(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078041
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】複合構造体、複合体の製造方法、成形体および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0204 20160101AFI20240603BHJP
【FI】
C08G75/0204
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190353
(22)【出願日】2022-11-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】奈良 早織
(72)【発明者】
【氏名】東田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】朴 峻秀
(72)【発明者】
【氏名】以倉 崚平
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BD21
4J030BD23
4J030BE04
4J030BF03
4J030BG04
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、靭性に優れた、フェニル基を有する構成単位を含むポリマーを含む複合構造体を提供することにある。
【解決手段】本発明の複合構造体は、環状ポリマーと鎖状ポリマーとを含む複合構造体であって、前記環状ポリマーが環状ポリアリーレンスルフィドであり、前記鎖状ポリマーが、フェニル基を有する構成単位60~95モル%、π-π相互作用する官能基を含まない構成単位5~40モル%を含み、前記複合構造体100質量%に対する前記環状ポリマーの質量割合が0.5~4.5質量%である、ことを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリマーと鎖状ポリマーとを含む複合構造体であって、
前記環状ポリマーが環状ポリアリーレンスルフィドであり、
前記鎖状ポリマーが、フェニル基を有する構成単位60~95モル%、π-π相互作用する官能基を含まない構成単位5~40モル%を含み、
前記複合構造体100質量%に対する前記環状ポリマーの質量割合が0.5~4.5質量%である、
ことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記複合構造体が、前記環状ポリマーの開口部に前記鎖状ポリマーが貫通するロタキサンを含む、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
フェニル基を有するモノマーおよびπ-π相互作用する官能基を含まないモノマーを含むモノマー成分と、環状ポリマーとを混合し、重合する工程を含む、請求項1または2に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複合構造体を含む、成形体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の複合構造体を成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体、複合体の製造方法、成形体および成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェニル基を有する構成単位を含むポリマーは、多くの用途に使用されている。
例えば、ポリスチレンは、透明性、光沢、耐候性に、衝撃強度などに優れ、自動車部品、電気関係部品、照明器具、ディスプレーなどの幅広い分野において使用されている(特許文献1)。また、芳香族ポリエーテルケトンは、耐熱性、耐薬品性、機械強度などに優れた代表的な半結晶性熱可塑性樹脂であり、スーパーエンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器、機械・自動車用部品、航空・宇宙用部品などに広く使用されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-021746号公報
【特許文献2】特開2018-009115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェニル基を有する構成単位を含むポリマーは、様々な用途に使用されるものの、特に外部力に対する抵抗、亀裂による強度低下に対する抵抗を一層向上させることが求められているのが現状である。
【0005】
従って、本発明の目的は、靭性に優れた、フェニル基を有する構成単位を含むポリマーを含む複合構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
環状ポリマーと鎖状ポリマーとを含む複合構造体であって、
前記環状ポリマーが環状ポリアリーレンスルフィドであり、
前記鎖状ポリマーが、フェニル基を有する構成単位60~95モル%、π-π相互作用する官能基を含まない構成単位5~40モル%を含み、
前記複合構造体100質量%に対する前記環状ポリマーの質量割合が0.5~4.5質量%である、
ことを特徴とする複合構造体。
[2]
前記複合構造体が、前記環状ポリマーの開口部に前記鎖状ポリマーが貫通するロタキサンを含む、[1]に記載の複合構造体。
[3]
フェニル基を有するモノマーおよびπ-π相互作用する官能基を含まないモノマーを含むモノマー成分と、環状ポリマーとを混合し、重合する工程を含む、[1]または[2]に記載の複合構造体の製造方法。
[4]
[1]または[2]に記載の複合構造体を含む、成形体。
[5]
[1]または[2]に記載の複合構造体を成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、靭性に優れた複合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】引張特性の評価に用いた試験片を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値および下限値が記載されている場合、これらの上限値および下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0010】
[複合構造体]
