(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092067
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/20 20190101AFI20240701BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20240701BHJP
F17C 13/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01N33/20 100
F17C11/00 C
F17C13/02 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207720
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
(72)【発明者】
【氏名】臂 安彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】新里 恵多
(72)【発明者】
【氏名】郭 方芹
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】五舛目 清剛
【テーマコード(参考)】
2G055
3E172
【Fターム(参考)】
2G055AA01
2G055BA16
2G055CA23
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB12
3E172BB17
3E172EA02
3E172EA12
3E172EA13
3E172EA15
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA25
3E172EB02
3E172EB10
3E172EB18
3E172EB19
3E172FA01
3E172FA26
3E172JA01
3E172JA08
(57)【要約】
【課題】種々の環境における水素吸蔵合金の性能を予測することができ、かつ、予測に要する時間を短縮することができる水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置を提供する。
【解決手段】水素吸蔵合金の性能予測方法は、温度T、圧力Pの水素雰囲気中に静置した場合における水素吸蔵量の減少速度Vを算出するステップS1と、減少速度V及び圧力Pを用いて反応次数xを算出するステップS2と、減少速度V及び反応次数xを用いて反応速度定数kを算出するステップS3と、反応速度定数k及び温度Tを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出するステップS4と、頻度因子A及び活性化エネルギーEaを用いて目標圧力P
Xにおける反応速度定数k
Xを予測するステップS5と、反応速度定数k
Xを用いて目標温度T
X、目標圧力P
Xにおける減少速度V
Xを予測するステップS6と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測するための水素吸蔵合金の性能予測方法であって、
前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0(単位:mol)と、温度T(単位:K)、圧力P(単位:MPa)の水素雰囲気中にt秒間静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h(単位:mol)とを下記式(1)に代入することにより、温度T、圧力Pにおける水素吸蔵量の減少速度V(単位:mol/s)を算出する減少速度算出ステップS1と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vのうち、前記温度Tが共通である複数の条件下での前記減少速度V及びこれらの減少速度Vに対応する前記圧力Pを用い、下記式(2)に基づいて前記温度Tにおける反応次数xを算出する反応次数算出ステップS2と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vと、当該減少速度Vに対応する前記圧力Pと、前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、を下記式(2)に代入することにより、前記温度T、前記圧力Pにおける減少速度Vから反応速度定数kを算出する速度定数算出ステップS3と、
前記ステップS3において算出した前記反応速度定数kのうち、前記圧力Pが共通である複数の条件下での前記反応速度定数k及びこれらの反応速度定数kに対応する前記温度Tを用い、下記式(3)に基づいて前記圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEa(単位:kJ)を算出するアレニウスパラメータ算出ステップS4と、
前記ステップS4において算出された前記頻度因子A及び前記活性化エネルギーEaと、前記目標温度TXとを下記式(3)に代入して前記目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測する速度定数予測ステップS5と、
前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、前記ステップS5において予測された前記反応速度定数kXと、前記目標圧力PXとを下記式(2)に代入して前記目標温度TX及び前記目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測する性能予測ステップS6と、を有する、水素吸蔵合金の性能予測方法。
V=(h0-h)/t ・・・(1)
ln(V)=ln(k)+x・ln(P/P0) ・・・(2)
ln(k)=ln(A)-Ea/RT ・・・(3)
(ただし、前記式(2)におけるP0は標準圧力であり、前記式(3)におけるRは気体定数である。)
【請求項2】
