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特開2025-98545エチレン製造用触媒、エチレン製造用触媒の製造方法、及びエチレンの製造方法
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  • 特開-エチレン製造用触媒、エチレン製造用触媒の製造方法、及びエチレンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098545
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】エチレン製造用触媒、エチレン製造用触媒の製造方法、及びエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/78 20060101AFI20250625BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20250625BHJP
   B01J 29/48 20060101ALI20250625BHJP
   B01J 29/69 20060101ALI20250625BHJP
   C07C 1/04 20060101ALI20250625BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20250625BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250625BHJP
【FI】
B01J29/78 M
B01J37/04 101
B01J29/48 M
B01J29/69 M
C07C1/04
C07C11/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214756
(22)【出願日】2023-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】村田 秀之
(72)【発明者】
【氏名】大坪 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】今村 彰志
(72)【発明者】
【氏名】スルタナ アシマ
(72)【発明者】
【氏名】中村 功
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BB02A
4G169BC02A
4G169BC09A
4G169BC10A
4G169BC10B
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC16A
4G169BC17A
4G169BC31A
4G169BC43A
4G169BC51A
4G169BC54A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BD05A
4G169CB63
4G169CC21
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EC25
4G169EC26
4G169FA01
4G169FB07
4G169FB09
4G169FB30
4G169ZA06A
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZA13A
4G169ZA13B
4G169ZA32A
4G169ZA32B
4G169ZA41A
4G169ZA46A
4G169ZA46B
4G169ZB01
4G169ZB08
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA06
4H006BA07
4H006BA18
4H006BA71
4H006BE20
4H006BE40
4H006DA12
4H006DA15
4H039CA29
4H039CA99
4H039CL25
(57)【要約】
【課題】一酸化炭素及び水素を原料として用い、エチレンを高い選択性で製造可能なエチレン製造用触媒、該エチレン製造用触媒の製造方法、及び該エチレン製造用触媒を用いたエチレンの製造方法の提供。
【解決手段】(i)第1の触媒としてマンガンおよび鉄と、第2の触媒としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびナトリウムのうち少なくとも1種以上と、を含む金属触媒と、
(ii)第3の触媒として少なくとも1種以上のゼオライトを含むゼオライト触媒と、を含む、エチレン製造用触媒である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)第1の触媒としてマンガンおよび鉄と、第2の触媒としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびナトリウムのうち少なくとも1種以上と、を含む金属触媒と、
(ii)第3の触媒として少なくとも1種以上のゼオライトを含むゼオライト触媒と、を含む、エチレン製造用触媒。
【請求項2】
エチレンの選択率が50%以上である、請求項1に記載のエチレン製造用触媒。
【請求項3】
メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路を利用する触媒である、請求項1に記載のエチレン製造用触媒。
【請求項4】
前記金属触媒が、アモルファス状態の金属触媒粒子からなる、請求項1に記載のエチレン製造用触媒。
【請求項5】
前記第1の触媒と前記第2の触媒の総質量に対する前記第2の触媒の含有率が1~50質量%である、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
【請求項6】
前記第1の触媒のマンガンと鉄の比率が、マンガン:鉄=1:10~10:1である、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
【請求項7】
前記金属触媒における金属触媒粒子の平均粒子径が0.1~1000μmである、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
【請求項8】
前記第3の触媒が、ITQゼオライト、ZSM-5ゼオライト、SAPOゼオライト、FERゼオライト、およびMORゼオライトから選択される1種以上である、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
【請求項9】
前記ITQゼオライトが、ITQ-2ゼオライトである、請求項8に記載のエチレン製造用触媒。
【請求項10】
前記エチレン製造用触媒が、第4の触媒として、V、Cr、Zr、Cu、Ni、Ce、Pd、Ru、Rh、Al、Si、Pt、Mo、及びGaから選択される1種以上を更に含む、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒を製造する方法であって、
