(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】モード分岐デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20221021BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
G02B6/12 311
G02B6/125 301
(21)【出願番号】P 2019033764
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-034057(JP,A)
【文献】特開2013-257354(JP,A)
【文献】国際公開第2018/027267(WO,A1)
【文献】工藤未彩 et al.,WINC型3dBモードディバイダに基づく広帯域マッハ・ツェンダー型モード合分波器,電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集,2018年08月28日,C-3-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LP01モード及びLP11モードを伝搬可能な第1の導波路と、
LP01モードを伝搬可能な第2の導波路と、
前記第1の導波路及び前記第2の導波路が近接し、前記第2の導波路を伝搬するLP01モードと前記第1の導波路を伝搬するLP11モードとが結合する2つの結合部と、
前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路の屈折率を変化させる第1の屈折率制御部と、
前記2つの結合部の間に配置されている前記第2の導波路の屈折率を変化させる第2の屈折率制御部と、
を備え、
前記第2の導波路を伝搬するLP01モードを前記第1の導波路を伝搬するLP11モードに分岐し、前記第1の導波路においてLP01モード及びLP11モードを伝搬可能とするモード分岐デバイスであって、
前記2つの結合部の間に配置されてい
る前記第2の導波路
は、前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路よりも導波路長差
ΔL長く、
前記導波路長差
ΔLに対する、前記第2の導波路から出射されるLP01モードと前記第1の導波路から出射されるLP11モードのパワー比率で定められるモード分岐比率の周期性に基づいて、モード分岐比率に対応した前記導波路長差が設定され
、
前記第1の屈折率制御部は、前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路に熱を付与することで前記モード分岐比率を減少させ、
前記第2の屈折率制御部は、前記2つの結合部の間に配置されている前記第2の導波路に熱を付与することで前記モード分岐比率を増加させる、
モード分岐デバイス。
【請求項2】
前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路の長さをLとした場合に、前記導波路長差ΔLが、次式で定められていることを特徴とする、
請求項1に記載のモード分岐デバイス。
【数C1】
なお、変数の定義は以下の通りである。
m:任意の正の整数である。
β0:前記2つの結合部の間に配置されている前記第2の導波路のLP01モードの伝搬定数である。
β1:前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路のLP11モードの伝搬定数である。
L:前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路の長さである。
P3:前記第2の導波路から出射されるLP01モードと前記第1の導波路から出射されるLP11モードのパワー比率で定められる
前記モード分岐比率である。
κ:前記結合部における前記第2の導波路のLP01モードと前記第1の導波路のLP11モードのモード結合係数である。
Lc:前記結合部における平行導波路長である。
【請求項3】
前記mの値は、前記mがとりうる正の整数のうち、設定された波長帯に含まれる2以上の特定波長で求められた前記導波路長差ΔLの差分delta_ΔLが最小となるmの値である、
請求項2に記載のモード分岐デバイス。
【請求項4】
前記mの値は、2又は3である、
請求項2に記載のモード分岐デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2モード光ファイバを利用するモード多重伝送システムにおいて、LP01モードをLP11モードに分岐するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するためには、光ファイバに導波する光の密度を低減する必要があり、非特許文献1に示すように大コアファイバが検討されている。
【0003】
しかし、曲げ損失低減、単一モード動作領域の拡大、実効断面積の拡大は互いにトレードオフの関係にあり、所定の条件下における実効断面積の拡大量には限界があるという課題があった。そこで、伝送ファイバにマルチモードファイバを用い、伝搬する複数のモードを用いて並列伝送を行うモード多重伝送システムが、飛躍的な大容量化を実現する技術として検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
モード多重伝送システムにおいては、送信機から発せられる複数の信号を別々のモードとして光ファイバ中を伝搬させるため、モード合分波器が提案されている(例えば非特許文献3,4参照)。
【0005】
一方で、非特許文献5に記載の通り、モード変換を用いた3dBモード分岐デバイスなど、シングルモードファイバネットワーク・コンポーネントで行われているようなパワー分岐技術も検討されている。
【0006】
しかしながら、平行導波路構造を用いたモード変換及びモード分岐は、導波路が有する波長依存性により、限定された波長帯のみで3dB分岐を実現できない。非特許文献5に記載の通り、平行導波路部をテーパー化させることで波長依存性を低減する試みもなされているが、柔軟なモードの分岐を実現する為に、分岐比率が設定可能なモード分岐デバイスは未だ検討されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Matsui, et al., “Applicability of Photonic Crystal Fiber With Uniform Air-Hole Structure to High-Speed and Wide-Band Transmission Over Conventional Telecommunication Bands,” J. Lightwave Technol. 27, 5410-5416, 2009.
