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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095613
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】希土類金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20240703BHJP
   C22B 9/02 20060101ALI20240703BHJP
   C25C 3/34 20060101ALI20240703BHJP
   C25C 3/36 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B9/02
C25C3/34 Z
C25C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220335
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022211781
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「部素材からのレアアース分離精製技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】大石 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】片所 優宇美
(72)【発明者】
【氏名】野平 俊之
(72)【発明者】
【氏名】川口 健次
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏和
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA39
4K058AA14
4K058BA26
4K058BB05
4K058CB06
4K058CB17
4K058CB19
4K058EB13
(57)【要約】
【課題】高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で、希土類金属を回収できる方法を提供する。
【解決手段】溶融塩電解により、回収したい希土類元素を含む液相の合金を作製し、得られた液相の合金をそのまま真空蒸留して希土類金属を回収する。又は、溶融塩電解により、合金化用元素と、回収したい希土類元素とを含む液相の希土類金属合金を作製し、得られた希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させて、希土類元素と蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製し、得られた液相の合金を真空蒸留して希土類金属を回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記蒸留用元素と前記希土類元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法。
【請求項2】
前記蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、鉛、アンチモン、カドミウム、カリウム、リチウム、及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項3】
前記蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金が、電解温度において液相である、請求項1又は2に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項4】
前記蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金が、電解温度において固相である、請求項1又は2に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項5】
希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記合金化用元素と前記希土類元素とを含む液相の希土類金属合金を作製する工程と、
前記希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させて、前記希土類元素と前記蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法。
【請求項6】
前記合金化用元素は、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、スズ、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項7】
前記蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、鉛、アンチモン、カドミウム、カリウム、リチウム、及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項5又は6に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項8】
前記合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金が、電解温度において液相である、請求項5に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項9】
