(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065140
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】金粉末及び金粉末の製造方法並びに金ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240508BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240508BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240508BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240508BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20240508BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240508BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/05
B22F1/102
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F1/148
B22F1/107
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173877
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃平
(72)【発明者】
【氏名】牧田 勇一
(72)【発明者】
【氏名】小泉 輝明
(72)【発明者】
【氏名】村井 博
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 陽紀
(72)【発明者】
【氏名】神谷 秀博
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB07
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC11
4K018BC13
4K018BC29
4K018BD04
4K018CA09
4K018EA01
4K018JA36
4K018KA33
4K018KA37
(57)【要約】
【課題】接合・電極形成・封止等の各種プロセスに供される金粉末及び金ペーストに関し、より特性改善がなされたもの及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、純度99.9質量%以上の金からなる金粉末において、 平均粒子径が0.1μm以上0.5μm以下であり、且つ、粒子径の変動係数が18%以下であることを特徴とする金粉末である。本発明に係る金粉末は、溶媒中で金塩と還元剤と分散剤とを混合することで金コロイド粒子を合成する金コロイド合成工程と、前記金コロイド合成で生成した前記金コロイド粒子を含む反応液に、金塩と還元剤とを添加し、前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末造粒工程とを含む湿式還元法で製造される。そして、前記金コロイド合成工程で混合する分散剤として、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含む分散剤を適用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9質量%以上の金からなる金粉末において、
個数平均粒子径が0.1μm以上0.5μm以下であり、且つ、粒子径の変動係数が18%以下であることを特徴とする金粉末。
【請求項2】
表面の少なくとも一部に、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤が結合してなる請求項1記載の金粉末。
【請求項3】
界面活性剤は、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩である請求項2記載の金粉末。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の金粉末と有機溶剤とからなる金ペースト。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の金粉末の製造方法であって、
溶媒中で金塩と還元剤と分散剤とを混合することで金コロイド粒子を合成する金コロイド合成工程と、
前記金コロイド合成で合成した前記金コロイド粒子を含む反応液に、金塩と還元剤とを添加し、前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末造粒工程と、を含み、
前記金コロイド合成工程で混合する分散剤として、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含む分散剤を混合する金粉末の製造方法。
【請求項6】
金粉末造粒工程で、金コロイド合成工程で生成した金コロイド粒子を含む反応液の一部を抜き出し、
前記一部の反応液に金塩と還元剤とを添加すると共に、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含む分散剤を添加して前記金コロイド粒子を金粉末とする請求項5記載の金粉末の製造方法。
【請求項7】
金粉末造粒工程における反応液の分散剤濃度が、前記反応液中の金濃度の1/6倍以下であり、且つ、金コロイド合成工程における反応液の分散剤濃度に対して2倍以下である請求項5記載の金粉末の製造方法。
【請求項8】
分散剤は、20℃の水への溶解度が0.1g/100g以上の界面活性剤である請求項5記載の金粉末の製造方法。
【請求項9】
分散剤である界面活性剤は、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩である請求項5記載の金粉末の製造方法。
【請求項10】
分散剤である界面活性剤は、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩である請求項6記載の金粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、半導体素子等のエレクトロニクス分野における接合・封止・電極・配線形成等の各種プロセスで使用される金粉末及びその製造方法に関する。特に、粒子径のばらつきが抑制されたシャープな粒度分布を有する金粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品、半導体デバイス、半導体素子、パワーデバイス、MEMS等の各種用途における、素子接合や、電極・配線の形成、気密封止の各プロセスに、金属ペーストの利用が拡大している。かかる用途の金属ペーストについて、本願出願人は、高純度(99.9質量%以上)の金(Au)等の金属からなり、サブミクロンオーダー(1μm以下)の金属粉末を有機溶剤に混合した金ペーストが前記用途に有用であることを従来から提案している。(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
