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特許7100320Fe基焼結体、Fe基焼結体の製造方法、および熱間プレス用金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】Fe基焼結体、Fe基焼結体の製造方法、および熱間プレス用金型
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/02 20060101AFI20220706BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C22C33/02 103C
B22F3/14 101B
C22C33/02 103G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018148885
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023733
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松木 一弘
(72)【発明者】
【氏名】柯 雨蛟
(72)【発明者】
【氏名】許 哲峰
(72)【発明者】
【氏名】杉尾 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】崔 龍範
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 元
(72)【発明者】
【氏名】末次 元
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山根 響太郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 健一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 敬三
(72)【発明者】
【氏名】板岡 毅
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 晋作
(72)【発明者】
【氏名】田村 庸
(72)【発明者】
【氏名】猪 一郎
(72)【発明者】
【氏名】平尾 嘉英
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-029965(JP,B1)
【文献】特開2000-273503(JP,A)
【文献】特開平03-017246(JP,A)
【文献】特開昭49-098307(JP,A)
【文献】特開平02-263947(JP,A)
【文献】特開昭62-177159(JP,A)
【文献】米国特許第06652616(US,B1)
【文献】特開2018-053308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とするマトリックスと、該マトリックス中に分散した分散相とを有するFe基焼結体であって、
前記マトリックスは、ネットワーク状に形成されているとともに、αFeを含んでおり、
前記分散相は、TiCを含み、
前記分散相は、前記TiCを含有する、リング形状若しくはリング様形状の硬質相を含むことを特徴とするFe基焼結体。
【請求項2】
前記分散相は、周方向に対して垂直な方向の幅が1.0μm以下である前記硬質相を含むことを特徴とする請求項に記載のFe基焼結体。
【請求項3】
Feを主成分とするマトリックスと、該マトリックス中に分散した分散相とを有するFe基焼結体であって、
前記マトリックスは、ネットワーク状に形成されているとともに、αFeを含んでおり、
前記分散相は、TiCを含み、
前記分散相は、前記TiCを含有する、長手方向に対して垂直な方向における幅が1.0μm以下の硬質相を含むことを特徴とするFe基焼結体。
【請求項4】
Feを主成分とするマトリックスと、該マトリックス中に分散した分散相とを有するFe基焼結体であって、
前記マトリックスは、ネットワーク状に形成されているとともに、αFeを含んでおり、
前記分散相は、TiCを含み、
前記分散相は、TiBを含有する第1の副相およびFeBを含有する第2の副相をさらに含むことを特徴とするFe基焼結体。
【請求項5】
Feを主成分とするマトリックスと、該マトリックス中に分散した分散相とを有するFe基焼結体であって、
前記マトリックスは、ネットワーク状に形成されているとともに、αFeを含んでおり、
前記分散相は、TiCを含み、
硬度が50HRC以上、かつ熱伝導率が40W/(m・K)以上であることを特徴とするFe基焼結体。
【請求項6】
Fe粉末とTiB粉末とを含む混合粉末を加圧成形してなる成形体を、グラファイト製の加圧部材を用いて加圧しつつ加熱して焼結する焼結工程を含み、
前記焼結工程では、
15MPa以上の圧力で加圧し、1323K以上の温度で加熱することにより、前記TiBの少なくとも一部を分解するとともに、Feを主成分としてTiを含むネットワーク状のマトリックスを形成し、
前記マトリックスはαFeを含み、
