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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】新規セリウム錯体、及び発光材
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/00 20060101AFI20220706BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20220706BHJP
   C07F 9/6506 20060101ALI20220706BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20220706BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220706BHJP
   H01L 31/055 20140101ALI20220706BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220706BHJP
   C07D 233/14 20060101ALN20220706BHJP
   C07D 233/10 20060101ALN20220706BHJP
【FI】
C07F5/00 D CSP
C07F19/00
C07F9/6506
C09K11/06 660
H05B33/14 B
H01L31/04 622
H01L33/50
C07D233/14
C07D233/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018031114
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019142829
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】倉持 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 彰治
(72)【発明者】
【氏名】原 大治
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107991(JP,A)
【文献】特開2009-076509(JP,A)
【文献】欧州特許第03106034(EP,B1)
【文献】中国特許出願公開第103374035(CN,A)
【文献】国際公開第2011/021385(WO,A1)
【文献】特表2000-507239(JP,A)
【文献】Organometallics,2010年,Vol.29, No.7,pp.1518-1521
【文献】Hazin, Paulette N. et al.,Luminescence spectra of a series of cerium(III) halides and organometallics. Probes of bonding properties using 4f-5d excited states,Organometallics,1987年,6(5),,913-18
【文献】Casely, Ian J. et al.,Tetravalent cerium carbene complexes,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom),2007年,(47),,5037-5039
【文献】Mehdoui, Thouraya et al.,The remarkable efficiency of N-heterocyclic carbenes in lanthanide(III)/actinide(III) differentiation,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom),2005年,(22),,2860-2862
【文献】Liddle, Stephen T. et al.,Synthesis of Heteroleptic Cerium(III) Anionic Amido-Tethered N-Heterocyclic Carbene Complexes,Organometallics,2005年,24(11),,2597-2605
【文献】Arnold, Polly L. et al.,Organometallic Cerium Complexes from Tetravalent Coordination Complexes,Helvetica Chimica Acta ,2009年,92(11),,2291-2303
【文献】Gagliardi, Laura et al.,Quantum Chemical Characterization of the Bonding of N-Heterocyclic Carbenes to Cp2MI Compounds [M = Ce(III), U(III)],Inorganic Chemistry,2006年,45(23),,9442-9447
【文献】Majhi, Paresh Kumar et al.,From bis(imidazole-2-thion-4-yl)phosphane to a flexible P-bridged bis(NHC) ligand and its silver complex,Dalton Transactions ,2014年,43(44),,16673-16679
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/10
C07F 5/00
C07F 19/00
C07F 9/6506
C09K 11/06
C07D 233/14
H01L 51/50
H01L 31/055
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価のセリウムと下記式(1)で表されるカルベン化合物を含むセリウム錯体。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィンオキシド基、炭素数1~20の炭化水素基、又は酸素原子若しくはリン原子を含有する炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。R11、R12は、水素原子、炭素数1~20の炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。xは0~10の整数を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される、請求項1に記載のセリウム錯体。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、xは、式(1)における定義と同じである。nは、1以上の整数を表す。Lは、ハロゲン、シラザン、スルホン酸又はβ-ジケトンのアニオンを表す。)
【請求項3】
,R,R,R,R,R,R,R,R,R10が水素原子、炭素数1~20のアルキル基、ヒドロキシ基又はホスフィンオキシド基である、請求項1又は2に記載のセリウム錯体。
【請求項4】
カルベン化合物が、ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物である、請求項1~3のいずれかに記載のセリウム錯体。
【請求項5】
ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物が、下式(5)で表される化合物である、請求項4に記載のセリウム錯体。
【化3】
【請求項6】
カルベン化合物が、下記式(3)又は式(4)で表される化合物である、請求項1~3のいずれかに記載のセリウム錯体。
【化4】
【化5】
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のセリウム錯体を含むセリウム錯体組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のセリウム錯体を含む発光材。
【請求項9】
請求項7に記載のセリウム錯体組成物を含む発光材。
【請求項10】