本実施形態の複合構造体は、環状ポリマーと鎖状ポリマーとを含み、上記環状ポリマーが環状ポリアリーレンスルフィドであり、上記鎖状ポリマーが、フェニル基を有する構成単位60~95モル%、π-π相互作用する官能基を含まない構成単位5~40モル%を含み、上記複合構造体100質量%に対する上記環状ポリマーの質量割合が0.5~4.5質量%である。
上記複合構造体は、環状ポリマーと鎖状ポリマー以外に他の成分を含んでいてもよい。
本明細書において、ポリアリーレンスルフィドを「PAS」と称する場合がある。
【0011】
本実施形態の複合構造体において、環状ポリマーの芳香族炭化水素と鎖状ポリマーのフェニル基を有する構成単位中のベンゼン環とには、ππ相互作用の分子間相互作用が働く。鎖状ポリマーと環状ポリマーのベンゼン環同士の相互作用の解離および他の鎖状ポリマーまたは環状ポリマーのベンゼン環との相互作用の再発現等が生じ、延伸性の向上と靭性が向上する。また、環状ポリマーの芳香族炭化水素同士および環状ポリマーの芳香族炭化水素と鎖状ポリマーのベンゼン環との相互作用により、相互作用点が動くことで外部の力に対する抵抗が向上する。特にロタキサンであると、環状ポリマーの可動方向が鎖状ポリマーの伸長方向となり、靭性を向上しやすくなる。
ここで、本発明者らが検討を進めたところ、鎖状ポリマーのフェニル基が多すぎると靭性は維持されヤング率のみ向上した。ππ相互作用の分子間相互作用点が多すぎると、ポリマー同士が強く固定されすぎてしまうことが原因と考えられた。
鎖状ポリマー内にππ相互作用をする構成単位と、ππ相互作用をしない構成単位とを適当な割合で含むことで、ポリマー同士の適度なずれにくさと、ポリマー同士の可動性とを確保でき、靭性が大きく向上するものと考えられる。
本実施形態の複合構造体は、親水性であるシクロデキストリンを用いた複合構造体よりも、吸水率が低く、材料が劣化しにくく、寸法精度の低下のおそれがない。
【0012】
<環状ポリマー>
上記環状ポリマーは、構成単位が環構造を形成するポリアリーレンスルフィドであることが好ましい。上記環状ポリマーは、1種であってもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記環状PASは、下記式(1)で表される構成単位を含むことが好ましい。上記環状PASは、下記式(1)で表される構成単位のみからなるホモポリマーであってもよいし、さらに上記構成単位と共重合可能な他の構成単位を含むヘテロポリマーであってもよい。
-(Ar-S)- ・・・(1)
(式(1)中、Arはアリーレン基、Sは硫黄原子を示す。)
上記アリーレン基としては、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレン、炭素原子数1~6のアルキル基で置換されたフェニレン、フェニル置換フェニレン、ハロゲン置換フェニレン、アミノ置換フェニレン、アミド置換フェニレンなどの少なくとも一つのベンゼン環を含む二価の芳香族残基を挙げることができる。中でも、靭性に一層優れる観点から、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレンが好ましく、より好ましくはp-フェニレンである。
上記環状PAS中の上記式(1)で表される構成単位は、1種であってもよいし複数種であってもよい。
【0014】
上記環状PAS中に含まれる全構成単位100モルに対する上記式(1)で表される構成単位の割合は、靭性に一層優れる観点から、80モル%以上が好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0015】
上記他の構成単位は、芳香環を含まない構成単位であることが好ましい。
上記環状PAS中に含まれる全構成単位100モルに対する上記他の構成単位の割合は、10モル%以下が好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【0016】
上記環状PAS中に含まれる全構成単位100モルに対する、芳香環を有する構成単位の割合は、靭性に一層優れる観点から、80モル%以上が好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
上記芳香環を有する構成単位は、上記式(1)で表される構成単位のみであることが好ましい。
【0017】
上記環状PASは、靭性に一層優れる観点から、4~40量体であることが好ましく、より好ましくは5~25量体、さらに好ましくは6~17量体である。
【0018】
本実施形態の複合構造体100質量%に対する上記環状ポリマーの質量割合は、靭性に一層優れる観点から、0.01~5.5質量%であり、好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.5~4.5質量%である。
【0019】
上記環状ポリマーの分子量としては、靭性に一層優れる観点から、200~3000であることが好ましく、より好ましくは400~2500、さらに好ましくは600~1700である。
なお、上記分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析の方法により測定することができる。
【0020】
(環状ポリマーの製造方法)
上記環状ポリマーは、例えば、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物または(ii)アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物と、を反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PAS、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物および有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、上記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASおよび鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、上記液相成分(A)から環状PASを得る工程(3)を有する方法などにより製造することができる。
【0021】
-工程(1)-
工程(1)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物または(ii)アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物と、を反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PAS、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物および有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0022】
