(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024573
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】気体分析装置、気体分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20250213BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128776
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】蔡 徳七
(72)【発明者】
【氏名】川俣 大志
(72)【発明者】
【氏名】井口 佳哉
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD12
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF08
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG08
2G059HH01
2G059KK08
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】試料ガスの分析をより精度よく行う。
【解決手段】気体分析装置(1)は、試料ガスを含む試料セル(11)と、参照ガスを含む参照セル(12)と、試料セルに光(L)を照射する光源(10)と、光を照射された試料セル内の気圧と、参照セル内の気圧と、の差を測定する差圧測定器(13)と、を備える。気体分析方法は、光を照射された試料セル内の気圧と、参照セル内の気圧と、の差の測定を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを含む試料セルと、
参照ガスを含む参照セルと、
前記試料セルに光を照射する光源と、
前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、前記参照セル内の気圧と、の差を測定する差圧測定器と、を備えた気体分析装置。
【請求項2】
前記差を解析して、前記試料ガスにおける特定成分の有無を特定する解析部を備えた請求項1に記載の気体分析装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記差を解析して、前記試料ガスにおける特定成分の濃度を特定する請求項2に記載の気体分析装置。
【請求項4】
前記光源は赤外光源を含む請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項5】
前記光源はパルスレーザ光源および半導体レーザ光源の少なくとも一方を含む請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項6】
前記参照ガスは希ガスおよび窒素の少なくとも一方を含む請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項7】
前記光源は前記参照セルに前記光を照射し、
前記差圧測定器は、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、前記光を照射された前記参照セル内の気圧と、の差を測定する請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項8】
前記光源は第1波長を有する第1光と、前記第1波長よりも長い第2波長を有する第2光と、を出射し、
前記差圧測定器は、前記光源が前記試料セルに前記第1光を照射した場合と、前記光源が前記試料セルに前記第2光を照射した場合と、のそれぞれにおいて前記差を測定する請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項9】
前記光を照射される前の前記試料セル内の気圧と前記参照セル内の気圧との差が10Pa以下である請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項10】
前記差圧測定器による前記差の測定において、前記試料セルの内部と連通する前記差圧測定器の内部の空間は閉鎖され、かつ、前記参照セルの内部と連通する前記差圧測定器の内部の空間は閉鎖される請求項1から3の何れか1項に記載の気体分析装置。
【請求項11】
試料ガスを含む試料セルへの光の照射と、
前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、参照ガスを含む参照セル内の気圧と、の差の測定と、を含む気体分析方法。
【請求項12】
測定された前記差の解析による、前記試料ガスにおける特定成分の有無の特定を含む請求項11に記載の気体分析方法。
【請求項13】
