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特開2025-11966TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための液状エポキシ樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011966
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための液状エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20250117BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250117BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114447
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】310024033
【氏名又は名称】エスケーハイニックス株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK hynix Inc.
【住所又は居所原語表記】2091, Gyeongchung-daero,Bubal-eub,Icheon-si,Gyeonggi-do,Korea
(71)【出願人】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ミンソク,キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョンソク,イ
(72)【発明者】
【氏名】ソンホ,チョ
(72)【発明者】
【氏名】上村 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洋介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4J002CD011
4J002CD131
4J002CP032
4J002DA037
4J002DE146
4J002DJ016
4J002DM008
4J002EX069
4J002FD016
4J002FD022
4J002FD097
4J002FD208
4J002FD319
4J002GQ01
4J002HA08
4M109AA01
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB03
4M109EB06
4M109EB08
4M109EB12
4M109EB13
4M109EB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、高密度の配線を含みつつも、駆動時に発生する熱を十分に放出し、かつ高い信頼性を有する電子部品をもたらし得る、TSV用モールドアンダーフィル材としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)シリカフィラー及びアルミナフィラーからなる無機フィラー及び(D)カーボンブラックを含み、前記(A)エポキシ樹脂が特定の脂肪族エポキシ樹脂を含み、前記アルミナフィラーが特定の粒度分布を有し、熱伝導率が所定の範囲内である硬化物を与える。本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率の高い硬化物を与えるので、同組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品を含む半導体装置では、熱による性能低下が抑制される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための液状エポキシ樹脂組成物であって、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)シリカフィラー及びアルミナフィラーからなる無機フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、下記式(I):
【化4】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記アルミナフィラーの平均粒径が0.1μm~0.3μmであり、
前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上、1.5質量部以下であり、
熱伝導率が0.8W/m・K以上、1.2W/m・K未満である硬化物を与える、液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(E)イオントラップ剤を更に含み、
塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記液状エポキシ樹脂組成物の総質量に対して0.01ppm以上、2.5ppm未満であり、
前記塩化物イオンの含有量が、前記液状エポキシ樹脂組成物の5mm角に粉砕した硬化物を、濃度0.1g/cm、温度121℃、湿度100%、2atmの条件で水に20時間浸漬して得られる抽出液を、イオンクロマトグラフィーに付すことを含む方法により測定される、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)イオントラップ剤が、ビスマス系化合物、ジルコニウム系化合物、アンチモン系化合物から選択される少なくとも1種を含む、請求項2記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(E)イオントラップ剤の平均粒径が0.01μm~2μmである、請求項2記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂の全塩素量が3000ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂が、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂と組み合わせて、全塩素量が3000ppm以下である他のエポキシ樹脂を含む、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、前記(C)無機フィラーの含有量が50~90質量部である、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)エポキシ樹脂が、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記(B)硬化剤が、フェノール化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
(F)シリコーン系添加剤を更に含む、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
(G)カップリング剤を更に含む、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記(C)無機フィラーの総質量を100質量部とするとき、前記(C)無機フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記アルミナフィラーが、メタクリロキシ基又はフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている、請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための液状エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の性能を更に高めるために、電子機器を構成する電子部品内のチップ上の配線をより高密度化することが求められている。しかし、チップの単位面積当たりの配線密度を、配線の更なる微細化によって高めることは限界に近づいている。そこで、複数のチップを三次元的に積層することによって、チップの単位面積当たりの配線密度を更に高めることが一般的になってきている。
【0003】
このような技法においては、積層されたチップ間の接続が必要になる。そのような接続にシリコン貫通電極(Through Silicon Via(TSV))技術が採用されることが多くなりつつある。TSV技術とは、シリコン製半導体チップをその厚み方向に貫通する電極を設け、積層されたチップ間の接続をこの電極によって行う技術である。
【0004】
このような積層された複数のチップを含む電子部品の製造においては、従来、各チップを積層する毎に、ウェハーとチップの間、又はチップ同士の間の封止を行った後、積層されたチップ全体を液状の硬化性樹脂組成物で覆ってチップごと圧縮成型に付すことにより、電子部品の外形の成形(オーバーモールディング)を行う、という工程が用いられていた。しかし近年は、製造効率を向上させるため、全てのチップを、封止を行わずに積層した後、積層されたチップ全体を液状の硬化性樹脂組成物で覆ってチップごと圧縮成型に付すことにより、ウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を一工程で行う、という技法が用いられることが多くなりつつある。このような技法において、ウェハーレベルチップサイズパッケージ技術(回路形成完了後のチップに切り分けられていないウェハーを、そのまま封止することを伴う)が用いられることも多くなっている。このような技法に用いる硬化性樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材又はTSV用モールドアンダーフィル組成物と称する。TSV用モールドアンダーフィル材としては、主として液状エポキシ樹脂組成物が用いられている。なお、上記のような技法により製造される、チップ(一種の半導体素子である)を封止された状態でその内部に含む電子部品を、本明細書では「半導体パッケージ」と称する。
【0005】
このようなモールドアンダーフィル材は屡々、フィラー及び/又は着色剤を含有する。前者は主に、モールドアンダーフィル材が与える硬化物における熱膨張率の低下、強度の向上等を目的として添加される。このフィラーとしては通常、シリカフィラーが用いられる。後者は、電子部品内の配線への光の影響を低減するために添加されるが、前者が後者と組み合わせて添加され、後者の機能を補助する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2022-010900
【特許文献2】特開2021-172793号公報
【特許文献3】国際公開第2019/131670号公報
【特許文献4】特開2017-179185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように配線が高密度化された、三次元的に積層された複数のチップを含む電子部品を含む半導体装置には、電子部品の駆動時に発生する熱により、その性能が低下するという問題があった。この問題は、配線の高密度化によりチップ-ウェハー間やチップ間の距離が短いために、発生した熱が放出されにくいことにより引き起こされる。熱伝導率の低いシリカフィラーを含有するモールドアンダーフィル材を用いて製造された電子部品を含む半導体装置では、この問題はより深刻であった。