上記ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニルなどのジハロ芳香族化合物およびこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0023】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼンなどのモノまたはジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテルなどのジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホンなどのジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジンなどのモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0024】
また、上記製造方法においては、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0025】
上記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれらの混合物が含まれる。上記アルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。なお、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0026】
上記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウムおよびこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0027】
上記アルカリ金属水硫化物は上記アルカリ金属水酸化物と伴に用いる。上記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどが挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0028】
上記製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0029】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物または含水アルカリ水硫化物およびアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0030】
上記有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素およびラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホランなどのスルホラン類;ベンゾニトリルなどのニトリル類;メチルフェニルケトンなどのケトン類およびこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0031】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、PAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒および重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、上記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調整する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0032】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウムなどの重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物などの分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、または含水アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、上記スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、上記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0033】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物または(ii)アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物と、を重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂、環状PASや鎖状PASオリゴマーなどの混合物が得られる。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0034】
-工程(2)-
工程(2)は、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASおよび鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程である。
【0035】
上記固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類があり、クウェンチ法が好ましい。
【0036】
クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を分離する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別などにより固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として分離する方法である。一般的に高分子の分子量が大きくなるにつれて高分子間の相互作用が強くなるため、溶媒への溶解性は悪くなる。したがって、本工程ではPAS樹脂は析出して固形物となり、環状PASやオリゴマーは溶媒に溶解したままとなる。クウェンチでの冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を除去することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンターなどの遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0037】
