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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】アレイ型近接覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20221003BHJP
   H01H 35/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
G01C3/06 120R
H01H35/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019106937
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020201072
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(74)【代理人】
【識別番号】100200872
【弁理士】
【氏名又は名称】押谷 昌宗
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】石川 正俊
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 拓
(72)【発明者】
【氏名】下条 誠
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳祐
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-042733(JP,A)
【文献】特開昭62-165112(JP,A)
【文献】特開昭56-147006(JP,A)
【文献】特開平06-201844(JP,A)
【文献】特開2004-014448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
H01H 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ型近接覚センサであって、
基板部と、複数の受光素子と、複数の発光素子と、同期検波回路とを備え、
前記受光素子は、
その間に発光素子を2個以上配置可能な間隔で前記基板部上に列状に配置され、
外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成され、
前記発光素子は、
前記受光素子と列状配置で次に位置する前記受光素子との間に2個ずつ配置され、
互いに直交する第1変調信号及び第2変調信号を用いて発光可能に構成され、
前記同期検波回路は、
1個の前記受光素子が出力する前記光電流の特定成分の位相を検出可能に構成され、
ここで、前記特定成分とは、1個の前記受光素子に対して両側に2個ずつ位置する計4個の前記発光素子から照射され、且つ対象物を反射した合成反射光に起因する成分で、前記位相は、前記対象物までの距離の関数で表される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項2】
請求項1に記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記受光素子は、
前記基板部上の閉じていない1本の線状領域に配置され、
前記発光素子は、
前記線状領域の両端部にさらに2個ずつ配置される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項3】
請求項1に記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記受光素子は、
前記基板部上の1本の閉曲線領域に偶数個設けられる、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかにに記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記第1変調信号と前記第2変調信号は、
同一周波数で互いに90°の位相差を有する信号で、
前記発光素子は、
n番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第1変調信号で変調され、
(n+1)番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第2変調信号で変調される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項5】
請求項1に記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記基板部は、直行する2方向にそれぞれ配置された2つの線状領域群からなる2次元格子領域を有し、
前記線状領域群は同一方向に平行配置された線状領域から構成され、
