IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

<>
  • 特開-測定装置、測定方法、及びプログラム 図1
  • 特開-測定装置、測定方法、及びプログラム 図2
  • 特開-測定装置、測定方法、及びプログラム 図3
  • 特開-測定装置、測定方法、及びプログラム 図4
  • 特開-測定装置、測定方法、及びプログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025035614
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20250307BHJP
   G01T 3/08 20060101ALI20250307BHJP
   G01T 1/34 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
G01T3/00 H
G01T3/00 E
G01T3/08
G01T1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142780
(22)【出願日】2023-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】岩下 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】木内 笠
(72)【発明者】
【氏名】広島 芳春
(72)【発明者】
【氏名】加美山 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博隆
(72)【発明者】
【氏名】鬼柳 善明
(72)【発明者】
【氏名】古坂 道弘
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB09
2G188DD30
2G188EE12
2G188FF02
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で熱中性子領域のSEUクロスセクション及びそのエネルギー依存性を測定することが可能な測定装置、測定方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】中性子発生部11と、熱中性子を遮蔽する遮蔽材12Aを備え中性子発生部11にて発生した中性子に含まれる熱中性子を遮蔽する遮蔽状態、及び熱中性子を遮蔽しない開放状態のいずれかに切り替える切替部12と、デバイス3に中性子を照射したときのSEU発生数をカウントするカウント部23と、切替部12を開放状態としてデバイス3に中性子を照射したときの第1SEU発生数、及び、切替部12を遮蔽状態としてデバイス3に中性子を照射したときの第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出する算出部24とを備える。算出部24は、中性子エネルギーが入力された際に上記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[MeV]までのSEUクロスセクションを算出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を発生する中性子発生部と、
熱中性子を遮蔽する遮蔽材を備え、前記中性子発生部にて発生した中性子に含まれる熱中性子を遮蔽する遮蔽状態、及び前記熱中性子を遮蔽しない開放状態のいずれかに切り替える切替部と、
デバイスに中性子を照射したときのSEU発生数をカウントするカウント部と、
前記切替部を開放状態として前記デバイスに中性子を照射したときの第1SEU発生数、及び、前記切替部を遮蔽状態として前記デバイスに中性子を照射したときの第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出する算出部と、を備え、
前記算出部は、中性子エネルギーが入力された際に前記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[MeV]までの中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する
測定装置。
【請求項2】
前記中性子発生部は、
加速粒子を発生する加速器と、
前記加速粒子が照射されて中性子を発生するターゲットと、
前記ターゲットで発生する中性子を減速する減速材と、
を備えた請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記算出部は、中性子エネルギーをEとしたとき、熱中性子領域におけるSEUクロスセクションが、1/√Eに比例するという関係に基づいて、前記演算式を導出する
請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記第1SEU発生数を「Nwo shield」、前記第2SEU発生数を「Nw shield」としたとき、下記の式に基づいて変数Aを算出し、前記変数Aを前記SEUクロスセクションと1/√Eとの比例係数として前記演算式を導出する
請求項3に記載の測定装置。
【数3】
【請求項5】
加速粒子をターゲットに照射して熱中性子及び前記熱中性子よりも高いエネルギーの中性子を生成し、
前記熱中性子及び前記熱中性子よりも高いエネルギーの中性子をデバイスに照射したときの第1SEU発生数をカウントし、
前記熱中性子を遮蔽して前記熱中性子よりも高いエネルギーの中性子のみを前記デバイスに照射したときの第2SEU発生数をカウントし、
前記第1SEU発生数及び第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出し、