その際、必要に応じて、該粗反応混合物中の有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留によって除去する工程を有していてもよく、当該工程を行った後に、該粗反応混合物を濾過による固液分離操作を行って固相成分を除去してもよい。また、該粗反応混合物に対し、または、好ましくは、固液分離した後に得られた固形分(スラリー)に対し、水又は有機極性溶媒を接触させることにより洗浄する工程を有していてもよい。
【0038】
-工程(3)-
工程(3)は、上記液相成分(A)から環状PASを得る工程である。液相成分(A)から環状PASを得る方法は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、加熱により有機極性溶媒を除去した後、有機溶媒や水を用いて残渣を洗浄し、さらに有機溶媒を用いて環状PASを抽出及び精製する方法(特開2020-007490号公報参照)や、膜を利用して有機極性溶媒を除去した後、有機溶媒や水を用いて残渣を洗浄し、さらに有機溶媒を用いて環状PASを抽出及び精製する方法等が挙げられる。
【0039】
有機極性溶媒を除去する際、不揮発分の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるよう溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20~150℃、好ましくは40~120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0040】
このようにして得られた環状PASの純度は好ましくは90質量%以上、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.99質量%以下の範囲である。かかる範囲において、複合体を溶融成形した際の発生ガスを低減しながら、優れた機械的特性を呈することができる。
【0041】
<鎖状ポリマー>
上記鎖状ポリマーは、フェニル基を有する構成単位と、π-π相互作用する官能基を含まない構成単位とのみからなるポリマーであってもよいし、さらに他の構成単位を含んでいてもよい。
【0042】
上記フェニル基を有する構成単位は、主鎖にフェニル基を有する構成単位であってもよいし、側鎖にフェニル基を有する構成単位であってもよいし、主鎖および側鎖にフェニル基を有する構成単位であってもよい。中でも、可逆的な架橋点が増えてヤング率や靱性が一層向上する観点や、環状ポリマーの芳香族炭化水素や他の鎖状ポリマーのフェニル基とπ-π相互作用しやすくなるため、側鎖にフェニル基を有する構成単位が好ましい。可動的架橋点が形成され力学特性を向上する観点から、環状ポリマーが鎖状ポリマーを貫通しやすいことからは、主鎖にフェニル基を有する構造単位が好ましい。
【0043】
主鎖にフェニル基を有する構成単位としては、フェニレンエーテルなどのアリーレンエーテルに由来する構成単位、フェニレンスルフィドなどのアリーレンスルフィドに由来する構成単位、ポリエステル(例えばエチレングリコールとテレフタル酸の重縮合により得られるポリエステル、ブタンジオールとテレフタル酸との重縮合により得られるポリエステルなど)中のフェニル基を有する構成単位、ポリウレタン中のフェニル基を有する構成単位、ポリカーボネート中のフェニル基を有する構成単位、エポキシ樹脂中のフェニル基を有する構成単位、フェノール樹脂中のフェニル基を有する構成単位、などが挙げられる。
側鎖にフェニル基を有する構成単位としては、スチレンに由来する構成単位、メチルスチレンに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸ベンジルに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸フェニルに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸2-フェニルエチルに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルに由来する構成単位、N-フェニルアクリルアミドに由来する構成単位、N-フェニルメタクリルアミドに由来する構成単位、安息香酸ビニルに由来する構成単位に由来する構成単位などが挙げられる。
中でも、スチレンに由来する構成単位が好ましい。
上記フェニル基を有する構成単位は、一種を単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0044】
上記π-π相互作用する官能基を含まない構成単位としては、芳香環を含まない構成単位が挙げられ、エチレン、プロピレンなどの炭素数2~10のアルケンに由来する構成単位、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位、芳香環を含まない(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位などが挙げられる。
上記π-π相互作用する官能基を含まない構成単位は、一種を単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上記鎖状ポリマー中に含まれる全構成単位100モルに対する上記フェニル基を有する構成単位のモル割合は、60~95モル%であり、靭性に一層優れる観点から、75~90モル%であることが好ましく、より好ましくは78~82モル%である。
【0046】
上記鎖状ポリマー中に含まれる全構成単位100モルに対する上記π-π相互作用する官能基を含まない構成単位のモル割合は、5~40モル%であり、靭性に一層優れる観点から、10~30モル%であることが好ましく、より好ましくは18~22モル%である。
【0047】
上記鎖状ポリマーは、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよいが、靭性に一層優れる観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0048】