【0008】
また、上記のように配線が高密度化された、複数のバンプを含む電子部品を含む半導体装置には、バンプ間での短絡が起こる可能性があり、信頼性に課題があった。配線の高密度化によりバンプ間の距離がより短くなっていることに伴い、この課題はより顕在化しつつある。このような短絡は、電子部品の製造に用いた硬化性樹脂組成物(例えばTSV用モールドアンダーフィル材)におけるイオン性不純物、特に塩化物イオンの含有量が高いときに起こりやすい。
【0009】
電子部品の信頼性試験は種々知られているが、その一つとして、電子部品内部(特に金属部分)の腐食が加速される高温・高湿度条件下(例えば130℃、相対湿度85%)で行われる信頼性試験である、高速加速寿命試験(HAST試験)がある。HAST試験には、試験される電子部品にバイアス電圧を印加しない条件下で行うもの(バイアス無印加HAST試験)と、印加する条件下で行うもの(バイアスHAST試験)がある。従来の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品を信頼性試験、特にバイアスHAST試験に付すと、短時間で短絡を起こしやすい。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、高密度の配線を含みつつも、駆動時に発生する熱を十分に放出し、かつ高い信頼性を有する電子部品をもたらし得る、TSV用モールドアンダーフィル材としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0013】
TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための液状エポキシ樹脂組成物であって、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)シリカフィラー及びアルミナフィラーからなる無機フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、下記式(I):
【化1】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記アルミナフィラーの平均粒径が0.1μm~0.3μmであり、
前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上、1.5質量部以下であり、
熱伝導率が0.8W/m・K以上、1.2W/m・K未満である硬化物を与える、液状エポキシ樹脂組成物。
【0014】
(E)イオントラップ剤を更に含み、
塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記液状エポキシ樹脂組成物の総質量に対して0.01ppm以上、2.5ppm未満であり、
前記塩化物イオンの含有量が、前記液状エポキシ樹脂組成物の5mm角に粉砕した硬化物を、濃度0.1g/cm、温度121℃、湿度100%、2atmの条件で水に20時間浸漬して得られる抽出液を、イオンクロマトグラフィーに付すことを含む方法により測定される、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0015】
前記(E)イオントラップ剤が、ビスマス系化合物、ジルコニウム系化合物、アンチモン系化合物から選択される少なくとも1種を含む、前項2記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0016】
前記(E)イオントラップ剤の平均粒径が0.01μm~2μmである、前項2記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0017】
前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂の全塩素量が3000ppm以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂が、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂と組み合わせて、全塩素量が3000ppm以下である他のエポキシ樹脂を含む、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0018】
前記液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、前記(C)無機フィラーの含有量が50~90質量部である、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0019】
前記(A)エポキシ樹脂が、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0020】
前記(B)硬化剤が、フェノール化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0021】
(F)シリコーン系添加剤を更に含む、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0022】
(G)カップリング剤を更に含む、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0023】
前記(C)無機フィラーの総質量を100質量部とするとき、前記(C)無機フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0024】
前記アルミナフィラーが、メタクリロキシ基又はフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている、前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【0025】
前項1記載の液状エポキシ樹脂組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージ。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率の高い硬化物を与える。そのため、本発明の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品は、チップ-ウェハー間やチップ間の距離が短くても、その駆動時に発生する熱を十分に放出する。そのような電子部品を含む半導体装置では、熱による性能低下が抑制される。また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品は、バイアスHAST試験において長時間にわたり短絡を起こさない。そのため、本発明の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品は、バンプ間の距離が短くても、十分な信頼性を示す。よって、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、TSV用モールドアンダーフィル材としての使用に極めて適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】TSV用モールドアンダーフィル材による封止及びオーバーモールディングの手順を示す図である。
図2】TSV用モールドアンダーフィル材の注入性を評価するために使用したシリコンウェハー、シリコンチップ及びスペーサーの位置を示す模式図である。(A)シリコンウェハー上に配置されたシリコンチップの位置を示す模式図である。(B)シリコンウェハー上のシリコンチップ及びスペーサーの位置を示す模式図である。
図3】TSV用モールドアンダーフィル材の注入性の評価の結果を示す顕微鏡写真である。(A)注入性の不十分なTSV用モールドアンダーフィル材を用いて作成された試験片の研磨面の顕微鏡写真である。(B)注入性の良好なTSV用モールドアンダーフィル材を用いて作成された試験片の研磨面の顕微鏡写真である。
図4】バイアスHAST試験に用いた櫛形電極の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、TSV用モールドアンダーフィル材として用いるための、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)シリカフィラー及びアルミナフィラーからなる無機フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含む液状エポキシ樹脂組成物に関する。この組成物において、前記(A)エポキシ樹脂は、下記式(I):
【化2】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含む。前記アルミナフィラーの平均粒径は、0.1μm~0.3μmである。前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量は0.1質量部以上、1.5質量部以下である。また、この液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率が0.8W/m・K以上、1.2W/m・K未満である硬化物を与える。本発明の液状エポキシ樹脂組成物に含まれる上記成分(A)~(D)に関し、以下に説明する。
【0029】
(A)エポキシ樹脂
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は、常温で液状のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、液状のエポキシ樹脂は粘度が10~5000mPa・sの範囲内のものを用いることが好ましい。液状のエポキシ樹脂を用いることで、低粘度で流動性に優れ、TSV用モールドアンダーフィル材としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、10~35質量部であることが好ましく、12~32質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることが特に好ましい。この範囲にすることにより、液状エポキシ樹脂組成物の粘度上昇を抑制し、かつ液状エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数を低減することができる。
このエポキシ樹脂は、下記式(I):