紫外光又は可視光により励起し、青色発光する、請求項8又は9に記載の発光材。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の発光材を含むLEDデバイス、有機ELデバイス、太陽電池デバイス、農業施設用フィルム又は酸化還元反応用光触媒の増感剤。
【請求項12】
1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミドであるイミダゾリウムハライド化合物。
【請求項13】
下記式(5)で表される1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデンであるイミダゾリリデンカルベン化合物。
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセリウムカルベン錯体、その製造方法、それを含むセリウムカルベン錯体組成物、発光材、及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、LED照明用蛍光体や有機EL発光層材料として、YAG等の無機系蛍光体やIr錯体等の燐光材料が使用されている。
LED照明では、紫色や紫外線光源LED素子等の高出力なLED素子や、青色、緑色、赤色(RGB)の蛍光体を用いた高輝度かつ高演色性のLED照明が求められている。
一方、有機ELディスプレイや照明においては、高電流環境やガスバリア層から侵入する酸素や水蒸気の発光層ダメージによる消光がない高耐久性かつRGBの発光層用燐光ドーパントをIr等の高価な金属を用いずに実現することが望まれている。
【0003】
更に紫外線LED等の高出力LED素子においては、発熱が著しい為、熱劣化に耐える、有機EL素子においても、電極形成等の高温プロセスに耐える高耐熱性発光材料が求められている。
太陽電池の効率向上や、農業施設の生産性向上の為にEVA、LDPE、LLDPEに蛍光体等の発光材を添加し、フィルム化した波長変換フィルムが提案されているが、光透過性、耐UV性、耐酸化、耐湿性、製造コストの点で課題が多く、実用化に至っていない。
【0004】
セリウム錯体は、配位子による4f-5d遷移の制御により、青色、緑色、赤色のRGB発光が可能である。非特許文献1では、シクロペンタジエニル配位子やペンタメチルシクロペンタジエニル配位子を有するCe錯体が紫色(408nm)、青色(458nm)、緑色(544nm)、赤色(628nm)に発光することを報告している。また、非特許文献2、非特許文献3では、トリス(ベンズイミダゾール-2-イルメチル)アミン配位子を有するCe錯体が紫外線励起により青色(約450nm)に発光することを報告している。更に、特許文献1では、トリスピリジルピラゾールボレート配位子を有するCe錯体が紫外線励起により緑色(529nm)に発光することを報告している。しかし、これらのCe錯体は、大気下で不安定であったりして、実用に耐える性能、耐久性、寿命、製造コストを有する提案は無かった。
【0005】
また、人工光合成を目的に研究が進められている酸化還元反応用光触媒の量子収率の向上、ターンオーバーや耐久性向上の為、光増感剤の性能向上及び耐久性向上が望まれている。
すなわち、これまでに提案があったCe錯体では、LED、有機EL、太陽電池用フィルム、農業施設用フィルム、酸化還元反応用光触媒の光増感剤用途には、耐光性(耐UV性)、耐候性、耐熱性、耐久性の点で性能が不十分であり、改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-246230号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Organometallics 6,913(1987)
【文献】Angew.Chem.Int.Ed.46,7399(2007)
【文献】Chem.Lett.43,1496(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、LED用蛍光体、有機EL発光層材料、太陽電池用波長変換フィルム、農業施設用波長変換フィルム、酸化還元反応用光触媒の増感剤等の用途に好適なセリウム錯体、それを含む組成物を提供し、それを用いたLEDデバイス、有機ELデバイス、太陽電池デバイス、農業施設用フィルム及び酸化還元反応用光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の構造を有するセリウム錯体、及びそれを含む組成物が耐光性(耐UV性)、耐候性、耐熱性、耐久性が高く、LED用蛍光体等のLEDデバイス、有機EL発光層材料等の有機ELデバイス、太陽電池用波長変換材料等の太陽電池デバイス、農業施設用波長変換材料等の農業施設用フィルム、酸化還元反応用光触媒の光増感剤として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)三価のセリウムとカルベン化合物を含むセリウム錯体。
(2)カルベン化合物が下記式(1)で表される、上記(1)に記載のセリウム錯体。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、ホスホン酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は、酸素原子若しくはリン原子を含有する炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。R11,R12は、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。xは0~10の整数を表す。)
【0011】
(3)下記式(2)で表される、上記(1)又は(2)に記載のセリウム錯体。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、xは、式(1)における定義と同じである。nは、1以上の整数を表す。Lは、ハロゲン、シラザン、スルホン酸、又はβ-ジケトンのアニオンを表す。)
(4)R,R,R,R,R,R,R,R,R,R10が水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基又はホスフィンオキシド基である、上記(2)又は(3)に記載のセリウム錯体。
(5)カルベン化合物が、ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のセリウム錯体。
【0012】
(6)ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物が、下式(5)で表される化合物である、上記(5)に記載のセリウム錯体。
【化3】
【0013】
(7)カルベン化合物が、下式(3)又は下式(4)で表される化合物である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のセリウム錯体。
【化4】
【化5】
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載のセリウム錯体の製造方法であり、三価のセリウム塩、その無水物、又は水和物と、カルベン化合物とを、不活性溶媒中で反応させるセリウム錯体の製造方法。
【0014】
(9)三価のセリウム塩が、2,4-ペンタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロアセチルアセトナトセリウム(III)、6,6,7,7,8,8,8-ヘプタフルオロ-2,2-ジメチル-3,5-オクタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)、1,2,3,4-テトラメチル-2,4-シクロペンタジエニルセリウム(III)、又は、下記式(8)で表されるシラザンアニオン配位セリウム化合物である上記(8)に記載のセリウム錯体の製造方法。
【化6】
(式中、R17は、炭素数1~20の炭化水素基を表し、2つ以上のR17は互いに結合しても良い。)
【0015】
(10)上記(1)~(7)のいずれかに記載のセリウム錯体を含むセリウム錯体組成物。
(11)上記(1)~(7)のいずれかに記載のセリウム錯体からなる発光材。
(12)上記(10)に記載のセリウム錯体組成物からなる発光材。
(13)紫外光又は可視光により励起し、青色発光する、上記(11)又は(12)に記載の発光材。
