IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州工業大学の特許一覧

<>
  • 特許-沿面放電の発生を抑制する方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】沿面放電の発生を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/30 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
H01B3/30 N
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018525203
(86)(22)【出願日】2017-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2017023726
(87)【国際公開番号】W WO2018003844
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2016132011
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017040998
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】末村 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 智久
(72)【発明者】
【氏名】小迫 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】匹田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】チャン ギョンフン
(72)【発明者】
【氏名】赤星 卓勇
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-325314(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008509(WO,A1)
【文献】特開2008-274260(JP,A)
【文献】特開2004-250521(JP,A)
【文献】特開平11-297869(JP,A)
【文献】特開2009-140878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシリカゾルに由来するナノサイズのシリカ粒子をエポキシ樹脂中に分散させてエポキシ樹脂硬化体の表面の沿面放電の発生を抑制することを特徴とする、沿面放電の発生を抑制する方法であって、
オルガノシリカゾルをエポキシモノマーと混合して脱溶媒してナノシリカが分散したエポキシモノマーゾルとし、これに硬化剤を混合したエポキシ樹脂硬化用組成物を硬化させて前記エポキシ樹脂硬化体とし、且つ前記エポキシ樹脂硬化体中のシリカ粒子の配合量が0.1~15質量%であり、前記シリカ粒子の平均粒子径が5~80nmであり、前記エポキシモノマーがビスフェノールA型エポキシモノマーとし、前記エポキシ樹脂硬化体の固体表面の沿面放電発生電圧を向上して、当該エポキシ樹脂硬化体の表面の沿面放電の発生を抑制する、ことを特徴とする沿面放電の発生を抑制する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧(電力)機器の絶縁材料の沿面放電発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧(電力)機器において、固体絶縁材料の表面は高電圧により沿面放電が起きやすい箇所である。ここで表面とは、液体/固体、気体/固体、真空/固体などの異質の界面を意味する。この場合、沿面放電は固体中ではなく、液体、気体、真空中のいずれかで発生する。
【0003】
従来、樹脂表面の沿面放電を抑制する技術としては、沿面放電が生じる可能性のある固体絶縁材料の誘電率制御による電界緩和(この場合、液体・気体・真空の誘電率に合わせるべく、固体の低誘電率化を行うこと)、誘電率の空間的な傾斜分布による電界緩和、導電率の非線形性による電界緩和、表面の凹凸による沿面距離の増加、などが報告されている。つまり、沿面放電を防止する対策としては、電界緩和あるいは物理的な沿面距離を取る方策しか実施されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-110206号公報
【文献】特開2016-031845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、固体絶縁材料である樹脂硬化体自体の電界緩和(即ち樹脂の低誘電率化)に頼ることなく、樹脂硬化体の表面の沿面放電の発生を抑制する方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、固体絶縁材料である樹脂中にナノサイズの無機微粒子を分散させたナノコンポジット絶縁材料を用いることで、樹脂表面の沿面放電の発生を抑制するという知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
上記目的を達成する本発明は、ナノサイズの無機微粒子を樹脂中に分散させて樹脂硬化体の表面の沿面放電の発生を抑制することを特徴とする、沿面放電の発生を抑制する方法にある。
【0008】
ここで、無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化アンチモン、酸化鉄、酸化マグネシウム、又はこれらを主成分とする複合酸化物微粒子を用いることができる。
【0009】
ナノサイズの粒子とは、一般的には、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つ粒子のことで、一般的には1~数百nmの大きさの粒子をいうが、本発明では、平均粒子径が1~400nmのものとする。なお、平均粒子径は、後述するとおり、比表面積によるものとする。
【0010】