【化3】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂((ポリ)テトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル)を含む。この脂肪族エポキシ樹脂におけるnは、同エポキシ樹脂の分子量(溶出溶媒にテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の数平均分子量)から算出することができる。この脂肪族エポキシ樹脂を含むことにより、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布された液状エポキシ樹脂組成物が硬化した後の、反りの発生を抑制することができる。
【0030】
前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂として、商品名「YX7400N」(三菱ケミカル株式会社製)、商品名「エポゴーセーPT(一般グレード)」(四日市合成株式会社製)等の市販品を使用してもよい。
【0031】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂は、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂に加え、他のエポキシ樹脂を含んでいてもよい。他のエポキシ樹脂としては、封止材料として用いられるエポキシ樹脂を使用することができる。このエポキシ樹脂は、2官能以上の多官能エポキシ樹脂であることが好ましい。多官能エポキシ樹脂の例としては、
カテコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、2,5-ジイソプロピルヒドロキノンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル等の単環芳香族エポキシ樹脂;
3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、ジエポキシリモネン等の脂環式エポキシ樹脂;
ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;
ビスフェノール型エポキシ樹脂の部分重合によって得られるオリゴマーの混合物;
環が水素添加されたビスフェノール型エポキシ樹脂;
テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル;テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルジグリシジルエーテル;
ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂等のフルオレン型エポキシ樹脂;
ナフタレン型エポキシ樹脂
等を挙げることができる。
【0032】
さらに、多官能エポキシ樹脂としては、例えば、
トリグリシジル-p-アミノフェノールなどのアミノフェノール型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリンなどのアニリン型エポキシ樹脂、ジグリシジルオルトトルイジンなどのトルイジン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等の、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂;
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールメタントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル等のトリメチロールアルカン型エポキシ樹脂等の、多官能グリシジルエーテル
が挙げられる。
【0033】
また、その他のエポキシ樹脂、例えば脂肪族エポキシ樹脂、シリル化エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリアリーレンエーテルジグリシジルエーテル等を併用することもできる。
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記他のエポキシ樹脂は、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。本発明の一実施形態において、(A)エポキシ樹脂は、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂に加え、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む。分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を用いることにより、液状エポキシ樹脂組成物の硬化性が向上し、耐熱性が向上することでバイアスHAST試験結果が良好になる。
また、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂と芳香環を有するエポキシ樹脂との質量比は、5:95~50:50が好ましく、10:90~45:55がより好ましく、20:80~40:60が特に好ましい。上記の質量比をこの範囲にすることにより、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布された液状エポキシ樹脂組成物が硬化した後の反りの発生を抑制し、かつ良好なバイアスHAST試験結果を得ることができる。
分子中に芳香環を有するエポキシ化合物としては、公知乃至慣用の芳香族エポキシ化合物を使用することができ、特に限定されない。
分子中に芳香環を有するエポキシ化合物の具体例としては、
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、カテコール、レゾルシノール等のフェノール類のグリシジルエーテル:
p-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸のグリシジルエーテルエステル;
安息香酸、フタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸のモノグリシジルエステル又はポリグリシジルエステル;
ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン等のグリシジルアミン型エポキシ化合物;
ナフトールのグリシジルエステル、β-ヒドロキシナフトエ酸等のグリシジルエーテルエステル等の、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物
などが挙げられる。これらの中でも、グリシジルアミン型エポキシ化合物が好ましい。
本発明においては、本発明の液状エポキシ樹脂組成物が常温において液状である限り、(A)エポキシ樹脂に、常温で固体であるエポキシ樹脂、例えばビフェニル型エポキシ樹脂及び/又はノボラック型エポキシ樹脂(それらの類似体を含む)が含まれていてもよい。
【0035】
また後述するように、信頼性の観点から、本発明の液状エポキシ樹脂組成物における塩化物イオン(Cl)の含有量は、低いことが好ましい。従って、(A)エポキシ樹脂に含まれるエポキシ樹脂における塩化物イオンの含有量も、低いことが好ましい。(A)エポキシ樹脂に含まれる各エポキシ樹脂の全塩素量は、好ましくは3000ppm以下であり、より好ましくは2500ppm以下であり、特に好ましくは1500ppm以下である。このことは、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂にも、他のエポキシ樹脂にもあてはまる。一実施形態において、式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂の全塩素量が3000ppm以下であり、(A)エポキシ樹脂が、式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂と組み合わせて、全塩素量が3000ppm以下である他のエポキシ樹脂を含む。
【0036】
(B)硬化剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有する。この硬化剤は、上記(A)エポキシ樹脂を硬化させることができる限り特に限定されない。本発明の液状エポキシ樹脂組成物において使用しうる硬化剤の例としては、フェノール化合物、酸無水物、アミン化合物(特に非環状アミン化合物)、含窒素複素環化合物(特にイミダゾール化合物)及び有機金属化合物等が挙げられる。ある態様においては、これらの中でも塩基性のものが用いられる。
【0037】
上記フェノール化合物の例としては、フェノール樹脂、特に、フェノール類またはナフトール類(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アルキルフェノール、ビスフェノール、テルペンフェノールなど)とホルムアルデヒドを縮合させて得られるノボラック樹脂が好ましく用いられる。ノボラック樹脂の例としては、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、α-ナフトールノボラック樹脂、β-ナフトールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、デカリン変性ノボラック樹脂等が挙げられる。他のフェノール樹脂の例としては、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン及びポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。
【0038】
上記酸無水物の例としては、無水フタル酸;ヘキサヒドロ無水フタル酸;メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などのアルキルヘキサヒドロ無水フタル酸;テトラヒドロ無水フタル酸;トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、3-メチルテトラヒドロ無水フタル酸などのアルキルテトラヒドロ無水フタル酸;無水ハイミック酸;無水コハク酸;無水トリメリット酸;無水ピロメリット酸等を挙げることができる。これらのうち、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が好ましい。
【0039】
上記(非環状)アミン化合物の例としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチルジアミノジフェニルメタン、テトラエチルジアミノジフェニルメタン、ジエチルジメチルジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノトルエン、ジアミノジブチルトルエン、ジアミノジプロピルトルエン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジトリルスルホン、ジエチルジアミノトルエン、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート及び4,4-ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。アミン化合物はアミンアダクトであってもよい。