(14)上記(11)又は(12)に記載の発光材を含むLEDデバイス、有機ELデバイス、太陽電池デバイス、農業施設用フィルム又は酸化還元反応用光触媒の光増感剤。
(15)ホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物。
(16)ホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物が、1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミドである上記(15)に記載のホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物。
(17)ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物。
【0016】
(18)ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物が、下記式(5)の1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデンである上記(17)に記載のホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物。
【化7】
(19)上記(15)又は(16)に記載のホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物の製造方法であり、ホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物とイミダゾール化合物を反応させることを特徴とする製造方法。
(20)上記(17)又は(18)に記載のホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物の製造方法であり、ホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物からハロゲン化水素を脱離反応させることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の三価のセリウムとカルベン化合物を含むセリウム錯体、及びそれを含むセリウム錯体組成物は、発光材料、波長変換材料等の発光材として用いることができ、耐光性(耐UV性)、耐候性、耐熱性、耐久性等の良好な、LEDデバイス、有機ELデバイス、太陽電池デバイス、農業施設用フィルム、及び酸化還元反応用光触媒の光増感剤等を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、三価のセリウムとカルベン化合物を含むセリウム錯体であり、本発明の好ましいセリウム錯体は、三価のセリウムと下記式(1)で表されるカルベン化合物とを含む。
【化8】
【0019】
上記式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10(R~R10という場合もある。)、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、ホスホン酸基、又は炭素数1~20を有する炭化水素基、又は酸素原子若しくはリン原子を含有する炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。R11,R12は、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基を表し、それらは互いに結合して環を形成していてもよい。xは、0~10の整数を表す。
【0020】
本発明の好ましいセリウム錯体は、下記式(2)で表される。
【化9】
上記式(2)中、R~R10、xは、上記式(1)における定義と同じである。nは、1以上の整数を表す。Lは、ハロゲン、シラザン、スルホン酸又はβ-ジケトンのアニオンを表す。
【0021】
上記式(1)、(2)における、R~R10は、中でも、好ましくは炭素数1~10を有する、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基若しくはアルキニル基である。
~R10としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、tert.-アミル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル、1-アダマンチル等のアルキル基;フェニル、ナフチル、アントラセニル等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル等のアリールアルキル基;トルイル、キシレニル、エチルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル等のアルキルアリール基;ビニル、プロペニル、シクロブテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル等のアルケニル基;アセチニル基、プロピニル等のアルキニル基等を挙げられる。
【0022】
~R10は、なかんずく、炭素数7以下を有する、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル、tert.-アミル等の分岐鎖状アルキル基;シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル等の環状アルキル基;シクロブテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル等の環状アルケニル基;、又はフェニル、トルイル等の環状アリール基が好ましい。特に好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル等の炭素数4以下の直鎖状アルキル基;、又はイソプロピル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル等の炭素数4以下の分岐鎖状アルキル基である。
【0023】
また、R~R10が酸素原子を含有する炭化水素基である場合、R~R10は、好ましくは、炭素数1~20を有するアルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアコキシ基、アルキルアリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基等である。具体的には、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert.-ブトキシ、シクロブトキシ、n-ペントキシ、tert.-アミロキシ、シクロペントキシ、n-ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、メチルシクロヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、2-エチルヘキシルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ、n-ウンデシルオキシ、n-ドデシルオキシ、n-トリデシルオキシ、n-テトラデシルオキシ、n-ペンタデシルオキシ、n-ヘキサデシルオキシ、n-ヘプタデシルオキシ、n-オクタデシルオキシ、n-ノナデシルオキシ、n-エイコシルオキシ、1-アダマンチルオキシ等のアルコキシ基;フェニルオキシ、ナフチルオキシ、アントラセニルオキシ等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ、フェニルエトキシ等のアリールアコキシ基;トルイルオキシ、キシレニルオキシ、エチルフェニルオキシ、イソプロピルフェニルオキシ、ブチルフェニルオキシ等のアルキルアリールオキシ基;プロペニルオキシ、シクロブテニルオキシ、シクロペンタジエニルオキシ、シクロヘキセニルオキシ、シクロオクテニルオキシ、シクロオクタジエニルオキシ等のアルケニルオキシ基;プロピニルオキシ等のアルキニルオキシ基等を挙られる。
【0024】
