物と特定の三価のリン化合物、及びトリアルキルアルミニウムの存在下で、不安定なチオフェン誘導体(VI)とピロール誘導体(VII)、又はチオフェン誘導体(Y)とエナミン誘導体(Z1),(Z2)との間にカップリング反応を行うことができ、化合物(III)又は化合物(X)を効率的に製造することができる。
この反応において鉄触媒の適度な酸化還元電位により、ピロール誘導体(VII)同士又は、エナミン誘導体(Z1),(Z2)同志のホモカップリングは起こらないため、製造された化合物(III)又は化合物(X)には、移動度の高いチオフェン誘導体部位(VI)又は(Y)と電子供与性の高いピロール誘導体(VII)又はエナミン誘導体(Z1),(Z2)の両方を同時に含有する共役高分子を製造することができる。
なお、チオフェン誘導体(IV)とピロール誘導体(VII)のカップリング反応において、チオフェン誘導体(IV)とピロール誘導体(VII)は目的とする化合物(III)のmとnを満たすように用いればよい。
チオフェン誘導体(Y)とエナミン誘導体(Z1),(Z2)とのカップリング反応においても、チオフェン誘導体(Y)とエナミン誘導体(Z1),(Z2)は目的とする化合物(X)のmを満たすように用いればよい。
【0092】
<R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20は、水素原子,置換基を有していてもよい脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基であり、該脂肪族基、芳香族基、これらが有していてもよい置換基としては、R、R、R、R、Rの脂肪族基、芳香族基、これらが有していてもよい置換基として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0093】
<R21、R22、R23、R24
21、R22、R23、R24は、R11、R12、R13、R14と同様である。
【0094】
<R25、R26、R27、R28
25、R26、R27、R28は、R、Rと同様である。
【0095】
<連結基A、連結基C>
連結基A及び連結基Cは、それぞれ独立して、存在してもしなくてもよく、存在する場合は、それぞれ独立に、任意の芳香族基の2価の基であり、該芳香環は炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを含有する環を形成してもよく、また、芳香族環は、単環でも縮合環であってもよく後述の連結基を介して連結した連結環であってもよい。これらの単環、縮合環、連結環は、後述の連結基を介して式(III)又は式(X)におけるチオフェン環と結合する。
【0096】
連結基Aの芳香環としては、例えばベンゼン環、シクロヘキサジエン、1,4-ジヒドロペンタレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ペンタセン、ベンゾ[a]ピレン、アヌレン、アズレン、シクロペンタジエニルアニオン、シクロヘプタトリエチルカチオン、トロポン、メタロセン、アセプレイアジレン等の炭素数6~20の芳香族環;ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イソオキサゾール、イソティアゾール、ピラゾール、1,3,4-チアジアゾール、1,2,3-チアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-トリアゾール、イソインドール、イソベンゾフラン、イソベンゾチオフェン、シロール、ゲルモール、カルバゾール、3H-インドール、ベンゾフラン、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾチアジアゾール、1,2,3-ベンゾオキサジアゾール、などからなる5員環の芳香族環;ピリジン、ピリミジン、ピラジン、プリン、4H-キノリジン、イソキノリン、キノリン、アクリジン、フェノチアジン、フェノオキサジン、フラタジン、キナゾリン、シンノリン、1,3,5-トリアジン、1,2,4-トリアジン、フェナジン、キノキサリン、フルオレン、5H-ジベンゾシロール,5H-ジベンゾゲルモールなどの6員環の芳香族環等の炭素数2~20の芳香族環が挙げられるが、電子供与性を付与しやすい観点から芳香族環が好ましく、特にチオフェン環あるいはベンゼン環を含むことが好ましい。
【0097】
連結基Aの芳香環は、上記の芳香環の2から10、より好ましくは3~7の縮合環である。より具体的には以下のような例が挙げられる。
【0098】
【化17】
【0099】
【化18】
【0100】
【化19】
【0101】
式(III)において、R12とR13は、上記の一部となって、連結基Aと縮合環を形成してもよい。
連結基Aがない場合は、式(III)におけるチオフェン環同士が結合する。
式(X)において、R22とR23は、上記の一部となって、連結基Aと縮合環を形成してもよい。
連結基Aがない場合は、式(X)におけるチオフェン環同士が結合する。
【0102】
連結基A中の芳香環の数には特に制限はないが、溶解性向上の観点から環Aの芳香環の数は3~7であることが好ましく、連結基Aの芳香環が置換基を有する場合は、その置換基の炭素数は、3~15であることが好ましい。これは化合物(III)又は化合物(X)の平面性をより適切に制御し、移動度を向上できるためと考えられる。
【0103】
連結基Aの芳香環が有していてもよい置換基としては、R、R、Rの芳香族基が有していてもよい置換基として前述したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0104】
連結基C中の芳香環の数には特に制限はないが、連結基Aと同様のものが好ましい。
17とR20は、連結基Aで述べた場合と同様に、連結基Cと縮合環を形成してもよい。好ましくは、R17とR20は、連結基Cと5員環又は6員環を形成する場合である。
連結基Cがない場合は、式(III)におけるピロール環同士が結合する。
溶解性向上の観点から連結基Aの芳香環の数は3~7であることが好ましく、連結基Aの芳香環が置換基を有する場合は、その置換基の炭素数は、3~15であることが好ましい。連結基Cの芳香環の数は3~5であることが好ましく、連結基Cの芳香環が置換基を有する場合は、その置換基の炭素数は、3~12であることが好ましい。これは化合物(III)の平面性をより適切に制御し、移動度の向上できるためと考えられる。
エナミン誘導体(Z1)とエナミン誘導体(Z2)は、それぞれ独立に異なっていてもよいが、合成の簡便さの観点から、同じであることが好ましい。
【0105】
(m、n)
式(III)又は式(X)中のm、式(III)のnは整数であり、後述の重量平均分子量(Mw)を満たす数であればよいが、通常、mは1~20程度、nは1~20程度である。
【0106】
(分子量)
本発明の高分子(III)又は高分子(X)の重量平均分子量(Mw)は、通常1.0×10(10,000)以上であり、好ましくは1.5×10以上、より好ましくは2.0×10以上、さらに好ましくは2.5×10以上である。一方、通常1.0×10(150,000)以下であり、好ましくは5.0×10以下、より好ましくは4.5×10以下、さらに好ましくは3.5×10以下である。
高分子(III)のMwは有機溶媒への溶解性及び塗布性の観点から、有機半導体デバイスの成膜材料に用いた際に安定した均一膜を形成する点で上記範囲であることが好ましい。
【0107】
