(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】アンテナシステム
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/23 20060101AFI20221214BHJP
H01Q 15/08 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01Q15/23
H01Q15/08
(21)【出願番号】P 2019160505
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 大誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
(72)【発明者】
【氏名】日景 隆
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-135284(JP,A)
【文献】特表2005-504475(JP,A)
【文献】特開2004-159372(JP,A)
【文献】特表2006-504374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0270623(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/00- 3/46
H01Q 15/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状の電波源であって自身の法線方向に電波を放射する電波源と、
前記電波源
に対して平行かつ略同一の位置に配置され、前記電波源の電波を反射する
平板状の背面反射板と、
前記背面反射板に対して
平行かつ前記電波源を挟んだ反対側に配置された平板状の複数の誘電体板と、
を備え、
前記背面反射板と前記誘電体板それぞれとの前記
電波源の法線方向の間隔を第1種間隔と
した場合、前記複数の前記第1種間隔のうち少なくとも1つの第1種間隔が他の第1種間隔と異なり
、
前記電波源が放射する電波の波長をλ、前記電波源の中心を通り前記電波源の法線に平行である中心基準軸からの角度をθ、pを1以上P以下の整数、Pを1以上の整数として、前記誘電体板のうち、第0誘電体板が前記電波源の中心から-θ
0
<θ<θ
0
の位置に配置され、第p誘電体板が前記電波源の中心からθ
p-1
<θ<θ
p
の位置に配置されている場合、前記第0誘電体板の前記第1種間隔S1
0
及び前記第p誘電体板の前記第1種間隔S1
p
は、それぞれS1
0
=λ/2及びS1
p
=λ/{2cos(θ)}で表される、
アンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルサイネージ、パブリックビューイング又はeスポーツ(e-sports)等の大容量のデータ通信を必要とする技術の普及により、4k/8k映像やAR(Augmented Reality)データやVR(Virtual Reality)データなどの大容量ストリーム転送のニーズが顕在化している。また、ビッグデータを用いたAI(Artificial Intelligence)解析の普及や車の自動運転の普及により、地図データ・映像データ・センサデータなどのストレージデータの大容量データ転送のニーズも顕在化している。そしてそれに伴い、このような技術を利用する端末が、サイネージディスプレイやビューイングディスプレイなどの固定端末だけでなく、スマートフォンやタブレットなどのユーザ端末や車や列車などの移動体などが備える移動端末にまで広がっている。そこで、これらの端末に対しても大容量転送を提供可能な大容量高速無線通信の実現が望まれている。
【0003】
このような大容量高速無線通信を実現する通信としては、5GやWiGig(Wireless Gigabit)などで利用されている準ミリ波帯やミリ波帯などの高周波数帯の電波を利用した無線通信が有望である。例えばWiGigで利用されている60GHz帯を活用した無線通信では多くの国で約9GHzの広い帯域の電波を利用可能である。そのため、WiGigで利用されている60GHz帯の電波を利用した無線通信は、1シンボル当たりの情報量が少なく、低CNR (Carrier-to-Noise Ratio)環境下で動作するBPSK(Binary Phase Shift Keying)やQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の変調方式を用いても1Gbps以上のギガビットワイヤレスを達成できる。このため、WiGigで利用されている60GHz帯の電波を利用した無線通信は、見通しさえ確保できれば安定したギガビットワイヤレス転送が可能である。このように、高周波数帯の電波を利用した無線通信は、大容量高速無線通信を実現する通信として有望である。
【0004】
しかしながら、高周波数帯の電波を利用した無線通信は電波伝搬損失が大きい。さらに高周波数帯の電波を利用した無線通信は、広帯域信号伝送により受信感度点が高い。そのため、高周波数帯の電波を利用した無線通信で長距離伝送をするためには、アンテナの狭ビーム化が必要である。アンテナの狭ビーム化により電波の伝搬方向の放射電波エネルギーが高まり、システム利得が向上し、長距離伝送が実現される。
【0005】
さらに、高周波数帯の電波を利用した無線通信では、自装置又は通信相手の無線機が移動する場合には、受信側の無線機を電波の放射範囲(以下「ビーム範囲」という。)内に維持する必要がある。そのため、このような場合には、狭ビーム化された状態にある電波の放射方向であるビーム方向を相手の無線機に位置に応じて自動追従する機能が必要である。このような狭ビーム化された状態にある電波の伝搬方向を変化させることをビームステアリングという。そこで以下、ビーム方向を相手の無線局に位置に応じて自動追従する機能を、ビームステアリング機能、という。また以下、このような自装置に対して相対的に移動する通信相手との間の無線通信を移動通信という。このように、高周波数帯の電波を利用した無線通信において長距離伝送と移動通信とを実現するためには、アンテナの狭ビーム化だけでなくアンテナがビームステアリング機能を備えることが必須である。
【0006】
ここまで通信相手が自装置に対して相対的に移動する場合を例にビームステアリング機能の有用性を説明してきたが、ビームステアリング機能は、通信相手が自装置に対して相対的に移動しない固定無線通信においても有用である。なぜなら、ビームステアリング機能があれば、通信相手の無線機の方向にアンテナ向きを物理的に向ける調整をする必要が無く、固定無線通信においてアンテナ設置運用を効率化することができるからである。
【0007】
このように、高周波数帯で通信する市販の無線機の一部は、長距離伝送を実現するため、又は、長距離伝送と移動通信とを実現するために、ビームステアリング機能を有する。例えば、高周波数帯で通信する市販の無線機である60GHz帯で通信する無線機は、指向性を持った高利得アンテナを備え、IEEE802.11adのビームステアリングプロトコルを活用したビームステアリング機能を有している。このようなビームステアリング機能は、60GHz帯の通信を行う無線機に限らず高周波数帯で長距離伝送と移動通信とを実現する無線機には一般的に装備されている機能である。
【0008】
