(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081501
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】地盤性状調整方法及びこれを用いた炭化水素回収方法
(51)【国際特許分類】
E21B 43/16 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
E21B43/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195172
(22)【出願日】2022-12-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省「令和3年度国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」に関する委託契約、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】畠 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓
(72)【発明者】
【氏名】米田 純
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】安部 俊吾
(57)【要約】
【課題】地盤の性状改善を効率的に行うことを目的とする。
【解決手段】生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な微生物を地盤中において増殖させることにより地盤を固化することを特徴とする。微生物は、環境中の二酸化炭素を取込むことにより、前記生物膜の表面に炭酸カルシウムを析出させてもよい。地盤性状調整方法では、微生物として、Sporosarcina newyorkensis種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、Sporosarcina pasteurii種、またはSporosarcina aquimarina種のうちの少なくとも一種を地盤中において増殖させてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な当該微生物を地盤中において増殖させることにより当該地盤を固化することを特徴とする、
地盤性状調整方法。
【請求項2】
前記微生物は、環境中の二酸化炭素を取込むことにより、前記生物膜の表面に炭酸カルシウムを析出させる、
請求項1に記載の地盤性状調整方法。
【請求項3】
前記微生物として、Sporosarcina newyorkensis種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、Sporosarcina pasteurii種、またはSporosarcina aquimarina種のうちの少なくとも一種を前記地盤中において増殖させる、
請求項1又は2に記載の地盤性状調整方法。
【請求項4】
前記微生物を増殖させる前又は前記微生物の増殖中に、前記地盤中へカルシウム源を含む栄養塩を注入することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の地盤性状調整方法。
【請求項5】
前記地盤中に、尿素の加水分解反応で生成されたアンモニア由来のアルカリ条件下で溶解させたカゼインを注入することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の地盤性状調整方法。
【請求項6】
前記微生物に有機酸を生成させ、当該有機酸により前記微生物へのカルシウムイオンの取込みを促進させる、
請求項1又は2に記載の地盤性状調整方法。
【請求項7】
生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な当該微生物を地盤中において増殖させることにより当該地盤を固化する地盤性状調整方法を用いた炭化水素回収方法であって、
当該微生物を増殖させるための培地を生産井に圧入する第1圧入工程と、
前記尿素を前記生産井に圧入する第2圧入工程と、
前記微生物を増殖させる増殖工程と、
前記第1圧入工程、前記第2圧入工程及び前記増殖工程の後に、前記生産井を減圧する減圧工程と、
前記生産井から炭化水素を回収する回収工程と、
を有する炭化水素回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
地盤の性状を調整する地盤性状調整方法、及び、地盤性状調整方法を用いた炭化水素を回収する炭化水素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素の加水分解酵素反応によって生成される二酸化炭素を利用して、海底地盤の透水性等の性状を改善する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化水素回収方法は、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する微生物が存在する海底地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収方法が記載されている。