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特開2024-89334胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法、それに用いられるマーカー及び試薬
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  • 特開-胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法、それに用いられるマーカー及び試薬 図1
  • 特開-胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法、それに用いられるマーカー及び試薬 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089334
(43)【公開日】2024-07-03
(54)【発明の名称】胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法、それに用いられるマーカー及び試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240626BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240626BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K16/40
C07K16/18
C12Q1/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204626
(22)【出願日】2022-12-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 国立大学法人東京大学 学位審査会 開催日:令和3年12月22日
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】永松 健
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 愛実
(72)【発明者】
【氏名】矢冨 裕
(72)【発明者】
【氏名】蔵野 信
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩二
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA27
2G045CA25
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB03
4B063QQ03
4B063QQ32
4B063QQ70
4B063QR12
4B063QR24
4B063QR45
4B063QR57
4B063QR72
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】早期診断、早期管理を要する胎児発育不全の診断に有用な定量的な検査結果に関する情報を提供する事。
【解決手段】本発明は、妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度をそれぞれ測定し、前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動を指標として、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法を提供する。また、本発明は、当該方法に用いるためのマーカー及び試薬を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度をそれぞれ測定し、前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動を指標として、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの異なる時点が、妊娠初期(10~17週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動が0.58mg/Lから0.59mg/Lの範囲をカットオフ値とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2つの異なる時点が、妊娠中期(18~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動が-0.15mg/Lから0.13mg/Lの範囲をカットオフ値とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変動が、1日あたりのオートタキシン濃度の変動である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つの異なる時点が妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1日あたりのオートタキシン濃度の変動が2.45μg/L/dayから5.66μg/L/dayの範囲をカットオフ値とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法に用いられる、オートタキシンからなる、胎児発育不全の妊婦を鑑別するためのマーカー。
【請求項10】
オートタキシンを特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬。
【請求項11】
リゾホスフォリパーゼDの基質を含有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法、それに用いられるマーカー及び試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