前記TiBに由来するTiと前記加圧部材に由来するCとの反応により、前記マトリックス中に分散したTiCを生成させるように焼結することを特徴とするFe基焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記焼結工程では、放電焼結法により焼結することを特徴とする請求項に記載のFe基焼結体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のFe基焼結体を用いて製造された熱間プレス用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe基焼結体、Fe基焼結体の製造方法、および熱間プレス用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の車体部品等の製造に熱間プレス技術が用いられている。熱間プレス技術では、鋼板を加熱した状態にて、熱間プレス用金型を用いて当該鋼板をプレスすることにより成形(プレス成形)を行う。このプレス成形の際に急冷(焼入れ)することによって鋼を硬化させる。このような熱間プレス技術は、超高張力鋼を用いた製品(部品)を製造する場合に、成形精度および成形後の強度を確保するために重要な技術となってきている。
【0003】
上記熱間プレス用金型に求められる性能としては、繰返し使用することができる高い耐久性(高寿命化)および高い冷却性能が挙げられる。冷却性能が高いほどプレス成形の1サイクルの時間を短くすることができる。つまり、熱間プレス用金型は、硬度が高く、かつ熱伝導率が高い材料により形成されていることが要望される。
【0004】
特許文献1には、工具鋼の室温での熱伝導率を向上させる技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-221941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、熱間プレス用金型の材料として例えばSKD61が知られている。この材料は、ロックウェル硬さで50HC程度の硬度を有する。一方で、該材料の熱伝導率は24W/(m・K)程度であり、熱伝導率の更なる向上が求められている。しかし、通常、材料の特性として、高い硬度を有することと高い熱伝導率を有することとは互いにトレードオフの関係にある。そのため、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備する材料を得ることは困難である。
【0007】
特許文献1には、鋼の内部組織を冶金学的に定義することにより、室温での熱伝導率を向上させた工具鋼について記載されている。しかし、鋼の内部組織を精密に制御することは難しく、上記工具鋼は安定して製造し難いという問題を有している。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するとともに、より安定して製造可能なFe基焼結体(熱間プレス用金型の材料)を提供することを目的とする。また、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を、より安定して製造できるFe基焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るFe基焼結体は、Feを主成分とするマトリックスと、該マトリックス中に分散した分散相とを有するFe基焼結体であって、前記マトリックスは、ネットワーク状に形成されているとともに、αFeを含んでおり、前記分散相は、TiCを含む。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るFe基焼結体の製造方法は、Fe粉末とTiB粉末とを含む混合粉末を加圧成形してなる成形体を、グラファイト製の加圧部材を用いて加圧しつつ加熱して焼結する焼結工程を含み、前記焼結工程では、15MPa以上の圧力範囲で加圧し、1323K以上の温度で加熱することにより、前記TiBの少なくとも一部を分解するとともに、Feを主成分としてTiを含むネットワーク状のマトリックスを形成し、前記マトリックスはαFeを含み、前記TiBに由来するTiと前記加圧部材に由来するCとの反応により、前記マトリックス中に分散したTiCを生成させるように焼結する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するとともに、より安定して製造可能なFe基焼結体を提供することができる。また、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を、より安定して製造できるFe基焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態におけるFe基焼結体の組織について電子顕微鏡を用いて観察して得た反射電子像である。
図2】(a)は図1に示す反射電子像の模式図であり、(b)は(a)に示す模式図の一部を拡大して示す図である。
図3】本発明の一実施形態におけるFe基焼結体の、組織を観察可能となるように研磨した試料を観察することにより得た反射電子像であり、(a)は試料表面、(b)は試料断面を観察した反射電子像である。
