(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093819
(43)【公開日】2025-06-24
(54)【発明の名称】環境試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20250617BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209715
(22)【出願日】2023-12-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和4年度、経済産業省「令和4年度国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 逸人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信
(72)【発明者】
【氏名】堀田 武夫
(72)【発明者】
【氏名】青山 千春
(72)【発明者】
【氏名】天満 則夫
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA02
2G050BA02
2G050CA01
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB07
(57)【要約】
【課題】海底環境を模擬した低温高圧環境において試験サンプルをメタン溶存水に長期間にわたって暴露する経年劣化試験を行うことができる環境試験装置を提供する。
【解決手段】実施形態の環境試験装置100は、メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境において試験サンプルをメタン溶存水に暴露する経年劣化試験を行うための環境試験装置であって、内部に試験サンプルが収納され、前記海底環境に合わせた温度および圧力のメタン溶存水が前記試験サンプルを通って流れる耐圧容器110と、耐圧容器110を前記温度に冷却し維持する冷却部120と、耐圧容器110の流出口110bから流出したメタン溶存水を加圧し、耐圧容器110の流入口110aに向けて送出する加圧循環部130とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境において試験サンプルをメタン溶存水に暴露する経年劣化試験を行うための環境試験装置であって、
内部に試験サンプルが収納され、前記海底環境に合わせた温度および圧力のメタン溶存水が前記試験サンプルを通って流れる耐圧容器と、
前記耐圧容器を前記温度に冷却し維持する冷却部と、
前記耐圧容器の流出口から流出したメタン溶存水を加圧し、前記耐圧容器の流入口に向けて送出する加圧循環部と、
を備える環境試験装置。
【請求項2】
前記耐圧容器は、筒状の耐圧容器であり、前記筒状の耐圧容器の一端に前記流入口が設けられ、前記筒状の耐圧容器の他端に前記流出口が設けられている、請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
前記試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材であり、前記膜材は支持治具を用いて隙間が空くように巻かれた状態で前記耐圧容器に収納される、請求項2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
前記冷却部は、冷媒が貯留され、前記冷媒中に前記耐圧容器が配置される冷却槽と、前記冷却槽の開口を閉塞する蓋と、前記冷却槽に接続され、前記冷媒を前記温度に制御し循環させるチラーとを備える、請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項5】
前記加圧循環部は、水タンクから水を汲み上げ所定の圧力に加圧し、前記耐圧容器に送出する加圧ポンプと、前記加圧ポンプと前記耐圧容器を接続する配管とを備える、請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記加圧循環部の配管に接続され、前記配管内にメタンガスを供給するメタンガス供給部をさらに備える、請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項7】
前記メタンガス供給部は、メタンガスが充填されたカートリッジと、水とメタンガスを混合状態に貯留し、メタンガスを純水に溶解させる耐圧容器とを含む、請求項6に記載の環境試験装置。
【請求項8】
前記耐圧容器が複数設けられている、請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項9】
前記試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材、または、前記膜材の表面を被覆する金属もしくは膜構造物の骨格を構成する金属の金属片である、請求項1に記載の環境試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験装置、より詳しくは、メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境において、メタンガス等の捕集に用いられる捕集膜および/または掘削時等の汚濁拡散を防ぐ汚濁防止膜等を構成する試験サンプルをメタン溶存水に暴露する経年劣化試験を行うための環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海域に存在するメタンハイドレートは、海底面下の砂質堆積層内に存在する砂層型メタンハイドレートと、海底面および浅部の泥層内に存在する表層型メタンハイドレートに大きく分類される。
【0003】
環境負荷が少ない、表層型メタンハイドレートの回収技術が求められている。たとえば、環境負荷を少なくしつつ、メタンハイドレートやメタンガスを回収するために、捕集膜・汚濁防止膜を含む膜構造物を利用する技術の開発が進められている。