前記受光素子は、
前記基板部の前記2次元格子領域の交点に配置され、
前記発光素子は、
前記2次元格子領域を構成する前記線状領域の両端部にはさらに2個ずつ配置される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項6】
請求項5に記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記第1変調信号と前記第2変調信号は、
同一周波数でかつ互いに90°の位相差を有する信号であり、
前記発光素子は、
前記線状領域群を、一方向の線状領域群をGA、及び前記線状領域群GAに直交する線状領域群をGBと定義すると、
前記線状領域群GAの中のm番目の前記線状領域では、
n番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第1変調信号で変調され、
(n+1)番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第2変調信号で変調され、
前記線状領域群GAの中の(m+1)番目の前記線状領域では、
n番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第2変調信号で変調され、
(n+1)番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第1変調信号で変調され、
前記線状領域群GBにおいては、
前記線状領域群GAで両隣の前記発光素子が第1変調信号で変調される前記受光素子の両隣の前記発光素子は第1変調信号で変調され、
前記線状領域群GAで両隣の前記発光素子が第2変調信号で変調される前記受光素子の両隣の前記発光素子は第2変調信号で変調される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項7】
請求項1~請求項3又は請求項5の何れか1つに記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
前記第1変調信号と前記第2変調信号は、
同一周波数で互いに90°の位相差を有する信号で、
前記受光素子を挟む位置に位置する2個の前記発光素子は、
一方の前記発光素子は前記第1変調信号で変調され、
他方の前記発光素子は前記第2変調信号で変調される、
アレイ型近接覚センサ。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか1つに記載のアレイ型近接覚センサにおいて、
受光素子カバーをさらに備え、
受光素子カバーはピンホールを有し、
前記受光素子は、
前記ピンホールを介して外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成される、
アレイ型近接覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ型近接覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
工業、商業、農業などの産業界、手術などの医療界、さらには家庭においてもロボットの活用が急激に進んでいる。その中で、対象物を把持する機能を有するロボットにおいて、寸法や形状さらには材質が異なる対象物との距離を広範囲かつ高精度に計測可能なロボットが求められている。
広範囲な計測範囲をもつ近接覚センサとして特許文献1が提案されている。特許文献1では複数の光センサを列状に並べた構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-85219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、個々の光センサは1個の発光素子と1個の受光素子で構成されている。その受光素子が受光する光(赤外線)の強度が対象物と近接覚センサとの距離に応じて変化する原理を利用して距離を計測している。しかしながら、一般に受光強度は距離のみの関数では無く、対象物の反射率や傾きによっても変化する。そのため、反射率に影響を与える表面の材料や、測定箇所の傾きに影響を与える形状や姿勢が未知である対象物との距離を正確に計測することが出来ないという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、反射率に影響を与える表面の材料や、測定箇所の傾きに影響を与える形状や姿勢が未知である対象物との距離を、広範囲かつ高精度で計測可能なアレイ型近接覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、アレイ型近接覚センサであって、基板部と、複数の受光素子と、複数の発光素子と、同期検波回路とを備え、前記受光素子は、その間に発光素子を2個以上配置可能な間隔で前記基板部上に列状に配置され、外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成され、前記発光素子は、前記受光素子と列状配置で次に位置する前記受光素子との間に2個ずつ配置され、互いに直交する第1変調信号及び第2変調信号を用いて発光可能に構成され、前記同期検波回路は、1個の前記受光素子が出力する前記光電流の特定成分の位相を検出可能に構成され、ここで、前記特定成分とは、1個の前記受光素子に対して両側に2個ずつ位置する計4個の前記発光素子から照射され、且つ対象物を反射した合成反射光に起因する成分で、前記位相は、前記対象物までの距離の関数で表される、アレイ型近接覚センサが提供される。