図4】(a)は焼結温度が1273K~1423Kの条件で作製した粉末試料のX線回折パターンの一例を示す図であり、(b)は上記(a)に示すX線回折パターンにおける回折角2θが35°前後、(c)は上記(a)に示すX線回折パターンにおける回折角2θが45°前後を拡大して示す図である。
図5】(a)は焼結温度が1373Kの条件で作製した試料の反射電子像における、局所的なWDXを行った箇所を示す図であり、(b)はWDXを行った8箇所の組成分析結果を示す表である。
図6】第1の実施例および比較例における各試料の試験結果をまとめて示す表である。
図7】(a)は焼結温度が1373K、保持時間が略0秒~600秒の条件で作製した粉末試料のX線回折パターンの一例を示す図であり、(b)は上記(a)に示すX線回折パターンにおける回折角2θが35°前後、(c)は上記(a)に示すX線回折パターンにおける回折角2θが45°前後を拡大して示す図である。
図8】第2の実施例における各試料の試験結果をまとめて示す表である。
図9】(a)は純Fe:TiBの比率を質量比で80:20として作製した試料の組織について、電子顕微鏡を用いて観察して得た反射電子像であり、(b)は該試料の試験結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照し詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0014】
以下の説明においては、本発明の実施の形態におけるFe基焼結体およびその製造方法の詳細な説明に先立って、本発明の知見について概略的に説明する。
【0015】
(発明の知見の概要)
一般に、合金工具鋼(例えば、SKD61)は、特定の化学成分を有するとともに各種の熱処理が施されることにより、所望の性能を実現させている。例えば、鋼中に多様な微細組織が形成される。そのような微細組織は、鋼の硬度を向上させるように作用する一方で、熱伝導を妨害する作用を有する。通常、物質は、硬度が高いほど、電子伝導性やフォノン伝導性が低いため熱伝導性に劣る。
【0016】
特許文献1には、鋼のマトリックス中の炭素およびクロムの含有量を低減させるとともに、分散相である炭化物のフォノン伝導性を高めることによって、工具鋼の室温での熱伝導率を向上させる技術が記載されている。しかし、鋼の内部組織は、成分組成、熱処理、および他の種々の条件の影響を大きく受けて様々に変化し得るため、鋼の内部組織を所望の状態に安定して制御することは容易ではない。
【0017】
本発明者らは、従来とは別のアプローチによって、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備し、かつ製造の安定性を高めることができる材料を創製することを試みた。鋭意検討を行い、純鉄(Fe)とホウ化チタン(TiB)との混合粉末を焼結させて製造したFe基焼結体は、焼結条件を調節することによって、以下の性質を示すことを見出した。
【0018】
すなわち、炭素(C)を供給可能な条件かつ調節された条件下で焼結を行うことにより、微小領域での非平衡反応が生じ、その結果、Fe基焼結体中にTiCを含有する硬質相が生成する。この硬質相は、Feマトリックス中に好適に微細分散して得ることができる。
【0019】
また、Feマトリックスは、ネットワーク状の構造(網目状構造)を有しているとともにαFeを含み、熱伝導パスとして好適に機能することができる。なお、一般に、材料組織中にセメンタイト(FeC)が生成すると熱伝導率が低下し得る。その点、本発明の一態様におけるFe基焼結体は、原料として炭素含有量の少ない鉄を用いて製造されるとともに、TiBが分解する際、セメンタイトを生成するよりTiCが生成しやすい。そのため、本Fe基焼結体は、製造の際にセメンタイトの生成を抑制することができ、セメンタイトの含有量を低減することができる。
【0020】
これにより、高い硬度および高い熱伝導率を示すFe基焼結体を得ることができるという知見を得た。
【0021】
<Fe基焼結体>
本発明の一実施形態におけるFe基焼結体について、図1~5を用いて説明すれば、以下のとおりである。なお、本実施形態におけるFe基焼結体の製造方法の詳細については後述する。図1は、本実施形態のFe基焼結体の組織について電子顕微鏡を用いて観察して得た反射電子像である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のFe基焼結体は、Feを主成分とするマトリックス(基地)1と、各種の相を含む分散相とを含有している。本実施形態のFe基焼結体は、概略的には、上述のようにFeとTiBとの混合粉末を、Cが供給される条件下で焼結することにより形成(製造)される。そのため、上記分散相は、原料であるTiBを含む粒子状相(第1の副相)2と、TiBとCとの反応により生成した微細なTiCを含有する硬質相4とを含む。また、上記分散相はさらに、Feと、TiBから供給されたBとの反応によって生成したFeBを含有する副生成相(第2の副相)3を含む。
【0023】
本実施形態のFe基焼結体の組織について、図2を用いてさらに詳細に説明する。図2の(a)は、図1に示す反射電子像の模式図である。図2の(b)は、上記模式図の一部を拡大して示す図である。なお、図2において、マトリックス1は濃淡が最も薄い(白色の)領域、粒子状相2は濃淡が最も濃い(黒色の)領域として示している。また、副生成相3はマトリックス1よりも少し濃淡が濃い(薄い灰色の)領域、硬質相4は副生成相3と粒子状相2の間の濃淡である(濃い灰色の)領域として示している。