前記試料ガスにおける前記特定成分の有無の特定は、前記試料ガスにおける前記特定成分の濃度の特定を含む請求項12に記載の気体分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は気体分析装置、および気体分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、気体に赤外波長域の連続光を照射し、気体を透過した赤外光の干渉パターンから気体に含まれる成分を分析するFT-IR法(フーリエ変換赤外分光法)について記載されている。FT-IR法は赤外光を照射された分子の振動に対し高い分解能にて測定が可能であり、気体中に含まれる化学物質の同定にも有利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Arkajyoti Banerjee. Fourier Transform Infrared Spectroscopy - A Review” “ResearchGate”,DOI:10.13140/RG.2.2.16082.89282. 06 August 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されるFT-IR法においては、気体に照射する光の強度が制限されるために、気体に含まれる特定成分の検出感度が下がり、ひいては気体の分析の精度が低下する場合がある。このためFT-IR法においては、特定成分の検出を行うために大量の試料が必要となる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る気体分析装置は、試料ガスを含む試料セルと、参照ガスを含む参照セルと、前記試料セルに光を照射する光源と、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、前記参照セル内の気圧と、の差を測定する差圧測定器と、を備える。
【0006】
また、本開示の一態様に係る気体分析方法は、試料ガスを含む試料セルへの光の照射と、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、参照ガスを含む参照セル内の気圧と、の差の測定と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、試料ガスの分析をより精度よく行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態1に係る気体分析装置の概略図である。
【
図2】本開示の実施形態1に係る試料セルの概略断面図である。
【
図3】本開示の各実施例における差圧の測定結果を示すグラフである。
【
図4】本開示の実施形態1に係る気体分析装置の光の強度と信号強度との関係を示すグラフである。
【
図5】本開示の実施形態2に係る気体分析装置の概略図である。
【
図6】本開示の実施形態3に係る気体分析装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
<気体分析装置の概要>
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。なお、各図面において、同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0010】
図1は本実施形態に係る気体分析装置1の概略図である。
図1においては、後述する光源10から試料セル11および参照セル12に光を照射する様子を併せて示す。
【0011】
図1に示すように、気体分析装置1は、光源10と、試料セル11と、参照セル12と、差圧測定器13と、解析部14と、を備える。気体分析装置1は、さらに、気体分析装置1による分析対象である試料ガスを含む試料ガス源15、参照ガスを含む参照ガス源16、ミラー17、ハーフミラー18、およびビームダンパ19を備えてもよい。また、気体分析装置1は、例えば、図示しない通信手段によって、気体分析装置1の各部の動作を制御する制御部CSを備える。後述する気体分析装置1の各部の動作は、何れも制御部CSによる制御によって実現してもよい。なお、制御部CSは、例えば、後述する差圧測定器13による測定を補助するために、試料セル11および参照セル12の外部の気圧を測定する圧力計測器を含んでいてもよい。
【0012】
<光源>
光源10は光Lを出射する。例えば、光源10は光Lとしてパルス光を出射するパルスレーザ光源を含んでもよい。また、光源10は赤外光を光Lとして出射する赤外光源を含んでもよい。赤外光は、例えば、710nm以上10000nm以下の波長を有する光を指す。光源10は、例えば発する光の波長の変更が可能な光源であり、例えば所定の回数光Lを出射するごとに波長を逐次変更可能であってもよい。例えば、光源10は、第1波長を有する第1光と、第1波長よりも長い第2波長を有する第2光とを出射してもよい。例えば、光源10はOPO(Optical Parametric Oscillation)レーザであってもよい。あるいは、光源10は出射するレーザ光の波長の掃引が可能な半導体レーザ光源を含んでもよい。光源10が半導体レーザ光源である場合、光源10は光Lを連続して出射でき、より細かく光Lの波長を変更することが可能となる。なお、本明細書において、「所定波長を有する光」とは、当該所定波長を発光中心波長に有する光を指し、換言すれば、上記光は所定波長以外の波長成分を有してもよい。
【0013】