【0004】
上記技術を確立するためには、捕集膜および/または汚濁防止膜を構成する膜材等の耐久性を予め模擬的に検証しておくことが必要である。具体的には、メタンハイドレートが賦存する低温高圧環境において捕集膜や汚濁防止膜が長期間暴露された場合における捕集膜や汚濁防止膜の経年劣化を評価する必要がある。なお、陸上の大気環境においては、経年劣化の主要因が紫外線によるのに対して、深海環境においては紫外線の影響はほとんど皆無である。また、膜材に対する海水の影響については、浅海域で用いられる膜材の知見を用いることが可能である。
【0005】
なお、特許文献1には、ガスハイドレートの物性試験等を行う加圧試験装置が記載され、特許文献2には、メタンハイドレートを含む海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート混合模擬地盤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-10400号公報
【特許文献2】特開2020-90842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メタンハイドレートが賦存する海底領域においてはメタン溶存水が存在するが、このメタン溶存水の膜材に対する影響については知見が乏しい。
【0008】
したがって、膜材がメタン溶存水に長期間暴露された場合における膜材の経年劣化を試験により検証することが求められる。
【0009】
本発明は、上記認識に基づいてなされたものであり、海底環境を模擬した低温高圧環境において試験サンプルをメタン溶存水に長期間にわたって暴露する経年劣化試験を行うことができる環境試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る環境試験装置は、
メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境において試験サンプルをメタン溶存水に暴露する経年劣化試験を行うための環境試験装置であって、
内部に試験サンプルが収納され、前記海底環境に合わせた温度および圧力のメタン溶存水が前記試験サンプルを通って流れる耐圧容器と、
前記耐圧容器を前記温度に冷却し維持する冷却部と、
前記耐圧容器の流出口から流出したメタン溶存水を加圧し、前記耐圧容器の流入口に向けて送出する加圧循環部と、を備える。
【0011】
また、前記環境試験装置において、
前記耐圧容器は、筒状の耐圧容器であり、前記筒状の耐圧容器の一端に前記流入口が設けられ、前記筒状の耐圧容器の他端に前記流出口が設けられているようにしてもよい。
【0012】
また、前記環境試験装置において、
前記試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材であり、前記膜材は支持治具を用いて隙間が空くように巻かれた状態で前記耐圧容器に収納されるようにしてもよい。
【0013】
また、前記環境試験装置において、
前記冷却部は、冷媒が貯留され、前記冷媒中に前記耐圧容器が配置される冷却槽と、前記冷却槽の開口を閉塞する蓋と、前記冷却槽に接続され、前記冷媒を前記温度に制御し循環させるチラーとを備えてもよい。
【0014】
また、前記環境試験装置において、
前記加圧循環部は、水タンクから水を汲み上げ所定の圧力に加圧し、前記耐圧容器に送出する加圧ポンプと、前記加圧ポンプと前記耐圧容器を接続する配管とを備えてもよい。
【0015】
また、前記環境試験装置において、
前記加圧循環部の配管に接続され、前記配管内にメタンガスを供給するメタンガス供給部をさらに備えてもよい。
【0016】
また、前記環境試験装置において、
前記メタンガス供給部は、メタンガスが充填されたカートリッジと、水とメタンガスを混合状態に貯留し、メタンガスを純水に溶解させる耐圧容器とを含んでもよい。
【0017】
また、前記環境試験装置において、
前記耐圧容器が複数設けられるようにしてもよい。
【0018】
また、前記環境試験装置において、
前記試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材、または、前記膜材の表面を被覆する金属もしくは膜構造物の骨格を構成する金属の金属片であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海底環境を模擬した低温高圧環境において試験サンプルをメタン溶存水に長期間にわたって暴露する経年劣化試験を行うことができる環境試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る環境試験装置の概略的な構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る環境試験装置の耐圧容器の上部の詳細構成を示す断面図である。
【
図3】(a)、(b)は実施形態に係る環境試験装置に用いられる支持金網の構成を示す図である。
【
図4】(a)、(b)、(c)は試験サンプルである膜材を支持金網とともに巻いて環境試験装置の耐圧容器に収納することを説明するための図である。
【
図5】実施形態に係る可視化装置の概略的な構成を示す図である。
【
図6】実施形態に係る可視化装置の姿勢制御機構を説明するための図である。
【
図7】実施形態に係る可視化装置のメタンガス供給部の詳細構成を示す図である。
【
図8】実施形態に係る可視化装置により撮影(透過光撮影)された画像であり、サンプル膜の表面に付着したメタンガス粒状体を捉えた画像の一例である。
【
図9】実施形態に係る可視化装置により撮影(透過光撮影)された画像であり、サンプル膜の表面に付着したメタンガス気泡を捉えた画像の一例である。
【