上記のうちでも、炭素数7以下を有する、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ等の直鎖状アルコキシ基;イソプロポキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert.-ブトキシ、tert.-アミロキシ等の分岐鎖状アルコキシ基;シクロブトキシ、シクロペントキシ、シクロヘキシルオキシ、メチルシクロヘキシルオキシ等の環状アルコキシ基;シクロブテニルオキシ、シクロペンタジエニルオキシ、シクロヘキセニルオキシ等の環状アルケニルオキシ基;フェニルオキシ、トルイルオキシ等の環状アリールオキシ基が好ましい。特に好ましくは、炭素数4以下を有する、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ等の直鎖状アルコキシ基;イソプロポキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert.-ブトキシ等の等の分岐鎖状アルコキシ基である。
【0025】
~R10は、互いに結合して、例えば、フェニレン、ナフチレン、シクロヘキシレン等の環状基を形成していてもよい。環状基としては、フェニレン、シクロヘキシレン等が好ましく、特に好ましくはフェニレン等である。
【0026】
~R10がリン原子を有する炭化水素基である場合、R~R10は、好ましくは、下記式(6)で示されるホスフィノ基、又は、下記式(7)で示されるホスフィニル基が挙げられる。
【化10】
【0027】
【化11】
上記式(6)、式(7)において、R13,R14、R15,R16は、炭素数1~20の炭化水素基、又は酸素原子、窒素原子若しくはハロゲン原子を有する炭化水素基を表す。R13,R14は、同一であっても、異なってもよい。
【0028】
13,R14,R15,R16の具体的な例としては、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、tert.-アミル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、アダマンチル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル等の炭化水素基;シクロブテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル、1-アダマンチル、フェニル、トリル、キシリル、エチルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル、ナフチル、アントラセニル、ベンジル、フェニルエチル等の炭化水素基;メトキシメチル、エトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、フェノキシ、フェニルジオキシ、o-メトキシフェニル、m-メトキシフェニル、p-メトキシフェニル、2,6-ジメトキシフェニル、2-フリル等の酸素原子含有炭化水素基;o-フルオロフェニル、m-フルオロフェニル、p-フルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、o-クロロフェニル、m-クロロフェニル、p-クロロフェニル、o-ブロモフェニル、m-ブロモフェニル、p-ブロモフェニル、o-ヨードフェニル、m-ヨードフェニル、p-ヨードフェニル、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル等のハロゲン原子含有炭化水素基;o-ジメチルアミノフェニル、m-ジメチルアミノフェニル、p-ジメチルアミノフェニル、o-ジエチルアミノフェニル、m-ジエチルアミノフェニル、p-ジエチルアミノフェニル等の窒素原子含有炭化水素基等を挙げることができる。
【0029】
これらの中でもR13,R14,R15,R16は、フェニル、トリル、キシリル、エチルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル、ナフチル、アントラセニル、ベンジル、フェニルエチル等の炭化水素基、o-フルオロフェニル、m-フルオロフェニル、p-フルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、o-クロロフェニル、m-クロロフェニル、p-クロロフェニル、o-ブロモフェニル、m-ブロモフェニル、p-ブロモフェニル、o-ヨードフェニル、m-ヨードフェニル、p-ヨードフェニル、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル等のハロゲン原子含有炭化水素基等が好ましい。特に好ましくは、フェニル、トリル、o-フルオロフェニル、m-フルオロフェニル、p-フルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル等である。
【0030】
上記式(6)で表されるホスフィノ基の具体例としては、ジメチルホスフィノ、ジエチルホスフィノ、ジn-プロピルホスフィノ、ジイソプロピルホスフィノ、ジn-ブチルホスフィノ、ジイソブチルホスフィノ、ジsec-ブチルホスフィノ、ジtert.-ブチルホスフィノ、ジシクロブチルホスフィノ、ジn-ペンチルホスフィノ、ジtert.-アミルホスフィノ、ジシクロペンチルホスフィノ、ジn-ヘキシルホスフィノ、ジn-オクチルホスフィノ、ジシクロヘキシルホスフィノ、ジ(メチルシクロヘキシル)ホスフィノ、ジn-ヘプチルホスフィノ、ジシクロブテニルホスフィノ、ジシクロペンタジエニルホスフィノ、ジシクロヘキセニルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、ジトルイルホスフィノ、トリ-o-トリルホスフノ、トリ-m-トリルホスフィノ、トリ-p-トリルホスフィノ、トリチェニルホスフィノ、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィノ、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィノ、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィノ、トリス(2-フリル)ホスフィノ、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ、ジキシレニルホスフィノ、ジエチルフェニルホスフィノ、ジイソプロピルフェニルホスフィノ、ジブチルフェニルホスフィノ、ジナフチルホスフィノ、ジアントラセニルホスフィノ、ジベンジルホスフィノ、ジ(フェニルエチル)ホスフィノ、エチルフェニルホスフィノ、tert.-ブチルフェニルホスフィノ、シクロヘキシルフェニルホスフィノ、シクロヘキシルフェニルホスフィノ、フェニルメチルホスフィノ、フェニルエチルホスフィノ、フェニルイソプロピルホスフィノ、フェニルシクロヘキシルホスフィノ、フェニル-2-ピリジルホスフィノ、ジフェニル-1-ピレニルホスフィノ、tert.-ブチル(ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ、tert.-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィノ、(4-フルオロフェニル)フェニルホスフィノ、ジ(4-フルオロフェニル)ホスフィノ、(2-ブロモフェニル)フェニルホスフィノ、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィノ、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィノ、ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノ、ビス[(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ等が挙げられる。
【0031】
