(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】育苗資材、育苗用具、育苗ユニット及び苗の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/00 20180101AFI20220526BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20220526BHJP
【FI】
A01G9/00 D
A01G9/02 103R
A01G9/02 103U
(21)【出願番号】P 2017164632
(22)【出願日】2017-08-29
【審査請求日】2020-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】特許業務法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲谷 公人
(72)【発明者】
【氏名】中野 明正
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3186974(JP,U)
【文献】特開平6-212510(JP,A)
【文献】登録実用新案第3031523(JP,U)
【文献】特開2003-102264(JP,A)
【文献】特開平2-227012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0262320(US,A1)
【文献】特開2003-73(JP,A)
【文献】特開2002-153138(JP,A)
【文献】特開平11-275992(JP,A)
【文献】特開2015-213499(JP,A)
【文献】特開2014-193617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 - 9/02
A01G 9/12
A01G 13/02
A01G 31/00
A01G 24/44
A01G 24/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートを含み、
筒状であり、苗床に対して起立した姿勢で設けられ、前記苗床からの苗が挿通する中空部が内部に形成され、
前記中空部の水平方向における断面での円相当径をDcmとし、前記苗床からの高さをH1cmとするときに、H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内であ
り、
200g/m
2
・d以上1500g/m
2
・d以下の範囲内の透湿度を有する育苗資材。
【請求項2】
H1/Dが1.0以上8.0以下の範囲内である請求項1に記載の育苗資材。
【請求項3】
育苗過程において、前記苗を周囲から支持する請求項1または2記載の育苗資材。
【請求項4】
前記苗床及び前記苗とともに育苗ユニットを形成し、
前記育苗ユニットは、苗生産装置において水平方向において配列する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項5】
前記セルロースアシレートは、アシル基置換度が2.00以上2.97以下の範囲内である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項6】
前記高さが10cm以上50cm以下の範囲内である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項7】
前記円相当径が5cm以上40cm以下の範囲内である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項8】
前記セルロースアシレートは、アセチル基を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項9】
前記苗床の側面を覆う状態に設けられる請求項1
ないし8のいずれか1項に記載の育苗資材。
【請求項10】
苗床と、
請求項1
ないし9のいずれか1項に記載の育苗資材と、
を備える育苗用具。
【請求項11】
種苗と、
請求項
10に記載の育苗用具と、
を備える育苗ユニット。
【請求項12】
苗生産装置において、水平方向において配列する請求項
11に記載の育苗ユニット。
【請求項13】
苗床からの苗が挿通する中空部が内部に形成されている筒状の育苗資材を、前記苗床に対して起立した姿勢で設ける設置工程と、
育苗工程と、
を有し、
前記育苗資材はセルロースアシレートを含み、
前記中空部の水平方向における断面での円相当径をDcmとし、前記育苗資材の前記苗床からの高さをH1cmとするときに、H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内であ
り、
200g/m
2
・d以上1500g/m
2
・d以下の範囲内の透湿度を有する苗の生産方法。
【請求項14】
前記育苗工程は、前記育苗資材の前記苗床からの高さに対して50%以上150%以下の高さに、前記苗を生育させる請求項
13に記載の苗の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗資材、育苗用具、育苗ユニット及び苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトなどの果菜類は、季節にかかわりなく年間を通じて行ういわゆる周年栽培がハウス栽培により行われる。ハウス栽培では、苗を定植して行うことが一般的である。苗には、ポット中の苗床に播かれた種を発芽させ、1次育苗により得られるプラグ苗(セル成型苗とも呼ばれる)と、プラグ苗を2次育苗によって定植可能に大きく育てたいわゆる大苗などがある。プラグ苗も定植することはできるものの、ハウス栽培の場合には定植後に過繁茂となってしまい、過繁茂は培養液を用いる場合(養液栽培)において特に顕著である。そのため、ハウス栽培では、2次育苗により得られた大苗が好まれる。
【0003】