【0040】
含窒素複素環化合物の例としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、DBU-フェノール塩、DBU-オクチル酸塩、DBU-p-トルエンスルホン酸塩、DBU-ギ酸塩、DBU-オルソフタル酸塩、DBU-フェノールノボラック樹脂塩、DBU系テトラフェニルボレート塩、ジアザビシクロノネン(DBN)、DBN-フェノールノボラック樹脂塩、ジアザビシクロオクタン、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジンなどが挙げられる。含窒素複素環化合物は、エポキシ樹脂若しくはイソシアネート化合物とのアダクトを形成しているもの、又はマイクロカプセル化されたものを使用することができる。
【0041】
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナトコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナトコバルト(III)等が挙げられる。
【0042】
本発明においては、硬化剤が、フェノール化合物、酸無水物、非環状アミン化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、フェノール化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、含窒素複素環化合物を含むことが更に好ましい。含窒素複素環化合物は、潜在化されていてもよく、マイクロカプセル型の潜在化硬化剤を用いることもできる。
含窒素複素環化合物は、イミダゾール化合物であることが特に好ましい。イミダゾール化合物の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1-イソブチル2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等の2-置換イミダゾール化合物;1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等のトリメリット酸塩;2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン等のトリアジン化合物;2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物及び2-フェニル-4-メチル-5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0043】
上記マイクロカプセル型硬化剤としては、例えば、アミン化合物(含窒素複素環化合物を含む)の粉末が、液状エポキシ樹脂中に分散された分散液を使用することができる。このアミン化合物は、例えば脂肪族第一アミン、脂環式第一アミン、芳香族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂環式第二アミン、芳香族第二アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択すればよい。このアミン化合物は、カルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、エポキシド等との反応生成物の形態で用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、上記アミン化合物を、そのカルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、又はエポキシドとの反応生成物を組み合わせて使用することができる。上記アミン化合物の粉末の体積平均粒径は、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、上記アミン化合物の粉末は、融点又は軟化点が60℃以上であることが、25℃での増粘を抑える観点から好ましい。
【0044】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、硬化剤は、イミダゾール化合物であることが好ましく、イミダゾール化合物とフェノール化合物を併用することがより好ましい。イミダゾール化合物とフェノール化合物を併用することにより、保存安定性を向上しつつ硬化性を高めることができる。
【0045】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、硬化剤の含有量は、(A)エポキシ樹脂に対して1~20質量%であることが好ましく、2~17質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることが特に好ましい。この範囲にすることにより、液状エポキシ樹脂組成物の硬化時間が長くなりすぎず、TSVなどの技法によって形成される、高密度の配線を含む電子部品の生産性が向上し、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布された液状エポキシ樹脂組成物が硬化した後の反りの発生が抑制され、かつ液状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が向上する。
【0046】
(C)無機フィラー
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、無機フィラーを含有する。この無機フィラーは、シリカフィラー及びアルミナフィラーからなる。
熱伝導率の高いアルミナフィラーを含有する本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率の高い硬化物を与える。そのため、TSV用モールドアンダーフィル材として本発明の液状エポキシ樹脂組成物を用いて製造された電子部品では、その駆動時に発生する熱が放出されやすい。このことは、電子機器の更なる性能向上に寄与する。
【0047】
アルミナフィラーは、アルミナ粉末を含む。アルミナ粉末は、市販品として入手することができる。アルミナフィラーの粒子の形状は特に限定されず、球状、不定形、りん片状等、いかなる形状の粒子であってもよい。TSV用モールドアンダーフィル材として使用される際の、液状エポキシ樹脂組成物の流動性の観点から、アルミナフィラーの粒子は球状であることが特に好ましい。そのようなアルミナフィラーは高充填が可能なので、硬化物における熱伝導率向上の観点からも好ましい。
またアルミナフィラーは、表面処理剤、例えばシランカップリング剤(フェニル基、ビニル基、メタクリロイル基等の置換基を有していてもよい)で表面処理されていてもよい。表面処理されたアルミナフィラーを用いることで、液状エポキシ樹脂組成物の粘度が低下し、注入性を向上することができる。「注入性」とは、圧縮成形時における、チップ-ウェハー間やチップ間への液状エポキシ樹脂組成物の充填の容易さの程度を示す。
液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として適用した際の注入性や、硬化物の反りの低減といった観点からは、メタクリロキシ基又はフェニルアミノ基を含むシランカップリング剤で表面処理されたアルミナフィラーを用いることが特に好ましい。一実施形態において、アルミナフィラーは、メタクリロキシ基又はフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている。そのような表面処理アルミナフィラーはいずれも、液状エポキシ樹脂組成物の上記の特性を向上させる。しかし通常、メタクリロキシ基を含むシランカップリング剤で表面処理されたアルミナフィラーを用いた場合の上記の特性は、フェニルアミノ基を含むシランカップリング剤で表面処理されたアルミナフィラーを用いた場合のそれに比して、より向上される。一実施形態において、アルミナフィラーは、メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている。
【0048】
本発明において用いるアルミナフィラーの平均粒径は、0.1μm~0.3μmであり、好ましくは0.15μm~0.25μmである。アルミナフィラーの平均粒径が0.1μm未満であると、液状エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりやすい。そのため、熱伝導率の十分な向上に必要な量のアルミナフィラーを、液状エポキシ樹脂組成物に添加することが困難になる。一方、アルミナフィラーの平均粒径が0.3μm超であると、液状エポキシ樹脂組成物の注入性が低下する。
アルミナフィラーの平均粒径は、体積粒度分布の累計体積50%における粒径(D50)として求められる。より具体的には、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって粒度分布を測定し、この粒度分布に基づいて平均粒径等を求めることができる。
【0049】
電子部品製造用の封止材に、熱伝導率の向上等を目的としてアルミナフィラーを添加することは、従来から知られていた(特許文献2及び3を参照)。しかし、TSV用モールドアンダーフィル材として用いられる液状エポキシ樹脂組成物における、アルミナフィラー添加の有用性と、この用途に適したアルミナフィラーの特性は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0050】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、アルミナフィラーの含有量は、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、好ましくは40~80質量部であり、より好ましくは45~78質量部であり、特に好ましくは50~75質量部である。
【0051】
また、アルミナフィラーと共にシリカフィラーを含有する本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱線膨張係数が低下した硬化物を与える。
シリカフィラーはシリカ粉末を含む。シリカ粉末は、市販品として入手することができる。このシリカは、天然シリカ(珪石、石英など)であってもよく、合成シリカであってもよい。合成シリカは、乾式法及び湿式法を含む任意の方法で合成されうる。
【0052】
好ましくは、溶融シリカ粉末をシリカフィラーとして用いる。溶融シリカ粉末としては、球状溶融シリカ粉末、破砕溶融シリカ粉末等が挙げられるが、液状エポキシ樹脂組成物の流動性の観点から、球状溶融シリカ粉末(特に、真球度の高い粒子からなるもの)をシリカフィラーとして用いることがより好ましい。
【0053】
またシリカフィラーは、表面処理剤、例えばシランカップリング剤(エポキシ基、アミノ基、フェニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の置換基を有していてもよい)で表面処理されていてもよい。表面処理されたシリカフィラーを用いることで、液状エポキシ樹脂組成物の粘度が低下し、注入性を向上することができる。