図10】実施形態に係る可視化装置により撮影(反射光撮影)された画像であり、サンプル膜の表面に付着したメタンガス粒状体を捉えた画像の一例である。
【
図11A】実施形態に係る可視化装置により撮影(反射光撮影)された動画であり、傾斜のあるサンプル膜の表面を上昇し、その後サンプル膜に固定されるメタンガス粒状体を捉えた動画の一例である。
【
図11B】
図11Aに続く、実施形態に係る可視化装置により撮影された動画の一例である。
【
図12】実施形態に係る環境試験装置および可視化装置を備える試験システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
<環境試験装置>
実施形態に係る環境試験装置100について、
図1および
図2を参照して説明する。環境試験装置100は、メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境(低温高圧のメタン溶存水の環境)に試験サンプルを暴露して経年劣化試験を行うための装置である。
【0023】
後述のように、環境試験装置100は、試験サンプルを長期間(たとえば半年~1年程度)にわたって低温高圧のメタン溶存水にさらすことができるように構成されている。ここで、試験サンプルは、海底から湧出したり、掘削時に浮上するメタンガス気泡や、表面にハイドレート膜が生じたメタンガス粒状体、及びメタンハイドレートの固体等を捕集したり、掘削時の汚濁拡散を防止するために用いられる材料である。具体的には、試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材、または、膜材の表面を被覆する金属もしくは膜構造物の骨格を構成する金属の金属片である。
【0024】
本実施形態において試験サンプルは、捕集膜および/または汚濁防止膜に使用される膜材(サンプル膜)である。なお、試験サンプルは、膜構造物を構成する他の部材であってもよく、たとえば、膜材の表面を被覆する金属(チタン等)の金属片、捕集膜および/または汚濁防止膜を支持する支持部材(骨格部材)等であってもよい。
【0025】
環境試験装置100は、
図1に示すように、耐圧容器110と、冷却部120と、加圧循環部130と、メタンガス供給部140と、水タンク150とを備えている。なお、本願において、耐圧容器110は「環境セル」とも称される。
【0026】
耐圧容器110は、その内部に試験サンプルである膜材MBが収納され、海底環境に合わせた温度および圧力(たとえば0.5℃、6MPa)のメタン溶存水MWが試験サンプルの膜材MBを通って流れるように構成されている。膜材MBは、海底から湧出したり、掘削時に浮上するメタンガス気泡や、表面にハイドレート膜が生じたメタンガス粒状体、メタンハイドレート固体を捕集するための捕集膜、および/または、掘削時の汚濁拡散を防止する汚濁防止膜を構成する膜材である。耐圧容器110は、いわゆる恒温恒圧槽として機能することが可能である。
【0027】
耐圧容器110には流入口110aと流出口110bが設けられており、低温高圧のメタン溶存水MWが流入口110aから流出口110bに向かって流れる。なお、詳しくは後述するが、膜材MBは支持治具SJを用いて隙間が空くように巻かれた状態で耐圧容器110に収納される。
【0028】
本実施形態において耐圧容器110は筒状の耐圧容器であり、低温高圧(たとえば、0℃、20MPa)に耐えうる構造を有する。耐圧容器110の一端(ここでは下端)には流入口110aが設けられ、耐圧容器110の他端(ここでは上端)には流出口110bが設けられている。なお、反対に、筒状の耐圧容器110の上端に流入口110aが設けられ、下端に流出口110bが設けられてもよい。また、耐圧容器110の形状は筒状に限定されず、たとえば、直方体状、角柱状、球状等であってもよい。
【0029】
図2は耐圧容器110の上部の詳細構成を示す断面図である。
図2に示すように、本実施形態の耐圧容器110は、上部が開口した筒状の本体111と、流出口110bが設けられ、配管132が接続された蓋112と、本体111に蓋112を固定するための蓋押さえ輪113とを有する。本体111の下端には流入口110aが設けられ、本体111の上部の外周面にはネジが形成されている。蓋112は、本体111の開口に嵌合して当該開口を閉塞する。蓋112の周面に設けられた溝にはOリング114が配置されており、このOリング114により気密性・液密性が確保される。蓋押さえ輪113は、リング状の部材であり、下部の内周面にネジが形成されている。蓋押さえ輪113が本体111と螺合することにより蓋112は本体111側に押さえ付けられ、固定される。
【0030】
冷却部120は、耐圧容器110を海底環境に合わせた温度(たとえば0.5℃)に冷却し維持(保温)するように構成されている。これにより、耐圧容器110内を流れるメタン溶存水MWは、メタンハイドレートが賦存する海底環境に合わせた温度に冷却される。なお、冷却部120は、耐圧容器110(内部のメタン溶存水)の温度をある範囲(たとえば0℃~5℃)内で変更できるように構成されてもよい。
【0031】
本実施形態において冷却部120は、冷却槽121と、蓋122と、チラー123とを備えている。冷却槽121には、冷媒RFが貯留され、当該冷媒RF中に耐圧容器110が配置される。蓋122は、冷却槽121の開口を閉塞する。チラー123は、内部に冷媒RFが流通する配管を介して冷却槽121に接続され、冷媒RFを上記温度に制御し循環させる。
【0032】
加圧循環部130は、耐圧容器110の流出口110bから流出したメタン溶存水MWを加圧し、耐圧容器110の流入口110aに向けて送出するように構成されている。試験時の圧力は、たとえば10MPa(水深約1000m相当)に設定される。
【0033】
加圧循環部130は、加圧ポンプ131と、配管132とを有する。加圧ポンプ131は、水タンク150から水を汲み上げ所定の圧力に加圧し、耐圧容器110に送出する。配管132は耐圧容器110と加圧ポンプ131を接続する配管であり、その内部にメタン溶存水MWが流通する。なお、加圧循環部130は、後述する試験システム1000のように、シリンジポンプにより構成されてもよい。
