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特許7005470半導体ナノ粒子、その製造方法及び発光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子、その製造方法及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/00 20060101AFI20220203BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220203BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20220203BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20220203BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220203BHJP
【FI】
C01B19/00 Z
C09K11/08 A
C09K11/88
G02B5/20
H01L33/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018211131
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020033245
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018091556
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018156357
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第48回中部化学関係学協会支部連合秋季大会講演予稿集、平成29年11月11日、山内弘樹 et al. (2)https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2018s/proceedings/list ,平成30年2月23日、山内弘樹et al.
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】山内 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮前 千恵
(72)【発明者】
【氏名】森 優貴
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小谷松 大祐
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105154084(CN,A)
【文献】特表2017-501571(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126164(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104445098(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0299567(US,A1)
【文献】YAREMA Olesya et al.,ACS NANO,2015年,vol.9,No.11,p.11134-11142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 15/00-23/00
C01B 19/00-19/04
C09K 11/08
C09K 11/88
G02B 5/20
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag塩と、In塩と、Ga塩と、Se供給源と、有機溶剤とを含み、S供給源を含まない混合物を、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて熱処理して、半導体ナノ粒子を得ることを含み、
前記混合物におけるIn及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.07以上2.5以下である半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合物を、30℃以上190℃以下の範囲にある温度にて1分以上15分以下で熱処理した後に、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて更に熱処理する請求項1に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、アルカリ金属塩を更に含み、
前記混合物におけるアルカリ金属及びAgの原子数の合計に対する前記アルカリ金属の原子数の比が1未満である請求項1又は2に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
Ag塩と、In塩と、Ga塩と、Se供給源と、S供給源と、有機溶剤とを混合物を、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて熱処理して、半導体ナノ粒子を得ることを含み、
前記混合物におけるIn及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.43を超えて、2.5以下であり、
前記混合物における前記Se供給源に含まれるSeの原子数及びS供給源に含まれるSの原子数の合計に対するSの原子数の比が0.4以上1未満である半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記混合物を、30℃以上190℃以下の範囲にある温度にて1分以上15分以下で熱処理した後に、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて更に熱処理する請求項4に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記混合物は、アルカリ金属塩を更に含み、
前記混合物におけるアルカリ金属及びAgの原子数の合計に対する前記アルカリ金属の原子数の比が1未満である請求項4又は5に記載の半導体ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子、その製造方法及び発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果を発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、ナノ粒子では離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。具体的には、発光ダイオード(LED)チップから発せされる光の一部を量子ドットに吸収させて、量子ドットからの発光とLEDチップからの発光との混合色として白色光を得ることが提案されている。これらの特許文献では、CdSe及びCdTe等の第12族-第16族、PbS及びPbSe等の第14族-第16族の二元系の量子ドットを使用することが提案されている。またCdやPbを含む化合物の毒性を考慮して、これらの元素を含まずにバンド端発光が可能な半導体ナノ粒子が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-212862号公報
【文献】特開2010-177656号公報
【文献】特開2017-014476号公報
【文献】特開2018-039971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、低毒性の組成とすることができ、バンド端発光が可能な半導体ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、Ag塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源と、有機溶剤とを含む混合物を、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて熱処理して、半導体ナノ粒子を得ることを含む半導体ナノ粒子の製造方法である。半導体ナノ粒子の製造方法では、混合物におけるAg、In及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.43を超えて、2.5以下である。
【0007】
第二態様は、Agと、In及びGaの少なくとも一方と、Seとを含み、組成中のAgの含有率が10モル%以上30モル%以下、In及びGaの少なくとも一方の含有率が15モル%以上35モル%以下、Seの含有率が35モル%以上55モル%以下であり、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光の照射により、500nm以上900nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、発光スペクトルにおける半値幅が250meV以下である光を発する半導体ナノ粒子である。
【0008】
第三態様は、前記半導体ナノ粒子を含む光変換部材及び半導体発光素子を備える発光デバイスである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、低毒性の組成とすることができ、バンド端発光が可能な半導体ナノ粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図2】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図3】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図4】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図5】半導体ナノ粒子の発光スペクトル及び吸収スペクトルの一例を示す図である。