なお、本実施形態において、試料ガスは、特定波長を有する光Lを吸収して並進エネルギーが増大する分子等の特定成分を有する。このため、試料ガスは特定波長を有する光Lが照射されることにより気圧が上昇する。試料ガスは、例えば、人体の呼気を含んでもよい。また、試料ガスは、光Lを吸収する特定成分を含んでもよい。
【0014】
一方、参照ガスの分子は光Lが照射された場合においても、光Lの波長によらず、当該光Lを吸収することがない。あるいは、光源10は、参照ガスによる吸収が存在しない波長範囲に含まれる波長を有する光Lを出射する。このため、参照ガスの気圧は光Lの照射によってはほぼ変化しない。例えば、参照ガスは赤外光を吸収しにくい希ガスまたは窒素の少なくとも一方を含んでもよい。例えば、参照ガスは希ガスまたは窒素の少なくとも一方を、50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上含んでもよい。また、参照ガスは、上述した試料ガスが含む特定成分を含んでいなくともよい。さらに、参照ガスは、赤外光を吸収しやすい水分をほぼ含まない、換言すれば乾燥した気体であってもよい。なお、参照ガスは、試料ガスが含む光Lを吸収する特定成分以外の、光Lをほぼ吸収しない成分と同一の成分を含んでもよい。
【0015】
ミラー17およびハーフミラー18は、光源10から出射した光Lが後述する試料セル11および参照セル12のそれぞれに照射されるように配置されてもよい。特に、ハーフミラー18は、光源10から出射した光Lのうち、おおよそ半分の強度の光Lが試料セル11に、残る半分の強度の光Lが参照セル12に照射されるように、光源10からの光Lの光路を分割してもよい。ビームダンパ19は、試料セル11および参照セル12のそれぞれを透過した光Lを吸収して散乱光を低減してもよい。
【0016】
<試料セル>
試料セル11は、試料ガスを内部に導入可能な機構を有する。試料セル11について、
図2を参照してより詳細に説明する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る試料セル11の概略断面図である。
図2は、特に、後述する空洞22、光学窓23、吸気路24、および通気路25を何れも通る試料セル11の断面について示す。
【0018】
試料セル11は、筐体21と、空洞22と、光学窓23と、吸気路24と、通気路25と、を有する。
【0019】
試料セル11は、例えば、熱伝導性の高いステンレスを含む筐体21の内部に空洞22を有する。
【0020】
筐体21は、例えば、空洞22の一端と、当該一端の反対の側の他端とに、少なくとも前述の光Lを透過する光学窓23を有する。このため、試料セル11は、一方の光学窓23から空洞22に照射した光Lが、空洞22の内部を伝搬し、他方の光学窓23から出射するように構成される。光学窓23は光Lの透過率が高く、また、光Lに対する屈折率または分散率が低い材料を含んでよい。例えば、光学窓23は、赤外線の波長範囲に高い透過率を有するとともに、低屈折率および低分散率を有するフッ化カルシウム(CaF2)を含んでもよい。
【0021】
なお、空洞22は内部を伝搬する光Lの伝搬方向に沿う方向を軸方向とした略円筒形状を有してもよい。例えば、空洞22の軸方向における寸法D1は25mmであり、空洞22の軸方向と直交する方向における直径である寸法D2は15mmである。
【0022】
空洞22は吸気路24と連通し、吸気路24は例えば不図示の弁を介して試料ガス源15と連通する。このため、空洞22の内部には、吸気路24を介して試料ガス源15からの試料ガスSGを導入可能である。一方、空洞22は通気路25を介して差圧測定器13と連通する。なお、本実施形態において、試料セル11内の気圧とは試料セル11の空洞22内の気圧を指す。また、試料セル11へ光Lを照射することは、試料セル11の空洞22へ光Lを照射し、当該空洞22に光Lを伝搬させることを指す。
【0023】
気体分析装置1は試料セル11の空洞22に試料ガスSGを導入し、空洞22に光源10からの光Lを伝搬させ、換言すれば、光源10は試料ガスSGを含む試料セル11に光Lを照射する。これにより、光源10は、試料セル11が含む試料ガスSGに光源10からの光Lを照射する。
【0024】
<参照セル>
図1の参照に戻ると、参照セル12は、吸気路24が試料ガス源15に代えて参照ガス源16と連通する点を除き、試料セル11と同一の構成を備える。したがって、気体分析装置1は参照セル12の空洞22に参照ガスを導入し、空洞22に光源10からの光Lを伝搬させ、換言すれば、光源10は参照ガスを含む参照セル12に光Lを照射する。これにより、光源10は、参照セル12が含む参照ガスに光源10からの光Lを照射する。
【0025】
なお、試料ガス源15および参照ガス源16は、光Lが照射されていない状態において、試料セル11の内部の気圧と参照セル12の内部の気圧とが略同一となるように、各セルに気体を導入する。例えば、光Lを照射される前の試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差が10Pa以下であってもよい。これにより後述する解析部14による解析の内容がより簡便となる。
