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特開2024-59345解析装置、解析方法及び解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059345
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20240423BHJP
【FI】
G06F30/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166967
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】日景 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ04
5B146DJ08
(57)【要約】
【課題】電磁界解析における計算精度の低下を抑制しつつ、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させる。
【解決手段】FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析装置において、予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行う間引き処理部と、間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部と、間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、記憶部が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、解析領域の遠方界を計算する計算部とを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析装置において、
予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行う間引き処理部と、
前記間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部と、
前記間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、前記記憶部が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、前記解析領域の遠方界を計算する計算部と
を有することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記間引き処理部は、
間隔が、前記放射波源の周波数における1/8波長~1/4波長の範囲でボクセルの整数倍となるように、全ボクセルの一部を間引くこと
を特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析方法において、
予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行う間引き処理工程と、
前記間引き処理工程により全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶部が記憶する記憶工程と、
前記間引き処理工程により全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、前記記憶部が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、前記解析領域の遠方界を計算する計算工程と
を含むことを特徴とする解析方法。
【請求項4】
前記間引き処理工程では、
間隔が、前記放射波源の周波数における1/8波長~1/4波長の範囲でボクセルの整数倍となるように、全ボクセルの一部を間引くこと
を特徴とする請求項3に記載の解析方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の解析装置の各部としてコンピュータを機能させるための解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの高速化が進むにつれて、装置から発生する電磁界を適切に解析する必要性が高まっている。例えば、FDTD法(Finite-difference time-domain method)は、解析領域を多数のブロック(ボクセル)に分割し、解析領域内の波源により生じる電界と磁界をマクスウェル方程式に基づいて時間更新していく電磁界解析手法である。
【0003】
FDTD法では、電界と磁界の時間更新を行うときに、前時間ステップにおける電界と磁界、及びボクセルごとの導電率や透磁率などの媒質定数を用いる。そのため、電磁界解析のための計算には、ボクセル数に応じた電界、磁界、媒質定数を保持するためのメモリが必要である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、FDTD法は、有限寸法の解析領域の最外を吸収境界で終端することにより、境界からの反射波をなくし、仮想的に無限の広さを再現して放射電磁界を評価することができる。
【0005】
FDTD法を用いて波源から放射される電波の放射指向特性(遠方界特性)の導出を行うには、評価対象波源を3次元的に包含する(取り囲む)仮想表面を設定する。又は、波源から十分遠方とみなせる程度まで距離を離して寸法を拡大した(等価的に包含とみなせるような寸法の)2次元の仮想表面を設定する。