【0024】
(マトリックス1)
図2の(a)に示すように、マトリックス1は、Fe基焼結体に占める割合が最も多い相であって、ネットワーク状に形成されている。マトリックス1は、例えばFe基焼結体全体を100重量部として、Fe基焼結体に占める割合が75質量%以上であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。また、マトリックス1は、Feを主成分とする相であって、マトリックス1におけるFeの濃度が99原子パーセント(以下、at%と記載する)以上であり、好ましくは99.9at%以上である。マトリックス1は、αFeを含む。マトリックス1は、好ましくは大部分がαFeからなる。
【0025】
ネットワーク状とは、例えば図2の(a)に示すように組織を平面視した場合(断面を観察した場合)、網目状に連続した相が形成されていることを意味する。マトリックス1の網目状構造における網の隙間に、粒子状相2、副生成相3、および硬質相4が島状に分散し、Fe基焼結体の島状複合組織を形成している。また、マトリックス1は多結晶であることから、ネットワーク状の構造中に結晶粒界が存在する。Fe基焼結体は、焼結により形成されていることから、マトリックス1に多少の空隙(ボイド)が存在してもよい。マトリックス1は、濃度分布があってもよく、複数の相を有していてもよい。このようなマトリックス1は、熱伝導性に優れている。
【0026】
なお、図2の(a)は組織を平面視した模式図であるが、実際上、マトリックス1は3次元空間においてネットワーク状構造を有している。本実施形態のFe基焼結体において、マトリックス1は、熱伝導に効果的な連続的なパス(熱伝導経路)として機能することができる。
【0027】
また、マトリックス1は、セメンタイトの含有量が5質量%以下であってよく、好ましくは、1質量%以下である。マトリックス1は、αFeの含有量が70質量%以上であってよく、60質量%以上80質量%以下であってもよい。マトリックス1は、Cuの含有量が0.1質量%以下、およびSiの含有量が0.1質量%以下、の条件のうち少なくともいずれかを満たしていてもよく、その他の不純物が含まれていてもよい。ただし、このような不純物は、熱伝導率を低下させる、または炭化物の生成を促進する、といった作用を奏し得る。そのため、マトリックス1は、低い不純物含有量となるように製造されることが好ましい。
【0028】
(粒子状相2)
粒子状相2は、Fe基焼結体を製造する際に用いたTiB粉末に由来する相である。焼結反応後に残存した一部のTiB粉末が粒子状相2となる。そのため、Fe基焼結体における粒子状相2の存在割合は、焼結反応の条件によって変化する。それゆえ、粒子状相2の存在割合は特に限定されないが、例えば、粒子状相2は、例えばFe基焼結体に占める割合が10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上20質量%以下である。粒子状相2は、マトリックス1よりも高い硬度を有していることから、Fe基焼結体の硬度を向上させる。
【0029】
(副生成相3)
副生成相3は、上述のように、Feと、TiBから供給されたBとの反応によって生成したFeBを含有する相である。換言すれば、副生成相3は、焼結反応時に、TiCが生成する反応に伴ってTiBが分解することにより、副生成物として生成したFeBを含有する相である。図2の(a)から、副生成相3は、原料のTiB粉末が元々存在したであろう場所に形成されていることがわかる。また、同図から、副生成相3および粒子状相2の近傍に、後述する硬質相4が形成されていることがわかる。
【0030】
副生成相3は、マトリックス1よりも高い硬度を有していることから、Fe基焼結体の硬度を向上させる。
【0031】
(硬質相4)
反射電子像の一部を拡大して示す図2の(b)を用いて、硬質相4について説明する。
【0032】
図2の(b)に示すように、本実施形態における硬質相4は、特徴的な形状として、リング形状またはリング様形状を有している。本明細書において、リング形状またはリング様形状とは、完全な円形状のことだけでなく、図2の(b)に示す例のように歪んだ形の円形状(周方向に不規則に曲がった形状)をも含む意味で用いる。
【0033】
また、硬質相4は、図2の(b)に示す例のように周方向の端部が無く連続した輪(閉じた円)であってもよく、一部が開放した輪であってもよい。つまり、硬質相4は一端から他端に向かって延びる形状であってもよい。
【0034】
硬質相4は、周方向に垂直な方向の幅Lが1.0μm以下であり、好ましくは0.4μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上0.4μm以下である。上記幅Lは、以下のようにして測定することができる。すなわち、先ず、図2の(b)に示すように、例えば反射電子像における硬質相4の領域(濃い灰色の領域)と、他の相(例えばマトリックス1または副生成相3)の領域と、の境界を特定する。硬質相4の周方向に垂直な方向において、特定した上記境界に基づいて、硬質相4の幅Lを測定することができる。硬質相4は、マトリックス中に微細に分散した微細分散相ともいえる。