本発明の高分子(III)又は高分子(X)の分子量分布(PDI=(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)))は、通常2.0以上、好ましくは2.3以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.7以上である。一方、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.3以下、さらに好ましくは3.2以下であり、特に好ましくは3.0以下である。
この範囲にあることで、高分子(III)の分子長が適度に揃っていて、かつ、適した溶解性を得ることができるという観点から、分子量分布がこの範囲にあることが好ましい。
【0108】
本発明において、高分子(III)又は高分子(X)の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により求めるポリスチレン換算のものとする。具体的には、カラムとして、Shim-pac GPC-803、GPC-804(島津製作所製、内径8.0mm、長さ30cm)をそれぞれ1本ずつ直列に繋げて用い、ポンプとしてLC-10AT、オーブンとしてCTO-10A、検出器として示差屈折率検出器(島津製作所製:RID-10A)、及びUV-vis検出器(島津製作所製:SPD-10A)を用いることにより測定できる。測定対象の高分子(III)はクロロホルムに溶解させ、得られた溶液5μLをカラムに注入する。移動相としてクロロホルムを用い、1.0mL/minの流速で測定を行なう。解析にはLC-Solution(島津製作所)を用いる。
【0109】
(金属含有率)
化合物(I)中に含有される金属含有率は、100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは80ppm以下、更に好ましくは50ppm以下である。また、高分子(III)又は高分子(X)中に含有される金属含有率も、化合物(I)と同様である。金属を低含有率に抑えることで高性能かつ高安全性の有機半導体デバイスを製造することができる。
なお、化合物(I)、高分子(III)又は高分子(X)中の金属含有率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定することができる。
【0110】
(溶解度)
本発明の高分子(III)又は高分子(X)の溶解度は、特に限定は無いが、好ましくは25℃におけるクロロベンゼンに対する溶解度が通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、一方、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。溶解性が高いことは、均一な膜を成膜することができるため好ましい。
【0111】
(具体例)
化合物(III)及び高分子(X)としては、具体的に、後掲の実施例で合成した化合物、以下の化合物が挙げられる。
【0112】
【化20】
【0113】
【化21】
【0114】
【化22】
【0115】
【化23】
【0116】
<三価又は二価の鉄塩化合物>
三価又は二価の鉄塩化合物としては、化合物(I)の製造に用いる三価又は二価の鉄塩化合物として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0117】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応における鉄塩化合物の使用量は、原料モノマーであるチオフェン誘導体(VI)1mоlに対し通常3mmоl以上であり、好ましくは5mmоl以上であり、また撹拌効率の観点から、通常15mmоl以下であり、好ましくは10mmоl以下である。
【0118】
<三価のリン化合物>
三価のリン化合物としては、化合物(I)の製造に用いる三価のリン化合物として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0119】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応における三価のリン化合物の使用量は、前記鉄塩化合物1mоlに対し通常1.2mol以上であり、好ましくは1.5mol以上である。三価のリン化合物は鉄塩化合物に対し過剰量加えてもよいが、精製の効率性、反応溶液の撹拌効率の面から、通常2.0mol以下であり、好ましくは1.7mol以下である。
【0120】
<トリアルキルアルミニウム>
トリアルキルアルミニウムとしては、化合物(I)の製造に用いるトリアルキルアルミニウムとして例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0121】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応において用いるトリアルキルアルミニウムの量は適宜設定されるが、原料モノマーであるチオフェン誘導体(VI)に対して、通常3.0当量以上であり、5.0当量以上であることが好ましく、また、後処理を簡易にするためには、通常10.0当量以下であり、7.0当量以下であることが好ましい。
【0122】
<反応溶媒>
本発明の高分子(III)又は高分子(X)の製造は、エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応における高分子量化を促進するために、化合物(I)における該カップリング反応の場合と同様に少なくとも2種類以上の混合溶媒(主溶媒と補助溶媒からなる反応溶媒)中で行うことが好ましい。
【0123】
主溶媒及び補助溶媒としては、化合物(I)の製造に用いる主溶媒、補助溶媒として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
また、化合物(I)の製造におけると同様に、主溶媒と補助溶媒の使用割合は、溶解性の観点から、主溶媒と補助溶媒の容量比で主溶媒:補助溶媒=9:1から1:1の範囲であることが好ましく、反応溶媒は反応基質の1m molに対して1~5mL、反応効率を落とさないために、特に2~3mLの割合で用いることが好ましい。
【0124】
<酸化剤>
本発明の高分子(III)又は高分子(X)を合成するための該カップリング反応は、炭素-水素結合活性化を経る酸化的カップリング反応であることから、反応を加速するため、化合物(I)の製造におけると同様に酸化剤を共存させることが好ましい。
【0125】
酸化剤としては、化合物(I)の製造に用いる酸化剤として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0126】
エナミンとチオフェン環の水素原子とのカップリング反応において用いる酸化剤の量は適宜設定されるが、通常原料モノマーであるチオフェン誘導体(VI)又はエナミン誘導体(Y)に対して1.0当量以上であり、2.0当量以上であることが好ましく、また通常10.0当量以下であり、5.0当量以下であることが好ましい。
【0127】
<反応条件>
本発明の高分子(III)又は高分子(X)を製造する際の反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上、特に好ましくは70℃以上であり、反応温度の上限は、反応の進行速度に応じて用いる溶媒の還流温度までの範囲で任意に設定可能である。反応が遅いときは、超音波、オートクレーブ、マイクロ波を併用することも好ましい。
反応時間は、通常30分以上36時間以下であるが、用いる溶媒の種類や、その他の反応条件にも依存するので、任意に設定すればよい。
反応の進行度合いは、分析GPCやHPLCを用いて確認することができる。
【0128】
<高分子(III)又は高分子(X)の回収>
