(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007296
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】全固体蓄電デバイス用電極およびその製造方法、並びに全固体蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20240111BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240111BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240111BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240111BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20240111BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240111BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240111BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240111BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M4/1397
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108713
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 將史
(72)【発明者】
【氏名】川合 航右
(72)【発明者】
【氏名】北浦 弘和
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ02
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA17
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】高エネルギー密度、高安全性、低コストを兼ね備えた全固体蓄電デバイスを実現する全固体蓄電デバイス用電極およびその製造方法、並びに全固体蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】全固体蓄電デバイス用電極としての負極12は、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を含む。全固体蓄電デバイスは、正極11と負極12との間に固体電解質層13が挟まれた構成を有し、固体電解質層13は、硫化物系固体電解質を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を含む
全固体蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
前記MXeneは、Ti3C2Tx(Txは、O、F、Cl、OH、S、Se、Te、Br、I等からなる群から選択される少なくとも1種の表面官能基である)である
請求項1に記載の全固体蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
前記硫化物系固体電解質粒子は、非晶質であり、zLi2S・(100-z)P2S5(55≦z≦95)である
請求項1に記載の全固体蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
MXeneからなる活物質前駆体を準備する前駆体準備工程と、
前記活物質前駆体を真空乾燥することで前記MXeneからなる活物質粒子を得る乾燥工程と、
前記活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とを複合化する複合化工程と
を有する全固体蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項5】
前記複合化工程は、前記活物質粒子と前記硫化物系固体電解質粒子とをボールミル処理により混合することで、前記活物質粒子の表面に前記硫化物系固体電解質粒子を接合する
請求項4に記載の全固体蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項6】
第1の電極と第2の電極との間に固体電解質層が挟まれた構成を有し、
前記第1の電極および/または前記第2の電極は、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体蓄電デバイス用電極であり、