【0007】
本発明に係るアレイ型近接覚センサでは、列状に並んだ個々の受光素子の両側にそれぞれ2個の発光素子を配置することで、1個の受光素子の計測には4個の発光素子を活用し、また、1個の発光素子はその両側に位置する2個の受光素子での計測に活用することが可能となる。この構成のアレイ型近接覚センサは、反射率に影響を与える表面の材料や、測定箇所の傾きに影響を与える形状や姿勢が未知である対象物との距離を、広範囲かつ高精度で計測を実行することが出来るという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の部分斜視図。
図2】距離計測モードの原理を説明する図。
図3】アレイ型近接覚センサ100と2種類の変調信号の接続図。
図4】傾き計測モードの原理を説明する図。
図5】本実施形態に係る同期検波回路の回路図。
図6】第2実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の斜視図。
図7】第3実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
1.全体構成
第1章では、第1実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の概要を示す部分斜視図である。図1に示すとおり、本アレイ型近接覚センサ100は、基板部3の上に、発光素子11、12、13、14、15、16と、受光素子21、22を備える。ここでは個々の動作を区別しない発光素子は1X、受光素子は2Yと呼ぶこととする。第1実施形態では、全ての発光素子1Xと受光素子2Yが平面上である基板部3表面上の、図1中y軸方向に直線状である線状領域に配置されている。ここで、基板部3表面は曲面であっても良く、また発光素子1Xと受光素子2Yの配置は曲線状であっても構わない。図1中、アレイ型近接覚センサ100は右側に延伸しているものとしているが、全体の長さは制限されない。発光素子1Xは図中z軸方向に拡がりを持って発光し、受光素子2YはZ軸方向から来た光(外部光)で光電流を発生可能に構成される。
【0011】
発光素子1Xと受光素子2Yの並び方について説明する。図1中線状領域の左端には発光素子11、12の2個の発光素子1Xが配置される。それ以降、受光素子2Yが1個と発光素子1Xが2個の繰り返しとなっている。換言すると、受光素子2Yは、基板部3上の閉じていない1本の線状領域に、間に発光素子を2個以上配置可能な間隔で設けられ、外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成される。また、前記発光素子1Xは、線状領域の両端部には2個ずつ、前記受光素子2Yと列状配置で次に位置する前記受光素子2Yの間にも2個ずつ配置される。以下、各構成要素について更に説明する。
【0012】
<発光素子1X>
発光素子1Xは、拡がりをもつ光を照射する素子で、その周波数帯は特に限定されるものではないが、例えば赤外光や可視光が採用されうる。後述する様に本実施形態における発光素子1Xは、第1変調信号および第2変調信号で変調処理を行うため、応答速度が早い素子が望まれる。具体的には例えば発光ダイオード(LED)が好ましい。発光ダイオードはアノード側に電源のプラス側を接続することによって、電流が流れて特定周波数の光を照射するもので、流れる電流の強さ(ON/OFF制御含む)で発光強度を変調させることが可能である。個々の発光素子1Xに関する変調については後述する。
【0013】
<受光素子2Y>
受光素子2Yは、受光した光を検知する素子で、これを契機として光電流I_Lを発生する。例えば、光電管、光電子増倍管、半導体の内部光電効果を利用したフォトトランジスタ、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光導電セル、イメージセンサ等が挙げられる。好ましくは、センサ出力応答を高速化するために鋭い指向性を有するフォトダイオードが採用されうる。
【0014】
<基板部3>
基板部3は、アレイ型近接覚センサ100の筐体としての機能、及び発光素子1Xおよび受光素子2Yと電子回路との接続機能を有する。図1では発光素子1Xと受光素子2Yを配置する基板部3表面の線状領域のみを示しているが、基板部3全体の形状は任意である。また、基板部3を可撓性があるシート状とし、ロボット本体などの表面(曲面含む)にアレイ型近接覚センサ100を貼り付ける構造とすることも可能である。
