(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097058
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A61M37/00 530
A61M37/00 520
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072022
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2022536456の分割
【原出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2020122621
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173692
【氏名又は名称】一般財団法人阪大微生物病研究会
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小山田 孝嘉
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】柿田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩明
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、皮下注射日本脳炎ワクチンの投与量よりも低い投与量、または皮下注射日本脳炎ワクチンの投与回数よりも少ない投与回数であっても、ヒトに対して十分な免疫を付与することができる日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明によれば、シート部116と、シート部の上面に存在する複数の針部112とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、日本脳炎予防剤が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体産生誘導のための日本脳炎予防剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体産生誘導のための日本脳炎予防剤。
【請求項2】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体産生誘導のための日本脳炎予防剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体産生誘導のための日本脳炎予防剤。
【請求項3】
マイクロニードルアレイが自己溶解型であり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包している、請求項1又は2に記載の日本脳炎予防剤。
【請求項4】
針部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含み、シート部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の日本脳炎予防剤。
【請求項5】
初回投与2週間後の中和抗体価が、1.0以上である、請求項1から4の何れか一項に記載の日本脳炎予防剤;ただし、日本脳炎予防剤の投与から2週間後の対象から採取した血清を段階的に希釈することにより得た20μLの血清サンプルと、80pfuの日本脳炎ウイルスとを、37℃及び5%CO2下において1.5時間反応させ、反応後の混合液25μLを、2.0×104cellsのVero細胞に感染させて37℃及び5%CO2下において6日間培養した際に、日本脳炎ウイルスによる細胞変性効果を50%以上抑制した血清の最高希釈倍の常用対数を中和抗体価とする。
【請求項6】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体が産生されるための日本脳炎予防剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体が産生されるための日本脳炎予防剤。
【請求項7】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体が産生されるための日本脳炎予防剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体が産生されるための日本脳炎予防剤。
【請求項8】
マイクロニードルアレイが自己溶解型であり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包している、請求項6又は7に記載の日本脳炎予防剤。
【請求項9】
針部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含み、シート部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、請求項6から8の何れか一項に記載の日本脳炎予防剤。
【請求項10】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体産生誘導剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体産生誘導剤。
【請求項11】
シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、前記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、ヒトにおける中和抗体産生誘導剤であり、不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で、投与回数が1回又は2回である、ヒトにおける中和抗体産生誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤に関する。
【背景技術】
【0002】
適量の薬物を投与し、かつ十分な薬効を達成するための薬物の投与方法として、薬物を含有する高アスペクト比のマイクロニードル(針部)が形成されたマイクロニードルアレイを用いて、マイクロニードルによって角質バリア層を貫通して、苦痛を伴わずに薬物を皮膚内に注入する方法が注目されている。例えば、生体内溶解性を有する物質を基材とした自己溶解型マイクロニードルアレイが報告されている。自己溶解型マイクロニードルアレイにおいては、その基材に薬物を保持させておき、マイクロニードルが皮膚に挿入された際に基材が自己溶解することにより、薬物を皮膚内に投与することができる。
【0003】
特許文献1には、基板と、基板上に配置されたマイクロニードルと、マイクロニードル上に形成されたコーティング層と、を備えるマイクロニードルデバイスであって、 マイクロニードルの長さは300~500μmであり、マイクロニードルは28~80本/cm 2の密度で基板上に配置されており、コーティング層は生理活性物質を有する、マイクロニードルデバイスが記載されている。特許文献1には、コーティング層が日本脳炎ワクチンを含むマイクロニードルデバイスの動物に対する皮膚刺激性が記載されている。
【0004】
特許文献2には、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、針部は、電気的に中性である水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、日本脳炎ワクチン、および電気的に中性である界面活性剤を含み、シート部は、電気的に中性である水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、マイクロニードルアレイが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2018/155431
【特許文献2】国際公開WO2019/225650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ヒトに投与した際の中和抗体価や皮膚刺激性に関する記載はない。非特許文献1には、マイクロニードルと筋肉内注射との間に中和抗体価及び陽転率の有意な差は示されておらず、また日本脳炎ワクチンに関する記載もない。
【0007】
市販されている皮下注射日本脳炎ワクチンは、初回免疫として1~4週間の間隔で2回の接種が必要であり、さらに初回免疫後1年を経過した時期に追加免疫を行い、合計3回の接種をもって基礎免疫ができる。そのため、多量の日本脳炎ワクチンが必要となる。しかし、一般の医薬品に比べて生産に多くの時間を要するワクチンは、不測の事態により供給が不足することもある。
【0008】
本発明は、皮下注射日本脳炎ワクチンの投与量よりも低い投与量、または皮下注射日本脳炎ワクチンの投与回数よりも少ない投与回数であっても、ヒトに対して十分な免疫を付与することができる日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シート部と、不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持している複数の針部とを有するマイクロニードルアレイを用いることによって、不活化日本脳炎ウイルスの投与量としては、皮下注射日本脳炎ワクチンの投与量の1/4量においても、ヒトに対する初回免疫として1回の投与で皮下注射2回投与の場合と同等の陽転率を示し、皮下注射日本脳炎ワクチンの投与量の1/10量においても2回の投与で皮下注射の場合と同等の陽転率を示すことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、日本脳炎予防剤。
(2) 不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~2.5μg/回の用量で投与する、(1)に記載の日本脳炎予防剤。
(3) 投与回数が1回又は2回である、(1)又は(2)に記載の日本脳炎予防剤。
(4) 不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で2回投与する、(1)から(3)の何れか一に記載の日本脳炎予防剤。
(5) 不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で1回又は2回投与する、(1)から(3)の何れか一に記載の日本脳炎予防剤。
(6) マイクロニードルアレイが自己溶解型であり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包している、(1)から(5)の何れか一に記載の日本脳炎予防剤。
(7) 針部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含み、シート部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、(1)から(6)の何れか一に記載の日本脳炎予防剤。
(8) 初回投与2週間後の中和抗体価が、1.0以上である、(1)から(7)の何れか一に記載の日本脳炎予防剤;ただし、日本脳炎予防剤の投与から2週間後の対象から採取した血清を段階的に希釈することにより得た20μLの血清サンプルと、80pfuの日本脳炎ウイルスとを、37℃及び5%CO2下において1.5時間反応させ、反応後の混合液25μLを、2.0×104cellsのVero細胞に感染させて37℃及び5%CO2下において6日間培養した際に、日本脳炎ウイルスによる細胞変性効果を50%以上抑制した血清の最高希釈倍の常用対数を中和抗体価とする。
