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特開2024-95549反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095549
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 85/00 20060101AFI20240703BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20240703BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08G85/00
C08G65/336
C08F8/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202709
(22)【出願日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2022212529
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホ イング フ サムエル
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康介
(72)【発明者】
【氏名】砂山 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】永縄 友規
(72)【発明者】
【氏名】郭 海卿
【テーマコード(参考)】
4J005
4J031
4J100
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005BD08
4J031CD26
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL05R
4J100BA77H
4J100CA31
4J100HA61
4J100HC00
4J100HC69
4J100HC72
4J100HC79
4J100HC88
4J100HC90
4J100HC91
4J100HE14
4J100HE41
4J100JA03
4J100JA44
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】シリル化剤を用いて不飽和基含有有機重合体のヒドロシリル化反応を行ったときに、従来の方法よりもヒドロシリル化反応をより促進可能な反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法の提供。
【解決手段】第8族金属触媒、及びシクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドの存在下で、不飽和基含有有機重合体とシリル化剤とを反応させる、下式(1)で表される反応性ケイ素基を有する、反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
-SiR3-a 式(1)
[式(1)中、Rは、炭素数が1~20個の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基、ハロゲン原子、又は加水分解性基を示す。aは0~2の整数である。aが2の場合、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、aが0又は1の場合、Xは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第8族金属触媒、及びシクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドの存在下で、不飽和基含有有機重合体とシリル化剤とを反応させる、下式(1)で表される反応性ケイ素基を有する反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
-SiR3-a 式(1)
[式(1)中、Rは、炭素数が1~20個の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基、ハロゲン原子、又は加水分解性基を示す。aは0~2の整数である。aが2の場合、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、aが0又は1の場合、Xは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記第8族金属触媒が、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を有する、請求項1に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【請求項3】
前記シクロアルカジエン構造を有する化合物は、環を構成する炭素数が6~10個であり、置換基として炭素数が1~4個のアルキル基を有してもよい、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【請求項4】
前記飽和スルフィドは、下式(2)で表される鎖状の飽和スルフィド、又は下式(3)で表される環状の飽和スルフィドである、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数が1~10個のアルキル基を示す。式(3)中、Qは、二つの炭素原子間に-O-、-S-、及び-NH―のいずれかを1つ有してもよい、炭素数が3~5個のアルキレン基を示す。]
-S-R 式(2)
【化1】
【請求項5】
前記飽和スルフィドの使用量は、不飽和基含有重合体の不飽和基1molに対して0.1~50mol%である、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【請求項6】
前記飽和スルフィドの使用量は、前記シクロアルカジエン構造を有する化合物1molに対して0.1~50molである、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【請求項7】
前記反応性ケイ素基含有有機重合体がオキシアルキレン単量体に基づく単位を有する重合体である、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【請求項8】
前記反応性ケイ素基含有有機重合体がアクリル酸アルキルエステル単量体、又はメタクリル酸アルキルエステル単量体に基づく単位を有する重合体である、請求項1又は2に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性ケイ素基を有する重合体は、室温においても、湿分等による反応性ケイ素基の加水分解反応等を伴うシロキサン結合の形成によって架橋し、ゴム状の硬化物が得られるという性質を有することが知られている。
【0003】
これらの反応性ケイ素基を有する重合体の中で、オキシアルキレン重合体、飽和炭化水素重合体、アクリル酸アルキルエステル重合体、及びメタクリル酸アルキルエステル重合体は、既に工業的に生産され、シーリング材、接着剤、塗料等の用途に広く使用されている。反応性ケイ素基を有する重合体は、重合体同士のシラノール縮合反応により高分子量化して架橋体を形成する。
【0004】
反応性ケイ素基を有する重合体は、例えば末端基として不飽和基を有する重合体を製造した後、シリル化剤を用いてヒドロシリル化することにより製造されている。しかしながら、ヒドロシリル化反応は多くの副反応を伴い、末端基の全てに反応性ケイ素基が導入されず、末端基中の反応性ケイ素基の割合であるシリル化率が低下してしまうという問題がある。そのため、ヒドロシリル化反応の促進はこれまでも検討されており、ヒドロシリル化反応で使用する第8族金属触媒にシクロアルカジエンや硫黄化合物を加えることで、シリル化率が向上することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9―216890号公報
【特許文献2】特開平11―80167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2におけるヒドロシリル化反応の促進効果は充分では無く、さらに向上させることが求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、シリル化剤を用いて不飽和基含有有機重合体のヒドロシリル化反応を行ったときに、従来の方法よりもヒドロシリル化反応をより促進可能な反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[6]である。
[1]第8族金属触媒、及びシクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィド化合物の存在下で、不飽和基含有有機重合体とシリル化剤とを反応させる、下式(1)で表される反応性ケイ素基を有する反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
-SiR3-a 式(1)
[式(1)中、Rは、炭素数が1~20個の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基、ハロゲン原子、又は加水分解性基を示す。aは0~2の整数である。aが2の場合、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、aが0又は1の場合、Xは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