例えば、半導体デバイスの製造工程において、半導体チップを基材(基板やICドライバ等)に接合する際のダイボンディングやフリップチップ接合等の接合プロセスでは、フォトエッチング法等を利用して基材上に所望の形状・パターンが形成されるように金ペーストを塗布する。そして、前記金ペーストを乾燥して適宜に仮焼結してバンプ形成し、このバンプ上に半導体チップを載置する。その後、加熱・加圧することでバンプを構成する金粉末が焼結し、接合媒体である金焼結体となる。このような接合プロセスにおいて、本願出願人による金ペーストは、上記のように金粉末の純度と平均粒子径を規定することによって低温焼結性を確保し、接合プロセスの低温化に寄与している。金ペーストに適用される金粉末の焼結温度は、金粉末の粒子径と相関関係を有し、粒子径が粗大となるに従って焼結温度が上昇する傾向がある。また、金粉末の純度は、焼結の際の金粉末の塑性変形能に影響を及ぼして、焼結後の金焼結体の緻密性に影響を及ぼす。そのため、平均粒子径を規定しつつ高純度の金粉末を適用することで、低温焼結性を確保すると共に、導電体である接合媒体の抵抗上昇を抑制する。
【0004】
そして、このように平均粒子径を制御しながら金粉末を製造する方法として、湿式還元法に基づく方法も公知となっている(特許文献3)。この湿式還元法による金属粉末製造方法では、金の超微粒子(コロイド粒子)を核粒子として分散させた溶液に還元剤と金塩を供給し、核粒子の表面上に金を析出させて金粉末としている。この方法では、核粒子の粒子径と個数、及び供給する金化合物溶液の濃度や量の調整により、サブミクロンオーダーの金粉末を製造が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5613253号明細書
【特許文献2】特開2021-025091号公報
【特許文献3】特開平9-20903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、これまでに明らかとなった金ペースト及び金粉末は、低温焼結性や電気導電性(低抵抗性)といった基本的な要求特性を具備する。もっとも、エレクトロニクス分野における金ペースト・金属ペーストの利用が拡大している状況においては、より高品位・多様性に富むものも求められる。例えば、焼結後の焼結体としたときの更なる低抵抗化や焼結時の挙動等検討すべき点が多い。そこで本発明は、エレクトロニクス分野での接合・電極形成・封止等の各種プロセスに供される金粉末及び金ペーストについて、より特性改善がなされたもの、及びその製造方法について明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に関し、本発明者等は湿式還元法により製造される金粉末の構成として、以下の理由から、金粉末の粒度分布の改善について検討することとした。即ち、低温接合が要求されるエレクトロニクス分野の接合プロセスにあっても、金粉末の平均粒子径の大小のみが評価されるべきではない。本発明者等の検討では、金粉末の平均粒子径が小さい程、焼結温度は低下するが、その一方で平均粒子径が小さいことによる弊害が生じることもある。例えば、上述したフォトリソグラフィ等で金ペーストからバンプを形成する際には、金ペーストを塗布して乾燥した後に余剰の金ペーストを掻き取り除去する必要がある。平均粒子径が小さい金粉末を利用した金ペーストは、乾燥の段階で比較的強度が高い金粉末の乾燥体を形成させて、前記した掻き取り除去の障害となることがある。つまり、金粉末は、その後の金ペーストの利用形態を考慮しつつ、その平均粒子径が適切に設定されたものが好ましい。そして、設定した平均粒子径に対して過小及び過大な粒子径の金粉末の存在は、前記の乾燥体の強度上昇や低温焼結の障害等となり得る。従って、より高品位の金ペースト・金粉末の構成要素の一つとして、粒子径のばらつきのない狭い粒度分布であることが挙げられる。
【0008】
本発明者等は、上記の方針のもと、従来の湿式還元法に基づく金粉末の製造方法について、製造される金粉末の平均粒子径の制御と粒度分布の狭小化を行うべく、原料(分散剤)や製造条件等の最適化を行うこととした。そして、その結果、粒度分布が改善された金粉末として本発明に想到した。
【0009】
上記課題を解決する本発明は、純度99.9質量%以上の金からなる金粉末において、個数平均粒子径が0.1μm以上0.5μm以下であり、且つ、粒子径の変動係数が18%以下であることを特徴とする金粉末である。以下、本発明に係る金粉末及びその製造方法、並びにこの金粉末を適用する金ペーストについてより詳細に説明する
【0010】
A.本発明に係る金粉末の構成
上記のとおり、本発明に係る金粉末は、高純度(99.9質量%以上)の金からなる。金粉末の純度を99.9質量%以上とするのは、純度が低い金は硬度が高くなり、接合材料となる焼結体を形成する際の塑性変形が進行し難くなるからである。
【0011】
金粉末の平均粒子径を0.1μm以上0.5μm以下とするのは、0.5μmを超える粒子径の金粉末では、焼結温度が高くなり、低温焼結性という本願金ペーストが前提とする特性が発揮されなくなるからである。また、0.1μmを下限とするのはこの粒子径未満の粒子径では、ペーストとしたときに凝集しやすくなるからである。金粉末の平均粒子径の測定は、顕微鏡(光学顕微鏡、電子顕微鏡(SEM、TEM)等)により金粉末を観察及び撮影し、その写真・画像中の金粉末を任意に複数選定して粒子径を測定する。この観察・粒子径測定においては、複数の観察領域(5箇所以上が好ましい)を設定し、各領域で複数個(N=100個以上が好ましい)の金粉末を観察し測定するのが好ましい。観察倍率は、10000倍以上が好ましく、より好ましくは20000倍以上30000倍以下とする。金粉末の粒子径の測定は、写真・画像中の個々の金粉末の粒子径を測定しても良いし、画像解析ソフトウエア等の計算機ソフトウエアを使用しても良い。粒子径は、画像中の粒子の長軸及び短軸から算出する二軸法による粒子径や、画像中の粒子に外接する長方形の辺の長さによるフェレ径(キャリパー径)等を採用することができる。フェレ径については、最小フェレ径、最大フェレ径、平均フェレ径の少なくともいずれかを求めるのが好ましい。
【0012】