前記合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金が、電解温度において固相である、請求項5に記載の希土類金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属の回収方法に関する。更に詳細には、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で、回収することのできる希土類金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属を回収する方法として、従来から、カルシウム、水素化カルシウム、リチウム等による金属熱還元法が用いられている。金属熱還元法は、例えばテルビウム(Tb)のように鉄等との合金として回収しても産業上の利用価値が低い希土類金属や、サマリウム(Sm)のように電解還元が困難な希土類金属を回収する方法として適している。
【0003】
金属熱還元法による希土類金属の回収としては、例えば、溶融塩(TbF-LiF-BaF)浴中でテルビウムのフッ化物原料と金属カルシウムとを混合し、金属熱還元によりTb金属を得る方法(特許文献1参照)、溶融塩(CaCl)浴中で、カルシウム金属又はナトリウム金属により、希土類元素酸化物を金属熱還元する方法(特許文献2、特許文献3参照)が提案されている。工業的には、希土類元素のフッ化物原料と金属カルシウムとを混合し、金属熱還元により希土類金属を得る方法が広く採用されている。
【0004】
また、希土類金属を回収する別の方法として、溶融塩電解法が提案されている。
溶融塩電解法により、希土類金属を固相で回収することは古くから知られていたが、電解生成物が固相となる場合には、溶融塩と生成物との分離が困難なうえにバッチ式の電解となる。そのため、非特許文献1に記載のように、一般には、電解生成物が液相となる条件で溶融塩電解を実施することが求められている。
【0005】
しかしながら、希土類金属の中でも、例えばテルビウムやジスプロシウムのような高融点の希土類金属を単独で液相として析出させるのは困難である。
そこで、鉄等を消耗性陰極として用い、当該陰極に希土類金属を析出させることで、希土類元素を含む液相の合金を作製し、作製した液相の合金を陰極下方に設置したるつぼに受ける方法が広く採用されている。るつぼ内の液体合金は、電極からは電気的に切り離されているため、電解を継続したまま、電解生成物である希土類元素を含む液相の合金を回収することができ、生産性が高い。
【0006】
鉄等を消耗性陰極として用い、液相となる電解生成物を得る溶融塩電解としては、例えば、酸化テルビウムを原料とし鉄陰極を用いて、溶融塩(LiF-TbFベース)浴中で電解を実施し、Tb-Fe合金を得る方法(特許文献4参照)、溶融塩(TbF-LiF)浴中でTb-Fe陰極を用いることにより、Tb-Fe合金を回収する方法(特許文献5参照)、溶融塩(CaCl)浴中で、陰極として希土類酸化物とFe粉を混合したものを用いて、希土類-Fe合金を得る方法(特許文献6参照)が提案されている。
【0007】
また、溶融塩(LiF-TbFベース)浴中で、Co、Ni、Mn等の金属を陰極として用いた電解により、Co、Ni、Mn等の金属とテルビウムとの液体合金を作製し、テルビウム合金を回収する方法が提案されている(特許文献7参照)。
【0008】
一方、希土類元素を含む合金を作製し、続いて真空蒸留を実施することで、単体の希土類金属を回収する方法も提案されている。例えば、Mgを反応媒体として用い、Mgと、Ndを含む希土類磁石とを直接接触させることで、Ndを抽出してMg-Nd液体合金を形成し、得られたMg-Nd合金を真空蒸留することにより、Mgを除去して金属Ndを回収する方法(非特許文献2参照)、Znをコレクターメタルに、Caを還元剤に用いて、フッ化スカンジウムを還元してSc-Zn合金を形成し、得られたSc-Zn合金を真空蒸留することにより、Znを除去して金属Scを回収する方法(非特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-90410号公報
【特許文献2】特開昭60-30639号公報
【特許文献3】特開昭60-30640号公報
【特許文献4】特開平4-236793号公報
【特許文献5】特開平1-180993号公報
【特許文献6】特表2015-513604号公報
【特許文献7】特開昭62-224692号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】玉村英雄、表面技術 Vol.60 No.8 474-479 (2009)
【非特許文献2】T.H.Okabe,O.Takeda,K.Fukuda and Y.Umetsu, Materials Transactions, 44 798-801 (2003).
【非特許文献3】竹田修、岡部徹、J. MMIJ 137, 36-44 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1~3に記載の金属熱還元法による希土類金属の回収は、バッチ式にならざるを得ず、生産性が低いものであった。また、Ca、Na等の極めて活性な金属を投入原料とし、これを高温処理するため危険性が高く、希土類金属よりもさらに活性な金属を別途用意する必要があるため、理論上も実態としてもエネルギー効率が悪いという問題もあった。
【0012】
溶融塩電解による希土類金属の回収においては、電解生成物を固体として得た場合には、溶融塩との分離が困難であるため、回収した希土類金属の産業への利用は難しい状況であった。そこで、特許文献4~7に記載の方法では、電解生成物を液体として回収するために、Fe、Co、Ni、Mn等の金属を陰極として溶融塩電解を実施し、Fe、Co、Ni、Mn等の金属と希土類元素との液体合金を作製している。