この炭化水素回収方法においては、微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井に圧入する圧入工程と、組成物を圧入した後に生産井内を減圧する減圧工程と、生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収工程と、を有することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収方法が記載されている。この炭化水素回収方法においては、第1種微生物を増加させるための培地を生産井に圧入する第1圧入工程と、第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井に圧入する第2圧入工程と、培地及び組成物を圧入した後に生産井内を減圧する減圧工程と、生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収工程と、を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6842765号
【特許文献2】国際公開第2021-181881号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生駒聖他、「MICP を応用したメタンハイドレート由来のメタンガス回収支援手法に関する検討」、第29 回日本エネルギー学会大会講演要旨集講演番号2-06、2020/8/5-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法においては、例えば地盤が固化するまで、微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井に圧入し続ける必要がある場合がある。また、特許文献2に記載された方法では、生物膜を生成するための微生物と、二酸化炭素を生成するための微生物とを利用して、地盤性状を改善する。このため、二種類の微生物のうちの一方が海底地盤中に存在しない場合には、外部から微生物を導入する必要がある場合がある。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生物膜を生成可能な微生物であってウレアーゼ活性を有する微生物が存在することを見出した。このように、生物膜を生成可能な微生物であってウレアーゼ活性を有する微生物は、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能であり、地盤を固化させることができることを見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、上記微生物によれば環境中の二酸化炭素を取込むことによって生物膜の表面に炭酸カルシウムを析出させることができることも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様の地盤性状調整方法は、生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な微生物を地盤中において増殖させることにより当該地盤を固化することを特徴とする。微生物は、環境中の二酸化炭素を取込むことにより、生物膜の表面に炭酸カルシウムを析出させてもよい。
【0011】
地盤性状調整方法では、微生物として、Sporosarcina newyorkensis種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、Sporosarcina pasteurii種、またはSporosarcina aquimarina種のうちの少なくとも一種を地盤中において増殖させてもよい。地盤性状調整方法では、微生物を増殖させる前又は微生物の増殖中に、地盤中へカルシウム源を含む栄養塩を注入してもよい。
【0012】
地盤性状調整方法では、地盤中に、尿素の加水分解反応で生成されたアンモニア由来のアルカリ条件下で溶解させたカゼインを注入してもよい。地盤性状調整方法では、微生物に有機酸を生成させ、当該有機酸により微生物へのカルシウムイオンの取込みを促進させてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様の炭化水素回収方法は、生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な当該微生物を地盤中において増殖させることにより当該地盤を固化する地盤性状調整方法を用いた炭化水素回収方法であって、当該微生物を増殖させるための培地を生産井に圧入する第1圧入工程と、尿素を生産井に圧入する第2圧入工程と、微生物を増殖させる増殖工程と、第1圧入工程、第2圧入工程及び増殖工程の後に、生産井を減圧する減圧工程と、生産井から炭化水素を回収する回収工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生物膜を生成可能な微生物であってウレアーゼ活性を有する微生物を用いることによって、地盤の性状改善を効率的に行うことが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の炭化水素回収方法の概要について説明するための図である。
【
図2】実施形態の炭化水素回収方法の概要について説明するための図である。
【
図3】溶液pHと炭酸カルシウム溶解度の関係を示す。
【
図5】炭化水素回収方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態の二酸化炭素貯留システムの構成を示す。
【
図7】地盤を固化する効果が確認された複数の菌種を示す。
【
