(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】金属酸硫化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/20 20060101AFI20221216BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20221216BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20221216BHJP
C09K 11/84 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C01B17/20
C01G23/00 D
C01G23/00 C
C09K11/08 A
C09K11/84
(21)【出願番号】P 2019042071
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2021-09-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 耕
(72)【発明者】
【氏名】東 智弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 正士
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紘章
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-005998(JP,A)
【文献】特開2002-173307(JP,A)
【文献】国際公開第2011/117992(WO,A1)
【文献】特開2002-233770(JP,A)
【文献】特開2002-302672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/20
C01G 1/00-23/00
C09K 11/08、11/84
H01M 4/00-4/58
B01J 21/00-37/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸硫化物であるA
aB
bO
cS
d(Aは、Y、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びLaからなる群より選択される1種以上を含み、Bは、Ti、Nb、Ta及びLaからなる群より選択される1種以上を含み
かつTiを必須とし、1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦d≦2.3である。)を、反応炉中で金属酸化物含有原料と硫化水素とを反応させて製造する工程を含み、前記工程は、以下のM1~
3のうち少なくとも一つを含む、金属酸硫化物の製造方法。
M1:金属酸化物含有原料が
イオウを化学両論組成の1.05倍以上1.5倍以下含む。M2:反応炉中に導入する雰囲気ガスが
イオウを含む。
M3:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に
イオウが存在する。
【請求項2】
前記金属酸化物含有原料が、前記金属酸硫化物の化学量論組成よりもイオウが少ない化学量論組成を有する金属酸化物含有原料を含む、請求項1に記載の金属酸硫化物の製造方法。
【請求項3】
前記AがYを含む、請求項
1又は2に記載の金属酸硫化物の製造方法。
【請求項4】
前記A中のYの含有量が80モル%以上であり、かつ、
前記B中のTiの含有量が80モル%以上である、請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の金属酸硫化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸硫化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸硫化物A2B2O5S2(AはY、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Laから1種又は2種以上を組み合わせたものであり、BはTi、Nb、Ta、Laから1種又は2種以上を組み合わせたものである。)は、半導体、あるいは光触媒、反応電極等に使用される有用な物質である。
【0003】
A2B2O5S2は金属酸硫化物であり、その製造時にイオウ源として硫化水素ガス(H2S)を用いて反応させる製造手法(特許文献1)が知られており、例えば、特許文献1には、Y及びErの共沈物を、硫化水素と窒素の混合雰囲気中で加熱することにより、Y・Er酸硫化物を得る技術が開示されている。また、イオウ源として、金属硫化物、イオウ粉末を用いて反応させる製造手法(特許文献2)が知られており、例えば、特許文献2には、Gd及びPrの混合酸化物粉末にイオウ粉末を混合させたものを焼成することによりGd2O2S:Pr蛍光体粉末を得る技術が開示されている。