【0035】
なお、硬質相4は、図2の(a)に示すように、様々な形状であってもよく、紐状形状を有していてもよい。紐状形状である場合、硬質相4は、長手方向(一端から他端に向かって延びる方向)に対して垂直な方向の幅Lが、上述の条件を満たしていればよい。
【0036】
硬質相4は、硬度に非常に優れることが知られているTiCを含んでいる。そのため、本実施形態におけるFe基焼結体は、硬質相4を含むことにより、硬度を大きく向上させることができる。そして、上述のようにマトリックス1が熱伝導経路として機能する。その結果、本実施形態におけるFe基焼結体は、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備することができる。
【0037】
上記硬質相4は、焼結反応時に、圧粉体の周辺から内部へと拡散することにより供給されるCと、TiB粉末とが微小領域にて非平衡反応することによって形成される。よって、例えば鋼の組織を制御して合金工具鋼を製造する場合よりも、本実施形態のFe基焼結体は安定的に製造可能である。
【0038】
具体的には、本発明の一態様におけるFe基焼結体は、硬度が300HV(ビッカース硬さ)以上かつ熱伝導率が30W/(m・K)以上である。なお、300HV以上の硬度とは、ロックウェル硬さに概略的に換算して、30HRC以上と表現することもできる(換算式については後述)。
【0039】
なお、Fe基焼結体は、外部に露出する表面部と、表面部よりも中心側に存在する内部との間で、硬度に差があってもよい。本発明の一態様におけるFe基焼結体は、後述するような焼結時の反応に基づいて、表面部の方が内部よりも硬度が高くなる傾向にある。本明細書において、格別の記載がない限り「硬度」とは表面部の硬度のことを意味する。Fe基焼結体の特性(材料特性)として重要となるのは、表面部の硬度である。
【0040】
本発明の一態様におけるFe基焼結体は、硬度が400HV(40HRC)以上であってよく、525HV(50HRC)以上であってもよい。
【0041】
また、本発明の一態様におけるFe基焼結体は、熱伝導率が40W/(m・K)以上であってよく、45W/(m・K)以上であってもよく、50W/(m・K)以上であってもよい。本明細書において、格別の記載がない限り「熱伝導率」とは室温での熱伝導率のことを意味する。
【0042】
本発明の一態様におけるFe基焼結体は、硬度が525HV(50HRC)以上、かつ熱伝導率が40W/(m・K)以上である。
【0043】
<Fe基焼結体の製造方法>
以下に、本実施形態のFe基焼結体の製造方法について詳細に説明する。
【0044】
(原料)
Fe基焼結体の原料には、Feの微粉末とTiBの微粉末とを用いる。これらの微粉末の形状は特に限定されないが、後述する粉末混合工程において均一に混合された混合粉末を得るために、微細な粉末であることが好ましい。例えば、Feの微粉末は、平均粒径が10μm以下であってよく、3μm以上5μm以下であることが好ましい。また、例えば、TiBの微粉末は、平均粒径が5μm以下であってよく、2μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0045】
Feの微粉末は、炭素濃度が0.1質量%以下の純鉄の微粉末であることが好ましい。TiBの微粉末は、市販の標準的な純度のTiBの微粉末であってよい。
【0046】
(成形工程)
成形工程において、先ず、Feの微粉末とTiBの微粉末とを均一に混合する(混合工程)。この混合工程では、粉末を均一に混合することができればよく、その具体的な方法は特に限定されない。例えば、ボールミルを用いて粉末を混合してよく、遊星型ボールミルを用いることが好ましい。また、混合工程では、エタノール等を添加して湿式混合を行ってよく、乾式混合を行ってもよい。湿式混合を行った場合、使用したエタノール等を揮発させる乾燥工程を行う。乾燥工程における具体的な乾燥方法は特に限定されない。
【0047】
次いで、成形工程では、Feの微粉末とTiBの微粉末とを所望の割合(量比)で混合した混合粉末を成形(加圧成形)して成形体を得る。得られる成形体の密度や成形圧力は特に限定されない。なお、後述する焼結工程において、混合粉末を成形しつつ(成形工程を行いつつ)焼結を行うようになっていてもよい。
【0048】
(焼結工程)
本実施形態における焼結工程では、加圧しながら加熱することにより焼結を行う。このような焼結を行う方法としては、従来公知の固相焼結法を適宜選択して適用してよい。ただし、焼結条件(温度・圧力・雰囲気)については、上述のようなFe基焼結体が得られるように、適切に調整されることを要する。
【0049】
焼結工程では、例えば、グラファイト製の加圧部材を用いて加圧を行う。これにより、焼結時に該加圧部材に由来するCが成形体内部に侵入する。そのため、焼結反応が生じる反応場にCが供給されて、TiBとCとの反応により微小なTiCが生成する。
【0050】