図8】Sporosarcina newyorkensis AT1-C 2012株、Sporosarcina newyorkensis AT1-CW2 2018株及びSporosarcina pasteuriiの増殖の速さ及びウレアーゼ活性の確認結果を示す。
【
図9】B4培地でのSporosarcina newyorkensis種の増殖による炭酸カルシウムの結晶化の様子を示す。
【
図10】Sporosarcina newyorkensis AT1-C 2012株と、Sporosarcina newyorkensis AT1-CW2 2018株とのコロニーの形状の例を示す。
【
図11】Sporosarcina newyorkensis AT1-C 2012株と、Sporosarcina newyorkensis AT1-CW2 2018株とが形成したコロニーの形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、生物膜を生成可能な微生物であって、ウレアーゼ活性を有し、当該ウレアーゼ活性による尿素の分解に伴ってカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させることが可能な微生物を地盤中において増殖させることにより当該地盤を固化することを特徴とするものである。以下に、第1の実施形態として本地盤性状調整方法を用いた炭化水素回収方法、炭化水素回収システムを説明する。また、第2の実施形態として本地盤性状調整方法を二酸化回収貯留技術に適用する場合を説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
[地盤性状調整方法の概要]
図1及び
図2は、本地盤性状調整方法の概要について説明するための図である。
図1及び
図2においては、炭化水素回収システム1及び生産井2が示されている。
【0018】
炭化水素回収システム1は、炭化水素を含有する生産流体を回収するためのシステムである。炭化水素回収システム1は、海底地盤に含まれている炭化水素として、例えばメタンハイドレート、天然ガス又は石油を回収するための装置である。炭化水素回収システム1は、例えば、メタンハイドレートを回収する船に搭載されている。以下においては、主に、炭化水素がメタンハイドレートである場合を例に説明する。
【0019】
炭化水素回収システム1は、圧入装置11、回収装置12、圧力調整装置13及び制御装置14を備える。制御装置14は、圧入装置11、回収装置12及び圧力調整装置13を制御するコンピュータである。制御装置14は、記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することにより、又は作業員の操作に基づいて、炭化水素を回収するための処理を実行する。
【0020】
生産井2は、海底地盤内のメタンハイドレート層に埋蔵されたメタンハイドレートを回収するための井戸である。生産井2は、海底地盤に含まれる土砂が生産井2に流れ込むことを防ぐために用いられる各種の物質を圧入するための圧入管21、メタンハイドレートを回収するための回収管22、及び開口部23を有する。
【0021】
本地盤性状調整方法においては、海底地盤に含まれる土砂が生産井2に流れ込むことを防ぐために、海底地盤に存在する微生物に生物膜(バイオフィルム)を生成させることを特徴としている。生物膜には、微生物のDNA、タンパク質及びカルシウム等の金属が含有されており、粘性を有する。生物膜は、海底地盤の間隙中の海水の移動を抑制する。
【0022】
本地盤性状調整方法において生物膜の生成に用いる微生物は、生物膜を生成可能であることに加えて、ウレアーゼ活性を有する。微生物のウレアーゼ活性による反応は、以下の式により表される。
CO(NH2)2
+ 2H2O → 2NH4
+ + CO3
2- 式(1)
CO3
2- + Ca2+ → CaCO3 (高pH条件) 式(2)
【0023】
式(1)中のCO(NH2)2は尿素である。式(1)に示すように、この微生物のウレアーゼ活性による尿素の分解にともなって、炭酸イオンが生じる。式(2)に示すように、この炭酸イオンは、環境中のカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムとして析出される。
【0024】
微生物は、生成した生物膜を介して、海底地盤の間隙水又は間隙空気中に存在する二酸化炭素を取込むことにより炭酸カルシウムを析出させる。本地盤性状調整方法では、このような微生物を海底地盤中において増殖させることにより、この海底地盤を固化させる。
【0025】
本地盤性状調整方法においては、例えば、Sporosarcina newyorkensis(以下、S.newyorkensisともいう)種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、Sporosarcina pasteurii(以下、S.pasteuriiともいう)種、またはSporosarcina aquimarina (以下、S.aquimarinaともいう)種のうちの少なくとも一種の微生物を地盤中において増殖させる。好適な例としては、S.newyorkensis種は、S.newyorkensis AT1-C 2012株、又は、S.newyorkensis AT1-CW2 2018株である。S.newyorkensis AT1-C 2012株は、2012年の南海トラフでのメタンハイドレート実証事業の際の試掘井戸(AT1-C)で採取されたS.newyorkensisを意味する。また、S.newyorkensis AT1-CW2 2018株は、2018年の南海トラフでのメタンハイドレート実証事業の際の試掘井戸(AT1-CW2)で採取されたS.newyorkensisを意味する。