反応終了後は、公知の単離・精製方法を用いて、目的とする高分子(III)又は高分子(X)を得ることができる。反応後、鉄塩化合物を除去するために、希塩酸水溶液で抽出することが好ましい。
【0129】
<p型共役高分子>
本発明の高分子(III)又は高分子(X)は、チオフェン環とビニル基が主たる骨格であることによりp型共役高分子として機能する。
例えば、高分子(III)又は高分子(X)は、以下に説明する光電変換素子の正孔輸送層に好ましく用いることができる。
【0130】
[光電変換素子]
本発明の高分子(III)又は高分子(X)(以下、「本発明の高分子化合物」と称す場合がある。)を用いた本発明の光電変換素子は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型量子ドット半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、本発明の高分子化合物を含有する層とを有する。
ここで、本発明の高分子化合物を含有する層は、下部電極と活性層との間に位置してもよく、上部電極と活性層との間に位置してもよい。本発明の高分子化合物を含有する層は、正孔輸送層として機能する層であることが好ましい。
【0131】
図1は、このような本発明の光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される光電変換素子は、一般的なペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールに用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が図1に示されるものに限られるわけではない。
【0132】
図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極107がこの順に配置され、活性層103は、有機無機ペロブスカイト型量子ドット半導体材料を含有する。また、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間にはバッファ層102を、上部電極107と活性層103との間にバッファ層105を、それぞれ有し、本実施形態においては、バッファ層102またはバッファ層105として本発明の高分子化合物を用いた正孔輸送層が設けられている。また、図1に示すように、光電変換素子100が、基材108、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
【0133】
<活性層>
ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合、光電変換素子100に電圧を印加すると、電子と正孔が活性層103で再結合し、発光する。
【0134】
本実施形態において、活性層103はペロブスカイト型量子ドット半導体材料を含有する層であり、そのペロブスカイト型量子ドット半導体材料としては、ACS Nano 2021,15,10775-10981に記載の具体例が挙げられる。特にオレイルアミンとオレイン酸を用い、ホットインジェクション法、あるいは、配位子支援再沈殿法を用いて、該当するペロブスカイト量子ドット半導体材料を合成することが好ましい。
また、ペロブスカイト型量子ドット半導体材料は、デバイス作成直前に、粉末を室温下、溶媒でナノ分散溶液にして用いることが安定性の面から好ましい。
【0135】
この場合、ペロブスカイト型量子半導体材料の2mg~8mgを1mLの溶媒に分散させることが好ましい。この量が2mg以上であればペロブスカイト型量子ドット半導体材料の分散液中での劣化を抑えるために好ましく、8mg以下であればペロブスカイト型量子ドット半導体材料が分散液中に均一に分散できる上限であることから好ましい。
【0136】
ペロブスカイト型量子ドット半導体材料の分散液に用いる溶媒(分散媒)は、ペロブスカイト型量子ドット半導体材料の安定性を保つ観点から、ハロゲンを含まないトルエン、ベンゼンなどの、沸点が80℃~130℃程度の芳香族炭化水素溶媒、または、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの、沸点が65℃~130℃程度の脂肪族炭化水素溶媒が好ましい。このような溶媒(分散媒)を用いて、前述の濃度のペロブスカイト型量子ドット半導体材料の分散液を用いて活性層103を作製することができる。
【0137】
即ち、ペロブスカイト型量子ドット半導体材料分散液を塗布して成膜し、好ましくは60℃~100℃、より好ましくは60℃~80℃でアニールし、さらに同様の塗布とアニールを繰り返し行うことで、活性層103の膜厚を所望の膜厚まで厚くすることができ、輝度(cd/m)を上げることができる。
この塗布回数は2~10回であることが好ましい。
【0138】
ペロブスカイト型量子ドット半導体材料分散液の塗布方法としては任意の方法を用いることができる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0139】
このようにして形成される活性層103の厚さに特段の制限はないが、好ましくは活性層103の厚さは10~100nmである。厚さが10nm以上であれば、ダークスポットを少なくする観点から好ましく、100nm以下であれば活性層103における電子と正孔の再結合の効率を阻害しない上限の観点から好ましい。
【0140】
なお、活性層103には、ペロブスカイト型量子ドット半導体材料に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。ただし、これらの添加剤を含まないことが、活性層103の薄膜の表面を均一にできることから好ましい。
【0141】
<電極>
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本発明の一実施形態に係る光電変換素子100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換素子100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極、基材からより遠い電極を上部電極とそれぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極とそれぞれ呼ぶこともできる。図1に示す光電変換素子100は、下部電極101及び上部電極107を有している。
【0142】
ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合、一対の電極としては、正孔の導入に適した陽極と、電子の導入に適した陰極とを用いることができる。この場合、光電変換素子100は、下部電極101が陽極であり、上部電極107が陰極である構成を有していてもよいし、逆に、下部電極101が陰極であり、上部電極107が陽極である構成を有していてもよい。
【0143】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。ここで、透光性があるとは、光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光線透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0144】
下部電極101及び上部電極107、即ち、ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合の陽極及び陰極の構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0145】
<バッファ層>
