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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085746
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】水素圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200441
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 勝利
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】新里 恵多
(72)【発明者】
【氏名】郭 方芹
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】五舛目 清剛
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172DA90
3E172EA10
3E172EA22
3E172EA23
3E172EB02
3E172EB18
3E172FA01
(57)【要約】
【課題】水素吸蔵合金の活性化が容易な水素圧縮機を提供する。
【解決手段】水素圧縮機1は、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2が収容された水素容器3と、水素容器3の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポート4と、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成された昇温部5と、を有している。Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.5)の組成を有していてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金が収容された水素容器と、
前記水素容器の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポートと、
前記水素吸蔵合金の温度を上昇させることができるように構成された昇温部と、を有する、水素圧縮機。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.5)の組成を有する、請求項1に記載の水素圧縮機。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.9≦x≦1.1、0.13≦y≦0.45)の組成を有する、請求項1に記載の水素圧縮機。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.9≦x≦1.1、0.25≦y≦0.35)の組成を有する、請求項1に記載の水素圧縮機。
【請求項5】
前記水素圧縮機は、水素の圧力を少なくとも9MPaまで上昇させることができるように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素圧縮機。
【請求項6】
前記昇温部は、前記水素吸蔵合金の温度を少なくとも200℃まで上昇させることができるように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用による環境負荷が懸念されており、より環境負荷の低い水素をエネルギー源として利用することが検討されている。しかし、水素は常温、常圧の環境下で気体であり、密度が低いため、タンクへの貯蔵や燃料等としての利用の際に水素を大気圧よりも高い圧力まで昇圧させることが多い。
【0003】
水素を昇圧するための方法として、水素の吸蔵と放出とを可逆的に行うことができる水素吸蔵合金を利用して水素の昇圧を行う方法が提案されている。例えば特許文献1には、水素吸蔵合金を収容すると共にこの水素吸蔵合金を加熱及び冷却可能に構成され、使用圧力が異なる複数の貯蔵容器と、高圧の水素ガスを貯留可能な蓄圧器とを備えた水素昇圧システムが記載されている。特許文献1の水素昇圧システムにおいては、水素吸蔵合金を冷却して低温に保持した状態で水素を吸蔵させた後、水素吸蔵合金を加熱して水素を放出させることによって初期状態よりも高い圧力の水素ガスを得ることができる。
【0004】
この種の水素昇圧システムにおいては、昇圧後の水素ガスの圧力は、主に、水素吸蔵合金の種類及び加熱温度によって制御することができる。例えば、水素発生装置などから発生した比較的低圧の水素を昇圧するためには、TiFe二元系水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた後、その水素吸蔵合金を加熱して水素吸蔵合金から水素を放出させることにより水素の昇圧を行うことが好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-19884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素昇圧システムを用いて水素の昇圧を行う場合、水素吸蔵合金への水素の吸蔵と放出とが繰り返し行われる。しかし、水素吸蔵合金への水素の吸蔵と放出とを繰り返し行うと、繰り返し回数の増加に伴って水素吸蔵合金に吸蔵可能な水素の量が減少し、所望の圧力まで水素を昇圧させることが難しくなるという問題がある。かかる観点から、水素昇圧システムに用いられる水素吸蔵合金には、高い耐久性が求められている。
