(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008655
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】微生物燃料電池用の電極およびそれを含む微生物燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20250109BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20250109BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N27/416 302M
G01N27/416 341M
G01N27/327 355
G01N33/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110998
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】迫田 和馬
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】今村 壮輔
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中西 周次
(57)【要約】
【課題】微生物燃料電池用の電極およびそれを含む微生物燃料電池システムを提供する。
【解決手段】微生物燃料電池用の電極であって、電極はチューブ形状であり、電極の内部は両端部の少なくとも一方において大気と連通している電極が提供される。(a)電圧測定部および/または電流測定部と、(b)(a)に電気的に接続されたアノードと、(c)(a)に電気的に接続されたカソードとしての上記電極とを含む、微生物燃料電池システムも提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物燃料電池用の電極であって、
前記電極はチューブ形状であり、
前記電極の内部は両端部の少なくとも一方において大気と連通している
電極。
【請求項2】
前記チューブ形状が、円筒形である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記電極が、カソードである、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
(a)電圧測定部および/または電流測定部と、
(b)前記(a)に電気的に接続されたアノードと、
(c)前記(a)に電気的に接続された請求項3に記載の電極と
を含む、微生物燃料電池システム。
【請求項5】
前記アノードの少なくとも一部、および、前記チューブ形状の電極の少なくとも先端部が、土壌に包埋されており、前記電極の内部は、前記チューブ形状の電極の末端部から前記先端部まで大気を到達させる土壌フリー領域を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のシステムを用いて、電圧および/または電流を測定することを含む、土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法。
【請求項7】
測定された前記物質酸化量から、前記土壌中の前記物質の存在量を推定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微生物燃料電池用の電極およびそれを含む微生物燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
作物生産における植物体の生育状態の把握は、適切な栽培管理や収穫量の見積もりの観点から重要な課題となる。光合成の活性は、植物の生長量と密接に関連しており、生育状態を評価する指標の一つと考えられてきた。
【0003】
光合成活性を評価する方法および装置が知られている(非特許文献1、2)。しかし、光合成活性の評価には高価な装置が必要となり、また測定効率が低いため、作物生産の現場において光合成活性評価を広く実用化することには困難がある。
【0004】
植物は光合成を行うことで有機物を合成し、そのうちのかなりの割合(典型的には光合成同化炭素の数%~数十%)を根から土壌中へ分泌する。光合成活性の増減に応じて、根からの有機物の分泌量は変化すると考えられる。よって、光合成活性の変化に伴う土壌有機物量の変化をモニタリングすることで、植物の生育状態の把握が可能になると考えられる。
【0005】
土壌有機物量の変化をモニタリングする手法として、微生物燃料電池の利用が挙げられる。微生物燃料電池では、嫌気条件下にあるアノード上の微生物群集による有機物酸化によって電子が生じ、アノードに電子が引き渡される。電子が電気回路を通してカソードへ移動すると同時に、有機物酸化で生じたプロトンがカソードへ輸送されることで、カソードにおける酸素還元反応が起こる。微生物燃料電池の出力は系中に存在する有機物量に大きく依存することから、その出力変化に基づき環境中の有機物量評価が可能となる。