前記ステップS2において、2つ以上の前記温度Tにおける前記反応次数xを算出し、前記ステップS3及び前記ステップS6において、前記目標温度TXに最も近い温度Tにおける前記反応次数xを用いる、請求項1に記載の水素吸蔵合金の性能予測方法。
【請求項3】
前記ステップS3において、2つ以上の前記圧力Pにおける前記反応速度定数kを算出し、前記ステップS4において、前記目標圧力PXに最も近い圧力Pにおける前記反応速度定数kを用いる、請求項1または2に記載の水素吸蔵合金の性能予測方法。
【請求項4】
目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測することができるように構成された性能予測装置であって、
前記目標温度TXと、前記目標圧力PXと、前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0(単位:mol)と、温度T(単位:K)、圧力P(単位:MPa)の水素雰囲気中にt秒間静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h(単位:mol)と、当該水素吸蔵量hに対応する温度T、圧力P及び時間tとを入力可能に構成された入力部と、
前記入力部に入力されたデータを保持可能に構成された記憶部と、
前記記憶部に保持されたデータを用いて前記減少速度VXを予測可能に構成された演算部と、
前記演算部により予測された前記減少速度VXを出力可能に構成された出力部と、を有しており、
前記演算部は、
前記記憶部に保持された前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0と、温度T、圧力Pの水素雰囲気中にt秒間静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量hとを下記式(1)に代入することにより、温度T、圧力Pにおける水素吸蔵量の減少速度V(単位:mol/s)を算出する減少速度算出ステップS1と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vのうち、前記温度Tが共通である複数の条件下での前記減少速度V及びこれらの減少速度Vに対応する前記圧力Pを用い、下記式(2)に基づいて前記温度Tにおける反応次数xを算出する反応次数算出ステップS2と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vと、当該減少速度Vに対応する前記圧力Pと、前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、を下記式(2)に代入することにより、前記温度T、前記圧力Pにおける減少速度Vから反応速度定数kを算出する速度定数算出ステップS3と、
前記ステップS3において算出した前記反応速度定数kのうち、圧力Pが共通である複数の条件下での前記反応速度定数k及びこれらの反応速度定数kに対応する前記温度Tを用い、下記式(3)に基づいて圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEa(単位:kJ)を算出するアレニウスパラメータ算出ステップS4と、
前記ステップS4において算出された前記頻度因子A及び前記活性化エネルギーEaと、前記目標温度TXとを下記式(3)に代入して前記目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測する速度定数予測ステップS5と、
前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、前記ステップS5において予測された前記反応速度定数kXと、前記目標圧力PXとを下記式(2)に代入して前記目標温度TX及び前記目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測する性能予測ステップS6と、を実行することができるように構成されている、水素吸蔵合金の性能予測装置。
V=(h0-h)/t ・・・(1)
ln(V)=ln(k)+x・ln(P/P0) ・・・(2)
ln(k)=ln(A)-Ea/RT ・・・(3)
(ただし、前記式(2)におけるP0は標準圧力であり、前記式(3)におけるRは気体定数である。)
【請求項5】
前記演算部は、前記ステップS2において、複数の温度Tにおける前記反応次数xを算出し、前記ステップS3及び前記ステップS6において、前記目標温度TXに最も近い温度Tにおける前記反応次数xを用いるように構成されている、請求項4に記載の水素吸蔵合金の性能予測装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記ステップS3において、複数の圧力Pにおける前記反応速度定数kを算出し、前記ステップS4において、前記目標圧力PXに最も近い圧力Pにおける前記反応速度定数kを用いるように構成されている、請求項4または5に記載の水素吸蔵合金の性能予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、水素の吸蔵と放出とを可逆的に行うことができるという特徴を生かし、種々の用途に用いられている。しかし、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させると、水素吸蔵合金中に一定の割合で安定な水素化物が形成される。そのため、水素吸蔵合金への水素の吸蔵と水素吸蔵合金からの水素の放出とを繰り返し行うと、水素吸蔵合金に吸蔵可能な水素吸蔵量が徐々に減少するという問題がある。従って、水素吸蔵合金を種々の用途に用いるに当たり、予め水素吸蔵量の減少速度を予測することが望まれている。
【0003】
