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特許7011246ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法および樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法および樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20220119BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220119BHJP
   C08L 81/04 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G06F30/27
C08L23/00
C08L81/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021554637
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005897
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】62/982,756
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2020159132
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹
(72)【発明者】
【氏名】山地 俊則
(72)【発明者】
【氏名】竹林 良浩
(72)【発明者】
【氏名】小野 巧
(72)【発明者】
【氏名】依田 智
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-041483(JP,A)
【文献】特開2006-321340(JP,A)
【文献】特表2020-506257(JP,A)
【文献】国際公開第2009/088092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
C08L 23/00
C08L 81/00 -81/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む物性測定データと、を含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、前記製造条件データおよび前記物性測定データに含まれる複数の項目のうち、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項2】
前記機械学習アルゴリズムとは、ランダムフォレストを用いたアルゴリズムであり、
前記製造条件データおよび前記物性測定データに含まれる複数の項目のそれぞれの重要度を算出することにより、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する
請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項3】
前記製造条件データには、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造装置の制御対象である第1種類の製造条件項目と、前記製造装置の制御対象でない第2種類の製造条件項目と、が前記製造条件項目として含まれる
請求項2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項4】
前記第2種類の製造条件項目には、前記製造装置のポリアリーレンスルフィド樹脂を混練する混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度が含まれる
請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項5】
前記第2種類の製造条件項目に含まれる前記混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度のうち、前記混練部にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料が投入される上流側の方が、混練されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が押し出される下流側に比べて、前記重要度が高い
請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項6】
算出された重要度が高い項目を新たな目的変数として、前記機械学習アルゴリズムを実行することにより、前記新たな目的変数の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項7】
算出された前記重要度が高い項目を解析軸にして、前記データセットを用いた回帰演算を実行することにより、前記重要度が高い項目の特性値の変化と、前記目的変数の特性値の変化との対応関係を推定する
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量に対し、5~30質量%であり、
原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、原料熱可塑性エラストマー(B)と、を押出機によって溶融混練する工程を含み、
前記押出機のシリンダー内壁に対するスクリュウ回転より生じるせん断速度が1000~6500s-1であり、
前記シリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである、請求項8に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、グリシジル変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである、請求項9に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含む、請求項9又は10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径が0.20μm以下である分散構造を有する、請求項8~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値が40kJ/m以上である、請求項8~12のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法および樹脂組成物の製造方法に関する。
本願は、2020年2月28日に、米国に仮出願されたUS62/982,756、及び2020年9月23日に、日本に特許出願された特願2020-159132に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、機械部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、溶融混練プロセスによりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造する技術があった。このような技術によれば、2種類以上の樹脂のペレットを混合し、混合されたペレットをスクリューで回転させることにより撹拌しながら加熱し、混練された樹脂を押し出すことによりポリマーブレンドを行う(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、なかでも自動車等の車両用部品の用途では、軽量化を目的とした金属の代替材料として、耐衝撃性等の機械的物性に優れた樹脂材料が要求されている。
従来、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐衝撃性を高めるため、エラストマー成分の配合方法が検討される場合がある。
特許文献2には、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、体積平均粒子径が0.1mm~3.0mmの熱可塑性エラストマー粒子(B)とを、前記熱可塑性エラストマー粒子(B)が全配合成分に対して0.1質量%~2.0質量%となる割合で溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-149002号公報
【文献】特開2008-163112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような溶融混練プロセスによれば、製造条件として制御するパラメータの種類が非常に多く、それぞれのパラメータ同士が複雑に相互作用する。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性をより高いものにすべく付与する好適なパラメータの値を決めるためには、熟練した技術者の経験と勘に頼っていた。
【0007】
そこで、本発明は、技術者の経験と勘に頼らず、制御パラメータを決定することができるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、ポリアリ-レンスルフィド樹脂組成物中にエラストマー成分を配合させる場合、エラストマー成分の配合割合が多く、エラストマー成分の分散性が高いほど、耐衝撃性が向上することが期待される。
しかしながら、特許文献2のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、エラストマー成分を、上記割合よりも多く配合させようとする場合、樹脂組成物中に該エラストマー成分をより良好に分散させることについては、未だ改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、後述する取得データをもとに得られたデータセットを用い、機械学習アルゴリズムによる解析を行うことで、好適な制御パラメータを決定可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エラストマー成分の配合量を高め、特定の値以上のせん断速度、且つ特定の設定温度条件のもと混練を行うことで、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0013】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む物性測定データと、を含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、前記製造条件データおよび前記物性測定データに含まれる複数の項目のうち、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。
【0014】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記機械学習アルゴリズムとは、ランダムフォレストを用いたアルゴリズムであり、前記製造条件データおよび前記物性測定データに含まれる複数の項目のそれぞれの重要度を算出することにより、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。
【0015】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記製造条件データには、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造装置の制御対象である第1種類の製造条件項目と、前記製造装置の制御対象でない第2種類の製造条件項目と、が前記製造条件項目として含まれる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2種類の製造条件項目には、前記製造装置のポリアリーレンスルフィド樹脂を混練する混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度が含まれる。
【0017】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2種類の製造条件項目に含まれる前記混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度のうち、前記混練部にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料が投入される上流側の方が、混練されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が押し出される下流側に比べて、前記重要度が高い。
【0018】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、算出された重要度が高い項目を新たな目的変数として、前記機械学習アルゴリズムを実行することにより、前記新たな目的変数の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。
【0019】
また、本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法において、算出された前記重要度が高い項目を解析軸にして、前記データセットを用いた回帰演算を実行することにより、前記重要度が高い項目の特性値の変化と、前記目的変数の特性値の変化との対応関係を推定する。
【0020】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量に対し、5~30質量%であり、