ところで、このような無線機を活用して、さらなる長距離伝送を行うことが望まれており、無線機の装備するアンテナのアンテナ性能のうちアンテナ利得をさらに向上させることが検討されている。また、所定の領域内に通信端末を多数配置する端末多数収容や並列伝送等の高密度に設置された無線機を用いる技術では、互いの無線機が干渉しないことが望まれる。そのため、無線機が備えるアンテナのアンテナビーム幅の狭ビーム化や、アンテナサイドローブの軽減化が検討されている。アンテナビーム幅及びアンテナサイドローブはアンテナ性能を表す指標のひとつである。
【0009】
マイクロ波帯のような低周波数帯の電波を利用した無線通信を行う無線機では、アンテナが取り外せるタイプのものが多い。このような無線機では性能の向上のために、アンテナを取り換えることでアンテナ性能を向上させることが容易である。一方、60GHz帯に代表される高周波数帯の電波を利用した無線通信ではアンテナの取り換えが容易ではなく、そのため、アンテナ性能の向上が難しい。その理由は以下の通りである。60GHz帯に代表される高周波数帯の電波を利用した無線通信ではケーブル損失が大きい。そのため、ケーブルとアンテナとが接合する箇所における損失を最小限にするために、両者が一体に構成されている場合が多い。以下、このように、両者が一体に構成された無線機をアンテナ一体型無線モジュールという。アンテナ一体型無線モジュールは、ビームステアリング機能を備えるものも多い。このように損失を減らすためにケーブルとアンテナとが一体に構成されているため、アンテナ一体型無線モジュールは、アンテナの取り外しができない。そのため、アンテナ性能をさらに向上させるためには、アンテナ一体型無線モジュールの外側に別のアンテナを被せる必要がある。
【0010】
このような被せるアンテナの代表的なものとして集光レンズがある。集光レンズは眼鏡と同様の原理で、レンズの焦点から放射させられた電波を一方向に集約する効果を奏する。そのため、アンテナ一体型無線モジュールの外側に集光レンズを被せることで、アンテナの高利得化、ビーム幅の狭ビーム化、サイドローブの軽減化のいずれも期待できる。
しかしながら、集光レンズは電波の入射角度に寄らずに一方向に電波を放射するため、アンテナ一体型無線モジュールがビーム方向を変えてもこの集光レンズからは一方向にしか電波が放射されない。そのため、集光レンズはアンテナ一体型無線モジュールのアンテナ性能を向上させることはできるが、ビームステアリング性能を維持することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Juha Ala-Laurinaho, et al., “2-D Beam-Steerable Integrated Lens Antenna System for 5G E-Band Access and Backhaul” IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES, VOL. 64, NO. 7, JULY 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような集光レンズを使用してビームステアリングを実現する方法としては、非特許文献1に記載のように、レンズの焦点距離上に位置する平面内におけるアンテナ素子の位置を変える方法が提案されている。しかしながら、提案されている方法では、固定無線通信には有効であるが移動通信には有効ではない。また、提案されている方法は、たとえ固定無線通信であっても、アンテナの設置者にアンテナの向きを通信相手の向きに調整する手間を要する。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、無線通信において伝搬方向が特定の方向に制御された状態にある電波である狭ビームの伝搬方向を狭ビームの状態を維持しながら変化させる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、電波を放射する電波源と、前記電波源が電波を放射する放射方向を法線方向とする平面であって、前記電波源を含む平面に位置し前記電波源の電波を反射する背面反射板と、前記背面反射板に対して放射方向側に位置し前記背面反射板に平行な平板状の複数の誘電体板と、を備え、前記背面反射板と前記誘電体板それぞれとの前記放射方向の間隔を第1種間隔とし、隣り合う2つの前記誘電体板の前記放射方向の間隔を第2種間隔とした場合、前記複数の前記第1種間隔のうち少なくとも1つの第1種間隔が他の第1種間隔と異なり、複数の前記第2種間隔のうち少なくとも1つは、前記少なくとも1つの第1種間隔と異なる、アンテナシステムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高周波数帯の無線通信であっても伝搬方向が特定の方向に制御された状態にある電波である狭ビームの伝搬方向を狭ビームの状態を維持しながら変化させる技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のアンテナシステムの構成の一例を示す図。
【
図2】実施形態のアンテナシステムの断面の一例を示す図。
【
図3】第1の実施形態のアンテナシステムが奏する効果を説明するためのアンテナシステムの等価モデルの一例を示す図。
【
図4】実施形態のアンテナシステムにおいて電波源から放射角θの方向に放射された放射電波の伝搬の様子を説明する説明図。
【
図5】実施形態の仮想波源及び仮想電波を説明する説明図。
【
図6】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図。
【
図7】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図。
【
図8】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図。
【
図9】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図。
【
図10】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図。
【
図11】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図。
【
図12】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第7の図。
【
図13】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第8の図。
【
図14】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第9の図。
【
図15】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第10の図。
【
図16】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第11の図。
【
図17】実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第12の図。
【
図18】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図。
【
図19】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図。
【
図20】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図。
【
図21】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図。