【0006】
畑土壌で栽培される植物の生育評価に微生物燃料電池を利用する場合、カソードが土壌と空気の双方に接するよう設置する必要がある。カソードは土壌からプロトンを受け取り、そしてそのプロトンを使って酸素(空気から供給される)を還元する必要があるからである。微生物燃料電池からの安定した出力を得るためには、土壌・空気・カソードからなる3相の界面の変動を極力抑える必要がある
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】メイワフォーシス株式会社, LI-6400XT植物総合解析システム、http://www.meiwafosis.com/brochures/pdf/LI-6400XT%20Portable%20Photosynthesis%20System.pdf
【非特許文献2】Robert P. Koester, Brittany M. Nohl, Brian W. Diers, Elizabeth A. Ainsworth, “Has photosynthetic capacity increased with 80 years of soybean breeding? An examination of historical soybean cultivars”, Plant, Cell & Environment (2016), 39,1058-1067.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の微生物燃料電池では、板状のカソードが土壌表面と並行に設置されて使用されている。これにより、カソードの下面が土壌表面と接触し、そこには空気も共存して、土壌・空気・カソードの3相界面が提供される。
【0009】
しかしながら、このような従来の板状カソードの使用法では、団粒や砂利を含む土壌表面の凹凸によりカソードと土壌の接触不良あるいは接触不安定性が生じやすいという問題があることを本発明者らは認識した。また、畑等の土壌の表面は乾燥しやすく水分が乏しくなりやすいため、土壌表面を酸素還元反応の場とする従来の微生物燃料電池では、カソードへのプロトン輸送が起こりにくくなり、出力が検出されにくくなることも認識された。以上の課題により、従来の板状のカソードを用いた微生物燃料電池では、畑等の土壌における安定した出力を維持することが妨げられ得る。
【0010】
本開示は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、微生物燃料電池用の電極およびそれを含む微生物燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、微生物燃料電池用の電極であって、前記電極はチューブ形状であり、前記電極の内部は両端部の少なくとも一方において大気と連通している。
【0012】
本開示の別の一態様は、(a)電圧測定部および/または電流測定部と、(b)前記(a)に電気的に接続されたアノードと、(c)前記(a)に電気的に接続された、カソードである上記の電極とを含む、微生物燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、微生物燃料電池用の電極およびそれを含む微生物燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の微生物燃料電池用の電極を示す斜視図である。
【
図2】実施形態の微生物燃料電池システムを示す模式図である。図中のH
+は、アノード2上の微生物による土中有機物酸化により生成され電極1で酸素還元反応に用いられるプロトンを表す。O
2は大気から供給される酸素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の非限定的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<微生物燃料電池用の電極>
【0017】
図1は、実施形態の微生物燃料電池用の電極の一例を示す斜視図である。同図には電極1、その両端部11および電極の内部12が示されている。
【0018】
実施形態における微生物燃料電池用の電極1は、チューブ形状である。このため電極の内部12には、空間が存在する。前記チューブ形状は、好ましくは円筒形であるが、必ずしもそれに限定されず、当該チューブの断面は円形のほか楕円形、四角形、多角形、不定形、等であってもよい。当該チューブは通常は太さよりも長さの方が大きいが、その逆であってもよい。チューブ形状の電極1は、チューブ内部への土の侵入は防ぐが空気は通す多孔性領域を一部または全部に有してもよい。
【0019】