上記後者の手法のように、金属硫化物やイオウ粉末をイオウ源に用いる場合においては、反応は真空中で行われ、ガラス容器等で真空密閉して焼成が行われることが多く、一度に製造可能な量もガラス容器の耐圧強度の問題から制限されてしまうことの他、目的の酸硫化物A2B2O5S2を得るには2~10日という長時間の焼成が必要となることも知られている。
一方で、上記前者の手法のように、硫化水素ガスをイオウ源に用いる場合においては、通常の雰囲気制御炉の流通ガスを硫化水素として焼成するだけで、原料の真空密閉等が不要であることの他、金属酸硫化物A2B2O5S2が数時間程度の極めて短い時間で得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-235547号公報
【文献】特開2004-204053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の硫化水素ガスをイオウ源に用いて金属酸硫化物A2B2O5S2を製造する手法においては、H2Sの分解で生じるH2により得られる金属酸硫化物A2B2O5S2のB元素が一部還元された電子状態をとり、例えばB元素が還元され、カチオンの価数が小さくなり、その分アニオン(酸素又はイオウ)を欠損する等の欠陥構造が生じてしまう。このような欠陥構造は、半導体材料としての機能を考えるうえで、電子の伝達を阻害することから望ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、欠陥構造の発生が抑制された金属酸硫化物を製造することができる、金属酸硫化物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硫化水素ガスをイオウ源として用いた金属酸硫化物A2B2O5S2の製造において、H2Sの分解で生じるH2が、生成した金属酸硫化物A2B2O5S2を還元し、その結果として、欠陥構造が生じたり、さらに、不純物が生じたりしていること
を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、硫化水素ガスをイオウ源として金属酸硫化物A2B2O5S2を製造するに当たり、反応雰囲気中に水素ガス生成を抑制する、又は水素ガスを捕集する機構を組み込み、アニオンの欠損や、還元性のH2による結晶性の悪化、化学量論組成からのずれ、B元素があるべき価数から外れてしまうことを防ぎ、光触媒や、反応電極としてより高い性能を発揮できる金属酸硫化物A2B2O5S2を供給することができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 金属酸硫化物であるAaBbOcSd(Aは、Y、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びLaからなる群より選択される1種以上を含み、Bは、Ti、Nb、Ta及びLaからなる群より選択される1種以上を含み、1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦d≦2.3である。)を、反応炉中で金属酸化物含有原料と硫化水素とを反応させて製造する工程を含み、前記工程は、以下のM1~4のうち少なくとも一つを含む、金属酸硫化物の製造方法。
M1:金属酸化物含有原料が硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M2:反応炉中に導入する雰囲気ガスが硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M3:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に硫化水素の分解を抑制する成分を発生させる物質が存在する。
M4:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に水素を捕集する機構を設ける。
[2] 前記金属酸化物含有原料が、前記金属酸硫化物の化学量論組成よりもイオウが少ない化学量論組成を有する金属酸化物含有原料を含む、[1]に記載の金属酸硫化物の製造方法。
[3] 前記M2における雰囲気ガスが、硫化水素及びイオウを含む混合ガスである、[1]又は[2]に記載の金属酸硫化物の製造方法。
[4] 前記AがYを含む、[1]乃至[3]のいずれかに記載の金属酸硫化物の製造方法。
[5] 前記BがTiを含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の金属酸硫化物の製造方法。
[6] 前記AがYを含み、A中のYの含有量が80モル%以上であり、かつ、前記BがTiを含み、B中のTiの含有量が80モル%以上である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の金属酸硫化物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、欠陥構造の発生が抑制された金属酸硫化物を製造することができる、金属酸硫化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である金属酸硫化物の製造方法を適用することができる反応システムの例である。
