(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004340
(43)【公開日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ノイズ除去装置、ノイズ除去方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/10 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
G06F17/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103963
(22)【出願日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂東 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】高村 誠之
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高波 圭吾
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB42
5B056GG03
(57)【要約】
【課題】ノイズ除去の観点でグラフ構造を最適化しつつ、ノイズ除去問題を求解することで、マルチモーダル信号からノイズを除去する。
【解決手段】観測信号行列の列ごとの観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、第1グラフによって表した場合に、第1グラフ上で原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、観測信号行列の行ごとの観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、第2グラフによって表した場合に、第2グラフ上で原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、第1グラフと第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した隣接行列に基づいて観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、K個の観測信号行列を適用して、観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成部と、
前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成部が生成するK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理部と、
を備えるノイズ除去装置。
【請求項2】
前記演算式は、
前記第1目的関数から導かれる第1ノイズ除去式であって、前記第1グラフの隣接行列によって定められ、前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号からノイズを除去した第1ノイズ除去信号を算出する第1ノイズ除去式と、
前記第2目的関数から導かれる第2ノイズ除去式であって、前記第2グラフの隣接行列によって定められ、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号からノイズを除去した第2ノイズ除去信号を算出する第2ノイズ除去式と、
前記第1目的関数から導かれる第1隣接行列算出式であって、前記第1ノイズ除去信号によって定められ、前記第1グラフの隣接行列の算出に用いられる第1隣接行列算出式と、
前記第2目的関数から導かれる第2隣接行列算出式であって、前記第2ノイズ除去信号によって定められ、前記第2グラフの隣接行列の算出に用いられる第2隣接行列算出式と、
である、
請求項1に記載のノイズ除去装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、
第1入力配列から前記第1隣接行列算出式を生成し、生成した前記第1隣接行列算出式を用いて前記第1グラフの隣接行列を算出し、算出した前記第1グラフの隣接行列に基づいて前記第1ノイズ除去式を生成し、第2入力配列を前記観測信号行列と同一の形式のK個の行列に分割し、分割した行列の各々の列ベクトルである前記第1ノイズ除去信号の各々を、生成した前記第1ノイズ除去式に代入して、新たな第1ノイズ除去信号を算出し、算出した新たな前記第1ノイズ除去信号を列ベクトルとして含む配列であって、前記K個の観測信号行列によって形成される配列と同一の形式の出力配列を生成する第1演算部と、
第1入力配列から前記第2隣接行列算出式を生成し、生成した前記第2隣接行列算出式を用いて前記第2グラフの隣接行列を算出し、第2入力配列を前記観測信号行列と同一の形式のK個の行列に分割し、分割した行列の各々の転置行列の列ベクトルである前記第2ノイズ除去信号の各々を、生成した前記第2ノイズ除去式に代入して、新たな第2ノイズ除去信号を算出し、算出した新たな前記第2ノイズ除去信号を転置して得られるベクトルを行ベクトルとして含む配列であって、前記K個の観測信号行列によって形成される配列と同一の形式の出力配列を生成する第2演算部と、
前記第1演算部の第1入力配列及び第2入力配列と、前記第2演算部の第1入力配列及び第2入力配列とに適用する配列を、前記K個の観測信号行列によって形成される配列である初期配列、前記第1演算部が生成する出力配列、前記第2演算部が生成する出力配列の中から選択し、前記第1演算部と、前記第2演算部に処理を行わせて、前記原信号を取得する演算制御部と、
をさらに備える、
請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項4】
前記演算制御部は、
前記第2演算部の第1入力配列及び第2入力配列を、前記初期配列として、前記第2演算部に初回の処理を行わせた後、前記第1演算部の処理として、直近で処理が行われた前記第2演算部が生成する出力配列を、前記第1演算部の第1入力配列及び第2入力配列とする処理と、2回目以降の前記第2演算部の処理では、前記第2演算部の第1入力配列を、直近で処理が行われた前記第1演算部が生成する出力配列とし、前記第2演算部の第2入力配列を前記初期配列とする処理とを、前記第1演算部と、前記第2演算部とに交互に行わせて、前記第1演算部が所定回数、処理を行った際に生成する出力配列を、前記原信号を含む配列とする、
請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項5】
前記演算制御部は、
前記第2演算部の第1入力配列及び第2入力配列を、前記初期配列として、前記第2演算部に初回の処理を行わせた後、直近で前記第2演算部が生成する出力配列を、前記第2演算部の第1入力配列とし、前記第2演算部の第2入力配列を前記初期配列とする処理を、第2の所定回数、前記第2演算部に行わせ、
前記第2演算部が、前記第2の所定回数、処理を行って、最後に生成する出力配列を、前記第1演算部の第1入力配列、第2入力配列として、前記第1演算部に初回の処理を行わせた後、直近で前記第1演算部が生成する出力配列を、前記第1演算部の第1入力配列とし、前記第1演算部の第2入力配列を、初回の前記第1演算部の第2入力配列とする処理を、第1の所定回数、繰り返し前記第1演算部に行わせ、
前記第1演算部が、前記第1の所定回数、処理を行って、最後に生成する出力配列を、前記原信号を含む配列とする、
請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項6】
前記第1演算部は、
前記第1入力配列から前記第1グラフに対応するペアワイズ距離行列を算出し、算出した前記ペアワイズ距離行列から前記第1隣接行列算出式を生成し、
前記第1隣接行列算出式に、主-双対近接分離法を適用して、前記第1グラフの隣接行列を算出し、
前記第2演算部は、
前記第1入力配列から前記第2グラフに対応するペアワイズ距離行列を算出し、算出した前記ペアワイズ距離行列から前記第2隣接行列算出式を生成し、
前記第2隣接行列算出式に、主-双対近接分離法を適用して、前記第2グラフの隣接行列を算出する、
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のノイズ除去装置。
【請求項7】
空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成ステップと、
前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成ステップにより生成されたK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理ステップと、
を含むノイズ除去方法。
【請求項8】
コンピュータを、
空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成手段、
前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成手段が生成するK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ除去装置、ノイズ除去方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
信号復元とは、ノイズや欠損によって劣化した観測信号から元の信号を復元することである。実世界では、観測信号にはノイズや欠損が多く存在するため、信号復元問題は重要なタスクとして研究が続けられている。例として、音声信号、画像信号、映像信号などに対する信号復元問題が広く研究されている。
【0003】
センサネットワーク、交通網、点群などから得られる信号は、空間的な相互接続関係を有する。このような接続関係は、頂点と辺を用いたグラフとして表現することができる。このように、グラフとして表現することができる信号に対する信号処理技術として、グラフ信号処理(Graph Signal Processing: GSP)技術が知られており、この技術を用いることで、頂点領域に存在する信号であるグラフ信号を、数理的に解析することが可能になる。例えば、この技術を用いることにより、複雑なネットワークの変化を考慮した処理などが可能になる。
