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  • 特許-心電位模擬方法および装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】心電位模擬方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/319 20210101AFI20220701BHJP
   A61B 5/343 20210101ALI20220701BHJP
【FI】
A61B5/319
A61B5/343
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018201516
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020065824
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中根 辰仁
(72)【発明者】
【氏名】松浦 伸昭
(72)【発明者】
【氏名】都甲 浩芳
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-063026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0068796(US,A1)
【文献】中根辰仁ほか,電気双極子を用いた心電図生成モデルの構築に関する一検討,信学技報,Vol.118,No.42,日本,電子情報通信学会,2018年05月11日,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/319
A61B 5/343
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、人体を模した3次元の人体モデルの心臓の部分に配置する電気信号源の位置を設定されている時間毎に変更する第1ステップと、
コンピュータが、設定されている時間毎に変更されている前記電気信号源の位置毎に、前記電気信号源に由来する体表面電位を求める第2ステップと、
コンピュータが、時間毎に求めた複数の体表面電位の分布より心電位を模擬した波形を求める第3ステップと
を備え、
前記第1ステップは、前記電気信号源の位置の変更距離を、心房と心室とで変化させることを特徴とする心電位模擬方法。
【請求項2】
請求項1記載の心電位模擬方法において、
前記第2ステップは、胸部誘導における体表面電位を求めることを特徴とする心電位模擬方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の心電位模擬方法において、
前記電気信号源は、電気双極子であることを特徴とする心電位模擬方法。
【請求項4】
請求項3記載の心電位模擬方法において、
前記第2ステップでは、電磁界シミュレーションにより体表面電位を求めることを特徴とする心電位模擬方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の心電位模擬方法の各ステップの機能を実現するコンピュータから構成された心電位模擬装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の状態をシミュレーションして心電位を再現する心電位模擬方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍変動を測定することは、心肺機能の負荷強度のコントロールに有用である。昨今では、シャツなどの衣服に電極が組み込まれ、心電を計測できるウエアラブルデバイスが開発され、様々な場面において心拍変動の監視・観察が行われるようになっている。このような心電位を計測するウエアラブルデバイスの開発では、電極を配置する箇所が重要となる。心電位の計測のための電極配置の決定方法として、例えば、心臓シミュレータを用いた技術がある。近年、計算機性能の向上により、分子・細胞レベルの挙動から血圧・心電図までを再現する心臓シミュレータが開発されている。心臓シミュレータを用いて心電図波形を再現(模擬)することで、最適な電極の設置箇所が決定できるようになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】研究紹介 心臓シミュレータの概要、UT-Heart Laboratory、国立大学法人東京大学、[平成30年8月13日検索]、(http://www.sml.k.u-tokyo.ac.jp/report/report01a.html)。
【文献】高精度な暴露評価技術に関する研究-数値人体モデルの開発-、生体EMC、[平成30年8月15日検索]、(http://emc.nict.go.jp/bio/model/model01_1.html)。
【文献】J. Malmivuo and R. Plonsey, Bioelectromagnetism : principles and applications of bioelectric and biomagnetic fields, Oxford University Press, pp. 188-191, 1995.