【文献】N. Hanzawa et al., “Demonstration of mode-division multiplexing transmission over 10 km two-mode fiber with mode coupler,” OFC2011, paper OWA4 (2011)
【文献】N.Hanzawa et al.,“Asymmetric parallel waveguide with mode conversion for mode and wavelength division multiplexing transmission”、OFC2012、OTu1l.4.
【文献】N. Hanzawa et al, “Mode multi/demultiplexing with parallel waveguide for mode division multiplexed transmission,” Opt. Express vol.22, pp. 29321-29330 (2014)
【文献】S. Ohta et al., “A Proposal of Mach-Zehnder Mode Multi/Demultiplexer for WDM/MDM Optical Transmission System,” OECC2017, paper s1620 (2017)
【文献】岡本勝就著「光導波路の基礎」、フォトニクスシリーズ、コロナ社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、平行導波路構造を用いたモード分岐デバイスにおいて、モード分岐比率を柔軟に設定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示のモード分岐デバイスは、
LP01モードを第1の導波路の第1ポート及び第2の導波路の第2ポートから入射し、
第2ポートから入射されたLP01モードを結合部において第1の導波路のLP11モードに結合させ、
第1の導波路の第3ポートからLP01モード及びLP11モードを出射するモード分岐デバイスにおいて、
2つの前記結合部と、
2つの前記結合部の間に配置されている第1及び第2の導波路に導波路長差ΔLを生じさせる遅延部と、を設ける。
この導波路長差ΔLを調整することで、第2ポートから入射されたLP01モードに対する第3ポートから出射されるLP11モードのモード分岐比率を所望の値に設定可能とする。
【0010】
具体的には、本開示のモード分岐デバイスは、
LP01モード及びLP11モードを伝搬可能な第1の導波路と、
LP01モードを伝搬可能な第2の導波路と、
前記第1の導波路及び前記第2の導波路が近接し、前記第2の導波路を伝搬するLP01モードと前記第1の導波路を伝搬するLP11モードとが結合する2つの結合部と、
を備え、
前記第2の導波路を伝搬するLP01モードを前記第1の導波路を伝搬するLP11モードに分岐し、前記第1の導波路においてLP01モード及びLP11モードを伝搬可能とするモード分岐デバイスであって、
前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路と前記第2の導波路とが導波路長差を有し、
前記導波路長差に対する、前記第2の導波路から出射されるLP01モードと前記第1の導波路から出射されるLP11モードのパワー比率で定められるモード分岐比率の周期性に基づいて、モード分岐比率に対応した前記導波路長差が設定されている。
【0011】
本開示のモード分岐デバイスでは、
前記第2の導波路は、前記第1の導波路よりも導波路長差ΔL長く、
前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路の長さをLとした場合に、前記導波路長差ΔLが、式(13)で定められていてもよい。
ここで、前記mの値は、前記mがとりうる正の整数のうち、設定された波長帯に含まれる2以上の特定波長で求められた前記導波路長差ΔLの差分delta_ΔLが最小となるmの値である。例えば、前記mの値は、2又は3である。
【0012】
本開示のモード分岐デバイスでは、前記2つの結合部の間に配置されている前記第1の導波路又は前記第2の導波路の少なくとも一方の屈折率を変化させ、前記導波路長差を可変にする屈折率制御部をさらに備えていてもよい。
【0013】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、平行導波路構造を用いたモード分岐デバイスにおいて、モード分岐比率を柔軟に設定可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】平行導波路を有する2モード合分波器の構成例である。
【
図4】本開示に係るモード分岐デバイスの構成例である。
【
図6】導波路長差ΔLに対する第3ポートからの出力光パワーの一例である。
【
図7】次数mに対して、P3=0.5を実現するためのΔLの計算例である。
【
図8】次数mに対して、波長1.55μmにおけるP3=0.5を実現するΔLとの差の計算結果の一例である。
【
