(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009662
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】芳香族化合物、混合物、超偏極用分子プローブ、代謝物、診断薬、誘導体化剤、ナフタレン誘導体、カテコール誘導体、及び化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 63/36 20060101AFI20240116BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20240116BHJP
C07C 211/58 20060101ALI20240116BHJP
C07C 229/36 20060101ALI20240116BHJP
C07C 255/04 20060101ALI20240116BHJP
C07C 47/12 20060101ALI20240116BHJP
C07C 11/22 20060101ALI20240116BHJP
C07C 33/34 20060101ALI20240116BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240116BHJP
A61K 49/10 20060101ALI20240116BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240116BHJP
C07D 209/44 20060101ALI20240116BHJP
A61K 31/198 20060101ALN20240116BHJP
A61K 31/192 20060101ALN20240116BHJP
A61K 31/136 20060101ALN20240116BHJP
A61K 31/4035 20060101ALN20240116BHJP
A61K 31/045 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C07C63/36 CSP
C07B59/00
C07C211/58
C07C229/36
C07C255/04
C07C47/12
C07C11/22
C07C33/34 B
A61K41/00
A61K49/10
A61P25/16
C07D209/44
A61K31/198
A61K31/192
A61K31/136
A61K31/4035
A61K31/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111350
(22)【出願日】2022-07-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「量子生命技術の創製と医学・生命科学の革新」のうち「量子技術を用いた超高感度MRI/NMR(国立大学法人大阪大学 先導的学際研究機構)」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根耒 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮西 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】香川 晃徳
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】寺内 勉
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084NA20
4C084ZC78
4C085HH01
4C085HH07
4C085JJ01
4C085KA30
4C085KB42
4C085KB45
4C085KB46
4C085KB56
4C085LL13
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZC78
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA17
4C206FA31
4C206FA56
4C206NA20
4C206ZA15
4C206ZC78
4H006AA01
4H006AB20
4H006AC84
(57)【要約】
【課題】DNP装置によって励起された13C核の緩和時間が従来よりも長い芳香族化合物を提供する。
【解決手段】安定同位体で構成されている芳香族化合物であって、隣接する2つの炭素原子が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、芳香族化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定同位体で構成されている芳香族化合物であって、
隣接する2つの炭素原子が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、芳香族化合物。
【請求項2】
安定同位体で構成されている芳香族化合物を含む混合物であって、
隣接する2つの炭素原子が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、第1の芳香族化合物と、