【
図2】実施例1及び2、並びに比較例1における、各粉末試料の紫外・可視拡散反射スペクトルの測定結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
なお、本発明では、金属酸化物含有原料や硫化水素を含め、金属酸硫化物の製造に用いられる全ての材料をまとめて「原料」と称する場合もある。
【0012】
本発明の一実施形態である金属酸硫化物の製造方法(以下、単に「金属酸硫化物の製造
方法」とも称する。)は、金属酸硫化物であるAaBbOcSd(Aは、Y、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びLaからなる群より選択される1種以上を含み、Bは、Ti、Nb、Ta及びLaからなる群より選択される1種以上を含み、1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦d≦2.3である。)を、反応炉中で金属酸化物含有原料と硫化水素とを反応させて製造する工程(以下、「反応工程」とも称する。)を含み、かつ、前記工程は、以下のM1~4のうち少なくとも一つを含む、金属酸硫化物の製造方法である。
M1:金属酸化物含有原料が硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M2:反応炉中に導入する雰囲気ガスに硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M3:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に硫化水素の分解を抑制する成分を発生させる物質が存在する。
M4:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に水素を捕集する機構を設ける。
【0013】
上記実施形態である金属酸硫化物の製造方法は、金属酸硫化物A
aB
bO
cS
dが生成する反応が生じている場所に、硫化水素ガス(H
2S)が下記の反応式(1)で表される反応により、硫化水素ガスが還元性の水素ガスを生じる反応を抑制する、又は、水素ガスを捕集する機構を導入し、目的物であるA
aB
bO
cS
dに欠陥や副生成物が混入しないようにするものである。
【化1】
【0014】
硫化水素ガスが還元性の水素ガスを生じる反応を抑制する、又は、水素ガスを捕集する機構の導入とは、以下に示すM1~4のいずれかを少なくとも含むことに相当する。
M1:金属酸化物含有原料が硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M2:反応炉中に導入する雰囲気ガスが硫化水素の分解を抑制する成分を含む。
M3:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に硫化水素の分解を抑制する成分を発生させる物質が存在する。
M4:反応炉中に金属酸化物含有原料とは別に水素を捕集する機構を設ける。
以下に、金属酸硫化物や反応工程、上記のM1~4等の詳細を説明する。
【0015】
<1.金属酸硫化物>
上記実施形態により製造される金属酸硫化物は、AaBbOcSdで表される金属酸硫化物である。
Aは、Y(イットリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、La(ランタン)から1種又は2種以上を組み合わせたものである。
特にこれらの中では、Y、Sm、Gd、Tb、Ho、Erを含むことが好ましく、Y、Smを含むことがより好ましく、最も好ましくはYを含むことである。
A中のYの含有量は、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。また、化合物の安定性としては100モル%であることが最も好ましいが、例えば触媒としての寿命等の特性を改善するために別の元素を添加してもよく、その場合、添加量は20モル%以下、より好ましくは10モル%以下であることが好ましい。一
また、aは、結晶の安定性の観点から、1.7≦a≦2.3であるが、1.8≦a≦2.2であることが最も好ましい。
また、Aが2種以上の金属元素を組み合わせたものである場合、A1a1A2a2のように表すことができ、それぞれの金属元素に対してaの値を特定することができ、また、それぞれのaの合計値(a1+a2)に対して上記のaの範囲を特定することができる。例えば、Aaを、Y1.5Pr0.5のように表すことができる。
【0016】
