(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-28
(45)【発行日】2022-08-05
(54)【発明の名称】細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、細胞回収システムおよび細胞の取得方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220729BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220729BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20220729BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 A
C12N5/00
(21)【出願番号】P 2020501026
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006495
(87)【国際公開番号】W WO2019163877
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2018028921
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】児島 千恵
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 裕次
(72)【発明者】
【氏名】川野 武志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 賢二
(72)【発明者】
【氏名】横山 楓
(72)【発明者】
【氏名】瀧 優介
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む液体を収容可能な細胞培養容器であって、
前記細胞培養容器の底に細胞培養基材が充填された複数のウェルが配置され、
前記細胞培養基材は、加熱によって変性するゲルで形成されたゲル層と、前記ゲル層の一面に形成された金微粒子層と、を含み、
前記液体と接するゲル層の
面側で前記細胞が培養され
、
前記ウェルが1ウェル当たり約1細胞配置される径を有する、細胞培養容器。
【請求項2】
前記ウェルが底を有する請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記ウェルが底に貫通孔を有する請求項2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記貫通孔の径は、前記ウェルの径と同一かそれより小さい、請求項3に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記ウェルが、アレイ状に配置されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記ゲルが、コラーゲンゲル又はゼラチンゲルである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
細胞を含む液体を収容可能な細胞培養容器の製造方法であって、
前記細胞培養容器の底に配置された複数のウェルのそれぞれに加熱によって変性するゲルを充填する工程と、
前記ゲルの一面に金微粒子層を形成する工程と、を含み、
前記液体と接する前記ゲルの
面側で前記細胞が培養され
、
前記ウェルが1ウェル当たり約1細胞配置される径を有する、細胞培養容器の製造方法。
【請求項8】
前記ゲルの一面に前記金微粒子層を形成する工程は、金微粒子を含む溶液を前記ゲルの上に配置する工程と、
前記溶液中の液体成分を蒸発させる工程と、
を含む、請求項
7に記載の細胞培養容器の製造方法。
【請求項9】
前記複数のウェルは底に貫通孔を有し、
前記ゲルの一面に金微粒子層を形成する工程は、
前記細胞培養容器の細胞培養面となる面を下にして、金微粒子を含む溶液を前記ゲルの上に配置する工程と、
前記溶液中の液体成分を蒸発させる工程と、
前記細胞培養容器を上下反転させる工程と、
を含む、請求項
7に記載の細胞培養容器の製造方法。
【請求項10】
ウェルを複数有する細胞培養容器の前記ウェル内に金微粒子層を形成する工程と、
前記金微粒子層の上に、加熱によって変性するゲル層を形成する工程と、を含み、
前記ゲル層の上面で前記細胞が培養され
、
前記ウェルが1ウェル当たり約1細胞配置される径を有する、細胞培養容器の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の細胞培養容器と、吸引ポンプとを備える、細胞回収システム。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の細胞培養容器に配置された細胞から、取得する細胞を選択する工程と、
選択された前記細胞の近傍の細胞培養基材に光を照射する工程と、
選択された前記細胞を回収する工程と、
を含む、細胞の取得方法。
【請求項13】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の細胞培養容器の前記複数のウェルのそれぞれに配置された細胞から、取得する細胞を選択する工程と、
選択された前記細胞が配置されているウェルに充填された細胞培養基材に光を照射する工程と、
前記光を照射した細胞培養基材を前記細胞培養容器から取り出す工程と、
前記細胞培養容器から取り出した細胞培養基材から細胞を回収する工程と、を含む、細胞の取得方法。