隣接する2つの炭素原子のうち一方が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子のうち他方が12Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、第2の芳香族化合物と、
を含む混合物。
【請求項3】
請求項1に記載の芳香族化合物を含む超偏極用分子プローブ。
【請求項4】
請求項1に記載の芳香族化合物を含む代謝物。
【請求項5】
請求項1に記載の芳香族化合物を含む診断薬。
【請求項6】
請求項1に記載の芳香族化合物を含む誘導体化剤。
【請求項7】
請求項6に記載の誘導体化剤と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
【請求項8】
式(1)で表されるナフタレン誘導体。
【化1】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。
【請求項9】
請求項8に記載のナフタレン誘導体と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
【請求項10】
式(2)で表されるカテコール誘導体。
【化2】
式(2)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。R
4は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。ただし、R
4の少なくとも1つは重水素原子である。
【請求項11】
請求項10に記載のカテコール誘導体と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物、混合物、超偏極用分子プローブ、代謝物、診断薬、誘導体化剤、ナフタレン誘導体、カテコール誘導体、及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴))分光及びMRI(Magnetic Resonance Imaging(核磁気共鳴画像法))では、強い静磁場の下で物質中の原子核スピン(以下、単に核スピンともいう。)を精密に制御し、核スピン間の相互作用等により変調された電磁波信号(NMR信号)から分子レベルの豊富な情報を読出す。NMR信号の感度は偏極率に比例するが、超伝導磁石によって印加される数T(テスラ)から数十Tの強磁場の下でも、核スピンのゼーマンエネルギーは非常に低い。この偏極率を数桁向上させることによって測定感度を向上させる手法として動的核偏極(Dynamic Nuclear Polarization;DNP)法が使われている。しかし、DNPによって高偏極化された核スピンであっても分子運動や分子内外の核スピン間に存在する相互作用による磁場の変調によって、数秒から数十秒でその偏極は失われてしまう。
【0003】
したがって、DNPを用いて長時間を要するNMR分光及びMRIを行うには、長い緩和時間を持つ核スピンを使うことが重要である。核スピンの緩和機構を抑制する手法の一つとして、緩和メカニズムとなっている相互作用と可換な核スピン状態(以下、長寿命状態ともいう)を用いる方法がある。核スピン緩和を強く引き起こす緩和メカニズムとして、最近接核スピン間双極子相互作用があり、この相互作用に対する長寿命状態として、最近接核スピンペアのシングレット状態が長寿命状態となることが知られている。
【0004】
シングレット状態は、ラジオ波照射を駆使することで生成できる。これまでに、15N2O中の15Nペアで26分(非特許文献1)、13C2-ナフタレン誘導体中の13Cペアで1時間を超える緩和時間(非特許文献2)が報告されている。この手法は、DNPで得られた高い偏極を長時間保持するだけではなく、長時間のダイナミクスを観測するためのプローブや、弱い化学結合を検出する手法としても使われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Giuseppe Pileio, The Long-Lived Nuclear Singlet State of 15N-Nitrous Oxide in Solution, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 38, 12582-12583
【非特許文献2】Gabriele Stevanato, et al., A Nuclear Singlet Lifetime of More than One Hour in Room-Temperature Solution, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 3740-3743.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MRI装置は、欠かせない画像診断技術として広く病院に普及している。しかし、この感度は他の分析法と比較すると非常に低いことに加え、生体内に膨大に存在する水分子の1H核の画像化に限定されている。この問題を解決する方法として、DNP法が注目されている。この技術を用いることにより、投与した薬剤の代謝を観測することによるがんの治療効果判定技術の開発が進められている。この方法では、DNP装置によって物質を超偏極化させた物質を溶解させ体内に投与し、薬剤等の13C核を観測している。しかしながら、このDNP技術で励起された13C核の緩和時間は長くても数十秒であることから、長時間の観測には向いておらず、応用範囲が限られていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、DNP装置によって励起された13C核の緩和時間が従来よりも長い芳香族化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 安定同位体で構成されている芳香族化合物であって、
