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特開2025-97635Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法
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  • 特開-Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法 図1
  • 特開-Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025097635
(43)【公開日】2025-07-01
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20250624BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250624BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250624BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250624BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20250624BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20250624BHJP
   B22F 1/14 20220101ALN20250624BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
H01F1/059 160
C22C38/00 303D
B22F3/00 C
H01F41/02 G
C21D6/00 B
B22F1/00 Y
B22F1/14 200
B22F9/04 C
B22F9/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213937
(22)【出願日】2023-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】福島 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】赤井 久純
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 誠大
(72)【発明者】
【氏名】三宅 隆
(72)【発明者】
【氏名】深澤 太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉井 敬一
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017CA07
4K017DA02
4K017EA03
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC19
4K018BD01
4K018FA08
4K018KA46
5E040AA03
5E040AA19
5E040CA01
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されているSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えており、前記主相が、モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素)で表され、かつ、0.09≦x≦0.31、0.24≦y≦0.60、0.51≦x+y≦0.75、0≦z≦0.10、0≦p+q≦0.10、0≦s≦0.10、及び2.9≦h≦3.1を満足する、Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えており、
前記主相が、モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素)で表され、かつ、
0.09≦x≦0.31、
0.24≦y≦0.60、
0.51≦x+y≦0.75、
0≦z≦0.10、
0≦p+q≦0.10、
0≦s≦0.10、及び
2.9≦h≦3.1を満足する、
Sm-Fe-N系磁性材料。
【請求項2】
前記x及び前記yが、0.16≦x≦0.31及び0.24≦y≦0.45を満足する、請求項1に記載のSm-Fe-N系磁性材料。
【請求項3】
前記主相の体積率が、80%以上、100%以下である、請求項1又は2に記載のSm-Fe-N系磁性材料。
【請求項4】
請求項1に記載のSm-Fe-N系磁性材料の製造方法であって、
モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素)で表され、かつ、0.09≦x≦0.31、0.24≦y≦0.60、0.51≦x+y≦0.75、0≦z≦0.10、0≦p+q≦0.10、及び0≦s≦0.10を満足する組成を有する結晶相を備える磁性材料前駆体を準備すること、及び、
前記磁性材料前駆体を窒化すること、
を含む、Sm-Fe-N系磁性材料の製造方法。
【請求項5】
前記x及び前記yが、0.16≦x≦0.31及び0.24≦y≦0.45を満足する、請求項4に記載のSm-Fe-N系磁性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Sm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法に関する。本開示は、特に、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えているSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能磁性材料として、Sm-Co系磁性材料及びNd-Fe-B系磁性材料が実用化されているが、近年、これら以外の磁性材料が検討されている。例えば、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えているSm-Fe-N系磁性材料(以下、単に「Sm-Fe-N系磁性材料」ということがある。)が検討されている。
