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特許7209277水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/48 20060101AFI20230113BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20230113BHJP
   B63G 8/00 20060101ALI20230113BHJP
   B63G 8/22 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B63C11/48 D
B63C11/00 C
B63G8/00 L
B63G8/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018192296
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020059414
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521511542
【氏名又は名称】三菱重工マリタイムシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】永橋 賢司
(72)【発明者】
【氏名】福島 裕之
(72)【発明者】
【氏名】各務 均
(72)【発明者】
【氏名】大木 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】ソーントン ブレア
(72)【発明者】
【氏名】増田 殊大
(72)【発明者】
【氏名】長野 和則
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127178(JP,A)
【文献】特開平04-349093(JP,A)
【文献】特開2005-178437(JP,A)
【文献】特開平08-145733(JP,A)
【文献】特開2001-308766(JP,A)
【文献】米国特許第06840188(US,B1)
【文献】特開2015-193345(JP,A)
【文献】特開2016-175537(JP,A)
【文献】特開2003-291888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00 - 11/52
B63G 8/00
B63G 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、この本体部と分離可能な浮体部を有して構成され、回収装置によって回収可能な水中航走体であって、
該水中航走体の垂直尾翼は板状をなし、前記垂直尾翼の一部または全部が前記浮体部として前記本体部から分離可能とされ、さらに前記浮体部に通信機器が搭載されており、水中において前記本体部と前記浮体部とを分離すると、前記本体部と前記浮体部とが索状体でつながれた状態で前記浮体部及び前記通信機器が水面に浮上して、前記通信機器が無線通信を行える状態となり、
前記通信機器との無線通信により受信した位置情報に基づいて前記回収装置が前記浮体部に接近して、接近した前記回収装置及び前記浮体部の相対位置を前記回収装置の位置検知装置で検知し、前記位置検知装置で検知した前記相対位置に基づいて前記回収装置による回収を行うことを特徴とする水中航走体。
【請求項2】
前記通信機器が、前記浮体部の位置情報を取得する測位機器と、前記測位機器で取得した前記浮体部の位置情報を発信する発信機器とを有して構成された請求項1に記載の水中航走体。
【請求項3】
前記索状体が、前記本体部と前記浮体部との間で通電可能な通電用ケーブルを有して構成されている請求項1または2に記載の水中航走体。
【請求項4】
前記索状体が、前記本体部と前記浮体部との間でデータ通信可能な通信用ケーブルを有して構成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の水中航走体。
【請求項5】
前記浮体部が密閉可能なバラストタンクを有して構成され、前記本体部又は前記浮体部に、前記バラストタンク内のバラスト水量を変更する注排水機構を備えている請求項1~4のいずれか1項に記載の水中航走体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水中航走体を展開目標水域に展開する展開装置が接続可能な展開用曳航装置と、活動を終えた前記水中航走体を回収する前記回収装置が接続可能な回収用曳航装置とを有して構成された水中航走体の展開回収システムであって、
前記展開用曳航装置に搭載された展開用制御装置は、前記水中航走体を展開する際に、前記本体部と前記浮体部とが連結された状態の前記水中航走体を、前記展開用曳航装置に接続された前記展開装置に着脱可能に連結した状態で、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操舵制御を行うように構成され、
前記展開用制御装置又は前記水中航走体に搭載された制御機器は、前記展開目標水域において前記展開装置と前記水中航走体との連結を解除して、前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御を行うように構成されているとともに、
前記制御機器は、
前記水中航走体の回収の際には、前記本体部から前記浮体部を分離して前記浮体部及び前記本体部を前記索状体によって接続した状態で前記浮体部及び前記通信機器を水面に浮上させる制御と、水面に浮上した前記通信機器により前記浮体部の位置情報を発信する制御を行うとともに、
前記回収用曳航装置に搭載された回収用制御装置は、前記通信機器から発信された前記浮体部の位置情報を利用して、前記回収用曳航装置及び前記回収装置を水面に浮上した前記浮体部の近傍まで移動させる接近操舵制御と、前記回収装置に前記水中航走体の前記索状体又は前記浮体部を引掛かけて前記水中航走体を捕捉する捕捉操舵制御と、前記回収装置に前記水中航走体を捕捉した状態で前記回収用曳航装置及び前記回収装置を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御とを行うように構成されていることを特徴する水中航走体の展開回収システム。
【請求項7】
前記展開用曳航装置が無人航行船であり、前記展開用曳航装置に無線通信可能な通信装置が搭載され、前記通信装置と前記展開用制御装置とが通信可能に接続されており、前記通信装置及び前記展開用制御装置を介して、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操縦制御と、前記展開目標水域において前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御とを遠隔操作で行う構成となっている請求項6に記載の水中航走体の展開回収システム。
【請求項8】
前記展開用曳航装置が自律型無人航行船であり、前記展開用制御装置に予め前記展開目標水域の位置情報を入力しておくことにより、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操縦制御と、前記展開目標水域において前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御とを、前記展開用制御装置が自律的に行うように構成されている請求項6に記載の水中航走体の展開回収システム。
【請求項9】
前記回収用曳航装置が無人航行船であり、前記回収用曳航装置に無線通信可能な通信装置が搭載され、前記通信装置及び前記回収用制御装置が通信可能に接続されており、前記通信装置及び前記回収用制御装置を介して、前記回収用曳航装置が遠隔操作可能な構成となっている請求項6~8のいずれか1項に記載の水中航走体の展開回収システム。
【請求項10】
前記回収用曳航装置が自律型無人航行船であり、前記回収用曳航装置に搭載されている前記回収用制御装置に予め回収する前記水中航走体を登録しておくことにより、登録された前記水中航走体を回収する前記接近操舵制御、前記捕捉操舵制御、及び前記帰投操舵制御を、前記回収用制御装置が自律的に行うように構成されている請求項6~8のいずれか1項に記載の水中航走体の展開回収システム。
【請求項11】
前記展開用曳航装置及び前記回収用曳航装置が、前記展開装置、前記展開用制御装置、前記回収装置、及び前記回収用制御装置を兼ね備えた同じ曳航装置で構成されている請求項6~10のいずれか1項に記載の水中航走体の展開回収システム。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水中航走体を展開目標水域に展開し、活動を終えた前記水中航走体を回収する水中航走体の展開回収方法であって、
展開用曳航装置に接続された展開装置に前記本体部と前記浮体部とを分離していない状態の前記水中航走体を着脱可能に連結した状態で、前記展開装置を前記展開用曳航装置によって前記展開目標水域まで曳航し、前記展開目標水域において前記展開装置と前記水中航走体との連結を解除して前記展開装置から前記水中航走体を切り離すことにより、前記水中航走体を水中に展開し、
