(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】波長変換システム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
G02F1/37
(21)【出願番号】P 2020510300
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012761
(87)【国際公開番号】W WO2019186767
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】曲 晨
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】趙 智剛
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 裕紀
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032277(JP,A)
【文献】国際公開第2017/004528(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143071(WO,A1)
【文献】特開2013-156448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0263680(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0188242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0185583(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0263679(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0111799(US,A1)
【文献】特開2017-191324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G03F 7/20
H01S 3/094
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換システムであって、以下を備える:
A.第1の偏光状態であって第1の波長を有する第1のパルスレーザ光と、第2の偏光状態であって第2の波長を有する第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第2の偏光状態であって前記第1の波長と前記第2の波長との和周波混合により生成される第3の波長を有する第1の和周波光と、前記第2のパルスレーザ光とを出力する第1の非線形光学結晶;及び
B.前記第1の非線形光学結晶から出力された前記第1の和周波光と前記第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第4の波長を有する第3のパルスレーザ光を出力する第2の非線形光学結晶;
ここで、前記第1の非線形光学結晶と前記第2の非線形光学結晶とは、前記第2のパルスレーザ光のビームウェスト位置が、前記第1の非線形光学結晶の出射端面の位置から前記第2の非線形光学結晶の中央の位置までの範囲内に位置するように構成さ
れ、
前記第1の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第2のパルスレーザ光のビーム径をWaとし、
前記第2の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第2のパルスレーザ光のビーム径をWbとすると、
前記第1の非線形光学結晶と前記第2の非線形光学結晶とは、
Wa>Wbの関係を満たすよう構成され、
前記第1の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第1のパルスレーザ光のビーム径をWdとし、
前記第2の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第1の和周波光のビーム径をWeとすると、
前記第1の非線形光学結晶と前記第2の非線形光学結晶とは、
Wd>Weの関係を満たすよう構成される。
【請求項2】
波長変換システムであって、以下を備える:
A.第1の偏光状態であって第1の波長を有する第1のパルスレーザ光と、第1の偏光状態であって第2の波長を有する第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第2の偏光状態であって前記第1の波長と前記第2の波長との和周波混合により生成される第3の波長を有する第1の和周波光と、前記第2のパルスレーザ光とを出力する第1の非線形光学結晶;
B.前記第1の非線形光学結晶から出力された前記第1の和周波光と前記第2のパルスレーザ光とが入力され、前記第1の和周波光の偏光状態を変えずに、前記第2のパルスレーザ光の偏光状態を第2の偏光状態に変更する波長板;及び
C.前記波長板を透過した前記第1の和周波光と前記第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第4の波長を有する第3のパルスレーザ光を出力する第2の非線形光学結晶;
ここで、前記波長板と前記第2の非線形光学結晶とは、前記第2のパルスレーザ光のビームウェスト位置が、前記波長板から前記第2の非線形光学結晶の中央の位置までの範囲内に位置するように構成さ
れ、
前記第1の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第2のパルスレーザ光のビーム径をWaとし、
前記第2の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第2のパルスレーザ光のビーム径をWbとし、
前記第1の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第1のパルスレーザ光のビーム径をWdとし、
前記第2の非線形光学結晶に入射する入射端面における前記第1の和周波光のビーム径をWeとすると、
前記第1の非線形光学結晶と前記第2の非線形光学結晶とは、
Wa>Wb及びWd>Weの関係を満たすよう構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長変換システム及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、半導体露光装置においては解像力の向上が要請されている。半導体露光装置を以下、単に「露光装置」という。このため露光用光源から出力される光の短波長化が進められている。露光用光源には、従来の水銀ランプに代わってガスレーザ装置が用いられている。現在、露光用レーザ装置としては、波長248nmの紫外線を出力するKrFエキシマレーザ装置ならびに、波長193.4nmの紫外線を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられている。
