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特許7029126ナノ結晶の製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ナノ結晶の製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/73 20060101AFI20220224BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220224BHJP
   C01G 3/02 20060101ALI20220224BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20220224BHJP
   C01G 41/02 20060101ALI20220224BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 31/0256 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 29/22 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 29/267 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C23C22/73 Z
C23C26/00 C
C01G3/02
C01G23/04
C01G41/02
C01G9/02
H01L31/04 320
H01L29/06 601N
H01L29/22
H01L29/267
H01L21/368 Z
C23C26/00 E
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2018562916
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2017042884
(87)【国際公開番号】W WO2018135145
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017007064
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅規
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 精一
(72)【発明者】
【氏名】ジェーム メルバート
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 優樹
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/73
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸された金属部材の表面に光を照射して、ナノ結晶を前記金属部材の表面上に形成する光照射工程を備え、
前記金属部材が、
第1金属を含む第1部材と、
第2金属を含む第2部材と、
を有し、
前記第1金属は、前記第2金属と異なる金属であり、
前記第1金属の標準電極電位が-2.00Vよりも高く、
前記第2金属の標準電極電位が-2.00Vよりも高く、
前記第1部材と前記第2部材とが電気的に接続されており、
前記ナノ結晶が、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含み、
前記酸化物が、前記第1金属及び前記第2金属のうち少なくともいずれか一方の酸化物であり、
前記水酸化物が、前記第1金属及び前記第2金属のうち少なくともいずれか一方の水酸化物である、
ナノ結晶の製造方法。
【請求項2】
前記金属部材が合金を含む、
請求項1に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項3】
前記第1部材における前記第1金属の含有率が、前記第1部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%であり、
前記第2部材における前記第2金属の含有率が、前記第2部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%である、
請求項1又は2に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項4】
前記光照射工程の前に、前記金属部材の表面を粗化する表面粗化工程を更に備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項5】
前記表面粗化工程が、機械加工、化学処理又は液中放電処理により行われる、
請求項4に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材とが直接接触している、
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項7】
前記第1部材と前記第2部材とが溶接されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項8】
前記金属部材が導電材料を更に有し、
前記第1部材と前記第2部材とが前記導電材料を介して接続されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項9】
前記導電材料が、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、鉄、錫、又は鉛を含む配線材料、及びろう材からなる群より選択される少なくとも一種である、
請求項8に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項10】
前記光が、太陽光又は擬似太陽光である、
請求項1~9のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項11】
前記光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長が360nm以上620nm未満である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項12】
前記水が、純水、イオン交換水、雨水、水道水、河川水、井戸水、ろ過水、蒸留水、逆浸透水、泉水、湧水、ダム水及び海水からなる群より選択される少なくとも一種である、
請求項1~11のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項13】
前記水のpHが、5.00~10.0である、
請求項1~12のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項14】
前記水の電気伝導度が、0.05~1.0μS/cmである、
請求項1~13のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項15】
前記ナノ結晶の形状が、針状、柱状、ロッド状、チューブ状、燐片状、塊状、フラワー状、ヒトデ状、枝状及び凸形状からなる群より選択される少なくとも一種である、
請求項1~14のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項16】
前記光照射工程において、水素を含むガスが生成される、
請求項1~15のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項17】
前記ガス中における酸素のモル数が、前記水素のモル数の0倍以上1/2倍未満である、
請求項16に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項18】
前記ナノ結晶を前記金属部材の表面から除去して回収する工程を更に備える、
請求項1~17のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項19】
前記第2金属の標準電極電位が、前記第1金属の標準電極電位よりも高い、
請求項1~18のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項20】
前記水中に、前記第1部材の表面から前記第1金属のヒドロキソ錯イオンが生成する、
請求項19に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項21】
前記酸化物及び前記水酸化物のうち少なくともいずれか一種が半導体である、
請求項1~20のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項22】
前記半導体が、前記ナノ結晶を含む、
請求項21に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項23】
前記半導体が、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含む、
請求項21又は22に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項24】
前記n型半導体が、前記第1金属を含む酸化物であり、
前記p型半導体が、前記第2金属を含む酸化物である、
請求項23に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項25】
前記p型半導体が、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化銀(I)、酸化ニッケル(II)、酸化鉄(III)、酸化タングステン(VI)及び酸化錫(II)からなる群より選択される少なくとも一種である、
請求項23又24に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項26】
前記n型半導体が、酸化鉄(III)、酸化インジウム(III)、酸化タングステン(VI)、酸化鉛(II)、酸化バナジウム(V)、酸化ニオブ(III)、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化錫(IV)、酸化アルミニウム(III)及び酸化ジルコニウム(IV)からなる群より選択される少なくとも一種である、
請求項23~25のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法。
【請求項27】
請求項23~26のいずれか一項に記載のナノ結晶の製造方法を用いて半導体デバイスを製造する方法であって、
前記p型半導体を含むp型層を前記第2部材の表面上に形成し、かつ前記n型半導体を含むn型層を前記p型層の表面上に形成することにより、前記p型層及び前記n型層を含むpn接合層を得る、
半導体デバイスの製造方法。
【請求項28】
前記p型半導体が、酸化銅(I)及び酸化銅(II)のうち少なくともいずれか一方であり、
前記n型半導体が、酸化亜鉛(II)である、
請求項27に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項29】
前記pn接合層に前記光を照射することにより、光起電力を生じさせる、
請求項27又は28に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶の製造方法、及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク材料とは異なる特性を持つナノマテリアルが注目を集めている。ナノマテリアルは、工学デバイスの分野で応用が進められている。ナノマテリアルとしては、例えば、酸化銅、酸化鉄、酸化タングステン、酸化錫、酸化ニッケル、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の酸化物からなるナノ結晶が挙げられる。上記酸化物は、古くから色素、顔料、触媒、磁性材料、二次電池の正極材、研磨剤、導電材料、フィラー、接合材料、焼結助材等に応用されている。上記酸化物は、半導体の特性も有する。半導体の特性を有するナノ結晶は、光触媒材料、発光材料、太陽電池、量子コンピューター、バイオセンサ等のデバイスへの適用が進められている。
【0003】
上記酸化物からなるナノ結晶を得る方法として、下記特許文献1~6には、水熱合成法、共沈法、レーザー照射法、又は化学気相成長法(CVD法)が開示されている。
【0004】
上記半導体に不純物元素を導入したり、欠陥を生じさせたりすることにより、上記半導体をp型半導体又はn型半導体として使用することがある。p型半導体において、電荷を運ぶキャリアは正孔である。n型半導体において、電荷を運ぶキャリアは自由電子である。p型半導体とn型半導体とが接触した構造をpn接合と呼ぶ。pn接合は、整流作用、発光、光電効果等を示す。pn接合は、ダイオード、トランジスタ、太陽電池等の半導体素子に応用されている。
【0005】
例えば、下記非特許文献1には、pn接合を有するナノ構造体を用いることが開示されている。非特許文献1に記載の方法では、まず、Cu箔又はCuメッシュの熱酸化により、酸化銅(II)からなるナノワイヤーを形成する。酸化銅(II)はp型半導体である。次いで、水熱合成法により、ナノワイヤーの上に酸化亜鉛(II)のナノ結晶を枝状に形成する。酸化亜鉛(II)はn型半導体である。その結果、pn接合を有するナノ構造体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭43-12435号公報
【文献】特開昭54-151598号公報
【文献】特開昭62-41722号公報
【文献】特開昭62-223027号公報
【文献】特開2009-57568号公報
【文献】特開昭63-181305号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.Kargar et al., “ZnO/CuO Heterojunction Branched Nanowires for Photoelectrochemical Hydrogen Generation”, ACS Nano., vol.7, no.12, pp.11112-11120, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載の水熱合成法では、所望の組成を有する化合物をナノメートルオーダーのサイズに制御しながら形成できる。しかしながら、工程が多段階にわたると共に非常に複雑であり、高温高圧(例えば、150℃、10気圧)でのプロセスが必要である。また、高アルカリ水溶液を用いる場合には、pHの精密な制御が必要であることに加えて、環境負荷及び製造コストの面で課題がある。
【0009】
特許文献5に記載のレーザー照射法、及び、特許文献6に記載のCVD法は、製造装置のサイズ及び製造コストの観点から、ナノ結晶の工業的な量産には不向きである。
【0010】
また、非特許文献1に記載の方法では、良好な特性を持つpn接合部が得られ、水分解を目的とした半導体デバイスへの応用が期待されるが、工程の一部に水熱合成法を使用していることから、上記で述べたプロセス及びコストの課題を解決する必要がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含むナノ結晶を簡便に形成できるナノ結晶の製造方法、及び当該ナノ結晶の製造方法を利用した半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面に係るナノ結晶の製造方法は、水中に浸された金属部材の表面に光を照射して、ナノ結晶を金属部材の表面上に形成する光照射工程を備え、金属部材が、第1金属を含む第1部材と、第2金属を含む第2部材と、を有し、第1金属の標準電極電位が-2.00Vよりも高く、第2金属の標準電極電位が-2.00Vよりも高く、第1部材と第2部材とが電気的に接続されており、上記ナノ結晶が、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含み、酸化物が、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方の酸化物であり、水酸化物が、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方の水酸化物である。
【0013】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、金属部材が合金を含んでよい。
【0014】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、第1部材における第1金属の含有率が、第1部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%であってよく、第2部材における第2金属の含有率が、第2部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%であってよい。
