(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】セシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20220822BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220822BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220822BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
G21F9/12 501D
C02F1/28 A
B01J20/28 Z
B01J20/10 C
(21)【出願番号】P 2019062460
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2018082942
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
(72)【発明者】
【氏名】清水 要樹
(72)【発明者】
【氏名】徳永 敬助
(72)【発明者】
【氏名】大庭 悠輝
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087172(JP,A)
【文献】特開2019-189516(JP,A)
【文献】特開2017-170440(JP,A)
【文献】米国特許第6110378(US,A)
【文献】米国特許第6479427(US,B1)
【文献】米国特許第5591420(US,A)
【文献】S. Chitra et al.,Optimization of Nb-substitution and Cs+/Sr+2 ion exchange in crystalline silicotitanates (CST),Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,2013年,295,p.607-613
【文献】S. Chitra et al.,Uptake of cesium and strontium by crystalline silicotitanates from radioactive wastes,Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry,2011年,287,p.955-960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
C02F 1/28
B01J 20/28
B01J 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シチナカイト構造を有するシリコチタネートと、粉末X線回折によるX線回折角2θ=8.7±0.5°、2θ=10.0±0.5°、2θ=27.8±0.5°又は2θ=29.4±0.5°の少なくとも1つに回折ピークを有し、かつX線回折角2θ=21.8±0.5°に回折ピークを有する結晶性物質と、1.0重量%以上12.0重量%以下のNa
2Oと、を含み、Na/Tiモル比が0.1以上1.0以下であるシリコチタネート系吸着剤に、セシウム又はストロンチウムを含有する廃液を接触させる、セシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液の処理方法。
【請求項2】
前記シリコチタネート系吸着剤は、80m
2/g以上のBET表面積を有することを特徴とする請求項1に記載の廃液の処理方法。
【請求項3】
前記シリコチタネート系吸着剤を10cm以上300cm以下の層高で充填した吸着塔に、セシウム又はストロンチウムを含有する廃液を通水線流速(LV)1m/h以上40m/h以下、空間速度(SV)200h
-1以下で通水して、当該シリコチタネート系吸着剤にセシウム及び/又はストロンチウムを吸着させることを含む、請求項1又は2に記載の廃液の処理方法。
【請求項4】
前記廃液が、Naイオン、Caイオン及び/又はMgイオンをさらに含む廃液である、請求項1~3のいずれか1に記載の廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム及び/又はストロンチウムを有する廃液の処理方法に関し、特に放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを含む放射性廃液の処理方法、特に原子力発電プラント内で発生する海水などの夾雑イオンを含む廃液中に含まれる放射性セシウムと放射性ストロンチウムの両方の元素を除去することができる廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日の東日本大震災により福島第一原子力発電所で発生した事故により、放射性物質を含む放射性廃液が大量に発生している。この放射性廃液には、原子炉圧力容器や格納容器、使用済み燃料プールに注水される冷却水に起因して発生する汚染水や、トレンチ内に滞留しているトレンチ水、原子炉建屋周辺のサブドレンと呼ばれる井戸より汲み上げられるサブドレン水、地下水、海水などがある(以下「放射性廃液」と称す。)。これらの放射性廃液は、サリー(SARRY, Simplified Active Water Retrieve and Recovery