(i)前記第1の触媒および前記第2の触媒を混合した混合物を含む金属触媒と、
(ii)前記第3の触媒と
を混合する工程を含む、エチレン製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
一酸化炭素及び水素を含む原料ガスを、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒に接触させることによりエチレンを製造する、エチレンの製造方法。
【請求項13】
一酸化炭素及び水素を含む原料ガスを、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒に接触させ、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路によりメタノールを経由してエチレンを製造する、請求項12に記載のエチレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン製造用触媒、エチレン製造用触媒の製造方法、及びエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低級オレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン)は従来、石油を原料に生産されてきた。しかし、石油資源枯渇や資源の地域遍在性の問題から、天然ガスや石炭などから誘導される合成ガス(少なくともHとCOを含む混合ガス)を原料に低級オレフィンを製造する技術が望まれている。
合成ガスを原料に用いた低級オレフィンの製造では、一般的に触媒が用いられ、触媒についての研究も広く行われており、低級オレフィン製造用の触媒も知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-30433号公報
【特許文献2】特表2023-504510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載の触媒では、高い選択率でH/CO混合ガスをエチレンに変換することはできなかった。
そこで、高い選択性でH/CO混合ガスをエチレンに変換できる方法の提供が望まれている。
【0005】
本発明は、一酸化炭素及び水素を原料として用い、エチレンを高い選択性で製造可能なエチレン製造用触媒、該エチレン製造用触媒の製造方法、及び該エチレン製造用触媒を用いたエチレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決する為、鋭意検討を行った結果、上記の課題を解決出来ることを見出し、以下の要旨を有する本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下を包含する。
(1) (i)第1の触媒としてマンガンおよび鉄と、第2の触媒としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびナトリウムのうち少なくとも1種以上と、を含む金属触媒と、
(ii)第3の触媒として少なくとも1種以上のゼオライトを含むゼオライト触媒と、を含む、エチレン製造用触媒。
(2) エチレンの選択率が50%以上である、(1)に記載のエチレン製造用触媒。
(3) メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路を利用する触媒である、(1)又は(2)に記載のエチレン製造用触媒。
(4) 前記金属触媒が、アモルファス状態の金属触媒粒子からなる、(1)~(3)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(5) 前記第1の触媒と前記第2の触媒の総質量に対する前記第2の触媒の含有率が1~50質量%である、(1)~(4)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(6) 前記第1の触媒のマンガンと鉄の比率が、マンガン:鉄=1:10~10:1である、(1)~(5)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(7) 前記金属触媒における金属触媒粒子の平均粒子径が0.1~1000μmである、(1)~(6)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(8) 前記第3の触媒が、ITQゼオライト、ZSM-5ゼオライト、SAPOゼオライト、FERゼオライト、およびMORゼオライトから選択される1種以上である、(1)~(7)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(9) 前記ITQゼオライトが、ITQ-2ゼオライトである、(8)に記載のエチレン製造用触媒。
(10) 前記エチレン製造用触媒が、第4の触媒として、V、Cr、Zr、Cu、Ni、Ce、Pd、Ru、Rh、Al、Si、Pt、Mo、及びGaから選択される1種以上を更に含む、(1)~(9)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒。
(11) (1)~(10)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒を製造する方法であって、
(i)前記第1の触媒および前記第2の触媒を混合した混合物を含む金属触媒と、
(ii)前記第3の触媒と
を混合する工程を含む、エチレン製造用触媒の製造方法。
(12) 一酸化炭素及び水素を含む原料ガスを、(1)~(10)のいずれかに記載のエチレン製造用触媒に接触させることによりエチレンを製造する、エチレンの製造方法。
(13) 一酸化炭素及び水素を含む原料ガスを、請求項1~4のいずれかに記載のエチレン製造用触媒に接触させ、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路によりメタノールを経由してエチレンを製造する、(12)に記載のエチレンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一酸化炭素及び水素を原料として用い、エチレンを高い選択性で製造可能なエチレン製造用触媒、該エチレン製造用触媒の製造方法、及び該エチレン製造用触媒を用いたエチレンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】金属触媒粒子がアモルファス状態であることを説明するためのX線回折(XRD)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(エチレン製造用触媒)
本発明のエチレン製造用触媒は、一酸化炭素および水素を原料としたエチレンの合成反応を触媒する。
本発明者らは、金属触媒とゼオライト触媒とを含むエチレン製造用触媒において、該金属触媒として、マンガン(Mn)および鉄(Fe)を含む第1の触媒と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、およびナトリウム(Na)のうち少なくとも1種以上を含む第2の触媒とを含む金属触媒を用いることで、選択率が50%以上という高い選択率でエチレンを製造できることを見出した。