【請求項14】
前記細胞培養基材を細胞培養容器から取り出す工程が、前記光を照射した細胞培養基材を吸引する工程である、請求項
13に記載の細胞の取得方法。
【請求項15】
前記細胞培養基材を細胞培養容器から取り出す工程が、前記光を照射したゲルを前記細胞培養容器中で液体に浮遊させ、該液体を回収する工程である、請求項13に記載の細胞の取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、細胞回収システムおよび細胞の取得方法に関する。
本願は、2018年2月21日に、日本に出願された特願2018-28921号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
培養基材で培養された細胞をより効率的に回収するため、例えば、感温性高分子を含む 培養基材の上で細胞を培養し、温度変化を利用して細胞の回収を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、細胞培養容器は、加熱によって変性するゲルで形成されたゲル層と、前記ゲル層の一面に形成された金微粒子層と、を含む細胞培養基材が充填されている。細胞は、細胞培養基材の前記一面側又は他面側で培養される。
本発明の第2の態様によると、細胞培養容器の製造方法は、加熱によって変性するゲルを細胞培養容器に充填する工程と、前記ゲルの一面に金微粒子層を形成する工程と、を含む。
本発明の第3の態様によると、細胞回収システムは、第1の態様の細胞培養容器と、前記細胞培養容器に接続された吸引ポンプとを備える。
本発明の第4の態様によると、細胞の取得方法は、第1の態様の細胞培養容器に配置された細胞から、取得する細胞を選択する工程と、選択された前記細胞の近傍の細胞培養基材に光を照射する工程と、選択された前記細胞を回収する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】第1の実施形態の細胞培養容器の断面図である。
【
図2】第2の実施形態の細胞培養容器の断面図である。
【
図3】第3の実施形態の細胞培養容器の断面図である。
【
図4】第4の実施形態の細胞培養容器の断面図である。
【
図5】一実施形態の細胞培養容器を含む細胞取得システムの構成を示す概念図である。
【
図6】第4の実施形態の細胞培養容器を用いて細胞を取得する方法を模式的に示した図である。
【
図7】一実施形態の細胞培養容器の構成を示す概念図である。
【
図8】一実施形態の細胞回収システムの構成を示す概念図である。
【
図9】一実施形態の細胞培養容器を用いた細胞の取得方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(第1の実施形態)
以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、細胞回収システム、および細胞の取得方法等について説明する。
【0007】
細胞培養基材の上で培養した細胞のうち、遺伝子導入に成功した細胞等、特定の細胞を効率的に剥離し、回収することがしばしば必要になる。
本発明者らは、加熱によって変性するゲルで形成されたゲル層と、ゲル層の一面に形成された金微粒子層と、を含む細胞培養基材が充填されている細胞培養容器で細胞を培養した後、外部から極めて短時間光を照射することにより、該細胞培養基材のゲルが非常に効率よく変性することを見出した。そしてこれにより、該細胞が細胞培養基材から剥離するか、または、該細胞が細胞培養基材ごと培養容器から剥離するので、吸引等により、障害を与えることなく該細胞を効率的に回収できることを見出した。
特に、細胞培養容器が複数のウェルを有する場合、外部からの光により、該細胞培養基材が収縮してウェルから剥離し、該細胞培養基材を吸引等により取り出すことにより、該細胞培養基材に接着している目的細胞に障害を与えることなく、該細胞を効率的に回収できることを見出した。
さらに、ゲルを細胞培養容器に充填した後に、ゲルの一面に金微粒子層を形成する方法で細胞培養基材を製造することにより、金微粒子を無駄にすることなく細胞培養容器を製造することができることを見出した。
本実施形態の細胞培養容器を用いることにより、目的細胞を特異的に効率よく回収することを実現する。
【0008】
図1は、本実施形態の細胞培養容器の第1の実施形態の断面図である。細胞培養容器1は、内部に、加熱によって変性するゲル15が充填されており、ゲル15の下面側に金微粒子層13が形成されている。第1の実施形態においては、細胞培養容器1は、一つの開放口を有する。細胞培養容器1はシャーレ等の蓋を有するものであっても、蓋を有さないものであってもよい。
【0009】
金微粒子層13を形成する金微粒子は、光熱変換特性の高い大きさの粒子とすることができ、特に、表面プラズモン共鳴吸収(SPR)が起こる大きさとしてもよい。レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された金微粒子の体積平均径は、例えば、1nm以上200nm未満、10nm以上100nm未満、30nm以上70nm未満とすることができる。
所定の体積平均径を有する金微粒子を含む溶液は、例えば、特開2013-233101号公報に記載の方法のように、金イオンを含む溶液(HAuCl4等)中で還元剤(アスコルビン酸、ヒドロキノン、クエン酸等)の存在下に、金からなる種核を成長させて得ることができる。
金微粒子の体積平均径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。