【0015】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法は、光照射工程の前に、金属部材の表面を粗化する表面粗化工程を更に備えてよい。
【0016】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、表面粗化工程が、機械加工、化学処理又は液中放電処理により行われてよい。
【0017】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、第1部材と第2部材とが直接接触してよい。
【0018】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、第1部材と第2部材とが溶接されてよい。
【0019】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、金属部材が導電材料を更に有してよく、第1部材と第2部材とが導電材料を介して接続されてよい。
【0020】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、導電材料が、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、鉄、錫、又は鉛を含む配線材料、及びろう材からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0021】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、光が、太陽光又は擬似太陽光であってよい。
【0022】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長が360nm以上620nm未満であってよい。
【0023】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、水が、純水、イオン交換水、雨水、水道水、河川水、井戸水、ろ過水、蒸留水、逆浸透水、泉水、湧水、ダム水及び海水からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0024】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、水のpHが、5.00~10.0であってよい。
【0025】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、水の電気伝導度が、0.05~1.0μS/cmであってよい。
【0026】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、ナノ結晶の形状が、針状、柱状、ロッド状、チューブ状、燐片状、塊状、フラワー状、ヒトデ状、枝状及び凸形状からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0027】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、光照射工程において、水素を含むガスが生成されてよい。
【0028】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、ガス中における酸素のモル数が、水素のモル数の0倍以上1/2倍未満であってよい。
【0029】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法は、ナノ結晶を金属部材の表面から除去して回収する工程を更に備えてよい。
【0030】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、第2金属の標準電極電位が、第1金属の標準電極電位よりも高くてよい。
【0031】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、水中に、第1部材の表面から第1金属のヒドロキソ錯イオンが生成してよい。
【0032】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種が半導体であってよい。
【0033】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、半導体が、ナノ結晶を含んでよい。
【0034】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、半導体が、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。
【0035】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、n型半導体が、第1金属を含む酸化物であってよく、p型半導体が、第2金属を含む酸化物であってよい。
【0036】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、p型半導体が、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化銀(I)、酸化ニッケル(II)、酸化鉄(III)、酸化タングステン(VI)及び酸化錫(II)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0037】
本発明の一側面に係る上記ナノ結晶の製造方法では、n型半導体が、酸化鉄(III)、酸化インジウム(III)、酸化タングステン(VI)、酸化鉛(II)、酸化バナジウム(V)、酸化ニオブ(III)、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化錫(IV)、酸化アルミニウム(III)及び酸化ジルコニウム(IV)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0038】
本発明の一側面に係る半導体デバイスの製造方法は、上記ナノ結晶の製造方法を用いて半導体デバイスを製造する方法であって、p型半導体を含むp型層を第2部材の表面上に形成し、かつn型半導体を含むn型層をp型層の表面上に形成することにより、p型層及びn型層を含むpn接合層を得る。
【0039】
本発明の一側面に係る上記半導体デバイスの製造方法では、p型半導体が、酸化銅(I)及び酸化銅(II)のうち少なくともいずれか一方であってよく、n型半導体が、酸化亜鉛(II)であってよい。
【0040】
本発明の一側面に係る上記半導体デバイスの製造方法では、pn接合層に光を照射することにより、光起電力を生じさせてよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含むナノ結晶を簡便に形成できるナノ結晶の製造方法、及び当該ナノ結晶の製造方法を利用した半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るナノ結晶の製造方法を示す模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るナノ結晶の製造方法を示す模式図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る金属部材を示す模式図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る金属部材を示す模式図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る金属部材を示す模式図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る金属部材を示す模式図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る金属部材を示す模式図である。
図8図8は、代表的な金属酸化物半導体のバンドギャップ(伝導帯の下端と価電子帯の上端との間のエネルギー差)と、水の酸化還元電位との関係を示す模式図である。
図9図9は、n型半導体と水との接触に伴うn型半導体のエネルギーバンドの変化を示す概略図である。
図10図10は、p型半導体と水との接触に伴うp型半導体のエネルギーバンドの変化を示す概略図である。
図11図11は、水中で電気的に接続されたn型半導体及びp型半導体それぞれのエネルギーバンド構造、並びにn型半導体及びp型半導体に光照射したときの電子の流れを示す概略図である。
図12図12は、pn接合層の形成に伴うp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)それぞれのエネルギーバンドの変化を示す概略図である。
図13図13は、pn接合層の形成に伴うp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)それぞれのエネルギーバンドの変化を示す概略図である。
図14図14は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、ロッド状のナノ結晶の一例を示す像である。
図15図15は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、ロッド状のナノ結晶の一例を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施形態に限られるものではない。本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。図面において、同等の構成要素には同一の符号を付す。
【0044】
(ナノ結晶の製造方法の概要)
本実施形態に係るナノ結晶の製造方法は、光照射工程(light irradiation step)を備える。図1に示すように、光照射工程では、水2中に浸された金属部材100の表面に光Lを照射して、ナノ結晶を金属部材100の表面上に形成する。金属部材100は、第1部材と第2部材とを有する。光Lは、第1部材及び第2部材の両方に照射されてよい。第1部材は第1金属を含む。第2部材は第2金属を含む。第1金属は、第2金属と異なる金属である。第1金属の標準電極電位は、第2金属の標準電極電位と異なる。第1金属の標準電極電位は-2.00Vよりも高い。第2金属の標準電極電位は-2.00Vよりも高い。第1部材と第2部材とは電気的に接続されている。上記ナノ結晶は、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含む。上記酸化物は、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方の酸化物である。上記水酸化物は、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方の水酸化物である。本実施形態に係るナノ結晶の製造方法は、ナノ結晶を金属部材100の表面から除去して回収する工程を更に備えてよい。
【0045】
光照射工程では、第1部材及び第2部材それぞれの表面にナノ結晶が生成してよい。第1部材の表面に生成するナノ結晶は、第1金属の酸化物、及び第1金属の水酸化物のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。第2部材の表面に生成するナノ結晶は、第2金属の酸化物、及び第2金属の水酸化物のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。以下では、第1金属の酸化物、及び第1金属の水酸化物のうち少なくともいずれか一方を含むナノ結晶を、第1ナノ結晶ともいう。第2金属の酸化物、及び第2金属の水酸化物のうち少なくともいずれか一方を含むナノ結晶を、第2ナノ結晶ともいう。また、第2部材の表面には、第2ナノ結晶に加えて、第1ナノ結晶が生成してよい。このように、光照射工程では、第1ナノ結晶が優先的(選択的)に生成してよい。第1ナノ結晶が優先的に生成する理由の一つは、第1部材と第2部材とが電気的に接続されていることにより、ガルバニック腐食が起こることである。別の理由は、n型半導体を含む酸化被膜が第1部材の表面に形成され、p型半導体を含む酸化被膜が第2部材の表面に形成されることである。また、第2部材の表面に形成されたp型半導体(酸化被膜又は第2ナノ結晶)の上にn型半導体(第1ナノ結晶)が形成されることにより、pn接合層が形成されてよい。このpn接合層が、第1部材の表面において、第1ナノ結晶の生成を促進してもよい。以下では、まず、第1部材の表面に第1ナノ結晶が生成する機構、及び第2部材の表面に第2ナノ結晶が生成する機構を説明する。次に、第1ナノ結晶が優先的に生成する機構について説明する。なお、本実施形態においてナノ結晶が生成するメカニズムは、上記の機構に限定されない。
【0046】
(第1部材及び第2部材にナノ結晶が生成する機構)
光照射工程では、第1部材及び第2部材それぞれの表面において、水中結晶光合成(SPSC:Submerged Photosynthesis of Crystallites)が起こる。一般的に、SPSCとは、水中に浸された金属部材の表面に光を照射して、ナノ結晶を金属部材の表面上に形成する方法である。本実施形態では、SPSCにより、第1部材の表面に第1ナノ結晶が生成する。また、SPSCにより、第2部材の表面に第2ナノ結晶が生成する。第1部材におけるSPSCのメカニズムは、第2部材におけるSPSCのメカニズムと共通する。以下では、第1部材におけるSPSCについて説明する。光照射工程では、水中に浸された第1部材の表面に光を照射することにより、第1ナノ結晶を第1部材の表面に生成させる。
【0047】
光照射工程において、水素を含むガスが生成されてよい。例えば、光照射工程では、水中に浸された第1部材の表面に光を照射することにより、水素を含むガスを第1部材の表面近傍から生成させてよい。光照射工程では、水中に浸された第2部材の表面に光を照射することにより、水素を含むガスを第2部材の表面近傍から生成させてよい。第1部材の表面近傍から水素が生成するメカニズムは、第2部材の表面近傍から水素が生成するメカニズムと共通する。以下では、第1部材の表面近傍において水素が生成するメカニズムを説明する。「第1部材の表面近傍」とは、第1部材の表面、第1部材上に生成した酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一つを含意する。例えば、水酸化物が酸化物に変化する過程において、水分子及び水素ガスのうち少なくともいずれか一方が水酸化物から生成する可能性がある。
【0048】
第1金属(M)を含む第1部材を水中に浸した場合は、第1金属が腐食する反応が進行する。すなわち、水中では第1金属がイオン化し、下記反応式(1)に示すとおり、第1金属のイオン(Mn+)を生じる。一般的に、金属の腐食反応は、金属が金属イオンとなって溶解するアノード反応と、水中の酸化剤が還元されるカソード反応とが組み合わさった反応である。下記反応式(1)に示す反応は、アノード反応である。下記反応式(2)に示す反応、及び下記反応式(3)に示す反応は、いずれもカソード反応である。下記反応式(2)に示す反応は、水が酸性である場合に起こる。下記反応式(3)に示す反応は、水が中性又はアルカリ性である場合、又は、水中に溶存酸素が含まれる場合に起こる。ここで、金属の標準電極電位が正である場合、一般的には、下記反応式(1)に示すアノード反応は起きないと考えられる。ただし、水中の水素イオン(H)の濃度又は溶存酸素の濃度によっては、金属がイオン化し、下記反応式(4)に示すとおり、Mn+を生じる。下記反応式(1)式に示す反応、又は下記反応式(4)に示す反応によって水中に溶け出したMn+は、例えば溶存酸素を含む水中では、下記反応式(3)に示す反応により生じた水酸化物イオン(OH)と反応する。その結果、下記反応式(5)に示すとおり、水酸化物(M(OH))を生じる。その後、水酸化物から水分子が離脱することで、下記反応式(6)に示すとおり、酸化物(MO)を生じる。しかしながら、以上のような一般的な金属の腐食反応では、結晶性の高い水酸化物及び酸化物が生成し難い。つまり、一般的な金属の腐食反応で生成する水酸化物及び酸化物は、本実施形態に係るSPSCで得られるナノ結晶に比べて、結晶性に劣る。また、一般的な金属の腐食反応では、水が中性又はアルカリ性である場合、水素ガス(H)は生成しない。また、水が酸性である場合、下記反応式(2)に示す反応により水素ガスが生成するが、金属の腐食反応は短時間で停止するため、水素ガスの生成量は少ない。
M→Mn++ne (1)
2H+2e→H (2)
+2HO+4e→4OH (3)
2M+O+2nH→2Mn++2HO (4)
n++nOH→M(OH) (5)
M(OH)→MO+(n-x)HO (6)
【0049】
なお、水酸化物イオンは、上記反応式(3)に示す反応以外でも生じていると考えられる。例えば、水分子の解離によって水酸化物イオンが存在している場合、及び、アルカリ性の水を用いることによって水酸化物イオンが存在している場合が考えられる。しかしながら、これらの水酸化物イオンによって、水酸化物(M(OH))及び酸化物(MO)が生じる反応は、上述の一般的な金属の腐食反応である。よって、この場合、本実施形態に係るSPSCで得られるようなナノ結晶は形成されない。