System(単純型汚染水処理システム)セシウム除去装置)やアルプス(ALPS, 多核種除去装置)などと呼ばれる処理設備にて放射性物質が除去され、処理された水はタンクに回収されている。
【0003】
放射性物質のうち、放射性セシウムを選択的に吸着除去することができる物質として、紺青等のフェロシアン化合物や、ゼオライトの一種であるモルデナイト、アルミノケイ酸塩、チタンケイ酸塩(CST)などがある。たとえばサリーでは、放射性セシウムを除去するために、アルミノケイ酸塩であるUOP社製のIE96とCSTであるUOP社製のIE911が使用されている。放射性ストロンチウムを選択的に吸着除去することができる物質として、天然ゼオライトや合成A型及びX型ゼオライト、チタン酸塩、CSTなどがある。たとえばアルプスでは、放射性ストロンチウムを除去するためにチタン酸塩である吸着剤が使用されている。
【0004】
また、セシウムを吸着できる吸着剤としてシリコチタネートを使用することが提案されている。たとえば、WO2016/010142 A1(特許文献1)には、セシウムとストロンチウムに対して吸着性能を有する、シチナカイト構造を有するシリコチタネートを含み、X線回折角2θ=8.8±0.5°、2θ=10.0±0.5°及び2θ=29.6±0.5°からなる群の2以上に回折ピークを有するシリコチタネート組成物が開示されている。しかし、特許文献1には、2θ=21.8±0.5°に回折ピークを有する結晶性物質を含むシリコチタネート組成物は開示されていない。
【0005】
WO2017/141931 A1(特許文献2)には、A2Ti2O3(SiO4)・nH2O(式中、AはNa及びKから選ばれる1種又は2種のアルカリ元素を示す。nは1以上2以下の数を示す)で表される結晶性シリコチタネートに第5族元素Mとしてニオブ(Nb)を含み、2θ=11°以上12°以下のメーンピークの半値幅が0.320°以下で、且つ2θ=29°以上30°以下の範囲にピークが観察されないセシウム又は/及びストロンチウム吸着剤が開示されている。しかし、特許文献2に開示されている吸着剤は、2θ=29°以上30°以下の範囲にピークが観察されないことを特徴としており、また、特許文献2に挙げられている複数のX線回折パターンの全てにおいて2θ=21.8±0.5°に回折ピークがない。
【0006】
以上の特許文献1及び2に開示されている吸着剤のストロンチウム吸着性能は十分とは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2016/010142 A1
【文献】WO2017/141931 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のセシウム(Cs)及び/又はストロンチウム(Sr)吸着剤よりも高い吸着性能、特に高いストロンチウム吸着性能を有する新規なシリコチタネート系吸着剤を用いるセシウム及び/又はストロンチウムを含む廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、新規なシリコチタネート系吸着剤を用いるセシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液の処理方法が提供される。具体的態様は、以下のとおりである。[1]シチナカイト構造を有するシリコチタネートと、粉末X線回折によるX線回折角2θ=8.7±0.5°、2θ=10.0±0.5°、2θ=27.8±0.5°又は2θ=29.4±0.5°の少なくとも1つに回折ピークを有し、かつX線回折角2θ=21.8±0.5°に回折ピークを有する結晶性物質と、1.0重量%以上12.0重量%以下のNa2Oと、を含み、Na/Tiモル比が0.1以上1.0以下であるシリコチタネート系吸着剤に、セシウム又はストロンチウムを含有する廃液を接触させる、セシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液の処理方法。
[2]前記シリコチタネート系吸着剤は、80m2/g以上のBET表面積を有することを特徴とする前記[1]に記載の廃液の処理方法。
[3]前記シリコチタネート系吸着剤を10cm以上300cm以下の層高で充填した吸着塔に、セシウム又はストロンチウムを含有する廃液を通水線流速(LV)1m/h以上40m/h以下、空間速度(SV)200h-1以下で通水して、当該シリコチタネート系吸着剤にセシウム及び/又はストロンチウムを吸着させることを含む、前記[1]又は[2]に記載の廃液の処理方法。
