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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】気液反応装置、反応管、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/448 20060101AFI20220714BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20220714BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20220714BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C23C16/448
C30B29/38 D
C30B25/14
H01L21/205
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019518879
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2018019191
(87)【国際公開番号】W WO2018212303
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017098870
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度国立研究開発法人科学技術振興機構産学共同実用化開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509054005
【氏名又は名称】大陽日酸CSE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 明伯
(72)【発明者】
【氏名】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃
(72)【発明者】
【氏名】椎名 一成
(72)【発明者】
【氏名】島村 隼斗
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044341(JP,A)
【文献】国際公開第2011/142402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
C30B 1/00-35/00
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間の下部に溶融金属を収容し、前記内部空間の長手方向の一端側の上部に供給された窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAを前記長手方向に流しながら、前記原料ガスと前記溶融金属との気液反応によって生成ガスを生成し、前記生成ガスと前記キャリアガスとを含む混合ガスBを前記長手方向の他端側の上部から排出する気液反応チャンバーと、
前記気液反応チャンバーの前記内部空間に接する天井面から前記内部空間内に突出し、前記長手方向の一端側の突出角度が鈍角であり、前記長手方向にガスを通過させるスリットを有する突出部材と、
を備え
前記突出部材が、前記天井面から前記内部空間内に突出する板状部材を含み、
前記板状部材は、前記天井面から前記内部空間内に突出する方向に対し、前記長手方向の一端側に曲がっている曲がり部を含む 気液反応装置。
【請求項2】
内部空間の下部に溶融金属を収容し、前記内部空間の長手方向の一端側の上部に供給された窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAを前記長手方向に流しながら、前記原料ガスと前記溶融金属との気液反応によって生成ガスを生成し、前記生成ガスと前記キャリアガスとを含む混合ガスBを前記長手方向の他端側の上部から排出する気液反応チャンバーと、
前記気液反応チャンバーの前記内部空間に接する天井面から前記内部空間内に突出し、前記長手方向の一端側の突出角度が鈍角であり、前記長手方向にガスを通過させるスリットを有する突出部材と、
を備え
前記突出部材を複数備え、前記複数の前記突出部材が、前記内部空間の長手方向に配列されており、
前記複数の前記突出部材のうち隣り合う2つの前記突出部材における前記スリットは、前記内部空間の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている 気液反応装置。
【請求項3】
前記突出角度が、110°~160°である請求項1又は請求項2に記載の気液反応装置。
【請求項4】
前記突出部材が、前記天井面から前記内部空間内に突出する板状部材を含む請求項に記載の気液反応装置。
【請求項5】
前記板状部材は、前記天井面から前記内部空間内に突出する方向に対し、前記長手方向の一端側に曲がっている曲がり部を含む請求項に記載の気液反応装置。
【請求項6】
前記板状部材は、前記天井面から前記内部空間内に突出する突出部と、前記曲がり部と、を含み、
前記天井面のうち前記板状部材から見て前記長手方向の一端側の領域又は前記天井面を前記長手方向の一端側に延長した仮想面と、前記曲がり部の前記長手方向の一端側の面と、のなす角度が、70°~110°である請求項1又は請求項5に記載の気液反応装置。
【請求項7】
前記内部空間の幅方向についての前記スリットの長さが、前記内部空間の幅方向長さに対し、2%~50%である請求項1~請求項のいずれか1項に記載の気液反応装置。
【請求項8】
前記スリットは、前記突出部材の先端側から前記突出部材の付け根側に向かって切れ込まれた切れ込みである請求項1~請求項のいずれか1項に記載の気液反応装置。
【請求項9】
前記スリットの長手方向は、前記突出部材の先端側から前記突出部材の付け根側に向かう方向である請求項に記載の気液反応装置。
【請求項10】
前記溶融金属が、ガリウムであり、
前記原料ガスが、塩素ガス及び塩化水素ガスの少なくとも一方であり、
前記生成ガスが、一塩化ガリウムガスである請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の気液反応装置。
【請求項11】
管内に、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の気液反応装置を含む反応管。
【請求項12】
前記溶融金属が、ガリウムであり、
前記原料ガスが、第1の塩素ガスであり、
前記生成ガスが、一塩化ガリウムガスであり、
前記一塩化ガリウムガスと、第2の塩素ガスと、の反応によって三塩化ガリウムガスを生成する請求項11に記載の反応管。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の反応管を備える成膜装置。
【請求項14】
請求項12に記載の反応管を備え、
前記反応管で生成された前記三塩化ガリウムガスと、アンモニアガスと、の反応によって窒化ガリウム膜を成膜する成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気液反応装置、反応管、及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体と気体との気液反応を行う気液反応装置が知られている。
気液反応装置は、例えば、ハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)を用いた成膜装置の一構成要素として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、液体原料と反応ガスとを反応させることで生成される処理ガスの生成効率を向上できる装置として、液体原料と反応ガスとを反応させることで生成した処理ガスを用いて基板を処理する基板処理装置であって、金属原料が溶融することで生成される液体原料を保持し、上流側から反応ガスが供給されて下流側から処理ガスが排出される容器と、前記容器内に設けられ、前記容器内の液体原料の液面よりも上方の前記容器内の空間を、上流側から下流側に向かって順に配列する複数の生成空間に仕切る少なくとも1つの仕切部材と、を備え、前記仕切部材には、隣接する2つの前記生成空間を連通させるとともに、ガスが通過する貫通孔が設けられており、上流側の前記生成空間内のガスが前記貫通孔を通過して下流側の前記生成空間内に流れる際、前記貫通孔を通過するガスの流速が増加して噴流が発生し、この噴流により下流側の前記生成空間内でガスの対流が引き起こされるように構成されている基板処理装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、液体原料と反応ガスとを反応させることで生成される処理ガスの生成効率を向上できる装置として、液体原料と反応ガスとを反応させることで生成した処理ガスを用いて基板を処理する基板処理装置であって、金属原料が溶融することで生成される液体原料を保持し、上流側から反応ガスが供給されて下流側から処理ガスが排出される容器と、容器内に設けられ、容器内の液体原料の液面よりも上方の前記容器内の空間を、上流側から下流側に向かって順に配列する複数の生成空間に仕切る少なくとも1つの仕切部材と、を備え、生成空間内にはそれぞれ、ガスを液体原料の液面に向かって流す整流機構(例えば整流板)が設けられている基板処理装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置として、金属原料を収容する原料容器と、原料容器内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスを供給する、原料容器に設けられたガス供給口と、塩素系含有ガスに含まれる塩素系ガスと金属原料との反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスを原料容器外に排出する、原料容器に設けられたガス排出口と、原料容器内の金属原料の上方の空間を仕切って、ガス供給口からガス排出口へと続くガス流路を形成する仕切板とを備え、ガス流路は、ガス供給口からガス排出口へと至る一通りの経路となるように形成され、ガス流路の水平方向の流路幅が5cm以下であり、且つガス流路には屈曲部を有する金属塩化物ガスの発生装置が開示されている。