【0050】
一般的な金属の腐食反応とは対照的に、SPSCを利用したナノ結晶の製造方法では、第1部材の表面への光照射によって、第1部材の表面に第1ナノ結晶が生成されると共に、第1部材の表面近傍から水素ガスが生成する。SPSCによるナノ結晶の生成機構は以下のとおりである、と本発明者らは推測する。本実施形態では、まず、上記反応式(1)~(5)に示す反応が起こる。その後、本実施形態の光照射工程では、第1金属の水酸化物(M(OH))から、第1金属の酸化物(MO)を含むナノ結晶が第1部材の表面に成長すると共に、副生成物として、水分子のみならず水素ガス(H)が生成する。例えば、生成した第1金属の水酸化物は、水中の水酸化物イオン(OH)と反応することで、第1金属のヒドロキソ錯イオン([M(OH)y-)を形成し、水中に再び溶解する。水のpHが大きいほど、ヒドロキソ錯イオンが生成し易い。次いで、上記ヒドロキソ錯イオンの少なくとも一部がナノ結晶に変化する。ナノ結晶は、水酸化物及び酸化物のうち少なくともいずれか一方を含む。例えば、金属(M)が亜鉛(Zn)である場合、下記反応式(7)に示す反応により、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2-)を形成する。そして、下記反応式(8)に示す反応により、ZnOのナノ結晶が生成する。また、金属(M)が、第1金属ではなく、第2金属の銅(Cu)である場合、下記反応式(9)に示す反応により、テトラヒドロキソ銅(II)酸イオン([Cu(OH)2-)を形成する。そして、下記反応式(10)に示す反応により、CuOのナノ結晶が生成する。上記のナノ結晶の生成及び成長に伴い、水分子及び水素ガスが生成する。例えば、水酸化物が酸化物に変化する過程において、水分子及び水素ガスのうち少なくともいずれか一方が水酸化物から生成してよい。ここで、ナノ結晶は、例えば、光誘起先端成長により形成されてよい。光誘起先端成長とは、光照射によって柱状又は針状に、結晶の先端成長が促されることを意味する。なお、ナノ結晶が生成するメカニズムは、上記の反応機構に限定されない。
Zn(OH)+2OH→[Zn(OH)2- (7)
[Zn(OH)2-→ZnO+2OH+HO (8)
Cu(OH)+2OH→[Cu(OH)2- (9)
[Cu(OH)2-→CuO+2OH+HO (10)
【0051】
光照射工程において、金属部材が浸された水に光を照射した際に、水の放射線分解が生じていてもよい。その分解種として、水素ラジカル(H・)、ヒドロキシラジカル(・OH)、及び水和電子(eaq )を生じる。これらのうち、ヒドロキシラジカルと水和電子とが反応することで、直ちに水酸化物イオンが生成する。上記の光照射工程では、上記のヒドロキシラジカルと水和電子との反応によって、水酸化物イオンの生成が促進され、ナノ結晶の生成が促進されてよく、水素ガスの生成も促進されてよい。つまり、光照射工程では、ラジカルの生成を伴う光化学反応が起こってもよい。
【0052】
上記のナノ結晶が生成する反応機構では、後述する光触媒反応による水の光分解とは異なり、酸素ガス(O)は生成し難い。水の光分解の場合は、生成する水素ガスのモル数と、生成する酸素ガスのモル数との比は、2:1である。つまり、化学量論に基づけば、生成する酸素ガスのモル数は、生成する水素ガスのモル数の1/2倍である。一方、SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法では、光照射工程において生成するガス中における酸素のモル数は、水素のモル数の0倍以上1/2倍未満、0倍以上1/5倍以下、又は0倍以上1/10倍以下であってよい。生成するガス中における水素の濃度は、ガスの全体積を基準として、66.7体積%より大きくてよく、80.0~100体積%、又は90.0~100体積%であってよい。生成するガス中における水素の濃度は、ガスに含まれる全成分のモル数の合計を基準として、66.7モル%より大きくてよく、80.0~100モル%、又は90.0~100モル%であってよい。本実施形態に係るナノ結晶の製造方法では、ナノ結晶とともに、純度の高い水素ガスが得られてよい。
【0053】
生成したガス中における水素の濃度は、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定してよい。測定に用いる装置は、一般的なガスクロマトグラフであってよい。ガスクロマトグラフとしては、例えば、(株)島津製作所製のGC-14Bを用いてよい。ガスクロマトグラフを用いた測定は、キャリアーガスであるアルゴンと、サンプルとをシリンジに入れて行ってよい。
【0054】
ガスクロマトグラフィー質量分析法では、空気の混入を考慮して水素ガスの濃度を補正することが好ましい。金属部材及び水中に窒素(N)が含まれておらず、かつ、分析したガス中に窒素ガス(N)が含まれていた場合には、ガスクロマトグラフィー質量分析法による測定の際に、シリンジ内に空気が混入したと考えられる。生成した水素ガスの体積は、分析したガスの全体積から、窒素ガスの体積と、混入した空気のうち窒素ガスを除く成分(例えば、酸素ガス)の体積との合計を差し引くことで求めることができる。
【0055】
例えば、ガスクロマトグラフで測定した結果、分析したガス中に含まれるガスの種類及び体積比が、水素ガス(H):酸素ガス(O):窒素ガス(N)=A:B:Cであったとする。金属部材及び水中に窒素が含まれない場合は、生成したガスは水素ガスと酸素ガスのみであるとみなすことができる。このとき、ガスクロマトグラフを用いて測定した空気の分析値が、酸素ガス(O):窒素ガス(N)=b:cであったとする。空気分を差し引いたガスの比率は、水素ガス(H):酸素ガス(O)=A:{B-(C×b÷c)}である。この比率を用いて、生成した水素ガスの濃度を算出することができる。
【0056】
SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法は、従来のナノ結晶の製造方法と比較して、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含むナノ結晶を簡便に形成できる。つまり、SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法は、加熱工程、真空プロセス等を必要とせず、ナノ結晶を常温及び大気圧下で形成できる。また、SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法では、形成されたナノ結晶を金属部材の表面から回収すれば、金属部材の表面が再び露出する。そして、露出した金属部材の表面をナノ結晶の形成のために再利用することができる。また、SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法では、水熱合成反応などの高温プロセス、及び強アルカリ性の水を用いることなく、ナノ結晶を形成できる。以上のことから、SPSCを利用した上記のナノ結晶の製造方法では、ナノ結晶の製造コストが低減され、ナノ結晶の製造に伴う環境負荷を低減することができる。
【0057】
上述したSPSCは、金属(M)が第2金属である場合にも成り立つ。つまり、SPSCは、第2金属を含む第2部材においても進行する。
【0058】
(第1ナノ結晶が優先的に生成する機構)
(1)ガルバニック腐食
以下では、ガルバニック腐食が起こることにより、第1ナノ結晶が優先的に生成する機構を説明する。
【0059】
第1部材に含まれる第1金属の標準電極電位は-2.00Vよりも高い。第2部材に含まれる第2金属の標準電極電位は-2.00Vよりも高い。標準電極電位とは、液体中における酸化還元反応系における、電子のやり取りの際に発生する電位である。水中における各元素の電極反応、及び各元素の標準電極電位を表1及び2に示す。標準電極電位は、金属の腐食し易さを示す尺度としても用いられる。水に溶け易く、イオン化し易い金属の標準電極電位は低い。本実施形態では、標準電極電位が-2.00Vより高い第1金属及び第2金属を用いることで、第1金属及び第2金属と水との過度な反応(第1金属及び第2金属と水との直接的な反応)が抑えられる。その結果、ナノ結晶及び高純度の水素ガスをSPSCにより効果的に製造できる。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
ガルバニック腐食は、標準電極電位が異なる2種類の金属を水中で接触させたときに生じる。2種類の金属のうち、標準電極電位が低い金属を「卑な金属」という。2種類の金属のうち、標準電極電位が高い金属を「貴な金属」という。貴な金属とともに水中に浸された卑な金属の腐食速度は、卑な金属のみを水中に浸したときの卑な金属の腐食速度よりも大きい。卑な金属とともに水中に浸された貴な金属の腐食速度は、貴な金属のみを水中に浸したときの貴な金属の腐食速度よりも小さい。本実施形態では、第2金属の標準電極電位は、第1金属の標準電極電位よりも高くてよい。つまり、第1金属が卑な金属であり、第2金属が貴な金属であってよい。第1金属が卑な金属であり、第2金属が貴な金属である場合、ガルバニック腐食により、卑な第1金属を含む第1部材が優先的に腐食し、第1金属が第2金属に優先して水中に溶出する。つまり、金属Mが卑な第1金属である場合、ガルバニック腐食により、上記反応式(1)に示す反応の速度が増大する。その結果、上記反応式(5)に示す第1金属の水酸化物の形成と、それに次ぐSPSCによる第1ナノ結晶の形成及び水素ガスの生成とが促進される。一方、ガルバニック腐食により、第2金属の腐食反応は抑制される。つまり、金属Mが貴な第2金属である場合、上記反応式(1)に示す反応の速度が減少する。その結果、上記反応式(5)に示す第2金属の水酸化物の形成と、それに次ぐSPSCによる第2ナノ結晶の形成及び水素ガスの生成とが抑制される。よって、第1ナノ結晶が第1部材の表面に優先的に生成する。以下の実施形態は、第2金属の標準電極電位が、第1金属の標準電極電位よりも高いことを前提とする。
【0063】
第1金属の標準電極電位と第2金属の標準電極電位との差の絶対値(貴な金属の標準電極電位から卑な金属の標準電極電位を引いた値)は、0.10~3.00Vであることが好ましく、0.15~2.80Vであることがより好ましく、0.20~2.50Vであることが更に好ましい。第1金属の標準電極電位と第2金属の標準電極電位との差の絶対値が大きいほど、第1ナノ結晶の形成、及び第1部材における水素ガスの生成が優先的に起こり易い。
【0064】
第1金属の標準電極電位は、第1金属と水との反応性、及び第1金属のイオンの水への溶解性の観点から、-2.00~1.20Vであることが好ましく、-1.80~1.00Vであることがより好ましく、-1.70~0.90Vであることが更に好ましい。
【0065】
第2金属の標準電極電位は、第2金属と水との反応性、及び第2金属のイオンの水への溶解性の観点から、-2.00~1.20Vであることが好ましく、-1.80~1.00Vであることがより好ましく、-1.70~0.90Vであることが更に好ましい。
【0066】
第1金属は、例えば、金、白金、イリジウム、パラジウム、銀、ロジウム、銅、ビスマス、タングステン、鉛、錫、モリブデン、ニッケル、コバルト、インジウム、カドミウム、鉄、亜鉛、クロム、イッテルビウム、ニオブ、バナジウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、トリウム、ベリリウム、イウロピウム等であってよい。
【0067】
第2金属としては、第1金属と異なる金属が選択される。第2金属は、例えば、金、白金、イリジウム、パラジウム、銀、ロジウム、銅、ビスマス、タングステン、鉛、錫、モリブデン、ニッケル、コバルト、インジウム、カドミウム、鉄、亜鉛、クロム、イッテルビウム、ニオブ、バナジウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、トリウム、ベリリウム、イウロピウム等であってよい。
【0068】
第1金属と第2金属との組み合わせは、第2金属の標準電極電位が第1金属の標準電極電位よりも高い限り、特に制限されない。第1金属と第2金属との組み合わせは、例えば、第1金属が亜鉛であり、第2金属が銅であってよい。第1金属が亜鉛であり、第2金属がタングステンであってもよい。第1金属が亜鉛であり、第2金属がニッケルであってもよい。第1金属がチタンであり、第2金属がタングステンであってもよい。
【0069】
(2)第2部材上のp型半導体から第1部材上のn型半導体への電子の移動
光照射工程では、n型半導体を含む酸化被膜が第1部材の表面に形成されてよく、かつp型半導体を含む酸化被膜が第2部材の表面に形成されてよい。n型半導体を含む酸化被膜が第1部材の表面に形成され、かつp型半導体を含む酸化被膜が第2部材の表面に形成されることにより、第1ナノ結晶の生成が促進される。以下にその理由を説明する。
【0070】
上述したガルバニック腐食により、第1部材の腐食反応は促進され、第2部材の腐食反応は抑制される。しかし、第2部材の腐食反応は完全に防止されるわけではなく、第2部材の腐食反応も起こる。その結果、第1部材の表面には、第1金属を含む酸化被膜が形成され、第2部材の表面には、第2金属を含む酸化被膜が形成される。酸化被膜は、水酸化物及び酸化物のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。酸化被膜に含まれる水酸化物は、上記反応式(5)に示す反応により生じる。酸化被膜に含まれる酸化物は、上記反応式(6)に示す反応により生じる。上記の酸化被膜の形成(腐食反応)は、光を照射しない場合でも起こり、SPSCに依らない。酸化被膜に含まれる水酸化物及び酸化物は、SPSCにより得られるようなナノ結晶でなくてもよい。酸化被膜は、第1部材及び第2部材それぞれの表面を均一に覆うと考えられる。
【0071】
酸化被膜に含まれる水酸化物及び酸化物のうち少なくともいずれか一種は、半導体であってよい。半導体は、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。n型半導体は、第1金属を含む酸化物又は水酸化物であってよい。第1部材の表面に形成された酸化被膜は、第1金属を含むn型半導体であってよい。p型半導体は、第2金属を含む酸化物又は水酸化物であってよい。第2部材の表面に形成された酸化被膜は、第2金属を含むp型半導体であってよい。以下では、n型半導体を含む酸化被膜が第1部材の表面に形成され、p型半導体を含む酸化被膜が第2部材の表面に形成された場合を例に説明する。
【0072】
図9の(a)は、n型半導体(第1部材の酸化被膜)と水とが接触した瞬間におけるn型半導体のエネルギーバンドを示す。図9の(b)は、n型半導体(第1部材の酸化被膜)と水とが接触した後の平衡状態におけるn型半導体のエネルギーバンドを示す。図9において、接触した瞬間とは、水中でn型半導体が形成された瞬間を意味する。平衡後とは、水中でn型半導体が形成された後、n型半導体のエネルギーバンドが平衡状態になった後を意味する。Eredoxは、水の酸化還元電位である。Eredoxは、水が酸性である場合、上記反応式(2)に示す反応が起こるときの電位に相当する。Eredoxは、水が中性又はアルカリ性である場合、又は水中に溶存酸素が含まれる場合に、上記反応式(3)に示す反応が起こるときの電位に相当する。Eはフェルミ準位を表す。フェルミ準位は、半導体において電子の存在確率が50%になるときのエネルギー準位を意味する。図9の(b)に示すように、n型半導体と水とが接触すると、EとEredoxとが等しくなる。つまり、n型半導体のエネルギー準位が下に移動し、水のエネルギー準位が上に移動する。その結果、n型半導体のエネルギーバンドが、n型半導体と水との界面付近で上に曲がる。エネルギーバンドが曲がることをバンドベンディングという。
【0073】
図10の(a)は、p型半導体(第2部材の酸化被膜)と水とが接触した瞬間におけるp型半導体のエネルギーバンドを示す。図10の(b)は、p型半導体(第2部材の酸化被膜)と水とが接触した後の平衡状態におけるp型半導体のエネルギーバンドを示す。図10の(b)に示すように、p型半導体と水とが接触すると、EとEredoxとが等しくなる。つまり、p型半導体のエネルギー準位が上に移動し、水のエネルギー準位が下に移動する。その結果、p型半導体のエネルギーバンドが、p型半導体と水との界面付近で下に曲がる。
【0074】
上述したエネルギーバンドベンディングが生じる結果、n型半導体(第1部材の酸化被膜)と水との界面、及びp型半導体(第2部材の酸化被膜)と水との界面にエネルギー障壁が生じる。このエネルギー障壁があることにより、以下のとおり電荷の分離が生じる。図8に示すように、各種の酸化物半導体はそれぞれ固有なバンドギャップを有する。酸化物半導体が、バンドギャップよりも大きなエネルギーを有する光を吸収した場合、価電子帯中の電子が伝導帯に励起され、価電子帯中に正孔が形成される。このとき、酸化物半導体と水との界面にエネルギー障壁があることで、電荷の分離が生じる。具体的には、図9に示すn型半導体(第1部材の酸化被膜)の場合、光照射により生じた電子は、n型半導体と水との界面からn型半導体バルクへ移動する。一方、光照射により生じた正孔は、n型半導体と水との界面へ移動する。対照的に、図10に示すp型半導体(第2部材の酸化被膜)の場合、光照射により生じた電子は、p型半導体と水との界面へ移動する。また、光照射により生じた正孔は、p型半導体と水との界面からp型半導体バルクへ移動する。