しかし、Fe、Co、Ni、Mnは蒸気圧の低い金属であることから、蒸留等により前記液体合金からこれらの合金元素を除去し、希土類金属を回収することは、極めて困難であった。
【0013】
非特許文献2、3には、希土類元素を含む合金を作製し、続いて真空蒸留を実施することにより、希土類金属を回収する方法が記載されている。しかしながら、非特許文献2に記載の方法は、複数の希土類元素が含まれる磁石を直接処理するものである。このため、希土類元素以外の元素や、回収目的の希土類元素とは異なる希土類元素が不純物として合金中に混入し、目的の希土類金属を十分に相互分離することができず、高性能磁石等の原料に用いるためには更なる精製工程が必要であった。また、非特許文献3に記載の方法は、従来の熱還元法の一形態である。コレクターメタルに亜鉛を用いることで真空蒸留に係るエネルギー消費は改善されるが、活性な金属を用いた高温工程が必要であり、危険性が高く、生産性も悪いものであった。
【0014】
したがって、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で回収することのできる方法は、未だ実現できていない状況であった。
【0015】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で希土類金属を回収することのできる、希土類金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金を陰極に用いた溶融塩電解により、回収したい希土類元素を含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製し、得られた液相の蒸留用希土類金属合金をそのまま真空蒸留すれば、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で、回収することが可能となることを見出した。また、従来と同様の合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金を陰極に用いた溶融塩電解により、回収したい希土類元素を含む液相の合金を作製した後、前記合金に蒸留用元素を接触させて、前記希土類元素と前記蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製し、前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留することによっても、希土類金属を回収し得ることも見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]
希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記蒸留用元素と前記希土類元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法。
[2]
前記蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、鉛、アンチモン、カドミウム、カリウム、リチウム、及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、態様[1]に記載の希土類金属の回収方法。
[3]
前記蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金が、電解温度において液相である、態様[1]又は[2]に記載の希土類金属の回収方法。
[4]
前記蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金が、電解温度において固相である、態様[1]又は[2]に記載の希土類金属の回収方法。
[5]
希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記合金化用元素と前記希土類元素とを含む液相の希土類金属合金を作製する工程と、
前記希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させて、前記希土類元素と前記蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法。
[6]
前記合金化用元素は、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、スズ、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様[5]に記載の希土類金属の回収方法。
[7]
前記蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、鉛、アンチモン、カドミウム、カリウム、リチウム、及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、態様[5]又は[6]に記載の希土類金属の回収方法。
[8]
前記合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金が、電解温度において液相である、態様[5]に記載の希土類金属の回収方法。
[9]
前記合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金が、電解温度において固相である、態様[5]に記載の希土類金属の回収方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る希土類金属の回収方法によれば、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で回収することができる。回収された希土類金属は、真空融解等することにより、インゴットとして得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る希土類金属の回収方法の工程図である。