Bは、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、La(ランタン)から1種又は2種以上を組み合わせたものである。特にこれらの中でも、Tiを含むことが好ましい。Tiは過剰なH+の影響により、本来あるべき4価から、3価に変わりやすいため、特に本発明の製造方法の効果が顕著であるためである。B中のTiの含有量は、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。また、化合物の安定性としては100モル%であることが最も好ましいが、例えば触媒としての寿命等の特性を改善するために別の元素を添加してもよく、その場合、添加量は20モル%以下、より好ましくは10モル%以下であることが好ましい。
なお、LaはAとしてもBとしても用いることができる。このためLaが入っているときには、同時に入っているカチオン元素と、アニオン元素を見て、その電荷のバランスから、どちらにどの程度入っているのかを判断すればよい。
【0017】
AがYを含み、かつ、BがTiを含む態様が特に好ましく、さらに、マトリクスとなる元素が一定以上含まれていることが結晶の構造上安定する観点から、A中のYの含有量が80モル%以上であり、かつ、B中のTiの含有量が80モル%以上であることが好ましい。
【0018】
また、bは、1.7≦b≦2.3であり、より好ましくは1.8≦b≦2.2である。
また、上記のAと同様に、Bが2種以上の金属元素を組み合わせたものである場合、B1b1B2b2のように表すことができ、それぞれの金属元素に対してbの値を特定することができ、また、それぞれのbの合計値(b1+b2)に対して上記のbの範囲を特定することができる。例えば、Bbを、Ti1.5Nb0.5と表すことができる。
【0019】
cは、酸素の量であり、本発明の一般式においては基準となる。この値を5とする。
dは、イオウの量であり、酸素と共にアニオン側の電荷を担う。酸素を5とする基準を用いているため、若干の変動が許容され、1.7≦d≦2.3であるが、1.8≦d≦2.2であることがより好ましい。
これら組成に関しては、カチオンはICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析、アニオンについてはONH計(酸素・窒素・水素分析装置)、炭素・イオウ分析装置を用いて行えばよい。
【0020】
金属酸硫化物AaBbOcSdの用途は、特段制限されないが、例えば、磁性体や、誘電体、蛍光体、光触媒、反応電極、導電体、フィルター顔料等に用いることができる。
【0021】
<2.金属酸硫化物の特性>
<2-1.紫外・可視拡散反射スペクトル測定>
上記の金属酸硫化物に対して紫外・可視拡散反射スペクトル測定を行うことにより、従来の方法で製造された金属酸硫化物との差異を確認することができる。
当該測定条件は、特段制限されないが、例えば、以下の条件とすることができる。
測定装置:V-670 Spectrophotometer(JASCO製)
・測定範囲:300~800mm
・データ間隔:1.0nm
・走査速度:10000nm/分
・光源切換え:340.0nm
・データ解析ソフト:Spectra Manager version 2
解析:縦軸をクベルカ-ムンク(K.M.)変換
クベルカ-ムンク変換式
f(R∞)=(1-R∞)2/2R∞=K/S
ここで、f(R∞)はK.M.関数、R∞は絶対反射率、Kは分子吸光係数、Sは散乱係数である。
なお、試料の絶対反射率R∞を測定することは困難であり、実際には標準試料を用いた相対反射率r∞を用いることが一般的である。よって、
r∞=r(測定試料)/r(標準試料)(標準試料としてBaSO4を使用)
を用いて相対反射率r∞の測定を行い、
f(r∞)=(1-r∞)2/2r∞=K/S
より、導出してもよい。
【0022】
上記の実施形態で製造された金属酸硫化物がYaTibOcSd(1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦d≦2.3)である場合、当該金属酸硫化物は、従来の製造方法で製造されたYaTibOcSd(1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦d≦2.3)と比較して、拡散反射スペクトルの長波長側に差がみられる。これは、Ti元素の局所的な還元が抑えられたためであると推定される。このため、上記の実施形態で製造されたYaTibOcSdの光活性は優れたものとなる。
【0023】
また本発明の製造方法により、YaTibOcSd(1.7≦a≦2.3、1.7≦b≦2.3、c=5、1.7≦a≦2.3)であって、紫外・可視拡散反射スペクトルの波長300nm以上600nm未満におけるスペクトル強度の最大値に対する、波長600nmにおけるスペクトル強度の比率が、1.7以上である、金属酸硫化物が得られ、これも光活性は優れたものとなる。
【0024】
以下、本実施形態を適用することができる反応システムを示す
図1を参照しながら、反応工程や上記のM1~4等の詳細を説明する。ただし、当該実施形態を適用できる反応システムは
図1の態様に限定されない
【0025】
<3.反応炉中で金属酸化物含有原料と硫化水素とを反応させて製造する工程>
上記の金属酸硫化物は、反応炉10中で金属酸化物含有原料16と硫化水素とを反応させることにより製造される。
【0026】
<3-1.金属酸化物含有原料>
