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特開2025-148214静菌用組成物、静菌方法、加工食品の製造方法及び加工食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025148214
(43)【公開日】2025-10-07
(54)【発明の名称】静菌用組成物、静菌方法、加工食品の製造方法及び加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23B 2/729 20250101AFI20250930BHJP
   A23B 2/754 20250101ALI20250930BHJP
   A23B 2/762 20250101ALI20250930BHJP
【FI】
A23L3/3463
A23L3/3508
A23L3/3526 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140970
(22)【出願日】2024-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2024048798
(32)【優先日】2024-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩
(72)【発明者】
【氏名】小関 成樹
【テーマコード(参考)】
4B021
【Fターム(参考)】
4B021LA01
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK20
4B021MK23
4B021MP03
(57)【要約】
【課題】優れた静菌性を有する組成物を提供すること。
【解決手段】(A)反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンと、(B)キレート剤と、を含む、静菌用組成物。前記(B)キレート剤が、クエン酸若しくはその塩及び縮合リン酸若しくはその塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。キレート剤以外の有機酸若しくはその塩から選ばれる1種以上を含有することも好ましい。前記の有機酸若しくはその塩として、酢酸塩を含むことも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンと、
(B)キレート剤と、を含む、静菌用組成物。
【請求項2】
前記キレート剤が、クエン酸若しくはその塩及び縮合リン酸若しくはその塩から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の静菌用組成物。
【請求項3】
キレート剤以外の有機酸若しくはその塩から選ばれる1種以上を含有する、請求項1に記載の静菌用組成物。
【請求項4】
キレート剤以外の有機酸若しくはその塩として、酢酸塩を含む、請求項3に記載の静菌用組成物。
【請求項5】
反応基質として、キシロースと、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンを含む、請求項1に記載の静菌用組成物。
【請求項6】
反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンを含み、
pH5.8以下の条件で使用される、静菌用組成物。
【請求項7】
醸造酢を含む、請求項6に記載の静菌用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の静菌用組成物を用いて食品を処理する工程を有する、静菌方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の静菌用組成物を配合する工程を有する、加工食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の静菌用組成物を含有する、加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノイジンを用いた静菌用組成物、静菌方法、加工食品の製造方法及び加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、近年、食品の廃棄ロスを低減する観点からも、食品の保存性を向上させることが要望されている。特に、弁当や総菜等の加工食品については、工場や店内の厨房で大量に製造された後、加工食品が凍らない程度の低温度帯(チルド帯)での輸送、保存を経て消費者の手元に届くような流通・販売形態が近年普及している。また、冷凍状態で流通された後に解凍されて販売されるフローズンチルドの流通形態も近年、発達してきている。このように、チルド帯で保存、流通及び/又は販売される加工食品(チルド食品)は、容器に密封され加熱加圧処理されたレトルト食品に比べて、微生物の繁殖による腐敗や変質が問題となりやすいため、高レベルの静菌技術を適用する必要がある。
【0003】
特許文献1には、キシロースまたはリボースから選択される還元糖と、フェニルアラニンまたはプロリンから選択されるアミノ酸とを加熱することによってメラノイジンを製造すること、および該メラノイジンを有効成分として配合することを含む、抗菌組成物の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、グリシン、システイン等のアミノ酸、低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1エステル、重合リン酸塩、プロタミン、ナイシン等の塩基性たん白・ペプチド、甘草抽出抗菌性物質、トウガラシ水性抽出物、糖、糖酸およびアミノ糖よりなる多糖類並びにその部分分解物、香辛料もしくは植物成分、アルコール類、グルコノデルタラクトン、共役リノール酸並びにメラノイジンからなる群より選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする食品用保存剤が記載されている。
【0005】
特許文献3には、飲食品にメラノイジン物質を添加することによる飲食品の防腐、防黴方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2023/068112号
【特許文献2】特開2005-27588号公報
【特許文献3】特公昭48-14042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の静菌用組成物の静菌効果は十分なものとはいえなかった。
従って、本発明の課題は、優れた静菌効果を有する静菌用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のメラノイジンに対し、キレート剤を組み合わせることで、驚くべきことに、従来に比して静菌効果が大きく向上することを見出した。