例えば特許文献1には、性能予測すべき水素吸蔵合金を対象として、初期状態から水素吸収・放出サイクルを繰り返し、サイクル毎の水素吸収量の変化を初期状態を含む少なくとも3点以上にて実測するステップと、水素吸蔵合金の水素吸収量が水素吸収・放出サイクルの繰り返し回数を変数とする指数関数となることを表わす予測式において、該予測式を規定するための複数のパラメータを前記少なくとも3点の実測データに基づいて決定するステップと、パラメータの決定された予測式に基づいて、該水素吸蔵合金の性能変化を予測し、その結果を出力するステップとを有する水素吸蔵合金の性能予測方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の性能予測方法では、性能変化を予測するために、水素の吸蔵と放出とをある程度の回数繰り返して行う必要がある。それ故、予測に用いるデータを取得するために比較的長い時間を要する。
【0006】
また、特許文献1の性能予測方法では、水素吸蔵合金が実際に使用される際の環境と同じ環境で性能予測を行う必要があり、性能予測を行った環境と実際の使用環境とが異なる場合には、性能予測の結果と実際の使用環境における性能との間の乖離が大きくなるおそれがある。それ故、より短時間で種々の環境における水素吸蔵合金の性能を予測できる水素吸蔵合金の性能予測方法が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、種々の環境における水素吸蔵合金の性能を予測することができ、かつ、予測に要する時間を短縮することができる水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測するための水素吸蔵合金の性能予測方法であって、
前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0(単位:mol)と、温度T(単位:K)、圧力P(単位:MPa)の水素雰囲気中にt秒間静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h(単位:mol)とを下記式(1)に代入することにより、温度T、圧力Pにおける水素吸蔵量の減少速度V(単位:mol/s)を算出する減少速度算出ステップS1と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vのうち、前記温度Tが共通である複数の条件下での前記減少速度V及びこれらの減少速度Vに対応する前記圧力Pを用い、下記式(2)に基づいて前記温度Tにおける反応次数xを算出する反応次数算出ステップS2と、
前記ステップS1において算出された前記減少速度Vと、当該減少速度Vに対応する前記圧力Pと、前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、を下記式(2)に代入することにより、前記温度T、前記圧力Pにおける減少速度Vから反応速度定数kを算出する速度定数算出ステップS3と、
前記ステップS3において算出した前記反応速度定数kのうち、前記圧力Pが共通である複数の条件下での前記反応速度定数k及びこれらの反応速度定数kに対応する前記温度Tを用い、下記式(3)に基づいて前記圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEa(単位:kJ)を算出するアレニウスパラメータ算出ステップS4と、
前記ステップS4において算出された前記頻度因子A及び前記活性化エネルギーEaと、前記目標温度TXとを下記式(3)に代入して前記目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測する速度定数予測ステップS5と、
前記ステップS2において算出された前記反応次数xと、前記ステップS5において予測された前記反応速度定数kXと、前記目標圧力PXとを下記式(2)に代入して前記目標温度TX及び前記目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測する性能予測ステップS6と、を有する、水素吸蔵合金の性能予測方法にある。
【0009】
V=(h0-h)/t ・・・(1)
ln(V)=ln(k)+x・ln(P/P0) ・・・(2)
ln(k)=ln(A)-Ea/RT ・・・(3)
(ただし、前記式(2)におけるP0は標準圧力であり、前記式(3)におけるRは気体定数である。)
【0010】
また、本発明の他の態様は、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測することができるように構成された性能予測装置であって、
前記目標温度TXと、前記目標圧力PXと、前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0(単位:mol)と、温度T(単位:K)、圧力P(単位:MPa)の水素雰囲気中にt秒間静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h(単位:mol)と、当該水素吸蔵量hに対応する温度T、圧力P及び時間tとを入力可能に構成された入力部と、
前記入力部に入力されたデータを保持可能に構成された記憶部と、
前記記憶部に保持されたデータを用いて前記減少速度VXを予測可能に構成された演算部と、
前記演算部により予測された前記減少速度VXを出力可能に構成された出力部と、を有しており、
前記演算部は、前記の態様のステップS1~S6を実行することができるように構成されている、水素吸蔵合金の性能予測装置にある。
【発明の効果】
【0011】
前記水素吸蔵合金の性能予測方法においては、前記ステップS1において算出した水素吸蔵量の減少速度Vと、当該減少速度Vに対応する温度T及び圧力Pとを用いて前記ステップS2~S4を行うことにより、目標温度TX及び目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXの予測に必要な、反応次数x、頻度因子A及び活性化エネルギーEaの3つのパラメータを算出する。前記ステップS1においては、水素吸蔵合金への水素の吸蔵と水素吸蔵合金からの水素の放出とを多数回繰り返すことなく前記ステップS2~S4の実施に必要なデータを取集することができる。それ故、前記性能予測方法は、水素吸蔵合金の性能の予測に要する時間を短縮することができる。
【0012】