図9】次数mに対して、波長1.55μmにおけるP3=0.1を実現するΔLとの差の計算結果の一例である。
【
図10】次数mに対して、波長1.55μmにおけるP3=0.9を実現するΔLとの差の計算結果の一例である。
【
図11】次数m=2におけるΔLとモード分岐比率の波長依存性の一例である。
【
図12】1.53μm、1.55μm、1.57μmにおけるdelta_ΔLの絶対値の和Σdelta_ΔLの一例である。
【
図13】第2の実施形態に係るモード分岐デバイスの構成例である。
【
図14】導波路101に熱を付与し、屈折率を変化させた時のモード分岐比率の変化の一例である。
【
図15】導波路102に熱を付与し、屈折率を変化させた時のモード分岐比率の変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
(実施形態1)
図1は、平行導波路を用いた2モード合分波器の構成を示している。ここでは、Si系材料を用いた、矩形の埋め込み型導波路を用いた平面光波回路型のモード合分波器を想定している。
【0018】
導波路101は、LP01及びLP11モードが伝搬する導波路であって、導波路102は、LP01モードが伝搬する導波路である。2つの導波路101及び102は、一部平行に近接している領域があり、その部分が結合部として機能する。結合部では、
図2に示すように、導波路101を伝搬するLP11モードの実効屈折率(n
eff)と導波路102を伝搬するLP01モードを伝搬する実効屈折率が一致するよう導波路幅w
1,w
2及び比屈折率差が調整されている。実効屈折率が一致することで、導波路が近接している領域でモード変換が発生し、導波路102を伝搬してきた光は導波路101にパワーが移行する。
【0019】
ここで、結合部の平行導波路長Lcを、導波路101にパワーが完全に移行するよう調整すると、第2ポートより入射した信号光は、導波路101のLP11モードとして第3ポートへ出力される。一般に、異なるLPモード間で実効屈折率を一致させるためには、導波路の構造が同一でない非対称平行導波路構造が必要となる。一方で、第1ポートから入射された光は、基本モードとして導波路101を伝搬し、導波路101のLP01モードと導波路102のLP01モードの実効屈折率が一致していないことから、結合部にてモード変換が発生せず、LP01モードとして第3ポートへ出力される。結果、第1及び第2ポートにLP01モードを入射することで、第3ポートにおいてLP01及びLP11モードの2モードが多重された信号を得ることができ、モード合波器としての機能を実現することができる(詳しい設計手法については非特許文献3を参照のこと)。
【0020】
また、モード多重されたLP01及びLP11モードの光を、第3ポートから入射することで、LP11モードを導波路102に分離し、LP01モードを第1ポート及び第2ポートから出射することができる。これにより、本開示は、モード合波器と同構造で、モード分波器として利用することができる。
【0021】
この時、結合部の平行導波路長Lcや平行導波路間隔gを調整することで、結合部におけるLP01モードとLP11モードの変換効率(モード分岐比率)を任意の値に設定することができる。この時、例えばモード分岐比率が0.5である時には、第1ポートから入射したLP11モードのパワーの半分が、LP11モードとして第3ポートに、LP01モードとして第4ポートに出力される。
【0022】
ただし、本構造では、
図3に示すように結合率の波長依存性が大きいため、特定の波長範囲で一定の分岐比率を実現することができない。
【0023】
図4に、本実施形態のモード分岐デバイスの構造を示す。本実施形態のモード分岐デバイスは、LP01モード及びLP11モードを伝搬可能な導波路101と、LP01モードを伝搬可能な導波路102と、導波路101の一方に配置されている第1ポートと、導波路102の一方に配置されている第2ポートと、導波路101の他方に配置されている第3ポートと、導波路102の一方に配置されている第4ポートと、導波路101及び導波路102が近接し、導波路102を伝搬するLP01モードと導波路101を伝搬するLP11モードとが結合する結合部103及び104と、を備える。
【0024】
本実施形態のモード分岐デバイスは、第1及び第2ポートからLP01モードが入射された場合、結合部103及び104において、導波路102を伝搬するLP01モードを導波路101を伝搬するLP11モードに分岐し、導波路101を伝搬するLP01モードを導波路102から分岐されたLP11モードと合波し、第3ポートからLP01モード及びLP11モードを出射する。
【0025】
本実施形態のモード分岐デバイスは、第3ポートからLP01モード及びLP11モードが入射された場合、導波路101を伝搬するLP11モードを、結合部103及び104において、導波路102を伝搬するLP01モードに分岐し、第1及び第2ポートからLP01モードを出射する。
【0026】
