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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093854
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レーザー加工装置、レーザー加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240702BHJP
   B23K 26/386 20140101ALI20240702BHJP
【FI】
B23K26/00 N
B23K26/386
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210449
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔1〕 ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和4年1月12日 ▲2▼掲載物 一般社団法人レーザー学会学術講演会第42回年次大会の予稿 <資 料> 予稿公開日のメール、及びウェブサイトの予稿掲載ページ プリントアウト 〔2〕 ▲1▼開催日 令和4年1月12日 ▲2▼集会名 一般社団法人レーザー学会学術講演会第42回年次大会 <資 料> 講演会開催要項 プリントアウト 〔3〕 ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和4年2月25日 ▲2▼掲載物 第69回応用物理学会春季学術講演会・講演予稿集 <資 料> ウェブサイトの予稿公開日、及び予稿掲載ページ プリントアウト 〔4〕 ▲1▼開催日 令和4年3月24日 ▲2▼集会名 第69回応用物理学会春季学術講演会 <資 料> 講演会開催要項 プリントアウト 〔5〕 ▲1▼発行日 令和4年4月20日 ▲2▼刊行物 16th International Conference on Laser Ablation(COLA2021/2022)予稿集 第178頁 <資 料> 予稿集公開ページ プリントアウト 〔6〕 ▲1▼開催日 令和4年4月24日 ▲2▼集会名 16th International Conference on Laser Ablation(COLA2021/2022) <資 料> 講演会開催要項 プリントアウト 〔7〕 ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和4年8月26日 ▲2▼掲載物 第83回応用物理学会秋季学術講演会・講演予稿集 <資 料> ウェブサイトの予稿公開日、及び予稿掲載ページ プリントアウト 〔8〕 ▲1▼開催日 令和4年9月23日 ▲2▼集会名 第83回応用物理学会秋季学術講演会 <資 料> 講演会開催要項 プリントアウト 〔9〕 ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和4年5月12日 ▲2▼掲載物 第97回レーザ加工学会講演会・講演論文集 <資 料> 論文公開日のメール、及びウェブサイトの掲載ページ プリントアウト 〔10〕 ▲1▼開催日 令和4年5月17日 ▲2▼集会名 第97回レーザ加工学会講演会 <資 料> 講演会開催要項 プリントアウト
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔11〕 ▲1▼発行日 令和4年9月6日 ▲2▼刊行物 2022年度 多元技術融合光プロセス研究会 第2回研究交流会 講演2資料 <資 料> 資料 プリントアウト 〔12〕 ▲1▼開催日 令和4年9月6日 ▲2▼集会名 2022年度 多元技術融合光プロセス研究会 第2回研究交流会 <資 料> 研究交流会開催要項 プリントアウト 〔13〕 ▲1▼開催日 令和4年10月19日 講演要旨公開日 令和4年12月9日 ▲2▼集会名 The 41st annual International Congress on Applications of Lasers & Electro-Optics,ICALEO 2022 <資 料> 開催要項、講演要旨および講演要旨公開メール プリントアウト 〔14〕 ▲1▼発行日 令和4年12月6日([15]の開催日当日に配布) ▲2▼刊行物 日本光学会 光エレクトロニクス産学連携専門委員会第332回研究会 講演1資料 <資 料> 資料 プリントアウト 〔15〕 ▲1▼開催日 令和4年12月6日 ▲2▼集会名 日本光学会 光エレクトロニクス産学連携専門委員会第332回研究会 <資 料> 開催要項 プリントアウト 〔16〕 ▲1▼発行日 令和4年12月8日 ▲2▼刊行物 第22回PHOTONIX 講演資料 <資 料> 資料 プリントアウト 〔17〕 ▲1▼開催日 令和4年12月8日 ▲2▼集会名 第22回PHOTONIX <資 料> 開催要項 プリントアウト 〔18〕 ▲1▼発行日 令和4年4月10日 ▲2▼刊行物 OPTRONICS第41巻、第4号、第138~143頁 <資 料> 掲載頁 プリントアウト 〔19〕 ▲1▼発行日 令和4年9月10日 ▲2▼刊行物 OPTRONICS第41巻、第9号、第79~83頁 <資 料> 掲載頁 プリントアウト 〔20〕 ▲1▼発行日 令和4年10月20日 ▲2▼刊行物 光技術コンタクト第60巻、第10号、第38~43頁 <資 料> 掲載頁 プリントアウト 〔21〕 ▲1▼発行日 令和4年12月10日 ▲2▼刊行物 フォトニクスニュース 第8巻、第2号、第113~117頁 <資 料> 掲載頁 プリントアウト