[2]前記第8族金属触媒が、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を有する、[1]に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[3]前記シクロアルカジエン構造を有する化合物は、環を構成する炭素数が6~10個であり、置換基として炭素数が1~4個のアルキル基を有してもよい、[1]又は[2]に記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[4]前記飽和スルフィドは下式(2)で表される鎖状の飽和スルフィド、又は下式(3)で表される環状の飽和スルフィドである、[1]~[3]のいずれかに記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数が1~10個のアルキル基を示す。式(3)中、Qは、二つの炭素原子間に-O-、-S-、及び-NH-のいずれかを1つ有してもよい、炭素数が3~5個のアルキレン基を示す。]
-S-R 式(2)
【化1】
[5]前記飽和スルフィドの使用量は、不飽和基含有重合体の不飽和基1molに対して0.1~50mol%である、[1]~[4]のいずれかに記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[6]前記飽和スルフィドの使用量は、前記シクロアルカジエン構造を有する化合物1molに対して0.1~50molである、[1]~[5]のいずれかに記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[7]前記反応性ケイ素基含有有機重合体がオキシアルキレン単量体に基づく単位を有する重合体である、[1]~[6]のいずれかに記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
[8]前記反応性ケイ素基含有有機重合体がアクリル酸アルキルエステル単量体、又はメタクリル酸アルキルエステル単量体に基づく単位を有する重合体である、[1]~[6]のいずれかに記載の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリル化剤を用いて不飽和基含有有機重合体のヒドロシリル化反応を行ったときに、従来の方法よりもヒドロシリル化反応をより促進可能な反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書における用語の意味及び定義は以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
重合体を構成する「単位」とは単量体の重合により直接形成された原子団を意味する。
「オキシアルキレン重合体」は、主鎖と末端基からなる重合体である。オキシアルキレン重合体における「主鎖」は、開始剤の残基と、オキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位(ポリオキシアルキレン鎖)を含む。オキシアルキレン重合体における「末端基」は、前記ポリオキシアルキレン鎖中の酸素原子のうち、分子末端に最も近い酸素原子を含む原子団を意味する。但し、原子団が開始剤の残基を含む場合は、末端基とはみなさない。
「(メタ)アクリル酸エステル重合体」とは、アクリル酸アルキルエステル単量体に基づく繰り返し単位から形成される重合鎖及びメタクリル酸アルキルエステル単量体に基づく繰り返し単位から形成される重合鎖の一方又は両方を有する重合体を意味する。
「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の一方又は両方を意味する。
「不飽和基」とは、分子末端にある炭素-炭素2重結合又は、炭素-炭素3重結合を含む1価の基を意味する。
「USV」は、重合体の不飽和基価を表し、不飽和基価測定法(Wijs法)に準拠して、測定することができる。不飽和基価は重合体中の炭素-炭素2重結合又は、炭素-炭素3重結合の割合を示す。
【0010】
「シリル化率」は、NMR分析によって測定でき、下式によって求められる。
【数1】
【0011】
本明細書における数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)とは、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用し、分子量既知のポリスチレン重合体を用いて検量線を作成して測定した、ポリスチレン換算分子量である。分子量分布(Mw/Mn)は、Mnに対するMwの比率である。
【0012】
≪反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法≫
本実施形態の反応性ケイ素基含有有機重合体の製造方法は、第8族金属触媒、及びシクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドの存在下で、不飽和基含有有機重合体とシリル化剤とを反応させる。
反応性ケイ素基含有有機重合体は、後述の式(1)で表される反応性ケイ素基を含む。
【0013】
<不飽和基含有有機重合体>
不飽和基含有有機重合体としては、例えば不飽和基含有オキシアルキレン重合体、不飽和基含有ビニル系重合体を挙げることができ、硬化物の伸び物性が良好になるため、不飽和基含有オキシアルキレン重合体が好ましい。
不飽和基含有ビニル系重合体としては、不飽和基含有ポリオレフィン系重合体、不飽和基含有水添ポリオレフィン系重合体などの炭化水素系重合体、不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、不飽和基含有ポリエステル系重合体などが挙げられる。中でも硬化物の耐候性が優れるため、不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体が好ましい。
【0014】
不飽和基含有有機重合体のMnは500~200,000が好ましく、Mw/Mnは1.80以下が好ましい。不飽和基含有有機重合体の1分子中の不飽和基の数としては、1.0~8.0個が好ましく、1.0~6.0個がより好ましい。
【0015】
(不飽和基含有オキシアルキレン重合体)
不飽和基含有オキシアルキレン重合体は、不飽和基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位を有する重合体である。不飽和基含有オキシアルキレン重合体は主鎖と末端基からなり、主鎖は開始剤の残基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位を有し、末端基は不飽和基を有する。主鎖は開始剤の残基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位からなり、末端基は酸素原子及び不飽和基を有することが好ましい。オキシアルキレン単量体としては、エチレンオキシド単量体、プロピレンオキシド単量体、ブチレンオキシド単量体、テトラメチレンオキシド単量体が挙げられる。プロピレンオキシド単量体が好ましい。不飽和基含有オキシアルキレン重合体の主鎖中のポリオキシアルキレン鎖が2種以上のオキシアルキレン単量体の共重合鎖である場合、ブロック重合鎖でもよくランダム重合鎖でもよい。
【0016】
不飽和基含有オキシアルキレン重合体の1分子中の末端基の数は、1~8個が好ましく、1~6個がより好ましい。
不飽和基含有オキシアルキレン重合体の1分子あたりの不飽和基の数は、1.0~8.0個が好ましく、1.0~6.0個がより好ましい。
不飽和基含有オキシアルキレン重合体の1つの末端基あたりの不飽和基の数は、0.5~4.0個が好ましく、0.6~2.0個がより好ましい。
不飽和基含有オキシアルキレン重合体のMnは、2,000~100,000が好ましく、5,000~50,000がより好ましい。
不飽和基含有オキシアルキレン重合体のMw/Mnは1.80以下が好ましい。1.50以下がより好ましく、1.40以下がさらに好ましく、1.20以下が特に好ましい。
【0017】
(不飽和基含有オキシアルキレン重合体の製造方法)
不飽和基含有オキシアルキレン重合体の製造方法は従来公知の方法を用いることができ、開始剤に1種以上のオキシアルキレン単量体を開環付加重合して得られた重合体の末端基の水酸基をアルケニルオキシ基又はアルキニルオキシ基に変換して製造することができる。重合に必要な開始剤などの副資材についても従来公知のものを用いることができ、反応温度や反応圧力などの反応条件も適宜選択できる。
開始剤に1種以上のオキシアルキレン単量体を開環付加重合させる際の開環重合触媒としては、従来公知の触媒を用いることができ、例えば、KOHのようなアルカリ触媒、有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる錯体のような金属化合物-ポルフィリン錯体触媒、複合金属シアン化物錯体触媒、ホスファゼン化合物からなる触媒が挙げられる。
重合体の分子量分布を狭くすることができ、粘度の低い硬化性組成物が得られやすい点から複合金属シアン化物錯体触媒が好ましい。複合金属シアン化物錯体触媒は、従来公知の化合物を用いることができ、複合金属シアン化物錯体を用いた重合体の製造方法も公知の方法を採用できる。例えば、国際公開公報第2003/062301号、国際公開公報第2004/067633号、特開2004-269776号公報、特開2005-15786号公報、国際公開公報第2013/065802号、特開2015-010162号公報に開示される化合物及び製造方法を用いることができる。
重合体の末端基の水酸基をアルケニルオキシ基又はアルキニルオキシ基に変換する方法としては、重合体にアルカリ金属塩を作用させた後、炭素-炭素2重結合を有するハロゲン化炭化水素化合物を反応させる方法、不飽和基を有するエポキシ化合物を反応させ、アルカリ金属塩を作用させた後、不飽和基を有するハロゲン化炭化水素化合物を反応させる方法、又は、重合体にアルカリ金属塩を作用させた後、炭素-炭素3重結合を有するハロゲン化炭化水素化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0018】