隣接する2つの炭素原子が
13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、
13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、芳香族化合物。
[2] 安定同位体で構成されている芳香族化合物を含む混合物であって、
隣接する2つの炭素原子が
13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、
13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、第1の芳香族化合物と、
隣接する2つの炭素原子のうち一方が
13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子のうち他方が
12Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、
13C核と炭素原子を介して結合するスピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、第2の芳香族化合物と、
を含む混合物。
[3] [1]に記載の芳香族化合物を含む超偏極用分子プローブ。
[4] [1]に記載の芳香族化合物を含む代謝物。
[5] [1]に記載の芳香族化合物を含む診断薬。
[6] [1]に記載の芳香族化合物を含む誘導体化剤。
[7] [6]に記載の誘導体化剤と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
[8] 式(1)で表されるナフタレン誘導体。
【化1】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。
[9] [8]に記載のナフタレン誘導体と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
[10] 式(2)で表されるカテコール誘導体。
【化2】
式(2)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。R
4は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。ただし、R
4の少なくとも1つは重水素原子である。
[11] [10]に記載のカテコール誘導体と診断薬又は代謝物とが結合して生成した化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、DNP装置によって励起された13C核の緩和時間が従来よりも長い芳香族化合物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、2-ナフトエ酸-4a,8a-
13C
2(
13C
2-NA-h
7)の
13C NMRスペクトル測定結果を示す図である。
【
図2】
図2は、長寿命状態の生成・保持・観測に用いたパルスシーケンスを示す図である。
【
図3】
図3は、2-ナフトエ酸-4a,8a-
13C
2(
13C
2-NA-h
7)及び
13おC
2-2-ナフトエ酸-d
7(
13C
2-NA-d
7)の縦緩和時間の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、2-ナフトエ酸-4a,8a-
13C
2(
13C
2-NA-h
7)及び2-ナフトエ酸-4a,8a-
13C
2-d
7(
13C
2-NA-d
7)のシングレット状態の緩和時間の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
化学式中で使用される「D」は重水素原子を表す。
【0012】
ナフトエ酸骨格の環縮合炭素にある2つの13Cの核スピンペアの長寿命状態を用いることで、縦緩和時間に比べて約5倍、さらに芳香環の水素原子を重水素置換することで、約13倍の偏極寿命を得ることができた。分子動力学法と量子化学計算を用いて、緩和時間のシミュレーションも行い、ナフトエ酸骨格に他の置換基を付与した場合の分子の緩和時間予測を行い、実験結果と同じオーダーで緩和時間予測ができることを確認した。この結果から、ナフトエ酸骨格に様々な置換基を付与して機能性を持たせた長寿命核偏極プローブを提案する。
【0013】
[芳香族化合物]
本発明の芳香族化合物は、安定同位体で構成されている芳香族化合物であって、隣接する2つの炭素原子が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、13C核と炭素原子を介して結合し、スピン結合定数をもつ水素原子が重水素原子で置換されている、芳香族化合物である。