産科における代表的な異常妊娠として、母体管理の場面では妊娠高血圧症候群、分娩管理の場面では早産、胎児発育不全(以下、「FGR」と記載することもある)などがあげられる。妊娠により妊婦血清中のオートタキシン濃度が上昇することが報告(特許文献1、2、非特許文献1)されており、妊娠の週数が進むにつれ血液中のオートタキシン濃度が上昇し、分娩後速やかに濃度が低下することが示されている。また、オートタキシン濃度の上昇機序として胎盤での産生亢進によることが示唆されている(特許文献2、非特許文献2)。妊娠高血圧症候群は妊婦全体の7~10%が発症すると言われており、特に妊娠高血圧腎症に進まないよう注意が必要とされている。妊娠高血圧症候群において正常妊娠に比較し血液中のオートタキシンの濃度変動が異なることが報告されており、妊娠高血圧症候群のマーカーになるとの報告がある(特許文献2、非特許文献1)。具体的には、妊娠第1期、第3期で低値である事、また第1期あるいは第2期から第3期への変動が正常妊娠に比較し濃度上昇が少ないことが示されている。早産については、正常妊娠と有意な差が認められていない。
【0003】
以上のとおり妊娠高血圧症候群ならびに早産については報告があるが、胎児発育不全についての報告はこれまでなかった。胎児発育不全は、在胎期間に相当した胎児の発育が見られない状態であり、その診断基準は、胎児体重基準値を用いて、基準範囲からのずれの程度(-1.5SD値以下)を目安に診断されるが、胎児の体重計測はあくまでも超音波計測による推定体重であるため、その測定方法や検査をする術者、胎児の向きなどによっては測定誤差があるとされる。胎児発育不全は慎重な管理が必要であり、特に分娩時期の決定が重要であり重症度と早産による未熟性とのバランスを考慮し、胎児の予備能力が決定的に低下する前に予測し、適切な分娩時期、分娩方法を決定が必要であり、必要に応じ2次、3次周産期医療機関への紹介も考慮する必要がある。以上のとおり、胎児発育不全を定量的に診断補助できるバイオマーカー検査の開発が期待されている。
【0004】
ヒトオートタキシンは分子量約125KDaの糖蛋白質であり、そのリゾホスホリパーゼD活性によりリゾホスファチジルコリンを基質としリゾホスファチジン酸(LPA)を産生する酵素であり、免疫測定法によりサンプル中のオートタキシン濃度が測定可能であること(非特許文献1)は既に知られている。
【0005】
また、オートタキシンが有するリゾホスフォリパーゼD活性が、オートタキシン濃度と良好に相関することが知られている(非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5700461
【特許文献2】特許5831723
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Clinica Chimica Acta 412、1944-1950、2011
【非特許文献2】American Journal Reproductive Immunology 62、90-95、2009
【非特許文献3】Clinica Chimica Acta 388、51-58、2008
【非特許文献4】Clinica Chimica Acta 412、1201-1206、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで胎児発育不全の診断基準は、胎児体重基準範囲からのずれを目安に診断されているが、超音波計測による推定体重であるため様々な測定誤差があるとされている。胎児発育不全は適切な分娩時期、分娩方法を決定が必要であり、必要に応じ2次、3次周産期医療機関への紹介も考慮するなど慎重な管理が必要である。本発明の目的は定量的数値により胎児発育不全診断を補助する検査法であり、早期診断、早期管理を要する胎児発育不全の診断に有用な定量的な検査結果に関する情報を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、妊娠被検体の血液中のオートタキシン濃度を測定し、鋭意検討を重ねた結果、正常妊娠と胎児発育不全とを鑑別できることを見いだし本発明に到達した。即ち本発明は下記の発明を包含する:
【0010】
[1] 妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度をそれぞれ測定し、前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動を指標として、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法。
[2] 前記少なくとも2つの異なる時点が、妊娠初期(10~17週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である[1]に記載の方法。
[3] 前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動が0.58mg/Lから0.59mg/Lの範囲をカットオフ値とする、[2]に記載の方法。
[4] 前記少なくとも2つの異なる時点が、妊娠中期(18~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である[1]に記載の方法。
[5] 前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動が-0.15mg/Lから0.13mg/Lの範囲をカットオフ値とする、[4]に記載の方法。
[6] 前記変動が、1日あたりのオートタキシン濃度の変動である、[1]に記載の方法。
[7] 前記少なくとも2つの異なる時点が妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点である[6]に記載の方法。
[8] 1日あたりのオートタキシン濃度の変動が2.45μg/L/dayから5.66μg/L/dayの範囲をカットオフ値とする、[7]に記載の方法。
【0011】
[9] [1]~[8]のいずれか1項に記載の方法に用いられる、オートタキシンからなる、胎児発育不全の妊婦を鑑別するためのマーカー。