そして、本発明では、金粉末の粒子径の変動係数が18%以下であることを特徴とする。変動係数は、金粉末の平均粒子径(MN)に対する金粉末の粒子径の標準偏差(ρ)の比(ρ/MN)である。この変動係数が小さいことで、金粉末の粒度分布が狭く、粒子径のばらつきが少ないことを意味する。本発明のように金粉末の粒子径の変動係数を18%以下とすることで、焼結過程、特に焼結開始温度における金粉末の挙動が改善されて緻密性の制御が可能となる。また、金粉末の粒子径分布の改善は焼結体の低抵抗化にも寄与する。同じ平均粒子径の金粉末であれば、本発明のようにすることで低抵抗の焼結体を得ることができる。本発明の金粉末の変動係数の下限については特に限定されるべきではないが、後述の製造方法による粒度分布の最適化効果を考慮しつつ、現実的な範囲を考慮すると変動係数は3%以上であるものが好ましい
【0013】
尚、平均粒子径には、個数平均粒子径(MN)と体積平均粒子径(MV)等の種類があるが、本発明に係る金粉末における上記の平均粒子径は、個数平均粒子径(MN)である。そして、粒子径の変動係数は個数平均粒子径に基づいて算出する。但し、本発明に係る金粉末は、体積平均粒子径(MV)に基づく変動係数が18%以下であっても良いし、より好ましい態様となる。個数平均粒子径(MN)と体積平均粒子径(MV)の双方において、変動係数が18%以下となる金粉末は、ばらつきが極めて少ない粒子径の揃ったものとなる。
【0014】
また、上記のとおり、金粉末は高純度の金からなるが、不可避不純物の含有は許容される。不可避不純物元素は、Na、Al、Fe、Cu、Se、Sn、Ta、Pt、Bi、Pd、Ag、Siが挙げられる。不可避不純物元素の合計量は、500ppm以下が好ましく、300ppm以下が更に好ましい。尚、これらの不可避不純物は、金粉末表面に吸着・付着した状態で存在する場合の他、金粉末と反応・合金化した状態で存在し得る。
【0015】
また、本発明に係る金粉末は、後述する湿式還元法による本発明の製造工程を経たものである場合、表面に分散剤である界面活性剤に由来する化合物・誘導体が結合していることがある。この界面活性剤は、金属粉末を金属ペーストとする前の段階から粉末表面に存在している。具体的には、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有するアルキルアミン塩又は第四級アンモニウム塩が、金粉末表面の少なくとも一部に結合していることがある。これらの化合物は、金粉末の特性に影響を及ぼすものではないが、その製造過程で所定の界面活性剤が適用されていることを示す。金粉末にこれらの化合物が結合している場合、その量は質量比で0.01%以上5%以下が好ましく、0.03%以上3%以下がより好ましい。過剰の化合物の付着は、その後の金粉末の焼結に影響を生じさせる可能性があるからである。
【0016】
B.本発明に係る金粉末の製造方法
上述したように、本発明者等は、従来よりも高品質の金粉末を見出すという課題に対し、その製造方法である湿式還元法の改良を図っている。湿式還元法による金粉末の製造方法では、金のコロイド粒子を核粒子として分散させた溶液に還元剤と金塩を供給し粒成長させて金粉末としている。また、金コロイド粒子の合成も、基本的に湿式還元法に基づき、原料となる金塩を溶媒中で還元剤と混合して金を還元析出させてコロイド粒子とする。そして、金コロイド粒子の合成工程では、金塩と還元剤と共に分散剤を混合する。分散剤は、還元析出した金コロイド粒子の表面に結合し、粒子の過剰な凝集による粗大化を抑制する添加剤である。
【0017】
本発明者等は、上述した湿式還元法に基づく金粉末の製造方法の改良として、金コロイド粒子の合成工程で反応系に添加される分散剤の好適化を図ることとした。その結果、当該工程で炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含む分散剤を適用して金コロイド粒子を合成し、この金コロイド粒子を核として金粉末に成長(造粒)させることで、粒度分布に優れた金粉末を製造できることに想到した。即ち、本発明に係る金粉末の製造方法は、溶媒中で金塩と還元剤と分散剤とを混合することで金コロイド粒子を合成する金コロイド合成工程と、前記金コロイド合成で生成した前記金コロイド粒子を含む反応液に、金塩と還元剤とを添加し、前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末造粒工程とを含み、前記金コロイド合成工程で混合する分散剤として、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含む分散剤を混合する金粉末の製造方法である。以下、本発明に係る金粉末の製造方法の各工程の内容について詳細に説明する。
【0018】
(a)金コロイド合成工程
上記のとおり、金コロイド合成工程は、金粉末の核となる金コロイド粒子を湿式還元法に基づき合成する工程である。金コロイド合成工程では、溶媒中で分散剤の共存下で金塩と還元剤とを反応させて金を還元析出する。原料となる金塩としては、塩化金酸塩、亜硫酸金、シアン化金等が挙げられる。また、還元剤としては塩化ヒドロキシルアンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボロン、クエン酸三ナトリウム二水和物等を適用することができる。これらは溶液の形態で混合することができる。
【0019】
そして、分散剤は、炭素数が16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤を含むものである。分散剤として界面活性剤を適用し、その炭素数を制限することで、その後の金粉末造粒工程で形成される金粉末の粒度分布を狭いものとすることができる。ここで、分散剤である界面活性剤のアルキル基の炭素数と粒度分布との関係について詳細に説明する。
【0020】
金コロイド合成工程において分散剤は、還元析出して生成した金コロイド粒子と結合し、その状態でその後の金粉末造粒工程に供される。また、後述するように、金コロイド合成工程で得られた金コロイド粒子を含む反応液は、その全部又は一部を金粉末造粒工程に供するのが好ましい。このとき、金コロイド粒子と結合していない分散剤は、金粉末造粒工程における溶媒中に含まれる。つまり、金コロイド合成工程においてのみ分散剤を使用したとしても、分散剤は金粉末造粒工程の反応液中にも存在しており、金コロイド粒子から金粉末への成長プロセスに関与していると考えられる。そこで、本発明者等は、金コロイド合成工程及び金粉末造粒工程のそれぞれおける、分散剤となる界面活性剤のアルキル基の炭素数の影響について検討し、以下の(i)、(ii)の知見を得ている。
【0021】
(i)金属コロイド合成工程において、アルキル基の炭素数が小さい界面活性剤の使用の下では、粗大な金コロイド粒子が生成されやすく、粒度分布を広くする傾向がある。