より詳しくは、焼結工程では、以下のような反応が生じる。すなわち、先ず、原料のTiB微粉末の少なくとも一部を分解するとともに、Feの微粉末が互いに結合して、Feを主成分としてTiを含むネットワーク状のマトリックスを形成する。そして、TiB微粉末に由来するTiと、上記加圧部材等に由来するC(Fe中に元々存在するCであってもよい)との反応により、マトリックス1中に微細分散したTiCが生成する。また、焼結温度は、マトリックスにαFeを含み、γFeが生成し難い温度とする。そして焼結工程において、CはTiCを生成することに主に消費される。これにより、セメンタイトの生成を抑制して、Fe基焼結体を製造することができる。本実施形態におけるFe基焼結体の製造方法は、このような反応が生じる焼結工程を含む。
【0051】
このような反応を生じさせるために、焼結工程では、1323K以上の温度、および15MPa以上の圧力の条件とする。上記温度は、焼結装置に設定される焼結温度であって、換言すれば焼結工程における最高到達温度である。上記温度は、好ましくは、1373K以上であり、より好ましくは1423K以上である。また、上記温度は、1323K以上1447K以下であることが好ましい。これは、FeとFeBとが反応して液相となることを回避するためである。また、上記圧力は、15MPa以上90MPa以下であることが好ましい。
【0052】
焼結工程において、昇温速度は特に限定されないが、例えば100K/minであってよい。最高到達温度において保持する時間(保持時間)は、略0秒であってよく、0秒より大きく600秒以下であってもよい。
【0053】
また、焼結工程では、放電焼結法を用いることが好ましい。放電焼結法とは、型枠と該型枠の内部に充填された焼結材料(粉末)との間で通電を起こさせ、通電により発生する熱(ジュール熱)を用いて焼結反応を生じさせる方法である。放電焼結法に用いられる放電焼結機は、グラファイト製の円筒状の型およびグラファイト製のパンチにて焼結対象材料(成形体または粉末)を覆うようにして、パンチにより加圧しながら放電焼結を行う。放電焼結機は、パルス通電または連続通電することにより放電焼結を行ってよい。通電する電流は、焼結対象材料に臨界電圧以上が印加される条件とすればよい。このような放電焼結法を用いると、焼結対象材料の温度を均一に昇温することができ、均質かつ高品位なFe基焼結体を得ることができる。
【0054】
ここで、一般に、Feのような金属をベースとする焼結体を作製するために放電焼結を行う場合、1000K程度の温度とすれば充分に焼結反応が進行すると考えられる。しかし、本実施形態のFe基焼結体は、焼結温度が1000K程度で有る場合、TiCの硬質相4が生成しないため得ることができない。本発明者らは、鋭意検討の結果、上述の焼結条件(すなわち、1323K以上の温度、および15MPa以上の圧力)とすることによって、機構は完全には明らかではないが、TiCを含む硬質相4が生成してFe基焼結体の硬度が向上することを見出し、その知見に基づいて本発明を想到した。
【0055】
なお、焼結工程において、パンチ等の材質がグラファイト製でなくてもよく、その場合、成形体の表面にグラファイトをコーティングした、またはCを含浸した後に焼結を行うようになっていてもよい。また、成形体の表面に炭素粉末を付着させた状態にて焼結を行ってもよい。
【0056】
上記のような放電焼結法は、操作が比較的容易であり、焼結時の温度および圧力を比較的安定に制御することができる。そのため、Fe基焼結体を安定的に製造し易い。
【0057】
(後工程)
Fe基焼結体の製造方法は、焼結工程の後、焼結体の表面を研磨および洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0058】
以上のような工程により製造した本発明の一態様におけるFe基焼結体の、表面および断面を観察した結果の一例を図3に示す。図3は、本発明の一実施形態におけるFe基焼結体の、組織を観察可能となるように研磨した試料を観察することにより得た反射電子像であり、(a)は試料表面、(b)は試料断面を観察した反射電子像である。
【0059】
図3の(a)および(b)に示すように、Fe基焼結体は、上述したような島状複合組織(図2参照)が形成されていることがわかる。Fe基焼結体の内部(試料断面)においても、硬質相4が形成していることがわかる。
【0060】
(熱間プレス用金型)
なお、本実施形態のFe基焼結体は、熱間プレス用金型の製造に用いられてよく、本実施形態のFe基焼結体を用いて製造された熱間プレス用金型も本発明の範疇に含まれる。
【0061】
(変形例)
本発明の一態様におけるFe基焼結体の製造方法では、成形工程と後述する焼結工程との間に仮焼工程が含まれてもよく、含まれていなくともよい。仮焼工程を含む場合、Feの微粉末とTiBの微粉末とに、微細な炭素粒子を加えて混合し、得られた混合粉末を成形して成形体を得る。そして、該成形体を用いて仮焼工程を行う。これにより、本発明の一態様におけるFe基焼結体を製造してもよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例および比較例により、本発明の一態様におけるFe基焼結体についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
〔第1の実施例〕
(試料作製)