また、特定のメラノイジンを所定pH条件下にて静菌に用いることで、静菌効果が大きく向上することを見出した。
本発明は以下の構成を提供する。
〔1〕(A)反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンと、
(B)キレート剤と、を含む、静菌用組成物。
〔2〕前記キレート剤が、クエン酸若しくはその塩及び縮合リン酸若しくはその塩から選ばれる1種以上である、〔1〕に記載の静菌用組成物。
〔3〕キレート剤以外の有機酸若しくはその塩から選ばれる1種以上を含有する、〔1〕又は〔2〕記載の静菌用組成物。
〔4〕酢酸塩を含む、〔3〕に記載の静菌用組成物。
〔5〕反応基質として、キシロースと、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンを含む、〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の静菌用組成物。
〔6〕反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンを含み、
pH5.8以下の条件で使用される、静菌用組成物。
〔7〕醸造酢を含む〔6〕に記載の静菌用組成物。
〔8〕〔1〕~〔7〕の何れか1項に記載の静菌用組成物を用いて食品を処理する工程を有する、静菌方法。
〔9〕〔1〕~〔7〕の何れか1項に記載の静菌用組成物を配合する工程を有する、加工食品の製造方法。
〔10〕〔1〕~〔7〕の何れか1項に記載の静菌用組成物を含有する、加工食品。
〔11〕(A)反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンと、
(B)キレート剤と、を含む、乳酸菌若しくは酵母用静菌用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来に比して、優れた静菌性を有する組成物、及びそれを用いて効果的に微生物を静菌する方法、当該組成物を用いることで日持ちを向上可能な加工食品やその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の静菌用組成物についてその好適な実施形態を説明する。
本実施形態の静菌用組成物は、(A)反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造れたメラノイジンを含有し、(B)キレート剤を含有することが好ましい。
【0011】
<メラノイジン>
本発明の静菌用組成物は、反応基質として、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されたメラノイジンを含有する(以下、「特定のメラノイジン」とも記載する。)。本発明において、特定のメラノイジンは、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とのメイラード反応生成物を含有している。メラノイジンは、メイラード反応によって生じる褐色色素をいう。メラノイジンは、食品工業において、食品の加工や貯蔵、香気成分の精製、抗酸化成分の生成に関わる重要なものと考えられている。
【0012】
特定のメラノイジンを生成するメイラード反応の基質は、キシロース、リボース以外の還元糖を含んでいてもよく、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、リキソース、アロース等のアルドース、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース等のケトースが挙げられる。特定のメラノイジンを生成するメイラード反応の基質は、還元糖中、キシロース及びリボースから選択される1種以上の割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることがとりわけ好ましい。
【0013】
特定のメラノイジンにおける基質は、フェニルアラニン、プロリン以外のアミノ酸を含んでいてもよく、例えば、グリシン、セリン、スレオニン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、バリンが挙げられる。特定のメラノイジンにおける基質は、アミノ酸中、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上の割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることがとりわけ好ましい。
【0014】
メイラード反応は、反応基質として上記の還元糖およびアミノ酸を加熱処理に付すことによって行う。反応基質は、好ましくは水等の溶媒に溶解した溶液として、例えば水溶液として、加熱処理に付される。温度および時間などの加熱条件は、メラノイジンが生成するかぎり特に限定されず、当業者によって適宜設定することができる。例えば、高温であるほど短時間で反応が進むことから、できるだけ高温で反応させることが効率的である。限定するものではないが、例えば約100℃~約130℃、好ましくは約115℃~約125℃で、例えば約30~100分間、好ましくは約50~80分間反応させてもよい。例えば、オートクレーブなどを用いて高圧条件下で実施してもよい。
メイラード反応は例えばpH5~10の条件で行うことができ、このpHは7におけるものであることが好ましい。
【0015】
限定されるものではないが、例えば、キシロース及びリボースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とのモル比率は、前者:後者で100:10~200が好ましく、100:50~150がより好ましい。
【0016】
本発明では、特定のメラノイジンとして、前記で得られたメイラード反応生成物をそのまま用いてもよく、或いは適宜溶媒抽出等により精製したものを用いてもよい。メイラード反応生成物を乾燥して、粉末状のメラノイジンとして使用してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、凍結乾燥機を用いる減圧乾燥、真空乾燥、乾燥雰囲気下での乾燥、脱水剤を用いた乾燥、風乾等が好ましく、凍結乾燥機を用いる減圧方法が特に好ましい。
【0017】
本実施形態の静菌用組成物は、中でも、反応基質として、キシロースから選択される1種以上と、フェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上とから製造されるメラノイジンを含有することが、高い静菌効果を有する点で好ましい。
【0018】