そして、使用する界面活性剤のアルキル基の炭素数が大きくなるに従って、金コロイド粒子の粒子径は小さくなる傾向がある。生成する金コロイド粒子の粒子径が小さいということは、その粒子数が増加することを意味する。更に、界面活性剤の炭素数の増大と共に粒径分布は狭くなり、粒径のばらつきが少ない金コロイド粒子が生成される。
(ii)金粉末造粒工程では、アルキル基の炭素数が大きい界面活性剤は、新たな核生成を抑制する作用を有する。これとは逆に、アルキル基の炭素数が小さい界面活性剤を使用したときは、金粉末造粒工程での新たな核生成は抑制されない。
【0022】
金粉末の粒度分布の改善を図るためには、金コロイド合成工程で粒子径が揃った金コロイド粒子を生成し、これをその後の金粉末造粒工程で成長させるべきである。また、金コロイド合成工程で小粒径の金コロイド粒子を多数生成させることで、金粉末造粒工程で金コロイド粒子が触媒作用を有効に発揮し、均一な粒成長を促して粒径が揃った金粉末を形成することができる。従って、金コロイド合成工程では、炭素数が大きいアルキル基を有する界面活性剤を適用すべきである。
【0023】
そして、金粉末造粒工程においては、金粉末の成長中に新たな核生成による微小粒子の生成は回避されるべきである。即ち、金粉末の粒度分布の改善のためには、金粉末造粒工程でも炭素数が大きいアルキル基を有する界面活性剤を適用すべきであるといえる。
【0024】
本発明者等は、金コロイド合成工程と金粉末造粒工程において、上記の好適な作用を有する界面活性剤のアルキル基の炭素数の範囲は16以上18以下であるとした。炭素数16未満のアルキル基を有する界面活性剤を金コロイド合成工程で適用し、この界面活性剤が金粉末造粒工程の反応系内にあると、新たな核生成が生じ金粉末の粒度分布にばらつきが生じやすくなる。
【0025】
一方、アルキル基の炭素数の上限を18とするのは、溶媒に対する分散剤の溶解性の低下に起因する粒度分布の悪化を回避するためである。金コロイド合成工程及び金粉末造粒工程の反応液の溶媒としては水が使用されることが多い。水への溶解度が低い分散剤は、金コロイド粒子の凝集の要因となると共に、金コロイド合成工程及び金粉末造粒工程での不均一反応の要因にもなり粒度分布にばらつきを生じさせる。溶媒への溶解性の具体的基準としては、20℃の水への溶解度が0.1g/100g以上であること、及び、後述する好ましい反応温度である80℃以上の水への溶解度が0.5g/100g以上であることが挙げられる。炭素数18を超えるアルキル基を有する界面活性は、水への溶解度が低く、前記した具体的基準を具備しない化合物が多い。そのため、アルキル基の炭素数の上限を18とした。
【0026】
以上説明した検討結果及び知見に基づき、本発明では分散剤として適用する界面活性剤のアルキル基の炭素数を16以上18以下と設定している。これらの条件を具備する本発明に好適な界面活性剤としては、カチオン界面活性剤であるアルキルアミン塩及び第四級アンモニウム塩が挙げられる。そして、上記した炭素数の範囲に基づくと、具体的な界面活性剤は、アルキルアミン塩としては、ヘキサデシルアミン酢酸塩(アルキル基炭素数16)、へプタデシルアミン酢酸塩(アルキル基炭素数17)、オクタデシルアミン酢酸塩(アルキル基炭素数18)、ヘキサデシルアミン塩酸塩(アルキル基炭素数16)、へプタデシルアミン塩酸塩(アルキル基炭素数17)、オクタデシルアミン塩酸塩(アルキル基炭素数18)等が挙げられる。また、第四級アンモニウム塩としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩(アルキル基炭素数16)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウム塩(アルキル基炭素数17)、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩(アルキル基炭素数18)等が挙げられる。
【0027】
金コロイド合成工程で反応系に混合する分散剤としては、上記の炭素数16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤のみを添加することが好ましいが、他の分散剤を混合状態で添加しても良い。このときに他の分散剤としては、炭素数16未満のアルキル基を有する界面活性剤(アルキルアミン酢酸塩、アルキルアミン塩酸塩等)が挙げられる。但し、上述した金粉末の粒度分布の改善作用を考慮すれば、他の分散剤の添加は制限されるべきである。具体的には、炭素数16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤が、分散剤全体の質量に対して90質量%以上となるようにすることが好ましい。尚、炭素数16以上18以下のアルキル基を有する界面活性剤として、この炭素数の範囲内の化合物を複数添加することができる良い。
【0028】
以上の説明による分散剤を金塩と還元剤と混合することで金コロイド粒子が合成される。分散剤の混合も水溶液の状態で混合することができる。これらの混合の順序は特に限定されず、例えば、分散剤と還元剤との混合溶液に金塩(溶液)を添加する等ができる。
【0029】
金コロイド合成工程における好ましい反応液の構成としては、反応液に含まれる金濃度を0.01g/L以上1g/L以下とするのが好ましく、0.01g/L以上0.1g/L以下とするのがより好ましい。反応液の金濃度を低くすることで均一な金コロイド粒子を形成できるが、金濃度が低過ぎるとコロイド生成反応が進行し難くなることから前記範囲が好ましい。また、還元剤の量は、反応液中の金のモル濃度に対して10倍以上20倍以下とするのが好ましい。還元剤濃度については、高濃度とすることで均一な金コロイド粒子が合成される傾向があるものの、過剰に高濃度とすると未反応の還元剤が生じて粒子の凝集を引き起こすおそれがある。そして、分散剤の濃度は、0.1g/L以上10g/L以下とするのが好ましい。0.1g/L未満では、分散剤としての作用が発揮されず、10g/Lを超えても分散剤としての作用に影響はない。分散剤の濃度は、1g/L以上10g/L以下とするのがより好ましい。
【0030】
また、金コロイド粒子合成の反応条件については、反応温度は80℃以上90℃以下とするのが好ましい。80℃未満では金コロイド粒子の生成反応が進行し難くなり、90℃を超えても反応性に変化はなく、反応液の蒸発が顕著になる等の製造上の問題が生じるおそれがある。
【0031】
(b)金粉末造粒工程
金粉末造粒工程は、上記金コロイド合成工程で合成した金コロイド粒子を成長させて金粉末を生成(造粒)する工程である。金粉末造粒工程では、金コロイド合成工程における反応液をそのまま全部を使用しても良い。また、金コロイド合成工程における反応液の一部を抜き出し、抜き出された反応液を金粉末造粒工程に供しても良い。金粉末造粒工程で使用する前記反応液の量(抜き出し量)は、この工程のスタート段階における金コロイド粒子の粒子数に影響を及ぼす。金粉末造粒工程の金コロイド粒子の粒子数の大小は、製造される金粉末の平均粒子径を変化させる。
