(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025932
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、その硬化物及び物品
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20250214BHJP
C08K 5/57 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K5/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131198
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 喜光
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優太
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP06X
4J002CP07W
4J002CP09W
4J002CP10W
4J002EZ046
4J002FD156
4J002GH00
4J002GJ00
4J002HA02
(57)【要約】
【課題】自己修復性を有するシリコーンゴム硬化物を与えることができる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】(A)式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(式中、R
1は独立に炭素数1~10の一価炭化水素基であり、R
2は独立に水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、aは1~10の整数であり、bは1~200の整数である。x、yはそれぞれ1~50の整数であり、nは1~10の整数である。また、x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、及び
(C)硬化触媒:0.01~10質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよく、R
2は水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、各R
2は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは1~10の整数であり、bは1~200の整数である。x、yはそれぞれ1~50の整数であり、nは独立に1~10の整数である。また、x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、及び
(C)硬化触媒:0.01~10質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
更に、(D)成分として、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物を(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部含むものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
R3R4
cSiX3-c (2)
(式中、R3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。cは0、1又は2である。)
【請求項3】
更に、(E)成分として少なくとも1種の無機質充填剤を含むものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化物を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温(23℃±15℃)において大気中の湿気(水分)により加水分解・縮合反応にて架橋(硬化)する縮合硬化型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、自己修復性を有するシリコーンゴム硬化物(エラストマー状オルガノポリシロキサン硬化物)を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、その硬化物(シリコーンゴム硬化物)及び該硬化物を有する各種物品等に関する。
【背景技術】
【0002】
室温で硬化してシリコーンゴムとなる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は従来から知られており、産業界で広く使用されてきた。室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が室温で硬化する機構には、ヒドロシリル化付加反応によって硬化する機構、紫外線によってラジカル硬化する機構、ケイ素原子に結合する加水分解性基と水酸基との縮合反応によって硬化する機構などが知られている。中でも、縮合反応により硬化する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、室温にて容易に硬化することができ、また、ヒドロシリル化付加反応などで発生する不純物による硬化阻害を起しにくいという利点を有する。そのため、車載ガスケットやシール材、建築用シーラント、電気・電子部品などの分野で幅広く使用されている。
【0003】
縮合反応により硬化する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物のシリコーンゴム硬化物は、シリコーン(シロキサン構造)由来の高い耐熱性、耐薬品性、耐候性を有している。一方で、シリコーンゴム自体が損傷したり、破断した際には、損傷した硬化物を取り除き、新しい組成物を塗布する必要があった。そのため、修理にかかる手間を削減したり、シール剤の長寿命化のため、自己修復性を有するシリコーンゴム硬化物が望まれている。
【0004】
自己修復性を有するポリマーとしては、ウレタンポリマー、ウレアポリマー、(非特許文献1、2)、アミド系ポリマー(特許文献1)などが知られている。これらはウレタン構造、ウレア構造、アミド構造などに由来する水素結合によって自己修復性(硬化物が損傷又は破断した際に、該損傷又は破断した部分同士を貼り合わせるなどの操作により接触面を形成することによって、時間の経過と共に自ら、所定の復元率で形状及び/又は物性が回復する性質)を付与する技術であるが、従来の硬化性シリコーンポリマー(オルガノポリシロキサン)には、自己修復性を発現し得るほど強い水素結合を発現するユニットを主鎖中に繰り返し構造として有するものはなかった。
【0005】
また、自己修復性を有するポリマーとして、チオウレア構造とシロキサン構造とを有する繰り返し単位と、チオウレア構造を有するシロキサン構造非含有の繰り返し単位とからなる固体状のランダム共重合体自身が自己修復性(所定温度下での圧着による引張応力の回復性)を発現することが報告されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2では、該ランダム共重合体をベースポリマーとして3次元的に架橋したゴム硬化物(エラストマー状の弾性体)が各種ゴム物性について自己修復性を発現できるかについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-091779号公報
【特許文献2】国際公開第2023/085303号
【0007】
【非特許文献1】M. Hendrich, L. Lewerdomski, P. Vana. J. Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry. 53, 2809-2819 (2015).