【0054】
本発明において用いるシリカフィラーの平均粒径は、好ましくは5nm~100nmであり、より好ましくは10nm~50nmである。シリカフィラーの平均粒径が5nm~100nmの範囲にないと、液状エポキシ樹脂組成物が不適切な粘度及び/又は注入性を示すことがある。シリカフィラーの平均粒径は、成分(C)の試料について撮影された顕微鏡写真(例えば電子顕微鏡写真)を、画像処理ソフトウェアを用いて解析し、顕微鏡写真中の粒子の全て又は一部のサイズを数値化及び統計処理することにより得ることができる。
【0055】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、シリカフィラーの含有量は、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、好ましくは5~23質量部であり、より好ましくは8~19質量部である。
【0056】
本発明に用いられる(C)無機フィラーは、シリカフィラー及びアルミナフィラーからなり、他のフィラーを含まない。(C)無機フィラーに他のフィラーが含まれていると、液状エポキシ樹脂組成物にフィラーを高充填できず、熱伝導率の低下、流動性の低下が生じるため好ましくない。これは、他のフィラーの真球度が、シリカフィラー及びアルミナフィラーのそれよりも低いことに起因する。
【0057】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、(C)無機フィラーの含有量は、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、好ましくは50~90質量部であり、より好ましくは55~88質量部であり、特に好ましくは60~85質量部である。
また、シリカフィラーとアルミナフィラーの質量比は、好ましくは40:60~1:99であり、より好ましくは30:70~5:95であり、特に好ましくは20:80~10:90である。
【0058】
以上のような(C)無機フィラーの添加により、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率が向上した硬化物を与える。具体的には、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率が0.8W/m・K以上、1.2W/m・K未満である硬化物を与える。本発明の液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物の熱伝導率が0.8W/m・K未満であると、その硬化物を含む電子部品の駆動時に発生する熱が十分放出されない。硬化物の熱伝導率は、好ましくは0.7W/m・K以上であり、より好ましくは0.75W/m・K以上であり、特に好ましくは0.8W/m・K以上である。一方、硬化物の熱伝導率は、アルミナフィラーにより向上されるものの、他の成分が共存するため、1.2W/m・K未満となる。
加えて、本発明の液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物は、(C)無機フィラーの添加により、熱線膨張係数が低下している。
【0059】
三次元的に積層された複数のチップを含む電子部品では、上記のような配線の高密度化に伴って、チップ-ウェハー間やチップ間の距離が短くなりつつある。そのような電子部品では、その駆動時に発生する熱が放出されにくくなるので、そのような電子部品を含む半導体装置の性能が、その熱により低下する恐れがある。この熱の放出は、熱伝導率の低いシリカフィラーを含有するモールドアンダーフィル材を用いて製造された電子部品を含む半導体装置ではより困難になる。
一方、本発明の液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物の熱伝導率は、従来のTSV用モールドアンダーフィル材が与える硬化物のそれに比して高い。そのため、本発明の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品は、チップ-ウェハー間やチップ間の距離が短くても、その駆動時に発生する熱を十分に放出する。そのような電子部品を含む半導体装置では、熱による性能低下が抑制される。
【0060】
また本発明においては、注入性の観点から、(C)無機フィラーの総質量を100質量部とするとき、(C)無機フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満であることが特に好ましい。また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、任意成分として、同組成物の特性に悪影響を及ぼさない範囲で、平均粒径0.1μm未満のシリカフィラー及び/又はアルミナフィラーを更に含んでも良い。
【0061】
(D)カーボンブラック
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、カーボンブラックを含有する。電子部品内の配線が光の影響を受ける可能性を考慮すると、カーボンブラックの使用は重要である。カーボンブラックは特に限定されず、エポキシ樹脂組成物に含まれるカーボンブラックとして通常用いられるものを適宜選択して採用することができる。そのようなカーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
本発明においては、カーボンブラックを他の黒色顔料と組み合わせて用いてもよい。他の黒色顔料としては、黒色有機顔料、混色有機顔料、黒色無機顔料等を用いることができる。黒色有機顔料の例としては、ペリレンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。混色有機顔料の例としては、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ、シアン等から選ばれる少なくとも2種類以上の顔料を混合して、疑似黒色化されたものが挙げられる。黒色無機顔料の例としては、グラファイト、ならびに金属およびその酸化物(複合酸化物を含む)、硫化物、窒化物等の微粒子が挙げられる。この金属の例としては、チタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等が挙げられる。
また、カーボンブラックを染料などの他の着色剤と組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、カーボンブラックの含有量は、前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、0.1質量部以上、1.5質量部以下である。カーボンブラックの含有量は、好ましくは0.1質量部以上、1.3質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上、1.1質量部以下である。また、カーボンブラックの含有量は、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、0.01質量部以上、0.60質量部以下が好ましく、0.01質量部以上、0.45質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上、0.30質量部以下であることが更に好ましい。
カーボンブラックの含有量が上記の範囲に満たないと、遮光が不十分となり、電子部品内の配線が光の影響を受ける恐れがある。カーボンブラックの含有量が上記の範囲を超えていると、TSV技術を用いて積層された複数のチップを、液状エポキシ樹脂組成物を用いてパッケージ化して得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品の信頼性が低下する。
【0064】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、必須成分である上記成分(A)~(D)に加え、任意成分、例えば以下に述べるものを必要に応じて含有していてもよい。
【0065】
(E)イオントラップ剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、イオントラップ剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、イオントラップ剤を更に含む。イオントラップ剤は、(A)エポキシ樹脂のような樹脂中に含まれるイオン不純物を捕捉する化合物である。イオントラップ剤を含有させることにより、液状エポキシ樹脂組成物に含まれる塩化物イオン(Cl)等の陰イオン性不純物を捕捉し、動作時のショート不良を抑制することができる。
【0066】
イオントラップ剤には、陽イオンを捕捉するものと陰イオンを捕捉するものがあるが、本発明に用いられるイオントラップ剤としては、塩化物イオンを捕捉することができるものであれば特に制限されず、無機化合物、有機化合物のいずれをも用いることができる。イオントラップ剤として用いられる有機化合物としては、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、ビピリジル系化合物等が挙げられる。イオントラップ剤として用いられる無機化合物としては、希土類酸化物、水酸化ビスマス化合物などのビスマス系化合物、アンチモン系化合物、チタン系化合物、特定の構造を有するリン酸ジルコニウムのようなジルコニウム系化合物、ハイドロタルサイト類のようなマグネシウム系化合物、アルミニウム系化合物等が挙げられる。より高い塩化物イオン捕捉効果との観点から、これらの中でも、ビスマス系化合物、ジルコニウム系化合物、アンチモン系化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、これらの化合物のみからなることがより好ましい。イオントラップ剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、イオントラップ剤の含有量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5~6質量部であり、より好ましくは0.7~5質量部であり、特に好ましくは1~4質量部である。含有量をこの範囲とすることで、液状エポキシ樹脂組成物中の塩化物イオン濃度を十分に低下させつつ、TSV用モールドアンダーフィル材として要求される他の特性を阻害することがない。イオントラップ剤の含有量が、0.5質量部未満であると、塩化物イオンを効果的に捕捉しきれず、バイアスHAST試験において短絡を起こす可能性がある。
【0068】
本発明において用いるイオントラップ剤の平均粒径は、0.01μm(10nm)~2μmであることが好ましく、0.1μm~2.0μmであることがより好ましく、0.2μm~1.5μmであることが更に好ましい。イオントラップ剤の平均粒径は、アルミナの平均粒径と同様にして求めることができる。
【0069】