【文献】R. E. Klabunde, Cardiovascular physiology concepts, Second Edition, Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins/Wolters Kluwer, pp. 21-23, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した心臓シミュレータには、いわゆるスーパーコンピュータと呼ばれるレベルの大がかりな計算機が必要となり、心電位を再現することが容易ではない等問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、心電位のシミュレーションが市販されている計算機などでも容易に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る心電位模擬方法は、コンピュータが、人体を模した3次元の人体モデルの心臓の部分に配置する電気信号源の位置を設定されている時間毎に変更する第1ステップと、コンピュータが、設定されている時間毎に変更されている電気信号源の位置毎に、電気信号源に由来する体表面電位を求める第2ステップと、コンピュータが、時間毎に求めた複数の体表面電位の分布より心電位を模擬した波形を求める第3ステップとを備える。
【0007】
上記心電位模擬方法において、第2ステップは、例えば、胸部誘導における体表面電位を求める。
【0008】
上記心電位模擬方法において、第1ステップでは、電気信号源の位置の変更距離を、心房と心室とで変化させる。
【0009】
上記心電位模擬方法において、電気信号源は、電気双極子である。また、第2ステップでは、電磁界シミュレーションにより体表面電位を求める。
【0010】
本発明に係る心電位模擬装置は、上述した心電位模擬方法の各ステップの機能を実現するコンピュータから構成されたものである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したことにより、本発明によれば、心電位のシミュレーションが市販されている計算機などでも容易に実施できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態おける心電位模擬方法を説明するフローチャートである。
図2図2は、人体モデルを例示する説明図である。
図3図3は、図2に示す胸部誘導V1~V6での標準的な心電図波形を示す波形図である。
図4図4は、電気双極子の配置箇所の例を説明するための説明図である。
図5A図5Aは、図4に示すように電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を示す説明図である。
図5B図5Bは、図4に示すように電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を示す説明図である。
図5C図5Cは、図4に示すように電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を示す説明図である。
図6図6は、伝搬時間の算出を説明するための説明図である。
図7図7は、図4に示した電気双極子の配置箇所により本発明の心電位模擬方法により求めた心電位を模擬した波形の例を示す特性図である。
図8図8は、電気双極子の配置箇所の他の例を説明するための説明図である。
図9図9は、図8に示した電気双極子の配置箇所により本発明の心電位模擬方法により求めた心電位を模擬した波形の例を示す特性図である。
図10図10は、図8に示すように電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態おける心電位模擬方法について図1を参照して説明する。まず、ステップS101で、人体を模した3次元の人体モデル上で、このモデルの心臓の部分の所定の箇所に、電気信号源を配置する。電気信号源は、例えば、電気双極子である。次に、ステップS102で、電気信号源に由来する体表面電位を求める。体表面電位は、電磁界シミュレーションにより求める。
【0014】
上述したステップS101,S102を、電気信号源の位置を設定されている時間毎に、設定されている測定箇所に逐次に変更して繰り返す(ステップS104)。すべての測定箇所における体表面電位を求めたら(ステップS103のyes)、動作を終了する。
【0015】
上述したように、本発明の心電位模擬方法は、人体を模した3次元の人体モデルの心臓の部分に配置する電気信号源の位置を設定されている時間毎に変更し(第1ステップ)、設定されている時間毎に変更されている電気信号源の位置毎に、電気信号源に由来する体表面電位を求める(第2ステップ)、時間毎に求めた複数の体表面電位の分布より心電位を模擬した波形を求める(第3ステップ)ようにしたものである。
【0016】
また、本発明の心電位模擬装置は、上述した心電位模擬方法を実装した計算機から構成されたものである。計算機は、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)と主記憶装置と外部記憶装置となどを備えたコンピュータ機器であり、主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作することで、上述した各機能が実現される。また、各機能は、ネットワーク接続装置を用いることで複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。
【0017】