また、前記性能予測方法においては、前記ステップS2において算出した反応次数xと、前記ステップS4において算出した頻度因子A及び活性化エネルギーEaとを用いてステップS5~S6を行う。前記ステップS2及びステップS4において得られた3つのパラメータは、実際に水素吸蔵量の減少速度Vを算出した温度T及び圧力Pとは異なる目標温度TX及び目標圧力PXにも適用することができる。それ故、温度T及び圧力Pとは異なる目標温度TX及び目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測することができる。
【0013】
また、前記性能予測装置は、入力部に入力されたデータに基づいて、前記性能予測方法の各ステップにおける演算処理を自動的に行うことができる。これにより、水素吸蔵合金の性能の予測をより簡便に行うことができる。
【0014】
以上のごとく、上記態様によれば、種々の環境における水素吸蔵合金の性能を予測することができ、かつ、予測に要する時間を短縮することができる水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態における、水素吸蔵合金の性能予測方法のフローチャートを示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態における、反応次数算出ステップS2の説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態における、アレニウスパラメータ算出ステップS4の説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態における、性能予測装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、実験例における、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させるための吸蔵装置の要部を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実験例の反応次数算出ステップS2において作成したグラフである。
【
図7】
図7は、実験例のアレニウスパラメータ算出ステップS4において作成したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
前記水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置に係る実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0017】
A.性能予測方法
本形態の水素吸蔵合金の性能予測方法は、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測することができるように構成されている。
【0018】
本形態の性能予測方法は、種々の水素吸蔵合金の性能の予測に適用することができる。本形態の性能予測方法を適用可能な水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi5及びミッシュメタル-ニッケル合金などのAB5型希土類系合金、MgZn2及びZrNi2等のAB2型ラーベス相合金、TiFe及びTiCo等のAB型チタン合金、Mg2Ni及びMg2Cu等のA2B型マグネシウム合金、Ti-V合金及びTi-Cr合金などの固溶体型BCC合金が挙げられるが、これらの水素吸蔵合金に限定されることはなく、公知の水素吸蔵合金に対して前記性能予測方法を適用することが可能である。
【0019】
前記性能予測方法は、
図1に示すように、減少速度算出ステップS1と、反応次数算出ステップS2と、速度定数算出ステップS3と、アレニウスパラメータ算出ステップS4と、速度定数予測ステップS5と、性能予測ステップS6と、を有している。以下、各ステップの詳細を説明する。
【0020】
(1)減少速度算出ステップS1
減少速度算出ステップS1においては、まず、性能を予測しようとする水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0(単位:mol)と、温度T(単位:K)、圧力P(単位:MPa)の水素雰囲気中にt秒間静置した後の水素吸蔵合金の水素吸蔵量h(単位:mol)とを測定する。その後、下記式(1)に基づいて温度T、圧力Pにおける水素吸蔵量の減少速度V(単位:mol/s)を算出する。
V=(h0-h)/t ・・・(1)
【0021】
ステップS1において算出する複数の減少速度Vには、少なくとも、温度Tが共通であり、圧力Pが互いに異なる2つ以上の条件下での水素吸蔵量の減少速度Vと、圧力Pが共通であり、温度Tが互いに異なる2つ以上の条件下での水素吸蔵量の減少速度Vとが含まれる。なお、温度Tが共通である条件下での水素吸蔵量の減少速度Vは、ステップS2において反応次数xの算出に用いられる。また、圧力Pが共通である条件下での水素吸蔵量の減少速度Vは、ステップS3において反応速度定数kの算出に用いられる。
【0022】
ステップS1において、水素吸蔵合金を水素雰囲気中に静置する時間tは、0.5×105秒以上であることが好ましく、1.0×105秒以上であることがより好ましく、2.0×105秒以上であることがさらに好ましい。このように、水素雰囲気中に水素吸蔵合金を十分に長い時間にわたって静置することにより、水素吸蔵合金中に十分な量の水素化物を形成することができる。その結果、後のステップに用いられる前記水素吸蔵量の減少速度Vをより精度よく算出し、ひいては目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXの予測精度をより高めることができる。
【0023】
実験に要する時間の増大を回避する観点からは、ステップS1において、水素吸蔵合金を水素雰囲気中に静置する時間tは、10×106秒以下であることが好ましく、8×105秒以下であることがより好ましく、6×105秒以下であることがさらに好ましい。
【0024】