【0026】
本地盤性状調整方法においては、上述した微生物に有機酸を生成させる。生成した有機酸により微生物へのカルシウムイオンの取り込みが促進される。有機酸は、例えば、乳酸又は蟻酸である。
【0027】
図3は、溶液pHとカルシウムイオンの溶解度との関係を示す。
図3の縦軸は、カルシウムイオンの溶解度を百分率で示す。
図3の横軸は、溶液のpHを示す。
図3中に示す脱灰pHは、地盤中に含まれるカルシウム塩の溶出が開始するpHの値である。
【0028】
図3のグラフに示すように溶液pHが低いほど、カルシウムイオンの溶解度が上昇する。微生物が有機物を代謝することにより有機酸を生成すると、この有機酸により微生物の周囲環境のpHが低下して土壌中に含まれるカルシウム塩(主として炭酸カルシウム)が溶出しやすくなる。カルシウム塩が溶出して生じたカルシウムイオンの一部は、微生物に取込まれて炭酸カルシウムを析出させるのに利用される。
【0029】
本地盤性状調整方法においては、微生物が増殖するための培地を生産井2に圧入する第1圧入工程と、この微生物が分解する尿素等の組成物を生産井2に圧入する第2圧入工程と、この微生物を増殖させる増殖工程と、を実行することで、生物膜及び炭酸カルシウムの生成を促す。微生物は、環境中の二酸化炭素を取込むことにより、生物膜の表面に炭酸カルシウムを析出させる。その結果、
図1及び
図2に示すメタンハイドレート層における開口部23の近傍の領域aの土砂を固化させることができる。
【0030】
本地盤性状調整方法によれば、炭酸カルシウムだけでなく生物膜も利用して領域aの土砂を固化させることにより、炭酸カルシウムの析出量を所定範囲内に留めつつ、土砂が炭化水素の生産井に流入することを抑制することができる。生物膜により土砂を固化させた場合、メタンハイドレートの回収が終了した後に、元の地盤の状態に戻りやすいので、炭酸カルシウムの生成量を増やす場合に比べて環境に与える影響を軽減することができる。さらに、炭酸カルシウムだけでなく生物膜も利用して領域aの土砂を固化させることにより、土砂が固化するまでの時間を短縮することができる。
【0031】
また、本地盤性状調整方法によれば、生物膜を生成可能であり、且つ、ウレアーゼ活性を有する微生物を地盤中において増殖させることにより、地盤を固化させる。本地盤性状調整方法では、2種類以上の微生物を利用する必要がないので、2種類以上の微生物を利用する場合に比べて、微生物の増殖のための培地又は栄養塩等を地盤中へ圧入する量又は品数を低減することができる。また、微生物が海底地盤中に存在しない場合、1種類の微生物を地盤中へ導入すればよいので、2種類以上の微生物を地盤中に導入する場合に比べて、導入する微生物を培養する際に要するコストを低減することができる。以下、地盤性状調整方法を実施するために用いられる炭化水素回収システム1の構成及び動作を詳細に説明する。
【0032】
[炭化水素回収システム1の構成]
図4は、圧入装置11の構成を示す図である。以下、
図1、
図2及び
図4を参照しながら、炭化水素回収システム1が炭化水素を回収する方法について説明する。
【0033】
圧入装置11は、
図1に示すように、メタンハイドレートを回収する前に、生産井2に土砂が流れ込むことを防ぐために必要な培地及び組成物を、圧入管21を介して生産井2の中に圧入するための装置である。圧入装置11は、微生物を増加させるための培地を生産井2に圧入する第1圧入部、及び微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井2に圧入する第2圧入部として機能する。
【0034】
図4に示すように、圧入装置11は、培地タンク111と、尿素タンク112と、カルシウム塩タンク113と、栄養塩タンク114と、バルブ115と、バルブ116と、バルブ117と、バルブ118と、ポンプ119とを有する。培地タンク111は、生産井2に圧入する培地を貯蔵するためのタンクである。尿素タンク112は、生産井2に圧入する尿素を貯蔵するためのタンクである。カルシウム塩タンク113は、生産井2に圧入するカルシウム塩を貯蔵するためのタンクである。栄養塩タンク114は、生産井2に圧入する栄養塩を貯蔵するためのタンクである。
【0035】
バルブ115は、制御装置14の制御に基づいて、培地タンク111に貯蔵された培地を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ116は、制御装置14の制御に基づいて、尿素タンク112に貯蔵された尿素を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ117は、制御装置14の制御に基づいて、カルシウム塩タンク113に貯蔵されたカルシウム塩を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ118は、制御装置14の制御に基づいて、栄養塩タンク114に貯蔵された栄養塩を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。ポンプ119は、培地、尿素、カルシウム塩及び栄養塩を生産井2に圧入するためのポンプである。
【0036】
