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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】モード交換器
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/14 20060101AFI20220422BHJP
【FI】
G02B6/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018080166
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019191224
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-214852(JP,A)
【文献】特開2004-104782(JP,A)
【文献】特開2016-082318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299812(US,A1)
【文献】特開2013-205742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0003772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/036
G02B 6/12- 6/14
G02B 6/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6モードファイバを伝送路とした伝送システム中に配置されるPLC型のモード交換器であって、
6個のモードが伝搬する導波路で構成されたモード変換回路を備えており、
記モード変換回路は、
前記導波路の高さ(PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部と、
を備え
前記伝送路に前記モード変換回路が2個以上配置されることにより、
6個のモードのうち、1次~3次のモードの全てのモードを、少なくとも1回、4次~6次のモードへ変換し、
6個のモードのうち、4次~6次のモードの少なくとも1つのモードを、少なくとも1回、1次~3次のモードへ変換する
ことを特徴とするモード交換器。
【請求項2】
6モードファイバを伝送路とした伝送システム中に配置されるPLC型のモード交換器であって、
6個のモードが伝搬する導波路で構成されたモード変換回路を備えており、
記モード変換回路は、
前記導波路の高さ(PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP11bモードとを結合するモード回転子と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部と、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部と、
を備え
前記伝送路に前記モード変換回路が2個以上配置されることにより、
6個のモードのうち、1次~3次のモードの全てのモードを、少なくとも1回、4次~6次のモードへ変換し、
6個のモードのうち、4次~6次のモードの少なくとも1つのモードを、少なくとも1回、1次~3次のモードへ変換する
ことを特徴とするモード交換器。
【請求項3】
前記第1モード交換部及び前記第2モード交換部の導波路幅が周期Λで周期的に変化しており、周期Λは交換する2つのモードの実効屈折率n1、n2及び使用波長λに対して
【数C1】
を満たすことを特徴とする請求項又はに記載のモード交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチモード光ファイバを利用するモード多重伝送システムにおいて、伝搬するモード間のパワーを交換する機能を有するモード交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するためには、光ファイバに導波する光の密度を低減する必要があり、非特許文献1に示すように大コアファイバが検討されている。
【0003】
しかし、曲げ損失低減、単一モード動作領域の拡大、実効断面積の拡大は互いにトレードオフの関係にあり、所定の条件下における実効断面積の拡大量には限界があるという課題があった。そこで、伝送ファイバにマルチモードファイバを用い、伝搬する複数のモードを用いて並列伝送を行うモード多重伝送システムが、飛躍的な大容量化を実現する技術として検討されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【0004】
モード多重伝送システムにおいては、送信機から発せられる複数の信号を別々のモードとして光ファイバ中を伝搬させるため、モード合分波器が提案されている(例えば、非特許文献3、4を参照。)。
【0005】
また、伝送路中で発生するモード間の結合を、受信端のMIMO信号処理で補償する光MIMO伝送が提案されている。しかしながら、伝送路においては、モード間で伝送損失、波長分散、偏波分散などの光学特性も異なり、モード依存特性差はMIMO信号処理を行ったとしても復元信号の品質劣化を招く。例えば、2モード多重伝送路において、LP01モードにのみ損失を与えることで、モード間の損失差を補償する3モード(2LP)モード伝送路用のモード損失差補償器が提案されている(詳細は非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. Matsui, et al., “Applicability of Photonic Crystal Fiber With Uniform Air-Hole Structure to High-Speed and Wide-Band Transmission Over Conventional Telecommunication Bands”, J. Lightwave Technol. 27, 5410-5416, 2009.
【文献】N. Hanzawa et al., “Demonstration of mode-division multiplexing transmission over 10 km two-mode fiber with mode coupler”, OFC2011, paper OWA4 (2011)
【文献】N.Hanzawa et al.,“Asymmetric parallel waveguide with mode conversion for mode and wavelength division multiplexing transmission”,OFC2012、OTu1l.4.
【文献】N. Hanzawa et al, “Mode multi/demultiplexing with parallel waveguide for mode division multiplexed transmission”, Opt. Express vol.22, pp. 29321-29330 (2014)
【文献】T. Mizuno et al., “Mode dependent loss equalizer and impact of MDL on PDM-16QAM few-mode fibre transmission”, Proc. ECOC, P.5.9, Valencia (2015).