(不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体)
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、不飽和基、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に基づく繰り返し単位を有する重合体である。不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なその他の単量体に基づく繰り返し単位を有していてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する単量体としては、例えば、特開平11-130931号公報に記載される、従来公知の単量体を用いることができる。
【0019】
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する全単量体単位に対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に基づく単位の含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の1分子あたりの不飽和基の数は、1.0~8.0個が好ましく、1.0~6.0個がより好ましい。
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体のMnは、500~100,000が好ましく、1,000~80,000がより好ましい。
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体のMw/Mnは、1.80以下が好ましく、1.50以下がより好ましく、1.40以下がさらに好ましい。
【0020】
(不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法)
不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法は従来公知の方法を用いることが出来る。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、不飽和基を有する化合物を重合する方法や、リビングラジカル重合法を用い、重合反応の終期にアルケニル基を2個有する化合物を反応させる方法などが挙げられる。特に、任意の分子量を有し、分子量分布が狭く、低粘度の重合体が得られることから、リビングラジカル重合法が好ましい。
リビングラジカル重合法として、例えば、有機ハロゲン化物、又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属錯体を触媒として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合する原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP法)が挙げられる。原子移動ラジカル重合(ATRP法)として、特開平11-130931号公報に記載の従来公知の重合方法で重合できる。不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、原子移動ラジカル重合(ATRP法)により、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合させた後に、例えば1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエンなどのようなアルケニル基を少なくとも2個有する化合物を反応させることで、不飽和基を導入する方法で得られる。ATRP法により得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体における「末端基」は、(メタ)アクリル酸エステル重合体の鎖中の炭素原子のうち、分子末端に最も近い炭素原子を含む原子団を指し、原子団が開始剤の残基を含む場合は、末端基とはみなさない。
【0021】
<シリル化剤>
シリル化剤は、不飽和基と反応して結合を形成し得る基(例えばスルファニル基)及び後述の式(1)で表される反応性ケイ素基の両方を有する化合物、ヒドロシラン化合物(例えばHSiR3-a、R、X、aの定義は、後述の式(1)と同じである。)が例示できる。
【0022】
(反応性ケイ素基)
反応性ケイ素基は、ケイ素原子に結合した加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成して架橋し得る。シロキサン結合を形成する反応は硬化触媒によって促進される。反応性ケイ素基は下式(1)で表される。
-SiR3-a 式(1)
[式(1)中、Rは、炭素数が1~20個の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基、ハロゲン原子、又は加水分解性基を示す。aは0~2の整数である。aが2の場合、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、aが0又は1の場合、Xは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
前記式(1)において、Rは、炭素数が1~20個の炭化水素基及びトリオルガノシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、α-クロロアルキル基及びトリオルガノシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。炭素数1~4の直鎖又は分岐のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、α-クロロメチル基、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基及びトリフェニルシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。反応性ケイ素基を有する重合体の硬化性と硬化性組成物の安定性が良い点からメチル基又はエチル基が好ましい。硬化物の硬化速度が速い点からα-クロロメチル基が好ましい。容易に入手できる点からメチル基が特に好ましい。
【0024】
前記式(1)において、Xは、ハロゲン原子、水酸基又は加水分解性基を示す。Xは互いに同一でも異なっていてもよい。
加水分解性基としては、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、スルファニル基、アルケニルオキシ基が例示できる。
加水分解性が穏やかで取扱いやすい点からアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。アルコキシ基がメトキシ基又はエトキシ基であると、シロキサン結合を速やかに形成し硬化物中に架橋構造を形成しやすく、硬化物の伸び物性が良好となりやすい。
【0025】
前記式(1)において、aは0~2の整数である。aが2の場合、Rは互いに同一でも異なってもよい。aが0又は1の場合、Xは互いに同一でも異なってもよい。硬化物の伸び物性が優れたものとなりやすいため、aは0又は1が好ましく、aは1であることがより好ましい。
【0026】
前記式(1)で表される反応性ケイ素基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリス(2-プロペニルオキシ)シリル基、トリアセトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジメトキシエチルシリル基、ジエトキシエチルシリル基、メチルジイソプロポキシシリル基、(α-クロロメチル)ジメトキシシリル基、(α-クロロメチル)ジエトキシシリル基が例示できる。活性が高く良好な硬化性が得られる点から、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基が好ましく、ジメトキシメチルシリル基及びトリメトキシシリル基がより好ましい。
シリル化剤の具体例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリス(2-プロペニルオキシ)シラン、トリアセトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシエチルシラン、ジエトキシエチルシラン、ジイソプロポキシメチルシラン、(α-クロロメチル)ジメトキシシラン、(α-クロロメチル)ジエトキシシランが例示できる。活性が高く良好な硬化性が得られる点から、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシランが好ましく、ジメトキシメチルシラン又はトリメトキシシランがより好ましい。
【0027】
例えばジメトキシメチルシランを用いて、不飽和基含有有機重合体のヒドロシリル化を行った場合には、ジメトキシメチルシリル基(反応性ケイ素基の一種)を有する重合体を得ることができる。反応性ケイ素基を有する重合体は、空気中の湿分等によるシリル基の加水分解反応、及びそれに続く他の重合体分子とのシラノール縮合反応により架橋体を与える。
【0028】
不飽和基含有有機重合体の不飽和基が炭素-炭素2重結合の場合、シリル化剤の使用量は不飽和基1molに対して1~20molが好ましく、1~10molがより好ましく、1~2molが特に好ましい。不飽和基含有有機重合体の不飽和基が炭素-炭素3重結合の場合、シリル化剤の使用量は不飽和基1molに対して2~40molが好ましく、2~20molがより好ましく、2~4molが特に好ましい。上限値以下であると、コストが低減されること、反応後にシリル化剤を除去する操作が簡易になることから好ましい。下限値以上であると、シリル化率がより向上するため、好ましい。
