(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】標的物質検出方法及び導波モードセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/552 20140101AFI20220714BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220714BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N33/543 595
G01N21/64 G
(21)【出願番号】P 2018014412
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 真
(72)【発明者】
【氏名】芦葉 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦生
(72)【発明者】
【氏名】細川 和也
(72)【発明者】
【氏名】小山田 千秋
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-311831(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087088(WO,A1)
【文献】特開2017-156159(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194663(WO,A1)
【文献】特表2015-502356(JP,A)
【文献】特開平07-260790(JP,A)
【文献】特開2008-139245(JP,A)
【文献】特開2004-163402(JP,A)
【文献】特開2017-181356(JP,A)
【文献】特開2013-024606(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129361(WO,A1)
【文献】特開2003-156442(JP,A)
【文献】米国特許第06511854(US,B1)
【文献】Hiroki Ashiba et al.,Sensor chip design for increasing surface-plasmon-assisted fluorescence enhancement of the V-trench biosensor,Japanese Journal of Applied Physics,日本,2016年,55, (2016),067001,http://doi.org/10.7567/JJAP.55.067001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 33/48 - G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波モードセンサのセンサチップの表面にビオチンを固定化するビオチン固定化工程と、
検出対象となる標的物質の存在が検証される被検体と、少なくともストレプトアビジン及びアビジンのいずれかから選択されるビオチン結合体及び前記ビオチン結合体と結合されるとともに前記標的物質と結合して捕捉可能とされる第1の標的物質捕捉物質を含む試薬とが混合された混合液を調製する混合液調製工程と、
前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面上に前記混合液を導入する混合液導入工程と、
前記標的物質を含まない状態の前記混合液、前記被検体と混合されない状態の前記試薬及び前記標的物質の含有量がコントロールされた状態の前記混合液のいずれかである基準液を前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面に導入したときの前記導波モードセンサのセンシング状態を基準状態とし、前記混合液導入工程により前記混合液を導入したときの前記導波モードセンサの前記センシング状態を測定状態として、前記基準状態と前記測定状態とを比較することで前記標的物質を検出する標的物質検出工程と、
を含み、
前記ビオチン固定化工程が、シラン化合物にビオチンが付加されたビオチニル化シランカップリング剤の溶液を前記センサチップの表面に接触させた後、前記センサチップを乾燥させる工程であ
り、
前記ビオチニル化シランカップリング剤が、下記一般式(1)に示す化合物であることを特徴とする標的物質検出方法。
ただし、前記一般式(1)中、R
1
は、炭素数が2~10のアルキレン基を示し、R
2
は、炭素数が2~15のアルキレン基を示す。
【化1】
【請求項2】
試薬が、導波モードセンサでセンシング可能な標識物質と、前記標識物質と結合されるとともに標的物質と結合して捕捉可能とされる第2の標的物質捕捉物質とを更に含む請求項1に記載の標的物質検出方法。
【請求項3】
第1の標的物質捕捉物質及び第2の標的物質捕捉物質が、標的物質に対する抗体及びアプタマーのいずれかである請求項2に記載の標的物質検出方法。
【請求項4】
標識物質が、可視光領域において光吸収性を有する色素及びナノ粒子、蛍光を発する色素及び微粒子、並びに、散乱光を発する微粒子のいずれかである請求項2から3のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項5】
導波モードセンサによるセンシングが、センサチップの裏面側から全反射条件で照射された光の反射光を検知して実施される請求項1から4のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項6】
標的物質検出工程が、基準状態と測定状態とでそれぞれ検知された反射光の反射光スペクトルにおけるディップ底部の深さを比較して実施される請求項5に記載の標的物質検出方法
。
【請求項7】
導波モードセンサによるセンシングが、センサチップに対し裏面側から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる標的物質の存在に伴う蛍光又は散乱光を検知して実施される請求項1から4のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項8】
シラン化合物にビオチンが付加されたビオチニル化シランカップリング剤により表面修飾されたセンサチップが配され、前記ビオチニル化シランカップリング剤が、下記一般式(1)に示す化合物であることを特徴とする導波モードセンサ。
ただし、前記一般式(1)中、R1は、炭素数が2~10のアルキレン基を示し、R2は、炭素数が2~15のアルキレン基を示す。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波モードセンサを用いて標的物質を検出する際、アビジン等により標的物質を捕捉するための処理を簡易化する標的物質検出方法及び前記標的物質検出方法の実施に好適な導波モードセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中に存在する微小物質を標的物質とし、前記標的物質の検出を行うセンサとして、導波モードセンサが用いられている(例えば、非特許文献1~3参照)。
前記導波モードセンサにおいて前記標的物質の検出を担うセンサチップとしては、光透過性基板上に、金属材料、半導体材料及び第1の誘電体材料のいずれかで形成される第1の層と、第2の誘電体材料で形成される第2の層とをこの順で積層させたものが用いられる。
このようなセンサチップに対し、裏面側(前記光透過性基板側)から全反射条件を満たしつつ特定の入射角度で前記光を照射すると、特定波長の光が前記第1の層及び前記第2の層の中を伝搬する導波モード(光導波モード、導波路モード、光導波路モード、リーキーモードなどとも呼ばれる)と結合し、前記導波モードが励起される。