【0032】
即ち、上記のように、炭素数が多いアルキル基を有する界面活性剤の使用により、金コロイド合成工程では粒子径の小さい金コロイド粒子が形成される。これは、原料(金塩)の使用量が同じとすれば、炭素数の少ない界面活性剤を使用する場合より多数の金コロイド粒子が生成されることに繋がる。一方、金粉末造粒工程において、金コロイド粒子の粒子数が多くなれば、この工程で添加される金塩(金イオン)が、反応液中の金コロイド粒子の全体に供給される。そのため、金コロイド粒子の粒子数が多い場合、個々の粒子の成長速度は低下するため、金粉末の平均粒子径が小さくなる傾向を示す。特に、本発明では、金粉末造粒工程での新たな核生成が抑制されており、その傾向はより顕著となる。よって、製造される金粉末の平均粒子径を小粒子径側にするためには、金コロイド粒子の粒子数が多い状態、即ち、金コロイド合成工程における反応液をそのまま(全部)又は大部分を抜き出して金粉末造粒工程に供すれば良い。一方で製造される金粉末の平均粒子径を粗大径側にするためには、金コロイド粒子の粒子数を少なくするため、金コロイド合成工程における反応液の一部を抜き出し、これを金粉末造粒工程に供すれば良い。このように、本発明では、金コロイド合成工程で得られた反応液の一部又は全部を使用し、金コロイド粒子の粒子数を調整することで、金粉末の平均粒子径を制御しながら粒度分布を改善することが可能である。
【0033】
このように、金粉末造粒工程では、金コロイド合成工程における反応液の全部又は一部に金塩と還元剤を混合し、金を析出させながら金コロイド粒子を成長させる。ここで混合する金塩と還元剤については、金コロイド合成工程と同様のものが使用でき、その具体的化合物は上記で挙げたとおりである。金粉末造粒工程と金コロイド合成工程で同じ化合物を使用しても良いし、上記した好ましい化合物の範囲で異なる化合物を使用しても良い。
【0034】
そして、金粉末造粒工程においては分散剤の添加は必須ではない。金コロイド合成工程の反応液中の分散剤は、金コロイド粒子に結合するが、一部の分散剤は未結合の状態で反応液に含まれている。本発明では、金コロイド合成工程における反応液の全部又は一部が金粉末造粒工程の反応液を形成するので、当該反応液には分散剤も含まれている。そして、この分散剤は、金コロイド粒子が金粉末に成長する過程で金粉末に作用する。従って、金粉末造粒工程での分散剤の添加は必須ではない。特に、金コロイド合成工程における反応液の全量を金粉末造粒工程に供する場合には分散剤の混合は不要となることが多い。
【0035】
但し、金粉末造粒工程において分散剤を添加しても良い。例えば、金コロイド合成工程における反応液の一部を金粉末造粒工程に供する場合には、金粉末造粒工程で分散剤を補足するために混合することができる。
【0036】
金粉末造粒工程における反応液の好ましい構成は、金濃度は10g/L以上150g/L以下とするのが好ましい。金粉末造粒工程で添加する金塩は、微細な金コロイド粒子を所定の平均粒子径の金粉末に成長させるための前駆体である。よって、金粉末造粒工程における金濃度は、製造目的の金粉末の平均粒子径に応じて設定できる。但し、過剰の金濃度は、不均一な核生成を生じさせるおそれがあることから前記の範囲が好ましい。尚、金粉末造粒工程の反応液における金濃度とは、金粉末造粒工程で添加する金塩中の金の質量と核となる金コロイド粒子の質量の合計とする。また、還元剤量は、反応液中の金のモル濃度に対して2.5倍以上5倍以下で混合することが好ましい。還元剤が少な過ぎる場合、未反応の金塩が残留するおそれがある。また、還元剤が多過ぎると、急激な反応になり易く、粒子径を制御しにくくなるだけでなく安全で安定した製造にも支障をきたすことがある。
【0037】
そして、金粉末造粒工程の反応液における分散剤の濃度は、反応液中の金濃度に対して、1/80倍以上1/6倍以下とするのが好ましく、1/18倍以下がより好ましい。上述した金コロイド合成工程における好適条件では、反応液中の分散剤の濃度は金濃度に対して高い比率となる。これは、分散剤の前提的な作用である凝集抑制の効果を確保した上で金コロイド粒子の粒度分布を改良するためである。一方、金粉末造粒工程における分散剤の作用は、金粉末の粒度分布の維持が主となる。このことから、金粉末造粒工程においては、金濃度に対する分散剤の濃度を高くする必要はない。また、本発明者等の検討によれば、本発明で必須的に適用される炭素数の大きい(炭素数16以上)のアルキル基を有する界面活性剤は、金粉末の成長過程で過剰に存在すると、粒子形状を悪化させてアスペクト比の大きい金粉末を形成する傾向がある。これらの理由から、金粉末造粒工程の反応液の分散剤の濃度は金濃度よりも低くして前記の範囲にすることが好ましい。また、前記と同様の理由から、金コロイド合成工程の反応液における分散剤の濃度値を基準として粉末造粒工程の反応液における分散剤の濃度値を決定する場合には、1/50倍以上2倍以下とするのが好ましく、1倍以下がより好ましい。
【0038】
金粉末造粒工程は、ナノオーダーの金コロイド粒子をサブミクロンオーダーの金粉末に成長させる工程である。この目的のためには反応液に相当量の金塩を添加し金濃度を高くする必要がある。金粉末造粒工程で分散剤の添加を任意的にするのは、この工程で増大した金濃度に対して分散剤を添加した方が好ましい場合があることを考慮したからである。但し、金属粉末造粒工程で分散剤を添加する場合であっても、上記の理由から、その濃度範囲は上記の範囲内に調整することが好ましい。金属粉末造粒工程における分散剤の添加の要否は、金コロイド合成工程の反応液の分取の有無及びその量と、上記した分散剤濃度の好適条件とを考慮して判断することが好ましい。また、分散剤等の濃度調整や反応液の取扱い性の確保のための液量調整等を目的として溶媒(水)を添加しても良い。尚、金粉末造粒工程の反応液における分散剤の濃度は、反応液に含まれる分散剤の全量を基準として算出され、金コロイド粒子との結合の有無は問わない。
【0039】
金粉末造粒工程の反応温度は80℃以上90℃以下とするのが好ましい。その理由は、80℃未満では金塩や還元剤の量等の条件が好適であっても未反応の金塩が残ることがある。90℃以上の温度では、急激な反応になり易くなり、安定した金粉末の製造に支障をきたすことがあるためである。
【0040】
以上の金粉末造粒工程により、目的とする平均粒子径・粒度分布の金粉末が製造される。その後は、金粉末を回収し、アルコール等で適宜に洗浄することで金粉末を得ることができる。また、この金粉末については、特許文献2に記載された塩素除去のためのシアン溶液による処理の後処理を行っても良い。
【0041】
C.本発明に係る金粉末による金ペースト