【0003】
Sm-Fe-N系磁性材料は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えている。この主相は、Sm-Fe系の結晶相に窒素が侵入型で導入されていると考えられている。このような主相には、Smが必須であるが、Smの埋蔵量は少ないため、Sm-Fe-N系磁性材料が普及するにつれて、Smの価格が高騰することが予想される。このことから、従来から、Smの使用量を低減する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Smの一部を、安価なLa及び/又はCeで置換されているSm-Fe-N系磁性材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-53187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたSm-Fe-N系磁性材料では、La及び/又はCeの置換率が最大で50%であり、Smの使用量のさらなる低減が望まれていた。
【0007】
本開示は、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されているSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示のSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法を完成させた。本開示のSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えており、
前記主相が、モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素)で表され、かつ、
0.09≦x≦0.31、
0.24≦y≦0.60、
0.51≦x+y≦0.75、
0≦z≦0.10、
0≦p+q≦0.10、
0≦s≦0.10、及び
2.9≦h≦3.1を満足する、
Sm-Fe-N系磁性材料。
〈2〉前記x及び前記yが、0.16≦x≦0.31及び0.24≦y≦0.45を満足する、〈1〉項に記載のSm-Fe-N系磁性材料。
〈3〉前記主相の体積率が、80%以上、100%以下である、〈1〉又は〈2〉項に記載のSm-Fe-N系磁性材料。
〈4〉〈1〉項に記載のSm-Fe-N系磁性材料の製造方法であって、
モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素)で表され、かつ、0.09≦x≦0.31、0.24≦y≦0.60、0.51≦x+y≦0.75、0≦z≦0.10、0≦p+q≦0.10、及び0≦s≦0.10を満足する組成を有する結晶相を備える磁性材料前駆体を準備すること、及び、
前記磁性材料前駆体を窒化すること、
を含む、Sm-Fe-N系磁性材料の製造方法。
〈5〉前記x及び前記yが、0.16≦x≦0.31及び0.24≦y≦0.45を満足する、〈4〉項に記載のSm-Fe-N系磁性材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、Sm、La、及びCeのモル比を最適化することによって、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されているSm-Fe-N系磁性材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と形成エネルギーとの関係を数値計算で求めた結果に、実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比をプロットした形成エネルギーマップである。
図2図2は、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と飽和磁化との関係を数値計算で求めた結果に、実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比をプロットした飽和磁化マップである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示のSm-Fe-N系磁性材料(以下、単に「本開示の磁性材料」ということがある。)及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本開示の磁性材料及びその製造方法を限定するものではない。
【0012】
理論に拘束されないが、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されている理由に関し、本開示者らが得た知見について説明する。
【0013】
主相中のSmを置換する元素として、従来からLaが用いられている。Smと比較して、Laのイオン半径は非常に大きいため、主相中のSmを多量のLaで置換すると、主相が、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を維持することが困難になる。一方、Smと比較して、Ceのイオン半径は僅かに大きいだけであるため、Laと比較すると、主相中のSmを多量のCeで置換することができる。しかし、その置換量が非常に多量な場合には、主相が、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を維持することが困難になる。また、主相が、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を維持することができても、その置換量が多量であると、飽和磁化が大幅に低下する。
【0014】
そこで、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する結晶相に窒素が侵入している場合に、Sm、La、及びCeの三元素のモル比が、その結晶相の安定性と飽和磁化に与える影響を綿密に調査した。
【0015】