【0006】
ところで、HVPEでは、一塩化ガリウムガス(GaCl)とアンモニアガス(NH)との反応によって窒化ガリウム(GaN)膜を成膜していた。
特許文献4には、HVPEと比較して、より速い成長速度にて窒化ガリウム(GaN)膜を成膜できる方法として、三塩化ガリウムガス(GaCl)とアンモニアガス(NH)との反応によって窒化ガリウム膜を成膜する方法が開示されている。特許文献3には、上記の三塩化ガリウムガスを生成する方法として、一塩化ガリウムガスと塩素ガス(Cl)とを反応させる方法も開示されている。
【0007】
特許文献1:特開2016-44342号公報
特許文献2:特開2016-44341号公報
特許文献3:特開2012-248803号公報
特許文献4:国際公開第2011/142402号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載されている、三塩化ガリウムガス(GaCl)とアンモニアガス(NH)との反応によって窒化ガリウム膜を成膜する方法は、THVPE(Tri-Halide Vapor Phase Epitaxy)と呼ばれている。
HVPE及びTHVPEともに、溶融Ga(即ち、後述するGa(l))上に、キャリアガス及び原料ガスの混合ガスを一方向に流すことにより、溶融Gaと原料ガスとの気相反応によって一塩化ガリウムガス(GaCl)を生成する。
【0009】
HVPEにおけるGaClの生成では、キャリアガスとして、水素ガス(H)、又は、水素ガスと窒素ガス(N)との混合ガスを用い、原料ガスとして、塩化水素ガス(HCl)を用いる。
HVPEにおけるGaClは、下記反応式(1)に従って生成される。
以下において、(l)及び(g)は、それぞれ、液体及び気体を示している。
【0010】
Ga(l)+HCl(g) → GaCl(g)+1/2H(g) … 反応式(1)
【0011】
一方、THVPEにおけるGaCl(詳細には、GaClの原料となるGaCl)の生成では、キャリアガスとして、窒素ガス(N)及びアルゴンガス(Ar)の少なくとも一方を用い、原料ガスとして塩素ガスを用いる。
THVPEにおけるGaClガスは、下記反応式(2)に従って生成される。
【0012】
Ga(l)+1/2Cl(g) → GaCl(g) … 反応式(2)
【0013】
THVPEにおける溶融Gaと塩素ガスとの反応では、反応式(2)から明らかなとおり、理論的(熱力学的)には100%の反応が見込まれる。
しかし実際には、溶融Gaと塩素ガスとの反応において、溶融Gaと塩素ガスとの反応が不十分となり、その結果、ガスの流れ方向下流側に、生成ガス(GaCl)とともに未反応の塩素ガスが送られる場合があることが判明した。窒化ガリウム(GaN)膜の原料ガス(GaCl及びNH)にClが混入すると、混入したClが窒化ガリウム膜をエッチングすることにより、窒化ガリウム膜の成長速度が低下するおそれがある。
溶融Gaと塩素ガスとの反応が不十分となる理由は、キャリアガスとして、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方を用いていることにより、溶融Gaと塩素ガスとの反応領域において上下方向(即ち、重力方向。以下同じ。)のガスの混合が不十分となり、溶融Ga上のガスの流れが、溶融Gaの液面近傍のGaClガス流と、GaClガス流の上方の塩素ガス流と、からなる層流となるためと考えられる。溶融Ga上のガスの流れが上記層流となった場合には、溶融Gaと塩素ガスとの接触機会が減少し、その結果、溶融Gaと塩素ガスとの反応が不十分となる。
【0014】
キャリアガスとして窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方を用いた場合に上下方向のガスの混合が不十分となり易い理由は、キャリアガス中への原料ガス及び生成ガスの拡散速度(例えば、窒素ガス中への塩素ガス及びGaClの拡散速度)が遅いためと考えられる。
なお、HVPEにおいては、キャリアガス中への原料ガス及び生成ガスの拡散速度(例えば、水素ガス中へのHCl及びGaClの拡散速度)が、THVPEの場合と比較して速いため、上下方向のガスの混合が不十分となる問題は生じにくい。
【0015】
上述したTHVPEの例のように、キャリアガスとして、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方を用いる場合には、上下方向のガスの混合をより促進する必要があることが判明した。
【0016】
上下方向のガスの混合に関し、特許文献1に記載の装置では、仕切部材に貫通孔を設け、貫通孔によってガスの噴流を発生させることにより、仕切部材に対して下流側においてガスの対流を引き起こしている。
しかし、特許文献1に記載の装置では、仕切部材に対して上流側の上部(天井面付近)に原料ガスが溜まり、原料ガスと溶融Gaとの反応が不十分となる場合がある。
また、特許文献1に記載の技術では、ガスの噴流のみに頼っているので、必然的に、仕切部材よりも上流側の圧力が上昇する。このため、装置外に原料ガスが漏れ出す恐れがある。特許文献1の方法において、原料ガスとして塩素ガスを用いた場合には、装置外に塩素ガス(原料ガス)が漏れ出し、窒化ガリウム(GaN)膜の原料ガス(GaCl及びNH)にClが混入し、混入したClが窒化ガリウム膜をエッチングすることにより、窒化ガリウム膜の成長速度が低下するおそれがある。
従って、上下方向のガスの混合を促進する方法としては、ガスの噴流のみに頼る方法以外の方法が望ましいと考えられる。
【0017】
また、上下方向のガスの混合に関し、特許文献2に記載の装置では、容器内の空間を仕切る仕切部材とガスを液体原料の液面に向かって流す整流機構(例えば整流板)とが、別々に設けられている。このため、特許文献2に記載の装置では、装置内(特に、仕切部材よりも上流側(例えば、整流板と仕切部材との間))にガスが滞留する場合がある。
従って、上下方向のガスの混合を促進する方法としては、装置内でのガスの滞留を抑制しつつ、上下方向のガスの混合を促進できる方法が望まれる。
【0018】
また、特許文献3に記載の技術では、屈曲部を有するガス流路により、ガスの流れを水平方向に蛇行させることにより、溶融Ga上を流れるガスの滞在時間を長くすることで、溶融Gaとガスとの反応を促進している。
しかし、特許文献3に記載の技術では、上下方向のガスの混合を促進することができないため、溶融Ga上のガスの流れが上述した層流となる問題(及び、これにより、原料ガスと溶融Gaとの反応が不十分となる場合)を解決できないと考えられる。
【0019】
本開示は、上述した事情に鑑みてなされたものである。
すなわち、本開示の目的は、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスを用いるにもかかわらず溶融金属と原料ガスとの反応を促進させることができ、かつ、装置内でのガスの滞留を抑制できる気液反応装置、並びに、この気液反応装置を備える反応管及び成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 内部空間の下部に溶融金属を収容し、前記内部空間の長手方向の一端側の上部に供給された窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAを前記長手方向に流しながら、前記原料ガスと前記溶融金属との気液反応によって生成ガスを生成し、前記生成ガスと前記キャリアガスとを含む混合ガスBを前記長手方向の他端側の上部から排出する気液反応チャンバーと、
前記気液反応チャンバーの前記内部空間に接する天井面から前記内部空間内に突出し、前記長手方向の一端側の突出角度が鈍角であり、前記長手方向にガスを通過させるスリットを有する突出部材と、
を備える気液反応装置。
<2> 前記突出角度が、110°~160°である<1>に記載の気液反応装置。
<3> 前記突出部材が、前記天井面から前記内部空間内に突出する板状部材を含む<1>又は<2>に記載の気液反応装置。
<4> 前記板状部材は、前記天井面から前記内部空間内に突出する方向に対し、前記長手方向の一端側に曲がっている曲がり部を含む<3>に記載の気液反応装置。
<5> 前記板状部材は、前記天井面から前記内部空間内に突出する突出部と、前記曲がり部と、を含み、
前記天井面のうち前記板状部材から見て前記長手方向の一端側の領域又は前記天井面を前記長手方向の一端側に延長した仮想面と、前記曲がり部の前記長手方向の一端側の面と、のなす角度が、70°~110°である<4>に記載の気液反応装置。
<6> 前記内部空間の幅方向についての前記スリットの長さが、前記内部空間の幅方向長さに対し、2%~50%である<1>~<5>のいずれか1つに記載の気液反応装置。
<7> 前記スリットは、前記突出部材の先端側から前記突出部材の付け根側に向かって切れ込まれた切れ込みである<1>~<6>のいずれか1つに記載の気液反応装置。
<8> 前記スリットの長手方向は、前記突出部材の先端側から前記突出部材の付け根側に向かう方向である<7>に記載の気液反応装置。
<9> 前記突出部材を複数備え、前記複数の前記突出部材が、前記内部空間の長手方向に配列されており、
前記複数の前記突出部材のうち隣り合う2つの前記突出部材における前記スリットは、前記内部空間の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている<1>~<8>のいずれか1つに記載の気液反応装置。
<10> 前記溶融金属がガリウムであり、
前記原料ガスが、塩素ガス及び塩化水素ガスの少なくとも一方であり、
前記生成ガスが一塩化ガリウムガスである<1>~<9>のいずれか1つに記載の気液反応装置。
<11> 管内に、<1>~<10>のいずれか1つに記載の気液反応装置を含む反応管。
<12> 前記溶融金属がガリウムであり、
前記原料ガスが第1の塩素ガスであり、
前記生成ガスが一塩化ガリウムガスであり、