平均粒径3~5μmの純Feの微粉末と、平均粒径2~3μmのTiBの微粉末とを、遊星型ボールミルを用いて、100rpmで1時間乾式混合した。純Fe:TiBの比率は、質量比で80:20(体積比で70:30)とした。遊星型ボールミルの容器内には、混合粉末15gに対してセラミックス球(ボール)を150gの割合で投入して混合を行った。
【0064】
上記乾式混合の後、遊星型ボールミルの容器内にエタノールを15~20ml添加して、3時間湿式混合を行った。湿式混合の後、得られたスラリーを自然乾燥させて、混合粉末を得た。
【0065】
得られた混合粉末を放電焼結機のグラファイト製の型枠内に充填した。グラファイト製のパンチを用いて加圧しながら、加熱するとともに通電し、放電焼結を行った。焼結温度(最大到達温度)は1273K~1423Kとし、加圧圧力は50MPaとした。昇温速度は100k/minとし、保持時間は略0秒とした。
【0066】
焼結後、放電焼結機から試料を取り出して、研磨を行った後、X線回折測定、電子顕微鏡観察、熱伝導率測定、密度測定、および硬度試験を行った。
【0067】
(X線回折測定)
試料を粉砕して粉末試料とし、該粉末試料を用いて粉末X線回折測定を行った。照射X線としては、CuのKα線を用いた。測定結果を図4に示す。図4の(a)は、焼結温度が1273K~1423Kの条件で作製した粉末試料を、X線回折装置を用いて粉末X線回折測定して得られるX線回折パターンの一例を示す図であり、(b)は、上記X線回折パターンにおける回折角2θが35°前後について拡大して示す図であり、(c)は、上記X線回折パターンにおける回折角2θが45°前後を拡大して示す図である。
【0068】
図4において、○印はTiB、△印はαFe、□印はFeB、◇印はTiCの回折ピークにそれぞれ対応している。図4の(b)に示すように、焼結温度が1273Kの試料ではTiCおよびFeBの明瞭なピークが見られず、TiCが生成していない。一方で、焼結温度が1323K、1373K、1423Kの試料では、TiCおよびFeBの明瞭な回折ピークが観測された。また、焼結温度が1323K、1373K、1423Kの試料でFeBの回折ピークが観測されることは、図4の(c)に示す回折パターンからもわかる。
【0069】
(電子顕微鏡観察)
各試料について、試料表面および試料断面の電子顕微鏡観察を行った。試料表面とは、放電焼結時にグラファイト製のパンチに接していた部分を研磨して表れた表面である。試料断面とは、Fe基焼結体の内部の部分であって、焼結後の焼結体を切断して、断面を研磨して表れた表面である。
【0070】
試料表面および試料断面について、反射電子像を撮像するとともに、波長分散型X線分析(WDX)により組成分析を行った。また、WDXにより、試料表面および試料断面についてTiBの濃度を測定した。その結果、試料表面および試料断面のいずれにおいても、焼結温度が高くなるほどTiBの濃度が減少していた(後述の図6参照)。
【0071】
また、焼結温度が1373Kの試料について、試料表面の局所的なWDXを行った。結果を図5に示す。図5の(a)は、試料の反射電子像における、局所的なWDXを行った箇所を示す図である。図5の(b)は、WDXを行った8箇所の組成分析結果を示す図である。
【0072】
図5の(a)および(b)に示すように、リング状の硬質相4が観察される(1)~(3)の箇所では、Feを主成分とするマトリックス1とともにTiCが存在することがわかる。また、濃淡が濃い(黒色の)粒子状相2が観察される(4)および(5)の箇所では、TiBが存在することがわかる。そして、副生成相3が観察される(6)および(7)の箇所ではFeBが存在し、マトリックス1が観察される(8)の箇所ではほぼ全てFeであることが分かる。
【0073】
(熱伝導率測定、密度測定、硬度試験)
熱伝導率測定は、定常法(被測定試料に定常的な温度勾配を与え、熱伝導率を測定する方法)を用いて行った。つまり、被測定試料の片方を高温にし、もう一方を低温にし、試料内の各点の温度を測定して熱伝導率を求めた。
【0074】
密度測定は、アルキメデス法を用いて行った。相対密度は、アルキメデス法で測定した密度を、理論密度にて除することにより求めた。
【0075】
硬度試験は、試料表面および試料内部について、それぞれビッカース硬さ試験により行った。試験力を30kgとし、保持時間を10秒とした。
【0076】
(結果)
上述した試験の結果をまとめ、図6に示す。なお、熱伝導率およびビッカース硬さは、複数の測定を行った誤差を含めて示している。該誤差は、標準偏差である。
【0077】
なお、ビッカース硬さ(HV)は、以下の変換式を用いてロックウェル硬さ(HRC)に換算することができる。
【0078】
(i)520HV以上の場合;
HRC=(100×HV-15100)/(HV+223)
(ii)200HV以上520HV未満の場合;
HRC=(100×HV-13700)/(HV+223)。
【0079】
焼結温度が1273Kである比較例1では、熱伝導率が44W/(m・K)程度であり、ビッカース硬さが220HV程度である。比較例1の試料は、組織にTiCが生成しておらず、硬度を高める硬質相4が存在しない。そのため、比較例1の試料は、マトリックス1による熱伝導によって高い熱伝導率を示す一方で、硬度は不十分である。
【0080】