ステップS1においては、後のステップに必要な減少速度Vの全てを一度に算出してもよい。また、後のステップの妨げとならない限り、2回以上に分けて減少速度Vを算出することもできる。減少速度Vを2回以上に分けて算出する場合、例えば、ステップS2を行う前に温度Tが共通である条件下での水素吸蔵量の減少速度Vを算出し、ステップS3を行う前に圧力Pが共通である条件下での水素吸蔵量の減少速度Vを算出すればよい。
【0025】
予測対象の水素吸蔵合金を温度T、圧力Pの水素雰囲気中に静置すると、水素吸蔵合金と水素とが反応し、安定な水素化物が形成される。この時の安定な水素化物の形成速度は、静置中の温度T及び圧力Pに応じて変化すると考えられる。また、水素吸蔵合金の水素吸蔵量は、水素吸蔵合金中に形成された安定な水素化物の量が多くなるほど減少するため、前記式(1)により算出される水素吸蔵量の減少速度Vは、温度T、圧力Pの水素雰囲気中で静置した場合における安定な水素化物の形成反応の速度と関連していると考えられる。
【0026】
従って、水素吸蔵量の減少速度Vを用いて反応速度式(前記式(2))における反応次数xと、アレニウス式(前記式(3))における頻度因子A及び活性化エネルギーEaとを算出することにより、安定な水素化物の形成反応を反応速度論的に解析することができる。そして、このような速度論的解析の結果に基づいて目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを予測することにより、種々の環境における水素吸蔵合金の性能の予測が可能となる。
【0027】
(2)反応次数算出ステップS2
反応次数算出ステップS2においては、前記ステップS1において算出された前記減少速度Vのうち、温度Tが共通である複数の条件下における減少速度V及びこれらの減少速度Vに対応する前記圧力Pを用い、下記式(2)に示す、温度Tにおける反応次数xを算出する。ただし、下記式(2)におけるP0は標準圧力である。なお、標準圧力P0の値としては、例えば0.1MPaを使用することができる。
ln(V)=ln(k)+x・ln(P/P0) ・・・(2)
【0028】
反応次数xの算出は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、
図2に示すように、縦軸を減少速度Vの自然対数ln(V)、横軸をP/P
0の自然対数ln(P/P
0)としたグラフ上に、温度Tが共通である条件下における複数の減少速度V及び当該減少速度に対応するP/P
0をプロットする。そして、これらのデータ点を最もよく近似する近似直線Lを導出する。近似直線Lの導出方法としては、例えば、最小二乗法を採用すればよい。このようにして得られた近似直線Lの傾きを、前記式(2)における反応次数xとして採用する。
【0029】
ステップS2においては、温度Tが目標温度TX-150K以上、目標温度TX+150K以下である条件における水素吸蔵量の減少速度Vを用いて反応次数xを算出することが好ましく、目標温度TX-100K以上、目標温度TX+100K以下である条件における水素吸蔵量の減少速度Vを用いて反応次数xを算出することがより好ましく、目標温度TX-50K以上、目標温度TX+50K以下である条件における水素吸蔵量の減少速度Vを用いて反応次数xを算出することがさらに好ましい。このように、目標温度TXに比較的近い温度Tにおける減少速度Vを用いて反応次数xを算出することにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0030】
ステップS2においては、1つの温度Tにおける減少速度Vの組を用いて1本の近似直線Lを導き、当該近似直線Lに基づいて温度Tにおける反応次数xを算出してもよい。また、例えば
図2に示すように、2つ以上の温度T1、T2、・・・のそれぞれにおける減少速度Vを用いて各温度T1、T2、・・・における近似直線L(L1、L2、・・・)を導き、これらの近似直線Lに基づいて各温度T1、T2・・・における反応次数xを算出してもよい。
【0031】
ステップS2において、2つ以上の温度Tにおける反応次数xを算出した場合、後に行うステップS3及びステップS6において、目標温度TXに最も近い温度Tにおける反応次数xを用いることが好ましい。このように、目標温度TXに最も近い温度Tにおける反応次数xに基づいてアレニウスパラメータ及び目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測することにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0032】
(3)速度定数算出ステップS3
速度定数算出ステップS3においては、ステップS1において算出された減少速度Vと、当該減少速度Vに対応する圧力Pと、ステップS2において算出された前記反応次数xと、を前記式(2)に代入することにより、温度T、圧力Pにおける減少速度Vから反応速度定数kを算出する。
【0033】
ステップS3においては、少なくとも1つの圧力Pにおける減少速度Vを反応速度定数kに変換してもよく、2つ以上の圧力Pにおける減少速度Vを反応速度定数kに変換してもよい。
【0034】
(4)アレニウスパラメータ算出ステップS4
アレニウスパラメータ算出ステップS4においては、ステップS3において算出した反応速度定数kのうち、圧力Pが共通である複数の条件下における反応速度定数kと、これらの反応速度定数kに対応する温度Tとを用い、下記式(3)における頻度因子A及び活性化エネルギーEa(単位:kJ)を算出する。ただし、下記式(3)におけるRは気体定数である。
ln(k)=ln(A)-Ea/RT ・・・(3)
【0035】
頻度因子A及び活性化エネルギーEaの算出は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、