チューブ形状である電極1は、畑等の土壌に容易に貫入させて設置することが可能である。板状のカソード電極を本質的に土壌表面に「載せる」ことで土壌・空気・カソードの3相界面を提供していた従来の電極と異なり、本実施形態の電極1は、空気との連通を維持しつつ土中に挿入されて、周囲の土に圧迫されながら物理的に固定されるので、3相界面を安定化できる。また、そのような土との密接性に加えて、土壌に貫入される本実施形態の電極1の先端は、土壌表面と比べて水分が保持されやすい土壌内部に存在するため、プロトンの受け取りも安定化できる。
【0020】
電極の内部12は、両端部11の少なくとも一方において大気と連通している。つまり、その端部では、例えば空気の通過を完全に防ぐ異物がチューブ内部を塞いではいない。このことにより、空洞を通して酸素の移動が可能となるため、酸素還元反応の場を水分含量が多いかつ安定な地中とすることができる。したがって、畑のような土壌環境においても微生物燃料電池の出力安定化が実現できる。電極1は好ましくは両端部が開いており、その使用においては、両端部11のうち一つが大気と連通したまま上向きに開放されており、残りの一つは土壌5に包埋されている。
【0021】
電極1の材質は、導電性を含め、微生物燃料電池の電極として用いるための特性を備えたものであれば特に限定されない。電極1は例えば金属材料、カーボン材料、またはそれらの組合せで構成され得る。電極1に、当業者に知られる酸化還元反応触媒を含ませてもよい。電極1は例えば、カーボンの表面に白金系触媒を吸着させた材料を含むことができる。あるいは、白金とコバルトの合金を触媒として吸着させた材料を含むこともできる。電極1は土壌への貫入を促進させる強度を持つものであることが好ましい。電極の金属材料は通常単独でその強度を提供することができる。電極1は、電極機能のための材料に加えて、土壌への貫入を促進させるための強度を電極1に付与する支持基材をも含んでもよい。
【0022】
電極1は、燃料電池の分野の当業者に知られた酸素電極に適した特性を備えたものであってもよい。例えば、電極1は、酸素透過層および任意で触媒層を備えた膜電極としてもよい。前記酸素透過層は、当業者に知られる、酸素を選択的に透過させるポリマー等によって形成され、触媒層に対して酸化還元反応に必要な酸素を供給する機能を提供し得る。前記触媒層は、供給された酸素、プロトン、および電子を含む反応物による酸化還元反応を促進させる機能を有する。このような膜電極を用いた燃料電池の電極は当業者によって知られた材料と方法を用いて製造することができる。電極1の使用時において、前記酸素透過層は、好ましくは少なくともその一部が電極の内部12に面しており、前記触媒層は好ましくは少なくともその一部が土壌5に面している。
【0023】
電極1では、前記電極に供給された電子を用いて酸素還元反応が行われ得る。電極1において生じる反応には、さらにプロトンが関与し得、前記プロトンはアノード2上の微生物による酸化反応によって生成されたものであり得る。例えば、電極1において、酸素、電子、およびプロトンが反応することによって、水が生成される。
【0024】
電極1は好ましくはカソードである。カソードとしての電極1は導線を通してアノード2から電子を受け取り、この電子が電極1における酸素還元反応に用いられる。
【0025】
<微生物燃料電池システム>
【0026】
一態様において、(a)電圧測定部および/または電流測定部と、前記(a)に電気的に接続されたアノードと、(c)前記(a)に電気的に接続された、上述の電極とを含む、微生物燃料電池システムが提供される
【0027】
図2は、実施形態の微生物燃料電池システムの一例を示す模式図である。同図には、
図1にも示されている電極1(カソード)、ならびにその両端部11および内部12に加えて、電極1の先端部13、電極1の末端部14、土壌フリー領域15、アノード2、電圧測定部3、抵抗器4、土壌5、および導線6が示されている。本開示においてチューブ形状の電極1に関して「先端」とは、土壌に挿入される側の端を指し、「末端」とは、「先端」とは反対側の端を指す。
【0028】
アノード2は、導線6によって電圧測定部3および抵抗器4に電気的に接続された電極である。電圧測定部の二極のうち一方がカソードとしての電極1に接続され他方がアノード2に接続されることが当業者に理解される。つまりアノード2は電圧測定部3および抵抗器4を挟んでさらに導線6によって電極1に電気的に接続されている。アノード2の材質は、導電性を含め、微生物燃料電池の電極として用いるための特性を備えたものであれば特に限定されないが、例えば、当業者によって知られたカーボン材料、金属材料およびこれらの組み合わせから選択される、微生物燃料電池に好適な電極材料を用いることができる。
【0029】
アノード2の少なくとも一部、好ましくはアノード2の全体は、土壌5に包埋される。より具体的には、アノード2は、少なくとも一部が、嫌気性微生物による有機物分解が生じるに足る水分を含む土層に接触するように設置され得る。