育苗の手法として、例えば特許文献1は、無孔性親水性フィルムにより外部空間と仕切る完全閉鎖系の植物栽培システム(以下、単に栽培システムと称する)、及びこの栽培システムを用いた栽培方法を提案している。この栽培システムは、無孔性親水性フィルム(以下、単に親水性フィルムと称する)によって、苗などの植物体を収容する内部空間を構成する。そして、親水性フィルムの外部空間側の一部を、外部空間に配置した水または溶液と接触させている。親水性フィルムは、支持枠によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような1次育苗と2次育苗との2回の育苗工程を経る大苗の生産方式は、生産期間を長期化させる。生産期間の長期化は、年間を通しての生産回転率の制限に直結し、また、生育期間中における病害リスクを高めることにもなる。したがって、大苗に育苗する効率を向上することが望まれる。
【0006】
また、特許文献1の栽培システムは、大苗に育てる育苗過程において、水により親水性フィルムが柔らかくなっていくから、親水性フィルムを支持する上記の支持枠が必須となる。したがって、支持枠を設置する工程と、設置した支持枠に無孔性親水性フィルムを設ける工程との両方が必要である。そして、支持枠等の支持部材は、それ自体の設置に手間がかかり、また、想定する大苗が大きいほど手間がかかる。さらに、特許文献1の栽培システムは、親水性フィルムが、大苗への育苗過程において、水により徐々に変質してしまい、その結果、葉などとの接触によって破れてしまうことがある。
【0007】
そこで、本発明は、簡易に設置でき、かつ、大苗への育苗効率を向上する育苗資材、育苗用具、育苗ユニット、及び苗の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の育苗資材は、セルロースアシレートを含み、筒状であり、苗床に対して起立した姿勢で設けられ、苗床からの苗が挿通する中空部が内部に形成されており、中空部の水平方向における断面での円相当径をDcmとし、苗床からの高さをH1cmとするときに、H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内であり、200g/m
2
・d以上1500g/m
2
・d以下の範囲内の透湿度を有する。
【0009】
H1/Dが1.0以上8.0以下の範囲内であることが好ましい。育苗過程において、苗を周囲から支持することが好ましい。
【0010】
苗床及び苗とともに育苗ユニットを形成し、育苗ユニットは、苗生産装置において水平方向に配列することが好ましい。セルロースアシレートは、アシル基置換度が2.00以上2.97以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
高さが10cm以上50cm以下の範囲内であることが好ましい。円相当径が5cm以上40cm以下の範囲内であることが好ましい。セルロースアシレートは、アセチル基を有することが好ましい。
【0013】
苗床の側面を覆う状態に設けられることが好ましい。
【0014】
本発明の育苗用具は、苗床と、上記の育苗資材とを備える。
【0015】
本発明の育苗ユニットは、種苗と、上記の育苗用具とを備える。
【0016】
苗生産装置において、水平方向に配列することが好ましい。
【0017】
本発明の苗の生産方法は、苗床からの苗が挿通する中空部が内部に形成されている筒状の育苗資材を、前記苗床に対して起立した姿勢で設ける設置工程と、育苗工程と、を有し、育苗資材はセルロースアシレートを含み、中空部の水平方向における断面での円相当径をDcmとし、育苗資材の苗床からの高さをH1cmとするときに、H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内であり、200g/m
2
・d以上1500g/m
2
・d以下の範囲内の透湿度を有する。
【0018】
育苗工程は、育苗資材の苗床からの高さに対して50%以上150%以下の高さに、苗を生育させることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、簡易に設置でき、かつ、大苗への育苗効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示す苗生産装置10は、定植可能ないわゆる大苗を、水耕栽培により生産するためのものであり、複数の育苗ユニット12と、チャンバ(育苗室)13と、光源ユニット16と、容器17とを備える。育苗ユニット12は、育苗用具18と苗19とを有する。生育対象である苗19は、プラグ苗よりも小さい苗であり、より具体的には高さが1cm以上8cm以下、及び/または葉数が2枚以上5枚以下である。苗19は種苗の一例であり、したがって苗19の代わりに種(図示無し)であってもよく、種の場合には、苗生産装置10は発芽と苗の生育(育苗)とを行う。本例の苗19は、トマトの苗であるが、苗はトマトに限られず、トマト以外の果菜類の苗、または葉菜類の苗でもよい。果菜類としての他の例は、ナス、ピーマン、パプリカ、キュウリ、エダマメ、トウモロコシ、イチゴ等が挙げられる。葉菜類の苗としては、例えば、小松菜、キャベツ、レタス、ブロッコリ、セロリ、ホウレンソウ、シソなどの苗が挙げられる。
【0022】
苗生産装置10における育苗ユニット12の数は、複数に限定されず、1個であってもよい。複数の育苗ユニット12は、水平方向において正方配列している。育苗ユニット12の列数(
図1における左右方向での数)は、この例では6列であるが、この例に限定されず、1列以上5列以下の範囲内でもよいし、あるいは7列以上であってもよい。図中、列方向には矢線Xを付し、水平方向において列方向Xと直交する行方向には矢線Yを付し、鉛直上向き方向には矢線Zを付す。育苗ユニット12の行数(行方向Yでの数)は、本実施態様では3行としている。なお、育苗ユニット12の行数はこの例に限定されず、1行以上2行以下の範囲内でもよいし、あるいは4行以上であってもよい。育苗ユニット12の列数は、好ましくは3列以上30列以下の範囲内であり、より好ましくは5列以上30列以下の範囲内である。また、育苗ユニット12の行数は、好ましくは3行以上30行以下の範囲内であり、より好ましくは5行以上30行以下の範囲内である。
