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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072412
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 23/04 20060101AFI20240521BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240521BHJP
【FI】
B32B23/04
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183194
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】谷山 弘行
(72)【発明者】
【氏名】高木 幸治
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AJ06B
4F100AK01A
4F100AL06B
4F100AT00A
4F100DG00A
4F100EH46B
4F100EJ25
4F100EJ42B
4F100JB05B
4F100JD14
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】製膜性が良好であり、機能性付与が可能な積層体の提供。
【解決手段】グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、基材層と、を有する積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、基材層と、を有する積層体。
【請求項2】
前記機能層の表面の水接触角が50度以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記シラン変性ナノセルロースがセルロースナノクリスタルのアルコキシシラン変性体である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記シラン変性ナノセルロースが2種以上のアルコキシシランとナノセルロースとの反応物である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記2種以上のアルコキシシランがシラン化合物(A)及びシラン化合物(B)を少なくとも含み、
前記シラン化合物(A)がジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のグリシジル基を有するシラン化合物であり、
前記シラン化合物(B)がジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種のグリシジル基を有さないシラン化合物である、
請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記シラン化合物(A)が3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記シラン化合物(B)がテトラアルコキシシランである、請求項5に記載の積層体。
【請求項8】
前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)と前記シラン化合物(B)のモル比M/Mが1.0以上である、請求項5に記載の積層体。
ただし、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)のモル数であり、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(B)のモル数である
【請求項10】
前記機能層の厚みが10~1,000nmである、請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
前記基材層が樹脂フィルム、繊維状基材、又はガラス製基材である、請求項1に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サーキュラーエコノミー(持続可能社会)の観点から、植物由来材料を利用した高機能材料が注目されており、例えば、植物繊維を解繊してナノ化したセルロースナノマテリアルを適用した機能性材料の提案がなされている。
セルロースナノマテリアル表面を化学修飾した、化学修飾ナノセルロースマテリアルは、透明性や機能性付与に優れることから、さまざまな用途への適用が検討されている。
【0003】
特許文献1には、アルコキシシランと、炭素数1~4の低級アルコールと、セルロースナノファイバーを含有することを特徴とする親水性コーティング組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、特定のセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする親水性樹脂組成物が提案されている。
【0005】
非特許文献1には、グリシジル基含有シランカップリング剤をセルロースナノファイバーと反応させることで、非極性ポリマー中での分散性を改良することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-119073号公報
【特許文献2】特開2017-082202号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cabrera, I. C.、外4名、“Chemical functionalization of nano fibrillated cellulose by glycidyl silane coupling agents: A grafted silane network characterization study”、International Journal of Biological Macromolecules, 2020年, 第165巻, p.1773-1782
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている技術によれば、親水性の塗膜を形成できるが、親水性以外のさらなる機能性付与については言及されていない。
特許文献2に記載されている技術によっても親水性の塗膜を形成できるが、親水性及び弾性率以外のさらなる機能性付与については言及されていない。