図2】別の本発明に係る希土類金属の回収方法の工程図である。
図3】本発明の実施例で回収された試料のX線回折測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
≪第一発明≫
本発明に係る一つの希土類金属の回収方法(以下、「第一発明」という。)は、希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記蒸留用元素と前記希土類元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法である。
【0022】
第一発明に係る希土類金属の回収方法の工程を、テルビウム(Tb)の回収を例として図1に示す。第一発明に係る希土類金属の回収方法においては、溶融塩電解により希土類元素と蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製し、続いて、得られた液相の蒸留用希土類金属合金を真空蒸留することにより、希土類金属(図1においてはTb)を回収する。希土類金属を更に真空融解することで、インゴットとしての回収も可能である。
【0023】
従来、希土類金属の回収を溶融塩電解により行う場合には、電解生成物が固体であると、溶融塩との分離が困難であることから、産業利用の上では、液体での回収が有利であった。そして、液体として回収するために、Fe、Co、Ni、Mn等の金属を陰極として用いて溶融塩電解を実施し、Fe、Co、Ni、Mn等の金属と希土類元素との液体合金が作製されていた。
【0024】
Fe、Co、Ni、Mn等の金属と希土類元素との液体合金は、従来、例えば磁石等の原料として、得られた合金のままで利用されてきた。このため、溶融塩電解により得られた希土類金属合金から希土類金属を回収することについては、未だ検討がなされていない状況であった。
【0025】
溶融塩電解により得られた希土類金属合金から希土類金属を回収するために、真空蒸留等の蒸留を実施しようとすると、従来、液体合金化のために用いられてきたFe、Co、Ni、Mnは、蒸気圧の低い金属であることから、これらを除去するためのエネルギーコストは非常に大きいものとなり、希土類金属を回収することは極めて困難であった。表1に、Fe、Co、Ni、Mnの蒸気圧が10Torrになる温度と、融点を示す。表1に示される通り、Fe、Co、Ni、Mnの蒸気圧が10Torrになる温度は非常に高く、これらを希土類元素と分離することは、産業上、非常に困難であることがわかる。
【0026】
したがって、希土類金属を分離して回収するためには、生産性、安全性、及びエネルギー効率の低い金属熱還元法を採用せざるを得なかった。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明は、従来の溶融塩電解法あるいは金属熱還元法によらずに、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で希土類金属を回収できる方法である。
【0029】
<希土類金属>
第一発明に係る希土類金属の回収方法の対象となる希土類金属は、溶融塩電解が可能なものであれば、特に限定されるものではない。希土類金属としては、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。これらの中では、サマリウム、及びユウロピウムは、溶融塩電解に困難性を有するため、リチウムをはじめとした卑な金属と共析させるなどの工夫が必要である。
【0030】
第一発明に係る希土類金属の回収方法は、希土類金属を分離して回収することができる。そのため、従来、液体合金化のために用いられてきたFe、Co、Ni、Mn等との合金の状態では、産業上の利用価値が低かった希土類金属に対して、特に有益な方法となる。Fe、Co、Ni、Mn等との合金では産業上の利用価値が低い希土類金属としては、例えばテルビウムが挙げられ、テルビウムに適用することが特に好ましい。
【0031】
また、第一発明に係る希土類金属の回収方法は、融点の高い希土類金属であっても、液相で合金化させることができ、その後の真空蒸留によって回収することができる。このため、テルビウム以外にも、例えば、融点が1400℃以上のジスプロシウムをはじめとする重希土類金属及び融点が1500℃付近であるスカンジウムやイットリウムであっても、本発明の対象とすることができる。
【0032】
[希土類元素を含む化合物]
第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる希土類元素を含む化合物は、上記した希土類金属が構成元素となっている化合物であれば、特に限定されるものではない。例えば、塩化物、フッ化物等のハロゲン化物、酸化物等が挙げられる。
【0033】
<蒸留用元素>
第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素は、自身と希土類元素との合金化により液相の蒸留用希土類金属合金を形成するとともに、引き続き実施する真空蒸留において、低いエネルギーコストで除かれる元素である。したがって、蒸留用元素は、従来、液体合金化のために用いられてきたFe、Co、Ni、Mn等とは大きく異なる性質を有し、希土類元素と液相の合金が形成できる性質のみでなく、形成した合金から蒸留除去されやすい性質の、両側面を同時に備える。
【0034】