【0023】
複数の育苗ユニット12の水平方向における配置態様は正方配列に限定されず、正方配列以外の規則的な配置態様でもよいし、不規則(ランダム)配置でもよい。また、この例では、複数の育苗ユニット12を互いにわずかな隙間をもって離れた状態に配しており、育苗ユニット12同士の距離D1は概ね5mmである。ただし、育苗ユニット12同士は接した状態でもよい。
【0024】
容器17は、上部が開放されており、水21を収容する。育苗用具18は、苗床22と育苗資材23とを備え、苗床22が容器17に入れられ、これにより、苗床22の少なくとも下部が水に浸漬した状態にされる。この浸漬により、苗19に水が供給される。苗床22は、水耕栽培の苗床として使用できる公知の材料であればよく、例えば、土、スポンジ、または繊維状物などである。本実施形態では、ロックウールを苗床22として用いており、具体的にはロックウール社(Rockwool B.V.オランダ)製のGrodan(登録商標)ロックウールキューブである。なお、苗生産装置10は水耕栽培により苗19を育てる装置であるが、苗生産装置による栽培方式は水耕栽培に限定されない。他の栽培方式としては、例えば、土耕栽培、養液栽培、または高設栽培が挙げられ、苗床22は栽培方式に応じたものに変えればよい。
【0025】
育苗資材23は、シートで筒状に形成されており、苗床22に対して起立した姿勢で設けている(設置工程)。育苗資材23は、筒状とされていることにより、苗床22からの苗19が挿通する中空部23hが内部に形成されている。これにより、育苗過程において苗19は、育苗資材23により周囲から支持されるので、育苗資材23以外の例えば支柱などを使用しなくても、上方へ伸びる態様で育つ。そのため、1回の育苗工程で大苗へ育つ。このように、一次育苗後に二次育苗用に植え替える必要はないから、効率よく大苗が生産される。苗19の代わりに種を用いた場合も、発芽から大苗へ育てられるから同様に効率的である。もちろん、一次育苗で得られた前述のプラグ苗を本例の苗19として育てた場合でも同様に、支柱などを使用することなく、その苗は上方へ伸びる態様で育つ。また、育苗資材23は複数の苗床22のそれぞれに設けられているから、苗19が大苗に生育した場合に、苗19同士の茎及び葉の絡まりが防がれる。その結果、複数の苗19の生育管理が個々にしやすいから育苗効率が上がり、さらに、生産した大苗を他の場所に移動する場合に個々の取り扱いがしやすいなどの利点もある。
【0026】
育苗資材23は苗床22の側面を覆う状態の起立姿勢としている。これにより、苗19の生育過程において根の絡まりが防がれる。その結果、例えば、生産された大苗を別な場所へ移動する場合に、個々の取り扱いがしやすいなどの利便性がある。また、育苗過程において特定の一部の苗19に病害などが確認された場合には、取り出しやすい。この例の育苗資材23は、苗床22の側面を覆う状態の起立姿勢としているが、苗床22に対して起立した姿勢であれば苗床22の側面を覆う態様に限られない。例えば、苗床22上に配してもよい。苗床22上に配する場合には、育苗資材23を苗床22の上に載置してもよいし、育苗資材23の下部を苗床22に対して上から差し込むことにより苗床22に固定してもよい。
【0027】
育苗資材23は、水平方向において断面矩形の筒状であり、この例では断面正方形である。育苗資材23の水平方向における断面形状は、これに限定されず、例えば、円形(楕円も含む)でもよいし、矩形以外の多角形、または、不定形でもよい。ただし、例えば互いに同じサイズの筒状の育苗資材23を複数配する場合においては、水平方向における断面形状を正方形とすることにより、苗生産装置10において最密状態に配する、すなわち平面充填することができる。これにより、限られた設置面積内においてより多くの苗19を生産することができるから、より好ましい。また、生産された苗を育苗ユニット12の状態で保存したり、配送したり、店頭に並べるなどの場合でも、限られた設置場所に平面充填に配することができる。例えば互いに同サイズかつ同形状の複数の育苗資材を平面重点配置する観点では、水平方向における形状は正方形に限られず、正三角形または正六角形でもよい。
【0028】
育苗資材23は、セルロースアシレートフィルムを筒状に形成したものであり、すなわち、セルロースアシレートを含む(含有する)。本例では、セルロースアシレートフィルムを断面正方形の筒状に折り、折ったセルロースアシレートフィルムの一端と他端とを粘着テープで固定することにより、育苗資材23を形成しているが、形成方法はこれに限定されない。例えば、折ったセルロースアシレートフィルムの一端と他端とをヒートシールにより固定してもよい。また、4枚の長方形のセルロースアシレートフィルムを4枚準備し、これらセルロースアシレートフィルムの長手方向同士を固定することにより、育苗資材23を形成してもよい。
【0029】
育苗資材23はセルロースアシレートで形成されているから、透明度が高く、後述の光源26からの光が効果的に苗12及び/または苗床22に照射される。また、セルロースアシレートフィルムは適度な硬さを有するから、支持枠などの支持部材を使用しなくても、筒状にすることにより容易に自立するから、育苗資材23は設置が簡易である。また、育苗資材23は、セルロースアシレートを含むことにより、育苗中の水分による中空部23hにおける湿度の上昇によって、平衡含水率が上昇する。この平衡含水率の上昇により、育苗資材23は水分を吸収する。育苗資材の水分の吸収により中空部23hにおける湿度が低下し、これによって育苗資材23は平衡含水率が下がり水分を放出する。このようにして、中空部23hにおける湿度は、変化が抑えられる。その結果、(1)育苗資材23の内壁23i(