【0007】
また、水素昇圧システムを使用するに当たっては、水素吸蔵合金による水素の吸蔵と放出とをより容易に行うため、活性化処理と呼ばれる処理が行われる。活性化処理においては、例えば、水素吸蔵合金を加熱する、あるいは水素吸蔵合金に高圧の水素を供給して水素を吸蔵させるなどの処理が行われる。
【0008】
しかし、TiFe二元系水素吸蔵合金の活性化は容易ではなく、例えば、水素吸蔵合金の加熱温度を高くする、水素吸蔵合金に供給する水素の圧力を高くする、あるいは長時間に亘って加熱や水素の供給を継続するなど、過酷な条件で活性化処理を行う必要がある。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、高い耐久性を有するとともに、温和な条件で活性化処理を行うことができる水素吸蔵合金を備えた水素圧縮機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金が収容された水素容器と、
前記水素容器の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポートと、
前記水素吸蔵合金の温度を上昇させることができるように構成された昇温部と、を有する、水素圧縮機にある。
【発明の効果】
【0011】
前記水素圧縮機は、水素容器に収容されたTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金と、水素吸蔵合金の温度を上昇させることができるように構成された昇温部とを有している。そのため、水素を吸蔵させた状態の水素吸蔵合金の温度を上昇させ、水素吸蔵合金から水素を放出させることにより水素ポートから導出される水素の圧力を高めることができる。また、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金は、水素の吸蔵と放出とを繰り返し行う場合の耐久性に優れており、水素圧縮機の性能を長期間にわたって維持することができる。
【0012】
また、水素容器内に収容されているTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金は、活性化されやすい性質を有しているため、比較的温和な条件で活性化処理を行うことができる。
【0013】
従って、上記態様によれば、高い耐久性を有するとともに、温和な条件で活性化処理を行うことができる水素吸蔵合金を備えた水素圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態1における水素圧縮機の要部を示す断面図である。
図2図2は、実施形態2における水素圧縮機の要部を示す断面図である。
図3図3は、実験例における、水素吸蔵特性の評価装置の説明図である。
図4図4は、実験例における合金A1~A5の水素吸蔵特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
前記水素圧縮機に係る実施形態について、図1を参照して説明する。本形態の水素圧縮機1は、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2が収容された水素容器3と、水素容器3の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポート4と、水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成された昇温部5と、を有している。
【0016】
本形態の水素圧縮機1における水素容器3は、水素容器3の外部から供給される水素及び水素吸蔵合金2から放出された水素を水素容器3の内部に保持することができるように構成されている。水素容器3の材質及び形状等は特に限定されることはなく、所望する水素の圧力に耐えることができるように構成されていればよい。例えば、水素容器3は、金属から構成されていてもよく、プラスチックから構成されていてもよい。また、水素容器3は、炭素繊維複合材等の複合材料から構成されていてもよい。さらに、水素容器3は、互いに異なる材料からなる複数の層が積層されてなる積層材料から構成されていてもよい。
【0017】
また、水素容器3の形状としては、円筒状や球状、箱状などの種々の形状を採用し得る。例えば、本形態の水素容器3は円筒状の形状を有している。
【0018】