本発明で用いる無機微粒子は、その平均粒子径が5~200nmが好ましく、特に、5~100nmであるのがより好ましい。樹脂としては、エポキシ樹脂などの一般的な熱硬化性樹脂を用いる。ナノコンポジットにおける無機微粒子の添加率は0.1~50質量%である。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることで、固体絶縁材料の電界緩和や物理的な沿面距離増加を施さずとも、樹脂硬化体の固体表面の沿面放電発生電圧を向上することができ、GIS(ガス絶縁開閉装置)の絶縁スペーサや油入り変圧器のプレスボード用コーティング樹脂等へ好適に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】沿面放電の測定系の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられる絶縁樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン等の熱硬化性樹脂が挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂も挙げられる。
【0014】
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。通常、これらエポキシ樹脂と硬化剤等を組み合わせて配合された後、注型・熱硬化して所望の形状に成形される。
【0015】
本発明に用いるエポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール樹脂、アミン類、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、ポリメルカプタン、酸無水物等が挙げられる。
【0016】
フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。
【0017】
アミン類としては、例えばピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン、ジ(1-メチル-2-アミノシクロヘキシル)メタン、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3-ジアミノメチルシクロヘキサン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。これらの中で液状であるジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン、ジ(1-メチル-2-アミノシクロヘキシル)メタン、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン等は好ましく用いることができる。
【0018】
ポリアミド樹脂としては、ダイマー酸とポリアミンの縮合により生成するもので、分子中に一級アミンと二級アミンを有するポリアミドアミンである。
【0019】
イミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、エポキシイミダゾールアダクト等が挙げられる。
【0020】
ポリメルカプタンは、例えばポリプロピレングリコール鎖の末端にメルカプタン基が存在するものや、ポリエチレングリコール鎖の末端にメルカプタン基が存在するものであり、液状のものが好ましい。
【0021】
本発明に用いる酸無水物としては一分子中に複数のカルボキシル基を有する化合物の無水物が好ましい。これらの酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも常温、常圧で液状であるメチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。これら液状の酸無水物は粘度が25℃での測定で10mPas~1000mPas程度である。
【0023】
また、上記硬化物を得る際、適宜、硬化促進剤が併用されても良い。硬化促進剤としてはトリフェニルホスフィンやトリブチルホスフィンなどの有機リン化合物、エチルトリフェニルホスフォニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウムリン酸ジエチル等の第4級ホスフォニウム塩、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデカン-7-エン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデカン-7-エンとオクチル酸の塩、オクチル酸亜鉛、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウム塩、ジメチルベンジルアミン等の3級アミン等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、硬化剤1質量部に対して、0.001~0.1質量部の割合で含有することができる。
【0024】
本発明に用いられるナノサイズの無機微粒子としては、絶縁性や分散性の観点から、金属酸化物微粒子が好ましい。金属酸化物微粒子の好ましい例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化アンチモン、酸化鉄、酸化マグネシウム又はこれらを主成分とする複合酸化物微粒子が挙げられる。このうち、シリカは誘電率が4程度と低く、熱膨張率も低いため、本発明に用いられる無機微粒子として好適に用いられる。
【0025】
本発明に用いられるシリカは、粒子形態のシリカであり、好ましくは、平均粒子径が200nm以下、例えば5nm~200nm、より好ましくは5nm~100nm、10nm~100nm、10nm~80nmである。粒子径が100nmよりも大きい場合、沿面放電抑制効果が顕著ではなくなる。
【0026】
本発明に用いられるシリカ粒子の平均粒子径とは、窒素吸着法により測定された比表面積値から算出される平均粒子径値である。
【0027】
特に本発明では、上記平均粒子径の値を有するコロイダルシリカを好適に使用でき、該コロイダルシリカとしては、シリカゾルを用いることができる。シリカゾルとしては、ケイ酸ナトリウム水溶液を原料として公知の方法により製造される水性シリカゾル及び該水性シリカゾルの分散媒である水を有機溶媒に置換して得られるオルガノシリカゾルを原料として使用する事が出来る。また、メチルシリケートやエチルシリケート等のアルコキシシランを、アルコール等の有機溶媒中で触媒(例えば、アンモニア、有機アミン化合物、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒)の存在下において加水分解し、縮合して得られるシリカゾル、又はそのシリカゾルを他の有機溶媒に溶媒置換したオルガノシリカゾルも原料として用いることができる。
【0028】