<同期検波回路5>
同期検波回路5は、振幅変調やデジタル変調など、搬送波を持つ変調された信号を復調する回路であるが、本実施形態においては、受光素子2Yが外部光(所望の合成反射光と環境光とが混在)を受光して発生した光電流I_Lのうち、所望の合成反射光に係る特定成分(例えば1個の受光素子21においては、受光素子21の両側に位置する4個の発光素子11、12、13、14から照射されかつ対象物OBJにて拡散反射した合成反射光に起因する成分)の位相を検出する。特に、かかる位相が対象物OBJまでの距離の関数として表されることに留意されたい。同期検波回路5の構成の詳細については、第3章においてさらに詳述する。
【0015】
2.計測原理
第2章では、アレイ型近接覚センサ100の計測原理について説明する。アレイ型近接覚センサ100は、対象物OBJにおける物体面SFの光の反射率に依存せずに、対象物OBJまでの距離と、対象物OBJの反射点RPにおける傾き(姿勢)とを計測することができる。ここで、距離を計測する際の動作と傾きを計測する際の動作とが異なるため、それぞれの動作態様を「距離計測モード」及び「傾き計測モード」と定義する。すなわち、アレイ型近接覚センサ100は、距離計測モードと傾き計測モードとを切替可能に構成される。以下、距離計測モードと傾き計測モードとについて、それぞれ詳述する。
【0016】
2.1 距離計測モード
図2に1個の受光素子21に関する距離計測モードを説明する図を示す。受光素子21の距離計測には受光素子21の左側に2個配置された発光素子11、12及び右側に配置された2個の発光素子13、14を使用する。ここでは、受光素子21に近い位置に配置された発光素子12、13に第1変調信号SG1が、受光素子21から遠い位置に配置された発光素子11、14に第2変調信号SG2が、供給されている。この第1変調信号SG1と第2変調信号SG2は互いに直交している変調信号である点に留意されたい。ここでは、第1変調信号SG1として(1+sinωt)、第2変調信号SG2として90°の位相差を有する(1+cosωt)を供給した場合について数式を用いて説明する。
【0017】
受光素子21に流れる光電流I_Lは、発光素子11、12、13、14に照らされた対象物OBJにおける物体面SF上の反射点RPにおける拡散反射の放射照度に比例する。発光素子11、12、13、14は点光源に近似できるから、対象物OBJの物体面SFの反射点RPでの放射照度は光路の逆二乗に比例する。また、物体面SFは拡散反射であるため、放射照度は光の入射角の余弦と物体面SFの反射率αに比例する。したがって、光電流I_Lは[数1]で与えられる。
【数1】


ここで、cは放射照度から光電流I_Lへの変換係数であり、I_0とI_90はそれぞれ位相0度の信号(第1変調信号SG1)と90度の信号(第2変調信号SG2)による発光素子11、12、13、14の発光強度である。また、ωは発光素子11、12、13、14の発光周波数(変調周波数)、aは受光素子21と発光素子12、13との配置間隔、bは受光素子21と発光素子11、14の配置間隔、dは受光素子21および発光素子1Xと、対象物OBJにおける物体面SF上の反射点RPとの距離、δは物体面SFの傾き角度、θ_1及びθ_2は反射点RPに対する発光素子11、12、13、14の光の入射角である。光電流I_Lの時間変化はωを含む項が支配的であるから、光電流I_Lの時間変化は[数2]で与えられる。
【数2】

【0018】
ここで、Aは光電流I_L時間変化の振幅であり、位相φ(d)は[数3]で与えられる。
【数3】

【0019】
距離計測モードでの位相φ(d)は、物体面SFの反射率αと傾き角度δを含まないため、位相φ(d)を検出することで物体面SFの反射率と傾き角度に依存しない距離計測が可能となる。換言すると、受光素子21の両隣に位置する発光素子12と発光素子13は第1変調信号SG1で発光させ、その外側に位置する発光素子11と発光素子14を第2変調信号SG2で発光させることにより、対象物OBJまでの距離dを計測可能な距離計測モードとして動作する。
【0020】
図2では受光素子21上に受光素子カバー4を設けている。受光素子カバー4にはピンホールPHが開いており、反射点RPからの光はこのピンホールPHを通って受光素子21に到達することが出来るそれに対して受光素子21の距離計測の対象でない場所からの光は受光素子カバー4で遮られるため、光電流I_Lに含まれるノイズ成分が小さくなり、結果としてより高精度での距離計測が可能となる。
【0021】