図2に示すように、アノード2を土壌中に略水平に包埋することが好ましい。アノード2の包埋位置は、カソード電極1の先端位置より深くすることが好ましい。
【0030】
実施形態の微生物燃料電池システムは、電圧測定部3および/または電流測定部を含む。
図2は電圧測定部3を含む実施形態の一例を示すが、電圧測定部を電流測定部に置き換えた例を考えることもできる。
【0031】
電圧測定部3および抵抗器4は、燃料電池によって発生した電圧を測定することによって、微生物による土壌物質(特に土壌有機物)の酸化活性量、および間接的にはその有機物の土中蓄積をもたらす光合成活性量をモニタリングするためのものである。電圧測定部3はさらに、任意の時間間隔および出力レンジで微生物燃料電池の出力が経時的に記録可能なデータロガーの一部として構成されていてもよいことが、当業者によって理解される。また、並列に接続された電圧測定部3および抵抗器4に加えてまたはそれに代えて、直列に接続された電流測定部および抵抗器が測定装置として、例えばロガーの一部をなす測定装置として用いられ得ることが、当業者によって理解される。抵抗器4の抵抗値は、当業者によって上記測定のために好適な値に適宜設定され得る。
【0032】
電極1の先端部13は土壌5に包埋されている。これは、先端部13が、土壌の上表面(地表)より深いところに挿入されていることを意味する。
図2では、電極1の先端部13およびその周囲の土壌領域を含む部分拡大図を左側の枠中に示している。又、電極1の末端部14は、電極の内部12を大気と連通させるために、地上に露出している。このように土壌5に対して電極1を設置することで、電極の内部12に、前記チューブ形状の電極の末端部から先端部まで大気を到達させる土壌フリー領域15が含まれるようにすることができる。土壌フリー領域15の存在は、電極の内部12に土が入ることが必ずしも完全に排除されることは意味しない。なお、電極1の表面にも微生物が付着する可能性はあるが、従来の一槽型微生物燃料電池で実証されているように、そのような可能性のもとでも微生物燃料電池は機能し得る。酸素濃度が高くしかも典型的にアノード2より包埋位置が浅くなる電極1は、微生物が付着したとしてもその量、種類または機能がアノードとは異なる可能性がある。
【0033】
実施形態の微生物燃料電池システムは、例えば電極1と同一径の棒を土壌5に貫入させた後に取り除くことによって土壌5に穴を形成し、その穴に電極1を挿入することを含む方法で設置することができる。このとき、カソードとしての電極1は土壌5と密着し、かつアノード2と接しないよう設置する。また、前記設置は、導線6を通じて、アノード2、電極1、ならびに電圧測定部および/または電流測定部を接続することを含み得る。例えば、アノード2-外部抵抗器4-電極1をつなぎ、抵抗器4を挟む両側に、電圧測定部を備えるロガーの正極および負極端子を接続するか、あるいは、抵抗器4に直列に電流測定部を備えるロガーを接続し得る。微生物燃料電池から発生する電圧または電流の値に応じて、ロガーの出力レンジを調整し得る。
【0034】
<土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法>
【0035】
一態様において、<微生物燃料電池システム>のセクションにおいて記載されたシステムを用いて、電圧および/または電流を測定することを含む、土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法が提供される。電圧および/または電流は好ましくは経時的に測定される。
【0036】
実施形態の、土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法において測定される物質酸化量は、土壌中に含まれ土壌中微生物によって酸化を受ける物質の酸化量であれば特に限定されない。前記物質は典型的には有機物質である。植物の光合成活動の増加に伴って土壌中に分泌される有機物質量が増加し得る。これらの物質の例としては、例えば、タンパク質、糖、アミノ酸、有機酸、フラボノイド等を含む根分泌物が挙げられる。
【0037】
実施形態の、土壌中微生物による物質酸化量を測定することは、<微生物燃料電池システム>のセクションにおいて記載されたシステムを用いて測定された電圧および/または電流の値に基づいて、単純に物質酸化量がより多いか少ないか、またはより増えているか減っているかを検出することを含み得る。この場合、測定される物質酸化量は、対応する電圧単位および/または電流単位(もしくは電子モル数単位)で表される量であるか、または、電圧値および/または電流値と相関する任意単位の量であり得る。あるいは、測定された電圧および/または電流の値を、具体的な質量等の単位で表される物質酸化量に変換することを含んでもよい。このような変換は例えば、前記電圧および/または電流の値と、前記物質酸化量との関係を示す任意のモデルを用いて行われ得る。