(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】異質核粒子を含有した3次元積層造形用粉末、それを用いた造形体およびその造形体の製造方法。
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220128BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220128BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20220128BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20220128BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220128BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220128BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220128BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20220128BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20220128BHJP
【FI】
B22F1/00 V
C22C21/00 N
C22C14/00 Z
B22F1/14 500
B22F1/00 R
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 T
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y80/00
B22F10/25
B22F10/28
(21)【出願番号】P 2017213504
(22)【出願日】2017-11-06
【審査請求日】2020-10-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 「産学共創基礎基盤研究プログラム 革新的構造用金属材料創成を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築:ヘテロ凝固機構により高造形性・高強度を実現する積層造形用金属粉末の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義見
(72)【発明者】
【氏名】知場 三周
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】中野 禅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直子
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532773(JP,A)
【文献】特開2015-071189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
C22C 21/00
C22C 14/00
B22F 1/00
B22F 3/105
B33Y 70/00
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元構造体を造形するため原料として用いる金属粉末の必要となる部分を溶融・凝固し、これを繰り返し行う3次元積層造形法に用いる前記金属粉末
の製造方法であって、
前記金属粉末は、母材金属粉末と、前記母材金属粉末の融点より高い融点を有し、前記母材金属粉末に対する原子配列の整合性が高い少なくても一種類の異質核粒子を含
み、
前記異質核粒子が、式(1)で表される平面不整合度10%以下、あるいは式(2)で表されるパラメータMが25×10
-3
以下であるように選択される工程を含む、ことを特徴とする3次元積層造形用金属粉末
の製造方法。
【数1】
(式中の(hkl)sは異質核粒子の低次指数面、[uvw]sは(hkl)s面の低次指数方向、(hkl)nは核生成する金属の低次指数面、[uvw]nは(hkl)n面の低次指数方向、d[uvw]sは[uvw]s方向に沿った原子間距離、d[uvw]nは[uvw]n方向に沿った原子間距離、θは[uvw]sと[uvw]nとの間の角度を表している。)
【数2】
(式中、εxおよびεyはそれぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸xおよびyに沿った主軸ひずみであり、εxおよびεyは以下の式(3)および(4)で算出される。)
【数3】
【数4】
(式中、xi、yiおよびxj、yjはそれぞれ物質iおよび物質jの主軸ひずみ方向であり、aiおよびajはそれぞれ物質iおよび物質jの格子定数である。)
【請求項2】
前記母材金属粉末に対する前記異質核粒子の体積率は1.0%以下とする、請求項
1に記載の3次元積層造形用金属粉末
の製造方法。
【請求項3】
前記母材金属粉末はTi合金粉末、マルエージング鋼粉末、ニッケル合金粉末、純アルミニウムおよびアルミニウム合金粉末から選択される一種類の金属粉末である、請求項1
または2に記載の3次元積層造形用金属粉末
の製造方法。
【請求項4】