【0003】
前記導波モードセンサによるセンシングの実施方法として、前記センサチップに照射される前記光の反射光を検知する第1の方法がある。
この第1の方法では、特定波長の入射光を前記導波モードセンサに入射すると、前記導波モードが励起される特定の入射角度において前記反射光の強度が変化すること、或いは、特定の入射角度でスペクトル幅を持つ入射光を前記導波モードセンサに入射すると、前記導波モードが励起される特定の波長において前記反射光の強度が変化することを利用する。
また、前記第1の方法では、前記導波モードが励起される前記入射角度付近又は前記特定波長付近における反射光強度が前記センサチップの表面近傍の複素屈折率によって変化することを利用する。
即ち、前記センサチップの表面に前記標的物質が吸着したり接近したりして前記複素屈折率に変化が生じると、前記入射角度或いは前記特定波長の付近における反射光強度に変化をもたらすことから、前記標的物質を前記反射光の特性変化として検出することができる。
具体的には、前記標的物質の吸着等を、特定波長の光を入射したときの特定の入射角度における急激な反射光強度の減少を示すディップの位置や深さ、或いは、特定の入射角度でブロードな波長特性を持つ光を入射したときの特定波長における急激な反射光強度の減少を示すディップの位置や深さを検出器で捉えることで、前記センサチップ表面における前記標的物質の吸着等を検出することができる。
前記導波モードの励起条件は、前記センサチップ表面における前記複素屈折率の虚部の変化、つまり吸光度の変化に敏感であり、前記標的物質の吸着等によって吸光度に変化が生ずると、前記反射光の特性の大きな変動となって現れることから、前記導波モードセンサによる前記標的物質の高感度検出を期待できる。
【0004】
他の前記導波モードセンサによるセンシングの実施方法として、前記センサチップに照射される光に基づいて発せられる前記標的物質の存在に伴う蛍光又は散乱光を検知する第2の方法がある。
この第2の方法では、前記センサチップ裏面側から全反射条件を満たしつつ特定の入射角度で前記光を照射し、前記導波モードを励起させたときに前記センサチップ表面近傍に増強電場が形成されることを利用する。
即ち、前記増強電場が形成されると、前記センサチップ表面上に導入された前記標的物質自身又は前記標的物質を標識する標識物質から蛍光又は散乱光が発せられることから、前記蛍光等を検出器で捉えることで前記標的物質の存在を検出することが可能となる。
【0005】
ところで、前記導波モードセンサにより、前記標的物質として特定の生体物質等を検出する場合、前記標的物質を特異的に捕捉する抗体を前記センサチップの表面上に固定化した上で、前記抗体で前記標的物質(抗原)を抗原抗体反応により捕捉することにより、前記標的物質を検出することが行われている。
この従来法では、先ず、前記センサチップを、ビオチン部位を有する化合物で表面修飾した後、前記センサチップの表面上にストレプトアビジン又はアビジンに前記抗体を結合させた試薬を導入し、前記ビオチン部位に前記ストレプトアビジン等を結合させることで、前記ビオチン部位を有する化合物及び前記ストレプトアビジン等を介して前記抗体を前記センサチップの表面上に固定化する前処理を実施する。
次いで、被検体液を前記センサチップの表面上に導入して、前記抗体に対し、前記標的物質(抗原)を前記抗原抗体反応により捕捉させる捕捉処理を実施する。
次いで、前記抗体が前記標的物質を捕捉している状態と捕捉していない状態とにおける前記導波モードセンサの各センシング状態の比較を通じて、前記被検体液中に含まれる前記標的物質を検出する検出処理を実施する。
【0006】
しかしながら、前記試薬と前記被検体液とを別々に取り扱うと、スペースが限られた前記センサチップの表面上で、前記抗原抗体反応のための前記試薬と前記被検体液との混合を行う必要があり、前記検出処理を行う前の作業が煩雑となる。加えて、前記抗原抗体反応のための前記捕捉処理とは別に、前記ビオチン部位を有する化合物と前記抗体付きのストレプトアビジン等とを結合させる前記前処理が必要であるため、前記検出処理を行う前の作業が段階的となり、より一層、前記検出処理を行う前の作業を煩雑化させる。
更に、前記ビオチン部位を有する化合物と未結合の前記抗体付きのストレプトアビジン等が前記捕捉処理において前記抗原と結合した結合体は、前記検出処理において夾雑物との区別が付かないため、前記前処理と前記捕捉処理との間に前記ビオチン部位を有する化合物と未結合の前記抗体付きのストレプトアビジン等を洗浄する洗浄工程が必要となる。
よって、従来法では、作業の煩雑さや検出に必要な工程数が嵩むとともに、前記標的物質の検出に多くの時間を要する問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nanotechnology Vol. 19, 095503 (2008)
【文献】Optics Express Vol. 18, No. 15, 15732 (2010)
【文献】Optics Express Vol. 25, No. 21, 26011 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、導波モードセンサを用いた標的物質の検出操作を簡素化可能な標的物質検出方法及び前記標的物質検出方法の実施に好適な前記導波モードセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 導波モードセンサのセンサチップの表面にビオチンを固定化するビオチン固定化工程と、検出対象となる標的物質の存在が検証される被検体と、少なくともストレプトアビジン及びアビジンのいずれかから選択されるビオチン結合体及び前記ビオチン結合体と結合されるとともに前記標的物質と結合して捕捉可能とされる第1の標的物質捕捉物質を含む試薬とが混合された混合液を調製する混合液調製工程と、前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面上に前記混合液を導入する混合液導入工程と、前記標的物質を含まない状態の前記混合液、前記被検体と混合されない状態の前記試薬及び前記標的物質の含有量がコントロールされた状態の前記混合液のいずれかである基準液を前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面に導入したときの前記導波モードセンサのセンシング状態を基準状態とし、前記混合液導入工程により前記混合液を導入したときの前記導波モードセンサの前記センシング状態を測定状態として、前記基準状態と前記測定状態とを比較することで前記標的物質を検出する標的物質検出工程と、を含み、前記ビオチン固定化工程が、シラン化合物にビオチンが付加されたビオチニル化シランカップリング剤の溶液を前記センサチップの表面に接触させた後、前記センサチップを乾燥させる工程であ
り、前記ビオチニル化シランカップリング剤が、下記一般式(1)に示す化合物であることを特徴とする標的物質検出方法。
ただし、前記一般式(1)中、R
1
は、炭素数が2~10のアルキレン基を示し、R
2
は、炭素数が2~15のアルキレン基を示す。
【化1】
<2> 試薬が、導波モードセンサでセンシング可能な標識物質と、前記標識物質と結合されるとともに標的物質と結合して捕捉可能とされる第2の標的物質捕捉物質とを更に含む前記<1>に記載の標的物質検出方法。
<3> 第1の標的物質捕捉物質及び第2の標的物質捕捉物質が、標的物質に対する抗体及びアプタマーのいずれかである前記<2>に記載の標的物質検出方法。