金属酸化物含有原料は、上記のA及びB、並びにO(酸素)の元素を含むものであれば特段制限されないが、例えば、A元素を含む酸化物(Aa3Oc3)や硫化物(Aa3Sd3)、酸硫化物(Aa3Oc3Sd3)のうちから1種類又は2種類以上、B元素を含む酸化物(Bb3Oc3)や硫化物(Bb3Sd3)、酸硫化物(Bb3Oc3Sd3)のうちから1種類又は2種類以上、A元素及びB元素を含む酸化物(Aa3Bb3Oc3)や硫化物(Aa3Bb3Sd3)、酸硫化物(Aa3Bb3Oc3Sd3)のうちから1種類又は2種類以上、A元素及びB元素を含む共沈組成物を任意に用いることができる。
金属酸化物含有原料の化学量論組成におけるA、B及びOの元素の量、つまり、上記のa3、b3及びc3は、特段制限されず、上述した目的物である金属酸硫化物のa、b及びcと同様でなくともよいが、所望の金属酸硫化物が得られるという観点からは、同様であることが好ましい。また、金属酸化物含有原料の化学量論組成におけるSの元素の量、つまり、上記のd3は、特段制限されないが、目的物である金属酸硫化物のdより小さいことが好ましい。
【0027】
金属酸化物含有原料の製造方法は、特段限定されず、一般的な金属酸化物の製造方法を採用することができ、例えば、チタンテトライソプロポキシドと硝酸イットリウムとクエン酸とを1:1:15の割合で、エチレングリコールメタノール溶液中にて混合し、200℃に加熱して重合させた後、350℃及び500℃の二段階でそれぞれ1時間焼成して、前駆体酸化物Y2Ti2O7を得ることができる。また、市販品を用いることができる。
【0028】
本発明における「金属酸化物含有原料」は、単一の物質であっても、複数の物質を混合したものであってもよい。
また、金属酸化物含有原料は、欠陥構造発生の抑制の観点から、目的の金属酸硫化物の化学量論組成よりもイオウが少ない化学量論組成を有する金属酸化物含有原料を含むことが好ましい。
また、本発明では、金属酸化物含有原料を前駆体の語を用いて、例えば、AaBbOcを前駆体酸化物とも称する。
【0029】
入手が容易であるという観点から、A元素がYである場合には、Y2O3又はY2S3Y2S2Oが好ましく、B元素がTiである場合には、TiO2が好ましい。また、A元素及びB元素を含む酸化物とする場合は、Y2Ti2O7等が用いられる。
【0030】
金属酸化物含有原料の粒径は、特に制限されないが、一般に、小さい方が反応性及び均一性が向上する点から好ましく、体積基準の平均粒径で、1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることが特に好ましく、一方で、小さ過ぎると取扱いが難しくなるため、平均粒径で5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることが特に好ましい。
体積基準の平均粒径は、レーザー粒度計により測定された値である。ここで体積基準の平均粒径とは、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、試料を測定し、粒度分布(累積分布)を求めたときの体積基準の相対粒子量が50%になる粒子径(d50)と定義される。
【0031】
<3-2.硫化水素>
硫化水素の態様は、特段限定されず、気体であっても液体であってもよいが、常温常圧での安定性の観点から、気体、つまり硫化水素ガスであることが好ましい。その態様に関わらず、市販されているものを用いることができる。
【0032】
<3-3.反応炉>
反応炉10は、金属酸化物含有原料と硫化水素とを反応させることができるものであれば特段限定されず、一般的な反応炉を用いることができる。例えば、石英管状炉や電気マッフル炉を用いることができる。
また、反応炉中の金属酸化物含有原料の配置態様は、特段制限されないが、例えば、反応炉に台や器(例えば、
図1に示すアルミナボード14)等を設置し、その上に金属酸化物含有原料を配置することもできる。
【0033】
反応炉には、金属酸化物含有原料と硫化水素との反応に用いられる設備を備えることができ、例えば、反応を促進させるためのヒーターや、金属酸化物含有原料を載置させるための台や器(例えば、アルミナボード、白金ボートなど)等が挙げられる。
【0034】
<3-4.反応条件>
反応炉10中に載置された金属酸化物含有原料16と硫化水素とを反応させる反応条件について、以下に示す。
反応炉中の反応圧力は、特段限定されないが、特段の設備が必要ない点から、通常0.
001MPa以上であり、0.005MPa以上であることが好ましく、常圧が最も好ましい。ただし反応時の加熱、発熱により、特段の設備を設けることなく常圧より高くなっても良い。上限としては通常100MPa以下であり、50MPa以下であることが好ましく、最も好ましくは上述の通り常圧である。