バッファ層、即ち、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等は、活性層103と一対の電極101,107の少なくとも一方との間に位置する層である。
【0146】
ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合、バッファ層102,105は、例えば、下部電極101又は上部電極107から活性層103へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。正孔注入層は、陽極の仕事関数と、活性層の最高被占軌道(HOMO)との間のエネルギー差を減少させるように機能し、それによって、活性層に導入される正孔の数を増加させる。動作中は正孔が陽極を経て注入され、正孔注入層および正孔輸送層を介して活性層に注入され、一方、陰極側からは電子が活性層に注入される。電子および正孔の両方のキャリアが存在する活性層では、キャリアの再結合が起こり、そのうちの発光再結合により光が放出される。正孔注入層および電子注入層は、デバイス内にキャリア(電子・正孔)を閉じ込めるという点で同じ役割を有する。
【0147】
光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間にバッファ層102及び正孔注入層(図示しない)を有することもでき、又は、上部電極107と活性層103との間に前述の正孔注入層(図示しない)及びバッファ層105を有することができる。また、光電変換素子100は、バッファ層102及び前述の正孔注入層、正孔注入層及びバッファ層105と両側にこの層を有することもできる。ここで、下部電極101と活性層103との間に設けられるバッファ層102と、上部電極107と活性層103との間に設けられるバッファ層105とは、通常異なる材料で構成されている。すなわち、一方のバッファ層が本発明の高分子化合物を含有する正孔輸送層であり、他方のバッファ層は本発明の高分子化合物以外の化合物で構成される電子輸送層である。
【0148】
本発明の高分子化合物を含有する層を塗布法により成膜する際には、塗布溶媒が活性層103を浸漬して、活性層103に影響を及ぼす可能性があるため、本発明の高分子化合物を含有する層は、図1のバッファ層102部分に位置し、本発明の高分子化合物を有する層を形成した後、この上に活性層を形成するようにすることが好ましい。
【0149】
ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合、陽極と活性層との間に設けられたバッファ層は正孔注入層、正孔輸送層と呼ばれることがあり、陰極と活性層との間に設けられたバッファ層は電子注入層、電子輸送層と呼ばれることがある。一実施形態において、正孔輸送層は本発明の高分子化合物を含有する層である。
【0150】
本発明の高分子化合物以外の化合物で構成されるバッファ層に関しては、その構成材料に特に限定はない。
例えば、ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールの場合、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層および電子輸送層の構成材料には、公知の材料が制限なく用いられる。具体的には、正孔注入層には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)など、正孔輸送層には、N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン(poly-TPD)など、電子注入層には、8-ヒドロキシキノリナートリチウム(Liq)など、電子輸送層には、2,2’,2”-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンゾイミダゾール)(TPBi)などが用いられる。より具体的には、Lumtec社カタログ記載の化合物群、あるいは、Ossila社カタログ記載の化合物群が代表的で好ましい。
【0151】
バッファ層の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上である。一方、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、特に好ましくは100nm以下である。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、キャリアの移動効率が向上しやすくなり、かつ活性層の膜厚とのバランスが取れるため、光電変換効率が向上しうる。
【0152】
バッファ層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、材料と溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。この場合、溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、フルオロベンゼンなどの芳香族系溶媒、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロピランなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。溶媒の沸点は60℃~150℃程度が好ましい。溶媒の沸点が60℃以上であれば、塗布の際、許容範囲の溶媒の蒸発下に抑えられることから好ましく、150℃以下であれば、活性層を劣化させないために好ましい。
また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0153】
バッファ層として本発明の高分子化合物を含む正孔輸送層を形成する場合も、上記バッファ層の形成方法と同様にして形成することができるが、本発明の高分子化合物を用いる場合、本発明の高分子化合物を上記バッファ層用塗布液に用いられる溶媒に、4~12mg/mL程度の濃度で溶解させることが好ましい。この溶解時には、必要に応じて60~100℃程度に5~30分程度加熱してもよい。
【0154】
また、本発明の高分子化合物を含む正孔輸送層用塗布液には、必要に応じて金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属カルコゲナイド、および金属カルバイドのいずれかからなるナノ粒子等の1種又は2種以上を添加剤として加えてもよい。このような添加剤としては、具体的には、酸化鉄のナノ粒子、酸化亜鉛のナノ粒子、酸化チタンのナノ粒子、酸化ニッケルのナノ粒子、酸化銀のナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子;硫化鉄のナノ粒子、硫化亜鉛のナノ粒子、硫化銅のナノ粒子等の金属硫化物のナノ粒子;窒化ガリウムのナノ粒子、窒化アルミニウムのナノ粒子等の金属窒化物のナノ粒子;金属カルコゲナイド、即ち、酸素、硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲン元素と金属元素との結合から成る化合物であり、銅インジウム硫黄や鉛硫黄などのナノ粒子;金属カルバイド、即ち、炭素と金属元素との結合から成る化合物、具体的にはケイ化タングステンなどのナノ粒子;が挙げられる。
好ましくは、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化銀、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化銅、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、銅インジウム硫黄、鉛硫黄、ケイ化タングステンのナノ粒子である。