【0029】
<第8族金属触媒>
第8族金属触媒とは、短周期型周期表における第8族の金属を有する触媒である。第8族の金属としてはコバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましく、ルテニウム、パラジウム、プラチナ(白金)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であることがより好ましく、プラチナ(白金)がさらに好ましい。第8族金属触媒としては、第8族の金属の単体、第8族の金属を担体に担持させた担持体、金属塩あるいは有機化合物との錯体であることが好ましい。具体的には、白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラックなどの担体に固体白金を担持させた担体上の白金金属、アルコール、アルデヒド、ケトン等を配位子とする塩化白金酸の錯体又は塩化白金酸の錯体、白金-オレフィン錯体[例えばPt(CH=CH(PPh)、Pt(CH=CHCl]、白金-アセチルアセトナート錯体[Pt(C]、白金-ビニルシロキサン錯体[Pt{(vinyl)MeSiOSiMe(vinyl)}、Pt{Me(vinyl)SiO}]、白金-ホスフィン錯体[Ph(PPh、Pt(PBu]、白金-ホスファイト錯体[Pt{P(OPh)]等の白金錯体が好ましい。
【0030】
これらの第8族金属触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金-アセチルアセトナート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体は、反応活性が高いため好ましい。ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物及び白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体溶液が好ましい。
第8族金属触媒の使用量は特に制限はないが、不飽和基含有有機重合体に対して第8族金属触媒の使用量は、1.0~20質量ppmが好ましく、1.5~10質量ppmがより好ましい。第8族金属触媒の使用量が上記範囲の下限値以上であると、ヒドロシリル化反応が充分に進行しやすく、上記範囲の上限値以下であるとコスト面で好ましい。
【0031】
<シクロアルカジエン構造を有する化合物>
シクロアルカジエン構造を有する化合物(以下「S1」ともいう)は、炭素原子で環を構成し、環構造の中に炭素-炭素2重結合を2つ有する化合物である。シクロアルカジエン構造を有する化合物の、環を構成する炭素数は6~10個が好ましく、8~10個がより好ましく、8個がさらに好ましい。また、シクロアルカジエン構造を有する化合物は、置換基を有してもよく、置換基を有する場合、置換基は直鎖又は分岐の炭素数1~4個のアルキル基が好ましく、直鎖の炭素数1~4個のアルキル基がより好ましい。
シクロアルカジエン構造を有する化合物として、例えば、シクロヘキサジエン、シクロへプタジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、シクロデカジエンが挙げられる。中でも1,5-シクロオクタジエン、1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエンが好ましい。
【0032】
シクロアルカジエン構造を有する化合物の使用量は、不飽和基含有重合体の不飽和基1molに対して0.1~50mol%が好ましく、0.1~20mol%がより好ましく、5~20mol%がさらに好ましい。この範囲の下限値以上であると、シリル化率がより向上する。この範囲の上限値以下であると、反応性ケイ素基含有有機重合体の増粘が抑えられる。
【0033】
<飽和スルフィド>
飽和スルフィド(以下「S2」ともいう)は2価の硫黄が不飽和基を有しない2個の有機基で置換された有機化合物である。飽和スルフィドとしては、鎖状又は環状の飽和スルフィドが挙げられ、鎖状の飽和スルフィドがより好ましい。前記鎖状の飽和スルフィドとしては下式(2)で表される飽和スルフィドが好ましい。
-S-R 式(2)
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数が1~10個のアルキル基を示す。]
【0034】
及びRは、それぞれ独立に炭素数が1~10個の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましく、炭素数が1~6個の直鎖又は分岐のアルキル基がより好ましい。鎖状の飽和スルフィドとして、例えば、メチルスルフィド、エチルスルフィド、イソプロピルメチルスルフィド、tert-ブチルメチルスルフィドが挙げられ、好ましくはメチルスルフィド、エチルスルフィド、イソプロピルメチルスルフィド、tert-ブチルメチルスルフィドが挙げられる。
【0035】
前記環状の飽和スルフィドとしては下式(3)で表される飽和スルフィドが好ましい。
【0036】
【化2】
【0037】
式(3)中、Qは、二つの炭素原子間に-O-、-S-、及び-NH-のいずれかを1つ有してもよい、炭素数が3~5個のアルキレン基を示す。
【0038】
Qは、二つの炭素原子間に-O-、-S-、及び-NH-のいずれかを1つ有してもよい、炭素数が3~5個のアルキレン基が好ましい。
【0039】
環状の飽和スルフィドとして、例えば、ペンタメチレンスルフィド、1,4-チオキサン、1,3-ジチオラン、チオモルホリンが挙げられる。
【0040】
飽和スルフィド(S2)の使用量は、不飽和基含有重合体の不飽和基1molに対して0.1~50mol%が好ましく、0.1~20mol%がより好ましく、5~20mol%がさらに好ましい。この範囲の下限値以上であると、シリル化率がより向上する。この範囲の上限値以下であると、増粘が抑えられる。
飽和スルフィド(S2)の使用量は、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)1molに対して0.1~50molが好ましく、0.5~5molがより好ましい。この範囲の下限値以上、上限値以下であると、シリル化率がより向上する。
【0041】
<その他の助触媒>
上記式シクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドは助触媒として機能していると考えられる。本発明の製造方法においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の助触媒を併用してもよい。
その他の助触媒としては、アルコール、カルボン酸、リン酸などが挙げられる。
【0042】
<溶媒>
第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、及び飽和スルフィドを種々の溶媒に溶解し希釈することにより、第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、及び飽和スルフィドを安定化し、取扱を容易にすることが好ましい。好ましい溶媒として、例えば、へプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素化合物、アルコール、グリコール類、エーテル類、エステル類,ケトン類、ニトリル類、アミド類等を挙げることができる。中でもアルコール、ケトン類、ニトリル類、アミド類が好ましく、イソプロピルアルコール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリルがより好ましい。第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、及び飽和スルフィドは2種以上の溶媒に希釈されていても良い。
【0043】
<第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、飽和スルフィド、及びシリル化剤の添加方法>
ヒドロシリル化反応の際の第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、飽和スルフィド、及びシリル化剤の添加の順番等の添加方法に関して、特に限定は無いが、好ましい方法として、以下に例示する。
第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、及び飽和スルフィドを前記溶媒に溶解したものをプレミックスとして、予め第8族金属触媒のコロイド粒子を形成させて、不飽和基含有有機重合体を含む反応液中に添加した後に、シリル化剤を添加してヒドロシリル化する方法、又は各々反応液中に添加した後に、シリル化剤を添加してヒドロシリル化する方法が挙げられる。第8族金属触媒のコロイド粒子を予め形成することにより、金属触媒の分散性が向上し、ヒドロシリル化反応を促進しやすいため、プレミックスを反応液中に添加することが好ましい。
【0044】
<反応条件>
ヒドロシリル化反応は無溶媒系でも、溶媒存在下でも行うことができる。不飽和基含有有機重合体が固体あるいは高粘度の液体である場合には、反応液の粘度を低下させるために溶媒を用いることが好ましい。ヒドロシリル化反応の溶媒に特に限定はないが、第8族金属触媒、シクロアルカジエン構造を有する化合物、及び飽和スルフィドを種々の溶媒に溶解するための好ましい溶媒として、上記した溶媒が挙げられる。
【0045】
ヒドロシリル化反応を行う際の反応器気相部は、窒素やヘリウムなどの不活性ガスのみから成ってもよいし、酸素等が存在してもよい。
【0046】