非特許文献1には、グリシジル基含有シランカップリング剤による変性によって各種機能付与が期待できることが示唆されているが、基材との積層体は記載されておらず、実際に基材上に塗膜を形成しようとした場合には、製膜性に課題があった。
【0009】
本発明は、製膜性が良好であり、機能性付与が可能な積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、機能性付与の一例として、イオン吸着、油水分離又は低タンパク吸着性等の機能が付与できるアミノ基をナノセルロースに導入した塗膜の作製を試みたが、ナノセルロースとの反応よりもゾルゲル反応が優位となり、ナノセルロースの変性ができなかった。
そこで、グリシジル基をナノセルロースに導入してから後修飾で機能性を付与することを検討し、製膜性も改善することに成功した。
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
【0011】
[1] グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、基材層と、を有する積層体。
[2] 前記機能層の表面の水接触角が50度以下である、[1]に記載の積層体。
[3] 前記シラン変性ナノセルロースがセルロースナノクリスタルのアルコキシシラン変性体である、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 前記シラン変性ナノセルロースが2種以上のアルコキシシランとナノセルロースとの反応物である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 前記2種以上のアルコキシシランがシラン化合物(A)及びシラン化合物(B)を少なくとも含み、
前記シラン化合物(A)がジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のグリシジル基を有するシラン化合物であり、
前記シラン化合物(B)がジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種のグリシジル基を有さないシラン化合物である、
[4]に記載の積層体。
[6] 前記シラン化合物(A)が3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、[5]に記載の積層体。
[7] 前記シラン化合物(B)がテトラアルコキシシランである、[5]に記載の積層体。
[8] 前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の積層体。
[9] 前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)と前記シラン化合物(B)のモル比M/Mが1.0以上である、[5]~[8]のいずれかに記載の積層体。
ただし、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)のモル数であり、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(B)のモル数である
[10] 前記機能層の厚みが10~1,000nmである、[1]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11] 前記基材層が樹脂フィルム、繊維状基材、又はガラス製基材である、[1]~[10]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製膜性が良好であり、機能性付与が可能な積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
本発明において「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する(X及びYのそれぞれは実数である。)。すなわち、「X~Y」によって規定される数値範囲には、X及びYが含まれる。
また、本発明において、「X以上」によって規定される数値範囲は「X超」によって規定される数値範囲を包含し(Xは実数である。)、「Y以下」によって規定される数値範囲は「Y未満」によって規定される数値範囲を包含する(Yは実数である。)。
【0014】
<積層体>
本発明の実施形態の一例に係る積層体(以下「本積層体」ともいう)は、グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層(以下「本機能層」ともいう)と、基材層とを有する。
【0015】
本発明において「ナノセルロース」とは、セルロースを機械的処理又は化学的処理によってナノレベルまで解砕したものである。「ナノセルロース」を含有することは、電子顕微鏡での観察や、IR分光などによって判定することができる。
「シラン変性ナノセルロース」とは、ナノセルロースとシランとの反応物、例えば脱水縮合反応物を意味し、「シラン変性ナノセルロース」を含有することは、XPS元素分析などによって判定することができる。
【0016】
以下、本積層体を構成する各層について説明する。
【0017】
1.機能層
本積層体の機能層は、グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを主材として含有する。
ここで、主材とは、本機能層を構成する材料のうち最も質量割合の高い材料の意味である。例えば主材が本機能層を構成する材料に占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがいっそう好ましく、90質量%以上であることがよりいっそう好ましく、100質量%であってもよい。
なお、本機能層は、グリシジル基を有しないシラン変性ナノセルロース及び未変性ナノセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のナノセルロースを含んでいてもよい。この場合、本機能層を構成する材料に占める前記グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースの質量割合が、本機能層を構成する材料に占める前記グリシジル基を有しないシラン変性ナノセルロース及びは未変性ナノセルロースからなる群から選択される少なくとも1種ナノセルロースの質量割合よりも高いことが好ましい。
【0018】