図6】半導体ナノ粒子のX線回折パターンの一例を示す図である。
図7】半導体ナノ粒子のX線回折パターンの一例を示す図である。
図8】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図9】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図10】半導体ナノ粒子のX線回折パターンの一例を示す図である。
図11】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図12】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図13】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図14】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図15】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図16】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図17】半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図18】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図19】半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、半導体ナノ粒子及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す半導体ナノ粒子及びその製造方法に限定されない。
【0012】
半導体ナノ粒子
半導体ナノ粒子は銀(Ag)と、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方と、セレン(Se)とを含み、組成中のAgの含有率が10モル%以上30モル%以下、In及びGaの少なくとも一方の含有率が15モル%以上35モル%以下、Seの含有率が35モル%以上55モル%以下であり、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光の照射により、500nm以上900nm以下、又は600nm以上900nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、発光スペクトルにおける半値幅が250meV以下である光を発する。
【0013】
組成にAgと、In及びGaの少なくとも一方と、Seとを含む半導体ナノ粒子は、一般的にはAg(In,Ga)Seで表される組成を有するとされている。Ag(In,Ga)Seで表される組成を有する半導体ナノ粒子を得るには、Ag源、In源、Ga源及びSe源の仕込み比を、化学量論組成に対応するように選択して合成することが一般的である。本発明者は、Agと、In及びGaの少なくとも一方と、Seとからなる半導体ナノ粒子又はこれらの元素を含む半導体ナノ粒子において、これらの元素が化学量論組成から外れた組成をとる場合にバンド端発光が得られる可能性を検討した。その結果、各元素源の仕込み比をIn及びGaの原子数の和に対するAgの原子数の比を、0.43を越えて2.5以下となるように選択して半導体ナノ粒子を合成すると、非化学量論組成ではあるが、バンド端発光可能な半導体ナノ粒子が得られることを見出した。
【0014】
組成にAgと、In及びGaの少なくとも一方と、Seとを含む半導体ナノ粒子は、その形状及び寸法に起因して、バンド端発光を与えるものである。また、半導体ナノ粒子は、毒性が高いとされているCd及びPbを含まない組成のものとすることができ、Cd等の使用が禁じられている製品等にも適用可能である。したがって、この半導体ナノ粒子は、液晶表示装置に用いる発光デバイスの波長変換物質として、また、生体分子マーカーとして好適に用いることができる。
【0015】
半導体ナノ粒子の組成におけるAgの含有率は、例えば、10モル%以上30モル%以下であり、好ましくは、15モル%以上25モル%以下である。In及びGaの総含有率は、例えば、15モル%以上35モル%以下であり、好ましくは、20モル%以上30モル%以下である。Seの含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であり、好ましくは、40モル%以上55モル%以下である。
【0016】
半導体ナノ粒子の組成におけるInとGaの原子数の和に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))は、例えば、0.01以上1.0以下であり、好ましくは0.1以上0.99以下である。また、InとGaの原子数の和に対するAgの原子数の比(Ag/(In+Ga))は、例えば、0.3以上1.2以下であり、好ましくは0.5以上1.1以下である。Ag、In及びGaの原子数の和に対するSeの原子数の比(Se/(Ag+In+Ga))は、例えば、0.8以上1.5以下であり、好ましくは0.9以上1.2以下である。
【0017】
半導体ナノ粒子は、例えば、以下の式(1)で表される組成を有する。
AgInGa(1-y)Se(x+3)/2 (1)
ここで、x及びyは、0.20<x≦1.2、0<y≦1.0を満たす。
【0018】
半導体ナノ粒子は、その組成にアルカリ金属の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。アルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が含まれる。アルカリ金属は、Agと同じく1価の陽イオンとなり得るため、半導体ナノ粒子の組成におけるAgの一部を置換することができる。特にLiはAgとイオン半径が同程度であり、好ましく用いられる。半導体ナノ粒子の組成において、Agの一部が置換されることで、例えば、バンドギャップが広がって発光ピーク波長が短波長にシフトする。また、詳細は不明であるが、半導体ナノ粒子の格子欠陥が低減されて発光量子収率が向上すると考えられる。アルカリ金属を含む場合、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光の照射により、500nm以上900nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、発光スペクトルにおける半値幅が250meV以下である光を発する。
【0019】
半導体ナノ粒子が組成にアルカリ金属(以下、Mと略記することがある)を含む場合、半導体ナノ粒子の組成におけるアルカリ金属の含有率は、例えば、0モル%より大きく30モル%未満であり、好ましくは、1モル%以上25モル%以下である。また、半導体ナノ粒子の組成におけるアルカリ金属(M)の原子数及びAgの原子数の合計に対するアルカリ金属(M)の原子数の比(M/(M+Ag))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.2以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.05以上、より好ましくは、0.1以上である。また、半導体ナノ粒子の組成におけるAgとアルカリ金属(M)の総含有率は、例えば、10モル%以上30モル%以下である。
【0020】
組成にアルカリ金属を更に含む半導体ナノ粒子は、例えば、以下の式(2)で表される組成を有する。
(Ag (1-p)InGa(1-r)Se(q+3)/2 (2)
ここで、p、q及びrは、0<p<1.0、0.20<q≦1.2、0<r≦1.0を満たす。Mはアルカリ金属を示す。
【0021】
半導体ナノ粒子は、その組成にイオウ(S)を含んでいていてもよい。イオウ(S)は、例えば、半導体ナノ粒子の組成におけるセレン(Se)の一部を置換して含有される。半導体ナノ粒子の組成におけるSの含有率は、例えば、0モル%より大きく50モル%未満であり、好ましくは1モル%以上45モル%以下、より好ましくは15モル%以上42モル%以下である。また、半導体ナノ粒子の組成におけるイオウ(S)とセレン(Se)の総含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であり、好ましくは、40モル%以上55モル%以下である。更に、半導体ナノ粒子の組成におけるイオウ(S)の原子数及びセレン(Se)の原子数の合計に対するイオウ(S)の原子数の比(S/(S+Se))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下、更に好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.1以上である。イオウを含む場合、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光の照射により、500nm以上900nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、発光スペクトルにおける半値幅が250meV以下である光を発する。
【0022】
組成にイオウ(S)を更に含む半導体ナノ粒子は、例えば、以下の式(3a)又は(3b)で表される組成を有する。
(Ag (1-p)InGa(1-r)(Se(1-s)+S(q+3)/2 (3a)