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ICTデータ活用型アクティブ制御レーザー加工技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】吉富 大
(72)【発明者】
【氏名】高田 英行
(72)【発明者】
【氏名】奈良崎 愛子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋平
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA24
4E168DA28
4E168DA40
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168DA60
4E168HA01
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】パルスレーザー光を用いたレーザー加工において、被加工物の脆性が大きい場合であっても、チッピングやクラックといった表面欠陥の発生を抑制してレーザー加工を行うことが可能なレーザー加工装置、およびこれを用いたレーザー加工方法を提供する。
【解決手段】被加工物に向けてパルスレーザー光を照射するレーザー光源と、前記レーザー光源の照射強度を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、被加工物の加工前の破壊強度に応じて設定される閾値に基づいて、前記閾値を超える照射強度で前記パルスレーザー光を照射する高強度照射段階と、その後、前記閾値以下の照射強度で前記パルスレーザー光を照射する低強度照射段階と、を含むように前記レーザー光源を制御することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に向けてパルスレーザー光を照射するレーザー光源と、
前記レーザー光源の照射強度を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、被加工物の加工前の破壊強度に応じて設定される閾値に基づいて、前記閾値を超える照射強度で前記パルスレーザー光を照射する高強度照射段階と、その後、前記閾値以下の照射強度で前記パルスレーザー光を照射する低強度照射段階と、を含むように前記レーザー光源を制御することを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記高強度照射段階では、前記被加工物の表面から、裏面に達しない一定の深さ範囲までを破壊することを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記低強度照射段階では、前記レーザー光源の照射強度が漸減するように制御することを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、機械学習によって生成した、前記被加工物の材質に応じた前記レーザー光源の照射パターンを参照して、前記レーザー光源の照射強度を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー加工装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法であって、
前記被加工物の加工位置に向けて、前記閾値を超える照射強度で前記パルスレーザー光を照射する前記高強度照射段階と、その後、前記閾値以下の照射強度で前記パルスレーザー光を照射する前記低強度照射段階と、を有することを特徴とするレーザー加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザー光によって被加工物をレーザー加工するレーザー加工装置、およびこれを用いたレーザー加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガラスや金属材料などに微細な加工を行う方法として、レーザー加工装置が知られている。このうち、パルス幅がフェムト秒~ピコ秒の超短パルスレーザー光を用いて加工を行うものは、被加工物に与える熱ダメージが少ない非熱・非接触のレーザー加工方法として知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5510486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたパルスレーザー光を用いたレーザー加工方法は、例えば、ガラスなどの脆性の大きな材料に対して適用する場合、チッピングやクラックといった表面欠陥が生じやすいという課題があった。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、パルスレーザー光を用いたレーザー加工において、被加工物の脆性が大きい場合であっても、チッピングやクラックといった表面欠陥の発生を抑制してレーザー加工を行うことが可能なレーザー加工装置、およびこれを用いたレーザー加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、材料によって異なるレーザー光による破壊強度が、レーザー加工の初期段階で、被加工物の加工部位の表面に凹凸または欠陥ができることにより低下するため、こうした破壊強度の低下に合わせてレーザー光の強度を低減させることで、レーザー加工部位のチッピングやクラックといった表面欠陥の発生を抑制できるという新たな知見を見出した。