前記水中航走体の回収の際に、前記水中航走体の前記本体部から前記浮体部を分離して、前記浮体部及び前記本体部を前記索状体によって接続した状態で前記浮体部及び前記通信機器を水面に浮上させ、前記通信機器により前記浮体部の位置情報を発信し、その発信された浮体部の位置情報を利用して、前記回収装置が接続された回収用曳航装置を水面に浮かんだ前記浮体部に接近させ、前記回収装置に前記水中航走体の前記索状体又は前記浮体部を引掛けることにより、前記水中航走体を前記回収装置に捕捉した状態とし、前記回収装置に前記水中航走体を捕捉した状態で前記回収用曳航装置及び前記回収装置を前記水中航走体の回収目標水域まで移動させることにより、前記水中航走体を回収することを特徴する水中航走体の展開回収方法。
【請求項13】
前記展開用曳航装置による前記水中航走体の展開と、前記回収用曳航装置による前記水中航走体の回収を、前記展開装置及び前記回収装置を兼ね備えた同じ曳航装置で行う請求項12に記載の水中航走体の展開回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法に関し、より詳細には、簡易に展開及び回収することができる水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底測量や海底の地形調査等を行う水中で活動する装置として、水中航走体が知られている。水中航走体は、オペレーターが遠隔操作する遠隔操作無人探査機(ROV)や、自立型無人潜水機(AUV)等様々な種類を有しており、科学分野や商業分野、軍用分野等で広く利用されている。
【0003】
従来では、水中航走体の活動水域に支援母船を待機させ、支援母船に搭載されている音響装置と、水中航走体に搭載されている音響機器との間で水中における音響通信を行うことで、支援母船と水中航走体との相対位置情報を取得している。そして、活動を終えた水中航走体の回収を行う際には、音響通信によって取得した支援母船と水中航走体との相対位置情報を利用して、支援母船と水中航走体とを接近させ、支援母船に搭載したクレーンを使用して、水中航走体を水中から支援母船上に揚収するのが一般的である。
【0004】
しかしながら、水中における音響通信は、気中における電波による無線通信に比べて、使用できる周波数帯域が狭く、単位時間当たりに伝送できる情報量が少ない。また、音波は電波に比べて伝搬速度が遅く、水中における雑音の影響やドップラー効果の影響を受け易い。そのため、水中における音響通信では、支援母船と水中航走体との離間距離が遠い場合には、水中航走体の位置をタイムラグが少ない状態で精度よく特定することは難しい。
【0005】
また、クレーンを用いて水中航走体を回収する方法では、支援母船にクレーンを設置するスペースと、水中航走体を収容するスペースが必要となる。また、水中航走体を回収する際には、水中に位置する水中航走体にクレーンの吊具を接続する作業や、クレーンによって水中航走体を船上に引き上げる作業を行う必要があり、その作業には乗組員が必要となる。そのため、従来では、水中航走体を利用して海底測量や海底の地形調査等を行う場合には、比較的大きな支援母船と多くの乗組員が必要とされていた。
【0006】
そこで、小規模な船舶で水中航走体の回収を行える水中航走体の発射回収システムとして、船舶によって曳航する発射回収装置を備え、水中において発射回収装置(発射回収カゴ)に水中航走体を収容する発射回収システムが提案されている(特許文献1参照)。この発射回収システムでは、水中に沈めた発射回収カゴの位置及び姿勢を計測し、その計測された発射回収カゴの姿勢に合わせて水中航走体の姿勢を制御することにより、発射回収カゴに水中航走体を進入させて収容する。しかしながら、水中に沈められている発射回収装置は潮の流れやうねりの影響を受けるため不規則な動きをする。また、水中航走体も潮の流れやうねりの影響を受けるため、発射回収装置の姿勢の変化に合わせて水中航走体の姿勢を精度よく一致させることは非常に難しい。それ故、この発射回収システムで水中航走体を回収するには水中航走体に高度な制御が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-544521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易に展開及び回収することができる水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するための本発明の水中航走体は、本体部と、この本体部と分離可能な浮体部を有して構成された水中航走体であって、前記浮体部が、当該水中航走体の垂直尾翼の一部または全部であり、さらに前記浮体部に通信機器が搭載されており、水中において前記本体部と前記浮体部とを分離すると、前記本体部と前記浮体部とが索状体でつながれた状態で前記浮体部及び前記通信機器が水面に浮上して、前記通信機器が無線通信を行える状態となることを特徴とする水中航走体とする。
【0010】
この水中航走体によれば、水中航走体を水中へ展開する際や水中航走体を水中で活動させる際には、水中航走体の本体部と浮体部とを分離せずに連結した状態にすることで、水中航走体の性能を維持できる。水中航走体が水中での活動を終え、水中航走体の回収を行う際には、通信機器が搭載されている浮体部を本体部から分離して、浮体部とともに通信機器を水面に浮上させることで、水中航走体が通信機器によって電波による無線通信を行える状態にすることができる。そして、水中航走体の通信機器と無線通信を行うことで、水中航走体から遠く離れた地点においても、浮体部の位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。
【0011】
さらに、水中航走体は垂直尾翼が上側に位置した状態で活動するので、前記浮体部を水中航走体の垂直尾翼の一部または全部にすることで、本体部から垂直尾翼の一部または全部を切り離すだけで、浮体部である垂直尾翼を円滑に水面に浮上させることができる。また、垂直尾翼が本体部よりも上側に位置した状態で分離されるので、本体部から浮体部を分離した際に、浮体部が本体部に接触する可能性や索状体が本体部に絡まる可能性も低くなる。
【0012】
さらに、水中航走体の本体部と浮体部とを分離すると、本体部と浮体部が索状体でつながれた状態で浮体部が水面に浮かんだ状態となるので、水面に浮かぶ水中航走体の浮体部を目印にして、回収用曳航装置(船舶や潜水艇)に接続された回収装置に水中航走体の浮体部又は索状体を引掛けることで、水中航走体を容易に捕捉することができる。そして、回収装置に水中航走体を捕捉した状態で、回収用曳航装置及び回収装置を回収目標水域まで移動させることで、水中航走体を回収用曳航装置上に揚収することなく、回収目標水域まで移送することができる。
【0013】
このように、この水中航走体では、水中航走体の回収を行う回収用曳航装置にクレーンを設置するスペースや水中航走体を収容するスペースを設けることなく回収を行えるので、小規模な回収用曳航装置で多くの水中航走体を回収することが可能となる。
【0014】
上記の水中航走体において、前記通信機器が、前記浮体部の位置情報を取得する測位機器と、前記測位機器で取得した前記浮体部の位置情報を発信する発信機器とを有して構成されると、通信機器を構成する測位機器及び発信機器によって、測位システムから取得した浮体部の位置情報を発信できるので、その発信される位置情報を受信することで、水中航走体から遠く離れた地点においても、浮体部の位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。
【0015】
上記の水中航走体において、前記索状体が、前記本体部と前記浮体部との間で通電可能な通電用ケーブルを有して構成されていると、水中航走体の本体部に搭載しているバッテリーから通電用ケーブルを介して浮体部に搭載されている通信機器に電力を供給することが可能となるので、浮体部にバッテリーを搭載する必要がなくなる、或いは、浮体部に搭載するバッテリーを小さくすることができる。また、浮体部に無線で電力を受電可能な受電機器を備える場合には、浮体部に搭載された受電装置から通電用ケーブルを介して本体部のバッテリーの充電を行うことも可能となる。
【0016】
上記の水中航走体において、前記索状体が、前記本体部と前記浮体部との間でデータ通信可能な通信用ケーブルを有して構成されていると、水中航走体の本体部に蓄積されているデータを、通信用ケーブルを介して浮体部に搭載されている通信機器によって発信することが可能となる。
【0017】
上記の水中航走体において、前記浮体部が密閉可能なバラストタンクを有して構成され、前記本体部又は前記浮体部に、前記バラストタンク内のバラスト水量を変更する注排水機構を備えている構成にすると、注排水機構によって浮体部のバラストタンク内のバラスト水量を変更することで、浮体部の比重を変更することが可能となる。これにより、本体部と浮体部とを連結している水中航走体の展開時や活動時には、浮体部のバラストタンク内のバラスト水量を多くして浮体部の比重を重くすることで、水中における水中航走体の姿勢制御を行い易くなる。一方、水中航走体を回収する際には、浮体部のバラストタンク内のバラスト水量を少なくして浮体部の比重を軽くすることで、浮体部が水面に浮上しやすい状態にすることができる。
【0018】