上記式(7)で表されるホスフィニル基の具体例としては、ジメチルホスフィニル、ジエチルホスフィニル、ジn-プロピルホスフィニル、ジイソプロピルホスフィニル、ジn-ブチルホスフィニル、ジイソブチルホスフィニル、ジsec-ブチルホスフィニル、ジtert.-ブチルホスフィニル、ジシクロブチルホスフィニル、ジn-ペンチルホスフィニル、ジtert.-アミルホスフィニル、ジシクロペンチルホスフィニル、ジn-ヘキシルホスフィニル、ジn-オクチルホスフィニル、ジシクロヘキシルホスフィニル、ジ(メチルシクロヘキシル)ホスフィニル、ジn-ヘプチルホスフィニル、ジシクロブテニルホスフィニル、ジシクロペンタジエニルホスフィニル、ジシクロヘキセニルホスフィニル、ジフェニルホスフィニル、ジトルイルホスフィニル、トリ-o-トリルホスフニル、トリ-m-トリルホスフィニル、トリ-p-トリルホスフィニル、トリチェニルホスフィニル、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(2-フリル)ホスフィニル、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィニル、ジキシレニルホスフィニル、ジエチルフェニルホスフィニル、ジイソプロピルフェニルホスフィニル、ジブチルフェニルホスフィニル、ジナフチルホスフィニル、ジアントラセニルホスフィニル、ジベンジルホスフィニル、ジ(フェニルエチル)ホスフィノ、エチルフェニルホスフィニル、tert.-ブチルフェニルホスフィニル、シクロヘキシルフェニルホスフィニル、シクロヘキシルフェニルホスフィニル、フェニルメチルホスフィニル、フェニルエチルホスフィニル、フェニルイソプロピルホスフィニル、フェニルシクロヘキシルホスフィニル、フェニル-2-ピリジルホスフィニル、ジフェニル-1-ピレニルホスフィニル、tert.-ブチル(ジメチルアミノフェニル)ホスフィニル、tert.-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィニル、(4-フルオロフェニル)フェニルホスフィニル、ジ(4-フルオロフェニル)ホスフィニル、(2-ブロモフェニル)フェニルホスフィニル、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィニル、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィニル、ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィニル、ビス[(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィニル等が挙げられる。
【0032】
その中でも、ホスフィニル基が好ましく、特に好ましくは、ジsec-ブチルホスフィニル、ジtert.-ブチルホスフィニル、ジシクロブチルホスフィニル、ジn-ペンチルホスフィニル、ジtert.-アミルホスフィニル、ジシクロペンチルホスフィニル、ジn-ヘキシルホスフィニル、ジn-オクチルホスフィニル、ジシクロヘキシルホスフィニル、ジ(メチルシクロヘキシル)ホスフィニル、ジn-ヘプチルホスフィニル、ジシクロブテニルホスフィニル、ジシクロペンタジエニルホスフィニル、ジシクロヘキセニルホスフィニル、ジフェニルホスフィニル、ジトルイルホスフィニル、トリ-o-トリルホスフニル、トリ-m-トリルホスフィニル、トリ-p-トリルホスフィニル、トリチェニルホスフィニル、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィニル、トリス(2-フリル)ホスフィニル、トリス(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィニル、ジキシレニルホスフィニル、ジエチルフェニルホスフィニル、ジイソプロピルフェニルホスフィニル、ジブチルフェニルホスフィニル、ジナフチルホスフィニル、ジアントラセニルホスフィニル、ジベンジルホスフィニル、ジ(フェニルエチル)ホスフィノ、エチルフェニルホスフィニル、tert.-ブチルフェニルホスフィニル、シクロヘキシルフェニルホスフィニル、シクロヘキシルフェニルホスフィニル、フェニルメチルホスフィニル、フェニルエチルホスフィニル、フェニルイソプロピルホスフィニル、フェニルシクロヘキシルホスフィニル、フェニル-2-ピリジルホスフィニル、ジフェニル-1-ピレニルホスフィニル、tert.-ブチル(ジメチルアミノフェニル)ホスフィニル、tert.-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィニル、(4-フルオロフェニル)フェニルホスフィニル、ジ(4-フルオロフェニル)ホスフィニル、(2-ブロモフェニル)フェニルホスフィニル、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィニル、(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィニル、ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィニル、ビス[(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィニルである。
【0033】
~R10としては、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、又はホスフィンオキシド基が好ましく、特に好ましくはホスフィンオキシド基である。
上記式(1)、(2)におけるxは、好ましくは0~5の整数、より好ましくは、0~3の整数、更に好ましくは、0又は1の整数を表す。
【0034】
上記式(1)で示されるカルベン化合物の具体例としては、下記式1-1~式1-23のイミダゾリリデンカルベン化合物が挙げられる。
【化12】
【0035】
【化13】
【0036】
【化14】
【0037】
上記式1-1~式1-23の中でも、式1-10で表される、下記式(3)で表される1,3-ジメシチルイミダゾリリデンカルベン化合物が好ましい。
【化15】
【0038】
また、式(1)で示されるカルベン化合物としては、下記式1-24~式1-27のイミダゾリリデンカルベン化合物が挙げられる。
【0039】
【化16】
【0040】
上記式1-24~式1-27の中でも、上記式1-26で示される、下記式(4)で示される1,3-ビス(3,5-ジ-tert.-ブチル-2-ヒドロキシベンジル)イミダゾリリリデンカルベン化合物が好ましい。
【化17】
【0041】
更に、式(1)で示されるカルベン化合物としては、ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物を挙げることができる。具体的には、下記式1-28~式1-34のホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベンが挙げられる。
【化18】
【0042】
上記式1-28~式1-34の中では、式1-28で示される、下記式(5)で示される1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデン、式1-33で示される1,3-ビス(3-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデン、又は式1-34で示される1,3-ビス(4-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデンが好ましい。
【化19】
【0043】
上記式(1)の具体例の式1-1~式1-34の中でも、式1-10~式1-32が好ましく、特に好ましくは式1-24~式1-32である。特に、ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物である式1-28~式1-34が好ましい。
【0044】
本発明のセリウム錯体は、三価のセリウムとカルベン化合物とを含むが、それぞれの構成成分である3価のセリウムとカルベン化合物は、いずれも、単独でもまたは2種以上であってもよい。
本発明のセリウム錯体における三価のセリウムとカルベン化合物の含有量は、三価のセリウム1molに対し、カルベン化合物が、0.0001~1,000,000molが好ましく、特に好ましくは0.001~100,000molである。
【0045】
本発明のセリウム錯体の製造方法について説明する。
本発明のセリウム錯体は、三価のセリウムとカルベン化合物とを反応させることにより製造されるが、その具体的な手段については、特に限定はされるものではない。例えば、三価のセリウム塩を不活性溶媒に溶解、若しくは分散させた液に対して、カルベン化合物を添加、混合し、反応させることで三価のセリウムとカルベン化合物を含むセリウム錯体を合成することができる。
【0046】