原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、原料熱可塑性エラストマー(B)と、を押出機によって溶融混練する工程を含み、
前記押出機のシリンダー内壁に対するスクリュウ回転より生じるせん断速度が1000~6500s-1であり、
前記シリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満である。
【0021】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性エラストマー(B)が、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである。
【0022】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性エラストマー(B)が、グリシジル変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである。
【0023】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性エラストマー(B)が、前記熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含む。
【0024】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径が0.20μm以下である分散構造を有する。
【0025】
本発明の一態様に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値が40kJ/m以上である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、技術者の経験と勘に頼らず、制御パラメータを決定することができるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法を提供することができる。
【0027】
本発明によれば、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係る二軸押出機の機能構成について説明するための図である。
図2】本実施形態に係る機械学習アルゴリズムについて説明するための図である。
図3】本実施形態に係るデータセットについて説明するための図である。
図4】本実施形態に係る機械学習アルゴリズムにより算出された重要度の一例について説明するための図である。
図5】本実施形態に係る機械学習アルゴリズムにより、エラストマー配合量及びIR1の温度を高重要度項目として、シャルピー衝撃値を目的変数として演算を行った場合の結果を説明するための図である。
図6】本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
図7】実施形態の樹脂組成物の構成の一例を説明する模式図である。
図8】実施例で使用した押出機の構成を説明する模式図である。
図9】シャルピー衝撃値の測定に用いた試験片の形状を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[二軸押出機の概略]
以下、本発明の実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る二軸押出機10の機能構成について説明するための図である。同図を参照しながら、本実施形態に係る二軸押出機10の機能構成について説明する。 二軸押出機10は、駆動装置11と、フィーダー12と、シリンダー13と、スクリュー14と、赤外線温度センサIRとを備える。
【0030】
フィーダー12は、実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料を投入するための投入口である。
本実施形態において、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とは、ポリアリーレンスルフィドを含む樹脂組成物を広く包含する。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料は、ポリアリーレンスルフィドを含むことができる。ポリアリーレンスルフィドとしては、ポリフェニレンスルフィドを例示できる。なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する配合成分、及び配合成分の前駆体を含む。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料には、ポリアリーレンスルフィドと混合される、任意の成分を更に用いることができる。ポリアリーレンスルフィドとエラストマーとを混合する場合、エラストマーについてもフィーダー12から投入される。フィーダー12の個数は1個であっても、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料を個別に投入するために2個以上あっても構わない。
シリンダー13は、筒状の形状を有する。シリンダー13は、一端がフィーダー12に接続され、他端がダイス19に接続される。以後の説明において、シリンダー13のフィーダー12側を上流側と記載し、ダイス19側を下流側と記載する場合がある。シリンダー13は内部にスクリュー14を収容する。フィーダー12に導かれた原料は、不図示の加熱器により加熱され、原料の少なくとも一部(例えばポリアリーレンスルフィド)はシリンダー13の内部で溶融するとともに、投入された原料全体がスクリュー14により混練される。以後の説明において、シリンダー13を混練部とも記載する。混練部では、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料が混練される。以下、溶融混練時のシリンダー内の内容物を、混錬物と称する。
【0031】
本実施形態において、不図示の加熱部は、x軸方向に沿って異なる位置に複数設置されていてもよい。x軸方向において異なる位置に設置された複数の加熱部は、それぞれ異なる温度によりシリンダー13を加熱する。二軸押出機10は、複数の加熱部を備え、それぞれ異なる温度によりシリンダー13を加熱することにより、シリンダー13の上流側と下流側において異なる温度で混練物を加熱する。加熱部としては、シリンダー13を覆うバレルを例示できる。
【0032】
赤外線温度センサIRは、シリンダー13の温度を測定する。具体的には、赤外線温度センサIRは、シリンダー13の内部に存在する成形材料の、溶融混練時の混練物温度を測定する。二軸押出機10は、複数の赤外線温度センサIRを備えていてもよい。本実施形態においては、二軸押出機10は、赤外線温度センサIRとして、シリンダー13の上流側から順に、第1赤外線温度センサIR1と、第2赤外線温度センサIR2と、第3赤外線温度センサIR3と、第4赤外線温度センサIR4とを備える。
【0033】
スクリュー14は、駆動装置11により回転駆動される。スクリュー14は、回転駆動されることにより、シリンダー内部の混練物を、上流側から下流側に導く。フィーダー12に投入された原料は、シリンダー13を介し、溶融混練されて得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、ダイス19から押し出される。
駆動装置11は、不図示のモータ及びギアボックス等を備える。駆動装置11は、予め規定されたスクリュウ回転数(rpm)となるように、モータの回転数やトルク等を制御し、スクリュー14を回転させる。
【0034】
図2は、本実施形態に係る機械学習アルゴリズム20について説明するための図である。同図を参照しながら、機械学習アルゴリズム20について説明する。
機械学習アルゴリズム20には、記憶装置30から、データセットDSが入力される。機械学習アルゴリズム20は、入力されたデータセットDSに基づき、高重要度項目HCを算出する。算出された高重要度項目HCは、記憶装置30に記憶される。
【0035】
具体的には、本実施形態におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法は、データセットDSを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、特性が向上するための重要度が高い項目である高重要度項目HCを判定する。
より具体的には、本実施形態におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法は、データセットDSを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、製造条件データCDおよび物性測定データMDに含まれる複数の項目のうち、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。
【0036】
記憶装置30は、データセットDSと、高重要度項目HCとを記憶する。データセットDSについて、図を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係るデータセットDSについて説明するための図である。
データセットDSは、製造条件データCDと、物性測定データMDとを含む。
製造条件データCDは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む。
本実施形態において、製造条件データCDには、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造装置の制御対象である第1種類の製造条件項目(以後、制御変数又は第1製造条件データCD1とも記載する。)と、製造装置の制御対象でない第2種類の製造条件項目(以後、実測変数又は第2製造条件データCD2とも記載する。)とが含まれる。第2製造条件データCD2とは、実測により得られる測定値であり、すなわち、成り行きにより得られる値である。
【0037】
具体的には、第1製造条件データCD1は、エラストマーの第1の変性量と、エラストマーの第2の変性量と、総変性量と、エラストマー配合量と、スクリュウ回転数とを含む。第2製造条件データCD2は、電流と、混練物圧力と、IR1の温度と、IR2の温度と、IR3の温度と、IR4の温度とを含む。すなわち、第2種類の製造条件項目(第2製造条件データCD2)には、ポリアリーレンスルフィドを混練する混練部の複数個所におけるそれぞれの温度が含まれる。なお、混練部の複数個所におけるそれぞれの温度には、混練部の内部温度が含まれ、具体的には混練物温度、あるいは樹脂温度を含む。
【0038】
なお、混合条件には、使用するエラストマーの第1の変性量と、使用するエラストマーの第2の変性量と、使用するエラストマーの第1の変性量と第2の変性量とを含む総変性量と、エラストマー配合量と、スクリュウ回転数とが含まれる。
【0039】
なお、エラストマー配合量とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量に対する、エラストマーの含有割合(質量%)とすることができる。
【0040】
なお、エラストマーの変性量とは、例えば、後述の熱可塑性エラストマー(B)が有していてもよい官能基の量に対応する。
【0041】
なお、電流とは、シリンダー13から混練物を押し出す際に、スクリュー14を回転駆動させるために要する電流を示す。変形例としては、電流に代えて、押し出しトルクを実測変数としてもよい。
なお、混練物圧力とは、シリンダー13の下流側に位置するダイス部に備えられる不図示の圧力センサにより測定される値である。
【0042】
なお、本実施形態において、実測変数である第2製造条件データCD2のうち、重要であると判定された項目を、制御変数である第1製造条件データCD1としてもよいし、制御変数である第1製造条件データCD1のうち、重要でないと判定されなかった項目を、実測変数である第2製造条件データCD2としてもよい。
【0043】
物性測定データMDは、製造条件データCDが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性値項目を示す。すなわち、記憶装置30は、製造条件データCDと、製造条件データCDに対応する物性測定データMDとを対応づけて、データセットDSとして記憶する。以後の説明において、物性測定データMDを、物性変数とも記載する。
具体的には、物性測定データMDは、製造条件データCDが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む。より具体的には、物性測定データMDは、溶融粘度と、エラストマー平均分散径と、シャルピー衝撃値とを含む。
【0044】
溶融粘度とは、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に荷重をかけ測定される。溶融粘度は、例えば、シリンダー温度を300℃とし、オリフィス長を10mm、オリフィス径1mmのフローテスターに、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを投入し、6分間予熱後に50kgの荷重を掛けることにより測定してもよい。
【0045】