【非特許文献2】E. D’Elia, S. Barg, N. Ni, V. G. Rocha, E. Saiz. Advanced Materials. 27, 4788-4794 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、主鎖中にチオウレア結合(チオウレア構造)を繰り返し有するオルガノポリシロキサンをベースポリマー(主剤)とし、該チオウレア結合(チオウレア構造)由来の強い水素結合により、自己修復性を有するシリコーンゴム硬化物を与えることができる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物を硬化させることにより得られる自己修復性を有する硬化物(シリコーンゴム硬化物)並びに該硬化物を有する各種物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で示される、チオウレア結合(チオウレア構造)をポリマー主鎖中に繰り返し有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンをベースポリマー(主剤)として含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、室温において高い自己修復性を示すシリコーンゴム硬化物を与えることを見出し、本発明をなすに至った。
【化1】
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよく、R
2は水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、各R
2は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは1~10の整数であり、bは1~200の整数である。x、yはそれぞれ1~50の整数であり、nは独立に1~10の整数である。また、x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
【0010】
即ち、本発明は、下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、該組成物の硬化物及びその硬化物を有する各種物品(自動車用部品、自動車用オイルシール、電気・電子用部品、建築用構造物、土木工事用構造物、接着剤、シーリング材、ポッティング剤、コーティング剤など)を提供するものである。
[1]
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化2】
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよく、R
2は水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、各R
2は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは1~10の整数であり、bは1~200の整数である。x、yはそれぞれ1~50の整数であり、nは独立に1~10の整数である。また、x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、及び
(C)硬化触媒:0.01~10質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[2]
更に、(D)成分として、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物を(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部含むものである[1]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
R
3R
4
cSiX
3-c (2)
(式中、R
3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R
4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。cは0、1又は2である。)
[3]
更に、(E)成分として少なくとも1種の無機質充填剤を含むものである[1]又は[2]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物。
[5]
[4]に記載の硬化物を有する物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、加水分解・縮合反応によって架橋(硬化)し、室温環境下での自己修復性を有する硬化物となるため、各種接着剤、シーリング材、ポッティング剤、コーティング剤等として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、粘度は、JIS Z 8803に規定する方法に順じた回転粘度計による測定値である。特に記述がない限り、「室温」とは温度23℃±15℃、湿度50%RH±5%RHの状態をいう。また、「自己修復性」とは、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなるシリコーンゴム硬化物が損傷又は破断した際に、該損傷又は破断した部分同士を貼り合わせるなどの操作により接触面を形成することによって、時間の経過と共に自ら、所定の復元率で形状及び/又は物性(特には、引張強さや切断時伸びなどの機械的特性)が回復する性質のことをいう。
【0013】
[(A)成分 オルガノポリシロキサン]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に用いられる(A)成分は、下記一般式(1)で示される分子の主鎖にチオウレア結合(チオウレア構造)を繰り返し有する直鎖状のオルガノポリシロキサンである。
【化3】
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよく、R
2は水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、各R
2は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは1~10の整数であり、bは1~200の整数である。x、yはそれぞれ1~50の整数であり、nは独立に1~10の整数である。また、x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
【0014】
(A)成分は、上記一般式(1)に示すように、主鎖が、チオウレア結合ユニット(即ち、xが付された括弧内に示される、ジオルガノポリシロキサン構造[-(R1
2SiO2/2)a-Si(R1)2-]の両端にそれぞれ、チオウレア構造(-NR2-C(=S)-NR2-)の両側にアルキレン基-(CH2)n-がそれぞれ連結したリンカー構造を1個ずつ(合計2個)有する繰り返し単位)と、シリコーンユニット(即ち、yが付された括弧内に示される、ジオルガノポリシロキサン[(R1