[4]前記廃液が、Naイオン、Caイオン及び/又はMgイオンをさらに含む廃液である、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の処理方法において用いるシリコチタネート系吸着剤は、Naイオン、Caイオン、Mgイオンなどの海水成分共存下でもSr吸着量及びCsの吸着量が大きく、特に選択的にSrを吸着することができるため、セシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液、特に海水成分を含む廃液から、セシウム及び/又はストロンチウムを選択的に吸着して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】製造例1で製造したシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図である。
【
図2】製造例2で製造したシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図である。
【
図3】製造例3で製造したシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図である。
【
図4】製造例4で製造したシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図である。
【
図5】製造例5で製造したシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図である。
【
図6】製造比較例1で製造したシリコチタネート成形体の粉末X線回折図である。
【
図7】実施例1によるセシウム吸着挙動を示すグラフである。
【
図8】実施例1によるストロンチウム吸着挙動を示すグラフである。
【
図9】実施例2によるセシウム吸着挙動を示すグラフである。
【
図10】実施例2によるストロンチウム吸着挙動を示すグラフである。
【
図11】実施例3によるセシウム吸着挙動を示すグラフである。
【
図12】実施例3によるストロンチウム吸着挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、シチナカイト構造を有するシリコチタネートと、粉末X線回折によるX線回折角2θ=8.7±0.5°、2θ=10.0±0.5°、2θ=27.8±0.5°又は2θ=29.4±0.5°の少なくとも1つに回折ピークを有し、かつX線回折角2θ=21.8±0.5°に回折ピークを有する結晶性物質と、1.0重量%以上12.0重量%以下のNa2Oと、を含み、Na/Tiモル比が0.1以上1.0以下であるシリコチタネート系吸着剤に、セシウム又はストロンチウムを含有する廃液を接触させる、セシウム及び/又はストロンチウムを含有する廃液の処理方法が提供される。
【0013】
シチナカイト構造を有するシリコチタネートとは、American Mineralogist Crystal Structure Database(http://ruff.geo.arizona.edu./AMS/amcsd.php、検索日:2017年12月12日)に収録されているsitinakiteに記載された特定の粉末X線回折ピークを有する結晶性シリコチタネートである。このデータベースによれば、シチナカイト構造を有するシリコチタネートの特定ピークのX線回折角2θは、11.23°、27.52°、14.82°、26.37°とされている。
【0014】
本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を有するシリコチタネートに加えて、粉末X線回折によるX線回折角2θ=8.7±0.5°、2θ=10.0±0.5°、2θ=27.8±0.5°又は2θ=29.4±0.5°の少なくとも1つに回折ピークを有し、かつX線回折角2θ=21.8±0.5°に回折ピークを有する結晶性物質を含む。
【0015】
さらに、本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、1.0重量%以上12.0重量%以下、好ましくは3.0重量%以上12.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以上12.0重量%以下のNa2Oを含む。また、Na/Tiモル比が0.1以上1.0以下、好ましくは0.3以上1.0以下、より好ましくは0.5以上1.0以下であることが望ましい。上記量及びTiに対するモル比となるようにNa2Oを含むことにより、海水中に含まれるカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の水酸化物化、炭酸塩化を抑制してSrの吸着選択性が向上したと考えられる。
【0016】
また、本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、80m2/g以上、好ましくは82m2/g以上のBET表面積を有することが望ましい。
本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を有するシリコチタネートに加えて、上記結晶性物質及び所定量のNa2Oを含むことにより、ストロンチウムの吸着性能をさらに向上させたものである。
【0017】
