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特開2024-97592エビ目の生物におけるウイルス感染症に対する予防または治療用経口投与組成物
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  • 特開-エビ目の生物におけるウイルス感染症に対する予防または治療用経口投与組成物 図1
  • 特開-エビ目の生物におけるウイルス感染症に対する予防または治療用経口投与組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097592
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】エビ目の生物におけるウイルス感染症に対する予防または治療用経口投与組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20240711BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240711BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20240711BHJP
   A01K 61/59 20170101ALI20240711BHJP
   A23K 30/18 20160101ALI20240711BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P31/12
A23K50/80
A01K61/59
A23K30/18
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001146
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】桑原 弘
(72)【発明者】
【氏名】味方 和樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】廣野 育生
(72)【発明者】
【氏名】松本 紗奈
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 開
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
2B005GA06
2B005MB02
2B104AA18
2B104BA13
2B104CA01
2B150AC06
2B150EB03
4B065AA30X
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087CA10
4C087CA11
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】環境への影響および人への毒性が少なく、エビ目の生物におけるウイルス感染症を抑制することが可能な予防または治療用経口投与組成物、及び予防または治療する方法を提供すること。
【解決手段】ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する、エビ目の生物におけるウイルスによる病害に対する予防または治療用経口投与組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する、エビ目の生物におけるウイルスによる病害に対する予防または治療用経口投与組成物。
【請求項2】
ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療用経口投与組成物。
【請求項3】
前記ラクトバチラスプランタラムがNITE-BP-03201である、請求項1又は請求項2に記載の予防または治療用経口投与組成物。
【請求項4】
前記エビ目の生物がクルマエビ科の生物である、請求項1又は請求項2に記載の予防または治療用経口投与組成物。
【請求項5】
飼料又は飼料添加剤である、請求項1又は請求項2に記載の予防または治療用経口投与組成物。
【請求項6】
ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する組成物を、エビ目の生物に接種させることを含む、エビ目の生物におけるウイルスによる病害を予防または治療する方法。
【請求項7】
NITE-BP-03201の菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する組成物を、エビ目の生物に接種させることを含む、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症を予防または治療する方法。
【請求項8】