具体的には、第一原理計算を用いて、(Sm、La、Ce)Fe17相中のSm、La、及びCeのモル比によって、(Sm、La、Ce)Fe17相の形成エネルギーがどのように変化するかを算出する。そして、その形成エネルギーについて、正則溶体近似を用いて、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と形成エネルギーとの関係を示す形成エネルギーマップを作成する。また、第一原理計算によって、格子定数に基づく構造パラメタを算出し、その構造パラメタについて、正則溶体近似式を用いて、飽和磁化マップを作成する。その結果、Sm、La、及びCeのモル比を最適化することによって、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されているSm-Fe-N系磁性材料が得られることを、本開示者らは知見した。
【0016】
これまで説明してきた知見等によって完成された、本開示の磁性材料及びその製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0017】
《磁性材料》
本開示の磁性材料は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する主相を備えている。本開示の磁性材料は、主相によって磁気を発現する。以下、主相について説明する。
【0018】
〈主相の結晶構造〉
主相は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する。主相の結晶構造としては、前述の構造のほかに、TbCu型の結晶構造等を含んでもよい。なお、Thはトリウム、Znは亜鉛、Niはニッケル、Tbはテルビウム、そして、Cuは銅である。主相の結晶構造は、本開示の磁性材料を、例えば、X線回折分析等をすることによって、同定することができる。
【0019】
上述した結晶構造を有する相は、様々な元素の組合せ(組成)で達成し得るが、本開示の磁性材料の主相は、次の元素の組合せ(組成)で達成する。以下、本開示の磁性材料の主相の組成について説明する。
【0020】
〈主相の組成〉
主相は、モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17で表される組成を有する。上述の組成式で、Smはサマリウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Feは鉄、Coはコバルト、そして、Niはニッケルである。Rは、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrであり、Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素である。なお、Zrはジルコニウムである。また、上式において、説明の都合上、Sm(1-x-y)LaCe を希土類サイト、Fe(1-p-q-s)CoNiを鉄族サイトということがある。
【0021】
上式から理解できるように、主相は、希土類サイト中の一種以上の元素を2モル、鉄族サイト中の一種以上の元素を17モル、そして、窒素(N)をhモル含有する。すなわち、希土類サイト中の一種以上の元素と鉄族サイト中の一種以上の元素で、上述の結晶構造を有する相が構成されており、その相の中に、hモルの窒素(N)が侵入型で導入されている。窒素(N)の導入量は、典型的には、3モル、すなわち、h=3であるが、結晶中に、部分的に窒素が導入されていない部位があってもよく、hモル(ただし、hは2.9~3.1)であれば、上述の結晶構造を維持することができる。主相中の窒素(N)についての詳細は後述する。
【0022】
希土類サイトは、Sm、La、Ce、及びRからなり、Sm、La、Ce、及びRそれぞれが、モル比で、(1-x-y-z):x:y:zの割合で存在する。(1-x-y-z)+x+y+z=1であることから、Smの一部が、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されていることを意味する。
【0023】
鉄族サイトは、Fe、Co、Ni、及びMからなり、Fe、Co、Ni、及びMそれぞれが、モル比で、(1-p-q-s):p:q:sの割合で存在する。(1-p-q-s)+p+q+s=1であることから、Feの一部が、Co、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されていることを意味する。
【0024】
以下、上式を構成する各元素及びその含有割合(モル比)について説明する。
【0025】
〈Sm〉
Smは、Fe及びNとともに上述の結晶構造を構成する主要元素である。Smの一部は、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている。以下、La、Ce、及びRについて説明する。
【0026】
〈La〉
Laは、所謂軽希土類元素に属し、Smと比較して、埋蔵量(資源量)が多く、安価である。また、飽和磁化の向上にも寄与すると考えられている。しかし、Laのイオン半径は、Smのイオン半径よりも非常に大きいことから、Smの一部をLaで置換する際に、その置換量を適切にしないと、主相の結晶構造を維持することが困難になる。置換量については、後述する。
【0027】
〈Ce〉
Ceは、所謂軽希土類元素に属し、Smと比較して、埋蔵量(資源量)が多く、安価である。Ceのイオン半径は、Smのイオン半径よりも僅かに大きいだけであるため、Smの一部を多量のCeで置換することはできる。しかし、その置換量が非常に多量であると、主相の結晶構造を維持することが困難になる。また、主相の結晶構造を維持することができる場合でも、その置換量が多量であると、飽和磁化が大幅に低下する。置換量については、後述する。
【0028】
〈R
は、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素並びにZrである。Rは、本開示の磁性材料の磁気特性を損なわない範囲で含有を許容する一種以上の元素である。許容量については後述する。Rは、典型的には、Sm、La、及びCeそれぞれを含有する原材料を精製する際に、これらそれぞれと完全に分離することが困難で、原材料等に少量残留する、Sm、La、及びCe以外の一種以上の希土類元素である。このような希土類元素のほかに、Rには、Zrを含んでもよい。Zrは希土類元素ではないが、Smの一部がZrで置換される場合がある。Smの一部がZrで置換されても、その置換量が少量であれば、本開示の磁性材料の磁気特性を著しく損なうことはない。