【0004】
ところで、空間内の複数の観測位置における観測、より具体的には、センサ等を用いた計測などによって得られる観測信号は、光、音、距離など、複数ドメインで観測された信号からなるマルチモーダル信号となることが多い。マルチモーダル信号の各モダリティは互いに相関を有することを期待することができる。そのため、ドメイン間、すなわちモダリティ間の関係は、各モダリティを頂点、モダリティ間の関係性を辺としたモダリティグラフ(Modality graph)によって数理的に表現することができる。これに対して、各観測位置は、上記したように、空間的に相関があるため、観測位置間の関係は、各観測位置を頂点、観測位置間の関係性を辺とした空間グラフ(Spatial graph)によって数理的に表現することができる。
【0005】
マルチモーダル信号は通常の信号と同様に、観測の際にノイズが重畳するため、このノイズを除去する必要がある。上記したグラフ信号処理技術の分野において、ノイズ除去問題という問題が知られており、この問題は、サンプル間の接続関係を利用して、ノイズを含んだ観測信号から未知の原信号を求めることを目的とする問題である。このグラフ信号のノイズ除去問題をマルチモーダル信号に対して設定し、空間グラフとモダリティグラフの2種類のグラフを利用して、マルチモーダル信号からノイズを除去して、原信号を求める手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Masatoshi Nagahama and Yuichi Tanaka, ”Multimodal Graph Signal Denoising Via Twofold Graph Smoothness Regularization with Deep Algorithm Unrolling”, 2022 IEEE International Conference on Acoustics, Speech and Signal Processing (ICASSP), 2022, pp. 5862-5866.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したグラフ信号のノイズ除去問題では、グラフが明に与えられていない場合も多い。このような場合、効果的な解析を行うために、観測信号から適切なグラフを推定する必要がある。しかしながら、非特許文献1に開示されている技術では、グラフの構造は、発見的、言い換えると、明確な数理的な根拠なく、適宜与えるようにしており、ノイズ除去の観点で、最適化されていないという問題がある。
【0008】
本発明は、ノイズ除去の観点でグラフ構造を最適化しつつ、ノイズ除去問題を求解することで、マルチモーダル信号からノイズを除去することができるノイズ除去装置、ノイズ除去方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成部と、前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成部が生成するK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理部と、を備えるノイズ除去装置である。
【0010】
本発明の一態様は、空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成ステップと、
前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成ステップにより生成されたK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理ステップと、を含むノイズ除去方法である。
【0011】
本発明の一態様は、コンピュータを、空間における複数の観測位置の各々において、複数のドメインの各々によって、K回(ただし、Kは、2以上の整数)の観測回数により得られる観測位置数×ドメイン数×K個の観測信号値を、前記観測位置と前記ドメインの何れか一方を、行とし、他方を列として並べて、K個の観測信号行列を生成する行列生成手段、前記観測信号行列の列ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の列に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第1グラフによって表した場合に、前記第1グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第1目的関数と、前記観測信号行列の行ごとの前記観測信号値で形成される観測信号からノイズを除去した原信号を、前記観測信号行列の行に含まれる前記観測信号値の数の頂点を有する第2グラフによって表した場合に、前記第2グラフ上で前記原信号は滑らかになるという仮定に基づいて定めた第2目的関数とから導かれる演算式であって、前記第1グラフと前記第2グラフの各々の隣接行列とを最適化し、最適化した前記隣接行列に基づいて前記観測信号からノイズを除去する演算を行う演算式に、前記行列生成手段が生成するK個の前記観測信号行列を適用して、前記観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する演算処理手段、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ノイズ除去の観点でグラフ構造を最適化しつつ、ノイズ除去問題を求解することで、マルチモーダル信号からノイズを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態のノイズ除去装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の行列生成部が生成する観測信号配列を示す図である。
【
図3】第1の実施形態のノイズ除去装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態のモダリティ演算部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態の空間演算部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態のノイズ除去装置による処理をプログラムの形式で示す図である。
【
図7】第2の実施形態のノイズ除去装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】第2の実施形態のノイズ除去装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態のノイズ除去装置による処理をプログラムの形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態によるノイズ除去装置1の構成を示すブロック図である。ノイズ除去装置1は、行列生成部2と、演算処理部3とを備える。
【0015】
行列生成部2は、N×M×K個の観測信号値を取り込む。ここで、N、M、Kは、いずれも2以上の整数である。N×M×K個の観測信号値とは、例えば、空間におけるN個の異なる位置の各々に設置されたセンサであって、各々がM個の異なるドメインで計測可能なセンサによって、K回計測された信号値の各々のことである。M個の異なるドメインとは、例えば、光、音、距離などの計測指標のことである。以下、ドメインをモダリティともいう。光を計測指標とする場合には、例えばセンサは、センサ周辺の照度などを計測する。音を計測指標とする場合には、例えばセンサは、センサ周辺の音量などを計測する。距離を計測指標とする場合には、例えばセンサは、センサから予め定められた基準位置までの距離などを計測する。以下、Nを観測位置数、Mをモダリティ数、Kを観測回数という。
【0016】
行列生成部2が取り込むN×M×K個の観測信号値の各々には、n,m,kの3つのインデックス値が付与されている。例えば、上記したセンサの各々は、計測によって観測信号値を取得すると、取得した観測信号値に対して、当該観測信号値が得られた観測位置を示すnと、当該観測信号値のモダリティを示すmと、当該観測信号値の観測回数を示すkとを付与する。したがって、nは、1~Nの間の何れかの整数値、mは、1~Mの間の何れかの整数値、kは、1~Kの何れかの整数値になる。
【0017】
行列生成部2は、N×M×K個の観測信号値の各々に付与されている3つのインデックス値に基づいて、N×M×K個の観測信号値からK個のN行×M列の行列を生成する。別の言い方をすれば、行列生成部2は、N×M×K個の観測信号値から行方向の配列数がN、列方向の配列数がM、奥行き方向の配列数がKの3次元配列を生成する。
【0018】
行列生成部2が生成するK個のN行×M列の行列において、列ごとのN個の観測信号値の組み合わせは、K×M個存在する。このK×M個存在するN個の観測信号値を含む観測信号(以下「行方向の観測信号」ともいう)の各々を、N個の頂点を有するグラフで表すことができ、このグラフを、以下、空間グラフ(以下「第1グラフ」ともいう)という。K個のN行×M列の行列において、行ごとのM個の観測信号値の組み合わせは、K×N個存在する。このK×N個存在するM個の観測信号値を含む観測信号(以下「列方向の観測信号」ともいう)の各々を、M個の頂点を有するグラフで表すことができ、このグラフを、以下、モダリティグラフ(以下「第2グラフ」ともいう)という。
【0019】
(用語、記号の定義)
ここで、以下の説明において用いる、グラフに関する用語や記号などについて説明する。グラフとは、ネットワーク構造を数理的にモデル化したものである。N個の頂点を有するグラフgを、次式(1)の記号で表す。
【0020】
【0021】
グラフgにおいて、頂点集合vとし、頂点集合vを次式(2)の記号で表す。
【0022】
【0023】
グラフgにおいて、辺集合εは、次式(3)によって定義される。
【0024】
【0025】
グラフgは、次式(4)に示すように、頂点集合vと、辺集合εとを含む3つのパラメータで定義される。