イオントラップ剤の平均粒径の上限は、三次元的に積層された複数のチップを含む電子部品における、チップ-ウェハー間及び/又はチップ間の距離や、複数のバンプを含む電子部品における、バンプ間の距離に鑑みて、2.0μmであることが好ましく、1.8μmであることがより好ましく、1.5μmであることが更に好ましく、1.2μmであることが更に好ましく、1.0μmであることが更に好ましく、0.8μmであることが更に好ましく、0.5μmであることが更に好ましく、0.4μmであることが特に好ましい。また、イオントラップ剤の平均粒径の下限は、適切な取り扱い性を有し、電子部品の狭路に注入できる液状エポキシ樹脂組成物が得られる限り制限されないが、0.01μm(10nm)であることが好ましく、0.1μmであることがより好ましく、0.2μmであることが更に好ましい。
【0070】
イオントラップ剤としては、市販のものを用いることができる。例としては、東亞合成株式会社製IXEシリーズ、同社製IXEPLASシリーズが挙げられる。
【0071】
電子部品製造用の封止材にイオントラップ剤を添加することは、従来から知られていた(特許文献1及び4を参照)。しかし、TSV用モールドアンダーフィル材として用いられる液状エポキシ樹脂組成物におけるイオントラップ剤添加の有用性と、この用途に適したイオントラップ剤の特性は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0072】
(F)シリコーン系添加剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、シリコーン系添加剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、シリコーン系添加剤を更に含む。シリコーン系添加剤が含まれることは、液状エポキシ樹脂組成物の流動性向上の観点から好ましい。シリコーン系添加剤は、ジアルキルポリシロキサン(Siに結合するアルキル基としては、メチル、エチル等が挙げられる)、特にジメチルポリシロキサンであることが好ましい。またシリコーン系添加剤は、変性ジアルキルポリシロキサン、例えばエポキシ変性ジメチルポリシロキサンであってもよい。シリコーン系添加剤の具体的な例としては、KF69(ジメチルシリコーンオイル、信越シリコーン製)、SF8421(エポキシ変性シリコーンオイル、東レダウシリコーン製)等が挙げられる。シリコーン系添加剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物がシリコーン系添加剤を含む場合、シリコーン系添加剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.1~1.0質量部であることが好ましく、0.25~1質量部であることがより好ましい。
【0074】
(G)カップリング剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、カップリング剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、カップリング剤を更に含む。カップリング剤、特にシランカップリング剤が含まれることは、接着強度向上の観点から好ましい。カップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体的な例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0075】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0076】
(H)マイグレーション抑制剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、マイグレーション抑制剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、マイグレーション抑制剤を更に含む。マイグレーションとは、配線パターンの金属が、電気化学反応によって溶出し、抵抗値低下が生じる現象である。マイグレーション抑制剤が含まれることは、電子部品における信頼性向上の観点から好ましい。マイグレーション抑制剤の具体的な例としては、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチン等のキサンチン類;5,7,8-トリメチルトコール(α-トコフェロール)、5,8-ジメチルトコール(β-トコフェロール)、7,8-ジメチルトコール(γ-トコフェロール)、8-メチルトコール(δ-トコフェロール)等のトコール類;5,7,8-トリメチルトコトリエノール(α-トコトリエノール)、5,8-ジメチルトコトリエノール(β-トコトリエノール)、7,8-ジメチルトコトリエノール(γ-トコトリエノール)、8-メチルトコトリエノール(δ-トコトリエノール)等のトコトリエノール類;ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-メタノール、アルキルベンゾトリアゾール類等のベンゾトリアゾール類;2,4-ジアミノ-6-ビニル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾール-(1)]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン等のトリアジン類;上記ベンゾトリアゾール類又はトリアジン類のイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらのマイグレーション抑制剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0077】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物がマイグレーション抑制剤を含む場合、マイグレーション抑制剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0078】
(I)安定剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、本発明の液状エポキシ樹脂組成物に、その貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために含まれていてもよい。エポキシ樹脂を主剤とする一液型接着剤の安定剤として公知の種々の安定剤を使用することができるが、貯蔵安定性を向上させる効果の高さから、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート及び有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0079】
液状ホウ酸エステル化合物の例としては、2,2'-オキシビス(5,5'-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。液状ホウ酸エステル化合物は常温(25℃)で液状であるため、液状エポキシ樹脂組成物の粘度を低く抑えられるので好ましい。アルミキレートとしては、例えばアルミキレートAを用いることができる。有機酸としては、例えばバルビツール酸を用いることができる。
【0080】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物が安定剤を含む場合、安定剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましく、0.05~25質量部であることがより好ましく、0.1~20質量部であることが更に好ましい。
【0081】
(J)その他の添加剤
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばレベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、反応性希釈剤、溶剤、エラストマー等を含んでいてもよい。各添加剤の種類、量は常法通りである。
【0082】
なお、本発明の液状エポキシ樹脂組成物においては、それに含まれる成分(成分(A)~(D)を含む)のうち1種以上が、微粒子状の固体として存在しうる。本発明においては、注入性の観点から、液状エポキシ樹脂組成物の総質量を100質量部とするとき、粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満であることが好ましい。
【0083】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、成分(A)~(D)及び所望であれば(E)イオントラップ剤その他の成分を、適切な混合機に同時に、または別々に導入して、必要であれば加熱により溶融しながら撹拌して混合し、均一な組成物とすることにより、本発明の液状エポキシ樹脂組成物を得ることができる。この混合機は特に限定されないが、撹拌装置及び加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0084】
このようにして得られた液状エポキシ樹脂組成物は熱硬化性であり、温度100~170℃の条件下では、0.1~3時間で硬化することが好ましく、0.25~2時間で硬化することがより好ましい。
【0085】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物においては、塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記液状エポキシ樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは0.01ppm以上、7.0ppm未満であり、より好ましくは0.01ppm以上、5.0ppm未満であり、更に好ましくは0.01ppm以上、3.0ppm未満である。塩化物イオンの含有量が2.5ppm以上であると、TSV技術を用いて積層された複数のチップを、液状エポキシ樹脂組成物を用いてパッケージ化して得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品の信頼性が低下する。一方、商業上の入手可能性の観点からは、塩化物イオンの含有量は0.01ppm以上であることが好ましい。
【0086】
塩化物イオンの含有量は、試料を高熱・高圧下(例えば、濃度0.1g/cm、121℃、湿度100%、2atmの条件下で20時間)に純水で抽出し、得られた抽出液をイオンクロマトグラフィーに付すことを含む方法により測定することができる。ただし、本発明の液状エポキシ樹脂組成物について塩化物イオンの含有量を測定することが困難な場合には、この含有量が、この液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物(必要に応じて粉砕する(例えば、5mm角程度に))について、上記方法で測定された塩化物イオンの含有量に等しいと見なす。
【0087】
先に述べたように、積層された複数のチップを含む電子部品の製造においては、従来、各チップを積層する毎に、ウェハーとチップの間、又はチップ同士の間の封止を行った後、オーバーモールディングを行う、という工程が用いられていた。このような工程では、オーバーモールディングに用いる樹脂組成物に比して塩化物イオンの含有量が低い樹脂組成物を、封止に用いていた。