【0034】
配管132は、たとえば高圧フレキシブル配管で構成される。なお、メタン溶存水の温度、圧力をモニタするために、配管132に温度トランスミッタ、圧力トランスミッタが設けられてもよい。
【0035】
メタンガス供給部140は、配管132に接続され、配管132内にメタンガスを供給する。このメタンガス供給部140は、メタンガスが充填されたカートリッジと、水とメタンガスを混合状態に貯留する混合セルとを含む。本実施形態では、カートリッジとして、大型のボンベではなく、小型のカートリッジ(たとえば容量50mL)を用いることで、実験でメタンガスを扱う際の種々の規制(高圧ガスの取り扱い規則や消防規則)に抵触しないようにされている。混合セルは、水とメタンガスを混合状態に貯留し、メタンガスを純水に溶解させるための耐圧容器である。
【0036】
水タンク150は、水(本実施形態では純水)が貯留された槽であり、配管132に接続されている。水タンク150の水は加圧ポンプ131により汲み上げられる。
【0037】
環境試験装置100は、複数の環境セル(耐圧容器110)を備えてもよい。この場合、複数の環境セルは加圧ポンプ131に対して並列に設けられ、各環境セルはそれぞれ独立して加圧循環部130から着脱可能に構成される。これにより、複数の試験サンプルを同時に試験することができる。また、任意の試験サンプルを任意の時間に設置および取り外しができる。
【0038】
上記のように複数の環境セルが設置される場合、環境試験装置100は、系全体の圧力と温度を保持したまま、複数の環境セルのうち任意の環境セルを設置または取り外しするためのバルブパネルを備えてもよい。このバブルパネルは、複数のバルブが設けられており、取り外し時には取り外し対象の環境セルに接続するバルブを閉じて環境セル内の減圧を行い、設置時には設置対象の環境セルに接続するバルブを開いて環境セル内を加圧することが可能であるように構成されている。
【0039】
次に、
図3を参照して試験サンプルの膜材MBを支持する支持治具SJについて説明した後、
図4を参照して膜材の収納方法について説明する。
【0040】
本実施形態において、支持治具SJは、
図3(a)および
図3(b)に示すように、細い針金を成形して得られる複数の素線eを連結してネット状に構成された支持金網であり、厚みdを有する。厚みdは、素線eの凸部の高さである。支持金網が厚みdを有することにより、巻かれた状態で環境セルに収納された膜材MBの間隔が確保される。
【0041】
図4(a)に示すように、支持治具SJの上に膜材MBを載置する。その後、
図4(b)に示すように、支持治具SJと一緒に膜材MBを巻く。支持治具SJは厚みdを有するため、巻かれた膜材MBは離間した状態で支持治具SJに支持される。その後、
図4(c)に示すように、支持治具SJおよび膜材MBを本体111内に収納する。
【0042】
環境試験においては、サンプル膜(膜材)がメタンガス溶存水に常時触れている必要があり、また、サンプル膜に触れるメタンガス溶存水が新しく入れ替わるようにメタン溶存水がサンプル膜を通って流れる必要がある。上記の収納形態および収納方法によれば、サンプル膜を平滑な状態に保持し、かつサンプル膜が互いに密着しないようにすることができる。これにより、長期間にわたる環境試験の間、環境セル内で膜材を保持しつつ、メタンガス溶存水が常時循環できるように膜材間の間隔を確保することができる。また、膜材MBは巻かれた状態で耐圧容器110に収納されるので、耐圧容器110の小型化を図ることもできる。
【0043】
(環境試験装置の作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る環境試験装置100は、内部に試験サンプルが収納され、海底環境に合わせた温度および圧力のメタン溶存水が試験サンプルを通って流れる耐圧容器110と、耐圧容器110を海底環境の温度に冷却し維持する冷却部120と、耐圧容器110の流出口110bから流出したメタン溶存水MWを加圧し、耐圧容器110の流入口110aに向けて送出する加圧循環部130とを備える。
【0044】
これにより、本実施形態の環境試験装置によれば、メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した環境(低温高圧環境)において、メタンガスの捕集および/または汚濁防止等に用いられる試験サンプル(本実施形態では膜材MB)をメタン溶存水に長期間にわたって暴露する経年劣化試験を行うことができる。たとえば、経年劣化試験後に環境セルから回収された膜材MBについて、引張試験、精密厚さ測定、顕微鏡観察、重量計測などを行うことによって、膜材MBの経年劣化の程度や劣化傾向を評価することができる。その結果、膜材の選定や膜構造物の設計に資する知見を得ることができる。
【0045】
このように本実施形態によれば、メタンハイドレート賦存域と同等の水温と圧力を保持し続けながら、膜材の表面をメタン溶存水が滞ることなく循環し続ける環境を長期間にわたり維持できる環境試験装置が実現される。
【0046】
<可視化装置>
図5~
図7を参照して、本実施形態に係る可視化装置200について説明する。可視化装置200は、メタン気泡および粒状体の挙動を可視化するための装置である。ここで、「粒状体」は、メタン気泡の表面にメタンハイドレート膜が生じたものをいう。本願では、メタン気泡と粒状体を総称して「生成泡」と呼ぶ。可視化装置200により、たとえば、生成泡が膜に捕集される現象が適切に把握される。また、可視化装置200は、掘削時に浮上し膜材に当たるメタンハイドレート固体を観察することも可能である。
【0047】