前記異質核粒子はTiC、TiNおよびTiBから選択される少なくても一種類の、凝固の際、結晶成長の核として働く異質核物質である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の3次元積層造形用金属粉末
の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の3次元積層造形用金属粉末を原料として用い、前記3次元積層造形用金属粉末の母材金属粉末のみが溶融・凝固する造形条件により造形することで、前記異質核粒子が溶融した前記母材金属の結晶成長の核として働く積層造形法
を用いる3次元積層造形の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
金属の3次元積層造形技術において、母材金属粉末に対して異質核粒子を混合させた3次
元積層造形用金属粉末、およびその造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Additive manufacturing(AM)と呼ばれる新たな加工法
が注目されている。これは、Computer-aided design(CAD)に
よるデジタルデータに基づき、3次元構造物を造形する手法であり、日本では付加製造、
3次元積層造形法あるいは3Dプリンター技術と呼ばれている。
【0003】
我が国では、樹脂系の3次元積層造形法がいち早く実用化され、展示品や試作品の作製(
Rapid prototyping)などに利用されている。樹脂系の3次元積層造形
法では光硬化性樹脂や熱可逆性樹脂、つまり化学反応を利用して造形するため、造形速度
が速いという利点がある一方で、強度や耐久性に劣るという欠点を有している。そのため
、高強度や高耐久性が要求されるよりハイエンドな製品の製造を行う際には、金属の3次
元積層造形技術が求められる。しかしながら、金属の3次元積層造形技術は樹脂系のもの
と比較して大きく遅れているのが実情である。
【0004】
金属の3次元積層造形技術には大きく分けて、粉末床溶融法および指向性エネルギー堆積
法がある。粉末床溶融法では、ステージ上に均一に敷いた金属粉末に対して、CADによ
る3次元データのスライスデータに沿ってレーザーあるいは電子ビームを照射し、局所的
かつ選択的に金属粉末を溶融および凝固させ、これを繰り返し行うことで3次元構造体を
作製する手法である。一方、指向性エネルギー堆積法は、上記と同様にレーザーあるいは
電子ビームを熱源として利用するが、照射位置に直接金属粉末を供給する手法である。つ
まり、レーザークラッディング(肉盛溶接)と類似する3次元積層造形法である。
【0005】
上述の通り、金属の3次元積層造形法では、金属特有の溶融・凝固を素過程とする必要が
あるため、粉末の溶け残りや冷却時の体積収縮に起因する内部空孔が形成しやすい。また
、鋳造組織に類似する粗大な不均一組織(柱状組織)が形成して強度が低下すると同時に
力学特性に異方性が発生するという潜在的な問題を抱えている。加えて、融点の高い金属
を選択的に溶融する技術、またその時の金属酸化を防止する技術を装置に組み入れなけれ
ばならず、装置そのものが高額となる欠点もある。以上の理由から、金属の3次元積層造
形法は樹脂のものと比べて発展が遅れており、また、従来の加工法、製造法により作製さ
れた金属製品と比較して力学特性に劣るという欠点を有しているため、製品の適用範囲が
限定される。金属の3次元積層造形技術は今後さらに需要が拡大されることが予想される
ため、様々な場面や使用環境に対応可能な高品質な積層造形品の開発が望まれる。
【0006】
上記課題に対する現状の解決法に関して、さらに高出力のレーザーあるいは電子線を照射
可能な装置の改良、あるいは造形条件などの最適化がある。これらの解決法は、一定の効
果は得られるものの、金銭的あるいは時間的なコストを伴う。
【0007】
一方で、金属の3次元積層造形技術に用いられる従来の金属粉末に関しては粉末のコンデ
ィショニングなどは行われているものの、本質的な改良には至っていない。従来工業的に
応用されている他の加工技術では、その加工技術に適した材料開発が行われており、品質
やその特性が改善されている。3次元積層造形技術に関しても、同手法に特化した材料開
発により、品質やその特定の改善が見込まれる。以上を総括すると、3次元積層造形用金
属粉末の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】小関敏彦:溶接金属の凝固と凝固組織制御,溶接学会誌,70(2001)
【文献】渡辺義見,佐藤尚:小さい不整合度を有する異質核によるアルミニウム鋳造材の結晶粒微細化,軽金属,64(2014)
【文献】加藤雅治:まてりあ,56(2017)
【文献】岸輝雄:チタンテクニカルガイド,内田老鶴圃,(1993)
【文献】A. Simchi, H. Pohl: Mater. Sci. Eng.,A 359(2003)
【文献】J.M. Gregg, H.K.D.H. Bhadeshia:Acta Mater. 45 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は上記のような従来の問題を解決する。金属の3次元積層造形法において
問題となる、内部空孔などの欠陥形成の抑制、且つ、粗大な内部組織の形成を抑制するこ