前記一塩化ガリウムガスと、第2の塩素ガスと、の反応によって三塩化ガリウムガスを生成する<11>に記載の反応管。
<13> <11>又は<12>に記載の反応管を備える成膜装置。
<14> <12>に記載の反応管を備え、
前記反応管で生成された前記三塩化ガリウムガスと、アンモニアガスと、の反応によって窒化ガリウム膜を成膜する成膜装置。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスを用いるにもかかわらず溶融金属と原料ガスとの反応を促進させることができ、かつ、装置内でのガスの滞留を抑制できる気液反応装置、並びに、この気液反応装置を備える反応管及び成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る気液反応装置の概略斜視図である。
図2図1のX-X線断面図である。
図3図2のY-Y線断面図である。
図4図2の部分拡大図である。
図5】第1実施形態における一の板状部材の概略平面図である。
図6】第1実施形態における他の板状部材の概略平面図である。
図7】第2実施形態に係る気液反応装置の概略断面図である。
図8図7の部分拡大図である。
図9】第3実施形態に係る気液反応装置の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図10】第4実施形態に係る気液反応装置の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図11】比較形態に係る気液反応装置の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図12】一実施形態に係る成膜装置を概念的に示す概略断面図である。
図13】実験例2における、気液反応装置中のガスの総流量と、GaN膜の成長速度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0024】
〔気液反応装置〕
本開示の気液反応装置は、
内部空間の下部に溶融金属を収容し、内部空間の長手方向の一端側の上部に供給された窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAを上記長手方向に流しながら、原料ガスと溶融金属との気液反応によって生成ガスを生成し、生成ガスとキャリアガスとを含む混合ガスBを上記長手方向の他端側の上部から排出する気液反応チャンバーと、
気液反応チャンバーの内部空間に接する天井面から内部空間内に突出し、上記長手方向の一端側の突出角度が鈍角であり、上記長手方向にガスを通過させるスリットを有する突出部材と、
を備える。
【0025】
本開示の気液反応装置では、キャリアガスとして、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方(以下、「窒素ガス及び/又はアルゴンガス」とも称する)を用いる。
一般に、気液反応装置において、キャリアガスとして、窒素ガス及び/又はアルゴンガスを用いた場合には、前述したとおり、上下方向のガスの混合が不十分となる問題が生じ得る。具体的には、ガスの流れが、原料ガスを含む上層流(即ち、溶融金属に接しない側の流れ)と、生成ガスを含む下層流(即ち、溶融金属に接する側の流れ)と、の層流となって、気液反応が阻害される問題が生じ得る。
しかし、本実施形態の気液反応装置では、上記突出部材によって上下方向のガスの混合(詳細には、上下方向の混合ガスA及び混合ガスBの混合。以下同じ。)の混合を促進することにより、原料ガスと溶融金属との接触を促進でき、その結果、溶融金属と原料ガスとの反応を促進させることができる。
【0026】
詳細には、突出部材は、気液反応チャンバーの内部空間(以下、単に「内部空間」ともいう)に接する天井面から内部空間内に突出し、内部空間の長手方向の一端側(以下、「上流側」ともいう)の突出角度が鈍角(即ち、90°超180°未満)である部材である。このため、この突出部材により、混合ガスAの流れ方向を鈍角に(言い換えれば、斜め下方向に緩やかに)変化させることができる。これにより、上下方向のガスの混合を促進し、かつ、突出部材と天井面との接触部近傍の領域であって上流側の領域(以下、「突出部材の上流側上部領域」ともいう)に、混合ガスAが滞留する現象を抑制できる。詳細には、突出部材の上流側の突出角度が鋭角又は垂直であると、突出部材の上流側上部領域に過度の渦流が発生し、この領域に混合ガスAが滞留する場合がある。
本開示の気液反応装置では、上述した突出部材によって上下方向のガスの混合を促進することにより原料ガスと溶融金属との接触を促進でき、しかも、突出部材の上流側上部領域における混合ガスAが滞留を抑制できるので、窒素ガス及び/又はアルゴンガスであるキャリアガスを用いるにもかかわらず、溶融金属と原料ガスとの反応を促進することができる。
【0027】
上下方向のガスの混合に関し、前述の特許文献2(特開2016-44341号公報)に記載の装置では、容器内の空間を仕切る仕切部材とガスを液体原料の液面に向かって流す整流機構(例えば整流板)とが、別々に設けられている。このため、特許文献2に記載の装置では、装置内(特に、仕切部材よりも上流側)にガスが滞留する場合がある。
かかるガスの滞留の問題に関し、本開示の気液反応装置では、前述の突出部材に、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリットが設けられている。
このため、本開示の気液反応装置では、突出部材に設けられたスリットにより、装置内(即ち、気液反応チャンバー内)でのガスの滞留が抑制される。
装置内でのガスの滞留を抑制できることは、気液反応チャンバー外への混合ガスBの排出速度の低下を抑制できる点、気液反応チャンバー内の圧力上昇を抑制できる点、気液反応チャンバー内の圧力上昇に伴う原料ガスの気液反応チャンバー外への漏れを抑制できる点、等から見て有利である。
【0028】
突出部材の上流側の突出角度(以下、「突出角度θ1」ともいう)は、鈍角(即ち、90°超180°未満)である。
突出角度θ1は、100°~170°であることが好ましく、110°~160°以上であることがより好ましく、120°~150°であることが更に好ましい。
突出角度θ1が100°以上であることにより、突出部材の上流側上部領域における過度の渦流がより抑制され、その結果、突出部材の上流側上部領域における混合ガスAの滞留がより抑制される。
突出角度θ1が170°以下であることにより、上下方向のガスの混合がより促進される。
【0029】
本明細書において、突出部材の上流側(即ち、内部空間の長手方向の一端側)の突出角度とは、天井面のうち突出部材から見て上流側の領域又は天井面を上流側に延長した仮想面と、突出部材の上流側の面と、のなす角度を意味する。
ここで、上記仮想面についてより詳細に説明する。
突出部材は、天井面における上流側の末端に設けられていてもよい。
突出部材が天井面における上流側の末端に設けられている場合には、突出部材の上流側の突出角度は、天井面を上流側に延長した仮想面と、突出部材の上流側の面と、のなす角度である。
【0030】
なお、突出部材が、天井面における上流側の末端以外の部分に設けられている場合には、天井面のうち突出部材から見て上流側の領域と、突出部材の上流側の面と、のなす角度は、天井面を上流側に延長した仮想面と、突出部材の上流側の面と、のなす角度と一致する。
【0031】
突出部材は、突出部材による効果がより効果的に奏される点で、天井面から内部空間内に突出する板状部材を含むことが好ましく、天井面から内部空間内に突出する板状部材からなることがより好ましい。
突出部材が上記板状部材を含む態様では、上述した突出角度は、天井面のうち板状部材から見て上流側の領域又は天井面を上流側に延長した仮想面と、板状部材の上流側の面と、のなす角度である。
【0032】
上記板状部材は、天井面から内部空間内に突出する方向に対し、上流側に曲がっている曲がり部を含むことが好ましい。これにより、上下方向のガスの混合がより促進される。
曲がり部は、内部空間の長手方向に対して平行であり幅方向に対して垂直な断面において、ある曲率にて緩やかに曲がっていてもよいし、ある角度にて屈曲していてもよい。
【0033】
本明細書における「曲がり部」は、天井面から内部空間内に突出する方向に対し上流側に曲がっている部分全体(即ち、曲がり始めた部分から板状部材の先端までの全体)を指す。
【0034】
上記板状部材は、天井面から内部空間内に突出する突出部と、上記曲がり部と、を含み、天井面のうち上流側の領域又は天井面を上流側に延長した仮想面と、曲がり部の上流側の面と、のなす角度(以下、「角度θ2」ともいう)が、70°~110°であることが好ましい。
言い換えれば、曲がり部の上流側の面の角度は、天井面に対して、90°±20°の範囲内に収まっていることが好ましい。
角度θ2が70°以上であると、過度の渦流がより抑制され、その結果、突出部材の上流側上部領域における混合ガスAの滞留がより抑制される。
角度θ2が110°以下であると、上下方向のガスの混合がより促進される。
角度θ2は、80°~100°であることがより好ましく、85°~95°であることが特に好ましい。
【0035】
また、内部空間の幅方向についてのスリットの長さは、内部空間の幅方向長さに対し、好ましくは2%~50%であり、より好ましくは5%~30%であり、更に好ましくは10%~15%である。
内部空間の幅方向についてのスリットの長さが2%以上である場合には、スリットの機能(即ち、内部空間内におけるガスの流れを確保する機能)がより効果的に発揮され、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
内部空間の幅方向についてのスリットの長さが50%以下である場合には、気液反応(即ち、溶融金属と反応ガスとの反応)が起こる時間をより確保しやすくなり、その結果、溶融金属と反応ガスとの反応をより促進させることができる。
ここで、内部空間の幅方向とスリットの幅方向とが一致する場合には、内部空間の幅方向についてのスリットの長さは、スリットの幅方向長さに対応する。
【0036】
