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特許7184135重合性s-トリアジン誘導体及びこれを用いた硬化性組成物、並びにこれらを用いた硬化物及び成形材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】重合性s-トリアジン誘導体及びこれを用いた硬化性組成物、並びにこれらを用いた硬化物及び成形材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/46 20060101AFI20221129BHJP
   C08F 38/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C07D251/46 A CSP
C08F38/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021149378
(22)【出願日】2021-09-14
(62)【分割の表示】P 2017053646の分割
【原出願日】2017-03-17
(65)【公開番号】P2022000438
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大石 好行
(72)【発明者】
【氏名】住谷 直子
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/038038(WO,A1)
【文献】米国特許第4442278(US,A)
【文献】特開昭62-109810(JP,A)
【文献】特開2012-036114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする、重合性s-トリアジン誘導体。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、少なくともいずれか一方が炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基であり、RとRは互いに結合して環を形成していてもよく、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基を表し、A及びBは、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を表し、mが2以上の場合にはAが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよく、nが2以上の場合にはBが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよい。)
【請求項2】
150℃以下の融点を有する請求項1に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項3】
融点と発熱開始温度との差が15℃以上である請求項1又は2に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項4】
前記一般式(1)中、R及びRが、水素原子である請求項1~3のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項5】
前記一般式(1)中、m及びnが、それぞれ独立して、0~2の整数である請求項1~4のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項6】
前記一般式(1)中、Rが、置換基を有していてもよいアリール基であり、Rが、水素原子又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である請求項1~5のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項7】
前記一般式(1)中、R及びRが、互いに結合して環を形成していてもよい、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である請求項1~5のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【請求項8】
前記一般式(1)が、下記一般式(1a)~(1c)よりなる群から選択される1種である
【化2】
【化3】
【化4】
請求項1~7のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
(一般式(1a)~(1c)中、R、R、R、R、A、B、m及びnは、前記一般式(1)で説明したものと同一である。)
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体を少なくとも含有することを特徴とする、硬化性組成物。
【請求項10】
溶媒を含まないことを特徴とする、請求項9に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の硬化性組成物を硬化してなることを特徴とする、硬化物。
【請求項12】
請求項11に記載の硬化物を少なくとも含有することを特徴とする、成形材料。
【請求項13】
請求項11に記載の硬化物を少なくとも含有することを特徴とする、構造材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造の重合性s-トリアジン誘導体及びこれを用いた硬化性組成物、並びにこれらを用いた硬化物及び成形材料等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層回路基板、高集積回路基板、フレキシブル回路基板、半導体プラスチックパッケージ用基板等の電気・電子機器材料においては、小型化、軽量化、及び高機能化等が進展し、これにともない、多層化、高密度化、薄型化、軽量化、信頼性、及び成形加工性等において、さらなる性能向上が求められている。
【0003】
また従来から、航空機器、工作機械、自転車や電気自動車、さらには鉄道車両や農業車両等の車両部品、工作機器、医療機器等の各種用途において、熱や活性エネルギー線によって硬化する硬化性組成物や硬化性樹脂組成物が用いられている。その代表例としては、エポキシ系樹脂が挙げられ、耐熱性、加工性、保存安定性等の観点から、現在もその改良が継続して実施されている。
【0004】
窒素原子を含む高耐熱性の有機材料として、ポリイミド系樹脂やポリアミド系樹脂が古くから知られている。例えば芳香族ポリイミドは、その優れた耐熱性、力学的特性、電気的性質等から、例えばパソコン、カメラ、携帯電話、スマートフォン等の情報機器端末のフレキシブル回路基板等、電子材料を中心に幅広く使用されている。その一方で、ポリイミドやポリアミドは、一般に不溶不融であったり、高温での流動性に乏しかったりする等、成形加工性に劣る傾向にあるため、フィルム形状以外の用途での取り扱いが難しい素材であった。
【0005】
また、電気・電子機器材料において使用されている代表的な樹脂として、シアネート系樹脂も挙げられる。シアネート系樹脂は、付加環化反応によってトリアジン環を形成する等して、熱硬化性樹脂として良好な耐熱性を有するのみならず、誘電率や誘電正接等の誘電特性にも優れているため、近年要求が高まっている高周波領域での絶縁層用途での開発が進んでいる。
【0006】
さらに、トリアジン環を含む樹脂として、メラミン系樹脂も古くから知られている。しかしながら、メラミン系樹脂は、熱変形温度が160℃程度であり、十分な耐熱性を有するものではなかった。
【0007】
一方、トリアジン環を含み重合性の三重結合が導入された高耐熱性の重合性化合物として、非特許文献1には、トリアジン誘導体とビスフェノールAから合成され、両末端に2-プロピニルオキシ基が導入された特定構造のオリゴマー等が開示されている。また、非特許文献2には、トリアジン誘導体とビスフェノールAから合成されたポリマーであって、トリアジン環に2-プロピニルオキシ基が導入された特定構造のポリマー等が開示されている。さらに、特許文献1には、トリアジンジクロリドとジアミン化合物から合成された、特定構造の芳香族ジアミン化合物等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-102259号公報
【0009】