本実施形態の複合構造体100質量%に対する上記鎖状ポリマーの質量割合は、靭性に一層優れる観点から、90~99.99質量%であることが好ましく、より好ましくは94.5~99.9質量%、さらに好ましくは95.5~99.5質量%である。
【0049】
<ロタキサン>
本実施形態の複合構造体は、靭性に一層優れる観点から、上記環状ポリマーの開口部に上記鎖状ポリマーが貫通するロタキサンを含んでいてよい。
【0050】
上記鎖状ポリマーは、少なくとも一方の末端(好ましくは両末端)に封鎖基を有してよい。上記封鎖基は、環状ポリマーが脱離しないように作用する基であれば特に限定されない。
上記封鎖基としては、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものが挙げられる。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、およびステロイド類などが挙げられる。
【0051】
<他の成分>
上記複合構造体は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填剤などの他の成分を含有せしめることができる。
【0052】
充填剤としては、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の無機充填剤などが挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイトなどの繊維、天然繊維などの繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウムなどの非繊維状充填剤も使用できる。
【0053】
上記複合構造体は、更に、上記環状ポリマー、上記鎖状ポリマー以外の合成樹脂およびエラストマーを含んでいてもよい。上記合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマーなどが挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0054】
[複合構造体の製造方法]
上述の本実施形態の複合構造体の製造方法は、特に限定されないが、フェニル基を有するモノマーおよびπ-π相互作用する官能基を含まないモノマーを含むモノマー成分と、環状ポリマーと、必要に応じて重合開始剤とを混合し、重合する工程を含む方法であってよい。
【0055】
上記フェニル基を有するモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-フェニルエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、N-フェニルアクリルアミド、N-フェニルメタクリルアミド、安息香酸ビニル等の付加重合に用いるモノマーや、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、ビスフェノールAやビスフェノールF、ヒドロキノン等の芳香族ジオール、ジフェニルメタンジイソシアネートやトルエンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ベンゼン-1、3-ジアミンやベンゼン-1、4-ジアミン等の芳香族ジアミン、m-フタル酸ジクロライドやp-フタル酸ジクロライド等の芳香族ジクロリドといった縮合重合に用いるモノマーなどが挙げられる。
【0056】
上記π-π相互作用する官能基を含まないモノマーとしては、エチレン、プロピレンなどの炭素数2~10のアルケン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の付加重合に用いるモノマーや、コハク酸やアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールやプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、ヘキサメチレンジイソシアネートやペンタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、エチレンジアミンやヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、スクシニルクロリド等の脂肪族ジクロリド等の縮合重合に用いるモノマーなどが挙げられる。
【0057】
上記重合開始剤としては、熱重合開始剤や光重合開始剤などが挙げられる。
熱重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などのアゾ系化合物;ラウリルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジプロピルパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドなどの有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、および過酸化水素などの無機過酸化物;などが挙げられる。
光重合開始剤として、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、Omnirad 651(Irgacure 651)(IGM Resins社製)、Omnirad 184(Irgacure 184)(IGM Resins社製)、Omnirad 1173(Irgacure 1173)(IGM Resins社製)、Omnirad 2959(Irgacure 2959)(IGM Resins社製)、Omnirad 127(Irgacure 127)(IGM Resins社製)、Omnirad 907(Irgacure 907)(IGM Resins社製)、Omnirad 369(Irgacure 369)(IGM Resins社製)、Omnirad 369E(Irgacure 369E)(IGM Resins社製)、Omnirad 379EG(Irgacure 379EG)等のアルキルフェノン系光重合開始剤、Omnirad TPO H(Irgacure TPO)(IGM Resins社製)、Omnirad 819(Irgacure 819)(IGM Resins社製)等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、Omnirad MBF(Irgacure MBF)(IGM Resins社製)、Omnirad 754(Irgacure 754)(IGM Resins社製)等の分子内水素引き抜き型光重合開始剤、Irgacure OXE01(BASFジャパン社製)、Irgacure OXE02(BASFジャパン社製)、Irgacure OXE03(BASFジャパン社製)、Irgacure OXE04(BASFジャパン社製)等のオキシムエステル系光重合剤、Omnicat 250(Irgacure 250)(IGM Resins社製)、Omnicat 270(Irgacure 270)(IGM Resins社製)、Irgacure 290(BASFジャパン社製)等のカチオン系光重合開始剤、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドなどが挙げられる。