本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、さらにニオブ、タンタル、バナジウム、アンチモン、マンガン、銅、及び、鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種のドープ金属を含有するものであってもよい。ドープ金属は、特にニオブ(Nb)が好ましい。ドープ金属/Tiモル比は、0.01以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.5以下がより好ましく、0.5以上1.0以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明で用いるシリコチタネート系吸着剤は、0.1mm以上2.0mm以下の長径を有する球状、略球状、楕円状、円柱状、多面体状及び不定形からなる群の少なくとも一種の形状を有する成形体であることが好ましい。成形体の場合には、粘土、シリカゾル、アルミナゾル、及び、ジルコニアゾルからなる群の少なくとも1種の無機バインダー及び/
又はカルボキシメチルセルロースなどの有機バインダーを含むことが好ましい。
【0019】
本発明の処理方法において、前記シリコチタネート系吸着剤を10cm以上300cm以下の層高、好ましくは20cm以上250cm以下、より好ましくは50cm以上200cm以下の層高となるように吸着塔に充填する。層高10cm未満では、吸着剤を吸着塔に充填する際に吸着剤層を均一に充填することができず、通水時のショートパスを引き起こし、結果として処理水質が悪化する。層高が高い程、適切な通水差圧が実現でき、処理水質が安定化し、処理水の総量も多くなるため好ましいが、通水差圧を考慮して実用性の観点から層高300cm以下が好ましい。
【0020】
前記シリコチタネート系吸着剤を充填した吸着塔に対して、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを含有する放射性廃液を通水線流速(LV)1m/h以上40m/h以下、好ましくは5m/h以上30m/h以下、より好ましくは10m/h以上20m/h以下、空間速度(SV)200h-1以下、好ましくは100h-1以下、より好ましくは50h-1以下、好ましくは5h-1以上、より好ましくは10h-1以上で通水する。通水差圧を考慮すると通水線流速は40m/h以下、処理水量を考慮すると1m/h以上が好ましい。空間速度(SV)は一般的な廃液処理で用いられる20h-1以下、特に10h-1程度でも吸着効果を得ることができるが、通常の吸着材を用いる廃液処理では20h-1を越える大きな空間速度(SV)では安定した処理水質を実現できず、除去効果を得ることができない。本発明においては、吸着塔を大型化せずに通水線流速及び空間速度を大きくすることができる。通水線流速とは、吸着塔に通水する水量(m3/h)を吸着塔の断面積(m2)で除した値である。空間速度とは、吸着塔に通水する水量(m3/h)を吸着塔に充填した吸着材の体積(m3)で除した値である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
<粉末X線回折測定>
一般的なX線回折装置(商品名:UltimaIV、RIGAKU社製)を使用して試料のX線回折パターンを測定した。測定条件は以下のとおりとした。
線源: CuKα線(λ=1.5405Å)
スキャン条件: 毎秒0.1°
発散スリット: 1.00deg
散乱スリット: 1.00deg
受光スリット: 0.30mm
測定範囲: 2θ=5.0°~60.0°
【0023】
得られたX線回折パターンと、上記データベースに記載されたシチナカイト構造のシリコチタネートの特定回折ピーク(以下、「特定回折ピーク」という。)とを比較することで、シチナカイト構造の同定を行った。
【0024】
<シリコチタネート系吸着剤の組成分析、及びCs、Sr濃度の分析>
シリコチタネート系吸着剤の組成分析、及びCs、Sr濃度の分析は一般的なICP法により測定した。測定には、一般的なICP-AES(装置名:OPTIMA7300DV、PERKINELMER社製)を使用した。
【0025】
<pH>
内容積70mLのガラス容器に、シリコチタネート系吸着剤0.25gと室温の純水50gを入れる。振とう機(商品名:MIXER N-61、日伸理化製)で回転数調整ダ
イヤル目盛をゼロにセットして10秒間振とうした後に、5分間静置させる。その後、pH電極をガラス容器の下から1cmになる様に設置して、40分後のpHを測定した(商品名:LAQUA F-72S、堀場製作所製)。
【0026】
<BET表面積>
シリコチタネート系吸着剤の前処理は、110℃で2時間、真空下で行った。定容法ガス吸着測定装置(商品名:ベルソープミニII、マイクロトラック・ベル社製)により、液体窒素温度(77K)で窒素吸着等温線を測定した。得られた吸着等温線から相対圧力0.1以下の範囲でBET表面積を算出した。
【0027】
<Sr吸着特性の評価>