これに対して、焼結温度が1323K~1423Kである実施例1~3では、焼結温度が高くなるほど、硬度が向上していることがわかる。熱伝導率については、実施例1および実施例2は比較例1よりも少し劣る。この理由については明らかでないが、マトリックス1中にTiおよびCが固溶することが一因であり得ると推察される。焼結温度が高いほど、TiおよびCの拡散が促進され、TiCを形成し易い。
【0081】
また、実施例1~3の結果から、焼結温度が高くなるほど、試料表面および試料内部のTiB濃度が低下することもわかる。焼結後のTiB濃度の低下量が大きいほど、TiCの生成量は大きくなると考えられる。また、焼結温度が高くなるほど、密度および相対密度が増大した。
【0082】
本実施例から、本発明の一態様によれば、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を、より安定して製造できることがわかる。
【0083】
〔第2の実施例〕
前記第1の実施例では、保持時間を略0秒として、焼結温度を1273K~1423Kに変化させて試料を作製していた。これに対し、本実施例では、焼結温度を1373Kとし、保持時間を略0秒、300秒、600秒と変化させて試料を作製した。
【0084】
焼結温度を1373Kとし、保持時間を略0秒、300秒、600秒としたこと以外は、前述した第1の実施例と同様の条件により試料を作製した。また、前述した第1の実施例と同様の方法にて各種試験を行った。
【0085】
X線回折測定を行った結果を図7に示す。図7の(a)は、焼結温度が1373K、保持時間が略0秒~600秒の条件で作製した粉末試料を、X線回折装置を用いて粉末X線回折測定して得られるX線回折パターンの一例を示す図であり、(b)は、上記X線回折パターンにおける回折角2θが35°前後について拡大して示す図であり、(c)は、上記X線回折パターンにおける回折角2θが45°前後を拡大して示す図である。
【0086】
図7において、各種の印と物質との対応関係は図4にて前述したことと同様である。図7の(b)に示すように、保持時間が長くなるについて、TiCの回折ピークの強度が増大した。また、図7の(c)に示すように、保持時間が長くなるについて、FeBの回折ピークの強度が増大した。
【0087】
各種の試験の結果をまとめ、図8に示す。なお、熱伝導率およびビッカース硬さは、複数の測定を行った誤差を含めて示している。
【0088】
保持時間がそれぞれ略0秒、300秒、600秒である実施例4~6の結果から、保持時間が長くなるほど、熱伝導率および硬度が有意に向上することがわかる。また、保持時間が長くなるほど、密度および相対密度も増大した。
【0089】
以上のように、本発明の一態様におけるFe基焼結体は、焼結温度を高くすること、および保持時間を長くすることによって、熱伝導率および硬度を向上させることができる。換言すれば、焼結条件を制御することによって、比較的簡便に、熱伝導率および硬度を制御することができる。それゆえ、本発明の一態様によれば、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を、より安定して製造できることがわかる。
【0090】
〔第3の実施例〕
前記第1および第2の実施例では、純Fe:TiBの比率を質量比で80:20として試料を作製していた。これに対し、本実施例では、純Fe:TiBの比率を質量比で87:13として試料を作製した(実施例7)。また、焼結温度を1373Kとし、保持時間を600秒とした。それ以外は、前述した第1の実施例と同様の条件により試料を作製した。また、前述した第1の実施例と同様の方法にて各種試験を行った。
【0091】
得られた結果を図9に示す。図9の(a)は、作製した試料の組織について電子顕微鏡を用いて観察して得た反射電子像である。図9の(b)は、該試料の試験結果をまとめて示す表である。
【0092】
図9の(a)に示すように、本実施例の試料は、前記第1および第2の実施例と同様に、マトリックス1、粒子状相2、副生成相3および硬質相4を有している。そして、図9の(b)に示すように、本実施例の条件においても、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を得られる。
【0093】
なお、本実施例と、前記第2の実施例における実施例6(図8参照)とを比較すると、以下のことがわかる。すなわち、仕込みのTiBの量が多いと、硬度および熱伝導率が向上する。そのため、本発明の一態様におけるFe基焼結体は、仕込みの原料比(純Fe:TiBの比率)を制御することによって、比較的簡便に、熱伝導率および硬度を制御することができる。それゆえ、本発明の一態様によれば、高い硬度と高い熱伝導率とを兼備するFe基焼結体を、より安定して製造できることがわかる。
【0094】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記説明において開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 マトリックス
2 粒子状相(第1の副相)
3 副生成相(第2の副相)
4 硬質相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9