上記のような目的を達成するための本発明の水中航走体の展開回収システムは、上記のいずれかに記載の水中航走体を展開目標水域に展開する展開装置が接続可能な展開用曳航装置と、活動を終えた前記水中航走体を回収する回収装置が接続可能な回収用曳航装置とを有して構成された水中航走体の展開回収システムであって、前記展開用曳航装置に搭載された展開用制御装置は、前記水中航走体を展開する際に、前記本体部と前記浮体部とが連結された状態の前記水中航走体を、前記展開用曳航装置に接続された前記展開装置に着脱可能に連結した状態で、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操舵制御を行うように構成され、前記展開用制御装置又は前記水中航走体に搭載された制御機器は、前記展開目標水域において前記展開装置と前記水中航走体との連結を解除して、前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御を行うように構成されているとともに、前記制御機器は、前記水中航走体の回収の際には、前記本体部から前記浮体部を分離して前記浮体部及び前記本体部を前記索状体によって接続した状態で前記浮体部及び前記通信機器を水面に浮上させる制御と、水面に浮上した前記通信機器により前記浮体部の位置情報を発信する制御を行うとともに、前記回収用曳航装置に搭載された回収用制御装置は、前記通信機器から発信された前記浮体部の位置情報を利用して、前記回収用曳航装置及び前記回収装置を水面に浮上した前記浮体部の近傍まで移動させる接近操舵制御と、前記回収装置に前記水中航走体の前記索状体又は前記浮体部を引掛かけて前記水中航走体を捕捉する捕捉操舵制御と、前記回収装置に前記水中航走体を捕捉した状態で前記回収用曳航装置及び前記回収装置を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御とを行うように構成されていることを特徴する。
【0019】
この水中航走体の展開回収システムによれば、本体部と浮体部とが連結された状態の水中航走体を展開装置に連結し、展開用制御装置により、展開用曳航装置によって展開装置を展開目標水域まで曳航する操舵制御を行うことで、水中航走体を展開目標水域まで移送することができる。そして、展開用制御装置又は水中航走体に搭載された制御機器により、展開目標水域において展開装置と水中航走体との連結を解除して展開装置から水中航走体を切り離す制御を行うことで、水中航走体を展開目標水域に簡易に展開することができる。
【0020】
水中航走体を回収する際には、水中航走体の制御機器により、水中航走体の通信機器が搭載されている浮体部を本体部から分離して浮体部とともに通信機器を水面に浮上させる制御と、水面に浮上した通信機器により浮体部の位置情報を発信する制御を行うことで、水中航走体から遠く離れた地点においても、浮体部の位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。そして、通信機器から発信される浮体部の位置情報を利用して、回収用曳航装置の回収用制御装置により、回収用曳航装置及び回収装置を水面に浮上した浮体部の近傍まで移動させる接近操舵制御と、回収用曳航装置を操舵制御して回収装置に水面に浮かんでいる浮体部又は索状体を引掛けて水中航走体を捕捉する捕捉操舵制御を行うことで、水中航走体を容易に捕捉することができる。そして、回収装置に水中航走体を捕捉した状態で、回収用曳航装置の回収用制御装置により、回収用曳航装置及び前記回収装置を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御を行うことで、水中航走体を回収用曳航装置上に揚収することなく、水中航走体を回収目標水域まで移送することができる。
【0021】
このように、この水中航走体の展開回収システムでは、水中航走体の展開を行う展開用曳航装置と、水中航走体の回収を行う回収用曳航装置に、クレーンを設置するスペースや水中航走体を収容するスペースを設ける必要がないため、小規模な展開用曳航装置及び回収用曳航装置で多くの水中航走体を展開回収することが可能となる。
【0022】
上記の水中航走体の展開回収システムにおいて、前記展開用曳航装置が無人航行船であり、前記展開用曳航装置に無線通信可能な通信装置が搭載され、前記通信装置と前記展開用制御装置とが通信可能に接続されており、前記通信装置及び前記展開用制御装置を介して、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操縦制御と、前記展開目標水域において前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御とを遠隔操作で行う構成にすると、展開用曳航装置に乗組員を搭乗させる必要がなくなるため、水中航走体の展開に要する労力やコストを低減するには有利になる。
【0023】
上記の水中航走体の展開回収システムにおいて、前記展開用曳航装置が自律型無人航行船であり、前記展開用制御装置に予め前記展開目標水域の位置情報を入力しておくことにより、前記展開用曳航装置によって前記展開装置を前記展開目標水域まで曳航する操縦制御と、前記展開目標水域において前記展開装置から前記水中航走体を切り離す制御とを、前記制御装置が自律的に行うように構成されていると、展開装置に水中航走体を装着し、展開用曳航装置の展開用制御装置に展開目標水域の位置情報を入力するだけで、水中航走体を自動で展開目標水域に展開することができるので、海底測量や海底の地形調査等を少ない人員で効率的に行うことが可能となる。
【0024】
上記の水中航走体の展開回収システムにおいて、前記回収用曳航装置が無人航行船であり、前記回収用曳航装置に無線通信可能な通信装置が搭載され、前記通信装置及び前記回収用制御装置が通信可能に接続されており、前記通信装置及び前記回収用制御装置を介して、前記回収用曳航装置が遠隔操作可能な構成であると、回収用曳航装置に乗組員を搭乗させることなく、水中航走体を回収することが可能となるため、水中航走体の回収に要する労力やコストを低減するには有利になる。
【0025】
上記の水中航走体の展開回収システムにおいて、前記回収用曳航装置が自律型無人航行船であり、前記回収用曳航装置に搭載されている前記回収用制御装置に予め回収する前記水中航走体を登録しておくことにより、登録された前記水中航走体を回収する前記接近操舵制御、前記捕捉操舵制御、及び前記帰投操舵制御を、前記回収用制御装置が自律的に行うように構成されていると、回収用曳航装置に搭載されている回収用制御装置に予め回収する水中航走体を登録するだけで、水中航走体を自動的に回収することができるので、海底測量や海底の地形調査等を少ない人員で効率的に行うには益々有利になる。
【0026】
上記の水中航走体の展開回収システムにおいて、前記展開用曳航装置及び前記回収用曳航装置が、前記展開装置、前記展開用制御装置、前記回収装置、及び前記回収用制御装置を兼ね備えた同じ曳航装置で構成されていると、水中航走体の展開及び回収を同じ曳航装置で行えるので、海底測量や海底の地形調査等をより少ない設備で効率的に行うことができる。
【0027】
上記のような目的を達成するための本発明の水中航走体の展開回収方法は、上記のいずれかに記載の水中航走体を展開目標水域に展開し、活動を終えた前記水中航走体を回収する水中航走体の展開回収方法であって、展開用曳航装置に接続された展開装置に前記本体部と前記浮体部とを分離していない状態の前記水中航走体を着脱可能に連結した状態で、前記展開装置を前記展開用曳航装置によって前記展開目標水域まで曳航し、前記展開目標水域において前記展開装置と前記水中航走体との連結を解除して前記展開装置から前記水中航走体を切り離すことにより、前記水中航走体を水中に展開し、前記水中航走体の回収の際に、前記水中航走体の前記本体部から前記浮体部を分離して、前記浮体部及び前記本体部を前記索状体によって接続した状態で前記浮体部及び前記通信機器を水面に浮上させ、前記通信機器により前記浮体部の位置情報を発信し、その発信された浮体部の位置情報を利用して、回収装置が接続された回収用曳航装置を水面に浮かんだ前記浮体部に接近させ、前記回収装置に前記水中航走体の前記索状体又は前記浮体部を引掛けることにより、前記水中航走体を前記回収装置に捕捉した状態とし、前記回収装置に前記水中航走体を捕捉した状態で前記回収用曳船装置及び前記回収装置を前記水中航走体の回収目標水域まで移動させることにより、前記水中航走体を回収することを特徴する。
【0028】
この水中航走体の展開回収方法によれば、展開用曳航装置によって展開装置に連結された水中航走体を展開目標水域まで曳航し、展開目標水域において展開装置と水中航走体との連結を解除して展開装置から水中航走体を切り離すだけで、水中航走体を展開目標水域に簡易に展開することができる。
【0029】
水中航走体を回収する際には、水中航走体の通信機器が搭載されている浮体部を本体部から分離して、浮体部とともに通信機器を水面に浮上させ、水面に浮上した通信機器により浮体部の位置情報を発信することで、水中航走体から遠く離れた地点においても、浮体部の位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することができる。そして、通信機器から発信された浮体部の位置情報を利用して、回収用曳航装置及び回収装置を水面に浮上した浮体部の近傍まで移動させ、回収用曳航装置を操舵制御して回収装置に水面に浮かんでいる浮体部又は索状体を引掛けて捕捉することで、水中航走体を容易に捕捉することができる。そして、回収装置に水中航走体を捕捉した状態で、回収用曳航装置及び回収装置を回収目標水域まで移動させることで、水中航走体を曳航装置上に揚収することなく、回収目標水域まで移送することができる。