<4> 標識物質が、可視光領域において光吸収性を有する色素及びナノ粒子、蛍光を発する色素及び微粒子、並びに、散乱光を発する微粒子のいずれかである前記<2>から<3>のいずれかに記載の標的物質検出方法
。
<
5> 導波モードセンサによるセンシングが、センサチップの裏面側から全反射条件で照射された光の反射光を検知して実施される前記<1>から<
4>のいずれかに記載の標的物質検出方法。
<
6> 標的物質検出工程が、基準状態と測定状態とでそれぞれ検知された反射光の反射光スペクトルにおけるディップ底部の深さを比較して実施される前記<
5>に記載の標的物質検出方法。
<
7> 導波モードセンサによるセンシングが、センサチップに対し裏面側から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる標的物質の存在に伴う蛍光又は散乱光を検知して実施される前記<1>から<
4>のいずれかに記載の標的物質検出方法。
<
8> シラン化合物にビオチンが付加されたビオチニル化シランカップリング剤により表面修飾されたセンサチップが配され
、前記ビオチニル化シランカップリング剤が、下記一般式(1)に示す化合物であることを特徴とする導波モードセンサ。
ただし、前記一般式(1)中、R
1
は、炭素数が2~10のアルキレン基を示し、R
2
は、炭素数が2~15のアルキレン基を示す。
【化2】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、導波モードセンサを用いた標的物質の検出操作を簡素化可能な標的物質検出方法及び前記標的物質検出方法の実施に好適な前記導波モードセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】特定の入射角度でブロードな波長特性を持つ光を入射した時の特定波長における急激な反射光強度の減少によって生じるディップの検出例を示す図である。
【
図2】第1実施形態を説明するための説明図である。
【
図3】ビオチン固定化工程の概要を示す説明図である。
【
図6】第2実施形態を説明するための説明図である。
【
図7】ネガティブコントロール、ポジティブコントロール及びCRP抗原100pM,200pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
【
図8】ネガティブコントロール及びCRP抗原10pM,50pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
【
図9】ネガティブコントロール、ポジティブコントロール及びCRP抗原300pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(導波モードセンサの基本構成)
先ず、本発明の標的物質検出方法が適用される導波モードセンサの基本構成について説明し、次いで、前記導波モードセンサの基本構成に基づき、前記標的物質検出方法について説明する。
【0013】
前記導波モードセンサは、センサチップと、液体保持部と、光照射部と、光検出部とを有して構成される。
【0014】
<センサチップ>
前記センサチップは、光透過性基板と導波モード励起層とが配され、前記光透過性基板側から全反射条件で光が照射されたときに前記導波モード励起層に導波モードが励起されるように構成される。
【0015】
-光透過性基板-
前記光透過性基板は、公知のガラス材料、プラスチック材料で形成される基板である。
なお、本明細書において、「光透過性」とは、可視光透過率が0.5%以上であることを示す。
【0016】
前記透過性基板の形成材料である前記ガラス材料としては、特に制限はないが、前記光透過性基板の製造コスト及び入手し易さの観点に加え、好適な屈折率を満足する前記光透過性基板が得られる観点から、シリカガラスが好ましい。前記シリカガラスとしては、二酸化珪素(SiO2)を単一成分として形成されるシリカガラスそのもののほか、溶融石英ガラスのような不純物を含むシリカガラス、ホウ素シリカガラス、フッ素添加シリカガラス、ゲルマニウム添加シリカガラスなどのシリカガラスに添加剤を添加したガラスを含み、例えば、BK7ガラスやパイレックスガラス(登録商標)などを含む。
プラスチック材料としては、ポリスチレンや、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、COP等の一般的な透明なプラスチック材料を用いることができる。
【0017】
-導波モード励起層-
前記導波モード励起層は、前記光透過性基板上に第1の層と第2の層とがこの順で積層されて構成され、前記導波モードが励起可能とされる層である。
前記導波モードは、前記センサチップに対して前記光透過性基板側(裏面側)から全反射条件で光を照射することで励起される。
【0018】
--第1の層--
前記第1の層は、金属材料、半導体材料及び第1の誘電体材料のいずれかで形成される。
前記金属材料としては、特に制限はなく、例えば、金、銀、銅等の金属材料が挙げられる。
前記半導体材料としては、特に制限はなく、Si、Ge、SiGe等の公知の半導体材料又は化合物半導体材料が挙げられるが、中でも、3.0以上の高い屈折率が得られ易いSi、Geが好ましい。
前記第1の誘電体材料としては、特に制限はなく、例えば、TiO2、Ta2O5等の公知の光透過性の誘電体材料が挙げられるが、中でも、2.5以上の高い屈折率が得られ易く、消衰係数が低い(光透過性が高い)TiO2が好ましい。
また、前記第1の層の厚みとしては、構成材料及び照射する光の波長によって最適値が決定されるとともに、この値は、フレネルの式を用いた計算から算出可能であることが知られている。一般に、近紫外から近赤外域の波長帯の光を使用する場合、前記第1の厚みは、数nm~数百nmとなる。
なお、前記第1の層の形成方法としては、特に制限はなく、形成材料に応じて適宜選択することができ、例えば、貼り合わせ法、スパッタリング法、蒸着法等の公知の方法が挙げることができる。
【0019】
--第2の層--
前記第2の層は、第2の誘電体材料で形成される。
前記第2の誘電体材料としては、特に制限はなく、例えば、シリカガラス等のガラス材料、TiO
2
等の酸化物、AlN等の窒化物、MgF
2
、CaF等のフッ化物が挙げられるが、中でも、消衰係数が低いシリカガラスが好ましい。前記シリカガラスとしては、二酸化珪素(SiO2)を単一成分として形成されるシリカガラスそのもののほか、ホウ素シリカガラス、フッ素添加シリカガラス、ゲルマニウム添加シリカガラスなどのシリカガラスに添加剤を添加したガラスを含む。
また、前記第2の層の厚みとしては、前記第1の層と同様に構成材料及び照射する光の波長によって最適値が決定されるとともに、この値は、フレネルの式を用いた計算から算出可能であることが知られている。一般に前記第2の層の厚みは、数十nm~数μmとなる。
なお、前記第2の層の形成方法としては、特に制限はなく、形成材料に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、スピンコート法等の公知の方法が挙げることができる。また、前記第1の層が半導体で形成されている場合、前記第1の層の熱酸化により前記第2の層を形成することもできる。
【0020】
ここで、前記光透過性基板が表面と裏面とが平行な板である場合、裏面側から照射された光は、表面上に液体が存在すると全反射されない。よって、このような場合には、前記光透過性基板の裏面部分に回折格子を形成することにより、回折格子に特定の角度で光を照射したときに、光が回折格子で回折されてセンサチップ内に導入されるとともに、センサチップ内に導入された光が全反射条件で表面に照射されて前記導波モード励起層内に導波モードを励起するように、センサチップを構成してもよい。または、前記光透過性基板の表面と裏面とが平行にならないように形成してもよい。或いは、光源から照射される光を公知のプリズムを介して検出板の裏面に照射することとしてもよい。プリズムは、センサチップの裏面に屈折率調整オイル又は光学用接着剤等により光学的に貼り合せて用いることができる。プリズムの形成材料として、前記光透過性基板の形成材料と同じ形成材料が選択される場合には、前記光透過性基板とプリズムとが一体成型されたものを用いることもできる。