【0088】
これに対し、TSV用モールドアンダーフィル材を用い、封止とオーバーモールディングを一工程で行う場合、封止とオーバーモールディングに同じ樹脂組成物を使用せざるを得ない。従来の封止用の樹脂組成物は、耐湿性および耐イオン溶出性等の理由で、TSV用モールドアンダーフィル材としては不適切である。一方、従来のオーバーモールディング用の樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用い、積層された複数のチップを含む電子部品を製造した場合、得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品は低い信頼性を示す。
【0089】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物では、(D)カーボンブラックの含有量が上記の範囲内にあることにより、TSV用モールドアンダーフィル材として用いた同組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品の信頼性が向上している。しかし、同組成物において塩化物イオンの含有量が上記の範囲内であることは、この信頼性の更なる向上をもたらすので、極めて好ましい。
【0090】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物の、回転粘度計を用いて測定される、回転数20rpmで測定された25℃における粘度は、好ましくは20Pa・s~450Pa・sであり、より好ましくは40Pa・s~400Pa・sであり、特に好ましくは60Pa・s~350Pa・sである。25℃における粘度がこの範囲であることにより、液状エポキシ樹脂組成物の注入性が向上する。
【0091】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物チキソトロピックインデックス(TI)は、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.5~4.0であり、特に好ましくは1.0~3.0である。TIがこの範囲であることにより、液状エポキシ樹脂組成物の注入性が向上する。液状エポキシ樹脂組成物のTIは、下記式:
TI=η/η20
(式中、
ηは、回転式粘度計を用いて、温度25℃及び回転数2rpmの条件下で測定した、液状エポキシ樹脂組成物の粘度(上記)であり、
η20は、回転数が20rpmである以外はηと同じ条件下で測定した、液状エポキシ樹脂組成物の粘度である)
で表される。
【0092】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物の、レオメーターを用いて測定される120℃における粘度は、好ましくは1.0Pa・s~10Pa・sであり、より好ましくは1.5Pa・s~7Pa・sであり、特に好ましくは2.0Pa・s~6Pa・sである。25℃における粘度がこの範囲であることにより、液状エポキシ樹脂組成物の注入性が向上する。
【0093】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、例えば、種々の電子部品(例えば半導体素子)を含む、半導体装置を構成する部品同士や、その電子部品を構成する部品同士を固定、接合又は保護するための、接着剤、封止材、又はその原料として用いることができる。本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、電子部品などを保護したり、基板に固定したりするためのアンダーフィル材、特に、ウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を一工程で行う技法で用いられるTSV用モールドアンダーフィル材として好適である。そのような技法による電子部品製造プロセスの例として、圧縮成形プロセスを図1に示す。積層された複数の半導体チップが載せられたウェハー(図1(A))を、金型が装着された圧縮成形装置内に配置し、このウェハーにTSV用モールドアンダーフィル材を塗布する(図1(B))。このウェハーを加熱下で圧縮成形に付し、次いでモールドアンダーフィル材を加熱により硬化させる(図1(C))。このようなプロセスにより、半導体チップが搭載されたウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を、一工程で達成することができる。
【0094】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、三次元的に積層された複数のチップを含み、チップ-ウェハー間やチップ間の距離が短い電子部品、及び/又は複数のバンプを含み、バンプ間の距離が短い電子部品の、ウェハーレベルチップサイズパッケージ技術を用いての製造において、特に有用である。
本発明の液状エポキシ樹脂組成物を用いて製造される、三次元的に積層された複数のチップを含む電子部品において、チップ-ウェハー間及び/又はチップ間の距離は、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。
本発明の液状エポキシ樹脂組成物を用いて製造される、複数のバンプを含む電子部品において、バンプ間の平均距離は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下であり、更に好ましくは40μm以下である。
【0095】
また本発明においては、本発明の液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる硬化物も提供される。本発明においてはさらに、本発明の硬化物を含む電子部品も提供される。
【0096】
本発明においては、本発明の液状エポキシ樹脂組成物により封止された半導体素子も提供される。本発明においてはさらに、本発明の液状エポキシ樹脂組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージも提供される。
【実施例0097】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の記載において、部、%は、断りのない限り質量部、質量%を示す。
【0098】
実施例1~7、比較例1、参考例1~4
表1に示す配合に従って、3本ロールミルを用いて所定の量の各成分を混合することにより、液状エポキシ樹脂組成物を調製した。表1において、各成分の量は質量部(単位:g)で表されている。
【0099】
(A)エポキシ樹脂
実施例、比較例及び参考例において、(A)エポキシ樹脂として用いた化合物は、以下の通りである。
(A-1):脂肪族エポキシ樹脂(商品名:YX7400N、三菱ケミカル株式会社製、全塩素量500ppm、常温で液状)(ポリテトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル)
(A-2):グリシジルアミン型エポキシ樹脂(商品名:jER630LSD、三菱ケミカル株式会社製、全塩素量1500ppm、常温で液状)(芳香環を有するエポキシ樹脂)
(A-3):グリシジルアミン型エポキシ樹脂(商品名:jER630、三菱ケミカル株式会社製、全塩素量5000ppm、常温で液状)(芳香環を有するエポキシ樹脂)
【0100】
(B)硬化剤
実施例、比較例及び参考例において、(B)硬化剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(B-1):液状フェノールノボラック樹脂(商品名:MEH-8005、UBE株式会社製)
(B-2):2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]エチル-s-トリアジン(商品名:キュアゾール2MZ-A、四国化成工業株式会社製)
(B-3):2-エチル-4-メチルイミダゾール(商品名:キュアゾール2E4MZ、四国化成工業株式会社製)
【0101】
(C)無機フィラー
実施例、比較例及び参考例において、(C)無機フィラーとして用いた化合物は、以下の通りである。
(C-1):アルミナフィラー(商品名:AG2030-SMO、株式会社アドマテックス製、平均粒径0.2μm、最大粒径3.0μm、メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている)
(C-2):シリカフィラー(商品名:SE101G-SMO、株式会社アドマテックス製、平均粒径0.3μm、最大粒径3.0μm、メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている)
(C-3):シリカナノフィラー(商品名:アドマナノYA050C-SM1、株式会社アドマテックス製、平均粒径50nm、メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている)
【0102】
(D)カーボンブラック
実施例、比較例及び参考例において、(D)カーボンブラックとして用いた化合物は、以下の通りである。
(D-1):カーボンブラック(商品名:Special Black 4、オリオン エンジニアドカーボンズ株式会社製)
表1において「(D)含有量」は、(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部としたときの、(D)カーボンブラックの含有量(質量部)を表す。
【0103】
(E)イオントラップ剤
実施例、比較例及び参考例において、(E)イオントラップ剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(E-1):ビスマス系イオントラップ剤(商品名:IXE-500、東亞合成株式会社製、平均粒径1.5μm)
(E-2):ジルコニウム/ビスマス系イオントラップ剤(商品名:IXEPLAS-B1、東亞合成株式会社製、平均粒径0.4μm)
(E-3):ジルコニウム/ビスマス系イオントラップ剤(商品名:IXE-6136、東亞合成株式会社製、平均粒径2.1μm)
(E-4):ハイドロタルサイト系イオントラップ剤(商品名:SWMNA-015A-1、戸田工業株式会社製、平均粒径0.2μm)
【0104】
(F)シリコーン系添加剤
実施例、比較例及び参考例において、(F)シリコーン系添加剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(F-1):シリコーンオイル(商品名:SF8421、東レ・ダウコーニング株式会社製)
【0105】
(G)カップリング剤
実施例、比較例及び参考例において、(G)カップリング剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(G-1):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学工業株式会社製)
【0106】