【文献】Kinetika i Kataliz, Volume: 29, Issue: 2, Pages: 338-8, Journal, 1988
【文献】J. Polym. Sci. A-1: Polym. Chem. 7(11), 3089, 1969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、高耐熱性の重合性化合物について、種々の用途への適用が検討されている。
【0011】
一般に、重合性化合物を使用する場合には、完全硬化する前の状態において予め所望形状に成形加工(例えば、金型内への注入、型内への注型、射出成形、モールディング等)することが多い。そのため、完全硬化する前の状態で、適度な流動性を有するものが好適とされる。特に、常温で固体粉末状の重合性化合物(重合性低分子化合物、重合性高分子化合物、重合性樹脂等)の場合には、その融解温度(融点、ガラス転移点等)が低く、容易に融解できる(高流動状態となる)ものが求められている。
【0012】
一方で、上述した常温で固体粉末状の重合性化合物を加熱して溶融させ、予め所望形状に成形加工する場合、その成形加工中は硬化反応が十分に抑制されていることが必要となる。かかる観点から、上述した融解温度(融点、ガラス転移点等)が、その重合性化合物の硬化開始温度(本明細書では、発熱開始温度とみなす。)に対して、十分に低いことが求められる。
【0013】
さらに、常温で固体粉末状の重合性化合物は、常温で液状のものに比して、一般的に、取扱性に優れ、精製工程が簡便で且つ高純度で単離することが容易であり、保存安定性も確保し易い等、工業製造上の利点が多い。そのため、常温で固体粉末状の重合性化合物が求められている。
【0014】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、成形加工性及び保存安定性に優れる新規構造の重合性s-トリアジン誘導体及びこれを用いた硬化性組成物、並びにこれらを用いた耐熱性及び生産性に優れる硬化物及び成形材料等を提供することにある。
【0015】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の骨格を有するs-トリアジン誘導体を見出し、この新規構造のs-トリアジン誘導体を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1] 下記一般式(1)で表されることを特徴とする、重合性s-トリアジン誘導体。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよく、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基を表し、A及びBは、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を表し、mが2以上の場合にはAが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよく、nが2以上の場合にはBが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよい。)
【0018】
[2] 150℃以下の融点を有する[1]に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
[3] 融点と発熱開始温度との差が15℃以上である[1]又は[2]に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【0019】
[4] 前記一般式(1)中、R及びRが、水素原子である[1]~[3]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
[5] 前記一般式(1)中、m及びnが、それぞれ独立して、0~2の整数である[1]~[4]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
[6] 前記一般式(1)中、Rが、置換基を有していてもよいアリール基であり、Rが、水素原子又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である[1]~[5]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
[7] 前記一般式(1)中、R及びRが、互いに結合して環を形成していてもよい、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である[1]~[5]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【0020】
[8] 前記一般式(1)が、下記一般式(1a)~(1c)よりなる群から選択される1種である[1]~[7]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体。
【化2】
【化3】
【化4】
(一般式(1a)~(1c)中、R、R、R、R、A、B、m及びnは、前記一般式(1)で説明したものと同一である。)
【0021】
[9] [1]~[8]のいずれか一項に記載の重合性s-トリアジン誘導体を少なくとも含有することを特徴とする、硬化性組成物。
[10] [9]に記載の硬化性組成物を硬化してなることを特徴とする、硬化物。
[11] [10]に記載の硬化物を少なくとも含有することを特徴とする、成形材料。
[12] [10]に記載の硬化物を少なくとも含有することを特徴とする、構造材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、成形加工性及び保存安定性に優れる新規構造の重合性s-トリアジン誘導体を提供することができ、この新規構造の重合性s-トリアジン誘導体を用いることにより、成形加工性及び保存安定性に優れる硬化性組成物を提供することができる。また、これらを用いることにより、耐熱性及び生産性に優れる硬化物及び成形材料等を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0024】
[重合性s-トリアジン誘導体]
本実施形態の新機構造の重合性s-トリアジン誘導体は、下記一般式(1)で表されるものである。
【化5】
【0025】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基を表す。A及びBは、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状或いは分岐状のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を表し、mが2以上の場合にはAが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよく、nが2以上の場合にはBが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよい。
【0026】
及びRの炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数1~4の直鎖状或いは分岐状のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である。
【0027】
及びRの置換基を有していてもよいアリール基としては、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のナフチル基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。アリール基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~4の直鎖状或いは分岐状のアルキル基(具体例は上述したとおり)や炭素数1~3のアルコキシ基(具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)等の電子供与性の基、ハロゲン原子(具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子)やハロゲン化アルキル基等の電子吸引性の基が挙げられるが、これらに特に限定されない。ここで、置換アリール基が有する置換基の数は、特に限定されないが、1~4が好ましく、より好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1~2である。