【0011】
(9) シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、日本脳炎ワクチン剤。
(10) 不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~2.5μg/回の用量で投与する、(9)に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(11) 投与回数が1回又は2回である、(9)又は(10)に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(12) 不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で2回投与する、(9)から(11)の何れか一に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(13) 不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で1回又は2回投与する、(9)から(11)の何れか一に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(14) マイクロニードルアレイが自己溶解型であり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包している、(9)から(13)の何れか一に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(15) 針部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含み、シート部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、(9)から(14)の何れか一に記載の日本脳炎ワクチン剤。
(16) 初回投与2週間後の中和抗体価が、1.0以上である、(9)から(15)の何れか一に記載の日本脳炎ワクチン剤;ただし、日本脳炎ワクチン剤の投与から2週間後の対象から採取した血清を段階的に希釈することにより得た20μLの血清サンプルと、80pfuの日本脳炎ウイルスとを、37℃及び5%CO2下において1.5時間反応させ、反応後の混合液25μLを、2.0×104cellsのVero細胞に感染させて37℃及び5%CO2下において6日間培養した際に、日本脳炎ウイルスによる細胞変性効果を50%以上抑制した血清の最高希釈倍の常用対数を中和抗体価とする。
【0012】
(A) シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを、対象に投与することを含む、日本脳炎の予防方法。
(B) シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを、対象に投与することを含む、日本脳炎に対する免疫を付与する方法。
(C) 日本脳炎を予防するための処置において使用するための、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイ。
(D) 日本脳炎に対する免疫を付与するための処置において使用するための、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイ。
(E) 日本脳炎予防剤の製造のための、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイの使用。
(F) 日本脳炎ワクチン剤の製造のための、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮下注射日本脳炎ワクチンの投与量よりも低い投与量、または皮下注射日本脳炎ワクチンの投与回数よりも少ない投与回数であっても、ヒトに対して十分な免疫を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、円錐状のマイクロニードルの斜視図であり、
図1Bは、角錐状のマイクロニードルの斜視図であり、
図1Cは、円錐状及び角錐状のマイクロニードルの断面図である。
【
図2】
図2は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。
【
図3】
図3は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。
【
図5】
図5は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。
【
図6】
図6は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。
【
図8】
図8は、針部側面の傾き(角度)が連続的に変化した別の形状のマイクロニードルの断面図である。
【
図9】
図9A~Cは、モールドの製造方法の工程図である。
【
図12】
図12A~Cは、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液をモールドに充填する工程を示す概略図である。
【
図14】
図14は、充填中のノズルの先端とモールドとの部分拡大図である。
【
図15】
図15は、移動中のノズルの先端とモールドとの部分拡大図である。
【
図16】
図16A~Dは、別のマイクロニードルアレイの形成工程を示す説明図である。
【
図17】
図17A~Cは、別のマイクロニードルアレイの形成工程を示す説明図である。
【
図20】
図20は、マイクロニードルアレイを示す説明図である。
【
図21】
図21の(A)及び(B)は、原版の平面図及び側面図である。
【
図22】
図22は、実施例で使用した充填装置の模式図である。
【
図23】
図23は、各被験者における不活化日本脳炎ウイルスの投与量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書において、「不活化日本脳炎ウイルスを含む」とは、体表に穿刺する際に、日本脳炎ワクチンの効果が発揮される量の不活化日本脳炎ウイルスを含むことを意味する。「不活化日本脳炎ウイルスを含まない」とは、日本脳炎ワクチンの効果が発揮される量の不活化日本脳炎ウイルスを含んでいないことを意味し、不活化日本脳炎ウイルスの量の範囲が、不活化日本脳炎ウイルスを全く含まない場合から、効果が発揮されない量までの範囲を含む。
本明細書において,製剤中の不活化日本脳炎ウイルスの量は,タンパク質含量として含有する量を意味する。
【0016】
本発明は、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイを含む、日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤に関する。
【0017】
本発明によれば、皮下注射日本脳炎ワクチンに比べて、不活化日本脳炎ウイルスの初回免疫における投与回数を低減させることができ、不活化日本脳炎ウイルスの1回当たりの用量を減らすことができ、さらに皮下注射と比べて同等以上の中和抗体価が得られる。
【0018】
日本脳炎予防剤とは、日本脳炎の予防のために使用される医薬を意味する。
日本脳炎ワクチン剤とは、不活化日本脳炎ウイルスを有効成分であるワクチンとして含み、日本脳炎に対する免疫を付与するために使用される医薬を意味する。
【0019】
[日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤の投与]
本発明の日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤を、ヒトを対象にして投与する場合には、不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~2.5μg/回の用量で投与することが好ましく、0.01μg~2μg/回の用量で投与することがより好ましく、0.01μg~1μg/回の用量で投与することがさらに好ましい。
【0020】
本発明の日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤の投与回数は、特に限定されないが、好ましくは1回又は2回である。
本発明の日本脳炎予防剤及び日本脳炎ワクチン剤を、ヒトを対象にして投与する場合には、例えば、不活化日本脳炎ウイルスを0.01μg~0.22μg/回の用量で2回投与すること、または不活化日本脳炎ウイルスを0.23μg~1μg/回の用量で1回又は2回投与することが好ましい。
【0021】
本発明の日本脳炎予防剤又は日本脳炎ワクチン剤を用いた場合、初回投与2週間後の中和抗体価が、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。初回投与2週間後の中和抗体価は、1.5以上、1.8以上、2.0以上、または2.4以上でもよい。
本発明の日本脳炎予防剤又は日本脳炎ワクチン剤は、初回投与2週間後の中和抗体価が1.0以上(あるいは1.1以上、1.2以上、1.5以上、1.8以上、2.0以上、または2.4以上でもよい)となるような、用量で用いることができる。中和抗体価とは、以下の方法により測定したものである。日本脳炎予防剤又は日本脳炎ワクチン剤の投与から2週間後の対象から採取した血清を段階的に希釈することにより得た20μLの血清サンプルと、80pfuの日本脳炎ウイルスとを、37℃及び5%CO2下において1.5時間反応させる。反応後の混合液25μLを、2.0×104cellsのVero細胞に感染させて37℃及び5%CO2下において6日間培養する。上記培養の際に、日本脳炎ウイルスによる細胞変性効果を50%以上抑制した血清の最高希釈倍の常用対数を中和抗体価とする。
【0022】
[マイクロニードルアレイの構成]
本発明におけるマイクロニードルアレイは、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持している。本発明において複数とは、1つ以上のことを意味する。
【0023】
マイクロニードルアレイは、シート部の上面側に、複数の針部がアレイ状に配置されている。針部はシート部の上面側に配置されていることが好ましい。針部はシート部の上面に直接配置されていてもよいし、または針部はシート部の上面に配置された部材(好ましくは錐台部の形状を有する部材)の上面に配置されていてもよい。
【0024】
マイクロニードルアレイとしては、以下の態様が挙げられる。
第一の態様では、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包し、針部が皮膚に挿入された際に、針部が溶解して不活化日本脳炎ウイルスを皮膚内に投与することができる(以下、自己溶解型マイクロニードルアレイと呼ぶことがある)。
第二の態様では、針部の表面に塗布または担持された不活化日本脳炎ウイルスを有し、針部が皮膚に挿入された際に、針部は生体内で溶解せず、針部の表面にある不活化日本脳炎ウイルスを皮膚内に投与することができる(以下、塗布型マイクロニードルアレイと呼ぶことがある)。