このような添加剤の1種類以上が正孔輸送層中に本発明の高分子化合物と共に含まれることで、本発明の高分子化合物のオレフィン部位をこれらの添加剤が活性化させて、正孔輸送能を向上させることで、光電変換素子の輝度を高めることができる。
【0155】
これらのナノ粒子の添加剤は、本発明の高分子化合物の溶液1mLに対して5mg/mL程度のナノ分散溶液として5μL~10μL程度添加することが、正孔輸送能向上効果と薄膜の平坦性を確保する観点から好ましい。
【0156】
<基材>
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材108を有する。ただし、光電変換素子100は基材108を有さなくてもよい。基材108の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0157】
<電極>
陽極や陰極を形成する材料は、効率良く発光させるために十分な電子や正孔を注入できるものでなければならない。そのため、キャリアを受ける有機分子や高分子などの他の材料の最高被占軌道(HOMO)および最高空軌道(LUMO)との障壁ができるだけ小さくなるように、電子注入側の陰極には仕事関数の小さいもの、正孔注入側の陽極には仕事関数の大きいものを使用する。また、活性層の光を取り出すため、少なくとも一方の電極は透明である必要がある。
通常、陽極の材料には、酸化インジウムスズ(ITO)が用いられる。
一方、陰極の材料には、アルミニウム、金や銀、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの仕事関数の小さな金属、例えば、マグネシウム-銀(Mg-Ag)、マグネシウム-インジウム(Mg-In)、リチウム-アルミニウム(Li-Al)などの合金が用いられる。
【0158】
電極の膜厚は、特に限定されず、透明性が必要の場合には通常10nm~20nmであり、一方、透明性が不要の場合は、耐久性の向上の観点から、70nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。
【0159】
<その他の層>
光電変換素子100は、上記以外のその他の層を有していてもよいし、さらに異なる正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を有していても良い。
例えば、光電変換素子100は、電極の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層や更なるバッファ層を、下部電極101とバッファ層102との間、バッファ層102と活性層103との間、活性層103とバッファ層105との間、又は上部電極107とバッファ層105との間に有していてもよい。また、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間、又は上部電極107と活性層103との間に、水や溶媒が活性層103に到達することを抑制する目的から厚さが1nm~5nm程度の絶縁体層を有していてもよい。例えば、一般には絶縁体として用いられるCYTOP(旭硝子社製)を厚さ1~5nm程度塗布することで、下部層と上部層の間を連続的に塗布することも可能となる。
【0160】
<光電変換素子の作製方法>
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することもできる。
【0161】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0162】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上、さらに好ましくは30cm以上である。
ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは5cm以上、特に好ましくは10cm以上、とりわけ好ましくは20cm以上である。
これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、上記下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。
ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、より好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは2m以下である。幅が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、上記下限以上であることは光電変換素子100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0163】
上部電極107を積層した後は、光電変換素子100を好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上、一方、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは150℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、光電変換素子100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子100の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0164】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、一方、好ましくは180分以下、より好ましくは60分以下である。
また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上で、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱方法としては特に制限はなく、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。
また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0165】
[ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール・有機薄膜太陽電池モジュール]
本発明の光電変換素子を用いてペロブスカイト型量子ドットLEDモジュール及び有機薄膜太陽電池モジュールを構成することができる。
ペロブスカイト型量子ドットLEDモジュールについては、J.Mater.Chem.C,2021,9,3795に記載されているものなど、OLEDで一般的に知られている方法が使用できる。
有機薄膜太陽電池モジュールについては、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0166】
[有機半導体デバイス用膜形成用インク]
本発明の有機半導体デバイス用膜形成用インクは、前記式(III)又は式(X)で表されるp型共役高分子である化合物(III)又は化合物(X)と、該p型共役高分子を溶解又は分散する溶剤とを含有するものであり、ここで用いられるp型共役高分子として用いられる共役高分子は、好ましくは本発明の化合物(III)又は化合物(X)の製造方法により製造された前述の高分子(III)又は高分子(X)であり、その好適な金属含有率、重量平均分子量、分子量分布等については本発明の化合物(III)又は化合物(X)について前述した通りである。