【0030】
このように、この水中航走体の展開回収方法では、水中航走体の展開を行う展開用曳航装置と、水中航走体の回収を行う回収用曳航装置に、クレーンを設置するスペースや水中航走体を収容するスペースを設ける必要がないため、小規模な展開用曳航装置及び回収用曳航装置で多くの水中航走体を展開回収することが可能となる。
【0031】
上記の水中航走体の展開回収方法において、前記展開用曳航装置による前記水中航走体の展開と、前記回収用曳航装置による前記水中航走体の回収を、前記展開装置及び前記回収装置を兼ね備えた同じ曳航装置で行う構成にすると、水中航走体の展開及び回収を同じ曳航装置で行えるので、海底測量や海底の地形調査等をより少ない設備で効率的に行うには有利になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法によれば、水中航走体を水中へ展開する際や水中航走体を水中で活動させる際には、水中航走体の本体部と浮体部とを連結した状態にすることで、水中航走体の性能を維持できる。水中航走体を展開する際には、水中航走体を連結した状態の展開装置を展開用曳航装置によって展開目標水域まで曳航し、展開目標水域において展開装置と水中航走体との連結を解除して展開装置から水中航走体を切り離すことで、水中航走体を展開目標水域に簡易に展開することができる。また、水中航走体の回収を行う際には、通信機器が搭載されている浮体部を本体部から分離して、浮体部とともに通信機器を水面に浮上させ、水中航走体の通信機器が気中における無線通信を行なえる状態になることで、水中航走体から遠く離れた地点においても、浮体部の位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。さらに、本体部から浮体部を分離した後には、本体部と浮体部とが索状体でつながれた状態で、浮体部が水面に浮かんだ状態となるので、回収用曳航装置に接続されている回収装置に水面に浮かんでいる浮体部又は索状体を引掛けることで、水中航走体を容易に捕捉することができる。そして、回収装置に水中航走体を捕捉した状態で、回収用曳航装置及び回収装置を回収目標水域まで移動させることで、水中航走体を回収用曳航装置上に揚収することなく、回収目標水域まで移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る実施の形態の水中航走体を模式的に示す側面図である。
図2図1の水中航走体が本体部から浮体部を分離した状態を模式的に示す側面図である。
図3】水中航走体を展開する展開装置と水中航走体を回収する回収装置が接続されている曳航装置を模式的に示す側面図である。
図4図3の展開装置、回収装置、及び曳航装置を模式的に示す平面図である。
図5】展開装置に水中航走体を装着した状態を模式的に示す側面図である。
図6図5の展開装置付近を模式的に示す部分拡大側面図である。
図7】水中航走体を装着した状態の展開装置を模式的に示す平面図である。
図8】回収装置で水中航走体を捕捉した状態を模式的に示す側面図である。
図9】回収装置で水中航走体を捕捉した状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施の形態の水中航走体、水中航走体の展開回収システム、及び水中航走体の展開回収方法を、図面を参照しながら説明する。
【0035】
本発明に係る実施の形態の水中航走体の展開回収システムは、展開装置を備えた展開用曳航装置と、回収装置を備えた回収用曳航装置を使用して、水中航走体の展開目標水域への展開、及び、活動を終えた水中航走体の回収を行うシステムである。展開用曳航装置及び回収用曳航装置はそれぞれ別々の曳航装置で構成することもできるが、この実施の形態では、展開用曳航装置及び回収用曳航装置を、展開装置及び回収装置を兼ね備えた同じ曳航装置で構成する場合を例示する。以下では、展開用曳航装置及び回収用曳航装置を曳航装置20として説明する。
【0036】
図中では、曳航装置20の進行方向(前後方向)をX方向とし、X方向と水平面において直交する曳航装置20の幅方向(左右方向)をY方向とし、鉛直方向(上下方向)をZ方向としている。
【0037】
図1に例示するように、水中航走体1は、海底測量や海底の地形調査等を行う水中で活動する装置であり、自律型無人潜水機(AUV)や遠隔操作無人探査機(ROV)などが例示できる。本発明に係る実施の形態の水中航走体1は、本体部1Aと分離可能な浮体部1Bを有して構成され、浮体部1Bに通信機器3が搭載されている。
【0038】
図2に例示するように、この水中航走体1は、水中において本体部1Aと浮体部1Bとを分離すると、本体部1Aと浮体部1Bとが索状体1Cでつながれた状態で浮体部1B及び通信機器3が水面に浮上して、通信機器3が無線通信を行える状態となる。
【0039】
この実施の形態の通信機器3は、浮体部1Bの位置情報を取得する測位機器と、測位機器で取得した位置情報を発信する発信機器とを有して構成されている。通信機器3を構成する測位機器は例えば、全地球航法衛星システム(GNNS)等の衛星測位システムや、電波航法等の測位システムから浮体部1Bの位置情報(例えば、緯度経度等)を取得し、発信機器はその取得した浮体部1Bの位置情報を電波による無線通信で発信する。この通信機器3は、後に説明する曳航装置20に搭載された通信装置22と通信できる構成となっている。
【0040】
水中航走体1は、水中航走体1の回収を行う以前(展開時及び水中における活動時)には、本体部1Aから浮体部1Bを分離せずに、本体部1Aと浮体部1Bとが連結された状態で活動する。一方、水中航走体1の回収を行う際には、水中航走体1に搭載された制御機器4により、本体部1Aから浮体部1Bを分離して、浮体部1B及び本体部1Aを索状体1Cで接続した状態で浮体部1B及び通信機器を水面に浮上させる制御が行われる。
【0041】
この実施の形態で例示する水中航走体1の本体部1Aは、図1及び図2に示すように、細長の略楕円体形状であり、水中航走体1の後部に垂直尾翼2と、水平尾翼を有している。水中航走体1の水平尾翼の後部には推進器が装備されていて、垂直尾翼2の上部に通信機器3が設置されている。この水中航走体1では、垂直尾翼2の一部が浮体部1Bを構成しており、本体部1Aから浮体部1Bを分離して、浮体部1B及び通信機器3が水面に浮かぶと、通信機器3が電波による無線通信が行える状態となる。
【0042】
この実施の形態の浮体部1Bの上部には、さらに、無線で電力を受電可能な受電機器6と、発光機器12が設けられている。発光機器12は、浮体部1Bが水面に浮上した際に、周辺領域の照度が設定値以下の場合(夜間や荒天時等で暗い場合)に作動して点灯する構成となっている。
【0043】
さらに、この実施の形態の浮体部1Bは内部に密閉可能なバラストタンク9を有しており、本体部1Aにバラストタンク9内のバラスト水量を変更する注排水機構10が備えられている。なお、注排水機構10を浮体部1Bに備えた構成にすることもできる。
【0044】
この水中航走体1では、水中航走体1の回収を行う以前(展開時及び活動時)には、注排水機構10によりバラストタンク9内にバラスト水BWが貯水され、浮体部1Bの比重が重い状態に設定される。水中航走体1の回収を行う際には、注排水機構10によりバラストタンク9内のバラスト水BWの一部又は全部が排出されて、浮体部1Bの比重が軽くなった後に、制御機器4により、本体部1Aから浮体部1Bを分離して浮体部1Bを水面に浮上させる制御が行われる。本体部1Aから浮体部1Bを分離すると、浮体部1Bのバラストタンク9は密閉された状態となり、バラストタンク9内に水が進入しない状態となる。
【0045】
さらに、この実施の形態では、浮体部1Bの下部に錘11が設けられていて、浮体部1Bが水面に浮くと、錘11が設けられている浮体部1Bの下部が下側に位置し、通信機器3が設けられている浮体部1Bの上部が上側に位置するように構成されている。
【0046】
水中航走体1の本体部1Aと浮体部1Bとを接続する索状体1Cとしては、ロープやケーブル等が例示できる。この実施の形態の索状体1Cは、本体部1Aと浮体部1Bとの間で通電可能な通電用ケーブルと、本体部1Aと浮体部1Bとの間でデータ通信可能な通信用ケーブルとを有して構成されている。索状体1Cを構成する通電用ケーブル及び通信用ケーブルは通信機器3、受電機器6、及び発光機器12にそれぞれ接続されており、索状体1Cを介して本体部1Aと浮体部1Bとの間で通電及びデータ通信を行える構成になっている。索状体1Cは、本体部1Aと浮体部1Bとを連結している状態では、水中航走体1の内部に収容された状態となっている。
【0047】
水中航走体1の本体部1Aの上部には、音響機器5(トランスポンダ)と環状部材8が設けられている。環状部材8は、水中航走体1の本体部1Aの前後方向に離間した2ヶ所(複数の場所)に設けられている。水中航走体1の前端部には、被係合部材7がX方向に突設されている。この被係合部材7の詳細については後述する。