図3に示すように、縦軸を反応速度定数kの自然対数ln(k)、横軸を温度Tの逆数1/Tとしたグラフ上に、圧力Pが共通である条件下における複数の反応速度定数k及び当該反応速度定数kに対応する1/Tをプロットする。そして、これらのデータ点を最もよく近似する近似直線Mを導出する。近似直線Mの導出方法としては、例えば、最小二乗法を採用すればよい。このようにして得られた近似直線Mの傾きから前記式(3)における活性化エネルギーEaを、切片から頻度因子Aをそれぞれ算出することができる。
【0036】
ステップS4においては、圧力Pが目標圧力PXの0.1倍以上10倍以下である条件における反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することが好ましく、目標圧力PXの0.2倍以上5倍以下である条件における反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することがより好ましく、目標圧力PXの0.3倍以上2倍以下である条件における反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することがさらに好ましく、目標圧力PXの0.4倍以上1.2倍以下である条件における反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することが特に好ましく、目標圧力PXの0.9倍以上1.1倍以下である条件における反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することが最も好ましい。このように、目標圧力PXに比較的近い圧力Pにおける反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0037】
ステップS3においては、1つの圧力Pにおける反応速度定数kの組を用いて1本の近似直線Mを導き、当該近似直線Mに基づいて圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出してもよい。また、例えば
図3に示すように、2つ以上の圧力P1、P2、・・・のそれぞれにおける反応速度定数kを用いて各圧力P1、P2、・・・における近似直線M(M1、M2、・・・)を導き、これらの近似直線Mに基づいて各圧力P1、P2、・・・における頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出してもよい。
【0038】
ステップS3において、2つ以上の圧力Pにおける反応速度定数kを算出した場合、ステップS4において、目標圧力PXに最も近い圧力Pにおける反応速度定数kを用いて頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出することが好ましい。このようにして算出された頻度因子A及び活性化エネルギーEaは、より実際の使用環境に近い条件での頻度因子A及び活性化エネルギーEaと考えられる。それ故、かかる頻度因子A及び活性化エネルギーEaを用いて後のステップを行うことにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0039】
(5)速度定数予測ステップS5
速度定数予測ステップS5においては、ステップS4において算出された頻度因子A及び活性化エネルギーEaと、目標温度TXとを前記式(3)に代入することにより、目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測する。
【0040】
ステップS4において、2つ以上の圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEaを算出した場合、ステップS5において、目標圧力PXに最も近い圧力Pにおける頻度因子A及び活性化エネルギーEaを用いて反応速度定数kXを予測することが好ましい。このようにして予測された反応速度定数kXは、目標圧力PXにおける水素化物の形成速度をよりよく反映していると考えられる。そのため、かかる反応速度定数kXを用いてステップS6を行うことにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0041】
(6)性能予測ステップS6
性能予測ステップS6においては、ステップS2において算出された反応次数xと、ステップS5において予測された反応速度定数kXと、目標圧力PXとを前記式(2)に代入することにより、目標温度TX及び目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測する。前述したように、ステップS6において用いられる反応次数x及び反応速度定数kXは、水素化物の形成反応の速度論的な解析に基づいて予測されている。そのため、前記反応次数x及び前記反応速度定数kXを用いることにより、目標温度TX及び目標圧力PXが実際に減少速度Vを確認した温度T及び圧力Pとは異なる場合においても、水素吸蔵量の減少速度VXを精度よく予測することができる。
【0042】
ステップS2において、複数の温度Tにおける反応次数xを算出した場合、ステップS6において、目標温度TXに最も近い温度Tにおける反応次数xを用いて水素吸蔵量の減少速度VXを予測することが好ましい。このようにして導かれた減少速度VXは、目標温度TXにおける水素化物の形成速度をよりよく反映していると考えられる。そのため、目標温度TXに最も近い温度Tにおける反応次数xを用いてステップS6を行うことにより、目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXをより精度よく予測することができる。
【0043】
B.性能予測装置
前記性能予測方法の実施には、例えば、
図4に示す、入力部11と、記憶部12と、演算部13と、出力部14と、を備えた性能予測装置1を用いることができる。性能予測装置1の具体的な態様は特に限定されることはないが、例えば、汎用の電子計算機を性能予測装置1として構成することができる。
【0044】
(1)入力部
本形態の入力部11は、
図4に示すように、演算部13及び記憶部12に接続されている。本形態の性能予測装置1は、入力部11から入力されたデータが、演算部13の指示によって記憶部12に保持されるように構成されている。入力部11は、目標温度T