また、スリットは、突出部材の先端側(即ち、天井面から離れた側)から突出部材の付け根側(即ち、天井面との接合部側)に向かって切れ込まれた切れ込みであることが好ましい。
この場合、スリットの下端部(即ち、突出部材先端側の端部)は開放端となり、スリットの上端部(即ち、突出部材付け根側の端部)は閉鎖端となる(例えば、図4~6参照)。
この好ましい態様では、スリットの下端部が開放端であり、かつ、スリットの上端部が閉鎖端であることにより、ガスが溶融金属の液面付近を通過しやすくなるので、溶融金属と反応ガスとの反応がより促進される。
【0037】
スリットの長手方向は、好ましくは、突出部材の先端側から突出部材の付け根側に向かう方向である。
スリットの長手方向が上記の方向である場合には、スリットを通じてガスが突出部材をより通過しやすくなり、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
【0038】
本開示の気液反応装置の好ましい態様は、上記突出部材(例えば上記板状部材)を複数備え、複数の突出部材が、上記内部空間の上記長手方向に配列されている態様(以下、「態様X」ともいう)である。
態様Xによれば、上述した突出部材による効果がより効果的に得られる。
この態様Xにおいて、複数(即ち、2つ以上)の突出部材の数は、2~30であることが好ましく、4~20であることがより好ましく、6~10であることが特に好ましい。
【0039】
上記態様Xとしては、複数の突出部材のうち隣り合う2つの突出部材における上記スリットが、内部空間の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている態様(以下、「態様XX」ともいう)がより好ましい。
この態様XXでは、隣り合う2つの突出部材を上流側から順に突出部材A及び突出部材Bとした場合に、突出部材Aに設けられたスリットを通過したガスが、突出部材Bによって上下方向に混合される。混合されたガスは、突出部材Bに設けられたスリットを通過する。突出部材Bに対して更に下流側に突出部材(以下、「突出部材C」)が存在する場合には、突出部材Bに設けられたスリットを通過したガスが突出部材Cによって上下方向に混合される。
このようにして、態様XXによれば、内部空間の全体において、上下方向のガスの混合がより効果的に行われる。
【0040】
本開示の気液反応装置において、溶融金属、原料ガス、及び生成ガスの組み合わせとしては、溶融金属がガリウムであり、原料ガスが、塩素ガス及び塩化水素ガスの少なくとも一方(好ましくは、塩素ガス、又は、塩素ガスと塩化水素ガスとの混合ガス、より好ましくは塩素ガス)であり、生成ガスが一塩化ガリウムガスである組み合わせが挙げられる。
その他の組み合わせとして、
溶融金属がアルミニウムであり、原料ガスが塩素ガス及び塩化水素ガスの少なくとも一方(好ましくは、塩素ガス、又は、塩素ガスと塩化水素ガスとの混合ガス、より好ましくは塩素ガス)であり、生成ガスが一塩化アルミニウムガス(AlCl)である組み合わせ;
溶融金属がインジウム(In)であり、原料ガスが塩素ガス及び塩化水素ガスの少なくとも一方(好ましくは、塩素ガス、又は、塩素ガスと塩化水素ガスとの混合ガス、より好ましくは塩素ガス)であり、生成ガスが一塩化インジウムガス(InCl)である組み合わせ;
等も挙げられる。
【0041】
本開示の気液反応装置において、溶融金属がガリウム(Ga)であり、原料ガスが塩素ガス(Cl)であり、生成ガスが一塩化ガリウムガス(GaCl)である組み合わせである態様は、好ましくは、THVPEによる窒化ガリウム膜の成膜装置の一構成部材として用いられる。
【0042】
<気液反応装置の実施形態>
以下、本開示の気液反応装置の実施形態を、図面を参照して説明する。本開示の気液反応装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、全図面を通じ、実質的に同一の要素には同一の符号を付し、重複した説明を省略することがある。
【0043】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る気液反応装置の概略斜視図であり、図2は、図1のX-X線断面図であり、図3は、図2のY-Y線断面図であり、図4は、図2の部分拡大図である。
【0044】
図1及び図2に示されるように、第1実施形態に係る気液反応装置10は、気液反応チャンバー11を備える。
気液反応チャンバー11は、
底板18と、
気液反応チャンバー11の長手方向に配列され底板18からの高さが異なる2つの天板(天板12及び13)と、
天板12と天板13とを連結する連結板19と、
底板18と2つの天板(天板12及び13)とを連結する一対の側板(側板14及び15)と、
気液反応チャンバー11の長手方向一端側に配置される一端板17と、
気液反応チャンバー11の長手方向他端側に配置される他端板16と、
から構成されている。
【0045】
気液反応チャンバー11では、これら、底板18、天板12、天板13、連結板19、側板14、側板15、一端板17、及び他端板16により、内部空間24が確定されている。これらの板は、いずれも石英からなる。
この内部空間24内の下部には溶融金属M1が収容される。
内部空間24内の上部(溶融金属M1の上方)には、ガス(詳細には、混合ガスA及び混合ガスBの少なくとも一方)が、一端側から他端側に向けて流通される。
【0046】
天板13は、天板12に対して一端側(即ち、上流側)に配置されている。底板18から天板13までの高さは、底板18から天板12までの高さよりも高くなっている。
天板12の一端側と天板13の他端側とは、連結板19によって連結されている。
連結板19には、ガス供給口32が設けられている。
気液反応装置10では、ガス供給口32を通じ、気液反応チャンバー11の内部空間24内の一端側の上部に、窒素ガス及び/又はアルゴンガスであるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAが供給される。
詳細には、混合ガスAは、まず、内部空間24内の一端側の上部に、ガス供給口32を通じて他端側から一端側に向かう方向に供給される。供給された混合ガスAは、供給された方向とは異なる方向(即ち、一端側から他端側に向かう方向)に向きを変え(図2中、一点鎖線の矢印参照)、内部空間24内を一端側(上流側)から他端側(下流側)に向かう方向に流れる。
【0047】
気液反応チャンバー11では、天板12の長手方向他端と他端板16と側板14と側板15とによってガス排出口34が形成されている。
気液反応装置10では、内部空間24内において気液反応によって生成された生成ガスと、キャリアガスと、の混合ガスBが、上記ガス排出口34を通じ、内部空間24外(即ち、気液反応チャンバー11外)に排出される。
【0048】
図2に示されるように、気液反応装置10は、気液反応チャンバー11の内部空間24に接する天井面から内部空間24内に突出する突出部材として、複数の板状部材21及び複数の板状部材20を備える。複数の板状部材21及び複数の板状部材20は、いずれも石英からなる。ここで、天井面は、天板12の内部空間24に接する側の表面(即ち、後述の図4でいう天井面12A)である。
【0049】
複数の板状部材21及び複数の板状部材20は、内部空間の長手方向について、交互に配置されており、いずれも天井面に溶接されている。
複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々の先端は、溶融金属M1中に浸漬され、かつ、底板18には接していない。複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々は、側板14及び15に接している。
複数の板状部材21には、それぞれ、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリット(後述するスリット21A)が設けられており、複数の板状部材20には、それぞれ、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリット(後述するスリット20A)が設けられている。
気液反応装置10では、複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々に設けられたスリットにより、内部空間24内におけるガスの流れが確保される。これにより、内部空間24内(即ち、装置内)におけるガスの滞留が抑制される。
板状部材21と板状部材20とでは、各々に設けられたスリットの位置及び数が異なる。この点の詳細は後述する。
【0050】
図2の部分拡大図である図4に示されるように、板状部材20において上流側の突出角度θ1は、鈍角(即ち、90°超180℃未満)となっている。突出角度θ1の好ましい範囲は前述のとおりである。
ここで、突出角度θ1は、天井面12Aのうち板状部材20から見て上流側の領域又は天井面12Aを上流側に延長した仮想面と、板状部材20の上流側の面と、のなす角度である。
板状部材20の上流側の突出角度θ1が鈍角であることにより、ガスの流れ方向が、板状部材20の表面に沿って緩やかに下方に変化する。次いでこのガスが、板状部材20に設けられたスリット20Aを通過する(以上、図4中、一点鎖線の矢印参照)。
板状部材21の形状は、スリットの位置及び数を除けば、板状部材20の形状と同様である。
【0051】
図5は、板状部材20の概略平面図であり、図6は、板状部材21の概略平面図である。
図5に示されるように、板状部材20には、内部空間24の幅方向中央部に相当する位置に、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリット20Aが1つ設けられている。
一方、図6に示されるように、板状部材21には、内部空間24の幅方向中央部に相当する位置から外れた位置に、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリット21Aが2つ設けられている。