中でも、汎用性の観点から、熱開始剤のアゾビスイソブチロニトリルが好ましい。
【0058】
上記モノマー成分100モル%に対する、上記フェニル基を有するモノマーと上記π-π相互作用する官能基を含まないモノマーとの合計質量の割合は、60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
【0059】
上記π-π相互作用する官能基を含まないモノマー1モルに対する上記フェニル基を有するモノマーの添加モル割合は、靭性に優れる複合構造体が得られる観点から、1.5~19であることが好ましく、より好ましくは1.8~9、さらに好ましくは2.1~6である。
【0060】
上記モノマー成分100質量%に対する上記環状ポリマーの質量割合は、靭性に優れる複合構造体が得られる観点から、0.5~4.5質量%であることが好ましく、より好ましくは1~3質量%、さらに好ましくは1.5~2質量%である。
【0061】
上記モノマー成分100モルに対する上記重合開始剤の添加モル割合は、0.00001~1モルであることが好ましく、より好ましくは0.001~0.05モルである。
【0062】
上記重合する工程の温度としては、10~150℃が挙げられる。
また、上記重合する工程の時間としては、10分~48時間が挙げられる。
【0063】
重合後、精製により未反応モノマーを除去してよい。除去の方法としては、例えば、真空乾燥などが挙げられる。
【0064】
また、本実施形態の他の複合構造体の製造方法として、鎖状ポリマーと、環状ポリマーと、必要に応じて上記の任意成分とを配合し、鎖状ポリマーの融点以上の温度で溶融混練する工程を含む方法であってよい。
【0065】
溶融混練する方法としては、特に限定されないが、例えば、必須成分である鎖状ポリマー及び環状ポリマーと、上記の任意成分である他の成分とを配合して溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。上記溶融混錬は、樹脂温度が鎖状ポリマーの融点以上となる温度で行うことが好ましく、好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上であり、また、該融点+100℃以下が好ましく、より好ましくは該融点+50℃以下である。
【0066】
上記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することが好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、必要に応じて他の繊維状充填剤を添加する場合は、上記二軸混練押出機のサイドフィーダーから投入することが分散性の観点から好ましい。上記サイドフィーダーの位置は、上記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、上記押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から上記サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上である位置が好ましく、0.3以上である位置がより好ましい。また、上記比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0067】
さらに、本実施形態の他の複合構造体の製造方法として、直鎖ポリマーと、環状ポリマーと、必要に応じて上記の任意成分とを有機溶媒存在下で混合してから、加熱乾燥してキャストする工程を含む方法であってよい。混合及び加熱乾燥は、公知の条件や装置を用いて行うことができる。
【0068】
上記有機溶媒としては、直鎖ポリマーと、環状ポリマーとが常圧かつ溶媒の融点以下で溶解するものであればよく、例えば、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0069】
また、上述の合成法や溶媒ブレンド法で得られた複合構造体と、上記の任意成分である他の成分とを配合して、溶融混練して樹脂組成物を得ることもできる。その際の溶融混練する方法や条件は、上記の混練法と同様であり、例えば、複合構造体と上記の他の成分を配合して、複合構造体の融点以上の温度で溶融混練することができる。
【0070】
このように得られる樹脂組成物は、上記複合構造体と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物を含む。上記樹脂組成物は、上記溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0071】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述の本実施形態の複合構造体を含む。上記成形体は上記複合構造体のみからなっていてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。
上記成形体は、複合構造体を溶融成形してなる成形体であってよい。本実施形態の成形体の製造方法は、上記複合構造体を溶融成形する工程を有する。
【0072】
上記複合構造体は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度が上記複合構造体の融点以上の温度範囲、好ましくは上記融点+10℃以上の温度、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃で上記複合構造体を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0073】