第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ビスマス、鉛、アンチモン、カドミウム、カリウム、リチウム、及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。これらの元素は、希土類元素との合金化が可能であると同時に、比較的低い温度から高い蒸気圧を示すことから、蒸留のために必要となるエネルギーコストを抑制できるとともに、希土類元素との分離が容易となる。
【0035】
更には、第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アンチモン、及びカドミウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。マグネシウム、カルシウム、及びアンチモンは、600℃付近まで単体では固体であり、希土類元素と合金化して液体合金を形成するため、これらを陰極とする場合は従来の溶融塩電解装置を転用でき、実施が容易となる。また、比較的低い温度にて希土類金属を還元することができるため、エネルギーコストを抑制することができる。また、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アンチモン、及びカドミウムは、比較的低い温度から高い蒸気圧を示す金属であるため、真空蒸留において低いエネルギーで希土類金属合金から除去される。
【0036】
第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素は、入手や取り扱い等の観点から、マグネシウム、又は亜鉛であることが特に好ましい。
【0037】
[蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金]
第一発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、上記した蒸留用元素の単体、又は上記した蒸留用元素が構成元素となっている合金であれば、特に限定されるものではない。第一発明に係る希土類金属の回収方法において、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、溶融塩電解の陰極として用いられる。
【0038】
蒸留用元素の単体を用いるか、又は蒸留用元素を含む合金を用いるかは、溶融塩電解の態様に応じて、適宜選択することができる。蒸留用元素を含む合金を用いる場合には、その組成についても適宜選択することができる。
【0039】
(液相)
蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、電解温度において液相であってよい。溶融塩電解の陰極として用いられる蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金が、電解温度において液相である場合には、アルミニウムの電解採取や三層電解のように、電解を継続した状態で蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金の投入、及び生成した蒸留用希土類金属合金の取り出しを行うことが可能となる。また、液相は、一般的に、固相と比べて原子の拡散が速いため、希土類元素の回収速度が大きくなる。更に、希土類元素との反応界面の拡大が容易となることからも、希土類元素の回収速度が大きくなる。
【0040】
(固相)
蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、電解温度において固相であってもよい。蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、溶融塩電解の陰極として用いられるため、電解温度において固相であれば、固体陰極として溶融塩電解を実施することができる。これにより、溶融塩電解の操作を容易なものとすることができる。
【0041】
なお、電解温度において単体が液相である蒸留用元素であっても、予め、希土類元素との合金を作製することで、電解温度において固相である陰極として用いることができる。例えば、蒸留用元素としてビスマス(Bi)を選択した場合に、ビスマス単体の融点は271℃であるが、希土類金属であるテルビウムとの合金であるBiTb(融点:2000℃付近)を予め作製し、これを陰極に用いることで、1000℃以上の電解温度においても固相である陰極とすることができる。
【0042】
<溶融塩電解>
第一発明に係る希土類金属の回収方法においては、溶融塩電解によって、蒸留用元素と希土類元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する。
【0043】
液相の蒸留用希土類金属合金は、電解温度において固相である蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金を陰極とした場合には、陰極下方にるつぼ等を設置して、作製される液相の蒸留用希土類金属合金を当該るつぼに受ける態様とすることができる。るつぼ内に集められた液体の蒸留用希土類金属合金は、陰極から電気的に切り離されているため、溶融塩電解を継続したままで、電解生成物である蒸留用希土類金属合金を連続的に回収することができ、生産性を高いものとすることができる。
【0044】
溶融塩電解の条件は、回収したい希土類金属の種類、希土類元素を含む化合物の種類、溶融塩浴における希土類元素の濃度、溶融塩浴を構成する物質の種類、蒸留用元素の種類、その形態等に応じて、適宜設定することができる。
【0045】
<真空蒸留>
第一発明に係る希土類金属の回収方法においては、真空蒸留によって、蒸留用元素と希土類元素との合金である蒸留用希土類金属合金から蒸留用元素を除去し、希土類金属を回収する。
【0046】