好ましくは、マイクロニードルアレイが自己溶解型であり、針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包している。
【0025】
[自己溶解型マイクロニードルアレイ]
針部の高さ(長さ)は、針部の先端から、錐台部またはシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の長さで表す。針部の高さ(長さ)は特に限定されないが、好ましくは50μm以上3000μm以下であり、より好ましくは100μm以上1500μm以下であり、さらに好ましくは100μm以上1000μm以下である。針部の長さが50μm以上であれば不活化日本脳炎ウイルスの経皮投与を行うことができ、また針部の長さが3000μm以下とすることで針部が神経に接触することによる痛みの発生を防止し、また出血を回避できるため好ましい。
【0026】
針部は、1つのマイクロニードルアレイにあたり1~2000本配置されることが好ましく、3~1000本配置されることがより好ましく、5~500本配置されることがさらに好ましい。1つのマイクロニードルアレイあたり2本の針部を含む場合、針部の間隔は、針部の先端から錐台部またはシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離で表す。1つのマイクロニードルあたり3本以上の針部を含む場合、配列される針部の間隔は、全ての針部においてそれぞれ最も近接した針部に対して先端から錐台部またはシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離を求め、その平均値で表す。針部の間隔は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.2mm以上5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
針部は不活化日本脳炎ウイルスを含有する。針部は、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種をさらに含むことが好ましく、電気的に中性である水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種をさらに含むことがより好ましい。針部は必要に応じて界面活性剤(好ましくは電気的に中性である界面活性剤)を含む。
【0028】
針部は、不活化日本脳炎ウイルスを含有する。例えば、日本脳炎ウイルスをVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)の培養液から調製したホルマリン不活化ウイルス調製物、日本脳炎ウイルスに感染したマウスの脳から調製したホルマリン不活化ウイルス調製物などを使用することができる。
【0029】
針部全体における不活化日本脳炎ウイルスの含有量は、特に限定されないが、質量%として針部の固形分質量に対して、好ましくは0.0001~10質量%であり、より好ましくは0.0001~1質量%であり、特に好ましくは0.0001~0.5質量%である。
【0030】
針部全体における不活化日本脳炎ウイルスの含有量は、本発明の用量用法に適合するようにマイクロニードルアレイ1枚あたりの不活化日本脳炎ウイルスの含有量を調整すればよい。マイクロニードルアレイ1枚あたりの不活化日本脳炎ウイルスの含有量として、特に限定されないが、タンパク質含量として、好ましくは0.01~2.5μgであり、より好ましくは0.01~2μgである。
【0031】
針部は、界面活性剤(好ましくは電気的に中性である界面活性剤、より好ましくは非イオン性界面活性剤)を含むことが好ましい。界面活性剤として、例えば、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合ポリマー、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、オクチルフェノールエトキシレートなどが挙げられる。上記の中でも、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合ポリマー、またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が特に好ましい。界面活性剤としては、Tween(登録商標)80、Pluronic(登録商標)F-68、HCO-60、Triton(登録商標)-Xなどの市販品を使用することもできる。
【0032】
界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、マイクロニードルアレイ1枚(面積は1cm2)あたり0.01μg以上であることが好ましく、0.1μg以上であることがより好ましい。
【0033】
針部に含まれる水溶性高分子としては、特に限定されないが、多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールを挙げることができる。上記の多糖類としては、例えば、プルラン、デキストラン、デキストリン、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの、セルロースを部分的に変性した水溶性セルロース誘導体)、ヒドロキシエチルデンプン、アラビアゴムなどが挙げられる。上記の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。針部が皮膚内に残留しても人体に支障が生じないように、水溶性高分子は生体内で溶解できる物質(生体溶解性物質)であることが好ましい。
【0034】
上記の中でも、針部に含まれる水溶性高分子は、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ヒドロキシエチルデンプンが特に好ましい。更に、不活化日本脳炎ウイルスとの混合時に凝集しにくくするため、電荷を持たない多糖類がより好ましい。針部に含まれる水溶性高分子は、シート部に含まれる水溶性高分子と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
針部に含まれる水溶性高分子の重量(質量)平均分子量は5000以上100,000以下であることが好ましく、10,000以上100,000以下であることがより好ましく、30,000以上90,000以下であることがさらに好ましい。
【0036】
針部(特に、針部先端領域)には、二糖類を含んでもよく、二糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハースまたはセロビオースなどが挙げられ、特にスクロースが好ましい。
【0037】
針部の全固形分は、50質量%以上が水溶性高分子または二糖類であることが好ましい。針部の全固形分は、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。
上限は、特に限定されないが、針部の全固形分の99質量%以下が水溶性高分子または二糖類であることが好ましく、針部の全固形分の95質量%以下が水溶性高分子または二糖類であることがより好ましく、針部の全固形分の90質量%以下が水溶性高分子または二糖類であることがさらに好ましい。
針部の全固形分の50質量%以上が水溶性高分子または二糖類である場合、良好な穿刺性及び良好な薬効を達成することができる。
【0038】
針部の全固形分における水溶性高分子または二糖類の比率は、以下の方法により測定することができるが、特に限定されない。測定方法としては、たとえば、作製したマイクロニードルアレイの針部を切断し、針部を緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など、針部を構成する水溶性高分子を溶解するのに適した緩衝液)中に溶解させ、溶液中の水溶性高分子または二糖類の量を高速液体クロマトグラフィー法にて測定することができる。
【0039】
シート部は針部を支持するための土台である。シート部は
図1~
図8に示すシート部116のような平面状の形状を有する。シート部の上面とは、面上に複数の針部がアレイ状に配置された面を指す。
シート部の面積は、特に限定されないが、0.005~1000mm
2であることが好ましく、0.05~500mm
2であることがより好ましく、0.1~400mm
2であることがさらに好ましい。
【0040】
シート部の厚さは、錐台部または針部と接している面と、反対側の面の間の距離で表す。シート部の厚さは、1μm以上2000μm以下であることが好ましく、3μm以上1500μm以下であることがより好ましく、5μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
シート部は、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含むことが好ましく、電気的に中性である水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含むことがより好ましい。シート部には、それ以外の添加物(例えば、電荷を有する水溶性高分子など)を含んでいてもよい。なお、シート部には不活化日本脳炎ウイルスを含まないことが好ましい。
【0042】
シート部に含まれる水溶性高分子は、特に限定されないが、多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールを挙げることができる。上記多糖類は、例えば、プルラン、デキストラン、デキストリン、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの、セルロースを部分的に変性した水溶性セルロース誘導体)、ヒドロキシエチルデンプン、アラビアゴムなどが挙げられる。上記成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0043】
上記の中でも、シート部に含まれる水溶性高分子として、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ヒドロキシエチルデンプンが特に好ましい。
【0044】
シート部に含まれる水溶性高分子の重量(質量)平均分子量は5000以上100,000以下であることが好ましく、10,000以上100,000以下であることがより好ましく、30,000以上90,000以下であることがさらに好ましい。
【0045】
シート部は二糖類を含有してもよい。二糖類は、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハースまたはセロビオースなどが挙げられ、特にスクロースが好ましい。
【0046】
特に好ましくは、針部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含み、シート部が、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む、マイクロニードルアレイを使用することができる。
【0047】
マイクロニードルアレイは、シート部の上面側に、アレイ状に配置された複数の針部から構成される。針部は、先端を有する凸状構造物であって、鋭い先端を有する針形状に限定されるものではなく、先端は先の尖っていない形状でもよい。
針部の形状は、特に限定されず、円錐状、多角錐状(四角錐状など)、または紡錘状などが挙げられる。例えば、
図1~