【0167】
[正孔輸送層インク]
本発明の正孔輸送層インクは、前記式(III)又は式(X)で表されるp型共役高分子である化合物(III)又は化合物(X)と、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属カルコゲナイド、および金属カルバイドのいずれかからなるナノ粒子の1種又は2種以上とを含むものであり、具体的には、添加剤としてこれらのナノ粒子を含有する前述の本発明の高分子化合物を含む正孔輸送層用塗布液が挙げられる。
【0168】
[有機半導体デバイス]
本発明の有機半導体デバイス用膜形成用インクを用いて、高分子(III)又は高分子(X)を含む有機半導体デバイス膜を形成することにより、高性能かつ高安全性の有機半導体デバイスを提供することができる。
【実施例0169】
以下に、実施例により本発明の実施態様をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0170】
〔化合物の製造と評価〕
以下の実施例30~35で製造された化合物の物性は以下の方法によって測定した。
【0171】
[重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(PDI)の測定]
ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(PDI)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により求めた。具体的には、カラムとして、Shim-pac GPC-803、GPC-804(島津製作所製,内径8.0mm,長さ30cm)をそれぞれ1本ずつ直列に繋げて用い、ポンプとしてLC-10AT、オーブンとしてCTO-10A、検出器として示差屈折率検出器(島津製作所製:RID-10A)、及びUV-vis検出器(島津製作所製:SPD-10A)を用いた。測定のために、測定対象の共役高分子をクロロホルムに溶解させ、得られた溶液5μLをカラムに注入した。移動相としてはクロロホルムを用い、1.0mL/minの流速で測定を行った。解析にはLC-Solution(島津製作所)を用いた。
【0172】
[金属含有率の測定]
ICP質量分析法は、公知文献(「プラズマイオン源質量分析」(学会出版センター))に記載されている方法により実施した。具体的には、パラジウム、ニッケル、銅、鉄などについては、試料を湿式分解後、分解液中のPd等をICP質量分析装置(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて検量線法により定量した。
【0173】
[膜スペクトルの測定]
高分子化合物1mgをクロロホルム200μLを用いて溶解させ、スピンコーター(500rpm/3秒、1500rpm/20秒、3000rpm/20秒)により成膜し、分光器「JASCO V-770」により膜スペクトル(拡散反射スペクトル)を測定した。この拡散反射スペクトルを、クベルカ-ムンク変換し、Taucプロット(吸収係数(a)と光子エネルギー(E)の積の平方根(aE)0.5を光子エネルギーに対してプロット)する常法により、直線部分のx切片としてバンドギャップを求めることができる。
より詳しくは、例えば日本分光VWBG-773型バンドギャッププログラム取扱説明書に記載の方法により、バンドギャップを求めることができる。
【0174】
[実施例1:基本例]
オーブン乾燥したシュレンク管にチオフェン(0.40mmol)、エナミン(0.60mmol)、下記式(IIa)で表される三座リン配位子(28mg,0.044mmol)、及びFe(acac)(0.067mol/L,0.60mL,0.040mmol)のTHF溶液を加えた。次に、トリメチルアルミニウム(2.0mol/L,0.60mL,1.2mmol)のトルエン溶液をシュレンク管の壁面を洗浄しながら加えた。ここへ、シュウ酸ジエチル(108L,0.80mmol)を加え、反応混合物を50℃で15時間撹拌した。
【0175】
【化24】
【0176】
反応混合物を室温まで冷却し、トルエン(2mL)で希釈し、メタノール(0.1mL)及び酒石酸ナトリウムカリウムの飽和水溶液(2mL)を用いて注意深くクエンチした。水層をトルエン(5mL×3)で抽出し、合わせた有機層をセライトのパッドに通過させた。溶媒を減圧下で除去し、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン勾配)で精製することにより、目的化合物を得る。
【0177】
[実施例2]
チオフェンの代わりにフェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(2)で表される化合物(2)を得た(収率74%)。
【0178】
【化25】
【0179】
[実施例3]
チオフェンの代わりにN,N-ジメチルアミノ-4-(2-チエニル)アニリンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(3)で表される化合物(3)を得た(収率78%)。
【0180】
【化26】
【0181】
[実施例4]
チオフェンの代わりに2-(4-メトキシフェニル)チオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(4)で表される化合物(4)を得た(収率77%)。
【0182】
【化27】
【0183】
[実施例5]
チオフェンの代わりに2-(4-フルオロフェニル)チオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(5)で表される化合物(5)を得た(収率77%)。
【0184】
【化28】
【0185】
[実施例6]
チオフェンの代わりに2-n-ヘキシルチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(6)で表される化合物(6)を得た(収率64%)。
【0186】
【化29】
【0187】
[実施例7]
チオフェンの代わりにベンゾチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(7)で表される化合物(7)を得た(収率76%)。
【0188】
【化30】
【0189】
[実施例8]
チオフェンの代わりに2,3-ジフェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(8)で表される化合物(8)を得た(収率79%)。
【0190】
【化31】
【0191】
[実施例9]
チオフェンの代わりに2-(2-チオフェニル)ベンゾフランを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(9)で表される化合物(9)を得た(収率57%)。
【0192】
【化32】
【0193】
[実施例10]
チオフェンの代わりに[2,2’-ビチオフェニル]-5-トリイソプロピルシランを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(10)で表される化合物(10)を得た(収率70%)。
【0194】
【化33】
【0195】
[実施例11]
チオフェンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾール4,4,5,5,-テトラメチル-2-(4-(2-チオフェニル)フェニル)1,3,2,-ジオキサボランを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(11)で表される化合物(11)を得た(収率64%)。