【0007】
本願発明は上述した知見に基づいてなされたものであり、上記課題を解決するために、本発明の一実施形態のレーザー加工装置は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1のレーザー加工装置は、被加工物に向けてパルスレーザー光を照射するレーザー光源と、前記レーザー光源の照射強度を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、被加工物の加工前の破壊強度に応じて設定される閾値に基づいて、前記閾値を超える照射強度で前記パルスレーザー光を照射する高強度照射段階と、その後、前記閾値以下の照射強度で前記パルスレーザー光を照射する低強度照射段階と、を含むように前記レーザー光源を制御することを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の態様2は、態様1のレーザー加工装置において、前記高強度照射段階では、前記被加工物の表面から、裏面に達しない一定の深さ範囲までを破壊することを特徴とする。
【0009】
(3)本発明の態様3は、態様1または2のレーザー加工装置において、前記制御部は、前記低強度照射段階では、前記レーザー光源の照射強度が漸減するように制御することを特徴とする。
【0010】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つのレーザー加工装置において、前記制御部は、機械学習によって生成した、前記被加工物の材質に応じた前記レーザー光源の照射パターンを参照して、前記レーザー光源の照射強度を制御することを特徴とする。
【0011】
(5)本発明の態様5のレーザー加工方法は、態様1から4のいずれか1つのレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法であって、前記被加工物の加工位置に向けて、前記閾値を超える照射強度で前記パルスレーザー光を照射する前記高強度照射段階と、その後、前記閾値以下の照射強度で前記パルスレーザー光を照射する前記低強度照射段階と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パルスレーザー光を用いたレーザー加工において、被加工物の脆性が大きい場合であっても、チッピングやクラックといった表面欠陥の発生を抑制してレーザー加工を行うことが可能なレーザー加工装置、およびこれを用いたレーザー加工方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態のレーザー加工装置を示す模式図である。
図2】パルスレーザー光の照射パターンの一例を示す模式図である。
図3】加工深さを照射パルス数に応じてプロットした結果の一例を示すグラフである。
図4】サファイアに照射した場合の結果の一例を示すグラフである
図5】閾値(初期閾値)の測定方法の一例を示す模式図である。
図6】深層学習による加工形状の予測の説明図である。
図7】被加工物として石英(シリカ)を用いた場合の深層学習の結果の一例を示す模式図である。
図8】被加工物として銅を用いた場合の深層学習の結果の一例を示す模式図である。
図9】本発明の効果の検証例を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のレーザー加工装置、レーザー加工方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
(レーザー加工装置)
本発明の一実施形態のレーザー加工装置について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のレーザー加工装置を示す模式図である。
本実施形態のレーザー加工装置10は、例えば、レーザー光源部21、およびステージ22を有する本体部11と、この本体部11を制御する制御部12と、から構成されている。
【0016】
レーザー光源部21は、ステージ22に載置された被加工物mに対してパルスレーザー光PLを照射することによって被加工物mのレーザー加工を行うことができるように構成されている。
【0017】
レーザー光源部21は、例えば、パルスレーザー光PLを照射可能なレーザー光源、ダイクロイックミラー、集光レンズなどから構成されていればよい。
本実施形態では、レーザー光源部21を構成するレーザー光源として、Yb:ファイバーレーザーを用いている。なお、レーザー光源としては、Nd:YAGレーザー、Nd:YVOレーザーなど、各種の固体レーザーや気体レーザーなどを用いることもできる。これらレーザー光源は、モード同期発振器光の増幅器、またはQスイッチ付き発振器であることが好ましい。
【0018】
本実施形態では、パルスレーザー光PLの波長は、例えば、150nm~1100nmの波長範囲であればよい。また、パルスレーザー光PLにおけるパルス周波数は、例えば、10kHz~1MHzであればよい。また、1つのパルス幅は、100fs~100nsであればよい。
【0019】
パルスレーザー光PLは、集光レンズなどの集光手段によって、例えば、直径が1μm~20μm程度のビーム径に集束させてから被加工物mに向けて照射することが好ましい。また、パルスレーザー光PLのピークパワー密度は、例えば、1GW/cm~100GW/cm程度の範囲であればよい。