圧入装置11は、例えばMH胚胎層に由来する微生物に適した培地を生産井2に圧入することにより培地を地盤中に加え、微生物が生物膜を生成する活性値を高める。圧入装置11が生産井2に圧入する培地は、例えば、B4培地、T.S.B(トリプチケースソイブロス、Trypticase Soy Broth)培地、LB培地又はNH4―YE培地である。B4培地は、4.0g/L酵母エキス、5.0g/Lグルコース、15.0g/Lアガーを含む。尿素を加える場合には、培地は、B4培地を滅菌した後、酢酸カルシウム(フィルタ滅菌)を0.25重量%になるように添加し、尿素(フィルタ滅菌)を2重量%になるよう添加することにより作製される。
【0037】
T.S.B培地は、プレミックスタイプのDifico(登録商標)Tryptic Soy Agarを使用することにより作製される。LB培地は、10.0g/Lトリプトン、5.0g/L酵母エキス、5.0g/L塩化ナトリウム、16.0g/Lアガーを含む。NH4―YEは、20.0g/L酵母エキス、10.0g/Lの(NH4)2SO4、15.7g/Lの2-アミノ-2-ヒドロキシメチル―1,3-プロパンジオール、20.0g/Lアガーを含む。
【0038】
圧入装置11が生産井2に圧入する組成物は、微生物が尿素を加水分解するウレアーゼ活性による二酸化炭素の生成に用いられる組成物であり、例えば、尿素である。尿素は、ウレアーゼ活性を有する微生物により分解されて二酸化炭素の生成に用いられる。この二酸化炭素の生成により、炭酸カルシウムの析出が促進される。
【0039】
圧入装置11は、微生物を増殖させる増殖工程の前、又は、この増殖工程の途中に、微生物のカルシウム源等を含む栄養塩を海底地盤中へ圧入する工程をさらに有してもよい。例えば、栄養塩は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、又は硝酸カルシウムである。このように圧入装置11が栄養塩を圧入することで、微生物の栄養が乏しい海底地盤においても微生物による炭酸カルシウムの析出を促進することができる。
【0040】
圧入装置11は、尿素の加水分解反応で生成されたアンモニア由来のアルカリ条件下で溶解させたカゼインを地盤中に圧入してもよい。カゼインは、海水環境のみでは溶解させることが困難であるが、尿素の加水分解にともなって生成されたアンモニアを利用することでより溶解し易くすることができる。このようなアルカリ条件下で溶解させたカゼインを加えることにより、開口部23の近傍の領域aの土砂の粘性が増加するので、海水の流れ等によって土砂が炭化水素の生産井に流入することを抑制することができる。
【0041】
回収装置12は、生産井2からメタンハイドレートを回収するための回収部として機能し、メタンハイドレートを吸引するためのポンプ(不図示)を有している。回収装置12は、制御装置14の制御に基づいて、圧入装置11が微生物を活性化させるための培地と、微生物が生成する二酸化炭素による炭酸カルシウムの析出を促進させるための尿素と、を圧入してから所定の時間が経過した後に、メタンハイドレートの回収を開始する。所定の時間は、例えば、海底地盤に存在するカルシウム塩と、ウレアーゼ活性を有する微生物が尿素を加水分解して生成される二酸化炭素とが反応することにより炭酸カルシウムが析出するために要する時間である。
【0042】
このようにすることで、回収装置12は、メタンハイドレート層における生産井2の近傍の領域aの土砂が固化した状態でメタンハイドレートを回収できる。その結果、回収装置12がメタンハイドレートを回収している間に土砂が生産井2に流れ込まないので、メタンハイドレートの回収効率を向上させることができる。
【0043】
圧力調整装置13は、制御装置14の制御に基づいて、生産井2の内部の圧力を調整するための装置である。圧力調整装置13は、例えば海底地盤に存在する微生物を生産井2の側に移動させるために生産井2の内部を減圧したり、上述した第1圧入工程、第2圧入工程及び増殖工程の後に、メタンハイドレートを回収するために生産井2の内部を減圧したりする減圧部として機能する。
【0044】
開口部23は、生産井2の壁面における圧入管21の先端付近の位置に設けられたメッシュ状の領域である。圧入管21を介して圧入された尿素は、回収管22から海底地盤へと圧入され、海底地盤内の微生物に吸収される。開口部23は、生産井2の周辺の海底地盤において透水性が高い部位に設けられていることが好ましい。このようにすることで、土砂が生産井2に流入する確率が高い地盤に優先的に尿素を圧入することができるので、土砂が生産井2に流入する確率が高い地盤を効率良く固化させることができる。
【0045】
[海底地盤の固化を促進するための方法]
地盤性状調整方法においては、海底地盤の固化を促進するために、以下の工程を実行してもよい。
【0046】
(1)栄養塩の圧入
地盤性状調整方法は、微生物による尿素の加水分解を活性化させるために、微生物の栄養となる栄養塩を圧入する工程をさらに有してもよい。栄養塩は、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、又は硝酸カルシウムである。栄養塩には、尿素が含まれていてもよい。圧入装置11が、微生物に適した栄養塩を圧入することで、微生物が生物膜を生成する能力を活性化させることができる。また、圧入装置11は、微生物に適した栄養塩を圧入することで、微生物が尿素を加水分解する能力を活性化させることができる。
【0047】
(2)微生物の圧入