【0028】
ここで、R及びRは互いに結合して環を形成していてもよく、その環構造の具体例としては、ピロリジン、2-メチルピロリジン、3-メチルピロリジン、2,4-ジメチルピロリジン、2-エチルピロリジン、3-エチルピロリジン、ピペリジン、2-メチルピペリジン、3-メチルピペリジン、4-メチルピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、2,4-ジメチルピペリジン、2-エチルピペリジン、3-エチルピペリジン、4-エチルピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の含窒素複素環が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0029】
及びRの炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数1~3の直鎖状或いは分岐状のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~2の直鎖状のアルキル基である。
【0030】
A及びBの炭素数1~8の直鎖状或いは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基、n-ヘプチル基、iso-ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、iso-オクチル基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数1~4の直鎖状或いは分岐状のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状或いは分岐状のアルキル基である。
【0031】
A及びBの炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、フェノキシ基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数1~4の直鎖状或いは分岐状のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状或いは分岐状のアルコキシ基である。
【0032】
A及びBのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0033】
m及びnは、それぞれ独立して、0~4の整数を表し、より好ましくは0~3の整数、さらに好ましくは0~2の整数である。ここで、mが2以上の場合にはAが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよく、また、nが2以上の場合にはBが置換しているベンゼン環と結合して縮合環を形成していてもよい。このときの縮合環構造の具体例としては、インデン環、ナフタレン環、インダン環、テトラリン環等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0034】
一般式(1)で表される特定構造の重合性s-トリアジン誘導体は、下記一般式(1a)~(1c)のいずれかであることが好ましい
【化6】
【化7】
【化8】
【0035】
一般式(1a)~(1c)中、R、R、R、R、A、B、m及びnは、前記一般式(1)で説明したものと同一であり、ここでの重複した説明は省略する。
【0036】
ここで、重合性や得られる硬化物の結晶性や耐熱性等の観点から、一般式(1)及び(1a)~(1c)中、R及びRは水素原子であることが好ましい。また、m及びnは、それぞれ独立して、0~2の整数であることが好ましい。
【0037】
また、分子間の凝集性を抑制するとともに、得られる硬化物の結晶性や耐熱性を向上させる等の観点から、一般式(1)及び(1a)~(1c)中、Rが置換基を有していてもよいアリール基であり、Rが水素原子又は炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基であるものが好ましい態様の1つとして挙げられる。同様に、分子間の凝集性を抑制するとともに、得られる硬化物の結晶性や耐熱性を向上させる等の観点から、一般式(1)及び(1a)~(1c)中、R及びRが、互いに結合して環を形成していてもよい、炭素数1~6の直鎖状或いは分岐状のアルキル基であるものも別の好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0038】
上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の具体例としては、以下のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、以下の具体例において、Xは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)又は炭素数1~6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、フェノキシ基等)を意味する。
【0039】
【化9】
【0040】
【化10】
【0041】
【化11】
【0042】
【化12】
【0043】
【化13】
【0044】
なお、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体は、上記一般式(1)におけるRの位置とRの位置とが非対称であってもよい。この場合、RとRの位置関係に特に制限はないが、例えば、以下の一般式(1d)~(1g)のいずれかで表される化合物が挙げられる。Rの位置とRの位置とを非対称とすることで、融点をさらに下げることができる可能性がある。一方、非対称な化合物を得るためには、合成工程が増えることから、その点では、上述のRの位置とRの位置とが対称な化合物の方が好ましい。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【0045】
一般式(1d)~(1g)中、R、R、R、R、A、B、m及びnは、前記一般式(1)で説明したものと同一であり、ここでの重複した説明は省略する。
【0046】
本発明における推定作用は、以下のとおりである。上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体は、1,3,5-トリアジン環の2,4,6位の炭素原子上に、第1の置換基として1つのアミノ基(-NR)と、第2の置換基として2つのエチニルフェノキシ骨格(-O-Ph-C≡CR、又は、-O-Ph-C≡CR)とが導入された、非対称な分子骨格を有する。かかる非対称な分子骨格を有することで、該重合性s-トリアジン誘導体は、分子内に芳香環或いは脂肪族環やアミノ基(-NR)を有していながらも、結晶性が適度に緩和されたものとなり、その融点を比較的に低く保ったまま比較的に高い耐熱性を発現する。さらに、1,3,5-トリアジンは、比較的に分子間の凝集性或いはスタッキング性が強い化合物であるところ、該重合性s-トリアジン誘導体においては、立体的に嵩高い置換基が導入されているため、分子間の凝集性或いはスタッキング性が緩和されたものとなっている。これらが相まった結果、該重合性s-トリアジン誘導体においては、融点と発熱開始温度との差が比較的に広く維持され、これにより成形加工性及び保存安定性が高められたものと推定され、該重合性s-トリアジン誘導体を用いた硬化物等においては、耐熱性及び生産性が高められたものと推定される。但し、作用はこれらに限定されない。
【0047】
上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の融点Tm(℃)は、特に限定されないが、発熱開始温度Ti(℃)との温度差ΔTを広く維持する観点から、150℃以下が好ましく、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは135℃以下である。なお、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体は、本発明の効果が得られる範囲において液状や半固体状であってもよく、融点の下限は、特に限定されないが、常温で固体(特に、粉末状)であることが好ましく、再結晶や懸濁、洗浄等による単離精製上の利便性から、通常は110℃程度が目安とされる。
