(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-16
(45)【発行日】2022-06-24
(54)【発明の名称】リグニンスルホン酸とε-ポリリジンを成分とする接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 197/00 20060101AFI20220617BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C09J197/00
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2019013971
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月10日にhttps://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acssuschemeng.8b03361にて発表 平成30年2月2日に平成29年度 産総研 材料・化学シンポジウムにて発表 平成30年2月21日に産総研中国センターシンポジウムin 岡山にて発表 平成30年8月29日に高分子学会予稿集67巻2号にて発表 平成30年11月1日に第33回高分子学会関東支部茨城地区若手の会交流会にて発表 平成30年11月19日にThe 7th Asia-Oceania Conference on Green and Sustainable Chemistry (AOC7-GSC)Matrix Building,Biopolis(30 Biopolis Street,Singapore)にて発表 平成31年1月9日にhttps://doi.org/10.20550/jiebiomassronbun.14.0_119で発表 平成31年1月16日に第14回バイオマス科学会議にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 和乗
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】福士 英明
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-51073(JP,A)
【文献】特開2005-60590(JP,A)
【文献】国際公開第2006/080523(WO,A1)
【文献】特開2019-112526(JP,A)
【文献】特開2020-122063(JP,A)
【文献】特開2020-122064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、
またはそれらの塩を含む接着剤。
【請求項2】
リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群から選択される、請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記ε-ポリリジンが、重量平均分子量500~1,000,000である、請求項1~3のいずれか
一項に記載の接着剤。
【請求項5】
生分解性を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項6】
一液型接着剤または単一の剤から成る接着剤であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項7】
接着後の材料において、その接着部分に吸水させることにより、接着した材料の剥離が可能であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項8】
水及び/又は有機溶媒を含有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質由来のアニオン性高分子であるリグニンスルホン酸をε-ポリリジン(以
下ではε-PLということがある)と組み合わせてなる接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物系バイオマスの有効活用を目的として、植物体を構成する主要な成分の一つであるリグニンもしくはその誘導体を、接着剤として利用する試みが広く行われている。例えば特許文献1ではイネ科植物由来のリグニンとホルムアルデヒドから成る接着剤、特許文献2では有機可溶リグニンとフェノール、ホルムアルデヒドの三成分を含む接着剤、特許文献3ではエポキシ化合物を架橋剤として用いた接着剤が記載され、特許文献4では酸化剤を用いた酸化反応でリグニンを架橋して接着剤として用いる例が記載されている。しかし、これらの接着剤で用いられているホルムアルデヒドやエポキシ化合物、酸化剤は高い反応性に由来する毒性や、消防法上の危険物に分類されていることから、作業者の健康・安全面で問題が生じる可能性がある。
リグニン由来の化合物を用いるが、ホルムアルデヒド等の毒性を示す化合物や危険性の高い化合物を用いない接着剤として、例えば特許文献5ではリグニンスルホン酸とケイ酸アルカリから成る接着剤が記載され、非特許文献1ではリグニンスルホン酸とポリ(2-ビニ
ルピリジン)もしくはポリ(4-ビニルピリジン)から成る接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再表98/050467号公報
【文献】特表平6-506967号公報
【文献】特開2002-053699号公報
【文献】特開昭61-62574号公報
【文献】特開2008-43313号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of Wood Science;2008;54(2);143-152