前記固体電解質層は、硫化物系固体電解質を含む全固体蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体蓄電デバイス用電極およびその製造方法、並びに全固体蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度と高い安全性を兼ね備えた蓄電デバイスとして、無機固体電解質を用いた全固体蓄電デバイスの研究が活発に行われている。また、高エネルギー密度の蓄電デバイスを実現するための電極材料として、MXeneと総称される複合原子層物質が注目されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2)。MXeneは、高い金属伝導とイオンインターカレーション電極活性を示すため、電池やキャパシタの電極に応用することで、可逆的かつ高速なインターカレーション電極反応の実現が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yury Gogotsi et al., Science, 341(6153), 1502-1505.
【非特許文献2】Yury Gogotsi et al., Energy Environmental Science, 2016, 9, 2847-2854.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および非特許文献1に開示された蓄電デバイスでは、酸性または塩基性の電解液を電解質として用いるため、電解液の液漏れが生じた際の安全性が懸念される。非特許文献2に開示された蓄電デバイスでは、電解質がゲルやポリマーであるので、安全性が十分でない。また、非特許文献2の電極は薄膜型であるため、大型化には不向きである。
【0006】
そこで本発明は、高エネルギー密度、高安全性、低コストを兼ね備えた全固体蓄電デバイスを実現する全固体蓄電デバイス用電極およびその製造方法、並びに全固体蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体蓄電デバイス用電極は、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を含む。
【0008】
本発明に係る全固体蓄電デバイス用電極の製造方法は、MXeneからなる活物質前駆体を準備する前駆体準備工程と、前記活物質前駆体を真空乾燥することで前記MXeneからなる活物質粒子を得る乾燥工程と、前記活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とを複合化する複合化工程とを有する。
【0009】
本発明に係る全固体蓄電デバイスは、第1の電極と第2の電極との間に固体電解質層が挟まれた構成を有し、前記第1の電極および/または前記第2の電極は、上記の全固体蓄電デバイス用電極であり、前記固体電解質層は、硫化物系固体電解質を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を有するので、高エネルギー密度、高安全性、低コストを兼ね備えた全固体蓄電デバイスを実現する全固体蓄電デバイス用電極およびその製造方法、並びに全固体蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る全固体蓄電デバイスの構成を表す模式図である。
【
図2】全固体蓄電デバイス用電極の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】Ti
3AlC
2の粉末、真空乾燥前のTi
3C
2T
xの粉末、真空乾燥後のTi
3C
2T
xの粉末に対して粉末XRD測定を行った結果を示すXRDパターンである。
【
図4】
図3中の真空乾燥前のTi
3C
2T
xと真空乾燥後のTi
3C
2T
xにおけるd
002ピーク付近を拡大した拡大図である。
【
図5】ボールミル処理で得られた複合材を用いた電極とハンドミル処理で得られた複合材を用いた電極を用いた全固体ハーフセルの初回充放電曲線を示すグラフである。
【
図6】ボールミル処理により得られた複合材の透過電子顕微鏡写真である。
【
図7】全固体ハーフセルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図8】全固体ハーフセルと液系ハーフセルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図9】全固体フルセルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本実施形態について詳細に説明する。
【0013】
1.全固体蓄電デバイス用電極