粒度分布測定装置を用いず、簡易的に測定する場合は、透過型電子顕微鏡を用いて撮像し、解析ソフトウェア等を用いて測定して算出してもよい。
【0010】
ゲル15は、室温から所定の温度に上昇した場合に変性する。本実施形態で「変性」とは、ゲル15が温度上昇により、ゲル15からの細胞の容易な剥離、または細胞培養容器1からのゲル15の容易な剥離をもたらす構造の変化を起こすことを意味する。ゲル15がコラーゲンゲルまたはゼラチンゲルの場合、「変性」には、例えば、コラーゲンタンパク質の二次または三次構造の変化によりもたらされる状態であるゾル化や凝集化、低分子化等が含まれる。ゲル15が変性する温度は、例えば60℃以下、50℃以下、又は40℃以下である。ゲル15の材料は、後述のゲル15からの剥離による細胞の取得を可能にするものであれば特に限定されないが、例えば、コラーゲンゲルまたはゼラチンゲルとしてもよい。また、架橋剤を添加したゲルや、二種類以上の高分子を混合して得たゲルを用いることもできる。また、ゲル15は、金微粒子が分散されたゲルを用いてもよい。
【0011】
ゲル15の下面側に金微粒子層13を形成する方法は、特に制限はないが、例えば、まず、金微粒子を含む溶液を細胞培養容器1に流し込み、一昼夜乾燥させる等により、前記溶液中の液体成分を蒸発させ、細胞培養容器1の底面に金微粒子層13を形成する。続いて、金微粒子層13の上にゲル15を形成する。ゲル15は、例えばコラーゲンゲルの場合、細胞培養容器1にコラーゲン溶液を注入し、これをゲル化することによって形成することができる。
このとき細胞培養容器1に流し込む金微粒子溶液の濃度は、例えば、100μM以上2000μM未満、250μM以上1500μM以下、又は250μM以上800μM以下としてもよい。金微粒子溶液の濃度が低いと、金微粒子の発熱量が小さくなるため、ゲル15の収縮率が小さくなり、ゲル15からの剥離成功確率が下がる傾向がある。一方、金微粒子溶液の濃度が高いと、局所での温度上昇が大きくなるため、温度制御が難しくなり、また細胞傷害性が高くなる傾向がある。なお、金微粒子は、デンドリマーに内包させたり、ゲルに対して親和性を有する分子で修飾したりする等、保護剤を用いてより安定化するようにしてもよい。
【0012】
(第2の実施形態)
図2は、細胞培養容器の第2の実施形態の断面図である。細胞培養容器1は、内部に、加熱によって変性するゲル15が充填されており、ゲル15の上面側に金微粒子層13が形成されている。ゲル15と金微粒子層13の配置以外は、
図1に示される第1の実施形態と同様である。
【0013】
このような細胞培養基材14を作製する方法は、特に制限はないが、例えば、まず細胞培養容器1内にゲル15を充填する。ゲル15の充填方法は、第1の実施形態と同様に行うことができる。その上に、金微粒子を含む溶液を流し込み、一昼夜乾燥させる等して、溶液中の液体成分を蒸発させ、金微粒子層13を形成して、細胞培養基材14を作製することができる。
【0014】
ゲル15の上面又は下面に金微粒子層が形成された細胞培養基材14の上面への細胞の配置は、例えば、細胞を含む液体を細胞培養容器1に流し込むことによって行うことができる。細胞培養容器1に流し込む細胞の数は、細胞を含む液体の濃度を調節することにより行うことができる。
また、細胞培養容器1は、光透過性を有するものであっても良い。これにより細胞培養容器1の底を介しても、細胞培養基材14に光を照射することができる。細胞培養容器1は、本実施形態の細胞培養容器1の技術的特徴を損なわない限り任意の形状で構成され得る。
【0015】
(第3の実施形態)
図3は、本実施形態の細胞培養容器1の第3の実施形態の断面図である。本実施形態においては、細胞培養容器1は複数のウェル11を有する。第3の実施形態においては、前記各ウェルのそれぞれにおいて、金微粒子層13の上にゲル15が充填されている。
金微粒子層13の形成とゲル15の充填は、第1の実施形態と同様に行うことができる。
【0016】
金微粒子層13の上にゲル15が積層された細胞培養基材14上への細胞の配置は、例えば、細胞を含む液体を細胞培養容器1に流し込むことによって行うことができる。別の方法として、インクジェットプリンタを用いて、ウェル11のそれぞれに細胞を播種してもよい。
細胞培養容器1は、1ウェル当たり約1細胞配置される構成としてもよい。これにより、細胞を1つずつ選択し回収することができるので、所望の細胞のみ回収することが可能である。「1ウェル当たり約1細胞配置される」とは、細胞を含む液体を細胞培養容器1に流し込んだとき、細胞が配置されるウェル11のうち、細胞が1つだけ配置されたウェル11が最も多くなる状態をいい、2つ以上の細胞が配置されたウェル11や、1つも細胞が配置されていないウェル11が存在してもよい。
1ウェル当たり約1細胞配置される構成とする方法の一例として、ウェル11の径を調節することが挙げられる。1ウェル当たり約1細胞配置される径として、例えば、培養する細胞の平均径又は平均最長径の1倍以上3倍未満、又は1.3倍以上2倍未満の径が挙げられる。細胞培養容器1の各ウェルの径は、例えば、10μm~500μm、20μm~400μm、または30μm~300μmとしてもよい。ウェルの径が大きくなりすぎると、光照射による変性が生じにくくなる傾向がある。
1ウェル当たり約1細胞配置される構成とする別の方法として、細胞を含む液体の濃度を調節することも挙げられる。
1ウェル当たり約1細胞配置される構成とするさらに別の方法として、隣り合うウェル11の距離(隣り合ったウェル11の開口部の最小距離)を調節することも挙げられる。