【0003】
現在の露光技術としては、露光装置側の投影レンズとウエハ間の間隙を液体で満たして、当該間隙の屈折率を変えることによって、露光用光源の見かけ上の波長を短波長化する液浸露光が実用化されている。ArFエキシマレーザ装置を露光用光源として用いて液浸露光が行われた場合は、ウエハには水中における波長134nmの紫外光が照射される。この技術をArF液浸露光という。ArF液浸露光はArF液浸リソグラフィーとも呼ばれる。
【0004】
KrF、ArFエキシマレーザ装置の自然発振におけるスペクトル線幅は約350~400pmと広いため、露光装置側の投影レンズによってウエハ上に縮小投影されるレーザ光(紫外線光)の色収差が発生して解像力が低下する。そこで色収差が無視できる程度となるまでガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を狭帯域化する必要がある。このためガスレーザ装置のレーザ共振器内には、狭帯域化素子を有する狭帯域化モジュール(Line Narrowing Module)が設けられている。この狭帯域化モジュールによりスペクトル線幅の狭帯域化が実現されている。狭帯域化素子は、エタロンやグレーティング等であってもよい。このようにスペクトル線幅が狭帯域化されたレーザ装置を狭帯域化レーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4925085号
【文献】特開平10-68976号公報
【文献】特開2001-51312号公報
【概要】
【0006】
本開示の1つの観点に係る波長変換システムは、以下を備える:
A.第1の偏光状態であって第1の波長を有する第1のパルスレーザ光と、第2の偏光状態であって第2の波長を有する第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第2の偏光状態であって第1の波長と第2の波長との和周波混合により生成される第3の波長を有する第1の和周波光と、第2のパルスレーザ光とを出力する第1の非線形光学結晶;及び
B.第1の非線形光学結晶から出力された第1の和周波光と第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第4の波長を有する第3のパルスレーザ光を出力する第2の非線形光学結晶。
【0007】
本開示の1つの観点に係る波長変換システムは、以下を備える:
A.第1の偏光状態であって第1の波長を有する第1のパルスレーザ光と、第1の偏光状態であって第2の波長を有する第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第2の偏光状態であって第1の波長と第2の波長との和周波混合により生成される第3の波長を有する第1の和周波光と、第2のパルスレーザ光とを出力する第1の非線形光学結晶;
B.第1の非線形光学結晶から出力された第1の和周波光と第2のパルスレーザ光とが入力され、第1の和周波光の偏光状態を変えずに、第2のパルスレーザ光の偏光状態を第2の偏光状態に変更する波長板;及び
C.波長板を透過した第1の和周波光と第2のパルスレーザ光とが入力されることにより、第4の波長を有する第3のパルスレーザ光を出力する第2の非線形光学結晶。
【0008】
本開示の1つの観点に係る加工方法は、上記いずれかの波長変換システムを含む露光装置用レーザ装置から出力されるレーザ光によりワークピースに露光を行い、ワークピースを加工する加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、比較例に係る露光装置用レーザ装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される増幅器の構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示される波長変換システムの構成を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、タイプ-1の位相整合条件を有する第1のCLBO結晶の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る波長変換システムの構成を概略的に示す図である。
【
図6】
図6は、タイプ-2の位相整合条件を有する第1のCLBO結晶の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、タイプ-2の結晶の入射角許容幅を説明する図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係る波長変換システムの構成を概略的に示す図である。
【
図9】
図9Aは、第1の実施形態の第1及び第2のCLBO結晶に入射する第2のパルスレーザ光のビーム径を示す図である。
図9Bは、第1の実施形態の第1及び第2のCLBO結晶に入射する第1の和周波光及び第1のパルスレーザ光のビーム径を示す図である。
【
図10】
図10Aは、第2の実施形態の第1及び第2のCLBO結晶に入射する第2のパルスレーザ光のビーム径を示す図である。
図10Bは、第2の実施形態の第1及び第2のCLBO結晶に入射する第1の和周波光及び第1のパルスレーザ光のビーム径を示す図である。
【実施形態】
【0010】
<内容>
1.比較例
1.1 構成
1.1.1 全体構成
1.1.2 増幅器の構成
1.2 動作
1.3 波長変換システム
1.3.1 全体構成
1.3.2 CLBO結晶の構成
1.3.3 作用
1.4 課題
2.第1の実施形態
2.1 全体構成
2.2 CLBO結晶の構成
2.3 作用
2.4 効果
3.第2の実施形態
3.1 構成
3.2 作用
3.3 効果
4.ビーム径の関係
5.波長調整可能範囲
6.露光装置
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0012】
1.比較例
1.1 構成
1.1.1 全体構成
図1は、比較例に係る露光装置用レーザ装置2の構成を概略的に示す。露光装置用レーザ装置2は、固体レーザシステム3と、第1の高反射ミラー4aと、第2の高反射ミラー4bと、増幅器5と、同期制御部6と、レーザ制御部7と、を含む。
【0013】
固体レーザシステム3は、第1のパルスレーザ光PL1を出力する第1の固体レーザ装置11と、第2のパルスレーザ光PL2を出力する第2の固体レーザ装置12と、波長変換システム13と、同期回路14と、固体レーザ制御部15と、含む。
【0014】
第1の固体レーザ装置11は、第1のシードレーザ20と、第1の光強度可変部21と、第1の増幅器22と、波長変換部23と、を含む。第1の増幅器22は、ファイバ増幅器22aと、固体増幅器22bと、図示しないCW励起半導体レーザと、を含む。波長変換部23は、LBO(LiB3O5)結晶23aと、CLBO(CsLiB6O10)結晶23bと、を含む。LBO結晶23aとCLBO結晶23bとは、非線形光学結晶である。
【0015】