本機能層の表面の水接触角は、特に限定されないが、表面親水性の観点から、60度以下であることが好ましく、50度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、40度以下であることがさらに好ましい。前記水接触角の下限は、特に限定されないが、通常、0度以上である。
なお、本機能層の表面の水接触角は、接触角計(協和化学(株)製、Drop Master500)を用いて、23℃、50%RH条件下にて、水滴体積を10μLとし、水滴滴下1秒後に測定を開始したときの測定開始後1秒後の測定値である。
【0019】
本機能層の表面粗さRa(ISO 25178-2:2012)は、特に限定されない。前記表面粗さRaの下限は、3.0nm以上が好ましく、3.5nm以上がより好ましい。前記表面粗さRaの上限は、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。前記表面粗さRaの範囲は、3.0~1000nmが好ましく、3.5~500nmがより好ましい。
本機能層の表面粗さRaが上記下限以上であると、本機能層の表面の水接触角がより小さくなり、本機能層の表面の親水性をより良好とすることができる。
本機能層の表面の凹凸構造は、例えば後述するゾルゲル反応及び相分離によって形成することができる。
なお、表面粗さRa(ISO 25178-2:2012)は、算術平均高さ、すなわち、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表し、例えば走査型白色干渉顕微鏡(菱化システム社製「VertScan(登録商標)」)を用いて測定することができる。
【0020】
本機能層の厚みは、特に限定されないが、塗膜の強度を良好にし、クラックを防ぐ観点から、10~1,000nmが好ましく、50~500nmがより好ましく、100~300nmがさらに好ましい。
【0021】
[機能層形成用組成物]
本機能層は、ナノセルロースと、2種以上のアルコキシシランとを含む機能層形成用組成物(以下、「本機能層形成用組成物」ともいう)から形成されることが好ましい。
前記2種以上のアルコキシシランは、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の、グリシジル基を有するシラン化合物(以下「シラン化合物(A)」ともいう。)と、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の、グリシジル基を有さないシラン化合物(以下「シラン化合物(B)」ともいう。)と、を含むことが好ましい。
【0022】
本発明において、本機能層の製膜性が良好となる原因は定かではないが、例えば前記シラン化合物(A)及び前記シラン化合物(B)を含む場合には、以下のことが考えられる。
前記シラン化合物(A)のみを前記ナノセルロースと反応させた場合、前記シラン化合物(A)は前記ナノセルロースの表面との縮合反応が優先的に起き、前記シラン化合物(A)間の縮合反応が起こりづらいため、造膜性が低下し、均一な膜が得られない。
一方、前記シラン化合物(A)及び前記シラン化合物(B)を併用して前記ナノセルロースと反応させると、前記ナノセルロースの表面と前記シラン化合物(B)の縮合反応が優先的に起こるが、前記シラン化合物(B)のアルコキシ基の官能基数が多いことから、前記シラン化合物(A)との反応も起こるため、製膜性が良好になると考えられる。
【0023】
以下、本機能層形成用組成物について説明する。
【0024】
(ナノセルロース)
本機能層形成用組成物が含有するナノセルロースとしては、例えば長い繊維状のセルロースナノファイバー(CNF)及び高結晶性であるセルロースナノクリスタル(CNC)を挙げることができる。前記ナノセルロースとしては、添加しても組成物の粘度が高くなりにくく、基材層への塗布時におけるハンドリング性が良好となる観点から、セルロースナノクリスタルが好ましい。
【0025】
前記ナノセルロースの平均繊維径は、特に限定されないが、機能層の透明性を良好にする観点から、0.1~100nmが好ましく、0.5~50nmがより好ましく、1~20nmがさらに好ましい。
また、前記ナノセルロースの平均繊維長は、特に限定されないが、機能層の透明性を良好にする観点から、1~1000nmが好ましく、5~500nmがより好ましく、10~200nmがさらに好ましい。
前記ナノセルロースの平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は、特に限定されないが、1~500が好ましく、10~200がより好ましく、20~100がさらに好ましい。平均アスペクト比が上記範囲内であると、機能層形成用組成物が増粘しにくく、取扱性が良好になる。
なお、前記ナノセルロースの平均繊維径、平均繊維長、及び平均アスペクト比は、前記ナノセルロースの水分散液中、又は機能層形成用塗布液中に分散した繊維を走査電子顕微鏡等で観察し、10個、好ましくは100個選択して測定した平均値より求めることができる。
【0026】
(シラン化合物(A))
前記シラン化合物(A)は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の、グリシジル基を有するシラン化合物である。
【0027】
前記シラン化合物(A)の非限定的な例として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
前記シラン化合物(A)としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記シラン化合物(A)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0028】
(シラン化合物(B))
前記シラン化合物(B)は、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の、グリシジル基を有さないシラン化合物である。
【0029】
前記ジアルコキシシランとしては、下記一般式(1)により表される化合物が好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基であり、RとRは互いに同じであっても異なっていてもよい。R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、RとRは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