[10] オートタキシンを特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1項に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬。
[11] リゾホスフォリパーゼDの基質を含有することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1項に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、オートタキシンを、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するためのマーカーとするのであり、妊娠被検体の血液中のオートタキシンを少なくとも2回測定し、その濃度の変動を観察することにより胎児発育不全についての情報を提供する方法であり、汎用性の高い免疫学的定量試薬を用いれば短時間で簡便かつ低コストで精度よく胎児発育不全を鑑別可能な試薬を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各妊娠期に採血した血液検体中のオートタキシン濃度を正常妊娠(白抜)、胎児発育不全(網掛)別に濃度分布を示した箱ひげ図
図2】妊娠初期~中後期、ならびに妊娠中期から中後期に採血し測定した血液検体中のオートタキシン濃度の変動を正常妊娠(白抜)、胎児発育不全別(網掛)に濃度分布を示した箱ひげ図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。但し本発明は異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでは無い。なお、本明細書で引用される文献は、その全内容を参照により本明細書の一部として援用される。
【0015】
一実施態様において、本発明は、妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度をそれぞれ測定し、前記少なくとも2つの異なる時点の間のオートタキシン濃度の変動を指標として、胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法を提供する。
【0016】
本願発明者らは、妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度をそれぞれ測定し、それらの2つの時点についてのオートタキシン濃度の変動を指標とすることで、対象となる妊娠被検体が胎児発育不全であるか否かを鑑別するための情報を提供できることを見出した。より具体的には、妊娠期間の異なる2つの時点で採取された同一の妊娠被検体由来の血液のオートタキシン濃度の変動量が、正常の妊娠被検体と比較して、胎児発育不全の妊娠被検体では、より小さいことを見出したことにより、本発明を完成させた。
【0017】
本明細書において、「オートタキシン」(「ATX」ともいう)とは、例えばヒトにおいては、分子量約125KDaの糖蛋白質であり、そのリゾホスホリパーゼD活性によりリゾホスファチジルコリンを基質としてリゾホスファチジン酸(LPA)を産生する酵素として知られている。サンプル中のオートタキシン濃度は、免疫測定法により測定可能であることが既に知られている(非特許文献1)。
【0018】
本発明においてオートタキシン濃度を測定する方法には特に限定はないが、例えばオートタキシンを特異的に認識する抗体を用いた免疫化学的方法があげられる。抗体を用いたヒトオートタキシン定量方法は、ヒトオートタキシンを特異的に捕捉し、その結果、生成した抗体-ヒトオートタキシン複合体が検出可能な方法であれば手法を選ばない。好ましくは、イムノアッセイで汎用されている、標識抗原と検体中のオートタキシンとの抗体に対する競合を利用した競合法、エピトープの異なる2抗体を用いてオートタキシンとの3者の複合体を形成させるサンドイッチ法が簡便かつ汎用しやすい。特異性、感度、汎用性などの点から、エピトープの異なる2抗体サンドイッチ免疫測定方法が優れている。好ましくは、オートタキシンを特異的に認識する抗体を含有する試薬を用いて行うことができる。このとき、例えば測定対象のオートタキシンを特異的に認識する固相化抗体と、それとは異なる部位で測定対象のオートタキシンを特異的に認識する標識化抗体とを含む試薬を用いてサンドイッチ法により行うことが好ましい。これらの方法は標準的であり充分技術確立されている。
【0019】
また、オートタキシンが有するリゾホスフォリパーゼD活性が、オートタキシン濃度と良好に相関することが知られている(非特許文献3、4)。そのため、他の態様において、オートタキシン濃度を測定する方法として、オートタキシンのリゾホスフォリパーゼD活性をリゾホスフォリパーゼDの基質を用いて測定し、リゾホスフォリパーゼD活性から直接的に又は間接的に、オートタキシン濃度を換算して求める方法を採用してもよい。
【0020】
本明細書において「妊娠期間」は、妊娠被検体、特にヒト妊娠被検体の最終月経の開始日を「0週0日」として、胎児を出産した時点までの期間を意味する。本明細書において、妊娠期間0~9週を「妊娠前初期」、妊娠期間10~17週を「妊娠初期」、妊娠期間18~25週を「妊娠中期」、妊娠期間26~33週を「妊娠中後期」、妊娠期間34~41週以降を「妊娠後期」という。
【0021】
本発明の方法において、オートタキシン濃度が測定される「血液」は、血液であってもよく、血漿であってもよく、又は血清であってもよい。
【0022】