【0196】
【化34】
【0197】
[実施例12]
チオフェンの代わりに9-(2-(5-(4-(トリブチルスタニル)フェニル)(2-チオフェニル)ビニル)-9H-カルバゾールを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(12)で表される化合物(12)を得た(収率69%)。
【0198】
【化35】
【0199】
[実施例13]
チオフェンの代わりに4-(9H-カルバゾールフェニル)チオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(13)で表される化合物(13)を得た(収率76%)。
【0200】
【化36】
【0201】
[実施例14]
チオフェンの代わりに4-(N,N-メトキシフェニル)-2-チオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(14)で表される化合物(15)を得た(収率84%)。
【0202】
【化37】
【0203】
[実施例15]
チオフェンの代わりに4-メトキシ-N-(4-メトキシフェニル)-N-(4-(2-チオフェニル)フェニル)アニリンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(15)で表される化合物(15)を得た(収率77%)。
【0204】
【化38】
【0205】
[実施例16]
チオフェンの代わりにN,N-ビス(4-メトキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェン-5-アミンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(16)で表される化合物(16)を得た(収率85%)。
【0206】
【化39】
【0207】
[実施例17]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに2,7-ビス(4-イソプロピルフェニル)-9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(17)で表される化合物(17)を得た(収率84%)。
【0208】
【化40】
【0209】
[実施例18]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに3,6-ビス(4-メトキシフェニル)-9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(18)で表される化合物(18)を得た(収率76%)。
【0210】
【化41】
【0211】
[実施例19]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに2,3-ジフェニル-1-ビニル-1H-インドールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(19)で表される化合物(19)を得た(収率86%)。
【0212】
【化42】
【0213】
[実施例20]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに2-フェニル-1-ビニル-1H-インドールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(20)で表される化合物(20)を得た(収率90%)。
【0214】
【化43】
【0215】
[実施例21]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりに2-フェニル-1-ビニル-1H-ピロールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(21)で表される化合物(21)を得た(収率71%)。
【0216】
【化44】
【0217】
[実施例22]
チオフェンの代わりに2-フェニルチオフェンを用い、エナミンの代わりにN-フェニル-N-ビニルアニリン
を用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(22)で表される化合物(22)を得た(収率59%)。
【0218】
【化45】
【0219】
[実施例23]
チオフェンの代わりに2-フェニル-3-n-ヘキシルチオフェンを用い、エナミンの代わりにN-フェニル-N-ビニルアニリンを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(23)で表される化合物(23)を得た(収率77%)。
【0220】
【化46】
【0221】
[実施例24]
チオフェンの代わりに2,2’-(9,9-ジヘキシル-2,7-9H-ジフルオレン-2,7-ジイル)ジチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(24)で表される化合物(24)を得た(収率64%)。
【0222】
【化47】
【0223】
[実施例25]
チオフェンの代わりに9-オクチル-2,7-ジ(チオフェ-2-イル)-9H-カルバゾールを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(25)で表される化合物(25)を得た(収率71%)。
【0224】
【化48】
【0225】
[実施例26]
チオフェンの代わりに2,4,6-トリメチル-N,N-ビス(4-(チオフェ-2-イル)フェニル)アニリンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(26)で表される化合物(26)を得た(収率66%)。
【0226】
【化49】
【0227】
[実施例27]
チオフェンの代わりに4,8-ビス((2-オクチルドデシル)オキシ)ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェンを用い、エナミンの代わりに9-ビニル-9H-カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(27)で表される化合物(27)を得た(収率59%)。
【0228】
【化50】
【0229】
[実施例28]
チオフェンの代わりに2-フェニル-3-ヘキシルチオフェンを用い、エナミンの代わりに9,9’-ジビニル-9H,9’H-3,3’-ジカルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(28)で表される化合物(28)を得た(収率62%)。
【0230】
【化51】
【0231】
[実施例29]
チオフェンの代わりに2-フェニル-3-ヘキシルチオフェンを用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(29)で表される化合物(29)を得た(収率59%)。
【0232】
【化52】
【0233】
[実施例30]
チオフェンの代わりに2,2’-(9,9-ジオクチル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(3-ヘキシルチオフェン)を用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(30)で表される化合物(30)を得た(収率89%)。
【0234】
【化53】
【0235】
[実施例31]