第1のシードレーザ20は、シングル縦モードであって、波長が約1030nmのCW光またはパルス光を第1のシード光として出力する。第1のシードレーザ20は、例えば、分布帰還型の半導体レーザである。第1の光強度可変部21は、第1のシードレーザ20から第1のシード光が入射される半導体素子を含む。第1の光強度可変部21は、図示しない電流制御部によって、半導体素子にパルス電流を印加することによって、第1のシード光を所定のパルス幅のレーザ光に変換する。以下、第1の光強度可変部21によって変換された第1のシード光を、第1のシードパルス光という。
【0016】
ファイバ増幅器22aは、Ybがドープされた複数の石英ファイバが多段に接続されたものである。固体増幅器22bは、YbがドープされたYAG結晶である。ファイバ増幅器22a及び固体増幅器22bは、図示しない励起用半導体レーザから入力されるCW励起光によって光励起される。第1の増幅器22は、第1の光強度可変部21から入射する第1のシードパルス光を増幅する。
【0017】
波長変換部23は、第1の増幅器22によって増幅された第1のシードパルス光を、高調波に変換して、第1のパルスレーザ光PL1として出力する。具体的には、波長変換部23は、LBO結晶23aとCLBO結晶23bとを含むことにより、第1のシードパルス光を、波長が約257.5nmの第4高調波を生成し、第4高調波を第1のパルスレーザ光PL1として出力する。
【0018】
第2の固体レーザ装置12は、第2のシードレーザ30と、第2の光強度可変部31と、第2の増幅器32と、を含む。第2の増幅器32は、ErとYbが共にドープされた複数の石英ファイバが多段に接続された図示しないErファイバ増幅器と、図示しない励起用半導体レーザと、を含む。
【0019】
第2のシードレーザ30は、シングル縦モードであって、波長が約1554nmのCW光またはパルス光を第2のシード光として出力する。第2のシードレーザ30は、例えば、分布帰還型の半導体レーザである。第2の光強度可変部31は、第2のシードレーザ30から第2のシード光が入射される半導体素子を含む。第2の光強度可変部31は、図示しない電流制御部によって、半導体素子にパルス電流を印加することによって、第2のシード光を所定のパルス幅のレーザ光に変換する。以下、第2の光強度可変部31によって変換された第2のシード光を、第2のシードパルス光という。
【0020】
第2の増幅器32に含まれるErファイバ増幅器は、図示しない励起用半導体レーザから入力されるCW励起光によって光励起される。第2の増幅器32は、第2の光強度可変部31から入射する第2のシードパルス光を増幅する。第2の増幅器32は、増幅した第2のシードパルス光を、第2のパルスレーザ光PL2として出力する。
【0021】
波長変換システム13は、第1の固体レーザ装置11から出力された第1のパルスレーザ光PL1と、第2の固体レーザ装置12から出力された第2のパルスレーザ光PL2とに基づき、第3のパルスレーザ光PL3を生成して出力する。第3のパルスレーザ光PL3は、波長が約193.4nmである。
【0022】
固体レーザ制御部15は、第1及び第2のシードレーザ20,30と、第1及び第2の増幅器22,32に含まれる各CW励起半導体レーザと、図示しない信号線を介して電気的に接続されている。第1の高反射ミラー4aと第2の高反射ミラー4bは、波長約193.4nmのパルスレーザ光が、増幅器に入射するように配置される。
【0023】
1.1.2 増幅器の構成
図2は、
図1に示される増幅器5の構成を概略的に示す。
図2において、増幅器5は、増幅器制御部40と、充電部41と、トリガ補正部42と、スイッチ43を含むパルスパワーモジュール(PPM)44と、チャンバ45と、部分反射ミラー46と、出力結合ミラー47と、を含む。
【0024】
チャンバ45には、ウインドウ49a,49bが設けられている。チャンバ45の中には、例えば、ArガスとF2ガスとNeガスとを含むレーザガスが封入されている。チャンバ45の中には、一対の放電電極48が配置されている。一対の放電電極48は、PPM44の出力端子に接続されている。
【0025】
増幅器5において、部分反射ミラー46と出力結合ミラー47とを含む光共振器が構成されている。部分反射ミラー46は、例えば、波長が約193.4nmの光を透過するCaF2結晶からなる基板に、反射率が70%~90%の部分反射膜をコートすることにより構成されている。出力結合ミラー47は、例えば、波長が約193.4nmの光を透過するCaF2結晶からなる基板に、反射率が10%~20%の部分反射膜をコートすることにより構成されている。
【0026】
増幅器5は、光共振器がファブリペロ共振器の場合の例を示したが、この例に限定されることなく、リング共振器であってもよい。
【0027】
1.2 動作
次に、比較例に係る露光装置用レーザ装置2の動作について説明する。レーザ制御部7は、固体レーザ制御部15を介して、各シードレーザを動作させ、図示しない励起用半導体レーザをCW発振させる。同期制御部6は、固体レーザ制御部15から、第1のトリガ信号Tr1と、第2のトリガ信号Tr2との遅延データを受信する。同期制御部6は、レーザ制御部7を介して、露光装置8からの発振トリガTrを受信すると、第1のトリガ信号Tr1と第2のトリガ信号Tr2との遅延時間を制御する。具体的には、同期制御部6は、固体レーザシステム3から出力された第3のパルスレーザ光PL3が、増幅器5の光共振器内に注入されるとともに同期して放電するように、第1のトリガ信号Tr1と第2のトリガ信号Tr2との遅延時間を制御する。
【0028】
同期回路14は、第1のトリガ信号Tr1を受信すると、第1及び第2の光強度可変部21,31に制御信号をそれぞれ送信する。第1の光強度可変部21は、制御信号を受信すると、所定の期間のみ第1のシード光を増幅させることにより、所定のパルス幅を有する第1のシードパルス光を生成し、第1の増幅器22に入射させる。同様に、第2の光強度可変部31は、制御信号を受信すると、所定の期間のみ第2のシード光を増幅させることにより、所定のパルス幅を有する第2のシードパルス光を生成し、第2の増幅器32に入射させる。
【0029】
第1及び第2のシードパルス光は、それぞれ第1及び第2の増幅器22,32に入射すると、誘導放出が生じて増幅される。第1の増幅器22により増幅された第1のシードパルス光は、波長変換部23に入射する。波長変換部23に入射された第1のシードパルス光は、第4高調波に変換され、第1のパルスレーザ光PL1として第1の固体レーザ装置11から出力される。一方、第2の増幅器32により増幅された第2のシードパルス光は、第2のパルスレーザ光PL2として第2の固体レーザ装置12から出力される。
【0030】
第1の固体レーザ装置11から出力された第1のパルスレーザ光PL1と、第2の固体レーザ装置12から出力された第2のパルスレーザ光PL2とは、波長変換システム13に入射する。
【0031】
ここで、固体レーザ制御部15から同期回路14に、第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2が、後述する第1のCLBO結晶50aにほぼ同じタイミングで入射するように遅延データが送信される。同期回路14は、第1のトリガ信号Tr1に基づいて、第3のトリガ信号Tr3と第4のトリガ信号Tr4とを、所定のタイミングで第1の光強度可変部21と第2の光強度可変部31とに送信する。