前記ジアルコキシシランの非限定的な例として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、及びジメトキシメチル-n-オクチルシランが挙げられる。
前記ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、及びジメトキシメチル-n-オクチルシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記ジアルコキシシランは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0033】
前記トリアルコキシシランとしては、下記一般式(2)により表される化合物が好ましい。
【0034】
【化2】
【0035】
式(2)において、Rは炭素数1~8のアルキル基である。R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R~Rは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
前記トリアルコキシシランの非限定的な例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、及びアリルトリエトキシシランが挙げられる。
前記トリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、及びアリルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記トリアルコキシシランは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0037】
前記テトラアルコキシシランの非限定的な例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、及びテトラプロポキシシランが挙げられる。
前記テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、及びテトラプロポキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記テトラアルコキシシランは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0038】
本機能層形成用組成物は、前記シラン化合物(B)としてテトラアルコキシシランを含有することが好ましく、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することがより好ましい。
前記シラン化合物(B)としてテトラアルコキシシランを含有することで、前記機能層内の親水性基の割合が多くなるため、前記機能層の親水性をより良好にできる。
【0039】
本機能層形成用組成物において、前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)及び前記シラン化合物(B)のモル比M/Mは、特に限定されない。前記モル比M/Mの下限は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。また、前記モル比M/Mの上限は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。ただし、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(A)のモル数であり、Mは前記2種以上のアルコキシシランに含まれる前記シラン化合物(B)のモル数である。
前記モル比M/Mが前記下限以上であると、前記ナノセルロースにグリシジル基を十分に導入できるので、後修飾による前記機能層への機能性付与がよりしやすくなる。
また、前記モル比M/Mが前記上限以下であると、前記2種以上のアルコキシシランと前記ナノセルロースとの縮合及び相分離を十分に進行させることができるので、前記機能層の製膜性がより良好となる。
【0040】
(溶剤)
本機能層形成用組成物は、溶剤を含有してもよい。
前記溶剤として、前記ナノセルロースと前記アルコキシシランとの反応性及び前記機能層形成用組成物の基材層への塗布性の観点から、水、アルコール、又はこれらの混合液(以下、これらをまとめて「水/アルコール系」とも称する)が好ましい。
【0041】
前記溶剤として水/アルコール系を用いる場合、前記溶剤の100質量%中に対して、水は15~75質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
水の含有量が上記下限以上であると、本機能層形成用組成物における前記ナノセルロースの分散性がより良好になり、凝集しにくくなる。一方、水の含有量が上記上限以下であると、本機能層形成用組成物における前記アルコキシシランの縮合反応をより制御しやすくなる。
【0042】
(その他成分)
本機能層形成用組成物は、pH調整のため、塩基性物質を含んでいてもよい。前記塩基性物質の非限定的な例として、アンモニアが挙げられる。
本機能層形成用組成物のpHは、取扱いの安全性の観点から、7~12が好ましい。
【0043】
(各成分の含有量)
本機能層形成用組成物中の前記ナノセルロースの含有量は、特に限定されないが、0.1~5質量%が好ましく、0.2~3質量%がより好ましい。本機能層形成用組成物中の前記ナノセルロースの含有量が上記範囲内であると、本機能層形成用組成物の塗布量の制御がよりしやすく、粘度もより高くなりにくいため、基材層への塗布時におけるハンドリング性がより良好となる。
【0044】
また、本機能層形成用組成物中の前記アルコキシシランの含有量(前記シラン化合物(A)及び前記シラン化合物(B)を含有する場合は、その合計量)は、本機能層形成用組成物の100質量%に対して、1~20質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。前記アルコキシシランの含有量が上記範囲内であると、本機能層形成用組成物のポットライフ及び塗布方法の選択性がより良好となる。
【0045】
また、本機能層形成用組成物中の前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの含有質量比(アルコキシシラン/ナノセルロース)は、特に限定されないが、0.5~2.0であることが好ましく、0.8~1.5であることがより好ましい。前記含有質量比が上記範囲内であると、前記ナノセルロースにグリシジル基を十分に導入できるので、後修飾による前記機能層への機能性付与がしやすくなるうえ、前記アルコキシシラン同士の縮合反応によるゲル化がより起こりにくく、かつ、前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの脱水縮合反応がより良好に進行するので、製膜性が良好になる。