とで造形体の品質を確保しつつ、エネルギー効率を高める3次元積層造形用の原料粉末、
それを用いた造形体およびその造形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)3次元構造体を造形するため原料として用いる金属粉末の必要となる部分を溶融・
凝固し、これを繰り返し行う3次元積層造形法に用いる前記金属粉末であって、母材金属
粉末と、前記母材金属粉末の融点より高い融点を有し、前記母材金属粉末に対する原子配
列の整合性が高い少なくても一種類の異質核粒子を含むことを特徴とする3次元積層造形
用金属粉末である。すなわち金属粉末は混合粉末である。
「3次元積層造形用金属粉末の必要となる部分を溶融・凝固し」とは、粉末床溶融法にお
いては均等に敷きつめられた粉末(粉末床)、指向性エネルギー堆積法においては供給ノ
ズルから供給される粉末に対して、予め作製したCADデータの2次元スライスデータに
沿って、レーザーあるいは電子線などの高エネルギービームを走査し、粉末を溶融・凝固
することである。3次元積層造形法ではこれを繰り返し行うことで、3次元構造体を造形
する。
【0011】
(2)前記異質核粒子が有する、式(1)で表される平面不整合度10%以下、あるいは
式(2)で表されるパラメータMが25×10
-3以下であることを特徴とする(1)に
記載の3次元積層造形用金属粉末である。
【数1】
(式中の(hkl)sは異質核粒子の低次指数面、[uvw]sは(hkl)s面の低
次指数方向、(hkl)nは核生成する金属の低次指数面、[uvw]nは(hkl)n
面の低次指数方向、d[uvw]sは[uvw]s方向に沿った原子間距離、d[uvw
]nは[uvw]n方向に沿った原子間距離、θは[uvw]sと[uvw]nとの間の
角度を表している。)
【数2】
(式中、ε
xおよびε
yはそれぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸
xおよびyに沿った主軸ひずみであり、ε
xおよびε
yは以下の式(3)および(4)で
算出される。)
【数3】
【数4】
(式中、x
i、y
iおよびx
j、y
jはそれぞれ物質iおよび物質jの主軸ひずみ方向であ
り、a
iおよびa
jはそれぞれ物質iおよび物質jの格子定数である。)
【0012】
(3)前記母材金属粉末に対する前記異質核粒子の体積率は1.0%以下とする、(1)
ないし(2)に記載の3次元積層造形用金属粉末である。ここで、異質核粒子は少なくて
も一種類であるから、例えば、異質核粒子が一種類であれば、母材金属粉末に対するその
一種類の異質核粒子の体積率は1.0%以下となる。また、異質核粒子が二種類であれば
、その二種類を合計した異質核粒子の母材金属粉末に対する体積率は1.0%以下となる
。すなわち「前記母材金属粉末に対する前記異質核粒子の体積率は1.0%以下」とは、
「前記母材金属粉末に対する合計した前記異質核粒子の体積率は1.0%以下」を意味す
る。
なお、前記異質核粒子は、前記母材金属粉末に対して微細、あるいは同程度の粒径をもつ
ことが望ましい。また、前記異質核粒子は前記母材金属粉末中に均一に分布するように混
合する。
(4)前記母材金属粉末はTi合金粉末、マルエージング鋼粉末、ニッケル合金粉末、純
アルミニウムおよびアルミニウム合金粉末から選択される一種類の金属粉末である、(1
)~(3)のいずれか一つに記載の3次元積層造形用金属粉末である。
【0013】
(5)前記異質核粒子はTiC、TiNおよびTiBから選択される少なくても一種類の
、凝固の際、結晶成長の核として働く異質核物質である(1)~(4)のいずれか一つに
記載の3次元積層造形用金属粉末である。
(6)(1)~(5)の何れか一つに記載の3次元積層造形用金属粉末を原料として用い
、前記3次元積層造形用金属粉末の母材金属粉末のみが溶融・凝固する造形条件により造
形することで、前記異質核粒子が溶融した前記母材金属の結晶成長の核として働く積層造
形法である。
【0014】
(7)(6)に記載する積層造形法により製造した造形体である。
【0015】
粉末床溶融法を利用した積層造形を行い、作製した構造体における内部空孔、内部組織あ
るいはビッカース硬度を評価し、前記金属粉末の有用性を確認する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による積層造形用粉末を用いることによって、内部空孔などの欠陥形成の抑制、且
つ、粗大な内部組織の形成を抑制した金属の3次元積層造形である造形体を得ることがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明における平面不整合度に対するパラメータMをプロットしたグラフである。
【
図2】本発明による金属用3次元積層造形法における高強度かつ高造形性を特徴とする造形体の製造の手順を示す図である。
【
図3】実施例1について、45μm以下の粒子径を有するTi-6Al-4V合金粉末に対して、2-5μmの粒子径を有するTiC粒子を0.3vol%混合して作製した積層造形用粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1について、造形を行う際のレーザーの描画条件の概略を示す図。図中の矢印はレーザー走査の方向を表す。
【
図5】実施例1について、108J/mm
3、182J/mm