図8に示す針部112のような形状を有し、針部の全体の形状が、円錐状または多角錐状(四角錐状など)であってもよいし、針部側面の傾き(角度)を連続的に変化させた構造であってもよい。また、針部側面の傾き(角度)が非連続的に変化する、二層またはそれ以上の多層構造をとることもできる。
マイクロニードルアレイを皮膚に適用した場合、針部が皮膚に挿入され、シート部の上面またはその一部が皮膚に接するようになることが好ましい。
【0048】
シート部と複数の針部との間に複数の錐台部とを有する場合、針部はシート部の上面に配置された錐台部の上面に配置されている。この態様では、針部の先端領域は水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種および不活化日本脳炎ウイルスを含み、錐台部及びシート部は水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。針部およびシート部に含まれる水溶性高分子は同一でも、異なるものでもよい。
【0049】
錐台部(ただし、錐台部が存在しない場合には針部)とシート部の界面を基底部と呼ぶ。1つの針部の基底における最も遠い点間の距離が、50μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上1500μm以下であることがより好ましく、200μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
[塗布型マイクロニードルアレイ]
塗布型マイクロニードルアレイにおいて、針部の高さ(長さ)、針部の本数、針部の間隔、針部全体における不活化日本脳炎ウイルスの含有量、マイクロニードルアレイ1枚あたりの不活化日本脳炎ウイルスの含有量、シート部の面積、シート部の厚さ、針部の形状、錐台部の有無などは、自己溶解型マイクロニードルアレイと同様に設定できる。
【0051】
塗布型マイクロニードルアレイの針部およびシート部の材料として、自己溶解型マイクロニードルアレイと同一の材料を用いることもできるが、無機材料および樹脂材料の少なくとも一つから構成されるのが好ましい。無機材料として、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、チタン、ニッケル、モリブデン、クロム、コバルト、銅、鉛、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、錫、金、銀などの金属、およびそれらの合金が挙げられる。また、樹脂材料として、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸-co-ポリグリコリド、プルラン、カプロノラクトン、ポリウレタン、ポリ無水物などの生分解性ポリマー; ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などの非分解性ポリマーなどが挙げられる。
【0052】
針部の表面に不活化日本脳炎ウイルスを薄く塗布できるように、表面が濡れやすくする表面処理が施されてもよい。濡れ性を高くする処理は、例えば、表面を粗くする処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0053】
[マイクロニードルアレイの好ましい形態]
以下、添付の図面に従って、本発明の好ましい形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0054】
図1~
図8は、マイクロニードルアレイの一部拡大図であるマイクロニードル110を示している。マイクロニードルアレイは、シート部116の表面に複数個の針部112が形成されることで、構成される(図においては、シート部116上に1つの針部112のみ、あるいは1つの錘台部113と1つの針部112を表示し、これをマイクロニードル110と称する)。針部112は、シート部116の表面から針部112へ向かって細くなるように形成されている。針部112は、頂部方向へ全体として細くなるように突出していればその形状は限定されず、例えば、角数の異なる他の角錐や、円錐で形成されてもよい。
【0055】
図1Aにおいて、針部112は円錐状の形状を有し、
図1Bにおいて、針部112は四角錐状の形状を有している。
図1Cにおいて、Hは針部112の高さを、Wは針部112の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0056】
図2及び
図3は、シート部116の表面に、錐台部113及び針部112が形成された別の形状を有するマイクロニードル110を示している。
図2において、錐台部113は、円錐台の形状を有し、針部112は円錐の形状を有している。また、
図3において、錐台部113は、四角錐台の形状を有し、針部112は四角錐の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
【0057】
図4は、
図2及び
図3に示されるマイクロニードル110の断面図である。
図4において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0058】
マイクロニードルアレイは、
図1Cのマイクロニードル110の形状より、
図4のマイクロニードル110の形状とすることが好ましい。このような構造をとることで、針部全体の体積が大きくなり、マイクロニードルアレイの製造時において、より多くの不活化日本脳炎ウイルスを針部の上端に集中させることができる。
【0059】
図5及び
図6は、さらに別の形状を有するマイクロニードル110を示している。
【0060】
図5に示される針部第1層112Aは円錐状の形状を有し、針部第2層112Bは円柱状の形状を有している。
図6に示される針部第1層112Aは四角錐状の形状を有し、針部第2層112Bは四角柱状の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
【0061】
針部112の頂部の先端の形状は、皮膚を穿刺して角質層に貫通孔を設けることが可能であれば特に限定されない。針部112の頂部21は、完全な頂点でなくてもよく、皮膚を穿刺可能な程度の曲面または平面を有してもよい。
【0062】
図7は、
図5及び
図6に示されるマイクロニードル110の断面図である。
図7において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0063】
図8は、針部112の側面の傾き(角度)が連続的に変化した別の形状のマイクロニードルの断面図である。
図8において、Hは針部112の高さを、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0064】
マイクロニードルアレイにおいて、針部は、横列について1mm当たり約0.1~10本の間隔で配置されていることが好ましい。マイクロニードルアレイは、1cm2当たり1~10000本のマイクロニードルを有することがより好ましい。マイクロニードルの密度を1本/cm2以上とすることにより効率良く皮膚を穿孔することができ、またマイクロニードルの密度を10000本/cm2以下とすることにより、マイクロニードルアレイが十分に穿刺することが可能になる。針部の密度は、好ましくは10~5000本/cm2であり、さらに好ましくは25~1000本/cm2であり、特に好ましくは25~400本/cm2である。
【0065】
マイクロニードルアレイは、乾燥剤と一緒に密閉保存されている形態で供給することができる。乾燥剤としては、公知の乾燥剤(例えば、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム、シリカアルミナ、シート状乾燥剤など)を使用することができる。
【0066】
[自己溶解型マイクロニードルアレイの製造方法]
自己溶解型マイクロニードルアレイは、例えば、特開2013-153866号公報または国際公開WO2014/077242号公報に記載の方法に準じて以下の方法により製造することができる。
【0067】
自己溶解型マイクロニードルアレイの製造方法としては、特に限定されないが、(1)モールドの製造工程、(2)水溶性高分子および二糖類の少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を調製する工程、(3)(2)で得た溶液をモールドに充填し、針部先端領域を形成する工程、(4)水溶性高分子および二糖類の少なくとも一種を含む溶液をモールドに充填し、針部の残部、(所望により錐台部)、及びシート部を形成する工程、(5)モールドから剥離する工程、を含む製造方法によって得ることが好ましい。
【0068】
(モールドの作製)
図9Aから9Cは、モールド(型)の作製の工程図である。
図9Aに示すように、モールドを作製するための原版を先ず作製する。この原版11の作製方法は2種類ある。
【0069】
1番目の方法は、Si基板上にフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行う。そして、RIE(リアクティブイオンエッチング)などによるエッチングを行うことにより、原版11の表面に円錐の形状部(凸部)12のアレイを作製する。尚、原版11の表面に円錐の形状部を形成するようにRIEなどのエッチングを行う際には、Si基板を回転させながら斜め方向からのエッチングを行うことにより、円錐の形状を形成することが可能である。2番目の方法は、Niなどの金属基板に、ダイヤモンドバイトなどの切削工具を用いた加工により、原版11の表面に四角錘などの形状部12のアレイを形成する方法がある。
【0070】
次に、モールドの作製を行う。具体的には、
図9Bに示すように、原版11よりモールド13を作製する。方法としては以下の4つの方法が考えられる。
1番目の方法は、原版11にPDMS(ポリジメチルシロキサン、例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標))に硬化剤を添加したシリコーン樹脂を流し込み、100℃で加熱処理し硬化した後に、原版11より剥離する方法である。2番目の方法は、紫外線を照射することにより硬化するUV(Ultraviolet)硬化樹脂を原版11に流し込み、窒素雰囲気中で紫外線を照射した後に、原版11より剥離する方法である。3番目の方法は、ポリスチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)などのプラスチック樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液を剥離剤の塗布された原版11に流し込み、乾燥させることにより有機溶剤を揮発させて硬化させた後に、原版11より剥離する方法である。4番目の方法は、Ni電鋳により反転品を作成する方法である。
【0071】
これにより、原版11の円錐形または角錐形の反転形状である針状凹部15が2次元配列で配列されたモールド13が作製される。このようにして作製されたモールド13を
図9Cに示す。
【0072】
図10は他の好ましいモールド13の態様を示したものである。針状凹部15は、モールド13の表面から深さ方向に狭くなるテーパ状の入口部15Aと、深さ方向に先細りの先端凹部15Bとを備えている。入口部15Aをテーパ形状とすることで、溶液を針状凹部15に充填しやすくなる。
【0073】