【0026】
<差圧測定器>
差圧測定器13は、試料セル11からの試料ガスおよび参照セル12からの参照ガスにより、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を測定する。特に、本実施形態に係る差圧測定器13は、試料セル11と参照セル12とのそれぞれに光Lが照射されている間において、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を測定する。なお、本開示においては、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を、単に「差圧」と記載する場合がある。
【0027】
例えば、差圧測定器13は、試料セル11の内部と連通する空間と、参照セル12の内部と連通する空間と、のそれぞれに、ステンレスの薄板電極と銅の薄板電極とを備えたダイアフラム素子を備えてもよい。この場合、差圧測定器13は、上記薄板電極の撓みによる2電極間の静電容量の変化から差圧を測定してもよい。あるいは、差圧測定器13は、試料セル11の内部と連通する空間と、参照セル12の内部と連通する空間と、の間にピエゾ抵抗素子を有する薄膜を備えてもよい。この場合、差圧測定器13は、上記薄膜の撓みによるピエゾ抵抗素子の抵抗変化から差圧を測定してもよい。
【0028】
なお、差圧測定器13による上記差の測定において、試料セル11の内部と連通する差圧測定器13の内部の空間は閉鎖される。また、差圧測定器13による上記差の測定において、参照セル12の内部と連通する差圧測定器13の内部の空間は閉鎖される。この場合、試料セル11、参照セル12、および差圧測定器13と、気体分析装置1の外部との間においては、気体等の物質のやり取りが発生しない。したがって、気体分析装置1は、気体分析装置1の外部の影響を低減し、差圧測定器13により微小な差圧の変動の測定を可能とする。
【0029】
なお、参照セル12が含む参照ガスに光Lをほぼ吸収しない気体を採用することにより、差圧測定器13による差圧の測定の間、参照セル12内の気圧は略一定に保たれてもよい。これにより、差圧測定器13はより微小な差圧の測定を可能とする。ただし、これに限られず、光Lを参照セル12に照射することによる参照セル12内の気圧の変動が既知である場合、参照セル12内の気圧は多少変動してもよい。この場合、差圧測定器13は、測定する差圧に参照セル12内の気圧の変動を加味してもよい。
【0030】
差圧測定器13は、測定した試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差に相当する電圧を有するアナログ信号を生成する。差圧測定器13からのアナログ信号は解析部14に入力される。
【0031】
<解析部>
解析部14は、ADコンバータ31と、演算部32と、を備えてもよい。ADコンバータ31には、差圧測定器13からのアナログ信号が入力される。ADコンバータ31は演算部32による演算が可能となるように当該アナログ信号をデジタル信号に変換し、当該デジタル信号を演算部32に入力する。演算部32は例えば従来公知のコンピュータ等を含み、ADコンバータ31からのデジタル信号に基づいて演算を行う。解析部14は、演算部32による演算に必要なデータを保存するメモリまたは演算部32による演算の結果を表示する表示部等を有してもよい。
【0032】
特に、気体分析装置1は、解析部14の演算部32による演算により、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を解析して、試料ガスSGにおける特定成分の有無を特定する。例えば、解析部14は、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差が大きくなった時点において試料セル11および参照セル12のそれぞれに照射されていた光Lの波長を特定する。一般に、ある特定の分子を含む気体が吸収する光の波長は一意に定まっている。したがって、気体分析装置1は、解析部14における上述した光Lの波長の特定により、試料ガスに含まれる特定成分の有無の特定ができる。
【0033】
ここで、差圧測定器13は、試料セル11および参照セル12のそれぞれに、第1波長を有する第1光が照射された場合と、第2波長を有する第2光が照射された場合と、のそれぞれにおいて差圧を測定してもよい。これにより、気体分析装置1は、互いに異なる波長を有する光Lを試料セル11に照射した場合のそれぞれにおいて差圧の測定を実施でき、より詳細に解析部14による解析を行うことができる。
【0034】
特に、光源10は、光Lの波長を掃引しつつ光Lを試料セル11および参照セル12のそれぞれに照射してもよい。これにより、差圧測定器13は、光Lのある所定範囲の波長に対する差圧の測定を行ってもよく、解析部14は、当該測定結果から試料セル11の内部の試料ガスSGの光吸収の波長スペクトルを特定してもよい。
【0035】
この場合、解析部14は、得られた試料ガスSGの光吸収の波長スペクトルを、既知の物質の光吸収の波長スペクトルと比較することにより、試料ガスSGに含まれる特定成分の特定を行ってもよい。例えば、解析部14は、得られた試料ガスSGの光吸収の波長スペクトルの各ピークを、既知の物質の光吸収の波長スペクトルの各ピークと比較してもよい。