つまり、本発明のエチレン製造用触媒は、
“(i)第1の触媒としてマンガンおよび鉄と、第2の触媒としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびナトリウムのうち少なくとも1種以上とを含む金属触媒と、
(ii)第3の触媒として少なくとも1種以上のゼオライトを含むゼオライト触媒とを含む、エチレン製造用触媒”である。
【0010】
また、本発明者らは、第1の触媒と第2の触媒とを混合し、第1の触媒と第2の触媒を複合化させてなる金属触媒が、一酸化炭素及び水素を原料として高い選択性でメタノールを製造できることを見出した。
本発明のエチレン製造用触媒は、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路によりメタノールを経由してエチレンを製造する触媒である。本発明のエチレン製造用触媒は、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応によりエチレンを製造する触媒ではないため、FT反応における副生成物であるCOは発生しない。COを発生させずにエチレンを製造することができるため、本発明のエチレン製造用触媒は利用価値が高い。
【0011】
さらに本発明者らは、第1の触媒と第2の触媒を複合化させてなる金属触媒が、アモルファス状態の金属触媒粒子からなることを見出した。
金属触媒が、このアモルファスの状態であることも、エチレンの選択率が50%以上という高い選択性を満足させることに寄与していると考えられる。
【0012】
上述したように、本発明のエチレン製造用触媒は、金属触媒とゼオライト触媒とを含み、
そのうち金属触媒は、マンガン(Mn)および鉄(Fe)を含む第1の触媒と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、およびナトリウム(Na)のうち少なくとも1種以上を含む第2の触媒とを含む。
【0013】
また、本発明のエチレン製造用触媒は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、セリウム(Ce)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、及びガリウム(Ga)から選択される1種以上の金属を含む第4の触媒を更に含むことができる。
【0014】
金属触媒は、一酸化炭素及び水素から、メタノールへの変換を触媒し、ゼオライト触媒は、主としてメタノールから、エチレンへの変換を触媒する。本発明のエチレン製造用触媒は、第1の触媒、及び第2の触媒、さらに任意で第4の触媒を含む複合触媒からなる金属触媒と、ゼオライト触媒とを含む複合触媒であることから、一酸化炭素及び水素から、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路により、メタノールを経由してエチレンが製造できる触媒となっている。
【0015】
<金属触媒>
金属触媒は、マンガン(Mn)および鉄(Fe)を含む第1の触媒と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、およびナトリウム(Na)のうち少なくとも1種以上を含む第2の触媒とを含む。
【0016】
<<第1の触媒>>
第1の触媒は、触媒成分としてマンガン(Mn)および鉄(Fe)を含むものであれば、組成は特に限定されず、酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
具体的には、第1の触媒に含まれるマンガンとしては、例えば、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(IV)、塩化マンガン(II)、フッ化マンガン(II)、臭化マンガン(II)、ヨウ化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、炭酸マンガン(II)、リン酸マンガン(II)、過塩素酸マンガン(II)、ホウ酸マンガン(II)、過マンガン酸カリウム、マンガン(II)アセチルアセトナート、マンガン(II)アセタート、マンガン(III)アセチルアセトナート、マンガン(III)アセタート等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、第1の触媒に含まれる鉄としては、例えば鉄(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化鉄(II,III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フッ化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、炭酸鉄(II)、リン酸鉄(III)、過塩素酸鉄(II)、過塩素酸鉄(III)ステアリン酸鉄(II)、テトラフルオロホウ酸鉄(II)、ホウ酸鉄(II)、トリフルオロメタンスルホン酸鉄(II)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(II)、ジエチルジチオカルバミン酸鉄(II)、塩化(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)鉄(II)、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(II)メトキシド、及びビス[ビス(トリメチルシリル)アミド]鉄等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
<<第2の触媒>>
第2の触媒に含まれるマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、およびナトリウム(Na)は、特に限定されず、金属、金属を含む酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
具体的には、第2の触媒の触媒成分としては、例えば、酸化マグネシウム(II)、酸化カルシウム(II)、酸化ストロンチウム(II)、酸化バリウム(II)、酸化ナトリウム(I)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
<<金属触媒の各種成分の含有割合>>
第1の触媒と第2の触媒の総質量に対する第2の触媒の含有率は、1~50質量%であることが好ましい。
エチレンを高い選択率で製造するためには、金属触媒中に、第1の触媒の他に、第2の触媒を必ず含む必要がある。さらに、金属触媒中における第2の触媒の含有割合を上述した範囲内とすることが、エチレンを高い選択率で製造するうえで効果的である。
また、第1の触媒における、マンガンと鉄の比率は、マンガン:鉄=1:10~10:1であることが好ましい。