地盤性状調整方法は、炭酸カルシウムの析出に用いられる二酸化炭素の量を増やすために、生物膜を生成する能力を有し、且つウレアーゼ活性を有する微生物を圧入する工程をさらに有してもよい。微生物を圧入するために、地盤性状調整方法は、生産井2から回収される水が存在する嫌気環境下で、生産井2に圧入する微生物を培養する工程をさらに有してもよい。微生物を培養する工程は、微生物圧入工程の前に実行される。微生物を培養する工程においては、例えば、S.newyorkensis種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、S.pasteurii種、またはS.aquimarina種のうちの少なくとも一種の微生物を培養する。好適な例としては、S.newyorkensis種は、S.newyorkensis AT1-C 2012株、又は、S.newyorkensis AT1-CW2 2018株である。
【0048】
微生物を培養する工程においては、海底地盤における活性度が高い微生物と同じ遺伝子情報を有する微生物を培養してもよい。このようにして培養した微生物を生産井2に圧入することで、培養した微生物による生物膜の生成量、及び炭酸カルシウムの析出量が増加する。
【0049】
[地盤性状調整方法の処理の流れ]
図5は、地盤性状調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。まず、制御装置14は、圧力調整装置13を制御することにより、海底地盤内の微生物を生産井2の側に移動させるために、生産井2の内部圧力を第1圧力P1に調整する工程を実行する(S11)。生産井2の近傍の領域aに存在する微生物の量が増えれば増えるほど、領域aにおける生物膜の生成量及び炭酸カルシウムの析出量が増加する。したがって、生産井2の内部圧力を第1圧力P1にまで減圧することで、土砂が生産井2に流れ込むことをより効果的に防止することができる。
【0050】
続いて、制御装置14は、圧入装置11を制御することにより、微生物を活性化させるための培地を生産井2に圧入する第1圧入工程を実行する(S12)。その後、制御装置14は、微生物が十分な量の生物膜を生成するまでに要する第1時間が経過するまで待機する(S13)。
【0051】
制御装置14は、第1時間が経過すると(S13においてYES)、圧入装置11を制御することにより、尿素を生産井2に圧入する第2圧入工程を実行する(S14)。圧入装置11が尿素を圧入することにより、微生物が尿素の加水分解を行って二酸化炭素が生成され、圧入されたカルシウム塩と二酸化炭素に基づく炭酸イオンとが反応することにより炭酸カルシウムが析出する。制御装置14は、圧入装置11が圧入した尿素の量に対応する炭酸カルシウムが析出するために必要な第2時間が経過するまで待機する(S15)。
【0052】
制御装置14は、第2時間が経過すると(S15においてYES)、圧力調整装置13を制御して、生産井2の内部圧力を第2圧力P2に調整する(S16)。第2圧力P2は、例えば第1圧力P1よりも低い圧力である。第2圧力P2が十分に低いことで、海底地盤内の高圧環境下に存在するメタンハイドレートが生産井2の側に移動する。制御装置14は、生産井2の側に移動したメタンハイドレートを回収装置12に回収させる(S17)。
【0053】
制御装置14は、生産井2の内部圧力を第2圧力P2にまで減圧してメタンハイドレートの回収を開始した後に、メタンハイドレートの回収を終了するか否かを判定する(S18)。作業員がメタンハイドレートの回収を終了する操作を行った場合(S18においてYES)、制御装置14は、メタンハイドレートの回収を終了する。
【0054】
制御装置14は、メタンハイドレートの回収を終了する操作が行われていないと判定すると(S18においてNO)、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値以上であるか否かを判定する(S19)。制御装置14は、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値以上である場合は(S19においてYES)、ステップS17に戻って、メタンハイドレートの回収を継続する。
【0055】
一方、制御装置14は、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値未満になった場合(S19においてNO)、ステップS11に処理を戻してS11からS17までの処理を繰り返す。すなわち、制御装置14は、培地及び尿素を生産井2に圧入してからメタンハイドレートをさらに回収する。このようにすることで、海底地盤からメタンハイドレートが回収されて海底地盤に空洞が生じた時点で、海底地盤の固化を促進することができる。その結果、メタンハイドレートの回収が進んだ後にも、土砂が生産井2に流入してしまうことを予防できる。
【0056】
なお、ステップS19において、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値未満になった場合に、制御装置14は、ステップS11ではなく、ステップS14に戻り、尿素を圧入してもよい。
【0057】
また、制御装置14は、第1圧入工程を実行してから所定期間が経過するまでの間、生産井2の内部の水流を抑制した状態で待機してもよい。当該所定期間は、生成が必要な生物膜の量に基づいて決定される期間であり、例えば2週間である。制御装置14は、例えば圧力調整装置13により生産井2の内部の圧力を調整することにより、生産井2の内部の水流を小さくする。制御装置14が生産井2の内部の水流を小さくすることにより、第1種微生物が生物膜を生成しやすくなる。
【0058】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、産業活動から排出される二酸化炭素を回収して地盤中に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術において地盤中に貯留された二酸化炭素の漏出を抑制する方法について説明する。