上述のオルガノシリカゾルにおける有機溶媒の例としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アミド類、炭化水素類、ニトリル類等が挙げられる。
【0029】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、プリピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、1,5-ペンタンジオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0030】
エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0031】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0032】
エステル類としては、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等が挙げられる。
【0033】
アミド類としては、アセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0034】
炭化水素類としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、スチレン等があげられ、更にハロゲン化炭化水素類としてはジクロロメタン、トリクロロエチレン等が挙げられる。
【0035】
ニトリル類としては、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0036】
上記オルガノシリカゾルの市販品の例としては、例えば商品名MA-ST-S(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MT-ST(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MA-ST-UP(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MA-ST-M(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MA-ST-L(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名IPA-ST-S(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名IPA-ST(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名IPA-ST-UP(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名IPA-ST-L(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名IPA-ST-ZL(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名NPC-ST-30(n-プロピルセロソルブ分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名PGM-ST(1-メトキシ-2-プロパノール分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名DMAC-ST(ジメチルアセトアミド分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名XBA-ST(キシレン・n-ブタノール混合溶媒分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名EAC-ST(酢酸エチル分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名PMA-ST(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MEK-ST(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MEK-ST-UP(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)、商品名MEK-ST-L(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)及び商品名MIBK-ST(メチルイソブチルケトン分散シリカゾル、日産化学工業(株)製)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明に使用されるシリカ粒子の表面は疎水化処理されていても良い。疎水化処理剤としては、シラザン、シロキサン又はアルコキシシラン及びその部分加水分解物若しくはその重合した2量体~5量体のオリゴマーが挙げられる。
【0038】
シラザンとしては、例えばヘキサメチルジシラザン、及びヘキサエチルジシラザンが挙げられる。
【0039】
シロキサンとしては、例えばヘキサメチルジシロキサン、1,3-ジブチルテトラメチルジシロキサン、1,3-ジフェニルテトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン及び3-グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0040】
アルコキシシランとしては、例えばトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、クロロプロピルジメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルメチルジエトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ-メタアクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタアクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ-メタアクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタアクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-(アミノプロピル)メチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-(アミノプロピル)トリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-(アミノプロピル)トリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エタン及びヘキサエトキシジシロキサンが挙げられる。