図2参照)における結露が抑制される、(2)苗19及び/または苗床22におけるカビ及び病原菌の発生及び増殖が抑えられる、(3)苗19の過度な徒長及び/または過繁茂が抑えられる、(4)苗19の葉の変色が抑制される、(5)苗19の葉の気孔の開閉機構が確実に維持されるなどの効果が得られる。また、中空部23hの湿度上昇が抑えられるから育苗資材23は吸水による変形が抑制され、その結果、起立姿勢が、苗19が大苗に生育する長期に渡って維持される。そのため、発芽から間もない小さな苗19であっても1回の育苗で大苗へ育てる期間、連続して使用することができる。あるいは、種の発芽から大苗へ育苗する場合でも連続して使用することができる。もちろん、1次育苗と2次育苗との2回の育苗を行う場合の2次育苗でも使用することができる。
【0030】
なお、上記の平衡含水率は、25℃、相対湿度80%での平衡含水率である。この温度と相対湿度とは、育苗環境として設定した温度と相対湿度とに対応する。
【0031】
セルロースアシレートは、セルロースのヒドロキシ基がカルボン酸でエステル化されたものであるから、アシル基を有する。育苗資材23に含まれるセルロースアシレートのアシル基置換度は、2.00以上2.97以下の範囲内であることが好ましい。これにより、中空部23hの湿度変化がより小さく抑えられる。アシル基置換度が小さいほど、育苗資材23は吸収する水分量も上がるので吸水による変形がしやすいが、育苗資材23を構成するセルロースアシレートのアシル基置換度を2.00以上とすることにより変形がより確実に抑えられるので好ましい。また、アシル基置換度は、理論上は3.00が上限となるが、アシル基置換度が2.97を超えるセルロースアシレートは合成が難しい。このため、育苗資材23を構成するセルロースアシレートのアシル基置換度は2.97以下としている。
【0032】
育苗資材23に含まれるセルロースアシレートのアシル基置換度は、2.40以上2.95以下の範囲内がより好ましく、2.70以上2.95以下の範囲内がさらに好ましい。なお、アシル基置換度は、周知の通り、セルロースのヒドロキシ基がカルボン酸によりエステル化されている割合、つまりアシル基の置換度である。
【0033】
育苗資材23を構成するセルロースアシレートのアシル基は、特に限定されず、炭素数が1であるアセチル基であってもよいし、炭素数が2以上のものであってもよい。炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso-ブタノイル基、t-ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。
【0034】
育苗資材23を構成するセルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、2種類以上であってもよいが、少なくとも1種がアセチル基であることが好ましい。アセチル基を有するセルロースアシレートであることにより、育苗資材23が水分を吸収しやすいため中空部23hにおける湿度変化の抑制効果がより向上する。最も好ましくはアシル基がすべてアセチル基であるセルロースアシレートであること、すなわち、セルロースアシレートがセルロースアセテートであることがより好ましい。
【0035】
アシル基置換度は、慣用の方法で求めることができる。例えば、アセチル化度(アセチル基置換度)は、ASTM:D-817-91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従って求められる。また、高速液体クロマトグラフィーによるアシル化度(アシル基置換度)分布測定によっても測定できる。この方法の一例としてセルロースアセテートのアセチル化度測定は、試料をメチレンクロライドに溶解し、カラムNovapac phenyl(Waters)を用い、溶離液であるメタノールと水との混合液(メタノール:水の質量比が8:1)からジクロロメタンとメタノールとの混合液(ジクロロメタン:メタノールの質量比が9:1)へのリニアグラジエントによりアセチル化度分布を測定し、アセチル化度の異なる標準サンプルによる検量線との比較で求める。これらの測定方法は特開2003-201301号公報に記載の方法を参照して求めることができる。セルロースアシレートのアセチル化度の測定は、育苗資材23が添加剤を含む場合には、高速液体クロマトグラフィーによる測定が好ましい。
【0036】
育苗資材23は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては可塑剤があり、本例でも可塑剤を含んでいる。可塑剤としては公知の種々のものを用いることができる。例えば、トリフェニルアセテート(TPP)、ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)、糖のエステル誘導体、エステルオリゴマーなどが挙げられ、本例の育苗資材23は、糖のエステル誘導体またはエステルオリゴマーを含んでいる(含有する)。育苗資材23は、添加剤として、可塑剤の他に、紫外線吸収剤、育苗資材23同士の貼り付きを防止するいわゆるマット剤としての微粒子等なども、含んでいて構わない。
【0037】
育苗資材23は、200g/m2・d以上1500g/m2・d以下の範囲内の透湿度を有することが好ましい。透湿度が200g/m2・d以上であることにより、200g/m2・d未満である場合に比べて、育苗中における中空部23hの湿度の大幅な上昇がより確実に抑えられる。透湿度が1500g/m2・d以下であることにより、1500g/m2・dを超える場合に比べて、より長期に渡り、起立姿勢が維持される。透湿度は、300m2・d以上1300g/m2・d以下の範囲内であることがより好ましく、400m2・d以上1200g/m2・d以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
透湿度を200g/m2・d以上に上げる手法としては、可塑剤として糖のエステル誘導体及び/またはエステルオリゴマーを用いること、可塑剤の量を減らすこと、厚みを200μm以下にすることが挙げられる。また、透湿度を1500g/m2・d以下に下げる手法としては、可塑剤の量を増やすこと、厚みを40μm以上にすることが挙げられる。