例えば、図2に例示するような人体モデルを用いる。この人体モデルは、皮膚、筋肉、心臓など、51種類の組織で構成されており、2mmの分解能を有するボクセルモデルである(非特許文献2参照)。体表面電位を電磁界シミュレーションにより求めるときに用いる各組織の導電率等の物性値は、実際に即した値を用いるべきものであり、計算の実施者において適宜設定することができる。以下に、計算に用いる生体組織毎の導電率を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
図2に示すV1~V6は、よく知られているように、心電図を測定する際の胸部誘導(電極)の位置である。これら胸部誘導V1~V6での標準的な心電図波形を、図3に示す。V1からV6にかけて、心電波形の中のQRS波のおもな向きがマイナスからプラスへと変化している。後述する計算例では、この位置で観測される波形を求める。なお、後述する計算例の計算に用いた計算機は、CPUに、インテル株式会社製の「Xeon(登録商標) Gold 5120 (2.2GHz)」を2個用い、主記憶装置は96GBとしている。
【0022】
次に、電気信号源(電気双極子)の配置箇所について、図4を用いて説明する。なお、図4の(a)は、心臓の断面図を示しており、(b)、(a)の断面図に対応する形で計算モデルの心臓部分を抜き出したものを示している。また、図4の(b)において、「◆」により電気双極子を順次配置する位置を示している。電気双極子を配置することによって発生する微小電流を入力源とし、電磁界解析により、体表面電位を計算する。電磁界解析は、例えばSPFD(Scalar-Potential Finite-Difeference)法などを用いればよい。電気双極子の電荷量などは、発生させようとしている電位量等を勘案して、計算の実施者において設定する。本計算例では、電荷量を0.1mCとした。なお、複数の電気双極子を同時に心臓内に配置することもあるが、この場合、電荷量の合計が0.1mCとなるように設定する。
【0023】
心電図の構成として、まず、人体モデルの心臓部分の表面のある位置に配置した単体の電気双極子を入力源とした際の体表面電位をSPFD法で算出する。図4を用いて説明したように、電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を図5A図5B図5Cに示す。
【0024】
ここで、電気的興奮の伝搬時間を、電気的興奮の伝搬速度と電気双極子間の移動距離を用いて求める。電気的興奮の伝搬速度に関しては、以下の表に示すように設定した(非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0025】
【表4】
【0026】
計算した体表面電位分布上で、対象とする胸部誘導(V1~V6)に該当する電位を、図6に示すように後処理で求めた伝搬時間に対応させて時間軸上で統合することで、心電図の構成を行う。
【0027】
伝搬時間の算出について説明すると、時間(時系列)的に連続する2つの電気双極子の位置を、順にx1、x2とし、各々の入力源とした対象とする誘導位置での体表面電位を、φ1、φ2とする。体表面電位がφ1である時刻をt1、移動した電気双極子間の距離|x2-x1|を、伝搬時間で除した値(時間)をΔtとすると、体表面電位がφ2となる時刻t2は、t2=t1+Δtで与えられる。このように、各々の電気双極子について求めた体表面電位を時系列にプロットすることで、心電位を模擬した波形が得られる。
【0028】
図4の(b)に「◆」で示す電気双極子の位置を、矢印に沿って移動させ、電磁界シミュレーションにより求めた胸部誘導V1~V6における体表面電位を、上述したように時間軸上で整列させて得られた波形を図7に示す。まず、心電図波形におけるP波の概形に近い形が模擬できている。また、V4~V6においては、図3に示したような、QRS波の特徴である急峻な電位変化に近い形を模擬できている。
【0029】
次に、他の計算結果例について説明する。ここでは、図8に示すように、電気双極子の位置「◆」を移動させている。また、ここでは、電気双極子間の移動距離を、心房と心室とで変化させている。電気双極子間の移動距離は、心房では平均3.2mm、心室では平均24mmとしている。
【0030】
図8に「◆」で示す電気双極子の位置を、矢印に沿って上述したように移動させ、電磁界シミュレーションにより求めた胸部誘導V1~V6における体表面電位を、前述したように時間軸上で整列させて得られた波形を図9に示す。V1~V6のすべての誘導において、図3に示したQRS波のおもな向きが、S波からR波へ移行する形を模擬できていることが分かる。なお、図8を用いて説明したように、電気双極子の位置を順次変えながら算出した一連の体表面電位分布を図10示す。
【0031】
なお、上述した計算例では、胸部誘導における体表面電位を求めるようにしたが、これに限るものではなく、体表面電位を求める箇所は、3次元の人体モデル上のいずれの箇所であってもよい。例えば、四肢誘導における体表面電位を求めるようにしてもよい。
【0032】
以上に説明したように、本発明では、人体を模した3次元の人体モデルの心臓の部分に配置する電気信号源の位置を設定されている時間毎に変更し、変更されている電気信号源の位置毎に電気信号源に由来する体表面電位を求め、時間毎に求めた複数の体表面電位の分布より心電位を模擬した波形を求めるようにした。この結果、本発明によれば、心電位のシミュレーションが市販されている計算機などでも容易に実施できるようになる。また、本発明によれば、全身にわたって体表面電位の分布が計算でき、全身にわたる心電位模擬が可能となる。
【0033】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10