【0021】
<液体保持部>
前記センサチップの前記導波モード励起層側の面、つまり、前記センサチップの表面には、液体試料(混合液)が導入される。前記液体試料を前記センサチップの表面上に保持させる方法としては、例えば、前記液体試料を前記センサチップの表面上に滴下した後、カバーガラス等で覆うことが挙げられる。
また、前記液体試料を確実に保持させるため、前記センサチップの表面上に液体試料槽を形成してもよい。前記液体試料槽としては、特に制限はないが、簡易な構成とする観点から、前記センサチップ表面領域の全体又は一部を囲むように前記センサチップの表面上に立設され、前記表面を底とした前記液体試料槽の構成部とされる側壁部が配されることで、構成されることが好ましい。
なお、前記側壁部の形成材料としては、特に制限はなく、公知のガラス材料、樹脂材料等を挙げることができ、前記側壁部の形成方法としても、材料に応じた公知の方法を挙げることができる。
【0022】
<光照射部>
前記光照射部は、前記光学プリズムを介して前記センサチップに対し前記光透過性基板側から全反射条件で光が照射可能とされる部である。
前記光照射部の光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のランプ、LED、レーザー等が挙げられる。
前記光学プリズムを介して前記センサチップに対し全反射条件で光を照射すると前記センサチップの第1の層及び第2の層内に導波モードが形成される。
したがって、この場合に前記光照射部に求められる役割としては、前記光学プリズムを介して前記センサチップに対し全反射条件で光を照射することのみであり、前記光学プリズムを用いる場合、光源の選択に制限がない。
【0023】
ランプ、LED等の放射光源を用いる場合には、入射角度を一定にすることが好ましい。こうしたことから、放射光源を用いる場合には、照射光の照射方向を特定の方位に規制するコリメートレンズ等の案内部を用いることが好ましい。
【0024】
<光検出部>
前記光検出部は、前記センサチップの裏面側から全反射条件で照射された光の反射光及び前記センサチップに対し裏面側から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる前記標的物質の存在に伴う蛍光又は散乱光のいずれかの光を検出する部である。
前記光検出部としては、特に制限はなく、フォトダイオード、光電子増倍管、CCD、CMOSイメージセンサなどの光検出器を用いることができる。また、反射光スペクトルを観測して、検出光強度の波長依存性を測定する場合には、光検出部に分光器を用いることが好ましい。
【0025】
また、前記光検出部の構成としては、前記導波モードセンサのセンシング態様に応じて設定される。
即ち、前記導波モードセンサによるセンシング態様としては、前記センサチップの裏面側から全反射条件で照射された光の反射光を検出するタイプと、前記センサチップに対し裏面側から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる前記標的物質の存在に伴う蛍光又は散乱光タイプとで、2つに大別される。
前記反射光を検出するタイプでは、前記反射光の経路上に前記光検出部を配し、前記蛍光又は前記散乱光を検出するタイプでは、前記蛍光又は前記散乱光が発せられる前記センサチップの表面上に前記光検出部を配することで、これら2つのタイプの前記導波モードセンサが構成される。
【0026】
(標的物質検出方法)
本発明の前記標的物質検出方法について、前記標的物質検出方法に好適に用いられる前記導波モードセンサについての説明を交えつつ、以下に説明する。
【0027】
前記標的物質検出方法は、ビオチン固定化工程と、混合液調製工程と、混合液導入工程と、標的物質検出工程とを含む。
【0028】
-ビオチン固定化工程-
前記ビオチン固定化工程は、前記導波モードセンサの前記センサチップの表面にビオチンを固定化する工程である。
前記ビオチンは、比較的低分子で安定性が高く、また、前記センサチップの表面に固定化される前記ビオチンの量は、制御が容易であるので、製造が容易であり、安定供給及び長期保存が可能な前記センサチップを提供することができる。
前記センサチップの表面に前記ビオチンを固定化する方法としては、特に制限はなく、公知の固定化法の中から適宜選択することができる。
前記公知の固定化法の一例としては、次の通りである。
【0029】
先ず、センサチップをアセトンで超音波洗浄した後、エタノールにて超音波洗浄し、センサチップ表面の清浄な状態にする。
次いで、3-Aminopropyltriethoxysilane(APTES、信越化学工業社製、LS-3150)の0.1体積%エタノール溶液に前記センサチップを常温で24時間浸漬することで、前記センサチップ表面に3-Aminopropyltriethoxysilaneを固定して前記センサチップ表面をアミノ化する表面修飾を行う。
次いで、溶液から取り出した前記センサチップに対し、アセトンによるリンス、エタノール中での3分間の超音波洗浄、1mMのNaOH溶液中での3分間の超音波洗浄、1mMのHCl溶液中での3分間の超音波洗浄、超純水中での3分間の超音波洗浄、及び窒素ブローによる乾燥の各処理をこの順で行う。
次いで、ビオチン部位を有する化合物であるBiotin-(AC5)2 Sulfo-Osu(同仁化学社製、C26H40N5NaO10S2=669.75)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、和光純薬工業社10×PBS(-)を10倍希釈して使用)中に350μg/mLの含有量で混合した溶液中にセンサチップを常温で24時間浸漬させる。
次いで、溶液から取り出したセンサチップに対し、Tween20(東京化成工業社、製品コードT0543)を0.05質量%含む超純水によるリンス、超純水による3回のリンス、及び乾燥の各処理をこの順で行う。
以上の手順により、前記センサチップの表面に前記ビオチンが固定化される。
【0030】
前記公知の固定化法では、概して、アミノ基を有する化合物を前記センサチップ表面に固定して前記センサチップ表面をアミノ化する第1の表面修飾ステップと、ビオチン部位を有する化合物を導入して前記アミノ基と結合させ、前記センサチップ表面を前記ビオチン化する第2の表面修飾ステップとのマルチステップにより実施される。
しかし、前記各表面修飾ステップの実施には、比較的複雑な操作が必要であり、前記ビオチンの固定化に対する再現性が低く、最適化が求められる。
また、表面に前記ビオチンが固定化された前記センサチップを量産する場合、工程数が増えることで製品間のバラツキを抑えるための管理項目が増えるため、製品の安定供給、歩留りの向上においても不利となる。
【0031】
そのため、1ステップで前記センサチップ表面を前記ビオチン化する1ステップ方法が好ましい。
前記1ステップ方法では、前記ビオチン固定化工程が、シラン化合物にビオチンが付加されたビオチニル化シランカップリング剤の溶液をセンサチップの表面に接触させた後、前記センサチップを乾燥させる工程として実施される。
即ち、前記センサチップの表面と結合するシラン部位とビオチン部位とを併せ持つ前記ビオチニル化シランカップリング剤を用いることで、これまでマルチステップにより実施されていた前記センサチップの表面に前記ビオチンを固定化する工程を1ステップで行う。