【0046】
2.基材層
本発明の基材層の材料は特に限定されないが、樹脂フィルム、繊維状基材、又はガラス製基材であることが好ましい。
【0047】
前記樹脂フィルムの非限定的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリウレタン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂からなるフィルムを挙げることができる。前記樹脂フィルムは、化学的発泡、物理的発泡、若しくは延伸多孔化等の多孔化処理が行われた多孔質フィルム、又は一軸若しくは二軸延伸処理が行われた延伸フィルム等であってもよい。
【0048】
前記繊維状基材の非限定的な例としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、又はポリ乳酸繊維等の化学繊維;綿、麻、絹、羊毛、又はこれらの混紡繊維等を用いた不織布、織布、若しくは編み物を挙げることができる。
【0049】
前記基材は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。前記基材が多層構造である場合の層構造は、2層構造又は3層構造でもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。前記基材が複数の層かからなる多層構造である場合は、前記複数の層は、同一の樹脂で構成されていてもよいし、異なる樹脂で構成されていてもよい。
【0050】
前記基材には、必要に応じて添加剤が加えられてもよい。例えば前記基材には、耐候性を付与することを意図して紫外線吸収剤を配合したり、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を意図して粒子を配合したりすることができる。また、必要に応じて、従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、及び顔料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を添加することができる。
【0051】
前記基材は、前記機能層が形成される面に、コロナ処理、プラズマ処理、又は濡れ性を調整するためのコーティング処理等の表面処理を施してもよい。
【0052】
3.他の層
本積層体は、前記機能層及び前記基材層以外の他の層を備えていてもよい。例えば、前記機能層と前記基材層との間、又は、前記基材層の前記機能層とは反対側に他の層を備えていてもよい。
前記他の層としては、例えばプライマー層、応力緩和層等、又は基材と機能層との密着性を良好にする層を挙げることができる。
【0053】
<積層体の製造方法>
次に、本発明の実施形態の一例に係る積層体の製造方法について説明する。
【0054】
本積層体の製造方法は、ナノセルロースと、アルコキシシランとを含む本機能層形成用組成物からなる塗布液を調製する、塗布液調製工程と、該塗布液を基材層に塗布して塗膜を形成する、塗膜形成工程と、該塗膜を加熱処理して、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層を得る、加熱処理工程と、を含む。
なお、本積層体の第一の製造方法は、上記工程を備えていれば、他の処理乃至工程を追加することは任意に可能である。
【0055】
また、本発明において「工程」とは、一連の製造ラインで行うものであっても、一連の製造ラインで行うものでなくてもよい。また、一つの工程における処理が断続的に行われていてもよく、その際、時間をおいたり、装置を変えたり、場所を変えたりして断続的に行うものであってもよい。また、他の工程と一連の製造ラインで行うものであってもよい。すなわち、同一装置で複数の工程を行うものであってもよい。
【0056】
1.塗布液調製工程
塗布液調製工程では、ナノセルロースとアルコキシシランを溶剤中で混合して、本機能層形成用組成物からなる塗布液を調製する。
本機能層形成用組成物及びその成分は、前述のとおりである。
【0057】
塗布液中における前記ナノセルロースの分散性を上げる観点から、前記ナノセルロースを溶剤に分散させてから前記アルコキシシランを添加する方法が好ましい。pH調整を行う場合は、本工程において塩基性物質を添加することが好ましい。
前記ナノセルロースと前記アルコキシシランを混合した後、反応性を高めるために加熱を行ってもよい。前記ナノセルロースと前記アルコキシシランを混合しただけでも反応するが、加熱することにより前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの反応を促進することができる。
前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの反応の際の加熱温度及び加熱時間は、前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの反応が進行する条件であればよく、特に限定されない。前記加熱温度は、30~80℃であることが好ましく、40~70℃であることがより好ましい。前記加熱時間は、30秒~2時間であることが好ましく、30分~1.5時間であることがより好ましく、30分~1時間であることがさらに好ましい。
前記ナノセルロースと前記アルコキシシランの反応の後、未反応のシラン反応をより進めるために、室温で1~7日養生してもよい。
【0058】
2.塗膜形成工程
塗膜形成工程では、前記塗布液を基材層に塗布して塗膜を形成する。
前記塗布液を前記基材層に塗布する方法は公知の方法であってよく、例えば、コンマコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップ法、スライドコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、又はエクストルージョンコート法を挙げることができる。
前記塗膜の厚みは、特に限定されないが、10~1,000nmが好ましく、50~500nmがより好ましく、100~300nmがさらに好ましい。前記塗膜の厚みが上記下限以上であると、塗布時の制御が容易になる。前記塗膜の厚みが上記上限以下であると、乾燥及びアルコキシシラン縮合時の収縮によるクラックが起こりにくくなる。