細胞培養容器1は、ウェル11をいくつ有してもよい。ウェル11は、例えば、細胞培養容器1にアレイ状(マイクロアレイ状)に配置することができる。このとき、隣り合うウェル11の距離を調節することにより、1ウェル当たりに配置される細胞数を調節することも可能である。
上述のように、インクジェットプリンタを用いて、各ウェルに約1細胞ずつ播種してもよい。
1ウェル当たり約1細胞配置される構成は、上述の方法の少なくとも一つ、及び/又はその他の方法により、当業者が適宜設計することができる。
また、細胞培養容器1は、光透過性を有するものであっても良い。これによりウェル11の底を介しても、細胞培養基材14に光を照射することができる。細胞培養容器1は、本実施形態の細胞培養容器1の技術的特徴を損なわない限り任意の形状で構成され得る。
なお、第3の実施形態では、金微粒子層13の上にゲル15を充填したが、細胞培養容器1がマイクロアレイ状の場合も、第2の実施形態と同様にゲル15の上に金微粒子層13を形成してもよい。
【0017】
(第4の実施形態)
図4は、本実施形態の細胞培養容器1の第4の実施形態の断面図である。本実施形態においては、細胞培養容器1は複数のウェル11を有し、細胞培養容器1のウェル11は底に貫通孔12を有する。貫通孔12の径は、ウェル11の径と同一でも小さくてもよい。
図4では、貫通孔12とウェル11の径が同一である。また、
図4では、ウェル11及び貫通孔12部分いっぱいに細胞培養基材14が充填されているが、細胞培養基材14がウェル11及び貫通孔12部分いっぱいに充填されていなくてもよい。ウェル11に充填されている細胞培養基材14に光を照射することにより、細胞培養基材14の下面に存在する金微粒子の発熱によりゲル15が収縮し、細胞培養基材14がウェル11の壁面から剥離する。剥離した細胞培養基材14は、貫通孔12より吸引等により回収することができる。
第4の実施形態に係る細胞培養容器1を作製する方法は、特に制限はないが、例えば、まず各ウェル11及び貫通孔12にゲル15を充填し、
図4とは上下反転した状態で(面16aが上になるように)細胞培養容器1を載置し、ゲル上に金微粒子を含む溶液を配置する。そして、一昼夜乾燥させる等して、溶液中の液体成分を蒸発させ、金微粒子層13を形成した後、細胞培養容器1の面16bが上になるように上下反転させればよい。各ウェル11にゲル15を充填する方法も特に限定されないが、一例として、別の容器にゲル15の層を形成し、そこに細胞培養容器1の面16bを押し付けることによりゲル15をウェル11に挿入する方法が挙げられる。
なお、第4の実施形態では、ゲル15の下側(面16a側)に金微粒子層13が形成されているが、ゲル15の上面(細胞を培養するのと同じ側。面16b側)に金微粒子層13が形成されていてもよい。
【0018】
図5は、第3の実施形態の細胞培養容器を用いて細胞の取得を行う細胞回収システム1000を示す概念図である。細胞取得システム1000は、細胞培養容器1と、倒立顕微鏡70とを備える。
細胞培養容器1に、別の培養容器で培養された細胞30を培養液20とともに流し込む。培養液20は培養液、緩衝液等で置換又は希釈してもよい。細胞培養容器1に流し込む細胞30は、細胞培養容器1に流し込んだとき、1ウェル当たり1細胞になるような濃度としてもよい。
【0019】
細胞培養容器1の各ウェル11に充填された細胞培養基材14の上面に配置された細胞30は、各ウェル11の細胞培養基材14の上面で培養される。各ウェル11に充填された細胞培養基材14の上面で培養された細胞30のうち、単離して取得したい細胞を選択細胞300とし、その他の細胞を非選択細胞301とする。選択細胞300はその態様は特に限定されないが、例えば、適切に遺伝子等が改変されレポーター遺伝子等の判別手段により特徴が現れている細胞や、初期化や適切な分化等が誘導されて構造上判別可能な特徴を有している細胞等が挙げられる。
なお、選択細胞300は、上記のように単一の細胞30でもよいし、複数の細胞30または複数の細胞30を含んで構成されるコロニーでもよい。
【0020】
倒立顕微鏡70は、照射部71と、ダイクロイックミラー72と、レンズ系73と、観察部74と、支持台75とを備える。
なお、正立顕微鏡を用いて細胞回収システム1000を構築してもよい。
【0021】
照射部71は、レーザー光を出射する。照射部71から出射されるレーザー光の波長は、金微粒子層13の金微粒子が光熱変換特性を発揮する波長域に設定される。特に表面プラズモン共鳴吸収(SPR)が起こる波長域に設定してもよい。細胞培養基材14に照射されるレーザー光は、細胞培養基材14に照射した場合に細胞培養基材14の上面の細胞に重大な損傷を与えない波長およびエネルギーを有するものであればよい。照射部71から出射されるレーザー光の波長は、例えば、400nm以上1200nm未満、450nm以上900nm未満、532nm等に設定される。細胞培養容器1へ入射するレーザー光の出力は、例えば0.1mW以上1000mW未満、0.4mW以上100mW未満とすることができる。レーザー光の波長およびエネルギーは、細胞に傷害を与えずに細胞培養基材14に含まれるゲルに効率よく温度上昇および変性を起こすよう、適宜調整される。照射部71から出射した光は、ダイクロイックミラー72に入射する。
なお、選択細胞300の近傍の細胞培養基材14を選択的に照射することができれば、照射部71の出射光は特にレーザー光に限定されず、コヒーレントでない単色光や一定の波長範囲の光からなる光でもよい。
【0022】