3および404J/mm
3のエネルギー密度を用いて造形した無添加材およびS3-TiC添加材の内部の光学顕微鏡写真である。
【
図6】実施例1について、造形条件から変換したエネルギー密度に対して、無添加材およびTiC添加材において、アルキメデス法によって測定した相対密度(%)をプロットしたグラフである。
【
図7】実施例1について、540J/mm
3のエネルギー密度を用いて造形した(a)無添加材および(b)S3-TiC添加材の積層面において観察した内部組織である。
【
図8】実施例1について、造形条件から変換したエネルギー密度に対して、(a)造形体の積層面における旧β粒径のサイズ定量化結果および(b)ビッカース硬度測定結果をプロットしたグラフである。
【
図9】実施例2について、造形を行う際のレーザーの描画条件の概略を示す図である。図中の矢印はレーザー走査の方向を表す。
【
図10】実施例2について、625J/mm
3のエネルギー密度を用いて造形した(a)無添加材、(b)S10-TiC添加材、(d)M10-TiC添加材の鉛直断面において観察した内部組織の低倍写真、(c)および(e)はそれぞれS10-TiC添加材およびM10-TiC添加材の鉛直断面において観察した内部組織の高倍写真である。
【
図11】実施例2について、625J/mm
3のエネルギー密度を用いて造形した(a)無添加材、(b)S10-TiC添加材の鉛直断面において観察した内部組織である。
【
図12】造形条件から変換したエネルギー密度に対して、ビッカース硬度測定結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施
形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改
良を加え得るものである。
【0019】
本発明において、異質核生成理論に基づく新規3次元積層造形用金属粉末に関し、母材金
属よりも高い融点を有し、且つ、母材金属の初晶となる相に対して原子配列の整合性のよ
い異質核を予め混合した3次元積層造形用金属粉末を作製する。作製した粉末材料に対し
て、母材金属粉末のみを溶融するレーザーあるいは電子線などの高エネルギービームを照
射すると、母材金属粉末のみが溶融し、その後の冷却過程で凝固する際に異質核粒子が結
晶成長の核として働くことになる。また、溶融した母材金属に対して濡れ性が良好な場合
、異質核粒子のサイズや分布を最適化することで、同一造形条件において溶融領域の拡大
が達成され、様々な場所における均一な凝固が促進されることで、内部空孔の少ない高密
度な造形体の造形、および粗大かつ不均一な内部組織の発達を抑制することが可能となる
。また、異質核粒子が繰り返し入熱による粒成長に対して障害(ピン止め効果)となるこ
とも考えられ、造形後も微細な組織が保たれることが期待される。
【0020】
異質核生成理論に基づく組織制御は溶接工学や鋳造工学においても利用されている(非特
許文献1)。しかしながら、開示する本発明は、溶接工学や鋳造工学で用いられている手
法とは異なる。溶接工学では、主に対象となる金属は鉄鋼材料であり、酸化物のフラック
スや酸化物を含んだワイヤを用いたり、シールドガスに酸素ガスを用いたりすることで溶
接部に多量の酸化物を形成し、これを核生成サイトにすることで微細な組織を得る。一方
鋳造工学では、金属溶湯中に異質核粒子を添加することで組織微細化を達成する。従って
、両者では、プロセス中に副次的な工程を挟むことが必要となる。
【0021】
上述の効果を発揮する異質核物質を選定、評価する指標として不整合度がある。不整合度
は10%以下であれば有効な異質核として働くとみなされている。また、凝固する金属と
異質核粒子の結晶構造が異なる場合も考慮されるため、式(1)で算出される平面不整合
度がその評価指標となり、同様に10%以下であれば有効な異質核とされる。この場合、
凝固する金属と異質核粒子間の方位関係は低指数面・方位のみを対象とする。
【数1】
式中の(hkl)sは異質核粒子の低次指数面、[uvw]sは(hkl)s面の低次
指数方向、(hkl)nは核生成する金属の低次指数面、[uvw]nは(hkl)n面
の低次指数方向、d[uvw]sは[uvw]s方向に沿った原子間距離、d[uvw]
nは[uvw]n方向に沿った原子間距離、θは[uvw]sと[uvw]nとの間の角
度を表している。
【0022】
最近、上述の平面不整合度だけではなく、弾性ひずみに近似的に比例するパラメータM(
式(2)で表される(非特許文献3))が異質核粒子の性能を評価する新たな指標として
採用されている。パラメータMは以下の式で算出され、この値が小さいほど核生成に必要
なエネルギーが小さくなるため、有効な異質核として働くとみなされている。
【数2】
式中、ε
xおよびε
yはそれぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸x
およびyに沿った主軸ひずみである。
【0023】
また、ε
xおよびε
yは以下の式(3)および(4)で算出される。
【数3】
【数4】
式中、x
i、y
iおよびx
j、y
jはそれぞれ物質iおよび物質jの主軸ひずみ方向であり
、a
iおよびa
jはそれぞれ物質iおよび物質jの格子定数である。
【0024】
パラメータMは低指数面・方位だけでなく、すべての結晶方位関係に対して、考慮するこ