【0022】
金属触媒は、マンガンと、鉄と、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびナトリウムのうち少なくともいずれかとを主体として構成されるが、例えば、金属触媒の製造に起因した他の化合物等が、金属触媒中に含まれていてもよい。
【0023】
金属触媒の形態は、特に限定されず、例えば、粒状であってもよいし、膜状であってもよい。金属触媒は、粒状である場合は、小粒径であることが好ましい。小粒径であることにより、触媒の表面積が増大し、一酸化炭素及び水素からメタノールへの変換を効率よく行うことができる。
【0024】
金属触媒が粒状である場合、金属触媒粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.001~1000μmであることが好ましく、0.01~500μmであることがより好ましく、0.01μm~10μm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が上記範囲内であれば、第1~第4の触媒間の物質移動が加速されるとともに、原料ガスの流通抵抗を低く維持することができる。平均粒子径は、例えば、X線回折法によって求めることができる。
【0025】
金属触媒の比表面積は、特に限定されないが、例えば、0.01m/g以上2000m/g以下が好ましく、0.1m/g以上1000m/g以下がより好ましく、0.5m/g以上500m/g以下がさらに好ましい。比表面積が上記範囲内であれば、水素と一酸化炭素との反応のための活性点を十分に供給することができるとともに、金属触媒内で一酸化炭素と水素との分圧差が生じることを抑制できる。これにより、一酸化炭素及び水素からメタノールへの変換を効率よく行うことができる。触媒の比表面積は、例えば、Brunauer-Emmett-Teller(BET)法により算出することができる。
【0026】
金属触媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、エチレン製造用触媒全量基準で、例えば、1質量%以上95質量%以下が好ましく、2質量%以上80質量%以下がより好ましく、10質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
金属触媒は、該金属触媒に含有される金属の塩類などを共沈などの手段を用いて複合化することにより、分子レベル又はナノレベルで複合化することにより得ることが好ましい。第1の触媒及び第2の触媒を分子レベル又はナノレベルで複合化することにより、一酸化炭素及び水素からメタノールへの変換を効率よく行うことができる。
【0028】
<ゼオライト触媒>
本発明のエチレン製造用触媒は、第3の触媒成分として少なくとも1種以上のゼオライトを含むゼオライト触媒を含む。
ゼオライトの種類としては、特に制限はなく、例えば、ITQゼオライト、ZSM-5ゼオライト、SAPOゼオライト、FERゼオライト、およびMORゼオライトから選択される1種以上のゼオライトが挙げられる。
中でも、ITQゼオライト、ZSM-5ゼオライト、及びFERゼオライトが好ましく、ITQゼオライト、及びZSM-5ゼオライトがより好ましく、ITQゼオライトがさらに好ましい。
【0029】
<<ITQゼオライト>>
ITQゼオライトとしては、例えば、ITQ-2ゼオライトが挙げられる。
ITQ-2以外のITQゼオライトとしては、例えば、ITQ-1、ITQ-3、ITQ-4、ITQ-6、ITQ-7、ITQ-8、ITQ-9、ITQ-10、ITQ-13、ITQ-17、ITQ-21、ITQ-22、ITQ-24、ITQ-27、ITQ-28、ITQ-29、ITQ-30、ITQ-32、ITQ-37、及びITQ-39等のゼオライトが挙げらる。
ITQゼオライトは、上述したITQゼオライトのうち、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ITQゼオライトの中でも、ITQゼオライトがITQ-2ゼオライトであることがより好ましい。
【0030】
<<<ITQ-2ゼオライト>>>
ITQ-2は、層状ゼオライト前駆体であるMCM-22(P)を水酸化ナトリウムなどの強アルカリを用いて層間を膨潤させて剥離し、しかる後に焼成して得られる、10員環と12員環の2種類の細孔から構成される互いに交わることのない2次元細孔を有するナノシート状のゼオライトであり、例えば国際公開第2009/136547号に記載の方法により得ることができる。
【0031】
ITQ-2ゼオライトのアルミニウム原子に対するシリカ原子のモル比(Si/Al比)は、特に限定されず、例えば、10以上1000以下、好ましくは20以上900以下である。Si/Al比が上記範囲内であれば、耐熱性、反応選択性に優れ、特にメタノールからエチレンへの変換を効率よく行うことができる。
【0032】
<<ZSM-5ゼオライト>>
ZSM-5(Zeolite Socony Mobil-5)ゼオライトは、10員環から構成される3次元細孔を有する、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)でデータベース化されている骨格の構造コードがMFI型のアルミノシリケートゼオライトである。
【0033】
ZSM-5ゼオライトのアルミニウム原子に対するシリカ原子のモル比(Si/Al比)は、特に限定されず、例えば、10以上1000以下、好ましくは20以上900以下である。Si/Al比が上記範囲内であれば、耐熱性、反応選択性に優れ、特にメタノールからエチレンへの変換を効率よく行うことができる。
【0034】
<<SAPOゼオライト>>
SAPOゼオライトは、シリコアルミノホスフェート型ゼオライトである。SAPOゼオライトは、特に限定されず、例えば、SAPO-5、SAPO-11、SAPO-17、SAPO-18、SAPO-31、SAPO-34、SAPO-35、SAPO-41、SAPO-42、及びSAPO-44等のゼオライトが挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
<<FERゼオライト>>
FERゼオライトは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)でデータベース化されている骨格の構造コードがFER型のアルミノシリケートゼオライトである。
【0036】
<<MORゼオライト>>
MORゼオライトは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)でデータベース化されている骨格の構造コードがMOR型のアルミノシリケートゼオライトである。
【0037】
ゼオライト触媒の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、0.01μm以上1000μm以下、好ましくは0.02μm以上200μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上100μm以下である。平均粒子径が上記範囲内であれば、第1~第4の触媒間の物質移動が加速され、且つ原料ガスの流通抵抗を低く維持することができる。