上記三価のセリウム塩としては、例えば、フッ化セリウム(III)、塩化セリウム(III)、臭化セリウム(III)、沃化セリウム(III)、硫酸セリウム(III)、硝酸セリウム(III)、リン酸セリウム(III)、炭酸セリウム(III)、過塩素酸セリウム(III)、酢酸セリウム(III)、2-エチルヘキサン酸セリウム(III)、ステアリン酸セリウム(III)、シュウ酸セリウム(III)、2,4-ペンタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロアセチルアセトナトセリウム(III)、6,6,7,7,8,8,8-ヘプタフルオロ-2,2-ジメチル-3,5-オクタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)、1,2,3,4-テトラメチル-2,4-シクロペンタジエニルセリウム(III)等の無水物及び水和物を使用することができる。
【0047】
また、三価のセリウム塩としては、下記式(8)で表されるシラザンアニオン配位セリウム化合物を使用することができる。
【化20】
式(8)中、R17は、炭素数1~20の炭化水素基を表し、2つ以上のR17は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0048】
17の具体的な例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、tert.-アミル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル;シクロブテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル、1-アダマンチル;フェニル、トルイル、キシレニル、エチルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル、ナフチル、アントラセニル、ベンジル、フェニルエチル等を挙げることができる。
【0049】
17は、なかんずく、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、tert.-アミル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、n-ヘプチル、シクロブテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、フェニル、トルイル等炭素数7以下の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、環状アリール基が好ましい。特に好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert.-ブチル等の炭素数4以下のアルキル基である。
【0050】
上記式(8)のシラザンアニオン配位セリウム化合物の具体例としては、例えば、下記の式8-1~式8-15で表されるものが挙げられる。中でも、式8-1、式8-7~式8-12が好ましい。
【0051】
【化21】
【0052】
三価のセリウム塩としては、好ましくは、2,4-ペンタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロアセチルアセトナトセリウム(III)、6,6,7,7,8,8,8-ヘプタフルオロ-2,2-ジメチル-3,5-オクタンジオナトセリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)、1,2,3,4-テトラメチル-2,4-シクロペンタジエニルセリウム(III)、上記式(8)のシラザンアニオン配位セリウム化合物である。特に好ましくは、上記式(8)のシラザンアニオン配位セリウム化合物である
【0053】
反応媒体として使用できる不活性溶媒は、特に限定されるものでなく、例えば、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-デカン等の飽和炭化水素;トルエン、キシレン、デセン-1等の不飽和炭化水素;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、tert.-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert.-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール;アセトニトリル、オクタノニトリル、デカノニトリル、ペンタデカノニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルりん酸トリアミド等のヘテロ原子含有溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン含有溶媒等が挙げられる。また、これらの混合溶媒も使用できる。
【0054】
三価のセリウムとカルベン化合物を含むセリウム錯体を製造する際の反応温度については、工業的に使用されている温度である-100~200℃の範囲が好ましく、特に好ましくは-85~150℃の範囲である。反応の圧力条件は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれであっても可能である。
また、三価のセリウム塩とカルベン化合物を反応させる際、カルベン化合物の使用量は、三価のセリウム塩中のセリウム含有量1molに対し、0.0001mol~1,000,000molが好ましく、特に好ましくは0.001mol~100,000molの範囲である。この範囲を外れると発光強度が低下したり、耐久性や発光寿命が低下する場合がある。
【0055】
不活性溶媒中の反応により得られる三価のセリウムとカルベン化合物とを含むセリウム錯体は、そのまま用いてもよく、ガラスフィルター、焼結多孔体等を用いた濾過、昇華、再結晶、またはシリカ、アルミナ、高分子ゲルを用いたカラム分離等の精製手段を用いて精製することもできる。精製手段は、この際、必要に応じてこれらの手段を組み合わせて使用してもよい。
本発明のセリウム錯体組成物は、上記の不活性溶媒、三価のセリウム塩、カルベン化合物などの化合物等を含むセリウム錯体組成物であってもよい。
【0056】
次に、本発明のセリウム錯体の製造における好ましい新規なカルベン化合物である、ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物について説明する。
ホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物としては、例えば、上記式1-28~式1-34等が挙げられ、その中でも、上記式1-28(式(5))で示される1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデン、上記式1-33で示される1,3-ビス(3-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデン、上記式1-34で示される1,3-ビス(4-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデンが好ましい。特に好ましくは、上記式1-28で示され、上記式(5)で示される1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリリデンである。
【0057】
ホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物は、ホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物とイミダゾール化合物を反応させることにより製造することができる。
ホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物の具体例としては、下記式9-1~式9-34の化合物が挙げられる。式9-1~式9-34におけるXは、塩素、臭素、又は沃素であり、好ましくは、塩素又は臭素であり、特に好ましくは、臭素である。
【0058】
【化22】
【0059】
【化23】
【0060】
【化24】
【0061】
【化25】
【0062】
【化26】
【0063】
ホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物としては、(2-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(ヨードメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(ヨードメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(ヨードメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(ヨードメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(ヨードメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(ヨードメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(ヨードメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(ヨードメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(ヨードメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(ヨードメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(ヨードメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(ヨードメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(2-(ヨードメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(ヨードメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(ヨードメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド等を挙げることができる。
【0064】
上記のホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物のうち、好ましくは、(2-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(クロロメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシドである。
【0065】
なかでも、特に好ましくは、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジナフチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジイソプロピルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジtert.-ブチルホスフィンオキシド、(2-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(3-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシド、(4-(ブロモメチル)フェニル)ジシクロヘキシルホスフィンオキシドである。
【0066】
一方、イミダゾール化合物としては、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール、5-tert.-ブチルベンゾイミダゾール、ヘキサヒドロベンゾイミダゾール等が挙げられる。その中でも、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール等が好ましく、特に好ましくは、イミダゾール、ベンゾイミダゾール等である。
【0067】
上記のホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物とイミダゾール化合物の反応条件は、特に限定されるものではないが、上述した不活性溶媒中で、ホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物を、イミダゾール1molに対し、2.0mol以上の量論比で反応させることが好ましい。その反応温度については、工業的に使用されている温度である-100~200℃の範囲が好ましく、特に好ましくは-85~150℃の範囲である。反応の圧力条件は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれであっても可能である。
【0068】
上記のようにして製造される、例えば、下記式(9)の例に示されるホスフィニル基を有するイミダゾリウムハライド化合物は、塩基性条件下等において、ハロゲン化水素を脱離反応させることでホスフィニル基を有するイミダゾリリデンカルベン化合物とすることができる。このハロゲン化水素を脱離反応は、セリウム錯体の調製前に予め行ってもよいし、セリウム錯体の調製中に行ってもよい。その反応条件は、上述のホスフィニル基を有する芳香族ハライド化合物とイミダゾール化合物の反応条件と同様の条件を用いることができる。
なお、上記で用いることができる塩基としては、ブチルリチウム、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウム化合物、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシ等のナトリウム化合物が挙げられる。
【0069】
【化27】
【実施例
【0070】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、蛍光発光測定は、日立ハイテクノロジーズ社製F-4500蛍光分光光度計を用いて行なった。
【0071】
実施例1
[イミダゾリウムハライド化合物の合成]
還流冷却器及び攪拌装置を備えた50mLの三口フラスコに、アルゴン気流下で金属マグネシウム粉0.32g(13mmol)、及びヨウ素を3.3mg(0.013mmol)を仕込み、8時間撹拌した。次いで、2-ブロモトルエン1.9g(11mmol)をテトラヒドロフラン(THF)10mlに溶解させた溶液を滴下濾斗より滴下した。滴下終了後、THF還流下で3時間攪拌した。
得られた2-トルイルマグネシウムブロミドのTHF溶液を-78℃まで冷却し、クロロジフェニルホスフィン3.3g(15mmol)をTHF2mlに溶解させた溶液を添加した後、室温まで昇温し、8時間撹拌した。
【0072】
得られた反応混合液から析出したクロロマグネシウムブロミドをガラスフィルターにより濾別し、純水5mlと飽和食塩水5mlで洗浄した。この粗ジフェニル(2-トルイル)ホスフィン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、THFを留去し、真空乾燥して黄色油状の粗ジフェニル(2-トルイル)ホスフィンを得た。得られた粗ジフェニル(2-トルイル)ホスフィンをフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン)で精製し、ジフェニル(2-トルイル)ホスフィン0.88g(3.2mmol)を得た。
【0073】
このジフェニル(2-トルイル)ホスフィン0.86g(3.1mmol)をクロロホルム5mlに溶解させた溶液を、攪拌装置を備えた30mLのナスフラスコに仕込み、氷浴で冷却し、滴下濾斗より34.5%の過酸化水素水6.1g(62mmol)を滴下し、40分間撹拌した。分液濾斗にて有機層を分離した後、水層をクロロホルム5mlで5回洗浄した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、クロロホルムを留去し、真空乾燥して黄色固体の粗ジフェニル(2-トルイル)ホスフィンオキシドを得た。得られた粗ジフェニル(2-トルイル)ホスフィンオキシドを酢酸エチル/n-ヘキサンに溶解し、再結晶精製して、ジフェニル(2-トルイル)ホスフィンオキシドの白色固体0.91g(3.1mmol)を得た。
【0074】