2SiO2/2)b]のみからなる繰り返し単位)との繰り返しからなり、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)を有するシリル基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであり、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものである。なお、上記式(1)において、チオウレア構造を2個有する繰り返し単位(チオウレア結合ユニット)とジオルガノポリシロキサンからなる繰り返し単位(シリコーンユニット)との配列(x、yが付された括弧内に示される各繰り返し単位の結合)はランダムであってよい。
【0015】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10、特に炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。R1の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、脂肪族不飽和結合を含まないものが好ましく、具体的には、メチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。このR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0016】
R2は水素原子又は炭素数1~6の非置換若しくは置換の一価炭化水素基であり、例えば水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。R2としては水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。このR2は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0017】
上記式(1)中、主鎖中のチオウレア構造を2個有する繰り返し単位(チオウレア結合ユニット)中に存在する2官能性のジオルガノシロキサン単位(R1
2SiO2/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すaは1~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。aが1未満(即ち、a=0)である場合は原料(即ち、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンの原料となるチオウレア結合ユニットを有する化合物)の合成の際の反応が進行しづらくなり、10を越える場合は硬化物の自己修復性が低下する。
【0018】
上記式(1)中、主鎖中のシリコーンユニットの2官能性ジオルガノシロキサン単位(SiR1
2O2/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すbは1~200の整数であり、好ましくは5~100の整数であり、より好ましくは10~50の整数である。bが1未満(即ち、b=0)である場合は硬化の際の縮合反応が進行しづらくなり、200を越える場合は硬化物の自己修復性が低下する。
【0019】
上記式(1)中、主鎖中のチオウレア構造を2個有する繰り返し単位(チオウレア結合ユニット)の繰り返し数(又は重合度)を示すx、及びジオルガノポリシロキサン[(R1
2SiO2/2)b]からなる繰り返し単位(シリコーンユニット)の繰り返し数を示すyは、それぞれ1~50の整数であり、好ましくは2~40の整数であり、より好ましくは3~30の整数、更に好ましくは4~20の整数である。xが1未満(即ち、x=0)の場合、硬化物の自己修復性が発現しなくなり、yが1未満(即ち、y=0)の場合は組成物が硬化しなくなる。x、yがそれぞれ50を越える場合はいずれもベースポリマーの粘度が高くなりすぎ、取り扱い性が低下する。
【0020】
上記式(1)中、主鎖中のチオウレア構造を2個有する単位(チオウレア結合ユニット)中に4ケ所存在するアルキレン基-(CH2)n-の繰り返し数を示すnは、独立に1~10の整数であり、好ましくは2~6の整数であり、より好ましくは2~5の整数である。nが1未満(即ち、n=0)である場合は原料(即ち、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンの原料となるチオウレア結合ユニットを有する化合物)の合成が困難となり、10を越える場合は硬化物の自己修復性が低下する。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンとしては、例えば下記構造のものが挙げられる。
【化4】
(式中、R
11はメチル基、エチル基又はフェニル基であり、a1は1~5の整数であり、b1は10~50の整数であり、x1は4~20の整数であり、y1は4~20の整数であり、n1は2~5の整数である。x1、y1が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに配列されていてよい。)
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、例えば、下記の合成(調製)方法により得られる。
即ち、まず下記反応式[Ia]に示すように、ハロゲン基を有するシランカップリング剤とチオシアン酸塩を、ハロゲン基を有するシランカップリング剤とチオシアン酸塩とのモル比1:1~1:1.2となる量比でジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒中で80~150℃、好ましくは100~140℃の範囲で、1~24時間、好ましくは4~12時間反応(熟成)させることにより末端チオシアネート基(-SCN)含有加水分解性シランを合成する。その後、加熱下で減圧蒸留して末端チオシアネート基(-SCN)含有加水分解性シランを抽出する。
【化5】
(式中、R
7は炭素数1~6の一価炭化水素基であり、A
1はハロゲン原子であり、A
2はナトリウム、もしくはカリウム原子である。R
1及びnは、上記と同じである。)
【0024】
A1としては、塩素原子、臭素原子が好ましく、A2としてはカリウム原子が好ましい。R7としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、このうちメチル基、エチル基が好ましい。
【0025】
次いで、下記反応式[Ib]で示すように、得られた末端チオシアネート基(-SCN)含有加水分解性シランを用いて、ヨウ化カリウム存在下で100~180℃、好ましくは120~160で6~36時間、好ましくは10~24時間加熱することにより末端チオイソシアネート基(-NCS)含有加水分解性シランを合成する。
【化6】
(式中、R
1、R
7及びnは、上記と同じである。)
【0026】
また、この際、一般に使用される溶媒を使用してもよく、たとえばトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、四塩化炭素などがあげられる。溶媒の使用量としては、末端チオシアネート基含有加水分解性シラン100質量部に対して、10~300,好ましくは30~200質量部である。この場合、最終的に加熱下で減圧蒸留して末端チオイソシアネート基(-NCS)含有加水分解性シランを抽出する。
【0027】
更に、下記反応式[Ic]で示すように、両末端にアミノ基を有するシリコーン化合物1モルに対して、末端チオイソシアネート基含有加水分解性シランを2~2.2モルの範囲で発熱範囲25~80℃となるように滴下・混合し、0~120℃、好ましくは20~90℃で1~12時間、好ましくは2~8時間反応(熟成)させることにより、チオウレア結合を分子内に2個有する両末端加水分解性シラン化合物(即ち、チオウレア構造を有するアルキレンリンカー部を主鎖の両側に2個有し分子鎖両末端が加水分解性シリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン)を合成する。