ダイクロイックミラー72は、照射部71からのレーザー光を反射するとともに、細胞培養容器1からの可視光を透過させて観察部74へと出射する。ダイクロイックミラー72で反射されたレーザー光は、不図示のガルバノミラー等により適切な位置にレーザー光が照射されるように光の向きが調節され、レンズ系73を透過して細胞培養容器1に入射する。細胞培養容器1に入射したレーザー光は、細胞培養容器1の底部を透過した後、細胞培養基材14の所定の位置で収束する。
図5では、収束するレーザー光7を、一点鎖線を用いて模式的に示した。
なお、所望の位置にレーザー光7を収束することができれば、レーザー光7の照射光学系の構成は特に限定されない。
【0023】
細胞培養基材14におけるレーザー光7の収束位置は、例えば、選択細胞300に傷害を与えない、選択細胞300の下方の細胞培養基材14中の任意の位置とすることができ、例えばレーザー光7のスポット径、PSF(Point Spread Function)やPSFに基づくパラメータ等に基づいて定められる。選択細胞300への影響を低くするために、金微粒子層13自体又は金微粒子層13付近としてもよい。これにより、高い光発熱効果が得られるとともに、金微粒子が発する熱による細胞毒性が低減されるので、選択細胞300が熱に弱い細胞の場合にも好適である。
細胞培養基材14におけるレーザー光7の集束位置は、選択細胞300までの距離が100μm以上であるゲル15内の位置としてもよい。また、細胞培養基材14におけるレーザー光の集束位置は、細胞培養基材14の中心部ではなく、ウェル11の壁面に近い位置でもよい。
【0024】
照射部71からのレーザー光7を金微粒子層13の金微粒子が光熱変換し、レーザー光7の収束位置の近傍のゲルが変性すると、選択細胞300が付着しているゲルが収縮し、ウェル11の壁面から剥離する。従って、細胞培養容器1に培養液や緩衝液等の流体を流し入れることにより、選択細胞300が付着した細胞培養基材14を流体中に浮遊させ、流体ごと回収することができる。
【0025】
また、ウェル11の下方の貫通孔12から、収縮した細胞培養基材14を、吸引ポンプ等を用いた吸引により取り出すこともできる(
図6参照)。
【0026】
観察部74は、接眼レンズ等を備え、不図示の照明により照らされた細胞培養容器1からの可視光をユーザにより観察可能にする。ユーザは、細胞培養容器1からの可視光を見て、支持台75を移動させる等して細胞培養容器1を適切に位置合わせ等することができる。
なお、レーザー光7の照射光学系とは異なるレーザー光源およびガルバノミラーを用いてレーザー走査を行うことにより細胞培養容器1の画像を取得し、不図示の表示装置に表示する構成としてもよい。
【0027】
支持台75は、細胞培養容器1を支持する。支持台75は不図示の移動機構によりXYZの各方向に移動可能であり、これにより細胞培養容器1を任意の位置に調整することが可能である。支持台75は、例えば、透明発熱体が形成されたガラスを含んで構成され、細胞培養容器1の底部へレーザー光7を透過させると共に、細胞培養容器1全体の温度を制御する。
なお、細胞培養容器1の大きさ、構造等に応じて、レーザー光7の光路となる部分に開口部が形成されている支持台75を用いることもできる。
【0028】
図7は、第3の実施形態の細胞培養容器1のXZ平面の断面図を示したものである。
本実施形態の細胞培養基材14は、ゲル15の厚さを、例えば0.05mm以上、0.05mm以上1.7mm以下、又は0.1mm以上1.2mm以下とすることができる。ゲル15の厚さが薄すぎるとゲル15を均一または平坦に作成することが難しくなる傾向がある。一方でゲル15の厚さが厚すぎると、ゲル15を収縮させるために光を照射する時間が長くなることがある。
ここで、ゲル15の厚さは、細胞培養基材14のウェル11の深さ方向における厚さ、例えばウェル11の中心軸に沿った厚さとする。
【0029】
(細胞回収システム)
本実施形態の細胞回収システムの概略図を
図8に示す。
図8は、第3の実施形態及び第4実施形態の細胞培養容器1を用いた細胞回収システムを示したが、細胞培養容器1は、第1の実施形態及び第2の実施形態の細胞培養容器であってもよい。
本実施形態の細胞回収システムは、本実施形態の細胞培養容器1と前記細胞培養容器1に接続された吸引ポンプ40と、を備える。前記細胞培養容器1に吸引ポンプ40を接続することにより、レーザー光7を照射することにより収縮した、選択細胞300が付着した細胞培養基材14を、吸引により回収することができる。
細胞培養容器1と吸引ポンプ40との接続は、選択細胞300を吸引できるか、選択細胞300が付着した、光により収縮した細胞培養基材14を吸引できれば、いかなる接続方法でもよい。例えば、第3の実施形態に係る細胞培養容器1の上面へ接続して、培養液20とともに、選択細胞300を吸引する接続方法や、
図6に示したように第4の実施形態に係る細胞培養容器1の貫通孔12に接続して、貫通孔12から、選択細胞300が付着した、光により収縮した細胞培養基材14を吸引する接続方法等が挙げられる。
【0030】
図9は、本実施形態の細胞培養容器1を用いた細胞の取得方法および生産方法の流れを示すフローチャートである。ステップS2001において、細胞を含む培養液を細胞培養容器1に流し込む。培養液中の細胞の濃度が高い場合は、細胞を含む培養液を細胞培養容器1に流し込む前に、該培養液を培養液等により希釈してもよい。細胞培養容器1が複数のウェルを有する場合は、細胞培養容器のウェル当たり1個の細胞が配置されるように希釈してもよい。ステップS2001が終了したら、ステップS2003に進む。
【0031】