前記エビ目の生物がクルマエビ科の生物である、請求項6又は請求項7に記載の予防または治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エビ目の生物におけるウイルス感染症に対する予防または治療用経口投与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エビの養殖場において、ホワイトスポット病/急性ウイルス血症(以下、「WSD/PAV」とも記す。)による被害(病害)が増加している。ホワイトスポット病(WSD)は、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)によって引き起こされる、エビの養殖に影響を及ぼす重篤な汎動物病である。WSD/PAVは中国、韓国、日本、東南アジア(タイ、ベトナム、マレーシアおよびインドネシア等)、オーストラリア、米国、エクアドル等で発生が報告されている。養殖池でWSD/PAVが発生すると、3~10日の間に大量のエビが急激に死亡し、その死亡率は100%近くに達する [Global distribution of white spot syndrome virus genotypes determined using a novel genotyping assay J. Oakey, C. Smith, D. Underwood, M. Afsharnasab, V. Alday-Sanz, A. Dhar, S. Sivakumar, A. S. Sahul Hameed, K. Beattie & A. Crook. Archives of Virology volume 164, pages2061-2082 (2019)]。WSD/PAVの発生を抑制するために、PCR法による親エビ選抜と受精卵消毒を組み合わせた種苗生産、又は養殖池の水質管理が実施されているが、これらの対策のみでWSD/PAVの発生を防止することは困難である。
【0003】
これまで、ホワイトスポット病ウイルスの感染によるクルマエビの養殖被害を抑制するための方法が開発されている。例えば、特開2008-63302号公報(特許文献1)には、エビにおいてホワイトスポット病ウイルス外殻タンパク質の組換えタンパク質を含有する経口ワクチン組成物が開示されている。特開平6-181656号(特許文献2)には、ブレビバクテリウム属細菌の菌体の破砕処理物を含む経口投与組成物をブラックタイガーに摂取させることで、黄頭病を予防・治療することが開示されている。特開2015-172019号(特許文献3)には、エンテロコッカス・フェカリス NBRC3989株をきのこ廃菌床を含む培養基で培養して得られる乳酸菌発酵物をクルマエビに給餌することでホワイトスポット病ウイルスの感染による斃死を低減することが示されている。Peraza-Gomez, et. al; Aquaculture Research, (MAR 2011) Vol. 42, No. 4, pp. 559-570.(非特許文献1)には、薬用植物パウダー、ティラピア由来の乳酸菌3株および酵母菌1株のプロバイオティクス混合物を配合した餌をバナメイエビに給餌することでホワイトスポット病ウイルスの感染による斃死を低減することが示されている。Partida-Arangure et. al; African Journal of Biotechnology (2013), Volume 12, Number 21, pp.3366-3375.(非特許文献2)には、バナメイエビの腸管および膵肝臓由来の乳酸菌(BAL3 and BAL7)および植物(テキーラ)由来のバジラス属細菌(BC1 and CIB1);いずれも種は未同定]の生菌混合物のみ(4菌株混合物のみ)、イヌリンのみ、これらの配合物を添加した餌に、さらにホワイトスポット病ウイルスを添加したエビ餌を調製してエビに給餌したところ、通常餌投与群、イヌリンのみ添加群、及び4菌株混合物のみ添加群の死亡率は同等であったが、4菌株混合物とイヌリンとを含む餌の投与群では死亡率が低下することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-63302号公報
【特許文献2】特開平6-181656号
【特許文献3】特開2015-172019号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Peraza-Gomez, et. al; Aquaculture Research, (MAR 2011) Vol. 42, No. 4, pp. 559-570.
【非特許文献2】Partida-Arangure et. al; African Journal of Biotechnology (2013), Volume 12, Number 21, pp.3366-3375.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境への影響および人への毒性が少なく、エビ目の生物におけるウイルス感染症を抑制することが可能な予防または治療用経口投与組成物、及び予防または治療する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に例示される[1]~[8]に関する。
[1] ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する、エビ目の生物におけるウイルスによる病害に対する予防または治療用経口投与組成物。
[2] ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療用経口投与組成物。
[3] 前記ラクトバチラスプランタラムがNITE-BP-03201である、[1]又は[2]に記載の予防または治療用経口投与組成物。
[4] 前記エビ目の生物がクルマエビ科の生物である、[1]~[3]のいずれかに記載の予防または治療用経口投与組成物。
[5] 飼料又は飼料添加剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の予防または治療用経口投与組成物。
[6] ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する組成物を、エビ目の生物に接種させることを含む、エビ目の生物におけるウイルスによる病害を予防または治療する方法。