ここで、p、q、r及びsは、0<p≦1.0、0.20<q≦1.2、0<r≦1.0、0<s<1.0を満たす。ここでMはアルカリ金属を示す。
AgInGa(1-r)(Se(1-s)+S(q+3)/2 (3b)
ここで、q、r及びsは、0.20<q≦1.2、0<r≦1.0、0<s<1.0を満たす。
【0023】
半導体ナノ粒子の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、蛍光X線分析法(XRF)、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等によって同定される。Ag/(In+Ga)、Se/(Ag+In+Ga)等はこれらの方法のいずれかで同定される組成に基づいて算出される。
【0024】
半導体ナノ粒子の組成において、Agはその一部が置換されてCu及びAuの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にAgから構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Agに対するAg以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0025】
半導体ナノ粒子の組成において、In及びGaの少なくとも一方は、その一部が置換されてAl及びTlの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にIn及びGaの少なくとも一方から構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、In及びGaに対するIn又はGa以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0026】
半導体ナノ粒子の組成において、Seはその一部が置換されてS及びTeの少なくとも一方の元素を含んでいてもよく、実質的にSeから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、Seに対するSe以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0027】
半導体ナノ粒子は、実質的にAg、In及びGaの少なくとも一方並びにSeのみから構成されてよい。また、半導体ナノ粒子は、実質的にAg、アルカリ金属、In及びGaの少なくとも一方並びにSeのみから構成されてよい。更に、半導体ナノ粒子は、実質的にAg、In及びGaの少なくとも一方、並びにSe及びSのみから構成されてよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にAg、アルカリ金属、In、Ga、Se及びS以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0028】
半導体ナノ粒子の結晶構造は、少なくとも正方晶を含み、場合により、六方晶及び斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含んでいてもよい。Ag、In及びSeを含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、又は斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、AgInSeの組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。本実施形態に係る半導体ナノ粒子は、例えば第13族元素であるInの一部を同じく第13族元素であるGaで置換したものと考えることができる。半導体ナノ粒子の組成は例えば、Ag-In-Ga-Se、Ag-M-In-Ga-Se、Ag-M-In-Ga-Se-S、Ag-In-Ga-Se-S等で表されてもよい。
【0029】
なお、Ag-In-Ga-Seなどの組成式で表される半導体ナノ粒子であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、AgInSeの組成で表される半導体ナノ粒子のものとして既知のXRDパターン、又は結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターン及びシミュレーションのパターンの中に、半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知又はシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0030】
半導体ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造の半導体ナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0031】
半導体ナノ粒子は、例えば、50nm以下の平均粒径を有する。平均粒径は、例えば、20nm以下、10nm以下又は10nm未満であってよい。平均粒径が50nm以下であると量子サイズ効果が得られ易く、バンド端発光が得られ易い傾向がある。また平均粒径の下限は例えば、1nmである。
【0032】
半導体ナノ粒子の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めることができる。具体的には、ある粒子についてTEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分であって、当該粒子の内部を通過する線分のうち、最も長い線分の長さをその粒子の粒径とする。
【0033】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、又は多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、又は多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状又は多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0034】
半導体ナノ粒子の平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、「計測可能な」粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、「切れて」いるような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0035】
半導体ナノ粒子はバンド端発光が可能である。半導体ナノ粒子は、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光を照射することにより、500nm以上900nm以下の範囲に発光ピーク波長を有して発光する。半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおける半値幅は、250meV以下であり、好ましくは200meV以下、より好ましくは150meV以下である。半値幅の下限値は例えば30meV以上である。半値幅が250meV以下であるとは、発光ピーク波長が600nmの場合には半値幅が73nm以下であり、発光ピーク波長が700nmの場合には半値幅が100nm以下であり、発光ピーク波長が800nmの場合には半値幅が130nm以下であることを意味し、半導体ナノ粒子がバンド端発光することを意味する。
【0036】
半導体ナノ粒子は、バンド端発光とともに、他の発光、例えば欠陥発光を与えるものであってよい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。バンド端発光と欠陥発光がともに得られる場合、バンド端発光の強度が欠陥発光の強度よりも大きいことが好ましい。
【0037】
半導体ナノ粒子のバンド端発光は、半導体ナノ粒子の形状及び平均粒径の少なくとも一方、特に平均粒径を変化させることによって、そのピーク位置を変化させることができる。例えば、半導体ナノ粒子の平均粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光のピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0038】
また半導体ナノ粒子のバンド端発光は、半導体ナノ粒子の組成を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、組成におけるInとGaの原子数の和に対するGaの原子数の比であるGa比(Ga/(In+Ga))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、アルカリ金属としてLi等を選択し、組成におけるAgとアルカリ金属(M)の原子数の和に対するアルカリ金属(M)の原子数の比であるMa比(M/(Ag+M))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、組成におけるSeの一部をSで置換し、SeとSの原子数の和に対するSの原子数の比であるS比(S/(Se+S))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0039】
半導体ナノ粒子は、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子から半導体ナノ粒子が構成されていることを意味する。また、エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、エキシトンピークが急峻であると、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上900nm以下の範囲内で観察される。