限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は、その固形分100gあたり、特定のメラノイジンを、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算して、10mmol以上含むことが好ましく、50mmol以上含むことがより好ましく、100mmol以上含むことが特に好ましい。また、限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物はその固形分100gあたり、特定のメラノイジンの含有量が、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算して、1000mmol以下であってもよく、500mmol以下であってもよい。
なお、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算した場合においても同様の範囲内であることが好ましい。
【0019】
また、静菌用組成物は特定のメラノイジンを乾燥質量として1質量%含有するものであることが好ましく、5質量%以上含有することがより好ましく、10質量%以上含有することが特に好ましい。静菌用組成物における特定のメラノイジンの乾燥質量としての含有量の上限は、例えば99.9質量%以下であってもよく、99質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよい。
【0020】
本実施形態の静菌用組成物は、加工食品100gに対し、特定のメラノイジンを、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算して、0.1mmol以上含有させて使用するものであることが好ましく、0.5mmol以上含有させて使用するものであることがより好ましく、1mmol以上含有させて使用するものであることが特に好ましい。また、本実施形態の静菌用組成物は、加工食品100gに対し、特定のメラノイジンを、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算して、100mmol以下含有させるものであってもよく、50mmol以下含有させるものであってもよい。
なお、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算した場合においても同様の範囲内であることが好ましい。
【0021】
本実施形態の静菌用組成物は、加工食品に対し、特定のメラノイジンを、乾燥質量として0.1質量%以上含有させて使用するものであることがより好ましく、0.3質量%以上含有させて使用するものであることがより好ましく、0.5質量%以上含有させて使用させることが好ましい。また、本実施形態の静菌用組成物は、加工食品に対し、特定のメラノイジンを、5質量%以下含有させるものであってもよく、3質量%以下含有させるものであってもよい。
【0022】
<キレート剤>
キレート剤は、金属イオンとともにキレート錯体を形成し得る特性を有する化合物である。キレート剤を特定のメラノイジンと組み合わせることで、特に効果的に静菌を図ることができることを、本発明者は見出した。
本実施形態で用いるキレート剤としては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であればよいが、例えば、クエン酸;グルコン酸;リンゴ酸;フィチン酸;ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、ヘキサメタリン酸等の縮合リン酸;エチレンジアミン四酢酸、又はこれらの塩が挙げられる。塩としてはナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0023】
なお、本明細書において、アミノ酸や糖及びそれらのメイラード反応生成物は、キレート剤には該当しないものとする。
【0024】
前記キレート剤の中でも、メラノイジンの静菌活性を効果的に高め得ることから、多価カルボン酸若しくはその塩及び縮合リン酸若しくはその塩から選択される1種以上が好ましい。
多価カルボン酸若しくはその塩としては、分子中にカルボキシル基及び水酸基を合計で3つ以上有するものが好ましく、カルボキシル基及び水酸基を合計で4つ以上有するものがより好ましく、特に、クエン酸若しくはその塩が好ましい。
また、縮合リン酸としては、特に一分子中のリン原子数が3つ以上の縮合リン酸が好ましく、4つ以上の縮合リン酸がより好ましく、5つ以上の縮合リン酸が特に好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、本実施形態で用いるキレート剤は、分子量が大きいことが好ましく、例えば、200以上が好ましく、500以上がより好ましく、1000以上が更に好ましい。キレート剤の分子量は、特に制限はないが、例えば、3000以下であることが入手容易性の点等から好ましい。
【0026】
限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は、特定のメラノイジンの、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上の換算量1molに対し、キレート剤を官能基基準で0.5mol以上含むことが好ましく、1mol以上含むことがより好ましく、5mol以上含むことが特に好ましく、10mol以上含むことが更に一層好ましい。また、限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は特定のメラノイジンの反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算される量1molに対し、キレート剤の含有量が官能基基準で、100mol以下であってもよく、50mol以下であってもよい。
なお、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算した場合においても同様の範囲内であることが好ましい。
ここで官能基基準とは、キレート剤のモル数ではなく、キレート剤の官能基数を基準とすることを指す。官能基数としては、キレート剤がカルボン酸である場合は、分子中のカルボン酸基と水酸基の合計数とし、例えばクエン酸であれば4である。
また、キレート剤の官能基数は、例えば、EDTAであれば4である。
また、キレート剤が縮合リン酸であれば、官能基数はリン原子の数に相当し、トリポリリン酸又はその塩であれは、3であり、テトラポリリン酸又はその塩であれは、4であり、メタリン酸(別名「ヘキサメタリン酸」)であれば、通常10~23である。)
【0027】
本実施形態の静菌用組成物は、特定のメラノイジンの、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上の換算量1molに対し、キレート剤を0.06mol以上含むことが好ましく、0.1mol以上含むことがより好ましく、0.5mol以上含むことが特に好ましく、1mol以上含むことが更に一層好ましい。また、限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は特定のメラノイジンの反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算される量1molに対し、キレート剤の含有量が100mol以下であってもよく、50mol以下であってもよい。