【0026】
【0027】
式(4)に示す3番目のパラメータである太字で示すWは、隣接行列Wである。隣接行列Wは、頂点数がNである場合、次式(5)で定義される実数を要素とするN行×N列の行列になる。
【0028】
【0029】
以下、隣接行列Wと同様に、数式においては、配列、行列、ベクトルを太字で示し、本文では、「配列」、「行列」、「ベクトル」の文言と共に、配列、行列、ベクトルを表す英数字を示す。
【0030】
隣接行列とは、頂点間の接続関係、すなわちグラフgの構造を表す行列である。自己ループ辺及び多重辺を考慮しない場合、隣接行列Wの要素は、次式(6)によって定義される。
【0031】
【0032】
式(6)において、「if(i,j)∈ε」とは、頂点間に辺が存在する場合を示しており、「otherwise」とは、頂点間に辺が存在しない場合を示している。式(6)においてwijは、頂点iと、頂点jの間の辺の重みであり、wij>0である。ここでは、頂点数がNであるため、i=1,…,Nであり、j=1,…,Nである。
【0033】
1つの頂点に接続している辺の重みの総和を、度数という。頂点iの度数diは、次式(7)によって算出することができる。
【0034】
【0035】
i=1,…,NのN個の度数diを対角要素として有する行列Dを度数行列という。度数行列Dは、次式(8)によって定義される。
【0036】
【0037】
式(8)においてdiag(・)は、対角上の要素が「・」である正方行列を示す記号であり。度数行列Dは、N行×N列の行列になる。グラフラプラシアン行列Lは、度数行列Dと、隣接行列Wとを用いて、次式(9)によって定義される。
【0038】
【0039】
グラフgのグラフ信号は、次式(10)で定義される信号ベクトルxであって、頂点集合vを定義域とする信号ベクトルxになる。
【0040】
【0041】
言い換えると、グラフ信号は、頂点iに対応する信号値を信号値xiで表した場合、N個の頂点の各々に対応する信号値x1,…,xNを要素として有する信号ベクトルxとして表されることになる。なお、グラフ信号のことを、頂点信号ともいう。
【0042】
グラフ信号の変動をF(x)とした場合(ただし、F(x)のxは、信号ベクトルxである)、F(x)は、グラフ信号である信号ベクトルxと、グラフラプラシアン行列Lとを用いて、次式(11)によって定義される。
【0043】
【0044】
式(11)は、ラプラシアン二次形式と呼ばれており、辺の重みwijと、辺で接続された頂点間の信号の差である(xi-xj)の2乗との積の総和を算出する演算式である。そのため、F(x)は、グラフ信号において、信号値xの差が小さい頂点同士が接続している傾向がある場合に小さい値になる。このように、信号値xの差が小さい頂点同士が接続している傾向がある状態を、以下、グラフ信号がグラフg上で滑らかであるという。したがって、F(x)の値が小さいほど、グラフ信号、すなわち信号ベクトルxは、グラフg上で、より滑らかになる。
【0045】
(ノイズ除去問題の設定)
次に、ノイズ除去装置1を用いることによって、求解するノイズ除去問題について説明する。
図2は、N×M×K個の観測信号値から行列生成部2が生成する3次元配列20を示す図である。以下、3次元配列20を、観測信号配列Yといい、観測信号配列Yは、次式(12)によって定義される。
【0046】
【0047】
図2に示すように、観測信号配列Yは、K個のN行×M列の行列21-1~21-Kによって形成されている。行列21-1~21-Kの各々が、いわゆるマルチモーダル信号になる。別の見方をすると、観測信号配列Yは、符号22-nで示すM行×K列の行列を、N個含んでいるという見方もでき、符号23-mで示すN行×K列の行列を、M個含んでいるという見方もできる。ここで、観測信号配列Yを、次式(13)のように表現する。
【0048】
【0049】
式(13)において、右辺の第1項を、以下、原信号配列Xといい、右辺の第2項を、以下、ノイズ配列Nという。原信号配列Xは、次式(14)によって定義され、ノイズ配列Nは、次式(15)によって定義される。すなわち、原信号配列X及びノイズ配列Nは、観測信号配列Yと同様に、
図2に示す3次元配列20の形式で表される3次元配列である。
【0050】
【0051】
【0052】
原信号配列Xに含まれる個々の信号値は、未知の原信号の信号値であり、ノイズ配列Nに含まれる個々の信号値は、加法性白色ガウス雑音信号の信号値である。ノイズ除去装置1を用いることによって、求解するノイズ除去問題とは、観測信号配列Yからノイズ配列Nを除去して原信号配列Xを推定する問題である。
【0053】
ここで、k回目の観測における観測信号値を、観測位置を行、モダリティを列として行列形式に並べると、
図2に示すN行×M列の行列21-kになり、この行列21-kを、以下、次式(16)で定義される観測信号行列Y
(k)で表す。
【0054】
【0055】
観測信号行列Y(k)に対応する原信号の行列を、原信号行列X(k)とする。原信号行列X(k)は、観測信号行列Y(k)と同様にN行×M列の行列であるため、次式(17)で定義される。
【0056】
【0057】
原信号配列Xは、観測信号配列Yと同様に、K個のN行×M列の原信号行列X(k)(k=1,…,K)に分解することができる。原信号行列X(k)の各列の列ベクトルは、空間グラフ上で滑らかであり、各行の行ベクトルは、モダリティグラフ上で滑らかであると仮定する。上記したように、空間グラフ上で滑らかであるとは、原信号行列X(k)のm列目(m=1,…,M)のN個の信号値を、N個の頂点を有する空間グラフで表した場合、空間グラフにおいて隣接する頂点の信号値の差が、小さく、急激に変化しないことをいう。同様に、モダリティグラフ上で滑らかであるとは、原信号行列X(k)のn行目(n=1,…,N)のM個の信号値を、M個の頂点を有するモダリティグラフで表した場合、モダリティグラフにおいて隣接する頂点の信号値の差が、小さく、急激に変化しないことをいう。
【0058】
以下、N個の頂点を有する空間グラフを式(4)の表記にしたがって示すと、次式(18)として表すことができる。
【0059】
【0060】
式(18)において、右辺のパラメータは、それぞれ空間グラフgsにおける頂点集合Vs、辺集合εs、隣接行列Wsであり、隣接行列Wsは、N行×N列の行列であるため、次式(19)によって定義される。
【0061】
【0062】
同様に、M個の頂点を有するモダリティグラフを式(4)の表記にしたがって示すと、次式(20)として表すことができる。
【0063】
【0064】
式(20)において、右辺のパラメータは、それぞれモダリティグラフgmにおける頂点集合Vm、辺集合εm、隣接行列Wmであり、隣接行列Wmは、M行×M列の行列であるため、次式(21)によって定義される。
【0065】
【0066】
なお、空間グラフgsとモダリティグラフgmは、隣接行列Wsと隣接行列Wmの各々の重みwijが、上記したように、wij>0であることから無向グラフになる。
【0067】
(ノイズ除去問題を求解するための目的関数の設定)
上記した原信号行列X(k)の各列の列ベクトルが、空間グラフgs上で滑らかであり、各行の行ベクトルが、モダリティグラフgm上で滑らかであるとする仮定を用いて、観測信号配列Yから、グラフ学習によって、原信号配列Xを推定する。そのために、空間グラフgsに対して、次式(22)で示される目的関数(以下「第1目的関数」ともいう)を設定し、モダリティグラフgmに対して、次式(23)で示される目的関数(以下「第2目的関数」ともいう)を設定する。
【0068】
【0069】
【0070】
式(22)及び式(23)において、次式(24)で示す記号は、フロベニウスノルムの2乗値を算出する演算子である。tr(・)は、行列のトレース、すなわち、正方行列の対角成分の和を算出する演算子である。
【0071】
【0072】
式(22)において、観測信号配列Ysは、3次元配列20である観測信号配列Yを、K個の観測信号行列Y(k)(k=1,…,K)に分解した上で、次式(25)に示すように、N行×M列の行列の形式を維持して結合した配列である。
【0073】
【0074】
式(22)において、原信号配列Xsは、観測信号配列Ysと同様の手順で、3次元配列である原信号配列Xを、K個の原信号行列X(k)(k=1,…,K)に分解した上で、N行×M列の行列の形式を維持して結合した配列である。
【0075】
式(23)において、観測信号配列Ymは、以下のようにして生成される配列である。3次元配列20である観測信号配列Yを、K個の観測信号行列Y(k)(k=1,…,K)に分解し、分解したK個の観測信号行列Y(k)の各々を転置して転置行列を生成する。観測信号行列Y(k)の転置行列は、観測信号行列Y(k)が式(16)によって定義されることから、次式(26)として定義される。
【0076】
【0077】
K個の観測信号行列Y(k)の各々の転置行列を、次式(27)に示すように、M行×N列の行列の形式を維持して結合した配列が、観測信号配列Ymになる。
【0078】
【0079】
式(23)において、原信号配列Xmは、観測信号配列Ymと同様の手順で、生成される配列である。すなわち、3次元配列である原信号配列Xを、K個の原信号行列X(k)(k=1,…,K)に分解し、分解したK個の原信号行列X(k)(k=1,…,K)を転置して転置行列を生成する。K個の原信号行列X(k)の転置行列を、M行×N列の行列の形式を維持して結合した配列が、原信号配列Xmになる。
【0080】
式(22)に示される空間グラフgsのグラフラプラシアン行列Lsは、N行×N列の行列になるため、次式(28)で定義される。
【0081】
【0082】
式(23)に示されるモダリティグラフgmのグラフラプラシアン行列Lmは、M行×M列の行列になるため、次式(29)で定義される。
【0083】
【0084】
式(22)及び式(23)の括弧内の第2項のパラメータαs,αmは、信号の滑らかさに対して予め定められるパラメータであり、αs,αm>0である。式(22)及び式(23)の括弧内の第3項のf(・)は、それぞれ次の式(30)及び式(31)で示される関数である。
【0085】
【0086】
【0087】
式(30)において、次式(32)で示されるベクトル1sは、要素が全て1のN行×1列の列ベクトルである。