【
図22】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図。
【
図23】実施形態のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図。
【
図24】変形例のアンテナシステムの機能構成の一例を示す図。
【
図25】変形例におけるシミュレーションの対象のアンテナシステムの構成の一例を示す図。
【
図26】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図。
【
図27】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図。
【
図28】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図。
【
図29】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図。
【
図30】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図。
【
図31】変形例のシミュレーション対象のアンテナシステムに対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
図1は実施形態のアンテナシステム100の構成の一例を示す図である。アンテナシステム100は、高周波数帯の電波の伝搬モードとして複数の方向に狭ビーム伝搬モードを有し、伝搬モードが狭ビーム伝搬モードである高周波数帯の電波を放射する。本実施形態における高周波数帯の電波は、10GHz~300GHzの電波である。本実施形態における高周波数帯の電波は、例えば、準ミリ波又はミリ波の電波である。狭ビーム伝搬モードは、電波の伝搬モードであって伝搬方向に垂直な面における光電力が所定の電力以上である面積(以下「モードエリア」という。)が所定の面積よりも小さい伝搬モードである。以下、狭ビーム伝搬モードの電波を狭ビームという。狭ビームは、モードエリアが所定の面積よりも小さい伝搬モードの電波であるため、伝搬方向が特定の方向に制御された状態にある電波である。
【0018】
以下、アンテナシステム100の構成の詳細と、アンテナシステム100が複数の方向に狭ビーム伝搬モードを有する理由とを説明する。アンテナシステム100は、電波源1と、背面反射板2と、誘電体板集合3とを備える。
【0019】
電波源1は、電波を放射するアンテナ素子を同一平面(以下「基準平面」という。)内に複数備える2次元平面状のフェーズドアレーアンテナであって平板に略同一の形状である。
図1において基準平面はXY面に平行な面である。電波源1は、基準平面を挟む2つの空間のうち一方の空間に電波を放射する。より具体的には、電波源1は、基準軸方向の正方向に位置する空間に電波を放射する。基準軸方向は、基準軸の方向である。基準軸は、基準平面に垂直な軸である。
図1において基準軸はZ軸方向に平行である。基準軸方向の正方向に位置する空間は、誘電体板集合3が位置する空間(以下「正空間」という。)である。正空間は、例えば、電波源1のブロードサイド方向に位置する空間である。電波源1が、基準軸から角度θの方向に放射する電波は、電波源1と、背面反射板2と、誘電体板集合3とによって角度θの方向に形成される伝搬モードの電波である。以下、電波源1から電波が放射される方向を示す角度であって基準軸からの角度θを放射角θという。アンテナ素子は、例えば、マイクロストリップアンテナ(パッチ素子)である。以下、電波源1が放射する電波を放射電波という。
【0020】
背面反射板2は、基準平面に平行であって、基準平面との距離が放射電波の自由空間内の波長に比べて無視できるほど短い位置に位置する。無視できるほどとは、比較対象に対する比が略0であることを意味する。例えば、背面反射板2は基準平面内に位置してもよい。以下、簡単のため背面反射板2が基準平面内に位置する場合を例にアンテナシステム100を説明する。背面反射板2は、放射電波を反射する。背面反射板2は、反射率が所定の反射率よりも高いものであればどのようなものであってもよい。背面反射板2は、例えば、放射電波に対する透過率が0%に略同一であり、反射率が100%に略同一であることが望ましい。以下、説明の簡単のため背面反射板2の反射率は100%であると仮定する。背面反射板2は、例えば、伝導体である。
【0021】
誘電体板集合3は、背面反射板2に対して放射方向側に位置する。誘電体板集合3は、複数の誘電体板31を備える。誘電体板31は、基準平面に平行な平板状の誘電体である。誘電体板31の厚みは放射電波の誘電体板内の波長に比べて無視できるほど薄い。誘電体板31は、反射率が背面反射板2よりは低い反射率であって、透過率が背面反射板2よりも高い。複数の誘電体板31は、少なくとも1つの第1種間隔S1が他の第1種間隔S1と異なる距離であって、かつ、少なくとも1つの第2種間隔S2が少なくとも1つの第1種間隔S1と異なるように位置する。第1種間隔S1は、背面反射板2と誘電体板31との間の高さ方向の間隔である。高さ方向は、基準軸に平行な方向である。誘電体板集合3が備える複数の誘電体板31を背面反射板2に近い順に誘電体板31-1、誘電体板31-2、・・・、誘電体板31-N(Nは整数)とした場合、第1種間隔S1の一例は背面反射板2と誘電体板31-1との間の高さ方向の距離である。第2種間隔S2は、高さ方向の隣り合う誘電体板31同士の高さ方向の間隔である。すなわち、第2種間隔S2は誘電体板31-nと誘電体板31-(n+1)との間の高さ方向の距離(nは1以上N未満の整数)である。全ての第2種間隔S2は必ずしも同一でなくてもよい。例えば、誘電体板31-1と誘電体板31-2との間の間隔と、誘電体板31-2と誘電体板31-3との間の間隔とは異なってもよい。以下、複数の誘電体板31は、少なくとも1つの第1種間隔S1が他の第1種間隔S1と異なる距離であって、かつ、少なくとも1つの第2種間隔S2が少なくとも1つの第1種間隔S1と異なるように位置するという条件を位置条件という。
【0022】
図2は、実施形態のアンテナシステム100の断面の一例を示す図である。
電波源1は、誘電体層11及びパッチ素子12を備える。誘電体層11は、基準平面に平行な平板状の誘電体である。誘電体層11の厚さは、誘電体層11内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い厚さである。誘電体層11は、放射電波との相互作用の強さが0に略同一である。
【0023】
パッチ素子12は、アンテナ素子であって、誘電体層11の基準平面に平行な面の一方の面上に位置する。パッチ素子12の高さ方向の厚さは、パッチ素子12内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い厚さである。パッチ素子12は、放射電波を正空間に向けて放射する。
【0024】
以下、
図3~
図5を用いてアンテナシステム100が奏する効果を説明する。
図3は、実施形態のアンテナシステム100が奏する効果を説明するためのアンテナシステム100の等価モデルの一例を示す図である。以下、アンテナシステム100が奏する効果を説明するためのアンテナシステム100の等価モデルをシステム等価モデルという。
【0025】
まず、システム等価モデルにおける電波源1について説明する。上述したように、誘電体層11及びパッチ素子12の厚さは、自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い。このことは、アンテナシステム100における電波の解析にあたって、電波源1の大きさは無視してもよいことを意味する。このため、システム等価モデルにおいて電波源1の等価モデルは、