ジャケットの付いた内径8mm、長さ25cmのガラス製のカラムの下半分にガラスビーズを高さ約10cmまで充填する。その上にシリコチタネート系吸着剤を4.5mL秤量して充填する。ジャケットには30℃に調整した水を流して温度調整を行った。充填はシリコチタネート系吸着剤(成形体)の粒子間に空気を含まないようにカラム内に純水を入れた状態で充填する。充填後、純水を150mL流通する。被検液は市販のマリンアートSF-1(富田製薬製)を用いて、Cs(1mg/L)、Sr(1.6mg/L)、Na(1992mg/L)、K(64mg/L)、Mg(236mg/L)、Ca(82mg/L)の濃度になるように調製した。なお、マリンアートSF-1にはCsが含まれないため、原子吸光用の標準液(1000mg/L)を用いて、Cs(1mg/L)となるように添加して濃度調整を行った。
被検液を45mL/hrで流通して、ガラスカラムから流出する溶液を分取してSr濃度を分析した。流出液のSr濃度が0.2ppmに到達した時を終点とし、その時までに流すことができた流通液量(L)で吸着特性を評価した。流通液量の多い方が吸着性能は高いことを表す。
【0028】
[製造例1]
純水1743g、水酸化ナトリウム48%水溶液406g、水酸化ニオブ171g、及び、無定形シリコチタネートゲル286g(固形分として)を加え、よく混合して原料組成物を得た。原料組成物の組成は、TiO
2を1とした場合のモル比として、SiO
2:1.4、Nb
2O
5:0.3、Na
2O:1.75、H
2O:109であった。無定形シリコチタネートゲルは、有機系アルコキシ金属化合物を含まない無機系チタン化合物及び無機系ケイ素化合物から形成したものである。
この原料組成物を4Lのステンレス製オートクレーブ(商品名:TAS-4型、耐圧工業硝子製)に密閉し、196rpmで回転させながら180℃で24時間加熱して、無定形シリコチタネートゲルを結晶化した。加熱後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の純水で洗浄し、100℃で乾燥して、結晶化したシリコチタネートを含む粉末生成物を得た。粉末生成物の組成は、TiO
2を1とした場合のモル比として、SiO
2:0.94、Nb
2O
5:0.28、Na
2O:0.75であった。
得られた粉末生成物100重量部に対して、SiO
2(商品名:ST-30L、日産化学製)12重量部、カルボキシメチルセルロース(商品名:F-20HC、日本製紙製)3重量部を添加して混練して成形し、次いで焼結して成形体とした。成形体の形状は直径1mm、長さ1~2mmの円柱状とした。
得られた円柱状の成形体を酸性水溶液で処理した。酸性水溶液としては、0.1mol/Lの塩酸水溶液を使用した。この成形体300mLをガラスカラムに充填して、0.1mol/Lの塩酸水溶液(pH=1)1800mLを線速13.5cm/minで循環流通した。この時、塩酸水溶液の温度は40~45℃に調整した。塩酸水溶液の流通時間は7時間とした。酸性水溶液で処理した後は純水で洗浄して100℃で乾燥し、シリコチタネート系吸着剤を得た。シリコチタネート系吸着剤の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が8.9重量%、Na/Tiモル比が0.81であることを確認した。
また、得られたシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図を
図1に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、本製造例のシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を有するシリコチタネートを含み、さらに2θ=29.4°及び2θ=21.8°に回折ピークを有する結晶性物質を含むことを確認した。
得られたシリコチタネート系吸着剤のBET表面積は90.5m
2/gであった。
得られたシリコチタネート系吸着剤のSr吸着性能は11.8Lであった。
【0029】
[製造例2]
製造例1で得られた円柱状の成形体を用いて酸性水溶液で処理を行った。酸性水溶液としては、0.1mol/Lの塩酸水溶液を使用した。この成形体300mLをガラスカラムに充填して、0.1mol/Lの塩酸水溶液(pH=1)1800mLを線速13.5cm/minで循環流通した。この時、塩酸水溶液の温度は40~45℃に調整した。塩酸水溶液の流通時間は5時間とした。酸性水溶液で処理した後は純水で洗浄して100℃で乾燥し、シリコチタネート系吸着剤を得た。酸性水溶液で処理したシリコチタネート系吸着剤の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が9.2重量%、Na/Tiモル比が0.84であることを確認した。
また、得られたシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図を
図2に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、本製造例のシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を有するシリコチタネートを含み、さらに2θ=29.5°及び2θ=21.8°にピークを有する結晶性物質を含むことを確認した。