[7] NITE-BP-03201の菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含有する組成物を、エビ目の生物に接種させることを含む、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症を予防または治療する方法。
[8] 前記エビ目の生物がクルマエビ科の生物である、[6]又は[7]に記載の予防または治療する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境への影響および人への毒性が少なく、エビ目の生物におけるウイルス感染症を抑制することが可能な予防または治療用経口投与組成物、及び予防または治療する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験1において、NITE BP-03201の(A)コロニーの形状および(B)グラム染色結果を示す図である。
図2】実験2において、NITE BP-03201によるホワイトスポット病ウイルスによるエビ目感染症の抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0011】
[エビ目の生物の飼育用組成物]
本発明の一実施形態に係るエビ目の生物の飼育用組成物は、ラクトバチラスプランタラム(Lactobacillus plantarum)の菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含む。上記飼育用組成物は、ラクトバチラスプランタラムの菌体又は菌体培養物を含有していてもよい。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。本発明に係るエビ目の生物の飼育用組成物は、エビ目の生物におけるウイルスによる感染症を予防または治療することができる。
【0012】
NITE-BP-03201は、受託番号NITE BP-03201(原寄託日:2020年4月9日)として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD、住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づいて国際寄託されている細菌である。NITE-BP-03201は、いずれも乳酸菌の一種であるラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する細菌である。上記菌株の菌学的性質については、後述する表1~表2および図1に示す。
【0013】
NITE-BP-03201は、自然環境中に存在するため、エビの飼育に用いる際の安全性が高いと考えられる。NITE-BP-03201は、単離された細菌であってよい。
【0014】
本発明に係るエビ目の生物の飼育用組成物は、上記乳酸菌の菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含む。菌体は死菌であっても生菌であってもよい。菌体は培養液、緩衝液等に存在しているものであってもよく、培養液の乾燥物であってもよく、凍結ストックであってもよい。
【0015】
菌体培養物は、細菌の分泌物、代謝物等を含んでよい。菌体培養物には、細菌が産生するペプチド、タンパク質、糖、酵素、有機酸およびこれらを含む培地(液体培地および固形培地)が含まれる。
【0016】
NITE-BP-03201は、乳酸菌の通常の培養方法に従って培養することができる。代表的な培養方法としては、MRS(de Man,Rogosa and Sharpe)液体培地またはMRS寒天培地を用いて温度30℃で培養する方法が挙げられる。
【0017】
菌体または菌体培養物は、上記乳酸菌の菌体または菌体培養物が有する抗ウイルス活性を失わないように調製される。本明細書において、細菌の菌体もしくは菌体培養物を「菌体調製物」とも記す。
【0018】
菌体または菌体培養物の抽出物は、上記乳酸菌の菌体または菌体培養物が有する抗ウイルス活性を失わないように調製される。抽出物は、例えば細菌の菌体または菌体培養物を超音波破砕、ビーズ摩砕、凍結融解、化学的溶解等の処理をすることにより得ることができる。抽出物は、菌体または菌体培養物を塩析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィーまたは有機溶媒を用いた液相抽出等を行って得てもよい。これらの処理は適宜組合わせて行なうことができる。抽出物は、細菌の菌体の断片、核酸、ペプチド、タンパク質、糖および酵素を含み得る。本明細書において、「菌体又は菌体培養物の抽出物」も上述の「菌体調製物」に含まれうる。
【0019】