【0032】
前記ビオチニル化シランカップリング剤としては、前記シラン部位と前記ビオチン部位とを併せ持つものであれば、特に制限はなく用いることができる。
例えば、下記一般式(A)に示すビオチニル化シランカップリング剤を用いることができる。
ただし、前記一般式(A)中、Xは、F,Cl,Br等のハロゲン原子を示し、Yは、エトキシ基等のアルコキシ基を示し、Rは、アルキル基、エチレングリコール鎖、アラルキル鎖、エーテル鎖、チオエーテル鎖等の二価の鎖状基を示し、nは、0~3の整数を示す。
【0033】
【0034】
中でも、本発明者らが新たに合成した、下記一般式(1)に示す化合物が好ましい。
ただし、前記一般式(1)中、R1は、炭素数が2~10のアルキレン基を示し、R2は、炭素数が2~15のアルキレン基を示す。
【0035】
【0036】
以下では、前記一般式(1)で示すビオチニル化シランカップリング剤の代表例として、11-ビオチニル化アミノウンデカン(トリエトキシシリルプロピル)チオエーテル(以下、11-ビオチン化シランカップリング剤)の合成方法を説明するが、出発物質の炭素鎖長を選択することで、前記一般式(1)中のR1,R2に該当する任意の炭素鎖長のビオチニル化シランカップリング剤を前記合成方法に準じて合成することができる。
【0037】
<11-ビオチニル化シランカップリング剤の合成>
(1)先ず、下記スキーム(1)に従って、11-アジ化ウンデセンを合成する。
【0038】
【0039】
具体的には、先ず、三口フラスコ(100mL)に11-ブロモウンデセン2.33g(10mmol)とDMF80mLを入れ、室温で撹拌する。次いで、アジ化ナトリウム1.30g(20mmol)を加え、80℃で12時間撹拌する。次いで、放冷後反応液を5質量%塩酸100mLに注ぎ、クロロホルム100mLで抽出する。次いで、クロロホルム、DMFを留去し、減圧乾燥して粗11-アジ化ウンデセンを合成する。
なお、この手法により実際に合成した前記粗11-アジ化ウンデセンは、次のように得られた。
・無色液体
・粗収率100%
・C11H21N3、M=195.31
【0040】
(2)次いで、下記スキーム(2)に従って、11-アミノウンデセンを合成する。
【0041】
【0042】
具体的には、先ず、三口フラスコ(300mL)に前記粗11-アジ化ウンデセン1.95g(10mmol)、水4mL、THF100mLを入れ、0℃で撹拌する。次いで、トリフェニルホスフィン3.93g(15mmol)のTHF溶液25mLを滴下し、室温で12時間撹拌する。次いで、THFを留去し、シリカゲルカラム(濃度勾配;クロロホルム:メタノール=100:2→100:100)を用いて前記11-アミノウンデセンを精製する。
なお、この手法により実際に合成した前記11-アミノウンデセンは、次のように得られた。
・淡黄色液体
・収率83%
・C11H23N、M=169.31
【0043】
(3)次いで、下記スキーム(3)に従って、ビオチンアミドウンデセンを合成する。
【0044】
【0045】
具体的には、先ず、三口フラスコ(100mL)に窒素雰囲気下ビオチン488mg(2mmol)、前記11-アミノウンデセン339mg(2mmol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)324mg(2.4mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)310mg(2.4mmol)、脱水DMF30mLのそれぞれを加え、氷冷する。次いで、ベンゾトリアゾールイルテトラメチルウロニウムヘキサフルオロフォスフェート(HBTU)934mg(2.2mmol)の脱水DMF溶液30mLを滴下し、窒素雰囲気下室温で12時間撹拌する。DMFを留去し、得られた残渣を5質量%塩酸100mLに注ぎ、クロロホルム100mLで抽出し、クロロホルム層を5質量%塩酸100mLで三回洗浄する。クロロホルムを留去し、シリカゲルカラム(濃度勾配;クロロホルム:メタノール=100:2→100:5)を用いて前記ビオチンアミドウンデセンを精製する。
なお、この手法により実際に合成した前記ビオチンアミドウンデセンは、次のように得られた。
・無色固体(ゲル状)
・収率70%
・C21H37N3O2S、M=395.60
【0046】
(4)次いで、下記スキーム(4)に従って、前記11-ビオチニル化シランカップリング剤を合成する。
【0047】
【0048】
具体的には、ナスフラスコ(50mL)に前記ビオチンアミドウンデセン199mg(0.5mmol)、2,2’-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)5.1mg(0.02mmol)、メルカプトプロピルトリエトキシシラン238mg(1mmol)、脱水ジクロロメタン30mLのそれぞれを加え、素早く撹拌しながらジクロロメタンを留去して減圧乾燥(0℃、5分)し、紫外光を30分間まんべんなく照射する。次いで、シリカゲルカラム(濃度勾配;クロロホルム:エタノール=100:2→100:10)を用いて前記11-ビオチニル化シランカップリング剤を精製する。
なお、この手法により実際に合成した前記11-ビオチニル化シランカップリング剤は、次のように得られた。
・無色固体
・収率66%
・C30H59N3O5S2Si、M=634.02
【0049】
次に、前記11-ビオチニル化シランカップリング剤による前記センサチップ表面のビオチン化の手順について説明する。
先ず、前記センサチップをアセトンで超音波洗浄した後、エタノールにて超音波洗浄し、センサチップ表面の清浄な状態にする。
次いで、前記11-ビオチニル化シランカップリング剤を1mM含むトルエン溶液中に前記センサチップを浸漬して20℃で2週間放置する。この放置期間は、浸漬時の温度を40℃にすると24時間にまで短縮が可能である。
次いで、浸漬後、前記センサチップを溶液から取り出し、トルエンでリンスして、アセトンでリンス後、窒素ブローにて乾燥させる。
以上のプロセスで、前記センサチップの表面に前記ビオチンを固定化することができる。前記11-ビオチニル化シランカップリング剤を用いる方法では、前記トルエン溶液中に前記センサチップを所定の時間浸漬させ、その後リンスし乾燥するだけ(1ステップ)でビオチン化が行うことができ、前記公知の固定化法(マルチステップ)における不利な点を解消することができる。
即ち、前記1ステップによる方法では、前記公知の固定化法(マルチステップ)よりも工程が単純で、再現性が高く、量産時に製品のバラツキを抑えることができる。
【0050】
また、こうした観点から、前記導波モードセンサとしては、前記ビオチニル化シランカップリング剤により表面修飾された前記センサチップが配されたものを用いることが好ましく、中でも、前記ビオチニル化シランカップリング剤が、前記一般式(1)に示す化合物であることが特に好ましい。
【0051】
<混合液調製工程>
前記混合液調製工程は、検出対象となる前記標的物質の存在が検証される被検体と、少なくともストレプトアビジン及びアビジンのいずれかから選択されるビオチン結合体及び前記ビオチン結合体と結合されるとともに前記標的物質と結合して捕捉可能とされる第1の標的物質捕捉物質を含む試薬とが混合された混合液を調製する工程である。
【0052】
前記第1の標的物質捕捉物質としては、前記標的物質を特異的に捕捉する物質であれば、特に制限はなく、前記標的物質の設定や目的に応じて適宜選択することができ、前記標的物質に対する抗体やアプタマー等が挙げられる。
前記第1の標的物質捕捉物質に前記ビオチン結合体を付加する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販のストレプトアビジン標識キット等を用いる方法が挙げられる。