中性子エネルギーが入力された際に前記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[MeV]までの中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する
測定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の測定装置に搭載されるカウント部及び算出部としてコンピュータを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱外中性子及び熱中性子(0.1[Mev]以下のエネルギーを持つ中性子)のSEU(Single Event Upset)クロスセクションを測定する測定装置、測定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
加速器で生成される中性子は、熱中性子(25[meV]付近のエネルギーを持つ中性子)とそれ以上のエネルギーを持つ中性子が混在している。このため、熱中性子及びその付近のエネルギーを有する中性子(以下、「熱中性子領域」という)のSEUクロスセクションを測定するためには、加速器で生成される中性子から熱中性子を分離する必要がある。
【0003】
非特許文献1には、熱中性子以下のエネルギー帯を遮蔽可能な遮蔽材(例えば、カドミウム)を使用して、熱中性子とそれ以上のエネルギーを持つ中性子を分離することが開示されている。即ち、遮蔽材を設置せずに測定したSEUクロスセクションと、遮蔽材を設置して測定したSEUクロスセクションとの差分を演算し、熱中性子領域のSEUクロスセクションを測定することが開示されている。
【0004】
非特許文献2には、エネルギーに応じて中性子の速度が変化することに着目し、SEUが発生したタイミングを検知することにより熱中性子を特定し、熱中性子領域のSEUクロスセクションを測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JEDEC JESD89BMeasurement and reporting of alpha particleand terrestrial cosmicray-induced soft errorsin semiconductor devices(P.53)
【非特許文献2】"Energy-Resolved SEU Cross SectionFrom 10-meV to 800-MeV Neutronsby Time-of-Flight Measurement," in IEEE Transactions on Nuclear Science
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に開示された方法では、熱中性子領域のSEUクロスセクションを測定できるものの、熱中性子領域内および熱中性子領域以上のエネルギー依存性を測定することができない。
【0007】
非特許文献2に開示された方法では、中性子エネルギーを測定可能な加速器施設が大規模であり、世界的にも使用可能な施設が限られる。そのため、測定に要する費用が高額になる、施設を使用する時間が限られる、などの問題がある。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成で熱中性子領域のSEUクロスセクション及びそのエネルギー依存性を測定することが可能な測定装置、測定方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様の測定装置は、中性子を発生する中性子発生部と、熱中性子を遮蔽する遮蔽材を備え、前記中性子発生部にて発生した中性子に含まれる熱中性子を遮蔽する遮蔽状態、及び前記熱中性子を遮蔽しない開放状態のいずれかに切り替える切替部と、デバイスに中性子を照射したときのSEU発生数をカウントするカウント部と、前記切替部を開放状態として前記デバイスに中性子を照射したときの第1SEU発生数、及び、前記切替部を遮蔽状態として前記デバイスに中性子を照射したときの第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出する算出部と、を備え、前記算出部は、中性子エネルギーが入力された際に前記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[Mev]までの中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する。
【0010】
本開示の一態様の測定方法は、加速粒子をターゲットに照射して熱中性子及び熱中性子よりも高いエネルギーの中性子を生成し、前記熱中性子及び前記熱中性子よりも高いエネルギーの中性子をデバイスに照射したときの第1SEU発生数をカウントし、前記熱中性子を遮蔽して前記熱中性子よりも高いエネルギーの中性子のみを前記デバイスに照射したときの第2SEU発生数をカウントし、前記第1SEU発生数及び第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出し、中性子エネルギーが入力された際に前記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[Mev]までの中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する。
【0011】
本開示の一態様は、上記測定装置のカウント部及び算出部としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、簡易な構成で熱中性子領域のSEUクロスセクション及びそのエネルギー依存性を測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る測定装置及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。