【0006】
そして、設定した仮想表面上の等価電流及び等価磁流を計算し、近傍-遠方変換をすることにより、波源から放射される電波の放射指向特性を導出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-6851号公報
【特許文献2】特開2017-011518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
仮想表面上の等価電流及び等価磁流については、ボクセル毎にデータを保持する配列のためのメモリ確保と演算が必要となる。仮想表面に存在するボクセル数は、評価対象の寸法やセルサイズの細かさに比例して増大する。
【0009】
例えば、ミリ波5Gなどで用いられるマッシブMIMOのような素子数の多いアレーアンテナや、アンテナ+人体などのように、アンテナ近傍の散乱物の影響まで含めた評価を行うシミュレーションを取り扱う場合には、膨大なメモリサイズと長い演算時間を要するという問題がある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、電磁界解析における計算精度の低下を抑制しつつ、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる解析装置、解析方法及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様にかかる解析装置は、FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析装置において、予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行う間引き処理部と、前記間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部と、前記間引き処理部が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、前記記憶部が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、前記解析領域の遠方界を計算する計算部とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様にかかる解析方法は、FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析方法において、予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行う間引き処理工程と、前記間引き処理工程により全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶部が記憶する記憶工程と、前記間引き処理工程により全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、前記記憶部が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、前記解析領域の遠方界を計算する計算工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電磁界解析における計算精度の低下を抑制しつつ、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アンテナの放射指向特性を示す図である。
図2】トラックに積載されたアンテナを放射波源とする散乱体を含めた解析領域の仮想表面を模式的に示す図である。
図3図2に示した解析領域の放射指向特性を示す図である。
図4】一実施形態にかかる解析装置が有する機能を例示する機能ブロック図である。
図5】等価定理を模式的に示す図である。
図6】放射指向特性の比較結果を示す図である。
図7】一実施形態にかかる解析装置の動作例を示すフローチャートである。
図8】間隔Vを空間離散間隔に用いる極座標系を示す図である。
図9】各軸方向の表面電流及び表面磁流を示す図である。
図10】比較例の解析装置の動作例を示すフローチャートである。
図11】一実施形態にかかる解析装置が有するハードウェア構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、FDTD法を用いた電磁界解析例について説明する。図1は、アンテナ(半波長ダイポールアンテナ)の放射指向特性(立体パターン)を示す図である。図2は、トラックに積載されたアンテナを放射波源とする散乱体を含めた解析領域の仮想表面を模式的に示す図である。図3は、図2に示した解析領域の放射指向特性を示す図である。
【0016】
図1に示したように、アンテナ単体の放射指向特性は、アンテナを取り囲む程度が解析領域の仮想表面となる。これに対し、図2に示したように、周囲の散乱体となるトラックを含めて解析領域として評価を行う場合、破線で示すように仮想表面の寸法を拡大する必要がある。この場合、仮想表面上の電磁界成分を処理するための配列や、計算処理数が大幅に増加する。
【0017】
より具体的には、図1に示したアンテナのみの場合と、図2に示した散乱体を含んだ場合を比較すると、仮想表面上に含まれるボクセル数は、散乱体を含んだ場合がアンテナのみの場合の500倍程度となる。そして、遠方界を取得するための配列数及び演算処理数は、ボクセル数に比例する。