上記の条件を満足する芳香族化合物は、具体的には13Cペアが芳香環の一部を構成していることに加えて、その13C核に水素原子以外の原子が結合している必要がある。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、アントラキノンやその誘導体の多環芳香族化合物の環縮合位橋頭位が13Cで置換されている化合物や、o-キシレン、o-クレゾール、カテコール、ポリフェノール、フタル酸やその誘導体などの置換基が結合している炭素原子が13Cで置換されている芳香族化合物などが該当する。
【0014】
また、長い偏極寿命を実現するためには、双極子相互作用などによる緩和を抑制する目的で、13C核の近傍にある水素原子はスピン量子数が0の原子核に置換されていることが望ましい。本発明者らは、13C核とスピン結合をするほど近傍に存在している水素であっても重水素化することにより十分に長い緩和時間が実現できることを理論計算及び実験を通じて見出し本発明に至った。
【0015】
本発明の芳香族化合物の具体例としては、式(1)で表されるナフタレン誘導体及び式(2)で表されるカテコール誘導体が挙げられる。
【0016】
【0017】
式(1)中、R1は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。
【0018】
前記アルキル基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。式(1)で表される化合物の分子量が小さいほど好ましく、前記アルキル基としては、炭素数2以下のアルキル基、すなわちメチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0019】
前記アリール基としては、例えば、炭素数6~13のアリール基が挙げられる。式(1)で表される化合物の分子量が小さいほど好ましく、前記アリール基としては、炭素数10以下のアリール基が好ましく、ナフチル基又はフェニル基がより好ましい。
【0020】
前記アルケンとしては、分子内にアルケンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アルキンとしては、分子内にアルキンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アミンとしては、分子内にアミンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記シリルとしては、分子内にシリルを有する化合物であれば特に限定されない。
前記カルボニル化合物としては、分子内にカルボニル基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エーテルとしては、分子内にエーテル結合を有する化合物であれば特に限定されない。
前記チオールとしては、分子内にチオール基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エステルとしては、分子内にエステル結合を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、炭酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸又はスルホン酸とアルコールとの脱水縮合により得られる化合物が挙げられる。
前記スルホキシドとしては、分子内で2つの炭素原子がスルフィニル基(-S(=O)-)に結合している化合物であれば特に限定されない。
【0021】
【0022】
式(2)中、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。
【0023】
前記アルキル基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。式(2)で表される化合物の分子量が小さいほど緩和時間が長くなることから、前記アルキル基としては、炭素数2以下のアルキル基、すなわちメチル基又はエチル基、が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0024】
前記アリール基としては、例えば、炭素数6~13のアリール基が挙げられる。式(2)で表される化合物の分子量が小さいほど緩和時間が長くなることから、前記アリール基としては、炭素数10以下のアリール基が好ましく、ナフチル基又はフェニル基がより好ましい。
【0025】
前記アルケンとしては、分子内にアルケンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アルキンとしては、分子内にアルキンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アミンとしては、分子内にアミンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記シリルとしては、分子内にシリルを有する化合物であれば特に限定されない。
前記カルボニル化合物としては、分子内にカルボニル基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エーテルとしては、分子内にエーテル結合を有する化合物であれば特に限定されない。