ステップS2003において、細胞培養容器に充填した細胞培養基材14の上面で細胞を培養する。ステップS2003が終了したら、ステップS2005に進む。ステップS2005において、培養液を吸引除去する。培養液の除去後、細胞培養容器1内に充填された細胞培養基材14の上面を洗浄してもよい。洗浄はPBS等を用いて行い、不要な浮遊物や沈殿物等が取り除かれる。ステップS2005が終了したら、ステップS2007に進む。
【0032】
ステップS2007において、細胞培養基材14の上面で培養された細胞30の中から、取得する細胞30(選択細胞300)を選択する。必要に応じて、蛍光蛋白質が発現している細胞30や、構造的特徴を持った細胞30が選択される。ステップS2007が終了したら、ステップS2009に進む。ステップS2009において、支持台75の温度を適宜調節し、細胞培養容器1を細胞培養基材14の全体的な変性が起きる温度未満の温度、例えば、37℃以上40℃未満に加熱する。細胞培養容器1の加熱は、細胞培養容器1を温度制御可能なインキュベーター内に配置することによって行ってもよい。レーザー光7の照射を行う前に細胞培養容器1の温度を上げることで、レーザー光7の照射時間を短くすることができ、選択細胞300への細胞傷害性を低減することができる。
なお、ステップS2009とステップS2007は順序を逆にしてもよい。いずれの場合も、ステップ2009が終了してから次のステップ(ステップS2007又はステップS2011)に進んでもよく、ステップS2009を継続したまま、次のステップ以降を行ってもよい。
【0033】
ステップS2011において、選択細胞300が付着している細胞培養基材14中の収束位置に向けて細胞培養容器1の下側からレーザー光7を照射する。細胞培養容器1の下側からレーザー光7を照射することで、選択細胞300に直接光が当たり細胞傷害を引き起こすことを避けることができる。レーザー光を照射することで、金微粒子層13における金微粒子の発熱により、選択細胞300近傍のゲル15が変性して収縮し、選択細胞300とゲルとの結合が弱まって選択細胞300が細胞培養基材14から剥離するか、細胞培養基材14が細胞ごとウェル11の壁面から剥離する。選択細胞300、又は細胞培養基材14がウェル11の壁面から剥離したら、ステップS2013に進む。
なお、複数の細胞を選択する場合は、ステップS2007で複数の細胞を選択し、ステップS2009で細胞培養容器1を加熱し、ステップS2011で選択された複数の細胞にレーザー光を照射すればよい。あるいは、まずステップS2009を行って細胞培養容器1を加熱し、加熱を止めて、または加熱を継続したまま、ステップS2007の細胞の選択とステップS2011のレーザー光の照射を、すべての選択細胞について光が照射されるまで繰り返し行ってもよい。
【0034】
ステップS2013において、細胞培養容器1上に培養液や緩衝液等の流体が十分に存在する場合にはそのままで、流体の量が不十分な場合には細胞培養容器1に培養液や緩衝液等の流体を流し入れることにより、選択細胞300、又は細胞培養容器1のウェル11の壁面から剥離した細胞培養基材14が流体中に浮遊する。したがって、細胞培養容器1を傾けるか、吸引するなどして流体を回収することにより、選択細胞300を回収することができる。選択細胞300が細胞培養基材14に付着している場合は、選択細胞300を細胞培養基材14ごと回収することができる。
または、細胞培養容器1が複数のウェル11を有しており、ウェル11が底に貫通孔12を有する場合は、ウェル11の下方の貫通孔12から、収縮した細胞培養基材14を、吸引ポンプ等を用いた吸引により回収してもよい。ステップS2013が終了したら、ステップS2015に進む。
ステップS2015において、ステップS2013で選択細胞300が回収された場合は、回収した細胞300をそのまま、他の培地等に配置して培養を行うことができ、ステップS2013で選択細胞300が付着した細胞培養基材14が回収された場合は、回収した選択細胞300が付着した細胞培養基材14を、コラゲナーゼ等を用いてゲルを溶解させ、細胞培養基材14に付着した選択細胞300を細胞培養基材14から回収し、回収した選択細胞300を、他の培地等に配置して培養を行うことができる。ステップS2015が終了したら、処理を終了する。なお、ステップS2013において、選択細胞300を回収したら、ステップS2007に戻って他の細胞30を選択細胞300として取得してもよい。また、回収した選択細胞は、そのまま臨床、研究、工業用等の様々な用途に使用してもよい。
【0035】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の細胞培養容器1は、加熱によって変性するゲル15で形成されたゲル層と、前記ゲル層の一面に形成された金微粒子層13と、を含む細胞培養基材14が充填されている。この細胞培養容器1の前記一面側又は他面側で細胞を培養し、細胞培養基材14に光を照射することにより、金微粒子をゲル15に分散させた場合に比較して、高い効率で金微粒子を発熱させることができるので、選択した細胞300を細胞培養基材14から効率よく剥離させ、回収することができる。また、特に、ゲル層の下面に金微粒子層が形成されている場合、光照射で金微粒子が熱を発する場所が細胞から遠くなるので、熱による細胞毒性を低減させることができる。