【化7】
(式中、R
1、R
7、a及びnは、上記と同じである。)
【0028】
最後にこのチオウレア結合を分子内に2個有する両末端加水分解性シラン化合物(即ち、チオウレア構造を有するアルキレンリンカー部を主鎖の両側に2個有し分子鎖両末端が加水分解性シリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン)と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物(分子鎖両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサン)とを触媒を用いて縮重合反応させ、最後に水で処理して該縮重合化物の分子鎖両末端をシラノール基で封鎖することで、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンを合成することができる。この反応は以下の下記反応式[Id]で表される。
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
7、a、b、x、y及びnは、上記と同じである。)
【0029】
チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物の仕込み比は、両末端シラノール基を有するシリコーン化合物に対するチオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物のモル比(x/y)として0.5~1.5が好ましく、0.7~1.3がより好ましい。このモル比が0.5未満では硬化物(シリコーンゴム硬化物)の自己修復性が低下する場合があり、1.5を超えると湿気硬化性が低下する場合がある。
【0030】
上記の縮重合反応に使用する触媒としては、酸、塩基化合物が挙げられ、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、テトラメチルグアニジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなどが例示でき、その中でもテトラメチルグアニジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンが望ましい。触媒の添加量は、チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物の合計仕込み量100質量部に対して、0.1~10質量部、好ましくは0.5~8質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0031】
上記の縮重合反応には、一般に使用される溶媒を使用してもよく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、パークロロエタン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの有機溶剤が挙げられる。
溶媒の使用量としては特に限定されないが、通常、チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物の合計仕込み量100質量部に対して、5~500質量部、好ましくは10~400質量部、より好ましくは20~300質量部である。
【0032】
チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物の反応(縮重合)条件としては、通常、40~200℃、好ましくは60~180℃の温度下で3~30時間程度反応させることが好ましい。反応時の温度が低すぎると反応が完結しない場合があり、反応時の温度が高すぎると目的物の分解を招く恐れがある。また、反応時間が短すぎると反応が完結しない場合があり、反応時間が長すぎると生産性に不利に働く。
【0033】
また、チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物を反応させたのち、水を添加して余剰のアルコキシ基等の加水分解性基を加水分解することで、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンの硬化性が向上する。余剰アルコキシ基等の加水分解性基の加水分解反応(末端シラノール封鎖)の条件としては、20~120℃、好ましくは40~100℃の温度下で1~15時間程度反応させることが好ましい。反応時の温度が低すぎると反応が完結しない場合があり、反応時の温度が高すぎると目的物の分解を招くおそれがある。また、反応時間が短すぎると反応が完結しない場合があり、反応時間が長すぎると生産性に不利に働く。
【0034】
このときの水の添加量としては特に限定されないが、通常、チオウレア結合を有する両末端加水分解性シラン化合物と両末端シラノール基を有するシリコーン化合物の合計仕込み量100質量部に対して、0.1~100質量部、好ましくは0.5~80質量部、より好ましくは1~50質量部である。
【0035】
当該反応の最後に加熱減圧下で溶媒を留去して一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンを得る。
【0036】
[(B)成分]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に用いる(B)成分は、架橋剤(硬化剤)として作用するものであり、一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、後述する(C)成分及び(D)成分以外の、加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物であり、該オルガノシラン化合物としては、下記一般式(3)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(即ち、該オルガノシラン化合物を部分的に加水分解縮合して生成する分子中に残存加水分解性基を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマー)が好ましい。
R5
dSiR6
4-d (3)
(式中、R5は一価炭化水素基であり、R6は加水分解性基である。dは0又は1であり、好ましくは1である。)
【0037】
一般式(3)中、加水分解性基R6としては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~4、特に1又は2のアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基、シクロペンテン-1-イルオキシ基等の炭素数2~5のアルケニルオキシ基などが例示できる。
【0038】
また、加水分解性基以外のケイ素原子に結合した残余の基R5は、一価炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基などの炭素数1~10の一価炭化水素基が例示される。これらの中でも、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。
【0039】