得られたシリコチタネート系吸着剤のBET表面積は87.4m
2/gであった。
得られたシリコチタネート系吸着剤のSr吸着性能は8.0Lであった。
【0030】
[製造例3]
製造例1で得られた円柱状の成形体を用いて大型酸性処理装置を用いて酸性水溶液で処理を行った。酸性水溶液としては、0.1mol/Lの塩酸水溶液を使用した。この成形体80Lを160L容量のグラスファイバー製カラムに充填して、0.1mol/Lの塩酸水溶液(pH=1)480Lを線速20.4cm/minで循環流通した。この時、塩酸水溶液の温度は40~45℃に調整した。塩酸水溶液の流通時間は6時間とした。酸性水溶液で処理した後は純水で洗浄して100℃で乾燥し、シリコチタネート系吸着剤を得た。酸性水溶液で処理したシリコチタネート系吸着剤の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が7.5重量%、Na/Tiモル比が0.69であることを確認した。
また、得られたシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図を
図3に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、本製造例のシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を含み、さらに2θ=29.5°及び2θ=21.8°にピークを有する結晶性物質を含むことを確認した。
得られたシリコチタネート系吸着剤のBET表面積は93.5m
2/gであった。
得られたシリコチタネート系吸着剤のSr吸着性能は10.6Lであった。
【0031】
[製造例4]
製造例1で得られた円柱状の成形体を用いて大型酸性処理装置を用いて酸性水溶液で処理を行った。酸性水溶液としては、0.2mol/Lの塩酸水溶液を使用した。この成形体80Lを160L容量のグラスファイバー製カラムに充填して、0.2mol/Lの塩酸水溶液(pH=1)480Lを線速20.4cm/minで循環流通した。この時、塩酸水溶液の温度は40~45℃に調整した。塩酸水溶液の流通時間は18~19時間とした。酸性水溶液で処理した後は純水で洗浄して100℃で乾燥し、シリコチタネート系吸着剤を得た。酸性水溶液で処理したシリコチタネート系吸着剤の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が6.5重量%、Na/Tiモル比が0.60であることを確認した。
また、得られたシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図を
図4に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、本製造例のシリコチタネート系吸
着剤は、シチナカイト構造を含み、2θ=29.5°及び2θ=21.8°にピークを有する結晶性物質を含むことを確認した。
得られたシリコチタネート系吸着剤のBET表面積は95.0m
2/gであった。
得られたシリコチタネート系吸着剤のSr吸着性能は14.7Lであった。
【0032】
[製造例5]
製造例1で得られた円柱状の成形体を用いて酸性水溶液で処理を行った。酸性水溶液としては、0.15mol/Lの塩酸水溶液を使用した。この成形体900mLを1500mL容量のガラスカラムに充填して、0.15mol/Lの塩酸水溶液(pH=1)5400mLを線速13.5cm/minで循環流通した。この時、塩酸水溶液の温度は40~45℃に調整した。塩酸水溶液の流通時間は18~19時間とした。酸性水溶液で処理した後は純水で洗浄して100℃で乾燥し、シリコチタネート系吸着剤を得た。酸性水溶液で処理したシリコチタネート系吸着剤の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が5.4重量%、Na/Tiモル比が0.50であることを確認した。
また、得られたシリコチタネート系吸着剤の粉末X線回折図を
図5に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、本製造例のシリコチタネート系吸着剤は、シチナカイト構造を含み、さらに2θ=29.5°及び2θ=21.8°にピークを有する結晶性物質を含むことを確認した。
得られたシリコチタネート系吸着剤のBET表面積は97.2m
2/gであった。
得られたシリコチタネート系吸着剤のSr吸着性能は17.2Lであった。
【0033】
[比較製造例1]
製造例1において、シリコチタネートを含む粉末生成物を成形体とした後、酸性水溶液による処理を行わなかった。この成形体の組成とpHを表1に示す。Na
2O含有量が12.3重量%、Na/Tiモル比が1.11であることを確認した。
また、この成形体の粉末X線回折図を
図6に示す。得られたX線回折パターンと、特定回折ピークとを比較した結果、この成形体は、シチナカイト構造を有するシリコチタネートと、2θ=29.5°のみに回折ピークを有する結晶性物質と、を含むことを確認した。
得られた成形体のBET表面積は65.6m
2/gであった。
得られた成形体のSr吸着性能は6.4Lであった。