【0053】
前記試薬としては、更に前記導波モードセンサでセンシング可能な標識物質と、前記標識物質と結合されるとともに前記標的物質と結合して捕捉可能とされる第2の標的物質捕捉物質とを含み得る。
前記標識物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、色素や、色付きのビーズ、金属ナノ粒子などが挙げられる。これらの中でも、可視光領域において光吸収性を有する色素及びナノ粒子、蛍光を発する色素及び微粒子、散乱光を発する微粒子が好ましく、金ナノ粒子が特に好ましい。なお、微粒子とは、最大径が1nm~1μmである粒子を指す。
前記金ナノ粒子の形状としては、特に制限はなく、球状、楕円球状、板状等のものを用いることができる。
前記金ナノ粒子の大きさとしては、形状に制限がないため体積換算とすると、6.5×10-20cm3~1.1×10-16cm3が好ましい。この大きさは、前記金ナノ粒子の形状が球状である場合、直径5nm~60nmに相当する。以下、球状である場合として好ましい大きさを説明する。
即ち、前記球状の金ナノ粒子の直径が5nm未満であると、信号が弱く検知が困難になり易く、また、粒径の揃ったものを入手することが困難となり易い。
また、前記球状の金ナノ粒子の直径が60nmを超えると、重力による沈降がブラウン運動に打ち勝ち自重により前記センサチップの表面まで沈むことがある。自重によって沈んだ粒子は、信号として検知されてしまうことから、誤検知の原因となる。こうした観点からは、前記球状の金ナノ粒子の直径が40nm以下であることがより好ましい。ただし、前記球状の金ナノ粒子の直径が40nmを超える場合でも、60nm以下であれば、沈降速度が遅いため、測定を数分以内に完了させる場合には用いることができる。なお、直径40nmの前記球状の金ナノ粒子を体積換算すると、3.4×10-17cm3となる。
【0054】
前記標識物質は、前記標的物質自身が前記反射光の特性変化を付与するか、前記蛍光又は前記散乱光を発する場合には必要ないが、前記標的物質がこのような性質を持たない場合に、前記導波モードセンサでのセンシングのために用いられる。
例えば、前記標的物質がタンパク質等の透明物質である場合について
図1を参照しつつ説明する。
図1は、特定の入射角度でブロードな波長特性を持つ光を入射した時の特定波長における急激な反射光強度の減少によって生じるディップの検出例を示す図である。
前記透明物質が前記センサチップの表面に吸着されると、ディップの位置は、横方向(長波長方向)に移動する。一方、このセンサチップ表面に、この波長帯で光吸収を持つ物質(前記標識物質)が吸着すると、ディップ底部の深さがより深くなる。
この場合、ディップの変化の仕方は、前記標的物質がない場合と、ある場合とで以下のような変化の仕方をする。
即ち、前記標的物質がないときは、前記ビオチン結合体(前記ストレプトアビジン等)付きの前記第1の標的捕捉物質(抗体など)が前記センサチップ表面に吸着するが、この時、前記ビオチン結合体も前記第1の標的捕捉物質も透明であると、ディップは横方向に動く。
一方、前記標的物質があるときは、前記ビオチン結合体付きの前記第1の標的捕捉物質-前記標的物質-前記標識物質の結合体が前記センサチップ表面に吸着するが、この時、前記ビオチン結合体、前記第1の標的捕捉物質及び前記標的物質が透明であることから、ディップが横方向に動くものの、前記標識物質は、光吸収を持つ物質を用いるため、ディップ底部の深さがより深くなる方向にシフトする。
以上から、ディップの横方向の動きに注目しても、前記標的物質があるかないかは判定できないが、ディップの深さをモニターすることによって、前記標的物質の存在を検知でき、また、ディップ深さの変化量から、前記標的物質の量を測定することができる。
更に、前記被検体に不純物が含まれる場合があるが、一般に不純物は透明な物質であることが多い。よって、ディップの深さを測定する手法を用いれば、不純物吸着の影響を受けにくいというメリットもある。
【0055】
前記標識物質としては、前記標識物質自身が前記標的物質に吸着する性質を有するものであれば、そのまま使用することが可能である。しかし、前記標識物質そのものが前記標的物質に吸着する性質を持たない場合には、前記標識物質と結合されるとともに前記標的物質と結合して捕捉可能とされる前記第2の標的物質捕捉物質を付加して使用する。
前記第2の標的物質捕捉物質としては、前記標識物質と結合し、前記標的物質を特異的に捕捉する物質であれば、特に制限はなく、前記標識物質、前記標的物質の設定や目的に応じて適宜選択することができ、前記標的物質に対する抗体やアプタマー等が挙げられる。
【0056】
ところで、前記標識物質と、前記標識物質付きの前記第2の標的物質捕捉物質としては、前記混合液に含めず、後述の前記混合液導入工程により前記センサチップ表面に前記ビオチン-前記ビオチン結合体付きの前記第1の標的物質捕捉物質-前記標識物質の結合体が形成された状態で、改めてこれらを含む導入液を前記センサチップ表面上に導入することもできる。
しかしながら、従来技術における、前記センサチップの表面上にストレプトアビジン又はアビジンに前記抗体を結合させた前記試薬と前記被検体液とを別々に取り扱う場合と同様に、前記混合液と前記導入液とを別々に取り扱うと、スペースが限られた前記センサチップの表面上で、前記標的物質と前記第2の標的物質捕捉物質とを結合させるための前記混合液と前記導入液との混合を行う必要があり、検出処理を行う前の作業が煩雑となる。
よって、前記標識物質及び前記標識物質付きの前記第2の標的物質捕捉物質としては、前記試薬に含ませ、一つの前記混合液中で取り扱うことが好ましい。
【0057】
<混合液導入工程>
前記混合液導入工程は、前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面上に前記混合液を導入する工程である。
前記センサチップの表面上に前記混合液が導入されると、前記混合液の含有成分に応じて、前記ビオチン結合体付きの前記第1の標的捕捉物質-前記標的物質、前記ビオチン結合体付きの前記第1の標的捕捉物質-前記標的物質-前記標識物質の結合体及び前記ビオチン結合体付きの前記第1の標的捕捉物質-前記標的物質-前記標識物質付きの前記第2の標的物質捕捉物質のいずれかが、前記ビオチン結合体を介して前記センサチップ表面上に固定されることとなる。
したがって、前記導波モードセンサによるセンシング前の前処理を著しく簡素化させることができる。
【0058】
前記混合液の導入方法としては、特に制限はなく、前記センサチップの表面上に導入された前記混合液をカバーガラスで覆い、保持することや、前記センサチップに前記液体試料槽が形成される場合には、前記液体試料槽内に前記混合液を導入することが挙げられる。
また、前記混合液を前記センサチップの表面上に導入後、前記ビオチンと前記ビオチン結合体との結合等のために必要な時間分、前記混合液を静置してもよいし、必要に応じて前記センサチップの表面上に導入された状態の前記混合液を攪拌等してもよい。
【0059】
<標的物質検出工程>
前記標的物質検出工程は、前記標的物質を含まない状態の前記混合液、前記被検体と混合されない状態の前記試薬及び前記標的物質の含有量がコントロールされた状態の前記混合液のいずれかである基準液を前記ビオチンが固定化された前記センサチップの表面に導入したときの前記導波モードセンサのセンシング状態を基準状態とし、前記混合液導入工程により前記混合液を導入したときの前記導波モードセンサの前記センシング状態を測定状態として、前記基準状態と前記測定状態とを比較することで前記標的物質を検出する工程である。
【0060】