このような(B)成分の具体例としては、テトラキス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランなどのケトオキシムシラン類、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランなどのアルコキシシラン類、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどのアセトキシシラン類、及びメチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリ(シクロペンテン-1-イルオキシ)シラン、ビニルトリ(シクロペンテン-1-イルオキシ)シランなどのアルケノキシシラン類、並びにこれらシランの部分加水分解縮合物などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
なお、(B)成分は、分子中に、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含有する官能性基を有する1価炭化水素基を有さないものである点で後述する(D)成分とも明確に差別化されるものである。
【0040】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部であり、好ましくは5~30質量部である。0.1質量部未満では十分な架橋が得られず、目的とするゴム弾性を有する組成物が得難く、40質量部を超えると得られる硬化物は機械特性が低下し易い。
【0041】
[(C)成分 硬化触媒]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物では、(C)成分の硬化触媒を配合する。(C)成分の硬化触媒としては、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化促進剤として従来から一般的に使用されている金属系又は非金属系の縮合触媒を使用できる。例えば、ジブチル錫メトキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジメチル錫ジメトキサイド、ジメチル錫ジアセテート等の有機錫化合物(錫触媒)、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、ジメトキシチタンジアセチルアセトナート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物(チタン触媒)、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン化合物、γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等のグアニジル基含有加水分解性オルガノシラン化合物やこれらの塩(有機強塩基触媒)、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)、ビスマストリス(ネオデカノエート)等の有機ビスマス化合物及びそれらの混合物(有機ビスマス触媒)などが挙げられ、これらの少なくともいずれか1つ、即ち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~10質量部であり、好ましくは0.05~8質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。(C)成分の配合量が上記下限値の0.01質量部未満であると、触媒効果が得られず、上記上限値の10質量部を超えると組成物の保存安定性に劣る。
【0043】
[(D)成分 シランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、必要に応じて(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物を任意成分として配合することができる。(D)成分は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤(即ち、官能性基含有一価炭化水素基を有する加水分解性オルガノシラン化合物又はカーボンファンクショナルシラン)及び/又はその部分加水分解縮合物であり、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物に良好な接着性を発現させるための成分である。
R3R4
cSiX3-c (2)
(式中、R3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。cは0、1又は2である。)
【0044】
上記式(2)中、R3は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(例えば、非置換又は置換アミノ基、非置換又は置換イミノ基、アミド基、ウレイド基、メルカプト基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基等)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基(但し、グアニジル基を除く)であり、具体的には、β-(2,3-エポキシシクロヘキシル)エチル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-メタクリロキシプロピル基、γ-アクリロキシプロピル基、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基[別名:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基]、γ-アミノプロピル基、N-フェニル-γ-アミノプロピル基、γ-ウレイドプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、γ-イソシアネートプロピル基等の窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるヘテロ原子の少なくとも1種を含む、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数3~14の一価炭化水素基が挙げられる。R3としては、γ-グリシドキシプロピル基、γ-アミノプロピル基、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基が特に好ましい。
【0045】
また、上記式(2)中、R4は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。これらの中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。なお、R4は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0046】
上記式(2)中、加水分解性基Xとしては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~4、好ましくは1又は2のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~4のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~4のアルケニルオキシ基などが例示できる。Xとして、好ましくはメトキシ基である。なお、加水分解性基Xは同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0047】