【0018】
通常、FDTD法を用いて電磁界を計算する場合には、評価周波数の波長に対して1/10や1/20の寸法をセルのサイズとして設定する。対象のアンテナや散乱体の形状が薄い平板形状である場合や曲線部形状を含む場合には、セル寸法は、1/50以下などとさらに小さく設定される場合も多い。
【0019】
このため、上述したように、アンテナ+人体などのアンテナ近傍の散乱物の影響も考慮するような場合、又は、マッシブMIMOのような素子数の多いアレーアンテナの遠方界を評価するような場合などには、仮想表面が大きくなり、結果として仮想表面寸法の2乗程度に比例して配列数や処理数が増大する。
【0020】
また、部分的にセル寸法を拡大する不等間隔セルサイズなどを利用することにより、配列数や処理数の増大を多少緩和することは可能であるが、不等間隔を適用することに起因して近傍界電磁界計算の誤差が増大することがある。また、散乱体の構造が複雑な場合には適用できない、又は、プログラムが複雑になるなど、有効性が少ないことも考えられる。
【0021】
そこで、一実施形態にかかる解析装置は、後述する等価定理を用いる仮想表面上において、近傍-遠方界変換に必要なボクセルを予め間引いて抽出し、配列サイズを小さくすることによって計算機資源を削減する。
【0022】
次に、一実施形態にかかる解析装置10の具体例について説明する。図4は、一実施形態にかかる解析装置10が有する機能を例示する機能ブロック図である。
【0023】
図4に示すように、解析装置10は、記憶部11、パラメータ設定部12、配列初期化部13、配列データ読取部14、計算部15、設定部16、間引き処理部17、及び制御部18を有し、FDTD法を用いて電磁界解析を行う。
【0024】
記憶部11は、解析空間情報記憶部110及びボクセルモデル記憶部112を有し、例えばバス100及びバス102を介してデータの読込み(書込み)及び読出しを可能にされたメモリ(主記憶装置)などによって構成されている。また、記憶部11は、計算部15、設定部16、間引き処理部17及び制御部18が処理した結果も記憶するようにされている。
【0025】
例えば、記憶部11は、後述する間引き処理部17が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれの等価電流及び等価磁流を示すデータ、並びに、ボクセルごとに定められた媒質定数を記憶する。
【0026】
解析空間情報記憶部110は、上述した解析領域に関する情報を記憶する。例えば、解析空間情報記憶部110は、上述したボクセルそれぞれの媒質定数をモデルごとに記憶する。ボクセルモデル記憶部112は、例えば1つ以上の解析モデルを記憶する。
【0027】
パラメータ設定部12は、解析を行うための解析空間サイズ、ボクセルサイズ、離散時間間隔の定義、解析モデル(アンテナや空間の条件等)の設定を行い、バス100を介して設定値を記憶部11に記憶させる。
【0028】
配列初期化部13は、解析を行うために必要なサイズの配列を、解析空間の電界及び磁界を算出するために確保し、バス100を介して記憶部11に記憶させる。
【0029】
配列データ読取部14は、算出に用いる配列データを読取り、バス100を介して記憶部11に記憶させる。
【0030】
計算部15は、電界成分計算部150、電界吸収境界条件計算部152、磁界成分計算部154、及び遠方界計算部156を有する。そして、計算部15は、例えば放射波源を取り囲む仮想表面を算出する。
【0031】
仮想表面は、複数のボクセルで構成される解析空間の6つの断面(+xy面,-xy面,+xz面,-xz面,+yz面,-yz面)に対応し、解析対象の構造とは無関係に設定される。さらに、計算部15は、仮想表面上の放射電磁界の接線成分を計算し、仮想表面上の等価電流及び等価磁流を計算する。
【0032】
例えば、仮想表面S上の等価電流Js及び等価磁流Msは、下式(1)、(2)によって得られる。
【0033】
【数1】
【数2】
【0034】
例えば、電界成分計算部150は、解析空間情報記憶部110からボクセルごとに媒質定数を読出し、ボクセルモデル記憶部112から読出したモデルごとに各ボクセルに対する電界成分を計算し、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0035】
電界吸収境界条件計算部152は、解析領域における電界成分の吸収境界条件を算出し、電界成分計算部150が算出した電界成分に対して吸収境界条件を適用する計算を行い、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0036】
磁界成分計算部154は、解析空間情報記憶部110からボクセルごとに媒質定数を読出し、ボクセルモデル記憶部112から読出したモデルごとに各ボクセルに対する磁界成分を計算し、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0037】
遠方界計算部156は、後述する間引き処理部17が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、記憶部11が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて等価定理を適用し、解析領域の遠方界を計算し、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0038】