図3に示すように大きさのない点として表される。なお、等価モデルにおいて、電波源1の等価モデルは電波源1の位置と同じ位置に位置する。
【0026】
次に、システム等価モデルにおける背面反射板2について説明する。システム等価モデルにおける背面反射板2は、基準平面と同一の空間に位置する平面であって入射した放射電波を100%反射する平面として表される。
【0027】
システム等価モデルでは、電波源1から放射される電波を直線波で近似する。この近似は、電波が狭ビームであってビーム幅と誘電体板31とが交わる面積が所定の面積よりも小さい場合には妥当な近似である。なお、所定の面積は、例えば、波長以下という条件である。
【0028】
次に、
図4及び
図5によって、実施形態のアンテナシステム100が狭ビーム伝搬モードを有することを説明する。なお、
図4においては、簡単のため、放射電波の伝搬の様子をいくつかのステップに分けて、ステップごとに説明するが、実際の物理現象においては、全てのステップが略同一の時間内に起きる。
【0029】
図4は、実施形態のアンテナシステム100において電波源1から放射角θの方向に放射された放射電波の伝搬の様子を説明する説明図である。より具体的には、
図4は、背面反射板2の方向から誘電体板31-1に入射する放射電波の伝搬の様子を説明する。
【0030】
電波源1が放射角θの方向に向けて放射電波を放射する。以下、説明の簡単のため、電波源1が放射電波を放射した時点を時点t
Gという。電波源1が放射した放射電波は、電波源1から見て放射角θ方向の最も近い位置に位置する誘電体板31(以下「最近接誘電体板」という。)の地点P0に入射する。地点P0に入射した時点を時点t0とすると、時点t
Gから時点t0までの間に放射電波が伝搬した距離は(S1/cos(θ))である。アンテナシステム100においては、最近接誘電体板は、誘電体板31-1である。最近接誘電体板の地点P0に入射した放射電波の一部は、反射される。最近接誘電体板の地点P0において反射された放射電波は、背面反射板2に入射する。背面反射板2に入射した放射電波は、反射される。背面反射板2によって反射された放射電波は、最近接誘電体板に再度入射する。地点P1は、
図4において、放射電波が再度、最近接誘電体板に入射する地点である。以下、放射電波が最近接誘電体板に2回目に入射した時点を時点t1という。時点t
Gから時点t1までの間に放射電波が伝搬した距離は(S1/cos(θ))の3倍の距離である。Sは最近接誘電体板と透過導体板との間の距離である。
【0031】
ここまで、放射電波が最近接誘電体板によって1回反射される場合について説明してきたが、m回反射される場合についても、同様である。
具体的には、放射電波が最近接誘電体板によってm回反射される場合、このような放射電波が時点tGから時点tmまでの間に伝搬する距離は、(m×2×S1)+S1=(2m+1)S1である。なお、mは0以上M未満の整数であって、Mは2以上の整数である。tmは、最近接誘電体板によってm回反射する放射電波が(m+1)回目に最近接誘電体板に到達する時点である。以下、放射電波が(m+1)回目に入射した最近接誘電体板の地点を地点Pmという。
【0032】
最近接誘電体板に入射した放射電波の一部は、最近接誘電体板を透過する。以下、放射角θで放射された放射電波のうち時点tmに最近接誘電体板を透過する放射電波を透過電波Rmという。透過電波Rmの出射方向は、高さ方向からの角度が角度Φの方向である。以下、角度Φを透過角Φという。角度θと角度Φとはスネルの法則の関係を満たす。
【0033】
ここで
図5を用いて仮想波源及び仮想電波という概念について説明する。
図5は、実施形態の仮想波源及び仮想電波を説明する説明図である。仮想波源は、背面反射板2から基準軸方向の負方向に距離S1の(2m)倍の距離だけ離れた位置に位置する仮想的な波源であって、基準軸方向の正方向に向けて仮想電波を放射する仮想的な波源である。基準軸方向の負方向は、基準軸に平行な方向であって、基準平面から見て基準平面を挟む2つの空間のうち正空間ではない空間が位置する方向である。仮想電波は、放射電波と同じ周波数を有し、時点t
Gにおける位相が放射電波と同じ位相であって、最近接誘電体板及び背面反射板2によって反射及び吸収されない仮想的な電波である。仮想波源及び仮想電波は、実体があるものではなく、アンテナシステム100における放射電波の複雑な多重反射が奏する効果を説明するための仮想的な概念である。以下、背面反射板2から基準軸負方向に距離((2m)×S1)だけ離れた位置に位置する仮想波源を第m仮想波源という。以下、第m仮想波源が放射する仮想電波を第m仮想電波という。第m仮想波源の基準軸に垂直な方向の位置は、電波源1の基準軸に垂直な方向の位置に略同一である。
図5は、仮想波源の一例として第1仮想波源1´-1と第2仮想波源1´-2とを示す。
【0034】
電波源1から地点Pmへ到達する実際の放射電波と第m仮想電波とは、同じ周波数であり、時点tGにおいて同じ位相であり、時点tGから時点tmまでの伝搬距離が同じであり、地点Pmに同じ方向から入射する。そのため、時点tmにおいて地点Pmに位置する放射電波の周波数、位相及び波数ベクトルは第m仮想電波に同一である。
【0035】
ここで、透過電波R0~透過電波RMについて説明する。透過電波Rmは、時点tmにおいて地点Pmから透過角Φの方向に放射される電波である。そのため、距離Dmと距離Dhとの差である経路差D(h、m)は、以下の式(1)で表される。距離Dmは、時点tmに最近接誘電体を透過する放射電波が時点tGから時点Tまでに伝搬する距離である。距離Dhは、時点thに最近接誘電体を透過する放射電波が時点tGから時点Tまでに伝搬する距離である。なお、hは、mより大きくM以下の整数である。なお、時点Tは時点th以降の任意の時点である。
【0036】
【0037】
経路差D(h、m)が放射波長λの整数倍に等しいという条件(以下「位相整合条件)という。)が満たされる場合、透過電波Rhと透過電波Rmとは伝搬方向に垂直な面における位相が同相である。そのため、位相整合条件が満たされる場合には透過電波Rhと透過電波Rmとは強め合う。
【0038】
時点tGに放射角θで放射された放射電波の任意の2つの透過電波Rmが位相整合条件を満たす場合、時点tGに放射角θで放射された放射電波の全ての透過電波Rmが互いに位相整合条件を満たす。すなわち、時点tGに放射角θで放射された放射電波の全ての透過電波Rmの伝搬方向に垂直な面(以下「電磁場面」という。)における位相は全て同相である。そのため、時点tGに放射角θで放射された放射電波の全ての透過電波Rmは強め合い、狭ビームを形成する。このことは、背面反射板2と最近接誘電体板とが狭ビーム伝搬モード生成条件を満たすように位置する場合、アンテナシステム100は波長λの電波の伝搬モードの1つに放射角θの方向の狭ビーム伝搬モードを有することを意味する。狭ビーム伝搬モード生成条件は、時点tGに放射角θで放射された波長λの放射電波の任意の2つの透過電波Rmが位相整合条件を満たすという条件である。
【0039】
このように、背面反射板2と最近接誘電体板とによる狭ビーム伝搬モードの形成方法は、複数の仮想波源によって説明可能なため、仮想的なアレーアンテナを作り出し狭ビームモードを形成する方法と見なすことができる。
【0040】
ここまで、簡単のため最近接誘電体板と反射率が100%の背面反射板2とによって生じる狭ビーム化について説明した。しかしながら、