第一発明に係る希土類金属の回収方法に適用される真空蒸留は、特に限定されるものではない。一般に知られている方法を用いることができる。真空蒸留の条件についても、特に限定されるものではなく、回収したい希土類金属の種類、蒸留用元素の種類、蒸留用希土類金属合金の組成等によって、適宜設定することができる。
【0047】
<一実施態様>
第一発明に係る希土類金属の回収方法の一実施態様としては、後述する実施例1、2に示すように、例えば、希土類金属がテルビウムの場合、蒸留用元素としては、マグネシウム又は亜鉛が好ましい。さらに具体的には、テルビウムの塩化物やフッ化物を含む溶融浴を用いて、固体のマグネシウム又は液体の亜鉛を陰極として用いて、溶融塩電解を実施することで液相のMg-Tb合金又はZn-Tb合金を得て、続いてMg-Tb合金又はZn-Tb合金を真空蒸留することで、金属テルビウムを回収する態様が挙げられる。
【0048】
≪第二発明≫
本発明に係る別の希土類金属の回収方法(以下「第二発明」という。)は、希土類元素を含む化合物から希土類金属を回収する希土類金属の回収方法であって、
希土類元素を含む化合物を、合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金を陰極として溶融塩電解し、前記合金化用元素と前記希土類元素とを含む液相の希土類金属合金を作製する工程と、
前記希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させて、前記希土類元素と前記蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製する工程と、
前記蒸留用希土類金属合金を真空蒸留する工程と、
を含む、希土類金属の回収方法である。
【0049】
第二発明に係る希土類金属の回収方法の工程を、テルビウム(Tb)の回収を例として図2に示す。第二発明に係る希土類金属の回収方法においては、溶融塩電解により希土類元素と合金化用元素とを含む液相の希土類金属合金を作製し、続いて、得られた液相の希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させて(図2においては、液-液抽出)液相の蒸留用希土類金属合金を作製し、最後に、得られた蒸留用希土類金属合金を真空蒸留することにより、希土類金属(図2においてはTb)を回収する。希土類金属を更に真空融解することで、インゴットとしての回収も可能である。
【0050】
溶融塩電解により、回収したい希土類元素を含む液相の合金を作製する際には、希土類元素との合金を形成する金属は、電解温度においては固体であり、希土類元素と合金化した際には液体の合金を形成するものが、取り扱いの観点から望ましい。一方で、得られた液相の合金を真空蒸留する際には、比較的低い温度から高い蒸気圧を示す元素であることが望ましい。
【0051】
しかしながら、比較的低い温度から高い蒸気圧を示す元素を高温で保持すると、蒸発による損失が顕著になるため、溶融塩電解を実施する温度を過度に低くしなければならない。電解温度が低いことは、加えるエネルギーを削減できる観点からは望ましいが、電解速度や電解効率は低下するため、結果として生産性の低下を招く。
【0052】
したがって、溶融塩電解において液相の希土類金属合金を作製するための合金化用元素と、真空蒸留において蒸留除去される蒸留用元素とで、異なる元素を選択して、それぞれの工程において優良な特性を発揮する元素を選択することができれば、例えば、溶融塩電解には工業的に確立された方法を採用することができ、最終的な希土類金属の回収効率を向上させることができる。
【0053】
第二発明に係る希土類金属の回収方法は、上記の思想のもと、溶融塩電解において液相の希土類金属合金を作製するための合金化用元素と、真空蒸留において蒸留除去される蒸留用元素とを異なるものとし、溶融塩電解工程と真空蒸留工程との間に、溶融塩電解において得られた希土類金属合金と、真空蒸留に適した蒸留用元素とを接触させ、蒸留用希土類金属合金を作製する蒸留用希土類金属合金の作製工程を備えるものである。
【0054】
<希土類金属>
第二発明に係る回収方法の対象となる希土類金属は、上記の第一発明に係る回収方法の対象となる希土類金属と同様であってよい。
【0055】
[希土類元素を含む化合物]
第二発明に係る回収方法に用いられる希土類元素を含む化合物は、上記の第一発明の回収方法に用いられる希土類元素を含む化合物と同様であってよい。
【0056】
<合金化用元素>
第二発明に係る希土類金属の回収方法においては、溶融塩電解の際に用いられる合金化用元素としては、溶融塩電解を効率よく実施できるものであることが望ましい。
【0057】
合金化用元素は、既存技術として確立されている溶融塩電解において、液相の希土類金属合金が得られる金属を用いることが可能であり、このような金属としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンが公知である。
【0058】
第二発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる合金化用元素は、上記以外に、例えば、クロム、銅、スズを挙げることができる。
【0059】
更には、第二発明に係る回収方法に用いられる合金化用元素は、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの金属は、溶融塩電解の分野において、希土類元素との液体合金を作製できるものとして確立されたものであるため、当該技術をそのまま転用することが可能となる。
【0060】
[合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金]