【0036】
さらに、気体分析装置1は、解析部14の演算部32による演算により、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を解析して、試料ガスSGにおける特定成分の濃度を特定する。一般に、光が気体中を所定の光路長だけ伝搬する場合、当該気体中の分子が吸収する光の強度の割合は、気体における当該分子の濃度に比例する。したがって、気体分析装置1は、解析部14において、上記にて特定した光Lの波長と、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差の大きさと、を比較することにより、試料ガスに含まれる特定成分の濃度の特定ができる。
【0037】
例えば、解析部14は、既知の複数の光吸収の波長スペクトルをどの比率にて組み合わせた場合に測定された試料ガスSGの光吸収の波長スペクトルが得られるのかを特定してもよい。これにより、解析部14は、特定された各波長スペクトルの比率から試料ガスSGの各特定成分の比率を特定し、当該特定成分の濃度を特定してもよい。
【0038】
<気体分析装置が奏する効果>
本実施形態に係る気体分析装置1を用いた気体分析方法においては、差圧測定器13により光Lが照射された試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を測定する。このため、気体分析装置1を用いた気体分析方法においては、試料セル11内の絶対気圧を測定する場合と比較して、大気圧の変動または大気の温度の変動等の外乱の影響を低減しつつ、光Lの照射による試料セル11内の気圧の変動を測定できる。このため、気体分析装置1を用いた気体分析方法は、試料セル11が含む試料ガスSGの分析の精度をより向上する。
【0039】
例えば、赤外分光法により試料ガスの分析を行う場合、試料ガスを透過した赤外光を測定し、光源からの赤外光の強度と試料ガスを透過した赤外光の強度とを比較する。ここで、試料ガスにおける特定成分の濃度が希薄である場合、赤外分光法において試料ガスにより吸収される赤外光の強度は微小である。このため、赤外光源の強度の安定性等も考慮すると、赤外分光法において試料ガスを透過した赤外光の強度の変化を測定することは困難である。
【0040】
本実施形態に係る気体分析装置1は、光Lの強度を測定することなく、差圧測定器13による試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差の測定を行う。このため、気体分析装置1を用いた試料ガスSGの分析においては、試料ガスSGによって吸収される光Lの強度が微小であっても、より精度よく試料ガスSGを分析できる。
【0041】
本実施形態に係る気体分析装置1を用いた気体分析方法においては、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差が生じる光Lの波長を分析することにより、試料ガスSGが含む特定成分の有無を特定できる。また、上記気体分析方法においては、光Lの波長ごとに試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差の大きさを分析することにより、試料ガスSGが含む特定成分の濃度を特定できる。したがって、上記気体分析方法は、試料セル11が含む試料ガスSGの特定成分の有無あるいは濃度の特定を、より高精度に実行できる。
【0042】
本実施形態において、光Lは赤外光であるため、気体分析装置1は、光Lにより試料ガスSG中の特定成分が分解される等、光Lが試料ガスSGの組成へ与える影響を低減しつつ試料ガスSGの分析を実行できる。ただし、光Lが試料ガスSGの組成に大きな影響を与えない限り、光Lは可視光または紫外光を用いてもよい。
【0043】
本実施形態において、参照セル12は参照ガスとして希ガスおよび窒素の少なくとも一方を含む。希ガスおよび窒素は赤外線の吸収率が低いため、気体分析装置1は、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差の測定を通じてより精度よく試料セル11内の気圧の変動を測定できる。ただし、光Lとの反応性が低く、また、参照セル12内の圧力を光Lが照射される前の試料セル11内の圧力と略同一とできる限り、参照セル12が含む参照ガスには他の気体を採用してもよい。
【0044】
本実施形態において、差圧測定器13による測定は、試料セル11のみならず参照セル12にも光Lが照射された状態において実行される。上述の通り、参照ガスは、試料ガスSGが含む特定成分以外の、試料ガスSGに共通の成分を含む場合がある。このような場合、気体分析装置1は、当該成分による影響を低減しつつ、試料ガスSGの分析を実行することができる。
【0045】
<実施例>
以下、本実施形態に係る気体分析装置1を用いて実施例1および実施例2のそれぞれに係る試料ガスSGの分析を実行した。実施例1において、試料ガスSGはシクロヘキサンをアルゴンによって100ppmに希釈した気体とした。実施例2において、試料ガスSGはアセトアルデヒドをアルゴンによって500ppmに希釈した気体とした。実施例1および実施例2のそれぞれにおいて、参照ガスはアルゴンとした。