チオフェンの代わりにN,N-ビス(4-(3-ヘキシルチオフェ-2-イル)フェニル)-2,4,6-トリメチルアニリンを用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(31)で表される化合物(31)を得た(収率92%)。
【0236】
【化54】
【0237】
[実施例32]
チオフェンの代わりに2-デシルテトラデシル3,5-ビス(3-ヘキシルチオフェ-2-イル)ベンゾエートを用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(32)で表される化合物(32)を得た(収率86%)。
【0238】
【化55】
【0239】
[実施例33]
チオフェンの代わりに3,5-ビス(3-ヘキシルチオフェ-2-イル)-N,N-ジオクチルベンスアミドを用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(33)で表される化合物(33)を得た(収率87%)。
【0240】
【化56】
【0241】
[実施例34]
チオフェンの代わりに3,5-ビス(3-ヘキシルチオフェ-2-イル)-N,N-ジオクチルベンスアミドを用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(34)で表される化合物(34)を得た(収率89%)。
【0242】
【化57】
【0243】
[実施例35]
チオフェンの代わりに2,2’-(9,9-ジオクチル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(3-ヘキシルチオフェン)を用い、エナミンの代わりに5,11-ジビニル-5,11-ジヒドロインドール[3,2-b]カルバゾールを用いたこと以外は実施例1と同様にして下記式(35)で表される化合物(35)を得た(収率76%)。
【0244】
【化58】
【0245】
[各化合物の分析・測定結果]
実施例30~35で得られた化合物(30)~(35)について、Mw、PDI、IP、バンドギャップ及び金属含有率の測定を行った結果を下記表1に示す。
また、化合物(30)について測定した膜スペクトルを図1に示す。
【0246】
【表1】
【0247】
以上の結果より、鉄触媒を用いることで、式(I),(III)で表される新規化合物が製造可能であることが分かる。
【0248】
〔ペロブスカイト型量子ドットLED素子の作製と評価〕
[ペロブスカイト型量子ドット活性層用塗布液の調製]
Quantum Solutions社のペロブスカイト型量子ドット半導体材料(510nm)粉末5mgを1mLの脱水ヘプタンに分散させ、マグネチックスターラーで800rpm、室温にて30分撹拌した。得られた分散液をPTFEフィルター(孔径0.2μm)で濾過し、30分間、室温で放置し、ペロブスカイト型量子ドット活性層用塗布液を調製した。
【0249】
[実施例の正孔輸送層用塗布液の調製]
実施例30~35で得られた化合物(30)~(35)8mgをそれぞれ1mLのクロロベンゼンに70℃で溶解させた(10分以内)後、室温25℃で放冷した。さらに、Cytodiagostics社製Feナノ溶液(5mg/1mLトルエン)を5μL添加して10分撹拌した後、PTFEフィルター(孔径0.45μm)で濾過し、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0250】
[比較例の正孔輸送層用塗布液の調製]
ルミテック社のpoly-TPD(Mw:20000~30000)の8mgを1mLのクロロベンゼンに室温25℃で溶解させた(30分)。さらに、Cytodiagostics社製Feナノ溶液(5mg/1mLトルエン)を5μL添加して10分撹拌した後、PTFEフィルター(孔径0.45μm)で濾過し、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0251】
[ペロブスカイト型量子ドットLED素子の作製]
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)を、洗浄剤(横浜油脂工業社製、セミクリーンM-LO)15mLを用いて超音波洗浄し、続けて超純水を用いた超音波洗浄、イソプロパノールを用いた超音波洗浄を行った後、窒素ブローにより乾燥した。その後、以下の薄膜形成前に、UV-オゾン下10分の処理を行った。
【0252】
PVDFフィルター(孔径0.45μm)で濾過したPEDOT:PSS水溶液を、室温で上記処理基板上に150μLのせ、500rpmで3秒、次いで4000rpmで30秒スピンコートすることにより、厚さ約30nmの薄膜を形成した。得られた基板を100℃で10分間加熱しで正孔注入層を形成した。
【0253】
続いて、PTFEフィルター(孔径0.45μm)で濾過した上記正孔輸送層用塗布液を、上記正孔注入層上に120μLのせ、500rpmで3秒、次いで3000rpmで30秒スピンコートし、厚さ約40nmに成膜した後、110℃で10分間加熱して正孔輸送層を形成した。
【0254】
次に、基板をグローブボックスに移し、上記ペロブスカイト型量子ドット活性層用塗布液60μLを正孔輸送層上にのせ、500rpmで3秒、2000rpmで20秒、3000rpmで20秒の順でスピンコートし、ホットプレート上で80℃にて5分間加熱し、その後室温に戻した。再度ペロブスカイト型量子ドット活性層用塗布液60μLをのせ、500rpmで3秒、1500rpmで20秒、3000rpmで20秒の順でスピンコートし、その後、ホットプレート上で80℃で5分間加熱して厚さ25~35nmの活性層を形成した。
【0255】
続いて、活性層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて電子輸送材料となるTPBiを蒸着させて厚さ30nmの電子輸送層を形成し、続いて上部電極として、パターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させて電極を形成した。
【0256】
[実施例36~41]
上記ペロブスカイト型量子ドットLED素子の作製手順において、正孔輸送層用塗布液として、実施例30~35で得られた化合物(30)~(35)をそれぞれ溶解させた実施例の正孔輸送層用塗布液を用いて、それぞれ実施例36~41のペロブスカイト型量子ドットLED素子を作製した。
【0257】
[比較例1]
上記ペロブスカイト型量子ドットLED素子の作製手順において、正孔輸送層用塗布液として、ルミテック社のpoly-TPDを溶解させた比較例の正孔輸送層用塗布液を用いて、比較例1のペロブスカイト型量子ドットLED素子を作製した。
【0258】
[ペロブスカイト型量子ドットLED素子の評価]
実施例36~41及び比較例1で得られたペロブスカイト型量子ドットLED素子について、I-V分光輝度特性を測定した。測定には、ソースメーター(ケイスレー社製、2400型)を用い、輝度は、コニカミノルタ社製分光放射輝度計CS-2000により最高輝度(cd/m)を測定した。
結果を表2に示す。
【0259】
【表2】
【0260】
表2のペロブスカイト型量子ドットLED素子の輝度の測定結果から明らかなように、本発明の高分子化合物は正孔輸送層用材料として機能し、該高分子化合物溶液に添加物(酸化鉄(III)ナノ粒子)を加えることで、比較例のpoly-TPDを用いた場合よりも、輝度が向上した。これは、酸化鉄が該高分子化合物のオレフィン部位を活性化し、正孔輸送能を向上させていることによると考えられる。
【符号の説明】
【0261】
100 光電変換素子
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
105 バッファ層
107 上部電極
108 基材
図1
図2