【0040】
半導体ナノ粒子は、ストークスシフトにより吸収スペクトルのエキシトンピークより長波長側に発光ピーク波長を有して発光する。半導体ナノ粒子の吸収スペクトルがエキシトンピークを示す場合、エキシトンピークと発光ピーク波長のエネルギー差は、例えば、100meV以下である。
【0041】
半導体ナノ粒子は、表面にシェルが配置されるコアシェル構造を有していてもよい。シェルは、コアを構成する半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体であって、第13族元素及び第16族元素を含む半導体から構成される。第13族元素としては、B、Al、Ga、In及びTlが挙げられ、第16族元素としては、O、S、Se、Te及びPoが挙げられる。シェルを構成する半導体には、第13族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれてよく、第16族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれていてもよい。
【0042】
シェルは、実質的に第13族元素及び第16族元素からなる半導体から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、シェルに含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第13族元素及び第16族元素以外の元素の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0043】
シェルは、上述のコアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成してもよい。あるいは、シェルの組成等が先に決定されている場合には、コアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーがシェルのそれよりも小さくなるように、コアを設計してもよい。例えば、Ag-In-Seからなる半導体は、1.1eV以上1.3eV以下程度のバンドギャップエネルギーを有する。
【0044】
具体的には、シェルを構成する半導体は、例えば2.0eV以上5.0eV以下、特に2.5eV以上5.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有してよい。また、シェルのバンドギャップエネルギーは、コアのバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV以上3.0eV以下程度、特に0.3eV以上3.0eV以下程度、より特には0.5eV以上1.0eV以下程度大きいものであってよい。シェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとコアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとの差が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0045】
さらに、コア及びシェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーは、コアとシェルのヘテロ接合において、シェルのバンドギャップエネルギーがコアのバンドギャップエネルギーを挟み込むtype-Iのバンドアライメントを与えるように選択されることが好ましい。type-Iのバンドアライメントが形成されることにより、コアからのバンド端発光をより良好に得ることができる。type-Iのアライメントにおいて、コアのバンドギャップとシェルのバンドギャップとの間には、少なくとも0.1eVの障壁が形成されることが好ましく、例えば0.2eV以上、又は0.3eV以上の障壁が形成されてよい。障壁の上限は、例えば1.8eV以下であり、特に1.1eV以下である。障壁が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0046】
シェルを構成する半導体は、第13族元素としてIn又はGaを含むものであってよい。またシェルは、第16族元素としてSを含むものであってよい。In又はGaを含む、あるいはSを含む半導体は、上述のコアよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体となる傾向にある。
【0047】
シェルは、その半導体の晶系がコアの半導体の晶系となじみのあるものであってよく、またその格子定数が、コアの半導体のそれと同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い(ここでは、シェルの格子定数の倍数がコアの格子定数に近いものも格子定数が近いものとする)半導体からなるシェルは、コアの周囲を良好に被覆することがある。例えば、上述のコアは、一般に正方晶系であるが、これになじみのある晶系としては、正方晶系、斜方晶系が挙げられる。Ag-In-Seが正方晶系である場合、その格子定数は0.61038nm(6.104Å)、0.61038nm(6.104Å)、1.17118nm(11.71Å)であり、これを被覆するシェルは、正方晶系又は立方晶系であって、その格子定数又はその倍数が、Ag-In-Se等の格子定数と近いものであることが好ましい。あるいは、シェルはアモルファス(非晶質)であってもよい。
【0048】
アモルファス(非晶質)のシェルが形成されているか否かは、コアシェル構造の半導体ナノ粒子を、HAADF-STEMで観察することにより確認できる。アモルファス(非晶質)のシェルが形成されている場合、具体的には、規則的な模様(例えば、縞模様、ドット模様等)を有する部分が中心部に観察され、その周囲に規則的な模様を有するものとしては観察されない部分がHAADF-STEMにおいて観察される。HAADF-STEMによれば、結晶性物質のように規則的な構造を有するものは、規則的な模様を有する像として観察され、非晶性物質のように規則的な構造を有しないものは、規則的な模様を有する像としては観察されない。そのため、シェルがアモルファスである場合には、規則的な模様を有する像として観察されるコア(前記のとおり、正方晶系等の結晶構造を有する)とは明確に異なる部分として、シェルを観察することができる。
【0049】
また、シェルがGaSからなる場合、Gaがコアに含まれるAg及びInよりも軽い元素であるために、HAADF-STEMで得られる像において、シェルはコアよりも暗い像として観察される傾向にある。
【0050】
アモルファスのシェルが形成されているか否かは、高解像度の透過型電子顕微鏡(HRTEM)で本実施形態のコアシェル構造の半導体ナノ粒子を観察することによっても確認できる。HRTEMで得られる画像において、コアの部分は結晶格子像(規則的な模様を有する像)として観察され、シェルの部分は結晶格子像として観察されず、白黒のコントラストは観察されるが、規則的な模様は見えない部分として観察される。
【0051】
一方、シェルはコアと固溶体を構成しないものであることが好ましい。シェルがコアと固溶体を形成すると両者が一体のものとなり、シェルによりコアを被覆して、コアの表面状態を変化させることによりバンド端発光を得るという、本実施形態のメカニズムが得られなくなる。
【0052】
シェルは、第13族元素及び第16族元素の組み合わせとして、InとSの組み合わせ、GaとSとの組み合わせ、又はInとGaとSとの組み合わせを含んでよいが、これらに限定されるものではない。InとSとの組み合わせは硫化インジウムの形態であってよく、また、GaとSとの組み合わせは硫化ガリウムの形態であってよく、また、InとGaとSの組み合わせは硫化インジウムガリウムであってよい。シェルを構成する硫化インジウムは、化学量論組成のもの(In)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化インジウムを式InS(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。同様に、硫化ガリウムは化学量論組成のもの(Ga)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化ガリウムを式GaS(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。硫化インジウムガリウムは、In2(1-y)Ga2y(yは0よりも大きく1未満である任意の数字)で表される組成のものであってよく、あるいは、InGa1-a(aは0よりも大きく1未満である任意の数字であり、bは整数に限られない任意の数値である)で表されるものであってよい。
【0053】
硫化インジウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.0eV以上2.4eV以下であり、晶系が立方晶であるものについては、その格子定数は1.0775nm(10.775Å)である。硫化ガリウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.5eV以上2.6eV以下程度であり、晶系が正方晶であるものについては、その格子定数が0.5215nm(5.215Å)である。ただし、ここに記載された晶系等は、いずれも報告値であり、実際のコアシェル構造の半導体ナノ粒子において、シェルがこれらの報告値を満たしているとは限らない。
【0054】
硫化インジウム及び硫化ガリウムは、コアの表面に配置されるシェルを構成する半導体として好ましく用いられる。特に、硫化ガリウムは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。硫化ガリウムを使用する場合には、硫化インジウムを使用する場合と比較して、より強いバンド端発光を得ることができる。