【0041】
本発明における樹脂中のナノシリカの配合量としては、例えば0.1~50質量%であり、好ましくは0.2~30質量%、0.5~30質量%であり、より樹脂の沿面放電を抑制する観点から、好ましくは0.5~20質量%、1~20質量%、より好ましくは1~15質量%、2~15質量%である。
【0042】
ナノシリカの配合量が50質量%よりも多いと樹脂硬化物の誘電率が上昇し、放電抑制効果が小さくなる。また、ナノシリカの配合量が0.1質量%よりも少ないとシリカを添加した効果が小さくなり、樹脂の放電抑制効果が得られない。
【0043】
上述のオルガノシリカゾルを、例えばエポキシ樹脂と混合して脱溶媒することで、ナノシリカが分散したエポキシ樹脂を得ることが出来る。この樹脂に適宜、硬化剤を添加して、注型・加熱等によって硬化反応を行い、所望の絶縁樹脂成型物が得られる。
【実施例
【0044】
(材料の準備)
ビスフェノールAジグリシジルエーテルJER828(三菱化学(株)製、エポキシ価185g/eq.)に、平均粒子径12~500nmのシリカ粒子を分散させたエポキシモノマー分散シリカゾルをシリカ濃度30.5質量%となるよう調整した。平均粒子径500nmのシリカ粒子には、アドマファインSO-C2(アドマテックス(株)製)を用いた。平均粒子径は、シリカの300℃乾燥粉末の比表面積を比表面積測定装置モノソーブ(登録商標)MS-16(ユアサアイオニクス(株)製)を用いて測定し、平均粒子径(nm)=2720/比表面積(m2/g)の換算式により算出した。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1~実施例10及び比較例1,2
表1で準備したエポキシモノマー分散シリカゾルと、酸無水物(リカシッドMH-700、新日本理化(株)製)、反応促進剤(ジメチルベンジルアミン、東京化成)を表2に記載の配合比で混合しエポキシ樹脂硬化用組成物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化用組成物を注型板(離型フィルムPL#400(フタムラ化学(株)製)で被覆されたガラス板3mm厚)に流し込み、70℃で2時間、90℃で2時間、150℃で8時間の硬化条件で加熱処理を行い、エポキシ樹脂硬化体を得た。
【0047】
【表2】
【0048】
(沿面放電の測定方法)
沿面放電の測定系の概略構成を図1に示す。この装置は、各印加電圧時の時間波形及び発光像を取得し、沿面放電発生確率を算出するものである。
【0049】
試料1としては、実施例1~10で作製したエポキシ樹脂硬化体を用いた。試料1の厚さは、3mmである。
【0050】
図1に示すように、試料1の表面に針電極2と、平板電極3とをギャップ長=50mmで配置した。これらの試料1及び針電極2と平板電極3との電極系は、試験容器4内に配置した。試験容器4内に鉱油5を充填し、試料1及び電極系を鉱油5内に配置した。
【0051】
針電極2の直径は1mmで、先端曲率半径は10μmであり、試料1の表面に対してθ=30°傾けて配置した。針電極2をインパルス電圧発生装置6に接続し、平板電極3は50Ωの抵抗を介して接地した。針電極2に、分圧器7を介して、正極性標準雷インパルス電圧(1.2μs/50μs)を、35kV~75kVまで、5kVステップで、印加間隔1分間で印加し、沿面放電の発生をイメージインテンシファイア付きのCCDカメラ8を用いて確認した。試料1の数は3枚、試験回数は各電圧で5回実施し、計15回の実験で沿面放電発生確率を算出した。
【0052】
また、試料1の比誘電率は誘電率計測器を用いて評価した。
【0053】
試料条件、試料の比誘電率の測定結果、および沿面放電試験結果を表3に示した。表3からシリカ微粒子の添加率が増加すると比誘電率が増加する傾向がわかる。一方で、シリカ微粒子の粒径が500nmの試料以外は放電発生確率が低下し、放電発生電圧が増加することがわかる。また、放電発生確率が100%に到達する電圧も、粒径が500nmの試料以外は5~15kV上昇した。つまり、本提案の手法を用いることで、樹脂の比誘電率はほぼ不変あるいは増加するにも関わらず、樹脂表面の沿面放電の発生を抑制できることになる。
【0054】
【表3】
【0055】
(材料の準備)
ビスフェノールAジグリシジルエーテルJER828(三菱化学(株)製、エポキシ価185g/eq.)に、平均粒子径130nmのシリカ粒子を分散させたエポキシモノマー分散シリカゾルをシリカ濃度30.5質量%となるよう調製した(モノマーゾル6)。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例1~10と同様の条件で、下記組成にて実施例11、12及び参考例1の硬化物を製造した。
【0058】
【表5】
【0059】
(沿面放電の測定)
上記と同様の沿面放電測定系装置を用い、実施例1,2,4,5,9,11,12及び比較例1,2及び参考例1の硬化物の沿面放電の発生を光電子増倍管9を用いて確認した。光電子増倍管9は、信号用9aと、ノイズ用9bとを用いた。
【0060】
【表6】
【0061】
試料条件、試料の比誘電率の測定結果、および沿面放電試験結果を表6に示した。シリカ微粒子の粒径が130nm以上の試料以外は放電発生確率が比較例1(シリカなし)に比べて低下し、放電発生電圧が増加することがわかる。また、放電発生確率が100%に到達する電圧も、粒径が130nm以上の試料以外は5~10kV上昇した。つまり、本提案の手法を用いることで、樹脂の比誘電率はほぼ不変あるいは増加するにも関わらず、樹脂表面の沿面放電の発生を抑制できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によって、固体絶縁材料の電界緩和や物理的な沿面距離増加を施さずとも、固体表面の沿面放電発生電圧を向上することができ、GIS(ガス絶縁開閉装置)の絶縁スペーサや油入り変圧器のプレスボード用コーティング樹脂等へ好適に利用されうる。
【符号の説明】
【0063】
1 試料
2 針電極
3 平板電極
4 試験容器
5 鉱油
6 インパルス電圧発生装置
7 分圧器
8 カメラ
9 光電子増倍管
9a 信号用
9b ノイズ用
図1