前記チオールとしては、分子内にチオール基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エステルとしては、分子内にエステル結合を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、炭酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸又はスルホン酸とアルコールとの脱水縮合により得られる化合物が挙げられる。
前記スルホキシドとしては、分子内で2つの炭素原子がスルフィニル基(-S(=O)-)に結合している化合物であれば特に限定されない。
【0026】
式(2)中、R4は、それぞれ独立に、重水素原子、アルキル基、アリール基、及びアルケン、アルキン、アミン、シリル、カルボニル化合物、エーテル、チオール、エステル、リン酸エステル又はスルホキシドに由来する1価の基からなる群から選択されるいずれか1種の基である。ただし、R4の少なくとも1つは重水素原子である。
【0027】
前記アルキル基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。式(2)で表される化合物の分子量が小さいほど緩和時間が長くなることから、前記アルキル基としては、炭素数2以下のアルキル基、すなわちメチル基又はエチル基、が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0028】
前記アリール基としては、例えば、炭素数6~13のアリール基が挙げられる。式(2)で表される化合物の分子量が小さいほど緩和時間が長くなることから、前記アリール基としては、炭素数10以下のアリール基が好ましく、ナフチル基又はフェニル基がより好ましい。
【0029】
前記アルケンとしては、分子内にアルケンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アルキンとしては、分子内にアルキンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記アミンとしては、分子内にアミンを有する化合物であれば特に限定されない。
前記シリルとしては、分子内にシリルを有する化合物であれば特に限定されない。
前記カルボニル化合物としては、分子内にカルボニル基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エーテルとしては、分子内にエーテル結合を有する化合物であれば特に限定されない。
前記チオールとしては、分子内にチオール基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記エステルとしては、分子内にエステル結合を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、炭酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸又はスルホン酸とアルコールとの脱水縮合により得られる化合物が挙げられる。
前記スルホキシドとしては、分子内で2つの炭素原子がスルフィニル基(-S(=O)-)に結合している化合物であれば特に限定されない。
【0030】
式(2)で表される化合物において、酸素原子は、それぞれ独立に、16O、17O及び18Oからなる群から選択される。なお、16O、17O、及び18Oの天然存在比は、それぞれ、99.757atm%、0.038atm%、及び0.205atm%である。
【0031】
式(2)で表される化合物の具体例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
[混合物]
本発明の混合物は、安定同位体で構成されている芳香族化合物を含む混合物であって、
隣接する2つの炭素原子が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、分子内に存在する水素原子の1つ以上が重水素原子で置換されている、第1の芳香族化合物と、隣接する2つの炭素原子のうち一方が13Cであり、前記隣接する2つの炭素原子のうち他方が12Cであり、前記隣接する2つの炭素原子が結合する他の原子の原子核のスピン量子数が0であり、かつ、分子内に存在する水素原子の1つ以上が重水素原子で置換されている、第2の芳香族化合物と、を含む混合物である。
前記第1の芳香族化合物は、上述した本発明の化合物である。
前記第2の芳香族化合物は、12Cと13Cの天然存在比が98.93atm%及び1.07atm%であることから、第1の芳香族化合物を合成する際に副産物として合成される。
【0037】
[超偏極用分子プローブ]
本発明の超偏極用分子プローブは、上述した本発明の芳香族化合物を含む。本発明の超偏極用分子プローブをDNP装置によって超偏極させたのち生体等に投与した後、核磁気共鳴法により測定することにより、当該長偏極用分子プローブの集積状態や、その代謝物の代謝変換をリアルタイムで検知することができる。
【0038】
[代謝物]
本発明の代謝物は、上述した本発明の芳香族化合物を含む代謝物である。超偏極技術は特定の同位体標識プローブに対して圧倒的な高感度化を可能にする。しかしながら、核偏極された分子は、その分子構造と周囲の環境との相互作用によって急速に緩和し偏極状態を失っていく。本技術はこの緩和現象を抑制できることから、本発明の芳香族化合物をDNP装置により超偏極させたのち溶解して生体に投与することにより、芳香族化合物やその代謝物の代謝変換をリアルタイムでの計測が可能になる。