気液反応装置10において、隣り合う板状部材20及び21において、スリット20Aと2つのスリット21Aとが、内部空間24の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている。
スリット20A及び2つのスリット21Aの、内部空間24の長手方向の一端側から見た場合の形状は、いずれも、上下方向(即ち、重力方向)を長手方向とし、内部空間の幅方向を幅方向とする形状となっている。
【0052】
また、図4図6に示されるように、各スリット(即ち、スリット20A及び2つのスリット21Aの各々)は、板状部材(板状部材20又は21。以下同じ。)の先端側(即ち、図4中の天井面12Aから離れた側)から板状部材の付け根側(即ち、図4中の天井面12Aとの接合部側)に向かって切れ込まれた切れ込みである。言い換えれば、各スリットの下端部(即ち、板状部材先端側の端部)は開放端となっており、各スリットの上端部(即ち、板状部材付け根側の端部)は閉鎖端となっている。
これらの構成により、ガスが溶融金属M1の液面付近を通過しやすくなり、その結果、溶融金属M1と反応ガスとの反応がより促進される。
【0053】
また、図4図6に示されるように、各スリットの長手方向は、板状部材の先端側から突出部材の付け根側に向かう方向となっている。
かかる構成により、各スリットを通じてガスが突出部材をより通過しやすくなり、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
【0054】
次に、気液反応装置10の作用について説明する。
【0055】
気液反応装置10には、前述のとおり、気液反応チャンバー11の内部空間24の下部に、溶融金属M1が収容される。
この状態で、ガス供給口32を通じ、内部空間の長手方向の一端側の上部に、窒素ガス及び/又はアルゴンガスであるキャリアガスと原料ガスとを含む混合ガスAが供給される。詳細には、混合ガスAは、まず、内部空間24内の一端側(即ち、上流側)の上部に、ガス供給口32を通じて他端側(即ち、下流側)から一端側(即ち、上流側)に向かう方向に供給される。
【0056】
内部空間24内の一端側の上部に供給された混合ガスAは、供給された方向とは反対方向(即ち、一端側(即ち、上流側)から他端側(即ち、下流側)に向かう方向)に向きを変え(図2中、一点鎖線の矢印参照)、1つ目の板状部材(即ち、1つ目の板状部材21)の手前に到達する。
【0057】
1つ目の板状部材21の手前に到達した混合ガスAの流れは、内部空間内に鈍角で突出している板状部材21に沿って緩やかに下方(溶融金属M1の液面方向)に変化する。これにより、上下方向のガスの混合が促進され、混合ガスA中の原料ガスと溶融金属M1との接触が促進される。その結果、原料ガスと溶融金属M1との気液反応が促進され、生成ガスが生成される。生成ガス及び原料ガスを含んだガス(以下、単に「ガス」ともいう)は、1つ目の板状部材21に設けられた2つのスリット21Aを通過し、次の板状部材(即ち、1つ目の板状部材20)の手前に到達する。
【0058】
1つ目の板状部材20の手前に到達したガスの流れは、内部空間内に鈍角で突出している板状部材20に沿って緩やかに下方(溶融金属M1の液面方向)に変化する。これにより、上下方向のガスの混合が促進され、ガス中の原料ガスと溶融金属M1との接触が促進される。その結果、ガス中の原料ガスと溶融金属M1との気液反応が促進され、ガス中の生成ガスの濃度が増大し、かつ、ガス中の原料ガスの濃度が減少する。その後、ガスは、1つ目の板状部材20に設けられたスリット20Aを通過する。
【0059】
このようにして、気液反応装置10では、ガスが板状部材を通過する毎に、ガス中の生成ガスの濃度が増大し、かつ、ガス中の原料ガスの濃度が減少する。
【0060】
最後の板状部材21の2つのスリット21Aを通過したガス(即ち、高濃度の生成ガスと、キャリアガスと、を含む混合ガスB)は、ガス排出口34を通じ、内部空間24外(即ち、気液反応チャンバー11外)に排出される。
【0061】
以上のように、気液反応装置10では、突出部材としての板状部材(複数の板状部材21及び複数の板状部材20)により、上下方向のガスの混合を促進し、原料ガスと溶融金属との接触を促進できる。
【0062】
気液反応装置10は、キャリアガスとして、窒素ガス及び/又はアルゴンガスを用いる。このため、気液反応装置10において、突出部材(板状部材20及び21)を省略した場合には、上下方向のガスの混合が不十分となり、ガスの流れが層流となり、気液反応が阻害される問題が生じ得る。
気液反応装置10では、突出部材(板状部材20及び21)を備えるので、かかる問題を解消できる。
【0063】
更に、気液反応装置10では、板状部材20及び21の各々の突出角度が鈍角であることにより、各板状部材の上流側上部領域におけるガスの滞留を抑制できる。
各板状部材の上流側上部領域におけるガスの滞留の問題については、後述の比較形態を参照できる。
【0064】
更に、気液反応装置10では、板状部材20及び21の各々がスリット(スリット20A及びスリット21A)を有することにより、板状部材がスリットを有しない場合、又は、板状部材がスリットに代えて貫通孔を有する場合と比較して、装置内でのガスの滞留が抑制される。
装置内でのガスの滞留を抑制できることは、気液反応チャンバー11外へのガス(即ち、混合ガスB)の排出速度の低下を抑制できる点、装置内の圧力上昇を抑制できる点、装置内の圧力上昇に伴う原料ガスの気液反応チャンバー外への漏れを抑制できる点、等から見て有利である。
【0065】
更に、気液反応装置10では、突出部材(板状部材)を複数備えるので、突出部材が1つのみである場合と比較して、上下方向のガスの混合がより促進される。
【0066】
更に、気液反応装置10では、隣り合う板状部材20及び21において、スリット20Aと2つのスリット21Aとが、内部空間24の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている。これにより、板状部材のスリットを通過したガスが、次の(下流側の)板状部材によって上下方向に混合されるので、上下方向のガスの混合がより促進される。
このように、気液反応装置10は、前述した態様XX(即ち、複数の突出部材のうち隣り合う2つの突出部材における上記スリットが、内部空間の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている態様)の一例となっている。
【0067】
更に、気液反応装置10では、複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々の先端は、溶融金属M1中に浸漬されている。これにより、複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々による効果(詳細には、上下方向のガスの混合促進の効果)がより効果的に奏される。
【0068】
また、気液反応装置10では、他端側から一端側に向かう方向に供給された混合ガスAが、供給された方向とは異なる方向(即ち、一端側から他端側に向かう方向)に向きを変え(図2中、一点鎖線の矢印参照)、内部空間24内を一端側から他端側に向かう方向に流れる。このため、溶融金属M1上でのガスの滞在時間を長くすることができるので、溶融金属M1と原料ガスとの気液反応がより促進される。
【0069】
また、気液反応装置10では、側板14及び側板15の各々の形状が、内部空間24の長手方向に対して垂直な断面において、内部空間24の中から外に向かって膨らむ方向の曲面形状となっている。
ただし、側板14及び側板15の各々の形状は上記曲面形状であることには限定されず、例えば平面形状(平板形状)であってもよい。
【0070】
以上、第1実施形態に係る気液反応装置10について説明したが、本開示の気液反応装置は、この第1実施形態(気液反応装置10)に限定されるものではない。
以下、第1実施形態の変形例について説明する。
【0071】
気液反応装置10では、スリットを1つ有する板状部材20(突出部材)とスリットを2つ有する板状部材21(突出部材)とが、内部空間24の長手方向について交互に配置されているが、本開示の気液反応装置はこの態様には限定されない。
本開示の気液反応装置では、例えば、
スリットを1つ有する複数の突出部材(例えば板状部材)のみが長手方向に配置されていてもよいし、
スリットを2つ有する複数の突出部材(例えば板状部材)のみが長手方向に配置されていてもよいし、
スリットを1つ又は2つ有する突出部材(例えば板状部材)とスリットを3つ以上有する突出部材(例えば板状部材)とが交互に配置されていてもよいし、
スリットを3つ以上有する複数の突出部材(例えば板状部材)のみが長手方向に配置されていてもよい。
これらの場合においても、前述した態様XX(即ち、複数の突出部材のうち隣り合う2つの突出部材における上記スリットが、内部空間の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている態様)に該当する限り、態様XXと同様の効果(即ち、内部空間の全体において上下方向のガスの混合がより効果的に行われるという効果)を得ることができる。
【0072】
また、気液反応装置10において、板状部材20及び21の各々の先端が溶融金属M1に浸漬されているが、複数の板状部材のうちの少なくとも1つの先端は、溶融金属M1に浸漬されていなくてもよい。また、複数の板状部材のうちの少なくとも1つの先端が、底板18に接していてもよい。
複数の板状部材のうちの少なくとも1つと側板14及び/又は側板15とは、接していてもよいし、接していなくてもよい。
【0073】
また、本開示の気液反応装置では、気液反応装置10以外の形態であっても、混合ガスAが供給される方向を、ガスの流れ方向(一端側から他端側に向かう方向)とは異なる方向とした場合には、溶融金属M1上でのガスの滞在時間を長くする効果を得ることができる。
例えば、ガス供給口を設ける位置を、天板13、側板14、又は側板15に変更した場合においても、溶融金属M1上でのガスの滞在時間を長くする効果を得ることができる。
【0074】
また、本開示の気液反応装置では、ガス供給口が複数設けられていてもよい。