【文献】Green Chemistry;2016;18(20);5607-5620
【文献】Progress in Polymer Science;2014;39(7);1266-1290
【文献】Chemical Science;2015;6(11); 6385-6391
【文献】Appl Microbiol Biotechnol;2003;62(1);21-26
【文献】Water Research;1999;33(8);1837-1844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの接着剤は共有結合による強固な架橋構造の形成により硬化させたものや、生分解性の低い有機化合物を使用したものである。そのため、得られた接着剤は生分解性が低く、農業などの生分解性を生かした用途が想定される分野への適用は困難であり、これらの接着剤はリグニンが有する生分解性を有効に活用した材料とは言い難い。このような問題点に鑑み、環境調和型の接着剤として作業者の健康・安全面で負荷が小さいことに加えて、優れた生分解性を有するリグニン由来の接着剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特願2017-246691号に記載されるように、リグニンスルホン酸に対し、カ
チオン性高分子を組み合わせることで、弾性に富み、かつ、自己修復能を有する成形可能
なイオン複合体が得られることを見出した。このイオン複合体は、内部に存在する多数のイオン性官能基が架橋構造を形成することで自立可能な程度の材料強度を示す。
上記イオン複合体は、多数のイオン性官能基を有していることから、金属などの極性材料表面と強く相互作用して接着能を示すことが期待される。
実際に、本発明者らは、リグニンスルホン酸ナトリウムのようなリグニンスルホン酸塩の水溶液と、微生物が産生するカチオン性高分子であるε-PLを混合して得られる複合体を
接着剤として用い、金属、ガラス、木材などの極性材料だけでなく、ポリプロピレンのような非極性材料を接着可能であることを見出した。
また、リグニンスルホン酸およびε-PLは優れた生分解性を有する高分子であり、共有結
合を介した架橋や化学修飾が行われていない本接着剤は、リグニンスルホン酸およびε-PLの生分解性も維持しており、優れた生分解性を有するリグニン由来の接着剤として利用
可能である。
本発明は、本発明者らによるこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
[1]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘
導体、またはそれらの塩を含む接着剤。
[2]リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、[1]に記載の接着剤。
[3]前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群から選択される、[1]または[2]に記載のイオン接着剤。
[4]前記ε-ポリリジンが、重量平均分子量500~1,000,000である、[1]~[3]の
いずれかに記載の接着剤。
[5]生分解性を有することを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤。[6]一液型接着剤または単一の剤を含む接着剤であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤。
[7]接着後の材料において、その接着部分に吸水させることにより、接着した材料の剥離が可能であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の接着剤。
[8]水及び/又は有機溶媒を含有することを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の接着剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リグニンスルホン酸とε-PLとを、例えば両者の水溶液を混合すること
により、両者のイオン複合体を調製し、これを用いて金属をはじめとする種々の材料を接着することができる。
例えば、リグニンスルホン酸ナトリウムとε-PLから形成された複合体においては、粘稠
な複合体をステンレス板で挟み、80℃のホットプレスで加熱したのちに溶媒を揮発させることで、約45gのマグネットクリップを保持できる(実施例2)。この時の接着強度は5 MPa以上であり、市販の両面テープを用いて接着したサンプルの接着強度0.67 MPaに比べて7倍以上であった(比較例1および実施例7)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体の外観の写真図を示す。
【
図2】リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体によるステンレス板の接着直前と接着後のサンプルの写真図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
リグニンスルホン酸は、セルロースなどの多糖類と並んで植物体を構成する主要な成分の一つであるリグニンに由来し、例えば亜硫酸法により植物体からパルプを製造する際に、
副産物として、リグニンがスルホン化されることにより生じる。本発明において、リグニンスルホン酸とは、このようにして副生したリグニンスルホン酸自体でよく、または、これを変性し、あるいは部分脱スルホン化した、変性リグニンスルホン酸や部分脱スルホンリグニンスルホン酸でもよい。