以上は1個の受光素子21に関する4個の発光素子11、12、13、14の変調に関して説明したが、続いて受光素子2Yが複数個であるアレイ型近接覚センサ100である場合について説明する。図3に、2個の受光素子21、22を有するアレイ型近接覚センサ100の発光素子1Xに第1変調信号SG1と第2変調信号SG2を接続する様子を示す。第1変調信号SG1は発光素子12、13、16に供給され、第2変調信号SG2は発光素子11、14、15に供給されている。受光素子21および受光素子22の両側2個ずつの発光素子1Xに注目すると、受光素子21では、両隣の発光素子12、13に第1変調信号SG1が、その外側の発光素子11、14に第2変調信号SG2が供給されている。逆に受光素子22では、両隣の発光素子14、15に第2変調信号SG2が、その外側の発光素子13、16に第1変調信号SG1が供給されている。
【0022】
第1変調信号SG1と第2変調信号SG2を互いに位相差が90°である信号とした場合、受光素子22も、その両隣の発光素子とその外側の発光素子の位相差が90°であるという観点で受光素子21と同様であり、I_0とI_90の入れ替えのみで[数1]~[数3]の計算式をそのまま活用することが出来る。換言すると、本実施形態のアレイ型近接覚センサ100は、第1変調信号と前記第2変調信号は、同一周波数で互いに90°の位相差を有する信号で、発光素子は、n番目の受光素子21の両隣の前記発光素子12、13は第1変調信号SG1で変調され、(n+1)番目の受光素子22の両隣の発光素子14、15は前記第2変調信号SG2で変調される。
【0023】
図3において、発光素子13、14は受光素子21と受光素子22両方の距離計測に活用される点に留意されたい。そのため、1個の受光素子2Yの距離計測には4個の発光素子1Xを活用するが、隣接する受光素子21と受光素子22の間には発光素子を4個ではなく2個だけ配置できれば両方の受光素子を同時に距離計測に用いることが可能となる。そのため、複数の受光素子2Yは、間に発光素子1Xを2個配置可能な間隔を取れば充分であり、図3中y軸方向に高い密度で受光素子を配置し、結果y軸方向に高い分解能で対象物OBJとの距離を計測することが可能である。
【0024】
2.2 傾き計測モード
図4に1個の受光素子21に関する傾き計測モードを説明する図を示す。傾き計測モードでは、発光素子11を第1変調信号SG1(1+sinωt)によって発光させ、発光素子14を第2変調信号SG2(1+cosωt)によって発光させる。換言すると、第1変調信号と第2変調信号は、同一周波数で互いに90°の位相差を有する信号で、受光素子21を挟む位置に配置された2個の発光素子11、14は、一方の発光素子11は第1変調信号SG1で変調され、他方の発光素子14は第2変調信号で変調される。このとき、傾き計測モードでの光電流I_Lは[数4]で与えられる。
【数4】

【0025】
距離モードと同様に、光電流I_Lの時間変化はωを含む項が支配的であるから、光電流I_Lの時間変化は[数5]で与えられる。
【数5】

【0026】
ここで、Bは傾きモードでの光電流I_L時間変化の振幅であり、位相φ(δ,d)は[数6]で与えられる。
【数6】

【0027】
傾きモードでの位相φ(δ,d)は、物体面SFの反射率αを含まないから、物体面SFの反射率αに依存しない傾き計測が可能である。ただし、位相φ(δ,d)は距離dを含むため、距離モードでの計測値を基に位相φの補正を行い、傾き角度δを検出する。なお、ここでは発光素子11、14の2個を使用する場合を説明したが、発光素子11、14の代わりに発光素子12、13を用いても良いし、全ての発光素子11、12、13、14を用いても良い。全ての発光素子1Xを用いる場合では、発光素子11、12には第1変調信号SG1を、発光素子13、14には第2変調信号SG2を供給すれば良い。
【0028】
3.同期検波回路の構成
第3章では、図5を参照しながら同期検波回路5の構成について詳述する。同期検波回路5は、電流電圧変換アンプ51と、ハイパスフィルタ52と、ロックインアンプ53a、53bと、ローパスフィルタ54a、54bと、マイクロコントローラボード55とから構成される。
【0029】
まず、第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2が、2つの発光素子群1G1、1G2にそれぞれ入力される。発光素子群1G1、1G2の組合せはモードごとに異なるが、詳細は第1章及び第2章において説明した通りである。
【0030】
そして、発光素子群1G1、1G2を構成する各発光素子1Xから光が照射され、対象物OBJにおける物体面SFで反射して受光素子2Yがこれを受光する。これによって流れる光電流I_Lは、電流電圧変換アンプ51によって光電圧V_Lに変換されるとともにその低周波成分がハイパスフィルタ52によって除去される。
【0031】
続いて、かかる光電圧V_Lを、第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2を参照信号として、2位相式のロックインアンプ53a、53bに入力する。得られた出力に対してローパスフィルタ54a、54bによって高周波成分を除去し、マイクロコントローラボード55に入力して演算させることで、高精度に所望の位相φが検出される。