水素容器3は、その外部と内部とを連通させることができるように構成された、少なくとも1つの水素ポート4を有している。水素ポート4は、水素容器3の外部と内部とを連通させることにより、水素容器3の外部から内部への水素の供給及び/または水素容器3から外部への水素の放出を行うことができるように構成されている。水素容器3に設けられる水素ポート4の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。例えば、本形態の水素容器3は、図1に示すように1つの水素ポート4を有しており、この水素ポート4により水素容器3の外部から内部への水素の供給及び水素容器3の内部から外部への水素の導出を行うことができるように構成されている。
【0019】
また、本形態の水素ポート4は、切替バルブ41を有している。切替バルブ41は、水素容器3の外部と内部とが連通した開状態と、水素容器3の内部と外部とが連通していない閉状態とを切り替えることができるように構成されている。
【0020】
水素容器3内には、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2が収容されている。水素吸蔵合金2は、例えば、粉末状であってもよく、塊状であってもよい。例えば、本形態の水素容器3内には、粉末状の水素吸蔵合金2が充填されている。
【0021】
Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、A元素としてTi原子、B元素としてFe原子及びMn原子を含むAB型合金であり、主に立方晶CsCl型結晶構造を有する結晶相から構成されている。より具体的には、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、例えば、TiFe合金におけるFe原子の一部をMn原子に置換してなるTiFeMn三元系合金であってもよい。また、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、例えば、TiFeMn三元系合金にさらに他の金属元素を添加してなる多元系合金であってもよい。
【0022】
前述したように、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、比較的温和な条件で活性化処理を行うことができ、活性化処理により水素の吸蔵特性及び放出特性を容易に向上させることができる。
【0023】
水素吸蔵合金2は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.05≦y≦0.5)の組成を有することが好ましい。このような組成を有するTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、水素を吸蔵した際に安定な水素化物が形成されにくい性質を有している。
【0024】
一般的に、水素吸蔵合金が水素に暴露されると、水素吸蔵合金を構成する金属原子の間に水素原子が入り込むことにより水素が吸蔵される。水素吸蔵反応がさらに進行すると、水素吸蔵合金を構成する金属原子と水素原子とが反応し、水素吸蔵合金の一部が安定な水素化物となる。この水素化物は水素で飽和しているため、水素化物にさらに水素を吸蔵させることはできない。また、水素化物内の水素原子は水素吸蔵合金の結晶格子との相互作用によって安定化されているため、水素化物から水素原子を放出させることは困難である。それ故、水素吸蔵合金内に安定な水素化物が形成されると、水素化物が形成される前に比べて水素吸蔵合金への水素の吸蔵量及び水素吸蔵合金からの水素の放出量が減少する。
【0025】
また、水素吸蔵合金中の水素化物の比率は水素の吸蔵と放出とを繰り返すたびに上昇するため、昇圧動作を繰り返し行うと、水素吸蔵合金への水素の吸蔵量及び水素吸蔵合金からの水素の放出量が次第に低下する。それ故、水素吸蔵合金を用いた従来の水素圧縮機では、昇圧回数が増えるにつれて水素圧縮機によって昇圧された水素の圧力が低下するという問題がある。
【0026】
これに対し、前記特定の組成を有するTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金2は、TiFe二元系水素吸蔵合金におけるFe原子の一部がMn原子に置換されたことにより、結晶構造に歪みが生じ、結晶格子内において水素原子が原子の状態で存在しやすくなっていると考えられる。そのため、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2の組成を前記特定の範囲とすることにより、水素の吸蔵と放出とを繰り返し行う際の水素化物の形成を抑制することができる。従って、前記特定の組成を有するTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金2を備えた水素圧縮機は、水素の昇圧動作を繰り返し行う際の水素吸蔵合金2への水素の吸蔵量及び水素吸蔵合金2からの水素の放出量の低下を抑制し、長期間にわたって高い圧縮性能を維持することができる。
【0027】
かかる作用効果をより高める観点からは、水素吸蔵合金2は、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.13≦y≦0.45)の組成を有することがより好ましく、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.25≦y≦0.35)の組成を有することがさらに好ましい。