Xと、目標圧力P
Xと、水素吸蔵合金の水素吸蔵量h
0と、温度T、圧力Pの水素雰囲気中にt秒間静置した後の水素吸蔵合金の水素吸蔵量hと、当該水素吸蔵量hに対応する温度T、圧力P及び時間tとを入力可能に構成されている。
【0045】
入力部11の具体的な態様は特に限定されることはない。例えば、入力部11は、キーボードやマウス、タッチパッド等の、電子計算機における入力装置であってもよい。また、入力部11は、水素吸蔵量を測定するための測定装置と接続可能に構成された通信インタフェースであってもよい。この場合、性能予測装置1は、入力部11を介して測定装置において測定された水素吸蔵量を取得し、記憶部12に保存することができるように構成されていればよい。
【0046】
(2)記憶部
本形態の記憶部12は、入力部11及び演算部13に接続されており、入力部11から入力されたデータを保持可能に構成されている。入力部11から入力されたデータには、例えば、目標温度TX、目標圧力PX、水素吸蔵合金の水素吸蔵量h0、水素雰囲気中に静置した後の前記水素吸蔵合金の水素吸蔵量h、当該水素吸蔵量hに対応する温度T、圧力P及び時間tが含まれる。記憶部12は、さらに、演算部13において算出または予測される、水素吸蔵量の減少速度V等を保持可能に構成されていてもよい。
【0047】
記憶部12の具体的な態様は特に限定されることはない。例えば、記憶部12は、揮発性メモリ等の電子計算機における主記憶装置であってもよい。また、記憶部12は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、着脱可能に構成された不揮発性メモリ等の、電子計算機における補助記憶装置であってもよい。
【0048】
(3)演算部
本形態の演算部13は、入力部11、記憶部12及び出力部14に接続されている。演算部13は、記憶部12に保持されたデータを用い、前記性能予測方法におけるステップS1~S6を実行することができるように構成されている。演算部13は、前記性能予測方法における一連のステップを連続的に実行することができるように構成されていてもよい。また、演算部13は、使用者の指示に基づいて、各ステップを逐次的に実行することができるように構成されていてもよい。
【0049】
また、本形態の演算部13は、前記ステップS1~S6の結果予測される目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを出力部14に表示させることができるように構成されている。さらに、本形態の演算部13は、性能予測装置1全体の動作を制御することができるように構成されている。
【0050】
演算部13の具体的な態様は特に限定されることはない。例えば、演算部13は、中央演算処理装置などの、電子計算機における演算装置であってもよい。また、演算部13の動作は、例えば、記憶部12に保持されたプログラム等により実現することができる。
【0051】
(4)出力部
本形態の出力部14は、演算部13に接続されており、演算部13において予測された目標温度TX、目標圧力PXにおける水素吸蔵合金の水素吸蔵量の減少速度VXを出力することができるように構成されている。
【0052】
出力部14の具体的な態様は特に限定されることはない。例えば、出力部14は、ディスプレイ等の電子計算機における表示装置であってもよい。また、出力部14は、タッチパネル等の、入力装置を兼ねた表示装置であってもよい。
【0053】
本形態の性能予測装置1は、入力部11に入力されたデータに基づいて、前記性能予測方法の各ステップにおける演算処理を自動的に行うことができる。これにより、水素吸蔵合金の性能の予測をより簡便に行うことができる。
【0054】
(実験例)
本例においては、水素吸蔵合金としてTiFe合金におけるFe原子の一部がMn原子で置換されたTi-Fe-Mn合金を用い、前記性能予測方法により水素吸蔵合金の性能を予測した例を説明する。なお、本実験例において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一の符号は、特に示さない限り、既出の実施形態における構成要素と同様の構成要素等を表す。
【0055】
(1)減少速度算出ステップS1
本例の減少速度算出ステップS1においては、まず、JIS H7201-1991に準じた方法により、Ti-Fe-Mn合金の初期状態の水素吸蔵量h0を測定した。より具体的には、PCT特性測定装置を用いてTi-Fe-Mn合金の水素吸蔵過程におけるPCT曲線を取得し、PCT曲線上における、圧力が1MPaである点に対応する水素の吸蔵量を、Ti-Fe-Mn合金の初期状態の水素吸蔵量h0とした。
【0056】
次に、Ti-Fe-Mn合金を温度T、圧力Pの水素雰囲気中に静置した後の水素吸蔵量hを測定するために、
図5に示す水素処理装置2を用いてTi-Fe-Mn合金を水素雰囲気中に静置する処理を行った。
【0057】
前記処理に用いた水素処理装置2は、水素吸蔵合金Aを保持する耐圧容器21と、耐圧容器21を加熱するためのヒータ22と、耐圧容器21に水素を供給する水素配管23と、を有している。水素配管23は、図には示さない水素ボンベに接続される水素導入部231と、水素導入部231と耐圧容器21とを接続する接続部232と、接続部232に連なり、耐圧容器21内の気体が排出される経路となる排気部233と、を有している。水素導入部231には、水素ボンベから流入する水素の圧力を調整するためのレギュレータ234が設けられている。排気部233には、図には示さない排気ポンプが接続されている。また、接続部232及び排気部233には、耐圧容器21からの水素の流出を防止するためのストップバルブ235、236がそれぞれ設けられている。
【0058】
Ti-Fe-Mn合金を水素雰囲気中に静置する処理は、具体的には以下のようにして行った。まず、耐圧容器21内に約1gのTi-Fe-Mn合金を入れた。次いで、排気ポンプを作動させ、耐圧容器21内の気体を排気部233から外部へ排出した。なお、この際、必要に応じてヒータ22を動作させ、水素吸蔵合金Aからのガスの脱離を促進してもよい。