とができる。また、パラメータMは異相界面に導入されるミスフィットひずみによる弾性
ひずみエネルギーに近似的に比例することから物理的意味合いをもつパラメータとなる。
【0025】
本発明では、上記の平面不整合度、あるいはパラメータMで表される原子配列の整合性評
価パラメータ、および融点の2種類のパラメータに用いて母材金属に対して有効な異質凝
固核となる異質核粒子を選定し、これを母材金属粉末に混合して作製した積層造形用金属
粉末を提供する。この際、母材金属に対して、高い融点を有し、且つ、パラメータMが2
5×10
-3となる化合物を異質核物質とする。ここでパラメータMの上限値は平面不整
合度に変換した際、有効な異質核として働く条件である10%以下となるものとし、後述
する実施例1において、異質核粒子の候補として挙げた金属間化合物、TiC、TiNお
よびTiBのパラメータMについて評価した結果から決定した。パラメータMを平面不整
合度に対してプロットしたグラフを
図1に示す。
【0026】
パラメータMによる評価について、例示を挙げて説明する。例えば、体心立方構造(b
cc)を有するTi-6Al-4V合金の初晶β相に対し、異質核として面心立方構造(
fcc)系の結晶構造を有するTiC粒子を考えた場合、Ti-6Al-4V合金のβ相
を純Tiのβ相の格子定数と同一であることを仮定すると、それぞれの格子定数は、β相
が0.328nm、TiCが0.4327nmである。凝固の際のβ相とTiCの界面が
それぞれの(100)面で平行となり、且つβ相の[011]方向とTiCの[001]
方向が平行となる結晶方位関係が成り立つことを考慮すると、式(2)、式(3)および
式(4)からεxおよびεyは共に0.0672となり、これによりパラメータMの値は
12.03×10-3となる。従ってこの場合、TiCはTi-6Al-4V合金の初晶
β相に対して有効な異質核となり得る。
【0027】
母材金属と異質核の界面における結晶方位関係は無数に考え得るが、本開示では、この
うち低指数面を考慮し、その中で値が最小のものを母材金属に対するその物質のパラメー
タMとする。
【0028】
このような積層造形用金属粉末を用いることで、内部空孔などの欠陥の少なく、微細な組
織を有する高品質な造形体の製造を可能とすることで、より低いエネルギーを有する熱源
においても造形を可能とし、積層造形プロセスの省エネルギー化を実現する点は本発明の
重要な特徴である。
【0029】
本発明は金属の積層造形法に共通した発明である。そのため、すべての金属積層造形技術
に応用が可能である点も本発明の特徴である。また、母材金属よりも高い融点を有し、上
記のパラメータMの条件を満たす異質核があれば、すべての金属あるいは合金種に対して
も適用可能な技術である点も本発明の重要な特徴である。
【0030】
段落[0029]で述べたように、本発明は金属の積層造形法に対して、広く効果を発現
することが期待されるが、本発明ではレーザーによる粉末床溶融法を例に挙げて開示する
積層造形用金属粉末の場合について示す。
【0031】
図2に基づいて、本開示に関わる粉末床溶融法による積層造形手法の説明を行う。初めに
粉末供給槽1に金属粉末2を充填する。積層ピッチ分だけベースプレート3を下降させて
、反対に粉末供給槽を積層ピッチ分だけ上昇させる(
図2(a))。リコーター4と呼ば
れるローラーによってベースプレート3上に混合粉末を敷きつめ、均一な粉面を形成する
(
図2(b))。ベースプレート3上部にあるレーザー源5から、予め作製した造形プロ
グラムに沿ってレーザー照射7することにより1層分の造形を行う(
図2(c))。造形
を繰り返すことにより造形体8が得られる(
図2(d))。
【0032】
母材金属に対する異質凝固核を探索する際は、原子配列の整合性に関しては(式2)で示
したパラメータMを用いて行う。母材金属粉末に対して融点が高く、原子配列の整合性の
高い異質凝固核粒子を添加した混合粉末を粉末混合装置によって均一に混合することで作
製する。以上により作製した混合粉末を積層造形用金属粉末とする。
【0033】
積層造形用金属粉末を用いて造形した造形体と、比較のために作製した母材金属粉末のみ
により造形した造形体について評価を行い、本開示により発明した異質凝固核を添加した
積層造形用金属粉末の有用性について示す。
【0034】
金属の積層造形に用いられる主な金属としては、Ti-6Al-4V、ニッケル合金、マ
ルエージング鋼、純アルミニウム、アルミニウム合金などがある。これらの金属の中から
初晶が体心立方晶(bcc)あるいは面心立方晶(fcc)の2通りの場合を考え、実施
例1では、初晶がbcc相であるTi-6Al-4Vを選択し、実施例2では、初晶がf
cc相である純アルミニウムを母材金属として選択した。段落[0029]で述べたよう
に、本発明は材料系が限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
Ti-6Al-4V合金は、α+β型チタン合金に分類され、航空宇宙分野においてエン
ジン部材に用いられる重要な合金である。α相の結晶構造は最密六方晶(hcp)、β相
は体心立方晶(bcc)である。Ti-6Al-4Vは、まずβ相が初晶として晶出する
。その後、変態点である995℃に相変態が生じてβ相がα相に変態し、最終的にα相と
β相の2相が室温で共存している状態になる(非特許文献4)。従って、Ti-6Al-