【0039】
光源ユニット16は、苗床22及び/または苗19に光を照射するためのものである。種から発芽させる場合の発芽前においては、光源ユニット16は苗床22に光を照射するためのものである。光源ユニット16は、光を射出する複数の光源26と、支持板27と、コントローラ28とを備える。支持板27は、複数の光源26を支持する支持部材の一例であり、この例では、複数の育苗ユニット12と対向する対向面である下面に各光源26が設けられている。コントローラ28は、複数の光源26の各々から射出する光の量を調節する第1の機能と、複数の光源26の各々のオンオフ制御を行う第2の機能とをもつ。第1の機能により、苗19または苗床22に対する光の照射量が調節される。第2の機能により、苗19の種類及び/または生育の程度などに応じて、光の照射のタイミング及び照射時間が調節される。このように、光源26は、コントローラ28によって制御された光を苗19または苗床22に照射する。これにより苗19が生育し、種の場合には発芽する。光源26の育苗ユニット12からの距離は、本例では概ね100mmとしているが、この例に限定されない。
【0040】
チャンバ13は、育苗ユニット12と、光源ユニット16の光源26及び支持板27と、容器17とを収容し、温湿度調節機31を有する。温湿度調節機31は、チャンバ13の内部の温度及び湿度を調節することにより、苗19の生育環境を調節する。チャンバ13の内部の温度は、特に限定されないが、好ましくは10℃以上40℃以下の範囲内である。本例では20℃に設定し、これにより17.5℃以上22.5℃以下の範囲で変動していることが確認されている。チャンバ13の内部の湿度は、特に限定されないが、好ましくは50%以上80%以下の範囲内の相対湿度である。本例では、40.5%以上91%以下の範囲内におさめている。なお、チャンバ13を使用せずに、屋根の無い屋外などに育苗ユニット12を設ける場合には、育苗資材23の上に、育苗資材23と同じ素材または異なる素材により構成された上部材23t(
図2参照)を設けてもよい。
【0041】
苗19への水21の供給と、光の照射と、温湿度制御とにより、苗19を育てる(育苗工程)。本例の育苗方法では上記の育苗資材23を用いているから、苗19が1回の育苗工程で大苗に生育する。
【0042】
図2を参照しながら、育苗用具18についてさらに詳細に説明する。中空部23hの水平方向における断面での円相当径をDcmとし、苗床22からの高さをH1cmとする。資材23は、高さH1cmを円相当径Dcmで除したH1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内であることが好ましく、本例では例えば3.5としている。H1/Dが0.5以上であることにより、0.5未満である場合に比べて、苗19を、起立した姿勢で高く生育することがより確実になる。また、H1/Dが10.0以下であることにより、育苗期間中における育苗資材23の起立姿勢がより確実に維持される。H1/Dは1.0以上8.0以下の範囲内であることがより好ましく、1.5以上6.0以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、円相当径D(単位:cm)は、
図2(B)に示す育苗資材23で囲まれた中空部23hの面積と同じ面積の円Cを描いたときにおける、その円Cの直径である(
図3参照)。
【0043】
H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内である場合において、高さH1(単位;cm)は、10cm以上70cm以下の範囲内であることが好ましく、本例では例えば30cmとしている。高さH1が10cm以上であることにより、苗19を、起立した姿勢で高く生育することがより確実になる。高さH1が70cm以下であることにより、育苗期間中における育苗資材23の起立姿勢がより確実に維持される。高さH1は、15cm以上50cm以下の範囲内であることがより好ましく、20cm以上40cm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
H1/Dが0.5以上10.0以下の範囲内である場合において、円相当径Dは、5cm以上40cm以下の範囲内であることが好ましく、本例では例えば8.5cmとしている。円相当径Dが5cm以上であることにより、5cm未満の場合に比べて育苗期間中における育苗資材23の起立姿勢がより確実に維持される。円相当径Dが40cm以下であることにより、育苗資材23さらには育苗ユニット12の占める面積を小さくできるから、目的とする定植本数の大苗が確実に確保される。円相当径Dは、7cm以上30cm以下の範囲内であることがより好ましく、8cm以上20cm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0045】
育苗資材23の厚みTは、20μm以上200μm以下の範囲内が好ましく、本例では100μmとしている。厚みが20μm以上であることにより、20μm未満の場合に比べて、設置がより簡易になり、さらに、大苗への生育期間中において起立した姿勢がより確実に維持される。厚みTが200μm以下であることにより、200μmよりも大きい場合に比べて、育苗資材23を筒状の形状とする際に曲げ易く、また折り曲げた際に割れにくい。厚みTは30μm以上150μm以下がより好ましく、40μm以上130μm以下が特に好ましい。
【0046】
厚みT(単位;μm)を高さH1で除したT/H1は、5.0×10-5以上2.0×10-3以下の範囲内であることが好ましい。T/H1が5.0×10-5以上であることにより、5.0×10-5未満の場合に比べて起立姿勢での設置がしやすく、また、大苗へ育成する過程において育苗資材23が上部の葉の広がりに合わせて適度に広がりつつも生育期間中において起立した姿勢がより確実に維持される。T/H1が2.0×10-3以下であることにより、2.0×10-3より大きい場合に比べて、大苗への育成過程において育苗資材23が上部の葉の広がりを抑え過ぎることが無くなり、そのため、上部の葉が適度に広がったより良質の大苗が得られる。