【0029】
本明細書で、希土類元素は、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロビウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、及びLu(ルテチウム)の17元素からなる。
【0030】
〈Fe〉
Feは、Sm及びNとともに上述の結晶構造を構成する主要元素である。Feの一部は、Co、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されていてもよい。以下、Co、Ni、及びMについて説明する。
【0031】
〈Co〉
Coは、所謂鉄族元素に属することから、Feの一部が、Coで置換されていてもよい。置換量が所定の範囲内であれば、主相の形成エネルギーに、実用上問題となるほどの影響を与えない。許容量については後述する。Feの一部をCoで置換すると、主相のキュリー温度が上昇し、高温(403~473K)での飽和磁化の低下を抑制でき、好都合である。
【0032】
〈Ni〉
Niは、所謂鉄族元素に属することから、Feの一部が、Niで置換されていてもよい。置換量が所定の範囲内であれば、主相の形成エネルギーに、実用上問題となるほどの影響を与えない。許容量については後述する。
【0033】
〈M〉
Mは、Fe、Co、Ni、及び希土類元素以外の一種以上の元素並びに不可避的不純物元素である。Mは、本開示の磁性材料の磁気特性を損なわない範囲で、その含有を許容する一種以上の元素及び不可避的不純物元素である。不可避的不純物元素とは、本開示の磁性材料を製造等するに際し、その含有を回避することができない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。このような不可避的不純物元素としては、原材料中の不純物元素、あるいは、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、及びB(ホウ素)等のように、例えば、ボンド成形体を形成等するときに、ボンド中の元素が主相の表面等に拡散及び/又は侵入等してしまう元素が挙げられる。その他、成形時に用いる潤滑剤等が含有する元素で、主相の表面等に拡散及び/又は侵入してしまう元素等が挙げられる。なお、ボンド成形体については後述する。
【0034】
不可避的不純物元素を除くMとしては、例えば、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、及びC(炭素)からなる群より選ばれる一種以上の元素等が挙げられる。これらの元素は、例えば、主相生成時の核物質を形成して、主相の微細化の促進及び/又は主相の粒成長の抑制に寄与する。
【0035】
また、Mとして、Zrを含み得る。上述したように、Zrは希土類元素ではないが、Smの一部がZrで置換される場合もある一方で、Feの一部がZrで置換される場合もある。いずれの場合であっても、その置換量が少量であれば、磁性材料の磁気特性を著しく損なうことはない。
【0036】
〈N〉
Nは、上述の結晶構造を有する主相中に侵入型で導入されている。Nが、上述の結晶構造を有する相を破壊しない程度に、Nが導入されていることによって、主相内で磁気モーメントが増加する。主相中のNの存在割合(モル比)hについては、後述する。
【0037】
本開示の磁性材料の主相が、これまで説明してきた元素で構成され、かつ、それらの構成元素が、次の割合で存在しているとき、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減することができる。以下、構成元素の存在割合(モル比)、すなわち、主相の組成を表す上式のx、y、z、p、q、s、及びhの値が満足する範囲について説明する。
【0038】
〈x、y、及びz〉
主相の安定性は、主相の形成エネルギーによって評価することができる。その評価のため、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と形成エネルギーとの関係を示す形成エネルギーマップを作成する。
【0039】
第一原理計算の方法としては、コーリンハ・コーン・ロストーカ(Korringa-Kohn-Rostoker(KKR))法のコヒーレントポテンシャル近似(Coherent Potential Approximation(CPA))を適用したパッケージ(AkaiKKR)とウィーン第一原理シミュレーションパッケージ(Vienna ab initio simulation package (VASP))を用いる。具体的には、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相のxとyを、それぞれ、5%ずつ増加させたときの合計52点について、それぞれの形成エネルギーを計算する。
【0040】
上述した52点の計算結果について、正則溶体近似式を用いて、形成エネルギーマップを作成する。正則溶体近似式は、次のとおりである。
ΔE(x、y)=ERFN(x、y)-(1-x-y)ESFN-xELFN-yECFN
ただし、ΔE(x、y)、ERFN(x、y)、ESFN、ELFN、及びECFNは、次のとおりである。
ΔE(x、y):La及びCeのモル比がx及びyであるときの形成エネルギー変化
RFN(x、y):La及びCeのモル比がx、yであるときのAkaiKKRの全エネルギー
SFN:SmFe17のAkaiKKRの全エネルギーをVASPの形成エンタルピーで補正した値
LFN:LaFe17のAkaiKKRの全エネルギーをVASPの形成エンタルピーで補正した値
CFN:CeFe17のAkaiKKRの全エネルギーをVASPの形成エンタルピーで補正した値
【0041】
図1は、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と形成エネルギーとの関係を示す形成エネルギーマップである。図1には、後述する実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比を併記(プロット)してある。