【0059】
3.加熱処理工程
加熱処理工程では、加熱処理によって塗膜を乾燥させ、シラン変性ナノセルロースを含有する本機能層を形成する。
【0060】
乾燥方法は、公知の方法であってよい。
乾燥温度及び乾燥時間は、塗膜から溶剤が除去され、かつ、アルコキシシランの脱水縮合が良好に進行する条件であればよく、特に限定されない。前記乾燥温度は、60~150℃であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましい。前記乾燥時間は、30秒~5時間であることが好ましく、30分~3時間であることがより好ましく、30分~2時間であることがさらに好ましい。
【0061】
<用途>
本積層体は、機能層にグリシジル基を有するナノセルロースを含有するため、後修飾による機能性付与ができることから、ジアミン化合物にて修飾をした場合、イオン吸着性、低タンパク吸着性や、油水分離性などを付与できることから水精製膜に利用することができる。
また、本積層体は、親水性に優れることから、セルフクリーニングが必要とされるガラス表面や樹脂シートに好適に利用することができる。例えば、各種パネル用ガラス、太陽光発電パネル全面板、あるいは採光建材等が挙げられる。
【0062】
<作用効果>
本発明の積層体は、機能層に含まれるシラン変性ナノセルロースがグリシジル基を有するため、後修飾により機能性を付与できる。
【実施例0063】
以下、本発明の積層体について、実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明の積層体は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
<評価方法>
(機能層製膜性)
実施例及び比較例において、基材上に機能層形成用組成物を塗布した後の膜の均一性を目視で評価した。
A(good):塗布面全体にわたって均一な膜が形成されている。
B(poor):部分的に膜の欠陥が見られる。
C(very poor):塗布面全体にわたって膜の欠陥が見られる。
【0065】
(機能層の厚み)
実施例及び比較例で得た各積層体を厚み方向に切断し、その切断面を走査型白色干渉顕微鏡(菱化システム社製「VertScan(登録商標)」)を用いて観察し、機能層の厚みを計測した。
【0066】
(水接触角)
実施例及び比較例で得た各積層体について、接触角計(協和化学(株)製、Drop Master500)を用いて、機能層表面の水接触角を測定した。測定条件は、23℃、50%RH条件下にて、水滴体積を10μLとし、水滴滴下1秒後に測定を開始したときの測定開始後1秒後の測定値を機能層の表面の水接触角とした。
【0067】
(表面粗さRa)
実施例及び比較例で得た各積層体について、原子間力顕微鏡(日立ハイテック社製「SPI4000」)を用いて、機能層の表面粗さRa(ISO 25178-2:2012)を測定した。
【0068】
(グリシジル基の有無)
ナノセルロースがグリシジル基を有することは、FT-IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Ge-ATR」)で分析して、修飾する前のセルロースナノファイバーと比較して、赤外線吸収スペクトルの900cm-1付近の領域におけるピーク強度が強いことで確認をした。
【0069】
<機能層形成用組成物の調製>
下記調製例1~8によって、機能層形成用組成物(A-1)~(A-5)、(A-101)、(A-201)及び(A-202)を調製した。
【0070】
[調製例1]
ナノセルロース(Cellufoce社製「NCV-100」、表中のCNC)1.00gをイオン交換水70.00g中に分散させ、30%出力3分の条件でヤマト科学社製「LUH300」を用いて超音波処理を行い、水分散液を得た。この水分散液に、エタノール 130g、テトラエトキシシラン(TEOS) 0.36g、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(GPMDES) 0.64g(GPMDES/TEOSのモル比=1.5)、及びpH調整剤としてアンモニア水溶液(25wt%) 0.17gを添加してpHを10.5に調整し、室温(25℃)で1時間300rpmにてマグネットスターラーを用いて撹拌した。次いで、室温(25℃)にて4日養生して、ナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用樹脂組成物(A-1)を得た。
【0071】
ナノセルロース(Celluforce社製「NCV-100」)は、セルロースナノクリスタル(CNC)であり、平均繊維径3nm、平均繊維長76nm、平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は25である。
なお、ナノセルロースをシラン変性した場合でも、平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比(繊維長/繊維径)はシラン変性前後で変化しないと予想される。
【0072】
[調製例2]
テトラエトキシシラン(TEOS) 0.47g、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(GPMDES) 0.84g(GPMDES/TEOSモル比=1.5)を水分散液に添加したこと以外は調製例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用組成物(A-2)を得た。
【0073】
[調製例3]
調整例1のTEOS及びGPMDESの代わりに、テトラエトキシシラン(TEOS) 0.44g、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES) 0.87g(GPTES/TEOSのモル比=1.5)を水分散液に添加したこと以外は調製例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用組成物(A-3)を得た。
【0074】
[調製例4]
メチルトリエトキシシラン(MTES) 0.42g、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(GPMDES) 0.89gを水分散液に添加したこと以外は調製例2と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用組成物(A-4)を得た。