【0032】
このような構成によれば、個々の受光素子2Yにおいて一般的な距離センサの20倍以上の距離分解能を持ち、1ミリ秒以内で距離と傾きを計測することが可能である。本実施形態ではアレイ型近接覚センサ100は複数の受光素子2Yを有しているが同期検波回路5は受光素子2Yの個数分用意しても良いし、回路の一部は共有として時分割で処理することも可能である。
【0033】
4.変形例
アレイ型近接覚センサ100をさらに創意工夫してもよい。
【0034】
第1実施形態では、発光素子1Xと受光素子2Yが閉じていない1本の線状に配置されたアレイ型近接覚センサ100を説明したが、発光素子1Xと受光素子2Yを閉曲線上に配置することも可能である。第2実施形態として、発光素子1Xと受光素子2Yを円環状に配置したアレイ型近接覚センサ100の斜視図を図6に示す。ここで受光素子2Yは偶数個(21、22、23、24)設けられている点に留意されたい。各受光素子の間には発光素子1Xが2個ずつ配置された構成となっている。
【0035】
図6の様に受光素子2Yを偶数個配置し、第1変調信号SG1を発光素子11、14、15、18に供給し、第2変調信号SG2を発光素子12、13、16、17に供給すれば、全ての受光素子2Yに関して、両隣に位置する発光素子1Xとその外側に位置する発光素子1Xに異なる変調信号を供給することが出来る。したがって、第1実施形態と同様の手法で各受光素子2Yに関して距離計測を実行することが可能となる。
【0036】
換言すると、第2実施形態のアレイ型近接覚センサは、基板部3と、複数の発光素子1Xと、複数の受光素子2Yと、同期検波回路5とを備え、受光素子2Yは、基板部3上の1本の閉曲線領域に、間に発光素子1Xを2個以上配置可能な間隔で偶数個設けられ、外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成され、発光素子1Xは、受光素子と当該受光素子の両側に隣接する受光素子の間に2個ずつ配置され、互いに直交する第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2を用いて発光可能に構成される。
【0037】
さらなる変形例である第3実施形態として、2次元状に配置したアレイ型近接覚センサ100も構成可能である。図7に第3実施形態に係るアレイ型近接覚センサ100の部分斜視図を示す。図7に示す通り、基板部3上に、x軸方向に直線状に並んだ発光素子1Xと受光素子2Yの線状領域群(1次元アレイ群)と、それと直交するy軸方向に直線状に並んだ発光素子1Xと受光素子2Yの線状領域群(1次元アレイ群)により、2次元格子状のアレイを構成している。ここで、受光素子2Yはx軸方向の線状領域とy軸方向の線状領域の交点に配置されており、隣り合う2個の受光素子2Yの間には発光素子1Xが2個配置されている点に留意されたい。すなわち1本の線状領域における発光素子1Xおよび受光素子2Yの配置は第1章で説明した第1実施形態と同一である。
【0038】
また、図7から明らかな様に、2次元格子を構成する最小単位となる4個の受光素子21、22、23、24からなる四角形は、第2実施形態で説明した条件を満たしている。すなわち、受光素子2Yは1本の閉曲線領域である四角形に、間に発光素子1Xを2個以上配置可能な間隔で偶数個(4個)設けられ、外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成され、発光素子1Xは、受光素子2Yと当該受光素子2Yの両側に隣接する受光素子2Yの間に2個ずつ配置され、互いに直交する第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2を用いて発光可能に構成される。
【0039】
換言すると、第3実施形態は2次元のアレイ型近接覚センサであって、基板部3と、複数の発光素子1Xと、複数の受光素子2Yとを備え、基板部3は、直行する2方向にそれぞれ配置された2つの線状領域群からなる2次元格子領域を有し、その線状領域群は同一方向に平行配置された線状領域から構成され、受光素子2Yは基板部の2次元格子領域の交点に配置され、外部光を受光するとともに光電流を発生可能に構成され、発光素子1Xは、2次元格子領域を構成する線状領域の両端部には2個、受光素子2Yと、当該受光素子2Yから4方向に列状配置で次に位置する前記受光素子2Yの間にはそれぞれ2個ずつ配置され、互いに直交する第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2を用いて発光可能に構成される。
【0040】