反応炉中の反応温度は、特段限定されないが、目的とする金属酸硫化物を高純度で得る観点から、通常300℃以上であり、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、800℃以上であることがさらに好ましく、900℃以上であることが特に好ましく、一方で、通常2000℃以下であり、1800℃以下であることが好ましく、1400℃以下であることがより好ましく、1300℃以下であることがさらに好ましく、1200℃以下であることが特に好ましい。
なお、反応温度を制御する手段として、
図1に示すように、反応炉に反応用ヒーター13を設けることができる。
【0035】
気体の硫化水素を用いる場合、その流量は、特段限定されないが、十分な反応を進行させる観点から、通常0.01l/時間以上であり、0.02l/時間以上であることが好ましく、0.03l/時間以上であることがより好ましく、0.04l/時間以上であることがさらに好ましく、0.05l/時間以上であることが特に好ましく、一方で、通常50l/時間以下であり、45l/時間以下であることが好ましく、40l/時間以下であることがより好ましく、30l/時間以下であることがさらに好ましく、20l/時間以下であることが特に好ましい。
【0036】
気体の硫化水素を用いる場合、硫化水素を含むガスの流速は、特段限定されないが、不純物相の生成を抑制や目的試料の飛散を抑制する観点から、通常0.1m/S以上であり、0.2m/S以上であることが好ましく、0.3m/S以上であることがより好ましく、0.4m/S以上であることがさらに好ましく、0.5m/S以上であることが特に好ましく、一方で、通常500m/S以下であり、400m/S以下であることが好ましく、300m/S以下であることがより好ましく、250m/S以下であることがさらに好ましく、200m/S以下であることが特に好ましい。
【0037】
反応炉中の雰囲気は、特段制限されないが、目的の金属酸硫化物の収率や均一性の向上の目的から、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。
なお、上述のM2においては、後述するM2の説明における雰囲気ガスの条件を適用し得る。
【0038】
<4.M1~4>
<4-1.M1>
M1は、金属酸化物含有原料16が硫化水素の分解を抑制する成分を含むことである。
硫化水素の分解を抑制する成分とは、特段制限されないが、例えば、単体のイオウ(S)や金属硫化物等が挙げられる。単体のイオウを添加することにより、下記の式(1)における化学平衡、つまり、硫化水素と当該硫化水素の分解物であるイオウ及び水素との化学平衡において、硫化水素が生成する側に平衡が移動するために硫化水素の分解を抑制することができる。添加とは、例えば、金属酸化物含有原料と、硫化水素の分解を抑制する成分とを混合させることを意味する。
【化2】
【0039】
単体のイオウの添加量は、特段制限されないが、金属酸化物含有原料中のイオウと併せたイオウの合計量を、目的物である金属酸硫化物の化学量論組成から算出される理論上必要なイオウの量より多くすることが好ましい。具体的には、金属酸化物含有原料が全て目的の金属酸硫化物の化学量論組成を有する金属酸硫化物となった場合の当該金属酸硫化物に含まれるイオウの量(以下、「金属酸硫化物中のイオウの量」とも称する)よりも、単体のイオウと金属酸化物含有原料中のイオウとを合わせたイオウの合計量(以下、「原料中のイオウ量」とも称する)より多くなることが必要である。
上記の金属酸硫化物中のイオウ量に対する原料中のイオウ量の比率は、特段制限されないが、不純物相の生成を抑制する観点から、通常1.05倍以上1.5倍以下であり、1.05倍以上1.2倍以下であることが好ましい。
【0040】
単体のイオウの添加量が過剰である場合、当該イオウの未反応分が揮発し、上記の式(1)における化学平衡において、硫化水素が生成する側に平衡が移動する。この段階で反応炉中のイオウが金属酸化物含有原料に混入するため、単体のイオウの不純物濃度はなるべく低い方が好ましく、純度として95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。不純物が、反応時の温度で揮発してすぐに反応の生じている場所から移動してしまう場合、又は反応温度では安定したものである場合には、この程度の純度で問題ない。
【0041】
単体のイオウの態様は、特段制限されず、粉末(イオウ粉末)として用いることができ、また、これは市販品を用いることができる。
【0042】
<4-2.M2>
M2は、反応炉10中に導入する雰囲気ガスに硫化水素の分解を抑制する成分を含むことである。
雰囲気ガスとしては、特段限定されず、窒素等の不活性ガスにイオウを添加したものを使用してもよいが、好ましくは硫化水素とイオウとの混合ガスにすることである。当該混合ガスの混合比は、イオウが少量でも含まれていれば原理的には効果があるので、特に限定されないが、イオウ含有量に対して5~20vlo%が好ましい。また、使用する硫化水素の純度は、不純物相の生成を抑制する観点から、95vol%以上が好ましい。不活性ガスを使用する場合においても、同様に95vol%以上が好ましい。
イオウを含むガスは、間欠的に導入してもよく、反応中、又は反応後にも連続して導入してもよい。