(2)一実施形態の細胞培養容器1において、細胞培養容器1は複数のウェル11を有している。細胞培養容器1の前記ウェルのそれぞれには、加熱により変性するゲル15で形成されたゲル層と、前記ゲル層の一面に形成された金微粒子層13と、を含む細胞培養基材14が充填されている。この細胞培養容器1の上面で細胞を培養すると、金微粒子をゲル15に分散させた場合に比較して、極めて短い時間、細胞培養基材14に光を照射することにより、選択した細胞300が付着している細胞培養基材14が収縮し、該細胞培養基材14をウェル11から剥離させることができる。光により収縮した、選択した細胞300が付着した細胞培養基材14を吸引等により回収することにより、選択した細胞300を細胞培養基材14ごと回収することができる。このため、選択した細胞300に障害を与えることなく、単位時間当たりの細胞回収数を多くすることができる。また、特に、ゲル層の下面に金微粒子層が形成されている場合、光照射で金微粒子が熱を発する場所が細胞から遠くなるので、熱による細胞毒性を低減させることができる。
【0036】
(3)一実施形態の細胞培養容器1において、細胞培養容器1は複数のウェル11を有し、ウェル11は底を有している。これにより、培養液、緩衝液等の流体に、ウェル11から剥離した細胞培養基材を浮遊させることができるので、細胞300が付着した細胞培養基材14を流体ごと回収することができる。
(4)一実施形態の細胞培養容器1において、細胞培養容器1は複数のウェル11を有し、ウェル11は細胞培養容器1の底に貫通孔12を有する。これにより、細胞培養容器の底から貫通孔12を通じて収縮した、選択細胞300が付着した細胞培養基材14を吸引ポンプ等により回収することができる。
(5)一実施形態の細胞培養容器は、細胞培養容器1は複数のウェル11を有し、ウェル11が1ウェル当たり約1個の細胞を配置できる径を有する。これにより、所望の細胞の回収が容易になる。
(6)一実施形態の細胞培養容器において、ゲル15は、ゼラチンゲルまたはコラーゲンゲルである。これにより、製造、取扱い等が容易となる。
(7)一実施形態の細胞培養容器の製造方法は、加熱によって変性するゲル15を細胞培養容器1に充填する工程と、前記ゲルの一面に金微粒子層13を形成する工程と、を含む。細胞培養容器が、複数のウェルを有する場合、金微粒子を分散させた細胞培養基材の各ウェルへの充填は、通常、金微粒子を分散させたゲルを大きめの容器内で作製し、細胞培養容器を、当該ゲルに押し付けることにより行うが、このとき、作製したゲルを全てのウェルに充填するのは困難なため、ウェル外にはみ出した分、ゲルのロスが発生することになる。ゲルには金微粒子が分散されているので、ゲルのロスに伴い、金微粒子もロスが発生する。しかしながら、ゲルを細胞培養容器1に充填し、前記ゲルの一面に金微粒子層を形成することにより、金微粒子を分散させた細胞培養基材を細胞培養容器に充填する場合と比較して、金微粒子を無駄にすることなく、選択細胞300を回収できる細胞培養容器を得ることができる。
(8)一実施形態の細胞培養容器の製造方法において、細胞培養容器1は複数のウェル11を有し、ウェル11のそれぞれに、前記ゲル15を充填し、ゲル一面に金微粒子層13を形成する。これにより、金微粒子を無駄にすることなく、選択細胞300を回収できる細胞培養容器を得ることができる。
(9)一実施形態の細胞培養容器の製造方法は、ウェルを複数有する細胞培養容器1の前記ウェル内に金微粒子層13を形成する工程と、前記金微粒子層13の上に、加熱によって変性するゲル層を形成する工程と、を含む。これにより、金微粒子を無駄にすることなく、選択細胞300を回収できる細胞培養容器を得ることができる。
(10)一実施形態の細胞回収システムは、細胞培養容器1と細胞培養容器1に接続された吸引ポンプ40と、を備える。これにより、選択細胞300、又は選択細胞300が付着した細胞培養基材14を吸引ポンプ40により吸引することができ、選択細胞300、又は選択細胞300が付着した細胞培養基材14の回収が容易になる。
(11)一実施形態の細胞の取得方法は、細胞培養容器1に配置された細胞から、取得する細胞300を選択する工程と、選択された細胞300の近傍の細胞培養基材14に光を照射する工程と、選択された前記細胞を回収する工程と、を含む。これにより、選択細胞300に障害を与えることなく、選択細胞300を回収することができる。
(12)一実施形態の細胞の取得方法は、細胞培養容器1のウェル11のそれぞれに配置された細胞から、取得する細胞300を選択する工程と、選択された細胞300が配置されているウェル11に充填された細胞培養基材14に光を照射する工程と、細胞培養基材14を取り出す工程と、細胞培養基材14から細胞を回収する工程と、を含む。これにより、選択した細胞300を、細胞培養基材14ごと回収することができる。このため、細胞300に障害を与えることなく、単位時間当たりの細胞回収数を多くすることができる。
(13)一実施形態の細胞の取得方法において、ウェル11に充填されている細胞培養基材14を取り出す工程は、ウェル11に充填されている細胞培養基材14を吸引ポンプ等により吸引する工程である。これにより、選択細胞300が付着した細胞培養基材14を、吸引により回収することができ、選択細胞300に障害を与えることなく回収することができる。
(14)一実施形態の細胞の取得方法において、細胞培養基材14を取り出す工程は、細胞培養容器1に培養液や緩衝液等の流体を流し入れる工程である。これにより、選択細胞300が付着した細胞培養基材14を、流体とともに回収することができ、選択細胞300に障害を与えることなく回収することができる。
(15)一実施形態の細胞の取得方法において、細胞培養基材14から選択細胞300を回収する工程は、コラゲナーゼを細胞培養基材14に添加する工程である。これにより、細胞培養基材14から、選択細胞300に障害を与えることなく、回収することができる。