前記基準液として、前記標的物質を含まない状態の前記混合液及び前記被検体と混合されない状態の前記試薬を選択すると、前記標的物質の有無、前記標的物質の存在量を検出でき、更に前記基準液として、前記標的物質の含有量がコントロールされた状態の前記混合液を選択すると、前記標的物質の存在量の定量化に役立つ。
なお、前記基準液としては、前記導波モードセンサを用いたセンシングにより、前記標的物質の有無、存在量の定量化のために用いるものであり、センシングに影響を与えない添加剤が加えられていてもよい。
【0061】
前記標的物質検出工程としては、前記導波モードセンサによるセンシング態様に応じて実施することができる。
即ち、前記導波モードセンサによるセンシングの実施方法に関する前記第1の方法に応じて、前記導波モードセンサによるセンシングが、センサチップの裏面側から全反射条件で照射された光の反射光を検知して実施されることが挙げられる。
この場合、
図1を用いた説明の通り、不純物吸着の影響を抑える観点などから、前記標的物質検出工程としては、前記基準状態と前記測定状態とでそれぞれ検知された反射光の反射光スペクトルにおけるディップ底部の深さを比較して実施されることが好ましい。
また、前記導波モードセンサによるセンシングの実施方法に関する前記第2の方法に応じて、前記導波モードセンサによるセンシングが、前記センサチップに対し裏面側から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる前記標的物質の存在に伴う前記蛍光又は前記散乱光を検知して実施されることが挙げられる。
【0062】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態を
図2~
図5を参照しつつ、説明する。なお、
図2は、第1実施形態を説明するための説明図であり、
図3は、ビオチン固定化工程の概要を示す説明図であり、
図4は、混合液調製工程の概要を示す説明図であり、
図5は、混合液導入工程の概要を示す説明図である。
【0063】
図2に示すように、導波モードセンサ100は、センサチップ101と光照射部104と光検出部105と光学プリズム106とを有する。
また、導波モードセンサ100では、センサチップ101の表面上に導入された混合液102をカバーガラス103で覆うことで、混合液102がセンサチップ101の表面上に保持される。
この導波モードセンサ100は、センサチップ101の裏面側(光学プリズム106と接する側)から全反射条件で照射された光の反射光を検出するタイプの導波モードセンサとなる。
【0064】
第1実施形態に係る標的物質検出方法では、
図3に示すように、先ず、混合液102がセンサチップ101の表面上に導入される前に、センサチップ101の表面にビオチン3を固定化する(ビオチン固定化工程)。
図3では、前記マルチステップにより、センサチップ101の表面にアミノ化表面修飾層2を一旦形成した上で、アミノ化表面修飾層2上にビオチン3を形成しているが、前記ビオチニル化シランカップリング剤を用いた前記1ステップにより、センサチップ101の表面に直接、ビオチン3を固定化することもできる。
次いで、
図4に示すように、検出対象となる標的物質13(例えば、抗原)の存在が検証される前記被検体と、前記ストレプトアビジン及び前記アビジンのいずれかから選択されるビオチン結合体11と、ビオチン結合体11と結合されるとともに標的物質13と結合して捕捉可能とされる第1の標的物質捕捉物質12(例えば、抗体)と、更に導波モードセンサ100でセンシング可能な標識物質15(例えば、金ナノ粒子)と、標識物質15と結合されるとともに標的物質13と結合して捕捉可能とされる第2の標的物質捕捉物質14(例えば、抗体)とを含む試薬とが混合された混合液102を調製する(混合液調製工程)
次いで、
図5に示すように、混合液102をセンサチップ101の表面上に導入する。
混合液102が導入されると、センサチップ101の表面上に固定化されたビオチン3と、ビオチン結合体11、第1の標的物質捕捉物質12、標的物質13、第2の標的物質捕捉物質14及び標識物質とがこの順で結合された結合体とが、ビオチン結合体11を介して結合され、標的物質13の存在を検出するための前処理が完了する。
即ち、第1実施形態に係る標的物質検出方法では、センサチップ101の表面上に混合液102を導入するだけで、標的物質13の存在を検出するための前処理を完了させることができ、導波モードセンサ100を用いた標的物質13の検出操作を著しく簡素化させることができる。
【0065】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を
図6を参照しつつ、説明する。なお、
図6は、第2実施形態を説明するための説明図である。
図6に示すように、導波モードセンサ200は、センサチップ201と光照射部204と光検出部205と光学プリズム206とを有する。
また、導波モードセンサ200では、センサチップ201の表面上に導入された混合液202をカバーガラス203で覆うことで、混合液202が
センサチップ201の表面上に保持される。
この導波モードセンサ200は、センサチップ201に対し裏面側(光学プリズム206と接する側)から全反射条件で光を照射することに基づいて発せられる前記標的物質の存在に伴う前記蛍光又は前記散乱光を検出するタイプの導波モードセンサとなる。
即ち、導波モードセンサ200は、前記反射光の検出のため前記反射光の経路上に光検出部105が配される導波モードセンサ100と異なり、前記蛍光又は前記散乱光(図中「L」で表示される光)の検出のためセンサチップ201上に光検出部205が配される。
この他の事項は、導波モードセンサ100と同様であるため、説明を省略する。
【実施例】
【0066】
(参考例1)
参考例1として、本発明の標的物質検出方法を次のように実施した。
導波モードセンサとしては、シーアンドアイ社製の導波モードセンサ(Eva-M01)を使用した。また、センサチップとしては、シーアンドアイ社製の導波モードセンサチップ(M01-35-40-325-01)を使用した。
先ず、センサチップをアセトンで超音波洗浄した後、エタノールにて超音波洗浄し、センサチップ表面の清浄な状態にした。
次いで、3-Aminopropyltriethoxysilane(APTES、信越化学工業社製、LS-3150)の0.1体積%エタノール溶液にセンサチップを常温で24時間浸漬することで、センサチップ表面に3-Aminopropyltriethoxysilaneを固定してセンサチップ表面をアミノ化する表面修飾を行った。
次いで、溶液から取り出したセンサチップに対し、アセトンによるリンス、エタノール中での3分間の超音波洗浄、1mMのNaOH溶液中での3分間の超音波洗浄、1mMのHCl溶液中での3分間の超音波洗浄、超純水中での3分間の超音波洗浄、及び窒素ブローによる乾燥の各処理をこの順で行った。
次いで、ビオチン部位を有する化合物であるBiotin-(AC5)2 Sulfo-Osu(同仁化学社製、C26H40N5NaO10S2=669.75)の350μg/mLPBS溶液中にセンサチップを常温で24時間浸漬させた。
次いで、溶液から取り出したセンサチップに対し、Tween20を0.05質量%含む超純水によるリンス、超純水による3回のリンス、及び乾燥の各処理をこの順で行った。
以上の手順により、センサチップ表面にビオチンを固定化した。
【0067】
検出対象とする標的物質としては、CRP抗原(C反応性蛋白、Fitzgerald社製)を用いた。
【0068】
第1の標的物質捕捉物質としてAnti-h CRP clone 6405 SPTN-5(code:100358、Medix社製、以下、「6405抗体」と呼ぶ)を用いた。また、ストレプトアビジン付き第1の標的物質捕捉物質(以下、「一次抗体」と呼ぶ)は、次のように準備した。