図5は、等価定理を模式的に示す図である。例えば、遠方界計算部156は、得られた値に自由空間におけるグリーン関数で重み付けを行い、積分することにより遠方電磁界を計算する。等価定理と呼ばれる変換法は、アンテナ等の実際の波源を等価な波源におきかえる理論である。また、等価定理を適用することにより、仮想表面外部の電磁界は、表面上の電流及び磁流から計算される。
【0039】
遠方界計算に用いる電界及び磁界は、すべてフェーザ量である。よって、時間領域の解析手法であるFDTD法の適用には周波数領域への変換が必要である。変換法として、以下の両方が適用可能である。
【0040】
1)時間領域において近傍界から遠方界への変換及び離散フーリエ変換を行う方法
2)正弦波励振し、定常状態に達した後の電磁界の時間変化から求める手法
【0041】
なお、等価電流及び等価磁流を計算するための仮想表面上に存在するボクセルの電磁界データを保持する配列サイズは、FDTD解析のボクセル寸法の細かさ、又は解析対象物の寸法に比例して増大する。
【0042】
設定部16は、解析装置10に対する予め定められた設定条件を設定する。例えば、設定部16は、後述する間引き処理部17が間引くボクセル(解放ボクセル)の領域を以下の4つの方法などによって設定する。
【0043】
1)近傍界計算領域に含まれる波源や構造物で遠方界計算に考慮する対象を設定
2)解析対象の周波数に対応した波長λを算出
3)仮想表面Sの決定、遠方界計算用配列の確保
4)1/8波長(λ)~1/4λの範囲でセルサイズの整数倍となる解放ボクセル間隔を決定し、削除領域に該当するボクセルを解放ボクセルとして配列を解放
【0044】
なお、図6からも分かるように、1/8λ~1/4λ程度の間隔で評価した近傍界に基づいて放射指向特性を算出することにより、それ以上細かい間隔で評価した近傍界を用いた場合とほぼ一致した結果を得られることが確認されている。
【0045】
間引き処理部17は、例えば設定部16などによって予め定められた設定条件に基づいて、放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行い、処理結果を記憶部11に記憶させる。
【0046】
例えば、間引き処理部17は、間引く処理後のボクセルの間隔が、放射波源の周波数における1/8波長~1/4波長の範囲でボクセルの整数倍となるように、全ボクセルの一部を間引く。
【0047】
このとき、近傍界計算で用いるボクセルは通常と変わらない。よって、電磁界計算精度は変化しない。一方、仮想表面上の等価電磁流評価のための空間分解能は、1/8λ~1/4λ程度としても、遠方界計算結果に大きな影響がないことを利用している。
【0048】
より具体的には、近傍界から放射指向特性を取得する方法について、測定に基づく検討が行われており、1/2λ程度の間隔で取得した近傍界から放射指向特性を算出することができることが知られている(例えば非特許文献1:大久保茂他、“アンテナの近傍界測定システムの開発とその応用 5. 平面近傍界測定法によるアンテナ指向性の高精度測定、“通信総合研究所季報、Vol. 34 No.172、pp.137-144、Sep.1988.参照)。ただし、単純なアンテナでなく散乱体を含む放射指向特性を取得する場合、放射1/2λ程度の間隔の近傍界を用いると誤差が大きくなる。
【0049】
制御部18(図4)は、解析装置10を構成する各部を制御する。例えば、制御部18は、間引き処理部17が全ボクセルの一部を間引く処理を行った後に残るボクセルそれぞれに対し、記憶部11が記憶しているボクセルそれぞれの等価電流、等価磁流及び媒質定数を用いて、計算部15が等価定理を適用し、解析領域の遠方界を計算するように制御を行う。
【0050】
そして、解析装置10は、遠方界特性評価において、仮想表面上のボクセル電磁界データを離散的に選択利用する(間引く)ことにより、計算実行に必要な主記憶メモリの削減及び計算時間の短縮を実現する。より具体的には、仮想表面上に存在する電界成分及び磁界成分を保持するボクセルのための配列確保を間引くことにより、主記憶メモリの削減及び計算時間の短縮を実現する。
【0051】
このように、解析装置10は、間引き処理部17が放射波源を囲む解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行うので、電磁界解析における計算精度の低下を抑制しつつ、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる。
【0052】
次に、一実施形態にかかる解析装置10の動作例について説明する。図7は、一実施形態にかかる解析装置10の動作例を示すフローチャートである。
【0053】
図7に示すように、解析装置10は、まず計算対象モデルを読み込む(S100)。そして、解析装置10は、設定部16が解析装置10に対する予め定められた設定条件を設定する(S102)。例えば、設定部16は、解析周波数・領域の決定、ボクセルの設定、遠方界計算用等価表面の設定(近傍界計算用、等価表面用)配列の確保(電界:3成分、磁界:3成分)を行う。
【0054】
次に、解析装置10は、波長λの算出と、1/8λ~1/4λの範囲でセルサイズの整数倍となる間隔Vを算出して(S104)、間引き処理部17が間引き処理を行う(S106)。例えば、間引き処理部17は、等価表面用配列について間隔Vごとに解放ボクセル領域を算出し、配列を解放する。
【0055】