図3~
図5を用いたアンテナシステム100の説明は、背面反射板2の反射率が100%であることと無関係に成り立つ説明である。そのため、
図3~
図5を用いたアンテナシステム100の説明は、背面反射板2の反射率が100%ない場合についても同様である。
図3~
図5を用いたアンテナシステム100の説明が背面反射板2の反射率が100%であることと無関係に成り立つ説明であることから次のことが言える。すなわち、
図3~
図5を用いたアンテナシステム100の説明は、以下の置き換えを行った説明においても成り立つ。置き換えは、背面反射板2を誘電体板31-nに置き換え、最近接誘電体板を誘電体板31-(n+1)に置き換え、距離S1を距離S2に置き換え、放射角θを誘電体板31-nに入射する電波の入射角θ´に置き換える置き換えである。
【0041】
このように、アンテナシステム100は、高さ方向の隣接する2つの誘電体板によっても狭ビーム伝搬モードを形成することができる。そのため、アンテナシステム100は、複数の誘電体板31が位置条件を満たすように位置する場合に、複数の放射角θの方向に対して狭ビーム伝搬モードを有する。例えば、第1種間隔S1がH1であって、第2種間隔S2のひとつがH2であって、他の第2種間隔S2がH3であって、H1、H2及びH3がそれぞれ異なる場合には、アンテナシステム100は3つ放射角θにおいて狭ビーム伝搬モードを有する。
【0042】
ここで、角度θ及び角度Φの値に具体的な値を代入したいくつかの例で位相整合条件を説明する。
例の1つ目は、θ=Φが満たされる場合である。式(1)におけるΦにθを代入した式は、以下の式(2)である。
【0043】
【0044】
さらに、距離S1=(λ/2)(すなわち、距離S1が波長の半分に等しい)場合には、式(2)は以下の式(3)に式変形される。
【0045】
【0046】
さらに、角度θが略0°である場合には、式(3)は以下の式(4)に式変形される。
【0047】
【0048】
このように、放射角θが略0°であって、放射角θと透過角Φとが同一であって、距離S1が半波長に等しい場合には、位相整合条件が満たされる。
【0049】
例の2つ目は、θ=Φ=30°の場合である。式(3)におけるθに30°を代入した式は、以下の式(5)である。
【0050】
【0051】
式(5)は、経路差D(h、m)が放射波長λの整数倍に等しくないことを示す。すなわち、θ=Φ=30°である場合には、位相整合条件が満たされない。そのため、θ=Φ=30°を満たすアンテナシステム100は、θ=30°の方向には、狭ビーム伝搬モードを有さない。
【0052】
ここで、波長λと距離S1との関係についてさらに説明する。
式(2)よりΦ=0°の場合において、位相整合条件を満たす波長λと距離S1との関係は、以下の式(6)で表される。
【0053】
【0054】
θ=30°の場合、式(6)よりS1は以下の式(7)で表される。
【0055】
【0056】
ここで、
図6~
図11と、
図12~
図17とを用いて、第1の実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す。
【0057】
図6~
図10は、距離S1が半波長の長さに同一である場合の部分システムに対するシミュレーション結果の一例である。部分システムは、電波源1、誘電体板31及び最近接誘電体板とだけを含む系である。シミュテーションは、電波源1からの指向性ビームの電波が角度θ方向へ放射された場合について、透過角Φの直線波のみを用いるレートレース法による近似の元に行われた。
図6~
図11の横軸は、透過角Φを示す。
図6~
図11の縦軸は、透過電波R
0、透過電波R
1、・・・、透過電波R
Mの合成波の電力を電波源1が放射する電力によって正規化した値を示す。シミュレーションでは、さらに第1設定条件の下で行われた。第1設定条件は、誘電体板の透過率は(-10)dBという条件を含む。第1設定条件は、誘電体板の反射率は(-0.46)dBという条件を含む。第1設定条件は、背面反射板2は入射してきた電波を全反射する(すなわち反射係数1)という条件を含む。第1設定条件は、透過電波R
Mの電力は透過電波R
0の電力に比べて(-20)dB以内であるという条件を含む。
【0058】
図6は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図である。
図6は、放射角θ=0°の場合のシミュレーション結果である。
図6は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=0°にピークが現れることを示す。これは、透過電波R
0、透過電波R
1、・・・、透過電波R
Mが位相整合条件を満たし大きな利得を生じているからである。
【0059】
図7は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図である。
図7は、放射角θ=10°の場合のシミュレーション結果である。
図7は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=5°にピークが現れることを示す。
【0060】
図8は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図である。
図8は、放射角θ=20°の場合のシミュレーション結果である。
図8は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=10°にピークが現れることを示す。
【0061】
図9は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図である。
図9は、放射角θ=30°の場合のシミュレーション結果である。
図9は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=16°にピークが現れることを示す。
【0062】
図10は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図である。
図10は、放射角θ=40°の場合のシミュレーション結果である。
図10は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=21°にピークが現れることを示す。
【0063】
図11は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図である。
図11は、放射角θ=50°の場合のシミュレーション結果である。
図11は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=26°にピークが現れることを示す。
【0064】
図6~
図11の結果は、距離S1が半波長の長さに同一である場合には、放射角θが略0°の場合にピークが現れる放射角θと透過角Φとが略同一であることを示す。
【0065】
図12~
図17は、距離S1と波長λとが式(7)の関係を満たす場合の部分システムに対するシミュレーション結果の一例である。シミュテーションは、電波源1からの指向性ビームの電波が角度θ方向へ放射された場合について、透過角Φの直線波のみを用いるレートレース法による近似の元に行われた。
図12~
図17の横軸は、透過角Φを示す。
図12~
図17の縦軸は、透過電波R
0、透過電波R
1、・・・、透過電波R
Mの合成波の電力を電波源1が放射する電力によって正規化した値を示す。さらに、シミュレーションは、
図6~