【0048】
また、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体は、成形加工性及び保存安定性を高める観点から、発熱開始温度Ti(℃)と上述した融点Tm(℃)との差(以降において、「温度差ΔT」と称することがある。)が15℃以上であることが好ましく、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。なお、温度差ΔTの上限は、特に限定されないが、通常は50℃程度が目安とされる。
【0049】
上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の分子量は、特に限定されないが、300~1200が好ましく、より好ましくは310~1000であり、さらに好ましくは320~900である。
【0050】
以下、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の製造方法について説明する。該重合性s-トリアジン誘導体の合成方法は、特に限定されないが、例えば(a)シアヌル酸クロリド等のシアヌル酸ハライドを出発原料として、相間移動触媒又は塩基の存在下、アミン化合物と反応させて中間体Aを合成し、その後に、この中間体Aと重合性基を有するフェノール化合物とを反応させる方法、(b)シアヌル酸クロリド等のシアヌル酸ハライドを出発原料として、相間移動触媒又は塩基の存在下、重合性基を有するフェノール化合物と反応させて中間体Bを合成し、その後に、この中間体Bとアミン化合物とを反応させる方法、(c)シアヌル酸クロリド等のシアヌル酸ハライドを出発原料として、相間移動触媒又は塩基の存在下、重合性基を有するフェノール化合物と反応させて中間体Cを合成し、それを相間移動触媒又は塩基の存在下、重合性基を有するフェノール化合物と反応させて中間体Dを合成し、その後に、この中間体Dとアミン化合物とを反応させる方法、(d)シアヌル酸クロリド等のシアヌル酸ハライドを出発原料として、相間移動触媒又は塩基の存在下、アミン化合物と反応させて中間体Aを合成し、それを相間移動触媒又は塩基の存在下、重合性基を有するフェノール化合物と反応させて中間体Eを合成し、その後に、この中間体Eとアミン化合物とを反応させる方法等のルートで合成することができる。なお、以下に示すルートにおいて、Xは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)を意味する。また、R、R、R、R、A、B、m及びnは、前記一般式(1)で説明したものと同一であり、ここでの重複した説明は省略する。
【0051】
【化18】
【0052】
【化19】
【0053】
【化20】
【0054】
【化21】
【0055】
各反応における合成条件は、特に限定されず、常法にしたがい当業界で公知の条件下で行えばよい。例えば、溶媒中に塩基を存在させることで、副生する塩化水素を中和することができる。ここで用いる塩基としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-N-メチルピペリジン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルモルホリン、t-ブトキシリチウム、t-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。上記塩基の添加量は、特に限定されないが、出発物質(シアヌル酸ハライド、中間体A、中間体B)1当量に対して、0.1~100当量が好ましく、0.5~10当量がより好ましい。なお、これらの塩基は、水や後述する溶媒に溶解させてから加えてもよい。これらの塩基は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。
【0056】
また、上記の溶媒としては、原料に対して不活性なものであれば、その種類は特に限定されない。好ましい溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピペリドン、N,N-ジメチルエチレン尿素、N,N,N’,N’-テトラメチルマロン酸アミド、N-メチルカプロラクタム、N-アセチルピロリジン、N,N-ジエチルアセトアミド、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルプロピオン酸アミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルホルムアミド、N,N’-ジメチルプロピレン尿素等のアミド系溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。
【0057】
反応温度は、用いる試薬の種類や量、溶媒の種類、反応温度等によって異なるが、-20~100℃の温度範囲が好ましく、経済性を考慮すると-10℃~50℃の温度範囲がより好ましい。また、反応時間は、用いる試薬の種類や量、溶媒の種類、反応温度等によって異なるが、0.1~80時間が好ましく、経済性を考慮すると0.5~20時間がより好ましい。また、反応時の処理圧力は、減圧、加圧、常圧のいずれの条件下で実施することが可能である。なお、反応時の雰囲気は、特に限定されないが、通常は大気雰囲気下が好ましく、必要に応じて不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)雰囲気下でもよい。また、上記の反応ルートにおいて、各成分の配合順序は任意であり、各成分の添加は、滴下等によって徐々に加えても、全量一括して加えてもよい。
【0058】
また、相間移動触媒を用いる場合、その具体例としては、界面重縮合に用いることができる長鎖アルキル第四級アンモニウム塩やクラウンエーテル等が挙げられ、好ましい相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)やセチルトリメチルアンモニウムブロミド:CTMAB)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。上記相間移動触媒の添加量は、特に限定されないが、出発物質(シアヌル酸ハライド、中間体A、中間体B)1当量に対して、0.1~100当量が好ましく、0.5~10当量がより好ましい。なお、これらの相間移動触媒は水や後述する溶媒に溶解させて加えてもよい。これらの相間移動触媒は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。この反応系では、シアヌル酸クロリド等のシアヌル酸ハライドから発生するハロゲン化水素がエチニル基へ付加してしまう可能性がある。よって付加が起こる前に反応系外へ除去し、且つ塩基で捕捉して無害化することが重要である。例えば炭酸ナトリウム等の水溶性塩基を含む水と、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、酢酸エチル等の有機溶媒との二相系(界面重縮合)で行うと、発生するハロゲン化水素が直ちに水層へ移り塩基と中和させ除去できるので好ましい。なお、この二相系の反応に際しては、上述した塩基を添加して、-20℃~100℃で20~120時間行うのが好ましい。
【0059】
合成された反応生成物の単離精製は、常法にしたがって行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば再結晶、晶析、懸洗抽出、濃縮、水洗、脱水、ろ過、蒸留、留去、精留、クロマトグラフィー等の公知の手段により、単離精製することができる。
【0060】
以下、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の製造方法の代表例として、重合性s-トリアジン誘導体M1の合成フローを示す。
【化22】
【0061】
[硬化性組成物、硬化物、成形材料及び構造材料]