【0047】
育苗工程は、高さH1に対して50%以上150%以下の高さに、苗19を生育させることが好ましく、本例では130%の高さに生育させている。なお、苗の高さは、苗床22からの高さであり、
図2においては符号H2を付している。高さH1に対して50%以上の高さに苗19を生育させることにより、定植に適した大きな苗への生育がより確実になる。高さHに対して150%以下の高さに苗19を生育させることにより、150%を超える場合に比べて、苗19同士の葉のからまりと苗19の上方での葉の垂れ及び/または倒れとが抑えられ、その結果、より容易に移植でき、かつ品質のよい大苗が得られる。
【0048】
上記の構成の育苗資材23を用いて苗19を育てた場合には、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)フィルムで形成した育苗資材を用いて苗19を育てた場合と比較したときに、以下の結果が得られている。なお、PETフィルムで形成した育苗資材は、形状及びサイズが育苗資材23と同じである。また、下記のSPAD値の「SPAD」は、農林水産省農蚕園芸局農産課の大規模経営土壌・作物・生産物分析システム実用化事業の略称であり、SPAD値はSPADが開発した葉緑素量の指標である。SPAD値は、得られた苗19の複数の葉のうち、最大葉(最も大きい葉)の先端部分で測定している。また、下記の根の本数は、苗床22としてのロックウールの表面に発生した不定根の数を数えている。不定根は主根の発達が悪い場合に起きる根の徒長であり、表面が過湿の状態である場合に起きる。
【0049】
(1)得られた苗における最大葉長(複数の葉のうち最も長い葉の長さ)は、PETフィルムで形成した育苗資材を用いた場合の29.3cmに比べて長く、32.3cmであり、有意に差がある。すなわち、個々の葉の成長がよく、より良好。
【0050】
(2)SPAD値は、コニカミノルタ株式会社製の葉緑素計SPAD-502Plusで測定したところ、PETフィルムで形成した育苗資材を用いた場合の37.5に比べて多く、47.6であり、有意に差がある。すなわち、葉緑素が多く、より良好。
【0051】
(3)根の本数は、PETフィルムで形成した育苗資材を用いた場合の28.2本に比べ、8.0であり、有意に差がある。すなわち、不定根が多すぎることなく、過湿にならない程度に培地表面が維持されたことを示し、より良好。
【0052】
図4の溶液製膜装置50は、溶液製膜方法によりドープ52から、セルロースアシレートフィルム51を連続的に製造する。長尺のセルロースアシレートフィルム51はシート状にカットされ、筒状に形成されることにより育苗資材23が得られる。ドープ52は、上記範囲内のアシル基置換度を有するセルロースアシレートが溶媒に溶けているセルロースアシレート溶液である。本実施形態では、溶媒としてジクロロメタンとメタノールとの混合物を用いているが、これに限定されない。ドープ52には前述の各種添加剤が含まれていてもよく、本実施形態のドープ52には、可塑剤とマット剤とを含ませてある。
【0053】
溶液製膜装置50は、流延ユニット55と、ローラ乾燥機56と、巻取機57とを、上流側から順に備える。流延ユニット55は、環状に形成されたベルト61と、ベルト61を周面で支持した状態で長手方向へ走行させる一対のローラ62と、送風機63と、流延ダイ64と、剥取ローラ65とを備える。一対のローラ62の少なくとも一方は周方向に回転し、この回転により、巻き掛けられたベルト61は長手方向へ連続走行する。流延ダイ64は、この例では一対のローラ62の一方の上方に配しているが、一対のローラ62の一方と他方との間のベルト61の上方に配してもよい。
【0054】
ベルト61は、後述の流延膜66の支持体であり、例えば長さが55m以上200m以下の範囲内、幅が150cm以上500cm以下の範囲内、厚みが1.0mm以上2.0mm以下の範囲内としている。
【0055】
流延ダイ64は、供給されてきたドープ52を、ベルト61に対向する流出口64aから連続的に流出する。走行中のベルト61にドープ52を連続的に流出することにより、ドープ52はベルト61上で流延され、ベルト61上に流延膜66が形成される。
【0056】
一対のローラ62は、周面温度を調節する温度コントローラ(図示せず)を備える。周面温度を調節したローラ62により、ベルト61を介して流延膜66は温度を調整される。流延膜66を加熱して乾燥を促進することにより固める(ゲル化する)いわゆる乾燥ゲル化方式の場合には、ローラ62の周面温度は、例えば15℃以上35℃以下の範囲内にするとよい。また、流延膜66を冷却して固めるいわゆる冷却ゲル化方式の場合には、ローラ62の周面温度を-15℃以上5℃以下の範囲内にするとよい。なお、本実施形態は乾燥ゲル化方式としている。
【0057】
送風機63は、形成された流延膜66を乾燥するためのものである。送風機63は、ベルト61に対向して設けられている。送風機63は、流延膜66に気体を送ることにより、流延膜66の乾燥をすすめる。送る気体は、本実施形態では100℃に加熱された空気としているが、温度は100℃に限られず、また、気体も空気に限られない。送風機63による乾燥により、流延膜66はより迅速にゲル化する。そして、ゲル化により流延膜66は搬送可能な固さにされる。
【0058】
流延ダイ64からベルト61に至るドープ52、いわゆるビードに関して、ベルト61の走行方向における上流には、減圧チャンバ(図示無し)が設けられてもよい。この減圧チャンバは、流出したドープ52の上流側エリアの雰囲気を吸引してこのエリアを減圧する。
【0059】