【0075】
[調製例5]
メチルトリエトキシシラン(MTES) 0.39g、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン0.92gを水分散液に添加したこと以外は調製例3と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用組成物(A-5)を得た。
【0076】
[調製例6]
GPMDESを添加せず、テトラエトキシシラン(TEOS) 1.0gを水分散液に添加したこと以外は調製例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施して、機能層形成用組成物(A-101)を得た。
【0077】
[調製例7]
イオン交換水70.00g、エタノール 130g、テトラエトキシシラン(TEOS) 0.47g、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(GPMDES) 0.84g(GPMDES/TEOSのモル比=1.5)、及びpH調整剤としてアンモニア水溶液(25wt%) 0.17gを添加してpHを10.5に調整し、室温(25℃)で1時間300rpmにてマグネットスターラーを用いて撹拌し、機能層形成用樹脂組成物(A-201)を得た。
【0078】
[調製例8]
イオン交換水70.00g、エタノール 130g、テトラエトキシシラン(TEOS) 0.44g、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES) 0.87g(GPTES/TEOSのモル比=1.5)、及びpH調整剤としてアンモニア水溶液(25wt%) 0.17gを添加してpHを10.5に調整し、室温(25℃)で1時間300rpmにてマグネットスターラーを用いて撹拌し、機能層形成用樹脂組成物(A-202)を得た。
【0079】
<積層体の作製>
[実施例1]
調製例1で得られた機能層形成用組成物(A-1)をガラス基材上に2mL滴下し、スピンコーター(アクティブ社製「ACT-400AII」)を用いて400rpm×1分の条件で塗布した。得られた塗膜を100℃2時間で乾燥及び熱処理し、積層体1を得た。
【0080】
[実施例2]
調製例2で得られた機能層形成用組成物(A-2)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体2を得た。
【0081】
[実施例3]
調製例3で得られた機能層形成用組成物(A-3)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体3を得た。
【0082】
[実施例4]
調製例4で得られた機能層形成用組成物(A-4)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体4を得た。
【0083】
[実施例5]
調製例5で得られた機能層形成用組成物(A-5)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体5を得た。
【0084】
[比較例1]
調製例6で得られた機能層形成用組成物(A-101)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体101を得た。
【0085】
[参考例1]
調製例9で得られた機能層形成用組成物(A-201)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体201を得た。
【0086】
[参考例2]
調製例10で得られた機能層形成用組成物(A-202)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、積層体202を得た。
【0087】
表1に、実施例1~5、比較例1及び参考例1~2の積層体の材料及び評価結果を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例1~5では、グリシジル基を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層を製膜することができた。これらの積層体では、後述する製造例1に示すように、後修飾による機能性付与が可能である。
中でも、実施例1~3より、機能層形成用組成物が、シラン化合物(B)としてテトラアルコキシシランを含有すると、機能層表面の親水性が良好になることが確認できた。
なお、参考例1及び2より、ナノセルロースを含有しない場合も製膜性は良好であったが、これらは機能層表面の親水性が低かった。
この結果より、ナノセルロースを含有し、かつ、シラン化合物(A)及びシラン化合物(B)で変性することにより発現する表面構造が、機能層表面の親水化に寄与していると考えられる。
一方、非特許文献1に準じた比較試験として、調製例2においてTEOSを添加せず、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(GPMDES) 1.0gを水分散液に添加した機能層形成用組成物(A-102)、及び、調製例3においてTEOSを添加せず、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES) 1.0gを水分散液に添加した機能層形成用組成物(A-103)を用いて同様の方法で積層体の作製を試みたが、機能層製膜性がB又はC評価となり、機能を発現するのが困難なほど膜の均一性に欠けていて、実用に耐え得る積層体は得られなかった。
【0090】
なお、上記実施例では、基材としてガラスの場合のみを対象としている。しかし、機能層の表面機能性は、基材の影響を受けないため、基材として、樹脂フィルムや、繊維状基材を用いても、製膜性及び機能性付与の観点においては、ガラスと同様の効果を得ることができると想定できる。
【0091】
<機能性付与>
[製造例1]
1,3-プロパンジアミンを5質量%含有する水溶液を準備し、実施例2の積層体を90℃で4時間浸漬し、シラン変性ナノセルロースのグリシジル基がアミノ基に置き換わったかをFT-IRで確認した。
エポキシ基に由来する900cm-1付近のピーク強度が減少し、かつ、アミノ基に由来する1600cm-1付近のピーク強度が強くなったことから、アミノ基の導入を確認できた。
アミノ基が導入できたことにより、イオン吸着、油水分離、低タンパク吸着性等、アミノ基由来の表面機能性の付与ができると考えられる。