本実施形態の硬化性組成物は、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体を少なくとも含有するものである。ここで、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。本実施形態の硬化性組成物は、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体のみを含むものであっても、他の成分をさらに含むものであってもよい。他の成分としては、熱硬化性樹脂等の樹脂成分;エチレン性不飽和基含有化合物、架橋剤乃至硬化剤;熱硬化型触媒;熱重合開始剤、光重合開始剤等の重合開始剤;重合促進剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。
【0062】
また、本実施形態の硬化性組成物は、必要に応じ、当業界で公知の各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば溶剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃剤、難燃助剤、架橋助剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、分散剤、消泡剤、中和剤、熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)、防菌剤、防黴材、加工助剤、蛍光増白剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いことがきる。これら添加剤を用いる場合のその含有量は、特に限定されないが、本実施形態の硬化性組成物の総量に対して、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、また、5質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下である。
【0063】
本実施形態の硬化性組成物中、上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の含有割合は、用途及び所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体の含有割合は、本実施形態の硬化性組成物中、0.1~100質量%の範囲内であればよい。
【0064】
本実施形態の硬化性組成物の調製は、常法にしたがい行うことができ、その調製方法は特に限定されない。例えば上記一般式(1)で表される重合性s-トリアジン誘導体及び必要に応じて配合される他の成分(樹脂成分、架橋剤、開始剤、各種添加剤等)を混合することにより容易に得ることができる。
【0065】
本実施形態の硬化性組成物は、使用する他の成分の種類や配合処方によって条件は異なるが、例えば100~250℃、5分間~24時間加熱することにより、所望形状に応じた硬化物(成形材料、構造材料)とすることができる。なお、硬化方法としては、熱重合に限られず、例えば光重合、熱/光ハイブリッド重合とすることもできる。
【0066】
硬化物のガラス転移温度Tg(℃)は、特に限定されないが、より高い耐熱性及び成形加工性等を実現する観点から、260℃以上が好ましく、より好ましくは270℃以上である。なお、硬化物のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、通常は350℃程度が目安とされる。
【0067】
硬化物の熱分解温度(空気中5%重量減少温度)T5d(℃)は、特に限定されないが、より高い耐熱性及び成形加工性等を実現する観点から、300℃以上が好ましく、より好ましくは350℃以上であり、さらに好ましくは400℃以上ある。なお、硬化物の熱分解温度(空気中5%重量減少温度)T5dの上限は、特に限定されないが、通常は500℃程度が目安とされる。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0069】
なお、各物性の測定方法及び測定条件を、以下に示す。
H-NMR,13C-NMR]
H-NMR及び13C-NMRは、BRUKER社製AC400Pを用いて測定した。測定方法としては、得られた化合物は、重水素化クロロホルム又は重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、サンプル濃度10mg/mlでテトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質として測定を実施した。
【0070】
[赤外吸収スペクトル]
赤外吸収スペクトルは、日本分光社製フーリエ変換型赤外分光光度計JASCO FT/IR4200を用い、臭化カリウム錠剤法にて測定した。
【0071】
[融点]
重合性s-トリアジン誘導体の融点Tm(℃)は、日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC7000)測定で得られたDSC曲線の吸熱ピークトップの温度を、重合性s-トリアジン誘導体の融点とした。
【0072】
[熱分析]
重合性s-トリアジン誘導体の発熱開始温度Ti(℃)、並びに硬化物のガラス転移温度Tg(℃)及び熱分解温度(空気中5%重量減少温度)Td5(℃)は、日立ハイテクサイエンス製の示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA7220)、日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC7000)、及び日立ハイテクサイエンス製の熱機械的分析装置(TMA7100)を用いて測定した。
なお、TG/DTA測定においては、サンプル5~10mgを量り取り、空気気流又は窒素気流(300mL/分)中、10℃/分の昇温速度で室温から200℃までの加熱を行った。また、TMA測定においては、サンプル30mgを量り取り、空気気流又は窒素気流(200mL/分)中、10℃/分の昇温速度及び荷重100mNで、圧縮荷重法により測定した。
ここで、重合性s-トリアジン誘導体の発熱開始温度Tiは、得られたDSC曲線の発熱ピークのオンセット値とした。また、硬化物のガラス転移温度Tgは、得られたTMA曲線から外挿法により求めた。さらに、硬化物の熱分解温度Td5は、得られた空気中TG曲線において5%重量が減少した時点の温度とした。
【0073】
〈重合性s-トリアジン誘導体の合成〉
[実施例1]重合性s-トリアジン誘導体(M1)の合成
(1)中間体化合物(L1)の合成
【化23】
【0074】
撹拌子、塩化カルシウム管、滴下ロート、及び温度計を備えた三口フラスコにシアヌル酸クロリド27.73gとテトラヒドロフラン75mLとを投入して、室温で攪拌することで溶解液を得た。この溶解液を低温槽で0℃まで冷却し、アニリン13.85gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液をゆっくり滴下し、0℃のまま2時間撹拌した。その後、炭酸ナトリウム9.98gを蒸留水45mLに溶かした水溶液をゆっくりと滴下し、0℃のまま1時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応生成液を分液ロートに移し、飽和食塩水で3回洗浄し、その後に有機相を回収した。この有機相に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩攪拌して脱水した。その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらにエバポレーターでテトラヒドロフランを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物をトルエンとヘキサンの混合溶液で再結晶し、吸引濾過で回収した後、0.03mmHg、120℃で昇華精製することで、粉末状の白色固体を得た(収率59%)。
【0075】
得られた白色固体のH-NMR測定結果を以下に示す。この結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L1)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ(ppm)=7.18(t,1H,Ar-H),7.40(t,2H,Ar-H),7.60(d,2H,Ar-H),11.15(s,1H,N-H).