【0028】
昇温部5は、水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成されている。昇温部5の具体的な構成は特に限定されることはない。例えば、本形態の昇温部5は、水素容器3の周囲に設けられたヒーター51を有しており、ヒーター51によって水素容器3及びその内部に収容された水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成されている。
【0029】
昇温部5は、水素吸蔵合金2の温度を少なくとも200℃まで上昇させることができるように構成されていることが好ましい。このように、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2の温度を200℃以上まで上昇させることにより、水素吸蔵合金2から放出される水素の圧力を十分に高めることができる。
【0030】
水素圧縮機1は、水素の圧力を少なくとも9MPaまで上昇させることができるように構成されていてもよい。このように構成された水素圧縮機1は、水素発生装置等から発生した、比較的低圧の水素を昇圧するために好適に用いることができる。
【0031】
本例の水素圧縮機1を使用するに当たっては、製造されてから使用するまでの間のいずれかの時点で活性化処理を行うことが望ましい。活性化処理の具体的な方法は特に限定されることはなく、例えば、真空中で水素吸蔵合金2を加熱する方法や水素容器3内に高圧の水素を供給する方法、水素吸蔵合金2を機械的に粉砕する方法等が挙げられる。
【0032】
次に、本形態の水素圧縮機1による水素の昇圧動作の一例を説明する。水素を昇圧させるに当たっては、まず、水素ポート4の切替バルブ41を開状態とし、水素ポート4から水素容器3内に昇圧前の水素を導入する。水素を水素容器3に導入する際に、水素吸蔵合金2の温度を例えば室温程度まで低くすることにより、水素吸蔵合金2に水素を吸蔵させることができる。
【0033】
水素吸蔵合金2への水素の吸蔵が完了した後、切替バルブ41を閉状態とし、水素容器3内を密閉状態とする。この状態で昇温部5のヒーター51を用いて水素容器3を加熱することにより、水素が吸蔵された状態の水素吸蔵合金2から水素を放出させることができる。水素吸蔵合金2から放出される水素の平衡水素圧は、水素吸蔵合金2の温度が高いほど高くなる。それ故、水素容器3の温度を上昇させることにより、水素容器3内の水素の圧力を、水素吸蔵合金2の温度に応じて上昇させることができる。
【0034】
そして、水素容器3内の水素の圧力が所望の値に到達した後、切替バルブ41を開状態とすることにより、所望の圧力まで昇圧された水素を水素ポート4から水素圧縮機1の外部に導出することができる。
【0035】
このように、本形態の水素圧縮機1は、水素を吸蔵させた状態の水素吸蔵合金2の温度を上昇させ、水素吸蔵合金2から水素を放出させることにより水素ポート4から導出される水素の圧力を高めることができる。また、水素容器3内にはTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金2が収容されているため、水素の吸蔵と放出とを繰り返し行う場合の耐久性に優れており、水素圧縮機の性能を長期間にわたって維持することができる。さらに、本形態の水素圧縮機1は、温和な条件で水素吸蔵合金2を活性化させることができる。
【0036】
(実施形態2)
本形態においては、昇温部の他の態様の例を説明する。なお、本形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態における構成要素と同様の構成要素等を表す。
【0037】
図2に示すように、本形態の水素圧縮機102は、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2と、水素吸蔵合金2を収容する水素容器3と、水素容器3の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポート4と、水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成された昇温部502と、を有している。本形態の水素圧縮機102における水素吸蔵合金2、水素容器3及び水素ポート4は、実施形態1における水素吸蔵合金2、水素容器3及び水素ポート4と同様の構成を有している。
【0038】
本形態の昇温部502は、伝熱媒体を流通させることによって水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成された伝熱配管52を有している。より具体的には、伝熱配管52は、水素容器3の内部を通り、水素容器3に収容された水素吸蔵合金2と接触するように配置されている。
【0039】
伝熱配管52は、その内部に流通する伝熱媒体の温度を調整することにより、水素吸蔵合金2を加熱するだけではなく、冷却することもできる。そのため、本形態の水素圧縮機102は、水素吸蔵合金2からの水素の放出が完了した後に速やかに水素吸蔵合金2を冷却し、水素を再び吸蔵させることができる。従って、本形態の水素圧縮機102は、水素の放出が完了した後、再度放出が可能となるまでの時間をより短縮することができる。その他、本形態の水素圧縮機102は、実施形態1の水素圧縮機102と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