導波路101はLP01モード及びLP11モードが伝搬するよう導波路構造が設計されており、導波路102はLP01モードのみが伝搬するよう設計されている。導波路101及び導波路102が近接する結合部を2つ有する。本実施形態のモード分岐デバイスは、さらに結合部の間に遅延部が設けられている。導波路102に接続された遅延部の導波路長(L+ΔL)と導波路101に接続された遅延部の導波路長(L)とは、ΔLだけ異なっている。
【0027】
導波路の構造は
図5に示す通りであり、記載の設計パラメータで、結合部において導波路101のLP11モードの実効屈折率が、導波路102のLP01モードの実効屈折率と一致する。
【0028】
ここで、波長帯1.53μm~1.57μmにおいて、所望のモード分岐比を実現するモード分岐デバイスの構造について述べる。
【0029】
まず、結合部及び遅延部の伝達行列は、2導波路入力×2導波路出力の2×2行列で表すことができ、
【数1】
【数2】
とおける。ここで、κは結合部におけるLP01モードとLP11モードのモード結合係数、L
cは結合部における平行導波路長、β
0は導波路102のLP01モードの伝搬定数、β
1は導波路101のLP11モードの伝搬定数である。ここで、κ、β
0、β
1は、導波路構造及び導波路の屈折率分布がわかれば、導波モードを算出することで、容易に得ることができる(例えば、非特許文献6参照。)。
【0030】
ここで、第1~第4ポートから入力・出力される光パワーをP1~P4とすると、第1ポート及び第2ポートから光を入射したときの第3ポート及び第4ポートからの出力光パワーは
【数3】
から求めることができる。ここで、
【数4】
である。
【0031】
ここで、
【数5】
とすると、式(6)~式(8)となる。
【数6】
【数7】
【数8】
【0032】
P3について式を整理すると、
【数9】
【数10】
【数11】
となる。
【0033】
式(10)の左辺については、余弦関数であり、ΔLの変化に対して周期的に変化するため、式(10)を満たす解は複数存在し、
【数12】
とおける(mは整数)。±の符号によって、
【数13】
となるが、本実施形態では2つの結合部の間に配置されている導波路102が2つの結合部の間に配置されている導波路101よりも長い、プラス符号とする。
【0034】
図6は、波長1.53μm、1.55μm、1.57μmにおける、ΔLに対する光パワーP3の変化を計算したものである。
図6に示すように、光パワーP3は導波路長差ΔLに対して周期性を有する。光パワーP3は、導波路102から出射されるLP01モードと導波路101から出射されるLP11モードのパワー比率で定められるモード分岐比率に相当する。このため、導波路長差ΔLに対するモード分岐比率の周期性を用い、所望のモード分岐比率になるように導波路長差ΔLを設定することで、柔軟なモードの分岐を実現することができる。例えば、モード分岐比率を0.5にする場合、ΔLをおよそ0.2、0.5、1.2、1.6、1.9、2.2又は2.6周辺の値のいずれかに設定する。
【0035】
先ほど示した通り、結合部を用いたモード分岐については、波長依存性があり、計算した3波長で、光パワーP3の変化に差が生じていることがわかる。また、各波長で光パワーP3の変化の周期がわずかに異なっていることがわかる。この時、例えばP3=0.5となるΔLの最小値(m=0の場合)は、短波長側が長波長側に対して大きいことがわかる。
【0036】
図7は、次数mに対する光パワーP3=0.5を満たすΔLを計算したものであり、波長1.53μm、1.55μm、1.57μmでの計算結果を示している。構造条件については、
図5に記載の通りである。
【0037】
図6で示した通り、m=0の時は短波長の方がΔLが長くなる。一方で、
図7で示した通り、mの増加に対するΔLの増加量については、長波長側の方が大きいことがわかる。
【0038】
図8に、波長1.55μmでのΔLに対する差分delta_ΔLを計算したものを示す。先に述べたように、m=0では短波長側でΔLが大きく、mの増加に伴って短波長側のΔLの増加量が減少し、長波長側でΔLの増加量が増加するため、特定の次数mでdelta_ΔLが全ての波長で小さくなる。delta_ΔLが小さいということは、特定のΔLで同一のモード分岐比率を広波長域で実現できることを意味し、本設計においては、m=2~3が好適な範囲であることがわかる。
【0039】
図9は、P3=0.1、
図10はP3=0.9とした場合のdelta_ΔLを計算したものである。P3=0.5の計算結果と同様に、特定の次数mの時に3波長においてdelta_ΔLが小さくなり、ここでもm=2~3が好適な範囲であることがわかる。
【0040】
以上より、任意のP3に対して、特定の次数mにおいて、(本設計においてはm=2~3)とすることで、波長依存性の小さいモード分岐デバイスを実現することができる。
【0041】
これは、
図6からもわかるとおり、ΔL=1.234μm付近で、3波長帯のΔLに対するP3の変化量が同じとなっており、ΔL=1.234μm付近でΔLを調整することでP3=0~1の範囲の任意のモード分岐比率を実現することができる。
【0042】
例えば、