4Vを母相金属として選択した場合、Ti-6Al-4Vの初晶β相に対して原子配列の
整合性が高く、同合金に対して融点が高い異物質が異質核物質となる。
【0036】
そのため、Ti-6Al-4Vの初晶β相に対してのパラメータMを求める。表1にTi
を構成元素とした各種金属間化合物およびTiの炭化物、窒化物およびホウ化物であるT
iC、TiNおよびTiBの融点、結晶構造、格子定数および式(2)、式(3)および
式(4)を用いて算出したパラメータMを示す。従来用いられている平面不整合度につい
ても式(1)を用いて算出した値を合わせて示す。ここで、表1に示すパラメータMおよ
び平面不整合度は、Ti-6Al-4Vの初晶β相/異質凝固核における低指数面での方
位関係を仮定して算出している。表1に示すように、どの異質核物質においても平面不整
合度は10%以下を示しているため、異質核として有効に働くものと考えられる。その中
で、融点がTi-6Al-4Vより高く、また、パラメータMが小さいものとして、本発
明ではTiC粒子を選択した。
【表1】
【0037】
金属において合金の組成を損なうことは、望ましいことではないが、本発明における造形
体では、母材への異質核粒子の添加は非常に少ないものであるため組成の変化は非常に小
さいものになる。逆に、添加した異質核は凝固後においても、その後の積層造形時に付加
される不可避的加熱に伴う結晶粒成長をピン留めし、結晶粒の粗大化を防止することが期
待されるのみならず、転位の移動を妨げる強化相としての役割も望める。
【0038】
母材金属粉末としてTi-6Al-4V、異質核粒子としてTiCを選択して、それぞれ
を混合した3次元積層造形用粉末を作製する。Ti-6Al-4V粉末およびTiC粒子
は篩により粒度分布を揃え、Ti-6Al-4V粉末の粒径は45μm以下のものを選択
し、TiCの粒径は2-5μm、あるいは45μm以下のものを選択した。ここで、篩の
性質上、45μm以下とした粉末にも2-5μmの粒径を有する粉末が混入しているが、
その量は少ない。従って、母材金属粉末であるTi-6Al-4V粒子径と同等、あるい
は粒子径が1/10と、2つの粒子径についてその効果を調査した。また、Ti-6Al
-4Vは球状の粒子であるガスアトマイズ粉末、TiC粒子は多角形状の粒子である破砕
粉末である。なお、ガスアトマイズ粉末とは、ガスアトマイズ法により作製した粉末のこ
とで、溶融した金属を上段から流下させる際に高圧のガスを吹き付けることで粉末化する
手法により作製している。
【0039】
2-5μmのTiC粒子の添加量は0.1vol%、0.3vol%あるいは0.5vo
l%とし、45μm以下のTiC粒子の添加量は0.1vol%あるいは0.5vol%
とした。前記TiC粒子をTi-6Al-4V粉末とともに500mlの容器に入れ、タ
ーブラーミキサー粉末混合装置を用いて均一になるように1時間の混合を行った。作製し
た積層造形用粉末の一例を
図3に例示する。
図3はTi-6Al-4V粉末10に対して
、2-5μmのTiC粒子9を0.3vol%混合して作製した混合粉末の走査型電子顕
微鏡写真である。球状のTi-6Al-4V粒子10の表面にTiC粒子9が付着してい
る混合粉末11が観察できた。また、TiC添加の効果を示すため、TiC粒子9を混合
しないTi-6Al-4V粉末10についても準備し、造形に用いた。なお、添加する体
積率が同じ場合、TiC粒子9の粒径を小さくすると単位体積当たりに存在するTiC粒
子9の数密度は増加する。
【0040】
実施例1において、Ti-6Al-4V合金粉末のみの粉末で造形した試料を無添加材、
TiC粒子9、11をTi-6Al-4V合金粉末に混合した粉末で造形した試料をTi
C添加材と呼称する。また、粒径が2-5μmのTiC粒子9を用いた場合、各添加量、
0.1vol%、0.3vol%および0.5vol%はそれぞれS1、S3およびS5
とし、粒径が45μm以下のTiC粒子19を用いた場合、各添加量、0.1vol%お
よび0.5vol%はそれぞれM1およびM5とする。例示すると、粒径が2-5μmの
TiC粒子を0.3vol%添加した場合、S3-TiC添加材と呼称する。
【0041】
実施例1において用いた積層造形条件を表2にまとめる。実施例1では、走査速度、走
査ピッチおよび積層ピッチを固定し、造形時の出力を変化させて積層造形を行った。また
、実施例1において用いたレーザー走査の描写条件を
図4に示す。予熱工程では、余熱外
周部12で囲まれた直径10.0mmの円形領域にレーザーを格子状トレースに従ってレ
ーザー走査13を行う。造形工程では、造形体の寸法である縦5mm、横7.5mmの造
形体外周部14で囲まれた長方形領域に同様にレーザーを照射する。上述した条件を用い
て、高さが5mmの造形体となるまで造形を行った。
【表2】
【0042】
また、上記の積層造形条件より、レーザー照射による単位体積あたりの導入エネルギー
(エネルギー密度[J/mm
3])について以下の式を用いて算出し、各エネルギー密度
における相対密度、旧β粒径、ビッカース硬度について評価を行う。
【数5】
Eはエネルギー密度[J/mm
3]、Pはレーザー出力[W]、vは走査速度[mm/s]
、sは走査ピッチ[mm]、tは積層ピッチ[mm]である(非特許文献5)。
【0043】
図5は、108[J/mm
3]、182[J/mm
3]および404[J/mm