このジフェニル(2-トルイル)ホスフィンオキシドの白色固体0.91g(3.1mmol)、四塩化炭素20ml、N-ブロモスクシンイミド0.56g(3.2mmol)、及びアゾビスイソブチロニトリル0.051g(0.31mmol)を、還流冷却器及び攪拌装置を備えた50mLの三口フラスコに、アルゴン気流下で仕込み、四塩化炭素の還流下、4時間撹拌した。得られた反応混合液を純水20mlで3回と飽和食塩水20mlで1回洗浄した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、四塩化炭素を留去し、真空乾燥し、黒橙色油状の粗2-ジフェニルホスフィニル-ベンジルブロミドを得た。これをフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン)で精製し、2-ジフェニルホスフィニル-ベンジルブロミド0.50g(1.3mmol)を得た。
【0075】
上記o-ジフェニルホスフィニル-ベンジルブロミド0.054g(0.15mmol)、イミダゾール0.0050g(0.073mmol)、炭酸水素ナトリウム0.0070g(0.0083mmol)、及びTHF1.0mlを、還流冷却器及び攪拌装置を備えた20mlのシュレンク管に仕込み、THF還流下で3時間攪拌した。得られた反応混合液を分液濾斗により、クロロホルム10mlで3回抽出し、飽和食塩水10mlで1回洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、真空乾燥して、黄色油状の粗1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミドを得た。これをクロロホルム/n-ヘキサンに溶解し、再結晶精製して、1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミドの黄色固体0.016g(0.022mmol)を得た。これをH-N M Rで分析した結果は、以下の通りであった。
H-N M R(CDCl,300MHz);δ5.73ppm(s,4H),δ7.01ppm(m,2H),δ7.32ppm(m,2H),δ7.45~7.67ppm(m,22H),7.91ppm(d,J=1.5Hz,2H),8.13(m,2H),11.26ppm(s,1H)
【0076】
実施例2
[カルベン化合物のその場合成、三価のセリウムと式(5)のカルベン化合物(1-28)を含むセリウム錯体の調製]
20mlのシュレンク管に、トルエン5ml、三塩化セリウム99mg(0.40mmol)、及びリチウムビス(トリメチルシリル)アミドの1.3mol/L-THF溶液5.0ml(6.5mmol)を混合し、三価セリウム溶液(セリウム濃度0.040mmol/ml)とした。
この三価セリウム溶液1.0ml(0.040mmol)と実施例1で合成した1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミド192mg(0.26mmol)を、20mlのシュレンク管に仕込み、撹拌し、三価のセリウムと式(5)カルベン化合物(1-28)を含むセリウム錯体とした。λex=365nmの励起光で励起し、蛍光スペクトルを測定したところ、λem=537nmをピークとする、半値幅=Δ213nmの発光スペクトルを得た。
【0077】
実施例3
[イミダゾリウムハライド化合物の合成]
攪拌装置を備えた100mLの三口フラスコに、3,5-ジ-tert.-ブチルサリチルアルデヒド2.0g(8.5mmol)、エタノール28ml、及び水素化ホウ素ナトリウム0.18g(4.8mmol)をアルゴン気流下で仕込み、室温で30分間撹拌した。エタノールを留去した後、純水を加え、更に酢酸によりpHを2に調整した後、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、酢酸エチルを留去、真空乾燥して粗2,4-ジ-tert.-ブチル-6-ヒドロキシメチルフェノールを得た。これをヘキサンに溶解し、再結晶精製して、2,4-ジ-tert.-ブチル-6-ヒドロキシメチルフェノールの白色針状結晶1.2g(5.1mmol)を得た。
【0078】
この2,4-ジ-tert.-ブチル-6-ヒドロキシメチルフェノール0.73g(3.1mmol)及びトルエン3mlを、攪拌装置を備えた35mlのシュレンク管に仕込み、塩化チオニル0.56g(4.7mmol)を加え、室温で45分間撹拌した。トルエンを留去し、真空乾燥して2,4-ジ-tert.-ブチル-6-クロロメチルフェノールの白色固体0.78g(3.1mmol)を得た。
一方、還流冷却器、攪拌装置を備えた20mlのシュレンク管にイミダゾール0.017g(0.25mmol)、炭酸水素ナトリウム0.021g(0.25mmol)及びTHF1.0mlを仕込み、次いで、上記で得た2,4-ジ-tert.-ブチル-6-クロロメチルフェノール0.14g(0.55mmol)をTHF0.6mlに溶解した溶液を加え、THF還流下で90分間攪拌した。得られた反応混合液を分液濾斗により、クロロホルム10mlで3回抽出し、飽和食塩水10mlで1回洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、真空乾燥して、黄色固体の粗1,3-ビス(3,5-ジ-tert.-ブチル-2-ヒドロキシベンジル)イミダゾリウムクロライドを得た。これをジエチルエーテルに懸濁し、ガラスフィルターでろ過し、ジエチルエーテルで3回洗浄した後、真空乾燥して1,3-ビス(3,5-ジ-tert.-ブチル-2-ヒドロキシベンジル)イミダゾリウムクロリドの白色固体0.085g(0.16mmol)を得た。これをH-N M Rで分析した結果は、以下の通りであった。
H-N M R(CDCl,300MHz);δ1.27ppm(s,18H),δ1.39ppm(s,18H),δ5.53ppm(s,4H),7.06ppm(d,J=2.4Hz,2H),δ7.09ppm(s,2H),7.36ppm(d,J=2.4Hz,2H),δ7.76ppm(s,2H),δ9.51ppm(s,1H)
【0079】
実施例4
[カルベン化合物のその場合成、三価のセリウムと式(4)のカルベン化合物(1-26)を含むセリウム錯体の調製]
実施例1において、1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミド192mg(0.26mmol)に変えて、実施例3で合成した1,3-ビス(3,5-ジ-tert.-ブチル-2-ヒドロキシベンジル)イミダゾリウムクロリド130mg(0.24mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に実施することにより、三価のセリウムと式(4)カルベン化合物(1-26)を含むセリウム錯体を調製した。その蛍光スペクトルを測定した結果、発光スペクトルは、ピーク波長λem=481nm、半値幅=Δ129nmであった。
【0080】
実施例5
[カルベン化合物のその場合成、三価のセリウムと式(3)のカルベン化合物(1-10)を含むセリウム錯体の調製]
実施例1において、1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミド192mg(0.26mmol)に変えて、式(3)のカルベン化合物(1-10)原料の1,3-ジメシチルイミダゾリウムクロリド82mg(0.24mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に実施することにより、イミダゾリウムハライド化合物を得た。このイミダゾリウムハライド化合物を用いて実施例2と同様に反応させることにより、三価のセリウムと式(3)のカルベン化合物(1-10)を含むセリウム錯体を調製した。こその蛍光スペクトルを測定した結果、発光スペクトルは、ピーク波長λem=466nm、半値幅=Δ177nmであった。
【0081】
比較例1
実施例2において、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドと1,3-ビス(2-(ジフェニルホスフィニル)ベンジル)イミダゾリウムブロミドを加えなかったこと以外、実施例1と同様にしてカルベン化合物を含まないセリウム錯体を調製した。その蛍光スペクトルを測定したが、目視で観測可能な可視光領域での発光は観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のセリウム錯体は、LED用蛍光体、有機EL発光層材料、太陽電池デバイス波長変換材料、農業施設用波長変換フィルム、酸化還元反応用光触媒の光増感剤として広範な分野に使用できる。