全固体蓄電デバイス用電極は、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を含む。全固体蓄電デバイス用電極は、本実施形態では板状に形成されているが、これに限られず、例えば、シート状、フィルム状に形成されてもよい。
【0014】
MXeneは、複数の層(MXene層と称する)を含む層状材料であって、各MXene層が以下の組成式(1)で表される、複合原子層物質の総称である。
Mn+1XnTx ・・・(1)
式(1)中、Mは、前期遷移金属であり、例えば、Ti、Sc、Y、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等からなる群より選択される少なくとも1種を含む。Xは、軽元素であり、CまたはNである。nは、1~3の整数である。Txは、表面官能基であり、O、F、Cl、OH、S、Se、Te、Br、I等からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む。xは、表面官能基の数である。MXeneは、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し、当該MXeneの表面の少なくとも一方に表面官能基Txを有する。MXeneは、本実施形態ではTi3C2Txで表される層状遷移金属炭化物である。
【0015】
MXeneは、以下の組成式(2)で表される層状化合物(MAX相)から、A層を化学的処理により脱離し、複合原子層Mn+1Xnを剥離することにより得られる。化学的処理は、例えばフッ素化合物および強酸を含む溶液が用いられる。
Mn+1AXn ・・・(2)
式(2)中、Mは、前期遷移金属であり、例えば、Ti、Sc、Y、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等からなる群より選択される少なくとも1種を含む。Xは、軽元素であり、CまたはNである。nは、1~3の整数である。Aは、Al、Si、P、S、Zn、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Ir、Au、Tl、Pb等からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0016】
MXeneからなる活物質粒子は、複数のMXene層が互いに離間して積層された多層構造体を含むフレーク状の粒子である。多層構造体は、隣接する2つのMXene層が、完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。活物質粒子の平均粒径は、例えば、0.5~50μmである。ここで、活物質粒子の粒径は、MXene層に平行な平面における最大寸法で定義される。活物質粒子におけるMXene層の層数は、例えば、100~2000枚である。活物質粒子におけるMXene層の層間距離は、例えば、3~6nmである。MXene層の厚さは、例えば、6~7nmである。活物質粒子には、多層構造体の他に、複数のMXene層が個々に分離されて存在する単層構造体がさらに含まれていてもよい。
【0017】
MXeneからなる活物質粒子を全固体蓄電デバイスの電極に適用した場合、2つの蓄電機構が示される。MXeneからなる活物質粒子は、複数のMXene層が剥離した箇所を多数含む。層間の剥離箇所にイオンが吸着されると、吸着されたイオンにより電気二重層が形成され、容量(電気二重層容量と称する)が発現する。
【0018】
また、MXeneからなる活物質粒子は、複数のMXene層が互いに離間して積層された多層構造体を含む。複数のMXene層の層間にイオンが挿入(インターカレーション)されると、容量(インターカレーション容量と称する)が発現する。活物質粒子の層間に挿入されたイオンは脱離可能であり(脱インターカレーション)、MXeneからなる活物質粒子は、イオン挿入脱離反応のホスト構造として機能する。
【0019】
硫化物系固体電解質粒子を構成する硫化物系固体電解質としては、例えば、zLi2S・(100-z)P2S5(55≦z≦95)、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li6PS5Cl、30Li2S・26B2S3・44LiI、50Li2S・17P2S5・33LiBH4、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等のリチウムイオン伝導性を有する硫化物系固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質に限られず、マグネシウムイオン伝導性を有する固体電解質(例えば、Mg1-2x(Zr1-xNbx)2(PO4)3、Mg(BH4)(NH2)、MgX2Z4(X=In、Y、Sc、Z=S、Se))、ナトリウムイオン伝導性を有する固体電解質(例えば、Na3PS4、Na3SbS4、Na3Zr2(SiO4)2(PO4)、Na3-xY1-xZrxCl6(0≦z≦1))、カリウムイオン伝導性を有する固体電解質(例えば、K2Fe4O7、KSi2P3、K0.4Cd0.3FeO2)、カルシウムイオン伝導性を有する固体電解質(例えば、Ca0.5Zr2(PO4)3)等でもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質であることが好ましい。硫化物系固体電解質粒子の平均粒径は、例えば、1~10μmである。