【0042】
形成エネルギーマップにおいて、形成エネルギーの小さい領域で、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相が安定する。基本的には、Laによる置換量、すなわち、xの値が増加するほど、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相が不安定になる。形成エネルギーマップには、Smの一部をLa又はCeで置換する際に、Laのみで置換するよりも、LaとCeの両方で置換した方が、形成エネルギーが低い、すなわち、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相が安定であることが示されている。
【0043】
CeFe17相は、SmFe17相よりも安定であるが、CeFe17相よりも安定な相、例えば、CeFe相が既に生成している場合には、CeFe17相の生成は困難であるため、熱力学的凸包(convex hull)を考慮する必要がある。そのため、図1には、後述する実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比を併記(プロット)してある。
【0044】
また、第一原理計算によって、格子定数に基づく構造パラメタを計算する。構造パラメタは、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相を構成する原子の原子間距離等である。第一原理計算の方法としてはVASPを用いる。固溶相に対してはべガード則を適用する。そして、得られた構造パラメタについて、AkaiKKRにより飽和磁化マップを作成する。図2は、Sm、La、及びCeの三元素のモル比と飽和磁化との関係を示す飽和磁化マップである。図2には、後述する実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比を併記(プロット)してある。
【0045】
形成エネルギーは、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相の安定に関係し、総磁化モーメントは磁化に比例する。そのため、形成エネルギーマップ及び飽和磁化マップにより、(Sm(1-x-y)LaCeFe17相の安定と飽和磁化の関係を検討することができる。これらのマップは、Smの一部をLa又はCeで置換する際に、Laのみで置換するよりも、LaとCeの両方で置換した方が、安定性が向上するとともに、飽和磁化も向上することを示している。理論に拘束されないが、飽和磁化が向上する理由は、次のとおりであると考えられる。Ceには3価と4価があり、本開示の磁性材料中では4価のCeが多く存在している。これに対し、Laは3価だけである。4価では、4f電子が局在していないため磁化が消滅しやすいが、Laは3価であり、4f電子が局在しているため、Laによって、磁化が向上すると考えられる。
【0046】
これまで説明してきたこと、特に、図1及び図2の記載から、xは、0.09以上、0.10以上、0.12以上、0.14以上、又は0.16以上であってよく、0.31以下、0.30以下、0.27以下、0.25以下、0.23以下、0.20以下、又は0.17以下であってよい。
【0047】
また、yは、0.24以上、0.26以上、0.30以上、0.32以上、又は0.34以上であってよく、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.45以下、又は0.40以下であってよい。
【0048】
そして、x+yは、0.51以上、0.54以上、0.56以上、又は0.60以上であってよく、0.75以下、0.70以下、又は0.69以下であってよい。
【0049】
上述したように、Rは本開示の磁性材料の磁気特性、特に飽和磁化を損なわない範囲で含有を許容する一種以上の元素であるため、第一原理計算では、Rの存在を考慮していない。このようなRのモル比、すなわち、zの範囲は、0.10以下、0.08以下、0.06以下、0.04以下、又は0.02以下であってよい。本開示の磁性材料がRを全く含有しない、すなわち、zは0であってもよいが、本開示の磁性材料を製造する際に、原材料中にRを全く含有しないようにするのは困難な場合もある。この観点からは、zは0.01以上であってもよい。
【0050】
〈p及びq〉
主相の組成を表す上式において、pの値は、Feの一部がCoで置換されている割合(モル比)を示し、qの値は、Feの一部がNiで置換されている割合(モル比)を示す。
【0051】
上述したように、Co及びNiは、主相の形成エネルギーに、実用上問題となるほどの影響を与えない範囲で、その含有を許容する元素である。このような許容範囲は、Coのモル比pとNiのモル比qの合計p+qの値で表される。このようなp+qの値は、0.10以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下、又は0.05以下であってよく、0以上、0.01以上、0.02以上、0.03以上、又は0.04以上であってよい。p+qの値が0であるとは、主相が、実質的にCo及びNiを含有しないことを意味する。
【0052】
〈s〉
主相の組成を表す上式において、sは、Feの一部がMで置換されている割合(モル比)を示す。上述したように、Mは、本開示の磁性材料の磁気特性を損なわない範囲で含有を許容する一種以上の元素及び不可避的不純物元素である。このことから、sは、0.10以下、0.08以下、0.06以下、0.04以下、又は0.02以下であってよい。一方、本開示の磁性材料はMを全く含有しない、すなわち、sは0であってもよいが、Mのうち、不可避的不純物元素を全く含有しないようにするのは困難である場合もある。この観点からは、sは0.01以上であってもよい。
【0053】
〈h〉