【0088】
【0089】
式(31)において、次式(33)で示されるベクトル1mは、要素が全て1のM行×1列の列ベクトルである。
【0090】
【0091】
式(30)及び式(31)に示されるβs,βm,γs,γmは、予め定められるパラメータであり、βs,βm,γs,γm>0である。
【0092】
式(22)及び式(23)において、括弧内の第1項のフロベニウスノルムの2乗値は、観測信号配列Yと、原信号配列Xとの相違を示していることになり、式(11)に示すラプラシアン二次形式が示されている第2項と、グラフの構造を示す隣接行列の特性を示す第3項とは、原信号の滑らかさを示していることになる。したがって、式(22)は、空間グラフgsにおいて、原信号配列Xsを形成するK個の原信号行列X(k)(k=1,…,K)の列ベクトルの各々を、空間グラフgs上で滑らかにするように、空間グラフgsの隣接行列Wsを最適化しつつ、観測信号配列Ysとの相違を最小化する原信号配列Xsを算出する目的関数ということになる。
【0093】
同様に、式(23)は、モダリティグラフgmにおいて、原信号配列Xmを形成するK個の原信号行列X(k)の転置行列の列ベクトルの各々を、モダリティグラフgm上で滑らかにするように、モダリティグラフgmの隣接行列Wmを最適化しつつ、観測信号配列Ymとの相違を最小化する原信号配列Xmを算出する目的関数ということになる。
【0094】
式(22)及び式(23)は、一般に凸最適化問題にはならないので、原信号配列Xs,Xmと、隣接行列Ws,Wmに対して、交互最小化を行って解を求めることができる。そのため、式(22)を、次の式(34)と式(35)に分解し、式(23)を、次の式(36)と式(37)に分解する。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
式(34)は、観測信号配列Ysからノイズを除去した原信号配列Xsを算出する空間グラフgsにおけるノイズ除去式ということができる。式(35)は、空間グラフgsにおける最適な隣接行列Wsを算出する隣接行列算出式(以下「第1隣接行列算出式」ともいう)ということができる。式(36)は、観測信号配列Ymからノイズを除去した原信号配列Xmを算出するモダリティグラフgmにおけるノイズ除去式ということができる。式(37)は、モダリティグラフgmにおける最適な隣接行列Wmを算出する隣接行列算出式(以下「第2隣接行列算出式」ともいう)ということができる。
【0100】
式(35)及び式(37)において、次式(38)で示す記号は、アダマール積を算出する演算子である。
【0101】
【0102】
式(35)及び式(37)において、次式(39)で示す記号は、行列の各要素の絶対値の和を算出する演算子である。
【0103】
【0104】
式(35)に示す行列Zsと、式(37)に示す行列Zmは、それぞれ原信号配列Xs,Xmを用いて算出することができるペアワイズ距離行列である。
【0105】
ここで、一例として、空間グラフg
sに対応するペアワイズ距離行列Z
sの算出手順について説明する。
図2において、符号23-mで示す観測位置を行とし、観測回数を列とするN行×K列の行列を行列Xとする。行列Xを、列ごとのベクトルで示すと、次式(40)として表すことができる。
【0106】
【0107】
式(40)において、列ごとのベクトルは、N行×1列の列ベクトル、すなわち、上記した信号ベクトルxk(k=1,…,K)であり、次式(41)によって定義される。
【0108】
【0109】
これに対して、行列Xを、行ごとのベクトルで示すと、次式(42)として表すことができる。
【0110】
【0111】
式(42)において、「-」が上に付された信号ベクトルxを、以下、本文では、「信号ベクトル-x」と記載する。式(42)は、転置行列を示す記号が付されていることから、信号ベクトル-xn(n=1,…,N)の各々は、K行×1列の列ベクトルになり、次式(43)によって定義される。
【0112】
【0113】
信号ベクトルxkは、k回目の観測によって得られるN個の観測位置において、ある1つのドメインによって観測されるN個の観測信号値の各々に対応するN個の原信号値を含むベクトルであり、空間グラフgsにおけるグラフ信号になる。これに対して、信号ベクトル-xnは、空間グラフgs上の頂点nにおいて、ある1つのドメインによって観測されるK個の観測信号値を含むベクトルになる。この信号ベクトル-xnに対して、次式(44)を適用することにより、空間グラフgsに対するペアワイズ距離行列Zsを算出することができる。
【0114】
【0115】
なお、ペアワイズ距離行列Zsは、式(44)からも分かるように、行列の要素が正の実数になるため、次式(45)によって定義される。
【0116】
【0117】
原信号配列Xsにおいて、行列Xは、M個存在する。そのため、原信号配列XsからM個のペアワイズ距離行列Zsが得られることになる。M個の行列Xの各々と、各々に対応するペアワイズ距離行列Zsには、空間グラフgsのグラフラプラシアン行列Lsと、空間グラフgsの隣接行列Wsとを介して、次式(46)で示す関係が成立する。
【0118】
【0119】
この式(46)を用いることにより、式(22)から式(35)の右辺の括弧内の第1項が導出される。モダリティグラフg
mに対応するペアワイズ距離行列Z
mについても、
図2において、符号22-nで示すモダリティを行とし、観測回数を列とするM行×K列の行列を行列Xとすることにより、空間グラフg
sに対応するペアワイズ距離行列Z
sを算出する手順と同様の手順によって算出することができる。この場合、原信号配列X
mにおいて、行列Xは、N個存在することになり、原信号配列X
mからN個のペアワイズ距離行列Z
mが得られることになる。N個の行列Xの各々と、各々に対応するペアワイズ距離行列Z
mには、モダリティグラフg
mのグラフラプラシアン行列L
mと、モダリティグラフg
mの隣接行列W
mとを介して、式(46)と同様の関係が成立するため、式(23)から式(37)の右辺の括弧内の第1項が導出される。
【0120】
式(34)の解は、次式(47)として導出され、式(36)の解は、次式(48)として導出される。
【0121】
【0122】
【0123】
式(47)において、行列Isは、N行×N列の単位行列である。式(47)において、原信号配列Xsと、観測信号配列Ysとは、上記したように、N行×M列の行列をK個含む配列であり、より詳細には、観測信号配列Ysは、観測信号配列Yの行方向の観測信号であるN行×1列の観測信号を、M×K個含む配列ということもできる。式(47)の右辺において、観測信号配列Ysに対して作用させているのは、N行×N行の行列であることから、式(47)は、1つのN行×1列の観測信号から、1つのN行×1列の原信号を算出する演算を、M×K回行う演算という見方もできる。この場合に、1つのN行×1列の観測信号に基づいて式(47)によって算出される1つのN行×1列の原信号を第1ノイズ除去信号ともいう。式(47)を、第1ノイズ除去式ともいう。
【0124】
式(48)において、行列Imは、M行×M列の単位行列である。式(48)において、原信号配列Xmと、観測信号配列Ymとは、上記したように、M行×N列の行列をK個含む配列である。より詳細には、観測信号配列Ymは、観測信号配列Yの列方向の観測信号を転置したM行×1列の観測信号を、N×K個含む配列ということもできる。式(48)の右辺において、観測信号配列Ymに対して作用させているのは、M行×M行の行列であることから、式(48)は、1つのM行×1列の観測信号から、1つのM行×1列の原信号を算出する演算を、N×K回行う演算という見方もできる。この場合に、1つのM行×1列の観測信号から、式(48)によって算出される1つのM行×1列の原信号を、以下、第2ノイズ除去信号ともいい、式(48)を、以下、第2ノイズ除去式ともいう。
【0125】
式(35)と、式(37)の解は、任意の凸最適化手法によって算出することができる。凸最適化手法は、例えば、主-双対近接分離法であってもよいし、それ以外の手法であってもよい。
【0126】
図1に戻り、演算処理部3は、演算制御部10、空間演算部11及びモダリティ演算部12を備える。空間演算部11は、第1入力配列及び第2入力配列という2つの入力配列を引数とし、これらの引数に対して、第1グラフ、すなわち空間グラフg
sに対応する、式(47)の第1ノイズ除去式と、式(35)の第1隣接行列算出式とを用いる演算を行う。空間演算部11は、当該演算によって、M×K個の第1ノイズ除去信号と、空間グラフg
sの隣接行列W
sとを算出する。空間演算部11は、算出したM×K個の第1ノイズ除去信号から、3次元配列20と同一の形式の配列、すなわち、K個のN行×M列の行列によって形成される配列である出力配列を生成する。
【0127】
モダリティ演算部12は、第1入力配列及び第2入力配列という2つの入力配列を引数とし、これらの引数に対して、第2グラフ、すなわちモダリティグラフgmに対応する、式(48)の第2ノイズ除去式と、式(37)の第2隣接行列算出式とを用いる演算を行う。モダリティ演算部12は、当該演算によって、N×K個の第2ノイズ除去信号と、モダリティグラフgmの隣接行列Wmとを算出する。モダリティ演算部12は、算出したN×K個の第2ノイズ除去信号の各々を転置して、3次元配列20と同一の形式の配列、すなわち、K個のN行×M列の行列によって形成される配列である出力配列を生成する。
【0128】
演算制御部10は、モダリティ演算部12と、空間演算部11とに対して、互いの処理結果を引き継がせつつ、交互に処理を行わせて、観測信号配列Yから原信号配列Xを推定する。演算制御部10は、当該推定の処理において、適切な原信号配列Xが得られるように、空間演算部11の第1入力配列及び第2入力配列と、モダリティ演算部12の第1入力配列及び第2入力配列とに適用する配列を、行列生成部2が生成する3次元配列20である初期配列、空間演算部11が生成する出力配列、モダリティ演算部12が生成する出力配列の中から選択する。
【0129】
(第1の実施形態によるグラフ学習の処理)
図3から