エラストマー平均分散径とは、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から測定される値である。具体的には、エラストマー平均分散径とは、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形材料として、射出成形機により多目的試験片を成形し、成形した多目的試験片を長さ方向の中心位置で切断して切断面を研磨し、キシレン中に浸し、50℃の温度条件で超音波処理を実施し、断面にあるエラストマー分散物をキシレン抽出にて取り除き、その後130℃で2時間乾燥し、断面をSEMで観察し、画像を測定することにより取得してもよい。なお、この際、エラストマーが取り除かれた箇所は空隙相となり明度が低い黒色で円状に表示される。画像解析ソフトにより、画像視野内に認められる当該黒色の円状物の円面積相当径(円状物の面積に相当する真円の直径をもとめた値)を全て計測し、円状物の個数で割った平均値をエラストマーの平均分散径としてもよい。
【0046】
シャルピー衝撃値とは、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から測定される値である。シャルピー衝撃値とは、例えば、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形材料として、シリンダー設定温度300℃、金型設定温度130℃の条件にて射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た後、ISO 2818に従って試験片にノッチを切削し、ISO 179-1に従い23℃において試験を行うことにより測定されてもよい。
【0047】
なお、物性測定データMDには、上述した項目以外にも、高温耐熱性や、高温弾性率等、特性向上のためのターゲットとなり得る値を含んでいてもよい。
【0048】
図3に示す一例において、データセットDSとして、データセットDS1及びデータセットDS2が示される。データセットDS1は、エラストマーの第1の変性量が“3”であり、エラストマーの第2の変性量が“27”であり、総変性量が“30”であり、エラストマー配合量が“2”であり、スクリュウ回転数が“150”であり、電流が“75”であり、樹脂圧力が“1.5”であり、IR1の温度が“306”であり、IR2の温度が“310”であり、IR3の温度が“307”であり、IR4の温度が“308”であり、溶融粘度が“156”であり、ガス発生量が“0.14”であり、エラストマー平均分散径が“0.178”であり、シャルピー衝撃値が“3.5”である。
データセットDS2は、エラストマーの第1の変性量が“3”であり、エラストマーの第2の変性量が“27”であり、総変性量が“30”であり、エラストマー配合量が“2”であり、スクリュウ回転数が“300”であり、電流が“88”であり、樹脂圧力が“1.4”であり、IR1の温度が“316”であり、IR2の温度が“319”であり、IR3の温度が“316”であり、IR4の温度が“316”であり、溶融粘度が“136”であり、ガス発生量が“0.14”であり、エラストマー平均分散径が“0.118”であり、シャルピー衝撃値が“3.6”である。
すなわち、同図に示す一例においては、制御変数としてスクリュウ回転数を“150”から“300”に変えた場合における、実測変数及び物性変数の変化を示している。具体的には、スクリュウ回転数を“150”から“300”に変えたことにより、シャルピー衝撃値“3.5”から“3.6”に向上したことが分かる。
なお、実測変数及び物性変数は、複数回測定した結果に基づいた平均値を用いてもよい。
【0049】
図2に戻り、機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSに含まれる各項目それぞれに対し、重要度(%)を算出する。具体的には、機械学習アルゴリズム20は、ランダムフォレストの手法を用いて重要度を算出する。一例として、機械学習アルゴリズム20は、シャルピー衝撃値(シャルピー衝撃強度)を目的変数、シャルピー衝撃値以外の項目を説明変数として、シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度を算出する。以後の説明において、特性を向上させるための対象として設定された目的変数を、特性向上対象項目とも記載する。
機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSのうち、制御変数、実測変数及び物性変数の全てを分析対象とし、重要度(%)を算出する。
ここで、重要度を算出する際に用いるハイパーパラメータは、決定係数(Score)が最も高くなる様、適宜設定値を変更して構わない。また、グリッドサーチやベイズ最適化の手法を用いて、最適化された値を用いても構わない。
【0050】
図4は、本実施形態に係る機械学習アルゴリズム20により算出された重要度の一例について説明するための図である。同図を参照しながら、機械学習アルゴリズム20により算出された重要度の一例について説明する。
機械学習アルゴリズム20により、データセットDSに対応する項目に対し、重要度が算出される。同図に示す一例においては、シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度を算出した結果のため、シャルピー衝撃値には“target”と示している。シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度は、具体的には、エラストマーの第1の変性量についての重要度が“1.4”であり、エラストマーの第2の変性量についての重要度が“1.2”であり、総変性量についての重要度が“1.1”であり、エラストマー配合量についての重要度が“57.6”であり、スクリュウ回転数についての重要度が“3.2”であり、電流についての重要度が“0.8”であり、混練物圧力についての重要度が“5.3”であり、IR1の温度についての重要度が“11.3”であり、IR2の温度についての重要度が“10.2”であり、IR3の温度についての重要度が“1.1”であり、IR4の温度についての重要度が“1.3”であり、溶融粘度についての重要度が“4.7”であり、ガス発生量についての重要度が“0.1”であり、エラストマー平均分散径についての重要度が“0.9”である。尚、当該重要度は、合計が100となる様、算出した各値にそれぞれ100を乗じた値である。
【0051】
次に、機械学習アルゴリズム20は、所定の方法により、高重要度項目HCを判定する。すなわち、機械学習アルゴリズム20は、製造条件データCDおよび物性測定データMDに含まれる複数の項目のそれぞれの重要度を算出することにより、特性向上対象項目(この一例においては、シャルピー衝撃値)の特性値の変化についての重要度が高い項目(すなわち、高重要度項目HC)を判定する。
図4に示す一例における高重要度項目HCは、エラストマー配合量、IR1の温度、IR2の温度である。
【0052】
ここで、本実施形態においては、実測変数であるIR1からIR4の温度のうち、IR1及びIR2の温度の重要度が高い。すなわち、第2種類の製造条件項目(実測変数)に含まれる混練部の複数個所における混練物温度のうち、混練部にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料が投入される上流側の方が、混練されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が押し出される下流側に比べて、重要度が高い。
【0053】
高重要度項目HCを判定するための所定の方法とは、例えば、算出された重要度のうち、上位3位までを高重要度項目HCとするよう構成してもよい。
なお、変形例として、機械学習アルゴリズム20は、所定の閾値に基づき、高重要度項目HCとするよう構成してもよい。例えば、所定の閾値が10である場合、図4に示す一例では、エラストマー配合量、IR1の温度、IR2の温度が高重要度項目HCである。
【0054】
次に、機械学習アルゴリズム20は、算出された重要度が高い項目を新たな目的変数として、新たな目的変数の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。具体的には、図4に示す一例では、エラストマー配合量、IR1の温度、IR2の温度が高重要度項目HCであるため、高重要度項目HCの1つであるIR1の温度を目的変数、IR1の温度以外の項目を説明変数として、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いてIR1の温度に対する各項目の重要度を算出する。
【0055】
上述したように、機械学習アルゴリズム20によれば、データセットDSのうち所定の項目について目的変数として、当該目的変数とした項目以外の項目について説明変数として、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いて当該目的変数とした項目に対する各項目の重要度を算出する。機械学習アルゴリズム20は、算出された高重要度項目HCのうち、特定の項目を更に目的変数として、新たにランダムフォレストのアルゴリズムを用いて重要度を算出することにより、重要度の高い項目を判定していく。
【0056】
次に、機械学習アルゴリズム20は、高重要度項目HCと判定された項目に対し、サポートベクトル回帰を行う。具体的には、機械学習アルゴリズム20は、算出された重要度が高い項目(高重要度項目HC)を解析軸にして、データセットDSを用いた回帰演算を実行することにより、重要度が高い項目(高重要度項目HC)の特性値の変化と、目的変数の特性値の変化との対応関係を推定する。ここで、高重要度項目HCと判定された項目は、最初の演算により判定された項目と、2回目以降の演算により判定された項目との中から、総合的に判定されてもよい。ここで、サポートベクトル回帰を行う際に用いるハイパーパラメータは、決定係数(Score)が最も高くなる様、適宜設定値を変更して構わない。また、グリッドサーチやベイズ最適化のプログラムを用いて、最適化された値を用いても構わない。
本実施形態においては、エラストマー配合量及びIR1の温度を高重要度項目HCとして、シャルピー衝撃値を目的変数として、サポートベクトル回帰のアルゴリズムを用いて、演算を行う。
【0057】
図5は、本実施形態に係る機械学習アルゴリズムにより、エラストマー配合量及びIR1の温度を高重要度項目HCとして、シャルピー衝撃値を目的変数として、サポートベクトル回帰のアルゴリズムを用いて、演算を行った場合の結果を説明するための図である。 同図には、IR1の温度と、エラストマー配合量と、シャルピー衝撃値とが、3次元グラフとして表現されている。
図5に示す一例においては、エラストマー配合比率がより高く、IR1の混練物温度が320℃より低い条件が、シャルピー衝撃値が向上する製造条件であることが分かる。
【0058】
図6は、本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れを説明するためのフローチャートである。同図を参照しながら、本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れについて、説明する。
(ステップS110)機械学習アルゴリズム20は、記憶装置30から所定の通信方式によりデータセットDSを取得する。
(ステップS120)機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSに基づき、ランダムフォレストを用いて重要度を算出する。機械学習アルゴリズム20は、この際、データセットDSに含まれる制御変数、実測変数、物性変数の全てに対して重要度を算出する。
(ステップS130)機械学習アルゴリズム20は、算出された複数の重要度の中から、重要度の高い項目である高重要度項目HCを、所定の条件に従い選定する。
【0059】
(ステップS140)機械学習アルゴリズム20は、所定の条件により、更に目的変数を設定するか否かの判定をする。機械学習アルゴリズム20は、更に目的変数を設定して重要度を算出する場合(すなわち、ステップS140;YES)、処理をステップS120に進める。機械学習アルゴリズム20は、更に目的変数を設定して重要度を算出しない場合(すなわち、ステップS140;NO)、処理をステップS150に進める。
なお、機械学習アルゴリズム20が更に目的変数を設定するか否かの判定をするための所定の条件とは、算出された高重要度項目HCをユーザに提示することに応じてユーザからの応答を得ることにより取得されてもよい。
なお、機械学習アルゴリズム20が更に目的変数を設定するか否かの判定をするための所定の条件とは、重要度の順位が1位の項目と、重要度の順位が2位の項目との差に応じて自動的に判定されてもよい。
【0060】
(ステップS150)機械学習アルゴリズム20は、算出された高重要度項目HCについて、サポートベクトル回帰分析を行うことにより、好適な製造条件を得る。
(ステップS160)機械学習アルゴリズム20は、改良条件の決定をする。
なお、機械学習アルゴリズム20は、ステップS150においてサポートベクトル回帰分析を行った結果をユーザに提示することに応じてユーザからの応答を得ることにより、改良条件の決定をするよう構成されていてもよい。
【0061】
[実施形態のまとめ]
以上説明した実施形態によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法は、データセットDSを用いて機械学習アルゴリズム20を実行することにより、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。データセットDSは、製造条件データCDと物性測定データMDとを含む。製造条件データCDは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を少なくとも含む。また、物性測定データMDは、製造条件データCDが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む。