流延膜66を、ローラ乾燥機56における搬送が可能な程度にまでベルト61上で固めた後に、溶媒を含む状態でベルト61から剥がす。剥取ローラ65は、流延膜66をベルト61から連続的に剥ぎ取るためのものである。剥取ローラ65は、ベルト61から剥ぎ取ることで形成されたセルロースアシレートフィルム51を例えば下方から支持し、流延膜66がベルト61から剥がれる剥取位置PPを一定に保持する。剥ぎ取る手法は、青セルロースアシレートフィルム51を下流側へ引っ張る手法や、剥取ローラ65を周方向に回転させる手法等のいずれでもよい。
【0060】
ベルト61からの剥ぎ取りは、乾燥ゲル化方式の場合には、例えば、流延膜66の溶媒含有率が3質量%以上100質量%以下の範囲にある間に行われ、本実施形態では100質量%で行っている。冷却ゲル化方式の場合には、例えば、流延膜66の溶媒含有率が100質量%以上300質量%以下の範囲にある間に行うことが好ましい。なお、本明細書においては、溶媒含有率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の質量をx、溶媒含有率を求めるセルロースアシレートフィルム51の質量をyとするときに、{x/(y-x)}×100で求める百分率である。
【0061】
以上のように流延ユニット55は、ドープ52からセルロースアシレートフィルム51を形成する。ベルト61は循環して走行することにより、ドープ52の流延と流延膜66の剥ぎ取りとが繰り返し行われる。
【0062】
ローラ乾燥機56は、形成されたセルロースアシレートフィルム51を乾燥するためのものであり、複数のローラ73と空調機(図示無し)とを備える。各ローラ73はセルロースアシレートフィルム51を周面で支持する。セルロースアシレートフィルム51はローラ73に巻き掛けられて搬送される。空調機は、ローラ乾燥機56の内部の温度や湿度などを調節する。ローラ乾燥機56において、各ローラ73に支持されて搬送される間に、セルロースアシレートフィルム51は乾燥をすすめられる。巻取機57は、長尺のセルロースアシレートフィルム51を巻き取るためのものであり、セルロースアシレートフィルム51はこの巻取機57によりロール状に巻き取られる。なお、流延ユニット55とローラ乾燥機56との間に、セルロースアシレートフィルム51を幅方向に延伸するテンタ(図示無し)を設けてもよい。また、スリッタ(図示無し)を例えばローラ乾燥機56と巻取機57との間に設け、このスリッタによりセルロースアシレートフィルム51の各側部を連続的に切除してもよい。セルロースアシレートフィルム51を矩形にカットした後に、前述のように筒状に形成することにより育苗資材23は製造される。
【0063】
以下、本発明の実施例と、本発明に対する比較例とを挙げる。
【実施例】
【0064】
[実施例1]~[実施例22]
溶液製膜装置50により、幅が1340cmのセルロースアシレートフィルム51を製造し、2000mの長さを巻取機57により巻き取った。各セルロースアシレートフィルム51から前述の方法により育苗資材23を製造し、各育苗資材23を使用した育苗ユニット12を18個ずつ準備した。各育苗ユニット12によりトマトの苗19を育て、実施例1~11とした。
【0065】
ドープ52の処方は下記の通りである。下記の固形分とは、セルロースアシレートフィルム51を構成する固体成分である。
【0066】
固形分の第1成分 100質量部
固形分の第2成分 表1の「量」欄に示す質量部
固形分の第3成分 1.3質量部
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 635質量部
メタノール(溶媒の第2成分) 125質量部
固形分の第1成分は、セルロースアシレートであり、表1には、「第1成分」の「物質」欄に「セルロースアシレート」と記載している。このセルロースアシレートは、すべてのアシル基がアセチル基であり、粘度平均重合度が320である。
【0067】
固形分の第2成分は、表1の「第2成分」欄に示すAまたはBとした。Aは、糖のエステル誘導体であり、具体的には、スクロースの安息香酸エステル(第一工業製薬株式会社製モノペットSB)である。Bは、エステルオリゴマーであり、具体的には、アジピン酸とエチレングリコールとのエステルを繰り返し単位とするオリゴマー(末端官能基定量法による数平均分子量は1000)である。表1の「第2成分量」は、セルロースアシレートの質量を100とするときの第2成分の質量であり、表1の「PHR」はパーハンドレッドレジンの略であり質量部の意味である。固形分の第3成分は、シリカの微粒子であり、日本アエロジル(株)製のR972である。
【0068】
ドープ52は、以下の方法でつくった。まず、固形分の第1成分と、第2成分と、ジクロロメタンとメタノールとの混合物である溶媒とをそれぞれ密閉容器に投入し、密閉容器内で40℃に温度を保持した状態で攪拌することにより、固形分の第1成分と第2成分とを溶媒に溶解した。固形分の第3成分をジクロロメタンとメタノールとの混合物に分散し、得られた分散液を、固形分の第1成分と第2成分とが溶解している溶液が入っている上記密閉容器に入れて分散した。このようにして得られたドープ52は、静置した後に、30℃に温度を維持した状態でろ紙によりろ過し、その後、脱泡処理をしてから、溶液製膜装置50での流延に供した。
【0069】
流延ダイ64から30℃のドープ52を流延して流延膜66を形成した。形成直後の流延膜66に、送風機63により100℃の空気を当て、乾燥した流延膜66を剥取ローラ65によりベルト61から剥ぎ取った。剥取位置PPにおけるベルト61の温度は10℃であった。流延膜66は形成してから120秒後に剥ぎ取った。剥取位置PPにおける流延膜66の溶媒含有率は100質量%であった。剥ぎ取りは、150N/mの張力で行った。この張力は、流延膜66の幅1m当たりの力である。形成されたセルロースアシレートフィルム51を、ローラ乾燥機56に案内し、複数のローラ73により長手方向に張力を付与した状態で搬送しながら、乾燥した。長手方向に付与した張力は100N/mであった。この張力は、セルロースアシレートフィルム51の幅1m当たりの力である。ローラ乾燥機56は、上流側の第1ゾーンと下流側の第2ゾーンとを有し、第1ゾーンは80℃、第2ゾーンは120℃に設定した。セルロースアシレートフィルム51を第1ゾーンで5分間搬送し、第2ゾーンで10分間搬送した。巻取機57により巻き取られたセルロースアシレートフィルム51の溶媒含有率は0.3質量%であった。