(D)成分の式(2)で示されるシランカップリング剤として、具体的には、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-2-(アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン[別名:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン]等のアミノシラン類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン類などが挙げられる。
【0048】
(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(D)成分を配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部であり、より好ましくは0.1~4質量部である。0.01質量部未満では、硬化物が十分な接着性能を示さないものとなる場合があり、5質量部を超えて配合すると、硬化後のゴム強度が低下したり、硬化性が低下したりする場合がある。
【0050】
[(E)成分 無機質充填剤]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、必要に応じて(E)成分の無機質充填剤を任意成分として配合することができる。(E)成分の無機質充填剤は、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物にゴム物性を付与するための補強性、非補強性充填剤である。
【0051】
(E)成分の無機質充填剤としては、表面疎水化処理又は無処理の、焼成シリカ、煙霧質シリカ等の乾式シリカ、沈降性シリカ、ゾル-ゲル法シリカ等の湿式シリカなどのシリカ系充填剤、カーボンブラック、タルク、ベントナイト、表面処理又は無処理の炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、表面処理又は無処理の酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、その中でも炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムが好ましく、より好ましくは表面が疎水化処理された、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムである。この場合、これら無機質充填剤は、水分量が少ないことが好ましい。
【0052】
なお、該表面処理剤(疎水化処理剤)の種類、量や処理方法等については特に制限はないが、代表的には、クロロシラン(ジメチルジクロロシラン等)、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物や、脂肪酸、パラフィン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の処理剤が適用できる。
(E)成分の無機質充填剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
(E)成分を配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1~500質量部であり、より好ましくは5~500質量部であり、更に好ましくは10~300質量部であり、特に好ましくは10~250質量部である。1質量部未満では十分なゴム強度が得られないため、使用用途に適さないという問題が生じる場合があり、500質量部を超えるとカートリッジからの吐出性が悪化し、並びに保存安定性が低下するほか、得られるゴム物性の機械特性も低下してしまう場合がある。
【0054】
[その他の成分]
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、その他の成分として、上記成分以外に一般に知られている添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で使用しても差し支えない。添加剤としては、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、可塑剤としてのシリコーンオイル(無官能性オルガノポリシロキサン)、イソパラフィン等が挙げられ、必要に応じて顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、海洋生物忌避剤等の生理活性添加剤、ブリードオイルとしてのフェニルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤、溶剤揮発油、低沸点イソパラフィン等の溶剤も添加できる。
【0055】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の通り(A)、(B)、(C)成分を必須成分とし、(D)及び(E)成分を配合することが好ましく、更に上記その他の成分(添加剤)を配合してもよく、上記各成分、更にはこれに上記各種添加剤の所定量を、乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。
【0056】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特に1成分型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、水分の非存在下、即ち湿気を遮断した密閉容器中で保存し、使用時に空気中の水分に曝すことによって室温(23℃±15℃)で容易に硬化する。即ち、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、使用時に空気中の水分に曝すことによって加水分解・縮合反応によって室温(23℃±15℃)でも容易に硬化し、室温環境下での自己修復性を有する(即ち、シリコーンゴム硬化物が損傷又は破断した際に、該損傷又は破断した部分同士を貼り合わせて所定面積で接触させた状態で室温(23℃±15℃)下、所定の荷重(5~50kN/m2程度)を掛けることによって、時間の経過と共に自ら、所定の復元率で形状及び/又は物性が回復する)シリコーンゴム硬化物となる。また、このような本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、既存の様々な触媒を使用することで良好な硬化性を示し、その硬化物(シリコーンゴム)は接着性にも優れる。
【0057】
そのため、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、接着剤、シーリング材、ポッティング剤、又はコーティング剤等として有用である。本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を接着剤、シーリング材、ポッティング剤、又はコーティング剤として使用する方法は、従来公知の方法に従えばよい。
【0058】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、室温で放置することにより硬化するが、その硬化物の成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物(シリコーンゴム硬化物)を有する各種物品とすることができる。対象となる物品としては、例えば、自動車用部品、自動車用オイルシール、電気・電子用部品、建築用構造物、土木工事用構造物等が挙げられる。