【文献】S.Savin, 他, “Tunable mechanically induced long-period fiber gratings” OPTICS LETTERS/Vol.25, No.10 / May 15, 2000
【文献】Y. Yamashita et al., “Excitation of LP21b and LP02 Modes with PLC-based Tapered Waveguide for Mode-division Multiplexing”, OECC2016, paper TuE3-4 (2016)
【文献】K. Saitoh, et al., “PLC-based LP11 mode rotator for mode-division multiplexing transmission”, Opt. Express, vol. 22, pp. 19117-19130 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献5の様に特定のモードにのみ損失を与えてモード間損失差を補償することは、モード数が多い場合、実現が困難という課題や、モード間損失差を補償したために伝送距離が制限されるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、特定のモードにのみ損失を与える手法とは異なる手法でモード損失差を補償するとともに、モード損失差の補償に伴う伝送距離の制限を緩和できるモード交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るモード交換器は、高次モードと低次モードとを入れ替えることとした。
【0010】
具体的には、本発明に係るモード交換器は、n(nは3以上の自然数)モードファイバを伝送路とした伝送システム中に配置されるPLC型のモード交換器であって、
n個のモードが伝搬する導波路で構成され、モードを変換する回数がn-1より少ないモード変換回路を備えており、
前記伝送路に前記モード変換回路が2個以上配置されることにより、
n個のモードのうち、モード次数下位(nが偶数の場合は1次~n/2次のモード、nが奇数の場合は1次~n/2+0.5)のモードを、少なくとも1回、モード次数上位(nが偶数の場合はn/2次~n次のモード、nが奇数の場合はn/2+0.5~n次)のモードへ変換し、
n個のモードのうち、モード次数上位の少なくとも1つのモードを、少なくとも1回、モード次数下位のモードへ変換すること
を特徴とする。
【0011】
モード間の光学特性(伝送損失、波長分散、偏波分散など)は、高次のモードであればあるほど劣化していく傾向にある。このため、全てのモードを巡回的に交換していく必要はなく、低次のモードを高次のモードに、高次のモードを低次のモードに交換するのみで大きな効果が得られる。本モード交換器は、高次モードと低次モードとを入れ替える構成であり、モード間の光学特性を均一化すること(モード損失差の補償)ができる。
【0012】
さらに、全てのモードを巡回的に交換(モードの交換回数はn-1回)していないので、モードの交換回数を低減することができる(モードの交換回数はn-1回未満)。モードの交換回数を低減は損失の増大を防止でき、伝送距離の制限を緩和できる。
【0013】
従って、本発明は、特定のモードにのみ損失を与える手法とは異なる手法でモード損失差を補償するとともに、モード損失差の補償に伴う伝送距離の制限を緩和できるモード交換器を提供することができる。
【0014】
例えば、nが6である場合、前記モード変換回路は、
前記導波路の高さ(前記PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、nが6である場合、前記モード変換回路は、
前記導波路の高さ(前記PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP11bモードとを結合するモード回転子と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部と、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
このような構成とすれば、最大3回のモードの交換回数で高次モードと低次モードとを入れ替えることができ、モード損失差の補償と伝送距離の制限の緩和を実現できる。
【0017】
前記第1モード交換部及び前記第2モード交換部の導波路幅が周期Λで周期的に変化しており、周期Λは交換する2つのモードの実効屈折率n1、n2及び使用波長λに対して
【数C1】
を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、特定のモードにのみ損失を与える手法とは異なる手法でモード損失差を補償するとともに、モード損失差の補償に伴う伝送距離の制限を緩和できるモード交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るモード交換器の構成を説明する図である。