生成泡の「挙動」は、たとえば、生成泡の膜材MBへの衝突、生成泡の膜材MBの表面における移動(滑動等)、生成泡間の相互作用、生成泡の動的変化(粒状体からメタン気泡への気泡化、メタン気泡から粒状体への再ハイドレート化)などを指す。
【0048】
図5に示すように、可視化装置200は、耐圧容器210と、保持部220と、吐出部(ノズル)230と、均圧容器235と、水中照明部240と、水中撮影部250と、チラー260と、メタンガス供給部270と、加圧ポンプ280と、水タンク290とを備えている。
【0049】
耐圧容器210は、低温高圧(たとえば、0℃、20MPa)に耐えうる構造を有する耐圧容器である。耐圧容器210の内部は、メタンハイドレートが賦存する海底環境に温度および圧力を合わせた水(低温高圧の水)で満たされている。水中撮影部250による撮影を開始する前に、加圧ポンプ280が水タンク290から水(本実施形態では純水)を汲み上げ所定の圧力に加圧し、耐圧容器210に送出する。これにより、耐圧容器210内は所定の圧力(たとえば15MPa)になる。
【0050】
なお、加圧ポンプ280を制御することで、耐圧容器210内の水圧を実験毎の所定値(たとえば2MPa、3.3MPa、6MPa)に調整することが可能である。このように水圧を変化させた場合における生成泡の変化を観察することができる。
【0051】
また、実施形態において耐圧容器210内は純水で満たされているが、食塩水、海水等であってもよい。
【0052】
耐圧容器210は、本体(槽)211と、本体211の開口を閉塞する蓋212と、本体211を冷却する冷却ジャケット213とを備えている。冷却ジャケット213は、本体211を覆うように設けられ、チラー260に接続されている。チラー260から送出された冷媒が冷却ジャケット213の内部を循環することにより、冷却ジャケット213は耐圧容器210内の水を所定の温度(たとえば0.5℃)に冷却する。なお、チラー260を制御することにより、耐圧容器210内の水の温度をある範囲(たとえば0℃~5℃)内で変更可能である。
【0053】
保持部220は、耐圧容器210の内部に配置された膜材MBを保持(本実施形態では吊持)する。詳しくは、保持部220は、膜材MBが固定される固定部221と、固定部221に接続され、耐圧容器210を貫通する複数のロッド(昇降軸)222と、複数のロッド222を移動させることで固定部221の姿勢を制御する制御部223とを有する。ロッド222は耐圧容器210の蓋212を貫通する。詳しくは、蓋212の貫通孔の内周面にベアリングおよびパッキンが設けられており、ロッド222は貫通孔を気密かつ滑らかに昇降することが可能である。制御部223は、複数のサーボアクチュエータ224を有する。
【0054】
図6に示すように、本実施形態では、固定部221の3カ所にロッド222が接続され、各ロッド222は、対応するサーボアクチュエータ224により上下移動(昇降)するように制御される。各サーボアクチュエータ224はコンピュータ300に通信可能に接続されている。3本のロッド222の移動量を制御することにより、固定部221(すなわち、膜材MB)の三次元的な傾きや角度、垂直方向の位置などを変えることができる。
【0055】
なお、保持部220の構成は上記に限られない。たとえば、保持部220は、4本以上のロッド222により固定部221の姿勢を制御するように構成されることで姿勢制御の範囲が拡大されてもよい。あるいは、保持部220は、蓋212を貫通するロッド222を用いずに構成されてもよい。この場合、保持部220は、たとえば、耐圧容器210内に配置された水中アクチュエータによって固定部221の姿勢制御を行うように構成される。
【0056】
吐出部230は、耐圧容器210の内部に配置され、膜材MBの下方に位置する。吐出部230は、メタンガス供給部270に接続されており、メタン気泡を吐出する。一つ一つの生成泡の挙動を観察できるように、吐出部230はメタンガスを少量ずつ放出することが可能なように構成されている。
【0057】
均圧容器235は、耐圧容器210の内部に配置されている。均圧容器235は、可視化セルまたは観察セルとも称される。均圧容器235の底面には貫通孔THが設けられており、耐圧容器210と均圧の状態に保たれる。底面に貫通孔THが設けられることで、均圧容器235内の水が均圧容器235の外部に排出され易くなる。なお、貫通孔THは、均圧容器235の側面に設けられてもよい。
【0058】
本実施形態では、均圧容器235は、耐圧容器210の蓋212の裏面に固定されている。また、吐出部230は均圧容器235の底面に固定され、水中照明部240は均圧容器235の側面に固定されている。
【0059】
均圧容器235は、たとえば、透明材料からなる複数の側面(観察用窓)を有する多角柱状(四角柱、六角柱など)に構成されている。この場合、水中照明部240は均圧容器235の第1側面に固定され、水中撮影部250は、第1側面と平行な位置にある第2側面に対向するように設けられる。
【0060】
水中照明部240は、耐圧容器210の内部に配置され、耐圧容器210の内部を照らす。水中照明部240は、たとえば、LED等の発光素子を用いた面発光型の光源を有する。
図5に示すように、水中照明部240は、膜材MBを挟んで水中撮影部250と対向するように配置されている(透過照明)。これにより、透過光撮影が可能となる。
【0061】
なお、水中照明部240は、水中撮影部250と同じ側に配置されてもよい(反射照明)。この場合、水中照明部240から発せられた光は耐圧容器210の内壁により反射し、耐圧容器210内を照らすことで、反射光撮影が可能となる。
【0062】
水中撮影部250は、耐圧容器210の内部に配置されており、生成泡を撮影する。詳しくは、水中撮影部250は、吐出部230から吐出されたメタン気泡、およびメタン気泡の表面にハイドレート膜が生じた粒状体を撮影する。たとえば、水中撮影部250は、生成泡の膜材MBの表面における挙動を撮影する。水中撮影部250は水中カメラを含み、この水中カメラは、ミクロ撮影用カメラ、マクロ撮影用カメラ、動画を撮影可能なハイスピードカメラであってよい。また、水中カメラは、撮影データを記録可能なレコーディングカメラであってもよい。