【0076】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M1)の合成
【化24】
【0077】
滴下ロートを備えたナスフラスコに上記で得られた中間体化合物(L1)4.96g、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.69g、クロロホルム50mLを投入し、0℃で攪拌することで溶解液を得た。この溶解液に、m-ヒドロキシフェニルアセチレン4.87gの1Mの水酸化ナトリウム水溶液41mLをゆっくりと滴下し、滴下終了後0℃で2時間、40℃で一晩撹拌した。
反応終了後、得られた反応生成液を分液ロートに移し、蒸留水で3回及び食塩水で3回洗浄し、その後に、三角フラスコに移した。次いで三角フラスコ内に無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩撹拌して脱水した。その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらにエバポレーターでクロロホルムを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物をメタノールと水の混合溶媒で再結晶し、80℃で減圧乾燥を行うことで、粉末状の白色固体を得た(収率51%)。
【0078】
得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMR、並びにIRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M1)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点Tmが128℃、発熱開始温度Tiが160℃であった。
【0079】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=3.12(s,2H,ethynyl-H),7.04(t,1H,p-Ar-H),7.23(m,4H,m-Ar-H),7.35(m,8H,o-Ar-H,p-Ar-H),7.45(s,1H,N-H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=78.3,82.7,120.3,122.7,122.8,123.6,124.3,125.5,125.8,129.0,129.6,129.8,137.3,166.2.
FT-IR[KBr(cm-1)]:3276(≡C-H),3203(N-H),1616(C=C),1567(C=N),1497(C=C).
【0080】
[実施例2]重合性s-トリアジン誘導体(M2)の合成
(1)中間体化合物(L2)の合成
【化25】
【0081】
アニリン13.85gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液に代えて、2,6-ジメチルアニリン18.02gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液を用いる以外は、実施例1の(1)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率27%)。
【0082】
得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L2)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=2.23(s,6H,CH),7.14(d,2H,m-Ar-H),7.20(m,1H,p-Ar-H),7.67(s,1H,NH).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=18.5,128.5,128.6,132.2,135.7,165.5,170.3,171.7.
【0083】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M2)の合成
【化26】
【0084】
中間体化合物(L1)に代えて、中間体化合物(L2)を用いる以外は、実施例1の(2)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率51%)。得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M2)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が132℃、発熱開始温度Tiが160℃であった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=2.22(s,6H,CH),3.08(d,2H,ethynyl-H),6.97(s,1H,N-H),6.88-7.36(m,11H,Ar-H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=18.7,77.9,78.2,82.8,82.9,122.5,122.8,123.1,123.4,125.3,125.5,127.9,128.4,129.1,129.4,129.7,133.4,136.0,151.5,151.6,168.2,172.0,172.6.
【0085】
[実施例3]重合性s-トリアジン誘導体(M3)の合成
(1)中間体化合物(L3)の合成
【化27】
【0086】
アニリン13.85gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液に代えて、ジメチルアミン6.72gのテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液を用いる以外は、実施例1の(1)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率45%)。
【0087】
得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L3)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=3.24(s,6H,CH).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=37.0,164.7,169.8.
【0088】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M3)の合成
【化28】
【0089】
中間体化合物(L1)に代えて、中間体化合物(L3)を用いる以外は、実施例1の(2)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率48%)。得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMR、並びにIRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M3)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が121℃、発熱開始温度Tiが151℃であった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=3.05(s,6H,CH),3.09(s,2H,ethynyl-H),7.15(t,1H,o-Ar-H),7.16(t,1H,o-Ar-H),7.28(s,1H,o-Ar-H),7.29(m,2H,m-Ar-H,p-Ar-H),7.32(m,2H,m-Ar-H,p-Ar-H),7.34(s,1H,o-Ar-H).
13C-NMR(100 MHz,CDCl):δ(ppm)=36.6,77.9,82.9,122.8,123.2,125.5,129.2,129.4,151.9,167.4,171.9.
FT-IR[KBr(cm-1)]:3292(≡C-H),1598(C=C),1525(C=N),1480(C=C).
【0090】
[実施例4]重合性s-トリアジン誘導体(M4)の合成
(1)中間体化合物(L4)の合成
【化29】
【0091】
アニリン13.85gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液に代えて、ピペリジン12.69gをテトラヒドロフラン40mLに溶かした溶液を用いる以外は、実施例1の(1)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率36%)。
【0092】
得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L4)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=1.62-1.74(m,6H,CH),3.82(ts,2H,N-CH).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=24.3,25.7,45.4,163.6,170.2.
【0093】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M4)の合成
【化30】
【0094】
中間体化合物(L1)に代えて、中間体化合物(L4)を用いる以外は、実施例1の(2)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率13%)。得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M4)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が122℃、発熱開始温度Tiが157℃であった。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ(ppm)=1.53-1.67(m,6H,-CH-),3.65(ts,4H,N-CH-C),7.15(td,2H,o-Ar-H),7.27-7.33(m,6H,o-Ar-H,m-Ar-H,p-Ar-H).