図6は、第2の実施形態の二酸化炭素貯留システム200の構成を示す。
【0059】
二酸化炭素貯留システム200は、
図1の炭化水素回収システム1と比較すると、回収装置12を備えておらず、貯留装置201を備える点で異なる。貯留装置201は、産業活動等において発生して回収された二酸化炭素を地盤中の貯留層へ圧入する。貯留層は、二酸化炭素を貯留可能な間隙を有する地層である。地盤は、海底地盤に限定されず、陸地の地盤であってもよい。
【0060】
圧入装置11は、第1の実施形態と同様の培地、尿素、カルシウム塩、栄養塩等を遮蔽層へ圧入する。遮蔽層は、二酸化炭素を通さない地層である。圧入装置11は、遮蔽層へ微生物を圧入する。微生物は、生物膜を生成可能であり、且つ、ウレアーゼ活性を有する。微生物は、例えば、S.newyorkensis種、Stapylococcus homins種、Lysinibacciuls fusiformis種、S.pasteurii種、またはS.aquimarina種のうちの少なくとも一種である。
【0061】
圧入装置11は、地盤において加圧条件下で容易に浸透する場所に微生物を圧入する。地盤において加圧条件下で容易に浸透する場所は、例えば、遮蔽層において間隙が多い箇所であるが、遮蔽層以外の地層であってもよい。このようにすることで、圧入装置11は、貯留層において貯留中の二酸化炭素が漏出する確率が高い地盤に優先的に尿素を圧入することができるので、貯留中の二酸化炭素が漏出する確率が高い地盤を効率良く固化させることができる。
【0062】
図6の例では、圧入装置11は、微生物に加えて、圧入する微生物に適した培地を遮蔽層へ圧入することで、微生物が生物膜を生成する活性値を高める。培地は、例えばB4培地、T.S.B(トリプチケースソイブロス、Trypticase Soy Broth)培地、LB培地又はNH
4―YE培地である。圧入装置11は、尿素等の組成物と、微生物のカルシウム源等を含む栄養塩とを遮蔽層へ圧入する。
【0063】
微生物の注入時に微生物が散逸することが予想される場合、微生物を注入する注入液に増粘剤を加える。増粘剤は、例えば、カゼイン又はゲランガムである。微生物は、増粘剤の作用により地盤の間隙中に栄養塩等とともに保持されるので、間隙中において増殖して炭酸カルシウムを析出させることにより、骨格構造に類似した組織を形成させる。
【0064】
微生物は、水流等により生物膜が流失しない程度にこの骨格構造を形成させた後に、形成させた生物膜を介して二酸化炭素を取込み、取込んだ二酸化炭素を利用して炭酸カルシウムをさらに析出させる。微生物は、間隙中において生物膜を形成することにより、地盤の遮蔽層の間隙を目詰まりさせる(バイオクロッギング)。このようにして、第2の実施形態の地盤性状調整方法は、水ガラス等の既存の止水工法を用いることなく、地盤中に貯留された二酸化炭素が遮蔽層の間隙を介して漏出することを抑制することができる。
【実施例0065】
[検証実験1]
図7は、地盤を固化する効果が確認された複数の微生物の例を示す。
図7は、S.newyorkensis、Stapylococcus homins、Lysinibacciuls fusiformis、S.pasteurii、S.aquimarinaを土中へ導入した場合の接着力及び内部摩擦角の変化を示す。
図7中の「処置なし」は、土中へ微生物を加えなかった対照実験のサンプルを示す。
図7中の内部摩擦角は、土粒子同士の摩擦等による土のせん断力に対する抵抗性を角度で表現したものである。
図7の上から1段目及び2段目に示すように、S.newyorkensis、Stapylococcus homins、Lysinibacciuls fusiformis、S.pasteurii、S.aquimarinaのどの微生物においても、微生物を加えなかった場合に比べて、土の接着力及び内部摩擦力がそれぞれ増加する効果が確認できた。
【0066】
図7の上から3段目に示すように、S.newyorkensis、Stapylococcus homins、Lysinibacciuls fusiformis、S.pasteurii、S.aquimarinaのそれぞれの微生物を土中で増殖させることにより、炭酸カルシウムの沈降率が上昇することが分かった。このことから、S.newyorkensisが炭酸カルシウムを沈降させる能力が土中の接着力及び内部摩擦力の増加に関与することが示唆された。
【0067】
[検証実験2]
ウレアーゼ産生菌として単離された2株のS.newyorkensisについて、尿素の加水分解作用を利用して、地盤の間隙中に炭酸カルシウムを析出させて地盤を固化させるMICP法(Microbially-induced carbonate precipitation)に関連する性質を調べた。
【0068】
図8(a)及び
図8(b)は、Sporosarcina newyorkensis AT1-C 2012株(以下、微生物Aともいう)、Sporosarcina newyorkensis AT1-CW2 2018株(以下、微生物Bともいう)及びSporosarcina pasteurii(以下、微生物Cともいう)の増殖速度及びウレアーゼ活性の確認結果を示す。まず、微生物A、微生物B及び 微生物Cをそれぞれ2mLのLB+2%尿素培地を用いて30℃で一晩培養した。尿素を含まない培地で菌体を洗浄した後、菌体を1mLのLB培地に加えて培地を再び懸濁した状態にした。10mLのpH7.0のLB培地あるいはLB+2%尿素培地に波長600ナノメートルの光を当てた状態での吸光度が0.05になる懸濁状態になるように菌体の濃度を調整してから、菌体の培養を開始した。この間、培地の濁度(波長600ナノメートルの吸光度)の時間変化を測定した。