図11にΔLを1.128μm、1.188μm、1.234μm、1.284μm、1.347μmに変化させた時のモード分岐比率を示したものである。ΔLを所望の値に設計することで、1.53~1.57μmの範囲で一定のモード分岐比を実現することができる。
【0043】
図12は、各波長(1.53μm、1.55μm、1.57μm)におけるdelta_ΔLの絶対値の和Σdelta_ΔLを算出したものであり、値が小さい方が、モード分岐比率の波長依存性が小さいことを示している。本結果より、特定の次数mにおいて、Σdelta_ΔLが最小値となる。
【0044】
つまり、導波路101及び導波路102の構造に基づきβ
0、β
1、L、κを算出し、P3=0~1に対して、Σdelta_ΔLが最小値となるmを用いて、ΔLを設定することで、広波長域で一定のモード分岐比率を得ることができる。
【数14】
【0045】
なお、本実施形態では、2つの結合部の間に配置されている導波路102が2つの結合部の間に配置されている導波路101よりも長い例を示したが、本開示はこれに限定されない。例えば、2つの結合部の間に配置されている導波路101が2つの結合部の間に配置されている導波路102よりも長い場合、式(13)におけるマイナス符号に相当し、本実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0046】
また、本実施形態では
図5に示す導波路構造を用いたが、
図5に示す導波路構造は本開示の一例に過ぎず、式(1)が成立する任意の構造を採用しうる。例えば、κ及びL
Cの値はκL
Cが一定となる任意の組合せでありうる。また、導波路幅w
1,w
2、導波路の高さh、平行導波路間隔gは、、結合部において導波路102のLP01モードと導波路101のLP11モードとが結合する任意の値を用いることができる。
【0047】
(実施形態2)
図13に、本実施形態に係るモード分岐デバイスの構成の一例を示す。本実施形態に係るモード分岐デバイスは、遅延部の少なくとも一部の屈折率を可変する屈折率制御部105及び106を備える。
【0048】
実施形態1では、任意の光パワーP3に対してΔLを同一次数mで求められる値とすることで、広波長域で一定のモード分岐比率を実現できることを示した(例えばm=2とする)。ここで、遅延部における導波路長差ΔLを設ける本質的な意味は、2つの導波路を伝搬する光波に所望の位相差を与えることであり、例えば、同一(同一次数m)の構造であっても、遅延部に屈折率制御部105及び106を設けることで遅延部における屈折率を変化させ、実効的な光路長差を変化させることでモード分岐比率を可変とすることができるようになる。
【0049】
具体的には、遅延部における光波の伝搬遅延差が、導波路長と、導波路の屈折率に依存しており、実施形態1において述べたΔLの設計は、標準室温における導波路の屈折率を用いて算出したものであり、特定のΔLを有する構造においても、遅延部の導波路の屈折率を変化させることで実効的な光路長差を変化させ、分岐比を可変とすることができる。
【0050】
屈折率制御部105及び106は、遅延部に配置されている導波路の少なくとも一部の屈折率を可変するものであり、例えば、ヒータや電界の印加が例示できる。
【0051】
以下では、ΔLを一定としたまま、遅延部に熱を付与することで遅延部の屈折率を変化させ、モード分岐比率が動的に制御可能なデバイスについて説明する。
本実施形態ではSi導波路を仮定し、熱による屈折率変化は
【数21】
と表され、
【数22】
【数23】
である。
【0052】
図14及び
図15に、導波路101又は導波路102に熱を付与した場合のモード分岐比の変化を計算したものを示す。なお、熱を付与する前の導波路構造は、P3=0.5となるよう設計されている。
【0053】
導波路101に熱を付与した場合は、熱を与えることで分岐比は減少し、導波路102に熱を付与することで分岐比は増加することがわかる。このように、本実施形態は、屈折率制御部105及び106を備え、導波路が同一であっても、遅延部に熱を付与する機構を設けることで、単一のデバイスで任意のモード分岐比率を実現することができる。なお、本実施形態では、屈折率制御部105及び106が備わる例を示したが、本開示は屈折率制御部105及び106のいずれか一方を備える構成を含む。
【0054】
なお、本開示においてはSi系材料を用いた平面光波回路に関する実施形態を記載したが、その材料は当然ほかのものであってもかまわない。たとえば、ガラス系やInGaAsPなどの半導体、またポリマーなどの有機物を用いた平面光波回路であっても、本明細書記載の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
また、使用する波長帯に関しても、本明細書記載の実施形態では1.5~1.6μm程度としているが、より波長の長い中赤外領域(2μm以上)や可視光帯であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示は、広波長域(例えばC帯)でモードのパワーを分岐可能なモード分岐デバイスに関するものである。
【符号の説明】
【0057】
101、102:導波路
103、104:結合部
105、106:屈折率制御部