図5を参照しつつ、第1の実施形態のノイズ除去装置1による処理について説明する。ノイズ除去装置1において、行列生成部2は、外部から与えられるN×M×K個の観測信号値を取り込む(Sa1)。行列生成部2は、N×M×K個の観測信号値に付与されている3つのインデックス値に基づいて、3次元配列20である観測信号配列Yを生成する。行列生成部2は、生成した観測信号配列Yを演算処理部3の演算制御部10に出力する。演算制御部10は、行列生成部2が出力する観測信号配列Yを取り込み、取り込んだ観測信号配列Yを、初期配列として、内部の記憶領域に記録する(Sa2)。
【0130】
演算制御部10は、外部から与えられるパラメータαs,αm,βs,βm,γs,γmと、所定回数とを取り込む。演算制御部10は、取り込んだパラメータαs,βs,γsを、空間演算部11に対して設定し、取り込んだパラメータαm,βm,γmを、モダリティ演算部12に対して設定する。演算制御部10は、取り込んだ所定回数を内部の記憶領域に記録する(Sa3)。ここで、所定回数は、1以上の整数であり、所定回数として、例えば、観測信号配列Yから、要求される精度の原信号配列Xが得られる程度の繰り返し回数を示す数が予め定められる。
【0131】
演算制御部10は、内部の記憶領域に処理カウンタの領域を設け、設けた処理カウンタを「0」に初期化する(Sa4)。演算制御部10は、モダリティ演算部12の第1入力配列と、第2入力配列とに対して、内部の記憶領域に記憶されている初期配列を設定し(Sa5)、モダリティ演算部12に処理を開始させる。モダリティ演算部12は、
図4に示すモダリティグラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sa6)。
【0132】
(モダリティグラフ学習処理のサブルーチン(初回の処理))
図4に示すように、モダリティ演算部12は、演算制御部10が設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。以下、モダリティ演算部12の第1入力配列を、処理カウンタに対応する配列として示すために、原信号配列Xと同一の記号「X」を用い、更に、処理カウンタの数を示す「t」を用いて、以下、第1入力配列X
tとして表す。ここでは、第1入力配列X
tは、初期配列であり、初期配列は、観測信号配列Yである。処理カウンタの数は「0」である。したがって、モダリティ演算部12による第1入力配列X
tの取り込みを式で示すと、次式(49)として示すことができる。
【0133】
【0134】
式(49)の左辺において、配列Xの上付きの添え字「0」は、処理カウンタの数「t」が「0」であることを示している。モダリティ演算部12は、取り込んだ第1入力配列Xtを、原信号配列Xmの形式に変換して第1入力配列Xm
tとする(Sb1)。これを、式で示すと、次式(50)になり、ここでは、「t=0」とした式になる。
【0135】
【0136】
以下に示す
図4の処理の説明では、処理カウンタの数を「t」として説明しているが、初回の場合は、t=0である。モダリティ演算部12は、第1入力配列X
m
tからモダリティグラフg
mに対応するペアワイズ距離行列Z
mを算出する。より詳細には、モダリティ演算部12は、第1入力配列X
m
tに対して、式(42)~式(44)を参照して説明した手順を適用して、モダリティグラフg
mに対応するペアワイズ距離行列Z
mをN個算出する(Sb2)。
【0137】
モダリティ演算部12は、N個のペアワイズ距離行列Zmを用いて、式(37)に示す第2隣接行列算出式を生成する(Sb3)。モダリティ演算部12は、生成した第2隣接行列算出式からモダリティグラフgmの隣接行列Wmを算出する。より詳細には、モダリティ演算部12は、N個のペアワイズ距離行列Zmの何れを適用しても、式(37)の括弧内の式によって得られる値を最小値にするような隣接行列Wmを、例えば、主-双対近接分離法によって算出する(Sb4)。Sb4の処理で算出する隣接行列Wmは、例えば、処理カウンタの数が「t」である場合、新たに算出した次の隣接行列Wmということになる。そのため、この新たに算出した隣接行列Wmを、「t+1」の上付きの添え字を付した、次式(51)の記号で表す。
【0138】
【0139】
モダリティ演算部12は、式(7)~式(9)を参照して説明した手順を用いて、算出した隣接行列Wm
t+1からモダリティグラフgmに対応するグラフラプラシアン行列Lm
t+1を算出する。モダリティ演算部12は、算出したグラフラプラシアン行列Lm
t+1を用いて、式(48)に示す第2ノイズ除去式を生成する(Sb5)。
【0140】
モダリティ演算部12は、Sb1の処理において取り込んだ第2入力配列を、式(50)の手順により、原信号配列Xmの形式に変換する。モダリティ演算部12は、第2入力配列を原信号配列Xmの形式に変換した配列を、生成した式(48)に示す第2ノイズ除去式の観測信号配列Ymの箇所に代入する。上記したように、式(48)は、観測信号配列Ymに含まれる1つのM行×1列の観測信号に対応する1つのM行×1列の第2ノイズ除去信号を算出する演算を、N×K回行う演算である。したがって、モダリティ演算部12は、第2入力配列を原信号配列Xmの形式に変換した配列を、生成した式(48)に示す第2ノイズ除去式に代入することにより、新たな第2ノイズ除去信号をN×K個算出する(Sb6)。
【0141】
モダリティ演算部12は、算出したN×K個の新たな第2ノイズ除去信号を、原信号配列Xmと同一の形式に並べて、第2ノイズ除去信号配列を生成する。第2ノイズ除去信号配列は、処理カウンタが「t」である場合に新たに算出した、原信号配列Xの候補となる次の原信号配列Xmということになるので、第2ノイズ除去信号配列Xm
t+1として表す。
【0142】
ところで、モダリティ演算部12の第2入力配列は、初期配列であり、モダリティ演算部12の第1入力配列の場合に用いた表記で示すと、t=0の場合の第1入力配列X0と同一の配列になる。そのため、モダリティ演算部12は、Sb6の処理において、式(48)に示す第2ノイズ除去式に対して、第1入力配列Xm
0と同一の配列を代入していることになる。したがって、Sb5,Sb6の処理を、処理カウンタの数を「t」として、一般化した式で示すと、次式(52)として示すことができる。
【0143】
【0144】
モダリティ演算部12は、生成した第2ノイズ除去信号配列Xm
t+1を、原信号配列Xの形式に変換して出力配列Xt+1を生成する。モダリティ演算部12は、生成した出力配列Xt+1と、Sb4の処理において算出した隣接行列Wm
t+1とを演算制御部10に出力して(Sb7)、サブルーチンの処理を終了する。
【0145】
図3に戻り、演算制御部10は、モダリティ演算部12が出力する出力配列X
t+1と、隣接行列W
m
t+1とを取り込む。演算制御部10は、内部の記憶領域に、取り込んだ隣接行列W
m
t+1を記録する。なお、演算制御部10は、内部の記憶領域に、前回の隣接行列W
m
tが記憶されている場合、前回の隣接行列W
m
tを消去した上で、隣接行列W
m
t+1を記録する。演算制御部10は、空間演算部11の第1入力配列と、第2入力配列とに対して、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列X
t+1を設定し(Sa7)、空間演算部11に処理を開始させる。空間演算部11は、
図5に示す空間グラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sa8)。
【0146】
(空間グラフ学習処理のサブルーチン)
図5に示すように、空間演算部11は、演算制御部10が設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。空間演算部11の第1入力配列を、処理カウンタに対応する配列として示すために、原信号配列Xと同一の記号「X」を用い、更に、処理カウンタの数を示す「t」を用いて、以下、第1入力配列X
tとして表す。空間演算部11は、第1入力配列X
tを、原信号配列X
sの形式に変換し、変換した配列を第1入力配列X
s
tとする(Sc1)。ここで、空間演算部11が取り込む第1入力配列X
tは、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列X
t+1になる。そのため、直近で行われたモダリティ演算部12による処理との繋がりを考慮すると、第1入力配列X
tを第1入力配列X
s
tとする処理は、出力配列X
t+1を、原信号配列X
sの形式に変換し、変換した配列を第1入力配列X
s
tとする処理になるため、式で示すと、次式(53)として示すことができる。
【0147】
【0148】
空間演算部11は、第1入力配列Xs
tから空間グラフgsに対応するペアワイズ距離行列Zsを算出する。より詳細には、第1入力配列を変換して生成した原信号配列Xs
tに対して、式(42)~式(44)を参照して説明した手順を適用して、空間グラフgsに対応するペアワイズ距離行列ZsをM個算出する(Sc2)。
【0149】
空間演算部11は、M個のペアワイズ距離行列Zsを用いて、式(35)に示す第1隣接行列算出式を生成する(Sc3)。空間演算部11は、生成した第1隣接行列算出式から空間グラフgsの隣接行列Wsを算出する。より詳細には、空間演算部11は、M個のペアワイズ距離行列Zsの何れを適用しても、式(35)の括弧内の式によって得られる値を最小値にするような隣接行列Wsを、例えば、主-双対近接分離法によって算出する(Sc4)。Sc4の処理で算出する隣接行列Wsは、例えば、処理カウンタの数が「t」である場合、新たに算出した次の隣接行列Wsということになる。そのため、この新たに算出した隣接行列Wsを、「t+1」の上付きの添え字を付した、次式(54)の記号で表す。
【0150】
【0151】
空間演算部11は、式(7)~式(9)を参照して説明した手順を用いて、算出した隣接行列Ws
t+1から空間グラフgsに対応するグラフラプラシアン行列Ls
t+1を算出する。空間演算部11は、算出したグラフラプラシアン行列Ls
t+1を用いて、式(47)に示す第1ノイズ除去式を生成する(Sc5)。
【0152】