【0069】
微生物A、微生物B及び 微生物Cを、尿素を添加した条件(白色マーカ及び破線で示す)、又は尿素を添加しない条件(黒色マーカ及び実線で示す)でLB培地において培養した。
図8(a)に示すように、MICP法に使用できると考えられる微生物Aと 微生物Bとは、増殖に尿素を要求しないことがわかった(
図8(a))。ただし、微生物Aと微生物Bとは、尿素を添加しない条件では、生育が遅くなった。
【0070】
MICPによく用いられてきた近縁種である微生物Cの増殖には、尿素の添加が必要であることが確認された。したがって、微生物Aと微生物Bとによる生物膜の形成には、尿素を添加することが好ましいが、尿素を添加することが必須ではないことが示唆される。微生物Cによる生物膜の形成には、尿素の添加が必須であることが示唆される。
【0071】
図8(b)は、微生物A、微生物B及び微生物Cを、尿素を添加した条件(白色マーカ及び破線で示す)、及び尿素を添加しない条件(黒色マーカ及び実線で示す)で培養したときのpHの時間変化を示す。
図8(a)と同様の培養を行い、pH(LAQUAact、Horiba、Japan)を測定した。MICPに重要だと考えられるウレアーゼ活性に関し、微生物A 及び微生物Bは、微生物C同様、培地中へ尿素を添加することで、培地のpHが上昇することが確認された。したがって、微生物A 及び 微生物Bは、上述式(1)で示すように、ウレアーゼが尿素分解を触媒する作用により添加した尿素を分解することによって、副産物としてアンモニアを生成していることが強く示唆された(
図8(b))。
【0072】
[検証実験3]
MICPに重要な炭酸カルシウム沈降と、バイオミネラル化とを観察することを目的に、B4培地を用いてS.newyorkensis種を培養し、炭酸カルシウムが沈殿するかどうかを観察した。
【0073】
図9は、B4培地でのS.newyorkensis種の増殖による炭酸カルシウムの結晶化の様子を示す。微生物A(
図9上側)と微生物B(
図9下側)とをLB培地で一晩培養した後、波長600ナノメートルの吸光度を測定し、波長600ナノメートルの吸光度が1.0となるように希釈し、さらに1/5に希釈した。希釈した培養液を、CaCl
2を添加した条件(
図9右側)、又はCaCl
2を添加していない条件(
図9左側)で5μlのB4培地上に滴下した。好気的な条件で、30℃で4日間培養後、観察した。
【0074】
図9右側のサンプルにおいて培地全体に分布する点状の物質は、結晶を示す。
図9の各サンプルにおいて左下隅には、生物膜が示されている。
図9に示すように、結晶は、 CaCl
2を含むB4培地のみにおいて形成された。結晶は、S.newyorkensisコロニーだけでなく培地全体に広く形成された。B4培地で培養した結果、微生物Aと微生物Bとは、いずれも培地中に結晶を生成した。この結晶の生成は、B4培地からCaCl
2を除くと起こらなかった(
図9左側)。この結果は、結晶がCaを含むものであることを強く示唆している。
【0075】
結晶は、コロニーの中だけでなく培地全体に広く分布した。この結果は、菌株がカルシウムをコロニーの中に取り込むだけでなく、培地のpHが上昇したことにより化学的なCaCO3の結晶化が培地全体で起こっていることを示唆している可能性がある。したがって、二酸化炭素を培地中へ固定することができる可能性がある。この現象に関して、微生物Aと微生物Bとの間で大きな違いはなかった。
【0076】
以上のように、B4培地で微生物Aと微生物Bとは、B4培地中へCaCl2を添加した条件においてCaCO3を析出させることが確認された。この際、コロニーだけではなく、コロニーの周囲にも結晶を作る。したがって、生物による結晶の生成というよりは、培地の環境の変化による(強アルカリ)により結晶が生じていることが分かる。
【0077】
図10は、微生物Aと、微生物Bとのコロニーの形状の例を示す。微生物Aと、微生物BとをそれぞれLB培地で培養してコロニーを形成させた。
図10の左側が微生物Aのコロニーを示し、
図10の右側が微生物Bのコロニーを示す。いずれのコロニーも生物膜が形成されていることが確認された。
【0078】
図11は、微生物Aと、微生物Bとが形成したコロニーの形状を示す。
図11の左側が微生物Aのコロニーを示し、
図11の右側が微生物Bのコロニーを示す。微生物Aと、微生物Bは、大気よりも二酸化炭素濃度の高い微好気条件でT.S.B培地に塩化カルシウムを添加した条件で培養された。
図11の左側及び
図11の右側のいずれのコロニーも生物膜が形成されており、形成された生物膜の表面に炭酸カルシウムの結晶が析出していることが確認された。
【0079】
[本地盤性状調整方法による効果]
本地盤性状調整方法によれば、生物膜を生成可能であり、且つ、ウレアーゼ活性を有する微生物を地盤中において増殖させることにより、地盤を固化させる。本地盤性状調整方法では、2種類以上の微生物を利用する必要がないので、2種類以上の微生物を利用する場合に比べて、微生物の増殖のための培地又は栄養塩等を地盤中へ圧入する量又は品数を低減することができる。また、微生物が地盤中に存在しない場合、1種類の微生物を地盤中へ導入すればよいので、2種類以上の微生物を地盤中に導入する場合に比べて、導入する微生物を培養する際に要するコストを低減することができる。
【0080】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。