【0032】
第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2が第1のCLBO結晶50aにほぼ同じタイミングで入射した結果、波長変換システム13から波長約193.4nmの第3のパルスレーザ光PL3が出力される。第3のパルスレーザ光PL3は、第1及び第2の高反射ミラー4a,4bで高反射され、シード光として増幅器5の共振器中に注入される。
【0033】
このシード光の注入に同期して、増幅器5に反転分布が生成される。ここで、トリガ補正部42は、シード光が増幅器5で効率よく増幅されるようにPPMのスイッチ43のタイミングを調整する。その結果、光共振器によって、増幅発振して、出力結合ミラー47から、増幅されたパルスレーザ光が出力される。そして、露光装置8に、波長約193.4nmのパルスレーザ光が入射する。
【0034】
1.3 波長変換システム
1.3.1 全体構成
図3は、
図1に示される波長変換システム13の構成を概略的に示す。波長変換システム13は、第1及び第2のCLBO結晶50a,50bと、第1~第5のダイクロイックミラー51a~51dと、第1~第3の高反射ミラー52a~52cと、1/2波長板54と、集光レンズ53aと、コリメータレンズ53bと、を含む。
【0035】
第1のダイクロイックミラー51aは、第1のパルスレーザ光PL1を高反射し、第2のパルスレーザ光PL2を高透過させる膜がコートされている。第1のダイクロイックミラー51aの一方の面には、第1のパルスレーザ光PL1が入射する。第1のダイクロイックミラー51aの他方の面には、集光レンズ53aを介して第2のパルスレーザ光PL2が入射する。第1のダイクロイックミラー51aは、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とが、光路軸が一致して第1のCLBO結晶50aに入射するように配置されている。
【0036】
第1のCLBO結晶50aは、タイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶である。第1のCLBO結晶50aでは、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2との和周波である波長約220.9nmの第1の和周波光SF1が生成される。
【0037】
第2のダイクロイックミラー51bは、第1のCLBO結晶50aから出力された第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2と第1の和周波光SF1との光路上に配置されている。第2のダイクロイックミラー51bは、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とを高透過し、第1の和周波光SF1を高反射する膜がコートされている。第1の和周波光SF1は、第1のCLBO結晶50aにおいて第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2との和周波光として生成され、波長が約220.9nmである。
【0038】
第3のダイクロイックミラー51cは、第2のダイクロイックミラー51bを透過した第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2の光路上に配置されている。第3のダイクロイックミラー51cは、第1のパルスレーザ光PL1を高反射し、第2のパルスレーザ光PL2を高透過させる膜がコートされている。
【0039】
第3のダイクロイックミラー51cにより反射された第1のパルスレーザ光PL1の光路上には、ダンパ55が配置されている。ダンパ55は、入射した第1のパルスレーザ光PL1を吸収する。
【0040】
コリメータレンズ53bは、第3のダイクロイックミラー51cを透過した第2のパルスレーザ光PL2の光路上に配置されている。第1の高反射ミラー52aは、コリメータレンズ53bを通過した第2のパルスレーザ光PL2の光路上に配置されており、第2のパルスレーザ光PL2を高反射する。
【0041】
1/2波長板54は、第1の高反射ミラー52aで反射された第2のパルスレーザ光PL2の光路上に配置されている。1/2波長板54は、透過する第2のパルスレーザ光PL2の偏光方向を90°回転させる。
【0042】
第2の高反射ミラー52bは、第2のダイクロイックミラー51bにより反射された第1の和周波光SF1の光路上に配置されており、第1の和周波光SF1を高反射する。第4のダイクロイックミラー51dは、1/2波長板54を透過した第2のパルスレーザ光PL2と、第2の高反射ミラー52bにより反射された第1の和周波光SF1との光路上に配置されている。第4のダイクロイックミラー51dは、第1の和周波光SF1を高反射し、第2のパルスレーザ光PL2を高透過させる膜がコートされている。
【0043】
第2のCLBO結晶50bは、タイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶である。第2のCLBO結晶50bは、第4のダイクロイックミラー51dを透過した第2のパルスレーザ光PL2と、第4のダイクロイックミラー51dにより反射された第1の和周波光SF1との光路上に配置されている。第2のCLBO結晶50bでは、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1との和周波である波長約193.4nmの第2の和周波光SF2が生成される。
【0044】
第5のダイクロイックミラー51eは、第2のパルスレーザ光PL2と、第1及び第2の和周波光SF1,SF2との光路上に配置されている。第5のダイクロイックミラー51eは、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1とを高透過させ、第2の和周波光SF2を高反射する膜がコートされている。第2の和周波光SF2は、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1との和周波光であり、波長が約193.4nmである。
【0045】
第3の高反射ミラー52cは、第5のダイクロイックミラー51eにより反射された第2の和周波光SF2の光路上に配置されており、第2の和周波光SF2を高反射する。第2の和周波光SF2は、第3のパルスレーザ光PL3として波長変換システム13から出力される。
【0046】
1.3.2 CLBO結晶の構成
図4は、第1のCLBO結晶50aの構成を示す。第1のCLBO結晶50aは、その光学軸OAと、入射するパルスレーザ光の光路軸OPとのなす角度θ
1がタイプ-1の位相整合条件を満たす位相整合角となるように構成されている。この位相整合角については、AS-Photonics社のDr. Arlee SmithによりフリーソフトのSNLOが開発されている。SNLOを用いて位相整合角を算出することができる。このSNLは、「http://www.as-photonics.com/snlo」から入手可能である。第2のCLBO結晶50bの構成についても同様である。