【0063】
なお、水中撮影部250は、複数の水中カメラを含んでもよい。たとえば、水中撮影部250はミクロ撮影用カメラおよびマクロ撮影用カメラを含む。これにより、ミクロの視点とマクロの視点の両方から生成泡を観察することができる。
【0064】
また、水中カメラは、テレセントリックレンズを有するカメラ(テレセントリックカメラ)であってもよい。テレセントリックレンズは、焦点深度内であれば像の膨張・収縮がなく、視差による画像の歪が少なく、また、同軸照明と併用した場合に対象物の明るさのムラが少ないという特徴を有する。このため、耐圧容器210内の生成泡の観察に適している。
【0065】
ただし、テレセントリックカメラを使用しても、光が水中カメラに対して平行にあたらなければ生成泡に陰影が生じてしまう。そのため、観察セル(均圧容器235)は、観察用窓として平面構造を有する(対面が並行となる多角柱構造が好ましい)。この場合、テレセントリックカメラが設けられる面と、水中カメラが設けられる面が対向するようにする。これにより、水中照明部240の照明が水中照明部240に正面から平行に光が当たるようになり、水中撮影部250によって撮影される生成泡の陰影を低減することができる。
【0066】
水中撮影部250は、耐圧容器210の外部にあるコンピュータ300に通信接続され、撮影データをコンピュータ300に送信する。これにより、生成泡の挙動をリアルタイムで観測することができる。なお、ハイスピードカメラの場合は撮影データを転送するために大容量かつ高速なインターフェースおよび記録システムを必要とする。可視化装置200のコストを低減するために、観察終了後に撮影データをコンピュータ300に標準的なインターフェースによる転送速度で(時間をかけて)送信するようにしてもよい。
【0067】
また、水中撮影部250の設置による耐圧容器210の径の増加を抑制するために、水中撮影部250は反射プリズムによって光学経路を90度折り曲げた縦長形状のものとしてもよい。
【0068】
メタンガス供給部270は、吐出部230がメタン気泡を吐出できるように、少量のメタンガスを吐出部に供給する。
図7に示すように、本実施形態においてメタンガス供給部270は、メタンガスカートリッジ271と、バルブ272と、ガスヘッダー273と、シリンジポンプ274と、水タンク275と、バルブ276,277,278,279とを有する。
【0069】
メタンガスカートリッジ271は、メタンガスが充填された小型のカートリッジ(たとえば容量50mL)である。可視化装置200では可燃性のメタンガスを高圧で扱うため、高圧ガスの取り扱い規則と消防規則の規制対象となる。本実施形態では小型カートリッジによりメタンガスを供給することで、実験装置で使用する際の種々の規制に抵触しないようにしている。
【0070】
メタンガス供給部270の動作について簡単に説明する。バルブ276を開け、バルブ277を閉じた後、シリンジポンプ274のピストンを下降させるリフィル動作(REFILL運転)を行う。これにより、水タンク275からシリンジポンプ274内に水(本実施形態では純水)が吸い込まれる。その後、バルブ276を閉じ、バルブ277、279を開けた後、シリンジポンプ274のピストンを上昇させるラン動作(RUN運転)を行う。これにより、シリンジポンプ274内の水がガスヘッダー273に送り込まれる。ガスヘッダー273内の空気がバルブ279を通じて外部に追い出され、ガスヘッダー273内は水で満たされる。
【0071】
その後、バルブ279を閉じ、バルブ272を開け、シリンジポンプ274をリフィル動作させる。これにより、ガスヘッダー273内の水がシリンジポンプ274内に吸入され、ガスヘッダー273にメタンガスが吸入される。その結果、ガスヘッダー273内のメタンガスが所要の圧力(たとえば耐圧容器210内の圧力近辺の圧力)になる。
【0072】
その後、バルブ272を閉じ、シリンジポンプ274をラン動作させる。これにより、シリンジポンプ274内の水がガスヘッダー273に送り込まれ、所定の圧力(泡出し圧力。耐圧容器210内の圧力よりも若干高い圧力)まで加圧される。その後、バルブ278を開け、シリンジポンプ274をゆっくりと(泡送出速度で)ラン動作させることにより、吐出部230からメタン気泡を放出させる。たとえば泡送出速度を3ml/分としたとき、1秒に1粒の割合でメタン気泡が吐出部230から吐出される。
【0073】
以上、本実施形態に係る可視化装置200について説明した。可視化装置200において均圧容器235は省略することが可能である。この場合、吐出部230および水中照明部240は、本体211または蓋212に固定されてもよい。あるいは、吐出部230は本体211に固定され、水中照明部240は蓋212に固定されてもよい。
【0074】
(可視化装置の作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る可視化装置200は、メタン気泡や粒状体の挙動を可視化するための可視化装置であって、メタンハイドレートが賦存する海底環境に温度および圧力を合わせた水で満たされた耐圧容器210と、耐圧容器210の内部に配置された膜材を保持する保持部220と、耐圧容器210の内部に配置され、膜材MBの下方に位置し、メタン気泡を吐出する吐出部230と、耐圧容器210の内部に配置され、耐圧容器210の内部を照らす水中照明部240と、耐圧容器210の内部に配置され、吐出部230から吐出された生成泡を撮影する水中撮影部250とを備える。
【0075】
可視化装置200では、耐圧容器210内において低温高圧の水中にメタン気泡を発生させる。メタン気泡は静水中を自らの浮力で上昇し、膜材MBに衝突する。環境条件(温度、圧力)に応じてメタン気泡はその表面にハイドレート膜が形成された粒状体に変化する。メタン気泡や粒状体は水中撮影部250により撮影される。