従来、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性値を向上させるための制御パラメータを決定するため、製造条件として制御するパラメータの種類は非常に多く、熟練した技術者の経験と勘に頼っていた。本実施形態によれば、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を容易に算出できるため、技術者の経験と勘に頼らず、制御パラメータを決定することができる。
【0062】
また、以上説明した実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20とは、ランダムフォレストを用いたアルゴリズムである。また、機械学習アルゴリズム20は、製造条件データCDおよび物性測定データMDに含まれる複数の項目のそれぞれの重要度を算出することにより、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。具体的には、機械学習アルゴリズム20は、データセットDSのうち、制御変数、実測変数及び物性変数の全てを分析対象とし、重要度を算出し、算出された重要度に基づき、高重要度項目HCを算出する。すなわち、本実施形態によれば制御パラメータとして制御していない、制御した結果変化する物性測定データMDが重要である場合についても、当該成り行きにより変化するパラメータを高重要度項目HCとして判定することができる。
【0063】
また、以上説明した実施形態によれば、製造条件データCDには、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造装置の制御対象である制御変数と、製造装置の制御対象でない実測変数とが製造条件項目CDとして含まれる。すなわち、本実施形態によれば制御パラメータとして制御していない成り行きにより変化するパラメータが重要である場合についても、当該成り行きにより変化するパラメータを高重要度項目HCとして判定することができる。
【0064】
また、以上説明した実施形態によれば、実測変数には、シリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度が含まれる。すなわち、機械学習アルゴリズム20は、シリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度(溶融混練時の混練物温度)を実測変数として、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を算出する。したがって、本実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20は、高精度に高重要度項目HCを算出することができる。
【0065】
また、以上説明した実施形態によれば、実測変数に含まれるシリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度(溶融混練時の混練物温度)のうち、シリンダー13の上流側の方が、下流側に比べて重要度が高い。すなわち、本実施形態によれば、従来、熟練した技術者の経験と勘に頼らなければ特定できなかった、重要なパラメータを、制御パラメータとして決定することができる。
【0066】
また、以上説明した実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20は、算出された高重要度項目HCを新たに目的変数として目的変数の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。したがって、機械学習アルゴリズム20は、最も重要なパラメータに寄与するパラメータを判定することができる。機械学習アルゴリズム20は、重要であると判定されたパラメータに寄与するパラメータを判定することができるため、より正確に特性向上対象項目の特性値が向上するためのパラメータを選定することができる。
【0067】
また、以上説明した実施形態によれば、算出された高重要度項目HCを解析軸にして、データセットDSを用いた回帰演算を実行することにより、高重要度項目HCの変化と、目的変数の特性値の変化との対応関係を推定する。すなわち、本実施形態によれば、特性向上対象項目の特性値が向上するためのパラメータを容易に選定することができる。
【0068】
なお、上述した実施形態における機械学習アルゴリズム20が備える各部の機能の全体あるいはその機能の一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0069】
また、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0070】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0071】
≪樹脂組成物≫
実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、原料熱可塑性エラストマー(B)と、を押出機によって溶融混練する工程を含み、前記押出機の、シリンダー内壁に対するスクリュウ回転より生じるせん断速度が1000~6500s-1であり、前記シリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満である、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法である。
【0072】
本明細書において、実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法を、単に「実施形態の製造方法」又は「製造方法」ということがある。また、実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、単に「実施形態の樹脂組成物」又は「樹脂組成物」ということがある。
【0073】
実施形態の製造方法では、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量(100質量%)に対し5~30質量%となるように、それらの原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、原料熱可塑性エラストマー(B)とを押出機に投入して、押出機により溶融混練することができる。
【0074】
実施形態の製造方法において、原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と原料熱可塑性エラストマー(B)とはこれらを溶融混練する前に、両者を予め混合装置でドライブレンドして、原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び原料熱可塑性エラストマー(B)を含む混合物を得てもよい。混合物としては、後述のポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)及び熱可塑性エラストマー粒子(b)を含む混合物が挙げられる。該混合物を溶融混練装置に投入して溶融混練することは、前記熱可塑性エラストマー(B)を良好に分散できることから好ましい。
【0075】
ここで原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と原料熱可塑性エラストマー(B)とを予めドライブレンドする方法は、ナウタミキサー、タンブラー、又はヘンシェルミキサーなどの混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。例えばナウタミキサーを用いて混合する際の運転条件は、前記ナウタミキサー内部に設置されたスクリュウの自転回転数が50rpm~80rpmの範囲にあり、公転回転数が1.5rpm~2.5rpmの範囲にある回転数の運転条件が挙げられる。
【0076】
実施形態の製造方法における押出機による溶融混練は、シリンダー内壁に対するスクリュウ回転より生じるせん断速度が1000~6500s-1の条件で溶融混練するものであり、前記せん断速度が1500~4800s-1の条件で溶融混練することが好ましく、前記せん断速度が3000~4000s-1の条件で溶融混練することがより好ましい。
ここで、せん断速度は以下の式で求めた値とする。
せん断速度(γ)=(π×D×N)/H
60rpmは1s-1であるので、せん断速度をs-1の単位で求める場合には、下記式のように換算して求めればよい。
せん断速度(γ)=[π×D×(N/60)]/H
[Dはスクリュウ径(mm)、Nはスクリュウ回転数(rpm)、Hはチップクリアランス(mm)を表す。]
【0077】
図7は、実施形態の樹脂組成物の構成の一例を説明する模式図である。
図7では、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)がマトリックスポリマーであり、該マトリックスポリマー中に熱可塑性エラストマー(B)が分散した状態の樹脂組成物を示す。上記下限値以上のせん断速度で混練を行うことで、前記熱可塑性エラストマー(B)の分散性を良好な状態とすることができる。
【0078】
熱可塑性エラストマー(B)の分散性が良好な状態の指標として、実施形態の樹脂組成物における熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径の値を採用することができる。当該平均分散径が小さいほど、熱可塑性エラストマー(B)の分散性が良好であるといえる。 また、上記上限値以下のせん断速度で混練を行うことで、熱可塑性エラストマー(B)の劣化や低分子化を防止でき、実施形態の樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0079】
樹脂組成物における熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径は、以下の方法により求めることができる。
測定対象の樹脂組成物を成形材料として、射出成形機により、ISO 3167タイプAの多目的試験片(成形物)を成形する。次に該多目的試験片を長さ方向の中心位置で切断して切断面を研磨し、キシレン中に浸し、50℃の温度条件で超音波処理を実施し、断面にある熱可塑性エラストマー(B)の分散物をキシレン抽出にて取り除く。その後130℃で2時間乾燥し、断面をSEMで観察し画像を取得する。熱可塑性エラストマー(B)が取り除かれた箇所は空隙相となり、明度が低い黒色の円状に表示される。画像解析ソフトにより、画像視野内に認められる当該黒色の円状物の円面積相当径(円状物の面積に相当する真円の直径をもとめた値)を全て(n=300個以上)計測し、円状物の個数で割った平均値を熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径とする。
【0080】
実施形態の樹脂組成物の、熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径は、0.20μm以下が好ましく、0.01μm以上0.18μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上0.17μm以下であることがさらに好ましい。
上記数値範囲の熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径を有する樹脂組成物は、優れた耐衝撃性を示す傾向にあり好ましい。
【0081】
実施形態の製造方法において、上記せん断速度を生じさせる押出機のスクリュウ回転数の一例としては、330~2000rpmであってよく、500~1500rpmであってよく、970~1250rpmであってよい。
【0082】
また、実施形態の製造方法における押出機による溶融混練は、前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満であり、220℃以上300℃未満であることが好ましく、230℃以上295℃以下であることがより好ましく、250℃以上290℃以下であることがさらに好ましく、260℃以上285℃以下であることが特に好ましい。
前記シリンダーの設定温度とは、前記シリンダーを覆うバレルの設定温度を例示できる。
設定温度を上記数値範囲内とする“低温領域”を設けることで、樹脂組成物の熱劣化の防止と、熱可塑性エラストマー(B)の分散性の向上とが両立され、実施形態の樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0083】
上記の観点から、低温領域はある程度の長さ(3/15以上)を確保することが好ましい。一方、低温領域の長さに上限値を設け、低温領域とする領域の他に、低温領域よりも高温の“高温領域”を設けることも、樹脂組成物のシャルピー衝撃値をより向上させることができることから、好ましい。
上記低温領域は、前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域であり、3/15以上15/15以下の長さの領域であってよく、4/15以上13/15以下の長さの領域であってよく、5/15以上12/15以下の長さの領域であってよい。
【0084】
上記低温領域は、連続であっても、不連続であってもよい。上記低温領域が不連続である場合には、低温領域に該当する領域の合計の長さを低温領域として採用することができる。
【0085】