【表1】
【0034】
[実施例1]
[模擬汚染海水1の調製]
大阪薬研株式会社の人工海水製造用薬品であるマリンアートSF-1(塩化ナトリウム:22.1g/L、塩化マグネシウム六水和物:9.9g/L、塩化カルシウム二水和物
:1.5g/L、無水硫酸ナトリウム:3.9g/L、塩化カリウム:0.61g/L、炭酸水素ナトリウム:0.19g/L、臭化カリウム:96mg/L、ホウ砂:78mg/L、無水塩化ストロンチウム:13mg/L、フッ化ナトリウム:3mg/L、塩化リチウム:1mg/L、ヨウ化カリウム:81μg/L、塩化マンガン四水和物:0.6μg/L、塩化コバルト六水和物:2μg/L、塩化アルミニウム六水和物:8μg/L、塩化第二鉄六水和物:5μg/L、タングステン酸ナトリウム二水和物:2μg/L、モリブデン酸アンモニウム四水和物:18μg/L)を用いて、塩分濃度が0.17wt%になるように水溶液を調製した。そこに、セシウム濃度が1mg/Lとなるように塩化セシウムを添加し、模擬汚染海水1を調製した。
【0035】
[模擬汚染海水1のカラム通水]
製造例1で調製したシリコチタネート系吸着剤20mlを内径16mmのガラスカラムに10cmの層高となるように充填し、模擬汚染海水1を流量6.5ml/min(通水線流速LV=2m/h、空間速度SV=20h
-1)にて下降流で通水し、カラム出口水を定期的に採取して、ICP-MSにてセシウム又はストロンチウム濃度を測定した。
セシウムの除去性能を
図7に、ストロンチウムの除去性能を
図8に示す。
図7及び8において、横軸は吸着剤の体積に対して何倍量の模擬汚染海水を通水したのかを示すB.V.であり、縦軸はカラム出口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C)をカラム入口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C
0)でそれぞれ除した値である。
図7及び8より、比較製造例1のシリコチタネート成形体ではB.V.5000でC/C
0が約0.2に達するのに対して、本発明のシリコチタネート系吸着剤を用いる廃水の処理方法ではB.V.13000でもC/C
0が0.2未満であり、ストロンチウムの吸着性能が向上していることがわかる。
【0036】
[実施例2]
[模擬汚染海水1のカラム通水]
製造例1で調製したシリコチタネート系吸着剤200mlを内径16mmのガラスカラムに100cmの層高となるように充填し、模擬汚染海水1を流量66.5ml/min(通水線流速LV=20m/h、空間速度SV=200h
-1)にて下降流で通水し、カラム出口水を定期的に採取して、ICP-MSにてセシウム又はストロンチウム濃度を測定した。
セシウムの除去性能を
図9に、ストロンチウムの除去性能を
図10に示す。
図9及び
図10において、横軸は吸着剤の体積に対して何倍量の模擬汚染海水を通水したのかを示すB.V.であり、縦軸はカラム出口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C)をカラム入口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C
0)でそれぞれ除した値である。
図9及び10より、比較製造例1のシリコチタネート成形体ではB.V.15000でC/C
0が約0.4を超えているのに対して、本発明のシリコチタネート系吸着剤を用いる廃水の処理方法ではB.V.25000でC/C
0が約0.4を超え、ストロンチウムの吸着性能が向上していることがわかる。
【0037】
[実施例3]
[模擬汚染海水2の調製]
並塩を用いて塩分濃度が0.1wt%になるように水溶液を作成した。そこに、セシウム濃度が0.2mg/L、ストロンチウム濃度が0.2mg/L、カルシウム及びマグネシウム濃度が50mg/Lとなるように、各々の塩化物塩を添加し、模擬汚染海水2を調製した。
【0038】
[模擬汚染海水2のカラム通水]
製造例1で調製したシリコチタネート系吸着剤20mlを内径16mmのガラスカラムに10cmの層高となるように充填し、模擬汚染海水2を流量6.5ml/min(通水線流速LV=2m/h、空間速度SV=20h
-1)にて下降流で通水し、カラム出口水
を定期的に採取して、ICP-MSにてセシウム又はストロンチウム濃度を測定した。
セシウムの除去性能を
図11に、ストロンチウムの除去性能を
図12に示す。
図11及び
図12において、横軸は吸着剤の体積に対して何倍量の模擬汚染海水を通水したのかを示すB.V.であり、縦軸はカラム出口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C)をカラム入口のセシウム又はストロンチウムの濃度(C
0)でそれぞれ除した値である。
図11及び12より、比較製造例1のシリコチタネート成形体ではB.V.10000でC/C
0が約0.1に達するのに対して、本発明のシリコチタネート系吸着剤を用いる廃水の処理方法ではB.V.16000でC/C
0が約0.1未満であり、ストロンチウムの吸着性能が向上していることがわかる。