【0076】
本実施形態によれば、メタンハイドレートが賦存する海底環境を模擬した低温高圧の水中における生成泡の挙動を観察することができる。たとえば、生成泡が膜材の表面や他の構造物に衝突する際の挙動、静的・動的接触角、粒状体の相互作用等を把握することができる。
【0077】
その結果、メタン気泡、メタンハイドレート膜を有する粒状体が膜材に捕集される現象を適切に把握することができ、捕集膜や汚濁防止膜の設計に資する知見を得ることが可能となる。
【0078】
なお、可視化セルを大気圧下に設置しようとする場合、全周を光学的に透明度の高い材料で構成すると、ぶ厚いアクリル等の透明素材で可視化セルを構成する必要があり、実現は容易でなく、可視化セル内部の撮影も困難となる。冷却温度の保持方法にも課題がある。そこで、本発明者らは発想を変えて、可視化セル全体を純水中に設置し、光学式カメラや照明装置を耐水・耐圧型の水中仕様のものとして、純水中から観察する構成とした。これにより、可視化セルの構造を極めて軽量で簡素なものとすることができ、かつ複数の視点から生成泡を観察し、照明を当てることも可能な可視化装置を実現した。
【0079】
以下、
図8~
図11Bを参照して、可視化装置200によって実際に撮影された画像を説明する。
【0080】
図8は、膜材MBに付着した複数の粒状体を透過光撮影により撮影した画像である。
図9は、膜材MBに付着した複数のメタン気泡を透過光撮影により撮影した画像である。
図10は、膜材MBに付着した複数の粒状体を反射光撮影により撮影した画像である。
図8および
図10では、気泡の表面にすりガラス状の領域が観察されることから、ハイドレート膜が形成されていることが分かる。これらの画像を解析することで、生成泡と膜材MBとの接触角を算出することができる。接触角の算出には、接線法、Θ/2法、楕円フィッティング法、円フィッティング法などが用いられる。
【0081】
図11Aおよび
図11Bは、ハイスピードカメラにより10ms間隔で撮影された画像を示している。粒状体が水中を浮上した後、膜材に衝突、変形し(0ms~40ms)、その後、バウンドし、膜材表面を転がりながら移動していることが分かる(50ms~130ms)。その後、粒状体のハイドレート膜の後縁部が膜材にトラップされ(140ms)、引き留められた部分が伸ばされて気泡化してごく僅かしか滑動しなくなる(150ms~160ms)。粒状体の後半分以上が一旦気泡化し(170ms)、しばらく振動する(180ms)。その後、粒状体の表面が再びハイドレート化する(190ms)。このように可視化装置200によれば、膜材と粒状体の衝突、相互作用、動的変化を詳細に観測することができる。
【0082】
<試験システム>
次に、上述した環境試験装置100および可視化装置200を備える試験システム1000について、
図12を参照しつつ説明する。試験システム1000において、環境試験装置100および可視化装置200は、シリンジポンプにより構成された加圧ポンプを共用する。
【0083】
試験システム1000は、ボールバルブ1~11と、ニードルバルブ13、14、15と、圧力モニタ21、22、23、24と、温度モニタ31、32、33、34と、排水タンク60と、環境試験装置100と、可視化装置200と、加圧機構500と、を備えている。なお、排水タンク60は、排水から気化したメタンガスに引火する事態を考慮して実験室外に設けられる。
【0084】
ボールバルブ1~11は、エア駆動で遠隔制御可能なボールバルブである。このうちバルブ8は、三方バルブである。ニードルバルブ13、14、15は、微調整もしくはリリーフ用のニードルバルブである。通常状態においては環境試験装置100に加圧水が循環するため、ボールバルブ8は環境試験装置100側に開いている。可視化装置200による測定を実施するために耐圧容器210内を高圧の水で満たす際にのみ、ボールバルブ8を可視化装置200側に開く。
【0085】
ボールバルブ9、10、11は、それぞれニードルバルブ13、14、15と並列に接続されている。これら並列接続されたボールバルブとニードルバルブの組み合わせは、高圧の系から大気圧下への排水経路に設けられており、水を排水タンク60に排出する際に開かれる。
【0086】
圧力モニタ21、22、23および24は、圧力センサと、計測した圧力データをコンピュータ(図示せず)に送信する伝送器とを有する圧力トランスミッタである。圧力モニタ21は、環境試験装置100の耐圧容器110に流入するメタン溶存水の圧力を計測する。圧力モニタ22は、耐圧容器110から流出したメタン溶存水の圧力を計測する。圧力モニタ23は、可視化装置200の耐圧容器210内の水圧を計測する。圧力モニタ24は、可視化装置200の均圧容器235内の水圧を計測する。
【0087】
温度モニタ31、32、33および34は、温度センサと、計測した温度データをコンピュータに送信する伝送器とを有する温度トランスミッタである。温度モニタ31は、環境試験装置100の冷却部120の冷媒の温度を計測する。温度モニタ32は、耐圧容器110から流出したメタン溶存水の温度を計測する。温度モニタ33は、可視化装置200の耐圧容器210内の温度を計測する。温度モニタ34は、可視化装置200の均圧容器235内の温度を計測する。
【0088】
加圧機構500は、ボールバルブ1~7と、シリンジポンプ41、42と、水タンク50とを有する。加圧機構500は、2つのシリンジポンプ41、42を交互に動作させることにより、水タンク50から汲み上げた水(本実施形態では純水)を加圧し、三方バルブのバルブ8を介して環境試験装置100または可視化装置200に送出するように構成されている。
【0089】
環境試験から可視化試験へ移行する際の動作を説明する。
【0090】