上記低温領域は、連続した領域であることが好ましい。上記低温領域は、前記押出機のシリンダーの全長に対して連続する3/15以上の長さの領域であってよく、連続する3/15以上15/15以下の長さの領域であってよく、連続する4/15以上13/15以下の長さの領域であってよく、連続する5/15以上12/15以下の長さの領域であってよい。
【0086】
なお、シリンダーの全長部分には、押出機のダイス及びヘッド部分は含まれないものとする。
【0087】
低温領域の長さに上限値を設ける場合、残りのシリンダーの領域では、低温領域におけるバレルの設定温度300℃未満の所定の設定数値を超える、任意の値の温度を設定することができる。
【0088】
例えば、前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満の低温領域であり、その残りの高温領域でシリンダーの設定温度を300℃以上370℃以下としてもよく、
前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が230℃以上295℃以下の低温領域としてもよく、その残りの高温領域でシリンダーの設定温度を295℃超360℃以下としてもよく、
前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が250℃以上290℃以下の低温領域としてもよく、その残りの高温領域でシリンダーの設定温度を290℃超340℃以下としてもよく、
前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が260℃以上285℃以下の低温領域としてもよく、その残りの高温領域でシリンダーの設定温度を285℃超320℃以下としてもよい。
【0089】
或いは、前記押出機のシリンダーの全長に対して3/15以上の長さの領域で、前記シリンダーの設定温度が300℃未満の低温領域であるとき、その残りの高温領域でのシリンダーの設定温度は、例えば、300℃以上370℃以下であってよく、300℃以上360℃以下であってよく、300℃以上340℃以下であってよく、300℃以上320℃以下であってよい。
【0090】
シリンダーの設定温度に温度差を設ける場合、シリンダーの設定温度を220℃以上とした領域において、シリンダーの設定温度の最高値と最低値との温度差は、一例として10~150℃であってよく、30~120℃であってよく、50~100℃であってよい。
【0091】
低温領域におけるシリンダーの設定温度の最高値と、高温領域におけるシリンダーの設定温度の最低値との温度差は、一例として5~150℃であってよく、7~100℃であってよく、10~30℃であってよい。
【0092】
また、低温領域内においても温度差を設けてもよい。低温領域内においても温度差を設ける場合、シリンダーの設定温度を220℃以上とした領域において、低温領域におけるシリンダーの設定温度の最高値と最低値との温度差は、一例として5~80℃であってよく、10~70℃であってよく、20~60℃であってよい。
【0093】
このように、溶融混練における温度にシリンダーの領域によって温度差を設ける形態について、興味深いことに、樹脂組成物の原料が投入される上流側(シリンダーの全長を2等分した場合の原料投入口側のシリンダーの領域)のほうに低温領域を設けたほうが、実施形態の樹脂組成物の耐衝撃性の向上について、より効果的なものとすることができる。
例えば、前記押出機のシリンダーの全長を15等分割したとき、樹脂組成物の配合成分が投入される原料投入口側(上流側)から数えて、少なくとも3/15~5/15番目の領域を含むよう上記低温領域を設定してもよく、少なくとも2/15~6/15番目の領域を含むよう上記低温領域を設定してもよく、少なくとも1/15~7/15番目の領域を含むよう上記低温領域を設定してもよい。
【0094】
押出機の上流側を上記低温領域としたほうがよい理由としては、以下が推察される。押出機前半部はポリマーの溶融時には吸熱ではあるのだが、原料の混ざり合う位置であるため、それ以上に摩擦による発熱が生じる領域でもあると考えられる。したがって、原料投入口側である上流側の領域における温度を下げる方向とすることで、樹脂組成物の熱劣化が抑制され、その結果シャルピー衝撃値の向上に寄与するものと考えられる。
【0095】
上記のせん断速度において混練を行った場合、せん断発熱により、実際のシリンダー内温度は、その設定温度よりも上昇する傾向にある。
上記低温領域における、シリンダー内で混練される混練物温度の最高値は、250℃以上320℃未満であることが好ましく、270℃以上315℃以下であることがより好ましく、280℃以上310℃以下であることがさらに好ましい。
シリンダー内で混練される混練物温度の最高値は、上記高温領域におけるものであってよく、315℃超400℃以下であることが好ましい。熱可塑性エラストマーの劣化を効果的に抑制するとの観点からは、315℃以上350℃以下であることがより好ましく、315℃以上330℃以下であることがさらに好ましい。
【0096】
前記押出機は、該押出機のシリンダーの内部に配設された前記押出用のスクリュウの数が一本の一軸押出機、該スクリュウの数が二本の二軸押出機が挙げられるが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の全配合成分の混練効率が高いことから、前記二軸押出機を用いる方法が好ましい。
特に、混練用のニーディングディスクを備えた同方向回転の二軸押出機を用いることが好ましい。
【0097】
前記押出機は、スクリュウ長(L)/スクリュウ径(D)の値が40~200であることが好ましく、50~150であることがより好ましく、70~120であることがさらに好ましい。上記L/Dの値が上記下限値以上であると混練時の温度制御が容易であって優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が容易に得られる。上記L/Dの値が上記上限値以下であると、樹脂組成物の製造の効率に優れる。
【0098】
前記二軸押出機での溶融混練の運転条件は、樹脂成分の吐出量(kg/h)とスクリュウ回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュウ回転数)が0.001~0.01(kg/h・rpm)となる条件下で溶融混練する方法が挙げられる。かかる条件下に製造することによって、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の前記熱可塑性エラストマー(B)の分散性がより良好なものとなる。
【0099】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)>
実施形態の製造方法で用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記構造式(1)で表される構造部位を繰り返し単位として有する樹脂が挙げられる。
【0100】
【化1】
【0101】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表す。)
【0102】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0103】
【化2】
【0104】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性や結晶性の観点より好ましい。
【0105】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計を100モル%とした量に対して30モル%以下で含んでいてもよい。
【0106】
【化3】
【0107】
、特に上記構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を10モル%以下で含むことが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性、及び機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に、上記構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0108】
前記したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、架橋型のポリアリーレンスルフィド樹脂、及び実質的に線状構造を有する所謂リニア型のポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。かかるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れることから、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンとを反応させる方法によって製造することができる。
【0109】
前記原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲の粒径を有するポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることが好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が1.0mm以上の場合、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)が再凝集しにくく取り扱いが容易で、熱可塑性エラストマー粒子(b)と均一に混合し易い。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が3.0mm以下の粒子である場合、該熱可塑性エラストマー粒子(b)と均一に混合し易いため前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が向上する。これらの中でも、体積平均粒子径が1.5mm~2.5mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることがより好ましい。
【0110】
前記した体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)は、例えば、以下の(イ)又は(ロ)の方法によって製造できる。
(イ)前記した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却し、次いで水または温水で数回洗浄した後に乾燥して得られた、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の粒子を、ベルトプレス装置等のプレス機を用いて圧縮固着することにより板状の固形物を得、次いで粉砕して体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
(ロ)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却する前の、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が反応溶媒に溶解した状態で水を添加し、体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
【0111】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の分子構造中に活性水素原子を有する官能基として、カルボキシル基を有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性をより高くできる点より好ましい。具体的には、中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、前記のカルボキシル基の含有量が10μmol/g~200μmol/gの範囲にあることが好ましく、10μmol/g~100μmol/gの範囲にあることがより好ましい。前記した中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、カルボキシル基の含有量が10μmol/g以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性を高めることができ、一方200μmol/g以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性の制御が容易になる。
【0112】
前記の分子構造中に活性水素原子を有する官能基としてカルボキシル基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、室温まで冷却し水で洗浄した後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をろ別し、酸で処理した後、次いで水で洗浄する方法が挙げられ、この際使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、シュウ酸、又はプロピオン酸が前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を分解することなく、残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、これらのなかでも酢酸、又は塩酸がより好ましい。
【0113】