【0075】
上述した電荷の分離が生じると、図11に示すように電子の移動が起こる。つまり、p型半導体(第2部材の酸化被膜)において伝導帯に励起された電子は、バンドベンディングによってp型半導体と水との界面へ移動する。そして、p型半導体(第2部材の酸化被膜)と水との界面へ移動した電子の少なくとも一部は、第1部材と第2部材とが電気的に接続されていることにより、n型半導体(第1部材の酸化被膜)へ移動する。一方、n型半導体(第1部材の酸化被膜)において価電子帯中に生じた正孔は、バンドベンディングによってn型半導体と水との界面へ移動する。そして、n型半導体(第1部材の酸化被膜)と水との界面へ移動した正孔は、下記反応式(11)に示す反応により、n型半導体を腐食することがある。下記反応式(11)におけるMは、第1金属を意味する。
MO+nh+xHO→Mn++nOH (11)
【0076】
その後、n型半導体(第1部材の酸化被膜)へ移動した電子により、上記反応式(3)に示すとおり、水酸化物イオン(OH)が生成する。このように、上記反応式(3)に示す反応、及び上記反応式(11)に示す反応等により、第1部材の表面近傍において、水酸化物イオンの生成量が増大する。水酸化物イオンの生成量が増大すると、上記反応式(5)に示す第1金属の水酸化物(M(OH))の生成が促進され、SPSCによるヒドロキソ錯イオン([M(OH)y-)の形成が促進される。ここで、Mは、第1金属である。その結果、第1金属の水酸化物、及び第1金属の酸化物のうち少なくともいずれか一方を含むナノ結晶(第1ナノ結晶)がヒドロキソ錯イオンから生成するとともに、第1部材の表面近傍から水素ガスが優先的に生成する。よって、第1ナノ結晶を選択的にかつ効率よく製造することができる。また、第1部材の表面近傍から水素ガスを優先的に効率よく製造することができる。
【0077】
上記の現象は、以下の理由から、n型半導体のバンドギャップが大きい場合に有効である。第1部材と第2部材とが電気的に接続されておらず、n型半導体(第1部材の酸化被膜)が水中に単独で存在している場合、上記反応式(3)に示す反応に必要な電子は、n型半導体自身の光触媒反応のみにより生じなければならない。ここで、n型半導体(第1部材の酸化被膜)のバンドギャップが大きい場合、光触媒反応による電子の励起には、短い波長の光が必要である。そのため、太陽光を利用する場合は、太陽光の一部の光しか利用できない。よって、n型半導体(第1部材の酸化被膜)が水中に単独で存在している場合、SPSCによる水素ガス及びナノ結晶の製造効率は低い。一方、第1部材と第2部材とが水中において電気的に接続されている場合、上述したように、n型半導体(第1部材の酸化被膜)にp型半導体(第2部材の酸化被膜)から電子が供給される。そのため、n型半導体自身のバンドギャップが大きい場合でも、上記反応式(3)に示す反応により、水酸化物イオン(OH)を効率よく生成することができる。その結果、SPSCによる水素ガス及びナノ結晶の製造効率が向上する。
【0078】
本実施形態では、金属部材の表面に予め自然酸化膜が形成されていてもよい。つまり、第1部材の酸化被膜(n型半導体)は、自然酸化膜であってよい。第2部材の酸化被膜(p型半導体)は、自然酸化膜であってよい。自然酸化膜に含まれる酸化物は半導体特性を示すことがある。ただし、自然酸化膜は十分薄いため、金属部材を水中に浸した際に自然酸化膜が溶解して、金属部材の金属面が露出すると考えられる。
【0079】
(3)第2部材の表面におけるpn接合層の形成
光照射工程では、水素ガスの生成に伴って、pn接合層が第2部材の表面に形成されてよい。つまり、p型半導体を含むp型層が第2部材の表面上に形成され、続いて、n型半導体を含むn型層がp型層の表面上に形成されることにより、p型層及びn型層を含むpn接合層が得られてよい。pn接合層の大きさは、ナノ結晶の大きさに準じていてよい。n型層は、第1ナノ結晶を含んでよい。n型層は、第1ナノ結晶のみからなっていてよい。p型層は、第2ナノ結晶を含んでよい。p型層は、第2ナノ結晶のみからなっていてよい。以下では、まず、pn接合層が形成される機構を説明する。次に、pn接合層が第1ナノ結晶の生成を促進する機構を説明する。pn接合層の形成機構は、第1部材の表面に形成された酸化被膜(n型半導体)と、第2部材の表面に形成された酸化被膜(p型半導体)とを前提とする。
【0080】
上述したように、第2部材の表面のp型半導体から、第1部材の表面のn型半導体に電子が移動することにより、第1部材の表面におけるヒドロキソ錯イオン([M(OH)y-)の形成が促進される。ここで、Mは、第1金属である。第1金属のヒドロキソ錯イオンの一部は、第1部材の表面から水中へ溶け出し、第2部材の表面近傍にも移動する。例えば、第1金属のヒドロキソ錯イオンは、腐食反応により第2部材の表面に生成した酸化被膜(p型半導体)、及びSPSCにより第2部材の表面に生成した第2ナノ結晶(p型半導体)の近傍に移動する。そして、第2部材の表面を覆うp型半導体(p型層)が、水中の第1金属のヒドロキソ錯イオンと接触すると、SPSCにより、第1金属のヒドロキソ錯イオンがp型層の表面において第1金属の水酸化物又は酸化物(第1ナノ結晶)に変化するとともに、水素ガスが生成する。第1金属の水酸化物又は酸化物がn型半導体である場合、p型層の表面がn型半導体で覆われる。つまり、p型層の表面にn型層が形成される。以上のようなメカニズムにより、pn接合層が第2部材の表面に形成される。
【0081】
第1金属Mがアルミニウム(Al)である場合、第1部材から生成するヒドロキソ錯イオン([M(OH)y-)は、テトラヒドロキソアルミン酸イオン([Al(OH))であってよい。第1金属Mが亜鉛(Zn)である場合、第1部材から生成するヒドロキソ錯イオンは、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2-)であってよい。第1金属Mが銅(Cu)である場合、第1部材から生成するヒドロキソ錯イオンは、テトラヒドロキソ銅(II)酸イオン([Cu(OH)2-)であってよい。第1金属Mが錫(Sn)である場合、第1部材から生成するヒドロキソ錯イオンは、テトラヒドロキソ錫(IV)酸イオン([Sn(OH)2-)であってよい。第1金属Mが鉛(Pb)である場合、第1部材から生成するヒドロキソ錯イオンは、テトラヒドロキソ鉛(II)酸イオン[Pb(OH)2-)であってよい。
【0082】
水中にヒドロキソ錯イオンが存在しているか否かは、水に塩酸を加えたときに沈殿が生じるか否かで確認することができる。例えば、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2-)の場合、水に塩酸を加えると、下記反応式(12)に示す反応により、水酸化物(Zn(OH))の白色沈殿を生じる。
[Zn(OH)2-+2H→Zn(OH)+HO (12)
【0083】
pn接合層は、p型半導体を含む酸化被膜の上にn型半導体を含む酸化物ナノ結晶が形成された構造を有してよい。pn接合層は、p型半導体を含む酸化物ナノ結晶の上にn型半導体を含む酸化物ナノ結晶が形成された構造を有してよい。pn接合層は、n型半導体を含む酸化被膜の上にp型半導体を含む酸化物ナノ結晶が形成された構造を有してよい。pn接合層は、n型半導体を含む酸化物ナノ結晶の上にp型半導体を含む酸化物ナノ結晶が形成された構造を有してよい。
【0084】
以下では、第1金属が亜鉛(Zn)であり、第2金属が銅(Cu)である場合を例に、pn接合層が形成される機構を説明する。第1金属の亜鉛は卑な金属であり、第2金属の銅は貴な金属である。上述したガルバニック腐食により、銅は腐食し難くなるが、銅を含む第2部材の表面にはある程度の厚さの酸化被膜が形成される。第2部材の表面に形成される酸化被膜の組成は、水のpH又は水に溶解しているイオン種に依る。第2部材の表面に形成される酸化被膜は、CuO及びCuOのうち少なくともいずれか一方を含む。CuO及びCuOは、いずれもp型半導体である。一方、亜鉛を含む第1部材においては、亜鉛の腐食反応が進行する。腐食反応により、第1部材の表面に酸化被膜が形成される。第1部材の表面に形成される酸化被膜は、酸化亜鉛(ZnO)を含む。ZnOは、n型半導体である。
【0085】
上述したように、第2部材の表面のp型半導体では、光照射により生成した電子の少なくとも一部が、第1部材の表面のn型半導体に移動する。そのため、第2部材の表面のp型半導体と水との界面付近では、電子が不足し、上記反応式(3)に示す水酸化物イオン(OH)の生成も少なくなる。また、ガルバニック腐食により、Cuイオン(Cu又はCu2+)の溶解量が減少する。その結果、第2部材の表面近傍では、銅水酸化物(Cu(OH))の生成、並びに、それに次ぐSPSCによる酸化銅(CuO又はCuO)を含むナノ結晶の生成及び水素ガスの生成が起こり難くなる。
【0086】
一方、第1部材の表面のn型半導体の表面近傍では、第2部材の表面のp型半導体から電子が供給されることにより、水酸化物イオン(OH)の生成量が増加する。ガルバニック腐食により生じた亜鉛イオンと水酸化物イオンとが反応して、水酸化亜鉛(Zn(OH))の生成量が増加する。水酸化亜鉛と水酸化物イオン(OH)との反応により、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2-)の生成量が増加する。SPSCにより、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンから酸化亜鉛(ZnO)のナノ結晶が生成するとともに、水素ガスが生成する。その結果、水素ガスの生成量及びナノ結晶の生成量が増加する。ここで、水中に溶け出したテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2-)の一部は、第2部材の表面の酸化被膜に含まれるp型半導体、及びSPSCにより第2部材の表面に生成したp型半導体(第2ナノ結晶)の近傍に移動する。その結果、第2部材の表面のp型半導体の上で、SPSCにより、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンがナノ結晶(第1ナノ結晶)に変化するとともに、水素ガスが生成する。p型半導体の上に形成されたナノ結晶は、水酸化亜鉛(Zn(OH))及び酸化亜鉛(ZnO)を含む。酸化亜鉛(ZnO)は、n型半導体である。つまり、p型半導体の上に形成されたナノ結晶は、n型半導体を含む。したがって、第2部材の表面において、p型半導体の上にn型半導体が形成されることにより、pn接合層が得られる。
【0087】
図12の(a)は、pn接合層が形成される前のp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)それぞれのエネルギーバンドを示す。図12の(b)は、pn接合層が形成された後のp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)のエネルギーバンドを示す。図12の(b)に示すとおり、pn接合層が形成された場合、p型半導体(CuO)のフェルミ準位Eとn型半導体(ZnO)のフェルミ準位Eとが等しくなる。つまり、p型半導体(CuO)のエネルギー準位が上に移動し、n型半導体(ZnO)のエネルギー準位が下に移動する。その結果、p型半導体(CuO)とn型半導体(ZnO)との界面付近にバンドベンディングが生じる。
【0088】
図13の(a)は、pn接合層が形成される前のp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)それぞれのエネルギーバンドを示す。図13の(b)は、pn接合層が形成された後のp型半導体(CuO)及びn型半導体(ZnO)のエネルギーバンドを示す。図13の(b)に示すとおり、pn接合層が形成された場合、p型半導体(CuO)のフェルミ準位Eとn型半導体(ZnO)のフェルミ準位Eとが等しくなる。つまり、p型半導体(CuO)のエネルギー準位が上に移動し、n型半導体(ZnO)のエネルギー準位が下に移動する。その結果、p型半導体(CuO)とn型半導体(ZnO)との界面付近にバンドベンディングが生じる。
【0089】
光照射工程においてpn接合層が形成された後は、pn接合層にも光が照射される。pn接合層に光が照射されると、pn接合層に含まれるp型半導体及びn型半導体において電子が励起される。pn接合層は、光照射によって励起された電子と正孔との再結合を抑制しながら、pn接合層のn型半導体と水との界面に電子を効率よく移動させる。そして、pn接合層のn型半導体と水との界面へ移動した電子の少なくとも一部は、第1部材と第2部材とが電気的に接続されていることにより、第1部材の表面のn型半導体(酸化被膜又はナノ結晶)へ移動する。その後、第1部材の表面のn型半導体へ移動した電子により、上記反応式(3)に示すとおり、水酸化物イオン(OH)が生成する。このように、上記反応式(3)に示す反応により、第1部材の表面近傍において、水酸化物イオンの生成量が増大する。水酸化物イオンの生成量が増大すると、上記反応式(5)に示す第1金属の水酸化物(M(OH))の生成が促進され、SPSCによるヒドロキソ錯イオン([M(OH)y-)の形成が促進される。ここで、Mは、第1金属である。その結果、第1ナノ結晶がヒドロキソ錯イオンから生成するとともに、第1部材の表面近傍から水素ガスが優先的に生成する。以上のメカニズムにより、pn接合層は、第1ナノ結晶の生成を促進する。
【0090】
pn接合層は、例えば、整流性、電界発光(エレクトロルミネッセンス)、光起電力効果等の性質を示す。光照射工程において形成された上記pn接合層は、上記性質を利用した半導体デバイスの小型化及び高性能化に応用することができる。上記pn接合層を備える半導体デバイスは、例えば、水素製造用光電陰極、ダイオード、トランジスタ等であってよい。
【0091】
水素製造用光電陰極は、例えば、Cu板と、Cu板の表面上に形成されたp型層と、p型層の表面上に形成されたn型層とを備えてよい。p型層はp型半導体を含む。n型層はn型半導体を含む。p型半導体は、例えば、CuO又はCuOからなっていてよい。n型半導体は、ZnOのナノ結晶からなっていてよい。水素製造用光電陰極は、動作電極として用いられてよい。また、水素製造用光電陰極のCu板に銅ワイヤーなどの配線材料を接続してよい。また、水素製造用光電陰極を備える水素製造装置は、上記動作電極の電位を制御するための参照電極及び定電位電解装置などを備えてよい。水素製造用光電陰極は、光照射によってp型半導体及びn型半導体に励起された電子と正孔との再結合を抑制しながら、n型半導体と水との界面に電子を効率よく移動させる。その結果、n型半導体と水との界面で電子の授受が起こる。例えば、水が酸性である場合、上記反応式(2)式に示す反応によって水素ガスを生成することができる。
【0092】
上記pn接合層を用いた半導体デバイスの他の例は、太陽電池素子である。太陽電池素子は、例えば、Cu板と、Cu板の表面上に形成されたp型層と、p型層の表面上に形成されたn型層とを備えてよい。p型半導体は、例えば、CuO又はCuOからなっていてよい。n型半導体は、ZnOのナノ結晶からなっていてよい。n型層の表面に導電層を成膜し、pn接合層をガラス基板などで封止してよい。導電層の材料は、ITO(インジウム-錫酸化物)、FTO(フッ素添加酸化錫)等であってよい。Cu板と導電層とを電気的に接続し、電圧を制御しながらpn接合層に光を照射することで、p型半導体及びn型半導体に発生したキャリアの再結合を抑制しながら、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0093】
本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、本実施形態に係るナノ結晶の製造方法を用いて半導体デバイスを製造する製造方法であって、p型半導体を含むp型層を第2部材の表面上に形成し、かつn型半導体を含むn型層をp型層の表面上に形成することにより、p型層及びn型層を含むpn接合層を得る。上記半導体デバイスの製造方法は、光電気エネルギーの生成を伴ってよい。つまり、光照射工程において得られたpn接合層に光を照射することにより、光起電力を生じさせてよい。この場合、第1部材と第2部材との間にバイアスをかけて、p型半導体からn型半導体に向かう電子を光電流として取り出してよい。
【0094】
n型層に含まれるn型半導体は、上述の酸化物半導体のうちいずれか一つであってよい。p型層に含まれるp型半導体は、上述の酸化物半導体のうちいずれか一つであってよい。n型半導体とp型半導体との組み合わせは特に制限されない。電子供給側の半導体(p型半導体)のバンドギャップ、並びに、ガルバニック腐食及び光触媒反応において生じた正孔による腐食の進行性の観点から、p型半導体が、酸化銅(I)及び酸化銅(II)のうち少なくともいずれか一方であることが好ましく、n型半導体が、酸化亜鉛(II)であることが好ましい。
【0095】
(金属部材の組成)