6405抗体にストレプトアビジンを付けるためのキットとして、ストレプトアビジン標識キット(FastLink Streptavidin Labeling Kit、Abnova社製)を用いた。6405抗体にストレプトアビジンを付ける手順としては、同キットに添付のプロトコールに従って行った。具体的には、以下の通りである。
先ず、PBSで1mg/mLに希釈した6405抗体の溶液100μLに10μLのModifier Reagentを加えて混合する。この混合液全量をFast Link Mix(NHS活性化-ストレプトアビジン凍結乾燥粉末)入りのガラスバイアルに添加して十分混合し4℃で一晩反応させる。
次いで、反応液あたり1/10容積のQuencher Reagentを添加して十分混合した後、室温下で30分間静置し、反応を停止させる。
【0069】
標識物質としては、金ナノコロイドを選択した。
また、標識物質には、第2の標的物質捕捉物質としてAnti-h CRP clone 6404 SP-6(code:100061、Medix社製、以下、「6404抗体」と呼ぶ)を結合させた。ここで作製した金ナノコロイド付き6404抗体を二次抗体と呼ぶ。
二次抗体の作製には、金ナノコロイド標識キット(20nm NHS-Activated Gold Nanoparticle Conjugation Kit、CTD社製)を用いた。二次抗体の作製手順としては、同キットに添付のプロトコールに従って行った。具体的には、以下の通りである。
先ず、6404抗体溶液を透析し、Buffer A(20mM NaHCO3,0.1M NaCl)に置換する。
次いで、透析後の抗体溶液48μLとReaction Buffer 60μLとをよく混合して得られた108μmのうち、90μLを凍結乾燥NHS活性化金ナノコロイドのバイアルに加えて十分混合する。4℃で一晩反応させる。
次いで、Quencher solution 10μLを添加して十分混合した後、7,500rpm、20℃、60分間の条件下で遠心分離を行い、上清を除去する。
次いで、残滓にBuffer B(20mM Tris,150mM NaCl,1質量%BSA,0.05質量%PEG20000,pH8.2)を加えた後、7,500rpm、20℃、60分間の条件下で遠心分離を行い、上清を除去する。
次いで、残滓に対し、同様の上清除去操作をさらに2回繰り返し、標識物質と未反応の6404抗体を除去する。
次いで、Buffer Bに再溶解する。
以上の手順により、二次抗体を作製した。
【0070】
作製した一次抗体及び二次抗体を0.01質量%のTween PBSにて希釈し、それぞれ混合時の終濃度が2nM及び200pMになるように調整した。
また、CRP抗原を0.01質量%のTween PBSにて希釈し、混合時の終濃度が10pM,50pM,100pM,200pMの4種の濃度に調整した。
また、ネガティブコントロールには、CRP抗原を含まない0.01質量%のTween PBSを用いた。
また、ポジティブコントロールには、金ナノコロイドに直接ストレプトアビジンを吸着させた結合体(SA-Au)を200pM含む溶液を用いた。
導波モードセンサ(Eva-M01)によるセンシングとしては、これら希釈された、一次抗体、二次抗体及びCRP抗原を含む溶液をチューブにてミックスして得られた混合液を30分間放置した後、導波モードセンサのセンサチップ上に40μL滴下した状態で行った。
また、導波モードセンサ(Eva-M01)によるセンシングとしては、同センサに内蔵されている、導波モード励起によって生じる反射スペクトルにおけるディップ位置での反射率の変化をトレースする機能を用いて行った。
CRP抗原と一次抗体と二次抗体との結合体が、ストレプトアビジンによってセンサチップ表面に固定化されたビオチンに結合すると、金ナノコロイドの効果によって、導波モード励起によって生じる反射スペクトルにおけるディップ位置での反射率が減少する。つまり、CRP抗原と一次抗体と二次抗体との結合体が、ストレプトアビジンによってセンサチップ表面に固定化されたビオチンに結合していない状態に比べ、反射光スペクトルにおけるディップ底部の位置がより深い位置となる。
【0071】
図7は、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール及びCRP抗原100pM,200pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
図7に示すように、濃度依存性のあるCRP抗原の検出ができていることが分かる。
【0072】
図8は、ネガティブコントロール及びCRP抗原10pM,50pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
図8に示すように、CRP抗原が10pMと非常に低濃度な場合でも、ネガティブコントロールとは明確な差が得られており、検出に成功していることが分かる。また、CRP抗原10pMの場合とCRP抗原50pMの場合とを比較すると、濃度に応じて信号強度が大きくなっていることも分かる。
【0073】
以上に示す参考例1の手法により、被検体と一次抗体、二次抗体を含んだ試薬とを混合して、センサチップの表面上に導入するだけで、標的物質の検出及び定量的な評価が可能であることが確認される。
【0074】
(実施例1)
実施例1では、センサチップ表面にビオチンを固定化する方法を参考例1の方法に代えて、以下の通りとした。
先ず、センサチップをアセトンで超音波洗浄した後、エタノールにて超音波洗浄し、センサチップ表面の清浄な状態にした。
次いで、前述の11-ビオチニル化シランカップリング剤を1mM含むトルエン溶液中にセンサチップを浸漬して20℃で2週間放置した。
次いで、センサチップを溶液から取り出し、トルエンによるリンス、アセトンによるリンス、及び窒素ブローによる乾燥の各処理をこの順で行った。
以上の手順によってセンサチップ表面にビオチンを固定化した。この実施例1における手順では、センサチップ表面をアミノ化する表面修飾等の処理が不要であり、この処理を実施する参考例1の手順に比べて操作が簡便化される。
【0075】
CRP抗原、一次抗体、二次抗体としては、参考例1で準備したものを使用した。
また、センサ及びセンサチップも参考例1で使用したものと同じ型番のものを使用し、同様のセンシングを行った。
また、一次抗体及び二次抗体を0.01質量% Tween PBSにて希釈し、それぞれ混合時の終濃度が2nM及び600pMになるように調整した。
また、CRP抗原を0.01質量%のTween PBSにて希釈し、混合時の終濃度が300pMになるように調整した。
また、ネガティブコントロールには、CRP抗原を含まない0.01質量% Tween PBSを用いた。
また、ポジティブコントロールには、金ナノコロイドに直接ストレプトアビジンを吸着させた結合体(SA-Au)を600pM含む溶液を用いた。
【0076】
図9は、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール及びCRP抗原300pMの試料に対する反射光スペクトルのディップ位置における測定結果を示す図である。
図9に示すように、300pMのCRP抗原の検出ができていることが分かる。
【符号の説明】
【0077】
101,201 センサチップ
2 アミノ化表面修飾層
3 ビオチン
102,202 混合液
11 ビオチン結合体
12 第1の標的物質捕捉物質
13 標的物質
14 第2の標的物質捕捉物質
15 標識物質
100,200 導波モードセンサ
103,203 カバーガラス
104,204 光照射部
105,205 光検出部
106、206 光学プリズム