図11のシミュレーション結果を出力したシミュレーションと同一の第1設定条件の下で行われた。
【0066】
図12は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第7の図である。
図12は、放射角θ=0°の場合のシミュレーション結果である。
図12は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=0°にピークが現れることを示す。これは、透過電波R
0、透過電波R
1、・・・、透過電波R
Mが位相整合条件を満たし大きな利得を生じているからである。
【0067】
図13は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第8の図である。
図13は、放射角θ=10°の場合のシミュレーション結果である。
図13は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=58°にピークが現れることを示す。
【0068】
図14は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第9の図である。
図14は、放射角θ=20°の場合のシミュレーション結果である。
図14は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=33°にピークが現れることを示す。
【0069】
図15は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第10の図である。
図15は、放射角θ=30°の場合のシミュレーション結果である。
図15は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=30°にピークが現れることを示す。
【0070】
図16は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第11の図である。
図16は、放射角θ=40°の場合のシミュレーション結果である。
図16は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=32°にピークが現れることを示す。
【0071】
図17は、実施形態の部分システムに対するシミュレーション結果の一例を示す第12の図である。
図17は、放射角θ=50°の場合のシミュレーション結果である。
図17は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=35°にピークが現れることを示す。
【0072】
図12~
図17の結果は、距離S1と波長λとが式(7)で表される関係を満たす場合には、放射角θが略30°の場合にピークが現れる放射角θと透過角Φとが略同一であることを示す。以下、ピークが現れる放射角θと透過角θとが略同一であるという条件を角度同一条件という。また、
図12~
図17の結果は、各ピークの利得が12dB以上であることを示している。このことは、ピークが示す電波は狭ビーム伝搬モードの電波であることを示す。
【0073】
また、
図12~
図17は、距離S1と波長λとが式(7)で表される関係を満たす場合には、距離S1が半波長に等しい場合と異なり、放射角θ=0°における透過角Φ=0°の利得は低いことを示す。より具体的には、
図12~
図17は、利得が(-16.2)dB下がっていることを示す。この理由は以下の式(8)により説明される。式(8)は、式(7)の関係を満たす場合であってθ=Φ=0°の場合において、式(2)を式変形した式である。
【0074】
【0075】
式(8)は位相整合条件が満たされないことを意味する。そのため、距離S1と波長λとが式(7)で表される関係を満たす場合であってθ=Φ=0°である場合には、透過角Φの方向の電波の強度は弱い。
【0076】
図6~
図17の結果は、放射角θと透過角Φとが略同一になる放射角θは、背面反射板2と誘電体板31との間の距離に応じた角度であることを示す。
【0077】
アンテナシステム100は、部分システムと異なり複数の誘電体板31を備えるため、アンテナシステム100は複数の部分システムを有する。そのため、少なくとも1つの部分システムにおいて背面反射板2と誘電体板31との間の距離が他の部分システムにおける背面反射板2と誘電体板31との間の距離と異なれば、アンテナシステム100は複数の放射角θにおいて角度同一条件を満たすことができる。このことを示すシミュレーション結果を
図18に示す。
【0078】
図18~
図23は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す図である。シミュレーションは、誘電体板31として、誘電体板31-1と誘電体板31-2との2つを備えるアンテナシステム100に対して行われた。また、シミュレーションにおいて、距離S1は半波長に等しかった。シミュレーションにおいて、誘電体板31-1と誘電体板31-2との間の距離S2と波長λとは、式(7)におけるS1をS2に置き換えた関係を満たす。また、シミュレーションは、第2設定条件の下で行われた。第2設定条件は、誘電体板31-1の透過率は(-6)dBという条件を含む。第2設定条件は、誘電体板31-1の反射率は(-1.25)dBという条件を含む。第2設定条件は、誘電体板31-2の透過率は(-3)dBという条件を含む。第2設定条件は、誘電体板31-2の反射率は(-3)dBという条件を含む。第2設定条件は、背面反射板2は入射してきた電波を全反射する(すなわち反射係数1)という条件を含む。第2設定条件は、背面反射板2と誘電体板31-1との間の空間における電波の反射回数が10回であるという条件を含む。第2設定条件は、誘電体板31-1と誘電体板31-2の間の空間における電波の反射回数が10回であるという条件を含む。
図18~
図23のシミュレーションは、
図6~
図17と同様に、放射角θの直線波のみを用いるレートレースによる近似の下で計算された結果である。
図18~
図23において、横軸は、誘電体板31-2から透過角Φの方向に放射された電波の誘電体板31-2における透過角Φを示す。
図18~
図23において、縦軸は、誘電体板31-2から透過角Φの方向に放射された電波の合成波のエネルギーを示す。
【0079】
図18は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図である。
図18は、放射角θ=0°の場合のシミュレーション結果である。
図18は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=0°にピークが現れることを示す。
図18は、利得が0dBであることを示す。利得が0dBとは、電波のエネルギーが、電波源1が放射したエネルギーと等しいことを意味する。シミュレーションの対象のアンテナシステム100は、近似的に、第1部分システムと第2部分システムとを合わせたシステムである。そのため、シミュレーション対象のアンテナシステム100のθ=Φ=0°の利得は、第1部分システムにおけるθ=Φ=0°の利得である14.9dBと、第2部分システムにおけるθ=Φ=0°の利得である(-16.2)dBとの合計に略同一である。第1部分システムは、
図6~
図11のシミュレーション結果を出力するシミュレーションにおける部分システムである。第2部分システムは、
図12~
図17のシミュレーション結果を出力するシミュレーションにおける部分システムである。
【0080】