このようなモデルは、例えば機械学習モデルであってもよい。より具体的には、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、一般線形モデル、正則化線形判別分析、正則化ロジスティック回帰、ラッソ(least absolute shrinkage and selection operator)回帰などのモデルを用いることができる。前記モデルの構築には、機械学習モデルまたはその他のモデルの構築に用いるアルゴリズムとして公知のものを利用することができる。構築したモデルのなかから、検証用のデータをモデルに入力して出力される値が実測値と最も適合するモデルを選抜し、最適なモデルとして用いることができる。このようなモデルの構築は、あらかじめ取得された前記電圧および/または電流と、対応して存在していた物質酸化量(または酸化可能物質量)のデータを用いて、当業者によって知られた方法で行われ得る。
【0038】
実施形態の、測定された物質酸化量から土壌中のその酸化される物質の存在量を推定することは、最も単純な様式では、測定された物質酸化量に基づいて、それに対応する、土壌中で微生物により酸化可能な物質の量がより多いか少ないか、またはより増えているか減っているかを推定することを含み得る。例えば、有機肥料等の施用を行っていない植物栽培状況下において、測定された物質酸化量の増減から根分泌有機物質の増減を推定することができる。あるいは、例えば土壌中に含まれる特定のイオン、化合物、またはそれらの組合せが微生物による酸化の主要な基質であるという推定または知見がある状況では、測定された物質酸化量から土壌中の当該イオン、化合物、またはそれらの組合せの存在量を推定することも可能となる。
【0039】
実施形態の、物質酸化量から、前記土壌中の前記物質の存在量を推定することは、物質酸化量と前記物質の存在量との関係を示す任意のモデルを用いて行われてもよい。このようなモデルは、例えば機械学習モデルであってもよい。より具体的には、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、一般線形モデル、正則化線形判別分析、正則化ロジスティック回帰、ラッソ(least absolute shrinkage and selection operator)回帰などのモデルを用いることができる。前記モデルの構築には、機械学習モデルまたはその他のモデルの構築に用いるアルゴリズムとして公知のものを利用することができる。構築したモデルのなかから、検証用のデータをモデルに入力して出力される値が実測値と最も適合するモデルを選抜し、最適なモデルとして用いることができる。このようなモデルの構築は、あらかじめ取得された物質酸化量と、土壌中の前記物質の存在量のデータを用いて、当業者によって知られた方法で行われる。前記物質の存在量のデータは、例えば当業者によって知られたメタボローム解析の手法を用いて得ることができる
【0040】
本開示の微生物燃料電池用の電極、微生物燃料電池システム、および土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法を用いることで、安価に土壌有機物量の変化をモニタリングすることができる。本開示のチューブ形状電極を用いることで、畑のような土壌環境においても安定してモニタリングができる。
【0041】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0042】
<付記>
本開示は以下の実施形態を含む。
(付記1)
微生物燃料電池用の電極であって、
前記電極はチューブ形状であり、
前記電極の内部は両端部の少なくとも一方において大気と連通している
電極。
(付記2)
前記チューブ形状が、円筒形である、付記1に記載の電極。
(付記3)
前記電極が、カソードである、付記1または2に記載の電極。
(付記4)
(a)電圧測定部および/または電流測定部と、
(b)前記(a)に電気的に接続されたアノードと、
(c)前記(a)に電気的に接続された付記1~3のいずれか一項に記載の電極と
を含む、微生物燃料電池システム。
(付記5)
前記アノードの少なくとも一部、および、前記チューブ形状の電極の少なくとも先端部が、土壌に包埋されており、前記電極の内部は、前記チューブ形状の電極の末端部から前記先端部まで大気を到達させる土壌フリー領域を含む、付記4に記載のシステム。
(付記6)
付記4または5に記載のシステムを用いて、電圧および/または電流を測定することを含む、土壌中微生物による物質酸化量を測定する方法。
(付記7)
測定された前記物質酸化量から、前記土壌中の前記物質の存在量を推定することをさらに含む、付記6に記載の方法。
【符号の説明】
【0043】
1 微生物燃料電池用電極(カソード)
2 アノード
3 電圧測定部
4 抵抗器
5 土壌
6 導線
15 土壌フリー領域