【0048】
なお、水中航走体1の形状や構造、本体部1A又は浮体部1Bに設けられる付帯設備(推進器や、音響機器5等)の有無及び配置等はこの実施の形態の構成に限定されず他にも様々な構成にすることができる。この実施の形態では、垂直尾翼2の一部が浮体部1Bを構成する場合を例示しているが、垂直尾翼2の全部が浮体部1Bを構成することもできる。
【0049】
次に、この水中航走体1の展開及び回収を行う展開装置30、回収装置50、及び曳航装置20について説明する。図3及び図4に例示するように、この実施の形態では、曳航装置20の後部に回収装置50が接続されており、回収装置50の後部に展開装置30が接続されている。
【0050】
図5及び図6に例示するように、展開装置30は、水中航走体1を装着して水面に浮かんだ状態で曳航される展開用構造体32と、展開用構造体32を曳航装置20に対して接続する接続機構31とを備えている。展開用構造体32は、水中航走体1を支持する支持フレーム33を有して構成されていて、支持フレーム33には、水中航走体1の一部又は全部を水没させた状態で水中航走体1を着脱可能に連結する着脱機構34が設けられている。
【0051】
図7に例示するように、この実施の形態の展開用構造体32は、Y方向に離間して配置されたX方向に延在する3つの支持フレーム33と、隣り合う支持フレーム33どうしを連結するY方向に延在する6つの連結フレーム40とを組み合わせて形成されている。支持フレーム33及び連結フレーム40はそれぞれ、内部に空洞が設けられた細長の円柱形状のフレームで構成されている。支持フレーム33及び連結フレーム40にはそれぞれ複数箇所に連結部33a、40aが設けられていて、支持フレーム33の連結部33aと連結フレーム40の連結部40aとが固定具によって着脱可能に接合されている。
【0052】
図6に例示するように、この実施の形態の着脱機構34は、水中航走体1の上部に設けられている環状部材8を引っ掛けるL字型のフック35と、水中航走体1の前端部と係合する係合機構36とで構成されている。フック35及び係合機構36はそれぞれ支持フレーム33の下部に設けられている。フック35は支持フレーム33の中央にX方向に離間して2か所(複数の場所)に配置されていて、前方のL字型のフック35よりもさらに前方に係合機構36が配置されている。さらに、この実施の形態では、支持フレーム33のX方向における前側のフック35と係合機構36との間の位置に、抑え部材39が設けられている。抑え部材39は、支持フレーム33の下部から下方に突設されている。
【0053】
図5及び図6に例示するように、水中航走体1は、推進方向がX方向となる向きで支持フレーム33の下方に配置される。そして、支持フレーム33に設けられているL字型のフック35に水中航走体1に設けられている環状部材8を挿通させて引っ掛けるとともに、水中航走体1の前端部(被係合部材7)と支持フレーム33に設けられた係合機構36(係合部材37)とを係合することで、支持フレーム33に対して水中航走体1が固定された状態となる。水中航走体1の前端部と係合機構36とを係合すると、抑え部材39によって水中航走体1の前方上部が抑えられた状態となり、抑え部材39によって水中航走体1の前方への移動と上方への移動が抑止された状態になる。
【0054】
この実施の形態では、1つの支持フレーム33に対してフック35及び係合機構36からなる着脱機構34と抑え部材39が1組ずつ設けられていて、1つの支持フレーム33に対して1台の水中航走体1が固定される構成になっている。また、支持フレーム33に水中航走体1が装着された状態で、水中航走体1の垂直尾翼2が支持フレーム33の後端部よりも後方に配置され、垂直尾翼2の上部に設けられた通信機器3が水上に露出した状態となるように構成されている。支持フレーム33どうしは連結フレーム40によって、水中航走体1が装着された状態で、水中航走体1どうしが互いに離間しているように連結されている。
【0055】
この実施の形態の係合機構36は、水中航走体1の前端部に設けられた被係合部材7に係合する係合部材37と、被係合部材7と係合部材37との係合を解除する解除部材38とを有して構成されている。この解除部材38としては、通電によりピンを移動させるようなソレノイドアクチュエータ等が例示できる。被係合部材7と係合機構36とを係合すると、解除部材38への通電がない状態では被係合部材7と係合部材37との係合状態が維持されて水中航走体1が支持フレーム33に支持された状態が維持される。そして、解除部材38に通電があると、被係合部材7と係合部材37との係合状態が解除され、水中航走体1が支持フレーム33から切り離される構成になっている。
【0056】
なお、構造体32を形成する支持フレーム33及び連結フレーム40の形状やサイズ、本数、配置等は、この実施の形態に限定されず、展開する水中航走体1のサイズや台数等に応じて他にも様々な構成にすることができる。また、必ずしも、水中航走体1、支持フレーム33及び連結フレーム40の形状やサイズを揃える必要はなく、曳航する水中航走体1に合わせて、それぞれに対応する支持フレーム33及び連結フレーム40を用いればよい。
【0057】
この実施の形態では、支持フレーム33及び連結フレーム40を内部に空洞が設けられたフレームで構成しているが、支持フレーム33及び連結フレーム40は他の部材で構成することもできる。支持フレーム33及び連結フレーム40は複数の部材を組み合わせて形成することもできる。また、この実施の形態では、支持フレーム33及び連結フレーム40自身の浮力によって構造体32が水面に浮かぶ構成としているが、構造体32を浮力材(浮き)の浮力によって浮かせる構成にすることもできる。
【0058】
展開用構造体32を曳航装置20に対して接続する接合機構31は、ロープやフレーム等で構成される。この実施の形態では接合機構31がロープで構成されており、展開用構造体32のY方向に離間して配置されたX方向に延在する3本のロープによって、回収装置50の回収用構造体52の後部と展開用構造体32の前部とが接続されている。支持フレーム33に設けられている連結部33aと連結フレーム40に設けられている連結部40aはそれぞれ、ロープを連結できる構成になっており、ロープの展開用構造体32側の端部は、支持フレーム33の連結部33aと連結フレーム40の連結部40aにそれぞれ連結されている。なお、この実施の形態では、回収装置50を介して曳航装置20と展開装置30とを間接的に接続しているが、接合機構31によって曳航装置20と展開装置30とを直接接続する構成にすることもできる。
【0059】
図8及び図9に例示するように、回収装置50は、水面に浮かんだ状態で曳航される回収用構造体52と、回収用構造体52を曳航装置20に接続する接続機構51とを備えている。この実施の形態では、曳航装置20の後ろ側に回収用構造体52が配置され、回収用構造体52の前部と曳航装置20の後部とが接続機構51によって接続されている。
【0060】
回収用構造体52は、水中航走体1が本体部1Aから浮体部1Bを分離した状態において、水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを引っ掛けることが可能な捕捉部53を有して構成されている。この実施の形態の捕捉部53は、索状体1C又は浮体部1Bを導入するゲート部54と、ゲート部54を通過した索状体1C又は浮体部1Bを拘束する袋小路部56と、索状体1C又は浮体部1Bをゲート部54から袋小路部56に誘導する誘導経路部55とを有して構成されている。この実施の形態では、曳航装置20の船尾部の左右両舷に捕捉部53が設けられている。捕捉部53を構成するゲート部54は曳航装置20の船側の外側に配置されており、ゲート部54の後部に誘導経路部55が配置され、誘導経路部55の後部に袋小路部56が配置されている。
【0061】
この実施の形態の回収用構造体52は、棒状のフレーム部材と浮力材(浮き)とを有して形成されている。ゲート部54は、曳航装置20の船側に沿って配置されたX方向に延在するフレーム部材と、そのフレーム部材のY方向外側に離間して配置されたX方向に延在するフレーム部材とで形成されている。ゲート部54に索状体1C又は浮体部1Bを導入しやすいように、Y方向外側に配置されているフレーム部材の前部はY方向外側に開くように屈曲した形状となっている。ゲート部54の前端部のY方向の開口幅Wは、平面視における浮体部1Bの最大幅よりも大きく設定されている。
【0062】
誘導経路部55はゲート部54を形成するフレーム部材と連続するフレーム部材で形成されている。袋小路部56は、X方向に延在する2本のフレーム部材の後端部が閉鎖された袋小路状に形成されており、この2本のフレーム部材は誘導経路部55を形成する2本のフレーム部材とそれぞれ連続するように形成されている。
【0063】
曳航装置20の左右両舷の捕捉部53を形成するフレーム部材どうしは、補強部材によって互いに連結されていて、捕捉部を形成するフレーム部材や補強部材の各所に浮力材が設置されている。
【0064】