第二発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金は、上記した合金化用元素の単体、又は上記した合金化用元素が構成元素となっている合金であれば、特に限定されるものではない。合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金は、溶融塩電解において、陰極として用いられる。
【0061】
合金化用元素の単体を用いるか、又は合金化用元素を含む合金を用いるかは、溶融塩電解の態様に応じて、適宜選択することができる。合金化用元素を含む合金を用いる場合には、その組成についても適宜選択することができる。
【0062】
(液相)
合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金は、電解温度において液相であってよい。溶融塩電解の陰極として用いられる合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金が、電解温度において液相である場合には、アルミニウムの電解採取や三層電解のように、電解を継続した状態で合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金の投入、及び生成した液相の希土類金属合金の取り出しを行うことが可能となる。また、液相は、一般的に、固相と比べて原子の拡散が速いため、希土類元素の回収速度が大きくなる。更に、希土類元素との反応界面の拡大が容易となることからも、希土類元素の回収速度が大きくなる。
【0063】
(固相)
合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金は、電解温度において固相であってよい。合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金は、溶融塩電解の陰極として用いられるため、電解温度において固相であれば、合金化用元素を含む固体陰極として溶融塩電解を実施することができる。これにより、溶融塩電解の操作を容易なものとすることができる。
【0064】
<溶融塩電解>
第二発明に係る希土類金属の回収方法に適用される溶融塩電解は、上記の合金化用元素の単体又は合金化用元素を含む合金を陰極として用いる以外は、上記の第一発明に係る回収方法に適用される溶融塩電解と同様であってよい。
【0065】
溶融塩電解の条件は、回収したい希土類金属の種類、希土類元素を含む化合物の種類、溶融塩浴における希土類元素の濃度、溶融塩浴を構成する物質の種類、合金化用元素の種類、その形態等に応じて、適宜設定することができる。
【0066】
<蒸留用元素>
第二発明に係る希土類金属の回収方法に用いられる蒸留用元素は、上記の第一発明に係る回収方法に用いられる蒸留用元素と同様であってよい。
【0067】
第二発明に係る希土類金属の回収方法は、溶融塩電解において液相の希土類金属合金を作製するための合金化用元素と、真空蒸留において蒸留除去される蒸留用元素とを異なるものとし、溶融塩電解と真空蒸留との間に、溶融塩電解において得られた合金化用元素と希土類元素とを含む合金を、真空蒸留に適した蒸留用元素又は蒸留用元素を含む合金と接触させて、合金化用元素を蒸留用元素に置き換えた蒸留用希土類金属合金の作製工程を備える。
【0068】
したがって、第二発明に係る希土類金属の回収方法においては、合金化用元素は、蒸留用希土類金属合金の作製工程において、真空蒸留に適した蒸留用元素に置き換わる。
【0069】
[蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金]
第二発明に係る回収方法に用いられる蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金は、上記の第一発明に係る回収方法に用いられる蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金と同様であってよい。
【0070】
<希土類金属合金と蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金との接触>
第二発明に係る回収方法において、溶融塩電解において得られた合金化用元素と希土類元素との合金と、真空蒸留に適した蒸留用元素とから、蒸留用希土類金属合金を作製するにあたっては、溶融塩電解において作製した希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させる。これにより、希土類元素と蒸留用元素とを含む液相の蒸留用希土類金属合金を作製することができる。
【0071】
溶融塩電解において作製した希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを接触させる方法は、合金化用元素を蒸留用元素に置換できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、溶融塩電解において作製した希土類金属合金と、蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金とを混合して、そのいずれもが液相となる温度まで加熱し、合金化用元素との合金中に存在していた希土類元素を、液相の蒸留用元素の単体又は蒸留用元素を含む合金に、液-液抽出にて取り込む方法が挙げられる。
【0072】
<真空蒸留>
第二発明に係る回収方法に適用される真空蒸留は、上記の第一発明に係る希土類金属の回収方法に適用される真空蒸留と同様であってよい。
【0073】
第二発明に係る回収方法に適用される真空蒸留は、一般に知られている方法を用いることができ、真空蒸留の条件についても、回収したい希土類金属の種類、蒸留用元素の種類、蒸留される希土類金属合金の組成等によって、適宜設定することができる。
【0074】
<一実施態様>