【0020】
硫化物系固体電解質粒子とMXeneからなる活物質粒子とが複合化される形態は、硫化物系固体電解質粒子とMXeneからなる活物質粒子との間にイオン伝導性が確保できる接合界面が形成されれば、特に限定されない。例えば、同程度の粒径を有する粒子同士が接合した形態、粒径が大きい粒子の表面に粒径が小さい粒子が接合した形態等をとり得る。本実施形態では、硫化物系固体電解質粒子が、MXeneからなる活物質粒子の表面に接合されている。硫化物系固体電解質粒子により、活物質粒子の表面の少なくとも一部が被覆される。硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質等を含む他の無機固体電解質の中では比較的柔らかい(弾性変形し易い)ので、活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子との間の良好な接合界面が得られ、かつ、接合界面の面積を増大させることができる。
【0021】
MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子との複合化には、ボールミル処理またはハンドミル処理が用いられる。ボールミル処理は、活物質粒子が含まれた原料と硫化物系固体電解質粒子が含まれた原料とをボールミルにより粉砕して混合することで、活物質粒子の表面に硫化物系固体電解質粒子を接合する。ハンドミル処理は、乳鉢に活物質粒子が含まれた原料と硫化物系固体電解質粒子が含まれた原料を入れて、乳棒で粉砕して混合することで、活物質粒子の表面に硫化物系固体電解質粒子を接合する。ボールミル処理では、硫化物系固体電解質粒子と活物質粒子とに物理的なエネルギー(せん断応力、ずり応力、摩擦など)が加えられ、より良好な接合界面を形成することができる。活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化されたものを複合材と称する。
【0022】
良好な接合界面を得るために、硫化物系固体電解質粒子を構成する硫化物系固体電解質は柔らかい、すなわち弾性変形し易いことが望ましい。硫化物系固体電解質のヤング率は、好ましくは30GPa以下であり、より好ましくは25GPa以下である。硫化物系固体電解質のヤング率が大きすぎる、すなわち硫化物系固体電解質が硬すぎると、硫化物系固体電解質粒子と活物質粒子との界面接合性が悪くなる。非晶質の硫化物系固体電解質は、結晶質の硫化物系固体電解質よりヤング率が小さいので好ましい。
【0023】
硫化物系固体電解質粒子は、非晶質であり、組成比(モル比)z(%)のLi2Sと組成比100-z(%)のP2S5とから構成された、zLi2S・(100-z)P2S5で構成されることが好ましい。ここで、zは、好ましくは55≦z≦95であり、より好ましくは65≦z≦85であり、さらにより好ましくはz=75である。硫化物系固体電解質粒子は、本実施形態では、75Li2S・25P2S5で構成されている。z=75は、55≦z≦95のなかで最もリチウムイオン伝導度が高いことから、最大の容量が得られる。
【0024】
全固体蓄電デバイス用電極は、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された複合材を、所定の圧力および時間で圧縮することで製造される。全固体蓄電デバイス用電極における、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子との質量比(wt%)は、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは30:70~70:30であり、さらにより好ましくは50:50である。活物質粒子の質量比が大きすぎると、相対的に活物質粒子に対して固体電解質粒子が少なくなるため、接合界面の面積が小さくなり、界面接合性が悪くなる。固体電解質粒子の質量比が大きすぎると、相対的に活物質粒子が少なくなるため、電極の容量が減少する。
【0025】
全固体蓄電デバイス用電極は、ヤング率が30GPa以下の柔らかい硫化物系固体電解質粒子を含んでいるため、ポリマー等からなる結着剤を必要としない。電極のエネルギー密度向上という観点からも、結着剤を含まないことが好ましい。また、全固体蓄電デバイス用電極は、高い金属伝導を有するMXeneからなる活物質粒子を含んでいるため、カーボン材料等からなる導電助材を必要としない。電極のエネルギー密度向上という観点からも、導電助材を含まないことが好ましい。また、全固体蓄電デバイス用電極は、集電箔を含まないことが好ましい。