上記した金粉末と分散媒である有機溶剤と混合することで、本発明に係る金ペーストを形成する。金ペーストの製造において、金粉末と有機溶剤との混合は、室温下で行うことができる。また、上記の添加剤を添加する場合には、金粉末と有機溶剤と同時又は金粉末と有機溶剤とを混合した後に添加すれば良い。
【0042】
金ペースト中における金粉末の含有量は、質量基準(ペースト全体の質量を基準とする)で80質量%以上99質量%以下であることが好ましい。80質量%未満であると、ペースト塗布時等の工程でペーストから溶剤が滲み出るブリードが発生する可能性があり、更に、昇温中にボイドが発生することで好適な結合状態の接合部が得難くなる。また、99質量%を超えると金粉末の凝集が生じる場合がある。金粉末の含有量は、87~96質量%がより好ましい。
【0043】
分散媒となる有機溶剤として好ましいのは、沸点200~400℃(大気圧下)のも有機溶剤である。有機溶剤の沸点が200℃未満であると、蒸発速度が速すぎて金属粒子が凝集する可能性があり、また、ペースト塗布の段階から揮発する可能性があり取り扱いが難しくなる。一方、沸点が400℃を超える有機溶剤は、加熱後であっても接合部に残留する可能性がある。
【0044】
本発明で利用可能な有機溶剤の具体例としては、分岐鎖状飽和脂肪族2価アルコール類、モノテルペンアルコール類が好ましい。より具体的には、分岐鎖状飽和脂肪族2価アルコールとしては、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及び、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールといったこれらの誘導体等が用いられる。また、モノテルペンアルコールとしては、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、メントール、テルピネオール(α、β)、カルベオール、ツイルアルコール、ピノカンフェオール、β-フェンチルアルコール、ジメチルオクタノール、ヒドロキシシトロネロール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、及び、これらの誘導体等が用いられる。また、一価のカルボン酸と多価アルコールとの縮合反応より得られる化合物も有効であり、例えば、トリエチレングリコール・ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール・ジ-2-エチルプタノエートがある。尚、有機溶剤の沸点は、その炭素数に依存する傾向があるため、適用する溶剤はそれぞれ炭素数5~20であるものが好ましい。この観点から、芳香族炭化水素でも良く、例えばアルキルベンゼンも機能的に問題ない。
【0045】
有機溶剤は、1種類の有機溶剤を適用しても良いが、沸点の相違する2種以上の有機溶剤を混合したものを適用しても良い。有機溶剤を低沸点と高沸点の溶剤で構成することで、金属粒子の含有率調整の処理において、低沸点側の有機溶剤を揮発除去させて、調整を容易なものとすることができるからである。
【0046】
尚、本発明に係る金ペーストは、基本的構成として金粉末と有機溶剤の2つの構成要素からなるが、適宜に添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキッド樹脂から選択される一種以上を含有することがある。これらの樹脂等を更に加えるとペースト中の金粉末の凝集が防止されてより均質な接合部が形成できる。尚、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル重合体を、セルロース系樹脂としては、エチルセルロースを、アルキッド樹脂としては、無水フタル酸樹脂を、それぞれ挙げることができる。そして、これらの中でも特にエチルセルロースが好ましい。
【0047】
本発明に係る金ペーストは、エレクトロニクス分野等における接合、封止、電極・バンプ・配線形成の各種用途に有効である。これらの用途に供するとき、本発明に係る金ペーストを基板や被接合材等の対象物に塗布及び乾燥する。この金属粉末からなる乾燥体が接合材料、封止材料、バンプの前駆体となる。
【0048】
そして金属粉末の乾燥体をその用途に応じた状態にした後、加熱・加圧することで金属粉末を焼結させる。例えば、金属ペーストの塗布・乾燥でバンプ状の接合材料を形成し、その上に半導体素子・チップを載置して、加熱・加圧することで金の焼結体による接合部が形成される。この焼結のための加熱温度は150℃以上300℃以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
以上説明したように、本発明は、粒度分布が改善され粒子径のばらつきのない金粉末である。本発明に係る金粉末は、従来技術に対して高品位な金粉末であり、焼結特性や分散液(金ペースト)としたときの特性に優れる。本発明に係る金粉末は、湿式還元法における分散剤の最適化により製造可能であり、この製造方法は金粉末の平均粒子径の制御も可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施例1~4及び比較例の金粉末のSEM像。
【
図2】実施例1~4及び比較例の金粉末の粒度分布を示すグラフ。
【
図3】実施例1と比較例の金粉末のTMA分析の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、上述した湿式還元法(金コロイド合成工程と金粉末造粒工程)において、分散剤として炭素数16のヘキサデシルアミン酢酸塩を適用し、平均粒子径を制御しながら4パターンの平均粒子径を有する金粉末を製造した。
【0052】
実施例1:この実施例1では、平均粒子径が小さい(約0.2μm以下)の金粉末を製造した。
【0053】
[金コロイド合成工程]
分散剤であるヘキサデシルアミン酢酸塩0.48gを19.2mLの純水に溶かした溶液と、還元剤である塩化ヒドロキシルアンモニウム0.024gを5.0mLの純水に溶かした溶液を純水220mLに加え、80℃で加熱・撹拌して溶解した。この溶液に、塩化金酸の水溶液4.5mL(Au量0.0048g(5.4mM))を混合し1時間80℃を保持して撹拌した。これにより、赤色透明の金コロイド粒子の溶液を得た。透過型電子顕微鏡により観察したところ、この金コロイド粒子の平均粒子径は10.3nmであった。
【0054】
[金粉末造粒工程]
上記の金コロイド粒子の溶液(反応液)の全量に、反応液の液量調整のため純水466.4mLを添加した。そして、塩化ヒドロキシルアンモニウム40gを約200mLの純水に溶かした溶液を添加した。その後、液温が80℃に安定した状態で、造粒用の金塩である塩化金酸の水溶液100mL(Au量22g(1120mM))を添加し、30分間撹拌して金粉末を製造し、金粉末を回収した。
【0055】