この実施の形態では、曳航装置20の船尾部と回収用構造体52とが接続機構51を構成するフレーム部材によって連結されていて、曳航装置20に対して回収用構造体52が固定されている。回収装置50を曳航装置20で曳航する際には、捕捉部53(ゲート部54、誘導経路部55、及び袋小路部56)を構成するフレーム部材は、水面付近に位置した状態で曳航される構成となっている。なお、接続機構51はフレーム部材に限定されず、例えば、接続機構51をロープで構成し、曳航装置20と構造体52とをロープで接続する構成にすることもできる。
【0065】
曳航装置20(展開用曳航装置及び回収用曳航装置)は船舶や潜水艇で構成される。この実施の形態の曳航装置20は自律型無人航行船で構成されている。曳航装置20には、展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bが搭載されている。さらに、曳航装置20には、無線通信が可能な通信装置22が搭載されており、通信装置22と展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bはそれぞれ通信可能に接続されている。通信装置22は、全地球航法衛星システム(GNSS)等の測位システムから位置情報を取得できる構成となっている。この曳航装置20には、さらに、浮体部1Bに搭載された通信機器3から発信される浮体部1Bの位置情報を受信する受信装置24が搭載されていて、受信装置24と回収用制御装置21Bは通信可能に接続されている。
【0066】
水中航走体1を展開させる際には、展開用制御装置21Aは、曳航装置20によって展開装置30を展開目標水域まで曳航する操縦制御を行うとともに、展開目標水域において展開装置30と水中航走体1との連結を解除して、展開装置30から水中航走体1を切り離す制御を行うように構成されている。この実施の形態では、展開用制御装置21Aに水中航走体1を展開する展開目標水域の位置情報を入力することで、展開用制御装置21Aが、展開装置30を入力した展開目標水域まで曳航する操縦制御と、展開目標水域において展開装置30から水中航走体1を切り離す制御とを自律的に行う構成になっている。なお、展開目標水域において展開装置30から水中航走体1を切り離す制御を、水中航走体1の制御機器4によって行う構成にすることもできる。
【0067】
水中航走体1の回収を行う際には、回収用制御装置21Bは、曳航装置20を操舵制御して、曳航装置20及び回収装置50を水面に浮上した浮体部1Bの近傍まで移動させる接近操舵制御と、回収用構造体52(捕捉部53)に水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを引っ掛けて水中航走体1を捕捉する捕捉操舵制御と、回収用構造体52に水中航走体1を捕捉した状態で曳航装置20及び回収装置50を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御と、を行う構成になっている。この実施の形態では、回収用制御装置21に予め回収する水中航走体1を登録すると、回収用制御装置21Bが、登録された水中航走体1を回収する接近操舵制御、捕捉操舵制御、及び帰投操舵制御を、自律的に行なうように構成されている。
【0068】
この実施の形態の曳航装置20には、さらに、回収装置50及び浮体部1Bの相対位置を検知する位置検知装置25と、回収装置50に捕捉した水中航走体1を充電する充電装置26と、回収装置50に捕捉した水中航走体1が保有しているデータを取得するデータ取得装置27とが搭載されている。曳航装置20の船底などには、水中航走体1の音響機器5と音響通信可能な音響装置23が設置されている。
【0069】
位置検知装置25としては、カメラ装置やレーザースキャナ等が例示できる。例えば、位置検知装置25をカメラ装置で構成する場合には、カメラ装置で撮影した映像の解析を行うことによって、回収用構造体52の捕捉部53と浮体部1Bとの相対位置を求めることができる。この実施の形態では、回収用制御装置21Bによる曳航装置20の捕捉操舵制御が、位置検知装置25によって検知する回収装置50及び浮体部1Bの相対位置情報を利用して行われる構成となっている。なお、この実施の形態では、位置検知装置25を構成するカメラ装置を曳航装置20上に設置し、ゲート部54と浮体部1Bとの相対位置を検知する構成としているが、位置検知装置25は曳航装置20に限らず、回収装置50に設置することもできる。
【0070】
充電装置26は、構造体52の捕捉部53に水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを引掛けた状態で、水中航走体1に搭載されている受電機器6に電線が直接接続されない状態、つまり、非接触で電力を供給できる構成になっている。即ち、充電装置26と受電機器6との間で、電磁誘導方式、磁気共鳴方式、マイクロ波放電方式等による非接触電力伝送(ワイヤレス電力伝送、ワイヤレス給電)が行われる。
【0071】
データ取得装置27は、構造体52の捕捉部53に水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを引掛けた状態で、水中航走体1に搭載されている通信機器3を介して水中航走体1の保有データを例えば無線LANなどで取得できる構成になっている。
【0072】
なお、展開用制御装置21Aと回収用制御装置21Bは同一の制御装置で構成してもよい。また、通信装置22、受信装置24、及びデータ取得装置27も、同一の装置で構成してもよい。
【0073】
次に、水中航走体1を展開及び回収する方法を以下に説明する。
【0074】
水中航走体1の展開を行う際には、展開装置30の展開用構造体32に水中航走体1を装着する。この実施の形態では、まず、支持フレーム33の下方に水中航走体1を配置して、それぞれの支持フレーム33の下部に設けられているL字型のフック35に、水中航走体1の上部に設けられている環状部材8を引っ掛けた状態にする。そして、水中航走体1の前端部に設けられている被係合部材7を、支持フレーム33の下部に設けられている係合機構36に係合する。
【0075】
具体的には、係合部材37に設けられている係合穴に被係合部材7を挿入して、被係合部材7と係合部材37とを係合した状態にする。以上により、支持フレーム33に水中航走体1が固定され、水中航走体1が支持フレーム33に支持された状態となる。水中航走体1は、水中に展開する前の段階では、電力消費を抑えたスリープモードに設定された状態となっていて通信機器3以外には極力電力を使用しない状態となっている。
【0076】
次いで、接続機構31により曳航装置20に対して展開用構造体32を接続した状態で、水中航走体1が装着された状態の展開用構造体32を水面に浮かべる。すると、展開用構造体32は水面に浮かんだ状態となり、展開用構造体32の下部に固定されている水中航走体1の一部又は全部が水没した状態となる。この実施の形態では、水中航走体1の垂直尾翼2の上部に設けられた通信機器3は水面よりも上側に位置して通信可能な状態となり、水中航走体1のその他の部分は水没した状態となる。浮体部1B(垂直尾翼2)のバラストタンク9内のバラスト水量は、注排水機構10によって水中航走体1が水中において活動する際の水量に設定される。以上により、展開時における曳航前のセッティングが完了する。
【0077】
次いで、水中航走体1を展開する展開目標水域まで、曳航装置20によって展開装置30を曳航する。この実施の形態では、曳航装置20の展開用制御装置21Aに展開目標水域の位置情報(例えば、緯度経度)を入力することで、展開用制御装置21Aが、通信機器3によって取得される位置情報を利用して、展開装置30を展開目標水域まで曳航する操舵制御を自律的に行う。
【0078】
水中航走体1は通信機器3が通信可能な状態で曳航されるので、水中航走体1の管理部(水中航走体1の管理者が待機する遠隔地)は、曳航装置20が水中航走体1を曳航している間、通信機器3と通信することで、水中航走体1の位置情報等を取得することができる。
【0079】
そして、曳航装置20が展開目標水域に到着した後、展開目標水域において着脱機構34による水中航走体1の連結を解除して、展開用構造体32(支持フレーム33)から水中航走体1を切り離すことにより、水中航走体1を水中に展開する。
【0080】
この実施の形態では、曳航装置20が予め入力された展開目標水域に到着すると、展開用制御装置21により、通信装置22を介して水中航走体1の通信機器3と通信することで、スリープモードに設定されていた水中航走体1を発進モードに切り替える制御が行われる。そして、水中航走体1が発進モードに切り替わると、曳航装置20側又は水中航走体1側から解除部材38に電気が流され、解除部材38で発生する電磁力によって被係合部材7と係合部材37との係合状態が解除され、水中航走体1と係合機構36との連結が解除される構成となっている。
【0081】
そして、係合機構36による連結が解除された状態で、曳航装置20が前進すると、支持フレーム33に対して水中航走体1が相対的に後方にスライド移動することで、L字型のフック35から水中航走体1の環状部材8が外れて、水中航走体1が展開用構造体32(支持フレーム33)から切り離された状態となり、水中航走体1が水中に展開される。以上により、水中航走体1の展開作業が完了する。
【0082】