【0039】
本発明の代謝物の具体例としては、特に、以下の式で表される化合物が好ましい。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
[診断薬]
本発明の診断薬は、上述した本発明の芳香族化合物を含む診断薬である。本発明の診断薬をDNP装置により超偏極させたのち溶解して生体に投与し、ヒトの体内のがんなどの病巣等の特定部位に偏極状態を保持した状態で集積させることにより、その代謝過程を高感度で追跡することができる。これにより、正常組織と腫瘍との鑑別だけでなく、予後予測、薬効に対する反応性評価など、従来の方法よりも早期の発症前であっても検出が可能になる。すでにDOPAはパーキンソン病の治療にも使用されており、例えば本発明で示した標識パターンをDOPAが脳内における集積とその代謝変換をリアルタイムでイメージングできれば、その病理解明に向けた研究に利用することも可能である。また、長寿命化のための安定同位体標識が困難な治療薬、診断薬に対して本発明の芳香族化合物を結合させることにより、芳香族化合物が結合した分子による治療と診断一体化した医療技術に利用することが可能になる。
【0046】
本発明の診断薬の具体例としては、特に、以下の式で表される化合物が好ましい。
【0047】
【0048】
[誘導体化剤]
本発明の誘導体化剤は、上述した本発明の芳香族化合物を含む誘導体化剤である。
本発明の誘導体化剤は、さらに、カルバメート化合物、イソチオシアネート化合物、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシフタルイミドエステル、ピリリウム化合物、酸クロリド、アシルハロゲン化物、及びハロゲン化スルホニルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。
本発明の誘導体化剤は、長寿命化のための安定同位体標識が困難な代謝物や診断薬等に対して本発明の芳香族化合物を結合させることにより、芳香族化合物が結合した分子の動態や相互作用などを観測することが可能になる。
【実施例0049】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
2-ナフトエ酸の炭素原子のうち、環縮合炭素にある2つの13C(式(3)の黒丸で示した部分)を同位体である13Cに置換した分子を合成した。
【0051】
【0052】
作成した2-ナフトエ酸-4a,8a-
13C
2(
13C
2-NA-h
7)を、0.3Mの炭酸カリウムが入った重水に0.1M溶解させ、窒素脱気を30分間行った。500MHzのNMR装置を使って得られたこのサンプルの
13C NMRスペクトル測定結果を
図1に示す。
図1に示す結果から、2つの
13C核スピン間のJ結合強度が約43Hz、化学シフト差が約245Hzと見積もられた。
【0053】
図2に長寿命状態の生成・保持・観測に用いたパルスシーケンスを示す。J結合と化学シフト差から、t
1=4.8ms、t
2=7ms、t
3=1.1msと計算された。スピンロックパルス強度は化学シフト差に比べて十分大きい1.5kHzとした。このパルスシーケンスを使ってシングレット状態の緩和時間(T
S)を測定した結果、34.9秒であった。Inversion Recovery法を用いて得られた縦緩和時間(T
1)は7.2秒であり、シングレット状態を使うことで約5倍の緩和時間を得ることができた。
【0054】
分子内双極子相互作用をさらに抑制することを目指して、芳香環の水素原子を重水素化した2-ナフトエ酸-4a,8a-13C2-d7(13C2-NA-d7)(式(4))を合成した。
【0055】
【0056】
13C
2-NA-d
7に対しても同様のパルスシーケンス(
図1)を用いて縦緩和時間を測定したところ、8.1秒、シングレット状態の緩和時間は104秒となり、縦緩和時間と比べて約13倍長い緩和時間を得ることができた。測定条件は11.7Tの外部磁場下、27℃で測定した。
【0057】
13C
2-NA-h
7(点線)及び
13C
2-NA-d
7(実線)の縦緩和時間の測定結果を
図3に、
13C
2-NA-h
7(点線)及び
13C
2-NA-d
7(実線)のシングレット状態の緩和時間の測定結果を
図4に示す。
【0058】
上記の実験と並行して、量子化学計算と分子動力学法を用いた緩和時間シミュレーションも行った。縦緩和時間の結果を表1、シングレット状態の結果を表2に示す。計算条件は11.7Tの外部磁場下、27℃で計算した。
【0059】
【0060】
【0061】
表中のRiは、シングレット状態を形成する2つの核スピン間の双極子相互作用による緩和レート(Ri,DDjk)、それ以外の溶質分子中に存在する核スピンに由来する双極子相互作用による緩和レート(Ri,inDD)、化学シフト異方性相互作用による緩和レート(Ri,CSA)を、縦緩和時間(i=1)とシングレット状態(i=S)に対して表している。これら以外にも、溶媒分子が含む核スピンとの双極子相互作用や、スピン-回転相互作用による緩和レートなども計算したが、数桁小さい寄与しかなかったため表には記載していない。数値計算結果と実験結果を比較して、縦緩和時間もシングレット状態の緩和時間も同じオーダーで緩和時間予測ができていることがわかる。
【0062】