【0047】
また、本開示では、非線形光学結晶の光学軸OAと入射光の光路軸OPとで定義される面に対して、偏光方向が垂直である直線偏光を第1の偏光状態、偏光方向が平行である直線偏光を第2の偏光状態という。
【0048】
1.3.3 作用
次に、波長変換システム13の作用について説明する。波長変換システム13には、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とが入射する。第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とは共に直線偏光であり、本比較例では、共にp偏光として第1のダイクロイックミラー51aに入射する。第1のダイクロイックミラー51aにより反射された第1のパルスレーザ光PL1と、第1のダイクロイックミラー51aを透過した第2のパルスレーザ光PL2とは、第1のCLBO結晶50aにほぼ同時に入射して、和周波混合が行われる。
【0049】
第1のCLBO結晶50aに入射する第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とは、共に、第1の偏光状態であり、偏光方向が互いに平行である。第1のCLBO結晶50aでは、波長約257.5nmと波長約1554nmとの和周波である波長約220.9nmの第1の和周波光SF1が生成される。第1の和周波光SF1は、第2の偏光状態である。
【0050】
第2のダイクロイックミラー51bでは、第1の和周波光SF1が、第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2とから分離される。第3のダイクロイックミラー51cでは、第2のパルスレーザ光PL2が、第1のパルスレーザ光PL1から分離される。第1のパルスレーザ光PL1は、ダンパ55に吸収される。
【0051】
第3のダイクロイックミラー51cで分離された第2のパルスレーザ光PL2は、第2のコリメータレンズ53に入射する。コリメータレンズ53bは、発散する第2のパルスレーザ光PL2を集束させ、ビーム径を、第2のCLBO結晶50bの入射端面でケラれることのない大きさとする。なお、第2のパルスレーザ光PL2の発散角が小さい場合は、コリメータレンズ53bを省略してもよい。
【0052】
コリメータレンズ53bを通過した第2のパルスレーザ光PL2は、第1の高反射ミラー52aで高反射されて1/2波長板54に入射する。第2のパルスレーザ光PL2は、1/2波長板54により偏光方向が90°回転され、偏光状態が第1の偏光状態から第2の偏光状態に変化する。
【0053】
第4のダイクロイックミラー51dにより、第1の和周波光SF1の光路が、第2のパルスレーザ光PL2の光路とほぼ一致し、第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とが第2のCLBO結晶50bにほぼ同時に入射する。第2のCLBO結晶50bに入射する第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、共に第2の偏光状態であり、偏光方向が互いに平行である。
【0054】
第2のCLBO結晶50bでは、波長約220.9nmと波長約1554nmとの和周波である波長約193.4nmの第2の和周波光SF2が生成される。第2のパルスレーザ光PL2と和周波光SF1とは、第5のダイクロイックミラー51eを高透過し、第2の和周波光SF2は、第5のダイクロイックミラー51eにより高反射される。第5のダイクロイックミラー51eにより高反射された第2の和周波光SF2は、第3の高反射ミラー52cにより高反射され、前述の第3のパルスレーザ光PL3として波長変換システム13から出力される。
【0055】
1.4 課題
次に、比較例に係る露光装置用レーザ装置2に含まれる波長変換システム13の課題について説明する。波長変換システム13は、第1のCLBO結晶50aから出力される和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2との偏光状態が異なり、これらの偏光状態を一致させて第2のCLBO結晶50bに入射させるために光路を分岐・合流する必要がある。そして、分岐した2つの光路の一方に1/2波長板54を配置する必要がある。このために、波長変換システム13では、光路を分岐・合流するためのダイクロイックミラーや高反射ミラー等の光学素子が必要であるので、サイズ及び設置面積が大きくなる。また、これらの光学素子は、紫外光に対する損傷閾値が低いので、パルスレーザ光の高出力化が困難である。
【0056】
2.第1の実施形態
次に、本開示の第1の実施形態に係る露光装置用レーザ装置について説明する。第1の実施形態に係る露光装置用レーザ装置は、波長変換システムの構成が異なること以外は、
図1及び
図2に示した比較例に係る露光装置用レーザ装置2の構成と同一である。以下では、
図1に示した比較例に係る露光装置用レーザ装置2の構成要素と略同じ部分については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0057】
2.1 全体構成
図5は、第1の実施形態に係る波長変換システム13aの構成を概略的に示す。波長変換システム13aは、第1及び第2のCLBO結晶60a,60bと、第1~第3のダイクロイックミラー61a~61cと、集光レンズ62と、ダンパ63と、を含む。
【0058】
第1のダイクロイックミラー61aは、比較例の第1のダイクロイックミラー51aと同様の構成であり、第1のパルスレーザ光PL1を高反射し、第2のパルスレーザ光PL2を高透過させる膜がコートされている。第1のダイクロイックミラー61aの一方の面には、第1のパルスレーザ光PL1が入射する。第1のダイクロイックミラー61aの他方の面には、集光レンズ62を介して第2のパルスレーザ光PL2が入射する。第1のダイクロイックミラー61aは、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とが、光路軸が一致して第1のCLBO結晶60aに入射するように配置されている。
【0059】
第1のパルスレーザ光PL1の波長は、約257.5nmであり、特許請求の範囲に記載の第1の波長に対応する。第2のパルスレーザ光PL2の波長は、約1554nmであり、特許請求の範囲に記載の第2の波長に対応する。
【0060】
第1のCLBO結晶60aは、タイプ-2の位相整合条件を有する非線形光学結晶である。第1のCLBO結晶60aでは、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2との和周波である波長約220.9nmの第1の和周波光SF1が生成される。第1の和周波光SF1の波長は、特許請求の範囲に記載の第3の波長に対応する。
【0061】