さらに実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、300℃で測定した溶融粘度が、60Pa・s~240Pa・sの範囲にあるものが好ましい。該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が60Pa・s以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の靭性が向上し、一方、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が240Pa・s以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の高せん断下の発熱を抑制することが容易になる。これらの中でも、前記熱可塑性エラストマー(B)の添加による強度改善効果と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の流動性とのバランスの点から、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度は、特に80Pa・s~180Pa・sの範囲にあることが好ましい。
【0114】
ここで、前記した300℃で測定したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度とは、高下型フローテスターを用い、長さ10mm、径1mmのオリフィスを使用して、300℃、試験荷重50kgの条件で、6分間保持した後に測定した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(Pa・s)を示す。
【0115】
実施形態の樹脂組成物における、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の配合割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、50~95質量%であることが好ましく、70~90質量%がより好ましく、75~85質量%がさらに好ましい。上記で例示した、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の配合割合の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0116】
<熱可塑性エラストマー(B)>
実施形態の製造方法で用いられる前記熱可塑性エラストマー(B)は、例えば、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するものであることが好ましい。かかる熱可塑性エラストマー(B)は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性の改善効果が優れる点より好ましい。また、耐熱性に優れる点から、熱可塑性エラストマー(B)は、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはニトリル系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0117】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、オレフィンに由来する構成単位を含む熱可塑性エラストマーを例示できる。オレフィンとしては、α-オレフィンが好ましい。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物構造、エステル構造及びイソシアネート基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基または構造を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましい。これらのなかでもカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造またはエステル構造を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性により優れ、相溶性がより向上し均一混合された前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得られる点でより好ましい。
【0118】
なかでも、エポキシ基を分子構造中に有するグリシジル変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、優れた耐衝撃性を付与可能である一方、従来、樹脂組成物中に配合比率を高めた該エラストマーを良好に分散させることは困難であった。
対して、実施形態の製造方法によれば、熱可塑性エラストマー(B)がグリシジル変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーである場合でも、その分散性を良好な状態とすることができ、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造可能である。
【0119】
前記したカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、α-オレフィンと、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するビニル重合性化合物との共重合で得ることができる。前記α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。
【0120】
前記したカルボキシル基を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸、またはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0121】
前記したエポキシ基を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0122】
前記した酸無水物構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸の酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸の無水物と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0123】
前記したエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸のモノ及びジエステルと前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0124】
また、これらの二種以上の官能基又は構造を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α-オレフィン、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸グリシジルの三元共重合体が挙げられる。
【0125】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、α-オレフィンに由来する構成単位を40~95質量%含むことが好ましく、50~90質量%含むことがより好ましく、60~80質量%含むことがさらに好ましい。
【0126】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含むことが好ましく、0.5~15質量%含むことがより好ましく、1~7質量%含むことがさらに好ましい。
【0127】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むことが好ましく、3~40質量%含むことがより好ましく、10~35質量%含むことがさらに好ましい。
【0128】
上記共重合体の一例として、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むものが挙げられる。
【0129】
上記共重合体の一例として、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
α-オレフィンに由来する構成単位を40~95質量%含み、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むものが挙げられる。
【0130】
次に、前記ニトリル系熱可塑性エラストマーとしては、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体が挙げられる。前記不飽和ニトリルは例えばアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられ、前記共役ジエンは例えば1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でもアクリロニトリル-ブタジエン共重合体が好ましく、さらに前記共役ジエンの二重結合の一部または全部を水素添加し、ニトリル基の三重結合を維持したまま耐熱性を高めた水添ニトリル系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0131】
また、前記水添ニトリル系熱可塑性エラストマーは、ビニル基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物構造、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、イソシアヌレート基、マレイミド基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましく、これらの中でもカルボキシル基を有する水添ニトリル系熱可塑性エラストマーが、耐熱性及び反応性に優れる点から特に好ましい。
【0132】
実施形態の製造方法で用いることのできる、原料熱可塑性エラストマー(B)は、その体積平均粒子径が0.1mm~3.0mmの範囲にある熱可塑性エラストマー粒子(b)であることが好ましい。該熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径が0.1mm以上の場合、該熱可塑性エラストマー粒子(b)の比表面積が小さくなり、該熱可塑性エラストマー粒子(b)の再凝集が発生し難く取り扱いが容易になり、所定配合量の前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の配合が容易になる。一方、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径が3.0mm以下の粒子である場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し均一混合することが容易になり、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が良好に発現される。前記した体積平均粒子径のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の作業上の取り扱いの容易性、均一混合の容易性、及び耐衝撃性や曲げ強度が改善される効果の各効果のバランスの点から、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径は、特に0.3mm~2.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0133】
前記した、体積平均粒子径が0.1mm~3.0mmの範囲にある粒子径を有する前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を製造する方法は、3.0mmを超える体積平均粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を、切断機を用いて細かく切断して製造する方法、あるいは前記の体積平均粒子径が3.0mmを超える粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を凍結粉砕する方法を挙げることができる。凍結粉砕の方法は、ドライアイスあるいは液体窒素等で凍結させた後、通常のハンマータイプ粉砕機、カッタータイプ粉砕機あるいは石臼型の粉砕機等を用いて粉砕する方法が挙げられる。前記した方法のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を容易に製造することができる点から、凍結粉砕して該前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を製造する方法が好ましい。
【0134】
実施形態の樹脂組成物における、熱可塑性エラストマー(B)の配合割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、5~30質量%であり、10~28質量%が好ましく、15~25質量%がより好ましい。上記で例示した、熱可塑性エラストマー(B)の配合割合の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0135】
また別の側面からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物におけるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)との総含有量(100質量部)に対して、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合は、5~30質量部が好ましく、10~28質量部がより好ましく、15~25質量部がさらに好ましい。
【0136】