【0020】
なお、レーザー光源部21から出射されるパルスレーザー光PLの偏光状態は、円偏光であっても直線偏光であってもよい。
【0021】
このような、レーザー光源部21から出射されるパルスレーザー光PLの波長、照射強度、パルスの繰り返し周波数、パルス幅の調整などは、後述する制御部12によって制御される。レーザー光源部21には音響光学変調器が内蔵され、制御部12から指示された通り時間的に変調された電圧信号によって、パルスごとに照射強度の変調を行うことができる。
【0022】
ステージ22は、表面に被加工物mを載置する部材であり、例えば、鉄、銅などの金属や石英、サファイア、ガラスなどの透明材料からなる平板状の部材で構成されていればよい。こうしたステージ22には、被加工物mを吸着固定するための吸気口などが更に設けられていてもよい。
【0023】
また、ステージ22は、移動機構23によって、XYZ3軸の水平及び鉛直方向に移動可能とされている。こうした移動機構23は、制御部12によって制御される。
なお、ステージ22の近傍には、例えば、加工中の被加工物mの表面を観察するためのCCDカメラなどが更に設けられていることも好ましい。
【0024】
制御部12は、レーザー光源部21、およびステージ22を有する本体部11の動作を制御する。制御部12は、例えば、CPU、メモリ、インターフェースなどを備えたパソコン(PC)から構成されていればよい。
【0025】
制御部12は、レーザー光源部21から被加工物mに向けて照射されるパルスレーザー光PLの波長、照射強度、パルスの繰り返し周波数、パルス幅などを制御する。また、ステージ22の移動機構23を制御する。
【0026】
次に、こうした構成のレーザー加工装置10の動作、本実施形態のレーザー加工方法を説明する。
レーザー加工装置10を用いて、被加工物m、例えば石英板に対して、例えば、穴あけ加工を行う際には、まず、被加工物mをステージ22に載置する。
【0027】
制御部12は、最初に、被加工物mの材質に応じたレーザー光の照射強度の閾値を設定する。こうした閾値は、被加工物mの材質によって決まり、例えば、被加工物mの加工開始時における表面の破壊に必要なレーザー光の照射強度以上の値に設定される。制御部12には、例えば、各種材料に応じた閾値が予めプリセットされていればよく、加工開始時に、入力装置などから被加工物mの材質を入力することにより、被加工物mの材質に応じた閾値が読み出される。
【0028】
次に、制御部12は、機械学習によって予め記憶された、複数のレーザー光の照射パターンのうち、被加工物mの材質に応じた照射パターンを読み出す。
照射パターンは、制御部12が被加工物の加工前の破壊強度に応じて設定される閾値(初期閾値)に基づいて、この閾値を超える照射強度でパルスレーザー光PLを照射する高強度照射段階E1と、その後、この閾値以下の照射強度でパルスレーザー光PLを照射する低強度照射段階E2と、を含むようにレーザー光源部21を制御する制御パターンである。
【0029】
例えば、被加工物mに所定の深さの孔を形成するための照射パターンの一例としては、図2に示すように、最初に、予め設定した閾値(初期閾値)を超える照射強度で、2パルス分のパルスレーザー光PLを照射する(高強度照射段階E1)。この時点で、被加工物mの平滑な表面が破壊され、表面の平滑度が下がる。
【0030】
このように、被加工物mの平滑な表面が破壊されると、その後の破壊(加工)に必要なレーザー光の破壊強度の閾値が低下する(低下閾値)。これは、平滑な表面よりも、破壊によって生じた凹凸のある粗面の方が、レーザー光のエネルギーを多く吸収し、また、破壊によって生じた表面付近の欠陥によってもレーザー光のエネルギーを多く吸収するため、低い照射強度でも破壊(加工)が進行すると考えられるためである。
【0031】
図3に、時間の経過とともに照射強度を漸増させたパルス列と漸減させたパルス列を石英に照射した際の加工深さを照射パルス数に応じてプロットした結果の一例を示す。同時に、照射するパルスのフルーエンスの時間変化を図3中に示す。フルーエンスとは、単位面積に照射されるパルスのエネルギーのことであり、照射強度に比例する量である。
【0032】
漸増パルス列に対して、破壊が開始される(加工深さがゼロよりも大きくなる)点におけるフルーエンスは、F1=3.9(J/cm)と見積もられるのに対し、漸減パルス列に対して破壊が終了する(加工深さの変化がゼロになる)点におけるフルーエンスは、F2=2.0(J/cm)と見積もられ、F1>F2の関係にあることが分かる。このことは、破壊が起きていない初期の平滑な表面に対する破壊の閾値よりも、破壊が起きることにより凹凸や欠陥が生じた後の表面に対する破壊の閾値の方が小さくなることを示しており、初期破壊により破壊閾値が低下していることを表している。
【0033】
図4は、サファイアに照射した場合の結果の一例である。F1=3.3(J/cm)、F2=2.5(J/cm)となっており、やはり、F1>F2の関係があり、初期破壊による破壊閾値の低下が起きている。
【0034】
次に、照射パターンは、予め設定した閾値(初期閾値)よりも低い照射強度で、5パルス分のパルスレーザー光PLを照射する(低強度照射段階E2)。前述した高強度照射段階E1で被加工物mの平滑な表面が破壊されているため、レーザー光の破壊強度の閾値が低下しており(低下閾値)、予め設定した閾値(初期閾値)よりも低い照射強度であっても、被加工物mの破壊(加工)が進行し、被加工物mの表面から所定の深さまで、孔が形成される。