まず、循環動作を行っているシリンジポンプ41、42を停止し、バルブ1~6を閉じる。次に、バルブ7を閉じ、排出用のバルブ9を開く。シリンジポンプとその周辺の配管内はメタン溶存水で満たされているので、これを全て排出して純水に置き換える。具体的には、バルブ1とバルブ2を開け、シリンジポンプ41、42のピストンを上昇させる。ピストンが上死点まで到達したら、バルブ1とバルブ2を閉じ、バルブ3とバルブ4を開けてピストンを下降させる。これにより、水タンク50から純水がシリンジポンプ41、42に供給される。ピストンが下死点に到達したら、バルブ3とバルブ4を閉じ、再びバルブ1とバルブ2を開け、シリンジポンプ41、42のピストンを上昇させる。
【0091】
上記の動作を繰り返すことにより、バルブ7までの配管内にあるメタン溶存水を純水に置き換える。純水への置き換えが完了した後、バルブ9を閉じる。その後、バルブ8の三方バルブを可視化装置200側へ切り替える。この際、バルブ8の環境試験装置100側のポートと、バルブ5とバルブ6の環境試験装置100側は高圧のまま保たれる。
【0092】
可視化試験の終了後、環境試験用の循環動作を再開させる際には、バルブ5、6からバルブ7までの加圧機構500における配管系統内の圧力が環境試験装置100側の圧力と一致するまで上昇させ、その後、バルブ8の三方バルブを環境試験装置100側へ切り替える。
【0093】
可視化装置200による試験(可視化試験)を行う際の動作について説明する。
【0094】
可視化試験では、高圧タンクである耐圧容器210内の圧力を加圧、減圧または保持するために、シリンジポンプ41、42と、バルブ1~4が使用される。実験開始時には多量の純水を耐圧容器210に送り込む必要があるため、シリンジポンプ41、42を片側が送水であればもう一方は吸水になるように動作させる。この時、バルブ1が開であれば、バルブ2とバルブ3番は閉、バルブ4は開とし、シリンジポンプ41のピストンを上昇、シリンジポンプ42のピストンを下降させる。シリンジポンプ41、42のピストンがそれぞれ上死点および下死点に到達したら、一旦全てのバルブを閉じる。そして、今度はバルブ2とバルブ3を開、バルブ1とバルブ4を閉とし、シリンジポンプ41のピストンを下降させ、シリンジポンプ42のピストンを上昇させる。このような動作を繰り返すことで、可視化装置200の圧力上昇時や下降時には、ほぼ途切れのない圧力の上昇または下降が可能である。
【0095】
環境試験装置100による試験(環境試験)を行う際の動作について説明する。
【0096】
試験開始時のバルブとシリンジポンプの給水・加圧動作は、バルブ8の向き以外は可視化試験の場合と同様である。圧力が試験の設定値まで上昇した後、その圧力を保持したまま循環動作へ移行する。循環動作ではバルブ1、2、5および6と、シリンジポンプ41、42を使用する。バルブ1とバルブ6を開、バルブ2とバルブ5を閉とし、シリンジポンプ41のピストンを上昇させ、シリンジポンプ42のピストンを下降させる。なお、この際、系全体の圧力を保持するために、シリンジポンプ41が送水する際に精密に同じ流量でシリンジポンプ42が吸水しなければならない。
【0097】
シリンジポンプ41および42のピストンがそれぞれ上死点および下死点に到達した後、バルブを一旦全て閉じる。そして、今度はバルブ2とバルブ5を開、バルブ1とバルブ6を閉とし、シリンジポンプ42のピストンを上昇させ、シリンジポンプ41のピストンを下降させる。
【0098】
上記動作を繰り返すことで環境試験装置100の循環動作が行われる。
【0099】
なお、系全体の圧力が設定圧力から外れた場合には、バルブ5とバルブ6を閉じ、バルブ1からバルブ4までを使って、給水・加圧または排水・減圧を行う。また、環境セルを取り外す場合は、前述のように、バルブパネルに配されたバルブを用いて、対象の環境セルに接続されたバルブを閉めて減圧してから取り外しを行う。他方、環境セルを設置する場合は、対象の環境セルを冷却部120に設置した後、バルブパネルに配されたバルブを用いて、対象の環境セルに接続されたバルブを開いて加圧を開始する。環境セルを設置する際には系の圧力が一時的にわずかに低下するので、加圧動作を実施してもよい。
【0100】
上記の試験システム1000によれば、加圧動作をシリンジポンプにより実現するとともに、環境試験装置100と可視化装置200でシリンジポンプを共用することでコストを抑えた試験システムを実現することができる。
【0101】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1、2、3、4、5、6、7、8,9、10、11 ボールバルブ
13、14、15 ニードルバルブ
21、22、23、24 圧力モニタ
31、32、33、34 温度モニタ
41、42 シリンジポンプ
50 水タンク
60 排水タンク
100 環境試験装置
110 耐圧容器(環境セル)
110a 流入口
110b 流出口
111 本体
112 蓋
113 蓋押さえ輪
114 Oリング
120 冷却部
121 冷却槽
122 蓋
123 チラー
130 加圧循環部
131 加圧ポンプ
132 配管
140 メタンガス供給部(混合セル)
150 水タンク
200 可視化装置
210 耐圧容器
211 本体
212 蓋
213 冷却ジャケット
220 保持部
221 固定部
222 ロッド
223 制御部
224 サーボアクチュエータ
230 吐出部
235 均圧容器
240 水中照明部
250 水中撮影部
260 チラー
270 メタンガス供給部
271 メタンガスカートリッジ
272 バルブ
273 ガスヘッダー
274 シリンジポンプ
275 水タンク
276,277,278,279 バルブ
280 加圧ポンプ
290 水タンク
300 コンピュータ
500 加圧機構
1000 システム
d 厚み
e 素線
G 生成泡
MB 膜材
MW メタン溶存水
RF 冷媒
SJ 支持治具
TH (均圧容器の)貫通孔