本明細書において、エビ目は、十脚目(Decapoda)ともいい、甲殻類の分類群のひとつである。エビ目は、エビ、カニ、ヤドカリ、ザリガニ等を含む分類群である。エビ目は、クルマエビ亜目(Dendrobranchiata)およびエビ亜目(Pleocyemata)を含む。クルマエビ亜目は、サクラエビ科(Sergestoidea)、クルマエビ科(Penaeidea)、イシエビ科(Sicyoniidae)、クダヒゲエビ科(Solenoceridae)、チヒロエビ科(Aristeidae)およびオヨギチヒロエビ科(Benthesicymidae)を含む。クルマエビ科は、ウシエビ(通称:ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、シロアシエビ(通称:バナメイエビ)(Litopenaeus vannamei)、コウライエビ(Fenneropenaeus chinensis)、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、フトミゾエビ(Melicertus latisulcatus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、シバエビ(Metapenaeus joyneri)、モエビ(Metapenaeus moyebi)、アカエビ(Metapenaeopsis barbata)、シロエビ(Metapenaeopsis lata)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、サルエビ(Trachysalambria curvirostris)等を含む。クルマエビ科は、エビ養殖産業における重要種を多く含む。エビ亜目は、オトヒメエビ下目(Stenopodidea)、コエビ下目(Caridea)、センジュエビ下目(Polychelida)、イセエビ下目(Achelata)、ザリガニ下目(Astacidea)、ムカシイセエビ下目(Glypheidea)、アナエビ下目(Axiidea)、アナジャコ下目(Gebiidea)、ヤドカリ下目(Anomura)およびカニ下目(Brachyura)を含む。
【0020】
エビ目の生物の飼育用組成物は、経口投与組成物であってよい。経口投与組成物は、エビ目の生物に経口投与される組成物であれば特に限定されない。エビ目の生物の飼育用組成物は、エビ目の生物用の飼料または飼料添加剤であってよい。経口投与組成物は、エビ目の生物が飼育されている環境(例えば飼育水)に投与され、上記乳酸菌の菌体調製物が環境中に溶け出し、環境中で飼育されるエビ目の生物に経口的に摂取されてもよい。上記乳酸菌の菌体調製物を含むエビ目の生物の経口投与組成物は、投与されたエビ目の生物におけるウイルス(WSSV等)による感染症を予防または治療することができる。
【0021】
エビ目用飼料は、通常エビ目の生物の飼育、養殖に使用される成分であれば任意の成分を含んでいてよく、任意の製造方法において製造されてよい。エビ目用飼料の組成は、エビ目の種類および生育ステージによって適宜選択できる。エビ目用飼料には、例えばイカミール、オキアミミール、フィッシュミール、大豆油かす、およびコーングルテンミール等のタンパク質源、グルテン、およびデンプン等のバインダーを含んでよい。エビ目用飼料は、飼料用に許容される公知の担体または添加剤を含んでよく、エリスロマイシン製剤、アンピシリン製剤、プラジクアンテル製剤、塩化リゾチーム製剤、塩酸オキシテトラサイクリン製剤、スピラマイシン製剤、ニフルスチレン酸ナトリウム製剤、塩酸リンコマイシン製剤、フルメキン製剤、およびグルタチオン製剤等の水産生物用医薬品、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンA、ビタミンD、およびビタミンE等のビタミン類、ならびに、リジン、メチオニン、およびヒスチジン等のアミノ酸類等の栄養補給物質、β-カロチン、アスタキサンチン、およびカンタキサンチン等の色素、カルシウム、およびケイ酸等のミネラル類、微量金属、保存料等を含んでよい。
【0022】
エビ目用飼料は、飼育されるエビ目の種類および大きさ等に応じて任意の形状、大きさを有してよい。エビ目用飼料は、例えば乾燥原料を混合および粉砕した粉末状飼料、粉体を固形化した固形化飼料(ドライペレット)、水分を含んだペースト状の飼料(モイストペレット)等であってもよい。エビ目用飼料の一例として、一般的なエビ養殖用固形化飼料に上記乳酸菌の菌体を含む液体(培養液等)を浸漬させたもの、菌体を含む粉末(培養液の乾燥粉末等)をまぶしたものが挙げられる。
【0023】
エビ目用飼料に含まれる上記乳酸菌の菌体調製物の量は、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)に対する抗ウイルス活性を示す程度であれば特に限定されず、飼育場所、飼育温度、酸素濃度、飼育密度、対象のエビ目の種類等に適した量であればよい。エビ目用飼料中の上記乳酸菌の菌体量は、例えば1×10~1×1012cfu(コロニー形成単位)/gであってもよく、1×10~1×1012cfu/gであってもよく、1×10~1×1012cfu/gであってもよい。上記コロニー形成単位は、寒天平板培養法によって求めることができる。エビ目用飼料中の上記乳酸菌の菌体量(含有割合)は、飼料重量に対して0.001~30質量%であってよく、好ましくは0.01%~10質量%であってよい。当該菌体量は、天秤等で秤量可能である。
【0024】
エビ目用飼料添加剤は、特に限定されず、一般的なエビ目用養殖用飼料に添加できる添加剤であればよい。飼料添加剤は、液体または粉末であってよく、凍結乾燥されていてもよい。飼料添加剤は、上記乳酸菌の菌体調製物そのものであってもよい。飼料添加剤は、上記乳酸菌の菌体調製物をエビ目用飼料に付着、吸収または混合させやすくするための液体、展着剤等を含んでよい。飼料添加剤は、飼料中に含まれる菌体量が上述の範囲となるように飼料に添加されることが好ましい。
【0025】