本実施形態の成形体の製造方法は、上記成形体にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形体の用途あるいは形状などにより最適な条件が選ばれるが、アニール温度は上記複合構造体のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは上記ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは上記ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形体のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上するだけでなく、耐薬品性がさらに向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガスなどの不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0074】
<用途>
本実施形態の複合構造体および成形体は、自動車部品用途や電気電子部品用途、水廻り用途などの各種部品に好適である。具体的には、例えば、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスクなどの音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である
【実施例0075】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0076】
<評価>
実施例および比較例の評価方法は、以下のとおりである。
【0077】
(1)引張特性の評価
各実施例および比較例で得られた複合構造体は厚み300μm、ストレート部8mm×34mm、掴み部分を含めた試験片長さ75mmのダンベル型にて130℃で圧縮力7 kN下で5分間プレスし試験片(
図1)を得た。Shimadzu社のAutograph AG-Xを用いて引張速度0.025mm/sで引張試験を実施し、引張破断応力(MPa)、引張破断歪(%)を測定した。
また、応力-ひずみ曲線の初期勾配からヤング率(GPa)、曲線とひずみ軸間の面積から靭性(MJ/m
3)を算出した。
【0078】
(2)吸水率測定
上記ダンベル試験片を50℃±2℃に保った恒温槽中に24±1時間保持してから、23℃のデシケータ内で徐冷して、乾燥した試験片を得た。得られた試験片の重量を測定し、その値をM1とした。続いて、試験片を23±2℃に保った蒸留水中に24±1時間浸漬した。その後、試験片を取り出して表面に付着した水分を布で拭きとり、4±1分後に重量を測定し、その値をM2とした。得られた値を用いて吸水率を下記式により算出した。
吸水率(%)=(M2-M1)/M1×100
【0079】
実施例および比較例における複合構造体の製造方法は、以下のとおりである。
【0080】
<製造方法A:合成法による製造>
スチレンとエチルアクリレートの混合溶液(モノマー成分)に環状PPSオリゴマー(7U)を溶かしてから、全モノマーと開始剤(アゾビスイソブチロニトリル、AIBN)のモル比が600/1となるようAIBN(8.21mg)を加えた。70℃で24時間塊状重合した後、110℃で24時間真空乾燥して未反応モノマーを除去し、複合構造体を得た。
なお、各実施例、比較例における、スチレン、エチルアクリレートの添加モル割合、および複合構造体100質量%に対する環状PPSオリゴマーの添加質量割合は表1、2の記載の通りである。
【0081】
<製造方法B:混練法による製造>
スチレンとエチルアクリレートの混合溶液(モノマー成分)に開始剤(アゾビスイソブチロニトリル、AIBN)のモル比が600/1となるようAIBN(8.21mg)を加えた。70℃で24時間塊状重合した後、110℃で24時間真空乾燥して未反応モノマーを除去した。得られたSt-EA樹脂に環状PPSオリゴマー添加し、小型混練機(井元製作所製IMC-A300)にて130℃、回転数100rpm、4分間混錬し複合構造体を得た。
なお、実施例5、比較例8における、スチレン、エチルアクリレートの添加モル割合、および複合構造体100質量%に対する環状PPSオリゴマーの添加質量割合は表1、2の記載の通りである。
【0082】
<製造方法C:溶媒ブレンド法による製造>
スチレンとエチルアクリレートの混合溶液(モノマー成分)に開始剤(アゾビスイソブチロニトリル、AIBN)のモル比が600/1となるようAIBN(8.21mg)を加えた。70℃で24時間塊状重合した。その後得られた共重合体と環状PPSオリゴマーをトルエンに溶解し、テフロン製鋳型に溶液を入れ80℃の対流オーブンで3時間、110℃の真空オーブンで24hキャストし、複合構造体得を得た。
なお、実施例6、比較例9における、スチレン、エチルアクリレートの添加モル割合、および複合構造体100質量%に対する環状PPSオリゴマーの添加質量割合は表1、2の記載の通りである。
【0083】
<使用原料>
スチレン
エチルアクリレート
アゾビスイソブチロニトリル
【0084】
<環状PPSオリゴマーの製造方法>
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)19.413kg(150モル)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン21.631kg(147モル)およびNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。100℃でオートクレーブの底弁を開き、反応スラリーを150リットル平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過し、NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄ろ過した。回収したNMPろ液の重量は80.0kgであった。
得られたNMPろ液に水を添加して水スラリー化したあと、固液分離と水洗浄を2回繰り返し、その後120℃熱風乾燥機で4時間乾燥して粉体を得た。得られた粉体にクロロホルムを加えて、65℃で1時間攪拌した。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後の残渣に25℃のクロロホルムを加えて洗浄し、ろ液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥して、環状PPSオリゴマー0.763kgを得た。
【0085】
【0086】