金属部材は、第1部材と第2部材とを有する。第1部材は、第1金属を含む部材であればよく、特に制限されない。第1部材は、第1金属のみからなっていてもよい。第1部材は、第1金属(単体)に加えて、第1金属の酸化物を含んでいてもよい。ただし、第1金属の酸化物のみからなる部材は、本実施形態に係る第1部材には相当しない。第1部材における第1金属の含有率は、ナノ結晶の生産性、及び水素ガスの生成の促進の観点から、第1部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%であることが好ましく、15.0~100.0質量%であることがより好ましく、20.0~100.0質量%であることが更に好ましい。第1部材における第1金属の含有率が高いほど、水素ガスが発生し易く、酸化物又は水酸化物が生成され易いと共に、酸化物又は水酸化物の組成が制御され易い。
【0096】
第2部材は、第2金属を含む部材であればよく、特に制限されない。第2部材は、第2金属のみからなっていてもよい。第2部材は、第2金属(単体)に加えて、第2金属の酸化物を含んでいてもよい。ただし、第2金属の酸化物のみからなる部材は、本実施形態に係る第2部材には相当しない。第2部材における第2金属の含有率は、水素ガスの生成の促進、及びナノ結晶の生産性の観点から、第2部材の全質量を基準として、10.0~100.0質量%であることが好ましく、15.0~100.0質量%であることがより好ましく、20.0~100.0質量%であることが更に好ましい。第2部材における第2金属の含有率が高いほど、酸化物又は水酸化物が生成され易いと共に、酸化物又は水酸化物の組成が制御され易く、水素ガスも発生し易い。
【0097】
金属部材は、合金を含んでいてもよい。第1部材は、第1金属の合金を含んでいてもよく、第1金属の合金のみからなっていてもよい。第1金属の合金の組成は、第1金属を含む組成であればよく、特に制限されない。第1金属の合金は、例えば、鉄合金、銅合金、亜鉛合金等であってよい。第2部材は、第2金属の合金を含んでいてもよく、第2金属の合金のみからなっていてもよい。第2金属の合金の組成は、第2金属を含む組成であればよく、特に制限されない。第2金属の合金は、例えば、鉄合金、銅合金、亜鉛合金等であってよい。第1金属が合金である場合、第1金属の標準電極電位とは、合金の標準電極電位であってよい。第2金属が合金である場合、第2金属の標準電極電位とは、合金の標準電極電位であってよい。
【0098】
鉄合金としては、例えば、Fe-C系合金、Fe-Au系合金、Fe-Al系合金、Fe-B系合金、Fe-Ce系合金、Fe-Cr系合金、Fe-Cr-Ni系合金、Fe-Cr-Mo系合金、Fe-Cr-Al系合金、Fe-Cr-Cu系合金、Fe-Cr-Ti系合金、Fe-Cr-Ni-Mn系合金、Fe-Cu系合金、Fe-Ga系合金、Fe-Ge系合金、Fe-Mg系合金、Fe-Mn系合金、Fe-Mo系合金、Fe-N系合金、Fe-Nb系合金、Fe-Ni系合金、Fe-P系合金、Fe-S系合金、Fe-Si系合金、Fe-Si-Ag系合金、Fe-Si-Mg系合金、Fe-Ti系合金、Fe-U系合金、Fe-V系合金、Fe-W系合金、Fe-Zn系合金等が挙げられる。
【0099】
銅合金としては、例えば、Cu-Sn系合金、Cu-Ni系合金、Cu-Zn系合金、Cu-P系合金、Cu-Sn-P系合金、Cu-Al系合金、Cu-Zn-Sn系合金、Cu-Zn-Mn系合金、Cu-Zn-Si系合金、Cu-Zn-Ni系合金、Cu-Mn系合金、Cu-Be系合金、Cu-Ag系合金、Cu-Zr系合金等が挙げられる。
【0100】
亜鉛合金としては、例えば、Zn-Ni系合金、Zn-Sb系合金、Zn-Cu系合金、Zn-Al系合金、Zn-Mg系合金等が挙げられる。
【0101】
第1金属の合金における第1金属の含有率は、ナノ結晶の生産性、及び水素ガスの生成の促進の観点から、10.0~99.8質量%であることが好ましく、15.0~99.5質量%であることがより好ましく、20.0~99.9質量%であることが更に好ましい。第2金属の合金における第2金属の含有率は、水素ガスの生成の促進、及びナノ結晶の生産性の観点から、10.0~99.8質量%であることが好ましく、15.0~99.5質量%であることがより好ましく、20.0~99.9質量%であることが更に好ましい。
【0102】
第1部材は、不可避的に混入する他の原子を更に含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子の含有率は、例えば、第1部材の全質量を基準として、3質量%以下であってよい。第1部材に含まれる上記原子の含有率は、ナノ結晶の生産性、及び水素ガスの生成の促進の観点から、1質量%以下であることが好ましい。第2部材は、不可避的に混入する他の原子を更に含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子の含有率は、例えば、第2部材の全質量を基準として、3質量%以下であってよい。第2部材に含まれる上記原子の含有率は、ナノ結晶の生産性、及び水素ガスの生成の促進の観点から、1質量%以下であることが好ましい。
【0103】
第1部材の形状は、特に制限されない。第1部材の形状としては、例えば、板状、ブロック状、リボン状、丸線状、シート状、メッシュ状、又はこれらを組み合わせた形状等が挙げられる。第1部材の形状は、ナノ結晶及び水素ガスの回収性、水中への浸漬の作業性の観点から、板状、ブロック状、又はシート状であることが好ましい。第2部材の形状は、第1部材の形状と同じであっても、異なっていてもよい。
【0104】
(第1部材と第2部材との電気的な接続方法)
第1部材と第2部材との電気的な接続方法は、特に制限されない。例えば、第1部材と第2部材とが直接接触してよい。第1部材と第2部材とが溶接されてよい。金属部材は導電材料を更に有してよい。第1部材と第2部材とが導電材料を介して電気的に接続されてよい。第1部材と第2部材との電気的な接続とは、水を介した電気的接続を意味しない。
【0105】
金属部材における第1部材及び第2部材の配置は、特に制限されない。金属部材を組み立てる際の作業性、ナノ結晶の回収性、ナノ結晶の組成の選択性、及び水素ガスの回収性等の観点から、図3~7に示す配置が好ましい。
【0106】
図3~5は、第1部材と第2部材とが直接接触した金属部材の模式図である。例えば、図3に示す金属部材100のように、第1部材22aと第2部材24とを横並びに配置し、第1部材22aの側面と第2部材24の側面とを直接接触してよい。第1部材22a及び第2部材24の全体に接続材料26を巻き付けることにより、第1部材22a及び第2部材24を固定してよい。接続材料26を巻き付ける位置及び接続材料26の数は、特に制限されない。また、図4に示す金属部材110のように、第2部材24の表面に第1部材22bの全体を直接重ねてよい。第1部材22bの表面の面積は、第2部材24の表面の面積よりも小さくてよい。第1部材22bの表面の一方は、第2部材の表面に覆われてよい。また、図5に示す金属部材120のように、第1部材22aと第2部材24とを直接重ねてもよい。第1部材22a及び第2部材24の全体はクロス状の形状であってよい。つまり、第1部材22aが第2部材24と略垂直に交差していてよい。
【0107】
接続材料26は、水中で溶解又は劣化を起こさず、第1部材と第2部材とを強固に固定できるものであればよく、特に制限されない。接続材料26は、導電材料であっても、非導電材料であってもよい。金属部材を水中に浸漬したとしても、図3~5に示すように第1部材と第2部材とが直接接触していれば、接続材料26は導電性を有していなくてよい。導電材料は、下記の導電材料28と同じであってよい。非導電材料は、例えば、綿製のタコ糸であってよい。
【0108】
図6及び7は、第1部材と第2部材とが導電材料を介して電気的に接続している金属部材の模式図である。図6及び7の金属部材では、第1部材と第2部材とが直接接触していない。例えば、図6に示す金属部材130のように、第1部材22aと第2部材24とを導電材料28を介して電気的に接続してよい。図6の場合、導電材料28の一方の端部は、第1部材22aに巻き付いており、導電材料28の他方の端部は、第2部材24に巻き付いている。また、図7に示す金属部材140のように、導電材料28は、金属ワイヤー30と、金属ワイヤー30の両端に接続するろう材32とからなっていてもよい。ろう材32は、半田であってもよい。図7の場合、金属ワイヤー30の一方の端部と第1部材22aとがろう材32を介して接続し、金属ワイヤー30の他方の端部と第2部材24とが別のろう材32を介して接続している。また、第1部材22aと第2部材24との間に導電材料28を配置して、第1部材22aと第2部材24とを導電材料28を介して貼り合わせてもよい。
【0109】
導電材料28は、例えば、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、鉄、錫、又は鉛を含む配線材料、及びろう材からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0110】
ろう材32を用いた接続は、電気伝導性を必要とする場合に有効である。第1部材及び第2部材のうち少なくともいずれか一方が薄く、第1部材と第2部材とを溶接することが難しい場合、ろう材32を用いた接続が特に有効である。ろう材32としては、公知の組成のものを好適に用いることができる。ろう材32は、例えば、銀ろう(Ag-Cu-An系合金)、黄銅ろう(Cu-Zn系合金)、リン銅ろう(Cu-P系合金)、アルミろう(Al-Si系合金)等であってよい。
【0111】
半田は、Sn-Pb系半田、Sn-Pb-Ag系半田、Sn-Ag-Cu系半田等であってよい。環境に対する影響を考慮すると、半田は、実質的に鉛を含まないSn-Ag-Cu系半田が好ましい。半田を用いて電気的な接続を行う際、半田を融点以上の温度に加熱してよい。具体的には、半田がSn-Pb系半田である場合、半田を230~300℃の温度範囲に加熱して、半田を溶融してよい。
【0112】
(光照射方法について)
図1に示すように、水2及び金属部材100は、容器6a内に収容されていてよい。容器6aは、水2及び金属部材100を収容する容器本体8aと、蓋体10aとを備えてよい。容器6aは、蓋体10aを備えていなくてもよい。容器6aは、水素ガスを捕集する観点から、蓋体10aを備えていることが好ましい。蓋体10aは、容器本体8aを密閉してよい。ランプ(光源)12を用いて光Lを照射してよい。ランプ12を用いることで、金属部材100の表面に一定の強度の光を照射することができる。ランプ12の位置は、ナノ結晶又は水素ガスが効果的に生成するように適宜調整してよい。太陽光を照射する場合には、ランプ12は用いなくてもよい。太陽光を照射する場合には、金属部材100の表面に太陽光が照射されるように、容器6aの位置及び向きを適宜調整してよい。
【0113】
金属部材100は、図1に示すように、光が照射される面を垂直に立ててもよく、図2に示すように、光が照射される面を水平にしてもよい。
【0114】
水面から金属部材100の光照射面までの距離は、金属部材及び水の種類に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。上記距離は、例えば、5mm~10mであってよい。光の散乱による効果の低下の抑制、ナノ結晶の回収、及び水素ガスの生成の促進の観点から、上記距離は、5mm~8mが好ましく、5mm~5mがより好ましい。
【0115】
容器本体8aの形状は、特に制限されない。容器本体8aの形状は、図6に示す容器本体8aように直方体状であってもよく、図2に示す容器6bが備える容器本体8bのように円柱状であってもよい。容器本体8aの形状は、光が金属部材100の表面に効果的に照射できるものを適宜選択してよい。
【0116】
蓋体10aの形状は、特に制限されない。蓋体10aの形状は、図1に示す蓋体10aのように直方体状であってもよく、図2に示す蓋体10bのように円柱状であってもよい。蓋体10aの形状は、光が金属部材100の表面に効果的に照射できるものを適宜使用してよい。
【0117】
容器6a(容器本体8a及び蓋体10a)の材質は、光が金属部材100の表面に照射されるのを遮らないものであればよく、特に制限されない。容器本体8a及び蓋体10aの材質は、水と反応しないものが好ましい。容器本体8a及び蓋体10aの材質は、例えば、ガラス、プラスチック等であってよい。水素ガスを捕集する観点から、容器本体8a及び蓋体10aの材質は、ガラスであることが好ましい。
【0118】
(光の波長について)
光照射工程で用いる光の波長は特に制限されない。光の波長は、赤外線ランプの波長よりも短くてよい。例えば、光の波長は、1000nm以下であってよい。光照射工程で用いる光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長が360nm以上620nm未満であってよい。光のスペクトルとは、光の分光放射分布と言い換えてよく、強度とは、分光放射照度又はスペクトル放射照度と言い換えてよい。つまり本実施形態では、光照射工程で用いる光の分光放射分布(スペクトル)において、分光放射照度(強度)が最大である光の波長が360nm以上620nm未満であってよい。光の分光放射照度(強度)の単位は、例えば、W・m-2・nm-1であってよい。360nm以上620nm未満である波長領域において、金属部材に照射する光の波長を調整することにより、金属部材及び水から生成する酸化物及び水酸化物の組成を制御し易い。そのため、結晶性の高いナノ結晶が得られ、純度の高い水素ガスが得られ易い。ナノ結晶の結晶性(結晶度)は、例えば、X線回折(XRD)分析により確認することができる。酸化物及び水酸化物の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX)による点分析により確認することができる。上記波長が620nm以上である場合は、ナノ結晶が得られ難く、水素ガスが生成し難い。上記波長が360nm未満である場合は、ナノ結晶が分解され易く、ナノ結晶の形状が崩れ易く、純度の高い水素が得られ難い。上記波長が360nm未満である場合にナノ結晶が分解され易い理由は以下のとおりである、と本発明者らは推測する。
【0119】
上記波長が360nm未満である場合は、ナノ結晶が半導体であると、光を照射したときにナノ結晶が光触媒として作用することがある。ナノ結晶が光触媒として作用すると、後述するように、水の光分解が生じて、水素ガスのみならず酸素ガスが生じる。その結果、形成された酸化物が水酸化物に戻ってしまい、ナノ結晶が分解され、得られる水素ガスの純度が低くなる。また、上記波長が360nm未満である場合は、エネルギーが熱に変わり易いため、エネルギー効率が低下し易く、熱により金属部材が損傷し易い。上記波長による上記効果を得られ易い観点から、光照射工程で用いる光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は、380~600nmであることが好ましく、400~580nmであることがより好ましい。水の放射線分解の効率、設備の制約、酸化物及び水酸化物のバンドギャップ、及び励起された電子が緩和される際の熱エネルギーの発生(発熱)防止の観点から、上記波長は、上記範囲内で適宜調整されてよい。
【0120】
金属部材に照射する光の光源は、上記光を照射できるものであればよく、特に制限されない。光源は、例えば、太陽、LED、キセノンランプ、水銀ランプ、蛍光灯等であってよい。金属部材に照射する光は、例えば、太陽光又は擬似太陽光であってよい。太陽光は、地球上に無尽蔵に降り注ぎ、温暖化ガスなどを排出しない再生可能エネルギーとしての利用が可能である観点から、好適に用いることができる。擬似太陽光とは、太陽を光源としない光であって、光のスペクトルが太陽光のスペクトルに合致している光のことを意味する。擬似太陽光は、例えば、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ又はキセノンランプを用いたソーラーシミュレーターにより発することができる。擬似太陽光は、一般的に、紫外線に対する材料の強度の評価、太陽電池の評価又は耐候性評価を目的として用いられる。本実施形態においても、擬似太陽光を好適に用いることができる。
【0121】
光照射工程では、金属部材の表面と水とが接触している界面に光を照射してよい。界面は、例えば、金属部材を水中に浸漬する方法、金属部材の一部又は全部に水を流通させる方法等によって得られる。光照射工程では、ナノ結晶の回収の観点から、金属部材を水面下に浸漬させることが好ましい。
【0122】
(ナノ結晶の詳細)
第1部材の表面に形成されるナノ結晶は、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方を含む。第1部材の表面に形成されるナノ結晶は、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含む。第1部材の表面に形成されるナノ結晶は、酸化物及び水酸化物からなっていてもよく、酸化物のみからなっていてもよく、水酸化物のみからなっていてもよい。第2部材の表面に形成されるナノ結晶は、第1金属及び第2金属のうち少なくともいずれか一方を含む。第2部材の表面に形成されるナノ結晶は、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含む。第2部材の表面に形成されるナノ結晶は、酸化物及び水酸化物からなっていてもよく、酸化物のみからなっていてもよく、水酸化物のみからなっていてもよい。