なお、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算した場合においても同様の範囲内であることが好ましい。
【0028】
また静菌用組成物は固形分としての特定のメラノイジンの乾燥質量1質量部に対し、キレート剤を0.1質量部以上含有するものであることが好ましく、0.5質量部以上含有するものであることがより好ましく、1質量部以上含有するものであることが特に好ましい。静菌用組成物において、特定のメラノイジンの乾燥質量1質量部に対し、キレート剤の含有量は、例えば10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。
【0029】
本実施形態の静菌用組成物におけるキレート剤の含有量は、静菌性の向上の観点から、該静菌用組成物の全固形分100質量部中、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が特に好ましい。本実施形態の静菌用組成物におけるキレート剤の含有量は、食味への影響の回避等の観点から、該静菌用組成物の全固形分100質量部中、80質量部以下が好ましく、50質量部以下が更に一層好ましい。
【0030】
本実施形態の加工食品におけるキレート剤の含有量は、静菌性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。本実施形態の加工食品におけるキレート剤の含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
<その他の成分>
静菌用組成物におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、有機酸又はその塩、静菌作用を有する成分(グリシン、卵白リゾチーム等)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、澱粉類(澱粉、加工澱粉等)、デキストリン類(デキストリン、シクロデキストリン、難消化性デキストリン等)、セルロース類、増粘多糖類(キサンタンガム、タマリンドシードガム等)等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
これらの中でも、前記特定のメラノイジン、キレート剤と併用することで、静菌効果をさらに向上させ得るため、有機酸及び/又は有機酸塩(以下、有機酸類とする。)を含有させることが好ましい。
【0033】
<有機酸及び/又は有機酸塩>
上述の通り、本実施形態の静菌用組成物は、キレート剤以外の有機酸及び/又は有機酸塩から選ばれる1種以上を含有していてもよく、特定のメラノイジン及びキレート剤を有機酸類を組み合わせることが好ましい。前記の有機酸類は、静菌用組成物のpHを調整するために使用され、メラノイジンによる静菌作用を補助するものである。これらの有機酸類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、典型的には、静菌用組成物が所望のpHとなるように2種以上を組み合わせて用い得る。
前記の有機酸類としてはカルボキシル基及び水酸基の合計数が1つであるもの、カルボキシル基及び水酸基の合計数が2つ以上であってもキレート性の低いものが挙げられ、これらは本明細書では、キレート剤以外の有機酸類として扱う。具体的には、酢酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ソルビン酸、プロピオン酸、酒石酸、マレイン酸、シュウ酸、フェルラ酸等の有機酸やそれらの塩等が挙げられる。
以下、本明細書でいう「有機酸類」の量は、キレート剤以外の有機酸類の量を指す。
【0034】
また、前述した各種の有機酸の塩としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を用いることが、静菌性の効果及び食味の点で好適である。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩が挙げられる。
【0035】
本発明の静菌用組成物は、静菌性の高さ、入手容易性、溶解性及び緩衝力の観点から、前記有機酸類が少なくとも酢酸塩を含むことが好ましい。さらに、該酢酸塩は、酢酸のアルカリ金属塩であることがより好ましく、酢酸ナトリウムであることがより一層好ましい。
【0036】
前記有機酸類として、酢酸塩(好ましくは酢酸のアルカリ金属塩、特に酢酸ナトリウム)と酢酸塩以外の有機酸類とを併用する場合、所望のpHやこれらの有機酸類の緩衝力にもよるが、目安としては、有機酸類全質量中に酢酸塩が50質量%以上を占めることが好ましく、80質量%以上を占めることがより好ましい。
【0037】
本発明の加工食品における酢酸塩の含有量は、微生物安全性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。本発明の加工食品における酢酸塩の含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に一層好ましい。
【0038】
また、本実施形態の静菌用組成物は例えば、酢酸源として食酢を含有していてもよい。例えば醸造酢は、穀類、果実、野菜、その他農産物、はちみつ、アルコール、砂糖類を原料に発酵させた液体調味料であり、穀物酢と果実酢等に分類される。穀物酢の例としては、米酢、米黒酢、大麦黒酢が挙げられる。果実酢の例としては、りんご酢、ブドウ酢が挙げられる。醸造酢の酸の成分は酢酸であり、酢酸換算値である酸度が4.0%(穀物酢にあっては4.2%、果実酢にあっては4.5%)以上であるものが醸造酢に該当する。
本実施形態の醸造酢の酸度は特に規定されないが、例えば5~20であることが好ましく、10~20であることが更に好ましい。
例えば後述する表9と表10との対比からわかるように、醸造酢等の有機酸類とメラノイジンとの併用においても良好な抗菌効果が得られうる。醸造酢は食品表示できるため、メラノイジンと醸造酢を食品について広く使用することが期待できる。
【0039】
限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は有機酸類を含有する場合、特定のメラノイジンの、反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上の換算量1molに対し、有機酸類を0.5mol以上含むことが好ましく、1mol以上含むことがより好ましく、2.5mol以上含むことが特に好ましい。また、限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は特定のメラノイジンの反応基質であるフェニルアラニン及びプロリンから選択される1種以上に換算される量1molに対し、有機酸類の含有量が、100mol以下であってもよく、50mol以下であってもよい。