【0059】
耐圧容器21内の気体を排出した後、排気部233のストップバルブ236を閉鎖した。その後、ヒータ22によりTi-Fe-Mn合金を温度Tまで加熱した状態で、水素ボンベから耐圧容器21内に水素を供給し、耐圧容器21内の圧力を圧力Pまで上昇させた。この温度T及び圧力Pを3日間維持した後、水素ボンベから耐圧容器21への水素の供給を停止するとともに、排気部233のストップバルブ236を開放して耐圧容器21内の余剰の水素を外部へ放出した。
【0060】
以上の処理を、静置時の温度Tと圧力Pとが表1の処理条件A1~A5のいずれかに示す値となるようにして行った。Ti-Fe-Mn合金を水素雰囲気中に静置する処理が完了した後、初期状態の水素吸蔵量h0の測定と同様の方法により、処理後のTi-Fe-Mn合金の水素吸蔵量hを測定した。そして、初期状態の水素吸蔵量h0と処理後のTi-Fe-Mn合金の水素吸蔵量hとを用い、前記式(1)に基づいて温度T、圧力Pにおける水素吸蔵量の減少速度Vを算出した。表1に、各処理条件で水素吸蔵合金を処理した場合における水素吸蔵量の減少速度Vを示す。
【0061】
(2)反応次数算出ステップS2
本例の反応次数算出ステップS2においては、表1に示した減少速度Vのうち、温度Tが773.15K(つまり、500℃)である3つの条件下での減少速度V(つまり、処理条件A1~A3における減少速度)及びこれらの減少速度Vに対応する圧力Pを、
図6に示すグラフ上にプロットした。そして、最小二乗法により、3つのデータ点を最もよく近似する直線L3を導出した。なお、
図6における縦軸は減少速度Vの自然対数ln(V)であり、横軸はP/P
0の自然対数ln(P/P
0)である。また、標準圧力P
0の値は0.1MPaとした。
【0062】
このようにして導出された直線L3の傾きは1.7531であり、切片は-26.584であった。以上の結果から、前記式(2)の反応次数xを1.7531と決定し、以降のステップに用いた。
【0063】
(3)速度定数算出ステップS3
本例の速度定数算出ステップS3においては、表1に示した減少速度VとステップS2において算出した反応次数xとを前記式(2)に代入することにより反応速度定数kを算出した。各処理条件における反応速度定数kは、表1に示す通りであった。
【0064】
(4)アレニウスパラメータ算出ステップS4
本例のアレニウスパラメータ算出ステップS4においては、表2に示した反応速度定数kのうち、圧力Pが10MPaである3つの反応速度定数k(つまり、処理条件A2及び処理条件A4~A5における反応速度定数k)及びこれらの反応速度定数kに対応する圧力Tを、
図7に示すグラフ上にプロットした。そして、最小二乗法により、3つのデータ点を最もよく近似する直線M3を導出した。なお、
図7における縦軸は反応速度定数kの自然対数ln(k)であり、横軸は温度Tの逆数1/Tである。
【0065】
このようにして導出された直線M3の傾きは-2782.5であり、切片は-23.353であった。以上の結果から、前記式(3)における頻度因子Aをe-23.353、活性化エネルギーEaを2782.5R(ただし、Rは気体定数)と決定し、以降のステップに用いた。
【0066】
(5)速度定数予測ステップS5・性能予測ステップS6
本例の速度定数予測ステップS5及び性能予測ステップS6においては、ステップS2において算出した反応次数xと、ステップS4において算出した頻度因子A及び活性化エネルギーEaの妥当性を確認するため、表1に示す処理条件A1~A5における温度Tを目標温度TX、圧力Pを目標圧力PXとして用い、表2に示す目標温度TX及び目標圧力PXにおける水素吸蔵量の減少速度VXを予測した。
【0067】
具体的には、まず、前記ステップS4において算出された頻度因子A及び活性化エネルギーEaと、表2に示す予測条件B1~B5における目標温度TXとを用い、前記式(3)に基づいて各目標温度TXにおける反応速度定数kXを予測した。各目標温度TXにおける反応速度定数kXの予測結果は表2に示す通りであった。その後、ステップS2において算出された反応次数xと、表2に示す反応速度定数kXと、当該反応速度定数kXに対応する目標圧力PXとを用い、前記式(2)に基づいて各予測条件における水素吸蔵量の減少速度VXを予測した。各予測条件における水素吸蔵量の減少速度VXの予測結果は表2に示す通りであった。なお、表2には、前記性能予測方法により予測された水素吸蔵量の減少速度VXとともに、実際に測定した水素吸蔵量の減少速度Vに対する予測された水素吸蔵量の減少速度VXの比VX/Vの値を示した。
【0068】
【0069】
【0070】
表2に示したように、前記ステップS1~S4において算出した反応次数x、頻度因子A及び活性化エネルギーEaを用いて予測された水素吸蔵量の減少速度VXは、実際に測定された減少速度Vの0.4倍以上1.1倍以下の範囲内となっており、実際の減少速度Vとの大きな乖離は見られなかった。また、これらの予測結果の中でも、目標圧力PXがステップS4において頻度因子A及び活性化エネルギーEaの算出に用いた条件の圧力Pと同一である予測条件B2及び予測条件B4~B5における水素吸蔵量の減少速度VXは、これら以外の予測条件に比べて実際の減少速度Vとの乖離が小さく、実際の減少速度Vをより精度よく予測できていることが理解できる。
【0071】
以上、実施形態及び実験例に基づいて本発明に係る水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置の態様を説明したが、本発明に係る水素吸蔵合金の性能予測方法及び性能予測装置の態様は上記実施形態及び実験例の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜構成を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 性能予測装置
11 入力部
12 記憶部
13 演算部
14 出力部