実施例、比較例及び参考例においては、液状エポキシ樹脂組成物及び硬化物の特性を以下のようにして測定した。
【0107】
(液状エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度)
Brookfield社製のHB型回転粘度計(スピンドルSC4-14使用)を用いて、調製した各樹脂組成物について、25℃、20回転/分の条件で粘度(単位:Pa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(液状エポキシ樹脂組成物のチキソトロピックインデックス(TI))
回転速度が2回転/分である以外は、上記「組成物の25℃における粘度」と同じ条件で、調製した各樹脂組成物について粘度(単位:Pa・s)を測定した。この粘度を、上記「組成物の25℃における粘度」で除した値として、当該組成物のチキソトロピックインデックス(TI)を算出した。結果を表1に示す。
【0109】
(液状エポキシ樹脂組成物の120℃における粘度)
HAAKE社製のMARSレオメーターを用いて、製造した各樹脂組成物について、オシレーション歪制御モードで、周波数10Hzの振動を120℃で40秒間与えた後の粘度(単位:Pa・s)を、120℃で測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(液状エポキシ樹脂組成物のゲルタイム)
120±2℃に加熱されたステンレス板上に、調製した各液状エポキシ樹脂組成物を約5mmΦの大きさに滴下し、金属製ニードルを樹脂組成物に一定時間毎に付着させ糸引きがなくなるまでの時間(単位:秒)を、ストップウォッチにより測定した。また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、ゲルタイムは30~600秒であることが好ましく、60~570秒であることがより好ましく、90~540秒であることが特に好ましい。ゲルタイムがこの範囲内であると、液状エポキシ樹脂組成物のゲル化による注入性不良を抑制することができ、また圧縮成形時の成型時間が長くなりすぎず、生産性を向上することができる。
【0111】
(液状エポキシ樹脂組成物の注入性の評価)
シリコンウェハー(直径300mm、厚さ760μm)上に、9個のスペーサー(直径1~2mm、厚さ20μmの円盤状)を介して、シリコンチップ(縦:18mm、横:18mm、厚さ:300μm)を載せた。スペーサーは、シリコンチップの対角線上に、等間隔に配置した(図2(B)参照)。以上の要領で、シリコンチップ4つを、シリコンウェハーの外周近傍に、等間隔に配置した(図2(A)参照)。
【0112】
このシリコンウェハーを、シリコンチップ及びスペーサー共々、金型が装着された圧縮成形装置(型番:WCM-300、アピックヤマダ株式会社製)内に配置した。次いで、金型内に液状エポキシ樹脂組成物を充填し、温度120℃、圧力250kNの条件下で圧縮成形を行い、その後この温度で400秒間加熱して液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、上記シリコンウェハー全体を被覆する、厚さ500μmの液状エポキシ樹脂組成物の硬化物の層(その中に上記シリコンチップ及びスペーサーが封入されている)を形成した。
【0113】
圧縮成型装置から取り出した、硬化物の層で被覆されたシリコンウェハーを、シリコンチップの外縁から若干離れた位置で切断することにより、封止物を得た。シリコンウェハーから測定した硬化物の層の厚さが約10μmとなるまで、シリコンチップ、硬化物及びスペーサーを平面研磨により封止物から除去して、注入性評価用の試験片を得た。
得られた試験片の研磨された側を、目視、または顕微鏡下(倍率:100倍)で観察した。試験片にボイドが確認されなかった場合、又は試験片に確認されたボイドの最大幅が100μm未満であった場合、注入性を○と評価し(図3(B)参照)、試験片に確認されたボイドの最大幅が100μm以上であった場合、注入性を×と評価した(図3(A)参照)。
【0114】
(硬化物の作製)
調製した各樹脂組成物を、乾燥機を用いて150℃で1時間加熱することにより、硬化物を得た。
【0115】
(硬化物の熱伝導率)
調製した各樹脂組成物を用いて、「硬化物の作製」の項に記載の方法により硬化物を得た。得られた硬化物を加工して、試験片(縦10mm、横10mm、厚み0.7mm)を作製した。得られた試験片の熱伝導率を、熱伝導測定装置(LFA447ナノフラッシュ、NETZSCH社製)を用いて、キセノンフラッシュ(Xe-flash)法により測定した。
【0116】
(硬化物のバイアスHAST試験)
バイアスHAST試験による絶縁信頼性の評価に用いた櫛形電極の模式図を、図4に示す。この櫛形電極は、ポリイミドフィルム基材(厚さ38μm)及びその上にパターニングされた銅配線(配線幅15μm、線間ピッチ30μm、厚さ8μm、スズメッキされている(厚さ0.2±0.05μm))からなる。この櫛形電極に、厚さが150μmとなるように液状エポキシ樹脂組成物を塗布し、乾燥機を用いて150℃で1時間加熱することにより、櫛形電極上の液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて、試験片を得た。この試験片をHAST装置(型番:PC-422R8、株式会社平山製作所製)に装着して、相対湿度85%、温度130℃の条件下、3.5Vのバイアス電圧を印加した状態で継続的に電気抵抗値をモニターし、試験開始から短絡が起こる(電気抵抗値が10kΩ以下になる)までの時間(単位:hr)を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
(硬化物における塩化物イオン(Cl)の含有量)
調製した各樹脂組成物を150℃で1時間加熱することにより硬化させて得られた試料を、5mm角程度に粉砕した。この試料2.5gにイオン交換水25cmを加え、PCT試験槽(エスペック株式会社製EHS-221M、121℃±2℃/湿度100%/2atmの槽)中に20時間置いた後、室温まで冷却して得た抽出液を試験液とした。上記の手順で得られた試験液の塩化物イオン濃度を、イオンクロマトグラフ(株式会社島津製作所製Prominence HIC-NS、カラムIC-A1使用)を用いて測定した。塩化物イオン含有量の評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1より明らかなように、(A)エポキシ樹脂(式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂を含む)、(B)硬化剤、(C)無機フィラー及び(D)カーボンブラックを含む液状エポキシ樹脂組成物において、(C)無機フィラーが、シリカフィラーと組み合わせて、適切な平均粒径を有するアルミナフィラーを含み、かつ(D)カーボンブラックの含有量が適切であると、その液状エポキシ樹脂組成物は、0.8W/m・K以上の高い熱伝導率を有する硬化物を与えた(実施例1~7及び参考例1~4)。そのような液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品では、その駆動時に発生する熱の放出が向上する。
これに対し、アルミナフィラーを含まない液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物は、熱伝導率が低かった(比較例1)。そのような液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品では、その駆動時に発生する熱が十分に放出されない。
【0120】
塩化物イオンの含有量が相対的に少ない(A)エポキシ樹脂を用いて調製された液状エポキシ樹脂組成物では必然的に、検出される塩化物イオンの量が少なかった(参考例2)。そのような液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物では、バイアスHAST試験において短絡が起こるまでの時間が比較的長かった。
そのような液状エポキシ樹脂組成物に(E)イオントラップ剤を添加すると、検出される塩化物イオンの量が更に減少し、そのような液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物では、バイアスHAST試験において短絡が起こるまでの時間が延長された(実施例1~7及び参考例4)。ただし、(E)イオントラップ剤がハイドロタルサイト系イオントラップ剤であると、短絡が起こるまでの時間はあまり変わらなかった(参考例3)。また、(E)イオントラップ剤の粒子径が大きいと、液状エポキシ樹脂組成物の粘度はさほど上昇しなかったにも拘らず、その注入性が低下した(参考例4)。
一方、塩化物イオンの含有量が相対的に多い(A)エポキシ樹脂を用いて調製された液状エポキシ樹脂組成物では、(E)イオントラップ剤が添加されていても、多量の塩化物イオンが検出された(参考例1)。そのような液状エポキシ樹脂組成物が与える硬化物では、バイアスHAST試験において短絡が起こるまでの時間が短縮された。
なお、表2には示していないが、(C)無機フィラー中のアルミナフィラーがメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている液状エポキシ樹脂組成物は、アルミナフィラーがフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理されている液状エポキシ樹脂組成物に比して、注入性及び反りの低減において優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、熱伝導率の高い硬化物を与える。そのため、本発明の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品は、チップ-ウェハー間やチップ間の距離が短くても、その駆動時に発生する熱を十分に放出する。そのような電子部品を含む半導体装置では、熱による性能低下が抑制される。また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品は、バイアスHAST試験において長時間にわたり短絡を起こさない。そのため、本発明の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル材として用いて製造された電子部品は、バンプ間の距離が短くても、十分な信頼性を示す。よって、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、TSV用モールドアンダーフィル材としての使用に極めて適している。
【符号の説明】
【0122】
10 シリコンウェハー
11 シリコンチップ
12 バンプ
13 TSV用モールドアンダーフィル材
14 金型
20 シリコンウェハー(直径300mm)
21 シリコンチップ
22 スペーサー(厚さ20μm)
23 TSV用モールドアンダーフィル材の硬化物
30 TSV用モールドアンダーフィル材の硬化物
31 スペーサー
32 ボイド
図1
図2
図3
図4