図2図2は、中性子エネルギーとホウ素の核断面積との関係を示すグラフである。
図3図3は、中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示すグラフである。
図4図4は、実施形態に係る測定装置の処理手順を示すフローチャートである。
図5図5は、本実施形態のハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施形態に係る測定装置について説明する。図1は、実施形態に係る測定装置100、及びその周辺機器の詳細な構成を示すブロック図である。図1に示すように測定装置100は、照射装置1と、演算装置2を備えている。
【0015】
照射装置1は、中性子を発生する中性子発生部11と切替部12を備えている。中性子発生部11は、加速器111と、ターゲット112と、減速材113を備えている。
【0016】
加速器111は、加速粒子p1を発生しターゲット112に照射する。
【0017】
ターゲット112は、例えばタングステン、ベリリウム、リチウム、鉛などで形成されており、加速粒子p1が照射されることにより中性子p2を発生する。ターゲット112にて生成される中性子p2は、1[MeV]以上の高エネルギー中性子が大部分を占める。
【0018】
減速材113は例えば、水素を含む物質、水、ポリエチレン、液体水素、固体メタンである。減速材113は、ターゲット112で発生する中性子を減速する。減速材113を設置することにより、ターゲット112にて発生した高エネルギーの中性子p2の一部が熱中性子のエネルギーに減速される。このため、減速材113で発生する中性子は、熱中性子p4と、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3が混在した状態となる。
【0019】
切替部12は、熱中性子を遮蔽する遮蔽材12Aを備えている。遮蔽材12Aとして例えばカドミウムを使用することができる。切替部12は、ユーザの切替操作により、遮蔽材12Aを設置する遮蔽状態、及び遮蔽材12Aを設置しない開放状態のいずれかに切り替えることができる。切替部12を遮蔽状態とした場合には、減速材113から照射される中性子のうち熱中性子p4が遮蔽され、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3が通過する。一方、切替部12を開放状態とした場合には、減速材113から照射される中性子(熱中性子p4及び熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3)は遮蔽されることなく通過する。切替部12を通過した中性子は、デバイス3に照射される。デバイス3は、例えばLSIである。
【0020】
演算装置2は、測定部21と、演算部22と、カウント部23と、算出部24を備えている。
【0021】
測定部21は、加速器111から照射される加速粒子数をカウントする。測定部21は、カウントした加速粒子数を演算部22に出力する。
【0022】
演算部22は、加速粒子数に基づいてターゲット112から照射される中性子フラックス(中性子数)を算出する。演算部22は、加速粒子数と中性子フラックスとの関係を示す対応データを備えており、この対応データと加速粒子数に基づいて中性子フラックスを算出する。演算部22は、算出した中性子フラックスのデータを算出部24に出力する。
【0023】
カウント部23は、デバイス3に中性子が照射されたときのSEU発生数をカウントする。「SEU」とは、 単一の粒子(中性子、陽子、重粒子等)がLSIなどのデバイス3に入射し核反応により生成された電荷によってLSIに保存されたデータ(ビット)が反転してしまう事象である。SEUは、ソフトエラーともいう。
【0024】
前述したように切替部12は、遮蔽材12Aを設置しない開放状態、及び遮蔽材12Aを設置する遮蔽状態に切り替えて、デバイス3に中性子を照射する。カウント部23は、開放状態におけるSEU発生数(以下、「第1SEU発生数」という)、及び、遮蔽状態におけるSEU発生数(以下、「第2SEU発生数」という)をカウントする。カウント部23は、第1SEU発生数及び第2SEU発生数を算出部24に出力する。
【0025】
算出部24は、第1SEU発生数及び第2SEU発生数に基づいて、中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する演算式を導出する。「SEUクロスセクション」とは、デバイスに粒子線(例えば、中性子)を照射したときのSEU発生数を、照射した中性子フルエンスで除した数値である。中性子フルエンスとは、単位面積当たりに通過した中性子の総数を指す。
【0026】
以下、上記演算式の導出方法について説明する。図2は、中性子エネルギーとホウ素(B10)の核断面積との関係を示すグラフである。図2に示すように中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域において、曲線s1の傾きは(1/√E)である。また、SEUクロスセクションは中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域において、ホウ素の核断面積に依存することが知られている。図3は中性子エネルギーとSEUクロスセクションの関係を示すグラフであり、中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域において、曲線s2の傾きは「1/√E)」ある。中性子エネルギーが0.1[MeV]付近の領域は「熱外中性子領域」と称している。従って、中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域の中性子は、熱外中性子、及び熱中性子を含む領域である。