上記乳酸菌の菌体調製物を含むエビ目用飼料は、1日1回または複数回に分けて給餌されてよい。上記乳酸菌の菌体調製物を含む飼料は、数日に1回給餌されてもよい。上記乳酸菌の菌体調製物を含む飼料を給餌する期間は、対象のエビ目の種類等に応じて適宜選択することができる。上記乳酸菌の菌体調製物を含む飼料は、養殖(飼育)の全期間において継続して給餌されてもよく、一部の期間にのみ給餌されてもよい。「一部の期間」とは、例えば、飼育の全期間の10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上または90%以上の期間であってよい。本実施形態の一側面において、上述の「一部の期間」の上限値は、特に制限されないが、例えば、飼育の全期間の100%未満であってもよいし、99%以下であってもよい。上記乳酸菌の菌体調製物を含む飼料を給餌する期間は、例えば、1ヵ月間~4ヵ月間であってよく、約3ヵ月であってもよい。上記乳酸菌の菌体調製物を含む飼料は、任意の期間で給餌の継続と中断を繰り返してもよい。
【0026】
エビ目用飼料は、エビ目の生物を飼育する水中に落下させて供給されてもよく、自動的に一定の間隔で供給されてもよい。
【0027】
本発明の一実施形態は、エビ目の生物の飼育用組成物の製造におけるラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物の使用である。本発明の他の実施形態は、エビ目の生物の飼育用組成物の製造におけるラクトバチラスプランタラムの菌体又は菌体培養物の使用である。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。
【0028】
[エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療用経口投与組成物]
本発明の一実施形態に係るエビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療用経口投与組成物は、ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物を含む。上記予防または治療用経口投与組成物は、ラクトバチラスプランタラムの菌体又は菌体培養物を含有していてもよい。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。上記予防または治療用経口投与組成物は、動物用医薬品であってよい。
【0029】
ホワイトスポット病/急性ウイルス血症は、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)によるエビ目感染症である。すなわち、上記予防または治療用経口投与組成物は、ホワイトスポット病ウイルスによるエビ目感染症に対する予防または治療用経口投与組成物と把握することもできる。また、ホワイトスポット病/急性ウイルス血症は、近年、エビの養殖場において被害(病害)が増加している感染症の一つである。そのため、上記予防または治療用経口投与組成物は、エビ目の生物におけるウイルスによる病害に対する予防または治療用経口投与組成物と把握することもできる。ここで、「病害」とは、病気による水産物(エビなど)の損害を意味する。
【0030】
NITE-BP-03201を用いて、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)によるエビ目の生物における感染症(以下、「エビ目感染症」と表記する場合がある。)を予防または治療することができる。本明細書において、治療には、症状の緩和、症状の好転および完治を含む。上記乳酸菌は、感染症の原因ウイルスに対して直接抗ウイルス活性を有し、感染症の抑制機構が宿主に依存しないため、対象のエビ目の種類又は成長ステージにかかわらず、より汎用的にエビ目感染症を抑制することができる。上記乳酸菌を用いれば、より安定したエビ目の生物の養殖が可能になる。
【0031】
ウイルスによるエビ目感染症としては、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)の感染によるWSD/PAVが挙げられる。WSD/PAVは稚エビに発生すると死亡率がほぼ100%であり、養殖業に致命的な問題となる。エビ目の生物に感染症を引き起こす他のウイルスとしては、Decapod iridescent virus、Taura syndrome virus、yellow head virus、covert mortality nodavirus、Infectious hypodermal and haematopoietic necrosis virus,Macrobrachium rosenbergii nodavirus、myonecrosis virus等が含まれる。
【0032】
予防または治療用組成物は、経口投与組成物であってよく、飼料または飼料添加剤の形態でエビ目の生物に投与されてよい。予防または治療用組成物は、上記エビ目の生物の飼育に用いられる経口投与組成物に含まれ得る成分を含んでよい。予防または治療用組成物は、公知のホワイトスポット病ウイルス(WSSV)に対する抗ウイルス活性を有する成分またはエビ目の生物の免疫活性を上昇させる成分をさらに含んでもよい。予防または治療用組成物の形状、製造方法および投与方法は、上記の経口投与組成物の形状、製造方法および投与方法と同じであってよい。予防または治療用組成物における上記乳酸菌の菌体調製物の含有量は、投与されたエビ目の生物においてホワイトスポット病ウイルス(WSSV)による感染症を抑制できる程度であれば特に限定されず、上記経口投与組成物における含有量と同じ範囲であってよい。
【0033】