なお、反応基質であるキシロース及びリボースから選択される1種以上に換算した場合においても同様の範囲内であることが好ましい。
【0040】
また本実施形態の静菌用組成物において、特定のメラノイジンの乾燥質量1質量部に対し、有機酸類を0.01質量部以上含有するものであることが好ましく、0.03質量部以上含有するものであることがより好ましく、0.05質量部以上含有するものであることが特に好ましい。静菌用組成物において、特定のメラノイジンの乾燥質量1質量部に対し、有機酸類の含有量は、例えば10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。
【0041】
限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は、有機酸類を含有する場合、キレート剤1質量部に対し、有機酸類を、0.1質量部以上含むことが好ましく、0.2質量部以上含むことがより好ましく、0.3質量部以上含むことが特に好ましい。また、限定されるものではないが、本実施形態の静菌用組成物は有機酸類を含有する場合、キレート剤1質量部に対し、100質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよい。
【0042】
本発明の静菌用組成物における有機酸類の含有量は、静菌性の向上の観点から、該静菌用組成物の全固形分100質量部中、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。本発明の静菌用組成物における有機酸類の含有量は、食味への影響の回避等の観点から、該静菌用組成物の全固形分100質量部中、90質量部以下が好ましく、80質量部以下が更に一層好ましい。
【0043】
本発明の加工食品における有機酸類の含有量(2種以上併用する場合は合計量)は、微生物安全性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。本発明の加工食品における酢酸塩以外の有機酸塩の含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、4質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の静菌用組成物においては、特定のメラノイジンとキレート剤との働きにより、対象となる食品における静菌を効果的に図ることができ、食品に高い保存性を付与することができる。
特に、本開示の静菌用組成物は、pHが高い加工食品、例えばpHが5.8以上の加工食品にも高い保存性を付与することができるという優れた効果を奏する。従来、pHが高い加工食品では、調理時に有機酸類を含む静菌剤を使用しても加工食品自体のpHが高いままであるため、有機酸類の静菌効果が十分に発揮されないという問題があったが、本開示は当該問題も解決し得るものである。本開示は、微生物が繁殖しやすいチルド食品の保存性の向上にとりわけ有効である。なお、本明細書における加工食品のpHは20~30℃で測定するものとし、当該範囲の何れかの温度でpH5.8以上であれば、pH5.8以上であることに該当するものとする。pHは、加工食品が固形状である場合は、イオン交換水又は生理食塩水で2質量倍から10質量倍に希釈し、ストマッカー、フードプロセッサー又はミキサー等でペースト状にして測定できる。メラノイジンの抗菌効果が高い点から加工食品のpHは例えば、8.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましい。
【0045】
また、メラノイジンの作用はpH5.8以下の条件で特に好適に発揮されるため当該pHの加工食品にて使用されてもよく、例えばpH4.0以上5.4以下の加工食品において使用されてもよい。
【0046】
本発明の静菌用組成物は、食品の鮮度や品質等の劣化を抑制し、その保存性を向上させるために使用される。本発明の静菌用組成物が適用可能な食品の種類は特に限定されず、例えば、野菜、豆類、芋類、山菜、果物、畜肉、鶏肉、水産物、穀類等の各種食材の非調理品であってもよいし、惣菜、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類等といった調理済み又は半調理済みの食品、いわゆる加工食品であってもよい。尚、ここでいう半調理とは、未完成の調理を指す。例えば半調理品とは、味付け、切断、皮むき、串刺し、粉付け等、食材の下ごしらえを行った食品をいい、例えば、加熱済みであるが調味は完成していないもの、衣及び/又は下味が付された状態であるが未加熱のもの、カットされた野菜等を含む。本発明の静菌用組成物は、特に加工食品に有用であり、とりわけ、レトルト食品に該当しない加熱調理済食品である惣菜に有用である。惣菜としては、例えば、煮物類、茹で物類、焼き物類、和え物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、サラダ類等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の静菌用組成物は、広範な微生物に有効であるが、特に乳酸菌や酵母の繁殖を効果的に抑制することを可能とする。従来、乳酸菌や酵母は、チルド食品などの食品製造時に混入しやすく、これらの繁殖制御は従来から非常に困難であった。これに対し、後述する実施例に示す通り、特定のメラノイジンは、乳酸菌や酵母の静菌効果が良好であり、これをキレート剤と組み合わせることできわめて優れた静菌効果が得られることが判明した。このことから、本実施形態の静菌用組成物は加工食品用静菌用組成物として特に有用であることが分かる。
乳酸菌の種類は特に限定されないが、一般的に、食品製造時に混入しやすい乳酸菌として、Lactobacillus属細菌、Amylolactobacillus属細菌、Holzapfelia属細菌、Bombilactobacillus属細菌、Companilactobacillus属細菌、Lapidilactobacillus属細菌、Agrilactobacillus属細菌、Schleiferilactobacillus属細菌、Lacticaseibacillus属細菌、Paralactobacillus属細菌、Latilactobacillus属細菌、Loigolactobacillus属細菌、Dellaglioa属細菌、Liquorilactobacillus属細菌、Ligilactobacillus属細菌、Lactiplantibacillus属細菌、Furfurilactobacillus属細菌、Paucilactobacillus属細菌、Limosilactobacillus属細菌、Secundilactobacillus属細菌、Levilactobacillus属細菌、Fructilactobacillus属細菌、Acetilactobacillus属細菌、Apilactobacillus属細菌、Lentilactobacillus属細菌、Leuconostoc属細菌、Lactococcus属細菌、Pediococcus属細菌、Weissella属細菌、Enterococcus属菌等が挙げられる。また酵母菌群としては、Wickerhamomyces属、Metschnikowia属、Candida属、Saccharomyces属、Brettanomyces属、Zygosaccharomyces属、Cryptococcus属、Rhodotorula属、Schizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Sporobolomyces属、Saturnispora属などが挙げられる。