【0038】
ゼオライト触媒の比表面積は、特に限定されず、例えば、1m/g以上1000m/g以下、好ましくは10m/g以上800m/g以下、さらに好ましくは100m/g以上700m/g以下である。比表面積が上記範囲内であれば、メタノールの反応およびエチレンの合成のための活性点を十分に供給することができる。
【0039】
ゼオライト触媒の含有量は、特に限定されず、エチレン製造用触媒全量基準で、例えば5質量%以上99質量%以下、好ましくは20質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下である。
【0040】
本発明のエチレン製造用触媒は、触媒活性をより高める観点から、上述した第1の触媒及び第2の触媒を含む金属触媒、並びに第3の触媒であるゼオライト触媒以外に、第4の触媒を更に含んでもよい。
【0041】
<第4の触媒>
第4の触媒は、触媒成分として、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、セリウム(Ce)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)のうちの1種以上を含む。
【0042】
第4の触媒に含まれるV、Cr、Zr、Cu、Ni、Ce、Pd、Ru、Rh、Al、Si、Pt、Mo、及びGaは、特に限定されず、金属、金属を含む酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、オキソ酸、オキソ酸塩等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
具体的には、第4の触媒の触媒成分としては、例えば、酸化クロム(III)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化銅(II)、酸化ニッケル(II)、酸化セリウム(IV)、酸化パラジウム(II)、酸化ルテニウム(V)、酸化ロジウム(III)、酸化アルミニウム(III)、二酸化ケイ素、酸化白金(IV)、酸化モリブデン(VI)、酸化ガリウム(III)、白金等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
第4の触媒は、V、Cr、Zr、Cu、Ni、Ce、Pd、Ru、Rh、Al、Si、Pt、Mo、及びGaのうちの1種以上を含む上述した金属化合物を主体として構成されるが、第4の触媒の製造に起因した他の化合物等が、第4の触媒中に含まれていてもよい。
【0045】
第4の触媒の形態は、特に限定されず、例えば、粒状であってもよいし、膜状であってもよい。第4の触媒が粒状の場合は、小粒径であるのが好ましい。小粒径であることにより、活性点を十分に供給することができ、一酸化炭素及び水素からメタノールへの変換を効率よく行うことができる。
【0046】
第4の触媒の平均粒子径、及び比表面積は、特に限定されず、例えば上記金属触媒で説明した好ましい範囲の値とすることができる。
【0047】
第4の触媒が含まれる場合、第4の触媒の含有量は特に限定されず、第1の触媒及び第2の触媒と、第4の触媒の総重量に対して、例えば、0.01質量%以上99質量%以下、好ましくは0.1質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上50質量%以下である。
【0048】
第4の触媒は第1の触媒及び第2の触媒と共沈などの手段を用いて複合化することにより、分子レベル又はナノレベルで複合化することが好ましい。第1の触媒及び第2の触媒と第4の触媒を分子レベル又はナノレベルで複合化することにより、一酸化炭素及び水素からメタノールを経由してエチレンへの変換を効率よく行うことができる。
第1の触媒、第2の触媒、及び第4の触媒が複合化してなる金属触媒の平均粒子径や比表面積の好ましい範囲も、上記金属触媒で説明したのと同様の範囲とすることができる。
【0049】
<その他の任意の成分>
エチレン製造用触媒は、成形性を向上させる観点から、本発明の効果を損なわない限り、成形助剤等のその他の任意の成分を含有していてもよい。成型助剤は、例えば、増粘剤、界面活性剤、保水剤、可塑剤、バインダー原料等からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。また、エチレン製造用触媒は、本発明の効果を損なわない限り、他の有用な成分を含有してもよい。
【0050】
上述したように、本発明のエチレン製造用触媒は、第1及び第2の触媒を含む金属触媒と、第3の触媒であるゼオライト触媒とを含む。さらに、エチレン製造用触媒中において、第1~第3の触媒に加え第4の触媒を含んでもよい。
【0051】
エチレン製造用触媒中において、触媒の複合状態は特に限定されず、例えば、第1~第4の触媒が粒状である場合、物理的に混合されていることができる。あるいは、第1~第4の触媒が膜状である場合、第1~4の触媒は積層されていてもよい。なお、本発明の有機化合物製造用触媒が任意の第4の触媒を含む場合であっても、上述した複合状態であることができる。
【0052】
製造時に金属触媒の含有量(第1の触媒及び第2の触媒と任意の第4の触媒の合計量)に対するゼオライト触媒の含有量(第3の触媒の合計量)の割合を適正化するには、第1~第4の触媒の混合時の質量を調整することで、行うことができる。混合された後の触媒において、当該割合は、例えば、走査型高周波誘導結合プラズマ法(ICP)を用いて求めることができる。
【0053】
以上説明した本発明のエチレン製造用触媒は、一酸化炭素と水素を原料として用い、高選択率でエチレンを得ることができるものである。
【0054】
<触媒の特性>
<<エチレン選択率>
本発明のエチレン製造用触媒を用いると、選択率が50%以上という高い選択率でエチレンを製造することができる。
本発明のエチレン製造用触媒のエチレンの選択率は、上述したように50%以上であるが、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
後述する実施例でも記載のとおり、エチレン製造用触媒中のゼオライト触媒として、FERを用いた実施例3では、エチレンの選択率が73.7%であり、ITQ-2を用いた実施例1及びZSM-5を用いた実施例2では、エチレンの選択率が100%であった。このように、本発明のエチレン製造用触媒は高いエチレン選択率を示す。
尚、エチレン選択率は、以下のようにして求めることができる。
一酸化炭素及び水素を含む原料ガスを、本発明のエチレン製造用触媒に接触させ、反応させることにより得られた反応生成物を、ガスクロマトグラフィーで分析する。該分析により得られた各成分の濃度より、以下の式でエチレンの選択率(%)を算出する。
【0055】
【数1】
【0056】
<<MTO反応経路>>