また、雰囲気ガスの流量や流速等は、上述した反応炉中の気体の硫化水素の条件と同様とすることができる。
【0043】
<4-3.M3>
M3は、反応炉10中に金属酸化物含有原料16とは別に硫化水素の分解を抑制する成分を発生させる物質が存在することである。
当該成分を発生させる物質は、単体のイオウが好ましく、例えば、イオウ粉末を用いることができる。当該M3においては、イオウ自体の純度が多少低くても、イオウが先に揮発して気体となって雰囲気中に残り、金属酸化物含有原料中に不純物が入り込み難くなる点で好ましい。
当該成分を発生させる物質の存在位置は、特に制限されないが、金属酸化物含有原料よりもガス流入側に存在することが必要である。「存在する」の態様は特段制限されず、例えば、反応炉や反応炉中に設置した台や器(例えば、
図1に示すアルミナボード14)等の上に金属酸化物含有原料が置かれている状態を示す。
また、
図1に示すように、反応炉10にヒーター12を設けることにより、イオウの揮発を促進させることができる。
【0044】
<4-4.M4>
M4は、反応炉10中に金属酸化物含有原料16とは別に水素を捕集する機構を設けることである。
当該M4において、水素を捕集する物質としては、水素吸蔵合金等の他、水素ガスを分離する膜等又はこれらを組み合わせたものを用いてもよい。
水素吸蔵合金は、特段制限されず、例えば、チタン、マンガン、ジルコニウム、ニッケル等の遷移元素をベースとしたAB2型、ニッケル、コバルト、アルミニウム等の遷移元素をベースとしたAB5型、Ti-Fe系、V系、Mg合金、Pd系、Ca系合金等を用いることができる。
水素ガスを分離する膜としては、例えばパラジウム膜、シリカ膜、ゼオライト膜、高分子膜などを用いることができ、特に分離すべきガスの温度を考慮すると、パラジウム膜、シリカ膜、ゼオライト膜を好ましく用いることができる。
【0045】
<5.その他の工程>
上述の実施形態は、上記の反応工程以外の工程、例えば、以下の工程を含んでもよい。<5-1.金属酸化物含有原料の調製工程>
反応工程よりも前に、金属酸化物含有原料を調製する工程を含んでもよい。調整方法は特段制限されないが、例えば、錯体重合法による調製が挙げられる。例えば、チタンテトライソプロポキシド、硝酸イットリウム及びクエン酸を、エチレングリコールメタノール溶液中で混合し、特定の温度で加熱して錯体重合させることにより、金属酸化物含有原料Y2Ti2O7を調製することができる。
<5-2.金属酸化物含有原料の焼成工程>
反応工程よりも前に、金属酸化物含有原料を焼成する焼成工程を含んでもよい。
焼成温度は、特段制限されないが、粒子の過度な成長を抑制しつつ、硫化水素との反応を阻害する粒子表面に吸着した水分を除去できるという観点から、通常60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが特に好ましく、一方で、通常1000℃以下であり、900℃以下であることが好ましく、850℃以下であることが特に好ましい。
【0046】
<5-3.酸処理工程>
硫化後の金属酸化物含有原料は、粒子表層の還元生成物を除去する目的で、酸処理を行う工程を含んでもよい。
酸処理に用いられる酸性物質は、特段制限されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、王水、有機酸などを用いることができる。
【0047】
<6.反応システム>
図1は、上記の金属酸硫化物の製造方法を適用することができる、本発明の一実施形態である反応システムの一例である。当該製造方法を適用できる反応システムは、
図1の態様に限定されない。
【0048】
図1の反応システムは、酸化ケイ素メッシュ11、イオウ粉末15を載置したアルミナボード14、及び金属酸化物含有原料を載置したアルミナボード14を備える反応炉10、並びに該反応炉10の外側に備えられた、イオウ粉末を揮発させるためのヒーター12、及び原料化合物と硫化水素等のイオウとの反応を促進させるための反応用ヒーター13を有する。当該
図1において、イオウ粉末15は、他の硫化水素の分解を抑制する成分を発生させる物質とすることができ、また、酸化ケイ素メッシュは、系内の過剰イオウ分が炉外へ接続する配管内部で閉塞することを回避する目的で設置してある。
【0049】
図1において、アルミナボード14、ヒーター12、及び反応用ヒーター13については、使用の有無は任意である。また、イオウ粉末15等の硫化水素の分解を抑制する機構
についても、使用の有無は任意であるが、これ使用しない場合には、金属酸化物含有原料が硫化水素の分解を抑制する成分を含んでいることが必要となる。
【0050】
図1の反応システムを使用する場合、例えば、まず反応炉10に窒素ガスを流通させてガス置換を行い、その後、反応ガスである硫化水素ガスを流通させ、再度ガス置換を行う。更に、ガス導入部前段(ガス流入側)に載置された、イオウを生成する設備としてのイオウ粉末をヒーター12で加熱してイオウガスを発生させる。イオウガスの発生により、硫化水素の量を増加させることができる。そして、反応用ヒーター13で加熱させながら、当該イオウガス及び硫化水素ガスを、ガス導入部後段(ガス排出側)に載置された金属酸化物含有原料と反応させることで目的の金属酸硫化物を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<金属酸化物含有原料の調製>