図2】本発明に係るモード交換器が備えるモード交換部を説明する図である。
図3】本発明に係るモード交換器が備える第1モード交換部における入射モードに対する出射モードの比率を説明する表である。
図4】本発明に係るモード交換器が備える第2モード交換部における入射モードに対する出射モードの比率を説明する表である。
図5】本発明に係るモード交換器が備える第1テーパー部を説明する図である。
図6】導波路幅に対するLP21b及びLP02モードの実効屈折率の変化を説明する図である。
図7】断熱的変化を説明する図である。
図8】本発明に係るモード交換器が備える第2テーパー部を説明する図である。
図9】本発明に係るモード交換器が備えるモード回転子を説明する図である。
図10】本発明に係るモード交換器の動作を説明する図である。
図11】本発明に係るモード交換器を伝送路中に配置する例を説明する図である。
図12】本発明に係るモード交換器を伝送路中に配置したときの効果を説明する図である。
図13】本発明に係るモード交換器の入射モードに対する出射モードの対応を説明する表である。
図14】本発明に係るモード交換器の構成を説明する図である。
図15】本発明に係るモード交換器の動作を説明する図である。
図16】本発明に係るモード交換器を伝送路中に配置したときの効果を説明する図である。
図17】本発明に係るモード交換器の入射モードに対する出射モードの対応を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
モード間の光学特性差を小さくするためには、伝送路中に特定のモードを別のモードに変換するモード交換が有効である。しかしながら、例えば1つのモード交換器において、伝搬するモードを巡回的に他のモードへ変換(n次のモードをn+1次のモードへ、最高次のモードを最低次のモードへ変換)しようとする場合、nモードに対してn-1個のモード変換部が必要となり、モード変換器の小型化および、過剰損失の増加を招くため望ましくない。
【0022】
モード間の光学特性は、高次のモードであればあるほど劣化していく傾向にあるため、全てのモードを巡回的に交換していく必要はなく、低次のモードを高次のモードに、高次のモードを低次のモードに交換するのみで大きな効果が得られると考えられる。
【0023】
つまり、本実施形態のモード交換器は、n(nは3以上の自然数)モードファイバを伝送路とした伝送システム中に配置されるPLC型のモード交換器であって、
n個のモードが伝搬する導波路で構成され、モードを変換する回数がn-1より少ないモード変換回路を備えており、
前記伝送路に前記モード変換回路が2個以上配置されることにより、
n個のモードのうち、モード次数下位(nが偶数の場合は1次~n/2次のモード、nが奇数の場合は1次~n/2+0.5)のモードを、少なくとも1回、モード次数上位(nが偶数の場合はn/2次~n次のモード、nが奇数の場合はn/2+0.5~n次)のモードへ変換し、
n個のモードのうち、モード次数上位の少なくとも1つのモードを、少なくとも1回、モード次数下位のモードへ変換すること
を特徴とする。
本実施形態のモード交換器は、導波路を伝搬するモードがnモードであるとき、導波路内でモードが変換する回数mがn-1より少ないことが特長である。
【0024】
(実施例1)
第1の実施例について説明する。図1は本実施例のモード変換器301の構成を説明する図である。モード変換器301は6モード交換器であり、モード変換回路10を備える。モード変換回路10は、
前記導波路の高さ(前記PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP11bモードとを結合するモード回転子21と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部22と、
前記導波路を伝搬するLP11aモードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部23と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部24と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部25と、
を備える。
【0025】
第1テーパー部22と第1モード変換部23との間、第1モード変換部23と第2モード変換部24との間、第2モード変換部24と第2テーパー部25との間は直線導波路30で接続される。
【0026】
図2は、第1モード交換部23と第2モード交換部24の構造を説明する図である。モード変換器301には、6モードが伝搬するように設計された高さHと幅Wの基本導波路構造が配置される。そして、第1モード交換部23と第2モード交換部24は、その基本導波路の幅が周期Λ、導波路幅変化量dで周期的に変化している。導波路幅が周期的に変化している部分をグレーティング部とし、グレーティング長をLとする。