なお、複数の水中航走体1を曳航している場合には、分離された水中航走体1と連結されている水中航走体1とが衝突しないように、また、分離された水中航走体1どうしが衝突しないように、後ろ側に配置された水中航走体1から切り離し、この分離された水中航走体1が、連結されている水中航走体1と十分な距離離れた後に、次の水中航走体1を切り離すことが好ましい。
【0083】
水中航走体1の回収を行う際には、回収用制御装置21Bに回収する水中航走体1を登録する。回収する水中航走体1の登録は、水中航走体1の回収を行う直前で、通信装置22を介して遠隔操作で入力してもよいし、予め回収用制御装置21Bに入力しておいてもよい。
【0084】
水中航走体1が活動(調査など)を終了し、水中航走体1を回収する際には、水中航走体1の制御機器4により、本体部1Aから浮体部1Bを分離して、本体部1A及び浮体部1Bを索状体1Cで接続した状態で浮体部1Bを水面に浮上させる制御が行われる。水中航走体1の浮体部1Bが水面に浮かぶと、浮体部1Bに搭載されている通信機器3を構成する測位機器により、浮体部1Bの位置情報が逐次取得されるとともに、その取得した浮体部1Bの位置情報が通信機器3を構成する発信機器によって無線で逐次発信される。さらに、浮体部1Bが浮上した周辺領域の照度が設定値以下の場合(夜間や荒天時)には、発光機器12が作動して点灯した状態となる。
【0085】
浮体部1Bに搭載された通信機器3から浮体部1Bの位置情報が発信されると、その浮体部1Bの位置情報を曳航装置20に搭載されている受信装置24が受信する。受信した位置情報が予め登録した水中航走体1の浮体部1Bの位置情報である場合には、その受信した浮体部1Bの位置情報に基づいて、曳航装置20の回収用制御装置21Bにより、曳航装置20及び回収装置50を水面に浮上した浮体部1Bの近傍まで移動させる接近操舵制御が行われる。この実施の形態では、受信装置24で受信した浮体部1Bの位置情報と、通信装置22で取得する曳航装置20又は回収装置50の位置情報とに基づいて、曳航装置20の接近操舵制御が自律的に行われる。
【0086】
曳航装置20及び回収装置50が、水面に浮上した浮体部1Bの近傍まで移動すると、位置検知装置25によって回収用構造体52の捕捉部53と浮体部1Bとの相対位置情報が逐次検知され、その相対位置情報が逐次回収用制御装置21Bに入力される。そして、曳航装置20の回収用制御装置21により、位置検知装置25から入力される捕捉部53と浮体部1Bとの相対位置情報に基づいて、回収用構造体52の捕捉部53に水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを引掛かけて、水中航走体1を捕捉する捕捉操舵制御が行われる。
【0087】
具体的には、この実施の形態では、ゲート部54に索状体1C又は浮体部1Bが進入するように、回収用制御装置21Bによって曳航装置20の推進装置及び舵が制御される。ゲート部54に索状体1C又は浮体部1Bが進入し、曳航装置20がさらに前進すると、索状体1C又は浮体部1Bは誘導経路部55を経由して袋小路部56に到達する。袋小路部56に索状体1C又は浮体部1Bが到達すると、水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bが袋小路部56を形成するフレーム部材に引掛かり、水中航走体1が構造体52の捕捉部53に捕捉された状態となる。
【0088】
回収用構造体52の捕捉部53に索状体1C又は浮体部1Bが引っ掛かり、水中航走体1が回収用構造体52に捕捉された状態になると、曳航装置20に搭載された充電装置26から水中航走体1に搭載された受電機器6に電力が供給され、水中航走体1の充電が行われる。また、曳航装置20に搭載されたデータ取得装置27によって、水中航走体1の通信機器3を介して水中航走体1の保有データ(調査データ等)が取得され、その取得した保有データは、曳航装置20の通信装置22によって管理部(海洋調査等の担当者が待機する遠隔地)に無線で送信される。さらに、曳航装置20に搭載された音響装置23によって、水中航走体1に搭載された音響機器5を介して水中航走体1の本体部1Aの位置情報等が逐次取得され、その取得したデータは、曳航装置20の通信装置22によって管理部に無線で逐次送信される。
【0089】
曳航装置20の回収用制御装置21Bに複数の水中航走体1を登録した場合には、水中航走体1毎に回収用制御装置21Bによる接近操舵制御及び捕捉操舵制御が順次行われることで、回収用構造体52の捕捉部53に複数の水中航走体1が捕捉された状態となる。回収用制御装置21Bに登録した水中航走体1すべての捕捉が完了すると、曳航装置20の回収用制御装置21Bによって、捕捉部53に水中航走体1を捕捉した状態で曳航装置20及び回収装置50を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御が行われる。以上により、水中航走体1の展開作業及び回収作業が完了する。なお、曳航装置20が回収目標水域に到着した後には、回収用構造体52の捕捉部53から水中航走体1の索状体1C又は浮体部1Bを取り外し、索状体1Cを手繰り寄せることで水中航走体1の本体部1Aを容易に陸上や船上に揚収することができる。
【0090】
このように、本発明によれば、水中航走体1を展開する際には、本体部1Aと浮体部1Bとが連結された状態の水中航走体1を展開装置30に連結し、展開用制御装置21Aにより、曳航装置20によって展開装置30を展開目標水域まで曳航する操舵制御を行うことで、水中航走体1を展開目標水域まで移送することができる。そして、展開目標水域において展開装置30と水中航走体1との連結を解除して展開装置30から水中航走体1を切り離すことで、水中航走体1を展開目標水域に簡易に展開することができる。水中航走体1は、水中へ展開する際や水中航走体1を水中で活動させる際には、水中航走体1の本体部1Aと浮体部1Bとを分離せずに連結した状態にすることで、水中航走体1の性能を維持できる。
【0091】
水中航走体1を回収する際には、水中航走体1の制御機器4により、水中航走体1の通信機器3が搭載されている浮体部1Bを本体部1Aから分離して浮体部1Bとともに通信機器3を水面に浮上させる制御と、水面に浮上した通信機器3により浮体部1Bの位置情報を発信する制御を行うことで、水中航走体1から遠く離れた地点においても、浮体部1Bの位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。そして、通信機器3から発信される浮体部1Bの位置情報を利用して、回収用制御装置21Bにより、曳航装置20及び回収装置50を水面に浮上した浮体部1Bの近傍まで移動させる接近操舵制御と、曳航装置20を操舵制御して回収装置50に水面に浮かんでいる浮体部1B又は索状体1Cを引掛けて水中航走体1を捕捉する捕捉操舵制御を行うことで、水中航走体1を容易に捕捉することができる。そして、回収装置50に水中航走体1を捕捉した状態で、回収用制御装置21Bにより、曳航装置20及び回収装置50を回収目標水域まで移動させる帰投操舵制御を行うことで、水中航走体1を曳航装置20上に揚収することなく、水中航走体1を回収目標水域まで移送することができる。
【0092】
さらに、水中航走体1は垂直尾翼2が上側に位置した状態で活動するので、浮体部1Bを水中航走体1の垂直尾翼2の一部又は全部にすることで、本体部1Aから垂直尾翼2を切り離すだけで、浮体部1Bである垂直尾翼2を円滑に水面に浮上させることができる。また、垂直尾翼2が本体部1Aよりも上側に位置した状態で分離されるので、本体部1Aから浮体部1Bを分離した際に、浮体部1Bが本体部1Aに接触する可能性や索状体1Cが本体部1Aに絡まる可能性も低くなる。
【0093】
このように、本発明では、水中航走体1の展開及び回収を行う曳航装置20に、クレーンを設置するスペースや水中航走体1を収容するスペースを設ける必要がないため、小規模な曳航装置20で多くの水中航走体1を展開回収することが可能となる。さらに、展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bによる制御は比較的簡易な制御なので、遠隔操作や自律制御にすることが容易に可能であり、展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bによる制御を遠隔操作や自律制御にすることで、無人の曳航装置20で水中航走体1を展開回収することも可能となる。
【0094】
この実施の形態のように、曳航装置20が自律型無人航行船であり、展開用制御装置21Aに予め展開目標水域の位置情報を入力しておくことにより、展開用曳航装置21Aによって展開装置30を展開目標水域まで曳航する操縦制御と、展開目標水域において展開装置30から水中航走体1を切り離す制御とを、展開用制御装置21Aが自律的に行うように構成されていると、展開装置30に水中航走体1を装着し、展開用制御装置21Aに展開目標水域の位置情報を入力するだけで、水中航走体1を自動で展開目標水域に展開することができるので、海底測量や海底の地形調査等を少ない人員で効率的に行うことが可能となる。
【0095】