13C-NMR(100MHz,CDCl,ppm):δ(ppm)=24.6,25.7,77.9,82.9,122.8,123.2,125.5,129.2,129.3,151.9,166.2,172.0.
【0095】
[比較例1]重合性s-トリアジン誘導体(M5)の合成
(1)中間体化合物(L5)の合成
【化31】
【0096】
撹拌子、塩化カルシウム管、滴下ロート、及び温度計を備えた三口フラスコにシアヌル酸クロリド18.44g、TBAB1.614g、及びクロロホルム200mLを投入して、-5℃で攪拌することで溶解液を得た。その後、この溶解液に、フェノール9.384gの1Mの水酸化ナトリウム水溶液100mLをゆっくりと滴下し、滴下終了後-5℃のまま2時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応生成液を分液ロートに移し、蒸留水で3回洗浄し、その後に三角フラスコに移した。次いで三角フラスコ内に無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩撹拌して脱水した。その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらにエバポレーターでクロロホルムを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物をクロロホルムとヘキサンの混合溶媒で再結晶し、吸引濾過で回収した後、0.03mmHg、110℃で昇華精製することで、粉末状の白色固体を得た(収率45%)。
【0097】
得られた白色固体のH-NMRの測定結果を以下に示す。この結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L5)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=7.181(d,2H,o-Ar-H),7.347(t,1H,p-Ar-H),7.471(t,2H,m-Ar-H).
【0098】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M5)の合成
【化32】
【0099】
中間体化合物(L1)に代えて、中間体化合物(L5)を用いる以外は、実施例1の(2)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率20%)。得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMR、並びにIRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M5)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が161℃、発熱開始温度Tiが175℃であった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=3.11(s,2H,ethynyl-H),7.11(m,4H,o-Ar-H),7.23(m,3H,o-Ar-H,p-Ar-H),7.30(t,2H,o-Ar-H),7,35(m,4H,m-Ar-H,p-Ar-H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=78.4,82.6,121.4,122.3,123.6,125.1,126.3,129.6,129.6,130.1,151.3,151.6,173.6,173.8.
FT-IR[KBr(cm-1)]:3301(≡C-H),1595(C=C),1567(C=N),1481(C=C).
【0100】
[比較例2]重合性s-トリアジン誘導体(M6)の合成
(1)中間体化合物(L6)の合成
【化33】
【0101】
撹拌子、塩化カルシウム管、滴下ロート、及び温度計を備えた三口フラスコにシアヌル酸クロリド2.91g、テトラヒドロフラン10mLを投入し、0℃で攪拌することで溶解液を得た。その後、この溶解液に、p-エチニルアニリン3.78gのテトラヒドロフラン溶液100mLをゆっくりと滴下し、滴下終了後0℃のまま3時間撹拌した。その後、炭酸ナトリウム2.08gを蒸留水20mLに溶かした水溶液をゆっくりと滴下し、35℃に昇温し18時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応生成液を分液ロートに移し、飽和食塩水で3回洗浄し、その後に有機相を回収した。この有機相に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩攪拌して脱水した。その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらにエバポレーターでテトラヒドロフランを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物をクロロホルム単一溶媒で再結晶し、吸引濾過で回収した後、80℃で減圧乾燥を行うことで、粉末状の淡黄色固体を得た(収率36%)。
【0102】
得られた淡黄色固体のH-NMR及び13C-NMR、並びにIRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた淡黄色固体が、上記式で表される中間体化合物(L6)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ(ppm)=4.13(s,2H,ethynyl-H),7.46(d,4H,m-Ar-H),7.60(s,4H,o-Ar-H),10.51(s,2H,N-H).
13C-NMR(100MHz,DMSO-d):δ(ppm)=80.2,83.6,116.4,120.7,132.2,138.9,163.8,168.3.
FT-IR[KBr(cm-1)]:3362(≡C-H),3290(N-H),2360(C≡C),1614(C=C),1567(C=N),1508(C=C),834(C-Cl).
【0103】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M6)の合成
【化34】
【0104】
撹拌子、窒素導入管、滴下ロート、ジムロート、及び温度計を備えた三口フラスコに上記で得られた中間体化合物(L6)1.73g、TBAB0.497g、ベンゾニトリル20mLを投入し、室温で攪拌することで溶解液を得た。その後、この溶解液に、フェノール4.774gの1Mの水酸化ナトリウム水溶液5.1mLに溶解した水溶液をゆっくりと滴下し、滴下終了後40℃で一晩反応させた。
反応終了後、得られた反応生成液を分液ロートに移し、蒸留水で3回洗浄し、その後に有機相を回収した。この有機相に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩攪拌して脱水した。その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらに減圧蒸留によってベンゾニトリルを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物をクロロホルムとヘキサンの混合溶媒で再結晶し、吸引濾過で回収した後、60℃で減圧乾燥を行うことで、粉末状の淡黄色固体を得た(収率29%)。
【0105】
得られた淡黄色固体のH-NMR及び13C-NMR、並びにIRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた淡黄色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M6)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が192℃であった。なお、発熱開始温度Tiは、融解が直ちに発生したため測定できなかった。
H-NMR(400MHz,DMSO-d):δ(ppm)=4.08(s,2H,ethynyl-H),7.27(d,4H,m-Ar-H),7.32(m,3H,o-Ar-H,p-Ar-H),7.43(t,2H,m-Ar-H),7.66(t,4H,o-Ar-H),10.0(s,2H,N-H).