【0026】
2.全固体蓄電デバイス用電極を用いた全固体蓄電デバイス
上述のように、MXeneからなる活物質粒子を全固体蓄電デバイスの電極に適用した場合、MXene層の剥離箇所へのイオン吸着による電気二重層容量形成、MXene層の層間へのイオン挿入脱離反応、という2つの蓄電機構が示される。イオン挿入脱離反応を利用し、全固体蓄電デバイス用電極は、リチウムイオン二次電池の負極に適用できる。全固体蓄電デバイス用電極は、リチウムイオン二次電池に限られず、例えば、マグネシウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池の負極に適用してもよい。また、イオン挿入脱離反応を利用し、全固体蓄電デバイス用電極は、ハイブリッドキャパシタの正極または負極に適用できる。また、電気二重層容量形成の機構を利用し、全固体蓄電デバイス用電極は、電気二重層キャパシタの正極および/または負極に適用できる。また、電気二重層容量形成の機構を利用し、全固体蓄電デバイス用電極は、ハイブリッドキャパシタの正極または負極に適用できる。以下の説明では、全固体蓄電デバイス用電極を、全固体蓄電デバイスとしてのリチウムイオン二次電池の負極に適用した場合を例に説明する。
【0027】
図1において、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(全固体蓄電デバイス)は、図示しないケースに電極構造体10が収容されて構成されている。電極構造体10は、第1の電極としての正極11と、第2の電極としての負極12と、固体電解質層13とを備える。リチウムイオン二次電池は、正極11と負極12との間に固体電解質層13が挟まれた構成を有している。
【0028】
正極11は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを含む。正極活物質粒子を構成する正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、二種以上の遷移金属を複合化したNMC(LiNixMnyCozO2)やNCA(LiNixCoyAlzO2)等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。固体電解質粒子は、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質等の無機固体電解質で構成される。正極11を構成する固体電解質粒子は、負極12を構成する硫化物系固体電解質粒子と同じであることが好ましい。正極11は、例えば、正極活物質粒子と固体電解質粒子とが含まれた原料粉末を、所定の圧力および時間で圧縮することで製造される。
【0029】
負極12は、上述した全固体蓄電デバイス用電極である。すなわち、負極12は、Ti3C2Txで構成されたMXeneからなる活物質粒子と、75Li2S・25P2S5で構成された硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を含む。
【0030】
固体電解質層13は、正極11と負極12とを分離し、かつ、正極11および負極12と接している。固体電解質層13は、硫化物系固体電解質粒子で構成されている。固体電解質層13を構成する硫化物系固体電解質粒子は、負極12を構成する硫化物系固体電解質粒子と同じであることが好ましい。固体電解質層13を構成する硫化物系固体電解質粒子は、本実施形態では、75Li2S・25P2S5で構成されている。固体電解質層13は、例えば、硫化物系固体電解質粒子の原料粉末を、所定の圧力および時間で圧縮することで製造される。
【0031】
3.全固体蓄電デバイス用電極の製造方法
図2に示すように、全固体蓄電デバイス用電極の製造方法は、MXeneからなる活物質前駆体を準備する前駆体準備工程S1と、活物質前駆体を真空乾燥することでMXeneからなる活物質粒子を得る乾燥工程S2と、活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とを複合化する複合化工程S3と、活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された複合材を圧縮して電極を形成する電極形成工程S4とを有する。
【0032】
前駆体準備工程S1は、MXeneからなる活物質前駆体として、市販品を準備してもよいし、上述した組成式(2)で表される層状化合物から合成することで準備してもよい。
【0033】