【0027】
中性子エネルギーが0.1[MeV]以下のSEUクロスセクションを「σSEU(E)」とすると、「σSEU(E)」と「1/√E」は比例関係にあると見なすことができる。「σSEU(E)」は下記(1)式で示すことができる。
【0028】
【数1】
【0029】
(1)式において、Aは変数(比例係数)、Eは中性子エネルギーを示す。Aは中性子の照射対象となるデバイス毎に異なる数値である。従って、(1)式に示す変数Aを求めることができれば、SEUクロスセクションの演算式「σSEU(E)」を導出することができ、中性子エネルギーEに基づいてSEUクロスセクションを算出することができる。
【0030】
本実施形態では、切替部12を開放状態として第1SEU発生数(これを「Nwo shield」とする)を測定する。また、切替部12を遮蔽状態として第2SEU発生数(これを「Nw shield」とする)を測定する。SEUクロスセクション「σSEU(E)」が上記(1)式で示されると仮定すると、下記(2)が成立する。
【0031】
【数2】
【0032】
(2)式において「Th」は、遮蔽材12Aの閾値エネルギーであり、例えば遮蔽材12Aとしてカドミウムを用いる場合にはTh=0.4[eV]である。「Φwoshield(E)」は遮蔽材12Aを設置しない場合(開放状態)における中性子フルエンスである。「Φwo shield(E)」は、シミュレーションまたは実測により測定することができる。中性子フルエンスは単位面積当たりに通過した中性子の総数であり、演算部22から出力される中性子フラックスに基づいて算出することができる。上記(2)式により、変数Aを算出することができる。
【0033】
上記(2)式により算出した変数Aを上記(1)式に当てはめることにより、中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域(熱外中性子以下の領域)における中性子エネルギーEとSEUクロスセクション「σSEU(E)」との関係を示す演算式を導出する。即ち算出部24は、中性子エネルギーをEとしたとき、熱外中性子以下の領域におけるSEUクロスセクションが、1/√Eに比例するという関係に基づいて、上記演算式を導出する。
【0034】
算出部24で導出された演算式を用いることにより、中性子エネルギーEに基づいてSEUクロスセクションを算出することが可能になる。即ち、中性子エネルギーEが判れば、上記演算式を用いてSEUクロスセクション「σSEU(E)」を算出することができる。また、熱中性子領域から0.1[MeV]までのSEUクロスセクション及びそのエネルギー依存性を測定することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る測定装置によりSEUクロスセクション「σSEU(E)」の演算式を導出する手順を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0036】
初めに図4のステップS11においてユーザは、切替部12を開放状態に設定する。
【0037】
ステップS12においてユーザは、加速器111を作動させ、ターゲット112に加速粒子p1を照射する。ターゲット112に加速粒子p1が照射されると、ターゲット112において高エネルギーの中性子p2が発生する。高エネルギーの中性子p2は減速材113に照射されると、一部の中性子が減速される。その結果、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3、及び熱中性子p4が発生する。
【0038】
切替部12は開放状態とされており遮蔽材12Aが設置されていないので、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3及び熱中性子p4は共にデバイス3に照射される。
【0039】
ステップS13においてカウント部23は、デバイス3におけるSEU発生数をカウントする。このときのSEU発生数(第1SEU発生数)を「Nwo shield」とする。
【0040】
ステップS14においてユーザは、開放状態及び遮蔽状態の双方においてSEU発生数の測定が終了したか否かを判断する。終了している場合には(S14;YES)、ステップS16に処理を進め、そうでなければ(S14;NO)、ステップS15に処理を進める。初期的には遮蔽状態における測定は終了していないので、ステップS15に処理を進める。
【0041】
ステップS15においてユーザは、切替部12を遮蔽状態に設定し、その後ステップS12の処理を実行する。切替部12が遮蔽状態に設定されていることにより、減速材113にて発生する熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p3及び熱中性子p4のうち、熱中性子p4は遮蔽される。このため、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子p4がデバイス3に照射される。
【0042】
ステップS13においてカウント部23は、デバイス3におけるSEU発生数をカウントする。このときのSEU発生数(第2SEU発生数)を「Nw shield」とする。その後、ステップS14に処理を進める。
【0043】
開放状態及び遮蔽状態の双方においてSEU発生数の測定が終了しているので(S14;YES)、ステップS16に処理を進める。
【0044】