【0046】
実施例1および実施例2のそれぞれにおいて、試料ガスSGを試料セル11に、参照ガスを参照セル12に導入した。次いで、試料セル11と参照セル12とに光源10からの光Lを照射しつつ、試料セル11内の気圧と参照セル12内の気圧との差を差圧測定器13により測定した。
【0047】
実施例1においては、光Lの波数が2750cm-1から3150cm-1となるように、光源10からの光Lの波長を掃引しつつ測定を行った。実施例2においては、光Lの波数が2790cm-1から3150cm-1となるように、光源10からの光Lの波長を掃引しつつ測定を行った。実施例1および実施例2のそれぞれにおいて、光源10は、1秒回に10回のパルスレーザ光を、1回あたり1ナノ秒、光Lとして照射した。また、光源10は、上記測定の間、光Lの波長を毎秒0.1nmずつ変更した。
【0048】
図3は、実施例1および実施例2のそれぞれにおける差圧測定器13による差圧の測定結果を示す。
図3のグラフG1は実施例1における測定結果を示し、
図3のグラフG2は実施例2における測定結果を示す。
図3のグラフは何れも、横軸を光Lの波数(単位:cm
-1)にとり、縦軸を差圧(単位:Pa)にとる。
【0049】
グラフG1に示すように、実施例1においては、光Lの波数が2900cm-1および2980cm-1となった時点において差圧が大きくなった。このことは、当該波数を有する光Lを試料セル11中の試料ガスSGのシクロヘキサンが吸収したことにより、試料セル11内の気圧が上昇したことを表す。
【0050】
グラフG2に示すように、実施例2においては、光Lの波数が3000cm-1近傍となった時点において差圧が大きくなった。このことは、当該波数を有する光Lを試料セル11中の試料ガスSGのアセトアルデヒドが吸収したことにより、試料セル11内の気圧が上昇したことを表す。
【0051】
実施例1と実施例2とのそれぞれの測定結果の比較により明らかである通り、試料セル11が含む試料ガスSGの成分の差異により、差圧測定器13による差圧の測定結果にも差異が生じる。換言すれば、気体分析装置1は、差圧測定器13による差圧の測定結果を解析部14により解析することにより、試料ガスSGにおける特定分子の存在の特定、および濃度の特定が可能である。
【0052】
<光の強度と測定感度との関係>
光Lの強度と差圧測定器13による差圧の測定感度との関係について
図4を参照して説明する。
図4は本実施形態に係る気体分析装置1における、光Lの強度と信号強度との関係を示すグラフである。
図4においては、横軸を光Lの強度(単位mJ)にとり、縦軸を信号強度(任意単位)にとる。
【0053】
ここで、
図4における「信号強度」とは、気体分析装置1により2900cm
-1周辺に波数を固定した光Lを用いてシクロヘキサンを含む試料ガスSGに対する分析を行った場合に、差圧測定器13が出力する信号の強度を指す。差圧測定器13が出力する信号の強度は、差圧の大きさに対応する。このため、本実施形態においては、信号強度が高いほど、差圧測定器13による差圧の測定感度は高くなり、気体分析装置1による試料ガスSGの分析がより精度よく実行できる。
【0054】
図4に示すように、光Lの強度が高くなるほど信号強度は高くなり、特に、信号強度は光Lの強度に対しおおよそ比例する。このため、気体分析装置1においては、光源10からの光Lの強度を高めるほど、より精度よく試料ガスSGの分析が実行できる。特に、気体分析装置1は試料ガスSGの分析に光Lの強度の測定を要しないため、光Lの強度を高めた場合においても光Lの強度の差異を測定しにくくなる等の問題が生じない。したがって、気体分析装置1はより精度のよい試料ガスSGの分析を、光源10からの光の強度を高めることにより容易に実行できる。
【0055】
〔実施形態2〕
<参照セルへの光の照射の省略>
図2は本実施形態に係る気体分析装置2の概略図である。本実施形態に係る気体分析装置2は、前実施形態に係る気体分析装置1と比較して、光源10からの光Lが試料セル11に照射される一方、参照セル12に照射されない点において構成が異なる。このため、気体分析装置2においては、光Lの参照セル12への導入および参照セル12を透過した光Lの処理が不要となるため、ハーフミラー18およびビームダンパ19等の光学部材を低減できる。以上を除き、本実施形態に係る気体分析装置2は、前実施形態に係る気体分析装置1と同一の構成を備える。
【0056】
本実施形態に係る気体分析装置2による試料ガスSGの分析は、前実施形態に係る気体分析装置1による試料ガスSGの分析と比較して、差圧測定器13による差圧の測定時に参照セル12に光Lを照射しない点を除き同一の方法により実現する。
【0057】
例えば上述した通り、参照セル12が含む参照ガスが光Lをほぼ吸収しない場合、参照セル12への光Lの照射の有無にかかわらず、参照セル12内の気圧は略一定に保たれる。
【0058】