本発明の一実施形態は、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)によるエビ目感染症に対する予防または治療用組成物の製造におけるラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物の使用である。本発明の他の実施形態は、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)によるエビ目感染症に対する予防または治療用組成物の製造におけるラクトバチラスプランタラムの菌体または菌体培養物の使用である。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。
【0034】
[エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療方法]
本発明の一実施形態に係るエビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療方法は、ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物をエビ目の生物に投与することを含む。上記予防または治療方法は、ラクトバチラスプランタラムの菌体または菌体培養物をエビ目の生物に投与することを含んでいてもよい。投与は、経口投与または浸漬投与であってよい。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態に係るエビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療方法は、ラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物をエビ目の生物に接種させることを含む。上記予防または治療方法は、ラクトバチラスプランタラムの菌体または菌体培養物をエビ目の生物に接種させることを含んでいてもよい。上記乳酸菌の菌体調製物は、上記予防または治療用組成物としてエビ目の生物に供給されてよい。
【0036】
本発明の一実施形態は、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療のためのラクトバチラスプランタラムの菌体もしくは菌体培養物またはこれらの抽出物の使用である。本発明の他の実施形態は、エビ目の生物におけるホワイトスポット病/急性ウイルス血症に対する予防または治療のためのラクトバチラスプランタラムの菌体または菌体培養物の使用である。上記ラクトバチラスプランタラムはNITE-BP-03201であることが好ましい。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実験1:NITE-BP-03201の分離および同定]
分離源(ギランイヌビワ)を滅菌水と共に摩砕した。摩砕液を適宜希釈して1/2MRS液体培地に添加し、集積培養した。集積培養液を炭酸カルシウム含有のMRS寒天培地に塗抹し、ハローを形成した微生物を分離した。以下、この分離株を分離株Aという。過酸化水素に分離株Aの培養液を懸濁したところ、気泡が発生しなかった。分離株Aは、カタラーゼ活性を有しないことから、乳酸菌であることが確認された。
【0039】
16S rRNA遺伝子解析、形態観察および生理・生化学的性状試験によって、分離株Aを同定した。
(1)16S rRNA遺伝子解析
分離株AからゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAを鋳型として、クローニング用フォワードプライマー9Fおよびクローニング用リバースプライマー1510R(中川恭好他:遺伝子解析法 16S rRNA遺伝子の塩基配列決定法、日本放線菌学会編、放線菌の分類と同定、88-117pp.日本学会事務センター、2001)を用いて16S rRNA遺伝子のPCR増幅を行った。PCR増幅はTks Gflex DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて行い、PCR後の増幅産物を精製した。
【0040】
精製したPCR後の増幅産物を用いてサイクルシーケンス反応を行った。サイクルシーケンス反応は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用いて行った。得られた反応液を精製し、精製液をDNAシーケンス解析(3130xl DNA Analyzer)に供して、分離株Aから抽出した鋳型DNAの16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。シークエンス解析用プライマーとしては、9F、515F、1099F、536R、926R、1510R(中川恭好他:遺伝子解析法 16S rRNA遺伝子の塩基配列決定法、日本放線菌学会編、放線菌の分類と同定、88-117pp.日本学会事務センター、2001)を用いた。
【0041】
分離株Aの16S rRNA遺伝子の塩基配列を微生物同定システム「ENKI」(テクノスルガ・ラボ社製)を用いて、微生物同定データベースDB-BA15.0(テクノスルガ・ラボ社製)、及び国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対してBLAST相同性検索を行った。分離株Aの16S rRNA遺伝子の塩基配列は、Lactobacillus pentosus(JCM1558)の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対して同一性99.93%を示し、Lactobacillus plantarum subsp.plantarum(JCM1149)の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対して同一性99.93%を示し、Lactobacillus paraplantarum(DSM10667)の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対して同一性99.73%を示した。しかし、分離株Aの16S rRNA遺伝子の塩基配列と完全に一致する16S rRNA遺伝子を持つ微生物は存在しなかった。