前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合が上記下限値以上であることで、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性の向上効果が良好に発現される。前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合が上記上限値以下であることで、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時のガス発生量を効果的に低減できる。
【0137】
従来、熱可塑性エラストマー(B)を上記下限値以上で含有させようとする場合、樹脂組成物中に該エラストマー成分を分散性高く分散させることが困難であった。この要因については明らかではないが、エラストマー成分の含有割合が大きくなるほど、分散により多くのエネルギーが必要となることに加え、分散しかけたエラストマー同士の接触頻度が高まることが要因であると考えられる。
対して、実施形態の製造方法によれば、熱可塑性エラストマー(B)を上記下限値以上で含有させる場合であっても、その分散性を良好な状態とすることができ、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造可能である。
【0138】
実施形態の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー(B)の他に、その他の任意成分を、それらの含有量(質量%)の合計が100質量%を超えないよう含有することができる。
実施形態の樹脂組成物は、前記各成分に加え、更にエポキシシランカップリング剤(C)を配合することができる。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー(B)と該エポキシシランカップリング剤との優れた反応性のため、前記熱可塑性エラストマー(B)の均一分散性が改善されるとともに、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との界面における密着性が向上し前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の強度改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
【0139】
前記エポキシシランカップリング剤(C)は、アルキル基として炭素原子数1~4の直鎖型アルキル基を有する、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基のようなエポキシ構造含有基と、2個以上のメトキシ基及びエトキシ基とが珪素原子に結合した構造を有するシラン化合物が好ましい。
【0140】
このようなエポキシシランカップリング剤(C)は、具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びエポキシ系シリコーンオイルが挙げられる。
【0141】
前記エポキシ系シリコーンオイルは炭素原子数2~6アルコキシ基を繰り返し単位として2単位乃至6単位で構成されるポリアルキレンオキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0142】
前記エポキシシランカップリング剤(C)のなかでも、特に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、及び前記熱可塑性エラストマー(B)との反応性に優れる点からγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランに代表されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0143】
前記エポキシシランカップリング剤(C)の含有率は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全質量に対する含有率として、0.1質量%~5質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%以上の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との相溶性が良くなり、5質量%以下の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスが減少する。これらのなかでも前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対する含有率として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との相溶性、及び前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスの量のバランスの点から、特に0.1質量%~2質量%の範囲にあることが好ましい。
【0144】
実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記した配合物に加え、適宜無機フィラーを配合することができる。前記無機フィラーは、繊維状無機フィラーと非繊維状無機フィラーとを挙げることができる。
【0145】
前記繊維状無機フィラーは、例えば、ガラス繊維、PAN系又はピッチ系の炭素繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、及びアラミド繊維等の有機質繊維状物質等が挙げられる。
【0146】
また、前記非繊維状無機フィラーは、例えば、マイカ、タルク、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、クレー、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ゼオライト、パイロフィライトなどの珪酸塩や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄などの金属酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムなどが挙げられる。これらの前記繊維状無機フィラー、及び前記非繊維状無機フィラーは、単独使用でも2種以上を併用してもよい。これらの非繊維状無機フィラーの配合時期は特に限定されないが前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。
【0147】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記無機フィラーとの配合割合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融特性やその成型品の力学的特性の観点から前者/後者の割合で30質量部~100質量部/70質量部~0質量部となる範囲にあることが好ましい。さらに、前記繊維状無機フィラーと前記非繊維状無機フィラーとの混合割合は成型品に要求される力学的特性の観点から任意の配合でよいが、前者/後者の割合で20質量部~100質量部/80質量部~0質量部となる範囲にあることが好ましい。
【0148】
実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、前記繊維状フィラーは前記2軸押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが前記繊維状フィラーの分散性が良好となる点から特に好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記2軸押出機のスクリュウ全長に対する、押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1~0.6の範囲にあることが好ましく、これらの中でも0.2~0.4の範囲にあることが特に好ましい。
【0149】
更に、実施形態の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、加工熱安定剤、可塑剤、離型剤、着色剤、滑剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、ワックス等の添加剤を適量添加してもよい。これらの添加剤の配合時期は特に限定されないが、前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。
【0150】
更に実施形態の製造方法では、更に、要求される特性に合わせて、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)および熱可塑性エラストマー(B)に該当しないその他の樹脂成分を適宜配合してもよい。その他の樹脂成分の配合時期は特に限定されないが、前記ナウタミキサーにより前記原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記原料熱可塑性エラストマー(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。ここで使用し得る樹脂成分としては、エチレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの単量体の単独重合体または共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルなどの単独重合体、ランダム共重合体またはブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0151】
このようにして溶融混練された前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、ペレットとして製造することができる。この前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形機に供して溶融成形することにより目的とする成形物が得られる。前記溶融成形法は、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられ、特に限定するものでない。
【0152】
このようにして得られた前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形物は、前記熱可塑性エラストマー(B)の分散性に優れ、且つ比較的多量の該熱可塑性エラストマー(B)を溶融混練して得られるものであるため、格別良好な耐衝撃性を発揮する。
【0153】
実施形態の製造方法によって得られた前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば自動車部品や、自動車部品として用いられる電気又は電子部品の車両部品用又は車両部材用途に好適に用いることができる。
車両部品としては、エンジンルーム内での駆動系部品(例えば、トランスミッションギア、駆動モータ部品等)、制御部品(PCU等)、冷却部品(配管、バルブやポンプ部品等)、電池部品を例示できる。
【0154】
実施形態の樹脂組成物の製造方法によれば、優れた耐衝撃性を示すポリアリーレンスルフィド樹脂を製造可能である。
耐衝撃性としては、実施形態の樹脂組成物の成形物の、シャルピー衝撃値を採用することができる。
【0155】
樹脂組成物の成形物のシャルピー衝撃値は、以下の方法により求めることができる。
測定対象の樹脂組成物を成形材料として、シリンダー設定温度300℃、金型設定温度130℃の条件にて射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得る。次にISO 2818に従って試験片にノッチ(B:8mm)を切削し、ISO 179-1に従い試験を行い、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値(kJ/m)を得る。
【0156】
実施形態の樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値は、40kJ/m以上であることが好ましく、50kJ/m以上であることがより好ましく、60kJ/m以上であることがさらに好ましく、62kJ/m以上であることがさらに好ましく、64kJ/m以上であることが特に好ましい。
上記シャルピー衝撃値の上限値は特に制限されるものではないが、一例として、70kJ/m以下であってよく、69kJ/m以下であってよく、68kJ/m以下であってよい。
上記数値範囲の一例として、実施形態の樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値は、40kJ/m以上70kJ/m以下であってよく、50kJ/m以上70kJ/m以下であってよく、60kJ/m以上69kJ/m以下であってよく、62kJ/m以上68kJ/m以下であってよく、64kJ/m以上68kJ/m以下であってよい。
【0157】
本発明の一実施形態の樹脂組成物として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100質量%に対し、5~30質量%であり、前記樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値が40kJ/m以上である、樹脂組成物を提供する。
実施形態の樹脂組成物は、上記の樹脂組成物の製造方法により製造することができる。
【0158】
実施形態の樹脂組成物の成形物の、ISO179-1に準拠して測定された、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値の40kJ/m以上の数値としては、上記で例示した各数値が挙げられる。