【0055】
コアシェル構造の半導体ナノ粒子において、コアは、例えば、10nm以下、特に、8nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径は、2nm以上10nm以下の範囲内、特に2nm以上8nm以下の範囲内にあってよい。コアの平均粒径が前記上限値以下であると、量子サイズ効果を得られ易い。
【0056】
シェルの厚みは0.1nm以上50nm以下の範囲内、0.1nm以上10nm以下の範囲内、特に0.3nm以上3nm以下の範囲内にあってよい。シェルの厚みが前記下限値以上である場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られ、バンド端発光を得られ易い。
【0057】
半導体ナノ粒子は、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。半導体ナノ粒子の表面を修飾する化合物は表面修飾剤とも呼ばれる。表面修飾剤は、例えば、半導体ナノ粒子を安定化させて半導体ナノ粒子の凝集又は成長を防止する機能、半導体ナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させる機能、半導体ナノ粒子の表面欠陥を補償して発光効率を向上させる機能等の少なくとも1つを有する。
【0058】
表面修飾剤は、例えば、炭素数4から20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4から20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4から20の炭化水素基を有する含酸素化合物等であってよい。炭素数4から20の炭化水素基としては、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6から10の芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類、アミド類等が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類等が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類等が挙げられ、含リン化合物としては、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類等が挙げられる。
【0059】
表面修飾剤としては、炭素数4から20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましい。そのような含窒素化合物としては、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミン、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが挙げられる。
【0060】
表面修飾剤としては、また、炭素数4から20の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。そのような含硫黄化合物としては、ブタンチオール、イソブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、エチルヘキサンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0061】
表面修飾剤は、1種単独で用いても、異なる2種以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
【0062】
半導体ナノ粒子がコアシェル構造を有する場合、そのシェル表面は、負の酸化数を有するリン(P)を含む表面修飾剤(以下、「特定修飾剤」ともいう)で修飾されていてもよい。シェルの表面修飾剤が特定修飾剤を含んでいることで、コアシェル構造の半導体ナノ粒子のバンド端発光における量子効率がより向上する。
【0063】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子又はアルキル基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィン及びトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシド及びトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0064】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0065】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が、複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0066】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0067】
半導体ナノ粒子の製造方法
半導体ナノ粒子の製造方法は、Ag塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源と、有機溶剤とを含む混合物を、200℃を超えて370℃以下の範囲にある温度にて熱処理して、半導体ナノ粒子を得ることを含む。製造方法においては、混合物におけるIn及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比を、0.43を超えて2.5以下とする。In及びGaの少なくとも一方を含む塩は、In塩とGa塩の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0068】
この製造方法では、InとGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/(In+Ga))が0.43を越えて2.5以下となるように、Agの塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源とを、有機溶媒中に投入することを特徴とする。Ag/(In+Ga)が前記範囲内となるように、各元素の供給源を投入することによって、上述したAg-In-Ga-Se半導体ナノ粒子を得ることができる。すなわち、この実施形態の製造方法には、各元素の供給源の仕込み比を、化学量論組成比どおりではない特定の比として、半導体ナノ粒子を生成する点に特徴の1つがある。
【0069】
半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理前の混合物は、必要に応じてアルカリ金属塩を更に含んでいてもよい。混合物がアルカリ金属塩を含む場合、混合物におけるAg及びアルカリ金属(M)の原子数の合計に対するアルカリ金属(M)の原子数の比(M/(M+Ag))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.85以下、又は0.35以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.1以上、又は0.15以上である。すなわち、この実施形態の製造方法には、組成におけるAgの一部をアルカリ金属に置換して、半導体ナノ粒子を生成する点に特徴の1つがある。
【0070】
半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理前の混合物は、必要に応じてイオウ(S)供給源を更に含んでいてもよい。混合物がS供給源を含む場合、混合物におけるS及びSeの原子数の合計に対するSの原子数の比(S/(Se+S))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.95以下、又は0.9以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.1以上、又は0.4以上である。すなわち、この実施形態の製造方法には、組成におけるSeの一部をSに置換して、半導体ナノ粒子を生成する点に特徴の1つがある。
【0071】
半導体ナノ粒子は、例えば、Agの塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源と、有機溶剤と、必要に応じてアルカリ金属塩及びS供給源の少なくとも1種とを含み、In及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比が0.43を越えて2.5以下である混合物を準備する準備工程と、準備した混合物を、200℃を越えて370℃以下の範囲にある温度で熱処理する熱処理工程とを含む製造方法で製造される。
【0072】
半導体ナノ粒子は、Agの塩、In及びGaの少なくとも一方を含む塩、Se供給源、並びに必要に応じてアルカリ金属塩及びS供給源の少なくとも1種を一度に有機溶剤に投入して混合物を調製し、これを熱処理することで製造してもよい。この方法によれば、簡便な操作によりワンポットで再現性よく半導体ナノ粒子を合成できる。また、有機溶剤とAgの塩とを反応させて錯体を形成し、次に、有機溶媒とInの塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体とSe供給源とを反応させ、得られた反応物を結晶成長させる方法で製造してもよい。この場合、熱処理は、Se供給源、及び必要に応じて含まれるS供給源と反応させる段階にて実施する。
【0073】