活物質前駆体の合成方法の一例を説明する。まず、TiとAlとTiCとを、モル比で1.2:1.2:1となるように秤量し、遊星型ボールミルにより200rpm、72分間の条件で粉砕混合する。得られた混合粉末を直径10mmのペレット状に成型した後、Ar雰囲気下、1200℃、1時間の条件で焼成することで、Ti2AlCを得る。
【0034】
次に、Ti2AlCとTiCとを、モル比で1:0.8となるように秤量し、遊星型ボールミルにより200rpm、72分間の条件で粉砕混合する。得られた混合粉末を直径10mmのペレット状に成型した後、Ar雰囲気下、1200℃、1時間の条件で焼成することで、Ti3AlC2を得る。
【0035】
次に、Ti3AlC2を遊星型ボールミルにより200rpm、72分間の条件で粉砕混合する。得られたTi3AlC2の粉末を、0.9mol/dm3のLiFおよび10mol/dm3のHClを含む水溶液に分散させ、40℃、15時間の条件で撹拌することで、Alを脱離する。その後、1mol/dm3のHClを含む水溶液中で粉末を1時間分散させて不純物を溶解することで、活物質前駆体としての単相のTi3C2Txの粉末が得られる。Ti3AlC2からAlが脱離することで、部分的に剥離したTi3C2層が積層し、板状の二次粒子(直径10~80μm、厚さ5μm以下)が形成される。
【0036】
乾燥工程S2は、層状化合物である活物質前駆体を真空乾燥することで、MXeneからなる活物質粒子を得る。乾燥工程S2に供される活物質前駆体は、前駆体準備工程S1で準備した市販品または合成により得たものである。乾燥工程S2では、例えば、活物質前駆体としてのTi3C2Txの粉末を200℃、24時間の条件で真空乾燥を行う。乾燥工程S2により、活物質前駆体の層間の水分子が除去され、MXeneを構成するMXene層の層間隔が小さくなる(例えば11Å以下となる)。MXene層の層間の水分子が除去されることにより、後述する活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とを複合化する複合化工程S3の際に、硫化物系固体電解質粒子と水分子との反応を抑制できる。
【0037】
複合化工程S3は、乾燥工程S2で得られた活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とをボールミル処理またはハンドミル処理により混合することで、活物質粒子の表面に硫化物系固体電解質粒子を接合する。複合化工程S3により、硬い活物質粒子の表面の少なくとも一部が、柔らかい硫化物系固体電解質粒子で被覆された複合材の粉末が得られる。複合化工程S3では結着剤および導電助材を使用しない。
【0038】
複合化工程S3に供される硫化物系固体電解質粒子は、市販品または合成したものを用いる。硫化物系固体電解質粒子の合成方法の一例を説明する。まず、Li2SとP2S5とをモル比で75:25となるように秤量し、遊星型ボールミルにより150rpm、1時間の条件で粉砕混合する。さらに、遊星型ボールミルにより500rpm、20時間の条件で粉砕混合することで、非晶質の75Li2S・25P2S5の粉末が得られる。
【0039】
電極形成工程S4は、複合化工程S3により得られた複合材の粉末を、所定の圧力および時間(例えば、330MPa、5分間)で圧縮する。圧粉により、全固体蓄電デバイス用電極としての板状の全固体蓄電デバイス用電極が製造される。電極形成工程S4は、複合材の粉末と、全固体蓄電デバイスの固体電解質層となる硫化物系固体電解質粒子の原料粉末とを重ねて圧縮してもよい。また、電極形成工程S4は、複合材の粉末と、全固体蓄電デバイスの固体電解質層となる硫化物系固体電解質粒子の原料粉末と、正極となる正極活物質粒子と固体電解質粒子とが含まれた原料粉末とを重ねて圧縮してもよい。
【0040】
4.作用および効果
本実施形態に係る全固体蓄電デバイス用電極(負極12)は、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とが複合化された構成を有している。活物質粒子を構成するMXeneは、高い金属伝導とイオンインターカレーション電極活性を示す電極材料である。MXeneからなる硬い活物質粒子の表面に柔らかい(ヤング率が小さく、弾性変形し易い)硫化物系固体電解質粒子が接合されており、活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子との間の界面接合性に優れ、高いイオン伝導性が得られる。希少金属が用いられていないので、製造コストが抑えられる。したがって、高エネルギー密度、高安全性、低コストを兼ね備えた全固体蓄電デバイスを実現する全固体蓄電デバイス用電極が得られる。
【0041】
全固体蓄電デバイス用電極を構成する硫化物系固体電解質粒子は、非晶質であり、zLi2S・(100-z)P2S5(55≦z≦95)で構成されることが好ましい。非晶質の硫化物系固体電解質粒子は、酸化物系固体電解質の粒子や結晶質の硫化物系固体電解質の粒子と比べて柔らかいため、界面接合性をより向上させる。