【0123】
酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種は、半導体であることが好ましい。つまり、ナノ結晶は、半導体を含むことが好ましい。ナノ結晶は、半導体のみからなっていてもよい。ナノ結晶が半導体を含む場合、光触媒材料、発光材料、太陽電池、量子コンピューター、バイオセンサ等の半導体デバイスへのナノ結晶の適用が可能になる。図8は、代表的な金属酸化物半導体のバンドギャップ(伝導帯の下端と価電子帯の上端との間のエネルギー差)と、水の酸化還元電位との関係を示す模式図である。本実施形態に係るナノ結晶の製造方法により、図8に示すような様々なバンドギャップを有する金属酸化物半導体が製造されてよい。
【0124】
半導体は、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。つまり、ナノ結晶は、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含んでよい。ナノ結晶が、p型半導体及びn型半導体のうち少なくともいずれか一方を含むことで、ナノ結晶(半導体)の導電率が向上し、上記半導体デバイスへのナノ結晶の適用幅が広がる。更に、この場合、上述のpn接合層を簡便に形成できるため、ナノ結晶を用いた半導体デバイスの製造コストを抑えることができる。
【0125】
酸化物半導体(MO)は、酸化物半導体に不純物元素をドープしたり、金属と酸素との比率が化学量論組成からずれたりした場合に、p型半導体又はn型半導体になることがある。金属と酸素との比率が化学量論組成からずれた場合、酸化物半導体中の酸素が欠損して、酸化物半導体の組成がMOx-nとなり、結合に寄与しない金属の電子が余る。その結果、酸化物半導体がn型化する。また、酸化物半導体が過剰の酸素を取り込んだ場合、酸化物半導体の組成はMOx+nとなり、金属原子の欠損部が正孔として作用する。その結果、酸化物半導体がp型化する。
【0126】
p型半導体は、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、酸化銀(I)(AgO)、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化鉄(III)(Fe)、酸化タングステン(VI)(WO)及び酸化錫(II)(SnO)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0127】
n型半導体は、酸化鉄(III)(Fe)、酸化インジウム(III)(In)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化鉛(II)(PbO)、酸化バナジウム(V)(V)、酸化ニオブ(III)(Nb)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化亜鉛(II)(ZnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0128】
上記酸化物の中には、p型半導体にもn型半導体にもなり得るものがある。例えば、酸化鉄(III)(Fe)では、通常、酸素が欠損し易いため、酸化鉄(III)はn型半導体として振舞う。しかし、酸化鉄(III)に窒素(N)がドープされると、酸化鉄(III)はp型化することがある。酸化タングステン(VI)(WO)では、金属(W)及び酸素のうちいずれか一方が欠損することがある。金属(W)が欠損した場合、酸化タングステン(VI)はp型半導体である。酸素が欠損した場合、酸化タングステン(VI)はn型半導体である。
【0129】
ナノ結晶の形状は、針状、柱状、ロッド状、チューブ状、燐片状、塊状、フラワー状、ヒトデ状、枝状及び凸形状からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。フラワー状とは、結晶の中心から放射状に複数の柱状の結晶が延びている形状を意味する。ヒトデ状とは、結晶の中心から同一平面内でほぼ等間隔に複数の柱状の結晶が延びている形状を意味する。
【0130】
ナノ結晶の最大幅(例えば、長さ)は、2nm~10μm、又は2nm~1000nmであってよい。ナノ結晶の最大幅とは、複数のナノ結晶の集合体の最大幅を含意する。金属部材の表面からのナノ結晶の高さは、特に制限されない。ナノ結晶は、中実構造又は中空構造であってよい。
【0131】
(表面粗化工程について)
本実施形態に係るナノ結晶の製造方法は、光照射工程の前に、金属部材の表面を粗化する表面粗化工程を更に備えてよい。つまり、光照射工程では、粗化された金属部材の表面に光を照射してよい。表面粗化工程を施すことで、金属部材の表面に凹凸が形成され、ナノ結晶の成長速度が向上し易く、水素ガスの生成も促進され易い。金属部材の表面に凹凸が形成されると、ナノ結晶の先端部での電子密度が高くなる傾向がある。これにより、ナノ結晶の先端部に水和電子が多く生成し、上述した水酸化物イオンの生成と、それに次ぐナノ結晶の形成及び水素ガスの生成とが促進される、と推測される。
【0132】
表面粗化工程により形成される金属部材の表面の凹凸の大きさは、特に制限されない。上記光化学反応を促進して、ナノ結晶の成長を促進し、水素ガスの生成を促進する観点から、凸部の底辺の大きさの平均値は10nm以上500nm以下であることが好ましく、かつ、隣り合う凸部同士の間隔の平均値は2nm以上200nm以下であることが好ましい。凸部の底辺の大きさの平均値は15nm以上300nm以下であることがより好ましく、かつ、隣り合う凸部同士の間隔の平均値は5nm以上150nm以下であることがより好ましい。凸部の底辺の大きさの平均値は20nm以上100nm以下であることが更に好ましく、かつ、隣り合う凸部同士の間隔の平均値は10nm以上100nm以下であることが更に好ましい。凸部の底辺の大きさとは、凸部の高さ方向に垂直な方向における凸部の最大幅を意味する。
【0133】
表面粗化工程は、例えば、金属部材の表面の機械加工、化学処理又は液中放電処理(discharge treatment in a liquid)により行われてよい。液中放電処理とは、導電性を有する液体中で放電する処理のことを意味する。機械加工としては、例えば、研磨紙、バフ、又は砥石を用いた研削加工、ブラスト加工、及び、紙やすり等を用いた加工等が挙げられる。化学処理としては、例えば、酸又はアルカリによるエッチング等が挙げられる。液中放電処理としては、例えば、国際公開第2008/099618号に記載されているように、導電性を有する液体中に配置された陽極及び陰極からなる対電極に電圧を印加して、陰極近傍にプラズマを発生させ、陰極を局所的に融解させることにより行ってよい。液中放電処理では、陰極に金属部材を用いることで、金属部材の表面に凸凹を形成することができる。
【0134】
液中放電処理は、例えば、以下の装置を用いて行ってよい。液中放電処理を行う装置は、導電性を有する液体を収容するセルと、セル内に配置された互いに非接触の電極対と、電極対に電圧を印加する直流電源とを備える。電極対は、陰極及び陽極である。陰極には、金属部材を用いる。陽極の材料は、通電していない状態で、導電性を有する液体中で安定であればよく、特に制限されない。陽極の材料は、例えば、白金等であってよい。陽極の表面積は、陰極の表面積よりも大きくてよい。導電性を有する液体は、例えば、炭酸カリウム(KCO)水溶液等であってよい。
【0135】
表面粗化工程後の金属部材の表面は、外部に露出していてもよく、自然酸化膜で覆われていてもよい。
【0136】
(水について)
金属部材が浸される水は、純水、イオン交換水、雨水、水道水、河川水、井戸水、ろ過水、蒸留水、逆浸透水、泉水、湧水、ダム水及び海水からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。水としては、水素ガスの生成の促進、並びにナノ結晶の組成制御及び生産性の観点から、純水、イオン交換水、及び水道水が好ましい。ただし、自然由来の水として、河川水、井戸水、ダム水、海水等も好適に用いることができる。
【0137】
水のpHは、5.00~10.0であってよい。pHを5.00以上とすることで、光照射下におけるナノ結晶の形成を促進し、水素ガスの生成を促進することができる。また、pHを10.0以下とすることで、ナノ結晶を金属部材の表面から回収する際の作業性、及び水素ガスを回収する際の作業性が向上する。水のpHは、ナノ結晶の組成制御の観点から、5.5~9.5であることが好ましく、6.0~9.0であることがより好ましい。水のpHは、5.5~8.2、又は5.5~7.5であってよい。
【0138】
水のpHは、例えば、(株)堀場製作所製のpHメーター(LAQUAact、ポータブル型pHメーター・水質計)によって測定してよい。
【0139】
水の電気伝導度は、80000μS/cm以下であってよい。水の電気伝導度は、ナノ結晶の結晶性を高め、水素ガスの生成を促進する観点から、10000μS/cm以下であることが好ましく、5000μS/cm以下であることがより好ましく、1.0μS/cm以下であることが更に好ましい。水の電気伝導度の下限値は、例えば、0.05μS/cmであってよい。
【0140】
水の電気伝導度は、例えば、(株)堀場製作所製のpHメーター(LAQUAact、ポータブル型pHメーター・水質計)によって測定してよい。
【0141】
水の純度は、特に制限されない。水の純度とは、水に含まれる水分子の質量の割合を意味する。水の純度は、例えば、水の全質量を基準として、80.0質量%以上であってよい。水の純度を80.0質量%以上とすることで、光照射下における不純物の影響を抑えることができる。不純物の影響としては、例えば、塩の析出、及び不動態膜の形成が挙げられる。水の純度は、ナノ結晶の組成制御、及び水素ガスの生成の促進の観点から、85.0質量%以上であることが好ましく、90.0質量%以上であることがより好ましい。水の純度の上限値は、例えば、100.0質量%であってよい。
【0142】
水の純度は、電気伝導度で管理できる場合がある。例えば、水に溶解している溶質(不純物)の種類が特定されており、かつ、水の純度が上記範囲にある場合は、溶質の濃度と電気伝導度とが比例関係にある場合が多い。一方、複数の溶質(不純物)が混入している水では、電気伝導度を測定しても、その値から水の純度を把握することは困難である。水の純度は、水の電気伝導度で管理することが好ましい。
【0143】
水中の溶存酸素の濃度は、特に制限されない。水中の溶存酸素の濃度は、光照射によるナノ結晶の成長反応の促進、及び水素ガスの生成の促進の観点から、例えば、水の全体積を基準として、15mg/L以下が好ましく、12mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下がさらに好ましい。水中の溶存酸素の濃度の下限値は、例えば、8.0mg/Lであってよい。
【0144】
水中の溶存酸素の濃度は、例えば、(株)堀場製作所製のpHメーター(LAQUAact、ポータブル型pHメーター・水質計)によって測定してよい。
【0145】
水の温度は、特に制限されない。水の温度は、水の凝固及び蒸発の防止、並びに金属材料の腐食を防止する観点から、例えば、0~80℃が好ましく、2~75℃がより好ましく、5~70℃が更に好ましい。
【0146】
(水素ガスの生成機構についての補足)
本実施形態においてナノ結晶(酸化物又は水酸化物)に伴い水素が生成する反応の機構は必ずしも解明されていない。本発明者らは、水素の生成反応機構の一つが、ナノ結晶自身が光触媒として機能する光触媒反応である、と考える。ただし、本実施形態において、ナノ結晶による光触媒反応は支配的な反応ではなく、上記のとおり、水酸化物及び酸化物の生成に伴って水及び水素が生成する反応が支配的な反応である、と本発明者らは考える。以下では、反応機構が比較的判明している光触媒反応について説明する。なお、以下では、酸化物が鉄酸化物であり、水酸化物が鉄水酸化物である場合の光触媒反応について説明する。ただし、以下に説明する光触媒反応は、酸化物が鉄酸化物でない場合、水酸化物が鉄水酸化物でない場合にも成立する。
【0147】
本実施形態においてナノ結晶と共に水素ガスが生成する反応は、二酸化チタン(TiO)等の光触媒を用いた水の光分解反応とは異なる。二酸化チタンによる光触媒反応において水素ガスが生成する反応は以下のとおりである。二酸化チタンのバンドギャップEgは、3.2eVである。したがって、水中に浸された二酸化チタンに、二酸化チタンのバンドギャップに相当するエネルギーを有する380nm以下の波長の光を照射することにより、二酸化チタンが光を吸収する。その結果、電子と正孔とが励起される。正孔は水を酸化して、下記反応式(13)に示すとおり、酸素ガスを生じる。電子は水素イオン(H)を還元して、下記反応式(14)に示すとおり、水素ガスを生じる。光触媒反応では、水の光分解により、水素ガスのみならず酸素ガスが生成される。
O+2h→0.5O+2H (13)
2H+2e→H (14)
【0148】
上記の二酸化チタンによる光触媒反応では、水素発生電位を基準(ゼロ)としたときに、二酸化チタンの伝導帯のエネルギー準位が負であり、2:1のモル比(化学量論比)で水素ガス及び酸素ガスが発生する。対照的に、ナノ結晶(鉄酸化物又は鉄水酸化物)による光触媒反応では、ナノ結晶の伝導帯のエネルギー準位が正であり、発生するガスにおける水素及び酸素のモル比は、必ずしも化学量論比を満足しない。上記ナノ結晶による光触媒反応において水素ガスが生成する反応のメカニズムは以下のとおりである、と本発明者らは推測する。
【0149】
ナノ結晶に、鉄酸化物又は鉄水酸化物のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を照射することにより、鉄酸化物又は鉄水酸化物が光を吸収する。例えば、鉄酸化物が酸化鉄(Fe)の場合、バンドギャップEgは2.2eVであり、当該バンドギャップに相当するエネルギーを有する光の波長は563nm以下である。鉄酸化物又は鉄水酸化物が光を吸収すると、電子と正孔とが励起される。正孔は、水を酸化して、上記反応式(13)に示すとおり、酸素ガスを生じる。電子は、水素イオンを還元して、上記反応式(14)に示すとおり、水素ガスを生じる。
【0150】
ここで、光触媒反応において、水素イオンが電子によって還元されて水素ガスを生じる反応が起こるためには、光触媒のバンドギャップが大きく、水素発生電位を基準(ゼロ)としたときに、光触媒の伝導帯のエネルギー準位が負であるという条件を満たす必要がある。二酸化チタンは、この条件を満たしているものの、二酸化チタンの伝導帯のエネルギー準位は、水素発生電位に近い。また、二酸化チタンは、水素発生に対する触媒活性が低い。そのため、二酸化チタンを水分解の光触媒として実際に用いるためには、二酸化チタンの対極に白金(Pt)電極を設け、かつ、二酸化チタン側に負のバイアス電圧(例えば、-0.5V程度)を印加しなければならない場合がある。
【0151】
一方、例えば、酸化鉄(Fe)からなるナノ結晶のバンドギャップは、二酸化チタンのバンドギャップよりも狭いので、二酸化チタンの場合よりも波長が長い光を用いることによって、ナノ結晶による光触媒反応が進行する。しかし、酸化鉄の伝導帯のエネルギー準位は、水素発生電位に対して正である。一般的には、光触媒の伝導帯のエネルギー準位が正である場合は、バイアス電圧なしでは水素が生成されないと考えられる。しかしながら、ナノ結晶による光触媒反応では、以下のように、バイアス電圧なしでも化学バイアスによって水素が生成される、と本発明者らは推測する。上述したとおり、水の放射線分解、又は水と正孔との反応によって生じた水酸化物イオンと、Fe3+との反応を経て、ナノ結晶の成長が起こる。そのため、特にナノ結晶の先端部では、水のpHが局所的にアルカリ側にシフトする。その結果、これが化学バイアスとなって、電子と正孔との電荷分離が効率的に進み、水素イオンが電子によって還元されて、水素ガスを生じる反応が促進する。
【0152】
上記のナノ結晶による光触媒反応では、バイアス電圧の印加を必要とせず、可視光を用いて、ナノ結晶を形成しながら、水の光分解によって水素ガスを製造することができる。また、上記のナノ結晶による光触媒反応は、正極及び負極の2種類の電極を用いる必要がないこと、及び、可視光を利用して水素ガスを生成することが可能な点で、二酸化チタンによる光触媒反応に比べて工業的に優れる。
【0153】