気相部に酸素を導入する場合には、反応溶媒の酸化を抑える観点から、酸化防止剤の存在下でヒドロシリル化反応を行うことができる。酸化防止剤としては、特に限定されないが、ラジカル連鎖禁止剤の機能を有するフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を用いることができる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、テトラキス{メチレン-3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタンなどを用いることができる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル-β-ナフチルアミン、α-ナフチルアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミンなどを用いることが出来る。
【0047】
ヒドロシリル化反応の反応温度は、40~150℃が好ましく、40~100℃がより好ましい。反応温度が前記範囲内にあると、ヒドロシリル化反応が促進する。
【0048】
[作用機序]
ヒドロシリル化反応では、Chalk-Harrod機構と異性化機構が知られている。シクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドはどちらも第8族金属触媒に配位するが、その機構が異なると考えられる。シクロアルカジエン構造を有する化合物は、0価の第8族金属触媒へ配位しやすく、飽和スルフィドは0価に加え、2価の第8族金属触媒にも配位する。Chalk-Harrod機構では、0価の第8族金属触媒にハイドロシランが酸化付加して2価の第8族金属触媒に変化する。そして、シクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドが0価と2価の第8族金属触媒にそれぞれ配位することで、第8族金属触媒同士の凝集を阻害する。第8族金属触媒同士が凝集することで促進される異性化機構が抑制されることで、ヒドロシリル化反応がより促進すると考えられる。
【0049】
≪反応性ケイ素基含有有機重合体≫
本発明の製造方法によって得られる反応性ケイ素基含有有機重合体の有機重合体の種類、Mn、Mw/Mnに関しては、前記不飽和基含有有機重合体で記載したものと同じであり、好ましい範囲も同じである。
1分子当たりの反応性ケイ素基の数は、0.8~8.0個が好ましく、0.8~6.0個がより好ましい。
また、シリル化率は80~100%が好ましく、82~100%がより好ましい。
以下、本発明の製造方法によって得られる反応性ケイ素基含有有機重合体のうち、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体と反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体について、さらに説明する。
【0050】
<反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体>
本発明の製造方法によって得られる反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体は、反応性ケイ素基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位を有する重合体である。反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体は主鎖と末端基からなり、主鎖は開始剤の残基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位を有し、末端基は反応性ケイ素基を有する。主鎖は開始剤の残基及びオキシアルキレン単量体に基づく繰り返し単位からなることが好ましい。
反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体における、オキシアルキレン単量体、1分子中の末端基の数、Mn、Mw/Mnは、前記不飽和基含有オキシアルキレン重合体で記載したものと同じであり、好ましい範囲も同じである。
反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体の1分子あたりの反応性ケイ素基の数は、0.8~8.0個が好ましく、0.8~6.0個がより好ましい。
反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体の1つの末端基あたりの反応性ケイ素基の数は、0.8~4.0個が好ましく、0.82~2.0個がより好ましい。
【0051】
<反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体>
本発明の製造方法によって得られる反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、反応性ケイ素基及びアクリル酸アルキルエステル単量体又はメタクリル酸アルキルエステル単量体に基づく繰り返し単位を有する重合体である。
反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する単量体、1分子中の末端基の数、Mn、Mw/Mnは、前記不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体で記載したものと同じである。
反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の1分子あたりの反応性ケイ素基の数は、0.8~8.0個が好ましい。
【0052】
≪硬化性組成物≫
硬化性組成物は、本発明の製造方法によって得られる反応性ケイ素基含有有機重合体とその他の必要な成分とを混合して得られる。
硬化性組成物の総質量に対する反応性ケイ素基含有有機重合体の含有割合は、1~50質量%が好ましく、1~45質量%がより好ましく、2~40質量%がさらに好ましい。上記範囲の上限値以下であると、硬化物の強度により優れ、且つ伸び特性がより良好となる。
【0053】
反応性ケイ素基含有有機重合体と共に配合するその他の成分としては、反応性ケイ素基含有有機重合体以外の硬化性化合物、硬化触媒(シラノール縮合触媒)、充填剤(中空体)、可塑剤、チクソ性付与剤(垂れ防止剤)、安定剤、接着性付与剤、物性調整剤、脱水剤、接着性付与樹脂、フィラーなどの補強材、表面改質剤、難燃剤、発泡剤、溶剤、シリケートが例示できる。
その他の成分は、国際公開第2013/180203号、国際公開第2014/192842号、国際公開第2016/002907号、特開2014-88481号公報、特開2015-10162号公報、特開2015-105293号公報、特開2017-039728号公報、特開2017-214541号公報などに記載される従来公知のものを、制限なく組み合わせて用いることができる。各成分は2種類以上を併用してもよい。
【0054】
<用途>
反応性ケイ素基含有有機重合体を含む硬化性組成物の用途としては、接着剤、シーリング材(例えば建築用弾性シーリング材、複層ガラス用シーリング材、ガラス端部の防錆・防水用封止材、太陽電池裏面封止材、建造物用密封材、船舶用密封材、自動車用密封材、道路用密封材)、電気絶縁材料(電線・ケーブル用絶縁被覆材)、が好適である。特に、硬化物の高いモジュラス、良好な引張強度及び伸び物性が要求される接着剤用途に好適である。
【実施例0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0056】
≪測定方法・評価方法≫
<Mn、Mw/Mn>
HLC-8220GPC(東ソー社製品名)、カラムはTSKgel SupermultiporeHZ-M(東ソー社製品名)、溶媒にテトラヒドロフランを用い、サンプルポンプを0.350mL/min、リファレンスポンプを0.350mL/min、検出器の温度を40℃、収集時間を6分~15分に設定し、収集時間6分~11分に現れるピークを解析することにより、Mw、Mn及びMw/Mnを求めた。
【0057】
<オキシアルキレン重合体の水酸基価>
オキシアルキレン重合体中に存在する水酸基価(mgKOH/g)は、JIS K1557:2007に準拠した水酸基価の測定方法で分析した。
【0058】
<不飽和基価の測定方法>
重合体の不飽和基価(以下、USVという。)は、不飽和基価測定法(Wijs法)に準拠して行った。すなわち、重合体(約2g)を三角フラスコに入れ、それを正確に秤量し、クロロホルム40mlを入れて溶解した。ウイス試薬を、20mlホールピペットを用いて正確に量り加えた後、フラスコを冷暗所に1時間放置した。ヨウ化カリウム(2g)を100mlの水に溶かしたヨウ化カリウム水溶液にでんぷん溶液を数滴加えたものをフラスコ中に加えた後、撹拌しながらN/10チオ硫酸ナトリウムを滴下し、フラスコ中の溶液が無色透明になった時点を終点とした。終点により、下記式により不飽和基価を求めた。なお、空試験滴定量は、重合体を加えないクロロホルムを使用して、上記操作を実施した。
不飽和基価(mmol/g)=((空試験滴定量(ml)-試料液滴定量(ml))×チオ硫酸ナトリウム溶液の力価)÷(20×試料(g))
【0059】
<シリル化率>
重合体のシリル化率は、H-NMRの内部標準法から算出した。
表1及び2のオキシアルキレン重合体における1分子あたりの末端基数は開始剤の水酸基数である。
<1分子あたりの反応性ケイ素基の数>
1分子あたりの反応性ケイ素基の数はH-NMRの内部標準法で測定した。
【0060】
<引張特性の評価(ダンベル試験)>
測定対象の硬化性組成物を厚さ2mmのダンベル型枠に充填し、温度23℃、湿度50%で7日間養生し、更に温度50℃、湿度65%で7日間養生した。得られた硬化物(ダンベル試験体)について、テンシロン試験機にて引張速度500mm/分で引張試験を行い、50%伸張した時の応力であるモジュラス(M50、単位:N/mm)、100%伸張した時の応力であるモジュラス(M100、単位:N/mm)、最大点凝集力である引張強度(Tmax、単位:N/mm)、最大点伸び(Emax、単位:%)を測定した。