Agの塩、In及びGaの少なくとも一方を含む塩、並びにアルカリ金属塩はいずれも、有機酸塩又は無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、塩としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトナート塩等を挙げることができ、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくは酢酸塩等の有機酸塩である。有機酸塩は有機溶剤への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。
【0074】
Se供給源としては、例えば、セレン単体;セレノ尿素、セレノアセトアミド、アルキルセレノール等の含Se化合物などを挙げることができる。
【0075】
S供給源としては、例えば、イオウ単体、チオ尿素、アルキルチオ尿素、チオアセトアミド、アルキルチオール、2,4-ビス(4-メトキシフェニル)-1,3,2,4-ジチアジホスフェタン-2,4-ジスルフィド、2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類、1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類、ジエチルジチオカルバミド酸塩等の含S化合物を挙げることができる。中でも
量子収率の点よりチオアセトアミドが好ましい。
【0076】
混合物は、Agの塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源と、必要に応じてアルカリ金属塩及びS供給源の少なくとも1種とをこれらが互いに反応することなく含んでいてもよく、これらから形成される錯体として含んでいてもよい。また、混合物は、Agの塩から形成されるAg錯体、In及びGaの少なくとも一方を含む塩から形成される錯体、Se供給源から形成される錯体等を含むものであってもよい。錯体形成は、例えば、適当な溶媒中で、Agの塩と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、Se供給源とを混合することで実施される。
【0077】
有機溶剤としては、例えば、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミン、特に、炭素数4から20のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、炭素数4から20の炭化水素基を有するチオール、特に炭素数4から20のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、炭素数4から20の炭化水素基を有するホスフィン、特に炭素数4から20のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィン等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの有機溶媒は、例えば、最終的には、得られる半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、特に、炭素数4から20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも一種と、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも一種とを組み合わせた混合溶媒を使用してよい。これらの有機溶媒はまた、他の有機溶剤と混合して用いてもよい。有機溶剤が前記チオールと前記アミンとを含む場合、アミンに対するチオールの含有体積比(チオール/アミン)は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは0.007以上0.2以下である。
【0078】
混合物では、その組成として含まれるIn及びGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/(In+Ga))が、例えば、0.43を越えて2.5以下であり、好ましくは0.5以上1.0以下、より好ましくは0.6以上0.8以下である。また、混合物の組成では、In及びGaの原子数の合計に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))が、例えば、0.1以上1.0以下であり、好ましくは0.25以上0.99以下である。更に、混合物の組成では、Seの原子数の合計に対するAgの原子数の比(Ag/Se)が、例えば、0.27以上1.0以下であり、好ましくは0.35以上0.5以下である。混合物の組成がこれらの条件を満たすように各元素の供給源を用いることにより、バンド端発光を与えやすい半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0079】
熱処理工程は、混合物を、200℃を越えて370℃以下の範囲にある第一温度で熱処理することを含む。熱処理における第一温度は、例えば混合物にAgの塩と、Inの塩とSe供給源とを含む場合、好ましくは220℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、好ましくは370℃未満であり、より好ましくは350℃以下である。また、例えば混合物にAgの塩と、Inの塩と、Gaの塩と、Se供給源とを含む場合、好ましくは270℃以上であり、より好ましくは300℃以上であり、好ましくは370℃未満であり、より好ましくは350℃以下である。また、例えば混合物にAgの塩と、Inの塩と、Gaの塩と、Se供給源と、S供給源とを含む場合、好ましくは270℃以上であり、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは300℃以上であり、好ましくは370℃未満であり、より好ましくは350℃以下、更に好ましくは320℃以下である。第一温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であり、好ましくは5分以上、より好ましくは8分以上、更に好ましくは10分以上である。また、第一温度での熱処理の時間は、例えば、180分以下であり、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下である。また例えば、第一温度での熱処理の時間は20分以下であってもよい。
【0080】
なお、熱処理の時間は、所定の温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時点とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下、又は1℃/分以上50℃/分以下である。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、熱源を停止して放冷するだけでもよい。
【0081】
熱処理工程は、混合物を第一温度での熱処理に先立って、30℃以上190℃以下の範囲にある第二温度での熱処理を含んでいてもよい。すなわち、熱処理工程は、混合物を30℃以上190℃以下の範囲にある第二温度で熱処理すること(「第一段階の熱処理」ともいう)と、第二温度で熱処理された混合物を、200℃を越えて370℃以下の範囲にある第一温度で熱処理すること(「第二段階の熱処理」ともいう)とを含む2段階の熱処理工程であってもよい。加熱処理を2段階で実施することにより、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が比較的高い半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第二温度での熱処理と第一温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第二温度での熱処理後に降温し、次いで第一温度に昇温して熱処理してもよい。
【0082】
第二温度は、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、第二温度は、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。第二温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であり、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。また、第二温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であり、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0083】
熱処理工程における雰囲気は、アルゴン等の希ガス雰囲気、窒素雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気下で熱処理することで、酸化物の副生及び得られる半導体ナノ粒子表面の酸化を抑制することができる。
【0084】
熱処理して得られる半導体ナノ粒子は、有機溶剤から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してもよい。半導体ナノ粒子の分離は、例えば、熱処理工程終了後、半導体ナノ粒子を含む有機溶剤を遠心分離に付して、ナノ粒子を含む上澄み液を取り出すことにより行う。精製は、例えば、上澄み液にアルコール等の有機溶剤を添加して遠心分離に付し、半導体ナノ粒子を沈殿として取り出すことを含む。沈殿は、それ自体を取り出してよく、又は上澄み液を除去することにより取り出してよい。取り出した沈殿は、例えば、真空脱気、もしくは自然乾燥、又は真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより、乾燥させてよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。