【0042】
乾燥工程S2では、層状化合物である活物質前駆体を真空乾燥することで、活物質前駆体の層間の水分子を除去することができる。これにより、複合化工程S3において、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とを複合化する際に、硫化物系固体電解質粒子と水分子との反応が抑制される。
【0043】
複合化工程S3では、MXeneからなる活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子とをボールミル処理により混合することで、活物質粒子と固体電解質粒子との間に、より良好な接合界面を形成することができる。
【0044】
5.実施例
5-1.活物質前駆体の真空乾燥により層間の水分子が脱離されることを確認する実験
まず、層状化合物(MAX相)であるTi3AlC2を遊星型ボールミルにより200rpm、72分間の条件で粉砕混合し、得られた粉末を、0.9mol/dm3のLiFおよび10mol/dm3のHClを含む水溶液に分散させ、40℃、15時間の条件で撹拌することで、Ti3AlC2からAlを脱離した。次に、Alを脱離した後の粉末を、1mol/dm3のHClを含む水溶液中で1時間分散させて不純物を溶解することで、活物質前駆体としてのTi3C2Txを得た。次に、活物質前駆体としてのTi3C2Txを200℃、24時間の条件で真空乾燥した。
【0045】
Ti
3AlC
2の粉末、真空乾燥前のTi
3C
2T
xの粉末、真空乾燥後のTi
3C
2T
xの粉末に対して、Cu-Kα線を用いて粉末XRD測定を行った。
図3に、粉末XRD測定を行った結果を示すXRDパターンを示す。
図3では、真空乾燥前のTi
3C
2T
xと真空乾燥後のTi
3C
2T
xのピーク強度は、Ti
3AlC
2のピーク強度に対して、縦軸のスケールを10倍に拡大して示している。
図4は、
図3中の真空乾燥前のTi
3C
2T
xと真空乾燥後のTi
3C
2T
xにおけるd
002ピーク付近を拡大した拡大図である。
【0046】
図3の結果から、真空乾燥前のTi
3C
2T
xと真空乾燥後のTi
3C
2T
xは、Ti
3AlC
2と比べて、Braggピークがブロード化していることがわかる。これは、Ti
3AlC
2からAlが脱離したことにより、Ti
3C
2層が部分的に剥離または積層欠陥が導入された結果と考えられる。
【0047】
図4の結果から、真空乾燥後のTi
3C
2T
xは、真空乾燥前のTi
3C
2T
xよりも、d
002ピークが高角度側へシフトしていることがわかる。d
002ピークが高角度側へシフトしたことは、MXeneを構成するMXene層の層間隔が減少したことを示す。d
002間隔は、真空乾燥前は11.5Åであり、真空乾燥後は10.5Åであることが解析により確認できた。真空乾燥によりTi
3C
2T
xの層間の水分子が脱離し、層間距離が減少したことを示唆している。
【0048】
5-2.ボールミル処理とハンドミル処理の比較
まず、ボールミル処理により得られた複合材の粉末を圧縮して電極を形成し、この電極を作用極とする全固体ハーフセルを作製した。複合材の粉末は、Ti3C2Txの粉末と75Li2S・25P2S5の粉末とを質量比50:50で遊星型ボールミルにより200rpm、2時間の条件で混合することにより作製した。質量100mgの固体電解質(75Li2S・25P2S5)の粉末を準備し、軽く押し固めてペレット状に形成した。固体電解質のペレットに、質量11.4mgの複合材の粉末を均一に載せ、330MPaで5分間圧縮することで、固体電解質層上に、Ti3C2Txと75Li2S・25P2S5とが複合化された構成を有する電極を形成した。対極は、直径9mmのIn金属箔と直径8mmのLi金属箔を重ねたものを用いた。対極は、作用極および固体電解質層とともに200MPaで1分間圧縮した。作用極、固体電解質層、および対極を一対の集電体の間に配置し、容器に収容することで、全固体ハーフセルを作製した。
【0049】
次に、ハンドミル処理により得られた複合材の粉末を圧縮して電極を形成し、この電極を作用極とする全固体ハーフセルを作製した。複合材の粉末は、乳鉢に入れたTi3C2Txの粉末に75Li2S・25P2S5の粉末を加え、色が均一になるまで乳棒で混合する操作を、Ti3C2Txと75Li2S・25P2S5との質量比が50:50になるまで繰り返すことにより作製した。全固体ハーフセルを構成する固体電解質層と対極は、ボールミル処理を用いて作製した全固体ハーフセルと同じ構成とした。
【0050】
ボールミル処理を用いて作製した電極とハンドミル処理を用いて作製した電極を用いた全固体ハーフセルについて、初回充放電特性を測定した。電流密度は7.14mA/gとし、カットオフ電圧を-0.6~2.4Vとした。