変性リグニンスルホン酸とは、例えばリグニンスルホン酸を酸やアルカリを用いて処理することで、官能基の含有量を変化させたリグニンスルホン酸などが挙げられる。
部分脱スルホンリグニンスルホン酸とは、リグニンスルホン酸の有するスルホ基(-SO
3Hまたは-SO3
-)の一部が脱スルホン化しているリグニンスルホン酸のことである。イオン複合材料全体におけるリグニンスルホン酸の脱スルホン化が、部分脱スルホン化がなされていないと仮定した場合のイオン複合体材料中の全スルホ基のうちの1%以上の個
数のスルホ基の脱スルホン化であることが好ましい。
【0011】
本発明において、リグニンスルホン酸の誘導体とは、例えば、非特許文献2に記されているリグニンのヒドロキシル基をポリエチレングリコールで修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体や、非特許文献3に記されているリグニンのヒドロキシル基をエポキシ基含有化合物で修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体、または、非特許文献3に記されているリグニンのフェノール性水酸基を脂肪酸や芳香族カルボン酸で修飾する手法を適用したリグニンスルホン酸誘導体でもよい。
【0012】
本発明において、リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩は、金属塩であることが好ましく、さらに水溶性の観点から、この金属塩はナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明に用いられるε-PLとしては、特に限定されることはないが、微生物が産生したも
の、および化学合成により得られるもののいずれを用いてもよい。
微生物を用いた産生法においては、ε-PLを産生することができる方法であれば特に限定
されることはないが、例えばストレプトマイセス・アルブラス(Streptomyces alblus)
やストレプトマイセス・ヌールセイ(Streptomyces noursei)に属するε-PL産生菌を使
用する産生法を用いる事ができ、これらの細菌の培地からε-PLを単離精製することが可
能である。化学合成による産生法としては、例えば、非特許文献4に記載されている化学合成法で合成されるε-PLが挙げられる。
【0014】
また、ε-PLはアミノ基やカルボキシル基の一部が共有結合などを介して化学的に修飾さ
れていてもよい。
化学的に修飾された化合物とは、例えば、アミド結合を介し、ε-PLのアミノ基をカルボ
ン酸やアミノ酸などのカルボキシル基含有化合物で修飾した化合物や、アミド結合を介し、ε-PL末端のカルボキシル基をアミンやアミノ酸などのアミノ基含有化合物、もしくは
エステル結合を介し、アルコールなどのヒドロキシル基含有化合物で修飾した化合物が挙げられる。
また、ε-PLの誘導体とは、例えば、ε-PL同士を脱水縮合することによって高分子量化したε-PLが挙げられる。
また、本発明に用いられるε-PLは、水溶性の観点から、上述のカチオン性高分子の、塩
酸塩などの無機酸塩、もしくは、酢酸塩などの有機酸塩でもよい。
【0015】
ε-PLを形成するリジンの構造は特に限定されることはないが、L-リジンのみからなる
もの、D-リジンのみからなるもの、両者を含むものの何れを用いることもできる。また、L-リジンとD-リジンの比率は特に限定されることはない。
ε-PLの重合度は、特に限定されることはないが、5量体以上であることが好ましく、重量平均分子量は500~1,000,000であることが好ましい。さらに好ましくは、重量平均分子量は1,000~10,000である。
【0016】
「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-PL、その誘導体、または
それらの塩を含む」とは、「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-PL、その誘導体、またはそれらの塩」以外のいかなる他の構成要素をもさらに包含する
ことが可能である。また、「リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-PL、その誘導体、またはそれらの塩」のみからなることも可能である。
【0017】
接着剤中における、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-PL、そ
の誘導体、またはそれらの塩との組成割合は、特に限定されることはないが、リグニンスルホン酸とε-PLの重量比が、好ましくは1:10~10:1、さらに好ましくは1:3~3:1である
。
【0018】
接着剤中の水分含量は、特に限定されることはないが、通常、0.1~95重量%、好ましく
は2~30重量%である。
【0019】
本発明の接着剤は、主成分が木質由来のリグニンを活用したリグニンスルホン酸および細菌が産生するε-PLであるため、低毒性でありかつ生分解性を有する。
低毒性とは、哺乳類、好ましくはヒトに対する毒性が低いことである。具体的には、低毒性とは、原料となる化合物をラットに与えた際の致死量が、1000 mg/kg以上であることを指す。
【0020】
生分解性とは、微生物もしくは環境中での酸化や加水分解によって完全に分解され、自然的副産物(炭酸ガス、水、アミノ酸、メタン、バイオマスなど)のみを生じる性質のことである。
【0021】
生分解性の具体的な測定方法としては、例えば溶存有機体炭素量(DOC)法や生物化学的酸素消費量(BOD)法が挙げられる。生分解性を有するとは、培養によって複合体の50%以上が分解することである。
【0022】