【0035】
以上のように、予め設定した閾値を超える照射強度でパルスレーザー光PLを照射(高強度照射段階E1)した後、閾値よりも低い照射強度でパルスレーザー光PLを照射(低強度照射段階E2)することによって、加工部位が過度に破壊されてクラック、チッピング(欠け)などが発生することを抑制できる。これにより、加工後の表面状態を良好に保つことが可能なレーザー加工装置10、およびこれを用いたレーザー加工方法を実現することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、パルスレーザー光PLの照射パターンとして、高強度照射段階E1で閾値(初期閾値)を超える1つの照射強度でパルスレーザー光PLを照射し、低強度照射段階E2で、閾値よりも低い1つの照射強度でパルスレーザー光PLを照射しているが、照射パターンは、被加工物の材質、厚みに応じてさまざまに選択することができる。
【0037】
例えば、高強度照射段階E1で閾値(初期閾値)を超える2つ以上の照射強度でパルスレーザー光PLを照射したり、低強度照射段階E2で、照射強度が漸減するようにパルスレーザー光PLを照射するといったパルスレーザー光PLの照射パターンを選択することもできる。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0039】
図5に、閾値(初期閾値)の測定方法の一例を示す。
例えば、フルーエンスFを異なるようにして照射した加工痕の直径Dを測定する(図5左側)。そして、D^2をlogFに対してプロットし(図5右側)、x軸の切片がフルーエンスの閾値Fthに対するlogFthの値となる。
【0040】
次に、照射パターンの機械学習の実施例を説明する。
図6は、深層学習による加工形状の予測の説明図である。
任意の照射パターンの高速強度変調による加工形状を、機械学習(深層学習)で予測する。例えば、5ショット単位で照射強度を一様乱数で10回変調した合計50ショットのパルスレーザー光を照射する。この照射(乱数によって照射強度は毎回異なる)を1000回程度繰り返し、レーザー共焦点顕微鏡を用いて加工痕(孔)の3次元形状を測定し、20×20=400ピクセルの深さデータを1000個程度収集する。
【0041】
図7は、被加工物として石英(シリカ)を用いた場合の深層学習の結果の一例を示す模式図である。
図8は、被加工物として銅を用いた場合の深層学習の結果の一例を示す模式図である。
1000個程度のデータの30%をテスト用のデータとして除外して、残りの70%を機械学習の訓練データとして用いる。10回の強度パターン列(10次元データ)を入力、加工によって得られる3次元形状(400次元データ)を出力として、訓練データに対し機械学習を実行する。
【0042】
K分割交差検証の手法を用いて、訓練データをさらに4つに分割(K=4)して、そのうちの1つを検証データとして用いる。検証データをもとに予測の平均誤差を極小にする最適な学習のエポック数を求めた後、そのエポック数ですべての訓練データに対して機械学習を実行する。その後、テストデータで検証することにより、学習モデルの予測精度が分かる。照射強度パターンから3次元形状を予測することにより、良好な加工形状を持つ最適なパルスレーザー光PLの照射パターンを生成することができる。
【0043】
図1に示す本実施形態のレーザー加工装置10を用いて、本発明の効果を検証した。
(本発明例:step)
初期フルーエンスを4.6(J/cm)に設定して、初期閾値よりも高い照射強度で25ショットのパルスレーザー光を石英板(試料)に向けて照射した(高強度照射段階E1)。この時点で、石英板の表面が破壊され、破壊強度が低下している。その後、初期閾値よりも低い照射フルーエンス(1.2(J/cm))で25ショットのパルスレーザー光を石英板(試料)に向けて照射した(低強度照射段階E2)。
【0044】
(比較例:const)
フルーエンスを2.6(J/cm)に設定して、一定の照射強度で50ショットのパルスレーザー光を石英板(試料)に向けて照射した。
本発明例と比較例のそれぞれの試料の加工部分を観察した。この結果を顕微鏡写真として図9に示す。
【0045】
図9に示す結果によれば、パルスレーザー光の照射エネルギーの総和は、本発明例と比較例とで同じにもかかわらず、パルスレーザー光の照射強度を2段階にした本発明例では、試料表面のクラックが少なく、欠陥の発生の少ない孔加工が実現できていることが確認された。
【0046】
一方、パルスレーザー光の照射強度を変えずにパルスレーザー光を照射した比較例では、試料表面にクラックが発生し、欠陥の発生が多くなった。よって、本発明の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のレーザー加工装置、レーザー加工方法によれば、被加工物をパルスレーザー光で加工する際に、チッピングやクラックといった表面欠陥の発生を抑制することができる。よって、例えば、半導体の精密な微細加工や、脆性材料の欠陥の無い加工の実現に寄与する。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0048】
10…レーザー加工装置
11…本体部
12…制御部
21…レーザー光源部
22…ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9