本発明の方法において、オートタキシン濃度の変動を観察するために用いられる血液は、同一妊娠被検体の妊娠期間の少なくとも2つの異なる時点であればよく、例えば、妊娠前初期(0~9週)、妊娠初期(10~17週)、妊娠中期(18~25週)、妊娠中後期(26~33週)、又は妊娠後期(34~41週以降)のそれぞれの期間において少なくとも1回測定されたオートタキシン濃度(「第1のオートタキシン濃度」という。)を、当該第1のオートタキシン濃度が測定された期間以外の上記区分の妊娠期間において少なくとも1回測定されたオートタキシン濃度(「第2のオートタキシン濃度」という。)と比較し、その変動を指標とすることで対象となる妊娠被検体が胎児発育不全であるか否かを鑑別するための情報を提供することができる。オートタキシン濃度の変動については、例えば、第1のオートタキシン濃度と第2のオートタキシン濃度の差、好ましくは、2つのオートタキシン濃度について、妊娠期間が後のオートタキシン濃度から、妊娠期間が前のオートタキシン濃度を引くことで、2つの異なる時点におけるオートタキシン濃度の変動量を算出することができる。また、オートタキシン濃度の変動は、第1のオートタキシン濃度と第2のオートタキシン濃度の差を、第1のオートタキシン濃度を測定した時点から第2のオートタキシン濃度を測定した時点まで期間(日数)で除した値、すなわち、1日あたりのオートタキシン濃度の変動として算出されるものであってもよい。
【0023】
本発明の一実施態様において、上記の少なくとも2つの異なる時点は、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点と、それより前の妊娠期(例えば、妊娠初期(10~17週)、妊娠中期(18~25週)、又は妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点)であり得る。
【0024】
本発明の一実施態様において、上記の少なくとも2つの異なる時点は、妊娠初期(10~17週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点であり得る。妊娠初期(10~17週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動は、正常の妊娠被検体と比較して、胎児発育不全の妊娠被検体ではより低くなることを見出した。従って、妊娠初期(10~17週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動が所定のカットオフ値よりも高い場合、正常の妊娠被検体であると鑑別し、所定のカットオフ値よりも低い場合、胎児発育不全の妊娠被検体であると鑑別し得る。妊娠初期(10~17週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動のカットオフ値は、臨床試験の規模や母集団の違いなどによって変更される可能性があるが、本願の実施例に基づく場合は、例えば、0.58mg/Lから0.59mg/Lの範囲をカットオフ値として設定してもよい。
【0025】
本発明の一実施態様において、上記の少なくとも2つの異なる時点は、妊娠中期(18~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点であり得る。妊娠中期(18~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動は、正常の妊娠被検体と比較して、胎児発育不全の妊娠被検体ではより低くなることを見出した。従って、妊娠中期(18~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動が所定のカットオフ値よりも高い場合、正常の妊娠被検体であると鑑別し、所定のカットオフ値よりも低い場合、胎児発育不全の妊娠被検体であると鑑別し得る。妊娠中期(18~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動のカットオフ値は、臨床試験の規模や母集団の違いなどによって変更される可能性があるが、本願の実施例に基づく場合は、例えば、-0.15mg/Lから0.13mg/Lの範囲をカットオフ値として設定してもよい。
【0026】
本発明の一実施態様において、上記の少なくとも2つの異なる時点は、妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点と妊娠中後期(26~33週)の1つの時点であり得る。妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までのオートタキシン濃度の変動、特にその期間における1日あたりのオートタキシン濃度の変動は、正常の妊娠被検体と比較して、胎児発育不全の妊娠被検体ではより低くなることを見出した。従って、妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までの、1日あたりのオートタキシン濃度の変動が所定のカットオフ値よりも高い場合、正常の妊娠被検体であると鑑別し、所定のカットオフ値よりも低い場合、胎児発育不全の妊娠被検体であると鑑別し得る。妊娠初期から中期(10~25週)の1つの時点から、妊娠中後期(26~33週)の1つの時点までの、1日あたりのオートタキシン濃度の変動のカットオフ値は、臨床試験の規模や母集団の違いなどによって変更される可能性があるが、本願の実施例に基づく場合は、例えば、2.45μg/L/dayから5.66μg/L/dayの範囲をカットオフ値として設定してもよい。
【0027】
本発明は、上記方法に用いられる、オートタキシンからなる、胎児発育不全の妊婦を鑑別するためのマーカーを提供する。
【0028】
また、本発明は、オートタキシン、特にヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、上記に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬を提供する。当該試薬に含まれる抗体は、オートタキシン、特にヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体であり、上述の方法においてオートタキシン濃度を決定するために用いられ得るものであればよい。
【0029】
また、本発明は、リゾホスフォリパーゼDの基質を含有することを特徴とする、上記に記載の胎児発育不全の妊娠被検体を鑑別するための情報を提供する方法に使用するための試薬を提供する。当該試薬に含まれるリゾホスフォリパーゼDの基質は、オートタキシン濃度を決定するために用いられ得るものであればよく、例えば、リゾホスフォリパーゼDの基質として用いられ得るリゾホスファチジルコリン(14:0-リゾホスファチジルコリン)を用いることができ、さらに当該試薬としては、その基質が分解して遊離される物質、例えばコリンを検出し、定量できる試薬を含むものであってもよい(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0030】