M50、M100の値が大きいほど硬化物が硬いことを意味し、最大点凝集力の値が大きいほど硬化物の引張強度が高いことを意味し、最大点伸びの値が大きいほど硬化物の伸びが良いことを意味する。
【0061】
≪反応性ケイ素基含有有機重合体の製造例≫
例1~例28が実施例であり、例29~例39が比較例である。
【0062】
(例1:重合体A1)
ポリオキシプロピレングリコールを開始剤とし、触媒として配位子がt-ブチルアルコールの亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体(以下、「TBA-DMC触媒」ともいう。)を用いてプロピレンオキシドを重合し、2つの末端基が水酸基である水酸基含有オキシアルキレン重合体(前駆重合体P1)を得た。得られた前駆重合体P1の水酸基価は6.2mgKOH/gであった。
【0063】
前駆重合体P1の水酸基に対して1.05モル当量のナトリウムメトキシドを添加し、減圧下でメタノールを留去した。前駆重合体P1の水酸基に対して過剰量の塩化アリルを添加して反応させ、減圧下で未反応の塩化アリルを除去した。精製して金属塩を除去し、水酸基をアリルオキシ基に変換した不飽和基含有オキシアルキレン重合体(前駆重合体Q1)を得た。得られた前駆重合体Q1のUSVは0.12mmоl/gであった。
【0064】
白金触媒である白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(Karstedt触媒)のイソプロピルアルコール溶液(白金濃度3質量%)(前駆重合体Q1の1000gに対して212.3ml、白金添加量としては前駆重合体Q1に対して6.4質量ppm)と、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)である1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q1の1000gに対して1.30gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して10mol%%)と、飽和スルフィド(S2)であるメチルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して0.75gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)とを混合した溶液を前駆重合体Q1に添加した。
【0065】
前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して、1.1molのジメトキシメチルシラン(HSiMe(OMe))をシリル化剤として添加し、100℃にて3時間反応させた後、未反応のシリル化剤を減圧下で除去して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A1を得た。得られた重合体A1の1分子あたりの末端基数、1分子あたりの反応性ケイ素基導入数、Mn、Mw/Mn、シリル化率を表1に示す(以下、同様に表1又は2に示す)。
【0066】
(例2:重合体A2)
白金触媒をヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(前駆重合体Q1の1000gに対して13.3mg、白金添加量としては前駆重合体Q1に対して5.0質量ppm)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A2を得た。
【0067】
(例3:重合体A3)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)を1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q1の1000gに対して1.64gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して10mol%)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A3を得た。
【0068】
(例4:重合体A4)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)を1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q1の1000gに対して1.64gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して10mol%)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A4を得た。
【0069】
(例5:重合体A5)
飽和スルフィド(S2)をエチルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して1.09gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A5を得た。
【0070】
(例6:重合体A6)
飽和スルフィド(S2)をエチルメチルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して1.59gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A6を得た。
【0071】
(例7:重合体A7)
飽和スルフィド(S2)をイソプロピルメチルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して1.89gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A7を得た。
【0072】
(例8:重合体A8)
飽和スルフィド(S2)をtert-ブチルメチルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して2.18gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A8を得た。
【0073】
(例9:重合体A9)
飽和スルフィド(S2)をペンタメチレンスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して2.14gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A9を得た。
【0074】
(例10:重合体A10)
飽和スルフィド(S2)を1,4-チオキサン(前駆重合体Q1の1000gに対して2.18gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A10を得た。
【0075】
(例11:重合体A11)
飽和スルフィド(S2)を1,3-ジチオラン(前駆重合体Q1の1000gに対して1.84gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A11を得た。
【0076】
(例12:重合体A12)
飽和スルフィド(S2)をチオモルホリン(前駆重合体Q1の1000gに対して2.16gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A12を得た。
【0077】
(例13:重合体A13)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)の使用量を前駆重合体Q1の1000gに対して0.59gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して4.5mol%に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A13を得た。
【0078】
(例14:重合体A14)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)の使用量を前駆重合体Q1の1000gに対して0.65gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して5mol%に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A14を得た。
【0079】
(例15:重合体A15)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)の使用量を前駆重合体Q1の1000gに対して2.60gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して20mol%に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A15を得た。
【0080】
(例16:重合体A16)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)の使用量を前駆重合体Q1の1000gに対して2.86gで、前駆重合体Q1の不飽和基1molに対して22mol%に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A16を得た。
【0081】
(例17:重合体A17)
飽和スルフィド(S2)の使用量を調整して、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)に対する飽和スルフィド(S2)のモル比(S2)/(S1)を0.4に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A17を得た。