【0027】
第1モード交換部23と第2モード交換部24において、伝搬するモードの内、注目する2つのモードの実効屈折率n1、n2とする。ここで、使用波長λに対して周期Λが
【数C1】
を満たせば第1モード交換部23と第2モード交換部24で当該2つのモードを結合することができる。また、グレーティング長Lを適切に設計すれば第1モード交換部23と第2モード交換部24でモードのパワーを交換することができる。
【0028】
例えば、図3は、図2の構造において、W=11.0μm、H=10.0μm、Λ=450μm、d=0.5μm、L=6750μmとした場合、入射する光の各モード(最左欄)が出射するときにいずれのモードに変換されるかの比率をまとめたものである。各入射モードについて最も高い変換比率に下線を付している。入射するLP01モードのパワーはLP11aモードのパワーに最も多く変換されており(84.4%)、入射するLP11bモードのパワーはLP21aモードのパワーに最も多く変換されている(82.4%)ことがわかる。すなわち、各パラメータを上記のように設定することで、第2モード交換部24とすることができる。
【0029】
なお、WおよびHは、導波路が所望のモード数を伝搬可能な構造(本実施例では6モード)であることから設計が可能である。Λについては、式1に示す通り、導波路構造で求まるモードの実効屈折率と使用波長から算出可能である。dとLについては、例えばdを先に決定し、モードが交換されるようLを設定する、又はLを先に決定し、モードが交換されるようdを設定することで、本実施例に示すモード交換導波路を実現することが可能である。
【0030】
また、図4は、図2の構造において、W=11.0μm、H=10.0μm、Λ=286μm、d=0.5μm、L=2300μmとした場合、入射する光の各モード(最左欄)が出射するときにいずれのモードに変換されるかの比率をまとめたものである。各入射モードについて最も高い変換比率に下線を付している。入射するLP11aモードのパワーはLP21b(E31)モードのパワーに最も多く変換されており(70%)、その他のモードには強いモード変換を生じさせていないことがわかる。すなわち、各パラメータを上記のように設定することで、第1モード交換部23とすることができる。
【0031】
図5は、第1テーパー部22の構成を説明する図である。図5は、PLCの上面(基板に対して積層方向にある面)から見ている。6モード導波路においては、図6に記載の通り、断面構造が正方(W=H)となるとき、LP21b(E31)モードとLP02(E13)モードの実効屈折率が近接し、導波路幅と高さの差|W―H|が大きくなると、2モードの実効屈折率の差が大きくなる。なお、本結果はH=12μm、比屈折率差Δ=0.7%としている。
【0032】
この時、導波路幅が伝搬距離に対して十分緩やかに変化する場合、それぞれのモードはモード変換を生じず、それぞれの実線に沿って実効屈折率が変化する(これを断熱的変化と呼ぶ)。一方で、導波路幅変化率が一定以上急な場合は、伝搬に従いモード間で結合が生じる。特に、W=Hの構造では、2つのモードの実効屈折率差が小さくなるため、よりモード変換が生じやすい。
【0033】
図7は、テーパー長Lt1と、テーパー導波路にE31モードを入射した場合のLP21b及びLP02モードの出力パワー比の計算結果である。図より、テーパー長が5000μm以下の領域では、30%以上の優位なモード結合が生じている。モード交換器においては、テーパー部分において必ずしも等分配を実現する必要は無く、等分配に対して2dB以下の分配比率の差である30%のパワー分配であってもモード間の特性差を低減するに十分の効果が見込まれる。よって、上記のようなLP21bとLP02とのモード間でモード結合を生じさせるためには、テーパー長を少なくとも5000μm以下とすればよい。
【0034】
例えば、図5の構造において、W=10.2μm、W1=11.0μm、Lt=100μmとした場合、入射されたLP21bモードは、出射端側でLP21b及びLP02モードへパワーが等分配され、入射されたLP02モードは、出射端側でLP21b及びLP02モードへパワーが等分配される。すなわち、各パラメータを上記のように設定することで、第1テーパー部22とすることができる。
【0035】
図8は、導波路幅が伝搬方向に対して減少する第2テーパー部25を説明する図である。例えば、図8の構造において、W=10.2μm、W1=11.0μm、Lt2=6000μmとした場合、入射されたLP21b及びLP02モードは、互いにモード結合を生じずに、出射側まで伝搬する。すなわち、各パラメータを上記のように設定することで、第2テーパー部25とすることができる。
【0036】