また、気液反応装置は、更に、ガス供給口32に挿入され、混合ガスAを内部空間内に供給するためのガス供給管を備えていてもよい。
【0075】
また、気液反応装置10は、天板12の長手方向他端と他端板16と側板14と側板15とによってガス排出口34が形成されているが、ガス排出口は、天板12、側板14、又は側板15を貫通する貫通孔として設けられていてもよい。
また、ガス排出口は、複数設けられていてもよい。
【0076】
また、気液反応チャンバー11には、ガス供給口及びガス排出口以外にも、溶融金属M1を供給するための供給口が設けられていてもよい。
【0077】
また、気液反応チャンバー11の各部材の材質は、いずれも石英であるが、各部材の材質としては、石英に代えて、グラファイト、窒化ホウ素(BN)、サファイア、炭化ケイ素(SiC)、等を用いることもできる。
【0078】
また、気液反応チャンバー11の形状は、図1~3に示す形状以外の長手形状であってもよい。
例えば、気液反応チャンバー及び内部空間の形状は、円管形状、楕円管形状、四角管形状等の管形状であってもよい。
【0079】
また、気液反応チャンバー11の内部空間24の大きさには特に制限はない。
内部空間24の長手方向長さは、好ましくは20mm~1,000mm、より好ましくは50mm~500mm、更に好ましくは100mm~300mmである。
内部空間24の幅方向長さ(上下方向及び長手方向に直交する方向の長さ)は、好ましくは10mm~300mm、より好ましくは30mm~100mm、更に好ましくは50mm~70mmである。
内部空間24の容積は、好ましくは1,000mm~35,000,000mm、より好ましくは18,000mm~2,000,000mm、更に好ましくは100,000mm~600,000mmである。
【0080】
また、複数の板状部材21及び複数の板状部材20の各々に設けられるスリットの形状及び大きさは、スリットによって形成されるガスの流路の面積を考慮し、適宜設定される。
【0081】
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さ(内部空間24の幅方向とスリットの幅方向とが一致する場合には、スリットの幅方向長さ)は、内部空間24の幅方向長さに対し、好ましくは2%~50%であり、より好ましくは5%~30%であり、更に好ましくは10%~15%である。
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さが2%以上である場合には、スリットの機能(即ち、内部空間24内におけるガスの流れを確保する機能)がより効果的に発揮され、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さが50%以下である場合には、気液反応(即ち、溶融金属と反応ガスとの反応)が起こる時間をより確保しやすくなり、その結果、溶融金属と反応ガスとの反応をより促進させることができる。
【0082】
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さ(内部空間24の幅方向とスリットの幅方向とが一致する場合には、スリットの幅方向長さ)は、好ましくは1.5mm~35mm、より好ましくは3.5mm~21mm、更に好ましくは7mm~10mmである。
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さが1.5mm以上である場合には、スリットの機能(即ち、内部空間24内におけるガスの流れを確保する機能)がより効果的に発揮され、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
内部空間24の幅方向についてのスリットの長さが35mm以下である場合には、気液反応(即ち、溶融金属と反応ガスとの反応)が起こる時間をより確保しやすくなり、その結果、溶融金属と反応ガスとの反応をより促進させることができる。
【0083】
また、溶融金属の液面からスリットの上端までの高さは、好ましくは1.0mm~20mm、より好ましくは1.0mm~10mm、更に好ましくは1.0mm~5mmである。
溶融金属の液面からスリットの上端までの高さが1.0mm以上である場合には、スリットの機能(即ち、内部空間24内におけるガスの流れを確保する機能)がより効果的に発揮され、その結果、装置内でのガスの滞留がより効果的に抑制される。
溶融金属の液面からスリットの上端までの高さが20mm以下である場合には、気液反応(即ち、溶融金属と反応ガスとの反応)が起こる時間をより確保しやすくなり、その結果、溶融金属と反応ガスとの反応をより促進させることができる。
【0084】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る気液反応装置の概略断面図であり、図8は、図7の部分拡大図である。
図7は、第1実施形態における図2に対応し、図8は、第1実施形態における図4に対応する。
第2実施形態に係る気液反応装置40は、第1実施形態に係る気液反応装置10における複数の板状部材の形状を変更した例である。
【0085】
図7に示されるように、気液反応装置40は、気液反応チャンバー11の内部空間24に接する天井面12Aから内部空間24内に突出する突出部材として、複数の板状部材51及び複数の板状部材50を備える。複数の板状部材51及び複数の板状部材50は、いずれも石英からなる。
【0086】
複数の板状部材51及び複数の板状部材50は、内部空間の長手方向について、交互に配置されており、いずれも天井面に溶接されている。
複数の板状部材51及び複数の板状部材50の各々の先端は、溶融金属M1中に浸漬され、かつ、底板18には接していない。複数の板状部材51及び複数の板状部材50の各々は、側板14及び15に接している。
気液反応装置40では、複数の板状部材51及び複数の板状部材50の各々に設けられたスリットにより、内部空間24内におけるガスの流れが確保される。
【0087】
板状部材50の形状は、板状部材20を板状部材20の突出方向中央部において、下流側が凸となる方向に折り曲げた形状となっている。従って、板状部材50は、板状部材20と同様に、1つのスリットを有する。
板状部材51の形状は、板状部材21を板状部材21の突出方向中央部において、下流側が凸となる方向に折り曲げた形状となっている。従って、板状部材51は、板状部材21と同様に、2つのスリットを有する。
以上により、気液反応装置40においても気液反応装置10と同様に、隣り合う板状部材において、各板状部材に設けられたスリットは、内部空間24の長手方向の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている。
【0088】
以下、図8を参照し、板状部材50の形状について更に詳細に説明する。
図8に示されるように、板状部材50は、天井面12Aから内部空間24内に突出する突出部53と、突出部53の突出方向に対し上流側に曲がっている曲がり部54と、から構成されている。
突出部53の上流側の突出角度θ1は、鈍角(即ち、90°超180℃未満)となっている。突出角度θ1の好ましい範囲は前述のとおりである。
また、天井面12Aのうち上流側の領域又は天井面12Aを上流側に延長した仮想面と、曲がり部54の上流側の面と、のなす角度θ2は、70°~110°となっている。角度θ2の好ましい範囲は前述のとおりである。
板状部材50において、突出部53の突出角度θ1が鈍角であることにより、第1実施形態と同様の効果が奏される。
板状部材50は、更に、角度θ2にて曲がる曲がり部を有するので、上下方向のガスの混合が更に促進され、気液反応がより促進される。
【0089】
板状部材51の形状は、スリットの数及び位置を除けば、板状部材50の形状と同様である。
【0090】
第2実施形態において、複数の板状部材の形状以外の構成は、第1実施形態の構成と同様である。第2実施形態の好ましい態様及び変形例についても、第1実施形態の好ましい態様及び変形例と同様である。
【0091】
(第3実施形態)
図9は、第3実施形態に係る気液反応装置の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図9は、第1実施形態における図4に対応する。
第3実施形態に係る気液反応装置60は、第1実施形態に係る気液反応装置10における複数の板状部材(複数の板状部材21及び複数の板状部材20)を、複数の板状部材62に変更した例である。
図示は省略したが、複数の板状部材62の各々には、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリットが設けられている。複数の板状部材62のうち、隣り合う2つの板状部材62におけるスリットは、内部空間の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている。
【0092】
図9に示されるように、気液反応装置60における板状部材62は、曲がり部のみから構成されている。即ち、板状部材62は、内部空間24内に突出すると同時に上流側に曲がりはじめ、かつ、その全体が上流側に緩やかに曲がっている。
かかる形状の板状部材62の突出角度θ1は、図9に示す断面において、板状部材62の上流側の面が天井面12Aに接する点を通る、板状部材62の上流側の面の接線Tを引き、この接線Tと天井面12Aの上流側の領域又は天井面12Aを上流側に延長した仮想面とのなす角度を測定することによって求められる。
【0093】
板状部材62の先端は、溶融金属M1の液面から離れた位置に配置されている。
第3実施形態の変形例として、第1及び第2実施形態と同様に、板状部材62の先端を溶融金属M1に浸漬させた例も挙げられる。
【0094】
第3実施形態において、複数の板状部材の形状以外の構成は、第1実施形態の構成と同様である。第3実施形態の好ましい態様及び変形例についても、第1実施形態の好ましい態様及び変形例と同様である。
【0095】
(第4実施形態)