本発明によれば定量的な指標で胎児発育不全診断を可能とし、正確に鑑別することができ、適切かつ早期診断により、母体、胎児の高い安全分娩が期待できる。
【実施例0031】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。以下の実験を行うに当たっては、各施設の研究倫理委員会での承認のもと実施した。オートタキシン濃度測定は、自動免疫測定装置AIAシリーズ(東ソー社製)及び非特許文献1記載のサンドイッチ酵素免疫測定法の試薬を用い実施した。
【0032】
<実施例1:患者背景>
対象者は婦人科にて血液検体の採取を行った患者群であり、臨床的に正常妊娠、胎児発育不全(FGR)を確定診断したものを対象とした。検体採取を行った妊娠期は妊娠期間12週前後(10~17週)を初期、20週前後(18~25週)を中期、30週前後(26~33週)を中後期、36週前後(34~41週以降)を後期とした。正常妊娠、胎児発育不全の患者背景ならびに有意差を表1に示す。また、各妊娠期でのオートタキシン(ATX)濃度と有意差を表2に示し、また本患者群において妊娠期ごとのATX濃度分布を箱ひげ図1に示す。ATXは正常妊娠、FGRいずれにおいても在胎日数進行に伴い濃度上昇を示している。各妊娠期におけるROC解析の結果を表3に示す。妊娠初期においてROC解析の結果、曲線下面積(AUC)が0.765を示したが、2群で有意差が認められないため、単点でのATX濃度測定値での正常妊娠、FGRの鑑別は困難であることが示唆された。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
<実施例2:正常妊娠、FGRのATX濃度変動による鑑別>
【0037】
実施例1で示した通り、各妊娠期間単点でのATX濃度測定による正常妊娠とFGRの鑑別は困難であることが示された。一方、正常妊娠に比較しFGRでは妊娠経過に伴うATX濃度上昇の程度が低いことが推察された。そこで、各妊娠期間でのATX濃度変動を指標に鑑別能を解析した。その結果、ATX濃度変動によって正常妊娠とFGRの鑑別が可能であることが明らかとなった。各妊娠期間におけるATX濃度の変動量を表4に示し、有意差が認められた初期~中後期、中期~中後期の結果を箱ひげ図2に示す。各妊娠期間におけるATX濃度変動をもとに、正常妊娠とFGRとの鑑別能についてROC解析を行い検証した。ROC解析による曲線下面積(AUC)並びに、感度、特異度を表5に示す。Youden-Indexによるカットオフ値は、妊娠初期から中後期、妊娠中期から中後期までのATX濃度変動量においてそれぞれ0.59mg/L、-0.10mg/Lであった。また、感度あるいは特異度を80%とした際のカットオフ値は表6に示すとおりであり、妊娠初期から中後期における濃度変動において、感度80%以上と設定したカットオフ値に0.58mg/Lを採用することで確定診断に利用可能であり、特異度80%以上と設定した際のカットオフ値0.59mg/Lを使用すれば除外診断を目的に利用可能である。すなわち、カットオフ値を0.58から0.59mg/Lの範囲で、用途に応じ設定し利用することが可能である。同様に妊娠中期から中後期でも同様にカットオフ値を-0.15から0.13mg/Lの範囲で用途に応じ設定し利用することが可能である。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
<実施例3:正常妊娠、胎児発育不全の1日あたりのATX濃度変動による鑑別>
【0042】
妊娠期での分類による濃度変動において、実施例2で示した通り妊娠初期から中後期、中期から中後期においてATX濃度変動による正常妊娠と胎児発育不全の鑑別能があることが示された。すなわち、妊娠中後期時点の測定値とそれ以前の測定値間の濃度変動によりFGRの鑑別が可能であることが示された。しかしながら、初期ATX測定値が妊娠初期である場合と、妊娠中期である場合で異なる基準で判断する必要があり煩雑である。そこで、妊娠初期又は中期におけるATX測定値を第1測定値とし、妊娠中後期におけるATX測定値を第2測定値とし、この間のATX濃度変動をもってFGRの鑑別が可能であるか評価した。妊娠初期と妊娠中期をまとめた場合、範囲が広く、当然ATX濃度変動値も幅が大きくなる。そこで、ATX濃度変動値を測定間隔で除した値を用いる、すなわち単位期間あたりのATX濃度変動により評価することにより、妊娠初期及び中期にわたる広い範囲の問題を解決できると考えられる。この単位期間は特に限定されるものではないが、例えば1日当たりのATX濃度変動を用いることができる。ATX濃度変動量を測定間隔の日数で除した値を表7に示す。正常妊娠、胎児発育不全のATX濃度変動についてROC解析を行い、その鑑別能を検証した。ROC解析による曲線下面積(AUC)並びに、感度、特異度、Youden-Indexによるカットオフ値を表8に示す。Youden-Indexによるカットオフ値は1日あたりのATX変動量において5.66μg/L/dayであった。また、感度あるいは特異度を80%とした際のカットオフ値は表9に示すとおりであり、特異度80%以上と設定したカットオフ値に2.45μg/L/dayを採用することで確定診断に利用可能であり、感度80%以上と設定した際のカットオフ値5.34μg/L/dayを使用すれば除外診断を目的に利用可能であるが、カットオフ値5.66μg/L/dayにおいて感度100%、特異度68.0%であることより、5.34μg/L/dayより5.66μg/L/dayが好ましい。すなわち、カットオフ値2.45から5.66μg/L/dayの範囲で用途に応じ設定し利用することが可能である。
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
図1
図2