第二発明に係る回収方法の一実施態様としては、後述する実施例3に示すように、例えば、テルビウムのフッ化物を含む溶融浴を用いて、固体の鉄の単体を陰極として溶融塩電解を実施することで液相のFe-Tb合金を得て、続いて、Fe-Tb合金と液体のマグネシウムの単体とを接触させることで液相のMg-Tb合金を得て、更に、Mg-Tb合金を真空蒸留することで、金属テルビウムを回収する態様が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
溶融LiCl-KCl浴中に、TbCl 0.5mol%を添加し、固体のMgを陰極として、Ar雰囲気下、600℃で溶融塩電解を実施した。溶融塩電解によりTbイオンがMg上で還元され、液相のMg-Tb合金が固体のMg陰極上に形成された。
【0077】
得られた液相のMg-Tb合金を冷却後、モリブデン(Mo)製の皿の上に置き、700℃での真空蒸留により、実施例1に係る粉末試料が得られた。大気開放の後、得られた粉末試料についてEDX分析を実施した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
EDX分析の結果、真空蒸留により、Mg-Tb合金からMgが留去されたことがわかる。表2中の酸素原子数濃度の値については後述する。
【0080】
<実施例2>
溶融LiF-CaF-TbF(0.5mol%)浴中にて、液体のZnを陰極として、Ar雰囲気下、850℃で溶融塩電解を実施した。溶融塩電解によりTbイオンがZn上で還元され、液相のZn-Tb合金が得られた。
【0081】
得られた液相のZn-Tb合金を冷却後、モリブデン(Mo)製の皿の上に置き、600℃で真空蒸留し、実施例2に係る粉末試料を得た。大気開放の後、得られた粉末試料についてEDX分析を実施した。結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
EDX分析の結果、真空蒸留により、Zn-Tb合金からZnが留去されたことがわかる。表3中の酸素原子数濃度の値については後述する。
【0084】
<実施例3>
溶融LiF-CaF浴中に、TbF 1.0mol%を添加し、固体のFeを陰極として、Ar雰囲気下、950℃で溶融塩電解を実施した。溶融塩電解によりTbイオンがFe上で還元され、液相のFe-Tb合金が固体のFe陰極上に形成された。
【0085】
得られた液相のFe-Tb合金を冷却後、マグネシア(MgO)製のるつぼにMgインゴットとともに投入し、大気圧アルゴン雰囲気下にて700℃に保持し、液相のMg中にTbを抽出した。大気開放の後、得られたMg-Tb合金のEDX分析を実施した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
EDX分析の結果、抽出操作により、Fe-Tb合金からTbのみがMg中に抽出されたMg-Tb合金が得られたことがわかる。
【0088】
得られたMg-Tb合金を、モリブデン(Mo)製のるつぼに装填し、700℃で真空蒸留し、実施例3に係る粉末試料を得た。大気開放の後、得られた粉末試料についてEDX分析を実施した。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
EDX分析の結果、真空蒸留により、Mg-Tb合金からMgが留去されたことがわかる。また、表5中の酸素原子数濃度については後述する。なお、表4の結果によると、真空蒸留に用いたMg-Tb合金からはFeが検出されていない。したがって、表5中のFeは、真空蒸留以降の過程で用いられた装置や治具から混入した成分であると推定される。
【0091】
<大気開放前に金属Tbが得られていたことの確認実験>
実施例1~3に係る試料の大気開放後のEDX分析結果を示す表2、表3、表5では、得られた試料には酸素が含まれることが示された。
そこで、実施例1~3に係る試料が、真空蒸留後、大気開放前は金属Tbであったことを確認するために、表4に分析結果を示した実施例3に係るMg-Tb合金を、別途モリブデン(Mo)製のるつぼに装填し、実施例3と同じ条件で真空蒸留し、Mg-Tb合金からMgを留去した後、さらに、真空状態を保ったまま約1500℃で真空融解して本実験に係る粉末試料を得た。大気開放の後、得られた粉末試料についてEDX分析を実施した。結果を表6に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
表6に示す結果から、本実験に係る粉末試料は、大気開放後の酸素原子数濃度が、表5に示す実施例3に係る粉末試料の大気開放の結果と比較して、減少していることがわかる。
その理由は、Tbが非常に酸化されやすい金属であるところ、真空融解操作を受けた本実験に係る試料では、真空蒸留によって得られたTb粒子が真空融解によって粗大化し、表面積が小さくなったので、大気開放により生じる粒子表面の酸化の程度が、真空融解操作を受けずに大気開放された実施例3に係る試料と比較して低くなったためである。
したがって、実施例3、及び同じく真空融解操作を受けない実施例1、2に係る粉末試料は、大気開放前は金属Tbの粉末であったことが推認される。
【0094】
更に、本実験で得られた粉末試料をX線回折測定した結果を図3に示す。下方の棒グラフは金属Tbの基準ピークであり、上方の●は同試料において得られた金属Tbの基準ピークに対応するピークである。図3の結果からも、実施例1~3に係る粉末試料が、大気開放前は金属Tbであったことが裏付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、高融点の希土類金属であっても、高い生産性、安全性、及びエネルギー効率で回収することができる。更に、回収した希土類金属から、当該希土類金属のインゴットを得ることができる。したがって、本発明の産業用の利用価値は大きい。
図1
図2
図3