図11は、マイクロニードルアレイの製造を行う上で、より好ましいモールド複合体18の態様を示したものである。
図11中、(A)部はモールド複合体18を示す。
図11中、(B)部は、(A)部のうち、円で囲まれた部分の拡大図である。
【0074】
図11の(A)部に示すように、モールド複合体18は、針状凹部15の先端(底)に空気抜き孔15Cが形成されたモールド13、及び、モールド13の裏面に貼り合わされ、気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19と、を備える。空気抜き孔15Cは、モールド13の裏面を貫通する貫通孔として形成される。ここで、モールド13の裏面とは、空気抜き孔15Cが形成された側の面を言う。これにより、針状凹部15の先端は空気抜き孔15C、及び気体透過シート19を介して大気と連通する。
このようなモールド複合体18を使用することで、針状凹部15に充填される溶液は透過せず、針状凹部15に存在する空気のみを針状凹部15から追い出すことができる。これにより、針状凹部15の形状を高分子に転写する転写性が良くなり、よりシャープな針部を形成することができる。
【0075】
空気抜き孔15Cの径D(直径)としては、1~50μmの範囲が好ましい。空気抜き孔15Cの径Dが1μm未満の場合、空気抜き孔としての役目を十分に果たせない。また、空気抜き孔15Cの径Dが50μmを超える場合、成形されたマイクロニードルの先端部のシャープ性が損なわれる。
【0076】
気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19としては、例えば気体透過性フィルム(住友電気工業社製、ポアフロン(登録商標)、FP-010)を好適に使用できる。
【0077】
モールド13に用いる材料としては、弾性素材または金属製素材を用いることができ、弾性素材が好ましく、気体透過性の高い素材が更に好ましい。気体透過性の代表である酸素透過性は、1×10-12(mL/s・m2・Pa)以上が好ましく、1×10-10(mL/s・m2・Pa)以上がさらに好ましい。なお、1mLは、10-6 m3である。気体透過性を上記範囲とすることにより、モールド13の凹部に存在する空気を型側から追い出すことができ、欠陥の少ないマイクロニードルアレイを製造することができる。このような材料として、具体的には、シリコーン樹脂(例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標)、信越化学工業株式会社のKE-1310ST(品番))、紫外線硬化樹脂、プラスチック樹脂(例えば、ポリスチレン、PMMA(ポリメチルメタクリレート))を溶融、または溶剤に溶解させたものなどを挙げることができる。これらの中でもシリコーンゴム系の素材は、繰り返し加圧による転写に耐久性があり、かつ素材との剥離性がよいため好ましい。また、金属製素材としては、Ni、Cu、Cr、Mo、W、Ir、Tr、Fe、Co、MgO、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、α-酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム、ステンレス(例えば、ボーラー・ウッデホルム社(Bohler-Uddeholm KK)のスタバックス材(STAVAX)(商標))などやその合金を挙げることができる。枠14の材質としては、モールド13の材質と同様の材質のものを用いることができる。
【0078】
(溶液)
本発明においては、
(i)針部の一部である針部先端領域を形成するための、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルス、および界面活性剤を含む容液、並びに、
(ii)針部のうちの針部先端領域以外の針部根元領域とシート部(または針部のうちの針部先端領域以外の針部根元領域と、錐台部と、シート部)とを形成するための、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液、
を準備することが好ましい。
【0079】
水溶性高分子、二糖類、および界面活性剤の種類は、本明細書上記した通りである。
上記溶液中の、水溶性高分子または二糖類の濃度は、使用する物質の種類によっても異なるが、一般的には1~50質量%であることが好ましい。また、溶解に用いる溶媒は、水以外であっても揮発性を有するものであればよく、メチルエチルケトン(MEK)、アルコールなどを用いることができる。
【0080】
(針部先端領域の形成)
図12Aに示すように、2次元配列された針状凹部15を有するモールド13が、基台20の上に配置される。モールド13には、5×5の2次元配列された、2組の複数の針状凹部15が形成されている。不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を収容するタンク30、タンクに接続される配管32、及び、配管32の先端に接続されたノズル34、を有する液供給装置36が準備される。なお、本例では、針状凹部15が5×5で2次元配列されている場合を例示しているが、針状凹部15の個数は5×5に限定されるものではなく、M×N(M及びNはそれぞれ独立に1以上の任意の整数を示し、好ましくは2~30、より好ましくは3~25、さらに好ましくは3~20である)で2次元配列されていればよい。
【0081】
図13はノズルの先端部の概略斜視図を示している。
図13に示すように、ノズル34の先端には平坦面であるリップ部34A及びスリット形状の開口部34Bを備えている。スリット形状の開口部34Bにより、例えば、1列を構成する複数の針状凹部15に同時に、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を充填することが可能となる。開口部34Bの大きさ(長さと幅)は、一度に充填すべき針状凹部15の数に応じて適宜選択される。開口部34Bの長さを長くすることで、より多くの針状凹部15に一度に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を充填することができる。これにより、生産性を向上させることが可能となる。
【0082】
ノズル34に用いる材料としては、弾性素材または金属製素材を用いることができる。例えば、テフロン(登録商標)、ステンレス鋼(SUS(Steel Use Stainless))、チタンなどが挙げられる。
【0083】
図12Bに示すように、ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とは接触している。液供給装置36から不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22がモールド13に供給され、ノズル34の開口部34Bから不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が針状凹部15に充填される。本実施形態では、1列を構成する複数の針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が同時に充填される。ただし、これに限定されず、針状凹部15に一つずつ充填するようにすることもできる。
【0084】
モールド13が気体透過性を有する素材で構成される場合、モールド13の裏面から吸引することで不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を吸引でき、針状凹部15内への不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22の充填を促進させることができる。
【0085】
図12Bを参照して充填工程に次いで、
図12Cに示すように、ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させながら、開口部34Bの長さ方向と垂直方向に液供給装置36を相対的に移動し、ノズル34を、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が充填されていない針状凹部15に移動する。ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。本実施の形態では、ノズル34を移動させる例で説明したが、モールド13を移動させてもよい。
【0086】
ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させて移動しているので、ノズル34がモールド13の針状凹部15以外の表面に残る不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を掻き取ることができる。不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22をモールド13の針状凹部15以外に残らないようにすることができる。
【0087】
モールド13へのダメージを減らすことと、モールド13の圧縮による変形をできるだけ抑制するため、移動する際のノズル34のモールド13への押付け圧はできる限り小さい方が好ましい。また、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22がモールド13の針状凹部15以外に残らないようにするため、モールド13もしくはノズル34の少なくとも一方がフレキシブルな弾性変形する素材であることが望ましい。
【0088】
図12Bの充填工程と、
図12Cの移動工程とを繰り返すことで、5×5の2次元配列された針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が充填される。5×5の2次元配列された針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が充填されると、隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15に液供給装置36を移動し、
図12Bの充填工程と、
図12Cの移動工程とを繰り返す。隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15にも不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が充填される。
【0089】
上述の充填工程と移動工程について、(1)ノズル34を移動しながら不活化日本脳炎ウイルスを含む水溶液22を針状凹部15に充填する態様でもよいし、(2)ノズル34の移動中に針状凹部15の上でノズル34を一旦静止して不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を充填し、充填後にノズル34を再度移動させる態様でもよい。充填工程と移動工程との間、ノズル34のリップ部34Aがモールド13の表面に接触している。
【0090】
図14は、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を針状凹部15に充填中におけるノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。