図19は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図である。
図19は、放射角θ=10°の場合のシミュレーション結果である。
図19は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=24°にピークが現れることを示す。
【0081】
図20は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図である。
図20は、放射角θ=20°の場合のシミュレーション結果である。
図20は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=19°にピークが現れることを示す。
【0082】
図21は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図である。
図21は、放射角θ=30°の場合のシミュレーション結果である。
図21は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=21°にピークが現れることを示す。
【0083】
図22は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図である。
図22は、放射角θ=40°の場合のシミュレーション結果である。
図22は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=25°にピークが現れることを示す。
【0084】
図23は、実施形態のアンテナシステム100に対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図である。
図23は、放射角θ=50°の場合のシミュレーション結果である。
図23は、誘電体板31から空中へは誘電体板31-2透過角Φ=31°にピークが現れることを示す。
【0085】
図18~
図23の結果は、放射角とピークの位置の透過角Φとの乖離は最大で19°であることを示す。また、
図18~
図23の結果は、各ピークの利得は7dB以上であることを示す。このことは、ピークは狭ビーム伝搬モードの電波であることを示す。
図6~
図11の結果は、放射角θとピークの位置の透過角Φとの乖離が大きくなることを示しており、乖離度が最大で24dBであることを示していた。
図18~
図23の結果は、シミュレーション対象のアンテナシステム100は、第1部分システムよりも多くの位置でピークを有することを示す。すなわち、シミュレーション対象のアンテナシステム100は、第1部分システムよりも高いビームステアリングの性能を有することを示す。ビームステアリングとは、狭ビーム伝搬モードの電波の伝搬方向を変化させることを意味する。ビームステアリングの性能が高いほど、狭ビーム伝搬モードの電波を複数の方向に放射することができる。
【0086】
アンテナシステム100は複数の方向に狭ビーム伝搬モードを有するため、狭ビームの放射方向を電波源1が変えても、変更先の方向が狭ビーム伝搬モードを有する方向であれば、変更先においても電波は狭ビームである。
【0087】
このように構成された第1の実施形態のアンテナシステム100は、位置条件を満たすように位置する複数の誘電体板31を備えるため、複数の放射方向において狭ビーム伝搬モードを有する。そのため、アンテナシステム100は、電波源1が電波の放射方向を変更しても狭ビームを維持するビームステアリング機能を実現することができる。すなわち、アンテナシステム100は、伝搬方向が特定の方向に制御された状態にある高周波数帯の電波である狭ビームの伝搬方向を狭ビームの状態を維持しながら変化させることができる。狭ビームの状態にあるとは、伝搬モードが狭ビーム電波モードであることを意味する。そのため、アンテナシステム100は、たとえ高周波数帯の無線通信であっても狭ビームの状態を維持しながら狭ビームの伝搬方向を変化させることができる。また、このように構成されたアンテナシステム100は、第1部分システムよりもビームステアリングの性能が高い。
【0088】
(変形例)
図24は、変形例のアンテナシステム100の機能構成の一例を示す図である。より具体的には、
図24は、変形例のアンテナシステム100の構成の一例のシステム等価モデルを示す図である。
【0089】
変形例のアンテナシステム100は、誘電体板31の位置が実施形態のアンテナシステム100と異なる点でのみ実施形態のアンテナシステム100と異なる。以下、変形例のアンテナシステム100をアンテナシステム100aという。
【0090】
アンテナシステム100aが備える複数の誘電体板31の1つは、中心基準軸Cと交わる。中心基準軸Cは、電波源1を通り基準軸に平行な軸である。以下、中心基準軸Cと交わる誘電体板31を誘電体板31-0という。誘電体板31-0以外の誘電体板31は、中心基準軸と交わらない。
図24において、誘電体板31-0は、中心基準軸Cを含む所定の平面(以下「中心面」という。)を挟んで左右対称である。誘電体板31-0と背面反射板2との高さ方向の距離はS1
0である。アンテナシステム100aにおいて、放射角θ=0°の最近接誘電体板は、誘電体板31-0である。アンテナシステム100aにおいて、放射角θがθ
p-1<θ<θ
pの最近接誘電体板は、誘電体板31-pである。
【0091】
誘電体板31-0以外の誘電体板31の数は偶数である。以下、誘電体板31-0以外の誘電体板31であって背面反射板2からの距離(高さ)がS1
pである誘電体板31を誘電体板31-pという(pは1以上P以下の整数。Pは1以上の整数)。誘電体板31-pは同じ高さに2つ存在する。
図24において、同じ高さに2つ存在する誘電体板31は、中心面をはさんで左右対称に位置する。
図24において、距離S1
pは、距離S1
0より長く、距離S1
pは距離S1
(p-1)より長い。距離S1
0及び距離S1
pはいずれも第1種間隔S1である。
【0092】
誘電体板31-0の中心面に垂直な方向の長さL0は、以下の式(9)で表される。
【0093】
【0094】
式(9)において、θ0は、電波源1を始点とし誘電体板31-0の中心面に垂直な方向の端点を終点とするベクトルと中心基準軸Cとのなす角である。
【0095】
誘電体板31-pの中心面に垂直な方向の長さLpは、以下の式(10)で表される。
【0096】
【0097】
式(10)において、θpは、電波源1を始点とし誘電体板31-pの中心面に垂直な方向に位置する2つの端点のうち中心面から遠い位置に位置する端点を終点とするベクトルと中心基準軸Cとのなす角である。以下、θpを端点角度という。
【0098】
アンテナシステム100aは、位置条件と位相整合条件とを満たせば、複数の放射方向において狭ビーム伝搬モードを有する。アンテナシステム100aにおける位置条件は、具体的には、第1種間隔S1のうち少なくとも1つの第1種間隔S1が他の第1種間隔S1と異なる距離であるという条件である。アンテナシステム100aにおける位相整合条件は、具体的には、第1種間隔S1が他の第1種間隔S1と異なる誘電体板31―pが以下の式(11)を満たすという条件である。
【0099】
【0101】
ここで、誘電体板31として誘電体板31-0と誘電体板31-1とだけを備えるアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を
図25~
図31を用いて示す。 シミュレーションは
図25に示すアンテナシステム100aに対して第1設定条件の下で行われた。
【0102】