図5に、初回充放電曲線を示す。
【0051】
図5の結果から、ボールミル処理を用いて作製した電極を用いた場合は、ハンドミル処理を用いて作製した電極を用いた場合よりも、可逆容量が大きいことが確認できた。ボールミル処理を用いて得られた複合材は、ハンドミル処理を用いて得られた複合材よりも、活物質粒子と硫化物系固体電解質粒子との界面接合性が良好であり、可逆容量が向上したと考えられる。
図6に、ボールミル処理で得られた複合材の透過電子顕微鏡写真を示す。写真の層状の部分が活物質粒子(Ti
3C
2T
x)であり、薄いグレーの部分が硫化物系固体電解質粒子(75Li
2S・25P
2S
5)である。活物質粒子(Ti
3C
2T
x)の表面に、硫化物系固体電解質粒子(75Li
2S・25P
2S
5)が接合し、活物質粒子の表面の一部が硫化物系固体電解質粒子により被覆されていることがわかる。ボールミル処理により、柔らかい硫化物系固体電解質粒子(75Li
2S・25P
2S
5)による硬い活物質粒子(Ti
3C
2T
x)の表面被覆が成功したことが確認できた。
【0052】
5-3.サイクル特性
上述した「5-2.ボールミル処理とハンドミル処理の比較」でボールミル処理を用いて作製した全固体ハーフセルについて、充放電サイクル特性を測定した。電流密度を7.14mA/gとし、カットオフ電圧を-0.6~2.4Vとし、5サイクルの充放電試験を行った。
図7に充放電サイクル特性を示す。
【0053】
図7の結果から、初回充電時の容量に対し、2~5サイクル目の容量が減少するものの、2~5サイクル目では180mAh/gを超える容量で安定して動作することが確認できた。不可逆容量の理由は、初回充電時に、MXene層の層間にLiイオンが挿入され層間距離が大きく広がり、初回放電時に一部のLiイオンが脱離せず層間に残ったためと考えられる。その後の2~5サイクル目では層間距離がほぼ変化しないと考えられる。
【0054】
次に、全固体ハーフセルと従来の液系ハーフセルの充放電の挙動を比較した。液系ハーフセルの構成を説明する。作用極は、MXene(Ti3C2Tx)の粉末と導電助剤(アセチレンブラック)と結着剤(ポリフッ化ビニリデン)との質量比が80:10:10となるように分散媒(N-メチル-2-ピロリドン)中で撹拌混合し、集電体(アルミニウム箔)に50μmの厚さで塗布し、120℃で真空乾燥することで作製した。セパレータは、多孔質ガラス繊維フィルターを用いた。対極は、直径12mmのLi金属箔を用いた。電解液は、ECとDECとを体積比1:1で混合した混合液に、1MのLiPF6を溶解して調製した。
【0055】
全固体ハーフセルのサイクル試験では、電流密度を7.14mA/gとした。液系ハーフセルのサイクル試験では、電流密度を20mA/gとした。
図8に各サイクル試験の2サイクル目の結果を示す。横軸にMXeneの質量当たりの容量、左側の縦軸に全固体ハーフセルの電圧、右側の縦軸に液系ハーフセルの電圧を示す。
【0056】
図8の結果から、全固体ハーフセルは、従来の液系ハーフセルと同等の充放電の挙動を示すことが確認できた。
【0057】
次に、負極、固体電解質層、および正極を一対の集電体の間に配置し、容器に収容することで、全固体フルセルを作製した。負極には、質量5.7mgのMXeneからなる活物質粒子(Ti3C2Tx)と質量5.7mgの硫化物系固体電解質粒子(75Li2S・25P2S5)とが複合化された複合材の粉末を用いた。固体電解質層には、質量100mgの硫化物系固体電解質粒子(75Li2S・25P2S5)の原料粉末を用いた。正極には、正極活物質粒子(Li4Ti5O12で被覆されたLiCoO2)と、固体電解質粒子(75Li2S・25P2S5)と、導電助剤(アセチレンブラック)とを、質量比が38:60:2となるように混合し、得られた混合粉末を正極材として用いた。軽く押し固めてペレット状に形成した硫化物系固体電解質粒子(75Li2S・25P2S5)の一方の面に複合材を均一に載せ、他方の面に正極材を均一に載せ、330MPaで5分間圧縮した。負極に対する正極の活物質質量比は、1.48とした。
【0058】
作製した全固体フルセルについて、充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験では、電流密度を20mA/g
MXeneとした。
図9に充放電サイクル試験の結果を示す。下側の横軸にMXeneの質量当たりの容量、上側の横軸に活物質の総質量当たりの容量、縦軸に電圧を示す。
図9中には、充放電サイクル試験の1サイクル目の結果を縮小して示している。
【0059】
図9の結果から、2~100サイクル目で110~130mAh/g
MXeneの容量で安定して動作することが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
10 電極構造体
11 正極
12 負極
13 固体電解質層