第2のダイクロイックミラー61bは、第1のCLBO結晶60aから出力された第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2と第1の和周波光SF1との光路上に配置されている。第2のダイクロイックミラー61bは、第1のパルスレーザ光PL1を高反射し、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1とを高透過させる膜がコートされている。
【0062】
第2のダイクロイックミラー61bにより反射された第1のパルスレーザ光PL1の光路上には、ダンパ63が配置されている。ダンパ63は、入射した第1のパルスレーザ光PL1を吸収する。
【0063】
第2のCLBO結晶60bは、タイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶である。第2のCLBO結晶60bは、第2のダイクロイックミラー61bを透過した第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1との光路上に配置されている。第2のCLBO結晶60bでは、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1との和周波である波長約193.4nmの第2の和周波光SF2が生成される。第2の和周波光SF1の波長は、特許請求の範囲に記載の第4の波長に対応する。
【0064】
第3のダイクロイックミラー61cは、第2のパルスレーザ光PL2と、第1及び第2の和周波光SF1,SF2との光路上に配置されている。第3のダイクロイックミラー61cは、第2のパルスレーザ光PL2と第1の和周波光SF1とを高透過させ、第2の和周波光SF2を高反射する膜がコートされている。第2の和周波光SF2は、第3のパルスレーザ光PL3として波長変換システム13aから出力される。
【0065】
なお、第2の波長は第1の波長より大きい。第1の波長は第3の波長より大きい。第3の波長は第4の波長より大きい。
【0066】
2.2 CLBO結晶の構成
図6は、第1のCLBO結晶60aの構成を示す。第1のCLBO結晶60aは、その光学軸OAと、入射するパルスレーザ光の光路軸OPとのなす角度θ
2がタイプ-2の位相整合条件を満たす位相整合角となるように構成されている。この位相整合角については、前述のSNLOを用いて位相整合角を算出することができる。第2のCLBO結晶60bは、比較例の第2のCLBO結晶50bと同様の構成である。
【0067】
なお、
図6によれば、第1の波長を有する第1のパルスレーザ光PL1が第1の偏光状態、第2の波長を有する第2のパルスレーザ光PL2が第2の偏光状態、第3の波長を有する第1の和周波光SF1が第2の偏光状態である。SNLOによる位相整合角の算出結果によれば、タイプ-2のCLBO結晶では、この他の偏光条件では位相整合角が存在しない。
【0068】
2.3 作用
次に、波長変換システム13aの作用について説明する。波長変換システム13aには、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とが入射する。第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とは共に直線偏光であり、本実施形態では、第1のパルスレーザ光PL1は、p偏光として第1のダイクロイックミラー51aに入射し、第2のパルスレーザ光PL2は、s偏光として第1のダイクロイックミラー51aに入射する。第1のダイクロイックミラー61aにより反射された第1のパルスレーザ光PL1と、第1のダイクロイックミラー61aを透過した第2のパルスレーザ光PL2とは、第1のCLBO結晶60aにほぼ同時に入射して、和周波混合が行われる。
【0069】
第1のCLBO結晶60aに入射する第1のパルスレーザ光PL1は、第1の偏光状態である。第1のCLBO結晶60aに入射する第2のパルスレーザ光PL2は、第2の偏光状態である。すなわち、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とは、偏光方向が互いに直交している。
【0070】
第1のCLBO結晶60aでは、波長約257.5nmと波長約1554nmとの和周波である波長約220.9nmの第1の和周波光SF1が生成される。ここで、第1のCLBO結晶60aは、タイプ-2の位相整合条件を有するので、第1のCLBO結晶60aから出力される第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、偏光方向が互いに平行である。
【0071】
第2のダイクロイックミラー61bでは、第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とが、第1のパルスレーザ光PL1から分離される。第1のパルスレーザ光PL1は、ダンパ63に吸収される。
【0072】
第2のダイクロイックミラー61bで分離された第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、第2のCLBO結晶60bにほぼ同時に入射する。第2のCLBO結晶60bに入射する和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、共に第2の偏光状態であり、偏光方向が互いに平行である。
【0073】
第2のCLBO結晶60bでは、波長約220.9nmと波長約1554nmとの和周波である波長約193.4nmの第2の和周波光SF2が生成される。第2のパルスレーザ光PL2と和周波光SF1とは、第3のダイクロイックミラー61cを高透過し、第2の和周波光SF2は、第3のダイクロイックミラー61cにより高反射される。第3のダイクロイックミラー61cにより高反射された第2の和周波光SF2は、第3の高反射ミラー52cにより反射され、前述の第3のパルスレーザ光PL3として波長変換システム13aから出力される。
【0074】
2.4 効果
次に、本実施形態に係る露光装置用レーザ装置に含まれる波長変換システム13aの効果について説明する。本実施形態では、第1のCLBO結晶60aは、タイプ-2の位相整合条件を有する。第1のCLBO結晶60aに、偏光方向が互いに直交する第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2を入射させているので、第1のCLBO結晶60aから出力される第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2との偏光方向は互いに平行である。このため、本実施形態では、比較例で示したような光路を分岐・合流するためのダイクロイックミラーや高反射ミラー等の光学素子を用いずに、第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とを、タイプ-1の位相整合条件を有する第2のCLBO結晶60bに入射させることができる。
【0075】
この結果、比較例に比べて、第1のCLBO結晶60aと第2のCLBO結晶60bとの間の光路を短縮することができ、装置がコンパクト化する。また、光学素子が少なくて済むので、光学素子がダメージを受ける確率が低減する。