実施例2:この実施例では、金コロイド合成工程で作製した反応液の分取を行いつつ、平均粒子径が中程度(0.25μm前後)の金粉末を製造した。
[金コロイド合成工程]
分散剤であるヘキサデシルアミン酢酸塩0.32gを12.8mLの純水に溶かした溶液と、還元剤である塩化ヒドロキシルアンモニウム0.016gを5.0mLの純水に溶かした溶液を純水147.2mLに加え、80℃で加熱・撹拌して溶解した。この溶液に塩化金酸の水溶液4.5mL(Au量0.0032g(3.6mM))を混合し1時間80℃を保持して撹拌した。これにより、赤色透明の金コロイド粒子の溶液を得た。透過型電子顕微鏡により観察したところ、この金コロイド粒子の平均粒子径は11.9nmであった。そして、この反応液の一部(110mL)を抜き出して次の金粉末造粒工程に供した。
【0056】
[金粉末造粒工程]
金コロイド粒子の溶液110mLに、ヘキサデシルアミン酢酸塩0.104gを純水59.5mLに溶解させた溶液を添加した。そして、反応液の液量の調整にための純水540mLを添加し、塩化ヒドロキシルアンモニウム40gを約200mLの純水に溶かした溶液を添加した。尚、本実施例の金粉末造粒工程の反応液への分散剤の添加は、金コロイド工程の反応液の分取による分散剤の減少分を補うためである。その後、液温が80℃に安定した状態で、造粒用の金塩である塩化金酸の水溶液100mL(Au量22g(1120mM):実施例1と同量である)を添加し、30分間撹拌して金粉末を製造し、金粉末を回収した。
【0057】
実施例3:この実施例では、平均粒子径が実施例2よりやや大きい(0.3μm以上)の金粉末を製造した。
[金コロイド合成工程]
分散剤であるヘキサデシルアミン酢酸塩0.32gを12.8mLの純水に溶かした溶液と還元剤である塩化ヒドロキシルアンモニウム0.016gを5.0mLの純水に溶かした溶液を純水147.2mLに加え、80℃で加熱・撹拌して溶解した。この溶液に塩化金酸の水溶液4.5mL(Au量0.0096g(10.8mM))を混合し1時間80℃を保持して撹拌した。これにより、赤色透明の金コロイド粒子の溶液を得た。透過型電子顕微鏡により観察したところ、この金コロイド粒子の平均粒子径は10.1nmであった。そして、その反応液の一部(8mL)を抜き出して金粉末造粒工程に供した。
【0058】
[金粉末造粒工程]
金コロイド粒子の溶液8mLに、ヘキサデシルアミン酢酸塩1.064gを純水160mLに溶解させた溶液を添加した。そして、反応液の液量の調整のために純水540mLを添加し、塩化ヒドロキシルアンモニウム40gを約200mLの純水に溶かした溶液を添加した。その後、液温が80℃に安定した状態で、造粒用の金塩である塩化金酸の水溶液100mL(Au量22g(1120mM):実施例1と同量である)を添加し、30分間撹拌して金粉末を製造し、金粉末を回収した。
【0059】
実施例4:この実施例では、実施例2と同じ金コロイド粒子を使用して平均粒子径が大きい(0.5μm以下)の金粉末を製造した。実施例2と同じ条件で金コロイド合成工程を実施し、その反応液の一部(25.8mL)を抜き出し、下記の金粉末造粒工程に供した。
【0060】
[金粉末造粒工程]
金コロイド粒子の溶液25.8mLに、ヘキサデシルアミン酢酸塩0.272gを純水144mLに溶解させた溶液を添加した。そして、反応液の液量調整のため純水540mLを添加し、塩化ヒドロキシルアンモニウム40gを約200mLの純水に溶かした溶液を添加した。その後、液温が80℃に安定した状態で、造粒用の金塩である塩化金酸の水溶液100mL(Au量22g(1120mM):実施例1と同じ量である)を添加し、30分間撹拌して金粉末を製造し、金粉末を回収した。
【0061】
比較例:上記実施例1~4との対比のため、コロイド粒子合成工程及び金粉末造粒工程の基本的な条件は同様としつつ、分散剤として炭素数14のアルキルアミン塩(テトラデシルアミン酢酸塩)を使用して金粉末を製造した。尚、比較例の金粉末の平均粒子径の目標としては、実施例3(0.3μm以上)と同程度を設定している。
【0062】
[金コロイド合成工程]
分散剤としてテトラデシルアミン酢酸塩0.32gを12.8mLの純水に溶かした溶液と塩化ヒドロキシルアンモニウム0.016gを5.0mLの純水に溶かした溶液を純水147.2mLに加え、80℃で加熱・撹拌して溶解した。この溶液に塩化金酸の水溶液4.5mL(Au量0.0064g(7.2mM))を混合し1時間、80℃を保持して撹拌した。これにより、紫色透明の金コロイド粒子の溶液を得た。透過型電子顕微鏡により観察したところ、この金コロイド粒子の平均粒子径は12.0nmであった。
【0063】
[金粉末造粒工程]
上記の金コロイド粒子の溶液(反応液)の全量に、追加溶媒として純粋437.6mLを添加した。そして、トラデシルアミン酢酸塩2.56gを102.4mLの純水に溶かしたものを添加し、さらに塩化ヒドロキシルアンモニウム20gを約200mLの純水に溶かして添加した。その後、液温が80℃に安定した状態で、造粒用の金塩である塩化金酸の水溶液100mL(Au量22g(1120mM))を添加し、30分間撹拌して金粉末を製造した。その後、金粉末を回収した。
【0064】
本実施形態で製造した実施例1~4と比較例の金粉末について、金コロイド合成工程と金粉末造粒工程の反応液の構成を纏めたものを表1に示す。
【0065】
【0066】
[金粉末の平均粒子径及び粒度分布の測定]
以上で製造した実施例1~4及び比較例の金粉末について平均粒子径及び粒度分布の測定を行った。この測定では、金粉末のSEM像(倍率30000倍)を撮像し、SEM像を画像解析ソフトウエア(使用ソフトウエア:格式会社ライトストーン製 MIPAR)を用いて金粉末粒子(400個以上)の粒子径(最大フェレ径)を測定した。そして、金粉末の数平均粒子径(MN)と体積平均粒子径(MV)を算出した。更に、測定データをもとに各粒子径の標準偏差と粒度分布も測定した。
【0067】
実施例1~4及び比較例の金粉末のSEM像を
図1に示す。そして、各金粉末の粒度分布を示すグラフを
図2に示す。
図1から、実施例1~4の金粉末は、いずれも整った形状の球形粒子であることが分かる。比較例の金粉末も形状は球形であるが、実施例1~4の金粉末と対比すると画像による対比からでも粒子径にばらつきがみられることが分かる。そして、
図2の各金粉末の粒度分布を参照すると、実施例1~4の金粉末は、粒子径が揃った極めて良好な粒度分布を呈しているといえる。これらの金粉末は、数平均粒子径(M
N)に加えて体積平均粒子径(M
V)の分布においても良好であった。これに対して比較例の金粉末は、画像で確認されたのと同様、大小の粒子が混在した状態である。実施例1~4及び比較例の金粉末の平均粒子径M
N及びM
Vとそれぞれの変動係数(ρ
N/M
N、ρ
v/M
N)をまとめると下記表2のとおりとなる。
【0068】
【0069】
粒度分布の良否は、