【0085】
あるいは、取り出した沈殿は、有機溶剤に分散させてもよい。アルコールの添加と遠心分離とを含む精製処理は必要に応じて複数回実施してもよい。精製に用いるアルコールには、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールを用いてよい。沈殿を有機溶媒に分散させる場合、有機溶剤として、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤を用いてもよい。
【0086】
[発光デバイス]
発光デバイスは、光変換部材及び半導体発光素子を備え、光変換部材に上記において説明した半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0087】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光又は青色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
【0088】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、3種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0089】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
【0090】
あるいはまた、半導体発光素子として波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用い、半導体ナノ粒子として、赤色光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0091】
半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体又は無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi:Eu系又はBaSi12:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGaS4系、SrAl系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl:Eu蛍光体、SrMgSiN:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのKSiF:Mn蛍光体などを用いることができる。
【0092】
発光デバイスにおいて、半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシート又は板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0093】
光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面及び側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子及び前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚さで平板状に形成された樹脂部材である。
【0094】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材又は棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)又はモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0095】
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上の半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の量子ドットのみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0096】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等からなる群から選択される1種又は2種以上からなる半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、又は紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInAlGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものである。
【0097】
発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態の半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅のエネルギーが小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて:
- 青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする;又は、
- 発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を
得るようにし、半導体ナノ粒子によりピーク波長430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにすることによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、又はエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0098】
あるいは、半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、又はロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
0.10mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.15mmolのアセチルアセトナートインジウム(In(CHCOCHCOCH;In(acac))、及びセレン源として0.25mmolのセレノ尿素を、0.1cmの1-ドデカンチオールと2.9cmのオレイルアミンの混合液に投入して分散させた。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第一段階の熱処理として150℃で10分、第二段階の熱処理として250℃で10分の熱処理を実施した。熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、上澄みである分散液を取り出した。これに半導体ナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。原料の仕込み組成を表1に示す。
【0101】
(実施例2、3、4、比較例1)
原料の仕込み組成を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例5)
0.10mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.11mmolのアセチルアセトナートインジウム(In(CHCOCHCOCH;In(acac))、0.038mmolのアセチルアセトナートガリウム(Ga(CHCOCHCOCH;Ga(acac))、及びセレン源として0.25mmolのセレノ尿素を、0.1cmの1-ドデカンチオールと0.29cmのオレイルアミンの混合液に投入して分散させた。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第一段階の熱処理として150℃で10分、第二段階の熱処理として300℃で10分の熱処理を実施した。熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、上澄みである分散液を取り出した。これに半導体ナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。原料の仕込み組成を表2に示す。
【0104】
(実施例5から8、比較例2、3)
原料の仕込み組成と、第二段階の熱処理温度(第一温度)とを表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0105】
【表2】
【0106】
(平均粒径)
得られた半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を8万倍から20万倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、商品名ハイレゾカーボン HRC-C10 STEM Cu100Pグリッド(応研商事(株)を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。平均粒径は、3か所以上のTEM画像を選択し、これらに含まれているナノ粒子のうち、計測可能なものをすべて、すなわち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除くすべての粒子について、粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。本実施例を含む全ての実施例及び比較例において、3以上のTEM像を用いて、合計100点以上のナノ粒子の粒径を測定した。平均粒径を表3に示す。