【0076】
また、第2のパルスレーザ光PL2は、波長が約1554nmと長い赤外光であるので発散しやすい。しかし、本実施形態では、第1のCLBO結晶60aと第2のCLBO結晶60bとの間の光路を、第2のパルスレーザ光PL2を平行光とみなせる範囲内まで短くすることができるので、比較例で用いたようなコリメータレンズも省略可能である。
【0077】
なお、本実施形態では、第1のCLBO結晶60aと第2のCLBO結晶60bとの間に第2のダイクロイックミラー61bを配置することにより、第1のパルスレーザ光PL1を、第2のCLBO結晶60bに入射させないようにダンパ63に導いている。しかし、第1のパルスレーザ光PL1が第2のCLBO結晶60bに入射したとしても波長変換が生じることはないため、第2のダイクロイックミラー61bとダンパ63とは省略可能である。これにより、第1のCLBO結晶60aと第2のCLBO結晶60bとの間の光路をさらに短縮することができる。
【0078】
また、本実施形態では、上流側の第1のCLBO結晶60aをタイプ-2の位相整合条件を有する非線形光学結晶とし、下流側の第2のCLBO結晶60bをタイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶としている。原理的には、上記とは逆に、上流側の第1のCLBO結晶60aをタイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶とし、下流側の第2のCLBO結晶60bをタイプ-2の位相整合条件を有する非線形光学結晶とすることも可能である。しかし、本実施形態のように、上流側の第1のCLBO結晶60aをタイプ-2とする場合の方が、下流側の第2のCLBO結晶60bをタイプ-2とする場合より、以下の点で利点がある。
【0079】
表1は、タイプ-1の結晶とタイプ-2の結晶との間での非線形光学定数及び入射許容角の違いを示す。両者の間で、非線形定数はほぼ同等である。しかし、
図7に示すように、タイプ-2の結晶は、波長が約1554nmと長い赤外光の第2のパルスレーザ光PL2に対する入射角許容幅(mrad・cm)が約11.08と、タイプ-1の結晶の場合の値である約2.56と比べて極めて大きい。
【0080】
【0081】
したがって、仮に、赤外光の第2のパルスレーザ光PL2を先にタイプ-1の結晶に入射させる場合には、結晶の入射端部において良好な角度で入射しない成分が多く発生する。この場合、第2のパルスレーザ光PL2が先に通過する結晶で第2のパルスレーザ光PL2のロスが多く発生するので、生成される第1の和周波光SF1の強度が低くなってしまう。これに対して、本実施形態のように、赤外光の第2のパルスレーザ光PL2を先にタイプ-2の結晶に入射させる場合には、結晶の入射端部におけるロスが少ないため、高い強度の第1の和周波光SF1が発生される。第1の和周波光SF1が高いと、次段の結晶で生成される第2の和周波光SF2の強度も高くなる。このように、上流側の第1のCLBO結晶60aをタイプ-2とすることにより、変換効率が向上し、第1の和周波光SF1と第2の和周波光SF2との強度が高くなる。
【0082】
3.第2の実施形態
次に、本開示の第2の実施形態に係る露光装置用レーザ装置について説明する。第2の実施形態に係る露光装置用レーザ装置は、波長変換システムの構成が異なること以外は、第1の実施形態に係る露光装置用レーザ装置の構成と同一である。以下では、
図4に示した波長変換システム13aの構成要素と略同じ部分については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0083】
3.1 構成
図8は、第2の実施形態に係る波長変換システム13bの構成を概略的に示す。波長変換システム13bは、タイプ-2の位相整合条件を有する非線形光学結晶である第1のCLBO結晶60aに代えて、タイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶である第1のCLBO結晶70aを用いる。また、本実施形態では、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとの間に、二波長波長板71を配置する。
【0084】
二波長波長板71は、2つの波長で特定の位相差を示す波長板である。具体的には、二波長波長板71は、波長約257.5nmの第1のパルスレーザ光PL1の偏光方向を変えず、波長約1554nmの第2のパルスレーザ光PL2の偏光方向を90°回転させる。
【0085】
また、本実施形態では、タイプ-1の位相整合条件を有する第1のCLBO結晶70aを用いるので、第1のCLBO結晶70aに入射させる第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2を、第1の偏光状態とする。
【0086】
3.2 作用
次に、波長変換システム13bの作用について説明する。波長変換システム13bには、第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とが入射する。第1のパルスレーザ光PL1と第2のパルスレーザ光PL2とは共に直線偏光であり、本実施形態では、第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2は、共にp偏光として第1のダイクロイックミラー51aに入射する。第1のダイクロイックミラー61aにより反射された第1のパルスレーザ光PL1と、第1のダイクロイックミラー61aを透過した第2のパルスレーザ光PL2とは、第1のCLBO結晶70aにほぼ同時に入射して、和周波混合が行われる。
【0087】
第1のCLBO結晶70aに入射する第1及び第2のパルスレーザ光PL1,PL2は、共に第1の偏光状態である。第1のCLBO結晶70aでは、波長約257.5nmと波長約1554nmとの和周波である波長約220.9nmの第1の和周波光SF1が生成される。ここで、第1のCLBO結晶70aは、タイプ-1の位相整合条件を有するので、第1のCLBO結晶70aから出力される第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、偏光方向が互いに直交する。具体的には、第1のCLBO結晶70aから出力される第1の和周波光SF1は第2の偏光状態であり、第1のCLBO結晶70aから出力される第2のパルスレーザ光PL2は第1の偏光状態である。
【0088】
第2のダイクロイックミラー61b及びダンパ63の作用は第1の実施形態と同様であり、第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とが、第1のパルスレーザ光PL1から分離される。第2のダイクロイックミラー61bで分離された第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、二波長波長板71に入射する。二波長波長板71では、透過する第1の和周波光SF1の偏光方向は変わらず第2の偏光状態のままであり、第2のパルスレーザ光PL2の偏光方向が90°回転して第2の偏光状態となる。