図10は、第4実施形態に係る気液反応装置の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図10は、第1実施形態における図4に対応する。
第4実施形態に係る気液反応装置70は、第1実施形態に係る気液反応装置10における複数の板状部材(複数の板状部材21及び複数の板状部材20)を、板状部材以外の突出部材である、複数の突出部材72に変更した例である。
図示は省略したが、複数の突出部材72の各々には、内部空間の長手方向にガスを通過させるスリットが設けられている。複数の突出部材72のうち、隣り合う2つの突出部材72におけるスリットは、内部空間の一端側から見た場合に、互いに重ならない位置に配置されている。
【0096】
図10に示されるように、気液反応装置70における突出部材72の上流側の面は、下流側が凸となる向きに曲がった曲面となっている。突出部材72の下流側の面は、天井面12Aに垂直な平面となっている。
かかる形状の突出部材72の上流側の突出角度θ1は、図10に示す断面において、突出部材72の上流側の面が天井面12Aに接する点を通る、突出部材72の上流側の面の接線Tを引き、この接線Tと天井面12Aの上流側の領域又は天井面12Aを上流側に延長した仮想面とのなす角度を測定することによって求められる。
【0097】
突出部材72の先端は、溶融金属M1の液面から離れた位置に配置されている。
第4実施形態の変形例として、第1及び第2実施形態と同様に、突出部材72の先端を溶融金属M1に浸漬させた例も挙げられる。
【0098】
この第4実施形態に示されるように、本開示における突出部材は、板状部材には限定されない。本開示における突出部材は、要するに、上流側の面と、天井面の上流側の領域又は天井面を上流側に延長した仮想面と、のなす角度である上流側の突出角度θ1が鈍角となってさえいれば、本開示における効果(ガスの上下方向の混合促進の効果、及び、突出部材の上流側上部におけるガスの滞留抑制効果)が奏される。
突出部材の下流側の突出角度には特に制限はない。
突出部材の断面形状としては、図10に示す突出部材72の断面形状以外にも、三角形;台形;三角形及び台形以外の山形形状;等が挙げられる。
但し、内部空間の有効利用の観点から、突出部材は板状部材を含むことが好ましく、第1~第3実施形態にて例示したような板状部材であることがより好ましい。
【0099】
以上で説明した、第1~第4実施形態は、適宜組み合わせて適用することもできる。
例えば、形状及び上流側の突出角度θ1がそれぞれ異なる複数の突出部材が、内部空間の長手方向に沿って配列されていてもよい。
【0100】
<気液反応装置の比較形態>
以下、本開示の気液反応装置には該当しない、比較形態に係る気液反応装置について説明する。
図11は、比較形態に係る気液反応装置100の一部の断面を概念的に示す部分断面図である。
図11は、第1実施形態における図4に対応する。
図11に示されるように、比較形態に係る気液反応装置100は、第1実施形態に係る気液反応装置10における複数の板状部材を、上流側の突出角度θ1が鋭角(即ち、0°以上90°未満)である板状部材120に変更した例である。
この板状部材120に到達したガスの流れは、内部空間内に鋭角で突出している板状部材120に沿って急激に変化する。このため、板状部材120の上流側上部領域に、過度の渦流が発生する(図11中、一点鎖線の矢印参照)。
比較例に係る気液反応装置100では、この過度の渦流により、板状部材120の上流側上部領域にガスが滞留する場合がある。このため、比較例に係る気液反応装置100では、突出部材を用いているにもかかわらず、層流によって気液反応が阻害される問題を解決できない場合がある。
なお、比較形態において、板状部材120における上流側の突出角度θ1を90°に変更した場合にも、この比較形態における問題と同様の問題が生じ得る。
【0101】
以上で説明したとおり、本開示の気液反応装置によれば、窒素ガス及び/又はアルゴンガスであるキャリアガスを用いるにもかかわらず、溶融金属と原料ガスとの反応を促進させるという効果が奏される。即ち、本開示の気液反応装置は、キャリアガスとして、窒素ガス及び/又はアルゴンガスを用いる装置である。
但し、本開示の気液反応装置は、窒素ガス及び/又はアルゴンガスであるキャリアガスを、窒素ガス及びアルゴンガス以外のガス(例えば、水素ガス、ヘリウムガス等)に変更して使用することもでき、この場合でも、溶融金属と原料ガスとの反応を行うことができる。
【0102】
〔反応管、成膜装置〕
本開示の反応管は、本開示の気液反応装置を含む。
本開示の成膜装置は、本開示の反応管を含む。
ここで、「成膜」の概念には、(支持基板を用いずに)自立膜を形成すること、及び、支持基板上に膜を形成することの両方が包含される。
支持基板としては、サファイア(0001)基板、炭化ケイ素基板、窒化ガリウム基板等の単結晶基板を用いることができる。
【0103】
本開示の反応管の一例として、溶融金属がガリウム(溶融Ga)であり、原料ガスが第1の塩素ガス(Cl)であり、生成ガスが一塩化ガリウムガス(GaCl)である態様の気液反応装置を含む反応管が挙げられる。
この一例に係る反応管では、上記態様の気液反応装置から反応管内に排出される一塩化ガリウムガス(GaCl)と、反応管内であって気液反応装置外に供給された第2の塩素ガス(Cl)と、の反応によって三塩化ガリウムガス(GaCl)が生成される。
上記態様の気液反応装置では、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスを用いるにもかかわらず、溶融金属(溶融Ga)と原料ガス(Cl)との反応が促進されるので、原料ガス(Cl)の混入が抑制された一塩化ガリウムガス(GaCl)が生成される。従って、上記一例に係る反応管では、原料ガス(Cl)の混入が抑制された一塩化ガリウムガス(GaCl)と、第2の塩素ガス(Cl)と、の反応によって、原料ガス(Cl)の混入が抑制された三塩化ガリウムガス(GaCl)が得られる。
【0104】
本開示の成膜装置の一例として、上記一例に係る反応管を含む成膜装置が挙げられる。
この一例に係る成膜装置では、上記一例に係る反応管で生成された前記三塩化ガリウムガスと、成膜装置内であって上記反応管外に供給されたアンモニアガスと、の反応によって、窒化ガリウム膜が成膜される。
即ち、この一例に係る成膜装置は、THVPEによる窒化ガリウム(GaN)膜の成膜装置である。
この一例に係る成膜装置では、原料ガス(Cl)の混入が抑制された三塩化ガリウムガス(GaCl)を用い、高い成長速度にて窒化ガリウム膜を成長させることができる。
前述したとおり、原料ガス(Cl)が混入した三塩化ガリウムガス(GaCl)を用いて窒化ガリウム膜を成長させると、混入したClガスが窒化ガリウム膜をエッチングすることにより、窒化ガリウム膜の成長速度が低下するおそれがある。
【0105】
但し、本開示の反応管は、上記一例には限定されない。本開示の反応管は、要するに、本開示の気液反応装置を含んでさえいればよく、その他には特に限定はない。
また、本開示の成膜装置も、上記一例には限定されない。本開示の成膜装置は、要するに、本開示の反応管を含んでさえいればよく、その他には特に限定はない。
【0106】
<成膜装置の一実施形態>
以下、本開示の成膜装置の一実施形態について説明する。
図12は、本開示の成膜装置の一実施形態に係る成膜装置200を概念的に示す概略断面図である。
成膜装置200は、THVPEによる窒化ガリウム(GaN)膜の成膜装置である。
【0107】
図12に示されるように、成膜装置200は、管状の筐体202と、筐体202の内部に配置された、反応管230及びサセプタ260と、を備える。
反応管230は、窒化ガリウム(GaN)膜の原料ガスの1つであるGaClを生成するための部材であり、サセプタ260は、窒化ガリウム(GaN)膜を支持するための部材である。
筐体202及び反応管230の材質としては、例えば、石英、サファイア、炭化ケイ素(SiC)、等が挙げられる。
サセプタ260の材質としては、セラミックス(例えば、窒化珪素と窒化ホウ素との複合焼結体等)等が挙げられる。
【0108】
反応管230は、管本体232と、管本体232の内部に配置された気液反応装置210と、を備える。
管本体232の内部に配置された気液反応装置210は、本開示の気液反応装置の一例である。但し、図12では、突出部材の図示を省略している。
気液反応装置210の一端側上部には、キャリアガスとしてのN(不図示)と原料ガスとしての第1の塩素ガス(Cl)との混合ガスA(不図示)を供給するための供給管240が接続されている。
気液反応装置210内では、供給管240を通じて供給された混合ガスA中のClと気液反応装置210内に収容されている溶融金属としてのGaとの気液反応により、生成ガスとしてGaClが生成される。
生成ガスとしてのGaClは、キャリアガスとしてのN(不図示)とともに、気液反応装置210の他端側上部の排出口から、混合ガスB(不図示)として排出される。
【0109】
キャリアガスとしては、Nに加えて、又はNに代えて、Ar(アルゴン)を用いてもよい。
【0110】
管本体232の一方の開口部は、筐体202の内壁の長手方向一端側によって閉塞され、管本体232の他方の開口部は、サセプタ260に向けて開口されている。
【0111】
成膜装置200には、管本体232の内部であって気液反応装置210の外部に対し、第2の塩素ガス(Cl)を供給するための供給管242が設けられている。管本体232の内部において、供給管242の開口部は、気液反応装置210の上記排出口よりも下流側(サセプタ260側)に配置されている。
管本体232の内部では、供給管242を通じて供給されたClと、気液反応装置210から排出されたGaClと、の反応によって、GaClが生成される。
生成されたGaClは、管本体232の他方の開口部からサセプタ260に向けて排出される。
【0112】
管本体232の内径は、上記他方(サセプタ260側)の開口部の近傍から上記他方の開口部に向かうにつれて除々に小さくなっている。これにより、サセプタ260に向けてGaClを効率よく放出できる。
【0113】