【0042】
(2)形態観察および生理・生化学的性状試験
MRS寒天培地に分離菌Aを塗布し、温度30℃で48時間好気培養し、以下の方法で細胞形態、グラム染色性、運動性およびコロニー形態を観察した。
コロニー形態は、実体顕微鏡SMZ800N(ニコン社製)によって観察した。細胞形態は、光学顕微鏡BX50F4(オリンパス社製)によって観察した。グラム染色ではフェイバーG「ニッスイ」(日水製薬社製)を用いた。Barrow&Feltham(Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria,3rd ed.Cambridge:Cambridge University Press;1993.)に記載の方法に基づき、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産生およびブドウ糖の酸化/発酵(O/F)について試験を行った。API50CHBキット(bioMerieux社製、フランス)を用いて、細菌の生理・生化学的性状反応を調べた。
【0043】
図1の(A)に示すように、分離株Aは円形のコロニーを形成した。図1の(B)に示すように、分離株Aはグラム染色性が陽性であった。分離株Aの生理・生化学的性状試験および発酵性試験の結果を表1および表2に示す。分離株Aは運動性を示さないグラム陽性の桿菌で、芽胞を形成しなかった。分離株Aは、カタラーゼ反応およびオキシダーゼ反応は陰性を示し、グルコースを発酵した。これらの性状は、16S rDNA部分塩基配列解析の結果、帰属の可能性が示されたLactobacillus属の性状と一致した。APIキットを用いて行った発酵性試験の結果、分離株Aはガラクトース、フラクトースおよびメレチトース等を発酵し、グリセロール、D-キシロース等を発酵しなかった。分離株Aは、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示さず、15℃で生育した。これらの性状は、16S rDNA部分塩基配列解析の結果、帰属が示唆されたL.pentosusおよびL.plantarumのうち、グリセロールおよびD-キシロースの発酵を示さない点がL.pentosusと異なり、L.plantarumの性状と一致した。従って、分離株AはLactobacillus plantarumに属する新規分離株であることがわかった。分離株AをNITE BP-03201として国際寄託した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
[実験2:乳酸菌の経口投与によるWSD/PAVの予防または治療効果の検証]
経口投与した乳酸菌の菌体培養物が、エビ目の生物におけるホワイトスポット病ウイルス(WSSV)による感染症(すなわち、WSD/PAV)を抑制できるかを検証した。エビの飼育環境として、18Lガラス水槽に10Lの人工海水を準備した。水作エイトMサイズで飼育水を濾過しながらエビを飼育した。水温は28℃に設定した。各試験群にはバナメイエビを25匹ずつ用いた。
【0047】
タイで使用されている市販の顆粒タイプの餌に、乳酸菌菌体培養物を餌が十分に浸かる程度加えてエビ目の生物の飼育用経口投与組成物を作製した。上記乳酸菌菌体培養物は、以下の手順で準備した。まず、NITE-BP-03201をMRS Brothで温度30℃で1日間培養して培養液を得た。得られた培養液を70℃で1時間熱処理を行った後に、デキストリンを終濃度が4%となるように添加して凍結乾燥を行った。その後、凍結乾燥した菌体に対して、元の培養液の量になるよう蒸留水を添加、懸濁して上記乳酸菌菌体培養物を得た。元の乳酸菌培養液の波長600nmにおける濁度は約12ODであった。ネガティブコントロールは、乳酸菌用培地であるMRS Brothにデキストリンを終濃度が4%となるように添加して凍結乾燥を行った後、元の液量になるよう蒸留水を添加、懸濁した液を用いた。これらをそれぞれ餌に添加したものを準備した。給餌は、1日あたり、エビの体重に対して5%程度の量を、3回に分けて実施した。感染に用いるウイルス液はWSD/PAVを発症したバナメイエビを磨砕して調製した。感染試験の14日前から乳経口投与組成物の給餌を開始し、感染試験中も給餌を継続した。飼育水にウイルス液を添加し、3時間浸漬後、エビを新しい水槽へ移し、8日間観察を行った。なお、上記ウイルス液の添加量は、事前に予備試験を実施し、1週間で約90%のエビが死亡する量(本実験では、5mL)とした。感染開始からのエビの生残率を図2に示す。
【0048】
NITE BP-03201の菌体培養物を含むエビ目の生物の飼育用経口投与組成物(予防または治療用経口投与組成物)を投与したエビは、ネガティブコントロールと比較して、生残率が高かった。NITE BP-03201の菌体培養物を経口投与させることで、ホワイトスポット病ウイルス(WSSV)による感染症(WSD/PAV)を防除できることが示された。
図1
図2