【0089】
二波長波長板71を透過した第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、第2のCLBO結晶60bにほぼ同時に入射する。第2のCLBO結晶60bに入射する第1の和周波光SF1と第2のパルスレーザ光PL2とは、共に第2の偏光状態である。
【0090】
第2のCLBO結晶60bと第3のダイクロイックミラー61cとの作用は、第1の実施形態と同様である。第2のCLBO結晶60bでは、波長約193.4nmの第2の和周波光SF2が生成される。第3のダイクロイックミラー61cにより高反射された第2の和周波光SF2は、第3の高反射ミラー52cにより反射され、前述の第3のパルスレーザ光PL3として波長変換システム13bから出力される。
【0091】
3.3 効果
次に、本実施形態に係る露光装置用レーザ装置に含まれる波長変換システム13bの効果について説明する。本実施形態では、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとの間に二波長波長板71を配置することにより、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとを共にタイプ-1の位相整合条件を有する非線形光学結晶とすることができる。タイプ-1の結晶は、タイプ-2の結晶よりも入手性が高い。したがって、本実施形態は、第1の実施形態の効果に加えて、波長変換システム13bを安価に製造することができるという効果を有する。
【0092】
なお、製造コストを考慮しなければ、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとを共にタイプ-2の結晶とすることも可能である。しかし、この場合には、表2に示すように、第2のCLBO結晶60bの非線形定数(pm/V)が約0.692と、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとが共にタイプ-1の結晶の場合の値である約0.998と比べて低くなってしまう。したがって、第1のCLBO結晶70aと第2のCLBO結晶60bとを共にタイプ-2の結晶とすることは、本実施形態と比べてあまり利点はない。
【0093】
【0094】
4.ビーム径の関係
次に、第1の実施形態において、第1のCLBO結晶60a及び第2のCLBO結晶60bに入射する各パルスレーザ光のビーム径について説明する。
【0095】
図9Aにおいて、Waは、第1のCLBO結晶60aに入射する入射端面における第2のパルスレーザ光PL2のビーム径を示す。Wbは、第2のCLBO結晶60bに入射する入射端面における第2のパルスレーザ光PL2のビーム径を示す。第2のパルスレーザ光PL2は赤外光であり、ビームウェストが顕著に現れる。Wcは、第2のパルスレーザ光PL2のビームウェスト位置におけるビーム径を示す。
【0096】
図9Bにおいて、Wdは、第1のCLBO結晶60aに入射する入射端面における第1のパルスレーザ光PL1のビーム径を示す。Weは、第2のCLBO結晶60bに入射する入射端面における第1の和周波光SF1のビーム径を示す。
【0097】
各ビーム径は、Wa>Wb及びWd>Weの関係を満たすことが好ましい。さらに、Wa<Wd及びWb<Weの関係を満たすことが好ましい。また、第2のパルスレーザ光PL2のビームウェスト位置は、第1のCLBO結晶60aの出射端面の位置から第2のCLBO結晶60bの中央の位置までの範囲R1内に位置することが好ましい。
【0098】
表3は、第1のCLBO結晶60a及び第2のCLBO結晶60bの各端面におけるパルスレーザ光の強度の理想値を示す。各強度は、理想値の±20%の範囲内であることが好ましい。
【0099】
【0100】
次に、第2の実施形態において、第1のCLBO結晶70a及び第2のCLBO結晶60bに入射する各パルスレーザ光のビーム径について説明する。
図10Aおよび
図10BにおけるWa~Weは、上記第2の実施形態の場合の定義と同様である。第2の実施形態においても各ビーム径は、Wa>Wb及びWd>W
eの関係を満たすことが好ましい。さらに、Wa<Wd及びWb<Weの関係を満たすことが好ましい。また、第2の実施形態においては、第2のパルスレーザ光PL2のビームウェスト位置は、二波長波長板71から第2のCLBO結晶60bの中央の位置までの範囲R2内に位置することが好ましい。
【0101】
第2の実施形態においても上記と同様に、第1のCLBO結晶70a及び第2のCLBO結晶60bの各端面におけるパルスレーザ光の強度は、表3に示す理想値の±20%の範囲内であることが好ましい。
【0102】
5.波長調整可能範囲
表4は、第1及び第2の実施形態における波長の調整可能範囲を示す。第1のパルスレーザ光PL1の波長を約257.5nmと固定し、第2のパルスレーザ光PL2を1549nm以上1557nm以下の範囲内で変化させた場合、第1の和周波光SF1の波長は220.80nm以上220.96nm以下の範囲内で変化する。また、この場合、第2の和周波光SF2の波長は193.25nm以上193.50nm以下の範囲内で変化する。
【0103】
【0104】
6.露光装置
次に、露光装置8の構成について説明する。
図11において、露光装置8は、照明光学系80と投影光学系81とを含む。照明光学系80は、露光装置用レーザ装置2から入射したレーザ光によって、レチクルステージRTのレチクルパターンを照明する。投影光学系81は、レチクルを透過したレーザ光を、縮小投影してワークピーステーブルWT上に配置された図示しないワークピースに結像させる。ワークピースはフォトレジストが塗布された半導体ウエハ等の感光基板である。
【0105】
露光装置8は、レチクルステージRTとワークピーステーブルWTとを同期して平行移動させることにより、レチクルパターンを反映したレーザ光をワークピースに露光する。以上のような露光工程を利用して半導体デバイスを製造する。以上のような露光工程によって半導体ウエハにデバイスパターンを転写し、加工することで半導体デバイスを製造することができる。
【0106】
なお、露光装置用レーザ装置2に含まれる波長変換システムは、第1の実施形態の波長変換システム13aと、第2の実施形態の波長変換システム13bとのいずれであってもよい。
【0107】
また、上記各実施形態では、非線形光学結晶としてCLBO結晶を用いているが、CLBO結晶に代えて、KBBF(KBe2BO3F2)結晶やBBO(β-BaB2O4)結晶を用いることも可能である。
【0108】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の各実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0109】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される修飾句「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。