図15に示すように、ノズル34内に加圧力P1を加えることで、針状凹部15内へ不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を充填するのを促進することができる。さらに、針状凹部15内へ不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を充填する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2を、ノズル34内の加圧力P1以上とすることが好ましい。押付け力P2≧加圧力P1とすることにより、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22が針状凹部15からモールド13の表面に漏れ出すのを抑制することができる。
【0091】
図15は、ノズル34の移動中における、ノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。ノズル34をモールド13に対して相対的に移動する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P3を、充填中のノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2より小さくすることが好ましい。モールド13へのダメージを減らし、モールド13の圧縮による変形を抑制するためである。
【0092】
5×5で構成される複数の針状凹部15への充填が完了すると、ノズル34は、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動される。液供給に関して、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動する際、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22の供給を停止するのが好ましい。5列目の針状凹部15から次の1列目の針状凹部15までは距離がある。その間をノズル34が移動する間、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を供給し続けると、ノズル34内の液圧が高くなりすぎる場合がある。その結果、ノズル34から不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22がモールド13の針状凹部15以外に流れ出る場合があり、これを抑制するため、ノズル34内の液圧を検出し、液圧が高くなりすぎると判定した際には不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22の供給を停止するのが好ましい。
【0093】
なお、上記においてはノズルを有するディスペンサーを用いて不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を供給する方法を説明したが、ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することもできる。
【0094】
本発明においては、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を針状凹部に供給した後、乾燥処理を実施することが好ましい。
好ましくは、マイクロニードルアレイは、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を充填した針部形成用モールドを、乾燥することによって針部の一部を形成する工程;及び、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液を、上記で形成された針部の一部の上面に充填して乾燥する工程によって製造することができる。
【0095】
不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を充填した針部形成用モールドを乾燥する際の条件としては、乾燥開始後30分から300分間経過してから、上記溶液の含水率が20%以下に到達する条件であることが好ましい。
特に好ましくは、上記の乾燥は、不活化日本脳炎ウイルスが失効しない温度以下に保ち、かつ乾燥開始後60分以上経過してから、溶液の含水率が20%以下に到達するように制御することができる。
【0096】
上記した乾燥速度の制御の方法としては、例えば、温度、湿度、乾燥風量、容器の使用、容器の容積及び/または形状など、乾燥を遅らすことが可能な任意の手段を取ることができる。
【0097】
乾燥は、好ましくは、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を充填した針部形成用モールドを、容器を被せた状態または容器に収容した状態で、行うことができる。
乾燥の際の温度は、好ましくは1~45℃であり、より好ましくは1~40℃である。
乾燥の際の相対湿度は、好ましくは10~95%であり、より好ましくは20~95%であり、さらに好ましくは30~95%である。
【0098】
(シート部の形成)
シート部を形成する工程について、いくつかの態様を説明する。
シート部を形成する工程について、第1の態様について
図16Aから
図16Dを参照して説明する。モールド13の針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22をノズル34から充填する。次いで、
図16Bに示すように、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を乾燥固化させることで、針状凹部15内に不活化日本脳炎ウイルスを含む層120が形成される。次いで、
図16Cに示すように、不活化日本脳炎ウイルスを含む層120が形成されたモールド13に、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液24をディスペンサーにより塗布する。ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することができる。不活化日本脳炎ウイルスを含む層120は固化されているので、不活化日本脳炎ウイルスが、上記溶液24に拡散するのを抑制することができる。次いで、
図17Dに示すように、上記溶液24を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及び、シート部116から構成されるマイクロニードルアレイ1が形成される。
【0099】
第1の態様において、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22、及び水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧、及び、モールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
【0100】
次に、第2の態様について
図17Aから17Cを参照して説明する。
図17Aに示すように、モールド13の針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22をノズル34から充填する。次いで、
図16Bと同様に、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22を乾燥固化させることで、不活化日本脳炎ウイルスを含む層120が針状凹部15内に形成される。次に、
図17Bに示すように、別の支持体29の上に、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液24を塗布する。支持体29は限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース、ガラスなどを使用することができる。次に、
図17Cに示すように、針状凹部15に不活化日本脳炎ウイルスを含む層120が形成されたモールド13に、支持体29の上に形成された上記溶液24を重ねる。これにより、上記溶液24を針状凹部15の内部に充填させる。不活化日本脳炎ウイルスを含む層は固化されているので、不活化日本脳炎ウイルスが、上記溶液24に拡散するのを抑制することができる。次に、上記溶液24を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及びシート部116から構成されるマイクロニードルアレイが形成される。
【0101】
第2の態様において、水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧及びモールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
【0102】
水溶性高分子および二糖類のうちの少なくとも一種を含む溶液24を乾燥させる方法として、溶液中の溶媒を揮発させる工程であればよい。その方法は特に限定するものではなく、例えば加熱、送風、減圧などの方法が用いられる。乾燥処理は、1~50℃で1~72時間の条件で行うことができる。送風の場合には、0.1~10m/秒の温風を吹き付ける方法が挙げられる。乾燥温度は、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液22内の不活化日本脳炎ウイルスを熱劣化させない温度であることが好ましい。
【0103】
(剥離)
マイクロニードルアレイをモールド13から剥離する方法は特に限定されない。剥離の際に針部が曲がったり折れたりしないことが好ましい。具体的には、
図18に示すように、マイクロニードルアレイの上に、粘着性の粘着層が形成されているシート状の基材40を付着させた後、端部から基材40をめくるように剥離を行うことができる。ただし、この方法では針部が曲がる可能性がある。そのため、
図19に示すように、マイクロニードルアレイの上の基材40に吸盤(図示せず)を設置し、エアーで吸引しながら垂直に引き上げる方法を適用することができる。なお、基材40として支持体29を使用してもよい。
【0104】
図20はモールド13から剥離されたマイクロニードルアレイ2を示している。マイクロニードルアレイ2は、基材40、基材40の上に形成された針部112、錐台部113及びシート部116で構成される。針部112は、円錐形状または多角錐形状を少なくとも先端に有しているが、針部112はこの形状に限定されるものではない。
【0105】
[塗布型マイクロニードルアレイの製造方法]
塗布型マイクロニードルアレイの製造方法は、シート部上に針部を形成することが可能であれば特に限定されないが、(1)マイクロニードルアレイを製造する工程、(2)不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を調製する工程、(3)不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液をマイクロニードルアレイに塗布する工程、を含む製造方法によって得ることが好ましい。
【0106】
塗布型マイクロニードルアレイを製造する方法として、自己溶解型マイクロニードルの製造方法も同様に用いることができる。具体的には、自己溶解型マイクロニードルの製造方法において、(2)水溶性高分子および二糖類の少なくとも一種、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を調製する工程、および(3)(2)で得た溶液をモールドに充填し、針部先端領域を形成する工程を省略して製造する。製造された自己溶解型マイクロニードルアレイに不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を塗布すればよい。