なお、テーパー部2においては、非特許文献7の記載の通り、テーパー比率が異なる2つのテーパー部から構成される2段テーパー構造としてもよい。その場合、非特許文献7にあるとおり各テーパー部の長さを10000μm、4000μmとすることで、テーパー部におけるLP21b及びLP02モードのモード変換を低減することができる。
【0037】
ここで、上記のようなLP21bとLP02とのモード間でモード結合を生じさせないためのテーパー長については、モードの伝搬計算を行い、モードが変換されない(断熱的変化となる)ように十分テーパー長を長くすればよい。
【0038】
なお、図6に記載されているとおり、W=Hの構造において、ファイバのLP21bモードと実効屈折率が高い方の導波路モードの電界分布が略等しくなり、LP02モードと屈折率が低い方の導波路モードの電界分布が略等しくなるため、ファイバとの接続部端面における導波路構造は、W=Hとすることが望ましい。
【0039】
図9は、モード回転子21の構造を説明する図である。図9(a)は斜視図でり、図9(b)は断面図である。モード回転子21は導波路の一部が欠けている構造である。各パラメータを適切に導波路構造を設計することで、入射したLP11aモードをLP11bモードに、LP11bモードをLP11aモードに変換することができる(例えば、非特許文献8を参照。)。
【0040】
例えば、図9の構造において、H=10.0μm、W=10.2μm、wt=1.5μm、ht=2.6μm、L=1.0475mmとした場合、入射されたLP11aモードはLP11a及びLP11bモードへパワーが等分岐され、入射されたLP11bモードはLP11a及びLP11bモードへパワーを等分岐される。すなわち、各パラメータを上記のように設定することで、モード回転子21とすることができる。
【0041】
図10は、モード交換器301の、入射モードに対するモード変換フローを説明する図である。モード交換器301は、入射側から、モード回転子21、第1テーパー部22、第1モード変換部23、第2モード変換部24、第2テーパー部25の順で接続される。モード回転子21がLP11aとLP11bとのモード間でモード結合を生じさせ、導波路幅が大きくなる第1テーパー部22がLP21bとLP021とのモード間でモード結合を生じさせ、第1モード交換部23がLP11aとLP21bとを交換し、第2モード交換部23がLP01とLP11aを交換し、同時にLP11bとLP21aを交換し、導波路幅が小さくなる第2テーパー部25がLP21bとLP02とを交換する。
【0042】
モード交換器301がモード間光学特性差の低減することを説明する。図11に示すように150km伝送区間に0~4つのモード交換器301を挿入することを考える。(b)は伝送路の中間点にモード交換器を配置、(c)は50km毎にモード交換器を配置、(d)は37.5km毎にモード交換器を配置、(e)は30km毎にモード交換器を配置している。それぞれの場合について伝送後モード損失差(最大損失差)及びモード依存損失(MDL)を計算した。伝送区間のファイバでの損失を、LP01、LP11a/b、LP21a/b、LP02モードでそれぞれ0.15dB/km、0.18dB/km、0.20dB/km、0.23dB/kmと仮定した。
【0043】
その結果を図12に示す。モード交換器301の挿入数を増やすことで、モード間損失差及びMDLが十分に低減できることがわかる。特に、最大損失差については、交換器を2個挿入するだけで半分以下とすることができている。
【0044】
図13は、モード交換器301の入射モードと出射モードとの対応を説明する表である。最右欄はモード交換器301を2つ経由したときの出射モードである。全ての低次側のモード(LP01、LP11a、LP11b)が、少なくとも1回は高次側のモード(LP21a、LP21b、LP02)に変換されることがわかる。また、高次側のモードについては、LP21aは低次側のモードへ変換されないが、LP21bとLP02は低次側のモードへ変換される。
【0045】
つまり、モード変換器301を2個挿入し、高次側モードと低次側モードを入れ替えることで、最大損失差を半分以下とすることができた。また、伝送距離の制限を考慮した場合、挿入するモード交換器数は少ない方が良いので、図11のような伝送区間では2つのモード交換器301を挿入することで光学特性の均一化と伝送距離の制限の緩和とを両立できる。
【0046】
(実施例2)
第1の実施例について説明する。図14は本実施例のモード交換器302の構成を説明する図である。モード変換器302は6モード交換器であり、モード変換回路11を備える。モード変換回路は11、
前記導波路の高さ(前記PLCの基板に垂直な方向の前記導波路の厚み)が全て等しく、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が生じるよう導波路幅(前記PLCの基板に平行な方向の前記導波路の厚み)が非断熱的に変化する第1テーパー部22と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP21bモードとを交換する第1モード交換部23と、