第3実施形態では以下の通りに変調信号を供給すれば良い。ここでは簡単のため4個の受光素子21、22、23、24からなる四角形の辺に位置する発光素子11~18、及び受光素子22の外側に位置する発光素子1A、1B、1C、1Dについて説明する。図7において、第1変調信号SG1を発光素子11、14、15、18、1B、1Dに供給し、第2変調信号SG2を発光素子12、13、16、17、1A、1Cに供給する。説明は省略するが、受光素子22以外に関する四角形の外側の発光素子1Xにも同一規則で変調信号を供給すれば、全ての受光素子2Y(21、22、23、24)に関して、両隣に位置する発光素子1Xとその外側に位置する発光素子1Xに異なる変調信号を供給することが出来る。したがって、第1実施形態と同様の手法で各受光素子2Yに関して距離計測を実行することが可能となる。すなわち第1変調信号SG1を(1+sinωt)、第2変調信号SG2を(1+cosωt)と設定すると、第2章で説明した距離計測及び傾き計測の手法が適用できる。具体的には例えば、受光素子22に着目すると、発光素子11、12、1A、1Cの組み合わせで距離及びyz平面内の傾き、また発光素子14、13、1A、1Bの組み合わせで距離及びxz平面内の傾きを計測することが可能である。距離計測に関しては2組の発光素子1Xの組み合わせを両方活用することで精度を高めることが可能である。
【0041】
換言すると、図7に示す第3実施形態のアレイ型近接覚センサでは、第1変調信号SG1と前記第2変調信号SG2は、同一周波数でかつ互いに90°の位相差を有する信号であり、発光素子1Xは、線状領域群を一方向の線状領域群をGA、及びその線状領域群GAに直交する線状領域群をGBと定義すると、線状領域群GAの中のm番目の前記線状領域では、n番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は第1変調信号SG1で変調され、(n+1)番目の受光素子2Yの両隣の発光素子1Xは第2変調信号SG2で変調され、同一の線状領域群GAの中の(m+1)番目の線状領域では、n番目の前記受光素子の両隣の前記発光素子は前記第2変調信号SG2で変調され、(n+1)番目の受光素子2Yの両隣の発光素子1Xは第1変調信号SG1で変調され、線状領域群GBにおいては、線状領域群GAで両隣の発光素子1Xが第1変調信号SG1で変調される受光素子2Yの両隣の発光素子1Xは第1変調信号SG1で変調され、線状領域群GAで両隣の1X発光素子が第2変調信号SG2で変調される前記受光素子2Yの両隣の発光素子1Xは第2変調信号SG2で変調される。
【0042】
5.結言
以上のように、本実施形態によれば、反射率に影響を与える表面の材料や、測定箇所の傾きに影響を与える形状や姿勢が未知である対象物との距離を、広範囲かつ高精度で計測可能なアレイ型近接覚センサを実施することが出来る。
【0043】
すなわち、アレイ型近接覚センサ100であって、基板部3と、複数の受光素子2Yと、複数の発光素子1Xと、同期検波回路5とを備え、前記受光素子2Yは、その間に発光素子1Xを2個以上配置可能な間隔で前記基板部3上に列状に配置され、外部光を受光するとともに光電流I_Lを発生可能に構成され、前記発光素子1Xは、前記受光素子2Yおよび列状配置で次に位置する前記受光素子2Yの間に2個ずつ配置され、互いに直交する第1変調信号SG1及び第2変調信号SG2を用いて発光可能に構成され、前記同期検波回路5は、個々の前記受光素子2Yが出力する前記光電流I_Lの特定成分の位相を検出可能に構成され、ここで、前記特定成分とは、1個の前記受光素子2Y毎の両側に位置する計4個の前記発光素子1Yから照射され、且つ対象物OBJを反射した合成反射光に起因する成分で、前記位相は、前記対象物までの距離の関数で表される、アレイ型近接覚センサ100が提供される。
【0044】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
100 :アレイ型近接覚センサ
11 :発光素子
12 :発光素子
13 :発光素子
14 :発光素子
15 :発光素子
16 :発光素子
17 :発光素子
18 :発光素子
1A :発光素子
1B :発光素子
1C :発光素子
1D :発光素子
1X :発光素子
1G1 :発光素子群
1G2 :発光素子群
21 :受光素子
22 :受光素子
23 :受光素子
24 :受光素子
2Y :受光素子
3 :基板部
4 :受光素子カバー
PH :ピンホール
5 :同期検波回路
51 :電流電圧変換アンプ
52 :ハイパスフィルタ
53a :ロックインアンプ
53b :ロックインアンプ
54a :ローパスフィルタ
54b :ローパスフィルタ
55 :マイクロコントローラボード
SG1 :第1変調信号
SG2 :第2変調信号
OBJ :対象物
SF :物体面
RP :反射点
d :距離
α :反射率
δ :傾き角度
φ :位相
I_L :光電流
V_L :光電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7