主相の組成を表す上式において、hは窒化の程度を示す。SmFe17相を窒化すると、基本的には、SmFe17相(ただし、h=3)を形成する。窒化は、典型的には、SmFe17相を有する磁性材料前駆体(以下、単に「前駆体」ということがある。)を、高温で窒素ガス雰囲気に暴露すること等によって行われる。そのため、前駆体の表面と内部で窒化の具合が異なること等から、hが2.9~3.1の範囲で変動し得る。前駆体において、Smの一部がLa、Ce、及び/又はRで置換されており、Feの一部がCo、Ni、及び/又はMで置換されている場合も同様である。すなわち、(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17相を窒化すると、(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17を形成する。
【0054】
〈主相の体積率〉
本開示の磁性材料は、上述の組成式で表される主相を備えている。本開示の磁性材料の磁気特性は、主相によって発現される。そのため、本開示の磁性材料全体に対して、主相の体積率は、高い方が好ましい。具体的には、主相の体積率は、本開示の磁性材料全体に対して、80%以上、85%以上、又は90%以上であってよい。一方、本開示の磁性材料を製造する際、上述の組成式で表される主相以外の相が安定な温度領域となる工程が存在する場合等がある。また、主相を構成しない不可避的不純物元素の含有を皆無にすることが困難な場合もある。これらのことから、主相の体積率は100%が理想であるが、前述の主相の体積率を確保していれば、主相の体積率が、99%以下、97%以下、又は95%以下であっても、実用上問題ない。
【0055】
主相以外の相は、典型的には、主相同士の粒界、特に、三重点に存在する。主相以外の相としては、典型的には、SmFe相及びその窒化相等が挙げられる。SmFe相及びその窒化相には、Smの一部がLa、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相及びその窒化相、Feの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相及びその窒化相、そして、Smの一部がLa、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されており、かつ、Feの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相及びそれらの窒化相を含む。
【0056】
主相の体積率は、窒化前の磁性材料前駆体の全体組成を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用いて測定し、その測定値から、窒化前の前駆体が、(Sm、La、Ce、R(Fe、Co、Ni、M)17相と(Sm、La、Ce、R)(Fe、Co、Ni、M)相に分相していると仮定して、主相の体積率を算出する。具体的には、ICPによる測定結果から、各元素の質量濃度(質量率)を得た後、SmFe17相及びSmFe相の質量比率を先ず算出し、各相の密度から体積率を算出する。なお、(Sm、La、Ce、R(Fe、Co、Ni、M)17相は、SmFe17相、SmFe17相のSmの一部がSm、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、SmFe17相のFeの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、そして、SmFe17相のSmの一部がSm、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されており、かつ、SmFe17相のFeの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相を表す。また、(Sm、La、Ce、R)(Fe、Co、Ni、M)相は、SmFe相、SmFe相のSmの一部がSm、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、SmFe相のFeの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、そして、SmFe相のSmの一部がSm、La、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されており、かつ、SmFe17相のFeの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相を表す。
【0057】
本開示の磁性材料の全体組成(主相と主相以外の相の合計)は、本開示の磁性材料の製造時に、α-(Fe、Co、Ni、M)相及びその窒化相の発現を抑制する観点からは、主相のSm、La、Ce、及びRの合計モル数以上にしておくことができる。すなわち、本開示の磁性材料の全体組成は、(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、wは、2.00~3.00)であってよい。このとき、x、y、z、p、q、s、及びhは、上述の主相の組成を表す式の、x、y、z、p、q、s、及びhと同じであってよい。α-(Fe、Co、Ni、M)相の発現を抑制する観点からは、wは、2.02以上、2.04以上、2.06以上、2.08以上、2.10以上、2.20以上、2.30以上、2.40以上、又は2.50以上がより好ましい。一方、上述の(Sm、La、Ce、R)(Fe、Co、Ni、M)相の体積率を低減する観点からは、wは、2.90以下、2.80以下、2.70以下、又は2.60以下がより好ましい。
【0058】
〈主相の密度〉
本開示の磁性材料の主相が、これまでに説明した結晶構造及び組成を有していれば、主相の密度に特に制限はない。主相の密度は、例えば、7.38g/cm以上、7.40g/cm以上、7.42g/cm以上、7.44g/cm以上、7.46g/cm以上、7.48g/cm以上、又は7.50g/cm以上であってよく、8.80g/cm以下、8.60g/cm以下、8.40g/cm以下、8.20g/cm以下、8.00g/cm以下、7.80g/cm以下、又は7.60g/cm以下であってよい。
【0059】
主相の密度は、本開示の磁性材料を粉砕して粉末を得て、その粉末の密度を、ピクノメータ法で測定することによって得られる。上述したように、本開示の磁性材料においては、主相の体積率が80%以上であることが好ましい。また、SmFe17相及びSmFe相の密度は、それぞれ、7.65g/cm及び8.25g/cmであり、それほど異ならない。このことから、主相の密度は、上述した測定方法で得られた値で近似できる。