空間演算部11は、Sc1の処理において取り込んだ第2入力配列を、式(53)の手順により、原信号配列Xsの形式に変換する。空間演算部11は、第2入力配列を原信号配列Xsの形式に変換した配列を、生成した式(47)に示す第1ノイズ除去式の観測信号配列Ysの箇所に代入する。上記したように、式(47)は、観測信号配列Ysに含まれる1つのN行×1列の観測信号に対応する1つのN行×1列の第1ノイズ除去信号を算出する演算を、M×K回行う演算である。したがって、空間演算部11は、第2入力配列を原信号配列Xsの形式に変換した配列を、生成した式(47)に示す第1ノイズ除去式に代入することにより、新たな第1ノイズ除去信号を、M×K個算出する(Sc6)。
【0153】
空間演算部11は、算出したM×K個の新たな第1ノイズ除去信号を、原信号配列Xsと同一の形式に並べて、第1ノイズ除去信号配列を生成する。第1ノイズ除去信号配列は、処理カウンタが「t」である場合に新たに算出した、原信号配列Xの候補となる次の原信号配列Xsということになるので、第1ノイズ除去信号配列Xs
t+1として表す。
【0154】
ところで、空間演算部11の第2入力配列は、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列Xt+1であり、空間演算部11の第1入力配列の場合に用いた表記で示すと、第1入力配列Xtになる。そのため、空間演算部11は、Sc6の処理において、式(47)に示す第1ノイズ除去式に対して、第1入力配列Xs
tと同一の配列を代入していることになる。したがって、Sc5,Sc6の処理を、処理カウンタの数を「t」として、一般化した式で示すと、次式(55)として示すことができる。
【0155】
【0156】
空間演算部11は、生成した第1ノイズ除去信号配列Xs
t+1を、原信号配列Xの形式に変換して出力配列Xt+1を生成する。空間演算部11は、生成した出力配列Xt+1と、Sc4の処理において算出した隣接行列Ws
t+1とを演算制御部10に出力して(Sc7)、サブルーチンの処理を終了する。
【0157】
図3に戻り、演算制御部10は、空間演算部11が出力する出力配列X
t+1と、隣接行列W
s
t+1とを取り込む。演算制御部10は、内部の記憶領域に、取り込んだ隣接行列W
s
t+1を記録する。なお、演算制御部10は、内部の記憶領域に、前回の隣接行列W
s
tが記憶されている場合、前回の隣接行列W
s
tを消去した上で、隣接行列W
s
t+1を記録する。演算制御部10は、内部の記憶領域から所定回数を読み出す。演算制御部10は、処理カウンタの数「t」が、(所定回数-1)以上であるか否かを判定する(Sa9)。
【0158】
演算制御部10は、処理カウンタの数「t」が、(所定回数-1)以上でないと判定した場合(Sa9、No)、内部の記憶領域の処理カウンタの数に1を加算する(Sa10)。演算制御部10は、モダリティ演算部12の第1入力配列に、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち、直近で空間演算部11が出力した出力配列X
t+1を設定する。演算制御部10は、更に、モダリティ演算部12の第2入力配列に、内部の記憶領域に記憶されている初期配列を設定し(Sa11)、モダリティ演算部12に処理を開始させる。モダリティ演算部12は、
図4に示すモダリティグラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sa12)。
【0159】
(モダリティグラフ学習処理のサブルーチン(2回目以降の処理))
Sa12のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンで行われる処理と、Sa6のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンの処理との違いについて説明する。
【0160】
モダリティ演算部12は、演算制御部10が設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。ここでは、モダリティ演算部12の第1入力配列は、直近で空間演算部11が出力した出力配列Xt+1になるが、処理カウンタの数が、Sa10の処理によって1増加している。そのため、増加後の処理カウンタの数に合わせると、上付きの添え字は、「t+1」から「t」に変わるため、直近で空間演算部11が出力した出力配列Xt+1が、モダリティ演算部12の第1入力配列Xtになる。モダリティ演算部12は、式(50)に示すように、第1入力配列Xtを、原信号配列Xmの形式に変換して、第1入力配列Xm
tとする(Sb1)。なお、2回目以降のモダリティ演算部12の第2入力配列は、初回と同じく、初期配列である。そのため、その後のSb2~Sb7の処理は、Sa6のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb2~Sb7と同一の処理であって、処理カウンタ「t」を、増加後の処理カウンタの数に読み替えた処理が行われる。
【0161】
図3に戻り、Sa9の処理において、演算制御部10は、処理カウンタの数「t」が(所定回数-1)以上であると判定したとする(Sa9、Yes)。この場合、演算制御部10は、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち、直近で空間演算部11が出力した出力配列X
t+1を原信号配列Xとし、内部の記憶領域に記憶されている空間グラフの隣接行列W
s
t+1を最終的に得られた隣接行列W
sとし、内部の記憶領域に記憶されているモダリティグラフの隣接行列W
m
t+1を最終的に得られた隣接行列W
mとし、原信号配列Xと、隣接行列W
sと、隣接行列W
mとを出力して(Sa13)、処理を終了する。
【0162】
図6は、
図3の処理を、プログラムの形式で示した図である。最初の行の「入力」に示す「iter」は、所定回数である。3、9行目は、処理を示した行ではなく、コメントを示した行である。1行目の処理は、
図3のSa6の処理、すなわち初回のモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb1の処理の中で行われる第1入力配列X
0を、初期配列、すなわち観測信号配列Yとする処理である。4行目から8行目の処理は、1行目の処理を除く、
図3のSa6,Sa12の処理において行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb1~Sb7の処理に対応する処理である。Sb1の処理に含まれるモダリティ演算部12の第1入力配列に対する処理は、4行目に表されている。Sb2~Sb4の処理は、5行目と6行目に示されている。Sb5,Sb6の処理は、7行目に示されており、モダリティ演算部12の第2入力配列を原信号配列X
mの形式に変換した配列は、7行目の配列X
m
0として表されている。Sb7の処理は、8行目に表されている。
【0163】
10行目から14行目の処理が、
図3のSa8の処理において行われる空間グラフ学習処理のサブルーチンのSc1~Sb7の処理に対応する処理である。Sc1の処理は、10行目に表されている。Sb2~Sc4の処理は、11行目と12行目に示されている。Sc5,Sc6の処理は、13行目に示されており、空間演算部11の第2入力配列を原信号配列X
sの形式に変換した配列は、13行目の配列X
s
tとして表されている。Sc7の処理は、14行目に表されている。
図3のSa13の処理において、演算制御部10が出力する隣接行列W
sと、隣接行列W
mと、原信号配列Xとは、それぞれ、最後の行の「出力」に示す所定回数の処理が行われた後に得られる、空間グラフの隣接行列W
s
iterと、モダリティグラフの隣接行列W
m
iterと、原信号配列X
iterとになる。
【0164】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態によるノイズ除去装置1aの構成を示すブロック図である。第2の実施形態のノイズ除去装置1aにおいて、第1の実施形態のノイズ除去装置1と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。ノイズ除去装置1aは、行列生成部2と、演算処理部3aとを備える。演算処理部3aは、演算制御部10a、空間演算部11及びモダリティ演算部12を備える。
【0165】
演算制御部10aは、モダリティ演算部12に対して、繰り返し処理をさせて得られた処理結果を、空間演算部11に引き継がせて、空間演算部11に繰り返し処理を行わせることにより、観測信号配列Yから原信号配列Xを推定する。演算制御部10aは、当該推定の処理において、適切な原信号配列Xが得られるように、空間演算部11の第1入力配列及び第2入力配列と、モダリティ演算部12の第1入力配列及び第2入力配列とに適用する配列を、行列生成部2が生成する3次元配列20である初期配列、空間演算部11が生成する出力配列、モダリティ演算部12が生成する出力配列の中から選択する。
【0166】
(第2の実施形態によるグラフ学習の処理)
図8を参照しつつ、第2の実施形態のノイズ除去装置1aによる処理について説明する。
Sd1,Sd2の処理は、
図3に示すSa1、Sa2の処理と、同一の処理であって、演算制御部10を、演算制御部10aに読み替えた処理が行われる。演算制御部10aは、外部から与えられるパラメータα
s,α
m,β
s,β
m,γ
s,γ
mと、第1の所定回数と、第2の所定回数を取り込む。演算制御部10aは、取り込んだパラメータα
s,β
s,γ
sを、空間演算部11に対して設定し、取り込んだパラメータα
m,β
m,γ
mを、モダリティ演算部12に対して設定する。演算制御部10aは、取り込んだ第1の所定回数と、第2の所定回数とを内部の記憶領域に記録する(Sd3)。ここで、第1の所定回数及び第2の所定回数の各々は、1以上の整数であり、第1の所定回数及び第2の所定回数として、例えば、観測信号配列Yから、要求される精度の原信号配列Xが得られる程度の繰り返し回数を示す数が予め定められる。
【0167】
Sd4,Sd5の処理は、
図3に示すSa4、Sa5の処理と、同一の処理であって、演算制御部10を、演算制御部10aに読み替えた処理が行われる。初回のSd6のモダリティグラフ学習処理のサブルーチンの処理は、