【0048】
次に、本発明の静菌用組成物を用いた静菌方法(以下、「本発明の静菌方法」ともいう)及び加工食品の製造方法(以下、まとめて「本発明の方法」ともいう。)や加工食品について、以下に説明する。これらに関しては、以下の説明に加えて、前述の本発明の静菌用組成物についての説明を適宜適用することができる。
【0049】
本発明の加工食品の製造方法は、前述した本発明の静菌用組成物を配合する工程を有する。この配合工程は、例えば、静菌用組成物を含有しない加工食品に静菌用組成物を振りかける、まぶす、塗布する、噴霧する方法によって実施することができる。あるいは、液状の静菌用組成物中に、静菌用組成物を含有しない加工食品を浸漬する方法によって実施することができる。あるいは、静菌用組成物を調味料或いはその他の原材料の一部として用いて食材を調理又は半調理(例えば加熱調理)することによって実施することができる。
これらの配合工程における前記の各種の処理は、本発明の静菌用組成物を用いて食品を処理することにも該当する。
【0050】
本発明の加工食品は典型的には、冷凍、冷蔵若しくは常温流通される調理済み食品又は半調理済み食品である。加工食品の例としては、上述した通りの各種の加工食品であり、具体的には例えば、本発明の加工食品はいわゆるレトルト食品であってもよく、レトルト食品のような加圧加熱殺菌処理を経ていないものであってもよい。
【0051】
本発明の加工食品は澱粉を含有していてもよい。前述したとおり、澱粉は静菌剤に対して阻害作用を有するが、本発明の加工食品は、前述した本発明の静菌用組成物の作用により、澱粉を含有していても微生物安全性が高く、長期保存が可能である。ここでいう「澱粉」に関し、澱粉の種類は特に制限されず、例えば、小麦粉などの穀粉並びに前述した未加工澱粉及び加工澱粉から選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の加工食品における澱粉の含有量は、澱粉を含有していても微生物安全性が高い、という効果を奏するという観点から、該加工食品の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり得る。本発明の加工食品における澱粉の含有量の上限については、特に制限されないが、該加工食品の全質量に対して、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
【0052】
本発明の加工食品は、典型的には、冷凍、冷蔵若しくは常温で保存、流通及び/又は販売される調理済み食品又は半調理済み食品である。具体的には、例えば、惣菜(和え物類、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、及びサラダ類等)、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類を例示できる。
【0053】
本発明の加工食品は、通常の保存手段、例えば、常温、冷蔵、チルド又は冷凍で保存され得る。好ましくは、本発明の加工食品は、チルド状態で保存、流通及び/又は販売されるものである。ここでいう「チルド状態」とは、加工食品の品温が凍結しない程度の低温である状態を指す。チルド状態の加工食品の品温は、好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃である。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の対照例は上記〔6〕又は〔11〕の範囲内である。
【0055】
(製造例1)
D-キシロース濃度が40mM、L-フェニルアラニン濃度が40mMの濃度となるようにD-キシロースとL-フェニルアラニンをpH7.0のリン酸緩衝液に溶解し、121℃、オートクレーブを用いて60分間加熱した。
(製造例2)
フェニルアラニンの代わりにプロリンを用いた以外は製造例1と同様にしてメラノイジン含有液を調製した。
【0056】
試験1
(対照例1、実施例1及び2)
(1)TSB培地4.4g(ベクトン・ディキンソン社製トリプティックソイブロス)、可溶性澱粉(富士フィルム和光純薬社製でんぷん(溶性))1.5gを、水94.1gに溶解し、塩酸を添加してpHを6.2に調整後、121℃で15分間、オートクレーブし、澱粉添加の1.5倍濃度TSB培地を作製した。
(2)製造例1で得られたメラノイジン含有液と(1)で得られた澱粉添加1.5倍濃度のTSB培地を混合し(質量比1:2)、メラノイジン添加TSB培地を作製した。
(3)(2)で得られたメラノイジン添加TSB培地は10mlずつ分注し、その一部に、キレート剤としてクエン酸三ナトリウム(2水和物、実施例3~5、11~13でも同様)又はトリポリリン酸ナトリウム(大平化学産業)を1質量%添加した。
(4)4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、及び、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7cfu/g目標で(3)に添加した。
具体的には、以下のようにした。
各菌種の保存菌株を、標準寒天培地にそれぞれ画線して培養した後、標準寒天培地から単一コロニーを釣菌し、TSB培地に接種した後、30℃で24時間培養した。その培養液0.1mLを、新しいTSB培地10mLに接種し、これを一晩培養した。得られた菌液4種を0.1質量%滅菌ペプトン水で混合して、4種の菌株ミックス液を調製した。得られた調製液について表面塗抹平板法にて菌数を測定し、(3)における培地10mlに対し、接種後の培地1g当たりの菌数が約7cfu/gとなるように、100μL接種した。
(5)乳酸菌添加後の培地を10℃で72時間、120時間、144時間保管した。保管後の培地について、下記方法にて、標準寒天培地にて菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。結果を表1に示す。表1の結果は3連の最大値である(以下、表2~4、6、7、8~10の結果も同様)。
【0057】