一般的な水の光分解では、水素ガスの他に酸素ガスも生成するが、ナノ結晶による光触媒反応において生成するガスは、大部分が水素ガスであってよい。言い換えると、生成するガス中の水素の濃度は、水の分子式(HO)から化学量論的に算出される水素の濃度よりも大きくてよい。つまり、生成するガス中の水素の濃度は、ガスの全体積を基準として、66.7体積%より大きくてよい。生成するガス中の水素の濃度は、ガスに含まれる全成分のモル数の合計を基準として、66.7モル%より大きくてよい。ナノ結晶による光触媒反応において純度の高い水素ガスが得られるメカニズムは以下のとおりである、と本発明者らは推測する。ナノ結晶による光触媒反応では、上記のとおり、水と正孔との反応で酸素ガスが発生するが、酸素ガスが発生したとしても、酸素ガスと、水中でイオン化した鉄イオン(Fe2+又はFe3+)とが直接反応する。その結果、鉄酸化物(ナノ結晶)の成長が促進して、ガス中の酸素の濃度が低くなり、水素の濃度が高くなる。また、水中の溶解度は、水素ガスよりも酸素ガスの方が大きいことから、発生したガス中の水素ガスの濃度が高くなる。
【0154】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。例えば、金属部材が、第1金属を含む第1部材と、第2金属を含む第2部材に加えて、第3金属を含む第3部材を有してもよい。つまり、金属部材が、3種類以上の部材(3種類以上の金属)を含んでいてもよい。
【実施例
【0155】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
<実施例1>
実施例1では、以下に示す方法により、金属部材を準備し、表面粗化工程及び光照射工程を行った。
【0157】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.8質量%である亜鉛を圧延して、板状の第1部材を形成した。亜鉛(第1金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも高かった。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。純度が99.9質量%である銅を圧延して、板状の第2部材を形成した。銅(第2金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも高かった。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
【0158】
(表面粗化工程)
次いで、以下に示す方法により、上記第1部材の表面に液中放電処理を行った。ガラス製の容器に、炭酸カリウム(KCO)の濃度が0.1mol/Lである炭酸カリウム水溶液を300mL収容した。炭酸カリウム水溶液中に、陰極及び陽極を液面から100mm以内の深さに配置した。陰極と陽極との間の距離は50mmであった。陰極としては、上記第1部材を用いた。陽極としては、網状の白金電極を用いた。白金電極の寸法は、40mm×550mmであった。白金電極の線幅は0.5mmであった。白金電極の電極面積内の白金線の長さは600mmであった。そして、セル電圧を120V、放電時間を10分間として、液中放電処理を行った。
なお、後述する実施例2~6、8~15及び全比較例の表面粗化工程は、実施例1の表面粗化工程と同じである。
【0159】
表面粗化工程後の第1部材の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡としては、日本電子(株)製のJSM-7001Fを用いた。その結果、第1部材の表面には、凹凸が多数形成されていた。凸部の底辺の大きさは、平均5nmであった。
【0160】
上記と同様の方法により、上記第2部材の表面に液中放電処理を行った。表面粗化工程後の第2部材の表面を、上記走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、第2部材の表面には、凹凸が多数形成されていた。凸部の底辺の大きさは、平均5nmであった。
【0161】
(金属部材)
以下に示す方法により、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とを電気的に接続して、金属部材を作製した。図5に示すように、第1部材と第2部材とをクロス状に配置して直接接触させた。第1部材と第2部材との接触部に銅ワイヤーを巻きつけて、第1部材及び第2部材を固定した。銅ワイヤーの純度は、99.9質量%であった。銅ワイヤーの直径は、0.5mmであった。
【0162】
(光照射工程)
次いで、以下に示す方法により、光照射工程を行った。ガラス製の容器に純水を入れ、金属部材を純水に浸漬した。純水のpH及び電気伝導度をpHメーターで測定した。pHメーターとしては、(株)堀場製作所製のLAQUAact(ポータブル型pHメーター・水質計)を用いた。純水のpHは、7.0であり、純水の電気伝導度は、1.0μS/cm以下であった。上記容器にプラスチック製の蓋をして容器を密閉した。
【0163】
図1に示すように、金属部材、容器及び光源を配置し、水中の金属部材の表面に光を照射した。つまり、金属部材の表面に垂直な方向から、金属部材の表面に光を照射した。光源としては、キセノンランプを用いた。キセノンランプとしては、浜松ホトニクス(株)社製のスポット光源(LightningCureLC8)を用いた。キセノンランプに専用の光学フィルターを取り付けて光の波長範囲を400~600nmに設定した。金属部材の表面に光を48時間照射した。光の出力は、280Wであった。光の分光スペクトルを分光放射計で測定した。分光放射計としては、Gentec-EO社製のSOLO 2を用いた。その結果、キセノンランプから発せられる光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は360nm以上620nm未満であった。キセノンランプから発せられる光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は、約493nmであった。光源から5cm離れた光照射位置での光の強度は、3025Wm-2であった。なお、光照射位置とは、金属部材の表面の位置と言い換えてよい。
【0164】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例1と同様にして、光照射工程を行った。実施例2の光照射工程では、光照射時間を72時間とした。
【0165】
<実施例3>
実施例3では、実施例2と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例2と同様にして、光照射工程を行った。
【0166】
実施例3の光照射工程では、光源としてキセノンランプを用いずに、擬似太陽光を金属部材の表面に照射した。擬似太陽光の光源としては、朝日分光(株)製のソーラーシミュレーター(HAL-320)を用いた。ソーラーシミュレーターはキセノンランプを用いたものである。ソーラーシミュレーターが発する擬似太陽光の波長範囲は、350~1100nmである。また、図2に示すように金属部材、容器及び光源を配置した。つまり、金属部材の表面に垂直な方向から、金属部材の表面に光を照射した。光の出力は300Wであった。光の分光スペクトルを上記分光放射計で測定した。その結果、擬似太陽光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は360nm以上620nm未満であった。擬似太陽光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は、約460nmであった。光源から60cm離れた光照射位置での光の強度は、1000W/mであった。
【0167】
<実施例4>
実施例4では、実施例2と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例2と同様にして、光照射工程を行った。
【0168】
実施例4の光照射工程では、光源としてキセノンランプを用いずに、太陽光を金属部材の表面に照射した。太陽光の波長範囲は、およそ300~3000nmである。太陽光の照射は、北緯43度の地域で、6月の晴天条件で、午前9時から午後3時までの間に行い、光照射の積算時間が72時間となるまで行った。光の分光スペクトルを上記分光放射計で測定した。その結果、太陽光スペクトルにおいて、強度が最大である波長は360nm以上620nm未満であった。太陽光のスペクトルにおいて、強度が最大である波長は、約520nmであった。光照射位置での光の強度は、平均750W/mであった。
【0169】
<実施例5>
実施例5では、実施例3と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0170】
実施例5の光照射工程では、純水の代わりに、河川水を用いた。河川水のpH及び電気伝導度を上記pHメーターで測定した。その結果、河川水のpHは、7.5であり、河川水の電気伝導度は、350μS/cmであった。
【0171】
<実施例6>
実施例6では、実施例3と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0172】
実施例6の光照射工程では、純水の代わりに、海水を用いた。海水のpH及び電気伝導度を上記pHメーターで測定した。その結果、海水のpHは、8.2であり、海水の電気伝導度は、55000μS/cmであった。
【0173】
<実施例7>
実施例7では、実施例3と同様の第1部材、及び実施例3と同様の第2部材を準備した。次いで、下記の表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0174】
(表面粗化工程)
以下に示す方法により、第1部材の表面を研磨紙で研磨した。まず、水に浸された第1部材の表面を#400の耐水研磨紙で研磨し、続いて、#800の耐水研磨紙で第1部材の表面を研磨した。耐水研磨紙としては、藤本科学(株)製の研磨紙を用いた。表面粗化工程後の第1部材の表面を、上記走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、第1部材の表面には、凹凸が多数形成されていた。隣り合う凸部同士の間隔は、平均13μmであった。
【0175】
上記と同様の方法により、第2部材の表面を研磨紙で研磨した。表面粗化工程後の第2部材の表面を、上記走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、第2部材の表面には、凹凸が多数形成されていた。隣り合う凸部同士の間隔は、平均13μmであった。
【0176】
<実施例8>
実施例8では、実施例3と同様の第1部材、及び実施例3と同様の第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、下記の金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0177】
(金属部材)
以下に示す方法により、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とを電気的に接続して、金属部材を作製した。図5に示すように、第1部材と第2部材とをクロス状に配置して直接接触させた。第1部材と第2部材との接触部にタコ糸を巻きつけて、第1部材及び第2部材を固定した。タコ糸は、非導電性の綿製の糸であった。タコ糸の直径は、0.5mmであった。
【0178】
<実施例9>
実施例9では、実施例3と同様の第1部材、及び実施例3と同様の第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、下記の金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0179】
(金属部材)
以下に示す方法により、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とを電気的に接続して、金属部材を作製した。図3に示すように、第1部材と第2部材とを横並びに配置して直接接触させた。第1部材及び第2部材の全体の上部及び下部の2箇所に銅ワイヤーを巻きつけて、第1部材及び第2部材を固定した。銅ワイヤーの純度は、99.9質量%であった。銅ワイヤーの直径は、0.025mmであった。
【0180】
<実施例10>
実施例10では、実施例3と同様の第1部材、及び実施例3と同様の第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、下記の金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0181】
(金属部材)
以下に示す方法により、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とを銅ワイヤーを介して電気的に接続して、金属部材を作製した。図7に示すように、銅ワイヤーの一方の端部と第1部材とを半田を介して接続した。また、銅ワイヤーの他方の端部と第2部材とを半田を介して接続した。上記接続の際には、半田を280℃の温度で溶融した。半田は、Snを96.5質量%と、Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%とを含むSn-Ag-Cu系棒半田であった。銅ワイヤーの純度は、99.9質量%であった。銅ワイヤーの直径は、0.5mmであった。
【0182】
<実施例11>
実施例11では、下記の第1部材及び第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0183】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.8質量%である亜鉛を圧延して、板状の第1部材を形成した。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。純度が99.9質量%であるタングステンを加工して、板状の第2部材を形成した。タングステン(第2金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも高かった。タングステンの加工は、放電加工により行った。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
【0184】
<実施例12>
実施例12では、下記の第1部材及び第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0185】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.8質量%である亜鉛を圧延して、板状の第1部材を形成した。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。純度が99.5質量%であるニッケルを圧延して、板状の第2部材を形成した。ニッケル(第2金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも高かった。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
【0186】
<実施例13>
実施例13では、下記の第1部材及び第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。
【0187】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.5質量%であるチタンを加工して、板状の第1部材を形成した。チタンの加工は、放電加工により行った。チタン(第1金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも高かった。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。純度が99.9質量%であるタングステンを加工して、板状の第2部材を形成した。タングステンの加工は、放電加工により行った。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
【0188】
次いで、以下の点を除いては、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。実施例13の光照射工程では、純水の代わりに、水道水を用いた。水道水のpH及び電気伝導度を上記pHメーターで測定した。その結果、水道水のpHは、8.2であり、水道水の電気伝導度は、150μS/cmであった。
【0189】
<実施例14>
実施例14では、実施例2と同様の第1部材、及び実施例2と同様の第2部材を準備した。次いで、実施例2と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、下記の金属部材を準備した。次いで、実施例2と同様にして、光照射工程を行った。
【0190】
(金属部材)
以下に示す方法により、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とをろう材を介して電気的に接続して、金属部材を作製した。図5に示すように、第1部材と第2部材とをクロス状に配置した。第1部材と第2部材との間にはリン銅ろうを配置した。リン銅ろうは、93質量%の銅と、7質量%のリンとを含んでいた。第1部材、第2部材及びリン銅ろうの全体を750℃の真空炉内で加熱し、ろう材を完全に溶融させて、第1部材と第2部材とを固定した。
【0191】
<実施例15>