縦緩和のほぼ90%は化学シフト異方性相互作用で生じていることがわかった。分子動力学計算で得られる各状態に対して量子化学計算を行う、といった化学シフトテンソル計算の高精度化によって緩和時間計算精度は上がると考えられる。また、重水素化の有無によるシングレット状態の緩和レートの差を計算すると、(1/TS,H)-(1/TS,H)=0.019であった。計算で予測された分子内相互作用による緩和レートの差は0.020であることより、芳香環中の水素原子による双極子相互作用緩和レートは高い精度で見積もることができていることがわかる。長寿命状態の緩和時間をより長くするためには、窒素脱気ではなく凍結脱気法を用いる、スピンロックパルスの強度をより大きなものにする、などが考えられる。
【0063】
[実施例2]
<ナフタレン骨格を持つその他の分子の緩和時間予測>
ナフタレン骨格を持つ偏極プローブの候補として、式(5)で表される13C2-2-ナフチルアミン-d7(13C2-NAmin-d7)及び式(6)で表される13C2-2-ナフタレンフタルイミドエステル-d11(13C2-NX-d11)の芳香環中の13Cスピンペアに対して緩和時間予測を行った。計算条件は11.7Tの外部磁場下、27℃で計算した。
13C2-NX-d11は水に溶けないと予想されるため、アセトン中の緩和時間を計算した。縦緩和時間の計算結果を表3に、シングレット状態の緩和時間の計算結果を表4に示す。それぞれ、T1に比べて十分大きなシングレット状態の緩和時間を持つと予想される結果を得ることができた。
【0064】
【0065】
【0066】
表3に、13C2-2-ナフチルアミン-d7(13C2-NAmin-d7)及び13C2-2-ナフタレンフタルイミドエステル-d11(13C2-NX-d11)の縦緩和時間計算結果を、表4に、13C2-2-ナフチルアミン-d7(13C2-NAmin-d7)及び13C2-2-ナフタレンフタルイミドエステル-d11(13C2-NX-d11)のシングレット状態の緩和時間計算結果を示す。10-4よりも小さい成分は-と表示している。
【0067】
【0068】
【0069】
[実施例3]
<カテコール骨格を持つその他の分子の緩和時間予測>
カテコール骨格を持つ偏極プローブの候補として、式(7)で表されるDOPA-13C2-d6の芳香環中の13Cスピンペアに対して緩和時間予測を行った。また芳香環と交換性水素原子は重水素で置換したものを計算に用いた。
【0070】
【0071】
縦緩和時間の計算結果(T1)及びシングレット状態の緩和時間の計算結果(TS)を表5に示す。11.7Tの外部磁場においては、Tsは28.7秒の計算結果であったが、外部磁場を1Tにしたところ298秒となり大きなシングレット状態の緩和時間を持つと予想される結果を得ることができた。
【0072】
【0073】
[実施例4]
<アジポニトリル-1,6-13C2の合成>
200mLのナスフラスコにシアン化カリウム-13C(5.820g,88.1mol)、エタノール(40mL)、水(20mL)、1,4-ジヨードブタン(6.07mL,14.3g,46.2mmol,0.525eq)を加え、加熱還流を18時間行った。室温まで冷却後、2M水酸化ナトリウム水溶液10mLを加え、反応溶液のpHが12以上であることを確認した後、減圧濃縮にてエタノールを留去し、ジクロロメタン(200mL×3)で抽出した。有機層を水で洗浄し、この水層にシアン化物が存在しないことを確認した後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製してアジポニトリル-1,6-13C2を得た(収量3.986g(36.2mmol)、収率82%)。
【0074】
<アジポアルデヒド-1,6-13C2の合成>
窒素雰囲気下、500mLの三口フラスコに前の反応で得られたアジポニトリル-1,6-13C2(5.436g,49.4mol)、脱水ジクロロメタン(180mL)を入れ、-80℃に冷却した。滴下ロートを用いて、1M DIBAL-H in hexane(105mL,105mol)を50分かけて滴下した。2時間撹拌した後、追加の1M DIBAL-H in hexane(35mL,35mol)を加え、さらに1時間撹拌した。2M HCl(150mL)をゆっくり滴下し、室温にした後、30分間撹拌した。続いて、パスツールピペットで6M HClを数滴ずつ滴下してアルミニウム塩を溶解させ、ジクロロメタン(400mL×3)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、常圧にて濃縮操作を行い、粗生成物2を得た。
【0075】
<1,1,8,8-テトラブロモオクタン-2,7-13C2の合成>
窒素雰囲気下、2Lのナスフラスコに四臭化炭素(53.06g,160mmol)、トリフェニルホスフィン(83.93g,320mmol)、脱水ジクロロメタン(700mL)を入れ、0℃で1時間撹拌した。続けて、前の反応で得られたアジポアルデヒド-1,6-13C2のジクロロメタン溶液(38.4 mmol)を入れ、30分間撹拌した後、室温でさらに30分間撹拌した。水(400mL)を加え、ジクロロメタン(300mL×3)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、薄黄色の固体を得た。この薄黄色固体をメタノール(約300mL)で溶解し、ヘキサン(200mL×10)で抽出した。TLCにてメタノール層に目的生成物が存在しないことを確認した後、ヘキサン層を減圧濃縮し、白色固体を得た。この白色固体をジクロロメタン(30~40mL)で完全に溶解し、大量のヘキサンを使用して再沈した。得られた白色固体を吸引ろ過により分離した後、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して1,1,8,8-テトラブロモオクタン-2,7-13C2を得た(油状、収量13.172g(30.6mmol)、収率62%)。