図3に示すSa6の処理と同一の処理、すなわち、上記した第1の実施形態の「モダリティグラフ学習処理のサブルーチン(初回の処理)」の処理が行われる。
【0168】
Sd6の処理の後、演算制御部10aは、モダリティ演算部12が出力する出力配列Xt+1と、隣接行列Wm
t+1とを取り込む。演算制御部10aは、内部の記憶領域に、取り込んだ隣接行列Wm
t+1を記録する。なお、演算制御部10aは、内部の記憶領域に、前回の隣接行列Wm
tが記憶されている場合、前回の隣接行列Wm
tを消去した上で、隣接行列Wm
t+1を記録する。演算制御部10aは、内部の記憶領域から第2の所定回数を読み出す。演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が、(第2の所定回数-1)以上であるか否かを判定する(Sd7)。
【0169】
演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が、(第2の所定回数-1)以上でないと判定した場合(Sd7、No)、内部の記憶領域の処理カウンタの数に1を加算する(Sd8)。演算制御部10aは、モダリティ演算部12の第1入力配列に、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列X
t+1設定する。演算制御部10aは、更に、モダリティ演算部12の第2入力配列に、内部の記憶領域に記憶されている初期配列を設定し(Sd9)、モダリティ演算部12に処理を開始させる。モダリティ演算部12は、
図4に示すモダリティグラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sd6)。
【0170】
(モダリティグラフ学習処理のサブルーチン(2回目以降の処理))
2回目以降にSd6のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンの処理と、初回にSd6のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンの処理との違いについて説明する。
【0171】
モダリティ演算部12は、演算制御部10aが設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。ここでは、第1入力配列は、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列Xt+1になるが、処理カウンタの数が、Sd8の処理によって1増加している。そのため、増加後の処理カウンタの数に合わせると、上付きの添え字は、「t+1」から「t」に変わるため、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列Xt+1が、第1入力配列Xtになる。モダリティ演算部12は、式(50)に示すように、第1入力配列Xtを、原信号配列Xmの形式に変換して、第1入力配列Xm
tとする(Sb1)。なお、2回目以降のモダリティ演算部12の第2入力配列は、初回と同じく、初期配列である。そのため、その後のSb2~Sb7の処理は、初回のSd6のタイミングで行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb2~Sb7と同一の処理が行われる。
【0172】
図8に戻り、Sd7の処理において、演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が、(第2の所定回数-1)以上である判定したとする(Sd7、Yes)。この場合、演算制御部10aは、直近のSd6の処理の後に取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち直近で、モダリティ演算部12が出力した出力配列X
t+1を内部の記憶領域に記録する。ここで、第2の所定回数が、「Tm」で表されるとすると、内部の記憶領域に記憶されている出力配列X
t+1は、出力配列X
Tmとして表されることになる。同様に、直近のSd6の処理の後に、演算制御部10aによって内部の記憶領域に記録された隣接行列W
m
t+1は、隣接行列W
m
Tmとして表されることになる。
【0173】
演算制御部10aは、内部の記憶領域の処理カウンタの数に1を加算する(Sd10)。演算制御部10aは、空間演算部11の第1入力配列と、第2入力配列とに対して、内部の記憶領域に記憶されている出力配列X
Tmを設定し(Sd11)、空間演算部11に処理を開始させる。空間演算部11は、
図5に示す空間グラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sd12)。
【0174】
(空間グラフ学習処理のサブルーチン(初回の処理))
図5に示すように、空間演算部11は、演算制御部10aが設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。空間演算部11の第1入力配列を、処理カウンタに対応する配列として示すために、原信号配列Xと同一の記号「X」を用い、更に、処理カウンタの数を示す「t」を用いて、以下、第1入力配列X
tとして表す。ここでは、空間演算部11の第1入力配列は、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列X
Tmになるが、処理カウンタの数が、Sd10の処理によって1増加している。そのため、増加後の処理カウンタの数は、「Tm」になる。そのため、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列X
Tmが、モダリティ演算部12の第1入力配列X
Tmになる。空間演算部11は、第1入力配列X
Tmを、原信号配列X
sの形式に変換して、第1入力配列X
s
Tmとする(Sc1)。この処理を、処理カウンタの数「t」を用いて、一般化した式で示すと、次式(56)として示すことができる。
【0175】
【0176】
その後のSc2~Sc7の処理は、第1の実施形態の空間グラフ学習処理のサブルーチンのSc2~Sc7と同一の処理が行われる。この場合に、空間演算部11が、Sc1の処理において取り込み、Sc6の処理において用いる第2入力配列は、第1入力配列と同じく、モダリティ演算部12が出力した出力配列XTmである。この第2入力配列を、第1入力配列の場合に用いた表記で示すと、第1入力配列XTmになる。そのため、空間演算部11は、Sc6の処理において、式(47)に示す第1ノイズ除去式に対して、第1入力配列Xs
Tmと同一の配列を代入することになる。したがって、Sc5,Sc6の処理を、処理カウンタの数を「t」として、一般化した式で示すと、次式(57)として示すことができる。
【0177】
【0178】
図8に戻り、Sd12の処理の後、演算制御部10aは、空間演算部11が出力する出力配列X
t+1と、隣接行列W
s
t+1とを取り込む。演算制御部10aは、内部の記憶領域に、取り込んだ隣接行列W
s
t+1を記録する。なお、演算制御部10aは、内部の記憶領域に、前回の隣接行列W
s
tが記憶されている場合、前回の隣接行列W
s
tを消去した上で、隣接行列W
s
t+1を記録する。演算制御部10aは、内部の記憶領域から第1の所定回数と、第2の所定回数とを読み出す。演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が、(第1の所定回数+第2の所定回数-1)以上であるか否かを判定する(Sd13)。
【0179】
演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が、(第1の所定回数+第2の所定回数-1)以上でないと判定した場合(Sd13、No)、内部の記憶領域の処理カウンタの数に1を加算する(Sd14)。演算制御部10aは、空間演算部11の第1入力配列に、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち空間演算部11が出力した出力配列X
t+1を設定する。演算制御部10aは、更に、内部の記憶領域に記憶されている出力配列X
Tmを、空間演算部11の第2入力配列に設定し(Sd15)、空間演算部11に処理を開始させる。空間演算部11は、
図5に示す空間グラフ学習処理のサブルーチンを実行する(Sd12)。
【0180】
(空間グラフ学習処理のサブルーチン(2回目以降の処理))
2回目以降にSd12のタイミングで行われる空間グラフ学習処理のサブルーチンの処理と、初回にSd12のタイミングで行われる空間グラフ学習処理のサブルーチンの処理との違いについて説明する。
【0181】
空間演算部11は、演算制御部10aが設定した第1入力配列と、第2入力配列とを取り込む。ここでは、第1入力配列は、直近で空間演算部11が出力した出力配列Xt+1になるが、処理カウンタの数が、Sd14の処理によって1増加している。そのため、増加後の処理カウンタの数に合わせると、上付きの添え字は、「t+1」から「t」に変わるため、直近で空間演算部11が出力した出力配列Xtが、第1入力配列Xtになる。空間演算部11は、式(56)に示すように、第1入力配列Xtを、原信号配列Xs
tの形式に変換して、第1入力配列Xs
tとする(Sc1)。なお、2回目以降の空間演算部11の第2入力配列は、初回と同じく、演算制御部10aの内部の記憶領域に記憶されている出力配列XTmである。そのため、その後のSc2~Sc7の処理は、初回のSd12のタイミングで行われる空間グラフ学習処理のサブルーチンのSc2~Sc7と同一の処理が行われる。
【0182】
図8に戻り、Sd13の処理において、演算制御部10aは、処理カウンタの数「t」が(第1の所定回数+第2の所定回数-1)以上であると判定したとする(Sd13、Yes)。この場合、演算制御部10aは、取り込んだ出力配列X
t+1、すなわち空間演算部11が出力した出力配列X
t+1を原信号配列Xとし、内部の記憶領域に記憶されている空間グラフの隣接行列W
s
t+1を最終的に得られた隣接行列W
sとし、内部の記憶領域に記憶されているモダリティグラフの隣接行列W
m