ここで、ε-PL及びリグニンスルホン酸を分解可能な微生物が土壌中に広く存在すること
が知られているため(非特許文献5及び6)、ε-PLとリグニンスルホン酸の混合物は環
境中で速やかに分解すると考えられる。
【0023】
本発明の接着剤は、一液型接着剤または単一の剤から成る接着剤とすることも可能である。一液型接着剤または単一の剤から成る接着剤とすることで、二液型の接着剤と比較して、接着時の塗りムラが少なく、より安定した強固な接着を行うことができる。
【0024】
本発明のリグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩とε-PL、その誘導体、ま
たはそれらの塩を含む接着剤は、これらを適宜の方法で混合することにより調製することができる。
例えば、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩を含む水溶液とε-PL、そ
の誘導体、またはそれらの塩を含む水溶液を混合し、あるいは、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩の粉末をε-PL、その誘導体、またはそれらの塩を含む水溶
液に混合することで調製することができる。
このようにして調製したイオン複合体を含む混合水溶液を、例えばホットプレート上で溶媒を揮発させることにより、粘稠なイオン複合体を得ることができる。
また、このようにして調製したイオン複合体を含む混合水溶液を有機溶媒に加えることで、イオン複合体を沈殿として回収することができる。
【0025】
接着剤の使用方法は、例えば上記方法で調製したイオン複合体を、接着対象となる基材上
に静置、もしくは塗布し、基材同士でイオン複合体を挟み込むことで接着を行うことができる。ここで、基材は特に限定されることはないが、例えばステンレス板、アルミニウム板、ポリプロピレン板、木板等を用いることができる。
好ましくは、さらにホットプレスなどの装置で加熱を行いながら圧力を加えることによって接着を行うことができ、これにより強固な接着をより早期に行うことができる。ホットプレス装置において、加熱温度は、特に限定されることはないが、例えば、50~110℃で
あることが好ましい。加圧力は、特に限定されることはないが、例えば0.01~10MPaであ
ることが好ましく、0.05~0.5MPaであることがさらに好ましい。加熱及び加圧の時間は、特に限定されることはないが、例えば、30秒間から3分間であることが好ましい。
さらに、基材同士でイオン複合体を挟み込んだ後、またはホットプレス装置による加温及び加圧を行った後、溶媒を揮発させる操作を行ってもよい。溶媒を揮発させる操作において、温度は特に限定されることはないが、例えば、10~90℃又は大気温であることが好ましい。湿度は特に限定されることはないが、20~80%であることが好ましい。溶媒を揮発させる時間は、特に限定されることはないが、1時間以上であることが好ましい。
【0026】
接着強度試験は、特に限定されることはないが、例えば以下の方法により行うことができる。
リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体9 mgを、重なり合う面積が1cm2になる
ように二枚の基材(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)で挟み込む。この基材を80℃、0.2 MPaのホットプレスで2分間加熱する。加熱後の基材を大気中で冷ました後、30℃、湿度50%の恒温恒湿槽で24時間以上溶媒を揮発させる。
得られた接着を行った基材に対して引張試験を行うことで、引張せん断接着強さ(最大応力)を測定し、これを接着強度の指標とすることができる。
【0027】
本発明に係る接着剤は、接着後の材料において、その接着部分に吸水させることにより、接着した材料の剥離が可能であることを特徴し、接着した材料の剥離が可能であるかは解体性試験により、確認することができる。
解体性試験は、特に限定されることはないが、例えば以下の方法により行うことができる。リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体を二枚の基材で挟み込む。この基材
を80℃、0.2 MPaのホットプレスで2分間加熱する。加熱後の基材を大気中で冷ました後、30℃、湿度50%の恒温恒湿槽で24時間以上溶媒を揮発させる。リグニンスルホン酸ナトリ
ウム塩とε-PLの複合体で接着した基材を、基材全体が完全に水没するように純水に浸す
。このサンプルを室温にて24時間静置する。基材同士の接着部位が吸水することにより、二つの基材が手で容易に剥離することができるか、又は接着強度が基材の自重を支えられない程度まで低下した場合に、解体性があると判断することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体調製
リグニンスルホン酸ナトリウム塩 (東京化成工業) の40重量%水溶液5重量部と、ε-PL溶
液 (JNC株式会社、25~35量体、Lot番号2160204、25重量%水溶液) 10重量部を均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移し、150℃のホットプレート上で加熱する
ことにより水分を除去することで粘稠な複合体を得た。得られた複合体の写真を
図1に示
す。
【0030】
実施例2 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体によるステンレス板の接着
実施例1で調製したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体9 mgを、重なり合う