(実験例)
本例では、表1に示す組成を有するTi-Fe-Mn系水素吸蔵合金(合金A1~A5)を用い、水素の吸蔵と放出とを繰り返し行った際の水素吸蔵特性の劣化の程度の評価を行った。
【0041】
本例において用いた試験装置103を図3に示す。試験装置103は、Ti-Fe-Mn系水素吸蔵合金2を収容する水素容器3と、水素容器3の外部と内部とを連通可能に構成された水素ポート4と、水素吸蔵合金2の温度を上昇させることができるように構成された昇温部5とを有している。水素ポート4は、水素容器3の外部と内部とが連通した開状態と、水素容器3の内部と外部とが連通していない閉状態とを切り替えることができるように構成された切替バルブ41を有している。また、水素ポート4における水素容器3と切替バルブ41との間には、水素容器3内の圧力を測定するための圧力計42が取り付けられている。
【0042】
次に、本例における水素吸蔵合金2の水素吸蔵特性の評価方法を説明する。まず、試験装置103の水素容器3内に、表2に示す合金A1~A5のうちいずれかの水素吸蔵合金2の粉末を充填した。なお、水素吸蔵合金2の温度は室温とした。次いで、水素ポート4から水素を導入し、水素吸蔵合金2の水素吸蔵能力の上限まで水素吸蔵合金2に水素を吸蔵させた。水素吸蔵合金2に水素を吸蔵させた後、水素吸蔵合金2から水素を放出させた。そして、水素吸蔵合金2の水素吸蔵量がプラトー領域における最大値に到達した時点で水素吸蔵合金2からの水素の放出を停止し、水素ポート4を閉状態とした。
【0043】
その後、昇温部5のヒーター51を動作させ、水素容器3の表面の温度が500℃に到達するまで、5℃/分の昇温速度で水素容器3を加熱した。そして、水素容器3の表面の温度が500℃に到達した後にヒーター51を停止し、水素容器3の表面の温度が約30℃となるまで水素容器3を自然に冷却した。この加熱と冷却とのサイクルを26回繰り返し行い、その間の水素容器3内の圧力を測定した。
【0044】
表1に、1サイクル目における水素容器内の最高圧力、つまり、水素容器の温度が500℃に到達した時点における水素容器内の圧力と、26サイクル目における水素容器内の最高圧力とを示す。また、1サイクル目における水素容器内の最高圧力に対する最高圧力の減少量(つまり、1サイクル目における水素容器内の最高圧力と26サイクル目における水素容器内の最高圧力との差)の比を百分率で表した値を「劣化率」として表1に示す。
【0045】
また、図4に、合金A1~A5の劣化率を、Fe原子の含有率に対するMn原子の含有率の比Mn/Feで整理したグラフを示す。図4の横軸はFe原子の含有率(単位:mol%)に対するMn原子の含有率(単位:mol%)の比Mn/Feであり、横軸は劣化率(単位:%)である。
【0046】
本実験例で行った試験のように、水素の吸蔵と放出とのサイクルを繰り返し行うと、各サイクルで水素吸蔵合金が水素を吸蔵するたびに、水素吸蔵合金内に安定な水素化物が形成される。そのため、水素の吸蔵と放出との繰り返し回数が増えるにつれて、水素吸蔵合金から放出される水素の量が減少し、水素容器内の最高圧力が減少する。そして、水素容器内の最高圧力が低下すると、水素圧縮機において、水素の圧力を所望の圧力まで高めることが難しくなる。従って、前述した劣化率が小さいほど、水素吸蔵合金内に安定な水素化物が形成されにくく、水素圧縮機の圧縮性能の低下を抑制できることを意味している。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び図4に示すように、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.13≦y≦0.45)の組成を有する合金A2~A4は、合金A1及び合金A5よりも劣化率が低かった。さらに、TiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.25≦y≦0.35)の組成を有する合金A3は、合金A1~A5の中で最も劣化率が低かった。従って、これらの結果によれば、水素吸蔵合金の組成を好ましくはTiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.13≦y≦0.45)、より好ましくはTiFe(1-y)Mn(ただし、0.90≦x≦1.1、0.25≦y≦0.35)とすることにより、水素吸蔵合金への安定な水素化物の形成をより抑制できることが理解できる。また、このような組成を有する水素吸蔵合金を用いることにより、水素圧縮機の圧縮性能をより長期間にわたって維持することができる。
【0049】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1、102 水素圧縮機
2 水素吸蔵合金
3 水素容器
4 水素ポート
5、502 昇温部
図1
図2
図3
図4