図25は、変形例におけるシミュレーションの対象のアンテナシステム100aの構成の一例を示す図である。シミュレーション対象のアンテナシステム100aは、誘電体板31-0と誘電体板31-1とを備える。端点角度θ
0は、30°である。第1種間隔S1
0は以下の式(12)で表され、第1種間隔S1
1は以下の式(13)で表される。
【0103】
【0104】
【0105】
図26は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第1の図である。
図26は、放射角θ=0°の場合のシミュレーション結果である。
図26は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=0°にピークが現れることを示す。
【0106】
図27は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第2の図である。
図27は、放射角θ=10°の場合のシミュレーション結果である。
図27は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=5°にピークが現れることを示す。
【0107】
図28は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第3の図である。
図28は、放射角θ=20°の場合のシミュレーション結果である。
図27は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=10°にピークが現れることを示す。
【0108】
図29は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第4の図である。
図29は、放射角θ=30°の場合のシミュレーション結果である。
図29は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=16°にピークが現れることを示す。
【0109】
図30は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第5の図である。
図30は、放射角θ=40°の場合のシミュレーション結果である。
図30は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=21°にピークが現れることを示す。
【0110】
図31は、変形例のシミュレーション対象のアンテナシステム100aに対するシミュレーション結果の一例を示す第6の図である。
図31は、放射角θ=50°の場合のシミュレーション結果である。
図31は、誘電体板31から空中へは透過角Φ=26°にピークが現れることを示す。
【0111】
図26~
図31の結果は、放射角とピークの位置の透過角Φとの乖離は最大で15°であることを示す。このことは、シミュレーション対象のアンテナシステム100aは、第1部分システムよりも高いビームステアリングの性能を有することを示す。ここまでで変形例のアンテナシステム100aの説明を終了する。
【0112】
なお、厳密には、透過角Φ(-30°<Φ<+30°)に放射する電波の一部は、誘電体板31や背面反射板2によって何回も反射された場合、誘電体板31の横を擦り抜ける。そして、すり抜けた電波の一部は、他の誘電体板31に到達し、他の誘電体板31から空中で放射される。そのため、シミュレーションの結果と実際の電波伝搬の測定から得られる結果との間にはずれがある。しかしながら、誘電体板31の横を擦り抜ける電波がすり抜けない電波よりも強い場合には、シミュレーションの結果に略同一の結果が得られる。誘電体板31の横を擦り抜ける電波がすり抜けない電波よりも強いか否かは、誘電体板31又は背面反射板2の誘電率又は反射係数に依存する。
【0113】
図25のアンテナシステムにおいて、横を擦り抜ける電波がすり抜けない電波よりも強い場合には、
図6~
図11に示す結果に近い測定結果が得られる。また、放射角θ=20°において横を擦り抜ける電波がすり抜けない電波よりも弱い場合には、
図12~
図17に示す結果に近い測定結果が得られる。放射角θ=20°において横を擦り抜ける電波がすり抜けない電波よりも弱い場合には、誘電体板31の中心面に垂直な方向の長さを広げることで、放射角θ=20°において横を擦り抜ける電波をすり抜けない電波よりも強くすることができる。
【0114】
そのため、アンテナシステムの設計者は、誘電体板31の中心面に垂直な方向の長さを適切に設計することで、アンテナシステムの特性を所望の特性に調整することができる。例えば、設計者は、放射角θが0°~20°の範囲内では
図6~
図11の結果に近い特性であり、放射角θが30°以上の範囲内では
図7~
図17の結果に近い特性のアンテナシステムを設計することができる。
【0115】
なお、ここまで、誘電体板31の厚みについては、厚みが放射電波の誘電体板内の波長に比べて無視できるほど薄い場合を例に説明してきた。誘電体板31の厚みが放射電波の誘電体板内の波長に比べて無視できるほど薄い場合、誘電体板31の下部と上部とで電波の位相が同相である。そのため、これまで誘電体板31の下部と上部との間の位相さを考える必要がなく説明が簡単であった。厚みが放射電波の誘電体板31内の波長に比べて無視できるほど薄いという条件は、例えば、放射電波が5GHz帯域の電波の場合、波長が5cmであるため厚さが略1mmであれば妥当な条件である。誘電体板31の厚みが放射電波の誘電体板内の波長に比べて無視できるほどの薄さではない場合であっても、誘電体板31の厚みが厚みに関する以下の所定の条件を満たせば誘電体板31の下部と上部とで電波の位相が同位相である。そのため、このような場合であっても、アンテナシステム100及び100aは、伝搬方向が特定の方向に制御された状態にある高周波数帯の電波である狭ビームの伝搬方向を狭ビームの状態を維持しながら変化させることができる。
【0116】
アンテナシステム100における厚みに関する所定の条件は、誘電体板31-pの厚みが第1種間隔S1pの(1/(2εp))倍であるという条件である。εpは誘電体板31-pの誘電率である。アンテナシステム100における厚みに関する所定の条件は、誘電体板31-1の厚みが第1種間隔S11の(2ε1)倍であり、誘電体板31-n´の厚みが第2間隔S2n´の(1/(2εn´))倍という条件である。なお、n´は2以上N未満の整数である。第1種間隔S11は、誘電体板31-1と背面反射板2との間の距離である。第2種間隔S2n´は、誘電体板31-n´と誘電体板31-(n´-1)との間の距離である。
【0117】
なお、誘電体板31及び背面反射板2は、アンテナシステム100及び100aを実現するように固定されていればどのような方法で固定されていてもよい。例えば、誘電体板31及び背面反射板2は、電波源1による電波の放射への影響が所定の影響よりも少ない棒であって断面が所定の太さよりも細い棒によって支えられ固定されてもよい。棒の材質は例えば不導体である。
【0118】
なお、基準軸方向は、電波源1が電波を放射する放射方向であればどの方向であってもよい。なお、基準平面は、電波源1が電波を放射する放射方向を法線方向とする平面であって電波源1を含む平面であればどのような平面であってもよい。
【0119】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0120】
100、100a…アンテナシステム、 1…電波源、 2…背面反射板、 3…誘電体板集合、 11…誘電体層、 12…パッチ素子、 31…誘電体板