したがって、気体分析装置2による試料ガスSGの分析においては、参照セル12に光Lを照射することなく試料セル11のみに光Lを照射して差圧の測定を行った場合においても、十分に精度よく試料ガスSGの分析を実行できる。ゆえに、気体分析装置2は、より簡便な構成により試料ガスSGの分析を実行できる。
【0059】
〔実施形態3〕
<試料セルと参照セルとの配置の他の例>
図3は本実施形態に係る気体分析装置3の概略図である。本実施形態に係る気体分析装置3は、前述の気体分析装置1と比較して、光源10からの光Lが試料セル11に照射され、試料セル11を透過した後、次いで参照セル12に照射される点において構成が異なる。このため、気体分析装置3においては、光Lの分割が不要であり、また、試料セル11を透過した光Lを参照セル12への照射する光Lに流用でき、ミラー17、ハーフミラー18およびビームダンパ19等の光学部材を低減できる。以上を除き、本実施形態に係る気体分析装置3は、前述の気体分析装置1と同一の構成を備える。
【0060】
本実施形態に係る気体分析装置3による試料ガスSGの分析は、前述の気体分析装置1による試料ガスSGの分析と比較して、差圧測定器13による差圧の測定時に試料セル11を透過した光Lが参照セル12に照射される点を除き同一の方法により実現する。
【0061】
本実施形態に係る気体分析装置3の差圧測定器13による差圧の測定は、試料セル11および参照セル12の双方に光Lを照射しつつ実行される。また、試料セル11を透過する間における光Lの強度低下は小さいため、試料セル11を透過した光Lを参照セル12に照射して差圧の測定を行った場合においても、差圧の測定値には大きな影響が出にくい。
【0062】
したがって、気体分析装置3による試料ガスSGの分析においては、より簡素な構成により試料セル11と参照セル12との双方に光Lを照射して差圧の測定を行える。ゆえに、気体分析装置2は、構成の簡素化と試料ガスSGの分析の精度の向上とを両立する。
【0063】
<まとめ>
本開示の態様1に係る気体分析装置は、試料ガスを含む試料セルと、参照ガスを含む参照セルと、前記試料セルに光を照射する光源と、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、前記参照セル内の気圧と、の差を測定する差圧測定器と、を備える。
【0064】
本開示の態様2に係る気体分析装置は、上記の態様1において、前記差を解析して、前記試料ガスにおける特定成分の有無を特定する解析部を備える。
【0065】
本開示の態様3に係る気体分析装置は、上記の態様2において、前記解析部が、前記差を解析して、前記試料ガスにおける特定成分の濃度を特定する。
【0066】
本開示の態様4に係る気体分析装置は、上記の態様1から3の何れかにおいて、前記光源が赤外光源を含む。
【0067】
本開示の態様5に係る気体分析装置は、上記の態様1から4の何れかにおいて、前記光源がパルスレーザ光源および半導体レーザ光源の少なくとも一方を含む。
【0068】
本開示の態様6に係る気体分析装置は、上記の態様1から5の何れかにおいて、前記参照ガスが希ガスおよび窒素の少なくとも一方を含む。
【0069】
本開示の態様7に係る気体分析装置は、上記の態様1から6の何れかにおいて、前記光源が前記参照セルに前記光を照射し、前記差圧測定器が、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、前記光を照射された前記参照セル内の気圧と、の差を測定する。
【0070】
本開示の態様8に係る気体分析装置は、上記の態様1から7の何れかにおいて、前記光源が第1波長を有する第1光と、前記第1波長よりも長い第2波長を有する第2光と、を出射し、前記差圧測定器が、前記光源が前記試料セルに前記第1光を照射した場合と、前記光源が前記試料セルに前記第2光を照射した場合と、のそれぞれにおいて前記差を測定する。
【0071】
本開示の態様9に係る気体分析装置は、上記の態様1から8の何れかにおいて、前記光を照射される前の前記試料セル内の気圧と前記参照セル内の気圧との差が10Pa以下である。
【0072】
本開示の態様10に係る気体分析装置は、上記の態様1から9の何れかにおいて、前記差圧測定器による前記差の測定において、前記試料セルの内部と連通する前記差圧測定器の内部の空間が閉鎖され、かつ、前記参照セルの内部と連通する前記差圧測定器の内部の空間が閉鎖される。
【0073】
本開示の態様11に係る気体分析方法は、試料ガスを含む試料セルへの光の照射と、前記光を照射された前記試料セル内の気圧と、参照ガスを含む参照セル内の気圧と、の差の測定と、を含む。
【0074】
本開示の態様12に係る気体分析方法は、上記の態様11において、測定された前記差の解析による、前記試料ガスにおける特定成分の有無の特定を含む。
【0075】
本開示の態様13に係る気体分析方法は、上記の態様12において、前記試料ガスにおける前記特定成分の有無の特定が、前記試料ガスにおける前記特定成分の濃度の特定を含む。
【0076】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 気体分析装置
10 光源
11 試料セル
12 参照セル
13 差圧測定器
14 解析部