金属酸化物含有原料として前駆体酸化物Y2Ti2O7を用いた。当該前駆体酸化物Y2Ti2O7は、錯体重合法により調製した。具体的には、チタンテトライソプロポキシドと硝酸イットリウムとクエン酸とを1:1:15の割合で、エチレングリコールメタノール溶液中にて混合し、200℃に加熱して重合させた後、350℃及び500℃の二段階でそれぞれ1時間焼成して、前駆体酸化物Y2Ti2O7を得た。
【0053】
<イオウとの反応>
[実施例1:イオウ蒸気添加硫化法]
上記前駆体酸化物Y2Ti2O7をアルミナボートに載せ、石英管状炉に封入し、窒素ガスを流通し、ガス置換を行った。その後、反応ガスである硫化水素ガスを流通し、再度ガス置換を行った。更にガス導入部前段(ガス流入側)に前述のイオウガスを生成する成分として、前駆体酸化物に対して10モル倍量のイオウ粉末を封入し、150℃で加熱保持することでイオウガスを発生させた。このイオウガス及び硫化水素を50mL/minで流通しながら1050℃まで10℃/minで昇温し、その後60分間保持することで金属酸硫化物Y2Ti2O5S2の粉末試料Aを得た。
【0054】
[実施例2:イオウ粉末添加硫化法]
上記前駆体酸化物Y2Ti2O7を前駆体に対して10モル倍量のイオウ粉末を混合した後、アルミナボートに載せ、石英管状炉に封入し、窒素ガスを流通してガス置換を行った。その後、反応ガスである硫化水素ガスを流通し、再度ガス置換を行った。更に、硫化水素を50mL/minで流通しながら1050℃まで10℃/minで昇温し、その後60分間保持することで金属酸硫化物Y2Ti2O5S2の粉末試料Bを得た。
【0055】
[比較例1:従来法]
上記前駆体酸化物Y2Ti2O7をアルミナボートに載せ、石英管状炉に封入し、窒素ガスを流通し、ガス置換を行った。その後、反応ガスである硫化水素ガスを流通し、再度ガス置換を行った。硫化水素を50mL/minで流通しながら1050℃まで10℃/minで昇温し、その後60分間保持することで金属酸硫化物Y2Ti2O5S2の粉末試料Cを得た。
【0056】
<酸処理>
上記の硫化後の各粉末試料について、粒子表層の還元生成物を除去する目的で以下の操作を行った。各粉末試料を9mol/Lの硫酸溶液に浸漬し、2時間攪拌をすることで粒子表面のエッチングを行った。その後、各粉末試料を十分に水洗した後、40℃かつ減圧
下で一晩乾燥を行った。
【0057】
<紫外・可視拡散反射スペクトル測定>
上記の酸処理後の各粉末試料に対して紫外・可視拡散反射スペクトル測定を行った。
当該測定条件は、特段制限されないが、例えば、以下の条件とすることができる。
測定装置:V-670 Spectrophotometer(JASCO製)
・測定範囲:300~800mm
・データ間隔:1.0nm
・走査速度:10000nm/分
・光源切換え:340.0nm
・データ解析ソフト:Spectra Manager version 2
解析:縦軸をクベルカ-ムンク(K.M.)変換
クベルカ-ムンク変換式
f(R∞)=(1-R∞)2/2R∞=K/S
ここで、f(R∞)はK.M.関数、R∞は絶対反射率、Kは分子吸光係数、Sは散乱係数である。
なお、試料の絶対反射率R∞を測定することは困難であり、実際には標準試料を用いた相対反射率r∞を用いることが一般的である。よって、
r∞=r(測定試料)/r(標準試料)(標準試料としてBaSO4を使用)
を用いて相対反射率r∞の測定を行い、
f(r∞)=(1-r∞)2/2r∞=K/S
より、導出した。
【0058】
上記の酸処理後の粉末試料A~C(実施例1及び2、並びに比較例1)の紫外・可視拡大反射スペクトル測定の結果を
図2に示す。当該
図2から、実施例1及び2は、比較例1と比較して、600nm以上に吸収を有する成分の減少が大きいことが分かる。具体的に、スペクトルの波長300nm以上600nm未満におけるスペクトル強度の最大値(S
max)に対する、波長600nmにおけるスペクトル強度(S
600)の比率を算出したところ、実施例1は2.47(S
max:2.696、S
600:1.091)、実施例2は2.64(S
max:2.987、S
600:1.131)、比較例1は1.65(S
max:2.583、S
600:1.563)となった。これは、前述の金属酸硫化物中のTi元素の局所的な還元が実施例1及び2においては抑制できていることを示しており、従来技術である比較例1における硫化水素ガスから還元性の水素ガスへの分解反応が、実施例1及び2では抑制されていると考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 反応システム
10 反応炉
11 酸化ケイ素メッシュ
12 ヒーター
13 反応用ヒーター
14 アルミナボード
15 イオウ粉末
16 金属酸化物含有原料