【0107】
塗布型マイクロニードルアレイを製造する方法として、材料に応じて、各種の公知技術を用いて製造することができる。例えば、射出成形、押出成形、インプリント、ホットエンボス、またはキャスティング等の成形技術によって、マイクロニードルアレイを形成することができる。例えば、マイクロニードルアレイの原版を形成し、原版の凹凸を反転させた凹版を作製して、凹版に熱可塑性樹脂を充填することによって、熱可塑性樹脂から構成されるマイクロニードルアレイを形成することができる。または、フォトリソグラフィ法、3Dプリンタを用いた造形方法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工技術を用いてマイクロニードルを形成することもできる。また、成形技術および精密機械加工技術の複数を組み合わせてマイクロニードルアレイを形成してもよい。
【0108】
不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を調製する工程では、溶媒として、微量に残留しても人体に害の少ない、水、エタノール、イソプロパノール、ジエチレングリコール、グリセリンのようなアルコール系などの水性溶媒を用いることができる。その他の溶媒として、脂肪族炭化水素系、トルエンのような芳香族炭化水素系、ハロゲン炭化水素系、酢酸エチル、酢酸プロピルのようなエステル系、ニトリル系、アミド系などの1種又は2種以上を混合して用いることができる。溶液には、針部表面に薬剤を塗布または担持させるために、高分子化合物および/または低分子化合物を混合させることが好ましい。例えば、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等の高分子化合物、塩化ナトリウムなどの塩類やグルコースなどの糖類等の低分子化合物が挙げられる。特にヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等が好ましい。
【0109】
不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液をマイクロニードルアレイに塗布する工程では、ノズルなどを介して溶液を吐出することにより針部に塗布するインクジェット法、ノズルなどを介して溶液を針部に塗布するディスペンサー法、針部を浸漬させて溶液を付着させる浸漬法(ディッピング法)などを用いることができる。これらの方法の中でも、針部先端領域に不活化日本脳炎ウイルスを集中的に塗布するために、浸漬法が有効である。
【0110】
浸漬法では、針部の頂部を下方に向けて溶液に浸漬させる。この後、針部を溶液から引き上げて、溶液の溶媒を蒸発させることで針部表面に不活化日本脳炎ウイルスを含む層が形成される。針部を浸漬させる深さ、時間などを調節することで、不活化日本脳炎ウイルスの塗布量を調整することができる。
【0111】
[マイクロニードルアレイの投与及びマイクロニードルアレイの用途]
本発明はさらに、シート部と、シート部の上面に存在する複数の針部とを有するマイクロニードルアレイであって、上記針部が不活化日本脳炎ウイルスを内包又は担持しているマイクロニードルアレイ(以下、マイクロニードルアレイと言う)を、対象に投与することを含む、日本脳炎の予防方法に関する、
本発明はさらに、マイクロニードルアレイを、対象に投与することを含む、日本脳炎に対する免疫を付与する方法に関する。
【0112】
マイクロニードルアレイの投与の対象は、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
マイクロニードルアレイの好ましい形態、マイクロニードルアレイの好ましい投与量は、本明細書中上記した通りである。
マイクロニードルアレイの投与は、アプリケータを用いて行うこともできる。アプリケータは特に限定されないが、例えば、特開2018-191783、特開2019-097885号公報などに記載されている形態のものを使用することができる。
【0113】
本発明はさらに、日本脳炎を予防するための処置において使用するための上記マイクロニードルアレイ、並びに日本脳炎に対する免疫を付与するための処置において使用するための上記マイクロニードルアレイに関する。
本発明はさらに、日本脳炎予防剤の製造のための上記マイクロニードルアレイの使用、並びに日本脳炎ワクチン剤の製造のための、上記マイクロニードルアレイの使用に関する。
マイクロニードルアレイの好ましい形態は、本明細書中上記した通りである。
【0114】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例0115】
実施例における略号は以下を意味する。
HES:ヒドロキシエチルスターチ70000(Fresenius Kabi株式会社)(重量平均分子量は70000)
DEX:デキストラン70000(名糖産業株式会社)(重量平均分子量は70000)
CS:コンドロイチン硫酸ナトリウム(マルハニチロ株式会社)(重量平均分子量は90000)
Suc:精製白糖(スクロース)(富士フイルム和光純薬株式会社)
GluNa:L-グルタミン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)
Tw:Tween 80(Seppic)
EMEM:イーグル最小必須培地
FBS:ウシ胎児血清
CPE:細胞変性効果
MNA-H:マイクロニードル日本脳炎ワクチン高用量
MNA-L:マイクロニードル日本脳炎ワクチン低用量
SC:皮下注射日本脳炎ワクチン
ICDRG:国際接触皮膚炎研究班
IgG:免疫グロブリンG
BSA:ウシ血清アルブミン
PBS:リン酸緩衝食塩水
DPBS:ダルベッコのリン酸緩衝食塩水
Tris:トリスヒドロキシメチルアミノメタン
HRP:西洋ワサビペルオキシダーゼ
TMB:テトラメチルベンジジン
HIV:ヒト免疫不全ウイルス
HBs:B型肝炎ウイルス表面抗原
HCV:C型肝炎ウイルス
TP:梅毒トレポネーマ
HTLV-1:ヒトT細胞白血病ウイルス1型
【0116】
<マイクロニードルアレイの製造>
(モールドの製造)
一辺40mmの平滑なNi板の表面に、
図21に示すような、底面が500μmの直径D1で、150μmの高さH1の円錐台50上に、300μmの直径D2で、500μmの高さH2の円錐52が形成された針状構造の形状部12を、1000μmのピッチL1にて四角形状に100本の針を2次元正方配列に研削加工することで、原版11を作製した。この原版11の上に、シリコンゴム(ダウ・コーニング社製SILASTIC MDX4-4210)を0.6mmの厚みで膜を形成し、膜面から原版11の円錐先端部50μmを突出させた状態で熱硬化させ、剥離した。これにより、約30μmの直径の貫通孔を有するシリコンゴムの反転品を作製した。このシリコンゴム反転品の、中央部に10列×10行の2次元配列された針状凹部が形成された、一辺30mmの平面部外を切り落としたものをモールドとして用いた。針状凹部の開口部が広い方をモールドの表面とし、30μmの直径の貫通孔(空気抜き孔)を有する面をモールドの裏面とした。
【0117】
(不活化日本脳炎ウイルスを含む水溶液(I液とも言う)の調製)
日本脳炎ワクチン原液(阪大微生物病研究会より提供)を遠心限外濾過法によって濃縮した後、水溶性高分子、精製白糖(スクロース)(富士フイルム和光純薬株式会社)、L-グルタミン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)、界面活性剤と混合した。各成分の使用量は表1及び表4に示す。なお、表1及び表4における各成分の量は、マイクロニードルアレイ1枚当たりの量である。マイクロニードルアレイ1枚の面積は、1cm2である。
【0118】
(シート部を形成する溶液(II液とも言う)の調製)
ヒドロキシエチルデンプン70000(HES、Fresenius Kabi株式会社)を水に溶解して、HESの56質量%水溶液を調製した。使用量は表1に示す。
また、DEX及びCSを比率(質量比)7:3において水に溶解して、DEX及びCSの水溶液を調製した。使用量は表4に示す。
なお、表1及び表4における各成分の量は、マイクロニードルアレイ1枚当たりの量である。マイクロニードルアレイ1枚の面積は、1cm2である。
【0119】
(不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液の充填及び乾燥)
図22に示す充填装置を使用した。充填装置は、モールドとノズルの相対位置座標を制御するX軸駆動部61及びZ軸駆動部62、ノズル63を取り付け可能な液供給装置64(武蔵エンジニアリング社製超微量定量ディスペンサーSMP-III)、モールド69を固定する吸引台65、モールド表面形状を測定するレーザー変位計66(パナソニック社製HL-C201A)、ノズル押し込み圧力を測定するロードセル67(共和電業製LCX-A-500N)、及び表面形状及び押し付け圧力の測定値のデータを基にZ軸を制御する制御機構68を備える。
【0120】
水平な吸引台上に一辺15mmの気体透過性フィルム(住友電気工業社製、ポアフロン(登録商標)、FP-010)を置き、その上に表面が上になるようにモールドを設置した。モールド裏面方向からゲージ圧90kPaの吸引圧で減圧して、気体透過性フィルムとモールドをバキューム台に固定した。
【0121】
図13に示すような形状のSUS製(ステンレス鋼)のノズルを準備し、長さ20mm、幅2mmのリップ部の中央に、長さ12mm、幅0.2mmのスリット状の開口部を形成した。このノズルを液供給装置に接続した。3mLの不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を、液供給装置とノズル内部に装填した。開口部を、モールドの表面に形成された複数の針状凹部で構成される1列目と平行となるようにノズルを調整した。1列目に対して2列目と反対方向に2mmの間隔をおいた位置で、ノズルを1.372×10
4Pa(0.14kgf/cm
2)の圧力でモールドに押し付けた。ノズルを押し付けたまま、押し付け圧の変動が±0.490×10
4Pa(0.05kgf/cm
2)に収まるようにZ軸を制御しつつ、0.5mm/秒で開口部の長さ方向と垂直方向に移動させながら、液供給装置にて、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を、0.15μL/秒で20秒間、開口部から放出した。2次元配列された複数の針状凹部の孔パターンを通過して、2mm間隔を置いた位置でノズルの移動を停止し、ノズルをモールドから離した。
【0122】
不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を充填したモールドを、23℃、45%の環境下でフタ(箱)内に収め、乾燥した。このとき、不活化日本脳炎ウイルス含む溶液は、徐々に乾燥され、180分以上経過した後に、含水率が20%以下となる。また乾燥の手段は、フタに限定されるものではなく、温湿度制御や風量制御などの他の手段を用いても良い。
【0123】
(シート部の形成及び乾燥)