【0159】
また、本発明の一実施形態の樹脂組成物として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100質量%に対し、5~30質量%であり、熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径が、0.20μm以下である分散構造を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、およびその製造方法を提供する。
当該樹脂組成物は、実施形態の樹脂組成物の製造方法により製造することができる。
【0160】
実施形態の樹脂組成物の、熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径は、0.20μm以下が好ましく、0.01μm以上0.18μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上0.17μm以下であることがさらに好ましい。
上記数値範囲の熱可塑性エラストマー(B)の平均分散径を有する樹脂組成物は、優れた耐衝撃性を示す傾向にあり、好ましい。
【実施例
【0161】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0162】
<原料>
・ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製、MA-520)
・ポリエチレン系エラストマーA(住友化学社製、ボンドファースト BF-7L)
・ポリエチレン系エラストマーB(住友化学社製、ボンドファースト BF-E)
・ポリエチレン系エラストマーC(住友化学社製、ボンドファースト BF-7M)
【0163】
上記のポリエチレン系エラストマーの原料として使用される各モノマーの割合を以下に示す。値は、ポリエチレン系エラストマーの原料として使用されるモノマーの総質量に対する各モノマー量(質量%)である。
【0164】
【表1】
上記の実施形態に記載のとおり、シャルピー衝撃値の良好な樹脂組成物の製造を目的としたサポートベクトル回帰分析の結果より、エラストマー配合比率がより高く、混練物温度IR1及びIR2が300~315℃の範囲となる製造条件が良好であることが示唆された。かかる情報に基づき、以下の条件にて、各実施例及び比較例の樹脂組成物を製造した。
【0165】
<樹脂組成物の製造>
[実施例1]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(80質量部)と、ポリエチレン系エラストマーA(20質量部)とを混合後、二軸押出機に投入した。
図8は、使用した二軸押出機の構成を説明する模式図である。二軸押出機は、スクリュウ径15mm、チップクリアランス0.25mm、シリンダー長さLとシリンダー内径Dの比率:L/D=90、バレル数15(15等分割されたバレルを原料供給側から吐出側に向かいC1~C15とする)の同方向回転二軸押出機を用い、C4、C7、C10、C12位置がニーディングゾーンとなるスクリュウ構成とした。
表2に示すC2~C15のバレルの設定温度(℃)[バレルを包むヒーター(カートリッジ型)の設定温度。C1の「常温」は温度を設定していない。]、及びスクリュウ回転数の各条件で、上記のポリフェニレンスルフィド樹脂と、ポリエチレン系エラストマーAとを溶融混練し、ダイスから出たストランドを冷却してカッティングし、実施例1の樹脂組成物のペレットを得た。
【0166】
【表2】
【0167】
[実施例2]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2の樹脂組成物のペレットを得た。
【0168】
[実施例3]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3の樹脂組成物のペレットを得た。
【0169】
[実施例4]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4の樹脂組成物のペレットを得た。
【0170】
[比較例1]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1の樹脂組成物のペレットを得た。
【0171】
[比較例2]
スクリュウ回転数を表2に記載のとおりの回転数に変更した以外は、比較例1と同様の操作を行い、比較例2の樹脂組成物のペレットを得た。
【0172】
[実施例5]
原料を、ポリフェニレンスルフィド樹脂(80質量部)と、ポリエチレン系エラストマーB(20質量部)へと変更し、スクリュウ回転数及びバレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5の樹脂組成物のペレットを得た。
【0173】
[実施例6]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、実施例6の樹脂組成物のペレットを得た。
【0174】
[実施例7]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、実施例7の樹脂組成物のペレットを得た。
【0175】
[実施例8]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、実施例8の樹脂組成物のペレットを得た。
【0176】
[比較例3]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、比較例3の樹脂組成物のペレットを得た。
【0177】
[比較例4]
スクリュウ回転数を表2に記載のとおりの回転数に変更した以外は、比較例3と同様の操作を行い、比較例4の樹脂組成物のペレットを得た。
【0178】
[実施例9]
原料を、ポリフェニレンスルフィド樹脂(80質量部)と、ポリエチレン系エラストマーC(20質量部)へと変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例9の樹脂組成物のペレットを得た。
【0179】
[比較例5]
バレルの設定温度を表2に記載のとおりの設定温度に変更した以外は、実施例9と同様の操作を行い、比較例5の樹脂組成物のペレットを得た。
【0180】
<測定>
(溶融混練時のシリンダー内の混練物温度の計測)
二軸押出機を用いて溶融混練する際、15等分割されたバレルのうち、バレルの位置C5、C8、C11、及びC13に赤外温度計を設置し、スクリュウ根元から先端までの計4カ所(それぞれ、IR1の温度、IR2の温度、IR3の温度、IR4の温度とする。)において各バレル通過時のシリンダー内の温度(℃)を測定した(図8参照)。
【0181】
(シャルピー衝撃値)
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を成形材料として、シリンダー設定温度300℃、金型設定温度130℃の条件にて射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た。次にISO 2818に従って試験片にノッチ(B:8mm)を切削し、ISO 179-1に従い試験を行い、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値(kJ/m)を得た。図9にシャルピー衝撃値の測定に用いた試験片の形状を示す。
【0182】
(エラストマーの分散径)
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを成形材料として、射出成形機により、ISO 3167タイプAの多目的試験片を成形した。次に該多目的試験片を長さ方向の中心位置で切断して切断面を研磨し、キシレン中に浸し、50℃の温度条件で超音波処理を実施し、断面にあるエラストマー分散物をキシレン抽出にて取り除いた。その後130℃で2時間乾燥し、断面をSEMで観察し画像を取得した。エラストマーが取り除かれた箇所は空隙相となり、明度が低い黒色の円状に表示された。画像解析ソフトにより、画像視野内に認められる当該黒色の円状物の円面積相当径(円状物の面積に相当する真円の直径をもとめた値)を全て(n=300個以上)計測し、円状物の個数で割った平均値をエラストマーの平均分散径(μm)とした。
【0183】
(溶融粘度)
シリンダー温度300℃、オリフィス長10mm、オリフィス径1mmのフローテスターに、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを投入し、6分間予熱後に試験荷重50kgの条件で溶融粘度を測定した。
【0184】
上記の測定結果を表3~表5に示す。
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
【表5】
【0188】
比較例2については、スクリュウ回転数が300rpmと低い条件での混練を行っており、樹脂組成物中のエラストマーの平均分散径も比較的大きく、シャルピー衝撃値が劣る結果となった。
【0189】
比較例1では、スクリュウ回転数が1000rpmであり、エラストマーの平均分散径が小さい値となり、樹脂組成物中のエラストマーの分散状態の向上が見られた。
【0190】
対する各実施例では、上述のとおり、制御変数、実測変数、物性変数をすべて含むデータセットを作成し、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いた重要度の算出、および重要度が上位の項目をとりあげ、サポートベクトルマシンのアルゴリズムを用いた回帰分析を行うことで示唆された結果をもとに、エラストマー配合割合、二軸押出機のスクリュウ回転数、及び押出機のシリンダー内の混練物温度について所定の製造条件を採用し、各実施例の樹脂組成物を製造した。
【0191】
その結果、実際にシャルピー衝撃値が極めて高い樹脂組成物の成形物が得られ、機械学習を活用した高機能材料の開発の妥当性が実証された。
【0192】
実施例1及び2においては、IR1~IR2の位置に相当するC2~C7、又はC2~C8のバレルの設定温度を下げることで、全ての位置(C2~C15)のバレルの設定温度を300℃とした比較例1と比べ、シャルピー衝撃値に優れる樹脂組成物の成形物が得られた。
【0193】
また、実施例3においては、IR3~4の位置に相当するC11~C15のバレルの設定温度を下げ、実施例4においてはIR2~IR4の位置に相当する(C7~C15)のバレルの設定温度を下げることで、実施例1、2と同様、比較例1と比べシャルピー衝撃値に優れる樹脂組成物の成形物が得られた。
【0194】
興味深いことに、実施例1、2と実施例3、4とを比較した場合、IR1、IR2位置付近の温度を低く変更した実施例1、2の方が、よりシャルピー衝撃値を高めることができた。このことは、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いた重要度算出により得られたIR1及びIR2の重要度が高いという解析結果と一致するものであった。
【0195】
エラストマー種を変更して同様の評価を行った実施例5~8、比較例3、4においても、実施例1~4、比較例1、2と同様の傾向が確認された。
【0196】
また、実施例9、比較例5は、機械学習のデータセットに用いていないエラストマーCを用いて同様の評価を行ったものであるが、他の結果と同様に、機械学習の結果を適用可能であることが示された。
【0197】
溶融粘度の値を参照すると、エラストマーの平均分散径の値が小さく、分散性が増すほどに溶融粘度が向上する傾向であった。また、バレルの設定温度を下げることで、エラストマーの熱劣化が抑制されたことも、溶融粘度の向上につながったものと考えられる。
【0198】
機械学習によって得られた改良条件は、従来、分散性を向上させることが困難であった熱可塑性エラストマーの配合比率の高い樹脂組成物の製造において、非常に有効であることが示された。高速せん断条件下で配合成分を溶融混練することにより、熱可塑性エラストマーの平均分散径を小さくして分散性を高めつつ、更に、溶融混練中の実測の混練物温度を低下させることによって、おそらくポリアリーレンスルフィド樹脂の流動性の低下により分散の効率が向上し、熱可塑性エラストマーの分散性を更に高めることができ、且つポリアリーレンスルフィド樹脂や熱可塑性エラストマーの熱分解を抑えることで、シャルピー衝撃値の極めて高い樹脂組成物及びその成形物を得る事が可能となったものと推察される。
【0199】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0200】
10…二軸押出機、11…駆動装置、12…フィーダー、13…シリンダー、14…スクリュー、19…ダイス、20…機械学習アルゴリズム、30…記憶装置、DS…データセット、CD…製造条件データ、MD…物性測定データ、HC…高重要度項目、IR…赤外線温度センサ、IR1…第1赤外線温度センサ、IR2…第2赤外線温度センサ、IR3…第3赤外線温度センサ、IR4…第4赤外線温度センサ
【要約】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件の判定方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む物性測定データと、を含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、前記製造条件データおよび前記物性測定データに含まれる複数の項目のうち、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9