また、この実施の形態のように、曳航装置20に搭載されている回収用制御装置21Bに予め回収する水中航走体1を登録しておくことにより、登録された水中航走体1を回収する接近操舵制御、捕捉操舵制御、及び帰投操舵制御を、回収用制御装置21Bが自律的に行うように構成されていると、回収用制御装置21Bに予め回収する水中航走体1を登録するだけで、水中航走体1を自動的に回収することができるので、海底測量や海底の地形調査等を少ない人員で効率的に行うには益々有利になる。
【0096】
このように、曳航装置20を自律型無人航行船で構成すると、水中航走体1の展開及び回収を自動的に行えるので、海底測量や海底の地形調査等を行う際に、支援母船や乗組員(技術者)のスケジュールを抑える必要がなくなる。それ故、海底測量や海底の地形調査等をより行い易くなる。さらに、曳航装置20に乗組員が搭乗するスペースを設ける必要がないため、曳航装置20を小規模で簡素な構成にすることができる。また、曳航装置20に乗組員が搭乗する必要がないため、人が立ち入ることが難しい水域においても水中航走体1を展開回収することが可能となる。
【0097】
さらに、この実施の形態のように、水中航走体1の展開を行う展開用曳航装置と、水中航走体1の回収を行う回収用曳航装置が、展開装置30、展開用制御装置21A、回収装置50、及び回収用制御装置21Bを兼ね備えた同じ曳航装置20で構成されていると、水中航走体1の展開及び回収を同じ曳航装置20で行えるので、海底測量や海底の地形調査等をより少ない設備で効率的に行うことができる。
【0098】
上記で例示した実施の形態では、曳航装置20を自律型無人航行船で構成し、展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bによる制御が自律的に行われる場合を例示したが、曳航装置20を無人航行船で構成し、展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bによる制御を遠隔操作で行う構成にすることもできる。また、曳航装置20を有人船で構成し、曳航装置20に搭乗した乗組員が展開用制御装置21A及び回収用制御装置21Bを操作する構成にすることもできる。
【0099】
具体的には、例えば、水中航走体1の展開を行う曳航装置20が無人航行船であり、曳航装置20に通信装置22が搭載され、通信装置22と展開用制御装置21Aが通信可能に接続されており、通信装置22及び展開用制御装置21Aを介して、展開用曳航装置21Aによって展開装置20を展開目標水域まで曳航する操縦制御と、展開目標水域において展開装置20から水中航走体を切り離す制御とを遠隔操作で行う構成にすると、曳航装置20を自律型無人航行船で構成する場合に比して、展開用制御装置21Aの制御プログラムを簡易に構成できるというメリットがある。
【0100】
また、例えば、水中航走体1の回収を行う曳航装置20が無人航行船であり、曳航装置10に無線通信可能な通信装置22が搭載され、通信装置22及び回収用制御装置21Bが通信可能に接続されており、通信装置22及び回収用制御装置21Bを介して、曳航装置20が遠隔操作可能な構成にすると、曳航装置20を自律型無人航行船で構成する場合に比して、回収用制御装置21Bの制御プログラムを簡易に構成できるというメリットがある。
【0101】
曳航装置20が遠隔操作によって制御される無人航行船であると、曳航装置20に乗組員を搭乗させる必要がないため、水中航走体1の展開及び回収に要する労力やコストを低減するには有利になる。また、曳航装置20に乗組員が搭乗する必要がないため、人が立ち入ることが難しい水域においても水中航走体1を展開及び回収することが可能となる。
【0102】
なお、水中航走体1の展開及び回収を行うための制御の一部を自律制御とし、他の制御を遠隔操作で行う構成にすることもできる。例えば、水中航走体1の展開を行うための制御では、曳航装置20によって展開装置30を展開目標水域まで曳航する操舵制御は展開用制御装置21Aによる自律制御で行い、展開目標水域において展開装置30と水中航走体1との連結を解除する切り離し制御は、通信装置22及び展開用制御装置21Aを介して遠隔操作で行う構成にすることもできる。また、例えば、水中航走体1の回収を行うための制御では、接近操舵制御、捕捉操舵制御、及び帰投操舵制御の内、接近操舵制御及び帰投操舵制御を回収用制御装置21による自律的な制御で行い、捕捉操舵制御を通信装置22及び回収用制御装置21Bを介して遠隔操作で行う構成にすることもできる。捕捉操舵制御を遠隔操作で行う場合には、位置検知装置25をカメラ装置で構成し、遠隔操作を行うオペレーターがカメラ装置で撮影した映像をモニタで目視しながら曳航装置20の操舵制御を行う構成にすると、オペレーターが捕捉操舵制御を直感的に行ない易くなる。
【0103】
曳航装置20が有人船であり、水中航走体1の展開及び回収を行うための制御を乗組員が行う場合にも、展開装置30及び回収装置50を使用することで、少ない人員で水中航走体1を展開及び回収することが可能となる。それ故、有人船とした場合にも、曳航装置20は比較的小規模な船舶又は潜水艇で構成することができ、海底測量や海底の地形調査等をより実施し易くなる。
【0104】
この実施の形態のように、通信機器3が、浮体部1Bの位置情報を取得する測位機器と、その測位機器で取得した浮体部1Bの位置情報を発信する発信機器とを有して構成されると、通信機器3を構成する測位機器及び発信機器によって、測位システムから取得した浮体部1Bの位置情報を発信できるので、その発信される位置情報を受信することで、水中航走体1から遠く離れた地点においても、浮体部1Bの位置をタイムラグが小さい状態で精度よく特定することが可能となる。
【0105】
索状体1Cが通電用ケーブルを有して構成されていると、水中航走体1の本体部1Aに搭載しているバッテリーから通電用ケーブルを介して浮体部1Bに搭載されている通信機器3に電力を供給することが可能となるので、浮体部1Bにバッテリーを搭載する必要がなくなる、或いは、浮体部1Bに搭載するバッテリーを小さくすることができる。また、この実施の形態のように、浮体部1Bに無線で電力を受電可能な受電機器6を備えた構成にすると、浮体部1Bに搭載された受電装置6から通電用ケーブルを介して本体部1Aのバッテリーの充電を行うことも可能となるので、水中航走体1の充電が切れて水中航走体1に搭載されている通信機器3や音響機器5等が使用できない状態になるリスクを低減することができる。また、曳航中に水中航走体1の充電を行うことで、回収後の水中航走体1の充電に要する時間を短縮することができるので、水中航走体1の運用の効率化を図るにも有利になる。
【0106】
索状体1Cが、本体部1Aと浮体部1Bとの間でデータ通信可能な通信用ケーブルを有して構成されていると、水中航走体1の本体部1Aに蓄積されているデータを、通信用ケーブルを介して浮体部1Bに搭載されている通信機器3によって発信することが可能となる。水中航走体1を回収装置50に捕捉した段階で曳航装置20に搭載されたデータ取得装置27によって、水中航走体1が保有しているデータを速やかに取得することも可能となるので、海洋調査の効率化を図るには有利になる。
【0107】
浮体部1Bがバラストタンク9と注排水機構10を備えた構成にすると、注排水機構10によってバラストタンク9内のバラスト水量を変更することで、浮体部1Bの比重を変更することが可能となる。これにより、本体部1Aと浮体部1Bとを連結している水中航走体1の展開時や活動時には、バラストタンク9内のバラスト水量を多くして浮体部1Bの比重を重くすることで、水中における水中航走体1の姿勢制御を行い易くなる。一方、水中航走体1を回収する際には、浮体部1Bのバラストタンク9内のバラスト水量を少なくして浮体部1Bの比重を軽くすることで、浮体部1Bが水面に浮上しやすい状態にすることができる。
【0108】
この実施の形態のように、浮体部1Bに発光機器12を備えた構成にすると、水中航走体1を夜間や荒天時等に回収する場合にも、発光機器12が点灯することで、位置検知装置25によって浮体部1Bの位置を特定し易くなる。また、発光機器12が点灯することで、浮体部1Bを目視しやすくなるので、他船が浮体部1Bに接触することを防ぐにも有利になる。
【0109】
なお、水中航走体1の展開及び回収を行う展開装置30及び回収装置50のそれぞれの構造(部材の形状や配置等)は、上記で例示した実施の形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 水中航走体
1A 本体部
1B 浮体部
1C 索状体
2 垂直尾翼
3 通信機器
4 制御機器
5 音響機器
6 受電機器
7 被係合部材
8 環状部材
9 バラストタンク
10 注排水機構
11 錘
12 発光機器
20 曳航装置
21A 展開用制御装置
21B 回収用制御装置
22 通信装置
23 音響装置
24 受信装置
25 位置検知装置
26 充電装置
27 データ取得装置
30 展開装置
31 接続機構
32 展開用構造体
33 支持フレーム
33a 連結部
34 着脱機構
35 フック
36 係合機構
37 係合部材
38 解除部材
39 抑え部材
40 連結フレーム
40a 連結部
50 回収装置
51 接続機構
52 回収用構造体
53 捕捉部
54 ゲート部
55 誘導経路部
56 袋小路部
WL 水面位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9