ステップS16において算出部24は、上述した第1SEU発生数「Nwo shield」及び第2SEU発生数「Nw shield」を前述した(2)式に代入する。また、演算部22で算出された中性子フラックスのデータに基づいて、中性子フルエンス「Φwo shield(E)」を算出し、(2)式に代入して変数Aを算出する。算出部24は、変数Aを前述した(1)式に代入することにより、SEUクロスセクションと中性子エネルギーとの関係を示す演算式を導出する。算出部24は、熱外中性子以下のエネルギーの領域(熱中性子領域を含む)における中性子エネルギーEが与えられた場合に、この中性子エネルギーEを上記演算式に代入することにより、熱外中性子以下のエネルギー領域におけるSEUクロスセクション「σSEU(E)」を算出することができる。
【0045】
このように、本実施形態に係る測定装置は、熱中性子領域におけるSEUクロスセクションを測定する測定装置100であって、中性子を発生する中性子発生部11と、熱中性子を遮蔽する遮蔽材12Aを備え、中性子発生部11にて発生した中性子に含まれる熱中性子を遮蔽する遮蔽状態、及び熱中性子を遮蔽しない開放状態のいずれかに切り替える切替部12と、デバイス3に中性子を照射したときのSEU発生数をカウントするカウント部23と、切替部12を開放状態としてデバイス3に中性子を照射したときの第1SEU発生数、及び、切替部12を遮蔽状態としてデバイス3に中性子を照射したときの第2SEU発生数に基づいて、熱中性子領域における中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出する算出部24と、を備え、算出部24は、中性子エネルギーが入力された際に上記演算式に基づいて、熱中性子領域から0.1[MeV]までの中性子エネルギー依存のSEUクロスセクションを算出する。
【0046】
本実施形態では、特殊な加速器を使用することなく簡易な構成で熱外中性子以下の領域(中性子エネルギーが0.1[MeV]以下の領域)における中性子エネルギーEに対するSEUクロスセクションを算出することができる。ひいては、熱中性子領域における中性子エネルギーEに対するSEUクロスセクションを算出することができる。また、上述した(1)式に示したように、SEUクロスセクションは中性子エネルギーEの関数として表現されるので、SEUクロスセクションのエネルギー依存性を測定することが可能になる。
【0047】
即ち、切替部12を開放状態、及び遮蔽状態とした場合の2回のSEU発生数の測定結果と、シミュレーション或いは実測によって算出した「Φwo shield(E)」に基づいて上述した(1)式に示す変数Aを算出する。変数Aに基づいてSEUクロスセクション「σSEU(E)」と中性子エネルギーEとの関係を示す演算式を導出することができる。従って、この演算式に中性子エネルギーEを代入することにより、SEUクロスセクションを簡易に算出することが可能になる。
【0048】
本実施形態では、加速器111にて発生する加速粒子をターゲット112に照射して高エネルギー中性子を発生させ、この高エネルギー中性子を減速材113に照射して高エネルギー中性子の一部を熱中性子のエネルギーに減速させる。このため、熱中性子と、熱中性子よりも高いエネルギーの中性子が混在した中性子を生成することができ、切替部12を操作して遮蔽材12Aの設置、非設置を切り替えることにより、第1SEU発生数、及び第2SEU発生数を容易に測定することが可能になる。
【0049】
本実施形態では、中性子エネルギーをEとしたとき、熱中性子領域(熱外中性子以下のエネルギーの領域)におけるSEUクロスセクションが、1/√Eに比例するという関係に基づいて、(1)式に示した変数Aを特定するので、簡易な方法で中性子エネルギーEとSEUクロスセクションとの関係を示す演算式を導出することが可能になる。
【0050】
本実施形態では、第1SEU発生数を「Nwo shield」、第2SEU発生数を「Nw shield」としたとき、上述した(2)式に基づいて変数Aを算出し、この変数AをSEUクロスセクションと1/√Eとの比例係数として上述した演算式を導出する。このため、SEU発生数を2回測定し、更に、シミュレーション或いは実測によって算出した「Φwo shield(E)」を用いるという極めて簡易な方法で上記演算式を導出することが可能になる。
【0051】
上記説明した本実施形態の演算装置2には、図5に示すように例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid StateDrive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。メモリ902およびストレージ903は、記憶装置である。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、演算装置2の各機能が実現される。
【0052】
なお、演算装置2は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また、演算装置2は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0053】
なお、演算装置2用のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。コンピュータ読取り可能な記録媒体は、例えば非一時的な(non-transitory)記録媒体である。
【0054】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 照射装置
2 演算装置
3 デバイス
11 中性子発生部
12 切替部
12A 遮蔽材
21 測定部
22 演算部
23 カウント部
24 算出部
100 測定装置
111 加速器
112 ターゲット
113 減速材
図1
図2
図3
図4
図5