【0060】
《製造方法》
次に本開示のSm-Fe-N系磁性材料の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ということがある。)について説明する。
【0061】
本開示の製造方法は、磁性材料前駆体準備工程及び窒化工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0062】
〈磁性材料前駆体準備工程〉
本開示の製造方法では、モル比の式(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17で表される組成を有する結晶相を備える磁性材料前駆体を準備する。
【0063】
結晶相の組成を表す式において、Sm、La、Ce、R、Fe、Co、Ni、及びM、並びにx、y、z、p、q、及びsについては、「《磁性材料》」で説明したとおりである。
【0064】
磁性材料前駆体の結晶相は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する。磁性材料前駆体を窒化すると、磁性材料前駆体中の結晶相が窒化され、本開示の磁性材料の主相が形成される。本開示のSm-Fe-N系磁性材料の主相は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する。このことから、窒化は、ThZn17型及びThNi17型の少なくともいずれかの結晶構造を維持する程度に行われる。
【0065】
上述したように、磁性材料前駆体中の結晶相が窒化されて、本開示の磁性材料の主相が形成されるため、磁性材料前駆体中の結晶相の体積率は、本開示の磁性材料中の主相の体積率と、同等と考えてよい。このことから、磁性材料前駆体の結晶相の体積率は、磁性材料前駆体全体に対して、80%以上、85%以上、又は90%以上であってよい。磁性材料前駆体を製造する際、上述の組成式で表される結晶相以外の相が安定な温度領域となる工程が存在する場合等がある。また、結晶相を構成しない不可避的不純物元素の含有を皆無にすることが困難な場合もある。結晶相の体積率は100%が理想であるが、前述の結晶相の体積率を確保していれば、主相の体積率が、99%以下、97%以下、又は95%以下であっても、実用上問題ない。主相の体積率の算出方法は、上述したとおりである。
【0066】
結晶相以外の相は、典型的には、結晶相同士の粒界、特に、三重点に存在する。結晶相以外の相としては、典型的には、SmFe相等が挙げられる。SmFe相には、Smの一部がLa、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、Feの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相、そして、Smの一部がLa、Ce、及びRからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されており、かつ、Feの一部がCo、Ni、及びMからなる群より選ばれる一種以上の元素で置換されている相を含む。
【0067】
磁性材料前駆体の全体組成(結晶相と結晶相以外の相の合計)は、磁性材料前駆体の製造時に、α-(Fe、Co、Ni、M)相の発現を抑制する観点からは、結晶相のSm、La、Ce、及びRの合計モル数以上にしておくことができる。すなわち、磁性材料前駆体の全体組成は、(Sm(1-x-y-z)LaCe (Fe(1-p-q-s)CoNi17(ただし、wは、2.00~3.00)であってよい。このとき、x、y、z、p、q、及びsは、上述の主相の組成を表す式の、x、y、z、p、q、及びsと同じであってよい。α-(Fe、Co、Ni、M)相の発現を抑制する観点からは、wは、2.02以上、2.04以上、2.06以上、2.08以上、2.10以上、2.20以上、2.30以上、2.40以上、又は2.50以上がより好ましい。一方、(Sm、La、Ce、R)(Fe、Co、Ni、M)相の体積率を低減する観点からは、wは、2.90以下、2.80以下、2.70以下、又は2.60以下がより好ましい。
【0068】
磁性材料前駆体は、周知の製造方法を用いて、得ることができる。磁性材料前駆体を得る方法としては、例えば、磁性材料前駆体を構成する元素を含有する原材料を溶解し凝固させることが挙げられる。原材料の準備方法としては、例えば、原材料を坩堝等の容器に装入し、原材料を容器中でアーク溶解又は高周波溶解して溶湯を得た後、溶湯をブックモールド等の鋳型に注入すること、あるいは、溶湯を坩堝中で凝固させること等が挙げられる。磁性材料前駆体中の結晶相の粗大化抑制及び結晶相の均質化の観点等からは、溶湯の冷却速度を高めることが好ましい。この観点からは、溶湯をブックモールド等の鋳型に注入することが好ましい。さらに、磁性材料前駆体中の結晶相の粗大化抑制及び結晶相の均質化を高める観点等からは、例えば、次の方法を採用してもよい。すなわち、原材料を容器中で高周波溶解又はアーク溶解し凝固して得た鋳塊を、再度、高周波溶解等で溶融し、その融液をストリップキャスト法及び液体急冷法等を用いて急冷し、薄片を得て、この薄片を磁性材料前駆体としてもよい。
【0069】
後述する窒化の前に、磁性材料前駆体中の結晶粒を均質化するために、磁性材料前駆体を熱処理(以下、このような熱処理を「均質化熱処理」ということがある。)してもよい。均質化熱処理の温度は、例えば、1273K以上、1323K以上、又は1373K以上であってよく、1523K以下、1473K以下、又は1423K以下であってよい。均質化熱処理時間は、例えば、6時間以上、12時間以上、18時間以上、又は24時間以上であってよく、48時間以下、42時間以下、36時間以下、又は30時間以下であってよい。
【0070】
磁性材料前駆体の酸化を抑制するため、均質化熱処理は、不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気は含まれない。窒素ガス雰囲気中で均質化熱処理をすると、ThZn17型及び/又はThNi17型の結晶構造を有する相が分解し易いためである。