【0076】
<1,7-オクタジイン-2,7-13C2の合成>
300mL滴下ロート、マイナス温度計を装着した1L三口フラスコに窒素雰囲気下、脱水THF(100mL)、前の反応で得られた1,1,8,8-テトラブロモオクタン-2,7-13C2(13.172g,30.6mmol)、を入れ、-80℃に冷却した。300mL滴下ロートにLDA(0.8M,200mL,159mmol)を入れ、90分かけて滴下した。同温度で1時間攪拌後、0℃に昇温し、さらに1時間撹拌した。1M HCl(400mL)をゆっくり加え、反応を停止した後、ジエチルエーテル(300mL×3)で抽出した。有機層を10wt%チオ硫酸ナトリウム水溶液(200mL×2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、常圧にて濃縮操作を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製した。
【0077】
<6-(1-ヒドロキシエチル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-4a,8a-13C2の合成>
窒素雰囲気下、300mLナスフラスコにビス(1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラート(115mg,0.282mmol)4)、乾燥ジクロロメタン(10mL)、(S)-H8-BINAP(178mg,0.282mmol)を入れ、10分間撹拌した後、窒素から水素雰囲気下に置換し、1時間撹拌した。ジクロロメタンを減圧留去した後、再び窒素雰囲気に置換し、乾燥ジクロロエタン(90mL)を入れた。1,7-オクタジイン-2,7-13C2(9.4mmol)と3-ブチン-2-オール(1.317g,18.8mmol)を脱水ジクロロエタン(4mL)に溶解させた混合試薬を調製しそれを10分かけて滴下した後、さらに室温にて18時間撹拌した。反応溶媒を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して6-(1-ヒドロキシエチル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-4a,8a-13C2を得た(油状、収量1.001g(5.61mmol)、収率60%)。
【0078】
<2-ナフトエ酸-4a,8a-13C2の合成>
窒素雰囲気下、室温にて300mL二つ口フラスコにt-ブタノール(150mL)、カリウムt-ブトキシド(5.139g,45.8mmol)、ヨウ素(4.362g,17.2mmol)を入れ、10分間攪拌した。水(37.9mL,17.2mmol)、2’-アセトナフトン-4a’,8a’-13C2(5.72mmol)を加え、1.5時間撹拌した。溶媒を減圧濃縮後、水(300mL)を加え、ジクロロメタン(200mL×3)で水層を洗浄した。この水層に適量の砕けた氷を入れ、pHが1になるまでゆっくりと6M HClを加えた。ジクロロメタン(200mL×3)で抽出を行い、有機層を10wt%チオ硫酸ナトリウム水溶液(200mL×2)、飽和食塩水(200mL×1)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して、2-ナフトエ酸-4a,8a-13C2の粗生成物7を得た(薄黄色固体、収量0.750g(4.31mmol)、収率75%)。
【0079】
・パルスシーケンスの参考文献
Sarkar R., Vasos P. R. and Bodenhausen G. “Singlet-state exchange nmr spectroscopy for the study of very slow dynamic processes” J. Am. Chem. Soc. 129 328-334 (2007)
・数値計算の参考文献
Miyanishi K., Mizukami W., Motoyama M., Ichijo N., Kagawa A., Negoro M. and Kitagawa M. “Prediction of 1H singlet relaxation via intermolecular dipolar couplings using the molecular dynamics method” J. Phys. Chem. B 126, 19, 3530-3538 (2022)
本発明では、励起された分子の緩和時間が従来よりもはるかに長寿命であるため人体に投与した薬剤などの分子プローブを長時間観測することが可能である。その結果、腫瘍の進行度などPET診断法では入手困難な様々な情報が得られるようになると期待される。また、DNPを利用した基礎研究や創薬研究においては、長時間の分子の挙動や代謝工法が観測可能な本手法の応用が期待されている。