図8は、間隔Vを空間離散間隔に用いる極座標系を示す図である。解析装置10は、1/8λ~1/4λの範囲で決定された間隔Vを下式(3)~(6)の積分式の空間離散間隔に用いる。
【0056】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0057】
その後、解析装置10は、解析領域の各材質に対応する媒質定数の割当てを行う(S108)。
【0058】
そして、解析装置10は、時間ステップの更新を行い(S110)、電界成分の計算を行って(S112)、電界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行う(S114)。
【0059】
次に、解析装置10は、磁界成分の計算を行い(S116)、磁界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行って(S118)、電磁界成分計算が収束したか否かを判定する(S120)。解析装置10は、電磁界成分計算が収束していないと判定した場合(S120:No)にはS110の処理に戻り、電磁界成分計算が収束したと判定した場合(S120:Yes)にはS122の処理に進む。
【0060】
そして、解析装置10は、遠方界計算部156が等価定理を適用して遠方界を計算する(S122)。例えば、解析装置10は、図9に示した各軸方向の表面電流及び表面磁流を得る。
【0061】
次に、比較例の解析装置の動作例について説明する。図10は、比較例の解析装置の動作例を示すフローチャートである。
【0062】
図10に示すように、比較例の解析装置は、まず計算対象モデルを読み込む(S100)。そして、比較例の解析装置は、予め定められた設定条件を設定する(S102)。
【0063】
その後、解析装置10は、解析領域の各材質に対応する媒質定数の割当てを行う(S108)。
【0064】
そして、解析装置10は、時間ステップの更新を行い(S110)、電界成分の計算を行って(S112)、電界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行う(S114)。
【0065】
次に、解析装置10は、磁界成分の計算を行い(S116)、磁界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行って(S118)、電磁界成分計算が収束したか否かを判定する(S120)。解析装置10は、電磁界成分計算が収束していないと判定した場合(S120:No)にはS110の処理に戻り、電磁界成分計算が収束したと判定した場合(S120:Yes)にはS122の処理に進む。
【0066】
そして、解析装置10は、遠方界計算部156が等価定理を適用して遠方界を計算する(S122)。
【0067】
つまり、比較例の解析装置は、解析領域の仮想表面に存在する全ボクセルの一部を間引く処理を行っておらず、電磁界解析に必要な記憶容量を削減できず、計算時間を短縮させることができない。
【0068】
なお、一実施形態にかかる解析装置10が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0069】
すなわち、本発明にかかる解析装置10は、コンピュータとプログラムを用いて実現することができ、プログラムを記憶媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0070】
図11は、一実施形態にかかる解析装置10が有するハードウェア構成を例示する図である。図11に示すように、解析装置10は、例えば入力部20、出力部21、通信部22、CPU23、メモリ24及びHDD25がバス26を介して接続され、コンピュータとしての機能を備える。また、解析装置10は、記憶媒体27との間でデータを入出力することができるようにされている。
【0071】
入力部20は、例えばキーボード及びマウス等である。出力部21は、例えばディスプレイなどの表示装置である。通信部22は、例えば有線及び無線のネットワークインターフェースである。
【0072】
CPU23は、解析装置10を構成する各部を制御し、上述した計算等を行う。メモリ24及びHDD25は、データ等を記憶する記憶部11を構成する。特に、メモリ24は、上述した計算に用いる各データを記憶する。記憶媒体27は、解析装置10が有する機能を実行させる解析プログラム等を記憶可能にされている。なお、解析装置10を構成するアーキテクチャは図11に示した例に限定されない。
【0073】
以上述べた実施形態は、本発明の実施形態を例示的に示すものであって、限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様でも実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10・・・解析装置、11・・・記憶部、12・・・パラメータ設定部、13・・・配列初期化部、14・・・配列データ読取部、15・・・計算部、16・・・設定部、17・・・間引き処理部、18・・・制御部、20・・・入力部、21・・・出力部、22・・・通信部、23・・・CPU、24・・・メモリ、25・・・HDD、26・・・バス、27・・・記憶媒体、110・・・解析空間情報記憶部、112・・・ボクセルモデル記憶部、150・・・電界成分計算部、152・・・電界吸収境界条件計算部、154・・・磁界成分計算部、156・・・遠方界計算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11