【0082】
(例18:重合体A18)
飽和スルフィド(S2)の使用量を調整して、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)に対する飽和スルフィド(S2)のモル比(S2)/(S1)を0.5に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A18を得た。
【0083】
(例19:重合体A19)
飽和スルフィド(S2)の使用量を調整して、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)に対する飽和スルフィド(S2)のモル比(S2)/(S1)を5.0に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A19を得た。
【0084】
(例20:重合体A20)
飽和スルフィド(S2)の使用量を調整して、シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)に対する飽和スルフィド(S2)のモル比(S2)/(S1)を5.5に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A20を得た。
【0085】
(例21:重合体A21)
シリル化剤をトリメトキシシラン(HSi(OMe))に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A21を得た。
【0086】
(例22:重合体A22)
シリル化剤をジエトキシエチルシラン(HSi(OEt)Et)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A22を得た。
【0087】
(例23:重合体A23)
プロピレンオキシドを重合する量を変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、2つの末端基が水酸基である水酸基含有オキシアルキレン重合体(前駆重合体P2)を得た。得られた前駆重合体P2の水酸基価は7.5mgKOH/gであった。
前駆重合体P2の水酸基に対して、1.15モル当量のナトリウムメトキシドを添加し、減圧下でメタノールを留去した。次いで、前駆重合体P2の水酸基に対して、1.05モル当量のアリルグリシジルエーテルを添加し、130℃で2時間反応させた。さらに、前駆重合体P2の水酸基に対して、0.28モル当量のナトリウムメトキシドを添加し、メタノールを除去した。そして、前駆重合体P2の水酸基に対して、2.10モル当量の塩化アリルを添加し、130℃で2時間反応させ、減圧下で未反応の塩化アリルを除去した。精製して金属塩を除去し、1つの末端基あたり2.0個のアリル基を有する、不飽和基含有オキシアルキレン重合体(前駆重合体Q2)を得た。得られた前駆重合体Q2のUSVは、0.29mmоl/gであった。
白金触媒である白金(0)―1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(Karstedt触媒)のイソプロピルアルコール溶液(白金濃度3質量%)(前駆重合体Q2の1000gに対して212.3ml、白金添加量としては前駆重合体Q2に対して6.4質量ppm)とシクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)である1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q2の1000gに対して3.14gで、前駆重合体Q2の不飽和基1molに対して10mol%)、飽和スルフィド(S2)であるメチルスルフィド(前駆重合体Q2の1000gに対して1.82gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)を混合し、アセトニトリルに溶解させた溶液を前駆重合体Q2に添加した。前駆重合体Q2の不飽和基1molに対して、1.1molのジメトキシメチルシランをシリル化剤として添加し、70℃にて3時間反応させた後、未反応のシリル化剤を減圧下で除去して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A23を得た。
【0088】
(例24:重合体A24)
前駆重合体P2の水酸基に対して1.05モル等量のナトリウムメトキシドを添加し、減圧下でメタノールを留去した。次いで、前駆重合体P2の水酸基に対して過剰量の臭化プロパルギルを反応させ、1つの末端基あたり1.0個のプロパルギル基を有するオキシアルキレン重合体(前駆重合体Q3)を得た。得られた前駆重合体Q3のUSVは、0.29mmоl/gであった。
白金触媒である白金(0)―1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(Karstedt触媒)のイソプロピルアルコール溶液(白金濃度3質量%)(前駆重合体Q3の1000gに対して212.3ml、白金添加量としては前駆重合体Q3に対して6.4質量ppm)とシクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)である1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q3の1000gに対して3.14gで、前駆重合体Q3の不飽和基1molに対して10mol%)、飽和スルフィド(S2)であるメチルスルフィド(前駆重合体Q3の1000gに対して1.82gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)を混合し、アセトニトリルに溶解させた溶液を前駆重合体Q3に添加した。前駆重合体Q3のプロパルギル基1molに対して4.0molのジメトキシメチルシランを添加し、70℃にて3時間反応させた後、未反応のジメトキシメチルシランを減圧下で除去して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A24を得た。
【0089】
(例25:重合体A25)
2Lフラスコに臭化第一銅の8.39g、アセトニトリルの112mLを添加し、窒素気流下70℃で20分間加熱撹拌した。これに2,5-ジブロモアジピン酸ジエチルの17.6g、アクリル酸エチルの130mL、アクリル酸ブチルの720mL、アクリル酸ステアリルの251gを添加し、さらに70℃で40分間加熱撹拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミン(以下、「トリアミン」ともいう。)0.41mLを添加して反応を開始した。引き続き70℃で加熱撹拌を続け、さらにトリアミンの2.05mLを添加した。反応開始から330分後に1,7-オクタジエンの244mL及びトリアミンの4.1mLを添加し、引き続き70℃で加熱撹拌を続け、反応開始から570分後に加熱を停止した。得られた反応溶液をトルエンで希釈してろ過し、ろ液を減圧加熱処理して、末端基としてアルケニル基を有する未精製のアクリル酸エステル重合体を得た。未精製のアクリル酸エステル重合体の、1分子あたりのアルケニル基の数は2.0個であった。
さらに、窒素雰囲気下、2Lフラスコに、未精製のアクリル酸エステル重合体の全量、酢酸カリウムの17.2g、N,N-ジメチルアセトアミドメチル(以下、「DMAc」という。)の700mLを添加し、100℃で10時間加熱撹拌した。反応溶液を減圧加熱してDMAcを除去し、トルエンを添加してろ過した。ろ液を減圧加熱して揮発分を除去した残りを2Lフラスコに添加し、吸着剤(キョーワード500SNとキョーワード700SN(いずれも協和化学工業社製品名)の質量比で1対1の混合物)の100gを添加し、窒素気流下130℃で9時間加熱撹拌した。トルエンで希釈し、ろ過して吸着剤を除去し、ろ液中のトルエンを減圧留去して不飽和基含有アクリル酸エステル重合体(前駆重合体Q4)を得た。
白金触媒である白金(0)―1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(Karstedt触媒)のイソプロピルアルコール溶液(白金濃度3質量%)(前駆重合体Q4の1000gに対して212.3ml、白金添加量としては前駆重合体Q4に対して6.4質量ppm)とシクロアルカジエン構造を有する化合物(S1) である1,5-シクロオクタジエン(前駆重合体Q4の1000gに対して1.38gで、前駆重合体Q4の不飽和基1molに対して10mol%)、飽和スルフィド(S2)であるメチルスルフィド(前駆重合体Q4の1000gに対して0.80gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)を混合し、アセトニトリルに溶解させた溶液を前駆重合体Q4に添加した。前駆重合体Q4の不飽和基1molに対して、1.1molのトリメトキシシランをシリル化剤として添加し、70℃にて3時間反応させた後、未反応のトリメトキシシランを減圧下で除去して、反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である重合体A25を得た。
【0090】
(例26:重合体A26)
開始剤をn-ブチルアルコールに変更した以外は例1において前駆重合体P1を得るのと同様の操作を実施して前駆重合体P3を得た。次いで、前駆重合体P1に代えて前駆重合体P3を用いた以外は、例1において前駆重合体Q1を得るのと同様の操作を実施して、前駆重合体Q5を得た。その後、前駆重合体Q1に代えて前駆重合体Q5を用いた以外は、例1において重合体A1を得るのと同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A26を得た。前駆重合体P3の水酸基価は11.2mgKOH/g、前駆重合体Q5のUSVは0.22mmоl/gであった。