シート部を形成する支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(175μm)をクラウドリムーバー(Victor jvc社)を用いて、以下条件(使用ガス:O2、ガス圧:13Pa、高周波(RF)電力:100W、照射時間:3分、O2流量:SV250、目標真空度(CCG):2.0×10-4Pa)にて親水化プラズマ処理したものを用いる。処理を施したPET上に、シート部を形成する溶液を、表裏面を75μmの膜厚で塗布した。一方で、不活化日本脳炎ウイルスを含む溶液を充填したモールドを吸引台に吸引固定した。シート部を形成する溶液を塗布したPETの表面側を、モールド表面を向かい合わせに配置し、更にPETとモールド間の空隙、また、PETのモールドと反対側の空間を2分間減圧した。減圧後、PETのモールドと反対側の空間のみ大気圧開放することで、シート部を形成する溶液を塗布したPETと、モールドを貼り合せた。10分間接触状態を維持した後、PETとモールドが貼り合わさって一体となったものを23℃、45%(相対湿度)の環境下で乾燥させた。
【0124】
(剥離工程)
乾燥固化したマイクロニードルアレイをモールドから慎重に剥離することで、不活化日本脳炎ウイルスを内包したマイクロニードルアレイが形成された。本マイクロニードルは、錘台部と針部から構成されており、針状凸部の長さLが約800μm、基底部の幅:約350μm、錘台部が、高さ約190μm、上底面直径約350μm、下底面直径約700μmの円錐台構造であり、針本数109本、針の間隔約1mmで配置されている。
【0125】
<試験1:日本脳炎予防剤のヒト臨床試験>
(実施場所)
北海道大学病院
【0126】
(研究のデザイン)
無作為化比較、非盲検、実薬対照、並行群間比較
【0127】
(被験者)
20~35歳の日本脳炎ウイルスに対する抗体を有しない健常成人39例
13例1群として、MNA-H、MNA-L、SCの3群にブロックランダム化にて無作為割付した。
除外基準は以下の状況を含む:明らかな発熱(37.5℃以上)を呈している;投与部位に投与の支障となり得る皮膚疾患を有する;免疫不全疾患(エイズ、原発性免疫不全症等)を有する;過去に日本脳炎ワクチン予防接種を受けたことがある;過去に日本脳炎に罹患したことがある;他のワクチン接種によってアナフィラキシーを呈したことがある;過去にけいれんの既往がある;重篤な急性疾患に罹患している;投与開始前6日以内に不活化ワクチンの接種を受けた;投与開始前27日以内に生ワクチンの接種を受けた;投与開始前90日以内に輸血あるいはγグロブリン製剤の投与を受けた;スクリーニング時の免疫血清学的検査で日本脳炎ウイルス中和抗体価が陽性である;スクリーニング時の感染症検査でHIV抗原・抗体、HBs抗原、HCV抗体、TP抗体、HTLV-1抗体いずれかが陽性である;(女性で)妊婦又は妊娠している可能性がある、本研究期間中に妊娠を希望している、授乳中、本研究期間中に子宮内装具又はバリア法(ペッサリー、コンドーム)などの機械的避妊具の使用、及びそれらを組み合わせるなどの方法で避妊することが困難;医師が本研究への参加を不適当と判断した。
【0128】
(試験方法)
MNA-H:不活化日本脳炎ウイルスを0.63μg含有
MNA-L:不活化日本脳炎ウイルスを0.25μg含有
SC:不活化日本脳炎ウイルスを2.5μg含有(ジェービックV、一般財団法人阪大微生物病研究会)
MNA-H群及びMNA-L群は、マイクロニードルアレイを初回(0週)1枚、3週後1枚を上腕部にアプリケータを用いて貼付投与した。SC群はジェービックVを初回(0週)1回、3週後1回を上腕部に皮下注射した。
【0129】
(検査項目)
有効性の評価として、スクリーニング時、初回投与時(0週)、初回投与2週後、2回目投与時(初回投与3週後)、初回投与6週後、初回投与27週後において免疫血清学的検査(中和抗体価測定)を行った。安全性の評価として、スクリーニング時、初回投与時(0週)、初回投与2日後、初回投与2週後、2回目投与時(初回投与3週後)、初回投与6週後、初回投与27週後に血液学的検査、生化学的検査及び前述観察時期に加えて初回投与15週後に投与部位の自他覚症状を確認した。
【0130】
(倫理面への配慮)
本臨床研究は北海道大学病院認定臨床研究審査委員会の承認を受けた特定臨床研究であり、また、施行時には研究の内容を十分に説明した上で、文書によるインフォームドコンセントを得て行った。
【0131】
(安全性)
本臨床研究において、重大な副反応(ショック、アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎、けいれん、血小板減少性紫斑病、脳炎・脳症)は見られなかった。
【0132】
(有効性の評価)
被験者の血清中に含まれる中和抗体を、以下に示すCPEマイクロプレート法を用いて測定した。
【0133】
Vero細胞播種:
トリプシン処理したVero細胞を、細胞培養用EMEM培地(Gibco、+10%FBS、+カナマイシン)を用いて2.0×105cells/mLに調整したものを細胞懸濁液とした。細胞懸濁液を細胞培養用マイクロプレート(IWAKI 96well plate flat、AGCテクノグラス)に100μLずつ播種し、CO2インキュベーターで1日培養した(37℃、5%CO2)。
【0134】
血清サンプルの調製:
被験者の血清は56℃で30分間加熱して非働化した。血清希釈用マイクロプレート(IWAKI 96well plate round、AGCテクノグラス)上で、すべてのwellが20μLになるようにEMEM培地(Gibco、+2%FBS)を用いて10倍~10240倍の2倍段階希釈系列を作製した。
【0135】
中和反応:
攻撃ウイルスとして、EMEM培地(Gibco、+2%FBS)を用いて4.0×103pfu/mLになるように調製した日本脳炎ウイルス北京株(国立感染症研究所)を、上記血清希釈用マイクロプレートに20μL/wellずつ加えてCO2インキュベーターで1.5時間中和反応させた(37℃、5%CO2)。
【0136】
ベロ細胞への感染実験:
上記中和反応させた血清と攻撃ウイルスの混合液を、上記細胞培養用マイクロプレートに25μL/wellずつ播種し、CO2インキュベーターで6日間培養した(37℃、5%CO2)。
【0137】
細胞固定及び染色:
上記細胞培養用マイクロプレートにホルマリン液を40μL/wellずつ加え、2時間以上静置した。その後ホルマリン液を除去し、水道水でプレートを洗浄後、0.02%メチレンブルー染色液を100μL/wellずつ添加して1時間以上静置し、細胞を染色した。攻撃ウイルスによるCPEを50%以上防いだ上記血清の最高希釈倍の常用対数を中和抗体価とした。10倍未満の場合は5(常用対数は0.7)として扱った。
【0138】
【0139】
(試験1の結果)
39人の被験者は、条件を満たしランダム化された。投与前においてSC群、MNA-L群、MNA-H群はいずれも血清中の中和抗体価が0.7であった(表2)。血清中の中和抗体価が1.3以上になった被験者を陽転とし,陽転率を算出した。初回投与2週後において、MNA-H群は100%が陽転したものの、SC群では陽転率が46%、MNA-L群では陽転率が54%であった。初回投与6週後において、全ての群で100%の陽転率が得られた。
【0140】
【0141】
(各被験者における不活化日本脳炎ウイルスの投与量の測定)
日本脳炎ウイルスEnvelopeタンパク質特異的IgG抗体(一般財団法人阪大微生物病研究会)を固相化Buffer(0.05mol/L炭酸水素塩緩衝液)で3100倍に希釈し、その液を96well Microlon half areaプレートの使用するwellに50μLずつ入れた。そのプレートを4℃で一晩以上静置し固相化プレートとした。
【0142】
検体については投与後のマイクロニードルアレイを希釈Buffer(DPBS+BSA0.1%+Tw0.5%)に溶解したものを試料溶液とした。希釈Buffer 218 μLに標準抗原(一般財団法人阪大微生物病研究会)30μLを加えたものを標準溶液原液とし、希釈Bufferを用いて標準溶液原液を10倍、16.6倍、50倍、100倍、500倍希釈したものをそれぞれ標準溶液とした。
【0143】
PBS-T(DPBS+0.05%Tween20)で固相化プレートを3回洗浄した。12チャンネルマイクロピペットを用いて試料溶液及び標準溶液が入った添加用丸底プレートから100μLずつ固相化プレートの同じ位置に移注し、37℃で60分間反応させた。反応終了後、PBS-Tで固相化プレートを4回洗浄し、HRP標識日本脳炎ウイルスEnvelopeタンパク質特異的IgG抗体(一般財団法人阪大微生物病研究会)をFBSが10%となるようにPBS-Tを加えたもので11000倍に希釈した液を100 μLずつ入れ、37℃で60分間反応させた。反応終了後、PBS-Tでプレートを洗浄し、TMBを全wellに80μLずつ入れ、遮光して室温で15分間反応させた。15分後、反応停止液(0.5mol/L H
2SO
4)を全wellに80μLずつ入れ、プレートリーダーを用いて吸光度450nm(リファレンス620nm)を測定した。
上記により各被験者における不活化日本脳炎ウイルスの投与量を測定した結果を
図23に示す。
【0144】
<試験2:日本脳炎予防剤の動物に対する中和抗体産生試験>
(マウスへのワクチン投与試験)
マウス(Balb/c(日本クレア社)、メス、7週齢)を購入し、1週間の馴化の後、日本脳炎予防剤の投与試験を行った。初回投与として適切に希釈したジェービックVをマウスの頸背部に100μL皮下投与した。その後、15日間飼育を続け、2回目投与としてマイクロニードルアレイ群は麻酔下でマウスの背面を除毛した後、皮膚を引き伸ばした状態でマイクロニードルアレイ(処方は表4に示す)を10分間穿刺した。皮下注射群は適切に希釈したジェービックVをマウスの頸背部に100μL皮下投与した。すべての試験は4匹で実施した。
【0145】
(有効性の評価)
投与後、1週間飼育したマウスを麻酔下で開腹し、後部大静脈より採血を行った。室温で静置した血液を遠心分離にかけ、上清を採取することで血清を得た。得られた血清中に含まれる日本脳炎ウイルスに特異的な抗体(IgG)の量を、下記の手法で測定した。
【0146】
(IgG抗体産生量の測定)
Microlonプレート(平底、96well)に、日本脳炎ワクチンを25μL/well分注し、シールにて4℃で終夜静置した。静置後、PBST(Gibco PBS+0.05%Tw)で4回洗浄した。その後、ブロッキング液(50mmol/L Tris(pH8.0)+1%BSA)を100μL/well滴下し、室温で30分静置した。静置後、PBSTで4回洗浄した。洗浄後、希釈液(50mmol/L Tris(pH8.0)+1%BSA+0.05%Tw)で約10,000倍に希釈したサンプルを100μL/well滴下し、室温で1時間静置した。静置後、同様にPBSTで4回洗浄した。
【0147】
次に、希釈液で希釈したHRP標識抗mouse IgG抗体(500倍)を100μL/well滴下し、室温で1時間静置した。静置後、同様にPBSTで4回洗浄した。さらに、基質反応として、TMBを80μL/well滴下し、遮光下室温で15分間静置した。その後、ストップ液(1mol/L HCl)を80μL/well滴下した。
滴下後、λ=450nmの吸光度(リファレンス620nm)を測定することにより、吸光度の大きさでIgG抗体産生量を表した。4匹のマウスから得られた平均の結果を表3に示す。
【0148】