【0037】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【実施例】
【0038】
細胞としてHeLa細胞を用いて本実施形態の細胞の取得を行った。
【0039】
(試薬調製)
・PBS(-)
NaCl(4.003g)、KCl(0.1003g)、KH2PO4(0.1006g)、NaH2PO4(0.575g)をイオン交換水(500mL)に溶かした後、オートクレーブで滅菌してPBS(-)を調製した。
・10倍無機塩培地
イオン交換水(10mL)へCaCl2無水物(20.2mg)、MgCl・6H2O(23.5mg)、KCl(40.4mg)、NaCl(639.7mg)、NaH2PO4・2H2O(14.1mg)を加えて溶解させて10倍無機塩培地を調製した。
・再構成溶液
NaOH(0.05M,10mL)へNaHCO3(219.7mg)、HEPES(477.12mg)を加えて溶解させて再構成溶液を調製した。
・希塩酸
0.05MのHCl水溶液をpHメーター(堀場製作所社製、pH/CONDMETERD-54)を用いてpH3.0に調整することで希塩酸(pH3.0)を作製した。ここで、10倍無機塩培地、再構成溶液、希塩酸(pH3.0)はそれぞれフィルター(ADVANTEC社製、孔径0.20μm)を用いてフィルター滅菌した。
・濃縮金ナノ粒子(AuNP)溶液
2mL(1mL×2)の、金ナノ粒子を成長させた溶液であるGrowth溶液[S. Yagi, et al, J Electrochem Soc, 159, H668 (2012)参照]を遠心管に入れ25℃、回転数3000rpmで20分間遠心分離した。上澄み溶液(0.9mL×2)を除去し、超純水(0.3mL×2)を添加して、濃縮AuNP溶液(Au750μM)を作製した。
【0040】
(コラーゲン溶液の作製)
クリーンベンチ(昭和科学社製,S-1001PRV)内で、細胞培養基材[新田ゼラチン社製,Cellmatrix(登録商標)I-A,コラーゲン濃度0.3wt%,pH3.0,0.56mL]へ希塩酸(0.42mL)、10倍無機塩培地(0.20mL)、再構成溶液(0.20mL)を氷冷下で、この順番で加えてコラーゲンゲル溶液(2.1mL)を調製した。
【0041】
(井戸型マイクロアレイ(細胞培養容器)の作製)
1020個の底を有するウェルが形成されたアクリル製のマイクロアレイを作製した。ウェルの径と深さは200μm、隣接するウェルの中心間の距離が330μm、各ウェルの底からマイクロアレイの底までの距離を約800μmとした。マイクロアレイをエタノールで置換し、続いて純水で置換した。上記で調製した濃縮金ナノ粒子(AuNP)溶液を各ウェルの底に配置し、37℃で一昼夜静置した。さらに、上記で作製したコラーゲン溶液を200μLで3回置換し、各ウェルをコラーゲンゲルで満たした。これを、ダイレクトヒートCO2インキュベーター内で37℃下、30分間インキュベーションした。
【0042】
(貫通穴型マイクロアレイ(細胞培養容器)の作製)
1020個の底に貫通孔を有するウェルが形成されたアクリル製のマイクロアレイを作製した。ウェルと貫通孔の径は等しく200μmとし、ウェルの深さは200μm、隣接するウェルの中心間の距離は330μmとした。35mm培養皿に上記で作製した包埋コラーゲン溶液を1.8mL加え、これを、ダイレクトヒートCO2インキュベーター内で37℃下、30分間インキュベーションしゲルを作製した。次に、マイクロアレイの底面を上記のゲルに押しつけ、各ウェルをコラーゲンゲルで満たした。その後、コラーゲンゲル上に上記で調製した濃縮金ナノ粒子(AuNP)溶液を配置し、37℃で一昼夜静置した。そして、マイクロアレイを反転させ、ゲルが露出している面を細胞培養面とした。
【0043】
(細胞播種および剥離)
作製した細胞培養容器にDMEMに分散させたHeLa細胞(6000個/マイクロアレイ)を流し込み、37℃で1日間培養した後、培地を吸引除去した。顕微鏡下、アルミシートを載せた37℃サーモプレート上もしくは細胞培養チャンバー内で、スポット径が最小となるように設定し光照射した。
【0044】
光照射にはPA(photoactivation)落射蛍光装置(ニコン社製,TI-PAU)を経由してレーザー光源(シグマ光機社製,波長532nm,出力50mW)を組み込み、波長532nmの光透過性をもつミラーユニット(ニコン社製,TRITC)を設置したものを使用し、細胞は倒立型蛍光顕微鏡(ニコン社製, ECLIPSE Ti-U)およびイメージングセンサー制御ソフトウェア(WRAYMER社製,WraySpect)を用いて蛍光/位相差観察および撮像を行った。観察は4倍、10倍の対物レンズ(ニコン社製,Plan-Fluor)を用いて行った。
【0045】
(結果)
井戸型マイクロアレイでは、30秒間の光照射でゲルが変性し、マイクロアレイから剥離した。ゲル内に金ナノ粒子を均一に分散・包埋させた場合は、ゲルの変性に60秒間要したので(データ示さず)、本発明の細胞培養容器により、照射時間を2分の1に短縮できたことになる。
貫通穴型マイクロアレイでは、ゲル内に金ナノ粒子を均一に分散・包埋させた場合は、8秒間の光照射でゲルが変性したが、熱に弱いHeLa細胞は1秒間の照射でも殺傷された(データ示さず)。一方、本発明の方法では、2秒間の光照射でゲルを変性させることができ、細胞も生存していた。
【符号の説明】
【0046】
1…細胞培養容器、7…レーザー光、10…細胞培養容器本体、11…ウェル、12…貫通孔、13…金微粒子層、14…細胞培養基材、15…ゲル、20…培養液、30…細胞、40…吸引ポンプ、70…顕微鏡、300…選択細胞、1000…細胞回収システム