【0091】
(例27:重合体A27)
開始剤をグリセリンに変更した以外は例1において前駆重合体P1を得るのと同様の操作を実施して前駆重合体P4を得た。次いで、前駆重合体P1に代えて前駆重合体P4を用いた以外は、例1において前駆重合体Q1を得るのと同様の操作を実施して、前駆重合体Q6を得た。その後、前駆重合体Q1に代えて前駆重合体Q6を用いた以外は、例1において重合体A1を得るのと同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A27を得た。前駆重合体P4の水酸基価は7.0mgKOH/g、前駆重合体Q6のUSVは0.14mmоl/gであった。
【0092】
(例28:重合体A28)
開始剤をソルビトールに変更した以外は例1において前駆重合体P1を得るのと同様の操作を実施して前駆重合体P5を得た。次いで、前駆重合体P1に代えて前駆重合体P5を用いた以外は、例1において前駆重合体Q1を得るのと同様の操作を実施して、前駆重合体Q7を得た。その後、前駆重合体Q1に代えて前駆重合体Q7を用いた以外は、例1において重合体A1を得るのと同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A28を得た。前駆重合体P5の水酸基価は8.0mgKOH/g、前駆重合体Q7のUSVは0.16mmоl/gであった。
【0093】
(例29:重合体A29)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A29を得た。
【0094】
(例30:重合体A30)
飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A30を得た。
【0095】
(例31:重合体A31)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)を使用しなかった以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A31を得た。
【0096】
(例32:重合体A32)
飽和スルフィド(S2)を飽和スルフィドではないエチルメルカプタン(前駆重合体Q1の1000gに対して0.75gで(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A32を得た。
【0097】
(例33:重合体A33)
飽和スルフィド(S2)を飽和スルフィドではないエチルビニルスルフィド(前駆重合体Q1の1000gに対して1.06gで、(S2)/(S1)のモル比が1.0)に変更した以外は、例1と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A33を得た。
【0098】
(例34:重合体A34)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例23と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A34を得た。
【0099】
(例35:重合体A35)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例24と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A35を得た。
【0100】
(例36:重合体A36)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例25と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A36を得た。
【0101】
(例37:重合体A37)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例26と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A37を得た。
【0102】
(例38:重合体A38)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例27と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A38を得た。
【0103】
(例39:重合体A39)
シクロアルカジエン構造を有する化合物(S1)、飽和スルフィド(S2)を使用しなかった以外は、例28と同様の操作を実施して、反応性ケイ素基含有オキシアルキレン重合体である重合体A39を得た。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
例1~例28に示す通り、第8族金属触媒、及びシクロアルカジエン構造を有する化合物と飽和スルフィドの存在下で、ヒドロシリル化を実施した例では、第8族金属触媒のみでヒドロシリル化した例(例29、例34~例39)より、シリル化率が高くなり、ヒドロシリル化反応が促進された。また、第8族金属触媒の存在下、シクロアルカジエン構造を有する化合物又は飽和スルフィドのどちらか一方の非存在下でヒドロシリル化を実施した例(例30~例33)では、第8族金属触媒のみでヒドロシリル化した例(例29、例34~例39)とほぼ同じであった。
【0108】
≪硬化性組成物の調製例≫
表4~6に示す配合量(質量部)の重合体に、添加剤を添加して硬化性組成物を調製した。表4~6における添加剤D1、D2、D4の配合は、表7、8に示すとおりである。表7、表8に示す各成分の配合量は、重合体の合計100質量部に対する値(単位:質量部)である。また、重合体A1が100質量部に対して、添加剤D3の配合で硬化性組成物を調製した。なお、添加剤D4においては、表7に示す主剤と表8に示す硬化剤を併せて添加した。
【0109】
表7、表8において、添加剤として配合された各成分の内容は以下のとおりである。
白艶化CCR:膠質炭酸カルシウム、白石工業社製品名。
ホワイトンSB:重質炭酸カルシウム、白石工業社製品名。
R820:酸化チタン、石原産業社製品名。
DINP: サンソサイザーDINP、ジイソノニルフタレート、新日本理化社製品名。
DIDP:フタル酸ジイソデシル、三菱ケミカル社製。
PMLS4012:プレミノールS4012、1分子あたり水酸基を2個有し、Mnが13,000である高分子量ポリオール、AGC社製品名。
サンソサイザーEPS:4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸-ジ-2-エチルヘキシル、新日本理化社製品名。
ディスパロン6500:水添ひまし油系チクソ性付与剤、楠本化成社製品名。
ディスパロン305:水添ひまし油系チクソ性付与剤、楠本化成社製品名。
バルーン80GCA:有機バルーン、松本油脂社製品名。
M309:アロニックスM-309:光硬化型樹脂、東亞合成社製品名。
グリセリンモノステアレート:試薬、東京化成工業社製。
KBM-1003:ビニルトリメトキシシラン、信越化学社製品名。
A-171:ビニルトリメトキシシラン、Momentive社製品名。
KBM-403:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製品名。
KBM-603:3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、信越化学社製品名。
A-1120:3-(N-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、Momentive社製品名。
TINUVIN765:3級アミン含有ヒンダードアミン系光安定剤、BASF社製品名。
TINUVIN770:3級アミン含有ヒンダードアミン系光安定剤、BASF社製品名。
サノ―ルLS770:ヒンダートアミン系光安定剤、三共ライフテック社製品名。
IRGANOX1010:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、BASF社製品名。
TINUVIN326:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、BASF社製品名。
TINUVIN327:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、BASF社製品名。
桐油:空気酸化硬化性化合物、木村社製。
DBTDL: ジラウリン酸ジブチル錫。
U-220H:ジブチル錫ビス(アセチルアセテート)、日東化成社製品名。
スタノクト:オクチル酸第一錫、吉富製薬社製品名。
ラウリルアミン:試薬、純正化学社製。
グロマックスLL:焼成カオリン、竹原化学工業社製品名。
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
<硬化性組成物の評価>
得られた硬化性組成物を使用して、引張特性の評価(ダンベル試験)を実施した。結果を表4~6に示す。表4~6中、(M100)で示している値は、M100の値を意味する。
表4、5に示すように、1分子当たりの反応性ケイ素基導入可能数が同じ場合、シリル化率の高い重合体を含む硬化性組成物(参考例1~23、26~28)の方が、シリル化率の低い重合体を含む硬化性組成物(参考例29~39)よりも良好なM50又はM100を示した。
【0116】
また、表6に示すように、M50を同じ値に調製した時に参考例24は、参考例35よりも良好なTmaxとEmaxを示した。また、M50を同じ値に調製した時に参考例25は、参考例36よりも良好なTmaxとEmaxを示した。
【0117】
重合体A1が100質量部に対して、添加剤D3の配合で硬化性組成物を調製した時も良好なM50を示した。