面積が1cm
2になるように二枚のステンレス板(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)で挟み込んだ
。このステンレス板を80℃、0.2 MPaのホットプレスで2分間加熱した。加熱後のステンレス板を大気中で冷ました後、30℃、湿度50%の恒温恒湿槽で24時間以上溶媒を揮発させた
。接着直前と接着後のサンプルの写真を
図2に示す。
図2に示すように、得られたサンプ
ルは約45gのマグネットクリップを保持可能であり、本複合体により二枚のステンレス板
同士の接着が可能であることを確認した。
【0031】
実施例3 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体によるアルミニウム板の接着
実施例1で調製したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体と、二枚のアルミニウム板(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)を用いて、実施例2と同様の手順でアルミニウム板の接着を行った。接着後のサンプルは実施例2と同様に約45gのマグネットクリップを保持可能であり、本複合体により二枚のアルミニウム板同士の接着が可能であることを確認した。
【0032】
実施例4 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体によるポリプロピレン板の接着
実施例1で調製したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体と、二枚のポリプロピレン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を用いて、実施例2と同様の手順でポリプロピレン板の接着を行った。接着後のサンプルは実施例2と同様に約45gのマグネットクリップを保持可能であり、本複合体により二枚のポリプロピレン板同士の接着が可能であることを確認した。
【0033】
実施例5 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体による木板の接着
実施例1で調製したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体と、二枚の木板(長さ4cm、幅0.75cm、厚さ1.5mm)を用いて、実施例2と同様の手順で木板の接着を行った。
接着後のサンプルは実施例2と同様に約45gのマグネットクリップを保持可能であり、本複合体により二枚の木板同士の接着が可能であることを確認した。
【0034】
実施例6 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体によるガラス板の接着実施例1で調製したリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体と、二枚のスライドガラス(長さ7.6cm、幅2.6cm、厚さ1mm)を用いて、実施例2と同様の手順でガラス板の接着を行った。接着後のサンプルは実施例2と同様に約45gのマグネットクリップを保持可能であり、本複合体により二枚のガラス板同士の接着が可能であることを確認した。
【0035】
比較例1 両面テープによるステンレス板の接着
両面テープ(ニチバン社製、型番NW-40)を長さ1cm、幅1cmの大きさに切り、重なり合う
面積が1cm2になるように二枚のステンレス板(長さ5cm、幅1cm、厚さ2mm)で挟み込んだ
。このステンレス板を室温、0.2 MPaのホットプレスで2分間加圧し、接着を行った。接着後のステンレス板を用いて引張試験 (大気中、引張速度 10 mm/min) を行い、引張りせん断接着強度を測定したところ、その値は0.67±0.16 MPa(3回の平均値)であった。
【0036】
実施例7 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体の接着強度試験
実施例2において、リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体で接着したステンレス板を用いて、引張試験 (大気中、引張速度 10 mm/min) を行い、引張りせん断接着強さ(最大応力)を測定したところ、その値は本試験で用いた装置の測定限界である5 MPaを
超えており、比較例1よりも優れた接着強度、すなわち比較例1と比較して7倍以上の接着強度を示した。
【0037】
実施例8 リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLで接着したステンレス板の水中におけ
る解体性試験
実施例2において、リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体で接着したステンレス板をサンプル全体が完全に水没するように純水に浸した。このサンプルを室温にて24時間静置した結果、ステンレス板の接着強度が自重を支えられない程度まで低下し、吸水により接着部位の解体が可能であることを確認した。
また、実施例3~6において、リグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLの複合体で接着し
たアルミニウム板、ポリプロピレン板、木板、及びガラス板を用いて、ステンレス板と同様に解体性試験を行ったところ、アルミニウム板では接着強度が自重を支えられない程度まで低下し、ポリプロピレン板、木板、及びガラス板では基材同士を手で容易に剥離可能な程度まで接着強度が低下し、吸水により接着部位の解体が可能であることを確認した。