本発明のエチレン製造用触媒は、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路によりメタノールを経由してエチレンを製造する触媒である。本発明のエチレン製造用触媒は、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応によるエチレンを製造する触媒ではないため、FT反応における副生成物であるCOは発生しない。COを発生させずにエチレンを製造することができるため、本発明のエチレン製造用触媒は利用価値が高い。
本発明のエチレン製造用触媒における金属触媒により、高選択率でメタノールを製造することができる。そして、本発明のエチレン製造用触媒におけるゼオライト触媒により、メタノールからエチレンを高い選択率で製造することができる。
上記特許文献1は、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応により低級オレフィンを製造する際におけるCOの選択率を低くすること等を目的にしているが、該特許文献1の実施例1では、低級オレフィンの選択率は、41.2%であると記載されている。
また、上記特許文献2は、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応における触媒の活性化時間の短縮等を目的にしている([0012]参照)が、該特許文献2の表1中の「FeNa ZSM-5(80)」を用いた際の結果では、C2-C4の炭素水素分布は、49%であると記載されている。
このように、特許文献1や特許文献2は、FT反応により低級オレフィンを製造する方法であり、該特許文献1や特許文献2では、エチレンを高選択率で製造することはできない。一方、本発明のエチレン製造用触媒を用いると、以下の実施例でも示す通り、エチレンの選択率がいずれの実施例も70%を超えており、非常に高い選択率でエチレンを製造できる。
【0057】
<<アモルファス状態>>
本発明のエチレン製造用触媒における金属触媒は、アモルファス状態の金属触媒粒子からなる。
金属触媒中の第1の触媒である鉄(Fe)は、通常、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応に寄与するが、本発明では、鉄(Fe)が、第1の触媒のマンガン(Mn)や第2の触媒と、原子レベルで混合しており、金属触媒粒子がアモルファス状態で存在しているため、本発明に係る金属触媒は、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応ではなく、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応を経由する触媒になっているものと推察される。
ここで、金属触媒粒子がアモルファス状態で存在するとは、第1の触媒の鉄(Fe)およびマンガン(Mn)と第2の触媒とが、原子レベルで混合しており、その結果、金属酸化物等の特定のX線回折(XRD)パターンを示さない状態のものをいう。X線回折(XRD)を測定し、回折ピークが認められなければ、アモルファス状態であると判断することができる。
なお、回折ピークが認められないとは、例えば、回折ピークが検出下限以下であることをいう。例えば、検出下限(S/N比3)以下であることをいう。
例えば、24.2、33.2、35.1degreeにFe酸化物由来の回折ピークがない、32.96、37.1、62.10、68.40degreeにMg酸化物由来の回折ピークがない、28.5、37.5、56.5degreeにMn酸化物由来の回折ピークがない等を確認することで、金属触媒粒子がアモルファス状態であるか否かが確認できる。
本発明に係る金属触媒に対し、X線回折(XRD)で測定した場合の測定結果の一例を図1に示す。
図1で示すように、回折ピークが認められず、測定対象の金属触媒における金属触媒粒子はアモルファス状態であることがわかる。
【0058】
(エチレン製造用触媒の製造方法)
本発明のエチレン製造用触媒の製造方法は、特に限定されず、例えば、第1の触媒と第2の触媒と第3の触媒とを混合する工程を含む。
つまり、本発明のエチレン製造用触媒を製造する方法は、
“(i)第1の触媒および第2の触媒を混合した混合物を含む金属触媒と、
(ii)第3の触媒と、を混合する工程を含む、エチレン製造用触媒の製造方法”である。
【0059】
本発明のエチレン製造用触媒の製造方法は、第1の触媒と第2の触媒と第3の触媒と第4の触媒とを混合する工程を含んでもよい。
【0060】
具体的には、例えば、第1の触媒及び第2の触媒を含む溶液と、第3の触媒を含む溶液とを混合する。溶媒を除去した後、残留した第1~第3の触媒を含む固形物を焼成する工程を含む方法によって、エチレン製造用触媒を得ることができる。
あるいは、第1の触媒及び第2の触媒を含む溶液に貧溶媒、あるいは酸、アルカリを添加して第1の触媒及び第2の触媒を共沈させて複合化し、第3の触媒と混合して、さらに焼成して本発明のエチレン製造用触媒を得ることができる。
あるいは、第1の触媒及び第2の触媒を含む金属触媒と、第3の触媒であるゼオライト触媒をそれぞれ用意し、これら金属触媒とゼオライト触媒とを混合することにより、本発明のエチレン製造用触媒を得ることができる。この場合、金属触媒は、例えば、第1の触媒及び第2の触媒を含む溶液に貧溶媒、あるいは酸、アルカリを添加して第1の触媒及び第2の触媒を共沈させて複合化し、焼成することにより得ることができる。一方、ゼオライト触媒は、通常知られている作製方法を用いることができ、例えば、所望の各種構成成分を含む混合溶液に対し、乾燥、焼成工程を施したり、酸を添加して得られた固形物をろ過、乾燥、焼成工程を施したりして、得ることができる。得られた金属触媒とゼオライト触媒とを、例えば、乳鉢混合することで、エチレン製造用触媒を調製する。
【0061】
また第4の触媒を含む場合は、例えば、同じように、第1の触媒、第2の触媒、及び第4の触媒を含む溶液と、第3の触媒を含む溶液とを混合する。溶媒を除去した後、残留した第1~第4の触媒を含む固形物を焼成する工程を含む方法によって、エチレン製造用触媒を得ることができる。
あるいは、第1の触媒及び第2の触媒を含む溶液と第4の触媒を含む溶液とを混合し、しかる後に貧溶媒、あるいは酸、アルカリを添加して第1の触媒及び第2の触媒と第4の触媒とを共沈させて複合化し、第3の触媒と混合して、さらに焼成して本発明のエチレン製造用触媒を得ることができる。
あるいは、第1の触媒、第2の触媒、及び第4の触媒を含む金属触媒と、第3の触媒であるゼオライト触媒をそれぞれ用意し、これら金属触媒とゼオライト触媒とを混合することにより、本発明のエチレン製造用触媒を得ることができる。
【0062】
本発明の触媒を含む溶液は、水溶液であることが好ましい。水溶液は、水と相溶する有機溶媒を含有していてもよい。水と相溶する有機溶媒としては、例えば、炭素数1~4のアルコールなどが挙げられる。
溶液は、溶媒以外に、例えば、配位子などが含有されていてもよい。
混合(複合化処理)は、例えば乳鉢、ボールミル、自動混練器等により行うことができる。