Tmを最終的に得られた隣接行列W
mとし、原信号配列Xと、隣接行列W
sと、隣接行列W
mとを出力して(Sd16)、処理を終了する。
【0183】
図9は、
図8の処理を、プログラムの形式で示した図である。最初の行の「入力」に示す「Ts」は、第1の所定回数であり、「Tm」は、第2の所定回数である。2、9行目は、処理を示した行ではなく、コメントを示した行である。1行目の処理は、
図8のSd6の処理において行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb1の処理であって、初回のSb1の処理の中で行われる第1入力配列X
0を、初期配列、すなわち観測信号配列Yとする処理である。4行目から8行目の処理は、1行目の処理を除く、
図8のSd6の処理において行われるモダリティグラフ学習処理のサブルーチンのSb1~Sb7の処理に対応する処理である。Sb1の処理に含まれるモダリティ演算部12の第1入力配列に対する処理は、4行目に表されている。Sb2~Sb4の処理は、5行目と6行目に示されている。Sb5,Sb6の処理は、7行目に示されており、モダリティ演算部12の第2入力配列を原信号配列X
mの形式に変換した配列は、7行目の配列X
m
0として表されている。Sb7の処理は、8行目に表されている。
【0184】
11行目から15行目の処理が、
図8のSd12の処理において行われる空間グラフ学習処理のサブルーチンのSc1~Sc7の処理に対応する処理である。Sc1の処理は、11行目に表されている。Sc2~Sc4の処理は、12行目と13行目に示されている。Sc5,Sc6の処理は、14行目に示されており、空間演算部11の第2入力配列を原信号配列X
sの形式に変換した配列は、14行目の配列X
s
Tmとして表されている。Sc7の処理は、15行目に表されている。
図8のSd16の処理において、演算制御部10aが出力する隣接行列W
sと、隣接行列W
mと、原信号配列Xとは、それぞれ、最後の行の「出力」に示す第1の所定回数+第2の所定回数の処理が行われた後に得られる空間グラフの隣接行列W
s
Tm+Tsと、第2の所定回数の処理が行われた後に得られるモダリティグラフの隣接行列W
m
Tmと、原信号配列Xとになる。
【0185】
(第1及び第2の実施形態の作用と効果)
上記した第1及び第2の実施形態のノイズ除去装置1,1aにおいて、行列生成部2は、空間におけるN個の観測位置の各々において、M個のドメインの各々によって、K回の観測回数により得られるN×M×K個の観測信号値を、観測位置を行とし、ドメイン、すなわちモダリティを列として並べて、各々の行列がマルチモーダル信号となるK個の観測信号行列Y(k)を生成する。マルチモーダル信号に対するノイズ除去問題を求解するため、以下の2つの状態を仮定して式(22)で示される第1目的関数と、式(23)で示される第2目的関数とが予め定められる。第1の仮定は、N行×M列の観測信号行列Y(k)の列ごとの観測信号値で形成される行方向の観測信号からノイズを除去した原信号を、N個の頂点を有する第1グラフである空間グラフによって表した場合に、空間グラフ上で原信号は滑らかになるという仮定である。第2の仮定は、観測信号行列Y(k)の行ごとの観測信号値で形成される列方向の観測信号からノイズを除去した原信号を、M個の頂点を有する第2グラフであるモダリティグラフによって表した場合に、モダリティグラフ上で原信号は滑らかになるという仮定である。
【0186】
演算処理部3は、第1目的関数と、第2目的関数とから導出される演算式にK個の観測信号行列Y(k)を適用して、空間グラフとモダリティグラフの各々の隣接行列Ws,Wmとを最適化し、最適化した隣接行列Ws,Wmに基づいて観測信号からノイズを除去する演算を行う。より詳細には、第1の実施形態のノイズ除去装置1では、演算制御部10は、モダリティ演算部12と、空間演算部11とに対して、互いの処理結果を引き継がせつつ、所定回数、交互に処理を行わせて、観測信号配列Yから原信号配列Xを推定する。これに対して、第2の実施形態の演算制御部10aは、モダリティ演算部12に対して、第2の所定回数、繰り返し処理をさせて得られた処理結果を、空間演算部11に引き継がせて、空間演算部11に、第1の所定回数、繰り返し処理を行わせることにより、観測信号配列Yから原信号配列Xを推定する。
【0187】
第1及び第2の実施形態の何れの実施形態においても、ノイズ除去装置1,1aは、観測信号の各々からノイズを除去した原信号を推定する。ここで、観測信号とは、観測信号行列の行方向の観測信号と、列方向の観測信号とがあり、ノイズ除去装置1,1aは、両方向の観測信号からノイズを除去するので、マルチモーダル信号からノイズを除去していることになる。隣接行列Wsは、空間グラフのグラフ構造を示しており、隣接行列Wmは、モダリティグラフのグラフ構造を示していることから、ノイズ除去装置1,1aは、空間グラフとモダリティグラフの両方のグラフ構造を最適化していることになる。したがって、第1及び第2の実施形態のノイズ除去装置1,1aにより、ノイズ除去の観点でグラフ構造を最適化しつつ、ノイズ除去問題を求解することで、マルチモーダル信号からノイズを除去することが可能になる。
【0188】
(第1及び第2の実施形態の他の構成例)
上記の第1及び第2の実施形態では、観測位置を行、モダリティを列としている。これに対して、モダリティを行とし、観測位置を列としてもよい。この場合、第1グラフは、モダリティグラフになり、第2グラフは、空間グラフになる。第1目的関数は、式(23)になり、第2目的関数は、式(22)になる。第1隣接行列算出式は、式(37)になり、第2隣接行列算出式は、式(35)になる。第1ノイズ除去式は、式(48)になり、第2ノイズ除去式は、式(47)になる。なお、第1及び第2の実施形態では、式(25)の右辺で示される配列を、観測信号配列Ysとし、式(27)の右辺で示される配列を、観測信号配列Ymとしているが、モダリティを行とし、観測位置を列とした場合、観測信号配列Ysは、式(27)の右辺で示される配列になり、観測信号配列Ymが、式(25)の右辺で示される配列になる。原信号配列Xs,Xmについても、観測信号配列Ys,Ymと同様に、配列の構造が入れ替わることになる。第1隣接行列算出式と、第1ノイズ除去式とに対応する演算部を第1演算部とし、第2隣接行列算出式と、第2ノイズ除去式とに対応する演算部を第2演算部とした場合、第1及び第2の実施形態では、第1演算部は、空間演算部11に対応し、第2演算部は、モダリティ演算部12に対応する。これに対して、モダリティを行とし、観測位置を列とした場合、第1演算部は、モダリティ演算部12に対応し、第2演算部は、空間演算部11に対応することになる。
【0189】
第1の実施形態では、
図3に示すように、演算制御部10は、モダリティ演算部12の処理を先に行い、空間演算部11の処理を後に行うようにして、モダリティ演算部12と、空間演算部11とに交互に処理をさせるようにしている。これに対して、演算制御部10は、空間演算部11の処理を先に行い、モダリティ演算部12の処理を後に行うようにして、空間演算部11と、モダリティ演算部12とに交互に処理をさせるようにしてもよい。この場合に、演算制御部10は、空間演算部11に対して、初回の処理を行わせる場合、空間演算部11の第1入力配列と第2入力配列に対して初期配列を設定し、2回目以降の処理を行わせる場合、空間演算部11の第1入力配列に、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列を設定し、空間演算部11の第2入力配列に、初期配列を設定する。モダリティ演算部12の第1入力配列と第2入力配列には、直近で空間演算部11が出力した出力配列を設定することになる。
【0190】
第2の実施形態では、
図8に示すように、演算制御部10aは、モダリティ演算部12に第2の所定回数、処理させた後に、空間演算部11に第1の所定回数、処理させるようにしている。これに対して、演算制御部10aは、空間演算部11に第1の所定回数、処理させた後に、モダリティ演算部12に第2の所定回数、処理させるようにしてもよい。この場合に、演算制御部10aは、空間演算部11に対して、初回の処理を行わせる場合、空間演算部11の第1入力配列と第2入力配列に対して初期配列を設定し、2回目以降の処理を行わせる場合、空間演算部11の第1入力配列に、直近で空間演算部11が出力した出力配列を設定し、空間演算部11の第2入力配列に、初期配列を設定する。モダリティ演算部12に対して、初回の処理を行わせる場合、第1入力配列と第2入力配列には、直近で空間演算部11が出力した出力配列し、2回目以降の処理を行わせる場合、モダリティ演算部12の第1入力配列には、直近でモダリティ演算部12が出力した出力配列を設定し、モダリティ演算部12の第2入力配列には、直近で空間演算部11が出力した出力配列を設定することになる。
【0191】
例えば、演算制御部10aは、第2の実施形態の手法による処理を行って、空間演算部11の処理が完了した際に得られる原信号配列Xを初期配列として、再び、第2の実施形態の手法による処理を行わせるようにしてもよい。
【0192】
第1の実施形態の手法と、第2の実施形態の手法とを混在させるようにしてもよい。例えば、演算制御部10が演算制御部10aの構成も備えており、演算制御部10は、第1の実施形態の手法による処理を行うことにより得られる原信号配列Xを、第2の実施形態の初期配列として、第2の実施形態の手法による処理を行わせるようにしてもよい。演算制御部10aが演算制御部10の構成も備えており、演算制御部10aは、第2の実施形態の手法による処理を行うことにより得られる原信号配列Xを、第1の実施形態の初期配列として、第1の実施形態の手法による処理を行わせるようにしてもよい。
【0193】
上述した実施形態におけるノイズ除去装置1,1aをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0194】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0195】
1…ノイズ除去装置、2…行列生成部、3…演算処理部、10…演算制御部、11…空間演算部、12…モダリティ演算部