【0107】
(発光特性)
得られた半導体ナノ粒子について、吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、ダイオードアレイ式分光光度計(アジレントテクノロジー社製、商品名Agilent 8453A)を用いて、波長を190nm以上1100nm以下として測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA11)を用いて、励起波長365nmにて測定した。実施例1から4、及び比較例1の発光スペクトルを図1に、吸収スペクトルを図2に示す。実施例5、6及び比較例2、3の発光スペクトルを図3に、吸収スペクトルを図4に示す。実施例7、8の吸収スペクトル及び発光スペクトルを図5に示す。各発光スペクトルにて観察された急峻な発光ピークの発光ピーク波長(バンド端発光)、半値幅、発光量子収率、及びストークスシフト(吸収スペクトルから得られる吸収ピークのエネルギー値から発光スペクトルから得られる発光ピークのエネルギー値を差し引いたもの)を表3に示す。
【0108】
(X線回折パターン)
実施例1から4、及び比較例1で得られた半導体ナノ粒子についてX線回折(XRD)パターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInSe、及び斜方晶のAgInSeと比較した。測定したXRDパターンを図6に示す。実施例5、7、8で得られた半導体ナノ粒子についてX線回折(XRD)パターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInSe及びAgGaSe、並びに斜方晶のAgInSeと比較した。測定したXRDパターンを図7に示す。XRDパターンは、リガク社製の粉末X線回折装置(商品名SmartLab)を用いて測定した。
【0109】
【表3】
【0110】
AgとInとSeとを含み、合成時におけるAgのInに対する仕込み比が0.43を越え、第二段階の熱処理温度である第一温度が250℃である実施例1から4で得られた半導体ナノ粒子は、半値幅が250meV以下のバンド端発光を示した。一方、AgのInに対する仕込み比が0.43以下である比較例1で得られた半導体ナノ粒子は、バンド端発光を示さず、幅広な欠陥発光を示した。
AgとInとGaとSeとを含み、合成時におけるAgのIn及びGaに対する仕込み比が0.43を越え、第二段階の熱処理温度である第一温度が200℃を越える実施例5及び6で得られた半導体ナノ粒子は、半値幅が250meV以下のバンド端発光を示した。一方、第一温度が200℃以下である比較例2及び3で得られた半導体ナノ粒子は、バンド端発光を示さず、幅広な欠陥発光を示した。
AgとInとGaとSeとを含む半導体ナノ粒子であって、InのIn及びGaに対する仕込み比が小さくなると、バンド端発光を維持しつつ、発光ピーク波長が短波長にシフトした。
【0111】
(実施例9、10)
酢酸銀(AgOAc)、酢酸リチウム(LiOAc)、酢酸インジウム(In(OAc))、及びセレノ尿素((NHCSe)を下表のように試験管に採取した。これに溶媒として、0.1cmの1-ドデカンチオールと2.9cmのオレイルアミンを加えた。試験管に撹拌子を入れて窒素置換し、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第一段階の熱処理として150℃で10分、第二段階の熱処理として300℃で10分の熱処理を実施した。熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、上澄みと沈殿に分離した。上澄みと沈殿のそれぞれをメタノール3mL、エタノール3mLで洗浄し、再び遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0112】
【表4】
【0113】
得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして平均粒径、発光特性、及びX線回折(XRD)パターンを測定した。結果を表5に示す。また、図8に400nmで規格化した吸収スペクトルを、図9に発光スペクトル(励起光365nm)を、図10にXRDパターンを示す。
【0114】
【表5】
【0115】
図8の吸収スペクトルから、仕込みにおけるLi比(Li/(Ag+Li))が大きくなると、吸収端波長が短波長にシフトしている。したがって、アルカリ金属(Li)とAgの固溶化ができたと考えられる。図9に示す実施例10の発光スペクトルでは欠陥発光と思われる1000nm付近のピークは見られなかった。図10のXRDパターンから、仕込みにおけるLi比が大きくなると、高角度側へピークがシフトすることが確認された。これにより、アルカリ金属(Li)とAgの固溶化ができたと考えられる。
【0116】
(実施例11から13)
酢酸銀(AgOAc)、アセチルアセトナートインジウム(In(acac))、アセチルアセトナートガリウム(Ga(acac))、粉末硫黄(S)、セレノ尿素((NHCSe)を下表の通りに試験管に量り取り、オレイルアミン2.75mL、1-ドデカンチオール0.25mLを加えて試験管内を窒素置換した。300℃で10分間加熱撹拌し、室温まで放冷した。遠心分離(4000rpm、5分間)し、得られた上澄みを20μmメッシュのメンブレンフィルターで濾過した。これに半導体ナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0117】
【表6】
【0118】
得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして平均粒径、及び発光特性を測定した。結果を表7に示す。また、図11に365nmで規格化した吸収スペクトルを、図12に発光スペクトル(励起光365nm)を示す。
【0119】
【表7】
【0120】
(実施例14から16)
実施例1同様にして作製した半導体ナノ粒子及び実施例11と12で得られた半導体ナノ粒子をそれぞれ1.0×10-5mmol分取し、溶媒を減圧乾燥した。アセチルアセトナートガリウム(Ga(acac))5.33×10-5mmolとチオ尿素5.33×10-5mmolとを量り取り、オレイルアミン3.0mLを加えて試験管内を窒素置換した。300℃で15分間加熱撹拌し、室温まで放冷した。遠心分離(4000rpm、5分間)して沈殿を除去。上澄みは20μmメッシュのメンブレンフィルターで濾過した。メタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をし、得られた沈殿にエタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をして沈殿としてコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。次いで沈殿にクロロホルムを加えてコアシェル型半導体ナノ粒子を分散した。
【0121】
得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして平均粒径、及び発光特性を測定した。結果を表8に示す。また、実施例15及び実施例16について、図13に365nmで規格化した吸収スペクトルを、図14に発光スペクトル(励起光365nm)を示す。
【0122】
【表8】
【0123】
(実施例17、18)
酢酸銀(AgOAc)、アセチルアセトナートインジウム(In(acac))、アセチルアセトナートガリウム(Ga(acac))、粉末硫黄(S)、セレノ尿素((NHCSe)を下表の通りに試験管に量り取り、オレイルアミン2.75mL、1-ドデカンチオール0.25mLを加えて試験管内を窒素置換した。300℃で10分間加熱撹拌し、室温まで放冷した。遠心分離(4000rpm、5分間)して上澄みと沈殿に分け、上澄みは20μmメッシュのメンブレンフィルターで濾過した。これに半導体ナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0124】
【表9】
【0125】
得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして平均粒径、及び発光特性を測定した。結果を表10に示す。また、図15に400nmで規格化した吸収スペクトルを、図16に発光スペクトル(励起光365nm)を示す。
【0126】
【表10】
【0127】
(実施例19から20)
実施例17、18で得られた半導体ナノ粒子を用いたこと以外は、実施例14と同様にしてコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。
【0128】
実施例19と20で得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして平均粒径、及び発光特性を測定した。結果を表11に示す。また、図17に400nmで規格化した吸収スペクトルを、図18に発光スペクトル(励起光365nm)を示す。
【0129】
【表11】
【0130】
(実施例21)
実施例20で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について、500nmでの吸光度が1.5となるように分散液の濃度を調整した。濃度を調整した分散液1.5mLに、窒素雰囲気のグローブボックス中で、トリオクチルホスフィン(TOP)1.5mLを加えて充分に撹拌した。遮光状態で一日静置してTOP処理された半導体ナノ粒子を得た。
【0131】
実施例21で得られた半導体ナノ粒子について、上記と同様にして発光特性を測定した。図19に発光スペクトル(励起光365nm)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19