【0063】
固形物を焼成する際の焼成温度は、特に限定されず、300℃以上600℃以下であってよい。焼成温度が300℃以上であれば、長期間の使用に耐えられる熱安定性が得られ易く、高い触媒活性を有する触媒が得られ易い。また、焼成温度が600℃以下であれば、触媒が多孔質を形成し易い傾向がある。焼成時間は特に限定されず、0.1時間以上24時間以下であってよい。
【0064】
焼成する工程終了後、得られた焼成物に対して、適宜に後処理を行ってよい。
後処理として、例えば、得られた焼成物を洗浄及びろ過することを行ってよい。
洗浄は、例えば、水、又は水とアルコールとの混合液を用いて行うことができる。
【0065】
ろ過後は適宜に乾燥させることができる。ここで、乾燥は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよいが、効率向上の観点から減圧下で行うことが好ましい。また、乾燥する場合の温度は、例えば20℃以上100℃以下であってよい。乾燥する場合の乾燥時間は、例えば0.1時間以上24時間以下であってよい。
【0066】
エチレン製造用触媒の製造方法として、より具体的には、以下の方法を挙げることができる。
例えば、鉄、マンガン及びマグネシウム含有水溶液をそれぞれ調製し、それらを一緒に混合して混合溶液を作製する。
混合溶液を得た後、例えば、炭酸ナトリウム(NaCO)のようなアルカリを添加し、第1の触媒及び第2の触媒を共沈させて沈殿物を得る。
次に、沈殿物を濾別、回収した後、該沈殿物を乾燥させ、続いて焼成することにより鉄-マンガン-マグネシウムの複合粉末からなる金属触媒を得る。
ここで、沈殿物の乾燥は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよいが、効率向上の観点から減圧下で行うことが好ましい。また、乾燥する場合の温度は、例えば20℃以上120℃以下であってよい。乾燥する場合の乾燥時間は、例えば0.1時間以上24時間以下であってよい。
沈殿物を乾燥した後行う焼成は、特に限定されず、300℃以上600℃以下であってよい。焼成温度が300℃以上であれば、長期間の使用に耐えられる熱安定性が得られ易く、高い触媒活性を有する触媒が得られ易い。また、焼成温度が600℃以下であれば、触媒が多孔質を形成し易い傾向がある。焼成時間は特に限定されず、0.1時間以上24時間以下であってよい。
一方、ゼオライト触媒については、通常知られている方法を用いて合成したり購入するなどして、ITQゼオライト、ZSM-5ゼオライト、SAPOゼオライト、FERゼオライト、およびMORゼオライトから選択される1種以上であるゼオライトを含むゼオライト触媒を用意する。
そして、金属触媒とゼオライト触媒とを混合し、複合化することにより、エチレン製造用触媒を得る。
ここで、混合(複合化処理)は、例えば乳鉢、ボールミル、自動混練器等により行うことができる。
【0067】
(エチレンの製造方法)
エチレンの製造は、一酸化炭素および水素を含む原料ガスを、本発明のエチレン製造用触媒と接触させることにより行うことができる。
本発明のエチレン製造用触媒を用いると、一酸化炭素および水素を含む原料ガスを、メタノールを経由してエチレンを製造する、メタノール-ツー-オレフィン(MTO)反応経路を利用してエチレンを製造することになる。
【0068】
原料ガスである一酸化炭素は、特に限定されないが、二酸化炭素を再生可能エネルギー由来の電力を用いて電解還元して得られた一酸化炭素であるのが好ましい。また、原料ガスである水素は、特に限定されないが、水を再生可能エネルギー由来の電力を用いて電解して得られた水素であるのが好ましい。これにより、温室効果ガスの排出を全体としてより一層抑えることが可能となる。
その他、廃プラスチックなどの可燃性廃棄物や、バイオマスを不完全燃焼することにより、発生する排ガス中の一酸化炭素と水素、または天然ガスに含まれるメタンなどの低分子炭化水素を水蒸気改質やドライリフォーミングすることにより、得られる一酸化炭素および水素を原料ガスとして用いることもできる。
【0069】
原料ガスである一酸化炭素および水素は別個に供給されてもよいが、通常これらの混合ガスとして供給される。原料ガスは、一酸化炭素と水素以外の他の化合物が含有されていてもよい。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス、二酸化炭素等が更に含有されていてもよい。一酸化炭素と水素の原料ガスは、一酸化炭素と水素の合計が全体の50体積%以上であるガスが生産性の観点から好ましい。
【0070】
原料ガス中の水素と一酸化炭素の体積比(水素/一酸化炭素)は、常温常圧の標準状態において、0.2以上5以下が好ましく、1以上4以下がより好ましい。水素/一酸化炭素の体積比が上記範囲内であれば、一酸化炭素の水素化反応が十分に進行し易い。
また、二酸化炭素が原料ガスに含まれる場合、原料ガス中の水素と二酸化炭素の体積比(水素/二酸化炭素)は、0.1以上10以下が好ましい。
【0071】
原料ガスとエチレン製造用触媒との接触に用いられる反応器としては、特に限定されず、例えば、固定床、噴流床、流動床等の一般的な気相合成プロセス用反応器、スラリー床等の液相合成プロセス用反応器およびマイクロチャネル反応器等が挙げられる。
【0072】
エチレンを製造する反応を行う際には、原料ガスを供給してエチレンを製造する前に、水素ガス等の還元性ガスを流通させて当該触媒の還元処理を行うことができる。このような還元処理は、特に限定されないが、例えば150~600℃の温度で、1~48時間行うことができる。
【0073】
エチレンの製造時における条件は、特に限定されず、反応器の種類に応じて条件を設定することができる。
またエチレンを製造する反応を行う際には、原料ガスをエチレン製造用触媒と接触して得られたエチレンを含む生成ガスを再度、エチレン製造用触媒に接触させても構わない。これにより原料ガスがエチレンに転化する収率を高くすることが出来る。なお、本生成ガスを本触媒に複数回接触する際は、生成ガス単独でも構わないし、本生成ガスと原料ガスを混合しても構わない。
【0074】
例えば、エチレンを製造する反応時における反応温度は、特に限定されず、200~300℃、好ましくは230~270℃、さらに好ましくは250℃前後の温度であることができる。また、反応時における系内の圧力は、特に限定されないが、例えば、0.1~10MPa、好ましくは0.5~5MPaさらに好ましくは0.8~1.2MPa、特に好ましくは1MPa前後であることができる。さらに、本発明の触媒を用いてエチレンを製造する反応時における反応時間は、少なくとも1秒以上、好ましくは5秒以上であれば、特に限定されない。
【0075】