前記導波路を伝搬するLP01モードとLP11aモードとを交換し、同時にLP11bモードとLP21aモードとを交換する第2モード交換部24と、
前記導波路を伝搬するE31モードとE13モード間で結合が発生しないよう導波路幅が断熱的に変化する第2テーパー部25と、
を備えることを特徴とする。
【0047】
第1テーパー部22と第1モード変換部23との間、第1モード変換部23と第2モード変換部24との間、第2モード変換部24と第2テーパー部25との間は直線導波路30で接続される。
【0048】
モード変換器302は、図1のモード変換器301のモード回転子21を備えないモード変換器である。第1テーパー部22、第1モード交換部23、第2モード交換部24、第2テーパー部25の構造については、実施例1に記載の構造と同じとする。本構造は、実施例1の構成と比較して、モード交換器が不要であり、より簡易な構成でモード交換器を実現できることが利点である。
【0049】
図15は、モード交換器302の、入射モードに対するモード変換フローを説明する図である。モード交換器302は、入射側から、第1テーパー部22、第1モード交換部23、第2モード交換部24、第2テーパー部25の順で接続される。導波路幅が大きくなる第1テーパー部22がLP21bとLP021とのモード間でモード結合を生じさせ、第1モード交換部23がLP01とLP21bとを交換し、第2モード交換部23がLP01とLP11aを交換し、同時にLP11bとLP21aを交換し、導波路幅が小さくなる第2テーパー部25がLP21bとLP02とを交換する。
【0050】
モード交換器302がモード間光学特性差の低減することを説明するために、図11に示すように150km伝送区間に0~4つのモード交換器を挿入することを考える。それぞれの場合について伝送後モード損失差及びモード依存損失(MDL)を計算した。なお、伝送路でのファイバの損失は、実施例1と同じと仮定した。
【0051】
その結果を図16に示す。モード交換器302の挿入数を増やすことで、モード間損失差及びMDLが十分に低減できることがわかる。特に、最大損失差については、交換器を2個挿入するだけで半分以下とすることができている。
【0052】
図17は、モード交換器302の入射モードと出射モードとの対応を説明する表である。最右欄はモード交換器302を2つ経由したときの出射モードである。交換器を2つ経由することで、全ての低次側のモード(LP01、LP11a、LP11b)が、少なくとも1回は高次側のモード(LP21a、LP21b、LP02)に変換されることがわかる。また、高次側のモードについては、LP21bとLP02の一部は低次側のモードへ変換されないが、他は低次側のモードへ変換される。
【0053】
つまり、モード変換器302を2個挿入し、高次側モードと低次側モードを入れ替えることで、最大損失差を半分以下とすることができた。また、伝送距離の制限を考慮した場合、挿入するモード交換器数は少ない方が良いので、図11のような伝送区間では2つのモード交換器302を挿入することで光学特性の均一化と伝送距離の制限の緩和とを両立できる。
【0054】
(他の実施例)
本実施例においては、モード数が6である時の例を示したが、一般に導波路を伝搬するモードがnモードであるとき、高次モードと低次モードとを入れ替えることで導波路内でモードが変換する回数mをn-1より少なくし、MDLを低減する効果が同様に見込まれる。
【0055】
なお、本明細書においてはSiO系材料(石英系材料)を用いた平面光波回路に関する実施例を記載したが、その材料は当然ほかのものであってもかまわない。たとえば、Si系やInGaAsPなどの半導体、またポリマーなどの有機物を用いた平面光波回路であっても、本明細書記載の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、使用する波長帯に関しても、本明細書記載の実施例では1.5~1.6μm程度としているが、より波長の長い中赤外領域(2μm以上)や可視光帯であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るモード交換器は、マルチモード光ファイバを用いたモード多重伝送システムの大容量及び長距離通信に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10、11:モード変換回路
21:モード回転子
22:第1テーパー部
23:第1モード変換部
24:第2モード変換部
25:第2テーパー部
30:直線導波路
301、302:モード交換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17