13C-NMR(100MHz,DMSO-d):δ(ppm)=79.9,83.7,115.4,119.9,122.1,125.5,129.6,132.0,139.9,152.2,165.0,170.7.
FT-IR[KBr(cm-1)]:3405(≡C-H),3272(N-H),2361(C≡C),1601(C=C),1570(C=N),1495(C=C),1191(Ph-O).
【0106】
[比較例3]重合性s-トリアジン誘導体(M7)の合成
(1)中間体化合物(L7)の合成
【化35】
【0107】
撹拌子、塩化カルシウム管、滴下ロート、及び温度計を備えた三口フラスコにシアヌル酸クロリド18.61gとテトラヒドロフラン200mLとを投入して、室温で攪拌することで溶解液を得た。この溶解液を低温槽で-10℃まで冷却し、フェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(1mol/L)100mLをゆっくり滴下し、そのまま2時間撹拌し、さらに室温で20時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応生成液からエバポレーターを用いてテトラヒドロフランを留去した。次いで、クロロホルムに溶解させた後に分液ロートに移し、蒸留水で水相が透明になるまで洗浄した後に有機相を回収した。この有機相に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩攪拌して脱水した。その後、その後、最終的に得られた液をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、さらにエバポレーターでクロロホルムを留去することで、粗生成物を得た。この粗生成物を0.02mmHg,100℃で昇華精製した後、ヘキサン単一溶液で再結晶を行い、吸引濾過で回収し、再度0.02mmHg,90℃で昇華精製することで、粉末状の白色固体を得た(収率42%)。
【0108】
得られた白色固体のH-NMR測定結果を以下に示す。この結果から、得られた白色固体が、上記式で表される中間体化合物(L7)であることが確認された。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=7.53(t,2H,m-Ar-H),7.63(t,1H,p-Ar-H),8.49(d,2H,o-Ar-H).
【0109】
(2)重合性s-トリアジン誘導体(M7)の合成
【化36】
【0110】
中間体化合物(L1)に代えて、中間体化合物(L7)を用いる以外は、実施例1の(2)と同様に行って、粉末状の白色固体を得た(収率40%)。得られた白色固体のH-NMR及び13C-NMRの測定結果を以下に示す。これらの結果から、得られた白色固体が、上記式で表される重合性s-トリアジン誘導体(M7)であることが確認された。また、DSC測定から得られた物性値は、融点が156℃、発熱開始温度Tiが168℃であった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=3.12(s,2H,ethynyl-H),7.22(td,2H,o-Ar-H),7.35-7.46(m,8H,o-Ar-H,m-Ar-H,p-Ar-H),7.56(t,1H,p-Ar-H),8.30(s,2H,o-Ar-H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)=78.4,82.6,122.5,123.6,125.2,128.7,129.3,129.5,129.9,133.5,134.3,151.5,172.7,176.1.
【0111】
〈硬化物の作製〉
[作製例1]
実施例1で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M1)をアルミ製の容器に入れ、融点付近で1時間加熱したのち段階的に240℃まで昇温し、そのまま2時間加熱を行うことで、作製例1の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が293℃、空気中5%重量減少温度が426℃であった。
【0112】
[作製例2]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて実施例2で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M2)を用いる以外は、作製例1と同様に行い、作製例2の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が288℃、空気中5%重量減少温度が416℃であった。
【0113】
[作製例3]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて実施例3で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M3)を用いる以外は、作製例1と同様に行い、作製例3の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が273℃、空気中5%重量減少温度が415℃であった。
【0114】
[作製例4]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて実施例4で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M4)を用いる以外は、作製例1と同様に行い、作製例4の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が311℃、空気中5%重量減少温度が415℃であった。
【0115】
[比較作製例1]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて比較例1で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M5)を用いる以外は、作製例1と同様に行い、比較作製例1の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が256℃、空気中5%重量減少温度が421℃であった。
【0116】
[比較作製例2]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて比較例2で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M6)を用いる以外は、作製例1と同様に行った。しかしながら、融解とともに熱硬化が進行し、良好な熱硬化物が得られなかった。
【0117】
[比較作製例3]
重合性s-トリアジン誘導体(M1)に代えて比較例3で合成した重合性s-トリアジン誘導体(M7)を用いる以外は、作製例1と同様に行い、比較作製例3の硬化物を得た。この硬化物の物性値は、ガラス転移温度が276℃、空気中5%重量減少温度が422℃であった。
【0118】
表1に、実施例及び比較例の重合性s-トリアジン誘導体及びその硬化物の各種物性を示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の新規構造の重合性s-トリアジン誘導体及びこれを用いた硬化性組成物は、成形加工性及び保存安定性に優れ、これを用いることで耐熱性及び生産性に優れる硬化物及び成形材料等を容易に実現可能である。そのため、これらの諸性能が要求される各種分野、例えば電気・電子機器、航空機器、工作機械、車両部品、土木・建材部品、スポーツ用品、工業用部品、家電部品、医療用部品、工作機器、医療機器等において、広く且つ有効に利用可能である。とりわけ、上述した諸性能が同時に求められるような苛酷な使用環境に曝される用途、例えば多層回路基板、高集積回路基板、フレキシブル回路基板、半導体プラスチックパッケージ用基板等の電気・電子機器材料として、殊に有効に利用可能である。