成膜装置200には、筐体202の内部であって反応管230の外部に対し、NHを供給するための供給管244が設けられている。
筐体202の内部では、供給管244を通じて供給されたNHと、反応管230から排出されたGaClと、の反応により、窒化ガリウム(GaN)膜が成長する。
【0114】
サセプタ260は、筐体202の内壁の長手方向他端側に、回転軸261を介し、回転可能に支持されている。
サセプタ260には不図示の基板が装着され、この基板上に窒化ガリウム(GaN)膜が成長する。
【0115】
成膜装置200には、筐体202の内部であって反応管230の外部に対し、キャリアガスとしてのNを供給するための供給管246が設けられている。窒化ガリウム(GaN)膜の成長は、供給管246によって供給されたキャリアガスNを流しながら行う。
【0116】
筐体202の長手方向他端側(サセプタ260が支持されている側)の下部には、筐体202の内部を排気するための排気管250が設けられている。
この排気管250を通じて筐体202の内部を排気(Exhaust)することにより、筐体202の内部の余分なガスが排気され、かつ、GaCl、GaCl、NHなどの各ガスをサセプタ260に導く気流が形成され得る。
【0117】
また、筐体202の周囲には、気液反応装置210及びその周辺(以下、「原料部」ともいう)を加熱するためのヒーター204と、サセプタ260及びその周辺(即ち、「成長部」ともいう)を加熱するためのヒーター206と、が配置されている。
窒化ガリウム(GaN)膜の成長は、ヒーター204によって原料部を、ヒーター206によって成長部を、それぞれ独立に、所望とする温度に加熱しながら行う。
【0118】
原料部の加熱温度は、例えば500℃~1500℃、より好ましくは600℃~1200℃、より好ましくは700℃~1000℃である。
生成部の加熱温度は、例えば900℃~1500℃、より好ましくは1000℃~1500℃、より好ましくは1100℃~1400℃である。
【0119】
成膜装置200の構成については、例えば、国際公開第2011/142402号、特開2016-44342号公報、特開2012-248803号公報等の公知文献を適宜参照してもよい。
【0120】
成膜装置200が備える気液反応装置210は、前述したとおり、窒素ガス及びアルゴンガスの少なくとも一方であるキャリアガスを用いるにもかかわらず、溶融金属と原料ガスとの反応を促進させることができる気液反応装置である。
このため、成膜装置200では、反応部における未反応の原料ガス(第1の塩素ガス)が成長部に送られる現象、及び、この現象に起因する窒化ガリウム膜の成長速度の低下(即ち、第1の塩素ガスによる窒化ガリウム膜のエッチング)が抑制される。
従って、成膜装置200によれば、高い成長速度にて、窒化ガリウム膜を成長させることができる。
【0121】
成膜装置200では、気液反応装置210の原料ガス(第1の塩素ガス)が供給される側が、成膜装置200全体のガスの流れの下流側に配置され、かつ、気液反応装置210の生成ガス(GaCl)が排出される側が、成膜装置200全体のガスの流れの上流側に配置されている。これにより、気液反応装置210内でのガスの流れ方向と、成膜装置200全体のガスの流れ方向と、が反対向きとなっている。これにより、GaClと第2の塩素ガスとの反応によってGaClが生成される領域に、GaClを長く滞在させることができる。このため、GaClと第2の塩素ガスとの反応によってGaClが生成される反応も、効率よく行うことができる。
従って、成膜装置200では、未反応の第2の塩素ガスが成長部に送られる現象も抑制されるので、第2の塩素ガスによる窒化ガリウム膜のエッチングが抑制される。
従って、成膜装置200によれば、より高い成長速度にて、窒化ガリウム膜を成長させることができる。
【実施例
【0122】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
〔実験例1〕
突出部材の上流側の突出角度θ1が異なる突出部材1~5を、第1実施形態(気液反応装置10)に適用した場合における、原料ガス及び生成ガスの質量濃度をシミュレーションによって評価した(実験例1)。
シミュレーションは、ソフトウエアクレイドル社製SCRYU/Tetra(登録商標)を用い、以下の評価条件にて行った。
【0124】
突出部材1~5は、それぞれ、表1に示す形状及び上流側の突出角度θ1を有する突出部材である。
突出部材1及び2は比較例であり、突出部材3~5は実施例である。
突出部材3及び4は、第1実施形態における板状部材20及び21に対応し、突出部材5は、第2実施形態における板状部材50及び51に対応する。
【0125】
(評価条件)
キャリアガスは窒素ガスとし、原料ガスはClとし、溶融金属はガリウム(溶融Ga)とし、生成ガスはGaClとした。
内部空間24の長手方向長さは、292mmとし、内部空間24の幅方向長さ(上下方向及び長手方向に直交する方向の長さ)は、69mmとし、溶融Gaの液面から天井面12Aまでの高さは、7mmとし、溶融Gaの液面から天板13の天井面までの高さは、25mmとし、溶融Gaの深さは31.5mmとし、天板13の長さ(内部空間24の長手方向についての長さ)は66mmとした。
隣り合う板状部材間の距離(天井面との接続部分同士の距離)は、16mmとした。板状部材の数は10枚とした。
10枚の板状部材として、より詳細には、板状部材20と同様にスリットを1つ有する板状部材と、板状部材21と同様にスリットを2つ有する板状部材と、を内部空間24の長手方向に沿って交互に配列させた。
各板状部材における各スリットの幅方向長さ(即ち、内部空間24の幅方向についての長さ)は、いずれも、9mm(即ち、内部空間24の幅方向長さに対して13%)とした。
溶融Gaの液面から各板状部材における各スリットの上端までの高さは、いずれも1.5mmとし、溶融Gaの温度は850℃とした。
キャリアガス及び原料ガスからなる混合ガスAの供給流量は、1slmとし、混合ガスAの温度は750℃とし、原料ガスの供給流量は、50sccmとした。
評価位置は、図2及び図3における評価点P(即ち、上流側から2枚目の板状部材と3枚目の板状部材との間であって、スリットを通じたガス流入の影響を受けない評価点)とした。
【0126】
以上の条件の下、混合ガスAの供給開始から300秒経過時における、図2及び図3における評価点Pでの、原料ガス(Cl)及び生成ガス(GaCl)の質量濃度をそれぞれ求めた。
原料ガス(Cl)及び生成ガス(GaCl)の質量濃度は、いずれも、突出部材1~5における最高値を100とした場合の相対値で表した。
評価結果を表1に示す。
この評価において、原料ガス(Cl)の質量濃度は値が低いほど、気液反応促進の効果に優れ、生成ガス(GaCl)の質量濃度が高いほど、気液反応促進の効果に優れる。
【0127】
【表1】

【0128】
表1に示すように、上流側の突出角度θ1が鈍角である突出部材3~5は、上流側の突出角度θ1が90°又は鋭角である突出部材1及び2と比較して、原料ガス(Cl)の質量濃度が低く、生成ガス(GaCl)の質量濃度が高かった。
従って、突出部材3~5によれば、突出部材1及び2と比較して、気液反応が促進されることが確認された。
【0129】
また、突出部材3~5は、いずれもガスを通過させるスリットを有するため、スリットを有しない突出部材と比較して、装置内(気液反応チャンバー内)でのガスの滞留を抑制する効果に優れる。
【0130】
〔実験例2〕
前述の実験例1において突出部材5を適用した気液反応装置を実際に作製した。以下、この気液反応装置を気液反応装置Aとする。前述した一実施形態に係る成膜装置200を準備し、この成膜装置200の気液反応装置210として、上記気液反応装置Aをセットした。気液反応装置Aをセットした成膜装置を、以下、実施例101の成膜装置とする。
また、10枚の突出部材5を除去したこと以外は気液反応装置Aと同様の構成を有する気液反応装置X(即ち、突出部材が無い、比較用の気液反応装置)を実際に作製した。次に、実施例101の成膜装置において、気液反応装置Aを気液反応装置Xに変更し、比較例101の成膜装置とした。
【0131】
実施例101及び比較例101の成膜装置のそれぞれについて、気液反応装置中のガスの総流量と、GaN膜の成長速度と、の関係を評価した。結果を図13に示す。
ここで、成長部の条件は以下のとおりとした。
-成長部-
・成長温度1250℃
・アンモニア分圧0.2atm
・GaCl分圧0.005atm
【0132】
図13は、気液反応装置中のガスの総流量と、GaN膜の成長速度と、の関係を示すグラフである。
図13に示されるように、実施例101の成膜装置では、GaN膜の成長速度は、気液反応装置中のガスの総流量にほぼ比例していた(実線参照)。
この結果は、実施例101の成膜装置の場合、気液反応装置中において、熱力学的に100%の反応が見込まれる下記反応式(2)の反応が、実際にほぼ100%進行していることを意味している。
【0133】
Ga(l)+1/2Cl(g) → GaCl(g) … 反応式(2)
【0134】
図13に示されるように、比較例101の成膜装置では、気液反応装置中のガスの総流量が増加するにつれてGaN膜の成長速度の増加率が低下した。更に、ガスの総流量800ml/min以上の領域では、ガスの総流量が増加するにつれてGaN膜の成長速度が寧ろ低下した。
この結果は、比較例101の成膜装置の場合、気液反応装置中において、上記反応式(2)の反応が完全には進行せず、未反応のClが成長部に送られたことを意味すると考えられる。
即ち、GaN膜の原料となるGaClに、未反応のClが混入した結果、ClによってGaN膜がエッチングされ、結果的に、GaN膜の成長速度が低下したためと考えられる。
特に、ガスの総流量800ml/min以上の領域では、ガスの総流量が増加するにつれ、未反応のClが増加し、その結果、ガスの総流量が増加するにつれてGaN膜の成長速度が低下したと考えられる。
【0135】
2017年5月18日に出願された日本国特許出願2017-098870号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13