3]で造
形した無添加材およびS3-TiC添加材の鉛直断面の光学顕微鏡写真である。エネルギ
ー密度の小さな造形では、ポア15と呼ばれる内部空孔が多く観察され、エネルギー密度
の上昇と共にその面積率は低下していた。TiC添加の有無により比較すると、S3-T
iC添加材では、無添加材よりも空孔率が減少していることがわかり、TiC添加の影響
を確認することができた。
【0044】
作製した造形体の相対密度をアルキメデス法により評価し、式(5)で算出したエネルギ
ー密度を横軸として
図6のグラフに示す。ここでアルキメデス法とは、水と秤を用いる比
較的簡便な相対密度測定方法であり、水と対象物の密度差に起因する浮力を測定すること
で相対密度を計測する。
【0045】
図6に示す通り、すべての造形体の相対密度は、エネルギー密度の増加に伴い上昇するこ
とが確認できた。また、最も相対密度の高い試料はS3-TiC添加材であることが確認
できた。200J/mm
3以下の低エネルギー側の造形条件においては、今回作製したT
iC粒子を含む積層造形用金属粉末を用いることで、無添加材よりも高い相対密度を有す
る造形体の作製が可能であることがわかる。従って、より低いエネルギー密度のレーザー
による造形が可能であり、この結果は3次元積層造形技術におけるプロセスの省エネルギ
ー化に貢献する。以降、無添加材とS3-TiC添加材についての内部組織観察とビッカ
ース硬度試験の比較結果を示す。
【0046】
造形体の上面(積層面に平行な面)を観察面として、光学顕微鏡により内部組織を観察
した。腐食にはフッ酸硝酸水溶液を用いた。観察結果を
図7に示す。
図7(a)に示す無
添加材の内部組織と比較すると、
図7(b)に示すS3-TiC添加材の内部組織では初
晶β粒界16が多く観察され、組織が微細化している様子を確認することができる。一方
、TiC粒子はα相の組織が細かいため、明瞭に観察できない。
【0047】
図8(a)に積層面における旧β粒径のサイズ定量化結果を示す。造形におけるレーザ
ーのエネルギー密度の上昇に伴い、組織サイズは粗大化している傾向が確認される一方で
、S3-TiC添加材の内部組織がより微細となっていることも確認することができる。
従って、本発明で開示する積層造形用金属粉末を用いて積層造形を行うことで、より微細
な組織を得ることが可能であることが示された。
【0048】
図8(b)には、積層面におけるビッカース硬度試験結果である。ビッカース硬度試験
とは、試料の表面にダイヤモンド圧子を決められた荷重で押し込んだ際の、押し込み深さ
から材料の硬度を評価する機械特性評価方法の一種である。S3-TiC添加材は、無添
加材に比べて高いビッカース硬度を示す。この結果は、本発明で開示する積層造形用金属
粉末を用いて積層造形を行うことで、より高強度な造形体を得ることが可能であることが
示された。
【0049】
一方で、β粒径の微細化に対してTiC添加の効果を確認したが、α組織の微細化は達成
されていない。これはTi-6Al-4V合金のα相がhcp構造であるため、TiCと
の界面における整合性がβ相に比べて低く、β相に次いで核生成するα相に対して異質核
として働かないためである。
【0050】
本発明では、積層造形法において、高エネルギービームによって溶融した粉末が、その後
凝固する際に結晶成長の核となる異質核粒子を添加する手法を開示する。一方で、異質核
粒子は固相中における相変態についても、生成相との界面における整合性が良い場合に結
晶成長の核になり得る(非特許文献6)。
【0051】
本開示では、β相に対する異質核粒子としてTiCのみを添加したが、α相に対して界面
における整合性の良い異質核粒子を複合添加することで、さらなる組織微細化、および組
織微細化に伴うビッカース硬度の上昇が見込める。
【0052】
実施例1で作製したS3-TiC添加材は、無添加材に比べ、内部空孔が少なく微細な
組織を有する。従って、母材金属粉末のみで造形した造形体に比べ、引張特性(引張強度
やのび)の改善、衝撃特性の改善が見込まれる。引張特性および衝撃特性の評価にはそれ
ぞれ、引張試験およびシャルピー試験が一般的に利用されている。
【0053】
引張試験はJIS規格によって定められた試験片に対し、破断するまで張力を負荷し、試
験片の降伏点、引張強度および伸びなどを評価する試験法である。張力を負荷した際の変
形を担う金属組織中の転位の運動に対して障害となり得る結晶粒界がより多く存在する微
細組織では、降伏点、引張強度が向上し、また、均一な変形が促進されるため伸びも改善
されるため、実施例1で作製したTiC添加材では優れた引張特性が発現するものと考え
られる。
【0054】
シャルピー試験はJIS規格によって定められたノッチ(切り込み部)を有する試験片
に対し、ハンマーを振り下ろして破壊する際に吸収されるエネルギーを測定する試験法で
ある。試験片中に多量の空孔が存在する場合、吸収されるエネルギーは小さく、破壊しや
すいため、実施例1で作製したTiC添加材は吸収されるエネルギーが多く、高い靭性を
有するものと考えられる。
【0055】
(実施例2)
軽金属の一種であるアルミニウムは、高い耐食性や優れた熱伝導性、通電性を有するこ
と、また非磁性体であることなど、他の金属にない優れた特性を有する。このため、新幹
線や自動車などの一般的な構造用部材や、輸送機宇宙・航空分野における最先端機器部材