【0070】
各セルロースアシレートフィルム51から製造した育苗資材23について、セルロースアシレートのアシル基置換度は表1の「アシル基置換度」欄に示す。育苗資材23の厚みTは「育苗資材」の「厚み」欄に、高さH1は「高さ」欄に示す。なお、表1において、「T/H1」欄の「E」に続く数値は10のべき乗を示している。例えば「3.3E-04」は3.3-4を意味する。
【0071】
実施例1~21では、種蒔き用セルトレイにたね培土を充填し、桃太郎ヨーク(タキイ種苗(株)製)を播種し、16日間育てることにより発芽させ、これを、苗19として育苗用具18の苗床22に移植した。育苗資材23を用いた18個の育苗ユニット12を、ひとつのチャンバ13内に並べて設置し、その状態で各苗19を14日間生育させた。
【0072】
実施例22では、18個の育苗用具18の各々の苗床22に、前述の桃太郎ヨークを播種し、ひとつのチャンバ13内に18個の育苗ユニット12を並べて設置した。その状態で発芽と育苗とを行った。生育期間は30日間であった。実施例22のその他の条件は実施例1と同じである。
【0073】
各育苗資材23の起立姿勢の維持と、生産された苗19の高さと、生産された苗19の移植のしやすさと、生産された苗19の品質とを評価した。評価方法と評価基準は以下の通りであり、評価結果は表1に示す。
【0074】
1.起立姿勢の維持
苗19の生育期間中において育苗資材23の起立姿勢が維持された場合には、苗19を上方に育てることができ、大苗にまで育成できる。そこで、育苗資材23の起立姿勢の維持について、目視で観察し、以下の基準に基づき評価した。A~Cは前述の育苗期間中において起立姿勢が維持されたものであり、合格である。Dは不合格である。
【0075】
A;育苗終了時において、設置時との変化が確認されない
B;育苗終了時において、しわ及び/または変形がごくわずかに観察されたが、起立姿勢は維持されており、再利用可能である。
【0076】
C;育苗終了時において、しわ及び/または変形が観察され、再利用はできないものの、起立姿勢は維持されていた。
【0077】
D;育苗過程で、しわ及び変形が認められ、育苗途中で自立できなくなった。
【0078】
2.生産された苗の高さ
育苗終了時において苗19の高さを測定した。各結果は表1の「苗の高さ」欄に、単位をcmとして記載する。なお、表1に示す苗の高さは、各実施例毎に、育てた18個の苗19の個々の高さを測定し、これらの高さの平均値とした。高さが15cm以上であった場合には、定植可能な大苗に生育したと言え、合格とした。高さが25cm以上の場合には、特に定植に適している。高さが15cmに達しなかった場合には、定植するには、定植の前に二次育苗が必要であると言え、生産効率が悪いので不合格とした。
【0079】
3.苗の移植のしやすさ
育苗終了後に、得られた複数の苗19を定植に供する作業において、以下の基準により評価した。Pは合格、Fは不合格である。
【0080】
P;隣り合う苗19同士が絡まることがなく、複数の苗19の個々の取り扱いが容易であった。
【0081】
F;隣り合う苗19同士が絡まってしまい、複数の苗19を個々に取り扱うことに時間を要した。
【0082】
4.苗の品質
生育によって得られた苗を、本圃へ定植し、定植した後の態様を目視で観察し、以下の基準での評価を苗の品質評価として実施した。表1において、A~Cは合格であり、Dは不合格である。
【0083】
A;苗の上部から全体で葉が多く適度に広がり、茎がしっかりしており自立する。
【0084】
B;苗の上部から下の方に若干葉が垂れるが、支持なしでもおおむね自立する。
【0085】
C;苗の葉が下の方に垂れており、茎の中位から上部が下方へ向けて折れ曲がった。
【0086】
D;苗が倒れる、もしくは自立できない。特に下位葉の黄化が見られる。
【0087】
【表1】
[比較例1],[比較例2]
育苗資材23を使用しないこと以外は実施例1と同じ条件で育苗し、比較例1とした。比較例1は、育苗資材23を使用していないから、表1の「育苗資材」の各欄のうち、「有無」欄を除く欄は、「-」と記載している。比較例2は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)フィルムを育苗資材23と同様の筒状に形成し、これを育苗資材として用い、実施例1と同じ条件で育苗した。用いたPETフィルムは、東レ株式会社製のルミラー(登録商標)T60#100(厚みは100μm)である。
【0088】
実施例と同様の方法及び基準により、育苗資材の起立姿勢の維持と、生育により得られた苗の高さと、得られた苗の移植のしやすさと、得られた苗の定植後における品質とを評価した。なお、比較例1においては、育苗資材を使用していないので、育苗資材の起立姿勢の維持については評価していない。したがって、表1の「起立姿勢の維持」欄には、評価していないことを意味する「-」と記載している。評価結果は表1に示す。
【符号の説明】
【0089】
10 苗生産装置
12 育苗ユニット
13 チャンバ
16 光源ユニット
17 容器
18 育苗用具
19 苗
21 水
22 苗床
23 育苗資材
23h 中空部
23i 内壁
23t 上部材
26 光源
27 支持板
28 コントローラ
31 温湿度調節機
50 溶液製膜装置
51 セルロースアシレートフィルム
52 ドープ
55 流延ユニット
56 ローラ乾燥機
57 巻取機
61 ベルト
62 ローラ
63 送風機
64 流延ダイ
64a 流出口
65 剥取ローラ
66 流延膜
73 ローラ
C 円
D 円相当径
D1 距離
H1 育苗資材の苗床からの高さ
H2 苗の高さ
PP 剥取位置
T 厚み
X 列方向
Y 行方向
Z 鉛直上向き方向