実施例15では、下記の第1部材及び第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0192】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.8質量%である亜鉛を圧延して、板状の第1部材を形成した。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。銅とニッケルの合金を圧延して、板状の第2部材を形成した。銅とニッケルの合金は、銅を75.0質量%と、ニッケルを25.0質量%とを含んでいた。銅とニッケルの合金(第1金属)の標準電極電位Vは、下記式(A)により求められる。下記式(A)において、VCuは、銅の標準電極電位である。CCuは、合金に含まれる銅の質量比である。VNiは、ニッケルの標準電極電位である。CNiは、合金に含まれるニッケルの質量比である。下記式(A)により求めたVは、0.325Vであり、-2.00Vよりも高かった。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
=(VCu×CCu)+(VNi×CNi) (A)
【0193】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と同様の金属部材を準備した。次いで、ガラス製の容器に純水を入れ、金属部材を純水に浸漬した。純水のpH及び電気伝導度を上記pHメーターで測定した。その結果、純水のpHは、7.0であり、純水の電気伝導度は、1.0μS/cm以下であった。上記容器にプラスチック製の蓋をして容器を密閉し、48時間保持した。比較例1では、光照射工程を行わなかった。
【0194】
<比較例2>
比較例2では、実施例3と同様の金属部材を準備した。次いで、以下の点を除いては、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0195】
比較例2の光照射工程では、純水の代わりに、アセトンを用いた。アセトンとしては、和光純薬工業(株)製のアセトン(純度99.5質量%)を用いた。
【0196】
<比較例3>
比較例3では、実施例3と同様の第1部材、及び実施例3と同様の第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、以下の点を除いては、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0197】
比較例3の光照射工程では、表面粗化工程後の第1部材と、表面粗化工程後の第2部材とを電気的に接続せず、隔離した状態で純水中に浸漬した。
【0198】
<比較例4>
比較例4では、下記の第1部材及び第2部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、表面粗化工程を行った。次いで、実施例3と同様にして、金属部材を準備した。次いで、実施例3と同様にして、光照射工程を行った。
【0199】
(第1部材及び第2部材)
純度が99.5質量%であるマグネシウムを圧延して、板状の第1部材を形成した。第1部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。マグネシウム(第1金属)の標準電極電位は、-2.00Vよりも低かった。純度が99.8質量%である亜鉛を圧延して、板状の第2部材を形成した。第2部材の寸法は、50mm×10mm×0.5mmであった。
【0200】
実施例1~15及び比較例1~4の第1部材、第2部材、接続材料、第1部材及び第2部材の配置、水、並びに光照射条件を表3に示す。
【0201】
【表3】
【0202】
<評価>
(結晶相)
実施例1~15及び比較例2~4それぞれの光照射工程後の第1部材の表面を個別にX線回折(XRD)法により分析して、第1部材の表面に生成した主な結晶相を特定した。比較例1では、金属部材を表3に示す時間にわたって水中に保持した後に、第1部材の表面をX線回折(XRD)法により分析して、第1部材の表面に生成した主な結晶相を特定した。XRD分析では、X線回折装置を用いて、Cu-Kα線を第1部材の表面に照射した。XRD分析の測定条件は下記のとおりであった。X線回折装置としては、(株)リガク製のATG-G(粉末X線回折)を用いた。上記と同様の方法により、第2部材の表面に生成した主な結晶層を特定した。検出された主な結晶相を表4に示す。
出力:50kV-300mA
スキャン速度:4.0°/分
測定モード:θ-2θ
回折角度:10~60°
【0203】
(ナノ結晶の有無及び形状)
実施例1~15及び比較例2~4それぞれの光照射工程後の金属部材の表面を個別に上記走査型電子顕微鏡で観察して、ナノ結晶の有無を調べた。比較例1では、金属部材を表3に示す時間にわたって水中に保持した後に、金属部材の表面を上記走査型電子顕微鏡で観察して、ナノ結晶の有無を調べた。また、ナノ結晶が形成されていた場合には、ナノ結晶の形状を評価した。さらに、上記走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)による点分析により、金属部材の表面に生成した微細組織の元素分析を行った。
【0204】
実施例1~15の金属部材の表面には、図14及び15に示されるようなロッド状のナノ結晶が多く観察された。実施例1~10、14及び15では、第1部材が亜鉛であり、第2部材が銅又は銅合金であった。その結果、第1部材の表面にはZn(OH)のナノ結晶が多く生成し、第2部材の表面にはZnOのナノ結晶が多く生成した。また、第1部材の表面にはZnOが生成したものの、その量は少なかった。実施例1~10、14及び15では、通常の腐食又はSPSCにより、第1部材の表面にZnOが生成した後、光照射による腐食(上記反応式(11)に示す反応)により、ZnOからZnイオン(Zn2+)が溶け出したと考えられる。一方、第2部材の表面にZnOのナノ結晶が多く生成した理由は以下のとおりである、と本発明者らは考える。第1部材の表面に生成したZnOから溶け出したZn2+が、第2部材に到達する。また、第1部材の表面に生成したZn(OH)と水酸化物イオンとの反応により生じた[Zn(OH)2-も、第2部材に到達する。その結果、第2部材の表面に再びZn(OH)が生成する。その後、SPSCにより、第2部材の表面に形成されたZn(OH)がZnO(ナノ結晶)に変化し、ZnOが成長したと考えられる。実施例11及び12でも、第2部材の表面にZnOが多く生成した。実施例11及び12でも、上記と同様の反応が起こったと考えられる。また、実施例13では、第2部材の表面にTiOが多く生成した。第1部材がチタンである場合も、第1部材が亜鉛である場合と同様のメカニズムにより、第2部材の表面にTiOが多く生成したと考えられる。
【0205】
金属部材の表面に生成した微細組織の観察及びEDX分析から、以下のことがわかった。実施例1~10及び14の第2部材の表面に生成したZnO(n型層)は、CuO及びCuOの少なくとも一方(p型層)に接していた。実施例11の第2部材の表面に生成したZnO(n型層)は、WO(p型層)に接していた。実施例12の第2部材の表面に生成したZnO(n型層)は、NiO(p型層)に接していた。実施例13の第2部材の表面に生成したTiOは、WOに接していた。実施例15の第2部材の表面に生成したZnO(n型層)は、CuO、CuO及びNiOのうち少なくとも一つ(p型層)に接していた。つまり、実施例1~15では、ナノ結晶が形成されるとともに、pn接合層が形成された。
【0206】
比較例1及び2それぞれの金属部材の表面には、ナノ結晶は形成されていなかった。比較例1及び2では、表4に示す酸化物又は水酸化物が金属部材の表面を一様に被覆していた。
【0207】
比較例3では、第1部材の表面にZn(OH)の酸化被膜が多く形成され、第2部材の表面にCu(OH)の酸化被膜が多く形成された。また、金属部材の表面においてZnOのナノ結晶はほとんど確認されなかった。比較例3では、第1部材と第2部材とが電気的に接続していないため、第1部材及び第2部材それぞれの表面近傍において、SPSCに基づく反応が個別に行われた。しかし、ガルバニック腐食、及びp型半導体とn型半導体との電気的な接続による電子の移動が起こらなかった。その結果、第1部材からのZnの溶解、及び、水酸化物イオン(OH)の生成が減少し、ナノ結晶がほとんど生成しなかったと考えられる。
【0208】
比較例4では、第1部材の表面にナノ結晶でないMg(OH)が多く形成され、第2部材の表面にZn(OH)の酸化被膜が多く形成された。また、金属部材の表面においてZnOのナノ結晶はほとんど確認されなかった。マグネシウムの標準電極電位は-2.00Vよりも低い。第1部材がマグネシウムであることで、マグネシウムと水との直接的な反応が進行した。その結果、第1部材において、Mg(OH)の生成が進んだと考えられる。なお、第1部材の表面では、熱力学的にMgOがわずかに生成していた。しかし、MgOのバンドギャップは、7.8eVであり、高い。よって、MgOは絶縁体とみなせる。したがって、第1部材と第2部材とが電気的に接続されていたにもかかわらず、電子の移動は実質的に起こらなかった。その結果、第1部材及び第2部材それぞれの表面近傍において、SPSCに基づく反応が個別に行われたため、比較例3と同様に、ZnOのナノ結晶がほとんど生成しなかったと考えられる。
【0209】
(ガスの分析)
実施例1~15及び比較例2~4それぞれの光照射工程において容器内部にガスが生成したか否かを個別に目視で確認した。つまり、実施例1~15及び比較例2~4それぞれの光照射工程後の容器の上部に気泡が溜まっているか否かを個別に目視で確認した。比較例1では、金属部材を表3に示す時間にわたって水中に保持した後に、容器内部にガスが生成したか否かを目視で確認した。容器内部にガスが生成している場合は、生成ガスの体積を目視で測定した。また、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法により、生成ガスに含まれる成分の種類及び濃度を測定した。ガスクロマトグラフィー質量分析では、ガスクロマトグラフを用いて、キャリアーガスとしてアルゴンと、サンプルとをシリンジに入れて測定した。ガスクロマトグラフとしては、(株)島津製作所製のGC-14Bを用いた。生成ガスの体積としては、金属部材の表面の光照射面積あたりの値(単位:cc/cm)を算出した。また、使用前の金属部材及び水に窒素が含まれておらず、かつ、分析したガス中に窒素ガスが含まれている場合は、上述した方法により、空気に由来する窒素及び酸素の体積が生成ガスの総体積から除外されるように、生成した水素ガスの濃度を補正した。
【0210】
実施例1~15並びに比較例3及び4では、光照射工程後の容器にガスが溜まっていることが目視で確認された。実施例1~15並びに比較例3及び4の生成ガスの体積を表4に示す。一方、比較例1及び2では、ガスは生成していなかった。ガスクロマトグラフィー質量分析の結果、実施例1~15並びに比較例3及び4それぞれのガスから、水素ガス(H)、窒素ガス(N)、及び酸素ガス(O)が検出された。また、実施例1~15並びに比較例3及び4それぞれのガスでは、水素ガス(H)が支配的であることが分かった。
【0211】
ガスクロマトグラフィー質量分析法により、実施例2の光照射工程において生成したガスを分析した。実施例2の生成ガスでは、水素ガス(H):酸素ガス(O):窒素ガス(N)は、体積比率で、52:1:3であった。実施例2では、使用前の金属部材及び水中には窒素は含まれていなかった。したがって、ガスクロマトグラフィー質量分析で検出された窒素ガスは、分析中の空気の混入によるものと考えられる。ガスクロマトグラフィー質量分析法により空気のみを分析したところ、空気では、酸素ガス:窒素ガスは、体積比率で、2:7であった。この結果に基づき、上述した方法により、補正後の水素ガスの濃度(単位:体積%)を算出した。実施例2の水素ガスの濃度は、99.7体積%であった。実施例1及び3~15並びに比較例3及び4においても、実施例2と同様にして、補正後の水素ガスの濃度を算出した。実施例1~15並びに比較例3及び4の水素ガスの濃度を表4に示す。
【0212】
表4に示すように、実施例1~15では、光照射面積あたりの生成ガスの体積は1cc/cmを超えており、かつ、高濃度の水素ガスが生成していることが分かった。また、表4に示すように、第1部材の組成、第2部材の組成、水のpH又は電気伝導度によって、生成ガスの体積に差が生じる傾向が見られた。ここで、実施例3で生成したガスの体積は、実施例7で生成したガスの体積に比べて多いことが分かった。実施例3と実施例7とでは、第1部材の表面及び第2部材の表面に対する表面粗化工程の方法が異なるだけである。実施例3の生成ガスの体積が実施例7の生成ガスの体積に比べて多い理由は以下のとおりである、と本発明者らは考える。実施例3の液中放電処理によって形成された第1部材の表面の凹凸は、実施例7の研磨により形成された第1部材の表面の凹凸に比べて、より微細である。また、実施例3の液中放電処理によって形成された第2部材の表面の凹凸は、実施例7の研磨により形成された第2部材の表面の凹凸に比べて、より微細である。そのため、実施例3の金属部材の表面に生成したナノ結晶の先端部での電子密度が高くなり、ナノ結晶の先端部に水和電子が多く生成する。その結果、水酸化物イオンの生成と、それに次ぐナノ結晶の形成、及び水素ガスの生成がより促進される。
【0213】
比較例1では、ガスが生成していなかった。また、比較例1では、上述したように、金属部材の表面にナノ結晶が形成されなかった。以上のことから、比較例1の金属部材の表面には、水中で金属部材が錆びたことにより、水酸化物が支配的に形成されていたため、光照射工程においてガスが生成しなかったと考えられる。
【0214】
比較例2では、金属部材を水ではなくアセトンに浸漬したため、水酸化物イオンが存在せず、ナノ結晶が形成されなかった。その結果、光照射工程においてガスが生成しなかったと考えられる。アセトンでは、光を照射しても水の放射線分解が生じず、解離している水酸化物イオンも存在していない。
【0215】
比較例3の水素ガスの濃度は高かった。しかし、比較例3の生成ガスの体積は、実施例1~15の生成ガスの体積に比べて大幅に小さかった。比較例3では、第1部材と第2部材とを電気的に接続していないため、ガルバニック腐食が起こらず、第1部材からの第1金属のイオンの溶け出しが抑制されたと考えられる。また、比較例3では、第1部材の表面にZnOの酸化物半導体がわずかに形成された。しかし、ZnOのバンドギャップは大きいため、光触媒反応により得られる電子の量が少なかった。その結果、上記反応式(3)に示す水酸化物イオン(OH)の生成量が少なくなり、SPSCによるナノ結晶の生成と、それに次ぐ水素ガスの生成とが著しく抑制されたと考えられる。
【0216】
比較例4の生成ガスの体積は、実施例1~15の生成ガスの体積に比べて大きかった。比較例4では、第1部材であるマグネシウムの標準電極電位が低すぎたため、マグネシウムと水とが直接反応した。その結果、水酸化マグネシウムが生成し、それと同時に副産物として水素ガスが生成したことにより、生成ガスの体積が大きかったと考えられる。しかしながら、比較例4の水素ガスの濃度は、90.0体積%であり、実施例1~15の水素ガスの濃度に比べて低かった。比較例4の水素ガスの濃度が低い理由は以下のとおりである、と本発明者らは考える。マグネシウムと水とが反応して水素ガスを生成する反応は、光照射に依らない。つまり、比較例4の金属部材を水に浸漬した直後に水素ガスが発生する。このため、金属部材を水中に浸漬した後、容器を水で満たしながら密閉することが困難であり、容器に蓋をする際に空気が混入する傾向にある。容器内への空気の混入は、特にpHの低い酸性水溶液を用いた場合、及び工業的に大面積化した金属部材を用いる場合に大きな課題になり得る。さらに、比較例4では、光照射の開始からおよそ5時間にわたり水素が発生し続けた。しかし、5時間経過した後は、水素が発生しなかった。比較例4では、マグネシウムと水とが反応して生成した水酸化マグネシウムが不動態被膜として作用し、それ以降の水素ガスの発生が事実上停止した。そのため、比較例4では、水素ガスが発生した時間が短かったと考えられる。金属部材の表面に水酸化マグネシウムのような不動態膜が形成される場合、水素ガスの精製及び回収を工業的に所望の時間継続することが困難である。
【0217】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明によれば、酸化物及び水酸化物のうち少なくともいずれか一種を含むナノ結晶を簡便に形成できるナノ結晶の製造方法、及び当該ナノ結晶の製造方法を利用した半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0219】
2…水、6a,6b…容器、8a,8b…容器本体、10a,10b…蓋体、12…ランプ(光源)、22a,22b…第1部材、24…第2部材、26…接続材料、28…導電材料、30…金属ワイヤー、32…ろう材、100,110,120,130,140…金属部材、L…光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15