<生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記のとおりである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては標準寒天培地を用いた30℃、72時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から、可溶性澱粉存在下では、特定のメラノイジン存在下であっても乳酸菌が増殖しやすいが、キレート剤をメラノイジンと組み合わせて用いる本発明により、菌数の増加を特に効果的に抑制できることが分かる。
【0060】
試験2
(対照例2、実施例3及び4)
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)5.82gを水94.2gに溶解して、塩酸を用いてpHを5.8に設定した。
(2)市販の粥(味の素社製「白がゆ」)5gに(1)のTSB培地5gを添加し、121℃で15分間、オートクレーブした。これを複数用意した。
(3)(2)の粥入りTSB培地の一部に、キレート剤としてクエン酸三ナトリウムを1質量%、又はクエン酸三ナトリウムを1質量%及び酢酸ナトリウム0.5質量%を添加した。
(4)(2)でオートクレーブした粥入りTSB培地10g、或いは、それらに(3)の添加を行ったもの10gに、製造例1で製造したメラノイジン含有液5gをそれぞれ添加し、混合した。
(5)試験1の(4)と同様の手順で、乳酸菌4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum 、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7cfu/g目標で添加した。
(6)10℃で72時間、120時間、144時間保管した。各時間経過後に、上記方法にて、菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2から、粥などの食品存在下では、特定のメラノイジン存在下であっても乳酸菌が繁殖しやすいが、本発明ではキレート剤を添加することで、効果的に増殖を抑制できること、有機酸塩を添加することで一層効果的な静菌が行えることが分かる。
【0063】
試験3
(対照例3、実施例5)
対照例1、実施例1において、可溶性澱粉の量を1.5質量%から1質量%に変更した。その点以外は対照例1、実施例1と同様とした。結果を表3に示す。
【0064】
(実施例6及び7)
実施例5において、クエン酸三ナトリウム1質量%に替えて、メタリン酸ナトリウム(太平化学産業)又はポリリン酸ナトリウム(テトラポリリン酸ナトリウム、太平化学産業)をそれぞれ1質量%添加した。その点以外は実施例5と同様とした。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示す通り、特定のメラノイジンにキレート剤を組み合わせることによる静菌効果が優れていることが分かる。
【0067】
試験4
(対照例4、実施例8~10)
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)5.82gを水94.2gに溶解して、塩酸を用いてpHを6.2に調整し、121℃のオートクレーブで15分間加熱して2倍濃度のTSB培地を作成した。
(2)(1)のTSB培地5mlに、製造例1で製造したメラノイジン含有液5mlを添加し、市販の粥(味の素社製「白がゆ」)5gにさらに添加した。これを複数用意した。
(3)(2)のメラノイジン入り粥含有TSB培地の一部に、キレート剤としてメタリン酸ナトリウム(太平化学産業社)0.25~1質量%を添加した。
(4)(2)で得られたメラノイジン入り粥入りTSB培地10g、或いは、それらに(3)の添加を行ったもの10gに対し、試験1の(4)と同様の手順で、乳酸菌4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum 、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7cfu/g目標で添加した。
(5)(4)の培地を10℃で72時間、120時間、144時間保管した。各時間経過後に、上記方法にて、菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
以下では、キレート剤を用いないデータを参考として示す。
【0070】
試験5
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)5.82gを水94.2gに溶解して、121℃のオートクレーブで15分間加熱して2倍濃度のTSB培地を作成した。
(2)製造例1で得られたメラノイジン含有液を、(1)で得られた2倍濃度のTSB培地とを質量比1:1で混合し、メラノイジン添加TSB培地を作製した。
(3)滅菌水と(1)で得られた2倍濃度のTSB培地とを質量比1:1で混合し、メラノイジン無添加TSB培地を作製した。
(4)(2)又は(3)の培地それぞれを、96ウェルマイクロプレートに150μlずつ分注した。
(5)(4)の培地に、乳酸菌を1×10CFU/g目標で添加した。
具体的には、以下のようにした。
保存菌株を、標準寒天培地にそれぞれ画線して培養した後、標準寒天培地から単一コロニーを釣菌し、TSB培地に接種した後、30℃で24時間培養した。その培養液0.1mLを、新しいTSB培地10mLに接種し、これを一晩培養した。得られた菌液の菌数を、表面塗抹平板法により測定した。菌液を0.1質量%滅菌ペプトン水で希釈し、接種後の培地1g当たりの菌数が約1×10cfu/gとなるように、(4)における培地150μLに対し、1.5μL接種した。
(6)インキュベーションリーダーHiTS(株式会社サイニクス)を10℃のインキュベーターに入れ、経時的に660nmの吸光度を測定した。
(7)(6)で測定した吸光度から、菌を添加していないブランクの吸光度を差し引いた吸光度差を表5に示す。なお吸光度差が小さいほど、静菌効果が高い。
【0071】
【表5】
【0072】
試験6
(評価)
製造例1及び2で得られたメラノイジン含有液を以下の方法で評価した。
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)4.4gを水96.4gに溶解し、塩酸を添加してpHを5.8に調整後、121℃のオートクレーブで15分間加熱して1.5倍濃度のTSB培地を作成した。
(2)製造例1若しくは2で得られたメラノイジン含有液と(1)で得られた1.5倍濃度のTSB培地を質量比1:2で混合し、メラノイジン添加TSB培地を作製した。
(3)滅菌水と(1)で得られた1.5倍濃度のTSB培地とを質量比1:2で混合し、メラノイジン無添加TSB培地を作製した。
(4)(2)及び(3)の培地を、10mLずつ試験管に分注した。
(5)試験1の(4)と同様の手順にて、乳酸菌4菌種のカクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、及びLeuconostoc pseudomesenteroides)を7cfu/g目標で添加した。