【0071】
〈窒化工程〉
上述の磁性材料前駆体を窒化する。これにより、磁性材料前駆体中の結晶相が窒化されて、本開示の磁性材料の主相が形成される。
【0072】
所望の主相を得ることができれば、窒化方法に、特に制限はないが、典型的には、例えば、磁性材料前駆体を加熱しながら、窒素ガスを含有する雰囲気中に暴露すること、あるいは、窒素(N)を含有するガス雰囲気中に暴露すること等が挙げられる。窒素ガスを含有する雰囲気には、例えば、窒素ガス雰囲気、窒素ガスと不活性ガスの混合ガス雰囲気、そして、窒素ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気等が挙げられる。窒素(N)を含有するガス雰囲気には、例えば、アンモニアガス雰囲気、あるいは、アンモニアガスと水素ガスの混合ガス雰囲気等が挙げられる。これまで例示した雰囲気を組み合わせてもよい。窒化の効率の観点からは、アンモニアガス雰囲気、アンモニアガスと水素ガスの混合ガス雰囲気、そして、窒素ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気が好ましい。
【0073】
窒化前に磁性材料前駆体を粉砕して、磁性材料前駆体粉末を得た後、磁性材料前駆体粉末を窒化してもよい。磁性材料前駆体を粉砕してから窒化することによって、磁性材料前駆体の内部に存在する結晶相を充分に窒化することができる。磁性材料前駆体の粉砕は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含んでもよい。これにより、粉砕時に磁性材料前駆体が酸化することを抑制できる。磁性材料前駆体粉末の粒径としては、D50で、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上であってよく、50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0074】
窒化温度は、例えば、673K以上、698K以上、723K以上、又は748K以上であってよく、823K以下、798K以下、又は773K以下であってよい。また、窒化時間は、例えば、4時間以上、8時間以上、12時間以上、又は16時間以上であってよく、48時間以下、36時間以下、24時間以下、20時間以下、又は18時間以下であってよい。
【0075】
《変形》
本開示の磁性材料及びその製造方法は、これまで説明した実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載された範囲内で、適宜、変形を加えてもよい。例えば、本開示の磁性材料は、粉末であってもよいし、その粉末の成形体であってもよい。成形体は、ボンド成形体であってもよいし、焼結成形体であってもよい。成形体の場合には、成形工程で主相中の窒素(N)が離脱(分解)するような温度を回避し易い観点から、ボンド成形体が好ましい。ボンドとしては、例えば、樹脂及び低融点メタルボンド等が挙げられる。低融点メタルボンドとしては、例えば、金属亜鉛又は亜鉛合金並びにそれらの組合せ等が挙げられる。低融点メタルボンドを使用する場合には、主相中の窒素(N)が離脱(分解)しない低温で加圧焼結してもよい。
【実施例0076】
以下、本開示の磁性材料及びその製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の磁性材料及びその製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0077】
《試料の準備》
Sm-Fe-N系磁性材料の試料を次の要領で準備した。
【0078】
金属Sm、金属La、Ce―Fe合金、金属Fe、金属Co、及び金属Niを、主相が表1に記載する組成になるように配合し、これを1673K(1400℃)で高周波溶解し、凝固させて、磁性材料前駆体を得た。配合の際には、主相の体積率が95~100%になるように、主相におけるSm、La、及びCeの合計モル数よりも、Sm、La、及びCeの合計配合モル数を多くした。なお、本明細書において、例えば、「金属Sm」とは、合金化されていないSmを意味する。金属Smには、不可避的不純物を含有してもよいことは、もちろんである。
【0079】
磁性材料前駆体を、アルゴンガス雰囲気中で、1373Kで24時間にわたり、均質熱処理した。
【0080】
均質熱処理後の磁性材料前駆体をグローブボックス内に装入し、窒素ガス雰囲気中で、カッターミルを用いて、磁性材料前駆体を粉砕した。粉砕後の磁性材料前駆体粉末の粒径は、D50で20μm以下であった。
【0081】
窒素ガス雰囲気中で、磁性材料前駆体粉末を748Kに加熱し、16時間にわたり窒化した。窒化量は、窒化前後の磁性材料前駆体粉末の質量変化で把握した。
【0082】
《評価》
各試料について、主相の体積率、及び密度を、上述した測定方法で求めた。また、各試料について、物理特性処理システムPPMS(登録商標)-VSMを用い、最大磁場9Tを負荷して、磁気特性を測定した。磁気特性の測定に関しては、窒化後の各試料粉末を、エポキシ樹脂中で磁場配向させつつ固化させ、固化後の各試料の磁気特性を、300Kで、磁化容易軸方向及び磁化困難軸方向について測定した。磁化容易軸方向についての測定値から、飽和漸近則を用いて飽和磁化Msを算出した。
【0083】
結果を表1-1及び表1-2に示す。表1-2の「主相の安定性」のA~Cは、Aは「良好」を意味し、Bは「概ね良好」を意味し、Cは「不良(主相の結晶構造が破壊されている)」を意味する。また、上述したように、表1-1及び表1-2の実施例1~6及び比較例1~11でのSm、La、及びCeの三元素のモル比を、図1及び図2にプロットした。
【0084】
【表1-1】
【0085】
【表1-2】
【0086】
表1-1及び表1-2並びに図1及び図2から、実施例1~6の試料では、LaとCeの合計置換量が、モル比で0.51以上であっても、SmがLa及びCeで置換されていない場合(比較例5)よりも飽和磁化が高いことを理解できる。このことから、従来よりも、飽和磁化を向上しつつ、Smの使用量が一層削減されていることを理解できる。
【0087】
これらの結果から、本開示の磁性材料及びその製造方法の効果を確認できる。
図1
図2