図1の写真からおおよその傾向が伺えたが、詳細な測定結果を示す表2を参照するとより明確となる。実施例1~実施例4の金粉末は、平均粒子径M
Nの変動係数が18%以下であり、粒子径のばらつきの少ないことが確認される。また、各実施例の金粉末は、平均粒子径M
Vの変動係数についても18%以下となっていた。これに対し、比較例の金粉末は平均粒子径M
Nの変動係数は38%と各実施例に対して相当に粒子径のばらつきがあることが分かる。
【0070】
[金粉末の特性評価]
次に、実施例1~4及び比較例の金粉末についての特性を対比・評価するため、金粉末ら金ペーストを製造した。金ペーストは、有機溶剤としてメンタノール(ジヒドロターピネオール)を金粉末に混合して製造した。有機溶剤の配合割合は10重量%とした。
【0071】
そして、作製した金ペースト(金粉末)の評価として、金ペーストを焼結させた焼結体の抵抗値の測定を行った。直径2インチの円盤状のAl2O3プレートを基板とし、ここに厚さ350μmで5mm×20mmの矩形の孔を備えるメタルマスク(ステンレス製)を孔が基板中央に位置するように被せた。そして、メタルマスク上に金ペーストを滴下してスキージで塗り広げて孔内部に金ペーストを塗布・充填した。その後余分なペーストを拭き取り、メタルマスクを取り除いた後に金ペーストを100℃で1時間加熱して乾燥させた後に230℃で30分加熱して焼結した。そして、焼結体の体積抵抗率を抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製 ロレスタGP MCP-T610)で測定した。尚、焼結体の抵抗値の評価に関しては、粒子径が近い金粉末の焼結体を対比すべきであることから、抵抗値の測定・対比は実施例1~実施例3と比較例の金粉末による金ペーストについて行った。この測定結果を表3に示す。
【0072】
【0073】
比較例の金粉末(MN=0.229μm)と実施例1の金粉末(MN=0.170μm)及び実施例2の金粉末(MN=0.254μm)とを対比すると、いずれも比較例の体積抵抗率が低くなっている。また、実施例3の金粉末(MN=0.311μm)は、比較例よりも明確に平均粒子径が大きい金粉末であるが、比較例よりも低抵抗であった。これらから、粒度分布の改善により低抵抗の焼結体を形成できることが分かる。
【0074】
次に、乾燥・焼結の際の加熱過程における金粉末の挙動を検討するため、実施例1(M
N=0.170μm)の金粉末と比較例の金粉末(M
N=0.229μm)について、TMA分析(Thermomechanical Analysis:熱機械分析)を行った。TMA分析では、金粉末を分析装置(株式会社リガク製 Thermo plus
EVO2 TMAシリーズ)のサンプルパン(φ5.5mm、高さ10mm)に充填し、上部から圧縮プローブを接触させた状態で加熱してプローブの変位量を測定している。この分析結果を
図3に示す。
【0075】
図3のTMA分析の結果において、焼結が完了したときの最終的な変位量は、金粉末の平均粒子径が小さい程大きくなるので実施例1と比較例とでは比較できない。ここで着目すべきは、変位挙動の相違である。実施例1の金粉末は、100℃を超えた辺りから温度上昇と共に変位量が比較的リニアに増大している。これに対して比較例の金粉末では、100℃から約280℃までの変位量が少なく280℃近傍から急激に変位量が増大する。こうした挙動の相違は、実施例1の金粉末の方が低温で焼結を開始すると共に均等に緻密化していることに起因すると考えられる。従って、金粉末の粒度分布の改善により、加熱時の粒子の挙動を均等にしつつ低温焼結性を向上させることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る金粉末は、粒子径のばらつきの少ない粒度分布に優れた金粉末である。本発明の金粉末は、粒度分布の良化により、焼結特性に優れ、焼結開始温度の緻密制御を可能にする。そして、本発明に係る金粉末の製造方法は、金粉末の核となる金コロイド粒子を合成する際の分散剤の好適化により前記の粒度分布の改善に寄与する。本発明に係る金ペーストは、低温焼結性は維持しながら、前記特性を有する。そして、本発明に係る金ペーストは、電気・電子部品、半導体デバイス、半導体素子、パワーデバイス、MEMS等の各種用途における接合・封止・電極・配線形成の各プロセスに有用である。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9質量%以上の金からなる金粉末において、
前記金粉末の少なくとも一部に、必須の分散剤成分である炭素数16以上18以下のアルキルアミン塩又は第四級アンモニウム塩が少なくとも1種結合しており、
前記金粉末は、平均粒子径が0.1μm以上0.5μm以下であり、且つ、粒子径の変動係数が18%以下であることを特徴とする金粉末。
【請求項2】
請求項1記載の金粉末と有機溶剤とからなる金ペースト。
【請求項3】
請求項1記載の金粉末の製造方法であって、
溶媒中で金塩と還元剤と分散剤とを混合することで金コロイド粒子を合成する金コロイド合成工程と、
前記金コロイド合成で生成した前記金コロイド粒子を含む反応液に、金塩及び還元剤を添加し、前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末造粒工程と、を含み、
前記金コロイド合成工程で混合する分散剤として、炭素数が16以上18以下のアルキルアミン塩又は第四級アンモニウム塩からなる分散剤を混合し、
前記金粉末造粒工程で、前記金コロイド粒子を含む反応液の全量に金塩及び還元剤を添加する金粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の金粉末の製造方法であって、
溶媒中で金塩と還元剤と分散剤とを混合することで金コロイド粒子を合成する金コロイド合成工程と、
前記金コロイド合成で生成した前記金コロイド粒子を含む反応液に、金塩及び還元剤を添加し、前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末造粒工程と、を含み、
前記金コロイド合成工程で混合する分散剤として、炭素数が16以上18以下のアルキルアミン塩又は第四級アンモニウム塩からなる分散剤を混合し、
前記金粉末造粒工程で、金コロイド合成工程で生成した金コロイド粒子を含む反応液から一部の反応液を抜き出し、
前記一部の反応液に金塩と還元剤とを添加すると共に、炭素数が16以上18以下のアルキルアミン塩又は第四級アンモニウム塩からなる分散剤を添加して前記金コロイド粒子を金粉末とする金粉末の製造方法。
【請求項5】
金粉末造粒工程における反応液の分散剤濃度が、前記反応液中の金濃度の1/6倍以下であり、且つ、金コロイド合成工程における反応液の分散剤濃度に対して2倍以下である請求項3又は請求項4記載の金粉末の製造方法。