【0073】
(6)10℃で120時間、144時間保管し、上記方法で菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
試験7
製造例2で得られたメラノイジン含有液を以下の方法で評価した。
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)5.8gを水94.2gに溶解し、塩酸を添加してpHを5.8に調整後、121℃のオートクレーブで15分間加熱して2倍濃度のTSB培地を作成した。
(2)製造例2で得られたメラノイジン含有液と(1)で得られた2倍濃度のTSB培地を質量比1:1で混合し、メラノイジン添加TSB培地を作製した。
(3)滅菌水と(1)で得られた2倍濃度のTSB培地とを質量比1:1で混合し、酢酸ナトリウム1質量%を添加し、酢酸ナトリウム添加TSB培地を作製した。
(4)(2)及び(3)の培地を、10mLずつ試験管に分注した。
(5)酵母Wickerhamomyces anomalus、Metschnikowia pulcherrima、Candida anglica の各菌株をそれぞれ100cfu/g目標で添加した。
具体的には以下のようにした。
保存菌株を、PDAc培地(BDのポテトデキストロースアガーにクロラムフェニコールを添加したもの)にそれぞれ画線して培養した後、PDAc培地から単一コロニーを釣菌し、TSB培地に接種した後、25℃で24時間培養した。その培養液0.1mLを、新しいTSB培地10mLに接種し、これを一晩培養した。得られた菌液の菌数を、表面塗抹平板法により測定した。菌液を0.1質量%滅菌ペプトン水で希釈し、接種後の培地1g当たりの菌数が約1×10cfu/gとなるように、(4)における培地10mlに対し、100μL接種した。
【0076】
(6)10℃で72時間、120時間、144時間保管し、菌数測定を実施した。菌数測定は、標準寒天培地の代わりにPDAc培地を用い、30℃、72時間の好気培養の代わりに、25℃、4日間の好気培養を採用した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
試験8
(実施例11~13、対照例5)
<1>粉末状メラノイジンの製造
D-キシロース濃度が40mM、L-フェニルアラニン濃度が40mMの濃度となるようにD-キシロースとL-フェニルアラニンをpH7.0のリン酸緩衝液に溶解し、121℃、オートクレーブを用いて60分間加熱した。得られた40mMメラノイジン含有液を真空凍結乾燥機(東京理化器械社製FDM-1000)を使用して4日間凍結乾燥した。凍結乾燥後の収率は1.9%であった。なお凍結乾燥機としてスクラム社製Genesis Pilotを用いても同様の結果が得られた。
<2>粉末状メラノイジンの静菌効果検証
(1)TSB培地(ベクトン・ディッキンソン社製「トリプティックソイブロス」)2.9gを水100gに溶解して、塩酸を用いてpHを5.8に設定した。
(2)市販の粥(味の素社製「白がゆ」)5gに(1)のTSB培地10gを添加し、121℃で15分間、オートクレーブした。これを複数用意した。
(3)(2)の粥入りTSB培地の一部に、実施例11、12及び13ではキレート剤としてクエン酸三ナトリウム0.5質量%、及び酢酸ナトリウム0.5質量%を添加した。
(4)(2)でオートクレーブした粥入りTSB培地15g、或いは、それらに(3)の添加を行ったもの15gに、上記方法で得られた粉末状メラノイジン0.5質量%、0.75質量%、1質量%をそれぞれ添加し、混合した。
(5)試験1の(4)と同様の手順で、乳酸菌4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum 、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7CFU/g目標で添加した。
(6)10℃で72時間、120時間、144時間保管した。各時間経過後に、上記方法にて、菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。
結果を表8に示す。
【表8】
【0079】
メラノイジンのみでは、10℃で120時間、144時間後の増殖菌数は5桁未満にならないが、粉末メラノイジンに、キレート剤としてクエン酸三ナトリウム0.5質量%及び酢酸ナトリウム0.5質量%を添加することにより、効果的な静菌が行えることが分かる。
【0080】
試験9.メラノイジンを用いたpHが低い領域での静菌効果検証
(1)澱粉や粉末培地の使用量を異ならせた以外は試験1の(1)と同量の要領で、可溶性澱粉1質量%含有する1倍濃度のTSB培地(オートクレーブ済みのもの)を用意した。
(2)上記方法で得られた粉末状メラノイジンを(1)で得られた澱粉添加TSB培地に、添加しないか、0.1質量%、0.25質量%又は0.5質量%濃度で混合し、メラノイジン無添加TSB培地及びメラノイジン添加TSB培地を作製した。
(3)(2)で得られたメラノイジン無添加TSB培地及びメラノイジン添加TSB培地はそれぞれ10mlずつ分注し塩酸を添加し、25℃のpHが4.6、5.0、5.4、及び5.8になるように調整した。
(4)試験1の(4)と同様の手順で、乳酸菌4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum 、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7CFU/g目標で添加した。
(5)10℃で120時間、144時間保管した。各時間経過後に、上記方法にて、菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。
結果を表9に示す。
【0081】
【表9】
【0082】
試験10.メラノイジンと醸造酢の併用による静菌効果検証
(1)澱粉や粉末培地の使用量を異ならせた以外は試験1の(1)と同量の要領で、可溶性澱粉1質量%含有する1倍濃度のTSB培地(オートクレーブ済みのもの)を用意した。
(2)上記方法で得られた粉末状メラノイジンを(1)で得られた澱粉添加TSB培地に、添加しないか、0.25質量%で混合した。
(3)(2)で得られたメラノイジン無添加TSB培地及びメラノイジン添加TSB培地に酸度を13.5に調整した醸造酢を0.2質量%、0.5質量%で混合した。
(4)塩酸を添加し、25℃のpHが5.8になるように調整した。
(5)試験1の(4)と同様の手順で、乳酸菌4菌株カクテル(Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum 、Leuconostoc pseudomesenteroides)を7CFU/g目標で添加した。
(6)10℃で120時間、144時間保管した。各時間経過後に、上記方法にて、菌数測定を実施した。菌数を対数にし、初発菌数を差し引き、増殖菌数を算出した。
【0083】
【表10】