【実施例0059】
以下、合成例と実施例及び比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、化学式中のMeはメチル基を表す。オルガノポリシロキサンの数平均分子量は、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算により求めた。
【0060】
[合成例1]
ジムロート、攪拌器、温度計を備えた5Lセパラフラスコにチオシアン酸カリウム(855g、8.8mol)、3-クロロプロピルジメチルエトキシシラン(1446g、8.0mol)、DMF(ジメチルホルムアミド)1000gを仕込み、120℃で6時間熟成させた。その後、120℃、4torrの条件下で蒸留することで、原料シラン1(末端チオシアネート基(-SCN)含有加水分解性シラン(Si(CH
3)
2(OC
2H
5)(CH
2)
3SCN))を得た(収量1178g、収率72%)。この反応は下記反応式[II]で表される。
【化9】
【0061】
[合成例2]
ジムロート、攪拌器、温度計を備えた3Lセパラフラスコに得られた原料シラン1 1050gとヨウ化カリウム 33g及びDMF500gを混合し160℃で18時間反応させ、110℃、4torrの条件下で蒸留することで、原料シラン2(末端チオイソシアネート基(-NCS)含有加水分解性シラン(Si(CH
3)
2(OC
2H
5)(CH
2)
3NCS))を得た(収量851g、収率81%)。この反応は下記反応式[III]で表される。
【化10】
【0062】
[合成例3]
ジムロート、攪拌器、温度計を備えた0.5Lセパラフラスコにビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン105.4g(0.40mol)を仕込み、原料シラン2 162.7g(0.80mol)を発熱範囲25~80℃になるように滴下した。滴下後、80℃で3時間熟成し、原料シラン3(チオウレア構造を有するアルキレンリンカーを2個有し分子鎖両末端が加水分解性シリル基で封鎖されたテトラメチルジシロキサン)を得た(収量267.5g、収率99%)。この反応は下記反応式[IV]で表される。
【化11】
【0063】
[合成例4]
ジムロート、攪拌器、温度計を備えた2Lセパラフラスコに原料シラン3を250g(0.38mol)、重合度が15の両末端シラノール基を有するジメチルポリシロキサン451.5g(0.38mol)、テトラメチルグアニジン10g、トルエンを500g仕込み、110℃で12時間反応(縮重合)させた。次に純水50gを添加し、90℃で6時間反応(末端シラノール封鎖)させたのち、120℃、4torrの条件下で溶媒を留去することで、下記式(4)で示されるオルガノポリシロキサン(ベースポリマー1)を得た(収量655g、収率94%、数平均分子量13,000)。この反応は下記反応式[V]で表される。
【化12】
【化13】
【0064】
[実施例1]
(A)前記ベースポリマー1 100質量部に、(B)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランを5質量部加え、十分に混合した。次に(C)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物1を得た。
【0065】
[実施例2]
(A)前記ベースポリマー1 100質量部に、(E)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ10質量部を加えて混合した後、(B)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランを5質量部加え、十分に混合した。次に(C)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物2を得た。
【0066】
[比較例1]
(A’)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ヒドロキシジメチルシリル基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、(B)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランを5質量部加え、十分に混合した。次に(C)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物3を得た。
【0067】
[比較例2]
(A’)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ヒドロキシジメチルシリル基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、(E)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ10質量部を加えて混合した後、(B)ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランを5質量部加え、十分に混合した。次に(C)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物4を得た。
【0068】
[試験方法]
上記実施例1,2、比較例1,2で調製された各組成物(室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物)について、下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0069】
ゴム物性
上記実施例、比較例で調製された各組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚さのゴムシートを得た。JIS K 6249に準じてゴム物性(タイプAデュロメータ硬さ、引張強さ、切断時伸び)を測定した。
【0070】
自己修復性
上記のゴム物性試験で破断した試験片の破断面を5mm×5mmの面積になるように重ね合わせ、50gの分銅を置いて固定し、23℃で12時間静置した後、再びゴム物性試験(引張強さ、切断時伸び)を測定することで、どの程度物性が復元しているか確認した。また、その際、復元率(=(再測定時の数値)/(初期の数値)×100(%))を求めて評価した。
【0071】
【0072】
以上の結果、実施例の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物は一度破断しても、その破断面を室温で貼り合わせる(一定の面積で荷重を掛けて接触させる)ことで自己修復し、引張強さ、切断時伸び共に60%以上の復元率を有することが分かった。一方、通常のシリコーン組成物である比較例の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物では、破断面を貼り合わせても全く復元(自己修復)せず、再測定ができなかった。
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物によれば、従来の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物と同等のゴム物性を有しながら、優れた自己修復性を有する硬化物が得られることが分かった。