例えば、エチレンを製造する反応時におけるガス空間速度(GHSV)は、特に限定されず、10h-1以上が好ましく、100h-1以上がより好ましい。GHSVが10h-1以上であれば、反応器サイズをより小さくできる。また、GHSVは100,000h-1以下が好ましく、50,000h-1以下が好ましい。GHSVが100,000h-1以下であれば、エチレンの選択率がより高くなる傾向がある。ここで、GHSVとは、反応器における、エチレン製造用触媒の容量Vに対する原料ガスの供給速度(供給量/時間)Fの比(F/V)である。なお、ガス及び触媒の使用量は、反応条件、触媒の活性等に応じて更に好ましい範囲を適宜選定してよく、GHSVは上記範囲に限定されるものではない。
【0076】
なお、一酸化炭素と水素を原料とするメタノール合成反応は発熱反応であり、メタノールからエチレンへの変換は吸熱反応であることから、メタノール合成反応における発熱をメタノールからエチレンへの変換に利用することにより、熱の効率的な利用が図れるため、環境負荷低減に資するエチレンの製造方法を提供することができる。
【実施例0077】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0078】
(第3の触媒の調製)
<ITQ-2ゼオライトの調製>
二酸化ナトリウムアルミニウム(富士フイルム和光純薬製)4.6gとNaOH(富士フイルム和光純薬製)3gを620gの脱イオン水に溶解させた。この溶液にヘキサメチレンイミン(Flourochem製)38gとSiO(Aerosil 200、Degussa製)46gを撹拌しながら加え、30分間保持した。得られた混合溶液をステンレス製オートクレーブ内のテフロン(登録商標)ボトルに導入し、100rpmで撹拌しながら、140℃で24時間加熱した。得られた固形物を数回洗浄し、110℃で一晩乾燥させた後、大気中550℃で4時間焼成することによりMCM-22(ITQ-2前駆体)を合成した。
【0079】
次に、臭化セチルトリメチルアンモニウム(富士フイルム和光純薬製)34gとテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(40%水溶液、富士フイルム和光純薬製)37gを脱イオン水100gに溶解させた。この溶液に、先に合成したMCM-22を6g添加した後、80℃に加熱したオイルバスの中で16時間撹拌した。得られた混合物を超音波発生器内に60分間保持し、次に1Mの塩酸をpHが2になるまで加えた。得られた固形物をろ過し、70℃で乾燥させた後、大気中550℃で8時間焼成することで、ITQ-2ゼオライトを得た。
【0080】
<ZSM-5ゼオライトの調製>
ZSM-5ゼオライト(ZEOLYST社製、型番:CBV 5524G)を用意した。
市販のZSM-5は、アンモニウム型であるため、酸処理したものを用いた(表1では、H-ZSM-5(プロトン型)と表記する)。
【0081】
<FERゼオライトの調製>
FERゼオライト(ZEOLYST社製、型番:CP914C)を用意した。
市販のFERは、アンモニウム型であるため、酸処理したものを用いた(表1では、H-FER(プロトン型)と表記する)。
【0082】
(エチレン製造用触媒の調製)
<調製例1:鉄-マンガン-マグネシウム複合触媒、及びエチレン製造用触媒の調製>
硝酸鉄九水和物(富士フイルム和光純薬製)を水500mLに溶解し、硝酸マンガン(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)を水500mLに溶解し、硝酸マグネシウム六水和物(富士フイルム和光純薬製)を水100mLに溶解し、鉄、マンガン及びマグネシウム含有水溶液をそれぞれ調製した。
次いで、前記の3種類の水溶液を鉄、およびマンガンの質量比が表1記載の質量比になるように、分取、混合して200gの鉄、マンガン、マグネシウム混合溶液を調製した。その後、該水溶液にpH=7になるまで、0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液を滴下し、鉄とマンガンとマグネシウムを共沈させて、該沈殿物を濾別、回収した。該沈殿物を110℃で12時間真空乾燥した後、続いて400℃で4時間焼成して、鉄-マンガン-マグネシウムの複合粉末を得た。次に、該鉄-マンガン-マグネシウムの複合粉末、及び調製例1のITQ-2ゼオライトを表1記載の質量比で秤量し、メノウ乳鉢を用いて複合化処理を行い、表1の調製例1に記載のエチレン製造用触媒を調製した。
【0083】
<調製例2~5>
調製例1において、第3触媒の種類、及び第1触媒~第3触媒の混合割合を表1に示すように変えた以外は、調製例1と同様にして、表1に記載の調製例2~5に記載のエチレン製造用触媒を調製した。
尚、表1中、Mは、第2触媒における金属種を表す。例えば、調製例1のMは、マグネシウムを表す。
【0084】
<比較調製例1>
調製例1において、第2触媒を含有させないこと以外は、調製例1と同様にして、表1に記載の比較調製例1に記載のエチレン製造用触媒を調製した。
【0085】
【表1】
【0086】
(エチレンの製造)
(実施例1~5、比較例1)
表1に記載のエチレン製造用触媒を用いて、一酸化炭素および水素から、エチレンを合成し、CO転化率と、各有機化合物の選択率を測定することにより、エチレン製造用触媒の触媒性能を評価した。
【0087】
表1に記載のエチレン製造用触媒500mgを、反応装置の内径12mmの石英製反応管(固定床反応器)の中央に設置し、石炭ウールで触媒の位置を固定した。反応管を窒素雰囲気に置換した後、次いで水素ガスを40mL/minで流しながら350℃に昇温した。続いて、水素ガスと一酸化炭素ガスとを、下記の反応条件(原料ガス比、空間速度(GHSV))で供給し、上記反応管の供給ガスの温度、ならびに圧力を下記の反応条件に記載の値に制御した。
・反応条件
原料ガス比:H/CO(体積比)=2/1
空間速度(GHSV):1000(hr-1
供給ガスの温度:250
反応管の圧力:1MPa
【0088】
生成物は、ガスクロマトグラフィー(島津製、品番GC-2014)に注入した後、検出器(島津製、水素炎イオン化検出器、SH-Alumina BOND/NaSO 30m×0.32mmキャピラリーカラム)で分析した。
【0089】
分析による各成分の濃度より、以下の式でCO転化率(%)および各有機化合物の選択率(%)を算出し、エチレン製造用触媒が有する触媒としての機能を評価した。
なお、測定対象の有機化合物は、メタン(CH)、エチレン(C)、エタン(C)、プロピレン(C)、プロパン(C)、ブテン(C)、ブタン(C10)、メタノール(CHOH)、その他炭化水素(C5+)とし、各有機化合物の選択率(%)は、これら測定対象の有機化合物の合計体積量から算出した。その結果を表2に示す。
【0090】
【数2】
【0091】
【数3】
【0092】
(参考例1~2)
上記特許文献1及び2に記載の触媒を用いて、一酸化炭素および水素から、エチレンを含む有機化合物を合成した場合の結果を参考のため、表2に記載する。
参考例1は、特許文献1の実施例1を記載したものであり、参考例2は、特許文献2の表1に記載の実施例を記載したものである。
【0093】
【表2】
【0094】
表2で示すように、実施例1~5の触媒は、一酸化炭素及び水素を原料として用い、エチレンを高選択率で製造できるものであった。

図1