や計測器や医療機器などに応用される。実施例2では、実施例1で開示したα(hcp)
相+β(bcc)相の二相組織であるTi-6Al-4V合金とは異なり、面心立方晶(
fcc)単相組織が形成する純アルミニウムを用いた場合である。
【0056】
純アルミニウムの融点はおおよそ660℃であり、液相からfcc相が晶出し、組織を
形成する。このため純アルミニウムよりも融点が高く、純アルミニウムのfcc相に対し
て原子配列の整合性のよい異質核粒子であるTiC粒子を純アルミニウム粉末と混合し、
3次元積層造形用金属粉末を作製した。純アルミニウムに対するTiCのパラメータMお
よび平面不整合度はそれぞれ、11×10-3および6.69%である。実施例1と同様
に、本発明で定義した値より小さいため、TiC粒子は有効な異質核粒子となる。
【0057】
母材金属として純アルミニウム粉末、異質核粒子としてTiC粒子を選択して、それぞ
れを混合した3次元積層造形用粉末を作製する。純アルミニウム粉末の平均粒径は20μ
m、TiC粒子の粒径は実施例1と同様の2-5μmおよび45μm以下のものを選択し
た。実施例1と同様に、各粉末は篩によって粒度を調整している。従って実施例2では、
母材金属粉末よりもTiC粒子が小さい粒径を有する場合、およびおおよそ2倍程度の粒
径を有する場合について開示する。
【0058】
TiCの添加量は1.0vol%に統一し、純アルミニウム粉末とともに500mlの容
器に入れ、ターブラーミキサー粉末混合装置を利用して1時間の混合を行った。以降、実
施例2において、アルミニウムのみの粉末で造形した試料を無添加材、1.0vol%の
TiC粒子を添加した粉末で造形した試料をTiC添加材と呼称する。また、粒径が2-
5μmのTiC粒子を添加して造形した試料をS10-TiC添加材、45μm以下のT
iC粒子を添加して造形した試料をM10-TiC添加材とする。
【0059】
実施例2において用いた積層造形条件を表3にまとめる。また、実施例2において用い
たレーザー走査の描写条件を
図9に示す。
図9(a)はn層目の描写条件であり、
図9(
b)はn+1層目の描写条件である。造形体の寸法は、縦5mm、横7.5mmとし、高
さが5mmの造形体となるまで造形を行った。
【表3】
【0060】
図10は625J/mm
2で造形した無添加材、S10-TiC添加材およびM10-
TiC添加材の鉛直断面で観察した光学顕微鏡写真である。
図10(a)に示す無添加材
では、fcc粒界19が積層方向に沿って伸長しており、従って、本発明で課題とした粗
大な柱状の組織が発達していた。一方で、
図10(b)および(d)に示すTiC添加材
ではfcc粒径が微細化し、また、組織中で観察されるTiC粒子20が確認された。さ
らに
図10(c)および(e)に示すS10-TiC添加材では、M10-TiC添加材
に比べ、さらにfcc粒径の微細化している様子が観察される。この結果は、異質核粒子
の添加量を同じ条件にした場合、微細なTiC粒子ほど単位体積当たりの数密度が高く、
より高い数密度によって組織微細化が促進された結果となった。また、造形した試料の下
面(造形開始面近傍)と上面(造形終了面近傍)において、fcc粒径における差異は確
認されず、繰り返しの入熱にも関わらず、組織は積層方向に変化しなかった。従って、異
質核粒子を添加することで、再加熱時の粒成長を抑制するピン止め効果も発現していた。
【0061】
図11は625J/mm
2で造形したS10-TiC添加材およびM10-TiC添加材
の水平断面で観察した光学顕微鏡写真である。
図11(a)および
図11(b)において
TiC粒子が観察できた。また、水平断面における観察においても、M10-TiC添加
材よりもS10-TiC添加材では、より多くのfcc粒界19が観察され、従ってfc
c粒径が微細化している様子を確認することができた。従ってfcc相である純アルミニ
ウムであっても、異質核粒子の添加により、組織が微細化する効果を発現した。
【0062】
図12に無添加材、S10-TiC添加材およびM10-TiC添加材の水平断面におけ
るビッカース硬度試験の結果を示す。S10-TiC添加材において最もビッカース硬度
が高く、M10-TiC添加材、無添加材の順にビッカース硬度は低かった。この結果は
組織観察結果と一致しており、fcc粒径の微細化に伴って、ビッカース硬度が上昇して
いる。
【0063】
上述した実施例1および実施例2で開示した実験結果より、本発明の手法が様々な金属お
よび合金に対して適用可能な手法であることが分かり、本手法の妥当性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
3次元構造体を造形するため原料として用いる金属粉末の必要となる部分を溶融・凝固、
これを繰り返し行う積層造形法すなわち3D積層造形用金属粉末として利用することがで
きる。
【符号の説明】
【0065】
1 粉末供給槽
2 金属粉末
3 ベースプレート
4 リコーター
5 レーザー源
7 レーザー照射
8 造形体(3次元構造体)
9 2-5μmの粒径を有するTiC粒子(異質核粒子)
10 Ti-6Al-4粉末(母材金属粉末)
11 混合粉末(3次元積層造形用金属粉末)
12 余熱外周部
13、17 レーザー走査の方向
14、18 造形体外周部
15 ポア
16 β粒界
19 fcc粒界
20 組織中で観察されるTiC粒子